特許第5985643号(P5985643)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5985643細胞表面上におけるETECCS6抗原の提示を増大させるための方法およびその得られる産物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985643
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】細胞表面上におけるETECCS6抗原の提示を増大させるための方法およびその得られる産物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/108 20060101AFI20160823BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20160823BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   A61K39/108ZNA
   A61P31/04
   C12N1/20 C
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-529010(P2014-529010)
(86)(22)【出願日】2012年9月10日
(65)【公表番号】特表2014-531428(P2014-531428A)
(43)【公表日】2014年11月27日
(86)【国際出願番号】EP2012067598
(87)【国際公開番号】WO2013037718
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年8月25日
(31)【優先権主張番号】1150821-5
(32)【優先日】2011年9月12日
(33)【優先権主張国】SE
(31)【優先権主張番号】61/533,405
(32)【優先日】2011年9月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514061131
【氏名又は名称】スカンジナビアン バイオファーマ ホールディング アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カーリン ニルズ
(72)【発明者】
【氏名】スベナーホルム アン‐マリ
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ジョシュア
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−180228(JP,A)
【文献】 特表平11−512746(JP,A)
【文献】 特表2005−504002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
C12N 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表面上におけるETEC CS6抗原の提示を増大させるための方法であって、該方法が、
該抗原を発現する細胞を、0.6〜2.0重量%のフェノールを含む水溶液と接触させる段階と、
接触時間の継続を1〜72時間から選択する段階と、
接触時間中の温度を18〜42℃から選択する段階と、
を含み、ここで、
前記フェノールの濃度、前記接触時間中の温度、および前記接触時間の継続が、前記抗原の提示が少なくとも100%増大するように選択される、方法
【請求項2】
前記抗原の提示が少なくとも200%、好ましくは少なくとも300%増大する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記接触させる段階の継続時間が1.5〜42時間である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記接触させる段階中の温度が18〜38℃、好ましくは18〜22℃または36〜38℃である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
フェノール濃度1.0〜2.0重量%である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が大腸菌(Escherichia coli)細胞を含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記抗原が、組換えにより前記細胞によって過剰発現される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
阻害ELISA法またはドットブロット法によって、好ましくは阻害ELISA法によって、前記細胞による前記抗原の提示を、処理されていないが他の点では同等な細胞によるCS6抗原の提示と比較する段階をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記細胞の少なくとも107倍の不活化が、CS6抗原の提示の増大と同時に生じるように、フェノール濃度、接触温度、および接触時間が選択される、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法を含む、CS6発現ETECに対する免疫化のための死滅全菌体ワクチンの製造のための方法。
【請求項10】
フェノール濃度が0.6〜2.0重量%、接触時間が6〜72時間、および接触温度が18〜22℃である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
フェノール濃度が0.75〜0.85重量%、接触時間が40±2時間、および接触温度が20±1℃である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載の方法によって得られる細胞。
【請求項13】
請求項12記載の細胞を含む、CS6発現ETECに対する免疫化のためのワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、特にワクチン製造のためのETEC CS6抗原の調製において有用な方法、ならびに、該方法によって得られる細胞およびワクチンに関連する。
【背景技術】
【0002】
背景
大腸菌表面抗原6(CS6)は、開発途上国の乳幼児および小児、ならびにそのような地域への旅行者における下痢症の最も一般的な原因である毒素原性大腸菌(ETEC)の最もよく見られる非線毛性定着因子(CF)の1つである。
【0003】
ETECに対する免疫防御は主に、腸内で局所的に産生されるIgA抗体によって媒介されるため、定着因子ベースの経口ワクチンの開発に大きな力が注がれている。抗定着因子免疫応答を誘導するETECの候補ワクチンは、例えば、組換えコレラ毒素Bサブユニット(CTB、これはETEC LTのBサブユニットに対して相同性が高い)と共に、最も一般的に遭遇する定着因子の幾つか、即ちCFA/I、CS1、CS2、CS3、CS4、およびCS5を発現する5種の死滅ETEC株を含む、CF-ETEC+CTB経口混合ワクチンの形態で開発されている(Levine MM, Giron JA, Noriega F. Fimbrial vaccines. In:P. Klemm editor. Fimbriae: adhesion,biogenics,genetics and vaccines, CRC Press, Boca Raton, Fla.1994, p.255-70(非特許文献1); Svennerholm A-M, Tobias J. Vaccines against enterotoxigenic Escherichia coli. Expert Rev Vaccines 2008; 7:795-804(非特許文献2))。
【0004】
過去の研究においては、ホルマリン処理後にも保持されるCFA/IおよびCS2などの線毛性定着因子抗原を免疫原性量で発現する候補大腸菌ワクチン株を調製することについて説明されてきた。しかしながら、免疫原性量のCS6を発現する大腸菌を作製し、そのCS6タンパク質の免疫学的活性を死滅全菌体ワクチンにおいて保つ試みはこれまで成功していない。
【0005】
本研究においては、細菌表面上に大量のCS6抗原を発現する、非抗生物質選択マーカーthyAを有する組換え毒素非産生性大腸菌株の構築について説明し、フェノールによる細菌の不活化によってCS6抗原の特性が損なわれないことを示す。逆に、フェノール処理によって細胞表面上に提示される抗原の量が著しく増大することが期せずして見出された。過度に多数の細菌を経口投与すると、特に乳幼児の対象において嘔吐などの有害作用を引き起こすという事実により、1つの経口全菌体ワクチンに含めることができる細胞の数がワクチンの開発における主要な制限要因となっているため、この増大は非常に重要である。1細胞当たりに提示される抗原の量を増大させることにより、ワクチン中の総細胞数を増大させずに、ワクチン中の抗原量を増大させることができる。
【0006】
そのようなフェノールで死滅させたCS6過剰発現大腸菌を用いたマウスの経口免疫処置により、糞便および腸のIgA抗体ならびに血清IgG+IgM抗体のCS6に対する強い応答が誘導され、これは以前にワクチン株として使用されていた、CS6を天然に発現するETEC参照株によって誘導される応答を超えるものであった。本データは、本明細書において説明される、フェノールで不活性化させた、毒素非産生性の、CS6を過剰発現する大腸菌株が、ETEC経口ワクチンにおいて有用な成分であることを示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Levine MM, Giron JA, Noriega F. Fimbrial vaccines. In:P. Klemm editor. Fimbriae: adhesion,biogenics,genetics and vaccines, CRC Press, Boca Raton, Fla.1994, p.255-70
【非特許文献2】Svennerholm A-M, Tobias J. Vaccines against enterotoxigenic Escherichia coli. Expert Rev Vaccines 2008; 7:795-804
【発明の概要】
【0008】
定義
本開示の文脈においては、下記の用語は以下の意味を有する。
【0009】
ETECという略称は、毒素原性大腸菌を指す。
【0010】
CS6抗原という用語は、ETEC細菌の最もよく見られる非線毛性定着因子の1つである大腸菌表面抗原6を意味する。ETEC CS6抗原という用語は同義語として用いられる。
【0011】
死滅全菌体ワクチンという用語は、全菌体(完全)であるが死菌(非生存)である細菌を含むワクチンを指す。
【0012】
非抗生物質選択マーカーという用語は、選択過程において抗生物質の使用を必要としない、プラスミドの選択のための遺伝子選択マーカーを指す。例えばthyA(チミジル酸合成酵素)相補因子を含む。
【0013】
発明の概要
第一の局面において、ETEC CS6抗原の提示が少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%、より好ましくは少なくとも300%増大するように、該抗原を発現する細胞を、0.6〜2.2重量%のフェノールを含む水溶液と接触させる段階を含む、細胞表面上におけるETEC CS6抗原の提示を増大させるための方法が開示される。
【0014】
好ましくは、接触させる段階の継続時間は1〜72時間である。より好ましくは、接触させる段階の継続時間は1.5〜42時間である。
【0015】
好ましくは、接触させる段階中の温度は18〜42℃であり、より好ましくは18〜38℃であり、一層好ましくは18〜22℃または36〜38℃である。
【0016】
好ましくは、フェノール濃度は0.8〜2.0重量%であり、より好ましくは1.0〜2.0重量%である。
【0017】
好ましくは、前記細胞は大腸菌細胞を含む。好ましくは、前記抗原は、組換えにより該細胞によって過剰発現される。
【0018】
好ましくは、第一の局面の方法は阻害ELISA法またはドットブロット法によって、好ましくは阻害ELISA法によって、前記細胞による前記抗原の提示を、処理されていないが他の点では同等な細胞によるCS6抗原の提示と比較する段階をさらに含む。
【0019】
第二の局面において、前記細胞の少なくとも107倍の不活化がCS6抗原の提示の増大と同時に生じるように、フェノール濃度、接触温度、および接触時間が選択される、前述の請求項のいずれか一項記載の方法を含む、CS6発現ETECに対する免疫化のための死滅全菌体ワクチンの製造のための方法も開示される。
【0020】
好ましくは、第二の局面の方法におけるフェノール濃度は0.6〜2.0重量%、接触時間は6〜72時間、接触温度は18〜22℃である。より好ましくは、フェノール濃度は0.75〜0.85重量%、接触時間は40±2時間、接触温度は20±1℃である。
【0021】
第三の局面において、第一または第二の局面に従う方法によって得られる細胞が開示される。
【0022】
第四の局面において、第三の局面の細胞を含む、CS6発現ETECに対する免疫化のためのワクチンが開示される。
以下に、本発明の基本的な諸特徴および種々の態様を列挙する。
[1]
ETEC CS6抗原の提示が少なくとも100%増大するように、該抗原を発現する細胞を、0.6〜2.2重量%のフェノールを含む水溶液と接触させる段階を含む、細胞表面上におけるETEC CS6抗原の提示を増大させるための方法。
[2]
前記抗原の提示が少なくとも200%、好ましくは少なくとも300%増大する、[1]記載の方法。
[3]
前記接触させる段階の継続時間が1〜72時間である、前述の[1]〜[2]のいずれか一項記載の方法。
[4]
前記接触させる段階の継続時間が1.5〜42時間である、[3]記載の方法。
[5]
前記接触させる段階中の温度が18〜42℃である、前述の[1]〜[4]のいずれか一項記載の方法。
[6]
前記接触させる段階中の温度が18〜38℃、好ましくは18〜22℃または36〜38℃である、[5]記載の方法。
[7]
フェノール濃度が0.8〜2.0重量%、好ましくは1.0〜2.0重量%である、前述の[1]〜[6]のいずれか一項記載の方法。
[8]
前記細胞が大腸菌(Escherichia coli)細胞を含む、前述の[1]〜[7]のいずれか一項記載の方法。
[9]
前記抗原が、組換えにより前記細胞によって過剰発現される、前述の[1]〜[8]のいずれか一項記載の方法。
[10]
阻害ELISA法またはドットブロット法によって、好ましくは阻害ELISA法によって、前記細胞による前記抗原の提示を、処理されていないが他の点では同等な細胞によるCS6抗原の提示と比較する段階をさらに含む、前述の[1]〜[9]のいずれか一項記載の方法。
[11]
前記細胞の少なくとも107倍の不活化が、CS6抗原の提示の増大と同時に生じるように、フェノール濃度、接触温度、および接触時間が選択される、前述の[1]〜[10]のいずれか一項記載の方法を含む、CS6発現ETECに対する免疫化のための死滅全菌体ワクチンの製造のための方法。
[12]
フェノール濃度が0.6〜2.0重量%、接触時間が6〜72時間、および接触温度が18〜22℃である、[11]記載の方法。
[13]
フェノール濃度が0.75〜0.85重量%、接触時間が40±2時間、および接触温度が20±1℃である、[12]記載の方法。
[14]
前述の[1]〜[13]のいずれか一項記載の方法によって得られる細胞。
[15]
[14]記載の細胞を含む、CS6発現ETECに対する免疫化のためのワクチン。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1A】CS6の発現のためのpJT-CS6-thyAの構築。まずプラスミドpJT-CFA/I-ThyAを構築し(A)、次いで、CFA/Iオペロンを、全長を増幅したCS6オペロンと置換してpJT-CS6-thyAを作製した(B)。
図1B】CS6の発現のためのpJT-CS6-thyAの構築。まずプラスミドpJT-CFA/I-ThyAを構築し(A)、次いで、CFA/Iオペロンを、全長を増幅したCS6オペロンと置換してpJT-CS6-thyAを作製した(B)。
図2A】ドットブロット法(A)および阻害ELISA法(B)により調べた、C600-CS6組換え株およびCS6参照株 E11881/23におけるCS6の表面発現。双方の株は液体CFA培地中で培養し、組換え株はIPTGによって誘導した。いずれも洗浄し、最初の密度を109細菌/mlとする段階希釈で試験した。**P< 0.01、スチューデント両側t検定による。
図2B】ドットブロット法(A)および阻害ELISA法(B)により調べた、C600-CS6組換え株およびCS6参照株 E11881/23におけるCS6の表面発現。双方の株は液体CFA培地中で培養し、組換え株はIPTGによって誘導した。いずれも洗浄し、最初の密度を109細菌/mlとする段階希釈で試験した。**P< 0.01、スチューデント両側t検定による。
図3】フェノールで死滅させた同数のC600-CS6細菌およびE11881/23細菌を用いたC57 BI/6マウスの経口免疫処置後の血清IgG+IgMのCS6に対する力価、ならびに糞便および腸の抽出物のELISA法によるIgAのCS6に対する力価(n= マウス5個体/群)。力価は、各群のマウスについて幾何平均(GM)+標準誤差(SE)として示され、糞便および腸の抽出物については、レベルは、抽出物中の総IgAレベルに対して調整されている。対照は免疫処置前のマウスにおける抗体レベルを指す。**P< 0.01、***P< 0.001、スチューデント両側t検定による。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
CS6抗原の提示を増大させるための方法
第一の局面において、本発明は、ETEC CS6抗原の提示が少なくとも20%増大するように、好適な温度で好適な時間、該抗原を発現する細胞を、0.6〜2.2重量%のフェノールを含む水溶液と接触させる段階を含むことを特徴とする、細胞表面上におけるETEC CS6抗原の提示を増大させるための方法を提供する。抗原提示の少なくとも20%の増大とは、細胞表面に存在し、かつ好適な方法(詳細については下記を参照のこと)によって検出可能な抗原の量が、本方法に供されていないが他の点では同等である細胞と比較して、少なくとも2倍になることを意味する。好ましくは、抗原提示の増大は、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%であり、より好ましくは少なくとも100%、125%、150%、175%、200%、250%、または300%である。最も好ましくは、増大は少なくとも100%である。
【0025】
水溶液は、例えばフェノールを添加したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であってよいが、多くの種々の水性緩衝液が適している。緩衝液のpHは5〜9であることが好ましく、6〜8であることがより好ましく、6.5〜7.5であることが最も好ましい。緩衝液の塩濃度は好ましくは50〜200 mM、より好ましくは100〜150 mM、最も好ましくは約137 mMである。好適なPBS緩衝液は以下のものであり得る:1リットル中にNaCl 8 g、KCl 0.2 g、Na2HPO4 1.44 g、KH2PO4 0.24 g、pH7.4。
【0026】
変数であるフェノール濃度、温度、および時間は、ある程度の相互依存性を示す。温度が上昇すると、提示の増大を達成するためにはより低いフェノール濃度および/またはより短い時間が必要とされる(およびその逆も同様)。処理時間が長くなれば、より低いフェノール濃度および/またはより低い温度が用いられ得る(およびその逆も同様)。本明細書における教示による導きに助けられて、当業者は、フェノール濃度、時間、および温度の組み合わせを目下の必要に応じて調整するために特別な苦労をせずに、通常の実験法を用いることができる。
【0027】
本処理に好適な継続時間は0.1〜240時間または1〜240時間であり得る。好ましくは、処理時間は1〜72時間であり得る。より好ましくは、処理時間は1.5〜42.0時間であり得る。最も好ましくは、処理時間は2.0〜40.0時間である。
【0028】
本処理に好適な温度は1〜45℃または4〜45℃の範囲内にある。好ましくは、温度は18〜42℃であり得る。実用的な観点からは、温度を維持するために専用の設備が必要となることを避けるために、周囲温度(室温)において本方法を実施することが好ましい可能性がある。したがって、ある好ましい温度の範囲は18〜25℃であり、一層好ましくは18〜22℃であり、最も好ましくは約20℃である。プロセスの継続時間を短縮するために、および/または必要とされるフェノール濃度を減少させるために、温度を上げて本方法を実施することも好ましい可能性がある。したがって、別の好ましい温度範囲は35〜42℃であり、一層好ましくは36〜38℃であり、最も好ましくは約37℃である。
【0029】
フェノール濃度は、好ましくは0.7〜2.0重量%の範囲内にあり得、より好ましくは0.75〜2.0重量%、さらにより好ましくは0.8〜2.0重量%、なおより好ましくは0.85〜2.0重量%、一層好ましくは0.9〜2.0重量%、最も好ましくは1.0〜2.0重量%であり得る。ある好ましい態様においては、フェノール濃度は0.6〜2.0重量%、接触時間は6〜72時間、接触温度は18〜22℃である。別の好ましい態様においては、フェノール濃度は0.6〜2.0重量%、接触時間は2〜4時間、接触温度は36〜38℃である。
【0030】
上記の方法における細胞は大腸菌細胞であり得る。大腸菌は実験室で容易に増殖され遺伝子操作されるため、実用的な観点から見るとこれは有利であり得る。さらに、本方法の主な目的はETECに対するワクチンの提供であることから、提示される抗原に対してより自然な状況を与えるように大腸菌宿主を前記抗原のために使用することは有利であり得る。好ましくは、細胞は毒素非産生性大腸菌細胞である。しかしながら、本方法が他のCS6発現細胞を用いても使用できることは理解されるべきである。
【0031】
妥当な範囲内であれば、細胞濃度は重要ではない。1012細胞/mlまでの任意の濃度が適していると考えられる。実用的に好ましい細胞濃度の範囲は108〜1012細胞/mlであり得る。最も好ましい範囲は109〜2・1010細胞/mlである。
【0032】
遺伝子工学により、ETEC CS6抗原の産生は、組換えにより細胞内で誘導され得る(実施例1を参照のこと)。これによって1細胞当たりの抗原の高レベルの産生が促進されることは、ワクチン用量に必要とされる細胞数を最少限にするのに有利であり、有害作用の最小化につながる。しかしながら、本方法は天然に(即ち、いかなる遺伝子工学も用いずに)CS6抗原を発現する細胞を用いて使用することもできる。しかし好ましくは、本方法の細胞は、CS6発現プラスミドによる形質転換の結果としてCS6抗原を過剰発現する毒素非産生性の大腸菌宿主細胞である。好ましくは、プラスミドは非抗生物質選択マーカー、即ちその機能に対して抗生物質の使用が必要とされない選択マーカーを有する。最も好ましくは、宿主細胞はチミジンについて栄養要求性であり、CS6過剰発現プラスミドがチミジル酸合成酵素(ThyA)相補因子を有していることから、チミジンを欠いた培地を用いて選択を行うことができる。好ましくは、当技術分野において周知のtacプロモーターまたは同様の強い誘導性プロモーターによってCS6の過剰発現が行われる。
【0033】
本発明の方法の結果としてのCS6抗原の増大した提示の測定に関しては、有用な方法が本明細書において開示され、文献から知ることもできる。好ましくは、本明細書において開示されるように、阻害ELISA法を用いて(実施例2および関連する「材料および方法」を参照のこと)、または、同様に本明細書において開示されるドットブロット法によって(実施例2を参照のこと)定量が行われる。好ましくは、第一の局面の方法は、(例えば、上記の技術を用いて)細胞によるCS6抗原の提示量を分析し、その提示される量を、フェノールを含む水溶液による処理を受けないが他の点では同等である細胞によって提示されるCS6抗原の量と比較するさらなる段階を含む。適宜、そのような対照サンプルとして使用するために、接触させる段階の前に細胞の一部を取り置き、保存する。
【0034】
ワクチン製造のための方法
第二の局面において、本開示は、フェノール濃度、接触温度、および接触時間が、CS6抗原の提示の増大と同時に前記細胞の少なくとも107倍の不活化が生じるように選択される、第一の局面に従う方法を含む、CS6発現ETECに対する免疫化のための死滅全菌体ワクチンの製造のための方法を提供する。好ましくは不活化の程度は少なくとも108倍であり、より好ましくは109倍であり、さらにより好ましくは1010倍であり、最も好ましくは処理後に生存細胞が全く存在しない。細胞の不活化は、当技術分野において公知の任意の一般的な手段によって定量できる。好適な方法は本明細書において「材料および方法」という見出しのついた章において開示される。
【0035】
ワクチン製造におけるプロセスの段階数を減らすため、細胞の不活化および抗原提示の増大のためにフェノールを利用することは有利であり得る。フェノールによる不活化は、通常好ましいとされる不活化法、即ちホルマリン処理において損なわれるCS6抗原の特性に起因する問題を解決するものでもある(実施例2を参照のこと)。
【0036】
好ましくは第二の局面の方法において、フェノール濃度は0.6〜2.0重量%、接触時間は6〜72時間、および接触温度は18〜22℃である。代替的な好ましい一連の条件は、フェノール濃度0.6〜2.0重量%、接触時間2〜4時間、および接触温度36〜38℃である。さらに別の好ましい一連の条件は、フェノール濃度1.1〜1.3重量%、接触時間16±3時間、および接触温度20±2℃である。さらに別の好ましい一連の条件は、フェノール濃度1.1〜1.3重量%、接触時間40±8時間、および接触温度20±2℃である。より一層好ましい一連の条件は、フェノール濃度1.4〜1.6重量%、接触時間6±2時間、および接触温度20±2℃である。さらに一層好ましい一連の条件は、フェノール濃度0.75〜0.85重量%、接触時間40±2時間、および接触温度20±1℃である。
【0037】
本発明の方法によって得られる細胞およびワクチン
第三の局面において、第一または第二の局面に従う方法によって得られる細胞が提供される。フェノール処理により、(インビトロでは例えば抗体によって、およびインビボでは免疫系によって、いずれにおいても)より多くの抗原がより検出可能となるように、明らかな変化が細胞壁および/または抗原の構造に生じる。言い換えれば、このように処理された細菌細胞は、構造におけるその変化を構造的用語で説明することはできないが、第一または第二の局面の方法によって新しい構造を獲得している。
【0038】
第四の局面において、第三の局面に従う細胞を含む、CS6発現ETECに対する免疫化のためのワクチンが提供される。
【実施例】
【0039】
実施例に関する実験手順の詳細については、「材料および方法」という見出しのついた章を参照されたい。
【0040】
実施例1:大腸菌 C600-CS6におけるCS6の発現
図1Aおよび図1Bに表されるように、CS6の表面発現を有する野生型ETEC株から調製したCS6の構造遺伝子(cssA、cssB、cssC、cssD)を有するDNA断片をPCRで増幅し、クローニングし、発現ベクターpJT-CS6-ThyAを構築した。次いでこのプラスミドをチミン依存性の毒素非産生性大腸菌 C600-ΔthyA 株にエレクトロポレーションによって導入し、免疫ドットブロット法(図2A)で示されるように、増殖培地にIPTGを加えることによりCS6の表面発現を誘導した。誘導物質がないときにはCS6の発現は全く観察されなかった(データ非表示)。ドットブロット法を用いて組換えC600-CS6 株によるCS6の発現を調べた際に、本発明者らは、CF-CTB-ETECワクチンにおけるCS4+CS6ワクチン株として以前に使用されたCS6参照株 E11881/23と比較して、少なくとも8倍高いレベルのCS6をこの組換えC600-CS6 株が発現することを見出した(図2A)。同様に、阻害ELISA法を用いてCS6の表面発現を特異的に定量した場合にも、組換え株では参照株と比較しておよそ10倍多い量のCS6が見出された(図2B)。
【0041】
実施例2:CS6抗原の特性を損なわない、細菌の不活化
細菌表面上のCS6抗原の特性を保ちながらCS6発現細菌を死滅させることを目的として、ホルムアルデヒドとフェノールの効果を比較した。予備研究により、0.3%または0.6%のホルムアルデヒドで細菌を処理すると、支障なく細菌を死滅させる一方で、検出可能なCS6抗原の完全な消失が生じることが示された(データ非表示)。対照的に、0.5%のフェノールで細菌を処理すると、供試細菌が死滅するだけでなく、CS6抗原が保たれてもいた(データ非表示)。一方、フェノールのより低い試験濃度0.25%では、細菌の完全な死滅が生じなかった。これらの結果により、CS6抗原を保ちながら細菌を不活化するためにフェノール処理が有用であり得ることが示された。したがって、最適な不活化法を見出すために、組換えC600-CS6株および比較のための他のCS6過剰発現株(TOP10-CS6-Amp)の双方の不活化について、種々の濃度のフェノールを試験した。表2に見られるように、0.25%のフェノールでは不活化されなかったが、0.5%、0.8%、1%、および1.6%のフェノールを用いて試験した双方の株については細菌が不活化され、阻害ELISA法によって試験した結果、表面CS6が保たれてもいた。0.8%のフェノールを用いて細菌を不活化した場合に最大のCS6レベルが見出され、この処理によって実際に、CS6表面抗原の推定量が非処理細菌と比較して再現性よく増大した(表2)。したがってこれらの結果に基づき、C600-CS6株および参照株E11881/23の双方を不活化するために0.8%の濃度のフェノールを使用し、これにより、阻害ELISA法によって試験すると組換え株では参照株よりも6倍多い量のCS6を有する死滅細菌を生じた。次いで、これらの不活化細菌をマウスの経口免疫処置に使用した。
【0042】
(表2)種々の濃度のフェノールを用いた不活化の後の、C600-CS6株およびTOP10-CS6-Amp株の表面CS6レベル、および増殖の欠如
a 表面CS6レベルは「材料および方法」において説明されるように阻害ELISA法によって測定された;数値は4回の定量の平均±SEである。
b フェノールによる不活化の後、「材料および方法」において説明されるように、処理した細菌の滅菌(即ち増殖の欠如)について調べた;−は増殖がないこと、+は増殖があることを示す。
【0043】
実施例3:マウスにおける、フェノールで死滅させたC600-CS6の免疫原性
組換え株C600-CS6の免疫原性の最初の試験において、本発明者らはBalb/Cマウス群およびC57 BI/6マウス群の双方を、フェノールで死滅させた同数の細菌を用いて免疫化し、CS6に対する血清の抗体応答をELISA法によって測定して比較した。いずれの系統のマウスにおいても著しい抗CS6応答が誘導されたが、C57 BI/6マウスにおける抗体応答は実質的にBalb/Cマウスよりも高かった(データ非表示)。本発明者らはしたがって、経口投与した、C600-CS6株および参照株E11881/23のフェノール死滅化ワクチン調製物の免疫原性を比較したさらなる経口免疫処置試験のためには、C57 BI/6マウスを使用した。結果は、全ての免疫化マウスがCS6に対する血清IgG+IgM抗体の産生を伴う応答をしたこと、および、参照株 E11881/23によって免疫化したマウスのものよりもC600-CS6株によって免疫化したマウスではCS6に対する抗体価が平均して60倍超高いことを示した(図3)。糞便および腸のIgA抗体のCS6に対する応答も調べた(図3)。いずれの場合においても、対応する参照株によって免疫化したマウスにおけるレベルと比較して、組換えC600-CS6株では平均して75倍高いレベルの、CS6に対する糞便および腸のIgA抗体が有意に誘導された。参照株では、免疫化していない対照マウスで見られるものよりもわずかに高い抗CS6粘膜IgAのレベルが誘導されたにすぎなかった。
【0044】
実施例4: CS6抗原の提示を増大させるフェノール処理の20℃における最適化
C600-CS6株をロータリーシェーカー(150 rpm)において37℃で一晩(16〜18時間)培養した。一晩経った培養物のアリコートを1/100希釈し、得られた培養物を上記と同様に2時間インキュベートし、その後IPTGを最終濃度1 mMになるまで加え、CS6の発現を誘導した。この培養物を次いで、同じ条件でさらに6時間インキュベートした。次いで細菌を回収し、(培地からのいかなる残留物も存在しないように)PBSによって2回洗浄し、OD600=16(およそ2×1010細菌/mlに相当)の密度になるようPBS中に再懸濁した。
【0045】
前記誘導し、OD調整した細菌培養物を、各々が25 mlの細菌培養物を含むように8本の250 mlのフラスコに分けた。時間0(即ち非処理の細菌)として、一部を生菌計測のために採取した。25 mlのフェノールを最終濃度0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、1.2、1.5、または2.0(重量%)になるようにフラスコに加え、その後全てのフラスコを室温で、80 rpmにて1時間、2時間、6時間、16時間、および40時間インキュベートした。各時点において、各細菌懸濁液(フェノールを含む)のうちの1 mlを各フラスコからエッペンドルフチューブに取り出した。細菌を回収し、(フェノールからのいかなる残留物も存在しないように)PBSにより2回、十分に洗浄し、1 mlのPBS中に再懸濁した。この懸濁液を4℃で保存し、阻害ELISA法のために使用した。結果は表3に示される。
【0046】
(表3)種々の濃度のフェノールを用いて、種々の時間、20℃で不活化した後の、C600-CS6株上の表面CS6レベル
a 表面CS6のレベルは、「材料および方法」において説明されるように阻害ELISA法によって測定された。
数値は2回の定量の平均である。
【0047】
実施例5:CS6抗原の提示を増大させ、同時に細菌を不活化する、工業的規模におけるフェノール処理
CS6抗原を過剰発現する大腸菌株(ETEX 24)を500リットルの発酵槽に播種した。IPTGにより発現を誘導した後、発酵を8時間続けた。細菌を回収し、500 kDの限外ろ過器で洗浄し、最終的に20×109細菌/mlの濃度で分注した。最終濃度0.8%(w/v)となるまでフェノールを加え、この懸濁液を常に撹拌しながら20℃で40時間置いた。リン酸緩衝液中で500 kDの限外ろ過膜で懸濁液を洗浄し、4℃で保存した。
【0048】
不活化手順の間、生存率を調べるために、不活化前、不活化の1、2、18、および40時間後にサンプルを採取した。簡潔にいうと、採取したサンプルを遠心分離によって洗浄し、PBS中に元の容量で再懸濁し、その後PBSにて希釈液を作製し、定着因子寒天(Colonisation Factor Agar; CFA寒天)上にプレーティングした。37℃でプレートをインキュベートし、翌日に計数した。
【0049】
CS6抗原の量を定量化するために、不活化前の新鮮な材料および洗浄した不活化した材料について阻害ELISA法を行った。
【0050】
工業的な製造規模で、効率的な細胞不活化とCS6抗原の提示の増大が同時に達成されることが明らかである(表4)。
【0051】
(表4)20℃における不活化の時間推移
Nd =未定量
【0052】
材料および方法
細菌株および培養
本研究において使用された細菌株は表1に挙げられている。チミンに対して栄養要求性である毒素非産生性C600-ΔthyA大腸菌株(N.I.A.Carlin and M. Lebens, unpublished)をワクチン候補株C600-CS6の構築のために使用した。CF-ETEC+CTBワクチンにおいてCS4+CS6発現株として以前に使用されたETEC株E11881/23を参照株として使用した。CS6の発現のために、CFA培地中で細菌を増殖させ(Evans DG, Evans DJ Jr., Clegg S, Pauley JA. Purification and characterization of the CFA/I antigen of enterotoxigenic Escherichia coli. Infect Immun 1979;25:738-48)、必要な場合はアンピシリン(100μg/ml)を添加した。
【0053】
(表1)本研究において使用された株、プラスミド、およびプライマーの一覧
【0054】
発現ベクターpJT-CS6-ThyAの構築
C600-CS6組換え株を構築するために、まずプラスミドpJT-CFA/I-ThyAを作製した。プラスミドpJT-CFA/I-Cm(Tobias J, Holmgren J, Hellman M, Nygren E, Lebens M, Svennerholm A-M. Over-expression of major colonization factors of enterotoxigenic Escherichia coli, alone or together, on non-toxigenic E.coli bacteria. Vaccine 2010;28:6977-84)をXhoIおよびAvrIIによって消化し、クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)を除去した。次いでプラスミドpNC-4(N.I.A. Carlin; unpublished)をPCR反応において使用し、thyA遺伝子を増幅させた(コレラ菌(Vibrio cholerae)由来)。フォワードプライマーP1(配列番号:1)はthyAの上流98 bpから開始する配列に対して相同であり、Eco31IおよびAvrIIのための制限部位を有しており、リバースプライマーP2(配列番号:2)はthyAの下流75 bpで終結する配列に対して相同であり、5'末端にEco31IおよびXhoIのための制限部位を有していた(表1)。PCR条件は以下の通りであった:95℃で5分間、次いで94℃で15秒間、58℃で30秒間、および72℃で50秒間を31サイクル、最終伸長を72℃で7分間。次いで、得られたthyAを含む1065 bpの断片をゲル抽出し、XhoIおよびAvrIIによって切断した。増幅され消化されたthyAを、消化されたpJT-CFA/I-Cmとライゲーションすることによって、pJT-CFA/I-ThyAが得られた(図1A)。次いでこのプラスミドを、エレクトロポレーションによって大腸菌C600-ΔthyAに導入し、組換え株(C600-ΔthyA/pJT-CFA/I-ThyA)を単離した。
【0055】
次いでプラスミドpJT-CS6-ThyAを2段階で構築した(図1B)。まず、pJT-CFA/I-ThyAプラスミドをEcoRIおよびHindIIIによって消化した。CS6発現ETEC株 GB35からCS6オペロンを増幅するためにPCRを使用した(Nicklasson M, Sjoling A, Lebens M, Tobias J, Janzon A, Brive L, Svennerholm A-M.Mutations in the periplasmic chaperone leading to loss of surface expression of the colonization factor CS6 in enterotoxigenic Escherichia coli(ETEC)clinical isolates. Microb Pathog. 2008;44:246-54)。フォワードプライマーP3(配列番号:3)およびリバースプライマーP4(配列番号:4)を各々用い(表1)、Expand High Fidelity PCR System(Roche Diagnostics GmbH)を使用して増幅を行った。P3はcssAの上流13 bpから開始する配列に相同であり、EcoRIおよびEco31Iのための制限部位を有しており、一方、cssDの下流2 bpで終結する配列と相同なP4は、5'末端にHindIIIおよびEco31Iのための制限部位を有している(図1B)。PCR条件は以前に説明された通りのものであった(Tobias J, Lebens M, Kallgard S, Nicklasson M, Svennerholm A-M. Role of different genes in the CS6 operon for surface expression of enterotoxigenic Escherichia coli colonization factor CS6. Vaccine 2008;26:5373-80)。増幅された4135 bpのCS6オペロンを次いで、Eco31Iによって制限酵素分解し、隣接するEcoRIおよび隣接するHindIIIを有する断片を得て、これを消化されたpJT-CFA/I-ThyAとライゲーションし、7973 bpのpJT-CS6-ThyAプラスミドを得た。エレクトロポレーションにより、構築されたプラスミドpJT-CS6-ThyAをC600-ΔthyA 株に導入した。得られたコロニーを、プライマーP3およびP4を用いたPCRによって、CS6オペロンの存在についてスクリーニングした。陽性のクローンを、単離されたプラスミドの制限酵素解析によってさらに分析し、またCFA培地における増殖能によってもさらに分析して、チミン非依存性を確かめた。そのようなクローンの1つをCS6陽性かつチミン非依存性の株として選択し、C600-CS6と名付けた(即ち、C600-ΔthyA/ pJT-CS6-ThyA)。
【0056】
CS6の発現
CS6発現株をCFA培地中でロータリーシェーカー(150 rpm)において37℃で一晩(16〜18時間)培養した。一晩経った培養物のアリコートをCFA培地中に1/100希釈し、得られた培養物を上記と同様に2時間インキュベートした。組換え株の培養物に、最終濃度1 mMになるまでIPTGを加え、CS6の発現を誘導し、次いで同じ条件で培養物をさらに6時間インキュベートした。次いで細菌を回収し、OD600=0.8(およそ109 細菌/mlに相当)の密度になるようPBS中に再懸濁した。
【0057】
組換え株上のCS6の定量化
記載されているように、ドットブロット法および阻害ELISA法を用いて、組換えC600-CS6株およびETEC参照E11881/23株によるCS6の発現レベルを定量化するために、CS6に対して特異的なモノクローナル抗体(MAb 2a:14)(Helander A, Grewal HM, Gaastra W, Svennerholm A-M. Detection and characterization of the coli surface antigen 6 of enterotoxigenic Escherichia coli strains by using monoclonal antibodies. J Clin Microbiol 1997;35:867-72)を使用した(Tobias J, Holmgren J, Hellman M, Nygren E, Lebens M, Svennerholm A-M. Over-expression of major colonization factors of enterotoxigenic Escherichia coli, alone or together, on non-toxigenic E.coli bacteria. Vaccine 2010;28:6977-84 および Tobias J, Lebens M, Bolin I, Wiklund G, Svennerholm A-M. Construction of non-toxic Escherichia coli and Vibrio Cholerae strains expressing high and immunogenic levels of enterotoxigenic E.coli colonization factor I fimbriae. Vaccine 2008;26:743-52)。
【0058】
不活化細菌の調製
CS6発現株の不活化についてホルムアルデヒドとフェノールを試験し、比較した。最終濃度0.3%(w/v;0.1 M)または0.6%(0.2 M)のホルムアルデヒド、および最終濃度0.25%〜1.6%(w/v;0.026〜0.17 M)のフェノールをPBS中1010細菌/mlの密度の細菌培養物に加えた。懸濁液を60 rpmで振とうしながら37℃で2時間インキュベートし、次いで撹拌せずに4℃で3日間置いた。この細菌懸濁液を次いで遠心分離し、洗浄し、同容量のPBS中に再懸濁し、使用するまで4℃で保存した。双方の不活化法において、0.1 mlの各懸濁液を血液寒天培地上に拡げ、37℃で1週間までインキュベートし、増殖の欠如を調べた。経口免疫処置に使用する前に、阻害ELISA法によって不活化細菌上のCS6のレベルを調べた。
【0059】
マウスの免疫処置およびサンプルの採取
経口(胃内)免疫処置のために雌のBalb/CおよびC57 BI/6マウスの群(Charles River; 6〜8週齢;5個体/群)を使用した。全てのマウスに、0.3 mlの3%炭酸水素ナトリウム溶液中3×108個のC600-CS6株または参照株のいずれかのフェノール死滅化細菌(0.8%濃度のフェノールを使用して不活化)および7.5μgのCTの用量を、2日間隔で2回、ベビーフィーディングカテーテルによって胃内に投与し(初回の免疫処置)、その2週間後の第2回目の免疫処置においては同じ2回の免疫処置を2日間隔で行った。初回の免疫処置の前と最終免疫処置の2週後に採血を行い、その時に糞塊(FP)も採取し、以前に説明されているように抽出物を調製した(Nygren E, Holmgren J, Attridge SR. Murine antibody responses following systemic or mucosal immunization with viable or inactivated Vibrio cholerae. Vaccine 2008;26:6784-90)。さらに、マウスを屠殺した後の時点で、ヘパリン-PBS溶液で灌流して組織から血液を除去し、小腸組織を採取し、以前に説明されているように(Villavedra M, Carol H, Hjulstrom M, Holmgren J, Czerkinsky C. "PERFEXT": a direct method for quantitative assessment of cytokine production in vivo at the local level. Res Immunol 1997;148:257-66)、2%(w/v)サポニン-PBS溶液で抽出した(Perfext法)。
【0060】
ELISA法
以前に説明されているようにELISA法によって、CS6に対するIgG+IgMおよびIgAの抗体価を、血清、糞便および腸の抽出物において定量した(Rudin A, Svennerholm A-M. Colonization factor antigens(CFAs) of enterotoxigenic Escherichia coli can prime and boost immune responses against heterologous CFAs. Microb Pathog 1994;16:131-9)。ELISA法においてコーティング抗原として使用するためのCS6(最終濃度0.7μg/ml)は、以前に説明されているTOP10-CS6過剰発現株から(Tobias J, Lebens M, Kallgard S, Nicklasson M, Svennerholm A-M. Vaccine 2008;26:5373-80)、一連の硫酸アンモニウム沈殿とゲルろ過によって精製した。個々のマウスからの血清は低結合性マイクロタイタープレート(Greiner)を用いて試験し、サンプルは最初に1/100希釈してから3倍段階希釈した。糞塊抽出物および小腸組織の抽出物は、高結合性マイクロタイタープレート(Greiner)において、開始希釈率1/3から3倍段階希釈で試験した。バックグラウンド値よりも0.4高いA450吸光度を生じたサンプルの希釈率の逆数として抗体価を算出した。説明されているように、ELISA法によって糞便および腸の抽出物サンプルにおける総IgAも測定し(Nygren E, Holmgren J, Attridge SR. Vaccine 2008;26:6784-90)、抗原特異的IgA抗体の値を総IgAのμg当たりのIgA力価単位として表した。
【0061】
統計解析
ELISA法による全ての実験は別々の機会で少なくとも2回行われた。統計解析はスチューデントt検定によって行い、P<0.05(両側検定)を有意差として見なした。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]