(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記角度θは、前記延長部の延びる延長方向と、前記ポケットに配置された球状の前記転動体の中心及び環状の保持器の中心を結ぶ径方向と、のなす角度である、請求項1に記載のスラスト軸受。
前記角度θは、前記延長部の延びる延長方向と、前記頂縁部のうち前記第3開口部に最も隣接する点及び環状の前記保持器の中心を結ぶ方向と、のなす角度である、請求項1に記載のスラスト軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、樹脂を用いた軸受は、金属を用いた軸受の設計規格に基づいて形成されているにすぎない。言い換えれば、樹脂を用いた軸受は、樹脂の性質を考慮した形状になっていない。よって、樹脂から形成される軸受は、軸受に要求される長寿命の要求を必ずしも満たしているとは言えない。
【0006】
そこで、本発明では、寿命を長くすることが可能な樹脂から形成されるスラスト軸受及びその保持器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1観点に係るスラスト軸受は、第1環状部材と、第2環状部材と、複数の球状の転動体と、環状の保持器と、を備える。
【0008】
第1環状部材は、平面視において円形状の第1開口部が形成された環状の第1軌道面を有する。第2環状部材は、第1開口部に対応した平面視において円形状の第2開口部が形成され、第1軌道面と対向する環状の第2軌道面を有する。転動体は、第1軌道面と第2軌道面との間に、第1軌道面及び第2軌道面に沿って配置されている。保持器は、第1軌道面と第2軌道面との間に配置されており、平面視において円形状の第3開口部と、複数のポケットと、が形成されている。第3開口部は、第1開口部及び第2開口部に対応している。ポケットは、第1軌道面及び第2軌道面の周方向に沿って複数の転動体をそれぞれ転動可能に保持する。
【0009】
保持器の各ポケットは、平面視において、第3開口部に隣接する頂縁部と、延長部と、外延部と、を有する。延長部は、頂縁部の少なくとも一端から径方向外側に向かって直線状に延びる。外延部は、頂縁部及び延長部とともに閉空間を形成する。ここで、延長部の延びる延長方向と、環状の保持器の中心から径方向に延びる方向と、のなす角度θは0°より大きく70°以下である。
【0010】
上記の第1環状部材、第2環状部材及び保持器は樹脂から形成されている。
【0011】
上記構成によれば、保持器において、延長部の延びる延長方向と、環状の保持器の中心から径方向に延びる方向と、のなす角度θは0°より大きく70°以下である。このような構成とすることで、角度θが0°である場合よりも耐荷重を大きくし、樹脂から形成されるスラスト軸受の寿命を長くすることができる。
【0012】
また、保持器のポケットにおいて、角度θを0°より大きく70°以下とするため、ポケットが周方向に長く形成され、転動体が周方向に移動可能となる。スラスト軸受が回転すると、転動体はポケット内において転動するとともに移動する。この転動及び移動により、転動体と、第1環状部材、第2環状部材及び保持器とが接触し、第1環状部材、第2環状部材及び保持器が摩耗する。この摩耗による摩耗粉がスラスト軸受の回転の潤滑剤として利用されるため、スラスト軸受は自己潤滑機能を有する。よって、上記のスラスト軸受では、回転を円滑にするための別途の潤滑剤を用いることなく、寿命を長くすることができる。さらに、保持器のポケットにおいて、角度θを0°より大きく70°以下とするため、ポケットが周方向に長く形成され、ポケットの体積が大きくなる。この体積増加により、スラスト軸受が回転に合わせて生じる気体の流量も多くなる。この流量増加による冷却効果の増加により、摩擦熱の上昇が抑制される。摩擦熱の抑制により、摩擦熱による体積膨張に起因する振動、焼付きによる損傷、剥離を抑制することができる。よって、上記スラスト軸受の寿命を長くすることができる。
【0013】
以上のように、上記のスラスト軸受では、保持器のポケットにおいて角度θを調整することで、スラスト軸受の摩耗量と温度上昇が適切に調整される。つまり、摩耗量が、スラスト軸受の破損を抑制できる程度に抑えられるとともに、自己潤滑機能を有する程度となる。よって、樹脂から形成されるスラスト軸受の寿命を長くすることができる。
【0014】
なお、角度θを大きくするほど、ポケットが周方向に沿って長く延びるように形成される。角度θを70°と以下とするのは、ポケットが周方向に沿って延びて隣接するポケット間の距離が小さくなり、ポケットの強度が低下するのを抑制するためである。
【0015】
本発明の第2観点に係るスラスト軸受は、第1観点に係るスラスト軸受において、角度θは、延長部の延びる延長方向と、ポケットに配置された球状の転動体の中心及び環状の保持器の中心を結ぶ径方向と、のなす角度である。
【0016】
このように角度θを定義することで、第1観点と同様に、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0017】
本発明の第3観点に係るスラスト軸受は、第1観点に係るスラスト軸受において、第1軌道面及び第2軌道面に溝が形成されている。溝は、平面視において環状であり、かつ、第1軌道面及び第2軌道面と交差する断面視において円弧状である。ここで、平面視において、転動体の中心と、断面視における溝の中心と、が実質的に重なる。
【0018】
上記の通り、転動体の中心と、第1環状部材の第1軌道面及び第2環状部材の第2軌道面の溝の中心と、が実質的に重なる。ここで、転動体は、保持器のポケットに転動可能に保持される。よって、転動体を介して、第1環状部材、保持器及び第2環状部材が位置合わせされ、スラスト軸受として一体化される。
【0019】
また、転動体は、溝によって保持器のポケット内の所定の位置に配置される。転動体が概ね所定の位置で転動するため、転動体の過剰な移動を抑制することができる。よって、スラスト軸受の摩耗量が適切に調整される。つまり、摩耗量が、スラスト軸受の破損を抑制できる程度に抑えられるとともに、自己潤滑機能を有する程度となる。よって、樹脂から形成されるスラスト軸受の寿命を長くすることができる。
【0020】
本発明の第4観点に係るスラスト軸受は、第1観点に係るスラスト軸受において、角度θは、延長部の延びる延長方向と、頂縁部のうち第3開口部に最も隣接する点及び環状の保持器の中心を結ぶ方向と、のなす角度である。
【0021】
上記の構成によれば、頂縁部のうち第3開口部に最も隣接する点と環状の保持器の中心とを結ぶ線上には、ポケットに配置された球状の転動体の中心が位置し得る。よって、頂縁部のうち第3開口部に最も隣接する点及び環状の保持器の中心を結ぶ方向とは、ポケットに配置された球状の転動体の中心と環状の保持器の中心とを結ぶ径方向である。つまり、角度θは、延長部の延びる延長方向と、ポケットに配置された球状の転動体の中心と環状の保持器の中心とを結ぶ径方向のなす角度である。
【0022】
そして、角度θは0°より大きく70°以下であるため、上述と同様に樹脂から形成されるスラスト軸受の寿命を長くすることができる。
【0023】
本発明の第5観点に係るスラスト軸受は、第1〜第4観点のいずれかに係るスラスト軸受において、角度θは、5°以上70°以下である。
【0024】
角度θが5°以上であるため、角度θが5°より小さい場合よりも、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0025】
本発明の第6観点に係るスラスト軸受は、第5観点に係るスラスト軸受において、角度θは、15°以上70°以下である。
【0026】
角度θが15°以上であるため、角度θが15°より小さい場合よりも、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0027】
本発明の第7観点に係るスラスト軸受は、第6観点に係るスラスト軸受において、角度θは、30°以上70°以下である。
【0028】
角度θが30°以上であるため、角度θが30°より小さい場合よりも、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0029】
本発明の第8観点に係るスラスト軸受は、第7観点に係るスラスト軸受において、角度θは、45°以上70°以下である。
【0030】
角度θが45°以上であるため、角度θが45°より小さい場合よりも、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0031】
本発明の第9観点に係るスラスト軸受は、第1観点に係るスラスト軸受において、頂縁部の内側面は、転動体の外周の一部を取り囲む。
【0032】
頂縁部の内側面により転動体の一部を取り囲むように保持することで、転動体が過剰に移動しないように規制できる。これにより、転動体と、第1環状部材、第2環状部材及び保持器との過剰な摩擦が抑制される。よって、第1環状部材、第2環状部材及び保持器の過剰な摩耗、剥離、焼付き及び振動等が抑制される。そのため、スラスト軸受の破損が抑制される。一方で、ポケット内において転動体が適度に移動及び転動することで、スラスト軸受が適度に摩耗する。この適度な摩耗によって、スラスト軸受は自己潤滑機能を有する。これにより、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0033】
本発明の第10観点に係るスラスト軸受は、第9観点に係るスラスト軸受において、頂縁部は、平面視において円弧状である。
【0034】
頂縁部は、平面視において円弧状であるので、球状の転動体の一部をさらに取り囲むように保持できる。これにより、第9発明と同様に、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0035】
本発明の第11観点に係るスラスト軸受は、第10観点に係るスラスト軸受において、角度θは、延長部の延びる延長方向と、円弧状の頂縁部の中心及び環状の保持器の中心を結ぶ径方向と、のなす角である。
【0036】
上記の構成によれば、円弧状の頂縁部の中心及び環状の保持器の中心を結ぶ径方向上には、ポケットに配置された球状の転動体の中心が位置し得る。よって、円弧状の頂縁部の中心及び環状の保持器の中心を結ぶ径方向とは、ポケットに配置された転動体の中心と環状の保持器の中心とを結ぶ径方向である。つまり、角度θは、延長部の延びる延長方向と、ポケットに配置された球状の転動体の中心と環状の保持器の中心とを結ぶ径方向のなす角度である。
【0037】
ここで、角度θが0°よりも大きい場合は、角度θが0°の場合よりも外延部の長さが長くなる。よって、円弧状の頂縁部により転動体の過剰な移動を抑制しつつも、転動体の移動をある程度確保することができる。これにより、第1環状部材、第2環状部材及び保持器の過剰な摩耗、剥離、焼付き及び振動等が抑制しつつ、一方で摩擦により多少の摩耗粉を発生させ得る。この摩耗粉によって自己潤滑機能を向上するため、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重をより大きくできる。
【0038】
さらに、保持器のポケットにおいて、角度θを0°より大きく70°以下とするため、ポケットが周方向に長く形成され、ポケットの体積が大きくなる。この体積増加により、スラスト軸受が回転に合わせて生じる気体の流量も多くなる。この流量増加による冷却効果の増加により、摩擦熱の上昇が抑制される。摩擦熱の抑制により、摩擦熱による体積膨張に起因する振動、焼付きによる損傷、剥離を抑制することができる。よって、樹脂から形成されるスラスト軸受の寿命を長くすることができる。
【0039】
結果として、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重を大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0040】
本発明の第12観点に係るスラスト軸受は、第10観点に係るスラスト軸受において、頂縁部は、平面視において半円形状である。
【0041】
平面視において頂縁部が半円形状であるので、転動体の概ね半分を取り囲んで転動体を保持できる。これにより、転動体が過剰に移動しないように規制できるので、転動体と、第1環状部材、第2環状部材及び保持器との過剰な摩擦が抑制される。よって、第1環状部材、第2環状部材及び保持器の過剰な摩耗、剥離、焼付き及び振動等が抑制される。そのため、樹脂から形成されるスラスト軸受の破損を抑制し、寿命をより長くすることができる。
【0042】
本発明の第13観点に係るスラスト軸受は、第1観点に係るスラスト軸受において、保持器は、内輪部と外輪部とを含む。ここで、内輪部に各ポケットの頂縁部及び延長部が形成されており、外輪部の内側面により外延部が形成されている。
【0043】
保持器は、内輪部と外輪部とに分かれている。よって、内輪部を外側面側から切り欠いて凹部を形成することにより、ポケットの頂縁部及び延長部を形成できる。よって、機械加工によりポケットの頂縁部及び延長部を容易に形成できる。また、内輪部と外輪部とを嵌め合わせることで、切り欠かれた凹部が外輪部の内側面により閉じられる。これにより、頂縁部、延長部及び外延部によりポケットを形成できる。このように内輪部及び外輪部に分けて保持器を形成することで、ポケットの加工が容易である。
【0044】
本発明の第14観点に係るスラスト軸受は、第1環状部材と、第2環状部材と、複数の球状の転動体と、環状の保持器と、を備える。
【0045】
第1環状部材は、平面視において円形状の第1開口部が形成された環状の第1軌道面を有する。第2環状部材は、第1開口部に対応した平面視において円形状の第2開口部が形成され、第1軌道面と対向する環状の第2軌道面を有する。転動体は、第1軌道面と第2軌道面との間に、第1軌道面及び第2軌道面に沿って配置されている。保持器は、第1軌道面と第2軌道面との間に配置されており、平面視において円形状の第3開口部と、複数のポケットと、が形成されている。第3開口部は、第1開口部及び第2開口部に対応している。ポケットは、第1軌道面及び第2軌道面の周方向に沿って複数の転動体をそれぞれ転動可能に保持する。
【0046】
保持器の各ポケットは、平面視において、第3開口部に隣接する頂縁部と、第1延長部及び第2延長部と、外延部と、を有する。第1延長部及び第2延長部は、頂縁部の両端部からそれぞれ径方向外側に向かって概ね平行に直線状に延びる。外延部は、頂縁部、第1延長部及び第2延長部とともに閉空間を形成するとともに閉空間を形成する。ここで、第1延長部は第2延長部より長い。
【0047】
上記の第1環状部材、第2環状部材及び保持器は樹脂から形成されている。
【0048】
上記のような構成とすることで、延長部の延びる延長方向と、環状の保持器の中心から径方向に延びる方向と、のなす角度θが0°より大きくなる。よって、第1観点と同様に、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受の寿命を長くすることができる。
【0049】
本発明の第15観点に係る保持器は、複数の転動体を保持する保持器である。
【0050】
保持器には、円形状の第3開口部と、複数の転動体をそれぞれ転動可能に保持する複数のポケットと、が形成されている。
【0051】
保持器の各ポケットは、平面視において、第3開口部に隣接する頂縁部と、延長部と、外延部と、を有する。延長部は、頂縁部の少なくとも一端から径方向外側に向かって直線状に延びる。外延部は、頂縁部及び延長部とともに閉空間を形成する。ここで、延長部の延びる延長方向と、環状の保持器の中心から径方向に延びる方向と、のなす角度θは0°より大きく70°以下である。
【0052】
保持器は、樹脂から形成されている。
【0053】
このような構成の保持器をスラスト軸受に適用することで、第1観点と同様に、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受の寿命を長くすることができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、寿命を長くすることが可能な樹脂から形成されるスラスト軸受及びその保持器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の具体例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0057】
<実施形態>
以下に、本発明の実施形態に係るスラスト軸受100について説明する。本実施形態のスラスト軸受100では、一例であるが、規格として51305(JISにおけるスラスト軸受の呼び番号)を採用している。ただし、本発明が適用可能なスラスト軸受100の規格はこれに限定されない。なお、後述するが、本発明の実施形態に係るスラスト軸受100は樹脂から形成されている。
【0058】
(1)スラスト軸受100の全体構成
図1は、本発明の実施形態に係るスラスト軸受100の平面視における全体構成図である。
図2は、
図1に示すスラスト軸受100のI−I断面における断面図である。
【0059】
スラスト軸受100は、第1環状部材10と、第2環状部材20と、保持器30と、複数の転動体40と、を含む。
【0060】
第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30は、環状の板状部材である。第1環状部材10には、中央部に円形状の第1開口部12が形成されている。第2環状部材20には、第1開口部12に対応して、中央部に円形状の第2開口部22が形成されている。保持器30には、第1開口部12及び第2開口部22に対応して、中央部に円形状の第3開口部32が形成されている。
【0061】
図2及び後述の
図5(a)に示すように、保持器30は、板面状の第1平面30aと、第1平面30aとは反対側の板状面の第2平面30bと、を有する。第1環状部材10は、保持器30の第1平面30aと対向して配置される。第2環状部材20は、保持器30の第2平面30bと対向して配置される。よって、保持器30は、第1環状部材10と第2環状部材20との間に配置される。つまり、保持器30は、第1環状部材10と第2環状部材20とが対向する空間に配置される。そして、
図1、
図2に示すように、平面視において、第1環状部材10の環状の中心と、第2環状部材20の環状の中心と、保持器30の環状の中心と、が中心Oにおいて概ね重なる。よって、第1開口部12及び/又は第2開口部22には、中心Oを中心として回転する軸部材が挿入可能である。つまり、第1開口部12及び第2開口部22にそれぞれ別途の軸部材が挿入される場合もあり得る。あるいは、第1開口部12又は第2開口部22のいずれかにのみ軸部材が挿入される場合もあり得る。
【0062】
なお、スラスト軸受100は、
図1に示すように、例えば方向D1に回転し得る。方向D1とは、
図1において時計回り方向である。より具体的には、後述の
図6に示すように、転動体40の中心P又はスラスト軸受100の中心Oを中心として、後述の第2延長部33cが位置する側が方向D1側であり、後述の第1延長部33bが位置する側が方向D1とは反対側(反時計周り方向側)である。さらに言い換えれば、後述の頂縁部33aに対して、第2延長部33cが位置する側が方向D1側であり、第1延長部33bが位置する側が方向D1とは反対側(反時計周り方向側)である。ただし、スラスト軸受100の回転方向は方向D1に限定されず、スラスト軸受100の耐荷重を考慮の上、回転方向を適宜変更し得る。
【0063】
保持器30には、複数のポケット33が周方向に沿って形成されている。各ポケット33は、保持器30の第1平面30aから第2平面30bに亘って貫通するように形成される。各ポケット33は、複数の転動体40のそれぞれを保持する。転動体40は、概ね球状の形状を有する。各ポケット33に転動体40が配置された場合、
図2に示すように転動体40の上部は保持器30の第1平面30aから突出する。同様に、各ポケット33に転動体40が配置された場合、
図2に示すように転動体40の下部は保持器30の第2平面30bから突出する。
【0064】
複数の転動体40が各ポケット33に保持された状態で、保持器30が第1環状部材10と第2環状部材20との間に配置される。転動体40の上部及び下部が保持器30から突出しているため、転動体40は、第1環状部材10及び第2環状部材20と接触する。このとき、
図2に示すように、転動体40は、第1環状部材10と保持器30との間に所定の隙間S1を形成する。同様に、転動体40は、第2環状部材20と保持器30との間に所定の隙間S2を形成する。
【0065】
より具体的には、保持器30の第1平面30aから突出した転動体40の上部の一部が、第1環状部材10と接触する。同様に、保持器30の第2平面30bから突出した転動体40の下部の一部が、第2環状部材20と接触する。これにより、
図2に示すように、第1環状部材10は転動体40と接触し、保持器30とは接触しない。同様に、第2環状部材20は転動体40と接触し、保持器30とは接触しない。結局、転動体40のみが、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30と接触する。各部材間の接触面積が小さいため、スラスト軸受100は低摩擦で回転可能である。
【0066】
なお、隙間S1及び隙間S2は必ずしも同一である必要はない。しかし、隙間S1及び隙間S2が同程度であると、保持器30を中心として第1環状部材10と第2環状部材20とが対称に配置される。また、転動体40は、保持器30の厚み方向の概ね中央に配置される。よって、転動体40の上部と第1環状部材10との接触面積と、転動体40の下部と第2環状部材20との接触面積と、が概ね同程度となる。そのため、転動体40が、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30により安定的に保持される。これにより、スラスト軸受100の回転時の振動が抑制され、回転の安定度が高まる。
【0067】
(2)各部の構成
次に、スラスト軸受100を構成する、第1環状部材10、第2環状部材20、保持器30及び複数の転動体40についてそれぞれ説明する。
【0068】
(2−1)第1環状部材10
図1〜
図3を用いて、第1環状部材10について説明する。
図3(a)は、第1軌道面11側から見た第1環状部材10の平面図である。
図3(b)は、
図3(a)のII−II断面図である。II−II断面線は、第1環状部材10の中心Oを通る。
【0069】
第1環状部材10は、平面視において板状部材であり、板状面と交差する方向に所定の厚みd10を有している。第1環状部材10は、保持器30の第1平面30aと対向する第1軌道面11を有する。第1環状部材10には、平面視における中央部に、直径がL10inの円形状の第1開口部12が形成されている。第1開口部12は、第1環状部材10の中央部を貫通している。よって、第1環状部材10は平面視において環状の形状を有する。そして、第1軌道面11も環状の形状を有する。また、第1環状部材10の外形の直径、つまり外側面10aの直径はL10exである。
【0070】
第1軌道面11の中央部には、第1軌道面11に凹部を形成する溝13が形成されている。なお、第1環状部材10において、第1軌道面11とは反対側の面は溝を有しておらず、環状の平板状である。溝13は、
図3(a)に示すように、平面視において環状の形状を有する。また、溝13は、
図3(b)に示すように、第1軌道面11に交差する方向の断面視において円弧状の形状を有する。この断面視における溝13の円弧は、転動体40の上部の一部に沿うように形成されており、曲率半径R10を有する。
【0071】
より具体的には、保持器30に転動体40が嵌め込まれた場合に、転動体40は保持器30の第1平面30aから突出する。溝13の円弧は、第1平面30aから突出した転動体40の上部の一部に沿うように形成されている。よって、前述した通り、転動体40が介在することによって、第1環状部材10と保持器30との間に所定の隙間S1が形成される。
【0072】
また、溝13は、溝中央線13aにおいて、第1軌道面11からの深さが最も大きい。溝中央線13aは、平面視及び断面視において溝13の中央部に位置する。よって、保持器30の第1平面30aから突出した転動体40の頂部と、溝中央線13aとが概ね一致する。言い換えれば、後述の
図6の平面視において、転動体40は、溝中央線13aと、転動体40の中心Pとが実質的に重なるように、第1環状部材10に対して位置づけられる。一方、転動体40は、保持器30のポケット33に転動可能に保持される。よって、転動体40を介して、第1環状部材10と保持器30とが位置合わせされる。そして、転動体40は、溝13によって保持器30のポケット33内の所定の位置で転動する。そのため、転動体40の過剰な移動を抑制することができる。
【0073】
(2−2)第2環状部材20
図1、
図2、
図4を用いて、第2環状部材20について説明する。
図4(a)は、第2軌道面21側から見た第2環状部材20の平面図である。
図4(b)は、
図4(a)のIII−III断面図である。III−III断面線は、第2環状部材20の中心Oを通る。
【0074】
第2環状部材20の構成は、例えば、第1環状部材10と概ね同一である。第2環状部材20は、平面視において板状部材であり、板状面と交差する方向に所定の厚みd20を有している。第1環状部材10の厚みd10と、第2環状部材20の厚みd20と、は概ね同一である。
【0075】
第2環状部材20は、保持器30の第2平面30bと対向する第2軌道面21を有する。第2環状部材20には、平面視における中央部に、直径がL20inの円形状の第2開口部22が形成されている。第2開口部22は、第2環状部材20の中央部を貫通している。よって、第2環状部材20は平面視において環状の形状を有する。そして、第2軌道面21も環状の形状を有する。また、第2環状部材20の外形の直径、つまり外側面20aの直径はL20exである。
【0076】
第1環状部材10の第1開口部12の直径L10inと、第2環状部材20の第2開口部22の直径L20inと、は概ね同一であってもよい。また、第1環状部材10の外形の直径L10exと、第2環状部材20の外形の直径L20exと、は概ね同一であってもよい。
【0077】
なお、第1環状部材10、第2環状部材20、保持器30及び転動体40を嵌め合わせた場合、平面視において、第1環状部材10の中心と第2環状部材20の中心とは、中心Oにおいて概ね一致する。この場合、平面視において、第1環状部材10と第2環状部材20とは概ね重畳し、第1開口部12と第2開口部22とは概ね重畳する。
【0078】
第2軌道面21の中央部には、第2軌道面21に凹部を形成する溝23が形成されている。なお、第2環状部材20において、第2軌道面21とは反対側の面は溝を有しておらず、環状の平板状である。溝23は、
図4(a)に示すように、平面視において環状の形状を有する。また、溝23は、
図4(b)に示すように、第2軌道面21に交差する方向の断面視において円弧状の形状を有する。この断面視における溝23の円弧は、転動体40の下部の一部に沿うように形成されており、曲率半径R20を有する。第1軌道面11の溝13の曲率半径R10と、第2軌道面21の溝23の曲率半径R20と、は概ね同一である。
【0079】
より具体的には、保持器30に転動体40が嵌め込まれた場合に、転動体40は保持器30の第2平面30bから突出する。溝23の円弧は、第2平面30bから突出した転動体40の下部の一部に沿うように形成されている。よって、前述した通り、転動体40が介在することによって、第2環状部材20と保持器30との間に所定の隙間S2が形成される。
【0080】
また、溝23は、溝中央線23aにおいて、第2軌道面21からの深さが最も大きい。溝中央線23aは、平面視及び断面視において溝23の中央部に位置する。よって、保持器30の第2平面30bから突出した転動体40の頂部と、溝中央線23aとが概ね一致する。言い換えれば、後述の
図6の平面視において、転動体40は、溝中央線23aと、転動体40の中心Pとが実質的に重なるように、第2環状部材20に位置づけられる。一方、転動体40は、保持器30のポケット33に転動可能に保持される。よって、転動体40を介して、第2環状部材20と保持器30とが位置合わせされる。さらに、前述の通り、第1環状部材10の溝13によっても、転動体40を介して、第1環状部材10及び保持器30が位置合わせされる。これらの構成により、転動体40を介して、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30が位置合わせされ、スラスト軸受100として一体化される。そして、転動体40は、溝13,23によって保持器30のポケット33内の所定の位置で転動する。そのため、転動体40の過剰な移動を抑制することができる。
【0081】
なお、第1環状部材10の溝13の深さd1と、第2環状部材20の溝23の深さd2と、が同一であると好ましい。また、溝13の曲率半径R10と溝23の曲率半径R20と、は概ね同一であると好ましい。ただし、深さd1と深さd2とが必ずしも同一である必要はない。また、曲率半径R10と曲率半径R20とが必ずしも同一である必要はない。しかし、深さd1及び深さd2が同程度であり、曲率半径R10及び曲率半径R20が同程度であると、第1環状部材10と転動体40との接触による摩擦力と、第2環状部材20と転動体40との接触による摩擦力と、を概ね同程度とすることができる。よって、スラスト軸受100の回転時において、第1環状部材10側の摩擦力と、第2環状部材20側の摩擦力との均衡を図ることができる。そのため、スラスト軸受100の回転時の振動が抑制され、回転の安定度が高まる。また、深さd1及び深さd2が同程度であり、曲率半径R10及び曲率半径R20が同程度であると、保持器30を中心として第1環状部材10及び第2環状部材20が同位置に配置される。よって、第1環状部材10、第2環状部材20、保持器30及び転動体40の組み立ての安定度が増す。これによっても、スラスト軸受100の回転時の振動が抑制され、回転の安定度が高まる。
【0082】
なお、上記では、第1環状部材10と第2環状部材20とが概ね同一であるとしている。しかし、第1環状部材10及び第2環状部材20は、それぞれ異なる構成であってもよい。例えば、第1環状部材10は、第1開口部12に挿入される第1の軸部材に適合した形状であり得る。一方、第2環状部材20は、第2開口部22に挿入される第2の軸部材に適合した形状であり得るし、あるいは第2環状部材20から回転力を受ける部材に適合した形状であり得る。第2環状部材20から回転力を受ける部材としては、例えば、第2環状部材20の外面に接触する部材であり得る。さらには、上記構成の逆の組み合わせもあり得る。つまり、第2環状部材20は、第2開口部22に挿入される第2の軸部材に適合した形状であり得る。一方、第1環状部材10は、第1開口部12に挿入される第1の軸部材に適合した形状であり得るし、あるいは第1環状部材10から回転力を受ける部材に適合した形状であり得る。
【0083】
また、例えば、第2環状部材20の第2開口部22の直径L20inは、第1環状部材10の第1開口部12の直径L10inより大きくてもよい。また、第2開口部22の直径L20inは、第3開口部32の直径L30inより小さくてもよい。
【0084】
また、例えば、第1環状部材10の外形の直径L10exと、第2環状部材20の外形の直径L20exと、は異なっていてもよい。
【0085】
また、例えば、第1環状部材10の厚みd10と、第2環状部材20の厚みd20と、は異なっていてもよい。
【0086】
(2−3)転動体40
図1、
図2等に示すようにスラスト軸受100には、複数の転動体40が設けられている。各転動体40は概ね球状の形状を有する。また、各転動体40はそれぞれ同程度の大きさである。各転動体40は、保持器30の複数のポケット33にそれぞれに転動可能に保持される。複数の転動体40は、第1軌道面11と第2軌道面21と、の間に周方向に沿って配置される。言い換えれば、転動体40は、保持器30の第1平面30a及び第2平面30bの周方向に沿って配置される。
【0087】
また、各転動体40は、保持器30の厚み方向の中心と、転動体40の中心Pと、が概ね一致するように、保持器30の各ポケット33に保持される。つまり、保持器30のポケット33に転動体40が保持されると、保持器30の第1平面30aと第2平面30bとの間の中央に位置する平面内に、転動体40の中心Pが概ね位置する。
【0088】
また、後述するが、転動体40の直径R40は保持器30の厚みd30より大きい。つまり、転動体40の直径R40は、保持器30の第1平面30aと第2平面30bとの間の厚みd30よりも大きい。よって、転動体40の上部が保持器30の第1平面30aから突出する突出量と、転動体40の下部が保持器30の第2平面30bから突出する突出量と、は概ね同程度である。このような構成により、転動体40は、ポケット33において安定的に保持される。
【0089】
スラスト軸受100には複数の転動体40が設けられるが、その数は特に限定されない。転動体40の数は、例えば、周方向に隣接するポケット33間の距離を考慮して設定される。これは、隣接するポケット33間の距離が小さすぎると、保持器30が転動体40を保持する力が弱くなり、保持器30が破損するためである。また、転動体40の数は、転動体40と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30と、の摩擦力を考慮して設定されてもよい。例えば、一例であるが、転動体40の数は、保持器30に、所定の大きさの転動体40を周方向に沿って敷き詰めた場合の最大個数の半分より大きく設定される。規格として51305(JISにおけるスラスト軸受の呼び番号)を採用した本実施形態においては、転動体40の数は例えば9個である。なお、転動体40の直径R40としては、例えば9.525mmを採用している。ただし、転動体40の大きさ及び数はこれに限定されない。例えば、転動体40の直径は9.525mmより大きくても小さくてもよく、転動体40の数は9個より多くてもよいし、9個より少なくてもよい。
【0090】
転動体40は、例えばガラスで形成されており、一例としてソーダガラスで形成されている。ソーダガラスは、二酸化ケイ素、酸化ナトリウム及び酸化カルシウムを所定の割合で含むガラスである。ただし、転動体40の材質はこれに限定されない。
【0091】
(2−4)保持器30
次に、保持器30について説明する。
図5(a)は、
図1に示すスラスト軸受100のI−I断面における、転動体40を保持する保持器30の断面図である。
図5(b)は、
図5(a)の保持器30の外輪部37の断面図である。
図5(c)は、
図5(a)の保持器30の内輪部31の断面図である。
図6は、保持器30の一部の平面拡大図である。
【0092】
(2−4−1)内輪部31及び外輪部37
保持器30は、内輪部31と外輪部37とを含む。内輪部31は、保持器30のうち内側に設けられる板状の環状部材である。外輪部37は、保持器30のうち外側に設けられる板状の環状部材であり、内輪部31を取り囲むように設けられる。保持器30の中心Oは、内輪部31の中心及び外輪部37の中心と概ね同一である。以下では、保持器の中心Oと、内輪部31の中心Oと、外輪部37の中心Oと、が同一であるものとして説明する。
【0093】
内輪部31には、
図2及び
図5(c)に示すように、平面視において、中央部に、直径がL30inの円形状の第3開口部32が形成されている。また、内輪部31の外側面31aは、厚み方向の断面視において、内輪部31の中心Oに向かって円弧状に凹んでいる。断面視における円弧状の外側面31aは、曲率半径R31を有する。外側面31aは、保持器30の厚みd30の中央部を中心として対称な円弧状に形成されている。保持器30の厚みd30の中央部において、対向する外側面31a間の距離はL31exである。
【0094】
外輪部37は、
図2及び
図5(b)に示すように、内側面38と外側面30cとを有する。外輪部37の内側面38は、断面視において、外輪部37の中心Oに向かって円弧状に突出している。断面視における円弧状の内側面38は、曲率半径R37を有する。内側面38は、保持器30の厚みd30の中央部を中心として対称な円弧状に形成されている。保持器30の厚みd30の中央部において、対向する内側面38間の距離はL37inである。
【0095】
また、外輪部37の内側面38は、内輪部31の外側面31aに沿う形状となっている。つまり、内輪部31の外側面31aの曲率半径R31と、外輪部37の内側面38の曲率半径R37と、は概ね同一である。さらに、外側面31a間の距離L31exと、内側面38間の距離L37inと、は概ね同一である。よって、外輪部37を内輪部31に嵌め込んだ場合に、外輪部37の内側面38と内輪部31の外側面31aとが面接触し得る。
【0096】
また、
図5(a)に示すように、ポケット33内において外輪部37の内側面38は、断面視において、ポケット33内部に向かって円弧状に突出している。よって、球状の転動体40と外輪部37との接触面積を小さくして、摩擦力を減らすことができる。なお、外輪部37の外側面30cは、断面視において直線状である。外輪部37の外形の直径、つまり外側面30cの直径はL30exである。
【0097】
また、第1環状部材10の溝13と、第2環状部材20の溝23と、保持器30のポケット33とによって、転動体40が所定の位置に配置されるとともに、第1環状部材10と、第2環状部材20と、保持器30とが位置合わせされる。よって、スラスト軸受100は、軸部材の回転時の振動を抑制して高精度で回転する。
【0098】
また、
図2、
図5に示すように、例えば、内輪部31の第3開口部32の直径L30inは、第1開口部12の直径L10in及び第2開口部22の直径L20inより大きい。また、例えば、第2開口部22の直径L20inは、第1開口部12の直径L10inより大きい。この場合、例えば、第1環状部材10の第1開口部12に軸部材が挿入されると、軸部材と第1開口部12の内側面とが接触する。つまり、軸部材は第1開口部12内に固定される。そして、軸部材は、第2開口部22及び第3開口部32とは接触しない。軸部材が回転すると、軸部材の回転とともに第1環状部材10が回転する。ここで、第1環状部材10は転動体40と接触している。よって、第1環状部材10の回転に伴って、転動体40が転がるように転動するとともに、保持器30が回転する。そして、転動体40と接触している第2環状部材20は回転せず転動体40の転動を受ける接触面となるか、あるいは、転動体40の転動により第2環状部材20も回転し得る。このような構成により、スラスト軸受100は低摩擦で回転する。言い換えれば、スラスト軸受100は、軸部材を低摩擦で回転させる。また、この回転によって、第1環状部材10に挿入された軸部材の回転駆動力を、静止している第2環状部材20に伝達するか、または第2環状部材20の回転に変換可能である。
【0099】
なお、上記では、第3開口部32の直径L30in>第2開口部22の直径L20in>第1開口部12の直径L10inとしている。しかし、第1開口部12の直径L10inと、第2開口部22の直径L20inとは概ね同一であってもよい。そして、例えば、第3開口部32の直径L30inは、第1開口部12の直径L10in及び第2開口部22の直径L20inより大きい。この場合、第1開口部12及び第2開口部22に軸部材が挿入された場合、軸部材は、第1開口部12の内側面及び第2開口部22の内側面に接触する。より具体的には、第1開口部12の内側面には第1の軸部材が接触し、第2開口部22の内側面には第2の軸部材が接触する。なお、第1の軸部材及び第2の軸部材は保持器30の第3開口部32の内側面とは接触しない。つまり、第1の軸部材は、第1開口部12を介して第1環状部材10に固定される。一方、第2の軸部材は、第2開口部22を介して第2環状部材20に固定される。そして、上述と同様に、例えば第1の軸部材が回転すると、第1の軸部材の回転とともに第1環状部材10が回転する。さらに、第1環状部材10の回転に伴って、転動体40が転がるように転動し、保持器30が回転する。そして、転動体40と接触している第2環状部材20は回転せず転動体40の転動を受ける接触面となるか、あるいは、転動体40の転動により第2環状部材20も回転し得る。このような構成により、スラスト軸受100は低摩擦で回転する。言い換えれば、スラスト軸受100は第1の軸部材及び第2の軸部材を低摩擦で回転させる。なお、このとき、第1環状部材10に挿入された第1の軸部材の回転駆動力を、静止している第2環状部材20に伝達するか、またの第2環状部材20の回転駆動力に変換可能である。
【0100】
なお、上記では、保持器30の内輪部31及び外輪部37の構成について具体的に説明している。しかし、上記内輪部31及び外輪部37の構成は一例である。内輪部31及び外輪部37は、スラスト軸受100の耐荷重を向上できる構成であればよく、上記構成に限定されない。例えば、一例であるが、内輪部31の外側面31aは中心Oに向かって円弧状に凹んでいる必要はない。また、一例であるが、外輪部37の内側面38は、外輪部37の中心Oに向かって円弧状に突出している必要はない。よって、内輪部31及び外輪部37は多様な構成で形成可能である。
【0101】
(2−4−2)ポケット33
次に保持器30のポケット33について説明する。
図1、
図6に示すように、内輪部31には、内輪部31の外側面31a側から内輪部31を切り欠くように凹部が形成されている。凹部は、頂縁部33aと、第1延長部33bと、第2延長部33cとにより形成されている。よって、内輪部31が外輪部37によって取り囲まれていない状態では、凹部は外側面31a側において開口している。そして、内輪部31が外輪部37によって取り囲まれることで、凹部の外側面31a側の開口が閉じられ、ポケット33が構成される。つまり、ポケット33は、頂縁部33aと、第1延長部33bと、第2延長部33cと、外延部33dと、により形成されている。
【0102】
前述の通り、保持器30は、内輪部31と外輪部37とに分かれている。よって、内輪部31を外側面31a側から切り欠いて凹部を形成することにより、ポケット33の頂縁部33a、第1延長部33b及び第2延長部33cを形成できる。そのため、機械加工によりポケット33の頂縁部33a、第1延長部33b及び第2延長部33cを容易に形成できる。また、内輪部31と外輪部37とを嵌め合わせることで、切り欠かれた凹部が外輪部37の内側面38により閉じられる。これにより、頂縁部33a、第1延長部33b、第2延長部33c及び外延部33dによりポケット33を形成できる。このように内輪部31及び外輪部37に分けて保持器30を形成することで、ポケット33の加工が容易である。
【0103】
例えば、頂縁部33a、第1延長部33b及び第2延長部33cの内側面は、球状の転動体40の形状に沿うように形成される。つまり、保持器30の第1平面30a及び第2平面30bと交差する断面において、頂縁部33a、第1延長部33b及び第2延長部33cの内側面は、内側に凹むように円弧状に形成される。このような頂縁部33a、第1延長部33b及び第2延長部33cの加工は、内輪部31を外側面31a側から切り欠くことで可能である。同様に、例えば、外延部33dとなる外輪部37の内側面38は、断面視において、球状の転動体40との接触面積を小さくするように、円弧状に突出するように形成される。このような外輪部37の加工は、外輪部37を内側面38側から切り欠くことで可能である。
【0104】
また、保持器30には、周方向に沿って複数のポケット33が形成されている。各ポケット33は概ね同一の大きさである。また、複数のポケット33において、隣接するポケット33間の距離は概ね同一である。ポケット33の数は、配置する転動体40の数に対応している。よって、各ポケット33は、1つの転動体40を転動可能に保持する。
【0105】
ポケット33の構成についてさらに説明する。
【0106】
ポケット33の頂縁部33aは、平面視において、内輪部31の第3開口部32に隣接する部分である。例えば、頂縁部33aの内側面は、転動体40の外周の一部を取り囲むように形成されている。これにより、スラスト軸受100が回転した場合に転動体40が過剰に移動しないように規制できる。よって、転動体40と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30と、の過剰な摩擦が抑制される。
【0107】
また、
図6に示すように、頂縁部33aは、平面視において例えば円弧状であってもよい。例えば、頂縁部33aは、曲率半径がR33aの円弧状である。頂縁部33aが円弧状であるので、球状の転動体40の一部をさらに取り囲むように保持できる。これにより、転動体40が過剰に移動しないように規制できる。また、
図6に示すように、頂縁部33aは、平面視において例えば半円形状であってもよい。これにより、前述と同様に、転動体40が過剰に移動しないように規制することができる。また、頂縁部33aの曲率半径R33aは、転動体40の半径r40と同程度であるか、あるいは転動体40の半径r40より若干大きい。なお、頂縁部33aは、平面視において直線の組み合わせからなる多角形状であってもよい。
【0108】
ポケット33の第1延長部33bは、頂縁部33aの一方の端部である点A1から径方向外側に向かって直線状に延びる。第1延長部33bは、径方向外側の外側端部である点A2まで延びる。つまり、第1延長部33bは、点A1から点A2まで、内輪部31の外側面31aに向かって直線状に延びる。さらに言い換えれば、第1延長部33bは、点A1から点A2まで、外輪部37の内側面38に向かって直線状に延びる。
【0109】
ポケット33の第2延長部33cは、頂縁部33aの他方の端部である点B1から径方向外側に向かって直線状に延びる。第2延長部33cは、径方向外側の外側端部である点B2まで延びる。つまり、第2延長部33cは、点B1から点B2まで、内輪部31の外側面31aに向かって直線状に延びる。さらに言い換えれば、第2延長部33cは、点B1から点B2まで、外輪部37の内側面38に向かって直線状に延びる。例えば、第1延長部33bと第2延長部33cとは概ね平行である。
【0110】
また、第1延長部33bと第2延長部33cとの間隔は、距離L33である。距離L33は、転動体40の直径R40と同程度であるか、あるいは転動体40の直径R40より若干大きい。よって、転動体40のポケット33での移動を可能にしつつも、転動体40の過剰な移動を抑制する。
【0111】
ポケット33の外延部33dは、保持器30の外輪部37の内側面38の一部に相当する。よって、外延部33dは円弧状の形状を有する。この外延部33dは、頂縁部33a、第1延長部33b及び第2延長部33cとともに、ポケット33を閉空間として構成する。外延部33dの区間は、第1延長部33bの外側端部である点A2に近接又は連続する部分から、第2延長部33cの外側端部である点B2に近接又は連続する部分までの区間で定義される。
【0112】
(2−4−3)角度θの定義
次に、ポケット33における角度θについて、多様な側面から定義する。
【0113】
(a)
角度θは、
図6に示すように、第1延長部33bが延びる延長方向と、環状の保持器30の中心Oから径方向に延びる方向と、のなす角の大きさである。第1延長部33bと第2延長部33cとは概ね平行である。よって、角度θは、第2延長部33cが延びる延長方向と、環状の保持器30の中心Oから径方向に延びる方向と、のなす角の大きさによっても定義できる。このとき、角度θは、例えば0°より大きく70°以下である。なお、第1延長部33bの延びる延長方向とは、点A1と点A2とを通る線分の延長方向である。第2延長部33cが延びる延長方向とは、点B1と点B2とを通る線分の延長方向である。
【0114】
また、角度θが0°の場合を比較例として説明する。
図7は、角度θが0°の場合の保持器30を示す比較例である。
図7に示すように、第1延長部33b又は第2延長部33cが延びる延長方向は、保持器30の中心Oから径方向に延びる方向と平行である。よって、第1延長部33b又は第2延長部33cが延びる延長方向と、保持器30の中心Oから径方向に延びる方向と、のなす角である角度θは0°である。保持器30の中心Oから径方向に延びる方向は、保持器30の中心Oと転動体40の中心Pとを結ぶ径方向である。
【0115】
上記の本実施形態によれば、保持器30において、第1延長部33b又は第2延長部33cの延びる延長方向と、環状の保持器30の中心Oから径方向に延びる方向と、のなす角度θは0°より大きく70°以下である。後述するが、このような構成とすることで、角度θが0°である場合よりも、スラスト軸受100の耐荷重を大きくすることができる。スラスト軸受100の耐荷重が大きくなるということは、スラスト軸受100の回転によるスラスト軸受100の摩耗、剥離、焼付き及び振動等が抑制され、スラスト軸受100の破損を抑制できることを意味する。よって、スラスト軸受100が樹脂で形成される場合であっても、スラスト軸受100の寿命を長くすることができる。
【0116】
また、転動体40が、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30と接触して転動することで、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30が摩耗する。これにより、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30から摩耗粉が発生する。この摩耗粉がスラスト軸受100の回転の潤滑剤として利用される。よって、上記のスラスト軸受100では、回転を円滑にするための別途の潤滑剤を用いることなく、寿命を長くすることができる。
【0117】
より具体的に説明する。上記によれば、ポケット33において、第1延長部33b又は第2延長部33cの延びる延長方向と、環状の保持器30の中心Oから径方向に延びる方向と、のなす角度θは0°より大きい。そのため、角度θが0°よりも大きい場合は、角度θが0°の場合よりも円弧状の外延部33dの長さが長くなる。これは、角度θが0°より大きい場合には、第1延長部33b又は第2延長部33cと外延部33dとは斜めに交差するためである。なお、角度θが0°の場合には、第1延長部33b又は第2延長部33cと外延部33dとは概ね直交する。そして、ポケット33が周方向に長く形成される。よって、角度θが0°よりも大きい場合は、スラスト軸受100が回転した場合に転動体40がポケット33内において移動可能な周方向の距離が、角度θが0°の場合よりも大きい。つまり、転動体40と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30と、の接触面積が大きくなる。そして、接触による摩擦により第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30において摩耗が生じ、摩耗粉が生じ得る。この摩耗粉が、転動体40がスラスト軸受100内で転動する際の潤滑剤となり得る。つまり、転動体40と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30と、の接触部分に、摩耗粉が潤滑剤として入り込む。このように、スラスト軸受100の回転により生じた摩耗粉が、スラスト軸受100の回転の潤滑剤として利用され、自己潤滑機能を有する。これにより、別途の潤滑剤を用いることなく、スラスト軸受100の耐荷重を大きくし、寿命を長くすることができる。また、角度θが0°の場合よりも大きくなると、ポケット33を閉空間として構成する体積が大きくなる。つまり、転動体40が回転する際に接するポケット33内の気体の量が多くなる。これにより、転動体40とその他の部材との摩擦により発生する熱がより発散することになる。そのため、摩擦熱にともなう体積膨張によって引き起こされる振動、摩擦熱による焼付き、剥離等が抑制される。結果として、樹脂から形成されるスラスト軸受100の耐荷重・寿命を長くすることができる。
【0118】
以上のように、上記のスラスト軸受100では、保持器30のポケット33において角度θを調整することで、スラスト軸受100の摩耗量と摩擦熱が適切に調整される。つまり、焼付きを起こさない条件が満たされた上で、摩耗量が、スラスト軸受100の破損を抑制できる程度に抑えられるとともに、自己潤滑機能を有する程度となる。よって、樹脂から形成されるスラスト軸受100の寿命を長くすることができる。
【0119】
なお、角度θを大きくするほど、ポケット33が周方向に沿って長く延びるように形成される。角度θを70°以下とするのは、ポケット33が周方向に沿って延びて、隣接するポケット33間の距離が小さくなり、ポケット33の強度が低下するのを抑制するためである。つまり、角度θを70°以下とすることで、隣接するポケット33間にある程度の距離を設け、ポケット33の強度を確保することができる。また、ポケット33が周方向に延びる距離が長すぎると、転動体40の移動距離が長くなる。そして、転動体40と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30と、の摩擦が大きくなりすぎるため、角度θを70°と以下とするのがよい。
【0120】
(b)
また、角度θは次のように定義可能である。角度θは、
図6に示すように、第1延長部33b又は第2延長部33cの延びる延長方向と、転動体40の中心P及び保持器30の中心Oを結ぶ径方向と、のなす角度である。角度θは、上記(a)の通り、例えば0°より大きく70°以下である。なお、第1延長部33b又は第2延長部33cの延びる延長方向とは、点A1と点A2とを通る線分又は点B1と点B2とを通る線分の延長方向である。また、転動体40の中心P及び保持器30の中心Oを結ぶ径方向とは、
図6に示すように、ポケット33に配置された転動体40の中心Pと、環状の保持器30の中心Oとを結ぶ径方向である。
【0121】
そして角度θを0°より大きく70°以下とすることで、上記(a)と同様の作用効果を生じ、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受100の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0122】
さらには、平面視において、転動体40の中心Pは、環状の溝13,23の溝中央線13a、23aと実質的に重なる。言い換えれば、平面視において、環状の溝13,23の溝中央線13a、23a上に、転動体40の中心Pが概ね位置する。つまり、転動体40は、溝13,23によって保持器30のポケット33内の所定の位置に配置される。転動体40が概ね所定の位置で転動するため、転動体40の過剰な移動を抑制することができる。これにより、転動体40と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30との過剰な摩擦が抑制される。よって、スラスト軸受100の過剰な摩耗、剥離、焼付き及び振動等が抑制され、樹脂から形成されるスラスト軸受100の寿命を長くすることができる。
【0123】
なお、スラスト軸受100が回転して転動体40が転動している場合には、転動体40の中心Pは溝中央線13a、23aからずれ得る。一方、スラスト軸受100が静止している場合には、平面視において、転動体40の中心Pは溝中央線13a、23aと実質的に重なる。
【0124】
(c)
また、角度θは次のように定義可能である。角度θは、
図6に示すように、第1延長部33b又は第2延長部33cの延びる延長方向と、頂縁部33aのうち第3開口部32に最も隣接する点D及び保持器30の中心Oを結ぶ方向と、のなす角度である。第1延長部33b又は第2延長部33cの延びる延長方向とは、点A1と点A2とを通る線分又は点B1と点B2とを通る線分の延長方向である。また、頂縁部33aは、点Dにおいて第3開口部32に最も隣接している。この点Dと環状の保持器30の中心Oとを結ぶ線上には、ポケット33に配置された球状の転動体40の中心Pが位置し得る。よって、点D及び保持器30の中心Oを結ぶ方向とは、ポケット33に配置された転動体40の中心Pと保持器30の中心Oとを結ぶ径方向である。
【0125】
つまり、角度θは、第1延長部33b又は第2延長部33cの延びる延長方向と、ポケット33に配置された転動体40の中心Pと保持器30の中心Oとを結ぶ径方向のなす角度である。そして角度θを0°より大きく70°以下とすることで、上記(a)と同様の作用効果を生じ、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0126】
なお、
図6に示すように、頂縁部33aの内側面は、例えば、球状の転動体40の外周の一部を取り囲むように形成されている。例えば、頂縁部33aは平面視において円弧状であり得、さらには頂縁部33aは平面視において半円形状であり得る。これにより、転動体40が過剰に移動しないように規制できるので、転動体40と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30との過剰な摩擦が抑制される。よって、スラスト軸受100の破損を抑制できる。
【0127】
なお、頂縁部33aは、平面視において直線の組み合わせからなる多角形状であり得る。
【0128】
(d)
また、角度θは次のように定義可能である。角度θは、
図6に示すように、第1延長部33b又は第2延長部33cの延びる延長方向と、円弧状の頂縁部33aの中心P及び環状の保持器30の中心Oを結ぶ径方向と、のなす角である。第1延長部33b又は第2延長部33cの延びる延長方向とは、点A1と点A2とを通る線分又は点B1と点B2とを通る線分の延長方向である。また、円弧状の頂縁部33aの中心P及び環状の保持器30の中心Oを結ぶ径方向上には、ポケット33に配置された球状の転動体40の中心Pが位置し得る。より具体的には、円弧状の頂縁部33aの中心Pと転動体40の中心Pとは、実質的に一致する。よって、円弧状の頂縁部33aの中心P及び環状の保持器30の中心Oを結ぶ径方向とは、ポケット33に配置された転動体40の中心Pと環状の保持器30の中心Oとを結ぶ径方向である。
【0129】
つまり、角度θは、第1延長部33b又は第2延長部33cの延びる延長方向と、ポケット33に配置された球状の転動体40の中心Pと環状の保持器30の中心Oとを結ぶ径方向のなす角度である。そして角度θを0°より大きく70°以下とすることで、上記(a)と同様の作用効果を生じ、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受100の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。
【0130】
なお、
図6に示すように、円弧状の頂縁部33aは、より具体的には、平面視において半円形状であり得る。半円形状の頂縁部33aは、転動体40の概ね半分を取り囲んで転動体40を保持できる。
【0131】
また、
図6に示すように、半円形状の頂縁部33aは、転動体40の中心P及び保持器30の中心Oを結ぶ径方向と概ね直交する方向に対して、平面視において点Pを中心として角度θ分だけ回転した位置に形成されている。転動体40の中心P及び保持器30の中心Oを結ぶ径方向と概ね直交する線分は線分C−Cである。なお、線分C−Cは、溝中央線13a、23aの転動体40の中心Pにおける接線である。半円形状の頂縁部33aの端部である点A1と点B1を結ぶ線上には、転動体40の中心Pが位置する。このとき、線分C−Cと、点A1と点B1を結ぶ線とがなす角が、角度θである。
【0132】
(2−4−4)多様な角度θを有する保持器30
図8〜
図14を用いて、多様な角度θを有する保持器30について説明する。
図8〜
図14の保持器30は、
図1及び
図6の保持器30と基本的構成は同じであり、角度θが異なる。なお、
図1、
図6、
図8〜
図12の保持器30は9個のポケット33を有する。一方、
図13の保持器30は8個のポケット33を有する。また、
図14の保持器30は7個のポケット33を有する。
【0133】
(a)角度θ=5°の保持器30
図8は、角度θ=5°の保持器30を示す平面図である。
図8の保持器30は、例えば9個のポケット33を有する。角度θは約5°である。
【0134】
(b)角度θ=15°の保持器30
図9は、角度θ=15°の保持器30を示す平面図である。
図9の保持器30は、例えば9個のポケット33を有する。角度θは約15°である。
【0135】
(c)角度θ=30°の保持器30
図10は、角度θ=30°の保持器30を示す平面図である。
図10の保持器30は、例えば9個のポケット33を有する。角度θは約30°である。
【0136】
(d)角度θ=45°の保持器30
図11は、角度θ=45°の保持器30を示す平面図である。
図11の保持器30は、例えば9個のポケット33を有する。角度θは約45°である。
【0137】
(e)角度θ=50°の保持器30
図12は、角度θ=50°の保持器30を示す平面図である。
図12の保持器30は、例えば9個のポケット33を有する。角度θは約50°である。
【0138】
(f)角度θ=60°の保持器30
図13は、角度θ=60°の保持器30を示す平面図である。
図13の保持器30は、例えば8個のポケット33を有する。角度θは約60°である。
【0139】
なお、
図8〜
図12ではポケット33の数は9個であるが、
図13ではポケット33の数は8個に減少している。これは、ポケット33の数を9個とし、角度θ=60°とすると、隣接するポケット33の距離が短すぎて保持器30が転動体40を保持する力が弱くなり、保持器30が破損するためである。
【0140】
(g)角度θ=70°の保持器30
図14は、角度θ=70°の保持器30を示す平面図である。
図14の保持器30は7個のポケット33を有する。角度θは約70°である。
【0141】
なお、
図8〜
図12ではポケット33の数は9個であり、
図13ではポケット33の数は8個である。しかし、
図14では、ポケット33の数は7個に減少している。これは、ポケット33の数を9個又は8個とし、角度θ=70°とすると、隣接するポケット33の距離が短すぎて保持器30が転動体40を保持する力が弱くなり、保持器30が破損するためである。
【0142】
(2−4−5)その他
保持器30は、例えば、次のように構成されていてもよい。
【0143】
上記では、保持器30は、内輪部31と外輪部37とから構成されている。しかし、保持器30は、内輪部31と外輪部37とが一体に形成されていてもよい。
【0144】
また、上記では、ポケット33は、延長部として、第1延長部33b及び第2延長部33cを含む。しかし、ポケット33は、延長部として、第1延長部33b及び第2延長部33cのいずれか一方のみを含んでもよい。例えば、
図6において、点A1が点A2に一致する場合には、ポケット33は延長部として第2延長部33cのみを含む。つまり、ポケット33は、頂縁部33aと、第2延長部33cと、外延部33dとから構成される。
【0145】
また、上記では、第1延長部33bと第2延長部33cとは概ね平行である。しかし、第1延長部33bと第2延長部33cとの関係はこれに限定されない。例えば、平面視における第1延長部33bと第2延長部33cとの間隔が、外輪部37の内側面38に向かうほど広がってもよい。これにより、転動体40がポケット33において移動可能な範囲を広げることができる。あるいは、平面視における第1延長部33bと第2延長部33cとの間隔が、外輪部37の内側面38に向かうほど狭まってもよい。これにより、転動体40がポケット33において移動可能な範囲を狭めることができる。第1延長部33bと第2延長部33cとの関係は、ポケット33内での転動体40の移動による摩擦力及び摩耗粉の量、転動体40と接する空気の面積・体積等を考慮して設定可能である。
【0146】
また、上記では、ポケット33の頂縁部33aは、点A1と、点Pと、点B1とがなす中心角が概ね180°の半円形状である。しかし、頂縁部33aの形状はこれに限定されず、例えば中心角が180°よりも小さい円弧状であってもよい。
【0147】
(2−5)樹脂材料
上記第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30は、樹脂から形成されている。材質として樹脂を用いることで、例えば、耐腐食性、耐薬品性、耐摩耗性などの性質において、金属よりも向上させることができる。例えば、樹脂としては、フェノール樹脂、PTFE(4フッ化エチレン樹脂:ポリテトラフルオロエチレン)、UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、POM(ポリオキシメチレン)、モノマーキャストナイロン、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PS(ポリスチレン)、PESF(ポリエーテルサルホン)ポリイミド、PA(ポリアミド)、PAI(ポリアミドイミド)、PE(ポリエチレン)、PU(ポリウレタン)、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、カーボン、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0148】
(3)試験
上記のスラスト軸受100について、転がり疲労試験及び摩耗量を測定する試験を行った。試験に用いたスラスト軸受100、試験内容及び試験結果について、以下に説明する。
【0149】
(3−1)試験に用いたスラスト軸受100
スラスト軸受100では、第1環状部材10と、第2環状部材20と、保持器30と、転動体40とが、
図1、
図2等に示すように組み立てられている。また、保持器30は、前記角度θが0°より大きく形成されている。転がり疲労試験及び摩耗量を測定する試験には、前記角度θが0°、5°、15°、30°、45°の各保持器30を用いた。転動体40は、ソーダガラスで形成した。また、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30は、UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)で形成した。
【0150】
試験では、規格として51305(JISにおけるスラスト軸受の呼び番号)に基づいて作成されたスラスト軸受100を用いた。試験に用いたスラスト軸受100の各部の寸法は以下の通りである。
【0151】
図2〜
図4に示すように、第1開口部12の直径L10in及び第2開口部22の直径L20inは、25mmである。第1環状部材10の外側面10aの直径L10ex及び第2環状部材20の外側面20aの直径L20exは、52mmである。
図2、
図3に示すように、II−II断面線上において対向する溝中央線13a間の距離Lpc10は、38.5mmである。同様に、
図2、
図4に示すように、III−III断面線上において対向する溝中央線23a間の距離Lpc20は、38.5mmである。第1環状部材10の厚みd10及び第2環状部材20の厚みd20は、5.138mmである。溝13の深さd1及び溝23の深さd2は、0.9mmである。溝13の曲率半径R10及び溝23の曲率半径R20は、4.8mmである。
【0152】
図1、
図2、
図5に示すように、保持器30の第3開口部32の直径L30inは、26mmである。保持器30の外側面30cの直径L30exは、54mmである。内輪部31の外側面31a間の距離L31ex及び外輪部37の内側面38間の距離L37inは、48.8mmである。保持器30の厚みd30は、5mmである。内輪部31の外側面31aの曲率半径R31及び外輪部37の内側面38の曲率半径R37は、8mmである。また、
図6に示すように、ポケット33の頂縁部33aの曲率半径R33aは、4.9mmである。また、
図1、
図6に示すように、第1延長部33bと第2延長部33cとの距離L33は、9.8mmである。
【0153】
図7の角度θ=0°の保持器30においては、隣接するポケット33間の最短距離W0は、3.367mmである。
図8の角度θ=5°の保持器30においては、隣接するポケット33間の最短距離W5は、3.368mmである。
図9の角度θ=15°の保持器30においては、隣接するポケット33間の最短距離W15は、3.454mmである。
図10の角度θ=30°の保持器30においては、隣接するポケット33間の最短距離W30は、3.168mmである。
図11の角度θ=45°の保持器30においては、隣接するポケット33間の最短距離W45は、2.134mmである。
図12の角度θ=50°の保持器30においては、隣接するポケット33間の最短距離W50は、1.604mmである。
図13の角度θ=60°の保持器30においては、隣接するポケット33間の最短距離W60は、1.889mmである。
図14の角度θ=70°の保持器30においては、隣接するポケット33間の最短距離W70は、2.158mmである。
【0154】
球状の転動体40の直径R40は、9.525mmである。よって、転動体40の半径r40は、4.7625mmである。
【0155】
(3−2)試験内容
転がり疲労試験は、例えば
図15に示す転がり疲労試験器50を用いて行った。
図15は、転がり疲労試験器50を示す模式図である。
【0156】
転がり疲労試験器50は、上部支持部材51と下部支持部材52とを含む。上部支持部材51と下部支持部材52とが対向する面は概ね平面状である。
図15に示すように、スラスト軸受100は、上部支持部材51と下部支持部材52との間に挟持される。よって、第1環状部材10の上面が上部支持部材51と接触し、第2環状部材20の下面が下部支持部材52と接触する。そして、下部支持部材52を固定し、上部支持部材51からアキシャル(スラスト荷重)をかけてスラスト軸受100を回転せることで、スラスト軸受100の転がり疲労試験を行った。つまり、下部支持部材52を固定して第2環状部材20を固定しておく。一方、上部支持部材51からアキシャル荷重をかけて上部支持部材51を回転させることで、第1環状部材10を回転させる。このとき、第1環状部材10が回転することにより、第1環状部材10に接触する転動体40が、保持器30のポケット33内で転動する。この転動体40の転動により、保持器30もまた回転する。上部支持部材51の総回転数は、例えば、2.88×10
5回とした。また、試験の条件は、室温25℃及び大気圧1atmの雰囲気において、潤滑剤を用いない無潤滑状態に調整された。また、各試験においては、スラスト軸受100ごとに、スラスト軸受100にかかるアキシャル荷重と、スラスト軸受100の回転速度との積(PV値)が一定となるように調整された。PV値としは、一例として、1.8×10
5N・rpmを選択した。
【0157】
摩耗量を測定する試験は、上記の転がり疲労試験の前後それぞれにおけるスラスト軸受100の質量を測定することで行った。より具体的には、試験前後それぞれにおいて、スラスト軸受100を超音波洗浄し、十分に乾燥させた後、電子天秤を用いて質量を測定した。そして、試験前のスラスト軸受100の質量から、試験後のスラスト軸受100の質量を引くことで、転がり疲労試験におけるスラスト軸受100の摩耗量を測定した。
【0158】
なお、転がり疲労試験及び摩耗量を測定する試験においては、スラスト軸受100を
図1、
図6〜
図14に示す方向D1に回転させた。
【0159】
(3−3)試験結果
(3−3−1)角度θと寿命との関係
保持器30において、角度θが0°、5°、15°、30°、45°である場合のそれぞれにおける転がり疲労試験の結果を以下に示す。
【0160】
図16は、角度θが0°の保持器30を有するスラスト軸受100における転がり疲労試験の結果である。
図17は、角度θが5°の保持器30を有するスラスト軸受100における転がり疲労試験の結果である。
図18は、角度θが15°の保持器30を有するスラスト軸受100における転がり疲労試験の結果である。
図19は、角度θが30°の保持器30を有するスラスト軸受100における転がり疲労試験の結果である。
図20は、角度θが45°の保持器30を有するスラスト軸受100における転がり疲労試験の結果である。
図16〜
図20において、縦軸は荷重(Load)[N]であり、横軸は回転速度(Rotation Speed)[rpm]である。
【0161】
なお、
図16〜
図20において、“PV 1.8×10
5,failure”とは、PV値=1.8×10
5N・rpmにおいて、スラスト軸受100が疲労により破損していることを意味する。また、“PV 1.8×10
5,non-failure”とは、PV値=1.8×10
5N・rpmにおいて、スラスト軸受100が破損しなかったことを意味する。
【0162】
図16に示すように、保持器30において角度θが0°の場合は、回転速度が約800rpmにおいて耐荷重が約225Nである。
【0163】
図17に示すように、保持器30において角度θが5°の場合は、回転速度が約750rpmにおいて耐荷重が約240Nである。
【0164】
図18に示すように、保持器30において角度θが15°の場合は、回転速度が約667rpmにおいて耐荷重が約270Nである。
【0165】
図19に示すように、保持器30において角度θが30°の場合は、回転速度が約450rpmにおいて耐荷重が約400Nである。
【0166】
図20に示すように、保持器30において角度θが45°の場合は、回転速度が約360rpmにおいて耐荷重が約500Nである。
【0167】
よって、
図16〜
図20に示すように、保持器30において角度θが大きくなるにつれて、スラスト軸受100の耐荷重が増加することが分かった。また、
図16〜
図20に示す全ての角度θにおいて、スラスト軸受100の破損は、回転速度よりも荷重が主な要因であることが分かった。例えば、
図18の角度θ=15°の場合は、回転速度が約667rpm以上となってもスラスト軸受100は破損していない。しかし、荷重が270N以上となると、回転速度が低くてもスラスト軸受100が破損している。同様に、例えば、
図19の角度θ=30°の場合は、回転速度が約450rpm以上となってもスラスト軸受100は破損していない。しかし、荷重が500N以上となると、回転速度が低くてもスラスト軸受100が破損している。その他の
図16、
図17、
図20の角度θについても同様の結果となっている。よって、回転速度よりも荷重が、スラスト軸受100の破損により影響を与えることが分かった。
【0168】
(3−3−2)摩耗量
図21は、スラスト軸受100の摩耗量を示す試験結果である。
図21には、角度θが0°、5°、15°、30°、45°のそれぞれの保持器30を有するスラスト軸受100の摩耗量の結果が示されている。
【0169】
図21に示すように、角度θが0°、5°、15°、30°、45°のいずれにおいても、スラスト軸受100の摩耗量は、約18mg以下である。これは、試験に用いたスラスト軸受100の重さの約0.07%である。よって、スラスト軸受100においては、多少の摩耗により微量の摩耗粉は生じるものの、スラスト軸受100を破損させるまでの摩耗は生じていない。
【0170】
また、スラスト軸受100において発生した微量の摩耗粉は、スラスト軸受100の回転の潤滑剤として利用され得ると考えられる。そのため、上記のスラスト軸受100では、回転を円滑にするための別途の潤滑剤を用いることなく、寿命を長くすることができる。
【0171】
(4)角度θの最適値
図16〜
図20に示すように、角度θを大きくすると、スラスト軸受100の耐荷重は大きくなる。よって、スラスト軸受100において、角度θを0°より大きくするのがよい。また、角度θを大きくすると、隣接するポケット33間の距離が小さくなり、ポケット33の強度が低下する。よって、角度θは70°以下とするのがよい。
【0172】
好ましくは、角度θは5°以上70°以下である。角度θが5°以上であるため、角度θが5°より小さい場合よりもスラスト軸受100の耐荷重は大きくなる。
【0173】
好ましくは、角度θは15°以上70°以下である。上記と同様に、角度θが15°以上であるため、角度θが15°より小さい場合よりもスラスト軸受100の耐荷重は大きくなる。
【0174】
好ましくは、角度θは30°以上70°以下である。上記と同様に、角度θが30°以上であるため、角度θが30°より小さい場合よりもスラスト軸受100の耐荷重は大きくなる。
【0175】
好ましくは、角度θは45°以上70°以下である。上記と同様に、角度θが45°以上であるため、角度θが45°より小さい場合よりもスラスト軸受100の耐荷重は大きくなる。
【0176】
なお、角度θを大きくするほど、ポケット33が周方向に沿って長く延びるように形成される。よって、角度θを大きくするほど、転動体40のポケット33内での移動距離が大きくなる。そのため、転動体40と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30との摩擦により生じる摩耗粉によって、自己潤滑機能を向上させることができる。一方で、摩耗量は、スラスト軸受の破損を抑制できる程度に抑えられる。これにより、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受の耐荷重をより大きくし、寿命をより長くすることができる。さらに、ポケット33内の体積が増えることにより、摩擦熱を逃がすための空気の流量が多くなる。これにより、摩擦熱を抑制し、樹脂から形成されるスラスト軸受100の寿命をより長くすることができる。
【0177】
また、試験では、角度θが0°、5°、15°、30°、45°のスラスト軸受100を用いた。試験結果から、角度θが大きくなるにつれてスラスト軸受100の耐荷重が増加するとの傾向がある。よって、0°、5°、15°、30°、45°以外のその他の角度θにおいても、角度θが大きくなるにつれてスラスト軸受100の耐荷重が増加することは明らかである。
【0178】
また、試験では、規格として51305を採用し、上記の寸法のスラスト軸受100を用いた。試験結果から角度θが大きくなるにつれてスラスト軸受100の耐荷重が増加するとの傾向が明らかであり、本発明は保持器30の角度θを調整する点に特徴がある。よって、試験で採用した規格以外の規格及び寸法のスラスト軸受にも本発明を適用可能である。
【0179】
また、試験では、転動体40は、ソーダガラスで形成した。また、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30は、UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)で形成した。試験結果から角度θが大きくなるにつれてスラスト軸受100の耐荷重が増加するとの傾向が明らかであり、本発明は保持器30の角度θを調整する点に特徴がある。よって、試験で採用した材料以外の材料でスラスト軸受100を作成した場合にも本発明を適用可能である。
【0180】
また、試験では、一例として、PV値=1.8×10
5N・rpmを選択した。しかし、試験結果から角度θが大きくなるにつれてスラスト軸受100の耐荷重が増加するとの傾向が明らかであり、本発明は保持器30の角度θを調整する点に特徴がある。よって、その他のPV値においても、上記と同様に角度θが大きくなるにつれてスラスト軸受100の耐荷重が増加することは明らかである。
【0181】
また、試験では、回転方向は方向D1である。しかし、スラスト軸受100の耐荷重を考慮の上、回転方向を適宜変更し得る。
【0182】
(5)変形例
(5−1)変形例A
上記実施形態では、角度θが0°より大きく70°以下である。しかし、ポケット33の形状を次のように定義してもよい。なお、上記実施形態と同様の構成については簡単に説明するか、あるいは説明を適宜省略する。
【0183】
図6に示すように、ポケット33は、頂縁部33a、第1延長部33b、第2延長部33c及び外延部33dを含む。頂縁部33aは、第3開口部32に隣接している。第1延長部33bは、頂縁部33aの一方の端部である点A1から径方向外側に向かって直線状に延びている。第2延長部33cは、頂縁部33aの他方の端部である点B1から径方向外側に向かって直線状に延びている。第1延長部33bと第2延長部33cとは概ね平行である。ここで、第1延長部33bは第2延長部33cより長い。第2延長部33cと第1延長部33bとの長さの違いによって、前述の角度θを0°よりも大きくすることができる。なお、
図7の角度θ=0°の場合には、第1延長部33b及び第2延長部33cの長さは実質的に同一である。
【0184】
このような構成によって、上記実施形態と同様に、樹脂から形成されるスラスト軸受100の耐荷重を大きくし、スラスト軸受100の寿命を長くすることができる。
【0185】
また、転動体40が、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30と接触して転動することで、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30が摩耗する。これによる摩耗粉がスラスト軸受100の回転の潤滑剤として利用される。よって、上記の樹脂から形成されるスラスト軸受100では、回転を円滑にするための別途の潤滑剤を用いることなく、寿命を長くすることができる。
【0186】
より具体的に説明する。第1延長部33bは第2延長部33cより長いため、第1延長部33b及び第2延長部33cの長さが同一の場合よりも、円弧状の外延部33dの長さが長くなる。これは、第1延長部33bが第2延長部33cより長い場合には、第1延長部33b及び第2延長部33cが外延部33dと斜めに交差するためである。なお、第1延長部33b及び第2延長部33cの長さが同一の場合には、第1延長部33b及び第2延長部33cは外延部33dと直交する。よって、スラスト軸受100が回転した場合に転動体40が移動可能な周方向の距離が、第1延長部33b及び第2延長部33cの長さが同一の場合よりも大きい。これにより、転動体40と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30と、の接触面積が大きくなる。そして、接触による摩擦により第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30において摩耗が生じ、摩耗粉が生じ得る。この摩耗粉が、転動体40がスラスト軸受100内で転動する際の潤滑剤となり得る。つまり、転動体40と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30と、の接触部分に、摩耗粉が潤滑剤として入り込む。このように、スラスト軸受100の回転により生じた摩耗粉が、スラスト軸受100の回転の潤滑剤として利用され、自己潤滑機能を有する。これにより、別途の潤滑剤を用いることなく、樹脂から形成されるスラスト軸受100の耐荷重を大きくし、寿命を長くすることができる。さらに、角度θが0°の場合よりも大きくなると、保持器30のポケット33を閉空間として構成する体積が大きくなる。つまり、転動体40が回転する際に接するポケット33内の気体の量が多くなる。これにより、転動体40とその他の部材との摩擦により発生する熱がより発散することになる。そのため、摩擦熱にともなう体積膨張によって引き起こされる振動、摩擦熱による焼付き、剥離等が抑制される。結果として、樹脂から形成されるスラスト軸受100の、耐荷重・寿命を長くすることができる。
【0187】
以上のように、上記のスラスト軸受100では、保持器30のポケット33において第1延長部33bを第2延長部33cより長くすることで、スラスト軸受100の摩耗量が適切に調整される。つまり、摩耗量が、スラスト軸受100の破損を抑制できる程度に抑えられるとともに、自己潤滑機能を有する程度となる。よって、樹脂から形成されるスラスト軸受100の寿命を長くすることができる。
【0188】
なお、頂縁部33aの内側面は、例えば、球状の転動体40の外周の一部を取り囲むように形成されてもよい。例えば、頂縁部33aは平面視において円弧状であってもよく、更には、頂縁部33aは平面視において半円形状であってもよい。また、頂縁部33aは、平面視において直線の組み合わせからなる多角形状であってもよい。
【0189】
また、スラスト軸受100が静止している場合には、平面視において、転動体40の中心Pは溝中央線13a、23aと実質的に重なり得る。また、頂縁部33aが円弧状である場合、頂縁部33aの中心Pと転動体40の中心Pとは、実質的に一致し得る。また、半円形状の頂縁部33aは、線分C−Cに対して、平面視において点Pを中心として角度θ分だけ回転した位置に形成されている。なお、線分C−Cは、溝中央線13a、23aの転動体40の中心Pにおける接線である。
【0190】
(5−2)変形例B
上記実施形態では、保持器30のポケット33において、頂縁部33aの一方の端部から第1延長部33bが直線状に延びる。また、頂縁部33aの他方の端部から第2延長部33cが直線状に延びる。しかし、第1延長部33b及び第2延長部33cの両方が必ずしも設けられている必要はない。例えば、ポケット33は、頂縁部33aと、第1延長部33b及び第2延長部33cのいずれか一方と、外延部33dと、から構成されていてもよい。例えば、ポケット33は、頂縁部33aと、第2延長部33cと、外延部33dと、から構成され得る。この場合、
図6において、頂縁部33aの一方の端部である点A1は、外延部33dに接触し得る。
【0191】
(5−3)変形例C
上記実施形態では、7個〜9個のポケット33が保持器30に形成される構成を例に挙げた。しかし、ポケット33の数はこれに限定されない。規格、保持器30の強度及び角度θ等に応じて、ポケット33の数を適宜変更可能である。
【0192】
(5−4)変形例D
上記実施形態では、転動体40はソーダガラスにより形成されている。しかし、スラスト軸受100の寿命を有る程度長く確保できるのであれば、転動体40を各種材料により形成できる。例えば、転動体40は、石英ガラス、ホウケイ酸ガラスバリウムガラス,鉛ガラス及びアルミノケイ酸ガラス等の各種ガラスで形成されていてもよい。また、例えば、転動体40は、アルミナセラミックなどの各種セラミック、ステンレス鋼などの各種金属で形成されていてもよい。また、例えば、転動体40は、フェノール樹脂、PTFE(4フッ化エチレン樹脂:ポリテトラフルオロエチレン)、UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、POM(ポリオキシメチレン)、モノマーキャストナイロン、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PS(ポリスチレン)、PESF(ポリエーテルサルホン)ポリイミド、PA(ポリアミド)、PAI(ポリアミドイミド)、PE(ポリエチレン)、PU(ポリウレタン)、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂などの樹脂で形成されていてもよい。その他、転動体40は、カーボン、ポリカーボネート等から形成されていてもよい。
【0193】
また、上記実施形態では、転動体40はソーダガラスで形成され、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30は各種樹脂で形成されている。しかし、スラスト軸受100の寿命を有る程度長く確保できるのであれば、転動体40の材料と、第1環状部材10、第2環状部材20及び保持器30の材料と、が同一であってもよい。