特許第5985816号(P5985816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5985816高速鉄道車両用電力変換システムおよび高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985816
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】高速鉄道車両用電力変換システムおよび高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20060101AFI20160823BHJP
   B61C 17/00 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B60L3/00 C
   B61C17/00 E
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-262328(P2011-262328)
(22)【出願日】2011年11月30日
(65)【公開番号】特開2013-115995(P2013-115995A)
(43)【公開日】2013年6月10日
【審査請求日】2014年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】上野 雅之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏和
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−134701(JP,A)
【文献】 特開2002−325313(JP,A)
【文献】 特開2003−048533(JP,A)
【文献】 特開2004−006901(JP,A)
【文献】 特開2006−347309(JP,A)
【文献】 特開2009−148080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00− 3/12
B60L 7/00−13/00
B60L 15/00−15/42
B61C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結された複数の車両の進行方向に沿って並び、外部から供給される電力を変換して電動機に供給する複数の電力変換装置が設けられた高速鉄道車両用電力変換システムであって、
前記電力変換装置には、
前記外部から供給される電力を変換する変換部と、
前記車両の底面に配置され、前記変換部で発生した熱を前記底面に沿って流れる走行風に放熱する放熱部と、
前記複数の車両の運転者から入力された制御信号に基づいて、前記変換部において変換される電力を制御する制御部と、が設けられ、
2台の前記電力変換装置が設けられた前記車両における前記進行方向の後方に位置する前記電力変換装置である第一の電力変換装置の第一の制御部は、前記制御信号に基づいて定められる前記第一の電力変換装置の第一の変換部において変換される電力を予め定められた第一所定量だけ減らす制御を行い、
2台の前記電力変換装置が設けられた前記車両における前記進行方向の前方に位置する前記電力変換装置である第二の電力変換装置の第二の制御部、および、1台の前記電力変換装置が設けられた前記車両における前記電力変換装置である第三の電力変換装置の第三の制御部は、前記制御信号に基づいて定められる前記第二の電力変換装置の第二の変換部、および、前記第三の電力変換装置の第三の変換部において変換される電力を予め定められた第二所定量だけ増やす制御を行うことを特徴とする高速鉄道車両用電力変換システム。
【請求項2】
前記電力変換装置には、前記変換部に係る温度を測定する測定部が更に設けられ、
前記第一の変換部の温度が所定の開始閾値を超えたことを示す前記測定部の測定信号が入力された場合には、前記第一の制御部は前記第一所定量の値を減らし、前記第二の制御部、および、前記第三の制御部は前記第二所定量の値を増やす制御を開始することを特徴とする請求項1記載の高速鉄道車両用電力変換システム。
【請求項3】
前記第一の変換部の温度が前記所定の開始閾値を超えたことにより、前記第一の変換部
により変換される電力を減らす制御が開始された後、
前記第一の変換部の温度が、前記所定の上限閾値より低い所定の終了閾値を下回ったことを示す前記測定部の測定信号が入力された場合には、前記第一の制御部は前記第一所定量の値を減らす制御を終了し、
前記第二の制御部、および、前記第三の制御部は前記第二所定量の値を増やす制御を終了することを特徴とする請求項2記載の高速鉄道車両用電力変換システム。
【請求項4】
外部から供給される電力を変換して電動機に供給する変換部と、車両の底面に配置され、前記変換部で発生した熱を前記底面に沿って流れる走行風に放熱する放熱部と、運転者から入力された制御信号に基づいて、前記変換部において変換される電力を制御する制御部と、を有する複数の電力変換装置が、連結された複数の前記車両の進行方向に沿って並んで配置された高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法であって、
前記車両の進行方向が定義される情報定義ステップと、
定義された前記車両の進行方向情報に基づいて、2台の前記電力変換装置が設けられた前記車両における前記進行方向の後方に位置する前記電力変換装置である第一の電力変換装置と前記進行方向の前方に位置する前記電力変換装置である第二の電力変換装置とを定義し、前記第一の電力変換装置において変換される電力を予め定められた第一所定量だけ減らす信号、および、前記第二の電力変換装置と1台の前記電力変換装置が設けられた前記車両における前記電力変換装置である第三の電力変換装置とにおいて変換される電力を予め定められた第二所定量だけ増やす信号を定義する信号定義ステップと、
を有することを特徴とする高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法。
【請求項5】
前記変換部に係る温度を測定する測定部が更に設けられた高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法であって、
前記第一の電力変換装置における第一の変換部の温度が所定の開始閾値を超えたか否かが判定される判定ステップと、
前記第一の変換部の温度が前記所定の開始閾値を超えたと判定された場合には、前記第一の変換部により変換される電力を予め定められた第一所定量だけ減らす制御を開始するとともに、前記第二の電力変換装置の第二の変換部および前記第三の電力変換装置の第三の変換部において変換される電力を予め定められた第二所定量だけ増やして、前記第一の変換部において減少した電力を補う制御を開始する制御ステップと、
を有することを特徴とする請求項4記載の高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速鉄道車両用電力変換システムおよび高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の交流電化区間を走行する電車には、交流を直流に変換するコンバータ部および直流を交流に変換するインバータ部などを備えた電力変換装置(以下、「主変換装置」と表記する。)が備えられ、主変換装置には、コンバータ部やインバータ部に用いられている半導体素子を冷却する送風機が設けられていた。
【0003】
近年では、電車の技術分野においても、小型化、軽量化の要請が高まっていることから、主変換装置の小型化や軽量化が図られている。例えば、主変換装置における半導体素子の冷却に、電車の走行時に車両の外側を流れる風(以下、「走行風」と表記する。)を用いることにより、主変換装置の送風機を廃止して小型化、軽量化を図る技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、車両の床下に主変換装置が搭載され、線路と車両の底面との間の走行風によって主変換装置の冷却を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−096318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような走行風冷却方式を採用した主変換装置では、電車の車両における主変換装置の配置位置や、電車の編成における車両の位置などの条件によって、主変換装置における温度に差が生じることが、発明者による測定結果から明らかになった。
【0006】
つまり、車両の底面付近の走行風には、主変換装置を始めとする床下に配置された機器の排熱に起因して、温度分布のムラが存在するため、比較的温度の低い走行風で冷却した主変換装置と、比較的温度の高い走行風で冷却した主変換装置との間に温度差が生じていることが明らかになった。
【0007】
例えば、車両の進行方向における前後に主変換装置が搭載されている場合、進行方向の後方に配置された主変換装置は、前方に配置された主変換装置の排熱の影響を受けて温度が上昇しやすくなる。具体的には、進行方向の前方端および後方端に主変換装置が搭載された車両においては、後方の主変換装置における半導体素子付近は、前方の主変換装置における半導体素子付近と比較して、温度が数℃高いことが明らかとなった。
【0008】
一方で、半導体素子には使用可能な温度の上限があり、その温度上限を超えると熱により半導体素子が破壊されることが知られている。そのため半導体素子は、上述の温度上限よりも低い温度で使用することが求められる。例えば、高温による半導体素子の破壊を防止するために、半導体素子付近の温度を監視し、監視している温度が上述の温度上限に到達した場合は、主変換装置に温度上昇による故障が発生したと判断し、主変換装置を停止させる保護機能を持たせる方法が用いられている。
【0009】
しかしながら、上述のように温度上限に到達した主変換装置を停止させる方法では、電車の編成全体として稼働している主変換装置の数が減少することにより出力が減少し、電車の加速時における加速度が低下するおそれがある。
【0010】
上述のように、温度上昇によって主変換装置が停止される可能性は、言い換えると熱的に厳しい条件は、非常に限定的であることが発明者の調査によって判明した。例えば、真夏の外気温が高い日中である条件、および、編成における故障による電動車開放両数(言い換えると、主変換装置が停止されている車両数)が多いという条件が成立するとともに、進行方向の前方に配置された機器の排熱の影響を受ける位置に配置された主変換装置であるという条件が成立した場合に、当該主変換装置が温度上昇によって停止される可能性がある。
【0011】
現在は、上述のような熱的に厳しい条件であっても、主変換装置が温度上昇によって停止しないように、主変換装置は設計されている。つまり、想定される熱的に最も厳しい条件下であっても、主変換装置の温度が温度上限に達しないように、主変換装置における冷却能力を大きめに確保する設計がなされている。このことは、言い換えると、電車が運行される大半の期間において、主変換装置の冷却能力が過剰になることを意味し、主変換装置の小型化、軽量化を図る上での制限条件となっていた。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、複数の電力変換装置を備えた電力変換システム全体としての出力を維持しつつ小型化、軽量化を図ることができる高速鉄道車両用電力変換システムおよび高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の高速鉄道車両用電力変換システムは、連結された複数の車両の進行方向に沿って並び、外部から供給される電力を変換して電動機に供給する複数の電力変換装置が設けられた高速鉄道車両用電力変換システムであって、前記電力変換装置には、前記外部から供給される電力を変換する変換部と、前記車両の底面に配置され、前記変換部で発生した熱を前記底面に沿って流れる走行風に放熱する放熱部と、前記複数の車両の運転者から入力された制御信号に基づいて、前記変換部において変換される電力を制御する制御部と、が設けられ、第一の電力変換装置の前記制御部は、前記第一の電力変換装置の前記放熱部よりも前記進行方向の前方に配置された他の放熱部の数、および、前記進行方向の前方に隣接する前記他の放熱部までの距離の情報の少なくとも一方に基づいて、前記制御信号に基づいて定められる前記第一の電力変換装置の前記変換部において変換される電力を増減させる制御を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明の高速鉄道車両用電力変換システムによれば、複数の電力変換装置の変換部において変換される電力を均等に制御する方法と比較して、進行方向の前方に配置された他の放熱部の数が比較的多い電力変換装置や、進行方向の前方に隣接して配置された他の放熱部までの距離が比較的近い電力変換装置における変換部で変換される電力を減らす制御が行われる。同時に、前方に配置された他の放熱部の数が比較的少ない電力変換装置や、前方に隣接配置された他の放熱部までの距離が比較的遠い電力変換装置における変換部で変換される電力を増やす制御が行われる。
【0015】
言い換えると、放熱部に取り込まれる走行風の温度が比較的高い電力変換装置で変換される電力を減らすことにより、当該電力変換装置における熱的な負荷が軽減される。その一方で、放熱部に取り込まれる走行風の温度が比較的低い電力変換装置で変換される電力を増やすことにより、電力変換システム全体としての変換される電力の維持が図られる。
【0016】
このようにすることで、複数の電力変換装置の変換部において変換される電力を均等に制御する方法と比較して、放熱部に要求される放熱能力を低く抑えることができるため、放熱部の小型化、軽量化を図ることができる。また、変換部に係る温度に基づいて、変換部で変換される電力を制御する方法と比較して、簡素な構成、簡素な制御によって電力変換システム全体としての出力を維持しつつ小型化、軽量化を図ることができる。
【0017】
なお、それぞれの電力変換装置における変換される電力の増減割合は、全ての電力変換装置における当該電力変換装置の相対的な配置位置や、車両の床面に沿って流れる走行風の流れなどの影響を考慮して決定されるものである。決定方法としては、変換部の温度を測定する測定部を取りつけて、車両の運行時における変換部の温度データを収集し、収集した温度データに基づいて、全ての電力変換装置における熱負荷が均等になるように決定する方法を例示することができる。
【0018】
上記発明において前記電力変換装置には、前記変換部に係る温度を測定する測定部が更に設けられ、第一の電力変換装置の前記制御部は、前記第一の電力変換装置における前記変換部の温度が所定の開始閾値を超えたことを示す前記測定部の前記測定信号が入力された場合には、前記第一の電力変換装置の前記変換部で変換される電力を減らし、第二の電力変換装置の第二の制御部は、前記第一の変換部の温度が前記所定の開始閾値を超えた場合には、前記第二の電力変換装置の第二の変換部において変換される電力を増やして、前記第一の変換部において減少した電力を補う制御を開始することが好ましい。
【0019】
このように測定部によって測定される変換部に係る温度が、所定の開始閾値を超えた場合には、温度が超えた第一の変換部において変換される電力を減らす制御と、それ以外の第二の変換部において変換される電力を増やして、第一の変換部において減少して電力を補う制御と、を行うことで、第一の電力変換装置に不具合が発生した場合であっても、電力変換システム全体としての出力を維持しつつ小型化、軽量化を図ることができる。
【0020】
本発明の高速鉄道車両用電力変換システムは、連結された複数の車両の進行方向に沿って並び、外部から供給される電力を変換して電動機に供給する複数の電力変換装置が設けられた高速鉄道車両用電力変換システムであって、前記電力変換装置には、前記外部から供給される電力を変換する変換部と、前記車両の底面に配置され、前記変換部で発生した熱を前記底面に沿って流れる走行風に放熱する放熱部と、前記変換部に係る温度を測定する測定部と、前記複数の車両の運転者から入力された制御信号に基づいて、前記変換部において変換される電力を制御する制御部が設けられ、第一の電力変換装置の第一の制御部は、前記第一の電力変換装置における第一の変換部の温度が所定の開始閾値を超えたことを示す第一の測定部の測定信号が入力された場合には、前記第一の変換部により変換される電力を減らし、他の第二の電力変換装置の第二の制御部は、前記第一の変換部の温度が前記所定の開始閾値を超えた場合には、前記第二の電力変換装置の第二の変換部において変換される電力を増やして、前記第一の変換部において減少した電力を補う制御を開始することを特徴とする。
【0021】
本発明の高速鉄道車両用電力変換システムによれば、第一の変換部の温度が所定の開始閾値を超えた場合に、第一の変換部で変換される電力を減らし、当該電力変換装置における熱的な負荷を軽減する制御が行われると共に、第二の変換部で変換される電力を増やし、電力変換システム全体としての変換される電力を維持する制御が行われる。
【0022】
このようにすることで、複数の電力変換装置の変換部において変換される電力を均等に制御する方法と比較して、放熱部に要求される放熱能力を低く抑えることができるため、放熱部の小型化、軽量化を図ることができる。また、それぞれの変換部で変換される電力の増減割合を固定する方法と比較して、変換部における温度状況に応じて変換される電力を減らす電力変換装置を変更できるため、一部の変換部で温度が想定の範囲を超えて上昇するなどの不具合が発生しても対応することができる。
【0023】
上記発明において前記第一の制御部は、前記第一の変換部の温度が前記所定の開始閾値を超えた際に、前記第一の変換部により変換される電力を所定の電力に減らす制御を行うことが好ましい。
【0024】
このように第一の変換部の温度が所定の開始閾値を超えた際に、第一の変換部において変換される電力を予め定められた所定の電力に減らす制御を行うことにより、第一の制御部による制御を容易にすることができる。
【0025】
上記発明において、前記第一の変換部の温度が前記所定の開始閾値を超えたことにより、前記第一の変換部により変換される電力を減らす制御が開始された後、前記第一の変換部の温度が、前記所定の上限閾値より低い所定の終了閾値を下回ったことを示す前記第一の測定部の測定信号が前記第一の制御部に入力された場合には、前記第一の制御部は、前記第一の変換部により変換される電力を減らす制御を終了し、前記第二の制御部は、前記第一の変換部の温度が前記所定の終了閾値を下回ったことを示す前記第一の測定部の測定信号が入力された場合には、前記第二の変換部において変換される電力を増やす制御を終了することが好ましい。
【0026】
このように第一の変換部による変換される電力を減らす制御を開始した後に、第一の変換部の温度が所定の終了閾値を下回った場合に、第一の変換部で変換される電力を減らす制御を終了し、第二の変換部で変換される電力を増やす制御を終了することにより、第二の変換部における負荷が増加する期間を限定することができる。そのため、第二の変換部において温度が過剰に上昇することを抑制できる。
【0027】
本発明の高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法は、外部から供給される電力を変換して電動機に供給する変換部と、車両の底面に配置され、前記変換部で発生した熱を前記底面に沿って流れる走行風に放熱する放熱部と、運転者から入力された制御信号に基づいて、前記変換部において変換される電力を制御する制御部と、を有する複数の電力変換装置が、連結された複数の前記車両の進行方向に沿って並んで配置された高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法であって、第一の電力変換装置の前記制御部に、前記第一の電力変換装置の前記放熱部よりも前記進行方向の前方に配置された他の放熱部の数、および、前記進行方向の前方に隣接する前記他の放熱部までの距離の情報の少なくとも一方が入力される入力ステップと、該入力ステップにおいて入力された情報に基づいて、前記制御信号に基づいて定められる前記第一の電力変換装置の前記変換部において変換される電力を増減させる制御ステップと、を有することを特徴とする。
【0028】
本発明の高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法によれば、入力ステップにおいて、進行方向の前方に配置された他の放熱部の数が比較的多いと入力された電力変換装置や、進行方向の前方に隣接して配置された他の放熱部までの距離が比較的近いと入力された電力変換装置に対して、変換部で変換される電力を減らし、当該電力変換装置における熱的な負荷を軽減する制御が行われる。同時に、前方に配置された他の放熱部の数が比較的少ないと入力された電力変換装置や、前方に隣接配置された他の放熱部までの距離が比較的遠いと入力された電力変換装置に対して、変換部で変換される電力を増やし、電力変換システム全体としての変換される電力を維持する制御が行われる。
【0029】
このようにすることで、複数の電力変換装置の変換部において変換される電力を均等に制御する方法と比較して、放熱部に要求される放熱能力を低く抑えることができるため、放熱部の小型化、軽量化を図ることができる。
【0030】
本発明の高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法は、外部から供給される電力を変換して電動機に供給する変換部と、車両の底面に配置され、前記変換部で発生した熱を前記底面に沿って流れる走行風に放熱する放熱部と、前記変換部に係る温度を測定する測定部と、運転者から入力された制御信号に基づいて、前記変換部において変換される電力を制御する制御部と、を有する複数の電力変換装置が、連結された複数の前記車両の進行方向に沿って並んで配置された高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法であって、第一の電力変換装置の第一の制御部により、前記第一の電力変換装置における第一の変換部の温度が所定の開始閾値を超えたか否かが判定される判定ステップと、該開始判定ステップにおいて、前記第一の変換部の温度が前記所定の開始閾値を超えたと判定された場合には、前記第一の制御部は、前記第一の変換部により変換される電力を減らす制御を開始するとともに、第二の電力変換装置の第二の制御部に対して、前記第一の変換部の温度が前記所定の開始閾値を超えたことを通知する信号を出力し、前記第二の制御部は、前記第二の電力変換装置の第二の変換部において変換される電力を増やして、前記第一の変換部において減少した電力を補う制御を開始する制御ステップと、を有することを特徴とする。
【0031】
本発明の高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法によれば、判定ステップにおいて、第一の変換部の温度が所定の開始閾値を超えたと判定された場合に、第一の変換部で変換される電力を減らし、当該電力変換装置における熱的な負荷を軽減する制御が行われると共に、第二の変換部で変換される電力を増やし、電力変換システム全体としての変換される電力を維持する制御が行われる。
【0032】
このようにすることで、複数の電力変換装置の変換部において変換される電力を均等に制御する方法と比較して、放熱部に要求される放熱能力を低く抑えることができるため、放熱部の小型化、軽量化を図ることができる。また、それぞれの変換部で変換される電力の増減割合を固定する方法と比較して、変換部における温度状況に応じて変換される電力の割合を変化させるため、一部の変換部で温度が想定の範囲を超えて上昇するなどの不具合が発生しても対応することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の高速鉄道車両用電力変換システムおよび高速鉄道車両用電力変換システムの制御方法によれば、進行方向の前方に配置された他の放熱部の数が比較的多い電力変換装置や、進行方向の前方に隣接して配置された他の放熱部までの距離が比較的近い電力変換装置における変換部で変換される電力を減らす制御を行うとともに、前方に配置された他の放熱部の数が比較的少ない電力変換装置や、前方に隣接配置された他の放熱部までの距離が比較的遠い電力変換装置における変換部で変換される電力を増やす制御を行うことで、複数の電力変換装置を備えた高速鉄道車両用電力変換システム全体としての出力を維持しつつ小型化、軽量化を図ることができるという効果を奏する。
【0034】
また、第一の変換部の温度が所定の開始閾値を超えた場合に、第一の変換部で変換される電力を減らし、当該電力変換装置における熱的な負荷を軽減する制御が行われると共に、第二の変換部で変換される電力を増やし、電力変換システム全体としての変換される電力を維持する制御を行うことで、複数の電力変換装置を備えた電力変換システム全体としての出力を維持しつつ小型化、軽量化を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1の実施形態に係る高速鉄道車両用電力変換システムの構成を説明するブロック図である。
図2図1の主変換装置の構成を説明するブロック図である。
図3図2の放熱フィン部の配置を説明する模式図である。
図4図1の主変換装置における出力の増減割合を説明するグラフである。
図5図1の主変換装置における温度を説明するグラフである。
図6】放熱フィン部の別の配置例を説明する模式図である。
図7】本発明の第2の実施形態の高速鉄道車両用電力変換システムにおける主変換装置の構成を説明するブロック図である。
図8】温度上昇した主変換装置の制御部における制御を説明するフローチャートである。
図9】他の主変換装置で温度上昇した場合の一の主変換装置の制御部における制御を説明するフローチャートである。
図10】主変換装置の温度変化を説明するグラフである。
図11】主変換装置における出力の増減割合を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る高速鉄道車両用電力変換システム1(以下「電力変換システム1」と表記する。)ついて図1から図6を参照しながら説明する。本実施形態の電力変換システム1は、本願の発明を、交流電化区間を走行する複数の車両から編成される電車に搭載された複数の主変換装置10を制御する例に適用したものである。より具体的には、1つの車両に2台の主変換装置10が搭載されている電車に本願の発明を適用したものである。
【0037】
なお、全ての車両に対して2台の主変換装置10が搭載されていてもよいし、一部の車両にのみ2台の主変換装置10が搭載されていてもよく、2台の主変換装置10が搭載された車両の数を限定するものではない。さらに、電車に搭載された全ての主変換装置10に対して本願発明の制御を適用してもよいし、一部の主変換装置10に対して適用してもよく、特に限定するものではない。
【0038】
図1は、本実施形態に係る電力変換システムの構成を説明するブロック図である。
本実施形態の電力変換システム1には、図1に示すように、架線などの外部の交流電源から供給された交流電力を変換して電車の車輪を回転駆動させる電動機31に電力を供給するとともに、電動機31の回転を制御する複数の主変換装置(電力変換装置)10と、複数の主変換装置10の間で制御に関する信号の伝達を行う制御伝送部20と、が主に設けられている。
【0039】
電車の車両は、図1に示すように、進行方向に沿って並んで連結され、一方端の車両から、他方端の車両に向かって順に1号車、2号車、・・・、N号車(Nは自然数)と呼ばれる。本実施形態では、3号車、7号車、11号車、15号車に2台の主変換装置10A,10Bが搭載され、その他の号車には1台の主変換装置10が搭載されている例に適用して説明する。なお、3号車、7号車、11号車、15号車に搭載された2台の主変換装置10を区別する場合には、進行方向前方に配置されたものを主変換装置10Aと表記し、後方に配置されたものを主変換装置10Bと表記する。
【0040】
図2は、図1の主変換装置10の構成を説明するブロック図である。
主変換装置10には、図2に示すように、交流電源から供給された交流電圧を直流電圧に変換するコンバータ部(変換部)11と、コンバータ部11により変換された直流電圧を所望の電圧および所望の周波数の交流電圧に変換するインバータ部(変換部)12と、コンバータ部11およびインバータ部12で発生した熱を外部に放熱する放熱フィン部(放熱部)13と、コンバータ部11およびインバータ部12の温度を測定する温度センサ(測定部)14と、コンバータ部11およびインバータ部12を制御する制御部15と、が主に設けられている。
【0041】
図3は、図2の放熱フィン部13の配置を説明する模式図であり、図3(a)は主変換装置10A,10Bにおける放熱フィン部13の配置を説明する模式図であり、図3(b)は2号車などに搭載された主変換装置10における放熱フィン部13の配置を説明する模式図である。
【0042】
放熱フィン部13は、コンバータ部11やインバータ部12における電圧の変換時に半導体素子などから発生する熱を、車両の底面32に沿って流れる走行風に放熱するものである。放熱フィン部13は、図3(a)および図3(b)に示すように、車両の底面32のうち、上方に向かって凹んだ凹部33における最も上方の平らな面(底面)に配置されている。
【0043】
また、放熱フィン部13は、アルミニウムなどの熱伝導率の高い金属材料から形成された複数の板状の部材を有し、これら板状の部材が間隔をあけて平行に並んで配置されているものである。板状の部材は電車の進行方向に沿って延びて配置されているため、走行風は平行に並んだ板状の部材の間を流れる。
【0044】
主変換装置10Aおよび主変換装置10Bの放熱フィン部13は、図3(a)に示すように、一つの凹部33に、主変換装置10Aの放熱フィン部13および主変換装置10Bの放熱フィン部13が、進行方向の前後方向に間隔をあけて並んで配置されている。その一方で、2号車などの一つの車両に1台だけ搭載された主変換装置10の放熱フィン部13は、図3(b)に示すように、一つの凹部33に、一つの放熱フィン部13が配置されている。
【0045】
なお、主変換装置10Aおよび主変換装置10Bは、図3(a)に示すように、それぞれの筐体が隣接して、または、一体化して配置されているものであり、かつ、両者のコンバータ部11およびインバータ部12は別々に配置されているもの、言い換えると、両者のコンバータ部11およびインバータ部12が共通化されたものではない。
【0046】
温度センサ14は、コンバータ部11およびインバータ部12の温度を測定するセンサであり、図2に示すように、コンバータ部11の温度を測定するセンサと、インバータ部12の温度を測定するセンサとが設けられている。温度センサ14は温度を監視することにより、コンバータ部11やインバータ部12における冷却性能の故障や性能低下の有無を検知するものである。温度センサ14から出力されたコンバータ部11の温度を示す測定信号や、インバータ部12の温度を示す測定信号は、制御部15に入力されるようになっている。
【0047】
温度センサ14により測定されたコンバータ部11およびインバータ部12の温度データは、冷却性能の故障や性能低下の監視以外に、制御部15または制御伝送部20に記憶され、後述する出力を抑制する主変換装置10を選択する際に参考データとしても用いられる。
【0048】
制御部15は、電車の運転手から入力された制御信号に基づいて、主変換装置10において変換されて電動機31に供給される交流電圧の電圧や周波数などを制御するものである。さらに、制御部15は、主変換装置10において変換される電力(言い換えると、主変換装置10の出力)を、主変換装置10の配置位置に応じて、目標とされる出力から、予め定められた割合で増減させる制御を行うものである。具体的には、運転者から入力される車両の速度を制御する制御信号に基づいて一義的に定められる主変換装置10の出力である目標出力を、予め定められた割合で増減させる制御、言い換えると、全ての主変換装置10の合計出力を主変換装置10の数で平均した目標出力を、予め定められた割合で増減させる制御を行うものである。なお、制御の具体的な説明は後述する。
【0049】
なお、コンバータ部11およびインバータ部12としては、公知の形式のコンバータおよびインバータを用いることができ、特にその形式などを限定するものではない。また、温度センサ14としては、公知の形式のセンサを用いることができ、その形式を限定するものではない。
【0050】
次に、上記の構成からなる電力変換システム1における制御方法について説明する。本実施形態では、同じ車両に互いに接近して搭載されている主変換装置10A,10Bのうち、進行方向後方に配置された主変換装置10、例えば主変換装置10B、の出力を目標出力より減らし、その他の主変換装置10出力を目標出力より増やす制御方法について説明する。
【0051】
図1に示すように、制御伝送部20は、車両の全ての主変換装置10との間で制御信号などの信号が相互に伝達可能に接続されている。また、制御伝送部20では、電車の運転者などによって電車の進行方向の情報が定義されるようになっている(情報定義ステップ)。
【0052】
進行方向が定義された制御伝送部20は、主変換装置10A,10Bのうち、進行方向後方になる主変換装置10、例えば、1号車が先頭車両となる場合には主変換装置10B、に出力を目標出力より減らす制御信号を定義し、進行方向前方になる主変換装置10、例えば主変換装置10A、に出力を増やす制御信号が定義される。同時に、主変換装置10A,10B以外の主変換装置10、言い換えると一つの車両に1台のみ搭載されている主変換装置10に、出力を増やす制御信号が定義される(信号定義ステップ)。なお、出力を減らす割合や、出力を増やす割合は、予め制御部15または制御伝送部20に記憶されたものであり、固定された値である。
【0053】
図4は、図1のそれぞれの主変換装置における出力の増減の割合を説明するグラフである。図4における白抜きのグラフは、上述の目標出力を示すものであり、ハッチングが付されたグラフは、本実施形態の制御が実施された後の出力を示すものである。また、2号車、4号車、5号車、6号車、8号車、9号車および12号車と記載されているグラフは、主変換装置10の出力を示し、3号車前位、7号車前位および11号車前位と記載されているグラフは、主変換装置10Aの出力を示し、3号車後位、7号車後位および11号車後位と記載されているグラフは、主変換装置10Bの出力を示している。ここでは、説明を容易にするために、一部の主変換装置10の出力のみを図示している。
【0054】
図4に示すように、本実施形態の制御が実施されていない場合、つまり目標出力の場合には、全ての主変換装置10が同じ出力になるように制御が実施されている。その一方で、本実施形態の制御が実施されると、主変換装置10Bの出力を目標出力に対して87%程度の出力に抑制され、その他の主変換装置10の出力を目標出力に対して105%程度の出力に増加される。なお、主変換装置10、主変換装置10A、主変換装置10Bに対する出力の増減の割合は上述の例に限定されるものではなく、適宜変更可能なものである。
【0055】
次に、本実施形態の制御が実施されている場合と、実施されていない場合における主変換装置10の温度について図5を参照しながら説明する。図5は、図1のそれぞれの主変換装置10における温度を説明するグラフである。図5では、本実施形態の制御が実施されていない場合の温度を四角(□)のグラフで示し、本実施形態の制御が実施されている場合の温度を三角(△)のグラフで示している。また、図4の場合と同様に、2号車、4号車、5号車および6号車と記載されているグラフは、主変換装置10の出力を示し、3号車前位と記載されているグラフは、主変換装置10Aの出力を示し、3号車後位および7号車後位と記載されているグラフは、主変換装置10Bの出力を示している。ここでは説明を容易にするために、一部の主変換装置10の温度についてのみ図示している。
【0056】
図5に示すように、本実施形態の制御が実施されていない場合には、主変換装置10Bの温度より具体的には主変換装置10Bのインバータ部12およびコンバータ部11の温度が、故障検知温度を超えることが示されている。その一方で、本実施形態の制御が実施されている場合には、主変換装置10Bの温度が故障検知温度よりも低くなり、その他の主変換装置10の温度は上昇するものの、故障検知温度よりも低い温度にとどまっていることが示されている。
【0057】
上記では、1号車が先頭車両になる例に適用して説明したが、逆に1号車が最後尾の車両になる場合であっても同様である。つまり、主変換装置10Aに対して出力を抑制する制御が行われ、主変換装置10Bに対して出力を増やす制御が行われる点を除き同様であるため、その説明を省略する。
【0058】
上記の構成の電力変換システム1によれば、複数の主変換装置10のコンバータ部11およびインバータ部12において変換される電力を均等に制御する方法と比較して、進行方向の前方に隣接して配置された主変換装置10Aの放熱フィン部13までの距離が比較的近い主変換装置10Bにおけるコンバータ部11およびインバータ部12で変換される電力を減らす制御が行われる。同時に、進行方向の前方に隣接して配置された主変換装置10A、および、配置間隔が離れた主変換装置10のコンバータ部11およびインバータ部12で変換される電力を増やす制御が行われる。
【0059】
言い換えると、放熱フィン部13に取り込まれる走行風の温度が比較的高い主変換装置10Bで変換される電力を減らすことにより、当該主変換装置10Bにおける熱的な負荷が軽減される。その一方で、放熱フィン部13に取り込まれる走行風の温度が比較的低い主変換装置10や、主変換装置10Aで変換される電力を増やすことにより、電力変換システム1全体としての変換される電力の維持を図ることができる。
【0060】
このようにすることで、複数の主変換装置10のコンバータ部11およびインバータ部12において変換される電力を均等に制御する方法と比較して、放熱フィン部13に要求される放熱能力を低く抑えることができるため、放熱フィン部13の小型化、軽量化を図ることができる。また、図3(a)に示すように、隣接する主変換装置10A,10Bの放熱フィン部13を同じ凹部33内に配置することができる。
【0061】
さらに、コンバータ部11およびインバータ部12に係る温度に基づいて、コンバータ部11およびインバータ部12で変換される電力を制御する方法と比較して、簡素な構成、簡素な制御によって電力変換システム1の全体としての出力を維持しつつ小型化、軽量化を図ることができる。
【0062】
なお、それぞれの主変換装置10における出力の増減割合は、全ての主変換装置10における当該電力変換装置10の相対的な配置位置や、車両の床面32に沿って流れる走行風の流れなどの影響を考慮して決定されるものである。決定方法としては、コンバータ部11およびインバータ部12に取り付けられた温度センサ14により、車両の運行時におけるコンバータ部11およびインバータ部12の温度データを収集し、収集した温度データに基づいて、全ての主変換装置10における熱負荷(言い換えると温度)が均等になるように決定する方法を例示することができる。
【0063】
図6は、放熱フィン部13の別の配置例を説明する模式図である。
なお、上述の実施形態では、主変換装置10Aおよび主変換装置10Bの放熱フィン部13が一つの凹部33に設けられた例に適用して説明したが、図6に示すように、主変換装置10Aの放熱フィン部13および主変換装置10Bの放熱フィン部13がそれぞれ独立した凹部33に別々に設けられていてもよい。
【0064】
また、上述の実施形態のように、主変換装置10A,10Bのうち、進行方向の後方となったもの、例えば主変換装置10Bに対してのみ出力を減らす制御を行い、その他の主変換装置10,10Aに対しては出力を増やす制御を行ってもよいし、電車における進行方向後方の車両に搭載された主変換装置10,10A,10Bに対して出力を減らす制御を行い、進行方向前方の車両に搭載された主変換装置10,10A,10Bに対して出力を増やす制御を行ってもよく、特に限定するものではない。
【0065】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る電力変換システムついて図7から図11を参照して説明する。本実施形態の電力変換システムの基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、主変換装置の出力制御方法が異なっている。よって、本実施形態においては、図7から図11を用いて主変換装置の出力制御方法についてのみを説明し、その他の構成等の説明を省略する。図7は、本実施形態の電力変換システム101の主変換装置110の構成を説明するブロック図である。
【0066】
本実施形態の高速鉄道車両用電力変換システム101(以下、「電力変換システム101」と表記する。)の主変換装置(電力変換装置)110には、図7に示すように、コンバータ部11と、インバータ部12と、放熱フィン12と、温度センサ14と、制御部115と、が主に設けられている。また、説明を容易にするために、本実施形態では、電車の全ての車両に1台ずつ主変換装置110が搭載されている例に適用して説明する。なお、第1の実施形態と同様に、一つの車両に2台の主変換装置110が搭載されることを除外するものではない。
【0067】
制御部115は、第1の実施形態の制御部15と同様に、電車の運転手から入力された制御信号に基づいて、主変換装置110において変換されて電動機31に供給される交流電圧の電圧や周波数などを制御するものである。その一方で、本実施形態の制御部115は、温度センサ14から出力された測定信号、または、他の制御部115から制御伝送部20を介して入力された温度上昇信号に応じて、目標とされる出力から、予め定められた割合で増減させる制御を行う点が、第1の実施形態の制御部15と異なるものである。なお、制御の具体的な説明は後述する。
【0068】
次に、上記の構成からなる電力変換システム101における制御方法について図8から図11を参照しながら説明する。図8は、温度上昇した主変換装置の制御部における制御を説明するフローチャートである。図9は、他の主変換装置で温度上昇した場合の一の主変換装置の制御部における制御を説明するフローチャートである。
【0069】
ここでは、電車の7号車に搭載された主変換装置110の温度センサ14によって測定されたコンバータ部11およびインバータ部12の少なくとも一方の温度が、制御開始温度(所定の開始閾値)T2を超える例に適用して説明する。なお制御開始温度T2は、これ以上温度が上昇すると、コンバータ部11およびインバータ部12に用いられる半導体素子が熱によって故障が発生するとみなされる故障検知温度(所定の上限閾値)T1よりも低い温度である。
【0070】
まず、7号車の主変換装置110における制御部115の制御について、図8のフローチャートを参照しながら説明する。主変換装置110に電力が投入されると、制御部115は、コンバータ部11およびインバータ部12に対して通常の制御を実行する(S11)。ここで、通常の制御とは、電車の全ての主変換装置110に対して均等な大きさの出力を発揮させる制御である。
【0071】
制御部115には、常に温度センサ14により主変換装置110の温度、より具体的にはコンバータ部11およびインバータ部12の温度の測定信号が入力されている。この測定信号に基づいて、制御部115は、主変換装置110の温度が制御開始温度T2以上になったか否かの判定を実行する(S12:判定ステップ)。主変換装置110の温度が制御開始温度T2未満と判定された場合(NOの場合)には、制御部115は、上述のS12の判定処理を再び実行する。
【0072】
主変換装置110の温度が、図10の実線のグラフで示すように、制御開始温度T2以上であると判定された場合(YESの場合)には、制御部115は、制御伝送部20に主変換装置110の温度が制御開始温度T2以上に上昇したことを通知する信号を出力する処理を実行する(S13)。さらに制御部115は、7号車の主変換装置110の出力を抑制する制御を実行する(S14:制御ステップ)。なお、S13の処理およびS14の制御の実行タイミングは、どちらか一方が先である必要はなく、また、同時に実行されてもよい。
【0073】
本実施形態では、S14の制御における主変換装置110の出力抑制の割合は、図11のグラフに示すように、同じ状態において通常制御が行われている場合の主変換装置110の出力(目標出力)を基準として、35%の出力(所定の出力)まで抑制される例に適用して説明する。なお、出力抑制の割合は予め定められた値であり、主変換装置110などの記憶部(図示せず)に記憶されている値である。さらに、出力抑制の割合は、上述の35%に限定されるものではなく、状況に応じて異なる値に定めることができる値である。
【0074】
主変換装置110の出力抑制制御が実行されると、主変換装置110のコンバータ部11およびインバータ部12における発熱量が減少し、主変換装置110(コンバータ部11およびインバータ部12)の温度は、図10に示すように低下し始める。
【0075】
この状態において、制御部115は、主変換装置110の温度が制御解除温度(所定の終了閾値)T3未満になったか否かの判定を実行する(S15)。主変換装置110の温度が制御解除温度T3以上であると判定された場合(NOの場合)には、制御部115は、上述のS15の判定処理を再び実行する。
【0076】
主変換装置110の温度が制御解除温度T3未満であると判定された場合(YESの場合)には、制御部115は、制御伝送部20への通知信号の出力を停止する処理を実行する(S16)。さらに制御部115は、7号車の主変換装置110の出力を抑制する制御の解除を実行する(S17)。なお、S16の処理およびS17の制御の実行タイミングは、どちらか一方が先である必要はなく、また、同時に実行されてもよい。
【0077】
出力抑制の制御が解除されると、制御部115は、S12に戻り、上述の制御を繰り返し実行する。なお、出力抑制の制御が解除された7号車の主変換装置110に対しては、通常の制御が適用され、当該主変換装置110の出力は目標出力となるように制御される。通常制御が行われると、7号車の主変換装置110のコンバータ部11およびインバータ部12における発熱量が増加し、図10に示すように、主変換装置110の温度は上昇し始める。
【0078】
次に、7号車以外の主変換装置110における制御部115の制御について、図9のフローチャートを参照しながら説明する。主変換装置110に電力が投入されると、制御部115は、コンバータ部11およびインバータ部12に対して通常の制御を実行する(S21)。
【0079】
制御部115は、7号車の制御部115と同様に、主変換装置110の温度が制御開始温度T2以上になったか否かの判定を実行しつつ、制御伝送部20から、他の号車の制御部115から温度が制御開始温度T2以上に上昇したことを通知する信号が入力されたか否かの判定処理を実行する(S22)。温度上昇を通知する信号が入力されていないと判定された場合(NOの場合)には、制御部115は、S22の判定処理を再び実行する。
【0080】
通知信号が入力されたと判定された場合(YESの場合)には、制御部115は、当該号車の主変換装置110の出力を増やす制御を実行する(S23:制御ステップ)。本実施形態では、S23の制御における主変換装置110の出力増加の割合は、図11のグラフに示すように、目標出力を基準として、105%の出力に増加される例に適用して説明する。なお、出力増加の割合は、出力抑制の割合と同様に、予め定められた値であり、記憶部(図示せず)に予め記憶される値である。また、出力増加の割合は上述の105%に限定されるものではない。
【0081】
主変換装置110の出力増加制御が実行されると、主変換装置110のコンバータ部11およびインバータ部12における発熱量が増加し、主変換装置110の温度は、図10の点線に示すように、7号車の主変換装置の温度低下に対応して増加し始める。
【0082】
この状態において制御部115は、制御伝送部20から温度上昇信号の入力があるか否かの判定処理を実行する(S24)。温度上昇信号の入力があると判定された場合(NOの場合)には、制御部115は、上述のS24の判定処理を再び実行する。
【0083】
温度上昇信号の入力がないと判定された場合(YESの場合)には、制御部115は、当該号車の主変換装置110の出力を増加する制御の解除を実行する(S25)。出力増加の制御が解除されると、制御部115は、S22に戻り、上述の制御を繰り返し実行する。なお、出力増加の制御が解除された当該号車の主変換装置110に対しては、通常の制御が適用され、当該主変換装置110の出力は目標出力となるように制御される。通常制御が行われると、当該主変換装置110のコンバータ部11およびインバータ部12における発熱量は減少し、図10に示すように、当該主変換装置110の温度は低下し始める。
【0084】
上記の電力変換システム101よれば、例えば7号車の主変換装置110におけるコンバータ部11およびインバータ部12の温度が制御開始温度T2を超えた場合に、7号車の主変換装置110の出力を減らし、当該電力変換装置110における熱的な負荷を軽減する制御が行われると共に、他の号車の主変換装置110の出力を増やす制御が行われるため、電力変換システム101全体としての出力を維持しつつ、主変換装置110の小型化、軽量化を図ることができる。
【0085】
具体的には、複数の電力変換装置の出力を均等に制御する方法と比較して、放熱フィン部13に要求される放熱能力を低く抑えることができるため、放熱フィン部13の小型化、軽量化を図ることができ、主変換装置110の小型化、軽量化を図ることができる。また、それぞれの号車の主変換装置110の出力の増減割合を固定する第1の実施形態と比較して、主変換装置110における温度状況に応じて出力を増減させる主変換装置110を変更できるため、一部の主変換装置110で温度が想定の範囲を超えて上昇するなどの不具合が発生しても対応することができる。
【0086】
また、主変換装置110の温度が所定の制御開始温度T2を超えた際に、当該主変換装置110の出力を予め定められた電力(本実施形態では目標出力の35%)に減らす制御を行うことにより、当該主変換装置110の制御部115による制御を容易にすることができる。
【0087】
主変換装置110の出力を減らす制御を開始した後に、当該主変換装置110の温度が制御解除温度T3を下回った場合に、当該主変換装置110の出力を減らす制御を終了するとともに、他の主変換装置110の出力を増やす制御を終了することにより、他の主変換装置110における負荷が増加する期間を限定することができる。そのため、他の主変換装置110において温度が過剰に上昇することを抑制できる。
【0088】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の第1の実施形態で説明した出力の抑制制御を適用する主変換装置を予め定める制御を行いつつ、上述の第2の実施形態で説明した温度が上昇した主変換装置に対して出力の抑制制御を行ってもよい。
【符号の説明】
【0089】
1,101…電力変換システム、10,110…主変換装置(電力変換装置)、11…コンバータ部(変換部)、12…インバータ部(変換部)、13…放熱フィン部(放熱部)、14…温度センサ(測定部)、15,115…制御部、31…電動機、32…底面、T1…故障検知温度(所定の上限閾値)、T2…制御開始温度(所定の開始閾値)、T3…制御解除温度(所定の終了閾値)、S12…判定ステップ、S14,S23…制御ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11