特許第5985873号(P5985873)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985873
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20160823BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20160823BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20160823BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20160823BHJP
   C08L 25/10 20060101ALI20160823BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20160823BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20160823BHJP
   C08K 5/41 20060101ALI20160823BHJP
   D06M 15/21 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/22
   C08L1/08
   C08L33/00
   C08L25/10
   C08L63/00 A
   C08K5/13
   C08K5/41
   D06M15/21
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-102397(P2012-102397)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-231092(P2013-231092A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】常岡 秀典
(72)【発明者】
【氏名】高見 尚典
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−179642(JP,A)
【文献】 特開2008−239856(JP,A)
【文献】 特開2001−323094(JP,A)
【文献】 特公昭54−028425(JP,B1)
【文献】 特開平10−237764(JP,A)
【文献】 特開2006−143885(JP,A)
【文献】 特開2004−339424(JP,A)
【文献】 特開平06−073260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/22
C08K 5/13
C08K 5/1515
C08K 5/41
D06M 15/00 −15/715
C08J 9/00−9/32
A47G 27/00−27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂エマルジョン(a)、水酸化アルミニウム(b)、水溶性セルロース(c)を含有し、固形分を基準として、前記樹脂エマルジョン(a)100重量部に対して、前記水溶性セルロース(c)が30〜200重量部(ただし、30重量部を除く。)配合されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂エマルジョン(a)が、アクリル系樹脂エマルジョンまたはスチレン−ブタジエン系樹脂エマルジョンの少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、水溶性アルミニウム化合物または亜鉛化合物(d)が配合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、エポキシ化合物(e)が配合されていることを特徴とする請求項1〜いずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
さらにノニルフェノール(f)が配合されていることを特徴とする請求項1〜いずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
さらにラウリル硫酸ナトリウム(g)が配合されていることを特徴とする請求項1〜いずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
繊維材のバッキング用途に使用されることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内の床及びデッキ部のカーペットや、住宅、事務所等の床部のカーペットなどの繊維製品に裏打ち加工することにより、遮水性や強度とともに難燃性を付与できる難燃性樹脂組成物に関するものである。より詳しくは、重金属化合物、ハロゲン化合物やリン系化合物の使用量を削減した難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車数の増大や住宅の密集化に伴い、それらの火災に対する対策はきわめて重要である。特に自動車や住宅におけるカーペットなどの内装材についての難燃化の要望は大きく、難燃化技術が種々提案されている。一方、難燃性を有する原材料は何らかの有害性を有しているものが多く、密閉された空間で使用される自動車内装用途においては、有害成分を使用しないか、極力低減させることが強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1には、アクリル系樹脂を主成分とする難燃性材料が開示されているが、難燃化剤としてリン系化合物が使用されている。リン系化合物は重金属化合物やハロゲン系化合物よりは安全性が高いと考えられているが、廃棄時の環境への負荷などを考慮すると使用しないか低減させることが好ましい。
【特許文献1】特開2008-297343号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、重金属化合物、ハロゲン化合物やリン系化合物の使用量を低減し、従前の製品と同等以上の難燃性を付与できる難燃性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は樹脂エマルジョン(a)、水酸化アルミニウム(b)、水溶性セルロース(c)を含有し、固形分を基準として、前記樹脂エマルジョン(a)100重量部に対して、前記水溶性セルロース(c)が30〜200重量部(ただし、30重量部を除く。)配合されていることを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の難燃性樹脂組成物は、重金属化合物、ハロゲン化合物やリン系化合物の使用量を低減し、従前の製品と同等以上の難燃性を有している。よって、特に密閉された空間で使用され、高温や直射日光にも曝される自動車内装用カーペットなどの繊維材のバッキング用途に適する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の難燃性樹脂組成物はバインダー成分として、樹脂エマルジョン(a)を含有する。樹脂エマルジョンとしては公知のものを使用できるが、難燃性、バインダーとしての耐水性能、ブロッキング防止などの点から、アクリル系樹脂エマルジョンまたはスチレン−ブタジエン系樹脂エマルジョンが好ましい。また、同様な理由でガラス転移温度(Tg)が20℃以上であることが好ましい。
【0008】
水酸化アルミニウム(b)は、難燃性を向上させるために使用される。水酸化アルミニウムは他の無機充填材と比較して、より少ない添加量で難燃性を向上できるため、バッキング性能への影響を抑えることができる。前記樹脂エマルジョン(a)の固形分100重量部に対して、水酸化アルミニウムを25〜500重量部添加することが好ましい。25重量部以上とすることで難燃性が顕著に向上し、500重量部以下とすることでバッキング性能への影響を抑えることができる。
【0009】
水溶性セルロース(c)は、セルロースを変性することによって水溶化したものであり、具体的にはカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、水溶性リン酸セルロースなど、およびそれらの混合物が挙げられ、ナトリウム塩などの塩化合物でもよい。本発明においては難燃性を向上させる目的で使用される。単なる炭化水素化合物である水溶性セルロースの添加によって難燃性が向上する理由は明らかではないが、樹脂成膜の際に燃焼を抑制する構造を形成するためと考えられる。
一方、水溶性セルロースには増粘作用もあり、組成物の粘度が高くなりすぎたり貯蔵安定性が低下するおそれがある。よって、エーテル化度が0.55以上で2%水溶液濃度が900mPa・s以下とすることが好ましく、エーテル化度が0.55以上で500mPa・s以下とする事がより好ましく、さらに好ましくはエーテル化度が0.65以上で100mPa・s以下、最も好ましくエーテル化度が0.65以上で20mPa・s以下である。
前記樹脂エマルジョン(a)の固形分100重量部に対して、水溶性セルロースを30〜200重量部添加することが好ましく、30〜150重量部添加することがより好ましい。30重量部以上とすることで難燃性が顕著に向上し、200重量部以下とすることで組成物が過剰な増粘を抑制することができる。
【0010】
さらに、水溶性アルミニウム化合物または亜鉛化合物(d)を前記水溶性セルロース(c)とともに使用することにより、樹脂皮膜の耐水性を向上できる。耐水性が要求される用途においては配合することが好ましい。
アルミニウム化合物としては例えば塩化アルミニウムのように水溶性を有するものが好ましい。なお、前記水酸化アルミニウム(b)は水溶性を有しないため、金属架橋効果が求められる(d)成分としては適さない。亜鉛化合物を用いる場合、必ずしも水溶性を有している必要はなく、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、硫酸亜鉛などを用いることができる。
【0011】
水溶性セルロース(c)に対する水溶性アルミニウム化合物または亜鉛化合物(d)の添加量が過剰になると、水溶性セルロース中の親水性基の金属架橋割合が高くなり、水溶性を喪失してゲル状になってしまい、難燃性が低下する。
したがって、水溶性セルロース(c)の親水性基が一定割合のみ金属架橋するように添加量を調整する必要がある。具体的な添加量は個別に異なるものの、酸化亜鉛を用いる場合、水溶性セルロース100重量部に対して0.1〜3重量部程度が好ましい。
【0012】
なお、塩化アルミニウムなどは広義のハロゲン化合物に該当するものの、炭素−ハロゲン結合を有する化合物と比較すれば環境等への影響ははるかに小さく、これらを使用しても本発明の趣旨が損なわれるものではない。
【0013】
また、エポキシ化合物(e)の添加により、難燃性能をより安定化させることができる。固形分を基準として、前記樹脂エマルジョン(a)の100重量部に対して、エポキシ化合物を5〜30重量部添加することが好ましい。
【0014】
本発明の難燃性樹脂組成物は、水溶性セルロースを含有するため粘度が高くなりやすい。そこで、ノニルフェノール(f)を添加することによって組成物の粘度が下がり、製造時や使用時の作業性や貯蔵安定性を向上させることができる。固形分を基準として、前記樹脂エマルジョン(a)の100重量部に対して、ノニルフェノールを1〜6重量部添加することが好ましい。
【0015】
本発明の難燃性樹脂組成物の好適な用途は、自動車内装用カーペットなどの繊維材のバッキング剤である。このような用途においては、樹脂を発泡させた状態で繊維材に塗工するフロス加工が行われるため、樹脂が泡立ちしやすいように界面活性剤を添加する。しかしながら、水溶性セルロースを含有する場合、通常使用される界面活性剤では泡立ちしにくいことが判明した。そこで本発明者らが検討したところ、ラウリル硫酸ナトリウム(g)を配合することによって樹脂が泡立ちやすくなり、フロス加工に適した性状が得られることを見出した。
前記樹脂エマルジョン(a)の固形分100重量部に対して、ラウリル硫酸ナトリウムを1〜10重量部添加することが好ましい。
なお、両性界面活性剤でも泡立ちに関しては同様の効果があるものの、加熱乾燥時の臭気が著しいため、ラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0016】
本発明の難燃性樹脂組成物には前記必須配合成分の他、本発明の優れた効果を妨げない使用範囲において、さらに各種添加剤を配合できる。例えば、ホウ素系化合物、ジルコニウム系化合物などの難燃剤、ブロックイソシアネートの水溶液又は水分散液などの架橋剤が挙げられる。
また、無機充填剤、分散剤、増粘剤、湿潤剤、発泡剤、整泡剤、消泡剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤などが使用できる。
【0017】
以上のようにして得られた本発明の難燃性樹脂組成物の固形分、pH及び粘度は、いずれも特に限定されるものではないが、該組成物の沈降安定性等の観点より、一般に固形分は30〜70重量%、好ましくは30〜60重量%程度、pHは5〜10、好ましくは6〜10、粘度(BM型粘度計、20℃、12rpm)は1000〜15000mPa・s、好ましくは1000〜10000mPa・sである。
【0018】
本発明の難燃性樹脂組成物をカーペット生地などの繊維材のバッキング層として用いることにより、難燃性に優れたカーペットを得ることができる。カーペット生地としては、火災時有害ガスの発生がないもの、防縮加工剤などの処理剤としてホルムアルデヒドを生じることのない処理剤を使用したものであれば特に限定されるものではない。例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、アクリルなどの合成繊維、羊毛などの天然繊維又はそれらの混紡が挙げられる。また、本発明の難燃性樹脂組成物をバッキング層としたニードルパンチカーペットに対して、さらに成形性、遮水性を向上させるためにポリエチレンなどの熱可塑性樹脂による溶融押し出しラミネートバッキングが施されている場合でも、有効な難燃性を発現する。
【0019】
本発明の難燃性樹脂組成物のバッキング層としての塗布量は、固形分で25〜300g/m、好ましくは30〜250g/mである。塗布量が25g/m未満では、風合いが柔らかくなったり難燃性が不十分となるおそれがあり、300g/mを超える場合は粉落ちが生じたり、経済的にも好ましくない。
【0020】
以下、本発明について実施例、参考例及び比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0021】
エポキシエマルジョンの調整
エポキシ樹脂であるエピクロン840(DIC社製、商品名)100重量部にポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコール(第一工業製薬社製、商品名エパン485)5重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5重量部、水70重量部を加えよく攪拌混合し、安定なエポキシエマルジョンAを得た。
【0022】
実施例1
アクリル共重合樹脂エマルジョン(アイカ工業社製、固形分48%、Tg47℃、商品名 ウルトラゾールA−25)を固形分で100重量部、酸化亜鉛(JIS K−1410 1種)4重量部、水酸化アルミニウム(日本軽金属社製、商品名 B−303)255重量部、エポキシエマルジョンAを固形分で14重量部、カルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬社製 商品名 セロゲン5A)80重量部、ノニルフェノール(第一工業製薬 商品名 ノイゲンEA−160)3重量部、泡立て剤としてラウリル硫酸ナトリウム(第一工業製薬社製、商品名 モノゲンY−100)5.5重量部を混合し、さらに水を加えて固形分を43%に調整することにより、実施例1の難燃性樹脂組成物を得た。
【0023】
実施例2〜7、比較例1〜2
実施例1で用いた材料の他、スチレン−ブタジエン系樹脂エマルジョンであるナルスターSR−100(日本A&L社製、固形分51%、Tg27℃、商品名)、ヒドロキシエチルセルロース(住友精化社製 商品名 AL−15)、セルロースパウダー(日本製紙ケミカル社製 商品名 KCフロックW−300G)を用いて、表1記載の配合にて同様に各難燃性樹脂組成物を得た。なお、成分とも固形分を基準とした表記である。
【0024】
難燃性
ポリエステル製のニードルパンチカーペット(目付200g/m)に各難燃性樹脂組成物を発泡させて固形分として50g/m塗布し、170℃雰囲気下で10分間乾燥した。これを350mm×200mmに裁断し、20℃、65%RH雰囲気中で24時間放置したものを試料とした。
自動車内装分野向け難燃規格であるFMVSS−302に従い、作製した試料について水平法により燃焼試験を行なった。試験は4点行い、平均燃焼速度および標準偏差(σ)を評価した。
【0025】
貯蔵安定性
各難燃性樹脂組成物の初期粘度を測定後、ガラス瓶に封入して40℃雰囲気下で1ヶ月間保存した後に再度粘度を測定し、保存前の粘度と比較して以下のように評価した。
◎:初期粘度から30%未満の増粘
○:初期粘度から30%以上、60%未満の範囲で増粘
×:初期粘度から60%以上の増粘
【0026】
フロス加工性試験
各難燃性樹脂水性組成物150gを1Lポリビーカーに量り取り、ハンドミキサー(松下電工社製、形式 MK−H3)の目盛りを3にセットして組成物を120秒間攪拌し、さらに目盛りを1に切り替えて5秒間攪拌した。すぐに、予め重量を測定しておいた最大容量145mlのPPカップにすりきりながら移し、145mlあたりの組成物の重量を測定することによって発泡比重を測定し、以下のように評価した。
○: 発泡比重が0.35未満
△: 発泡比重が0.35以上、0.70未満
×: 発泡比重が0.70以上
【0027】
【表1】
【0028】
実施例の難燃性樹脂組成物を用いた場合、いずれも燃焼速度は小さく、難燃性は良好であった。また、エポキシ化合物を含有するものは難燃性がより優れ、金属架橋成分を含有するものは燃焼速度のばらつきが抑えられる。
さらに、ノニルフェノールを含有するものは貯蔵安定性がより優れ、ラウリル硫酸ナトリウムを含有するものはフロス加工性にも優れていた。
一方、比較例の難燃性樹脂組成物を用いた場合、いずれも燃焼速度が大きかった。