(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透過型の回折光学素子を透過させるか又は反射型の回折光学素子にて反射させることによりレーザーパルスを直線に沿ってジグザグ状に並ぶ複数のレーザーパターンに分岐して、前記複数のレーザーパターンからなるレーザーパターン列を加工対象物に照射することによって前記加工対象物を加工する工程を有し、
前記レーザーパターン列のレーザーパターンのうち、前記直線の一端側から数えてx番目及び(x+1)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、(x+1)番目及び(x+2)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、のなす角度αは、2arctan(1/m)×180/π(xは1以上の任意の正の整数、mは1以上の正の整数)であり、
前記加工対象物を加工する工程では、前記レーザーパターンが前記加工対象物に対して千鳥格子状に照射されるように、前記レーザーパターン列を前記直線の延在方向に対する交差方向に走査し、かつ
前記走査方向の一端側から数えてy列目(yは1以上の任意の正の整数)の前記レーザーパターン列に含まれるレーザーパターンのうち、当該レーザーパターン列の中心線である前記直線を基準として前記走査方向の他端側に偏位しているレーザーパターンと、
前記走査方向の一端側から数えて(y+m)列目の前記レーザーパターン列に含まれるレーザーパターンのうち、当該レーザーパターン列の中心線である前記直線を基準として前記走査方向の一端側に偏位しているレーザーパターンと、
が前記直線と平行に一直線上に並ぶように、前記レーザーパターン列を走査するレーザーパルスによる加工物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0013】
〔第1の実施形態〕
図1は第1の実施形態に係るレーザーパルスによる加工物の製造方法を説明するための模式的な平面図である。
図1は、加工対象物50(
図3)の表面に対するレーザーパターン71の照射の仕方の一例を示している。
図2はレーザーパターン列70の一例を示す模式的な平面図である。
図3は第1の実施形態に係るレーザー加工装置100のブロック図である。
【0014】
本実施形態に係るレーザーパルスによる加工物の製造方法は、レーザーパターン列70(
図2)を加工対象物50に照射することによって、加工対象物50を加工する工程を有する。この工程では、回折光学素子20(
図3)によりレーザーパルスを複数のレーザーパターン71に分岐して、これらレーザーパターン71からなるレーザーパターン列70を形成する。回折光学素子20は、透過型又は反射型の何れでも良い。回折光学素子20が透過型の場合、レーザーパルスは、回折光学素子20を透過することによって、複数のレーザーパターン71に分岐する。回折光学素子20が反射型の場合、レーザーパルスは、回折光学素子20にて反射することによって、複数のレーザーパターン71に分岐する。レーザーパターン列70に含まれるレーザーパターン71は、直線L(
図2)に沿ってジグザグ状に並ぶ。レーザーパターン列70に含まれるレーザーパターン71のうち、直線Lの一端側から数えてx番目及び(x+1)番目のレーザーパターン71の中心どうしを結ぶ線分と、(x+1)番目及び(x+2)番目のレーザーパターン71の中心どうしを結ぶ線分と、のなす角度を角度α(単位:°)とする。角度αは、2arctan(1/m)×180/πである。ここで、xは1以上の任意の正の整数であり、mは1以上の正の整数である。つまり、レーザーパターン列70に含まれるレーザーパターン71のうち隣接する3つのレーザーパターン71で形成する角度αが、2arctan(1/m)×180/πである。加工対象物50を加工する工程では、レーザーパターン71が加工対象物50に対して千鳥格子状に照射されるように、レーザーパターン列70をレーザーパターン列70の長手方向に対する交差方向に走査する。
【0015】
また、本実施形態に係るレーザー加工装置100は、レーザーパルスを出力するレーザー出力部10と、回折光学素子(DOE(Diffractive Optical Elements))20と、走査部60と、を有する。回折光学素子20は、透過型又は反射型のものである。回折光学素子20は、レーザー出力部10から出力されるレーザーパルスを透過又は反射させるとともに、このレーザーパルスを複数のレーザーパターン71に分岐して、これら複数のレーザーパターン71からなるレーザーパターン列70を形成する。レーザーパターン列70に含まれるレーザーパターン71は、直線Lに沿ってジグザグ状に並ぶ。レーザーパターン列70に含まれるレーザーパターン71のうち、直線Lの一端側から数えてx番目及び(x+1)番目のレーザーパターン71の中心どうしを結ぶ線分と、(x+1)番目及び(x+2)番目のレーザーパターン71の中心どうしを結ぶ線分と、のなす角度を角度αとする。回折光学素子20は、角度αが2arctan(1/m)×180/πとなるように、レーザーパルスを分岐する。ここで、xは1以上の任意の正の整数、mは1以上の正の整数である。走査部60は、レーザーパターン71が加工対象物50に対して千鳥格子状に照射されるように、レーザーパターン列70を当該レーザーパターン列70の長手方向に対する交差方向に走査する。
なお、本実施形態に係る製造方法により製造される加工物は、レーザーパターン71の照射による加工後の加工対象物50である。
【0017】
図3に示すように、レーザー加工装置100は、上記の構成の他に、加工対象物50が載置されるステージ40と、レーザー出力部10及び走査部60の動作制御を行う制御部80と、を有している。なお、以下の説明において、レーザー出力部10と回折光学素子20とを含むユニットを照射ユニット30と称することとする。
【0018】
加工対象物50は、例えば、表面に金属薄膜が形成された基板、表面に酸化物が形成された金属、表面に汚れが付着している基材、表面に化合物膜が成膜された基板などであることが挙げられる。このような加工対象物50に対してレーザーパターン71を照射することによって行う加工としては、加工対象物50の表層の金属薄膜、表面酸化物、汚れ、化合物膜等をそれぞれ所定のパターンで加工する(除去する場合を含む)ことなどが挙げられる。
【0019】
レーザー出力部10は、パルス状のレーザー光、すなわちレーザーパルスを出力する。より具体的には、レーザー出力部10は、レーザー光を一定時間間隔で間欠的に(一定時間間隔のパルス状に)出力する。
【0020】
レーザー出力部10と加工対象物50との間の光学系には、回折光学素子20が配置されており、レーザー出力部10から出力されたレーザーパルスは、回折光学素子20を介して加工対象物50の表面上に照射される。
【0021】
なお、レーザーパルスが照射される加工対象物50の表面(以下、被加工面とも称する)が概ね平坦で、且つ、回折光学素子20から被加工面に対して照射されるレーザーパルスの光路とが概ね直交することが好ましい。
【0022】
レーザー出力部10から回折光学素子20に入射したレーザーパルスは、回折光学素子20を透過するか又は回折光学素子20にて反射することによって、規則的に並ぶ複数のレーザーパターン(レーザースポット)71に分岐する。すなわち、回折光学素子20は、これら複数のレーザーパターン71からなるレーザーパターン列(レーザースポット列)70を形成する(
図2参照)。レーザー出力部10から出力されたレーザーパルスは、回折光学素子20を透過するか又は回折光学素子20にて反射することにより、レーザーパターン列70として、被加工面に対して照射される。
【0023】
図2に示すように、レーザーパターン列70に含まれるレーザーパターン71は、被加工面上において、仮想の直線Lに沿ってジグザグ状(千鳥状に)に規則的に並ぶ。直線Lは、例えば、レーザーパターン列70の中心線であり、レーザーパターン列70に含まれるレーザーパターン71は、直線Lの両側に交互に並んでいる。各レーザーパターン71は、例えば円形である。
【0024】
レーザーパターン列70に含まれるレーザーパターン71の数をX個(Xは3以上の正の整数)とする。
レーザーパターン列70のレーザーパターン71のうち、直線Lの一端側から数えてx番目のレーザーパターン71の中心と(x+1)番目のレーザーパターン71の中心とを結ぶ線分と、(x+1)番目のレーザーパターン71の中心と(x+2)番目のレーザーパターン71の中心とを結ぶ線分と、のなす角度を角度αとする。xは、1以上、且つX−2以下の任意の正の整数である。
【0025】
角度αは、2arctan(1/m)×180/π(単位:°)である。ここで、mは1以上の正の整数である。
【0026】
より具体的には、本実施形態の場合、m=1であり、角度αは、2arctan1×180/πである。すなわち、角度αは、
図2に示すように、90°である。
【0027】
なお、以下の説明においては、あるレーザーパターン列70に含まれるレーザーパターン71を直線Lの一端側から数えたときの任意のレーザーパターン71の順番を、単にレーザーパターン71の順番と言う。
また、任意の順番のレーザーパターン71のことを、単に1番目のレーザーパターン71、2番目のレーザーパターン71、x番目のレーザーパターン71、(x+1)番目のレーザーパターン71などと称する。
【0028】
レーザーパターン列70に含まれるレーザーパターン71の各々の中心から直線Lまでの距離は、互いに等しい。
【0029】
隣り合う順番のレーザーパターン71の中心どうしの距離は一定である。すなわち、x番目のレーザーパターン71と(x+1)番目のレーザーパターン71との中心どうしの距離は、xの値にかかわらず一定である。
【0030】
本実施形態の場合、隣り合う順番のレーザーパターン71は、互いの輪郭どうしが外接している。
【0031】
走査部60は、レーザーパターン列70を加工対象物50の表面上において
図2の走査方向Sに走査し、レーザーパターン71を被加工面に対して
図1に示すような千鳥格子状に照射させる。すなわち、複数列のレーザーパターン列70を被加工面に照射させる。その結果、多数のレーザーパターン71によって加工対象物50の表面上に面状の軌跡を形成することができる。
【0032】
本実施形態の場合、走査方向Sは、直線Lの延在方向(レーザーパターン列70の長手方向)に対する直交方向である。
【0033】
走査部60による走査は、例えば、照射ユニット30とステージ40とのうちの少なくとも一方を直線移動させることにより行う。走査部60は、例えば、照射ユニット30を走査方向Sに直線移動させる。或いは、走査部60は、ステージ40を走査方向Sの反対方向に直線移動させても良い。走査部60は、一定の速度でレーザーパターン列70を走査する。
【0034】
以下の説明において、走査方向Sの一端側(例えば
図1の上端側)からレーザーパターン列70を数えたときの任意のレーザーパターン列70の順番を、単にレーザーパターン列70の順番と言う。また、任意の順番のレーザーパターン列70のことを、単に1列目のレーザーパターン列70、2列目のレーザーパターン列70などと称する。
【0035】
レーザー出力部10から出力される1パルス目のレーザーパルスによって、1列目のレーザーパターン列70が被加工面に照射され、2パルス目のレーザーパルスによって、2列目のレーザーパターン列70が被加工面に照射され、以下、順次、3列目以降のレーザーパターン列70が被加工面に照射される。
図1においては、レーザーパターン列70の総数をY(Yは2以上の正の整数)としている。
【0036】
なお、
図1において、1列目のレーザーパターン列70の各レーザーパターン71には、他のレーザーパターン71と区別しやすいように、斜め線のハッチングを付している。また、2列目のレーザーパターン列70の各レーザーパターン71には、他のレーザーパターン71と区別しやすいように、縦線のハッチングを付している。
【0037】
より具体的には、走査部60は、例えば、
図1に示すように、レーザーパターン71aとレーザーパターン71bとが直線Lと平行に一直線上に並ぶように、レーザーパターン列70を走査する。
ここで、レーザーパターン71aは、走査方向Sの一端側(例えば
図1の上端側)から数えてy列目(yは1以上の任意の正の整数)のレーザーパターン列70(例えば
図1に示すように1列目のレーザーパターン列70a)に含まれるレーザーパターン71のうち、当該レーザーパターン列70aの中心線である直線L(例えば
図1の直線L1)を基準として走査方向Sの他端側(例えば
図1の下端側)に偏位しているレーザーパターン71である。
また、レーザーパターン71bは、走査方向Sの一端側(例えば
図1の上端側)から数えて(y+m)列目のレーザーパターン列70(例えば
図1に示すように2列目のレーザーパターン列70b)に含まれるレーザーパターン71のうち、当該レーザーパターン列70bの中心線である直線L(例えば
図1の直線L2)を基準として走査方向Sの一端側(例えば
図1の上端側)に偏位しているレーザーパターン71である。
本実施形態の場合、m=1であるため、レーザーパターン71bは、走査方向Sの一端側から数えて(y+1)列目のレーザーパターン列70bに含まれるレーザーパターン71のうち、直線L2を基準として走査方向Sの一端側に偏位しているレーザーパターン71である。
ここで、「偏位している」とは、レーザーパターン71の中心が、直線Lよりも走査方向Sの一端側又は他端側に位置していることを意味する。
【0038】
換言すれば、走査部60は、
図1において、y列目のレーザーパターン列70aの偶数番目のレーザーパターン71であるレーザーパターン71aと、(y+1)列目のレーザーパターン列70bの奇数番目のレーザーパターン71であるレーザーパターン71bとが直線Lと平行に一直線上に並ぶにように、レーザーパターン列70を走査する。
【0039】
このようにレーザーパターン列70を走査することにより、レーザーパターン71が照射される領域においては、当該領域の最外周部を除き、互いに隣接するレーザーパターン71の中心どうしの距離が等距離となるような千鳥格子状に、レーザーパターン71を照射することができる。
【0040】
また、このようにレーザーパターン列70を走査することにより、隣り合う順番のレーザーパターン列70どうしの間隔は一定となる。すなわち、y列目のレーザーパターン列70の中心線である直線L1と(y+1)列目のレーザーパターン列70の中心線である直線L2との距離は、yの値にかかわらず一定となる。
【0041】
また、本実施形態のように隣り合う順番のレーザーパターン71の輪郭どうしが外接している場合に、このようにレーザーパターン列70を走査することにより、2列目から(Y−1)列目までのレーザーパターン列70については、隣り合うレーザーパターン列70の同じ順番及び前後の順番のレーザーパターン71の縁部どうしが重なり合う(Yが3以上の場合)。しかも、レーザーパターン71が照射される領域においては、当該領域の走査方向Sにおける最外周部を除き、レーザーパターン71どうしの隙間が存在しないようにできる。
【0042】
なお、回折光学素子20と加工対象物50との間には、加工対象物50の表面上にレーザーパターン列70(レーザーパターン71)を適切に結像させるための、図示しない光学系(レンズ、ミラー等)が設けられていても良い。
【0043】
図4は第1の実施形態の効果を説明するための図である。このうち
図4(a)はレーザー加工装置100による加工後の加工対象物50、すなわち加工物の表面の画像である。なお、回折光学素子20としては、透過型のものを用いた。
図4(b)は、
図4(a)に示す線分LS1の範囲における加工の深さの測定値をプロットした図である。なお、
図1においても、
図4(a)に示す線分LS1と同等の範囲に線分LS1を示している。すなわち、線分LS1の範囲は、レーザーパターン71の非照射領域から照射領域にまたがっている。
【0044】
図4(a)において、斜線部は、レーザーパターン71が照射された領域(以下、照射領域91)であり、その他の領域は、レーザーパターン71が照射されなかった領域(以下、非照射領域92)である。境界線93は、照射領域91と非照射領域92との境界線である。
【0045】
図4(b)において、横軸は、
図4(a)における線分LS1の上端を起点とした距離(位置)(単位、mm)を示し、縦軸は、レーザーパターン71の照射によって加工対象物50の表面に施された加工の深さ(単位、nm)を示す。
【0046】
図4(a)における境界線93よりも下側の領域すなわち照射領域91において、加工対象物50に加工が施されていることが、
図4(b)から分かる。
【0047】
ここで、
図4(b)に示すように、照射領域91においては、加工の深さがほぼ均一(被加工面が平滑)となっている。つまり、第1の実施形態では、レーザーパルスが照射される領域における加工の深さを均一にできることが分かる。
【0048】
図5は比較例1の問題点を説明するための図である。このうち
図5(a)は比較例1におけるレーザーパルスの照射の仕方を説明するための平面図である。
図5(b)は比較例1による加工後の加工対象物50の表面の画像である。
図5(c)は
図5(b)に示す線分LS2の範囲における加工の深さの測定値をプロットした図である。
【0049】
比較例1では、回折光学素子20を用いなかった。すなわち、レーザー出力部10から出力されたレーザーパルス110を、回折光学素子20に通さずに、
図5(a)に示すように直線状に連ねて加工対象物50に対して照射することによって、加工対象物50を加工した。
【0050】
図5(b)において、斜線部は、レーザーパルス110が照射された領域(以下、照射領域111)であり、その他の領域は、レーザーパルス110が照射されなかった領域(以下、非照射領域112)である。照射領域111は、レーザーパルス110の中央部と対応する領域(以下、照射中央領域111a)と、その周囲の領域(以下、照射周縁領域111b)とからなる。
境界線113は、照射領域111と非照射領域112との境界線である。境界線114は、照射中央領域111aと照射周縁領域111bとの境界線である。
【0051】
図5(c)において、横軸は、
図5(b)における線分LS2の上端を起点とした距離(位置)(単位、mm)を示し、縦軸は、レーザーパルス110の照射によって加工対象物50の表面に施された加工の深さ(単位、nm)を示す。
【0052】
図5(b)における境界線113よりも内側の領域すなわち照射領域111において、加工対象物50に加工が施されていることが、
図5(c)から分かる。
【0053】
ここで、
図5(c)に示すように、照射領域111のうち照射周縁領域111bでは、
図4(a)の照射領域91におけるのと同様に、加工の深さがほぼ均一となっている。
【0054】
しかし、照射領域111のうち照射中央領域111aでは、照射周縁領域111bよりも加工の深さが深いことが、
図5(c)から分かる。つまり、照射領域111の全域における加工の深さは均一ではなく(被加工面が平滑ではなく)、照射領域111の中央部(照射中央領域111a)における加工の深さが深い。しかも、照射中央領域111aにおける加工の深さは、照射中央領域111aの中心に向けてテーパー状に深くなっている。
【0055】
図5より、比較例1では、レーザーパルスの中心部において加工の深さが深くなってしまうことが分かる。
【0056】
比較例1の場合、加工の深さが均一でないことから、例えば、基板上の薄膜のみを加工したい場合にも、下地の基板まで損傷してしまう可能性がある。また、積層構造の所望の層までを選択的に加工したい場合にも、加工したい層よりも下の層又は基板まで損傷してしまう可能性がある。
【0057】
これに対し、本実施形態の場合、
図4(b)に示すように加工の深さを均一にできることから、例えば、基板上の薄膜のみを加工したい場合には、薄膜のみを適切に加工し、下地の基板の損傷を抑制することが可能である。また、積層構造の所望の層までを選択的に適切に加工することができ、加工したい層よりも下の層及び基板の損傷を抑制することができる。
【0058】
図6は第1の実施形態の効果と比較例2の問題点とを説明するための図である。
図6(a)は、第1の実施形態において、レーザーパターン列70を2列目まで加工対象物50の表面上に照射した状態を示す模式的な平面図である。
図6(b)及び
図6(c)の各々は、比較例2において、レーザーパターン列170(後述)を2列目まで加工対象物50の表面上に照射した状態を示す模式的な平面図である。
【0059】
ここで、比較例2について説明する。
比較例2では、回折光学素子20に代えて、以下に説明する特性の回折光学素子を用いた。
比較例2の回折光学素子は、レーザー出力部10から出力されるレーザーパルスを直線に沿ってジグザグ状に並ぶ複数のレーザーパターン171に分岐して、複数のレーザーパターン171からなるレーザーパターン列170を形成する。この点は、第1の実施形態と同様である。
ただし、比較例2の回折光学素子は、上記角度αが60°である。すなわち、この回折光学素子は、レーザーパターン列170のレーザーパターン171のうち、上記直線の一端側から数えてx番目及び(x+1)番目のレーザーパターン171の中心どうしを結ぶ線分と、(x+1)番目及び(x+2)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、のなす角度が60°となるように、レーザーパルスを分岐する(
図6(b)、(c)参照)。
【0060】
図6(b)は、同図において1列目のレーザーパターン列170の偶数番目のレーザーパターン171と、2列目のレーザーパターン列170の奇数番目のレーザーパターン171とが互いに外接するように、レーザーパターン列170を走査した例を示す。
【0061】
図6(a)と
図6(b)との比較から、本実施形態では、比較例2において
図6(b)のようにレーザーパターン列170を走査した場合と比べて、レーザーパターン71間の隙間を低減することができる。
【0062】
なお、加工対象物50の表面上におけるレーザーパターン71の径と、レーザーパターン171の径とが互いに等しいこととする。
【0063】
図6(c)は、同図において2列目のレーザーパターン列170の偶数番目のレーザーパターン171と、2列目のレーザーパターン列170の奇数番目のレーザーパターン171とが一直線上に並ぶように、レーザーパターン列170を走査した例を示す。
【0064】
図6(a)と
図6(c)との比較から、本実施形態では、比較例2において
図6(c)のようにレーザーパターン列170を走査した場合と比べても、レーザーパターン71間の隙間を低減することができる。更に、本実施形態では、比較例2において
図6(c)のようにレーザーパターン列170を走査した場合と比べて、レーザーパターン171どうしが重複する面積を低減できるため効率的である。
【0065】
このように、レーザーパターン71とレーザーパターン171とで径が互いに同じであれば、比較例2におけるレーザーパターン171どうしの隙間よりも本実施形態におけるレーザーパターン71どうしの隙間を減らす(狭くする)ことができる。
具体的には、例えば、
図6(a)、
図1に示すように、本実施形態によれば、レーザーパターン71間の隙間(無照射面)を無くすことができるとともに、レーザーパターン71どうしが多重に照射される面積を極力低減して効率的に面状の軌跡を形成することができる。
【0066】
なお、図示に基づく説明は省略するが、本実施形態のように上記角度αを90°とした場合、角度αが90°未満でかつ60°よりも大きい場合などのように、角度αが2arctan(1/m)×180/πを満たさない場合と比べて、レーザーパターン71間の隙間を低減することができる。
【0067】
加えて、本実施形態では、以下に説明するように、回折光学素子20によりレーザーパルスを分岐してレーザーパターン71を形成するに際し、レーザーパターン71のノイズの発生を抑制することができる。
【0068】
図7は第1の実施形態の効果と比較例2の問題点とを説明するための図である。
【0069】
このうち
図7(a)は第1の実施形態においてレーザーパターン71の分岐数を6とした場合にレーザーパターン列70を加工対象物50の表面上に照射したときの平面画像を示す。
図7(b)は、
図7(a)に示す線分LS3の範囲における光強度分布の測定値を示している。
図7(b)において、横軸は、
図7(a)における線分LS3の左上の端を起点とした距離(位置)(単位、mm)であり、縦軸は、測定された電流値(光強度と正の相関がある)(単位:mA)である。なお、回折光学素子20は、透過型のものを用いた。
【0070】
図7(c)は比較例2においてレーザーパターン171の分岐数を6とした場合にレーザーパターン列170を加工対象物50の表面上に照射したときの平面画像を示す。
図7(d)は、
図7(c)に示す線分LS4の範囲における光強度分布の測定値を示している。
図7(d)において、横軸は、
図7(c)における線分LS4の左端を起点とした距離(位置)(単位、mm)であり、縦軸は、測定された電流値(光強度と正の相関がある)(単位:mA)である。なお、比較例2でも、回折光学素子として、透過型のものを用いた。
【0071】
図7(a)において、線分LS3は、6つのレーザーパターン71のうち、上記直線L(
図7(a)では省略)と平行に一列に並ぶ3つのレーザーパターン71の各々の中心を通る。
図7(b)に示すように、線分LS3が通過する3つのレーザーパターン71の各々と対応する位置に、光強度のピークが存在する。
【0072】
同様に、
図7(c)において、線分LS4は、6つのレーザーパターン171のうち、一列に並ぶ3つのレーザーパターン171の各々の中心を通る。
図7(d)に示すように、線分LS4が通過する3つのレーザーパターン171の各々と対応する位置に、光強度のピークが存在する。
【0073】
図7(a)において、レーザーパターン71以外の明るい点は、レーザーパルスが回折光学素子20を通過することにより発生したノイズである。ただし、
図7(b)に示すように、このノイズの発生箇所の光強度は、各レーザーパターン71の光強度と比べて極めて小さい。したがって、本実施形態の場合、このノイズは無視し得る。
【0074】
一方、
図7(c)において、レーザーパターン171以外の明るい点は、レーザーパルスが比較例2の回折光学素子を通過することにより発生したノイズである。
図7(d)に示すように、このノイズの発生箇所の光強度は、第1の実施形態におけるものと比べて非常に大きい。
【0075】
比較例2の場合には、大きなノイズが発生するため、加工対象物50の表面上における所望の領域以外の意図しない領域を加工してしまう可能性がある。
これに対して、本実施形態の場合には、ノイズが小さいため、加工対象物50の表面上の所望の加工領域以外の領域を意図せず加工してしまう可能性を低減することができる。
【0076】
なお、比較例2の場合、回折光学素子を透過した高次回折光からなるノイズが線分LS4の延在方向及び線分LS4に対する直交方向に発生する。
【0077】
これに対して、本実施形態では、回折光学素子20を透過した高次回折光からなるノイズが線分LS3に対して45°の方向に発生するように回折光学素子20を設計している。このため、線分LS3の延在方向及び線分LS3に対する直交方向におけるノイズの発生が低減されている。
したがって、本実施形態のように線分LS3に対して直交する走査方向Sにレーザーパターン列70を走査する場合、ノイズどうしの重複を抑制することができる。よって、ノイズの重複により意図しない箇所を加工してしまう可能性についても低減することができる。
【0078】
以上のような第1の実施形態によれば、回折光学素子20によってレーザーパルスを複数に分岐し、複数のレーザーパターン71からなるレーザーパターン列70を加工対象物50に照射することにより加工対象物50を加工して、加工物を製造する。よって、レーザーパルスを分岐せずに加工対象物50に照射する場合(上記の比較例1など)と比べて、各レーザーパターン71における光強度を低減できる。これにより、レーザーパターン71が照射される領域において、加工の深さが局所的に深くなってしまうことを抑制できる。なお、回折光学素子20によりレーザーパルスを分岐する場合、レーザーパターン71の中央部の光強度は、分岐数分の一に低減できる。例えば分岐数が4の場合、レーザーパターン71の中央部の光強度の値が、分岐前のレーザーパルスの光強度の1/4程度に低減されることが確認されている。
ここで、複数のレーザーパターン71は、直線に沿ってジグザグ状(千鳥状に)に並んでいる。そして、レーザーパターン列70のレーザーパターン71のうち、当該レーザーパターン列70の中心の直線Lの一端側から数えてx番目のレーザーパターン71の中心と(x+1)番目のレーザーパターン71の中心とを結ぶ線分と、(x+1)番目のレーザーパターン71の中心と(x+2)番目のレーザーパターン71の中心とを結ぶ線分と、のなす角度αは、2arctan1×180/πである。更にこの条件において、レーザーパターン71が加工対象物50に対して千鳥格子状に照射されるように、レーザーパターン列70を上記直線Lの延在方向に対する交差方向に走査する。これにより、隣り合うレーザーパターン71どうしの隙間(無照射面)を極力低減し、且つ、極力多重に照射することなく効率的に、多数のレーザーパターン71によって面状の軌跡を形成することができる。
これらのことから、レーザーパターン71が照射される面状の領域における加工の深さを均一にすることができる。
【0079】
図4乃至
図6から、本実施形態では、レーザーパターン71の照射による加工の深さが深くなりすぎることを抑制しつつ、レーザー光のエネルギーをムラなく、効率的に広い面に分配して加工可能であることが分かる。
例えば比較例2の場合と比べると、分岐数、隣り合う順番のレーザーパターン(71又は171)どうしの間隔、レーザーパターン(71又は171)の面積が同条件であれば、レーザーパターン列70の長さ(直線Lの延在方向における長さ)を、レーザーパターン列170の長さと比べて2/√2=√2だけ長くなる。したがって、同じだけのエネルギーのレーザーパルスを用いる場合に、比較例2と比べてより広範囲に亘って均一な加工が可能である。
【0080】
加えて、本実施形態では、
図7を用いて説明したように、回折光学素子20によるレーザーパルスのノイズの発生も低減できることから、加工対象物50の被加工面における意図しない箇所を加工してしまう可能性も低減できる。
【0081】
また、走査方向Sは、直線Lの延在方向に対する直交方向である。これにより、加工対象物50の表面における矩形状の領域(直線的に延在する帯状の領域を含む)に加工を施すことができる。更に、走査方向Sを直線Lの延在方向に対する直交方向とすることにより、加工対象物50の表面上において、ノイズどうしの重複により強いノイズが生じてしまうことを抑制することができる。これにより、加工対象物50の被加工面における意図しない箇所を加工してしまう可能性を一層低減することができる。
【0082】
また、レーザーパターン71aとレーザーパターン71bとが直線Lと平行に一直線上に並ぶように、レーザーパターン列70を走査することにより、レーザーパターン71の照射領域の全面(ただし最外周部を除く)に亘って均一にレーザーパターン71を照射することができる。
【0083】
〔第2の実施形態〕
図8は第2の実施形態に係るレーザーパルスによる加工物の製造方法を説明するための模式的な平面図である。このうち
図8(a)は第2の実施形態の場合におけるレーザーパターン列70の一例を示し、
図8(b)は第2の実施形態の場合におけるレーザーパターン列70の走査の仕方の一例を示す。
【0084】
上記の第1の実施形態では、mの値が1であるとともに角度αが90°の例を説明した。
これに対して、第2の実施形態では、mの値が2の例を説明する。この場合、2arctan(1/m)×180/πで表される角度αは、約53°となる。なお、Yは3以上の正の整数とする。
【0085】
本実施形態に係るレーザーパルスによる加工物の製造方法、及び、本実施形態に係るレーザー加工装置100は、回折光学素子20の特性が第1の実施形態とは異なるとともに、レーザーパターン列70の走査の仕方(レーザーパターン列70のピッチ)が第1の実施形態とは異なる。
【0086】
本実施形態で使用する回折光学素子20は、レーザーパターン列70のレーザーパターン71のうち、直線Lの一端側から数えてx番目及び(x+1)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、(x+1)番目及び(x+2)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、のなす角度αが2arctan(1/2)×180/π(約53°)となるように、レーザーパルスを分岐する。
【0087】
なお、本実施形態の場合、
図8(a)に示すように、順番が隣り合うレーザーパターン71どうしは、互いに適切な距離で離間している。これは、レーザーパターン71の照射領域において、走査方向Sにおける最外周部を除き、レーザーパターン71の配列が第1の実施形態と同様になるようにするためである。
【0088】
本実施形態の場合も、走査部60は、レーザーパターン71aとレーザーパターン71bとが直線Lと平行に一直線上に並ぶように、レーザーパターン列70を走査する。
本実施形態の場合も、レーザーパターン71aは、走査方向Sの一端側(例えば
図8(b)の上端側)から数えてy列目のレーザーパターン列70(例えば
図8(b)に示すように1列目のレーザーパターン列70a)に含まれるレーザーパターン71のうち、当該レーザーパターン列70aの中心線である直線L(例えば
図8(b)の直線L1)を基準として走査方向Sの他端側(例えば
図8(b)の下端側)に偏位しているレーザーパターン71である。
ただし、本実施形態の場合、レーザーパターン71bは、走査方向Sの一端側から数えて(y+2)列目のレーザーパターン列70(例えば
図8(b)に示すように3列目のレーザーパターン列70b)に含まれるレーザーパターン71のうち、当該レーザーパターン列70bの中心線である直線L(例えば
図8(b)の直線L2)を基準として走査方向Sの一端側に偏位しているレーザーパターン71である。
【0089】
換言すれば、走査部60は、
図8において、y列目のレーザーパターン列70aの偶数番目のレーザーパターン71であるレーザーパターン71aと、(y+2)列目のレーザーパターン列70bの奇数番目のレーザーパターン71であるレーザーパターン71bとが直線Lと平行に一直線上に並ぶにように、レーザーパターン列70を走査する。
【0090】
このようにレーザーパターン列70を走査することにより、レーザーパターン71が照射される領域においては、当該領域の最外周部を除き、互いに隣接するレーザーパターン71の中心どうしの距離が等距離となるような千鳥格子状に、レーザーパターン71を照射することができる。
【0091】
また、このようにレーザーパターン列70を走査することにより、隣り合う順番のレーザーパターン列70どうしの間隔は一定となる。
【0092】
また、隣り合う順番のレーザーパターン71の輪郭どうしが外接している場合に、このようにレーザーパターン列70を走査することにより、3列目から(Y−2)列目までのレーザーパターン列70については、隣り合うレーザーパターン列70の同じ順番及び前後の順番のレーザーパターン71の縁部どうしが重なり合う(Yが5以上の場合)。しかも、レーザーパターン71が照射される領域においては、当該領域の走査方向Sにおける最外周部を除き、レーザーパターン71どうしの隙間が存在しないようにできる。
【0093】
なお、本実施形態の場合、以下に説明する第2レーザーパターン列に含まれるレーザーパターン71の並びが、第1の実施形態(mが1の場合)におけるレーザーパターン列70のレーザーパターン71のジグザグ状の並びと同一の並びとなる。
第2レーザーパターン列は、上記レーザーパターン71aと、以下に説明するレーザーパターン71cと、からなる列である。
レーザーパターン71cは、走査方向Sの一端側(例えば
図8(b)の上端側)から数えて(y+1)列目のレーザーパターン列70(例えば
図8(b)に示すように2列目のレーザーパターン列70c)に含まれるレーザーパターン71のうち、当該レーザーパターン列70cの中心線である直線L(例えば
図8の直線L3)よりも走査方向Sの一端側に偏位しているレーザーパターン71である。
第2レーザーパターン列に含まれるレーザーパターン71の並びが、mが1の場合におけるレーザーパターン列70のレーザーパターン71のジグザグ状の並びと同一の並びとなるということは、
図8(b)の角度βがそれぞれ90°となることを意味する。
【0094】
本実施形態の場合、レーザーパターン71が照射される領域の、走査方向Sにおける最外周部を除き、レーザーパターン71の配置は第1の実施形態と同様となる。
【0095】
したがって、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
なお、図示に基づく説明は省略するが、本実施形態のように上記角度αを2arctan(1/2)×180/π(約53°)とした場合も、角度αが2arctan(1/m)×180/πを満たさない場合と比べて、レーザーパターン71間の隙間を低減することができる。
また、ノイズの低減効果についても、第1の実施形態と同様に得ることができる。
【0096】
〔第3の実施形態〕
図9は第3の実施形態に係るレーザーパルスによる加工物の製造方法を説明するための模式的な平面図である。このうち
図9(a)は第3の実施形態の場合におけるレーザーパターン列70の一例を示し、
図9(b)は第3の実施形態の場合におけるレーザーパターン列70の走査の仕方の一例を示す。
【0097】
第3の実施形態では、mの値が3の例を説明する。この場合、2arctan(1/m)×180/πで表される角度αは、約37°となる。なお、Yは4以上の正の整数とする。
【0098】
本実施形態に係るレーザーパルスによる加工物の製造方法、及び、本実施形態に係るレーザー加工装置100は、回折光学素子20の特性が第1の実施形態とは異なるとともに、レーザーパターン列70の走査の仕方(レーザーパターン列70のピッチ)が第1の実施形態とは異なる。
【0099】
本実施形態で使用する回折光学素子20は、レーザーパターン列70のレーザーパターン71のうち、直線Lの一端側から数えてx番目及び(x+1)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、(x+1)番目及び(x+2)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、のなす角度αが2arctan(1/3)×180/π(約37°)となるように、レーザーパルスを分岐する。
【0100】
本実施形態の場合、
図9(a)に示すように、順番が隣り合うレーザーパターン71どうしは、互いに適切な距離で離間している。これは、レーザーパターン71の照射領域において、走査方向Sにおける最外周部を除き、レーザーパターン71の配列が第1の実施形態と同様になるようにするためである。
【0101】
本実施形態の場合も、走査部60は、レーザーパターン71aとレーザーパターン71bとが直線Lと平行に一直線上に並ぶように、レーザーパターン列70を走査する。
本実施形態の場合も、レーザーパターン71aは、走査方向Sの一端側(例えば
図9(b)の上端側)から数えてy列目のレーザーパターン列70(例えば
図9(b)に示すように1列目のレーザーパターン列70a)に含まれるレーザーパターン71のうち、当該レーザーパターン列70aの中心線である直線L(例えば
図9(b)の直線L1)を基準として走査方向Sの他端側(例えば
図9(b)の下端側)に偏位しているレーザーパターン71である。
ただし、本実施形態の場合、レーザーパターン71bは、走査方向Sの一端側から数えて(y+3)列目のレーザーパターン列70(例えば
図9(b)に示すように4列目のレーザーパターン列70b)に含まれるレーザーパターン71のうち、当該レーザーパターン列70bの中心線である直線L(例えば
図9(b)の直線L2)を基準として走査方向Sの一端側に偏位しているレーザーパターン71である。
【0102】
換言すれば、走査部60は、
図9において、y列目のレーザーパターン列70aの偶数番目のレーザーパターン71であるレーザーパターン71aと、(y+3)列目のレーザーパターン列70bの奇数番目のレーザーパターン71であるレーザーパターン71bとが直線Lと平行に一直線上に並ぶにように、レーザーパターン列70を走査する。
【0103】
このようにレーザーパターン列70を走査することにより、レーザーパターン71が照射される領域においては、当該領域の最外周部を除き、互いに隣接するレーザーパターン71の中心どうしの距離が等距離となるような千鳥格子状に、レーザーパターン71を照射することができる。
【0104】
また、このようにレーザーパターン列70を走査することにより、隣り合う順番のレーザーパターン列70どうしの間隔は一定となる。
【0105】
また、隣り合う順番のレーザーパターン71の輪郭どうしが外接している場合に、このようにレーザーパターン列70を走査することにより、4列目から(Y−3)列目までのレーザーパターン列70については、隣り合うレーザーパターン列70の同じ順番及び前後の順番のレーザーパターン71の縁部どうしが重なり合う(Yが7以上の場合)。しかも、レーザーパターン71が照射される領域においては、当該領域の走査方向Sにおける最外周部を除き、レーザーパターン71どうしの隙間が存在しないようにできる。
【0106】
なお、本実施形態の場合、以下に説明する第2レーザーパターン列に含まれるレーザーパターン71の並びが、第1の実施形態(mが1の場合)におけるレーザーパターン列70のレーザーパターン71のジグザグ状の並びと同一の並びとなる。
第2レーザーパターン列は、上記レーザーパターン71aと、以下に説明するレーザーパターン71cと、からなる列である。
レーザーパターン71cは、走査方向Sの一端側(例えば
図9(b)の上端側)から数えて(y+2)列目のレーザーパターン列70(例えば
図9(b)に示すように3列目のレーザーパターン列70c)に含まれるレーザーパターン71のうち、当該レーザーパターン列70cの中心線である直線L(例えば
図9の直線L3)よりも走査方向Sの一端側に偏位しているレーザーパターン71である。
第2レーザーパターン列に含まれるレーザーパターン71の並びが、mが1の場合におけるレーザーパターン列70のレーザーパターン71のジグザグ状の並びと同一の並びとなるということは、
図9(b)の角度βがそれぞれ90°となることを意味する。
【0107】
本実施形態の場合、レーザーパターン71が照射される領域の、走査方向Sにおける最外周部を除き、レーザーパターン71の配置は第1の実施形態と同様となる。
【0108】
したがって、第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
なお、図示に基づく説明は省略するが、本実施形態のように上記角度αを2arctan(1/3)×180/π(約37°)とした場合も、角度αが2arctan(1/m)×180/πを満たさない場合と比べて、レーザーパターン71間の隙間を低減することができる。
また、ノイズの低減効果についても、第1の実施形態と同様に得ることができる。
【0109】
上記においては、走査部60として、照射ユニット30とステージ40との少なくとも一方を直線移動させるものを例示したが、走査部60は、例えば、回折光学素子20と加工対象物50との間に配置されたガルバノスキャナ又はポリゴンスキャナ等であっても良い。
【0110】
上記においては、2arctan(1/m)×180/πにおけるmの値が1の例(第1の実施形態)、mの値が2の例(第2の実施形態)、mの値が3の例(第3の実施形態)をそれぞれ説明したが、mの値が4以上の場合でも、上記の各実施形態と同様の効果が得られる。
【0111】
上記においては、走査方向Sが直線Lの延在方向に対する直交方向である例を説明したが、走査方向Sは、直線Lの延在方向に対する交差方向であれば良く、例えば、直線Lの延在方向に対して斜めの方向であっても良い。
ただし、この場合も、各レーザーパターン列70の奇数番目のレーザーパターン71が走査方向Sに一直線上に並ぶとともに、各レーザーパターン列70の偶数番目のレーザーパターン71が走査方向Sに一直線上に並ぶようにすることが好ましい。例えば、1列目のレーザーパターン列70の1番目のレーザーパターン71a、2列目のレーザーパターン列70の3番目のレーザーパターン71a、3列目のレーザーパターン列70の5番目のレーザーパターン71a等が一列に並ぶ配置や、1列目のレーザーパターン列70の1番目のレーザーパターン71a、2列目のレーザーパターン列70の5番目のレーザーパターン71a、3列目のレーザーパターン列70の7番目のレーザーパターン71a等が一列に並ぶ配置とすることなどが挙げられる。
【0112】
上記の第1の実施形態においては、mが1の場合に、隣り合う順番のレーザーパターン71の輪郭どうしが外接している例を説明した。ただし、mが1の場合において、隣り合う順番のレーザーパターン71の縁部どうしが重なり合っていたり、或いは、隣り合う順番のレーザーパターン71の輪郭どうしが離間していたりしても良い。
【0113】
また、上記においては、走査方向Sにおける最外周部を除き、隣り合うレーザーパターン列70の同じ順番及び前後の順番のレーザーパターン71の縁部どうしが重なり合う例を説明した。ただし、隣り合うレーザーパターン列70の同じ順番及び前後の順番のレーザーパターン71どうしは、互いの輪郭が外接していたり、互いの輪郭どうしが離間していたりしても良い。
以下、参考形態の例を付記する。
1.透過型の回折光学素子を透過させるか又は反射型の回折光学素子にて反射させることによりレーザーパルスを直線に沿ってジグザグ状に並ぶ複数のレーザーパターンに分岐して、前記複数のレーザーパターンからなるレーザーパターン列を加工対象物に照射することによって前記加工対象物を加工する工程を有し、
前記レーザーパターン列のレーザーパターンのうち、前記直線の一端側から数えてx番目及び(x+1)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、(x+1)番目及び(x+2)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、のなす角度αは、2arctan(1/m)×180/π(xは1以上の任意の正の整数、mは1以上の正の整数)であり、
前記加工対象物を加工する工程では、前記レーザーパターンが前記加工対象物に対して千鳥格子状に照射されるように、前記レーザーパターン列を前記直線の延在方向に対する交差方向に走査するレーザーパルスによる加工物の製造方法。
2.前記交差方向は、前記直線の延在方向に対する直交方向である1.に記載のレーザーパルスによる加工物の製造方法。
3.前記加工対象物を加工する工程では、
前記走査方向の一端側から数えてy列目(yは1以上の任意の正の整数)の前記レーザーパターン列に含まれるレーザーパターンのうち、当該レーザーパターン列の中心線である前記直線を基準として前記走査方向の他端側に偏位しているレーザーパターンと、
前記走査方向の一端側から数えて(y+m)列目の前記レーザーパターン列に含まれるレーザーパターンのうち、当該レーザーパターン列の中心線である前記直線を基準として前記走査方向の一端側に偏位しているレーザーパターンと、
が前記直線と平行に一直線上に並ぶように、前記レーザーパターン列を走査する1.又は2.に記載のレーザーパルスによる加工物の製造方法。
4.レーザーパルスを出力するレーザー出力部と、
前記レーザーパルスを透過又は反射させるとともに前記レーザーパルスを直線に沿ってジグザグ状に並ぶ複数のレーザーパターンに分岐して、前記複数のレーザーパターンからなるレーザーパターン列を加工対象物の表面上に照射する透過型又は反射型の回折光学素子と、
前記レーザーパターン列を前記加工対象物の表面上で走査する走査部と、
を有し、
前記回折光学素子は、前記レーザーパターン列のレーザーパターンのうち、前記直線の一端側から数えてx番目及び(x+1)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、(x+1)番目及び(x+2)番目のレーザーパターンの中心どうしを結ぶ線分と、のなす角度αが2arctan(1/m)×180/π(xは1以上の任意の正の整数、mは1以上の正の整数)となるように、前記レーザーパルスを分岐し、
前記走査部は、前記レーザーパターンが前記加工対象物に対して千鳥格子状に照射されるように、前記レーザーパターン列を前記直線の延在方向に対する交差方向に走査するレーザー加工装置。
5.前記交差方向は、前記直線の延在方向に対する直交方向である4.に記載のレーザー加工装置。
6.前記走査部は、
前記走査方向の一端側から数えてy列目(yは1以上の任意の正の整数)の前記レーザーパターン列に含まれるレーザーパターンのうち、当該レーザーパターン列の中心線である前記直線を基準として前記走査方向の他端側に偏位しているレーザーパターンと、
前記走査方向の一端側から数えて(y+m)列目の前記レーザーパターン列に含まれるレーザーパターンのうち、当該レーザーパターン列の中心線である前記直線を基準として前記走査方向の一端側に偏位しているレーザーパターンと、
が前記直線と平行に一直線上に並ぶように、前記レーザーパターン列を走査する4.又は5.に記載のレーザー加工装置。