(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多相巻線をN軸(N≧2)もつ永久磁石同期モータの任意の複数軸を選択して、この複数軸の各軸巻線を独立に励磁してエンコーダとモータの磁極位置の合わせを行うモータ励磁装置において、
選択された複数軸をK組(K≦N)とし、励磁電流指令を発生する位置合わせ励磁電流指令部と、前記励磁電流指令を受けて前記K組の各軸巻線に直流の励磁電流を供給する各軸励磁装置と、エンコーダの値を記憶する記憶部を備え、
前記各軸励磁装置は、前記励磁電流指令に基いて、モータ安定停止点の電流位相β0が−π/(2K) またはπ/(2K) となるように、各軸巻線の起磁力が電気的に互いにπ/Kの位相差となるようにK組の各軸巻線を直流励磁し、前記記憶部はこの直流励磁によりモータが安定停止したときのエンコーダの値を初期位置として記憶し、該初期位置がモータ安定停止点の電流位相β0= −π/(2K) またはβ0=π/(2K)に対応するものとしたことを特徴とするモータ励磁装置。
請求項1から4のいずれかに記載のモータの励磁装置で記憶部に記憶された初期位置によって、エンコーダの回転位置を補正する補正部を有し、前記補正部から出力される回転位置信号によりモータの制御を行うことを特徴とするモータ制御装置。
多相巻線をN軸(N≧2)もつ永久磁石同期モータの任意の複数軸を選択して、この複数軸の各軸巻線を独立に励磁してエンコーダとモータの磁極位置の合わせを行うモータ励磁方法において、
選択された複数軸をK組(K≦N)とし、励磁電流指令を発生する位置合わせ励磁電流指令部と、前記励磁電流指令を受けて前記K組の各軸巻線に直流の励磁電流を供給する各軸励磁装置と、エンコーダの値を記憶する記憶部を備え、
前記励磁電流指令に基いて、前記各軸励磁装置により、モータ安定停止点の電流位相β0が−π/(2K) またはπ/(2K) となるように、各軸巻線の起磁力が電気的に互いにπ/Kの位相差となるようにK組の各軸巻線を直流励磁し、この直流励磁によりモータが安定停止したときのエンコーダの値を初期位置として前記記憶部に記憶し、該初期位置がモータ安定停止点の電流位相β0= −π/(2K) またはβ0=π/(2K)に対応するものとしたことを特徴とするモータ励磁方法。
請求項6から9のいずれかに記載のモータの励磁方法により記憶された初期位置によって、エンコーダの回転位置を補正してモータの制御を行うことを特徴とするモータ制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記公知の方法はリラクタンストルクが磁石トルクより小さい通常のPMSMには有効である。しかし、リラクタンストルクが磁石トルクより大きなモータ(例えば、特開2011−83066号公報に示す永久磁石補助型リラクタンスモータ、ここでは以下、PRM(=PERMANENT MAGNET ASSISTED SYNCHRONOUS RELUCTANCE MOTOR)と略す)に適用すると、安定停止点が1点に定まらない問題がある。このことを図により説明する。
【0006】
まず、モータに直流電流を流したときの安定停止点について述べる。
図1は、d軸巻線およびq軸巻線電流ベクトルと、電流位相角βの関係を表す図である。
図1において、d軸の向きを回転子N極の向き、q軸の向きをd軸より電気的にπ/2位相が進んだ向きとする。また、電流ベクトルIaの向きと、q軸との位相角をβとする。なお、q軸は無負荷誘導起電力のベクトルの向きと等しい。また、
図1のd軸とq軸は、回転子と同期して回転する回転座標軸であり、dq軸の正回転方向は、左回転(数学的正方向)とする。従って、逆回転は右回転である。
【0007】
次に、
図2に電流位相角βとトルクの関係の、通常のPMSMの一般的な例を示す。
図2のβ−トルク特性は、2πの周期性があり、図の点A(β=β0)、点B(β=β1)でトルク0となる。ここで、電流位相角βで直流励磁した際のモータの回転子の挙動を、電流位相角βの範囲が、以下の4つの場合について示す。
(1)−π≦β<β0の範囲内のとき
トルクは負なので、回転子は右回転のトルクを発生する。すると、
図1の電流ベクトルの向きは不変の状態でdq軸が右回転するので、電流位相角βは増加する。やがては、β=β0となり、この点Aでトルク0となり停止する。
(2)β=β0またはβ=β1のとき
トルクは0なので、停止したままである。
(3)β0<β<β1の範囲内のとき
トルクは正なので、回転子は左回転のトルクを発生する。すると、
図1の電流ベクトルの向きは不変の状態でdq軸が左回転するので、電流位相角βは減少する。やがては、β=β0の点で左回転が止まり停止する。
(4)β1<β≦πの範囲内のとき
トルクは負なので、(1)と同様にβ=β0となる点で停止する。
【0008】
以上の(1)〜(4)より、直流励磁した瞬間の電流位相角βが、β≠β1ならば、β=β0となるように回転子が移動して、この点で安定停止することがわかる。また、安定停止点β0とは、電流位相角βが増加したとき、β=β0の点を境に、トルクが負から正に転じる点と言うこともできる。β=β1のときも、トルク0となり停止するが、上記より非常に不安定であり、わずかに起磁力の向きが変化しただけで、安定停止点β=β0に向かうように回転子が移動する。よって、実用上ほとんど問題とならない。
【0009】
すなわち、安定停止点は、
図2のβ−トルク特性図において、トルクが負から正に変わるところのトルクがゼロの位相になる。
【0010】
次に、PMSMの電流位相角βに関するトルク方程式について述べる。PMSMの等価回路定数において、直軸インダクタンスをLd、横軸インダクタンスをLq、誘導起電力定数をke、極対数をp、
図1の電流ベクトルIa(大きさは電流実効値と等しい)の、d軸方向の電流成分をId(=id/√3)、q軸方向の電流成分をIq(=iq/√3)とすると、一般に次式のPMSMのトルク式が知られている。
τ=p[ke×iq+(Ld−Lq)×id×iq] (式1)
Id=id/√3=―Ia×sinβ (式2)
Iq=iq/√3= Ia×cosβ (式3)
式1、式2、式3より、モータ発生トルクτは
τ=p[ke×iq+(Ld−Lq)×id×iq]
=p[ke×Ia×cosβ×√3−(3/2)×(Ld−Lq)×Ia
2×sin 2β]
=A×Ia×[cosβ+B×Ia×sin2β] (−π≦β≦π) (式4)
のように表すことができる。ここで、
A、B:定数、Ia:電流ベクトルの大きさ(電流実効値)、Ia>0、A>0である。
【0011】
式4のカッコ内の第1項は、磁石の磁束と電流の積によるトルク(一般にマグネットトルクと呼ぶ)で、カッコ内の第2項は、リラクタンストルク効果によるリラクタンストルクを表す。また、式4は、1軸の巻線(3相巻線が一組)のみを有する通常のPMSMで成立する式であるが、後述する複数軸の巻線モータに対しても、各軸の巻線のそれぞれについて式4を適用し、その総和を求めれば、各軸の巻線が発生するトルクのモータ全体の合計トルクを算出することができる。
【0012】
式4で表されるトルクにおいて、B×Iaの値によって、次の3つの場合に分けられる。
(1)−1/2≦B×Ia≦1/2の場合
これは、リラクタンストルクの割合が小さい、通常のPMSMの場合である。横軸に電流位相β、縦軸にトルクτをとったとき、式4で表されるグラフは、
図3のようになる。
図3より、−π≦β≦πで安定停止点β0(βが増加していくとき、トルクが負から正になる点)は1つだけ存在し、その値はモータ定数によらず、安定停止点β0=−π/2であることがわかる。特に、B=0(すなわちLd=Lq)の場合は、マグネットトルク項のみとなり、
図2に示したような正弦波のβ−トルク特性となる。
【0013】
以上は、モータを直流励磁したとき、安定停止点β0はただ一つβ0=−π/2だけ存在し、この安定点となるように電流ベクトルの向きに回転子のN極位置が引き寄せられることを示している。
【0014】
(2)B×Ia>1/2の場合
このときは、リラクタンストルクの割合が大きいモータであり、先に述べたPRMは、これに含まれる。式4で表されるグラフは、「B×Ia=0.8」の場合を一例として挙げると、
図4のようになる。
図4より、−π≦β≦πで安定停止点は2つ存在する(図のA点、B点)。よって、モータを直流励磁したとき、どちらの電流位相角βで安定するかは、そのときのモータがどの位相で停止していたかによって決まる。
このように、安定停止点が2点あるので、どちらの点か特定できず、停止点からはd軸位相(β=−π/2)を特定することができず、このままでは、磁極位置が定まらない。しかも、この安定停止点は、モータ定数の影響を受け、一意に定まらない。
【0015】
(3)B×Ia<−1/2の場合
上記(2)のB×Ia>1/2の場合と同じく、このときも、リラクタンストルクの割合が大きいモータである。式4で表されるグラフは、
図5のようになる。
図5より、−π≦β≦πで安定停止点β0は2つだけ存在するが、B×Ia>1/2の場合と異なるのは、その値はモータ定数によらず、安定停止点β0=−π/2またはπ/2であることであるが、B×Ia>1/2の場合と同様に、モータを直流励磁したとき、どちらの電流位相角βで安定するかは、そのときのモータがどの位相で停止していたかによって決まる。このように、安定停止点が2点あるので、どちらの点か特定できず、停止点からはd軸位相(β=−π/2)を特定することができず、このままでは、磁極位置が定まらない。
【0016】
本発明は、前記のように、リラクタンストルクの割合が大きいモータに対してなされたもので、その目的は、リラクタンストルクの割合が大きな永久磁石モータの磁極位置検出器の磁極位置合わせを行うことができる永久磁石モータのモータ励磁装置及びモータ励磁方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決すために、本発明は、多相巻線をN軸(N≧2)もつ永久磁石同期モータの任意の複数軸を選択して、この複数軸の各軸巻線を独立に励磁してエンコーダとモータの磁極位置の合わせを行うモータ励磁装置において、
選択された複数軸をK組(K≦N)とし、励磁電流指令を発生する位置合わせ励磁電流指令部と、前記励磁電流指令を受けて前記K組の各軸巻線に直流の励磁電流を供給する各軸励磁装置と、エンコーダの値を記憶する記憶部を備え、
前記各軸励磁装置は、前記励磁電流指令に基いて、各軸巻線の起磁力が電気的に互いにπ/Kの位相差となるようにK組の各軸巻線を直流励磁し、前記記憶部はこの直流励磁によりモータが安定停止したときのエンコーダの値を初期位置として記憶することを特徴とする。
【0018】
また、上記に記載のモータ励磁装置において、前記各軸励磁装置は、前記励磁電流指令に基いて、各軸巻線の起磁力の大きさが等しくなるようにK組の各軸巻線に励磁電流を供給することを特徴とする。
【0019】
また、上記に記載のモータ励磁装置において、永久磁石同期モータの直流励磁の際、前記各軸励磁装置は電流を徐々に所定値まで立ち上げるように供給することを特徴とする。
【0020】
また、上記に記載のモータ励磁装置において、永久磁石同期モータの直流励磁の際、前記各軸励磁装置は電流を所定値で供給し、回転子が停止または回転移動量がゼロになるとき、より大きな電流を流すことを特徴とする。
【0021】
また、上記に記載のモータの励磁装置で記憶部に記憶された初期位置によって、エンコーダの回転位置を補正する補正部を有し、前記補正部から出力される回転位置信号によりモータの制御を行うことを特徴とする。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明は、多相巻線をN軸(N≧2)もつ永久磁石同期モータの任意の複数軸を選択して、この複数軸の各軸巻線を独立に励磁してエンコーダとモータの磁極位置の合わせを行うモータ励磁方法において、
選択された複数軸をK組(K≦N)とし、励磁電流指令を発生する位置合わせ励磁電流指令部と、前記励磁電流指令を受けて前記K組の各軸巻線に直流の励磁電流を供給する各軸励磁装置と、エンコーダの値を記憶する記憶部を備え、
前記励磁電流指令に基いて、前記各軸励磁装置により、各軸巻線の起磁力が電気的に互いにπ/Kの位相差となるようにK組の各軸巻線を直流励磁し、この直流励磁によりモータが安定停止したときのエンコーダの値を初期位置として前記記憶部に記憶することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、請求項1、2、6、7の発明によれば、各軸巻線によって発生するリラクタンストルクのモータ全体での合計値がゼロとなるので、安定停止点β0は1点に定まり、しかもその安定停止点はモータ定数によらず、直流励磁するK組の各軸巻線の数、Kにだけ依存するので、この安定停止点β0から、モータの磁極位置(N極位置)を容易に算出することができる。
【0024】
請求項3、4、8、9の発明によれば、磁極位置合わせの際、振動トルクとならず、すばやく安定停止点に停止することができる。また、安定停止点付近のトルクを大とすることができ、より精度よく磁極位置合わせを行うことができる。
【0025】
請求項5、10の発明によれば、リラクタンストルクの割合の大きいモータにおいても、請求項1、2、6、7で安定停止点を求めた後、磁極位置を補正演算することで、通常のPMSM(リラクタンストルクの割合の小さいモータ)と同様にモータの制御を行うことを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
(実施例1)
図6は本実施例で対象とするモータ11の内部構造の断面図である。モータ11は、モータ内部から引き出されている3相巻線が複数ある、複数軸巻線モータである。この複数軸3相巻線のそれぞれを1軸巻線111、2軸巻線112…、N軸巻線11N(N≧2)と呼ぶ。また複数軸巻線の数を軸数と呼ぶ。尚、本実施例では、モータ11は3相モータで説明するが、多相モータでも本願の意図するところは実現できる。
【0028】
複数軸巻線モータ11と、通常よく製造されている1軸巻線モータとの違いについて以下に説明する。
図6では1軸巻線111、2軸巻線112、…、N軸巻線11Nと、モータのステータ11aの周方向に順に巻回されている。それぞれの軸の端子はモータ外部に引き出されている。また、
図6の各軸の巻線の両端部はそれぞれ干渉がないように巻かれているが、両者が重なる干渉域が多少あるように巻かれていても問題がない。あるいは、ステータ11aの巻線が、
図7に示す断面図のように、1軸巻線111、…、N軸巻線11Nが交互に入り組み、各軸巻線それぞれがステータの全周にわたって分散して巻回されている巻線方法であってもよい。
【0029】
以上の複数軸巻線モータの各軸巻線を、直列または並列に結線して、モータ外部に引き出して1軸巻線のみとしたものが、通常の1軸巻線モータである。よって、モータ内部の電磁気的な現象についていえば、本質的に両者は同じものである。ロータ11bはステータ11aの内側にあり、回転子表面または内部に永久磁石11cが均等に配置されている。
図6および
図7では、一例として、永久磁石11cを周方向に4個均等配置している。複数軸巻線モータ11の各軸の巻線を直流励磁することでロータ11bはトルクを発生し、安定停止点で停止する。
【0030】
複数軸巻線モータ11は、各軸独立したインバータで駆動される。1軸巻線モータに比べ、同一トルクを必要とするインバータの数は増える。しかし、そのインバータの容量は、1軸巻線モータの電流容量を軸数で割った値で済むので、小型のインバータを製造、使用することができる利点がある。
【0031】
図8は本発明実施例のモータの励磁装置011、およびそれが接続されている複数軸巻線モータ11の全体図である。
図8において、
図6および
図7と同じ番号のものは同じものを表す。エンコーダ12はモータ11の磁極位置を検出するためのもので、モータ11の回転軸に接続されている。位置合わせ励磁電流指令部100は、複数軸巻線モータ11の各軸の3相巻線に、励磁電流指令を与える。
【0032】
211、212、…、21Kはそれぞれ、1軸励磁装置、2軸励磁装置、・・・、K軸励磁装置で、それぞれ対応する1軸巻線111、2軸巻線112…、K軸巻線11Kに電流を供給する(K≦N)。1軸励磁装置211は、電流制御部(ACR)221と、PWM制御部231と、インバータ241と、電流検出器251を備えている。
【0033】
位置合わせ励磁電流指令部100により与えられた直流励磁電流指令iu1*、iv1*、iw1*は、1軸励磁装置211内の電流制御部(ACR)221に入力される。電流制御部(ACR)221は、出力される実電流を検出する電流検出器251との偏差に応じた各相の信号を出す。PWM制御部231は電流制御部(ACR)221の出力に応じて働き、インバータ241をPWM制御すし、インバータ241から1軸巻線111に直流励磁電流が供給される。こうして、1軸巻線111に流れる直流励磁電流は、位置合わせ励磁電流指令部100の指令信号に応じた値に制御される。
【0034】
位置合わせ励磁電流指令部100は、2軸励磁装置212にも、直流励磁電流指令iu2*、iv2*、iw2*を出力する。2軸励磁装置212は、1軸励磁装置211と同様の構成であり、2軸巻線112に流れる直流励磁電流は、位置合わせ励磁電流指令部100の指令信号に応じた値に制御される。
【0035】
以下同様に、位置合わせ励磁電流指令部100は、K軸励磁装置21Kにも、直流励磁電流指令iuK*、ivK*、iwK*を入力する。K軸巻線11Kに流れる電流は、位置合わせ励磁電流指令部100の指令信号に応じた値に制御される。また、励磁しないその他の各軸巻線11NK(N-K組)は開放状態とする。
【0036】
ここで、以下の式5、式6、式7に示すように、各軸巻線の3相の励磁電流指令を等しくすると、複数軸巻線モータ11の総トルクは、式4のトルク式において、軸数K倍とすることにより式8のように示すことができる。
iu1*=iu2*=…=iuK* (式5)
iv1*=iv2*=…=ivK* (式6)
iw1*=iw2*=…=iwK* (式7)
τ=K×A×Ia×[cosβ+B×Ia×sin2β] (−π≦β≦π) (式8)
式8の括弧内は、式4と等しいので、課題でも述べたように、B×Ia>1/2または、B×Ia<−1/2のときのモータ(リラクタンストルクの割合が大きいモータ。PRMも含む)では、直流励磁時の安定停止点β0が2点あるので、どちらの点か特定できず、停止点からはd軸位相(β=−π/2)を特定することができず、このままでは、磁極位置が定まらない。しかも、B×Ia>1/2の場合、この安定停止点β0は、モータ定数の影響を受け、一意に定まらないことも先述の通りである。
【0037】
この課題は以下に示すように、各軸巻線に流すUVW各相の電流指令において、互いに起磁力の大きさが等しく、電流の位相をπ/Kずつずらす直流励磁を行うことで解決できる。
【0038】
すなわち、1軸巻線111を、
iu1*=√2×Ia×sin(φ) (式9)
iv1*=√2×Ia×sin(φ−2π/3) (式10)
iw1*=√2×Ia×sin(φ+2π/3) (式11)
と励磁し、2軸巻線112を、
iu2*=√2×Ia×sin(φ−π/K) (式12)
iv2*=√2×Ia×sin(φ−π/K−2π/3) (式13)
iw2*=√2×Ia×sin(φ−π/K+2π/3) (式14)
と各巻線を励磁し、K軸巻線11Kを、
iuK*=√2×Ia×sin(φ−(K−1)π/K) (式15)
ivK*=√2×Ia×sin(φ−(K−1)π/K−2π/3) (式16)
iwK*=√2×Ia×sin(φ−(K−1)π/K+2π/3) (式17)
と励磁すれば、1軸、2軸、…、K軸とで互いに大きさが等しく、電気的にπ/Kの位相差をもつ起磁力が得られる。
【0039】
φは位相で、自身の励磁方法として決めた0〜2πの任意の一定値である。式9〜式17は、UVW相巻線に3相交流電流を指令したときの、ある瞬間の電流指令値ともいえる。したがって、式9〜式17のIa(電流ベクトルの大きさ)は、電流実効値相当であり、式4のIaと等しく、対応関係がある。このことは、励磁位相φに関係なく成り立つことも上記より自明である。
【0040】
さて、各軸巻線に流す電流の位相をπ/Kずつずらしたときの、各軸巻線により発生するトルクのモータ全体の合計トルクの式は、前記式4より、次式となる。
τ=Σ A×Ia×[cos(β−mπ/K)+B×Ia×sin(2(β−mπ/K))]
(−π≦β≦π、K≧2) (式18)
式18で、Σは、m=0からK−1までΣ内を足し合わせることを表す。
【0041】
式18で、m=0からK−1までΣ内の総和計算を行うと、Σ内の第2項のリラクタンストルク項の総和が0になり、次式となる。
τ=A×Ia×sin[β+π/(2K)]/sin[π/(2K)]
(−π≦β≦π、K≧2) (式19)
式19を図示すると
図9となる。リラクタンストルク項が0となるので、合計トルクτは電流位相角βに関する単純な正弦関数となり、−π≦β≦πの範囲で安定停止点β0がただ一つとなる。
また、その安定停止点は式19より、次式で表され、PMSMの等価回路定数の影響を受けない。
β0=−π/(2K) (式20)
以上のように各軸巻線のそれぞれをπ/Kの位相差で励磁すると、安定停止点β0はβ0=―π/(2K)の一点のみに定まり、一意的に直流励磁時の初期位置を確定することができる。
【0042】
こうして直流励磁してモータが安定停止した角度を、エンコーダ12自体の原点からの回転位置、すなわち初期位置C0として、
図8の位置記憶部101で記憶する。ここで、C0はエンコーダのカウント値である。
【0043】
次に、
図9に示すように、モータのd軸位置(磁極位置)の電流位相角βdと、安定停止点の電流位相角β0との差βeを演算する。
βe=−π/2+π/(2K) (式21)
式21のβeを、エンコーダカウント値Ceに換算し、先に記憶した、直流励磁したときの安定停止点の回転位置C0に足し合わせることにより、エンコーダ自体の原点からのモータのd軸位置(磁極位置)のカウント値Cdを得る。
Cd=C0+Ce (式22)
式22のカウント値Cdを原点にリセットする補正を行い、磁極位置合わせを完了する。このようにして最初の磁極位置合わせを行えば、以後は通常の運転を行うことができる。
【0044】
位置記憶部101での位置の値はEEPROMのような不揮発性メモリに記憶させれば制御電源をオフにしても値が保持され、製品製造後の磁極位置合わせは、エンコーダを交換したときなど、モータ軸とエンコーダの相対位置が変更された最初だけ行えばよい。
【0045】
また、位置合わせ励磁電流指令部100からの指令に基く直流励磁により、モータ11の磁極位置合わせを行う際は、時刻t=0から電流を徐々に立ち上げ、時刻t=tendで所定値となるように立ち上げるようにすれば、最初から所定電流を与えるよりも、トルクが安定停止点βを通り過ぎるような振動トルクを防止でき、安定的に停止させることが可能となる。t=tendの見極めは、モータの回転位置が一定となる付近、または回転速度がゼロとなる付近とする等、ロータ3の停止付近を見計らえば良い。
【0046】
また、t=0で直流励磁したとき、ロータ3が回転し始め、そして停止するが、停止する付近t=tendで、短時間、より大きな電流を流し、起磁力を大きくするように切り替えるようにすれば、安定停止点への引き込みトルクを大とし、より精度の良い磁極位置合わせを可能とする。停止付近の電流切り替えタイミングは、先と同様に、ロータの停止付近を見計らえばよい。
【0047】
図10に、以上の原理に基づいたモータの励磁装置021と複数軸巻線モータ11(K≧2軸)の全体図を示す。
図10で、
図8と同じ番号のものは同じものをあらわす。複数軸巻線モータ11の励磁方法は、
図8のモータ励磁装置011で述べた方法と同様である。
【0048】
021は本実施例1に記載の他の複数軸巻線モータ11の励磁装置である。モータの励磁装置021では、エンコーダ12の回転位置情報を、位置合わせ励磁電流指令部100に帰還させている。位置合わせ励磁指令部100では、先述の直流励磁電流指令が電流変更指令(108の下段に示す)としてアルゴリズムが実装されており、このアルゴリズムとエンコーダ12の回転位置情報、およびこれをもとに演算した回転速度情報をもとに、電流指令を行う。
【0049】
電流変更指令は、
図10の108aの上段に示すように、ロータ3の回転位置が一定となる(すなわち停止)付近の時刻tendを見計らい、このとき所定電流となるように立ち上げる指令(108aの下段に示す)、または
図10の108bの上段に示すように、ロータ3の回転速度が0となる付近の時刻tendを見計らい、このとき所定電流となるように立ち上げる指令(108bの下段に示す)、または
図10の108cの上段に示すように、ロータ3の回転位置が一定となる付近の時刻tendを見計らい、このとき短時間、より大きな電流を流す指令(108cの下段に示す)、または
図10の108dの上段に示すように、ロータ3の回転速度が0となる付近の時刻tendを見計らい、このとき短時間、より大きな電流を流す指令(108dの下段に示す)、またはこれらを組み合わせた指令である。
【0050】
安定停止点に止まったら、このときの停止位置を位置記憶部101で記憶する。この停止位置をもとに補正を行い、以後は通常の運転を行う。
【0051】
以上述べた磁極位置合わせの手順を、エンコーダ12を交換したときを例にとって
図11の制御フローで説明する。
【0052】
ステップ101(S101)でエンコーダ12を交換すると磁極位置合わせが必要となるので、装置を磁極位置合わせモードにする(S102)。このとき、必要ならばモータのブレーキ開放などを行い、無負荷に近い状態にする。磁極位置合わせモードでは、まず、N軸ある各軸巻線のうちK組の巻線を取り出し、これらを励磁する装置を1軸励磁装置211、2軸励磁装置212、…、K軸励磁装置21KのK軸(K個)に分ける(S103)。そして、各軸の励磁装置のそれぞれに所定の電流指令を与えて位置合わせ運転を行う(S104)。所定の電流指令は、1軸励磁装置211には前記式9および式10および式11、2軸励磁装置212には前記式12および式13および式14、…、K軸励磁装置21Kには前記式15および式16および式17で示した値とする。
【0053】
このようにして位相φが一定の直流電流を流して、各軸巻線を直流励磁すると、モータは安定停止点β0まで動き、停止する。そして、この回転停止位置をエンコーダ12自体の原点からの回転位置すなわち、初期位置として位置記憶部101で記憶する(S105)。この初期位置をもって、モータの磁極位置を補正演算する(S106)。こうして、モータの磁極位置が確定できるので、この磁極位置を利用しながら通常の運転に入る(S107)。
【0054】
図12は通常運転時の、モータ制御装置012、およびそれが接続されている複数軸巻線モータ11の制御ブロック図である。
図12において部品番号が
図8と同じものは同一物である。複数軸巻線モータ11はN軸あり、各軸それぞれ独立の制御装置311、312、…31Nで駆動されるが、駆動方式そのものは永久磁石モータのベクトル制御として周知の方法である。
【0055】
エンコーダ12からの回転位置信号は、位置記憶部101に記憶される初期位置を用いて補正部102で補正され、磁極位置からの回転位置信号として補正部102から出力される。それは速度演算部103により速度信号に変換されて速度制御部104に入力される。速度制御部104は速度指令信号と速度信号との偏差に応じて働き、トルク指令信号としてd、q軸の電流成分を指令するId*、Iq*演算部105に入力される。Id*、Iq*演算部105では、トルク指令に応じたd、q軸の電流成分を指令する演算を行う。例えば、トルク指令に応じた電流で、同一電流でも複数軸巻線モータ11のトルクが最大となるような電流成分を指令する最大トルク制御演算を行い、それぞれの成分の電流を指令する。
【0056】
1軸制御装置311の、Id/Iq電流制御部321(Id/IqACR)は、電流指令に従い、電流検出器251の電流検出値を座標変換部371により座標変換した電流検出値との偏差に応じて働き、電圧指令を出力する。この信号は座標変換部361で各相の電圧指令に変換され、PWM制御部231に入力される。こうしてインバータ241によりPWM制御が実行され、1軸電流はId*、Iq*演算部321に応じて制御される。他の軸の電流も、全く同一の方法で制御される。これらの制御演算は前記のように、永久磁石モータのベクトル制御として周知である。
【0057】
また、本実施例では、複数軸巻線のモータ端子がそれぞれ独立して引き出されているモータについて示したが、モータ内部で複数軸巻線構造になっているモータにも適用できる。すなわち、前記複数軸巻線モータ11の各軸巻線(1軸巻線111、2軸巻線112、…、N軸巻線11N)を、モータ内部または端子箱内で直列または並列に接続することにより、モータ端子で見かけ上1軸巻線になるモータにも適用できる。このモータでは、結線前に本実施例の方法を用いて磁極位置合わせを行うことが容易かつ可能である。
【0058】
また、本実施例では、式9〜式17に示したように、巻線間の位相ずらし量を−π/Kとしたが、+π/Kとしてもよい。この場合、各巻線軸が発生するトルクのモータ全体の合計トルクの安定停止点β0は、π/(2K)となる。安定停止点の電流位相角が変わるだけで、その他は前記の励磁装置と同じ構成のモータ励磁装置を構成すれば同様に実施できるのは言うまでもない。
【0059】
また、リラクタンストルクの影響が磁石トルクより小さくなるようにK組の各軸巻線を励磁して、磁石トルクを支配的にするのが本発明の基本ポイントであるから、各軸巻線の起磁力が同じ大きさでなくとも良く、また、電気的にπ/Kちょうどの位相差でなくても安定点は1箇所にできるのは言うまでもない。ここで、最大トルクを与える電流位相βは、最適な電流位相に対してその前後±3°以内ならば、ほぼ同じトルク値となり、実用上問題ないことが多い。
【0060】
一例として、N=2軸のモータの場合で、2軸目の電流バランスが1軸目より5%大きくなったときを説明する。式4において、1軸目において、
B×Ia=0.8 (式23)
2軸目を、
B×Ia=0.8×1.05 (式24)
とする。これより、電流位相角βに対する、1軸巻線と2軸巻線により発生するトルクの合計トルクを
図13に示す。安定停止点はただ一つで、その値はβ0≒−47°となり、最適な電流位相に対してその前後±3°以内である。
図13で中太線は1軸β−トルク特性、細線は2軸β−トルク特性、太線は1軸と2軸の合成トルクを表す。
【0061】
また、5%減少する場合は(B×Ia=0.95)、安定停止点β0≒−43でやはり安定停止点はただ一つである(図示せず)。真の安定停止点がβ0=−π/4=−45°であるので、やはり±3°以内に収まっており、問題はない。
【0062】
以上のように、各巻線軸の電流バランスに少しのズレがあっても本発明の意図するところは実現できる。
【0063】
また、本実施例では、各軸巻線を励磁する際、位置あわせ励磁電流指令部100から各軸の励磁装置に電流指令して、各軸の電流を制御して励磁する構成を示しているが、この方法によらず、複数軸巻線モータ11の各軸のUVW相端子に可変直流電源を直接接続する構成でも、本発明の意図は達成できる。
【0064】
図14に、K=2軸でモータを励磁する場合の構成を示す。
図14に示すように、1軸巻線111のU−VW間に可変直流電源105aを接続し、2軸巻線112のW−V間に可変直流電源105bを接続している。1軸巻線の可変直流電源105aと、1軸巻線111間には、シャント抵抗106aが挿入されている。シャント抵抗106a間の電圧を、電圧/電流変換表示装置107aにより、電流に変換して表示できるようにしており、この表示を見ながら可変直流電源105aの出力電圧を調節することで直流電流を調節することができる。
【0065】
同様に、2軸巻線の可変直流電源105bと2軸巻線112間にも、シャント抵抗106bが挿入され、電圧/電流変換表示装置107bにより、電流値表示している。ここで、1軸巻線111に流す直流電流をIに調節し、2軸巻線112に流す直流電流を(√3/2)×I(≒0.866I)に調節すれば、2軸巻線起磁力は、1軸巻線起磁力と大きさが等しく、位相差がπ/2となり、先に述べたように、安定停止点を一点(β0=−π/4)とすることができ、磁極位置合わせの初期位置を一意的に確定することができる。
【0066】
次に、
図15に、K=3軸でのモータを励磁する場合の構成を示す。
図15に示すように、1軸巻線111のU−VW間に可変直流電源105cを接続し、2軸巻線112のUW−V間に可変直流電源105dを接続し、3軸巻線113のW−UV間に可変直流電源105eを接続している。各3軸の巻線には、K=2軸で励磁する場合と同様に、シャント抵抗106c、106d、106eが挿入され、電圧/電流変換表示装置107c、107d、107eにより、電流値表示している。ここで、1軸巻線111、2軸巻線112、3軸巻線113に流す直流電流をIに調節すれば、2軸巻線起磁力は、1軸巻線起磁力と大きさが等しく、位相差がπ/3となり、3軸巻線起磁力は、1軸巻線起磁力と大きさが等しく、位相差が2π/3となり、先に述べたように、安定停止点を一点(β0=−π/6)とすることができ、磁極位置合わせの初期位置を一意的に確定することができる。
【0067】
Kの値がこれ以上でも、
図14、
図15と同様の装置構成をとり、複数軸巻線モータ11の各軸巻線の起磁力と位相差を調節することで安定停止点を一点とすることができるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0068】
11 複数巻線モータ
111 1軸巻線
112 2軸巻線
113 3軸巻線
11N N軸巻線
11a ステータ
11b ロータ
11c 永久磁石
011 実施例1に記載の複数軸巻線モータ11の励磁装置
12 エンコーダ
100 位置合わせ励磁電流指令部
211 1軸励磁装置
212 2軸励磁装置
21K K軸励磁装置
11K 実施例1のモータ11の第K軸巻線
11NK 実施例1のモータ11のその他の巻線
221 電流制御部(ACR)
231 PWM制御部
241 インバータ
251 電流検出器
101 位置記憶部
021 実施例1に記載の他の複数軸巻線モータ11の励磁装置
108 電流変更指令
108a 電流変更指令の一つの例
108b 電流変更指令の他の一つの例
108c 電流変更指令の他の一つの例
108d 電流変更指令の他の一つの例
012 通常運転時の複数軸巻線モータ11の制御装置
102 位置記憶部101に記憶される初期位置を用いて補正する補正部
103 速度演算部
104 速度制御部
105 Id*、Iq*演算部
321 Id/Iq電流制御部
361 直交2軸座標系から三相交流座標系への座標変換部
371 三相交流座標系から直交2軸座標系への座標変換部
311 通常運転時の1軸制御装置
312 通常運転時の2軸制御装置
31N 通常運転時のN軸制御装置
105a、105b、105c、105d、105e 可変直流電源
106a、106b、106c、106d、106e シャント抵抗
107a、107b、107c、107d、107e 電圧/電流変換表示装置