特許第5985925号(P5985925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985925
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】重金属含有廃液の処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/62 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
   C02F1/62 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-181427(P2012-181427)
(22)【出願日】2012年8月20日
(65)【公開番号】特開2014-36941(P2014-36941A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100093942
【弁理士】
【氏名又は名称】小杉 良二
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 琢也
(72)【発明者】
【氏名】千田 祐司
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−002251(JP,A)
【文献】 特開昭57−105284(JP,A)
【文献】 特開昭51−078555(JP,A)
【文献】 特開昭47−009966(JP,A)
【文献】 特開平02−160095(JP,A)
【文献】 実開昭51−005869(JP,U)
【文献】 特開2006−102559(JP,A)
【文献】 特開昭50−030359(JP,A)
【文献】 特開昭52−023862(JP,A)
【文献】 特開昭60−118288(JP,A)
【文献】 特開昭49−003467(JP,A)
【文献】 特開昭52−123550(JP,A)
【文献】 特開昭51−086254(JP,A)
【文献】 特開昭52−059951(JP,A)
【文献】 特開昭54−022953(JP,A)
【文献】 特開昭52−075855(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第2292378(GB,A)
【文献】 英国特許出願公開第2113199(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58− 1/64
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理方法であって、当該廃液に酸を添加しpHを6〜7の中性付近に調整し、廃液中の析出物を沈殿・分離した後、前記析出物を分離した後の上澄液としての廃液に鉄塩を添加し、鉄塩を添加した後に当該廃液に酸を添加して当該廃液のpHを2〜4に一旦下げた後に、アルカリ金属の水酸化物を添加し、pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させることにより、当該廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする重金属含有廃液の処理方法。
【請求項2】
重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理方法であって、当該廃液に酸を添加しpHを6〜7の中性付近に調整し、次に鉄塩を添加し、次に混合廃液のpHが2〜4になるように酸を添加し、次にアルカリ金属の水酸化物を添加し、pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させることにより、当該廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする重金属含有廃液の処理方法。
【請求項3】
前記鉄塩は二価の鉄塩であることを特徴とする請求項1または2記載の重金属含有廃液の処理方法。
【請求項4】
重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理装置であって、廃液を収容する反応槽と、鉄塩を供給する配管と、酸を供給する配管と、アルカリ金属の水酸化物を供給する配管と、固液分離装置とを備え、
前記反応槽において廃液に酸を添加しpHを6〜7の中性付近に調整し、当該廃液に鉄塩を添加した後、混合廃液のpHが2〜4になるように酸を添加し、アルカリ金属の水酸化物を添加し、pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、前記廃液から重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させ、前記固液分離装置において前記廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする重金属含有廃液の処理装置。
【請求項5】
重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理装置であって、
廃液を収容する第一の反応槽と、酸を供給する配管と、pH測定手段と、廃液のpHに応じて酸の供給量を制御する制御装置と、第一の固液分離装置とを備え、
廃液を収容する第二の反応槽と、鉄塩を供給する配管と、アルカリ金属の水酸化物を供給する配管と、第二の固液分離装置とをさらに備え、
前記第一の反応槽において廃液に酸を添加しpHを6〜7の中性付近に調整し、廃液中の析出物を前記第一の固液分離装置で分離した後、前記析出物を分離した後の上澄液としての廃液を前記第二の反応槽に移送し、
前記第二の反応槽において前記廃液に鉄塩を添加した後、酸を添加して廃液のpHを2〜4に下げた後にアルカリ金属の水酸化物を添加し、pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、前記廃液から重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させ、前記第二の固液分離装置により前記廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする重金属含有廃液の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する重金属含有廃液の処理方法及び装置に関し、より詳細には、銅および銅と錯体を形成するアミン類を含有する廃液から、銅を分離・除去する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銅等の重金属類を含む廃液から重金属類を除去する方法として、一般に重金属類がアルカリ性条件の下、不溶性の重金属の水酸化物を形成することを利用し、これを固液分離することで、重金属類を除去することが広く実施されている。
一方、重金属類を含有する廃液の中には、重金属と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液がある。これらの廃液の例として、銅とモノエタノールアミンを含有する廃液が挙げられる。
【0003】
このような錯化剤を含有する廃液は、重金属イオンが錯化剤と錯体を形成するため、アルカリ条件下でも重金属イオンは水酸化物を形成せず、廃液中で重金属イオン(錯イオン)の状態のまま溶存した状態で存在する。このため、錯化剤を含有する重金属類含有廃液は水酸化物沈殿法による重金属類の分離除去が困難である。
【0004】
このような錯化剤を含む重金属含有廃液処理方法の例として、例えば特許第1457646号(特許文献1)には、カルシウム化合物と鉄化合物を添加することで、銅を除去することが開示されている。この方式では銅錯体を含む廃液に鉄イオンを添加することで、錯体中の銅が鉄と置換され、銅イオンが遊離状態となる。さらにカルシウム化合物を添加することで、錯体中の鉄イオンがカルシウムイオンに置換され、アルカリ条件下で鉄と銅の水酸化物が沈殿することで廃液から銅を沈殿物の形態で分離・除去するものである。
【0005】
本発明者らは、ある銅含有錯体廃液の処理に特許文献1の方法を適用したところ、当該廃液に塩化鉄と水酸化カルシウムを添加した場合、廃液中の銅の約95%程度を除去できることは確認した。しかし、なお処理水中に銅が60mg/L程度残留しているため、放流先の条件によっては別途銅を除去する必要があった。また、廃液にカルシウム化合物を大量に添加すると、廃液に硫酸イオンが含まれる場合、不溶性の塩である硫酸カルシウム(石膏)が析出するという問題がある。また、アルカリ条件下では炭酸カルシウムが析出し、これらが反応槽や配管、撹拌機などに析出し、極端な場合には配管閉塞などの問題を引き起こすことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第1457646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、錯化剤を含む重金属含有廃液から重金属類を分離・除去し、良好な水質の処理水を得る重金属含有廃液の処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明の重金属含有廃液の処理方法は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理方法であって、当該廃液に酸を添加しpHを6〜7の中性付近に調整し、廃液中の析出物を沈殿・分離した後、前記析出物を分離した後の上澄液としての廃液に鉄塩を添加し、鉄塩を添加した後に当該廃液に酸を添加して当該廃液のpHを2〜4に一旦下げた後に、アルカリ金属の水酸化物を添加し、pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させることにより、当該廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、重金属類を含む廃液であり、重金属と錯体を形成する錯化剤が共存している廃液を処理することができる。重金属としては、銅、クロム、亜鉛、ニッケル、マンガンなどが挙げられる。廃液に含まれている錯化剤としては、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。このような廃液の例として、アルカリ性で溶解性の銅を含む無電解めっき廃液が挙げられる。
廃液に添加するアルカリ金属の水酸化物として水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられるが、入手性や価格などを考慮すると水酸化ナトリウム溶液の利用が適切である。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、前記鉄塩は二価の鉄塩であることを特徴とする。
廃液に添加する鉄塩としては、溶液中で二価の鉄イオンとなる塩化鉄(II)(FeCl)や硫酸鉄(II)(FeSO)の使用が適切である。塩化鉄(III)のような三価の鉄塩も本発明の処理に使用することが可能であるが、三価の鉄塩では処理水に残留する重金属類濃度が、二価の鉄塩を使用した場合に比べて高くなることがあるため、要求される処理水質に応じて選定することが好ましい。
【0011】
本発明によれば、前記鉄塩を添加した後で前記アルカリ金属の水酸化物を添加する前に、当該廃液に酸を添加して当該廃液のpHを一旦下げた後に、前記アルカリ金属の水酸化物を添加してpHをアルカリ条件に上昇させる
鉄塩を添加した後の廃液は一般にpHが低下するが、鉄塩を添加することに加え、酸を添加してpHをさらに下げることで処理水中の重金属類の濃度を低減できる。廃液の処理実験を行ったところ、廃液に鉄塩の一種である塩化鉄(II)を添加後、さらに酸を添加しpH2〜4.5とした後にアルカリ金属の水酸化物を添加する処理を行うことで、処理水中の銅濃度を約0.9〜0.1mg/Lに低減することができるという効果が認められた(図3参照)。酸を添加しpHを調整することにより、錯体から重金属イオンを遊離しやすくすることができると考えられる。従って、あらかじめ小スケールでの試験を実施し、要求される処理水水質(銅の許容濃度)に応じて鉄塩添加後のpH調整の際の適切なpH値を決めておくことが好ましい。このように酸添加の効果が認められる廃液の場合には、処理設備には反応槽内のpH測定設備を設け、鉄塩添加後の廃液のpHを所望のpHに維持できるように、反応槽に酸を添加する制御を行うことが望ましい。
【0012】
本発明によれば、前記廃液に前記鉄塩を添加する前に、当該廃液に酸を添加しpHを6以上の中性付近に調整し、廃液中の析出物を沈殿・分離した後、前記析出物を分離した後の上澄液としての廃液に前記鉄塩を添加する
図4(定性分析化学II,共立出版,1974年発行,376頁より引用)に示すように、銅の溶解性はpH6以下になると急激に増加することが知られている。そのため、銅を水酸化物として沈殿させるためにはpH6以上でアルカリ条件にすることが望ましい。
一方、重金属と錯体を形成するアミノ基を有する錯化剤(以下、単にアミン類と称す)は、水中では以下のような平衡状態にあると考えられる。
HO−R−NH + H ←→ HO−R−N
(R:炭化水素鎖)
錯化剤含有廃液のアルカリ度が強くなると、この反応の平衡は左に進み、廃液中でのHO−R−NHの形態の分子の割合が多くなると考えられる。一方、廃液が酸性になると廃液中に水素イオン(H)が増えるため、この平衡は右に進み、HO−R−Nの割合が多くなると考えられる。
ここでアミン類と重金属である銅イオンとの錯体を考えると、アミン類が陽電荷をもたないHO−R−NHの形態では、銅イオンCuと安定した錯体を形成できるが、陽電荷をもつHO−R−Nの形態では、銅イオンの陽電荷とアミノ基の陽電荷が反発し、錯体が不安定になると考えられる。従って、銅−アミン錯体から銅イオンを遊離させ、分離・除去しやすくするためには廃液のpHを下げることが有効と考えられる。
このように、銅−アミン錯体からの銅イオン遊離のためにはpHが低い方が良いが、遊離した銅イオンが沈殿するためにはpH6以上であることが望ましい。このため、処理対象の廃液の重金属類の濃度が高い場合には、鉄塩を添加する前に、塩酸などの酸を添加することにより、あらかじめ廃液のpHを6〜7の中性程度まで低下させ、廃液中の一部の重金属類を析出させたのち、これを分離・除去することにより、廃液中の重金属類がある程度除去されるため、次の処理で添加する鉄塩量を減らすことができる。
【0013】
本発明の重金属含有廃液の処理方法は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理方法であって、当該廃液に酸を添加しpHを6〜7の中性付近に調整し、次に鉄塩を添加し、次に混合廃液のpHが2〜4になるように酸を添加し、次にアルカリ金属の水酸化物を添加し、pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させることにより、当該廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする。
処理対象の廃液の重金属類の濃度が高い場合には、鉄塩を添加する前に、塩酸などの酸を添加することにより、段落〔0012〕に記載したように廃液のpH値と銅の溶解度の関係及び廃液のpH値と銅−アミン錯体からの銅イオンの遊離しやすさの関係からあらかじめ廃液のpHを6〜7の中性付近まで低下させ、廃液中の一部の重金属類を析出させる。その後鉄塩を添加すると廃液のpHが低下するが、鉄塩を添加することに加え、pHが2〜4になるように酸を添加することにより段落〔0011〕に記載したように錯体から重金属イオンを遊離させその後水酸化物として析出させるため処理水中の銅濃度を低減することが可能である。
【0014】
本発明の重金属含有廃液の処理装置は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理装置であって、廃液を収容する反応槽と、鉄塩を供給する配管と、酸を供給する配管と、アルカリ金属の水酸化物を供給する配管と、固液分離装置とを備え、前記反応槽において廃液に酸を添加しpHを6〜7の中性付近に調整し、当該廃液に鉄塩を添加した後、混合廃液のpHが2〜4になるように酸を添加し、アルカリ金属の水酸化物を添加し、pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、前記廃液から重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させ、前記固液分離装置において前記廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする。
【0015】
本発明の処理装置によれば、前記反応槽において廃液に前記鉄塩を添加する前に、当該廃液に酸を添加しpHを6以上の中性付近に調整する
処理対象の廃液の重金属類の濃度が高い場合には、段落〔0012〕に記載したように鉄塩を添加する前に、塩酸などの酸を添加することにより、あらかじめ廃液のpHを6〜7の中性付近まで低下させ、ある程度の重金属類を析出させるため、次の処理で添加する鉄塩量を減らすことができる。
【0016】
本発明の重金属含有廃液の処理装置は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理装置であって、廃液を収容する第一の反応槽と、酸を供給する配管と、pH測定手段と、廃液のpHに応じて酸の供給量を制御する制御装置と、第一の固液分離装置とを備え、廃液を収容する第二の反応槽と、鉄塩を供給する配管と、アルカリ金属の水酸化物を供給する配管と、第二の固液分離装置とをさらに備え、前記第一の反応槽において廃液に酸を添加しpHを6〜7の中性付近に調整し、廃液中の析出物を前記第一の固液分離装置で分離した後、前記析出物を分離した後の上澄液としての廃液を前記第二の反応槽に移送し、前記第二の反応槽において前記廃液に鉄塩を添加した後、酸を添加して廃液のpHを2〜4に下げた後にアルカリ金属の水酸化物を添加し、pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、前記廃液から重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させ、前記第二の固液分離装置により前記廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以下に列挙する効果を奏する。
(1)重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液に塩化鉄とアルカリ金属の水酸化物を添加することで、重金属類を分離・除去し、良好な水質の処理水を得ることができる。また、液体キレート剤を使用する場合に発生する可能性のある有害ガスの発生を抑えることができる。
(2)重金属類を含む廃液の一般的な処理方法である水酸化物沈殿法の適用が困難である重金属類と錯化剤とを含有する廃液を処理することができる。本発明では、錯化剤と錯体を形成した重金属を、鉄イオンとアルカリ金属イオンで置換することで、重金属類を沈殿しやすい状態に変化させることにより、重金属類を分離・除去できる。
(3)不溶性の塩を形成しにくいアルカリ金属の水酸化物を添加することで、汚泥発生量を抑制しながらアルカリ条件を達成して、重金属と鉄とを固形物として沈殿させることが可能となる。また、配管閉塞などの問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明で用いる、錯化剤を含む重金属含有廃液の処理装置の一態様を示す模式図である。
図2】本発明で用いる、錯化剤を含む重金属含有廃液の処理装置の別の一態様を示す模式図である。
図3】鉄塩を添加後のpHと処理水の銅濃度の関係の一例を示すグラフである。
図4】pHに対する銅の溶解性を示すグラフである。
図5】鉄の添加量と処理水の銅濃度の関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の処理対象となる廃液は、重金属類を含む廃液であり、さらに重金属と錯体を形成する錯化剤が共存している廃液である。処理対象となる重金属としては、銅、クロム、亜鉛、ニッケル、マンガンなどが挙げられる。廃液に含まれている錯化剤としては、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。このような廃液の具体例として、アルカリ性で溶解性の銅を含む無電解めっき廃液が挙げられる。
【0020】
本発明による処理方法においては、まず最初に当該廃液に鉄塩を添加する。処理対象の廃液に添加する鉄塩としては、溶液中で二価の鉄イオンとなる塩化鉄(II)(FeCl)や硫酸鉄(II)(FeSO)の使用が適切である。なお、塩化鉄(III)のような三価の鉄塩も本発明の処理に使用することが可能である。しかし、三価の鉄塩では処理水に残留する重金属類濃度が、二価の鉄塩を使用した場合に比べて高くなることがあるため、要求される処理水質に応じて選定することが好ましい。
鉄塩の添加量は、処理対象廃液中の重金属類に対してモル比で決めることができる。図5に、銅含有廃液に塩化鉄(II)を添加し処理した場合の鉄の添加量と処理水銅濃度の関係の一例をグラフで示す。図5に示すように、鉄濃度が高くなるほど処理水銅濃度が低くなる傾向が認められ、廃液中の銅に対し鉄量をモル比で8.7倍量以上とすると処理水銅濃度が1mg/L以下となった。従って、鉄塩の添加量はあらかじめ小スケールでの試験を行うことにより、要求される処理水水質に応じて適切な鉄塩の添加量を決めておくことが好ましい。
【0021】
鉄塩を添加した後の廃液は一般にpHが低下するが、本発明者らの試験によれば鉄塩を添加することに加え、酸を添加してpHをさらに下げることで処理水中の重金属類の濃度を低減できる場合があった。このため、あらかじめ小スケールでの処理試験を実施し、酸添加の効果を検討し、必要な処理水質に応じて適切なpHを決定しておくことが好ましい。
また、酸添加の効果が認められる廃液の場合には、処理設備には反応槽内のpH測定設備を設け、鉄塩添加後の廃液のpHを所望のpHに維持できるように、反応槽に酸を添加する制御を行うことが望ましい。
【0022】
次に、pH調整後の廃液に、アルカリ金属の水酸化物を添加する。廃液に添加するアルカリ金属の水酸化物として水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられるが、入手性や価格などを考慮すると水酸化ナトリウム溶液の利用が適切である。
溶液中ではナトリウムイオンはカルシウムイオンと比較して不溶性の塩を形成しにくいため、操作や維持管理の面で水酸化ナトリウムの利用は水酸化カルシウムより有利である。
【0023】
当該廃液にアルカリ金属の水酸化物を添加し、pHをアルカリ条件下に調整すると、析出物が生成する。この析出物には水酸化鉄(II)を含むと考えられる汚泥と共に重金属類の水酸化物が含まれる。ここで二価の鉄イオンはpH10以上で溶解度が低下することが知られており、pHを10以上になるようにアルカリ剤を注入する制御を行うことが望ましい。
本発明による各薬品類の添加量は、あらかじめ小スケールでの処理試験を実施し、重金属類濃度が目標水質を満たすように注入率を決めるとよい。また、各薬品は固体・液体のいずれでも注入可能であるが、操作がしやすいことから溶液での注入が適切である。
【0024】
当該廃液に析出した生成物には水酸化鉄(II)や重金属類の水酸化物が含まれており、これらを固液分離することで、廃液から重金属類を分離・除去することができる。分離方法としては、沈降分離、凝集沈殿、ろ過などの一般的な固液分離方法を適用することができるが、固液分離方法の選定は析出物の性状に応じて適切な方法を選択することが好ましい。
【0025】
本処理方法では、重金属類は除去できるものの錯化剤はそのまま廃液中に残留するため、重金属を除去した後の廃液は、必要に応じて生物処理などの後処理を併用することで錯化剤を除去することが望ましい。また、本処理方法の後で重金属類がわずかに残留する場合の対策として、後段にキレート樹脂吸着設備や液体キレート剤の添加設備を併設することによって廃液に残留するわずかな重金属を除去することも可能である。
また、重金属除去後の廃液中の錯化剤は、重金属類が混入すると再び重金属錯体を形成し、除去しにくい錯イオン状態で重金属類が残留することになるので、重金属類を含む廃液と混合しないような処理方式を選択すべきである。
【0026】
本処理法の適用に当たり、処理対象の廃液の重金属類の濃度が高い場合、添加する鉄塩量も増加する。この対策の一例として、鉄塩を添加する前に廃液のpHを6〜7の中性付近まで低下させることが挙げられる。この方法は、塩酸などの酸を添加することにより、あらかじめ廃液のpHを6〜7の中性付近まで低下させ、重金属類の一部を析出させたのち、これを分離・除去する。この方法により、廃液中の重金属類がある程度除去されるため、次の処理で添加する鉄塩量を減らすことができる。
【0027】
この方法が適用できる廃液の一例としてアミン類を含む銅廃液が挙げられる。錯化剤がアミン類の場合、pHを低下させることで錯化剤中のアミノ基に水素イオンが配位しプラスの荷電状態となるため、配位したプラスの電荷をもつ重金属イオンは遊離しやすくなる。
一方、重金属の一種である銅イオンの溶解度はpHが6未満となると急激に増加することが知られている。このため、廃液のpHを6〜7の中性付近に調整することで銅−アミン錯体からの銅イオンをある程度遊離させつつ、遊離した銅を水酸化物として析出させ、分離・除去することが可能となる。
このように重金属類の溶解度とアミン類の性質を利用し、適切なpHに調整することで廃液中の重金属類濃度を低減することが可能となり、鉄塩の添加量も低減できる。
【0028】
処理対象の廃液の重金属類の濃度が高い場合の別な処理方法として、廃液に酸を添加しpHを低下させ、ある程度の重金属類を析出させておき、その後、鉄塩およびアルカリ金属類の水酸化物を添加する方法がある。この方法では、上述の方法と比較して、生成したスラリーの分離・除去操作を1回に減らすことが可能である。
【0029】
本発明の処理方法を実施するための廃液の処理装置(以下、「本発明の処理装置」という)としては、鉄塩を供給する配管、酸を供給する配管、アルカリ金属の水酸化物を供給する配管、pH測定手段、廃液のpHに応じて酸及びアルカリ金属の水酸化物の供給量を制御する制御装置を備えた処理装置が挙げられる。
【0030】
本発明の処理装置の一態様を図1に模式的に示す。本発明の処理対象となる重金属含有廃液は、重金属類を含む廃液であり、さらに重金属と錯体を形成する錯化剤が共存している廃液である。図1に示すように、本発明の処理装置は、重金属含有廃液10を収容する反応槽1と、反応槽1内の重金属含有廃液10に鉄塩を供給する配管11と、酸を供給する配管12と、アルカリ金属の水酸化物を供給する配管13とを備えている。本発明の処理装置は、さらにpH測定手段(図示省略)と、廃液のpHに応じて酸及びアルカリ金属の水酸化物の供給量を制御する制御装置(図示省略)とを備えている。
【0031】
図1に示す本発明の処理装置では、反応槽1内の重金属含有廃液10に配管11を通して鉄塩が添加される。鉄塩が添加された後、配管12を通して酸が添加され、廃液のpHが調整される。次に配管13を通してアルカリ金属の水酸化物が反応槽1に供給される。反応槽1内で処理された廃液10は固液分離装置2に移送され、固液分離装置2において固液分離され、処理水14と重金属を含むスラリー15とに分離される。
【0032】
また、本発明の処理方法を実施するための別の処理装置としては、図1に示す処理装置に廃液のpHを予め下げる反応槽を加えた処理装置が挙げられる。すなわち、本発明の処理装置は、pH測定手段、酸を供給する配管、pHに応じて酸の供給量を調整する機能を持つ制御装置、廃液を貯留・撹拌する第一の反応槽を備えている。本発明の処理装置は、鉄塩を供給する配管、酸を供給する配管、アルカリ金属の水酸化物を供給する配管、pHに応じて酸又はアルカリ金属の水酸化物の供給量を調整する機能を持つ制御装置、第二の反応槽を備えている。
【0033】
本発明の処理装置の別の一態様を図2に模式的に示す。図2に示す態様においては、第一の反応槽21内に重金属含有廃液10が移送され、廃液10に配管22を通して酸を添加することにより廃液のpHを6〜7に下げるように調整し、廃液10は第一の反応槽21内で貯留・攪拌される。第一の反応槽21内で処理された廃液10は固液分離装置23に移送されて、固液分離装置23において固液分離され、スラリー25が分離除去される。その後、廃液10は第二の反応槽31に移送される。第二の反応槽31内の重金属含有廃液10に配管32を通して鉄塩が添加される。鉄塩が添加された後、配管33を通して酸が添加され、廃液のpHが調整される。次に配管34を通してアルカリ金属の水酸化物が第二の反応槽31に供給される。第二の反応槽31内で処理された廃液10は固液分離装置35に移送されて、固液分離装置35において固液分離され、処理水36と重金属を含むスラリー37とに分離される。
【0034】
次に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
実施例1では、重金属として銅、錯化剤としてモノエタノールアミンを含む廃液を処理した。廃液の性状は、pHが6.5、銅濃度が355mg/L、CODCr(二クロム酸カリウムによる化学的酸素要求量)が77,400mg/Lであった。
当該廃液の処理操作は、当該廃液に塩化鉄(II)を、廃液中の銅に対し、鉄のモル比が約11倍量となるように添加した。その後、塩酸を添加しpHを2〜3程度に低下させ、5分以上放置した。次に、当該廃液に水酸化ナトリウムを添加しpH10に調整した。pH調整後、凝集沈殿により析出したスラリーを分離・除去し、処理水を得た。処理水を水質分析したところ、銅濃度は0.2mg/Lであった。また、汚泥発生量は約5700mg/Lであった。
【0035】
比較例1
比較例1では、重金属として銅、錯化剤としてモノエタノールアミンを含む廃液を処理した。廃液の性状はpHが6.5、銅濃度が220mg/L、CODCrが50,200mg/Lであった。比較例1での処理廃液は、成分は実施例1と同じであるが、銅濃度及びCODCrの濃度がやや低い性状であった。
比較例1では当該廃液に塩化鉄(II)を廃液中の銅に対し、鉄のモル比が約12倍量となるように添加した。その後、塩酸を添加しpHを2〜3程度に低下させ、5分以上放置した。次に、当該廃液に水酸化カルシウムを添加し、pH10に調整した。pH調整後、凝集沈殿により析出したスラリーを分離・除去し、処理水を得た。処理水を分析したところ、銅濃度は0.5mg/Lであり、実施例1よりやや銅濃度が高くなった。また、汚泥発生量は約9800mg/Lであり、実施例1より汚泥発生量が増加した。実施例1の廃液と比較して廃液中の銅濃度が低いにもかかわらず、汚泥発生量が増加した。この原因としてカルシウムが水酸化カルシウムまたは不溶性のカルシウム塩として析出したことが考えられ、不溶性の塩を形成しにくい水酸化ナトリウムを用いた実施例1と比較して汚泥発生量が増加したと考えられる。
【0036】
実施例2
実施例2では、実施例1と同様に重金属として銅、錯化剤としてモノエタノールアミンを含む廃液を処理した。廃液の性状は、pHが13.7、銅濃度が2,160mg/L、CODCrが138,000mg/Lであった。
本廃液の処理に当たり、まず最初に廃液のpHを約6に調整し、析出したスラリーを凝集沈殿により分離・除去した。この処理により、廃液中の銅イオン濃度は約350mg/Lに低減した。次に、スラリーを分離・除去したあとの廃液(処理水)に塩化鉄(II)を添加した。この時の塩化鉄(II)の添加量は、銅に対する鉄量がモル比で約2.7倍になるように設定した。次に塩酸を添加し、pHを2〜3程度に低下させ5分間放置した。
次に、当該廃液に水酸化ナトリウムを添加しpHを10に調整した。pH調整後、析出したスラリーを再度凝集沈殿させ、分離・除去した後に処理水を得た。処理水を分析したところ、銅濃度は0.2mg/Lであり、良好な水質の処理水が得られた。
【0037】
実施例3
実施例3では、実施例2と同じ排液を処理した。すなわち、重金属として銅、錯化剤としてモノエタノールアミンを含む廃液を処理した。廃液の性状は、pHが13.7、銅濃度が2,160mg/L、CODCrが138,000mg/Lであった。
実施例3では、最初にpHを約6に調整したのち、塩化鉄(II)を添加した。塩化鉄(II)の添加量は実施例2と同様に銅に対する鉄量がモル比で約2.7倍量となるように設定した。次に塩酸を添加し、pHを2〜3程度に低下させ5分間放置した。
次に、当該廃液に水酸化ナトリウムを添加しpHを10に調整した。pH調整後、析出したスラリーを凝集沈殿させ、分離・除去した後に処理水を得た。処理水を分析したところ、銅濃度は77mg/Lであった。実施例3では、銅除去は可能であるものの、実施例2と比較してみると残留している銅の量がわずかに多くなっている。
【0038】
実施例4
実施例4では、実施例1と同じ廃液を処理した。すなわち、重金属として銅、錯化剤としてモノエタノールアミンを含む廃液を処理した。廃液の性状は、pHが6.5、銅濃度が355mg/L、CODCrが77,400mg/Lであった。
当該廃液の処理操作は、当該廃液に塩化鉄(II)を廃液中の銅に対し、鉄のモル比が約11倍量となるように添加した。その後、塩酸を添加しpHを2〜4.5の間で変化させた。その後、実施例1と同様の操作を行い、処理水を得た。
処理水のpHと銅濃度の関係を図3に示す。図3に示すように塩化鉄(II)を添加した後のpH調整では、pHを2〜4.5の間で変化させているが、pHが低いほど処理水中の銅濃度が低くなる傾向が認められた。例えば、処理水中の銅濃度を0.5mg/L未満とするためには、塩化鉄添加後のpHを3.5以下にするとよいことが図3のグラフより確認された。以上の結果より、必要とされる処理水の銅濃度に応じて、塩化鉄を添加した後のpH調整の度合いを変えるとよい。
【0039】
実施例5
実施例5では、重金属として銅、錯化剤としてモノエタノールアミンを含む廃液を処理した。廃液の性状は、pHが6、銅濃度が466mg/Lであった。
当該廃液の処理操作においては、当該廃液に塩化鉄(II)を廃液中の銅に対し、鉄のモル比で約4〜10倍量となるように添加した。その後、塩酸を添加しpHを2程度に低下させ、5分以上放置した。
次に、当該廃液に水酸化ナトリウムを添加しpHを10に調整した。pH調整後、凝集沈殿により析出したスラリーを分離・除去し、処理水を得た。
廃液中の銅に対して添加する鉄のモル比を約4〜10倍量の間で変化させ、処理水の銅濃度を調べた。鉄/銅のモル比と処理水の銅濃度の関係を図5に示す。図5に示すように鉄添加量が増えるに従い処理水銅濃度が低下する傾向が認められ、鉄/銅比が8.7以上で処理水銅濃度が1mg/L以下になった。
【0040】
実施例6
実施例6では、実施例1と同じ廃液を処理した。すなわち、重金属として銅、錯化剤としてモノエタノールアミンを含む廃液を処理した。廃液の性状は、pHが6.5、銅濃度が355mg/L、CODCrが77,400mg/Lであった。
当該廃液の処理操作においては、当該廃液に硫酸鉄(II)を廃液中の銅に対し、鉄のモル比が約11倍量となるように添加した。その後、塩酸を添加しpHを2〜3程度に低下させ、5分以上放置した。
次に、当該廃液に水酸化ナトリウムを添加しpHを10に調整した。pH調整後、凝集沈殿により析出したスラリーを分離・除去し、処理水を得た。処理水を水質分析したところ、銅濃度は0.3mg/Lであり、塩化鉄の添加に代えて硫酸鉄を添加しても本法による処理が可能であった。
【0041】
実施例7
実施例7では、実施例1と同じ廃液を処理した。すなわち、重金属として銅、錯化剤としてモノエタノールアミンを含む廃液を処理した。廃液の性状は、pHが6.5、銅濃度が355mg/L、CODCrが77,400mg/Lであった。
当該廃液の処理操作においては、当該廃液に塩化鉄(III)を廃液中の銅に対し、鉄のモル比が約8倍量となるように添加した。その後、塩酸を添加しpHを2程度に低下させ、30分以上放置した。
次に、当該廃液に水酸化ナトリウムを添加しpHを10に調整した。pH調整後、凝集沈殿により析出したスラリーを分離・除去し、処理水を得た。処理水を水質分析したところ、銅濃度は約100mg/Lであり、塩化鉄(II)を添加した実施例1と比較して銅濃度が高くなったものの塩化鉄(III)でも本法による銅の低減が可能であった。
【0042】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
1 反応槽
2,23,35 固液分離装置
21 第一の反応槽
31 第二の反応槽
10 重金属含有廃液
11,32 鉄塩供給配管
12,33 酸供給配管
13,34 アルカリ金属水酸化物供給配管
14,36 処理水
15,25,37 スラリー
図1
図2
図3
図4
図5