【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明の重金属含有廃液の処理方法は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理方法であって、
当該廃液に酸を添加しpHを6〜7の中性付近に調整し、廃液中の析出物を沈殿・分離した後、前記析出物を分離した後の上澄液としての廃液に鉄塩を添加し、鉄塩を添加した後に当該廃液に酸を添加して当該廃液のpHを2〜4に一旦下げた後に、アルカリ金属の水酸化物を添加し、
pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させることにより、当該廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、重金属類を含む廃液であり、重金属と錯体を形成する錯化剤が共存している廃液を処理することができる。重金属としては、銅、クロム、亜鉛、ニッケル、マンガンなどが挙げられる。廃液に含まれている錯化剤としては、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。このような廃液の例として、アルカリ性で溶解性の銅を含む無電解めっき廃液が挙げられる。
廃液に添加するアルカリ金属の水酸化物として水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられるが、入手性や価格などを考慮すると水酸化ナトリウム溶液の利用が適切である。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、前記鉄塩は二価の鉄塩であることを特徴とする。
廃液に添加する鉄塩としては、溶液中で二価の鉄イオンとなる塩化鉄(II)(FeCl
2)や硫酸鉄(II)(FeSO
4)の使用が適切である。塩化鉄(III)のような三価の鉄塩も本発明の処理に使用することが可能であるが、三価の鉄塩では処理水に残留する重金属類濃度が、二価の鉄塩を使用した場合に比べて高くなることがあるため、要求される処理水質に応じて選定することが好ましい。
【0011】
本発
明によれば、前記鉄塩を添加した後で前記アルカリ金属の水酸化物を添加する前に、当該廃液に酸を添加して当該廃液のpHを一旦下げた後に、前記アルカリ金属の水酸化物を添加してpHをアルカリ条件に上昇させる
。
鉄塩を添加した後の廃液は一般にpHが低下するが、鉄塩を添加することに加え、酸を添加してpHをさらに下げることで処理水中の重金属類の濃度を低減できる。廃液の処理実験を行ったところ、廃液に鉄塩の一種である塩化鉄(II)を添加後、さらに酸を添加しpH2〜4.5とした後にアルカリ金属の水酸化物を添加する処理を行うことで、処理水中の銅濃度を約0.9〜0.1mg/Lに低減することができるという効果が認められた(
図3参照)。酸を添加しpHを調整することにより、錯体から重金属イオンを遊離しやすくすることができると考えられる。従って、あらかじめ小スケールでの試験を実施し、要求される処理水水質(銅の許容濃度)に応じて鉄塩添加後のpH調整の際の適切なpH値を決めておくことが好ましい。このように酸添加の効果が認められる廃液の場合には、処理設備には反応槽内のpH測定設備を設け、鉄塩添加後の廃液のpHを所望のpHに維持できるように、反応槽に酸を添加する制御を行うことが望ましい。
【0012】
本発
明によれば、前記廃液に前記鉄塩を添加する前に、当該廃液に酸を添加しpHを6以上の中性付近に調整し、廃液中の析出物を沈殿・分離した後、前記析出物を分離した後の上澄液としての廃液に前記鉄塩を添加する
。
図4(定性分析化学II,共立出版,1974年発行,376頁より引用)に示すように、銅の溶解性はpH6以下になると急激に増加することが知られている。そのため、銅を水酸化物として沈殿させるためにはpH6以上でアルカリ条件にすることが望ましい。
一方、重金属と錯体を形成するアミノ基を有する錯化剤(以下、単にアミン類と称す)は、水中では以下のような平衡状態にあると考えられる。
HO−R−NH
2 + H
+ ←→ HO−R−N
+H
3
(R:炭化水素鎖)
錯化剤含有廃液のアルカリ度が強くなると、この反応の平衡は左に進み、廃液中でのHO−R−NH
2の形態の分子の割合が多くなると考えられる。一方、廃液が酸性になると廃液中に水素イオン(H
+)が増えるため、この平衡は右に進み、HO−R−N
+H
3の割合が多くなると考えられる。
ここでアミン類と重金属である銅イオンとの錯体を考えると、アミン類が陽電荷をもたないHO−R−NH
2の形態では、銅イオンCu
2+と安定した錯体を形成できるが、陽電荷をもつHO−R−N
+H
3の形態では、銅イオンの陽電荷とアミノ基の陽電荷が反発し、錯体が不安定になると考えられる。従って、銅−アミン錯体から銅イオンを遊離させ、分離・除去しやすくするためには廃液のpHを下げることが有効と考えられる。
このように、銅−アミン錯体からの銅イオン遊離のためにはpHが低い方が良いが、遊離した銅イオンが沈殿するためにはpH6以上であることが望ましい。このため、処理対象の廃液の重金属類の濃度が高い場合には、鉄塩を添加する前に、塩酸などの酸を添加することにより、あらかじめ廃液のpHを6〜7の中性程度まで低下させ、廃液中の一部の重金属類を析出させたのち、これを分離・除去することにより、廃液中の重金属類がある程度除去されるため、次の処理で添加する鉄塩量を減らすことができる。
【0013】
本発明の重金属含有廃液の処理方法は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理方法であって、当該廃液に酸を添加しpHを
6〜7の中性付近に調整し、次に鉄塩を添加し、次に混合廃液のpHが2〜4になるように酸を添加し、次にアルカリ金属の水酸化物を添加し、
pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させることにより、当該廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする。
処理対象の廃液の重金属類の濃度が高い場合には、鉄塩を添加する前に、塩酸などの酸を添加することにより、段落〔0012〕に記載したように廃液のpH値と銅の溶解度の関係及び廃液のpH値と銅−アミン錯体からの銅イオンの遊離しやすさの関係からあらかじめ廃液のpHを6〜7の中性付近まで低下させ、廃液中の一部の重金属類を析出させる。その後鉄塩を添加すると廃液のpHが低下するが、鉄塩を添加することに加え、pHが2〜4になるように酸を添加することにより段落〔0011〕に記載したように錯体から重金属イオンを遊離させその後水酸化物として析出させるため処理水中の銅濃度を低減することが可能である。
【0014】
本発明の重金属含有廃液の処理装置は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理装置であって、廃液を収容する反応槽と、鉄塩を供給する配管と、
酸を供給する配管と、アルカリ金属の水酸化物を供給する配管と、固液分離装置とを備え、前記反応槽において
廃液に酸を添加しpHを6〜7の中性付近に調整し、当該廃液に鉄塩を添加した後、
混合廃液のpHが2〜4になるように酸を添加し、アルカリ金属の水酸化物を添加し、
pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、前記廃液から重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させ、前記固液分離装置において前記廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする。
【0015】
本発明の処理装
置によれば、前記反応槽において廃液に前記鉄塩を添加する前に、当該廃液に酸を添加しpHを6以上の中性付近に調整する
。
処理対象の廃液の重金属類の濃度が高い場合には、段落〔0012〕に記載したように鉄塩を添加する前に、塩酸などの酸を添加することにより、あらかじめ廃液のpHを6〜7の中性付近まで低下させ、ある程度の重金属類を析出させるため、次の処理で添加する鉄塩量を減らすことができる。
【0016】
本発明の重金属含有廃液の処理装置は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理装置であって、廃液を収容する第一の反応槽と、酸を供給する配管と、pH測定手段と、廃液のpHに応じて酸の供給量を制御する制御装置と、第一の固液分離装置とを備え、廃液を収容する第二の反応槽と、鉄塩を供給する配管と、アルカリ金属の水酸化物を供給する配管と、第二の固液分離装置とをさらに備え、前記第一の反応槽において廃液に酸を添加しpHを
6〜7の中性付近に調整し、廃液中の析出物を前記第一の固液分離装置で分離した後、前記析出物を分離した後の上澄液としての廃液を前記第二の反応槽に移送し、前記第二の反応槽において前記廃液に鉄塩を添加した後、
酸を添加して廃液のpHを2〜4に下げた後にアルカリ金属の水酸化物を添加し、
pHを10以上のアルカリ条件に上昇させ、前記廃液から重金属類と鉄を含む固形物を沈殿させ、前記第二の固液分離装置により前記廃液より重金属類を分離・除去することを特徴とする。