(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ニッケル冷間圧延帯は、例えば電池のリード材として使用されている。この場合、0.2mm以下の箔状で使用され、特に携帯型電子機器用の電池向けの場合は0.1mm以下で使用されることが多い。
【0003】
ニッケル冷間圧延帯は、通常、純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金を鋳造してスラブとし、熱間圧延後、脱スケールを行い、冷間圧延及び焼鈍を繰り返して目的の厚みに仕上げることにより得られる。ここで、熱間圧延後の脱スケールは、スケール厚が厚いことや、熱間圧延時に発生する表面疵等を鑑みると、酸洗のみで脱スケール及び表面疵を除去することは生産性の観点から困難である。そのため、ショットブラスト処理や研磨材を用いた研磨処理(例えば、コイルグラインダー(CG)による研磨処理)等の機械的な脱スケール及び疵取り手段を併用して、被圧延材の表面の脱スケール及び表面疵の除去を行っている。
【0004】
ショットブラスト処理は、通常、鉄製の小球やグリッド等の投射材を被圧延材の表面に吹き付けることによって行われる。ここで、被圧延材の表面に投射材が残存したとしても、その後の酸洗等で被圧延材から投射材を溶解又は脱落させて除去することが可能である。
一方、研磨材を用いて研磨処理を施す場合、一定の確率で研磨材の一部が被圧延材の表面に押し込まれることとなる。研磨材はアルミナやジルコニア等の酸に不溶な成分を主成分とするため、被圧延材の表面に押し込まれた研磨材を通常の酸洗によって除去することは困難である。このような場合において、研磨材が表面に押し込まれたまま被圧延材を冷間圧延すると、研磨材が被圧延材よりも硬質であるため、圧延時に破砕される等して、被圧延材の圧延方向に線状の欠陥を生じさせ、問題となっていた。特に、携帯型電子機器の電池に使用される厚さ0.1mm以下のリード材にあっては、接続信頼性を確保するためこのような欠陥が無いことが強く要求されている。そのため、このような欠陥が発生した場合は欠陥部分を切り落としたうえで製品として出荷することとなり、歩留まりが著しく低下してしまう問題があった。
【0005】
純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金の冷間圧延帯に生じる線状疵の問題に対しては、従来ほとんど対策が取られておらず、酸洗を強化する以外に有効な方策がなかった。酸洗によって被圧延材表面に押し込まれた研磨材を除去する場合は、処理に長時間が必要となるとともに、酸による被圧延材の溶解ロスも大きくなって、生産性の悪化やコストアップの原因となっていた。
【0006】
なお、被圧延材の表面を研磨した後で酸洗を行う方法として、特許文献1、2に、研削性を有するブラシロールでのブラッシング処理と、塩化第二鉄を含有する水溶液からなる電解液中で陽極電解処理とを行う方法が開示されている。しかしながら、当該方法は、脱スケール速度を向上させるためのものであり、被圧延材の表面に押し込まれた研磨材の除去に関しては何ら着目していない。そもそも、特許文献1、2において対象となる被圧延材はステンレス鋼であり、純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金と比較して硬度が高く、被圧延材の表面に研磨材が押し込まれるといった問題は生じ難いため、ブラッシング処理後の酸洗によって研磨材を容易に脱落除去できると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金の被圧延材表面に押し込まれた研磨材に起因する線状疵の発生を防止可能な、ニッケル冷間圧延帯の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意研究を進めたところ、純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金の被圧延材表面に押し込まれた研磨材に対しては、塩化第二鉄水溶液を用いて所定の条件にてスプレー酸洗することにより、塩化第二鉄水溶液による研磨材及び材料界面の溶解作用と、スプレー打力による機械的な除去効果との相互作用によって、材料溶解量を抑制しつつ効率的且つ経済的に研磨材を除去することができ、ニッケル冷間圧延帯の表面欠陥を低減することができることを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
本発明は、研磨材を用いて、純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金の被圧延材の表面を研磨する、研磨工程と、当該研磨工程の後で、被圧延材に対して、濃度が20°Be以上47°Be以下、温度が40℃以上の塩化第二鉄水溶液を用いて、スプレー圧が0.1MPa以上のスプレー酸洗を行う、スプレー酸洗工程と、当該スプレー酸洗工程の後、被圧延材に対して、冷間圧延及び焼鈍を1回以上行う、圧延工程と、を備え
、上記研磨工程の前に、被圧延材の表面にショットブラスト処理を施す、ショットブラスト工程と、被圧延材の表面を酸洗する、酸洗工程と、を備える、
純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金の冷間圧延帯の製造方法である。
【0011】
本発明において「研磨材」とは、純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金の被圧延材よりも硬質で、被圧延材表面の脱スケールや疵取りが可能なものであればよい。「°Be」はボーメ度であり、塩化第二鉄水溶液の比重(s.g.)から、(ボーメ度)=144.3×(1−1/(s.g.))なる式によって得られる濃度を意味する。
【0012】
本発明においては、コイルグラインダーにより研磨工程を行うことが好ましい。被圧延材表面の脱スケール及び疵取りを、より効率的に行うことができるためである。なお、コイルグラインダーによる研磨は、ブラシロールを用いたブラッシングよりも研削量が多く、それゆえ、より多くの研磨材が被圧延材の表面に押し込まれることとなるが、本発明においてはこのような場合でも、押し込まれた研磨材を適切に除去することができる。
【0013】
本発明において、研磨材がアルミナ及び/又はジルコニアを含んでなることが好ましい。被圧延材表面の脱スケール及び疵取りが、一層容易となるためである。
【0014】
本発明において
は、研磨工程の前に、被圧延材の表面にショットブラスト処理を施す、ショットブラスト工程と、被圧延材の表面を酸洗する、酸洗工程とを備え
る。研磨工程の前に脱スケールができ、最終的に表面状態が一層良好な冷間圧延帯を得ることができるためである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、被圧延材を研磨した後、所定の条件にてスプレー酸洗するものとしている。これにより、研磨時に被圧延材の表面に押し込まれた研磨材を適切に除去することができる。すなわち、本発明によれば、純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金の被圧延材表面に押し込まれた研磨材に起因する線状疵の発生を防止可能な、ニッケル冷間圧延帯の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
被圧延材表面を研磨材によって研磨する場合(特に、研磨布や砥石を用いてコイルグラインダー(CG)により研磨する場合)、研磨材(例えば砥粒)の脱落は不可避である。脱落した研磨材は、ある程度の確率で被圧延材の表面に押し込まれ、これを防ぐことは技術的に極めて困難である。研磨材が被圧延材の表面に押し込まれた状態のまま、被圧延材を冷間圧延した場合、圧延中に研磨材が破砕する等して、被圧延材表面に圧延方向に線状の疵が発生してしまう。
【0018】
一方で、研磨材を用いた研磨を行わずに、酸を用いた溶解処理のみによって被圧延材の脱スケールや表面疵(熱延疵)の除去を行うことで、研磨材の押し込みを防止できることは明白であるが、溶解処理のみでは、表面疵を除去するのに長時間を要し、また、溶解用の薬液を別途用意する必要があり、さらには、長時間の溶解処理によって被圧延材自体の溶解量も多くなることから、製品歩留まりやコストが悪化してしまう。
【0019】
これに対し本発明に係るニッケル冷間圧延帯の製造方法においては、研磨材を用いた表面研磨と、従来にない塩化第二鉄水溶液のスプレー酸洗による表面仕上げとを組み合わせたことに特徴を有しており、表面研磨によって、効率的に表面疵を除去することができる一方で、スプレー酸洗によって、押し込まれた研磨材を適切に除去することができ、その後、被圧延材を冷間圧延した場合でも上記線状疵の発生を防止することができる。
【0020】
すなわち、本発明に係るニッケル冷間圧延帯の製造方法は、研磨材を用いて、純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金の被圧延材の表面を研磨する、研磨工程と、研磨工程の後で、被圧延材に対して、濃度が20°Be以上47°Be以下、温度が40℃以上の塩化第二鉄水溶液を用いて、スプレー圧が0.1MPa以上のスプレー酸洗を行う、スプレー酸洗工程と、スプレー酸洗工程の後、被圧延材に対して、冷間圧延及び焼鈍を1回以上行う、圧延工程とを備えることに特徴を有する。
【0021】
<被圧延材>
本発明が対象とする被圧延材は、軟質で研磨材が押し込まれやすく、塩化第二鉄水溶液に溶けやすい材料からなる。具体的には、純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金が対象となる。
【0022】
純ニッケルは、約99%のニッケルと、特性を改善するための成分、或いは不純物として、リン、硫黄、クロム、モリブデン、銅、アルミニウム、チタン、マグネシウム、カルシウム、水素、窒素、酸素等とを含んでなるものである。例えば、JIS H4551で規定されるNW2200やNW2201が該当する。
【0023】
ニッケル基合金は、50%以上のニッケルを含有する合金で、例えばJIS H4551で規定されるNW4400やNW4402(モネル合金)或いはJIS C2531で規定されるPC(パーマロイ)等が例示される。
【0024】
鉄−ニッケル合金は、比較的多く(20%以上50%未満)のニッケルを含有する鉄基の合金で、例えば、JIS C2531で規定されるPD(インバー合金)やPB(パーマロイ)等が例示される。
【0025】
被圧延材は熱間圧延されて得られたものが好ましい。例えば、上記の純ニッケル、ニッケル基合金又は鉄−ニッケル合金を溶解して、吹酸・脱炭精錬を行った後、連続鋳造機にて鋳造して厚スラブとし、当該厚スラブを熱間圧延機によって所定の厚みに圧延して得られたホットコイルを、本発明に係る被圧延材として用いることができる。
【0026】
<冷間圧延帯の製造プロセス>
(研磨工程)
本発明に係る製造方法では、研磨工程において、上記した被圧延材の表面を、研磨材を用いて研磨する。研磨工程により、被圧延材表面の脱スケールや疵除去が可能である。
【0027】
研磨工程において用いる研磨材としては、被圧延材よりも硬質な材料からなり、被圧延材表面を研磨可能な材料であればよく、特にアルミナ及び/又はジルコニアを採用することが好ましい。この場合、研磨材は研磨布の状態で、或いは、砥石の状態で用いることが可能である。研磨工程においては、研磨材の一部が脱落して、一定の確率で被圧延材の表面に押し込まれることとなる。
【0028】
研磨材を用いて被圧延材の表面を研磨する具体的な形態としては、ブラシロールを用いた形態、コイルグラインダー(CG)による形態等、種々の形態を適用することができる。特に本発明においては、研磨工程がコイルグラインダー(CG)により行われることが好ましい。被圧延材表面の脱スケール及び疵取りを効率的に行うことができるためである。なお、コイルグラインダーによる研磨は、ブラシロールを用いたブラッシングよりも研削量が多く、それゆえ、より多くの研磨材が被圧延材の表面に押し込まれることとなるが、本発明においてはこのような場合でも、後述のスプレー酸洗工程によって、押込まれた研磨材を適切に除去することができる。
【0029】
(スプレー酸洗工程)
本発明に係る製造方法では、研磨工程の後、被圧延材に対して、濃度が20°Be以上47°Be以下、温度が40℃以上の塩化第二鉄水溶液を用いて、スプレー圧が0.1MPa以上のスプレー酸洗を行う。
【0030】
本発明においては、塩化第二鉄水溶液のボーメ度(°Be)が所定範囲となるようにする。ボーメ度は、塩化第二鉄水溶液の比重(s.g.)から、(ボーメ度)=144.3×(1−1/(s.g.))なる式により得られる濃度である。本発明において塩化第二鉄水溶液の濃度が20°Beを下回ると、溶解速度が低下するとともに液の劣化速度が速くなり不安定となる。一方、濃度が47°Beを超えると、塩化第二鉄水溶液の粘度が上昇し溶解速度が低下する。本発明においては、実操業において高い溶解速度を確保する観点から、塩化第二鉄水溶液の濃度が30°Be以上45°Be以下であることが好ましい。
【0031】
本発明において塩化第二鉄水溶液の温度は40℃以上とする。温度の上限は好ましくは70℃以下である。塩化第二鉄水溶液の温度が40℃を下回ると溶解速度が低下する。一方、温度が70℃を超過すると、溶解速度が上昇する観点からは好ましいが、スプレー酸洗工程を実施するために耐熱性を有する設備が必要となる。
【0032】
本発明において塩化第二鉄水溶液のスプレー圧は、被圧延材の表面に押し込まれた研磨材を機械的に除去するために、0.1MPa以上とする必要がある。上限は特に限定されるものではないが、高圧であるほど高価な設備が必要となるため、経済性の観点から上限は通常2MPa程度である。
【0033】
なお、スプレー酸洗工程の時間は特に限定されるものではないが、被圧延材の表面に押し込まれた研磨材を確実に除去する観点からは、1〜7分程度とすることが好ましい。
【0034】
(圧延工程)
研磨工程、スプレー酸洗工程を経た被圧延材は、冷間圧延及び焼鈍を1回以上繰り返すことによって、所定の厚みの圧延帯とされる。冷間圧延条件や焼鈍条件、さらには繰り返し回数については、目的とする最終製品のスペック等に応じて適宜決定すればよい。例えば、電池のリードとして採用可能な圧延帯を得る場合は、厚み0.2mm以下の箔状となるまで、特に携帯機器用の電池向けの場合は厚み0.1mm以下となるまで、冷間圧延及び焼鈍を繰り返す。
【0035】
研磨材の押し込みに起因した線状疵は、製品の厚みが薄いものほど致命的となり易い。それゆえ、上記のように電池のリード等を製造する場合において本発明に係る製造方法を採用することで、製品の歩留まりを著しく向上させることができる。
【0036】
このように、本発明に係る製造方法においては、研磨材によって被圧延材表面を研磨した後、塩化第二鉄水溶液によって所定の条件にてスプレー酸洗するものとしている。これにより、研磨時に被圧延材の表面に押し込まれた研磨材を適切に除去することができる。すなわち、本発明によれば、被圧延材の脱スケール、表面疵除去を適切に行うことができるとともに、被圧延材表面に押し込まれた研磨材に起因する線状疵の発生を防止することができる。
【0037】
本発明に係るニッケル冷間圧延帯の製造方法の好ましい形態について説明する。
図1に一実施形態に係る本発明のニッケル冷間圧延帯の製造方法S10を示す。
図1に示すように製造方法S10は、熱間圧延により得られた被圧延材を大気焼鈍して脱水素等を行う大気焼鈍工程S1、被圧延材の表面にショットブラスト処理を施すショットブラスト工程S2、被圧延材の表面を酸洗する酸洗工程S3、ショットブラスト処理及び酸洗により脱スケール済の被圧延材の表面を研磨する研磨工程S4、研磨時に被圧延材の表面に付着した油分を除去するアルカリ脱脂工程S5、研磨時に被圧延材の表面に押し込まれた研磨材を除去するスプレー酸洗工程S6及び被圧延材の冷間圧延及び焼鈍を繰り返す圧延工程S7を備えている。
【0038】
すなわち、製造方法S10においては、既に説明した研磨工程、スプレー酸洗工程、圧延工程に加え、研磨工程S4の前に、大気焼鈍工程S1、ショットブラスト工程S2及び酸洗工程S3を備え、スプレー酸洗工程S6の前にアルカリ脱脂工程S5を備えている。製造方法S10において、研磨工程S4、スプレー酸洗工程S6及び圧延工程S7については、既に説明した通りである。以下、大気焼鈍工程S1、ショットブラスト工程S2、酸洗工程S3及びアルカリ脱脂工程S5について説明する。
【0039】
(大気焼鈍工程)
大気焼鈍工程S1は被圧延材の脱水素等を目的とする工程である。例えば温度900℃で均熱時間数分(例えば1〜2分)にて、大気雰囲気下で焼鈍を行うことで、製造中に母材に浸入した水素を取り除くことができる。母材に浸入した水素は、後工程の焼鈍中に母材内部に存在する酸化物系介在物等に集積して水素ガスとなり、いわゆる「膨れ」と称される欠陥となることがある。この欠陥は、電池のリード材等に適用される0.2mm以下の薄材において特に顕著となるため、このような箔状の圧延帯を得る場合に、大気焼鈍工程S1を行うことが好ましい。ただし、脱水素が必要ない場合は大気焼鈍工程S1を省略してもよい。
【0040】
(ショットブラスト工程)
ショットブラスト工程S2は、後述の酸洗工程S3とともに、被圧延材の表面に生成した酸化スケールを除去するための工程である。ショットブラスト工程S2においては、通常、鉄製の球やグリッド等の投射材を被圧延材の表面に吹き付け、衝突による機械的エネルギーによって脱スケール等を行う。ショットブラスト条件については特に限定されるものではなく、従来公知の条件をそのまま採用することができる。
【0041】
(酸洗工程)
酸洗工程S3は、被圧延材の表面に生成した酸化スケールを除去するほか、ショットブラスト工程S2により被圧延材の表面に残存する投射材を除去する工程である。酸洗工程S3は、被圧延材と酸溶液とを接触させる工程であり、上記したスプレー酸洗工程のように酸溶液を吹き付けて被圧延材の表面にスプレー打力を与える形態に限られるものではない。例えば、被圧延材を酸溶液へと浸漬する工程、或いは、被圧延材に酸溶液を流しかける工程等、種々の形態を採用することが可能である。
【0042】
酸洗工程S3において用いられる酸としては硝ふっ酸が好ましい。具体的には、ふっ酸濃度が1〜5%で硝酸濃度が5〜15%の硝ふっ酸水溶液を用いることが好ましい。また、酸洗工程S3において、酸溶液の温度は40℃以上70℃以下とすることが好ましい。酸溶液の濃度や温度が上記範囲を下回る場合、酸洗に要する時間が長くなり、或いは、酸洗そのものが不十分となって酸化スケールが残存し、その後の研磨工程S4において研削性に悪影響を及ぼす。一方で、酸溶液の濃度や温度が上記範囲を超える場合、酸洗時間が短くなる観点からは好ましいが、酸濃度が高くなり過ぎて酸洗反応を制御することが困難となる。
【0043】
ショットブラスト工程S2及び酸洗工程S3を経ることで被圧延材の脱スケールが可能である。ここで、被圧延材の脱スケール率(母材地肌が表れている面積率)は、出来るだけ高いほうが好ましく、概ね90%以上が好ましい。
【0044】
(アルカリ脱脂工程)
研磨工程S4において、特にコイルグラインダー(CG)によって研磨処理を施す場合は、被圧延材の表面に油分が付着・残存することとなる。この場合は、スプレー酸洗工程S6の前にアルカリ脱脂工程S5を行い、被圧延材の表面の油分を除去することが好ましい。アルカリ脱脂に用いるアルカリ溶液としては、被圧延材の表面性状に悪影響を及ぼさずに油分を除去できるものであれば特に限定されるものではない。
【0045】
以上の通り、大気焼鈍工程S1、ショットブラスト工程S2、酸洗工程S3及びアルカリ脱脂工程S5を備えたニッケル冷間圧延帯の製造方法によれば、被圧延材の脱水素、脱スケール及びスプレー酸洗における研磨材除去を、一層適切に行うことができる。ただし、上述したように本発明は、ニッケル被圧延材の冷間圧延において、被圧延材表面に研磨材が押し込まれたことに起因する線状疵を防止したことに特徴を有するものであり、少なくとも研磨工程、スプレー酸洗工程及び圧延工程を備えていればよく、その他の工程については任意である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明に係るニッケル冷間圧延帯の製造方法ついて詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例に示される形態に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(被圧延材の製造)
純ニッケル材(ニッケル99%以上)を、40Tの電気炉で溶解しVODにて吹酸・脱炭精錬した後、連続鋳造機にて150mm厚のスラブを鋳造した。鋳造したスラブは表面手入れを実施した後で、熱間圧延機によって5mm厚のホットコイルに圧延した。
【0048】
(ショットブラスト工程、酸洗工程、研磨工程及びアルカリ脱脂工程)
熱間圧延の際に表面に生成した酸化スケールを除去するために、ショットブラスト処理、硝ふっ酸による酸洗を行い、脱スケール率98%以上となるまで脱スケールを行った。その後、コイルグラインダー(CG)により表面を研磨して表面疵(熱延疵)を除去し、さらに、研磨時に付着した油分をアルカリ脱脂によって除去した。
【0049】
(スプレー酸洗工程、圧延工程)
得られた被圧延材に対して、濃度を15〜50°Be、液温を23〜50℃、スプレー圧力を0.05〜0.5MPaに変化させた塩化第二鉄水溶液によるスプレー酸洗を実施し、被圧延材表面の研磨材を除去し、その後、冷間圧延と焼鈍とを2回ずつ実施した後で、最終的に0.1mm厚となるように仕上冷間圧延及びBA焼鈍を行って最終製品であるニッケル冷間圧延帯を得た。なお、比較例として、スプレー酸洗を行わなかったものについても評価した。
【0050】
研磨材の押し込みや疵の程度については、最終BA焼鈍後に目視により観察し、確認された「線状疵」の個数を、評価対象である圧延帯の長さで割ることにより、圧延帯100mあたりの発生個数を算出して判断した。結果を下記表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1の結果から明らかなように、スプレー酸洗の条件(酸溶液濃度、酸溶液温度、スプレー圧)が本発明の範囲内である場合、線状疵の発生がなく、製品歩留まりを著しく向上させることができた。一方、スプレー酸洗の条件のいずれかが本発明の範囲から外れた比較例は、線状疵の発生が確認された。具体的には、線状疵の発生は特にスプレー圧力が低い場合に顕著となったが、仮にスプレー圧力が本発明の範囲内であっても、酸溶液の濃度や温度が本発明の範囲外であると線状疵が発生することが確認された。また、スプレー酸洗を行わない場合は、線状疵の発生が最も多くなり、製品の歩留まりが最も悪化した。
以上のことから、濃度及び温度が所定範囲内である塩化第二鉄水溶液を用いて、スプレー圧が所定値以上であるスプレー酸洗を実施する場合に限り、線状疵の発生を防止できることがわかった。
【0053】
<実施例2>
モネル合金(Fe=1.4%、Mn=1.3%、Si=0.5%、C=0.11%、Ni=66%、Cu=残部)を、実施例1と同様に、40T電気炉で溶解し、VODにて吹酸・脱炭精錬を行った後、連続鋳造機にて150mm厚のスラブを鋳造した。鋳造したスラブは表面手入れを実施した後に、熱間圧延機によって4mm厚のホットコイルに圧延し、被圧延材を得た。熱間圧延の際に表面に生成した酸化スケールを取り除くために、被圧延材に対してショットブラスト処理の後、硝ふっ酸による酸洗を実施した。脱スケール率が98%以上となるまで脱スケールを行い、CGによる表面研磨にて熱延疵の除去を行った後、研磨時に付着した油分をアルカリ脱脂洗浄により除去した。
【0054】
その後、40°Be、液温50℃、スプレー圧力0.5MPaの塩化第二鉄水溶液によるスプレー酸洗を実施して、被圧延材表面の研磨材の除去を行い、冷間圧延と焼鈍を2回ずつ実施した後で、最終的に0.15mm厚となるように仕上げ冷間圧延およびBA焼鈍を行って、ニッケル冷間圧延帯を得た。また、比較例として、スプレー酸洗を行わない条件でも製造し、実施例1と同様の手法にて、圧延帯100m当たりの「線状疵」の発生個数を算出することにより、両者を比較した。
【0055】
結果として、スプレー酸洗を行った場合は、上記線状疵の発生個数が0個であったのに対し、スプレー酸洗を行わなかった場合は線状疵の発生個数が6個であった。すなわち、本発明に係るニッケル冷間圧延帯の製造方法により、被圧延材の表面に押し込まれた研磨材を適切に除去でき、線状疵の発生を防止できることがわかった。
【0056】
<実施例3>
インバー合金(Ni=35.7%、Fe=残部)を、実施例1と同様に、40T電気炉で溶解し、VODにて吹酸・脱炭精錬を行った後、連続鋳造機にて150mm厚のスラブを鋳造した。鋳造したスラブは均一加熱処理を実施した後で表面手入れを実施し、その後熱間圧延機によって4mm厚のホットコイルに圧延し、被圧延材を得た。熱間圧延の際に表面に生成した酸化スケールを取り除くために、被圧延材に対してショットブラスト処理の後、硝ふっ酸による酸洗を実施した。脱スケール率が98%以上となるまで脱スケールを行い、CGによる表面研磨にて熱延疵の除去を行った後、研磨時に付着した油分をアルカリ脱脂洗浄により除去した。
【0057】
その後、40°Be、液温50℃、スプレー圧力0.5MPaの塩化第二鉄水溶液によるスプレー酸洗を実施して、研磨材の除去を行い、冷間圧延と焼鈍を2回ずつ実施した後で、最終的に0.2mm厚となるように仕上げ冷間圧延およびBA焼鈍を行って、ニッケル冷間圧延帯を得た。また、比較例として、スプレー酸洗を行わない条件でも製造し、実施例1と同様の手法にて、圧延帯100m当たりの「線状疵」の発生個数を算出することにより、両者を比較した。
【0058】
結果として、スプレー酸洗を行った場合は、上記線状疵の発生個数が0個であったのに対し、スプレー酸洗を行わなかった場合は線状疵の発生個数が6個であった。すなわち、本発明に係るニッケル冷間圧延帯の製造方法により、被圧延材の表面に押し込まれた研磨材を適切に除去でき、線状疵の発生を防止できることがわかった。
【0059】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うニッケル冷間圧延帯の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。