特許第5985959号(P5985959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985959
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】重金属含有廃液の処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/62 20060101AFI20160823BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20160823BHJP
   C02F 1/56 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   C02F1/62 Z
   C02F1/52 K
   C02F1/56 K
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-245059(P2012-245059)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-91115(P2014-91115A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100093942
【弁理士】
【氏名又は名称】小杉 良二
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 琢也
(72)【発明者】
【氏名】千田 祐司
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−103171(JP,A)
【文献】 特開昭50−016359(JP,A)
【文献】 特開昭52−071375(JP,A)
【文献】 特開2003−047971(JP,A)
【文献】 特開2003−164886(JP,A)
【文献】 特開平09−192675(JP,A)
【文献】 特開昭50−021565(JP,A)
【文献】 特開昭52−017366(JP,A)
【文献】 特開昭63−294986(JP,A)
【文献】 特開2011−121039(JP,A)
【文献】 特開昭57−105284(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/057521(WO,A1)
【文献】 米国特許第4629570(US,A)
【文献】 米国特許第4260493(US,A)
【文献】 英国特許出願公開第2292378(GB,A)
【文献】 特開平01−099688(JP,A)
【文献】 特開昭60−068094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58− 1/64
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理方法であって、
当該廃液に酸を添加しpH6〜7の中性付近に調整し、次に第一の凝集剤を添加して析出物を沈殿・分離し、析出物を沈殿・分離した後に重金属捕集剤を添加し、次に第二の凝集剤を添加して重金属類を含む固形物を沈殿させることを特徴とする重金属含有廃液の処理方法。
【請求項2】
重金属捕集剤を添加する前に、前記廃液を希釈することを特徴とする請求項記載の重金属含有廃液の処理方法。
【請求項3】
廃液を希釈した後、カルシウム化合物を添加することを特徴とする請求項記載の重金属含有廃液の処理方法。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の重金属含有廃液の処理方法により、前記廃液を処理した後、処理水を生物処理することを特徴とする廃液の処理方法。
【請求項5】
重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理装置であって、
当該廃液に酸を供給する手段と、当該廃液に第一の凝集剤を供給する手段と、当該廃液のpH測定手段と、当該廃液を貯留・攪拌する反応槽を備え、
前記反応槽において廃液に酸を添加しpH6〜7の中性付近に調整し、次に第一の凝集剤を添加して析出物を沈殿・分離し、
さらに、前記反応槽から送られた処理水に重金属捕集剤を供給する手段と第二の凝集剤を供給する手段を有する第二の反応槽を備え、当該第二の反応槽において処理水に重金属捕集剤と第二の凝集剤を添加することを特徴とする重金属含有廃液の処理装置。
【請求項6】
前記反応槽において処理された廃液を固液分離する固液分離装置および/または前記第二の反応槽において処理された廃液を固液分離する固液分離装置を備えることを特徴とする請求項に記載の重金属含有廃液の処理装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の重金属含有廃液の処理装置と、
前記重金属含有廃液の処理装置の後段に設置され、処理水を生物処理する手段を有する生物処理装置とを備えることを特徴とする廃液の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する重金属含有廃液
の処理方法及び装置に関し、より詳細には、銅および銅と錯体を形成するアミン類を含有する廃液から、銅を分離・除去する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銅等の重金属類を含む廃液から重金属類を除去する方法として、重金属類がアルカリ性条件の下、不溶性の重金属の水酸化物を形成することを利用し、生成した重金属水酸化物を固液分離することで、重金属類を除去することが広く実施されている。
一方、重金属類を含む廃液から重金属類を除去する別の方法として、例えば特開昭63−294986号公報(特許文献1)では、一段目の処理で酸性の重金属含有廃液をアルカリ性に調整し、金属水酸化物を不溶化して分離させた後、二段日の処理として重金属捕集剤を添加し、残存した重金属類や重金属の錯塩を不溶化して分離させる処理が開示されている。
【0003】
ところで、重金属類を含有する廃液の中には、重金属と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液がある。これらの廃液の例として、銅とモノエタノールアミンを含有する廃液が挙げられる。
このような錯化剤を含有する廃液は重金属イオンが錯化剤と錯体を形成するため、アルカリ条件下でも重金属イオンは水酸化物を形成せず、特許文献1による方法で単純に廃液をアルカリ条件にするだけでは、廃液中で重金属イオン(錯イオン)の状態のまま溶存した状態で存在するため、二段目の処理での重金属捕集剤の添加量が過大になる問題点があった。
【0004】
また、本発明者らの試験では重金属捕集剤の添加量が過大になると、不溶化した重金属類と重金属捕集剤の混合物は凝集剤を添加しても凝集しにくく、処理水を得ることが困難になる問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−294986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、錯化剤を含む重金属含有廃液から重金属類を分離・除去し、良好な水質の処理水を得る重金属含有廃液の処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明の重金属含有廃液の処理方法は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理方法であって、当該廃液に酸を添加しpH6〜7の中性付近に調整し、次に第一の凝集剤を添加して析出物を沈殿・分離し、析出物を沈殿・分離した後に重金属捕集剤を添加し、次に第二の凝集剤を添加して重金属類を含む固形物を沈殿させることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、重金属類を含む廃液であり、重金属と錯体を形成する錯化剤が共存している廃液を処理することができる。重金属としては、銅、クロム、亜鉛、ニッケル、マンガンなどが挙げられる。廃液に含まれている錯化剤としては、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。このような廃液の例として、アルカリ性で溶解性の銅を含む無電解めっき廃液が挙げられる。
【0009】
本発明において、各処理で用いる凝集剤は実際に小スケールで廃液を処理し適切な凝集剤を選定すれば良いが、例えば第一の凝集剤には、アニオン性高分子凝集剤や両性高分子凝集剤、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、活性ケイ酸、アルギン酸ナトリウム、活性化でんぷんなどを用いることができる。第二の凝集剤には、例えばカチオン性又は両性の高分子凝集剤を用いるが、この時凝集状態を改善するために金属塩、例えば塩化鉄(III)を添加することも可能である。また、重金属捕集剤には、例えばジチオカルバミン酸基を持つキレート剤を用いる。
【0010】
図4(定性分析化学II,共立出版,1974年発行,376頁より引用)に示すように、銅の溶解性はpH6以下になると急激に増加することが知られている。そのため、銅を水酸化物として沈殿させるためにはpH6以上のアルカリ条件にすることが望ましい。
一方、重金属と錯体を形成するアミン類は、水中では以下のような平衡状態にあると考えられる。
HO−R−NH + H ←→ HO−R−N
(R:炭化水素鎖)
錯化剤含有廃液がアルカリ性であれば、この反応の平衡は左に進み、廃液中でのHO−R−NHの形態の分子の割合が多くなると考えられる。一方、廃液が酸性になると廃液中に水素イオン(H)が増えるため、この平衡は右に進み、HO−R−Nの割合が多くなると考えられる。
ここでアミン類と重金属である銅イオンの錯体を考えると、アミン類が陽電荷をもたないHO−R−NHの形態では、銅イオンCu2+と安定した錯体を形成できるが、陽電荷をもつHO−R−Nの形態では、銅イオンの陽電荷とアミノ基の陽電荷が反発し、錯体が不安定になると考えられる。従って、銅−アミン錯体から銅イオンを遊離させ、分離・除去しやすくするためには廃液のpHを下げることが有効と考えられる。
銅−アミン錯体からの銅イオンの遊離のためにはpHが低い方が良いが、遊離した銅イオンが沈殿するためにはpH6以上であることが望ましい。このため、処理対象の廃液の重金属類の濃度が高い場合には、重金属捕集剤を添加する前に、塩酸などの酸を添加し、あらかじめ廃液のpHを6〜7の中性程度まで低下させ、ある程度の重金属類を析出させる。これを分離・除去することにより、廃液中の重金属類がある程度除去される。
【0011】
本発明によれば、重金属類とアミン類を含有する廃液に酸を添加し、pHを6以上の中性付近、すなわちpHを6〜7に調整し、第一の凝集剤を添加して析出物を沈殿・分離し、一段目の処理水を得る。この段階で十分重金属類が除去されていれば、ここで処理を終了することが可能である。しかし、一段目の処理水の重金属類が残留していれば、さらにここに重金属捕集剤を添加し、さらに第二の凝集剤を添加することで、析出物を沈殿・分離し二段目の処理水を得る。一段目の処理水に重金属捕集剤を添加することで、残留した重金属類を十分除去できると同時に、一段目の処理である程度の重金属類が除去されているため、重金属捕集剤の添加量を低減する効果が期待できる。
また、本発明の好ましい態様によれば、重金属捕集剤を添加する前に、前記廃液を希釈することを特徴とする。
【0012】
一実施形態によれば、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液に酸を添加し、pHを6以上の中性付近に調整し、次に重金属捕集剤を添加し、次に凝集剤を添加して重金属類を含む固形物を沈殿する
本方式では、一つの反応槽で処理を完結できるため、設備を小型化することが可能である。また、重金属類とアミン類を含有する廃液に酸を添加し、最初にpHを6以上の中性付近、すなわちpHを6〜7に調整しているため、この時点である程度の重金属類が沈殿するため、重金属捕集剤の添加量を低減する効果が期待できる。
【0013】
一実施形態によれば、廃液に酸を添加する前に、カルシウム化合物を添加する
一実施形態によれば、廃液に酸を添加する前に、廃液を希釈する
本発明の好ましい態様によれば、廃液を希釈した後、カルシウム化合物を添加することを特徴とする。
本発明廃液の処理方法は、上記重金属含有廃液の処理方法により、前記廃液を処理した後、処理水を生物処理することを特徴とする。
【0014】
本発明の重金属含有廃液の処理装置は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理装置であって、当該廃液に酸を供給する手段と、当該廃液に第一の凝集剤を供給する手段と、当該廃液のpH測定手段と、当該廃液を貯留・攪拌する反応槽を備え、前記反応槽において廃液に酸を添加しpH6〜7の中性付近に調整し、次に第一の凝集剤を添加して析出物を沈殿・分離し、さらに、前記反応槽から送られた処理水に重金属捕集剤を供給する手段と第二の凝集剤を供給する手段を有する第二の反応槽を備え、当該第二の反応槽において処理水に重金属捕集剤と第二の凝集剤を添加することを特徴とする。
【0015】
また、重金属含有廃液の処理装置の一実施形態は、重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液の処理装置であって、当該廃液に酸を供給する手段と、当該廃液のpH測定手段と、当該廃液に重金属捕集剤を供給する手段とを有する反応槽を備え、前記反応槽において廃液に酸を添加しpH6以上の中性付近に調整し、次に重金属捕集剤を添加して析出物を沈殿・分離する
本発明の好ましい態様によれば、前記反応槽において処理された廃液を固液分離する固液分離装置および/または前記第二の反応槽において処理された廃液を固液分離する固液分離装置を備えることを特徴とする。
本発明の廃液の処理装置は、上記の重金属含有廃液の処理装置と、前記重金属含有廃液の処理装置の後段に設置され、処理水を生物処理する手段を有する生物処理装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は以下に列挙する効果を奏する。
(1)重金属類を含む廃液の一般的な処理方法である水酸化物沈殿法の適用が困難である重金属類と錯化剤とを含有する廃液を処理することができる。本発明では、重金属捕集剤を添加することで、重金属類を分離・除去できる。
(2)重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液に酸を添加し、pHを6以上の中性付近に調整し、析出物を分離・除去した後、重金属捕集剤を添加することで、重金属類を分離・除去すると同時に、重金属捕集剤の添加量を低減できる。
(3)重金属類および重金属類と錯体を形成する錯化剤を含有する廃液に酸を添加し、pHを6以上の中性付近に調整し、次に重金属捕集剤を添加することで、重金属類を分離・除去すると同時に、重金属捕集剤の添加量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明で用いる錯化剤を含む重金属含有廃液の処理装置の一態様を示す模式図である。
図2】本発明で用いる錯化剤を含む重金属含有廃液の処理装置の別の一態様を示す模式図である。
図3】本発明で用いる錯化剤を含む重金属含有廃液の処理装置の別の一態様を示す模式図である。
図4】pHに対する銅の溶解性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の処理対象となる廃液は、重金属類を含む廃液であり、さらに重金属と錯体を形成する錯化剤が共存している廃液である。処理対象となる重金属としては、銅、クロム、亜鉛、ニッケル、マンガンなどが挙げられる。廃液に含まれている錯化剤としては、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。このような廃液の具体例として、アルカリ性で溶解性の銅を含む無電解めっき廃液が挙げられる。
【0019】
本発明による処理方法においては、最初に当該廃液に塩酸等の酸を添加しpHを下げるが、酸の添加は当該廃液のpHが6以上の中性付近になるように調整する。錯化剤がアミン類の場合、pHを低下させることで錯化剤中のアミノ基に水素イオンが配位しプラスの荷電状態となるため、配位したプラスの電荷をもつ重金属イオンは遊離しやすくなる。
一方、重金属の一種である銅イオンの溶解度はpHが6未満となると急激に増加することが知られている。このため、廃液のpHを6〜7の中性付近に調整することで銅−アミン錯体からの銅イオンをある程度遊離させつつ、遊離した銅を水酸化物として析出させ、分離・除去することが可能となる。
このように重金属類の溶解度とアミン類の性質を利用し、適切なpHに調整することで廃液中の重金属類濃度を低減することが可能となる。
析出物が生成したところで第一の凝集剤を添加し、析出物を凝集沈殿させる。この段階で十分重金属類が除去されていれば、処理を完了することも可能である。
実際の装置では槽内の廃液のpH測定手段と酸供給設備を備え、槽内の廃液がpH6以上の中性付近、すなわちpHが6〜7を維持するように酸の添加量を制御することが望ましい。
【0020】
重金属と錯化剤との錯体は一般に濃度が低下すると不安定になることが知られている。このため、酸を添加してpHを調整する前にあらかじめ当該廃液を希釈すると、重金属の除去率が高くなる場合がある。一方、廃液を希釈すると液量が増加し、処理水量の増加や処理設備の大型化の原因ともなる。このため、あらかじめ小スケールでの試験により、希釈の効果と問題点を検討し、適切な条件を設定することが望ましい。
【0021】
一段目の処理水に重金属類が残留している場合、次に重金属捕集剤を添加する。重金属捕集剤は廃液中の重金属イオンと不溶性の錯体を形成することで重金属類を廃液から分離しやすい形態にする。重金属類は重金属捕集剤と不溶性の錯体を形成し、析出物となる。ここに第二の凝集剤を添加し、析出物を凝集沈殿させ、処理水を得る。
実際の装置では重金属捕集剤の最適な添加量は使用する重金属捕集剤や処理対象となる重金属の種類によって異なるため、例えばあらかじめ小スケールでの試験を実施し、要求される処理水水質に応じて添加量を決めておくことが望ましい。
当該廃液の処理に当たり、pH調整する前にカルシウム化合物を添加することで凝集状態を改善できる。例えば、水酸化カルシウムを添加することで凝集状態を改善する効果が期待できる。
【0022】
当該廃液に析出した生成物には重金属類の水酸化物や重金属と重金属捕集剤の錯体が含まれており、これらを固液分離することで、廃液から重金属類を分離・除去することができる。分離方法としては、沈降分離、凝集沈殿、ろ過などの一般的な固液分離方法を適用することができるが、固液分離方法の選定は析出物の性状に応じて適切な方法を選択することが好ましい。
【0023】
本処理方法は重金属類を除去できるものの錯化剤はそのまま廃液中に残留するため、重金属を除去した後の廃液は、必要に応じて後処理を併用し錯化剤を除去することが望ましい。例えば、錯化剤がアミン類であれば、生物分解が期待できるので、重金属除去後の処理水を生物処理することで錯化剤を分解し、処理水中の有機物濃度を低減することが可能である。
【0024】
また、本処理方法の後で重金属類がわずかに残留する場合の対策として、後段にキレート樹脂吸着設備を併設することによって廃液に残留するわずかな重金属を除去することも可能である。
また、重金属除去後の廃液中の錯化剤は、重金属類が混入すると再び重金属錯体を形成し、除去しにくい錯イオン状態で重金属類が残留することになるので、重金属類を含む廃液と混合しないような処理方式を選択すべきである。
【0025】
本発明による別の処理方法では、最初に当該廃液に酸を添加し当該廃液のpHが6以上の中性付近になるように酸を添加する。上述したように重金属類の溶解度とアミン類の性質を利用し、適切なpHに調整することで廃液中の重金属類濃度の一部を水酸化物として析出させ、廃液中の重金属類濃度を低減することが可能になる。
実際の装置では槽内の廃液のpH測定手段と酸供給設備を備え、槽内の廃液がpH6以上の中性付近、すなわちpHが6〜7を維持するように酸の添加量を制御することが望ましい。
次に廃液中に残留した重金属類を除去するため、廃液に重金属捕集剤を添加する。重金属類と重金属捕集剤は不溶性の錯体を形成するため、ここに凝集剤を添加し、先に析出した重金属の水酸化物と共に重金属−重金属捕集剤の錯体を同時に凝集・沈殿させる。
【0026】
当該廃液に析出した生成物には重金属類の水酸化物や重金属と重金属捕集剤の錯体が含まれており、これらを固液分離することで、廃液から重金属類を分離・除去することができる。分離方法としては、沈降分離、凝集沈殿、ろ過などの一般的な固液分離方法を適用することができるが、固液分離方法の選定は析出物の性状に応じて適切な方法を選択することが好ましい。
【0027】
本発明の処理装置の一態様を図1に模式的に示す。本発明の処理対象となる重金属含有廃液は、重金属類を含む廃液であり、さらに重金属と錯体を形成する錯化剤が共存している廃液である。図1に示すように、本発明の処理装置は、重金属含有廃液を収容する反応槽10と、反応槽10に重金属含有廃液を供給する配管1と、反応槽10内の重金属含有廃液に酸を供給する配管2を備えている。本発明の処理装置は、さらに攪拌装置12と、pH測定手段13と、固液分離装置15とを備えている。
【0028】
図1に示す本発明の処理装置では、反応槽10に配管1を通して重金属含有廃液が移送され、反応槽10内の重金属含有廃液に配管2を通して塩酸等の酸が添加され、廃液のpHが調整され、配管18を通して凝集剤が添加される。廃液は反応槽10内で貯留・攪拌される。次に反応槽10内で処理された廃液は固液分離装置15に移送され、固液分離装置15において固液分離され、処理水3と重金属を含むスラリー4とに分離される。
【0029】
本発明の処理装置の別の一態様を図2に模式的に示す。図2に示す態様においては、第一の反応槽11に配管1を通して重金属含有廃液が移送され、第一の反応槽11内の重金属含有廃液に配管2を通して酸を添加することにより廃液のpHが6以上の中性付近、すなわちpHが6〜7になるように調整され、配管18を通して第一の凝集剤が添加される。廃液は第一の反応槽11内で貯留・攪拌される。第一の反応槽11内で処理された廃液は第一固液分離装置16に移送されて、第一の固液分離装置16において固液分離され、スラリー4が分離除去される。その後、廃液は第二の反応槽14に移送される。第二の反応槽14内の重金属含有廃液に配管7を通して重金属捕集剤が添加され、配管19を通して第二の凝集剤が添加される。第二の反応槽14内で処理された廃液は第二固液分離装置17に移送されて、第二固液分離装置17において固液分離され、処理水6と重金属を含むスラリー8とに分離される。
【0030】
本発明の処理装置の別の一態様を図3に模式的に示す。図3に示す態様においては、反応槽10に配管1を通して重金属含有廃液が移送され、反応槽10内の重金属含有廃液に配管2を通して酸を添加することにより廃液のpHが6以上の中性付近、すなわちpH6〜7になるように調整され、廃液は反応槽10内で貯留・攪拌される。次に反応槽10内の廃液に配管7を通して重金属捕集剤が添加され、配管18を通して凝集剤が添加される。反応槽10内で処理された廃液は固液分離装置15に移送されて、固液分離装置15において固液分離され、処理水3と重金属を含むスラリー4とに分離される。
【0031】
次に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
実施例1では重金属として銅、錯化剤としてモノエタノールアミンを含む廃液を処理した。廃液の性状は、pHが13.1、銅濃度が958mg/L、CODCr(二クロム酸カリウムによる化学的酸素要求量)が74,900mg/Lであった。
当該廃液の処理操作は、当該廃液に塩酸を添加しpHを6に調整した。その後凝集剤としてアニオン性高分子凝集剤を添加し、析出物を凝集沈殿させ、上澄を処理水として回収した。アニオン性高分子凝集剤にはエバグロースA−151(商品名)(水ing社製)を用いた。処理水を水質分析した所、銅濃度は320mg/Lであり、廃液中の銅の約3分の2が除去できた。
【0032】
実施例2
実施例2では実施例1と同じ廃液を処理した。最初に当該廃液に塩酸を添加しpHを6に調整した。その後第一凝集剤としてアニオン性高分子凝集剤を添加し、析出物を凝集沈殿させ、上澄を一段目処理水として回収した。アニオン性高分子凝集剤にはエバグロースA−151(商品名)を用いた。
次に、一段目処理水に重金属捕集剤を原水1Lあたりに換算して3mL添加し、良く攪拌した。重金属捕集剤としてはL−600M(商品名)(水ing社製)を用いた。その後、第二凝集剤として両性高分子凝集剤を添加し析出物を凝集沈殿し、上澄を処理水として回収した。両性高分子凝集剤にはエバグロースB−134(商品名)(水ing社製)を用いた。処理水を水質分析した所、銅濃度は0.1mg/L未満まで低下しており、実施例1と比較して、銅濃度をさらに低減でき、良好な処理を達成することができた。
【0033】
実施例3
実施例3では実施例1及び2と成分が同じであるが濃度が異なる廃液を処理した。すなわち、重金属として銅、錯化剤としてモノエタノールアミンを含む廃液を処理した。廃液の性状は、pHが13.1、銅濃度が2,350mg/L、CODCrが102,000mg/Lであった。実施例3では当該廃液を純水で8倍に希釈してから処理試験操作を行った。
最初に希釈した当該廃液に塩酸を添加しpHを6に調整した。その後両性高分子凝集剤を添加し、析出物を凝集沈殿させ、上澄を一段目処理水として回収した。両性高分子凝集剤にはエバグロースB−134(商品名)を用いた。次に、一段目処理水に実施例2とは異なる重金属捕集剤を原水1Lあたりに換算して16mL添加し、良く攪拌した。重金属捕集剤にはMetalCatcher(商品名)(ACCOT TECHNOLOGIES社製)を用いた。その後、両性高分子凝集剤を添加し析出物を凝集沈殿し、上澄を処理水として回収した。両性高分子凝集剤にはエバグロースB−134(商品名)を用いた。処理水を水質分析した所、銅濃度は0.5mg/L未満まで低下しており、実施例1や2よりも銅濃度の高い廃液であっても廃液を希釈することで処理が成り立つことを確認できた。
【0034】
実施例4
実施例4では実施例3と同じ廃液を処理した。最初に当該廃液を純水で約8倍に希釈した後、塩酸を添加し、pHを6に調整した。次に実施例3と同じ重金属捕集剤を原水1Lあたりに換算して12mL添加し、良く攪拌した。その後、アニオン性高分子凝集剤と凝集助剤として塩化鉄(III)を添加し析出物を凝集沈殿し、上澄を処理水として回収した。アニオン性高分子凝集剤にはエバグロースA−151(商品名)を用いた。処理水の銅濃度は0.5mg/L未満まで低下した。実施例3は処理に二つの反応槽が必要であったが、実施例4では一つの反応槽でも処理が成り立つことを確認できた。
【0035】
実施例5
実施例5では実施例3及び4と同じ廃液を処理したが、実施例3及び4と異なり、廃液を希釈することなく処理操作を実施した。最初に当該廃液に塩酸を添加し、pHを6に調整した。次に実施例3と同じ重金属捕集剤を原水1Lあたりに換算して25mL添加し、良く攪拌した。その後、析出物を凝集させるため塩化鉄(III)と両性高分子凝集剤を添加し析出物を凝集沈殿し、上澄を処理水として回収した。両性高分子凝集剤にはエバグロースB−134(商品名)を用いた。処理水の銅濃度は0.5mg/L未満までに低下しており、廃液を希釈しなくても処理が成り立つことを確認した。実施例5の方式は実施例3及び4と比較して、希釈操作を省いたため処理水発生量の低減には有効であったが、重金属捕集剤の必要量が増えたため、これらの特徴を考慮して廃液希釈の有無を選択することが好ましい。
【符号の説明】
【0036】
1,2,7,18,19 配管
3 処理水
4,8 スラリー
10 反応槽
11 第一の反応槽
12 攪拌装置
13 pH測定手段
14 第二の反応槽
15 固液分離装置
16 第一固液分離装置
17 第二固液分離装置
図1
図2
図3
図4