(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トルクロッドの機能として、エンジンから車体側への振動伝達を遮断する性能がある。ところが、この振動遮断性能は、トルクロッドの剛体共振周波数帯と車体側の共振周波数帯の相対関係により変化する。これを
図6により説明する。
図6はトルクロッドの振動伝達特性を示すグラフであり、縦軸に振動伝達性能、横軸にトルクロッドの剛体共振周波数をとってある。このグラフにおいて、トルクロッドの振動伝達特性について周波数移動前及び周波数移動後における2つの振動伝達特性を示す。これら2つの特性曲線はそれぞれ相似形の略山形をなし、各特性曲線のピークP0・P1における周波数F0・F1がそれぞれ剛体共振のピーク周波数を示している。
【0007】
このうち周波数移動前のものは、後述する本願発明のような特別に共振周波数を下げるための工夫がないものであり、ピークP1は比較的高い共振周波数F1になっている。一方、共振周波数を下げる特別の工夫を施した周波数移動後の特性曲線におけるピークP0は、低い共振周波数F0になっている。
ここで、周波数移動前の特性曲線において、車体側における感度の高い周波数FQにおける振動伝達性能はQ1であるが、この振動伝達性能Q1のレベルは、トルクロッドの剛体共振の影響により、振動伝達性能が高くエンジンの振動が車体側へ比較的伝達されやすく、振動遮断が不十分な状態である。
そこで仮に、車体側における感度の高い周波数FQにおいて、振動伝達性能を振動遮断に十分なQ0まで下げることができれば、振動遮断効果△Q(=Q1−Q0)が生じ、車体側への振動伝達を抑制できる。
【0008】
しかも、このような振動遮断は、特性曲線をピークがP0からP1へ略平行移動させて周波数移動後のようにすることにより実現できる。このピークの移動は、トルクロッドの剛体共振周波数をF1からF0へ移動させることに他ならない。したがって、車体側における感度の高い周波数FQからずれるようにトルクロッドの剛体共振周波数を下げることができれば、必要な振動遮断効果を生じさせることができることになるので、このような剛体共振周波数のコントロールを可能にすることが求められる。
【0009】
ここで、剛体共振の周波数は、バネと重量からなる振動系において、バネの平方根に比例し、重量の平方根に反比例する。したがって、バネを小さくするか重量を増大させれば剛体共振の周波数を下げることができることが知られている。
しかし、車両の軽量化という設計上の基本的な要請により、トルクロッドも可及的に軽量化を求められており、重量増による剛体共振の周波数調整は採用できない。このため、トルクロッドを軽量化しつつ剛体共振の周波数調整を可能にすることも求められている。
【0010】
また、バネを調整する場合にも、XYZ各方向のバネからなるバネ比が所定の範囲となるようにすることが求められている。
特に、防振の主体をなすXバネを下げないようにすることが求められる。そこで、Xバネを所定の範囲に維持しつつ、Xバネに対するYバネ及びZバネの各バネ比を調整できるようにバネを調整することも望まれている。
そこで本願は、これらの要請の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、長手部材であるロッド本体と、その長手方向両端に設けられた大小に異なる一対の防振連結部である小玉部(11a)と大玉部(11b)を備えたトルクロッドにおいて、
前記防振連結部のうち少なくとも大玉部(11b)は、前記ロッド本体(10)に設けられたリング状部材(14)と、その中心部に配置されたインナー部材(20)と、これらインナー部材とリングを弾性的に結合する弾性体のインシュレータ(22)を備え、
前記インナー部材(20)の中心軸をZ軸、これと直交する主たる振動の入力軸をX軸、これらZ軸及びX軸とそれぞれ直交する軸をY軸とするとき、
前記インシュレータ(22)にバネ調整凹部(32)を設け、
少なくとも、X軸方向のバネとZ軸方向のバネとのバネ比を変化させることにより、
Z軸方向における剛体共振の周波数をコントロールすることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載した発明は、上記請求項1に記載したトルクロッドであって、
前記バネ調整凹部(32)は溝であり、その深さや幅を調整することにより、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向における各バネのバネ比を調整可能とすることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載した発明は、上記請求項1又は2に記載したトルクロッドであって、
前記インシュレータ(22)は、前記インナー部材(20)から前記X軸の両側へ延出し、その延出端部が前記リング状部材(14)と接続して拘束される弾性腕部(30)を備え、
前記バネ調整凹部(32)は、前記弾性腕部(30)における前記リング状部材(14)との付け根部分の一部に、前記リング状部材(14)で拘束されないように設けられることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載した発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載したトルクロッドであって、
前記バネ調整凹部(32)は、前記弾性腕部(30)において、主たる振動の入力時におけるバネ作用の主体となるバネ領域(38)よりもY軸方向外方に設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載した発明は、上記請求項1〜4のいずれか1項に記載したトルクロッドであって、
前記インシュレータ(22)には、X軸方向において前記インナー部材(20)の両側に、Z軸方向へ貫通するとともに、前記弾性腕部(30)を挟んでX軸の両側へ延びる第1すぐり(24)及び第2すぐり(26)が設けられ、
前記バネ調整凹部(32)が、前記第1すぐり(24)又は第2すぐり(26)からX軸方向へ前記弾性腕部(30)を切り込んで形成されることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載した発明は、上記請求項1〜5のいずれか1項に記載したトルクロッドであって、
前記インナー部材(20)のX軸方向における接線をL1、この接線と平行して前記第2すぐり(26)のY軸方向端部を通る直線をL2とするとき、前記弾性腕部(30)のうち前記接線L1と直線L2とに挟まれた領域(38)を、主たる振動の入力時におけるバネ作用の主体となるバネ領域とし、
この領域(38)のY軸方向外側に前記バネ調整凹部(32)を設けたことを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載した発明は、上記請求項1〜6のいずれか1項に記載したトルクロッドであって、前記バネ調整凹部(32)がスリット状をなしていることを特徴とする。
【0018】
請求項8に記載した発明は、上記請求項1〜7のいずれか1項に記載したトルクロッドであって、
前記ロッド本体(10)及びリング状部材(14)は、比重が2.7より小さい非金属により一体に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載した発明によれば、大玉部(11b)において、インシュレータ(22)にバネ調整凹部(32)を設けることにより、少なくとも、X軸方向のバネ(Xバネ)とZ軸方向のバネ(Zバネ)とのバネ比を変化させて、トルクロッドのZ軸方向における剛体共振の周波数をコントロールできる。そこで、バネ調整凹部(32)により、上記剛体共振の周波数を、車体側の感度が高い周波数からずれるように調整すると、振動遮断効果を生じ、車体側への振動伝達を抑制できる。
【0020】
請求項2に記載した発明によれば、バネ調整凹部(32)を溝とし、その深さや幅を調整すると、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向における各バネが変化するので、これらのバネ比が調整可能になる。したがって、バネ調整凹部(32)により、剛体共振の周波数コントロールのみならず、XYZ各方向のバネ比も調整可能になる。
【0021】
請求項3に記載した発明によれば、バネ調整凹部(32)を、弾性腕部(30)において、
弾性腕部(30)におけるリング状部材(14)との付け根部分の一部に、前記リング状部材(14)で拘束されないバネ調整凹部(32)を設けたので、主たる振動の入力方向であるXバネを所定の大きさに維持したまま、インナー部材(20)の中心軸方向であるZバネを大きく下げることができる。
このため、主たる振動の吸収に必要なXバネに影響せずに、Zバネを低減させて、Z方向における剛体共振の周波数を低減させることができる。その結果、車体側への振動遮断を効果的に行える。
しかも、Zバネの調整は、弾性腕部(30)の一部にバネ調整凹部(32)を設けるだけであって、重量増加を招かないため、トルクロッドの重量を増大せずに剛体共振の周波数を低下させることができる。
また、XZバネ比を大きく変化させて、従来では実現できなかったXZバネ比にすることができるので、XZバネ比の制御幅が拡大することになり、チューニングにおける自由度を向上させることができる。
【0022】
請求項4に記載した発明によれば、バネ調整凹部(32)を、弾性腕部(30)において、主たる振動の入力時におけるバネ作用の主体となるバネ領域(38)よりもY軸方向外方に設けたので、バネ調整凹部(32)を設けてもXバネに対する影響があまり出ないようにすることができる。
【0023】
請求項5に記載した発明によれば、バネ調整凹部(32)が、第1すぐり(24)又は第2すぐり(26)からX軸方向へ弾性腕部(30)を切り込んで形成されるので、弾性腕部(30)におけるリング状部材(14)で拘束されない非拘束部を容易に形成することができる。
【0024】
請求項6に記載した発明によれば、インナー部材(20)のX軸方向における接線をL1、この接線と平行して第2すぐり(26)のY軸方向端部を通る直線をL2とするとき、弾性腕部(30)のうち接線L1と直線L2とに挟まれた領域(38)が、主たる振動の入力時におけるバネ作用の主体となるバネ領域となるため、この領域(38)のY軸方向外側にバネ調整凹部(32)を設けることにより、バネ調整凹部(32)を設けたにもかかわらず、Xバネに対する影響があまり出ないようにすることができる。
【0025】
請求項7に記載した発明によれば、バネ調整凹部(32)をスリット状にしたので、極めて小さなものにすることができ、形成が容易になるとともに、Yバネに対する影響を極力抑制することができる。
【0026】
請求項8に記載した発明によれば、ロッド本体(10)及びリング状部材(14)が樹脂により一体に形成された樹脂製であるため、トルクロッドを可及的に軽量化できる。しかも、軽量化したにもかかわらず、Zバネの低減により、Z方向における剛体共振の周波数を低減させることができ、軽量化と剛体共振の周波数低下を両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、自動車のエンジン支持用に設けられるトルクロッドについて説明する。
図1は正面図、
図2は平面図、
図3は大玉部の平面図、
図4は
図3の4−4線断面図である。
このトルクロッドは、丸棒状のロッド本体10と、その長手方向両端に設けられた大小に異なる一対の防振連結部である小玉部11a及び大玉部11bを備える。
【0029】
これら一対の防振連結部のうち、小型の小玉部11aは、第1リング状部材12、その中心部に配置された第1インナー部材16、この第1インナー部材16と第1リング状部材12の間に充填されたゴム等の適宜弾性部材からなる第1インシュレータ18を備え、第1インシュレータ18により、第1リング状部材12と第1インナー部材16が弾性的に結合されている。第1インシュレータ18による弾性的な結合は、加硫等による接着、嵌合による圧接等種々可能である。第1インナー部材16は図示しないエンジンへ取付けられている。
【0030】
大型の大玉部11bは、第2リング状部材14、その中心部に配置された第2インナー部材20、この第2インナー部材20と第2リング状部材14の間に充填されたゴム等の適宜弾性部材からなる第2インシュレータ22を備え、第2インシュレータ22により、第2リング状部材14と第2インナー部材20が弾性的に結合されている。第2インシュレータ22による弾性的な結合は、加硫等による接着、嵌合による圧接等種々可能である。
第2インナー部材20は筒状をなし、その軸穴へ通されたボルト部材(図示省略)を介して同じく図示しない車体側へ取付けられている。
【0031】
第1リング状部材12及び第2リング状部材14は、ロッド本体10と共に、樹脂等の剛性材料により一体に形成されている。第1リング状部材12と第2リング状部材14はそれぞれ筒状をなすが、第2リング状部材14の方が第1リング状部材12よりも大径になっている。
【0032】
ここで、第1インナー部材16と第2インナー部材20の各中心を結ぶ中心線をC1とする。本実施形態におけるC1はロッド本体10の中心線でもある。
また、第1インナー部材16及び第2インナー部材20の各中心軸線をC2及びC3とする。C2及びC3は互いに直交するとともに、それぞれがC1とも直交している。
なお、C2とC3を互いに平行するように設けてもよい。
また、本実施形態では、C1を車両の前後方向(X軸方向)、C2を左右方向(Y軸方向)、C3を上下方向(Z軸方向)へそれぞれ向けて配置するものとする。X・Y・Zはそれぞれ、第1インナー部材16及び第2インナー部材20の各中心部において互いに直交する直交3軸をなす。
【0033】
このトルクロッドを介してエンジンを車体へ支持すると、エンジンからの主たる振動は、第1インナー部材16から小型側の小玉部11aへ入力され、ロッド本体10を中心線C1に沿って通り、大型側の大玉部11bへ入力され、さらに第2インナー部材20から車体へ伝達される。
【0034】
以下、大型側の大玉部11bについて詳細構造を説明する。
図3に示すように、第2インシュレータ22は、第2インナー部材20の前後に第1すぐり24及び第2すぐり26が設けられる。第1すぐり24は第2インナー部材20の前方、すなわち主たる振動の入力時に第2インナー部材20と第2リング状部材14が接近する側に設けられ、第2すぐり26は第2インナー部材20の後方、すなわち主たる振動の入力時に第2インナー部材20と第2リング状部材14が離れる側に設けられている。これら第1すぐり24及び第2すぐり26は、X軸を挟んで左右方向へ対称に広がり、かつZ軸方向へ貫通して形成されている。
【0035】
第1すぐり24は第2すぐり26よりも大きく、左右方向の端部は第2リング状部材14近傍に達し、拡大穴部28をなしている。第1すぐり24の縁部のうち、第2インナー部材20の前方となり、X軸上で第2インナー部材20に対向する部分は第1ストッパ21をなし、第2インナー部材20が第2リング状部材14に対して相対的に前方へ移動したとき、当接して第2インナー部材20の前方移動を阻止するようになっている。
【0036】
第2すぐり26は左右の延出量が相対的に少なく、略逆V字状をなし、第2すぐり26の後縁部のうち、X軸上の部分は前方へ山型に突出する第2ストッパ27になっている。第2ストッパ27は、第2インナー部材20が第2リング状部材14に対して相対的に後方へ移動したとき、その前縁部に当接することにより、第2インナー部材20の後方移動を阻止する。
【0037】
第2インシュレータ22のうち、第1すぐり24と第2すぐり26に挟まれた部分は、第2インナー部材20を挟んでY方向両側へ張り出す弾性腕部30をなす。この部分は、X・Y・Z各方向における各バネを形成する部分であり、X・Y・Z各方向のバネを、Xバネ・Yバネ・Zバネとし、各X・Y・Z各方向のバネ値をEx・Ey・Ezとすれば、Ey>Ex>Ezとなっている。
また、XバネとZバネのバネ比であるXZバネ比Ez/Exが0.36程度になるように設定されている。
【0038】
弾性腕部30のY軸方向両端である延出端部は、第2リング状部材14に結合することにより、第2リング状部材14に拘束されている。この延出端部は、第2リング状部材14に接続する弾性腕部30の付け根部31であり、この部分にハッチングで示すバネ調整凹部32が形成されている。このバネ調整凹部32は、弾性腕部30における延出端部のうちの一部を第2リング状部材14に対して非拘束にすることにより、Zバネを低減する目的で設けられ、拡大穴部28に臨む弾性腕部30の前縁部をX軸と平行に後方へ向かって切り込まれたものであり、本例ではスリット状をなす空間になっている。このバネ調整凹部32を別言すれば、拡大穴部28から弾性腕部30に肉厚内に向かって切り欠き状をなして食い込んでいる凹部とも言える。
【0039】
第1すぐり24を囲む縁部のうち、前縁部23は、第1ストッパ21を除く部分が第2リング状部材14と同様の円弧状をなす。但し、そのX軸と交差する部分が略扁平になった第1ストッパ21をなす。また、第1すぐり24を囲む縁部のうち後側は弾性腕部30の前縁部30aをなす。前縁部30aは湾曲形状をなし、Y軸方向両端側が前縁部23との間に間隔を広げて拡大穴部28を形成している。前縁部30aのY軸方向両端部は第2リング状部材14へ向かって延びてバネ調整凹部32へ接続しているが、バネ調整凹部32との接続部は鋭角的な屈曲部33になっている。
【0040】
また、第2インナー部材20の接線でX軸と平行なものをL1、これと平行でかつ第2すぐり26の左右方向端部を通る線をL2とするとき、バネ調整凹部32は直線L2よりもY軸方向外側に設けられている。
接線L1と直線L2に囲まれた斜線で示す領域38は、X軸方向に主たる入力が入ったとき、Xバネの形成に主体となる部分である。
したがって、バネ調整凹部32をこの領域38から外すことにより、Xバネに対する影響を少なくしている。なお、弾性腕部30のバネ調整凹部32が設けられている付け根部31の前側部分は、主たる振動の入力時に弾性変形するとき、引っ張り方向の力を主体的に受ける部分であり、Xバネの大きさにはあまり影響しない部分である。
【0041】
図3中のバネ調整凹部32部分を拡大した
図5に示すように、弾性腕部30の前縁部30aを屈曲部33から第2リング状部材14へ向かって延長させた仮想線部分が開放部34をなし、バネ調整凹部32によって前縁部30aの一部を切り欠いて形成された部分に相当し、バネ調整凹部32を第1すぐり24に向かって前方へ開放している。バネ調整凹部32はZ方向へ貫通しており、第1すぐり24の拡大穴部28に向かって開放された開放部34になっている。
【0042】
また、バネ調整凹部32は、第2インシュレータ22における平面視で、弾性腕部30の付け根部31を、第1すぐり24の拡大穴部28に臨む前縁部からスリット状をなしてX方向と平行に後方へ切り込まれた状態をなし、バネ調整凹部32の後端部35は、第2インナー部材20の側方となる弾性腕部30のX軸方向における肉厚内で止まっている。
弾性腕部30のうち、バネ調整凹部32より内側(第2インナー部材20側)で、バネ調整凹部32に隣接する部分が第2リング状部材14に拘束されない非拘束部36となる。
【0043】
ここで、開放部34から後端部35までの長さをバネ調整凹部32の深さ(切り込み深さ)D、また、バネ調整凹部32の開口幅をWとする。
バネ調整凹部32は、主としてZバネの調整に関与する部分である。バネ調整凹部32により、弾性腕部30の一部が第2リング状部材14に拘束されなくなるため、ZバネEzは著しく低下する。そこで、深さDは、後述するように、所定のXZバネ比、Ez/Exが得られるように適宜設定される。
一方、開口幅Wの影響は極わずかであり、バネ調整凹部32を領域38からY方向外側へ外すことによりXバネは影響が殆どなく、かつYバネも開口幅Wをあまり大きくしない限りそれほど影響を受けない。
【0044】
したがって、バネ調整凹部32は、設ける位置及び深さDを主にして適宜設けられることになる。要は、バネ調整凹部32を設ける場合、第2インシュレータ22の一部に第2リング状部材14から非拘束の部分としてバネ調整凹部32を形成できれば足りる。
換言すれば、バネ調整凹部32は、前縁部30aを第2リング状部材14方向へ延長したときの第2リング状部材14との交点P(仮想線で示すポイント)よりも後端部35が後方へ入り込む凹部となっていればよい。
【0045】
図6は、周波数移動前(従来例)の振動伝達特性と、周波数移動後(本願発明)の振動伝達特性を示す。周波数移動後(本願発明)の振動伝達特性は、バネ調整凹部32の存在によりZバネが低下したため、特性曲線のピークがP0となり、剛体共振の周波数がF0に変化し、特性曲線が全体として図の左側へ略平行に移動していることを示す。
【0046】
図7は、トルクロッドの重量と剛体共振周波数の関係を示すグラフであり、縦軸に剛体共振周波数、横軸にトルクロッドの重量(平方根)を取ってある。
トルクロッドの剛体共振周波数は、重量の影響を受け、重量が増大するほど剛体共振周波数は、右下がりの特性直線Rに沿って低くなる。
そこで、サンプルとして樹脂製トルクロッド1〜3及びアルミ合金製トルクロッドを用意し、それぞれの重量をW1〜W4(W1<W2<W3<W4)とすれば、剛体共振周波数はf1>f2>f3>f4となる。
【0047】
したがって、トルクロッドの重量を調節して、剛体共振周波数を、
図6に示すような振動遮断効果を生じる周波数F0と同様なf0にしようとすれば、アルミ合金製トルクロッドのような重量W4(周波数f4)にすることが必要となる。
一方、本願発明のトルクロッドは、樹脂化しているため、樹脂製トルクロッド1の重量W1とほぼ同じ重量W0であり、しかも、バネ調整凹部32によるZバネの低減により、最も重量のあるアルミ合金製トルクロッドが実現する剛体共振の周波数f0となっている。
【0048】
図8は、バネ調整凹部32の深さDとX方向及びZ方向の各バネ値の変化を示し、横軸に深さD、縦軸にバネ値をとってある。また、
図9は深さDとZバネの関係を示すグラフであり、横軸に深さD、縦軸として左側にXZバネ比(Ez/Ex)、右側にZバネのバネ値Ezをとってある。
図8に示すように、バネ調整凹部32の深さDを大きくすると、Xバネ及びZバネともにバネ値が低下するが、その低下は緩慢であって、ほぼ横ばいになる。
【0049】
但し、深さに対するバネ値の低下率が異なり、低下率はZバネの方が大きく、例えば、深さがD36(XZバネ比が0.36となる深さ、後述)では、Xバネの低下率△Xが約10%であるが、Zバネの低下率△Zは約30%低下する。この低下率の差は、深さDが大きくなる程拡大する。
このため、
図9に示すように、XZバネ比Ez/Exは、深さDが大きくなるにしたがって、次第に小さくなる。
【0050】
したがって、深さDを設定することにより、顕著なXZバネ比を形成できる。例えば、XZバネ比Ez/Exを0.36としたい場合には、
図9において、深さをD36(例えば、12mm程度)とする。このときXバネは、その低下率△Xが約10%であり(
図8)、実用上十分なバネ値を維持できている。すなわち、Xバネのバネ値Exを十分な値に維持したまま、小さなXZバネ比Ez/Exが可能になる。本例では、XZバネ比が0.35になるまで、Xバネは、実用上十分なバネ値を維持できる。換言すれば、XZバネ比を0.35程度まで小さくすることができる。
【0051】
なお、XZバネ比が小さいほど、Zバネを小さくできることを意味するが、従来はXバネを下げずにXZバネ比を所定(例えば、
図9に示す0.46程度)以下に小さくすることには限界があった。しかし、
図8に示すようにXバネをあまり下げず、かつ実用域に維持したまま、Zバネを低下させることができるので、Xバネにあまり影響を与えることなく、XZバネ比を例えば、0.35程度まで小さくすることが可能になった。
【0052】
また、バネ調整凹部32は、第1すぐり24の拡大穴部28からX軸方向へ食い込むように、弾性腕部30を切り込んで形成される。このためバネ調整凹部32により、弾性腕部30の第2リング状部材14に接続する径方向端部の一部に、第2リング状部材14で拘束されない非拘束部を容易に形成することができる。
【0053】
そのうえ、バネ調整凹部32を開口幅Wの小さなスリット状としてXバネ及びYバネに対する影響を極力少なくしたので、実用上重要なXバネを低下させず、必要なバネ値を確保し、かつYバネも所定の大きさに確保したまま、Zバネだけ大きく下げることができる。
しかも、バネ調整凹部32の開口幅Wを極めて小さなものにすることができるから、形成場所の制約が少なくなり、形成が容易になる。
【0054】
図10は、バネ調整凹部32の深さDとYバネ及びXYバネ比の関係を示すグラフであり、横軸に深さD、縦軸として左側にXYバネ比(Ey/Ex)、右側にYバネのバネ値Eyをとってある。
この図に示すように、バネ調整凹部32の深さDを大きくすると、Yバネは次第に低くなるが、Xバネは前述したように緩慢に低下し、あまり変化しない。このため、XYバネ比の変化はほぼYバネの変化と同様になる。
このことは、バネ調整凹部32の深さDによる影響が、Xバネ及びYバネに対して同様のものとなり、バネ調整凹部32の深さDを変化させても、XYバネ比はXZバネ比ほど変化しないことを意味する。また、バネ調整凹部32の深さDにより、XZバネ比をXYバネ比よりも大きく変化するようにバネ比調節できることを意味する。
【0055】
図11は、バネ調整凹部32の幅WとXバネの関係を示すグラフであり、横軸に幅W、縦軸にXバネ値をとってある。Xバネはバネ調整凹部32の幅Wが増大すると次第に低くなる。このとき、
図3において、バネ調整凹部32の幅Wを、第2インナー部材20へ向かって広げるように変化させる。すると、第2すぐり26の左右方向端部を通る線をL2を超えると、
図11に示すように、急激にXバネが低下する。したがって、Xバネをあまり低下させないようにするためには、バネ調整凹部32を線をL2より外側に設けるようにすべきことが判る。
なお、バネ調整凹部32の深さDや幅Wを調整することによって、XYZ3軸方向のバネ比、特に、XYバネ比及びXZバネ比を自由に調整可能になる。
【0056】
次に、本実施例の作用を説明する。
図5に示すように、弾性腕部30の第2リング状部材14との接続部に、切り込み状のバネ調整凹部32を設けて第2リング状部材14で拘束されない非拘束部としたので、Zバネを著しく小さくすることができる。以下、バネ調整凹部32の深さによるバネ比調節を説明する。
図9において、深さをD36(例えば、12mm程度)とする。このときXバネは、その低下率△Xが約10%であり(
図8)、実用上十分なバネ値を維持できている。すなわち、Xバネのバネ値Exを十分な値に維持したまま、小さなXZバネ比Ez/Exが可能になる。本例では、XZバネ比が0.35になるまで、Xバネは、実用上十分なバネ値を維持できる。換言すれば、XZバネ比を0.35程度まで小さくすることができる。
【0057】
従来の場合、
XZバネ比は、
図8における深さ0のXバネ及びZバネの各バネ値の比であって、
図9に示すように、Ez/Exは約0.46程度である。この数値は弾性腕部30の形状変更等で種々調整しても、せいぜい
、1:0.45〜0.46程度が限界であった。
しかし、本願によれば、防振の主体をなすXバネにあまり影響を与えることなく
、1:0.35〜0.36程度まで小さくすることが可能になった。その結果、従来実現できなかった顕著に小さなXZバネ比が可能となり、制御幅が広くなった。
【0058】
図9において、深さDが0のXZバネ比(従来例相当)に対して、深さD36におけるバネ比の差△(Z/X)は、約0.1となり、この差△(Z/X)の幅で、XZバネ比を著しく小さくなるように制御できていることが明らかである。
しかも、比較的小さなバネ調整凹部32を設け、その深さDを調整するという簡単な構成を加えるだけで、XZバネ比を、従来実現できなかった0.45未満で任意に設定することができるようになった。
【0059】
すなわち、一般にZバネを小さくすれば防振の主体をなすXバネも下がってしまう傾向にあるから、Xバネを所定以上に維持しつつ、Zバネのみを小さくすることは困難であり、Xバネにあまり影響を与えることなく、Zバネのみをより小さくすることが求められていたところ、これを解決することができるようになった。
また、XバネとZバネの関係を示すXZバネ比(Zバネ/Xバネ)において、Xバネを一定とすれば、XZバネ比が小さいほど、Zバネを小さくできることを意味する。但し、上述したZバネのみをより小さくすることが困難であると同じ理由により、XZバネ比を所定以上に小さくすることには限界があったところ、XZバネ比をより小さくすることが可能になった。
【0060】
このように、XZバネ比を小さくして、Zバネを低減させることにより、トルクロッドの剛体共振においてZ方向における共振周波数を低減させることができる。
その結果、
図6に示すように、トルクロッドの振動伝達特性を示す特性曲線は、ピークがP1なる周波数移動前(従来例)のものが、ピークがP0なる周波数移動後(本願発明)のものへ略平行に移動し、剛体共振の周波数がF1からF0へ低下する。
このため、車体側の感度の高い周波数FQにおける振動伝達性能はQ1からQ0へ低下し、車体側へ伝達される振動を抑制でき、十分な振動遮断効果△Qを実現できる。
【0061】
すなわち、XZバネ比の調整により、Z方向の振動によって生じるトルクロッドの剛体共振周波数を制御することができる。バネによる剛体共振の周波数の調整をする場合、特に、遮断すべき振動は、車体取付軸方向(Z方向)に入力する振動であるから、この方向におけるインシュレータのバネ、すなわちZバネを小さくすれば、Z方向に入力する剛体共振の共振周波数を下げて車体側への振動伝達を抑制できる。その結果、車体側への振動伝達特性を下げ、振動伝達を抑制可能になる。
また、XZバネ比の制御幅が拡大するため、チューニングにおける自由度を向上させることができる。
【0062】
しかも、XZバネ比の調整はバネ調整凹部32の幅Wを変化させることによっても可能である。このようなXZバネ比の調整により、トルクロッドの剛体共振におけるZ方向の共振周波数を比較的自由にコントロールできるようになる。また、バネ調整凹部32によるXYZ3軸方向におけるバネ比調節も同時に可能になる。
【0063】
そのうえ、トルクロッドを軽量化したまま、Zバネの低減が可能になる。
図7に示すように、本願発明のトルクロッドは、樹脂化しているため、樹脂製トルクロッド1の重量W1とほぼ同じ重量W0であり、しかも、バネ調整凹部32によるZバネの低減により、最も重量のあるアルミ合金製トルクロッドが実現する剛体共振の周波数f0を実現できている。
【0064】
また、車両を軽量化するため、トルクロッドも可及的に軽量化を求められており、アルミ合金製トルクロッド(重量W4)などの金属製よりも軽量にするため、樹脂化が採用されている。しかし、樹脂製トルクロッド1〜3はいずれも剛体共振周波数がf1〜f3であり、目標とする周波数f0よりも高くなってしまう。したがって、トルクロッドの軽量化と剛体共振周波数の低減は両立できないものであった。
【0065】
しかし、本願発明は、トルクロッドを樹脂化するとともにバネ調整凹部32によりZバネを低減したので、トルクロッドの軽量化と剛体共振周波数の低減を両立させることが可能になり、車両の軽量化という要請も満足させることができる。そのうえ、樹脂化によりトルクロッドを可及的に軽量化できる。
【0066】
なお、Zバネの低減は、弾性腕部30の付け根部31にバネ調整凹部32を設けることによって実現されるから、何らかの重量増加を伴うものではなく、逆にバネ調整凹部32の分だけ軽量化する。したがって、トルクロッドを樹脂化するか否かにかかわらず、トルクロッドの重量増加を招かずに剛体共振周波数の低減を達成できる。
また、必ずしも樹脂製とすることなく、アルミの比重2.7よりも小さな比重を有するものであれば適宜な非金属素材を利用して軽量化できる。
【0067】
図12はバネ調整凹部32の開口幅Wを大きくした別実施例の
図3と同様部位を示す図である。なお、前実施例と共通する部分は共通符号を用い、重複説明を省略する。
この実施例のバネ調整凹部32は、拡大穴部28と同程度の開口幅Wを有する凹溝として形成され、後端部位置は第2インナー部材20の後端部近傍位置まで達するように長く形成されている。但し、この例でも、領域38の外側にバネ調整凹部32が形成されるように配慮されている。
【0068】
このようにすると、Yバネが若干低下するものの、Xバネを所定に維持したまま、Zバネを大きく低下させることができることについては変わりがない。
なお、開口幅Wの大きさは、図中に仮想線で示すように、領域38より外側(第2リング状部材14側)という条件下で、所望するYバネの大きさに応じて任意に調整できる。
【0069】
なお、本願発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の原理内において種々に変形や応用が可能である。例えば、バネ調整凹部32Aとして
図13に示すように、弾性腕部30の付け根部31のうち、前後方向中間部に貫通穴状をなして形成されたものでもよい。この場合のバネ調整凹部32Aは、領域38のY方向外側に位置し、主たる振動の入力時におけるバネ作用の主体となるバネ領域を避けて設けられることに変わりはない。また、バネ調整凹部32Aの幅や長さは仕様により任意に設定できる。
【0070】
さらに、
図1及び2に示す、小型側の小玉部11aについても、大型側の大玉部11bと同様な弾性腕部30及びバネ調整凹部32を設けることもできる。