特許第5985977号(P5985977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985977
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂溶液
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20160823BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   C08G73/10
   C08L79/08 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-276104(P2012-276104)
(22)【出願日】2012年12月18日
(65)【公開番号】特開2014-118519(P2014-118519A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岡本 紳平
(72)【発明者】
【氏名】桝田 長宏
(72)【発明者】
【氏名】小澤 伸二
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−106225(JP,A)
【文献】 特開2007−046054(JP,A)
【文献】 特表2004−507116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73
C08L 79
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)に記載の構造中のX、Yが、式(2)〜(4)で表される構造単位の少なくとも1種を有し、かつ、分子鎖の末端にカルボン酸無水物またはカルボン酸を有するポリイミド樹脂と、
前記カルボン酸無水物またはカルボン酸と反応する架橋剤とを含有し
前記架橋剤が、オキサゾリン基を有するポリイミド樹脂溶液。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
含水率が1000ppm以上である請求項に記載のポリイミド樹脂溶液。
【請求項3】
前記ポリイミドの重量平均分子量が160000以下である請求項1又は2に記載のポリイミド樹脂溶液。
【請求項4】
前記ポリイミド樹脂溶液を用いて厚さ20μmのポリイミドフィルムを作製したとき、前記ポリイミドフィルムの100℃から300℃の範囲におけるCTEが20ppm/K以下となる請求項1〜のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低CTEのポリイミドフィルムを与えるポリイミド樹脂溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶や有機EL、電子ペーパー等のディスプレイや、太陽電池、タッチパネル等のエレクトロニクスの急速な進歩に伴い、デバイスの薄型化や軽量化、更には、フレキシブル化が要求されている。そこでガラス基板に変えて、薄型化、軽量化、フレキシブル化が可能なプラスチックフィルム基板が検討されている。
【0003】
これらのデバイスには基板上に様々な電子素子、例えば、薄膜トランジスタや透明電極等が形成されているが、これらの電子素子の形成には高温プロセスが必要である。しかしながら、プラスチックフィルムは、高温での寸法安定性が低いため、製造工程において反りなどの熱変形が生じやすく、位置あわせが困難になり、また電気素子が破壊されてしまう恐れがあった。特に、ガラスの線熱膨張係数を考慮するとフィルムのCTEが所定の値以下(例えば、20ppm/K以下)であることが望ましい。
【0004】
これらデバイス作製プロセスはバッチプロセスとロール・トゥ・ロールに分けられる。ロール・トゥ・ロールの作製プロセスを用いる場合には、新たな設備が必要となり、さらに回転と接触に起因するいくつかの問題を克服しなければならない。一方、バッチプロセスは、ガラス基板上にコーティング樹脂溶液を塗布、乾燥し、基板形成した後、剥がすというプロセスになる。そのため、現行TFT等のガラス基板用プロセス、設備を利用することができるため、コスト面で優位である。
【0005】
このような背景から、既存のバッチプロセス対応が可能な寸法安定性の高いコーティングフィルムの開発が強く望まれている。
【0006】
ポリイミドは耐熱性と共に高い絶縁性能を有することから、電子部品への応用がなされてきた。その為、単結晶シリコンや銅などの金属と積層される場合が多く、ポリイミドの線熱膨張係数を単結晶シリコンや金属並に小さくする試みは従来から行われてきた。
【0007】
ポリイミドの線熱膨張係数に大きく影響を与える因子として、その化学構造が挙げられる。一般に、ポリイミドの高分子鎖が剛直で直線性が高いほど線熱膨張係数は下がるといわれており、線熱膨張係数を下げる為、ポリイミドの原料であるテトラカルボン酸二無水物、ジアミン双方で種々の構造が提案されてきた。
【0008】
このうち、フッ素置換基を含有するポリイミド、例えば、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMBとする)から得られるポリイミドは、耐熱性や線熱膨張係数に加えて、有機溶媒への溶解性及び透明性にも比較的優れており、これまでいくつかの報告例がある(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5071997号公報
【特許文献2】米国特許第5194579号公報
【特許文献3】特表平8−511812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3のポリイミドにおいてもCTEが十分に低いとは言えず、ガラスなどの基材との位置合わせを良くするために更にCTEを下げる必要がある。
【0011】
本発明は、CTEの低いポリイミドフィルムが得られ、かつ、溶液中の水分による影響を考慮する必要がないために取り回しの良いポリイミド樹脂溶液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のポリイミド樹脂溶液は、式(1)に記載の構造中のX、Yが、式(2)〜(4)で表される構造単位の少なくとも1種を有し、かつ、分子鎖の末端にカルボン酸無水物またはカルボン酸を有するポリイミド樹脂と、カルボン酸無水物またはカルボン酸と反応する架橋剤とを含有する。
【0013】
【化5】
【0014】
【化6】
【0015】
【化7】
【0016】
【化8】
【0017】
これによれば、架橋剤を含んだ状態で製膜することによりポリイミドが高分子量化すること、あるいはネットワーク構造を形成することによりCTEが小さなフィルムを得ることが出来る。
【0018】
本発明のポリイミド樹脂溶液において、エポキシ基、オキサゾリン基、二重結合、アミノ基、アルデヒド基、水酸基、カルボキシル基の内の少なくとも1種を有する架橋剤を含有することが好ましい。また、上記ポリイミド樹脂溶液は、含水率が1000ppm以上であることが好ましい。また、上記ポリイミド樹脂溶液は、重量平均分子量が160000以下であることが好ましい。また、上記ポリイミド樹脂溶液を用いて厚さ20μmのポリイミドフィルムを作製したとき、ポリイミドフィルムの100℃から300℃の範囲におけるCTEが20ppm/K以下となることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリイミド樹脂溶液によれば、架橋反応によりCTEの低いポリイミドフィルムが得られる。
【0020】
また、本発明のポリイミド樹脂溶液では、得られるフィルムのCTEが溶液中の含水率によって変化しない。そのため、本発明のポリイミド樹脂溶液は、溶液中の水分による影響を考慮する必要がないために取り回しが良い。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<酸二無水物の合成>
本発明で用いる式(1)で表されるポリイミドを得るためには式(5)で表される酸二無水物を合成する必要がある。
【0022】
【化9】
【0023】
【化10】
【0024】
式(5)で表される酸二無水物を合成する方法は特に限定されないが、例えば無水トリメリット酸クロライドと式(2)〜(4)で表される構造を有するジアミンとのアミド化反応による方法が好適に用いることが出来る。
【0025】
【化11】
【0026】
【化12】
【0027】
【化13】
【0028】
反応に用いる溶媒は特に限定されないが、例えば、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド(以下DMAcと称する)、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(以下DMFと称する)、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、n−ヘプタン、ヘキサン、ペンタン、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応後の処理のしやすさ、及び、原料の溶解性の観点から酢酸エチルが好適に用いられる。反応により得られた酸二無水物は必要に応じて精製操作を行っても良い。
【0029】
<ポリイミドの合成>
本発明で用いる式(1)で表されるポリイミド樹脂は、式(5)で表される酸二無水物と式(2)〜(4)のジアミンを用いて従来公知の手法により合成出来る。最初に、テトラカルボン酸二無水物とジアミンから前駆体であるポリアミド酸を重合する。 重合溶媒としては特に限定されないが、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン-ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テロラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン等の非プロトン性溶媒および、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒、メチルジグライム、エチルジグライム、メチルトリグライム等のグリコールエーテル系溶媒が使用可能である。またこれらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0030】
本発明では、酸二無水物をジアミンの等モル当量以上の量を加えることで、カルボン酸またはカルボン酸無水物を分子末端に有するポリイミド樹脂を得ることが出来る。カルボン酸が末端にあることで、架橋剤と容易に反応させることが可能となる。
【0031】
前駆体であるポリアミド酸をイミド化する方法は特に限定はされないが、熱イミド化や、脱水剤とイミド化剤を用いる化学イミド化などが好適に用いられる。化学イミド化を行う場合、イミド化剤としては、3級アミンを用いることができる。3級アミンとしては複素環式の3級アミンがさらに好ましい。複素環式の3級アミンの好ましい具体例としてはピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリンなどをあげることができる。脱水剤としては具体的には無水酢酸、プロピオン酸無水物、n−酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等が好ましい具体例として挙げることができる。
【0032】
この様にして得られたポリイミド樹脂はその溶液のまま用いても良いが、一度貧溶媒により単離して再溶解しても良い。貧溶媒により単離することで脱水剤やイミド化剤を除くことが出来る。
【0033】
ポリイミド樹脂溶液に用いる有機溶媒は、本発明のポリイミド樹脂を溶解させる溶媒であれば特に限定されず、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン系溶媒、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒、メチルジグライム、エチルジグライム、メチルトリグライム等のグリコールエーテル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合しても良い。溶解性の観点から、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、ピロリドン系溶媒、グリコールエーテル系溶媒から少なくとも1つ選択されることが好ましい。溶解性に加えて、コーティング後の乾燥における溶媒除去のし易さを考慮に入れると、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒を単独、あるいは2種以上混合して使用することが好ましい。またポリイミド樹脂を溶解する範囲であれば、ポリイミド樹脂を溶解させにくい貧溶媒を混合溶媒として適時使用しても良い。本発明のポリイミド樹脂溶液に、最終的に得られるポリイミド樹脂塗膜、コーティングフィルムの特性を損なわない範囲で、加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、帯電防止剤、染料、顔料、微粒子等が挙げられる。
【0034】
<ポリイミド樹脂溶液>
上記方法により得られたポリイミド樹脂溶液に架橋剤を混合することで、本発明のポリイミド樹脂溶液が得られる。混合時にすぐに反応する架橋剤、製膜時に反応する架橋剤のどちらも好適に用いることが出来る。用いる架橋剤はポリイミドの末端と化学反応で結合し、(1)2官能性でポリイミド鎖の末端同士を結合するもの、(2)3官能性以上でネットワーク構造を形成するもの、(3)光や熱による反応性や重合性の官能基によりネットワーク構造や超高分子量の構造を与えるものなどが挙げられる。この様な架橋剤が含む官能基としては特に限定はされないが、エポキシ基、オキサゾリン基、二重結合、三重結合、アミノ基、水酸基などが好適に用いられる。例としてはm−ジオキサゾリンベンゼンを用いることが出来る。
【0035】
本発明におけるポリイミド樹脂溶液はポリアミド酸溶液とは異なり貯蔵安定性に優れている。ポリアミド酸溶液では、分解反応を阻止するためにワニス中の含有水分率を1000ppm以下にすることが望ましい。これに対して、ポリイミド樹脂溶液では、イミド化が終わっているため加水分解は起こらず、水分量による安定性への影響はほとんどない。ポリイミド樹脂の溶解に用いられる汎用の溶剤であるDMAcやNMP、GBLなどは空気中の水分を吸収しやすく、大気に触れる状態で保存していると数日で含水率が1000ppmを超える。水分量が多くても良いという点でポリイミド樹脂溶液はポリアミド酸より取り扱いが容易である。また、本発明のポリイミド樹脂は末端がカルボン酸無水物またはカルボン酸であるが、水分を含んでいる場合、末端のカルボン酸無水物構造は加水分解によりカルボン酸構造になっているために架橋剤と選択的に反応させやすい。このとき、カルボン酸無水物をカルボン酸に加水分解するために、ポリイミド樹脂溶液の含有水分率は1000ppm以上が望ましい。
【0036】
本発明における架橋反応前のポリイミドの分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が160000以下であれば溶剤への溶解性が良好であり好適に用いることが出来る。
【0037】
本発明のコーティング用樹脂溶液(ポリイミド樹脂溶液)から、コーティングフィルムを製造する方法については特に限定されず、公知の方法により容易に製造することが出来る。例えば、本発明のコーティング用樹脂溶液を所定の基板上に塗布、乾燥することで、コーティングフィルムを形成することができる。塗布する基板としては、ガラス、SUS、シリコンウェハー、プラスチックフィルム等が使用されるがこれに限定されるものではない。特に、電子デバイスの基板材料として適用する場合においては、既存設備を利用することができるという観点から、塗布する基板がガラス、シリコンウェハーであることが好ましい。この様にして得られたポリイミド樹脂溶液から得られるポリイミドフィルムは、厚さが20μmのポリイミドフィルムを作製したとき100℃から300℃の範囲におけるCTEが20ppm/K以下であることが望ましい。CTEが20ppm/K以下であると、反り等の熱変形が低減され、電気素子形成時の位置あわせが容易になるため、形成した電気素子が破壊されるのを抑制することができる。
【実施例】
【0038】
本発明における操作はこの限りではないが、以下に例を示す。以下の例における物性値は次の方法により測定した。
<分子量>
表1の条件にて重量平均分子量(Mw)を評価した。
【0039】
【表1】
【0040】
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、試験片に一定荷重(膜厚1μm当たり0.5g)をかけ、昇温速度5℃/分における試験片の伸び値より、100〜300℃の範囲での平均値として、ポリイミドフィルムの線熱膨張係数を求めた。
【0041】
<含水率>
三菱化学社製微量水分測定装置(CA−100)、自動水分気化装置(VA−100)を用いて、ワニス約1mlをボート上に測り取り加熱することでワニス中の含水率を測定した。
【0042】
<NMR>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用いて重水素化ジメチルスルホキシド中でテトラカルボン酸二無水物のH−NMRスペクトルを測定した。
【0043】
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300)を用い、KBr法にて本発明のテトラカルボン酸二無水物の赤外線吸収スペクトルを測定した。
【0044】
(合成例)
<酸二無水物の合成>
ポリテトラフルオロエチレン製のシール栓に4枚羽根撹拌翼を具備したステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機、窒素導入管を備えた、500mLのガラス製セパラブルフラスコに、トリメリット酸無水物クロライド67.4g(0.32mmol)を入れ、酢酸エチル190gとn−ヘキサン190gからなる混合溶媒を加えて溶解させ、溶液Aを調製した。更に別の容器に2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMB)25.6g(0.08mmol)を酢酸エチル72gとn−ヘキサン72gからなる混合溶媒を加えて溶解させ、脱酸剤としてプロピレンオキサイド9.2gを加えて溶液Bを調製した。
【0045】
エタノールアイスバス中で−20℃程度に冷却下で、溶液Aに攪拌下溶液Bを滴下して3時間攪拌し、その後室温で12時間攪拌した。析出物を濾別し、酢酸エチル/n−ヘキサン混合溶媒(体積比1:1)でよく洗浄した。その後、濾別し、60℃で12時間、さらに120℃で12時間真空乾燥して収率70%で白色の生成物を得た。FT−IRにて3380cm−1(アミド基NH伸縮振動)、3105cm−1(芳香族C−H伸縮振動)、1857cm−1、1781cm−1(酸無水物基C=O伸縮振動)、1677cm−1(アミド基C=O伸縮振動)のピーク、また、H−NMRで、δ11.06ppm(s、NH、2H)、δ8.65ppm(s、フタルイミド上、3位CaromH、2H)、δ8.37ppm(フタルイミド上、5および6位CaromH、4H)、δ7.46ppm(d、中央ビフェニル上、6および6’位CaromH、2H)、δ8.13ppm(d、中央ビフェニル上、5および5’位CaromH、2H)、δ8.27ppm(s、中央ビフェニル上、3および3’位CaromH、2H)のピークを確認することができたことから、目的物である下記式(6)に示すアミド基含有テトラカルボン酸二無水物(TATFMB)得られたことを確認した。得られた酸二無水物の構造を式(6)に示す。
【0046】
【化14】
【0047】
ここで得られたテトラカルボン酸二無水物を用いてポリイミド樹脂の合成を行った。
【実施例1】
【0048】
<末端がカルボキシル基であるポリイミド前駆体の合成>
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機、窒素導入管を備えた、3Lのガラス製セパラブルフラスコに、TFMB32.0g(0.10mol)を入れ、重合用溶媒として脱水したN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)296gを仕込み攪拌した後、この溶液に、上記の合成したアミド基含有テトラカルボン酸二無水物(TATFMB)68.1g(0.10mol)を加え、室温で24時間攪拌し、ポリアミド酸を得た。なお、この反応溶液におけるジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、全反応液に対して25重量%となっていた。
【0049】
<ポリイミド樹脂への化学イミド化>
上記溶液にDMFを加え固形分濃度を20重量%とし、イミド化触媒としてピリジンを15.8g(0.20mol)添加して、完全に分散させた。分散させた溶液中に無水酢酸を24.5g(0.24mol)を添加して攪拌し、100℃で4時間攪拌したのち、室温まで冷却した。上記ポリイミド樹脂溶液にDMFを加え固形分濃度を15重量%とし、1200gのイソプロピルアルコールをポリイミド樹脂溶液に加えた後、約30分間撹拌した。その後、ポリイミドスラリーを取り出し、更に、800gのイソプロピルアルコールを添加して完全に固形分を抽出した。900gのイソプロパノ−ルで抽出した固形分の洗浄を4回行った。そして得られた固形分を真空乾燥装置で150℃24時間真空乾燥して、ポリイミド樹脂(重量平均分子量110000)として取り出した。
【0050】
<ポリイミド樹脂溶液の調整>
上記イミド化により得られたポリイミド樹脂4.5gをDMAc9.1gとMTG36.4gの混合溶媒に溶解し、樹脂が溶解した後にm−ジオキサゾリンベンゼン30mgを溶解し、水分量が850ppmのポリイミド樹脂溶液を得た。
【実施例2】
【0051】
実施例1で得たポリイミド樹脂溶液に水を50mg加え十分に撹拌した後に、m−ジオキサゾリンベンゼン30mgを溶解し、水分量が1800ppmのポリイミド樹脂溶液を得た。
【実施例3】
【0052】
<末端がカルボキシル基であるポリイミド前駆体の合成>
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機、窒素導入管を備えた、3Lのガラス製セパラブルフラスコに、TFMB32.0g(0.10mol)を入れ、重合用溶媒として脱水したN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)296gを仕込み攪拌した後、この溶液に、上記の合成したアミド基含有テトラカルボン酸二無水物(TATFMB)67.9g(0.10mol)を加え、室温で24時間攪拌し、ポリアミド酸を得た。なお、この反応溶液におけるジアミン化合物及びテトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は、全反応液に対して25重量%となっていた。
【0053】
<ポリイミド樹脂への化学イミド化>
上記溶液にDMFを加え固形分濃度を20重量%とし、イミド化触媒としてピリジンを15.8g(0.20mol)添加して、完全に分散させた。分散させた溶液中に無水酢酸を24.5g(0.24mol)を添加して攪拌し、100℃で4時間攪拌したのち、室温まで冷却した。上記ポリイミド樹脂溶液にDMFを加え固形分濃度を15重量%とし、1200gのイソプロピルアルコールをポリイミド樹脂溶液に加えた後、約30分間撹拌した。その後、ポリイミドスラリーを取り出し、更に、800gのイソプロピルアルコールを添加して完全に固形分を抽出した。900gのイソプロパノ−ルで抽出した固形分の洗浄を4回行った。そして得られた固形分を真空乾燥装置で150℃24時間真空乾燥して、ポリイミド樹脂(重量平均分子量158000)として取り出した。
【0054】
<ポリイミド樹脂溶液の調整>
上記イミド化により得られたポリイミド樹脂4.5gをDDMAc9.1gとMTG36.4gの混合溶媒に溶解し、樹脂が溶解した後にm−ジオキサゾリンベンゼン30mgを溶解し、水分量が900ppmのポリイミド樹脂溶液を得た。
(比較例1)
【0055】
<ポリイミド樹脂溶液の調整>
実施例1より得られたポリイミド樹脂4.5gをDMAc9.1gとMTG36.4gの混合溶媒に溶解し、水分量が850ppmのポリイミド樹脂溶液を得た。
(比較例2)
【0056】
<ポリイミド樹脂溶液の調整>
実施例3より得られたポリイミド樹脂4.5gをDMAc9.1gとMTG36.4gの混合溶媒に溶解し、水分量が900ppmのポリイミド樹脂溶液を得た。
【0057】
<ポリイミドフィルムの製膜>
上記実施例1〜3、比較例1で得られたポリイミド樹脂溶液をガラス基板上にバーコーターを用いて塗布し、オーブンで乾燥した後に剥離することで膜厚20μmのポリイミドフィルムを得た。
【0058】
<ポリイミドフィルムの特性>
上記実施例1〜3、比較例1で得られたポリイミド樹脂溶液およびそれらから得作成したポリイミドフィルムの特性を以下の表2にまとめた。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1〜3はいずれも、CTEが20ppm/K以下であった。特に、実施例1、2と比較例1とを比較すると、架橋剤を添加したことでCTEが20ppm/K以下に低下した。
【0061】
また実施例1と実施例2とを比較すると、含水率が増加してもCTEが変化しなかった。そのため、含水率によってフィルム特性が変化しないことから、実施例のポリイミド樹脂溶液は水分による影響を考慮する必要がなく、取り回しが良いことが明らかとなった。