特許第5985978号(P5985978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山下ゴム株式会社の特許一覧 ▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5985978-液封防振装置 図000002
  • 特許5985978-液封防振装置 図000003
  • 特許5985978-液封防振装置 図000004
  • 特許5985978-液封防振装置 図000005
  • 特許5985978-液封防振装置 図000006
  • 特許5985978-液封防振装置 図000007
  • 特許5985978-液封防振装置 図000008
  • 特許5985978-液封防振装置 図000009
  • 特許5985978-液封防振装置 図000010
  • 特許5985978-液封防振装置 図000011
  • 特許5985978-液封防振装置 図000012
  • 特許5985978-液封防振装置 図000013
  • 特許5985978-液封防振装置 図000014
  • 特許5985978-液封防振装置 図000015
  • 特許5985978-液封防振装置 図000016
  • 特許5985978-液封防振装置 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985978
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】液封防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
   F16F13/10 J
   F16F13/10 D
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-278761(P2012-278761)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-122665(P2014-122665A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177900
【氏名又は名称】山下ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089509
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 清光
(72)【発明者】
【氏名】佐鳥 和俊
(72)【発明者】
【氏名】広川 晃之
(72)【発明者】
【氏名】仲丸 祐一
(72)【発明者】
【氏名】小松 専
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−2420(JP,A)
【文献】 特開2008−138854(JP,A)
【文献】 特開2009−52675(JP,A)
【文献】 特開2012−72900(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/105404(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 11/00−13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体のインシュレータ(3)を壁部の一部として作動液体が封入された液室を、仕切部材(6)により主液室(5)と副液室(7)に区画し、この主液室(5)と副液室(7)とを仕切部材(6)を介してオリフィス通路(8)により連通するとともに、
前記仕切部材(6)に弾性仕切部材(30)を設け、この弾性仕切部材(30)に、
主液室(5)の液圧変動を吸収する中央部の可動膜部(31)と、
前記仕切部材(6)に設けられたリーク通路(49)を開閉する外周部のリリーフバルブ(33)とをそれぞれ一体に設け、
異常振動入力時に前記リリーフバルブ(33)を開いて、前記リーク通路(49)から作動液を主液室(5)へリークさせることによりキャビテーションの発生を抑制するようにした液封防振装置において、
前記リリーフバルブ(33)は、前記弾性仕切部材(30)の外周部周方向に沿って形成され、
前記主液室(5)側へ開放されたバルブ凹部(38)と、このバルブ凹部(38)の外周壁をなす斜面壁(35)を備え、
この斜面壁(35)の径方向長さである弁長を前記リリーフバルブ(33)の長さ方向において変化させるとともに、
この弁長は、前記リリーフバルブ(33)の長さ方向中間部Pが最大になるように変化していることを特徴とする液封防振装置。
【請求項2】
前記バルブ凹部(38)の開口幅は、前記リリーフバルブ(33)の長さ方向において変化し、
前記リリーフバルブ(33)の長さ方向中間部Pが最大になるように変化していることを特徴とする請求項1に記載した液封防振装置。
【請求項3】
前記リリーフバルブ(33)は、前記弾性仕切部材(30)の平面視にて、三日月状をなしていることを特徴とする請求項1又は2に記載した液封防振装置。
【請求項4】
前記リリーフバルブ(33)は、前記弾性仕切部材(30)の平面視にて、内周側又は外周側のいずれか一方を楕円弧、他方を円弧とする異なる2曲線で形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載した液封防振装置。
【請求項5】
前記弾性仕切部材(30)の前記可動膜部(31)は、平面視で非円形をなしていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載した液封防振装置。
【請求項6】
前記リリーフバルブ(33)は、前記弾性仕切部材(30)における外周部全周の略1/2程度の長さで、中心を挟んで対称に一対で設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載した液封防振装置。

【請求項7】
前記弾性仕切部材(30)は、前記可動膜部(31)の外周部を固定するために設けられた厚肉の固定部(32)を備え、この固定部(32)より外周側部分は前記リリーフバルブ(33)が形成されるバルブ領域(50)をなすとともに、
このバルブ領域(50)における前記リリーフバルブ(33)の周方向端部近傍部はバルブ非形成部(51)をなし、このバルブ非形成部(51)にその弾力を調整するための弾力調整部(52)を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載した液封防振装置。
【請求項8】
前記斜面壁(35)の前記主液室5に臨む面に、主液室5へ開放されて径方向へ延びる径方向溝(40)を設けたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載した液封防振装置。
【請求項9】
前記斜面壁(35)は、前記副液室(7)側の面を、前記リーク通路(49)内に形成されたストッパ(26)により支持されるとともに、前記ストッパ2(6)は初期状態で前記斜面壁(35)を支持部にて前記主液室(5)側へ押し出していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載した液封防振装置。
【請求項10】
前記弾性仕切部材(30)は前記可動膜部(31)の外周部を固定するために設けられた厚肉の固定部(32)を備え、前記リリーフバルブ(33)の斜面壁(35)は前記固定部(32)から径方向外方へ一体に突出し、この斜面壁(35)の前記固定部(32)へ接続する基部(36)で前記主液室(5)側の面に、長さ方向へ延びる弧状の凹溝である周方向溝(37)が形成されるとともに、
前記固定部(32)よりも厚肉で固定部(32)と連続一体であり、前記基部(36)から前記副液室(7)側へ延出する固定基部39を備え、
この固定基部(39)の外周面(39a)が、前記周方向溝(37)の底部中心(37a)よりも径方向外方に位置することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載した液封防振装置。




要約書
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動車のエンジンマウント等に使用される液封防振装置に係り、特にキャビテーション現象により発生する異音を効果的に低減できるとともに高減衰を実現できるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の液封防振装置において、異常な過大振幅振動入力時には主液室内が瞬間的に負圧になることがあり、このとき作動液の一部が気化するキャビテーションが発生する。このキャビテーションには大きな異音の発生を伴うので、この異音を防止することが求められ、そのための構造が種々提案されている。
このうちの一つとして、仕切部材の一部に可動膜部を設け、この可動膜部の外周部に円弧状をなすリリーフバルブを一体に設け、通常振動(一般走行時等において想定される範囲の振動)の入力時には仕切部材に設けたリーク通路を閉じ、異常振動の入力時には、リリーフバルブを開いて副液室から主液室内へ大量の作動液をリークさせるようにしたものがある(特許文献1参照)。
ここで異常振動とは、キャビテーションを発生するような過大振幅の振動であり、一般走行時等の通常では生じない振動である。
【特許文献1】特開2009−52675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のリリーフバルブにおいては、入力振動が通常範囲の場合は、リーク通路を液密に閉じて作動液をリークさせず、オリフィス通路の液柱共振による高減衰を確保する必要があるため、通常の振動入力で開弁してしまうような変形(以下、開弁変形という)をさせず、リリーフバルブの剛性をできるだけ高くして液密を保ち、作動液のリークを防がなければならない。
一方、異常振動入力時には、リリーフバルブが短時間で大きく開くことにより、できるだけ大量の作動液を瞬時にリークさせる必要がある。
このため、リリーフバルブは異常振動入力時に開き易くし、かつ開口面積を大きくするように開き方向へ素早く変形できる開弁容易性が求められている。しかし、このような剛性向上と開弁容易性は相反する性質ものであるから、これらをバランスさせ、通常の振動入力時にはリークを阻止するために変形しない程度の剛性と、異常振動入力時には速やかに変形して大量のリークを可能にする開弁容易性とを兼備することが求められている。
また、リリーフバルブ開弁時における大量のリークを可能にするためには、リーク通路を可動膜部の外周部に沿って周方向へ長く形成して開口面積を大きくすることが考えられる。
しかし、このようにすると、リリーフバルブもリーク通路にあわせて可動膜部の周方向へ長く形成する必要があるが、長くなるだけ剛性が低下することになるので、全長に亘って高い剛性を維持しなければならないから、開弁容易性が損なわれやすくなる。したがって、リリーフバルブを長くする場合には、上記剛性と開弁容易性の兼備がより重要になる。
さらに、リーク通路の開口面積を大きくすることによって、リリーフバルブの内側に設けられている可動膜部の面積を減少させて液圧吸収性能を低下させたり、逆に仕切部材の外径を大きくして装置のコンパクト化を阻害するようなことは回避しなければならない。
そこで、本願は上記諸要請の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため液封防振装置に係る請求項1の発明は、弾性体のインシュレータ(3)を壁部の一部として作動液体が封入された液室を、仕切部材(6)により主液室(5)と副液室(7)に区画し、この主液室(5)と仕切部材(6)を介してオリフィス通路(8)により連通するとともに、
前記仕切部材(6)に弾性仕切部材(30)を設け、この弾性仕切部材(30)に、
主液室(5)の液圧変動を吸収する中央部の可動膜部(31)と、
前記仕切部材(6)に設けられたリーク通路(49)を開閉する外周部のリリーフバルブ(33)とを一体に設け、
異常振動入力時に前記リリーフバルブ(33)を開いて、前記リーク通路(49)から作動液を主液室へリークさせることによりキャビテーションの発生を抑制するようにした液封防振装置において、
前記リリーフバルブ(33)は、前記弾性仕切部材(30)の外周部周方向に沿って形成され、
前記主液室(5)側へ開放された凹部(38)と、この凹部(38)の外周壁をなす斜面壁(35)を備え、
この斜面壁(35)の径方向長さである弁長を前記リリーフバルブ(33)の長さ方向において変化させるとともに、
この弁長は、前記リリーフバルブ(33)の長さ方向中間部(P)が最大になるように変化していることを特徴とする。
【0005】
請求項2の発明は、上記請求項1において、
前記凹部(38)の開口幅は、前記リリーフバルブ(33)の長さ方向において変化し、
前記リリーフバルブ(33)の長さ方向中間部(P)が最大になるように変化していることを特徴とする。
【0006】
請求項3の発明は上記請求項1又は2において、
前記リリーフバルブ(33)が前記弾性仕切部材(30)の平面視にて、三日月状をなしていることを特徴とする。
ここで三日月形状とは、内外2つの曲線を組み合わせて形成される細長い形状であって、長さ方向両端が閉じられ、2つの曲線の間隔が、中間部で最も広がり、長さ方向端部に向かって次第に狭くなるように変化する形状であり、例えば、外側の曲線の曲率よりも内側の曲線の曲率を小さくすることによって形成される。
【0007】
請求項4の発明は上記請求項1〜3のいずれか1項において、
前記リリーフバルブ(33)は、前記弾性仕切部材(30)の平面視にて、内周側又は外周側のいずれか一方を楕円弧、他方を円弧とする異なる2曲線で形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項5の発明は上記請求項1〜4のいずれか1項において、
前記弾性仕切部材(30)の前記可動膜部(31)は、平面視で非円形をなしていることを特徴とする。
【0009】
請求項6の発明は上記請求項1〜5のいずれか1項において、
前記リリーフバルブ(33)は、前記弾性仕切部材(30)における外周部全周の略1/2程度の長さで、中心を挟んで対称に一対で設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項7の発明は上記請求項1〜5のいずれか1項において、
前記弾性仕切部材(30)は、前記可動膜部(31)の外周部を固定するために設けられた厚肉の固定部(32)を備え、この固定部(32)より外周側部分は前記リリーフバルブ(33)が形成されるバルブ領域(50)をなすとともに、
このバルブ領域(50)における前記リリーフバルブ(33)の周方向端部近傍部はバルブ非形成部(51)をなし、このバルブ非形成部(51)にその弾力を調整するための弾力調整部(52)を設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項8の発明は上記請求項1〜7のいずれか1項において、
前記斜面壁(35)の前記主液室(5)に臨む面に、主液室(5)へ開放されて径方向へ延びる径方向溝(40)を設けたことを特徴とする。
【0012】
請求項9の発明は上記請求項1〜8のいずれか1項において、
前記斜面壁(35)は、前記副液室(7)側の面を、前記リーク通路(49)内に形成されたストッパ(26)により支持されるとともに、前記ストッパ(26)は初期状態で前記斜面壁(35)を支持部にて前記主液室(5)側へ押し出していることを特徴とする。
【0013】
請求項10の発明は上記請求項1〜9のいずれか1項において、
前記弾性仕切部材(30)は前記可動膜部(31)の外周部を固定するために設けられた厚肉の固定部(32)を備え、前記リリーフバルブ(33)の斜面壁(35)は前記固定部(32)から径方向外方へ一体に突出し、この斜面壁(35)の前記固定部(32)へ接続する基部(36)で前記主液室(5)側の面に、長さ方向へ延びる弧状の凹溝である周方向溝(37)が形成されるとともに、
前記固定部(32)よりも厚肉で固定部(32)と連続一体であり、前記基部(36)から前記副液室(7)側へ延出する固定基部(39)を備え、
この固定基部(39)の外周面(39a)が、前記周方向溝(37)の底部中心(37a)よりも径方向外方に位置することを特徴とする。

【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、リリーフバルブの弁長をリリーフバルブの長さ方向において変化させるとともに、リリーフバルブの長さ方向中間部が最大になるように変化させたので、リリーフバルブの長さ方向中間部を最も変形し易くして、ここから速やかに開弁させることができる。しかも、長さ方向端部は弁長が短くなって変形がしにくくなるので剛性が高くなる。
したがって、剛性向上と開弁容易性との相反するものをバランスさせ、通常の振動入力時にはリークを阻止するために変形しない程度の剛性と、異常振動入力時には速やかに変形して大量のリークを可能にする開弁容易性とを兼備することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、凹部の開口幅を、リリーフバルブの長さ方向において変化させるとともに、リリーフバルブの長さ方向中間部が最大になるように変化させたので、弁長をリリーフバルブ33の長さ方向中間部が最大になるように長さ方向にて変化させることができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、リリーフバルブ33が弾性仕切部材の平面視にて、三日月状をなしているので、開口幅及び弁長を、それぞれリリーフバルブの長さ方向中間部が最大になるように長さ方向にて変化させることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、リリーフバルブ33は、前記弾性仕切部材30の平面視にて、内周側又は外周側のいずれか一方を楕円弧、他方を円弧とする異なる2曲線で形成したので、リリーフバルブを平面視で三日月状に形成することができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、可動膜部を平面視で非円形にして可動膜部の液圧吸収に必要な面積を確保しつつ、非円形の可動膜部外周と弾性仕切部材外周との間に形成される比較的幅のあるスペースを利用して弁長が長いリリーフバルブを配置することができる。したがって、可動膜部の液圧吸収を所定に維持しつつ、弁長が長さ方向に変化するリリーフバルブを一体に配置でき、しかも装置全体の大型化を回避してコンパクトな外形を維持できる。
【0019】
請求項6の発明によれば、リリーフバルブは、前記弾性仕切部材における外周部全周の略1/2程度の長さで、中心を挟んで対称に一対で設けられているので、各リリーフバルブを可及的に長く形成することができ、開弁時の開口面積を大きくすることができ、開弁時における大量のリークを可能にする。
【0020】
請求項7の発明によれば、バルブ領域におけるリリーフバルブの周方向端部近傍部をバルブ非形成部とし、このバルブ非形成部に弾力調整部を設けたので、固定部を仕切部材で固定し、バルブ領域をリーク通路へ嵌合したとき、弾力調整部によりバルブ非形成部における弾性反力の発生を抑制して、可動膜部の必要以上な撓みを防ぐことができ、その結果、減衰力の低下を防ぐことができる。
【0021】
請求項8の発明によれば、斜面壁の主液室に臨む面に、主液室へ開放されて径方向へ延びる径方向溝を設けたので、異常振動入力時に、この径方向溝を挟むようにして斜面壁が折り曲がるようになる。このため、リリーフバルブを曲がりやすくして開弁容易性を促進できる。
【0022】
請求項9の発明によれば、斜面壁の副液室側面を支持するストッパにより、初期状態で斜面壁を主液室側へ押し出したので、異常振動入力時に、斜面壁がストッパによる支持部から曲がるようになる。このため、リリーフバルブを曲がりやすくして開弁容易性を促進できる。
【0023】
請求項10の発明によれば、リリーフバルブの基部に設けた弧状の凹溝である周方向溝により、リリーフバルブを曲がりやすくして異常振動入力時におけるリリーフバルブの開弁容易性を促進できるとともに、固定部に連続する厚肉の固定基部の外周面を、前記周方向溝の底部中心よりも径方向外方に位置させたので、通常振動入力時におけるリーク防止のための剛性と、異常振動入力時における曲がりやすさとのバランスを最適化できる。

【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施例に係るエンジンマウントの中心軸線に沿う縦断面図
図2】上記構成各部の分解図
図3】組立状態にある仕切部材の平面図
図4】下ホルダの平面図
図5図3の5−5線断面図
図6】弾性仕切部材の斜視図
図7】弾性仕切部材の平面図
図8】弾性仕切部材の正面図
図9図8の9−9線断面図
図10】リリーフバルブの要部拡大断面図
図11】動バネ特性のグラフ
図12】変形例のリリーフバルブ断面を示す図
図13】別の変形例に係る図12と同様の図
図14】第2実施例に係る図7と同様の図
図15】上記実施例に係る図10と同様の図
図16】第3実施例に係る図7と同様の図
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に基づいて自動車用エンジンマウントとして構成された一実施形態を説明する。図1乃至図10は第1実施例に係り、このうち図1はエンジンマウントの縦断面図、図2は構成各部を分解した図である。図1は主たる振動の入力方向Zに沿ってカットした断面でもある。なお、以下の説明において、上下左右等の各方向は図1における図示状態を基準とする。また、平面視とは、図1においてマウント軸Lに沿って図の上方からZ方向に見た状態をいうものとする。さらに、弾性仕切部材及び可動膜部の径方向とは、それぞれのマウント軸Lが交差する中心より、マウント軸Lの軸直交方向へ向かう方向とし、周方向とは、マウント軸L回りの方向とする。
【0026】
これらの図において、このエンジンマウントは、振動源であるエンジン(図示省略)側へ取付けられる第1取付部材1と、振動受け側である車体(同上)へ取付けられる第2取付部材2と、これらの間を弾性的に連結するインシュレータ3とを備える。インシュレータ3はゴム等の公知の防振用弾性部材で構成され、振動に対する防振主体部となる弾性体であり、このエンジンマウントの中心軸線であるマウント軸Lに沿うZ方向より第1取付部材1へ入力した振動はまずインシュレータ3の弾性変形により吸収される。
【0027】
インシュレータ3は略円錐台形をなし、内側に上方へ凸のドーム状凹部3aを備える。インシュレータ3の外周部には外筒金具4の上部が一体化されている。外筒金具4は筒状をなして第2取付部材2の一部を構成するとともに、その上部側開口はインシュレータ3で閉じられ、下方側の開口はダイヤフラム10で閉じられることにより、内部に密閉空間が形成される。この密閉空間は内部に非圧縮性の作動液が封入されることによりインシュレータ3とダイヤフラム10を壁部の一部とする液室をなす。
【0028】
この液室は、仕切部材6により主液室5と弁長が長い副液室7に区画される。主液室5と副液室7は、仕切部材6の外周部内にZ方向から見て円弧状に形成されたオリフィス通路8により連通されている(オリフィス通路8の両端における各液室との連通口は本図で見えていない)。オリフィス通路8は、10〜11Hz程度のシェイク振動等からなる低周波数の振動に対して共振することにより高減衰を得ることができるダンピングオリフィスとして設定されている。
【0029】
第2取付部材2は、外筒金具4が嵌合一体化される円筒形のホルダ11を備え、このホルダ11の外周へ必要により溶接等で取付けられたブラケット12を介して車体側へ取付けるようになっている。
【0030】
外筒金具4の内側には、インシュレータ3の延長部13が一体化されている。延長部13は仕切部材6の高さと同じ程度下方へ延出して外筒金具4の内面を一体に覆っている。延長部13の上部で主液室5に臨む部分は厚肉部の段差14をなし、ここで仕切部材6の外周端部上方位置を位置決めしている。
【0031】
図2に明らかなように、仕切部材6は、上下に分離される上プレート15と下ホルダ16と、これらにより上下から挟持される弾性仕切部材30を備える。
上プレート15、下ホルダ16及び弾性仕切部材30はそれぞれ平面視が同心円状をなすが、弾性仕切部材30は上プレート15及び下ホルダ16より小径であり、弾性仕切部材30は上プレート15と下ホルダ16の径方向内側に配置される。弾性仕切部材30の径方向外方には、オリフィス通路8が上プレート15と下ホルダ16の間に設けられている。
なお、弾性仕切部材30は後述するように平面視非円形にすることもできる。
【0032】
17は下段ホルダであり、オリフィス通路8を長くしたい場合に下ホルダ16の下方に重ねて一体化され、オリフィス通路8を上下2段の螺旋状にして長くするための部材である。下段ホルダ17は必要に応じて設けられ、省略可能である。
【0033】
弾性仕切部材30の外周部にはリリーフバルブ33を一体に設け、主液室5側のリーク穴19及び副液室7側のリーク穴29(図1参照)を連通するリーク通路を開閉し、開いたとき作動液を副液室7側から主液室5側へリークさせるようになっている。
【0034】
さらに、弾性仕切部材30は中央部に可動膜部31を備え、上プレート15の中央上開口18及び下ホルダ16の中央下開口28を通して主液室5及び副液室7に臨み、主液室5の液圧変動により弾性変形して内圧変動を吸収するようになっている。
【0035】
ダイヤフラム10は、薄肉の本体部10aと、その外周部に一体形成された厚肉部10bを備え、厚肉部10bには固定用リング10cがインサートされて一体化している。固定用リング10cの外周面からは厚肉部10bの一部であるシール部10dが径方向外方へ突出している。固定用リング10cはシール部10dを介して外筒金具4の内側へ圧入されている。固定用リング10cの上下各端面は露出しており、上端面は下ホルダ16の底部外周へ当接している。固定用リング10cの下端面は外筒金具4の下端部にてカシメ固定されている(図1参照)。
【0036】
このエンジンマウントを組み立てるには、まず、図2に示すように、第1取付部材1,インシュレータ3及び外筒金具4が一体化した小組体を作り、これを上下反転させ外筒金具4の開口部を上に向ける。
次に、小組化した仕切部材6をやはり、図1の状態と上下反転させて、外筒金具4の内側へ入れ、段差14にて位置決めさせる。
続いてダイヤフラム10の固定用リング10cを圧入して仕切部材6の図示状態面へ当接させ、外筒金具4を絞り、先端を内側へ折り曲げて折り曲げ部4a(図1参照)として、固定用リング10cの図示状態上端面を圧接することにより、全体が組立一体化される。
【0037】
以下、仕切部材6について詳細に説明する。
図3は仕切部材6の平面図、図4は下ホルダ16の平面図、図5図3の5−5線に沿う断面図である。なお、図1における仕切部材6の断面部位は、図3の1−1線に相当する断面部位である。これらの図に示すように、仕切部材6は平面視が円形である中空の枠状体であり、上プレート15と下ホルダ16及び下段ホルダ17はそれぞれ剛性を有し、軽金属や硬質樹脂等の適宜材料で構成される。
【0038】
図3に平面視形状が示されている上プレート15は円板状であり、中央が一段低くなった中央段部15aをなし、ここに主液室5と連通する中央上開口18が貫通形成される。18aは十文字状の変形規制枠18aであり、中央上開口18を打ち抜くとき残された部分である。中央段部15aの外周側には円弧状の長穴形状をなす一対のリーク穴19が同一円周上に向かい合わせで2個配置されている。
【0039】
符号20はオリフィス通路8の主液室側開口である。21は位置決め突起であり下ホルダ16から突出して、上プレート15に形成された小孔21aに嵌合することにより、上プレート15と下ホルダ16が位置決めされて一体化される。
【0040】
図4は下ホルダ16の平面図である。下ホルダ16には最外周部の周壁をなす外周環状壁22aとその内側の環状隔壁23及びさらにその内側の内周環状壁24が同心配置されている。
これらの壁部により下ホルダ16の内部には、外周側から内周側へ向かって、オリフィス部16a、バルブ部16b及び中央開口部16cが区画形成されている。
【0041】
オリフィス部16aは、外周環状壁22a、環状隔壁23及び下ホルダ16の底部25に囲まれた環状空間であり、ここに円弧状溝22が形成されている。円弧状溝22は全周に亘っては形成されず、外周環状壁22aと環状隔壁23は周方向1か所にて連結部16dで結合し、ここが円弧状溝22の長さ方向両端部になっている。円弧状溝22の長さ方向端部のうち一方は副液室側への連通口22bをなし、他方側の端部22cは主液室側開口20の直下に位置する。連結部16dには、位置決め溝16eが設けられている。
【0042】
バルブ部16bは、円形の環状隔壁23と楕円状の内周環状壁24及び下ホルダ16の底部25に囲まれた環状空間であり、ここに弾性仕切部材30の固定部32より外側でリリーフバルブ33を含む外周部分が収容される。
環状隔壁23と内周環状壁24との間隔は周方向で変化し、図の左右方向で最も狭く、上下方向が最も広くなる。
この内部空間は、図の上下に区画された一対のリーク通路49(図1参照)をなす。
【0043】
上下のリーク通路49は、バルブ部16bの内部に弾性仕切部材30が嵌合されることにより分断される。すなわち、バルブ部16bは図右側部分で位置決め溝16eに連続しており、バルブ部16bへ固定部32よりも外周部を嵌合するとき、弾性仕切部材30に形成されている位置決め突起30a(図6・7参照)が位置決め溝16eに嵌合する。
【0044】
また、バルブ部16bの位置決め溝16e部分と反対側部分16fには、弾性仕切部材30の外周部で位置決め突起30aの反対側となる部分に形成されている厚肉エンド30b(図6・7参照)が嵌合し、バルブ部16bの内部を図の上下方向へ液密に分断する。このため、リーク通路49は図の上下に二分され、かつバルブ部16bの周長を略二分した長いものになる。
【0045】
各リーク通路49は平面視三日月状をなす。この三日月形状は外周側の円形をなす環状隔壁23と内周側の楕円状をなす内周環状壁24とで形成される。各リーク通路49の長さ方向中間部Pに相当する部分上方には上プレート15のリーク穴19が重なり、リーク通路49はリーク穴19を介して主液室5と連通するようになっている。リーク穴19は開口面積はリーク通路49の一部になるが、キャビテーション阻止に十分なリーク量を可能にする大きさに設定されている。また、リリーフバルブ33の後述する最も開き易い部分の上方に位置する。
【0046】
各リーク通路49は、底部25に形成されている複数のリーク穴29を介して副液室7と連通するようになっている。底部25近傍部は弾性仕切部材30の固定基部39(図4)を収容する環状の凹部である環状溝27をなすとともに、リーク穴29が貫通して形成されている。リーク穴29は図の上下方向に向かい合わせで対をなして配置され、隣接したもの同士の内周側を結ぶと大略楕円弧状をなすが、周方向中間部は複数のストッパ26で分断されている。
【0047】
図4中の拡大部Aはストッパ26部分の径方向断面を示す。ストッパ26は図5にも示すように、閉弁時におけるリリーフバルブ33(斜面壁35)の下面を支持するように上端面が斜面状をなすとともに、底部25の一般面(バルブ部16bにおけるストッパ26以外の底部部分でリーク穴29が開口されている部分の表面)よりも上方へ突出している。
【0048】
図4中の拡大部Bはリーク穴29部分の径方向断面を示し、リーク穴29は平面視三日月状のリーク通路49に連通する。このリーク通路49に臨む環状隔壁23の内周面はシート面23aをなす。このシート面23aには、リリーフバルブ33の閉弁時に先端部34のシール面34aが液密に密着するようになっている。
【0049】
中央開口部16cは、可動膜部31が収容される内周環状壁24の内側部分であり、この部分の底部25に中央下開口28が、略十文字状をなす変形規制枠28aを残して貫通形成されている。変形規制枠28aの径方向外端部は中央下開口28を囲む内周環状壁24と連続一体化している。
【0050】
下段ホルダ17は図5示すように、必要により下ホルダ16の下に重ねられ、
下ホルダ16の底部25から下方へ突出する結合突部16gを、下段ホルダ17の内周壁から突出する取付腕部17aの取付穴へ嵌合して先端をつぶすカシメ止め等の適宜結合手段により一体化する。
【0051】
下段ホルダ17には上方へ開放された円弧状溝17bが設けられ、図示しない位置で連通口22bを介して円弧状溝22と連通している。また、内周壁の一部に形成された連通口(この図では見えていない)により副液室7と連通する。したがって、オリフィス通路8を、円弧状溝22と17bによる2段にしてより長くすることができる。
【0052】
次に、弾性仕切部材30の詳細を説明する。図6は弾性仕切部材30の斜視図、図7はその平面図、図8は正面図、図9図7の9−9線断面図である。
弾性仕切部材30はゴム等の弾性に富む適宜部材からなり、その中央薄肉部である可動膜部31と固定部32及び固定部32の外周側に形成されたリリーフバルブ33とを一体に有する。
【0053】
可動膜部31は中央上開口18及び中央下開口28に臨み、これらの開口から出入りする作動液により弾性変形し、主液室5の内圧変動を弾性変形により吸収するための部材である十文字状の変形規制枠18a及び28aにより過大変形を規制される。
【0054】
可動膜部31には同心円状に複数の突条31a及び突条31bが一体に形成され、可動膜部31が弾性変形するとき上プレート15及び下ホルダ16に対して小さな接触面積で初期接触するようになっている。
【0055】
固定部32は可動膜部31の外周側に形成される肉厚で剛性のある環状壁であり、上部は上プレート15の中央段部15a外周部における段差部15b(図5参照)で位置決めされ、固定基部39は環状溝27へ嵌合して位置決めされることにより、上プレート15と下ホルダ16に上下から挟まれて固定される拘束部であり、可動膜部31の環状支持部をなしている。
【0056】
平面視において、可動膜部31は楕円状の非円形をなす。但し、可動膜部31は後述するように、楕円状以外の非円形にすることができ、さらには円形にすることもできる。
なお、本実施形態の可動膜部31は、厳密には陸上競技用トラックの形状に類似した長円形をなすが、この形状も楕円状ということにする。また、このような楕円形状の一部を楕円弧ということにする
固定部32は、可動膜部31の外周をなすものであるから、やはり楕円状をなし、その中心Oから固定部32の外周部までの距離R(固定部32の外径)は周方向で変化し、リリーフバルブ33との関係では、リリーフバルブ33の長さ方向中間部Pに相当する部分の近傍部が最も短いR1、長さ方向端部Qに相当する部分の近傍部が最も長いR3となる。R2はPQ間の中間部における半径である。この可動膜部31の楕円形状においては、R1を短径、中心Oと位置決め突起30a又は厚肉エンド30bにおける固定部32の外周部を延長した部分との距離R4を長径ということにする。長径R4はR3よりも長くなる。
【0057】
なお、リリーフバルブ33の長さ方向中間部Pは、楕円状をなす可動膜部31の短径R1上における固定部32より径方向外方に位置する部分に相当する。長さ方向端部Qに相当する位置は、可動膜部31の長径R4近傍部において固定部32より径方向外方に位置する部分である。このようにすることで、弾性仕切部材30の外周部のうち、可動膜部31の短径R1近傍部における径方向外方側となる部分に比較的拡大されたスペースを設け、このスペースを利用してリリーフバルブ33の弁長最大部、すなわち開口幅の最大部を効率よく配置できる。
【0058】
リリーフバルブ33は、図7における左右に形成される位置決め突起30a及び厚肉エンド30bで、図の上下に二分され、径方向外方から内方へ向かって順に、先端部34、斜面壁35、周方向溝37を備える。
このリリーフバルブ33は、弾性仕切部材30の外周部における全周の略半分をなす程度に長いものであり、平面視三日月状をなして向かい合わせに一対で設けられている。
【0059】
このリリーフバルブ33における三日月状は、円弧状をなす先端部34と楕円状の固定部32との間で形成される。すなわち、内外周が曲率を異にする曲線の組合せで形成する場合には、内側が小、外側が大とする組合せにより形成される形状である。
【0060】
先端部34は厚肉の円弧状をなす外周部であり、リリーフバルブ33が閉じたときリーク通路49の外周壁面へ液密に密着する部分である。先端部34の半径R0は全周一定である(図示のR0は内径を示す)。先端部34の周方向端部は位置決め突起30a及び厚肉エンド30bへ連続している。この接続部がリリーフバルブ33の長さ方向端部Qに相当する。
【0061】
斜面壁35はリリーフバルブ33の開閉時に曲がるように弾性変形するリリーフバルブ33の主体的部分である。その長さ方向両端部は、位置決め突起30a及び厚肉エンド30bへ連続している。位置決め突起30a及び厚肉エンド30bは厚肉で、弾性仕切部材30において最も高剛性の部分であり、斜面壁35をリリーフバルブ33の長さ方向にて支持する部分である。
【0062】
周方向溝37は、固定部32の外周に相似形をなして周方向へ沿うように設けられた楕円弧状の凹溝であり、固定部32の外周部に接続する斜面壁35の基部に形成されている。このため、斜面壁35の外周部は先端部34による円弧状、内周部は周方向溝37による円弧状をなし、その幅は周方向へ連続的に変化し、長さ方向端部Qである位置決め突起30a及び厚肉エンド30b近傍部が最も狭くなり、長さ方向中間部P(図7の上下部分)が最も広くなる。なお、この長さ方向中間部Pと重なるように上プレート15のリーク穴19(図3)が配置されている。
【0063】
図8に示すように、リリーフバルブ33の下面基部36a(詳細後述)は周方向で高さが変化し、長さ方向中間部Pが最も低いH1となり、長さ方向端部Qが最も高いH2となるように連続的に変化している。したがって、基部36は長さ方向中間部Pから長さ方向両端部Qへ向かって斜め上がりに傾斜している。これにより、後述するようにリリーフバルブ33の弁長を周方向で変化させている。
なお、下面基部36aの位置は周方向溝37の底部の位置と対応し、周方向溝37の底部位置も長さ方向にて変化し、下面基部36aと平行する底部ラインEを形成する(図10参照)。但し、周方向溝37の深さ自体は長さ方向で一定である。
【0064】
図9及びその拡大部に示すように、リリーフバルブ33は、環状壁をなす固定部32の外周面から枝分かれ状に径方向外方へ突出する斜面壁35を一体に有する。斜面壁35は固定部32に対して鋭角状をなして径方向外方へ向かって斜め上がりに拡開するように延出し、周方向の両端部は位置決め突起30a及び厚肉エンド30bへ連続している。
【0065】
固定部32と斜面壁35の間に、上方(主液室方向)に向かって開放された凹部38を形成している。
凹部38の周方向端部は位置決め突起30a及び厚肉エンド30bで閉じられている(図6・7参照)。
【0066】
凹部38の径方向幅である開口幅Wは、固定部32の外周面32aと先端部34の内周部との間隔であり、長さ方向にて変化している。
また、凹部38の深さD(リリーフバルブ33の上端から凹部38の最低部である周方向溝37の底部中心37aまでの長さ)も長さ方向へ変化している。
【0067】
先端部34のシール面34aは環状隔壁23のシート面23aに対面して略平行に形成され、比較的広いシール面積によりのシート面23aへ液密に密着し、主液室側から副液室に向かう作動液のリークを阻止できるようになっている。
【0068】
先端部34は、閉弁時における閉弁方向への開きが規制されるだけであり、開弁方向への移動を規制されない意味での自由端であり、リリーフバルブ33の先端部にある程度の剛性を与えるための厚肉部をなし、周方向全長で均一に変形できるようになっている。
【0069】
図示断面における斜面壁35の下面長さである弁長Vは周方向で変化している。弁長Vは、斜面壁35の下面と固定基部39の外周面39a及び先端部34のシール面34aとの各交点間距離である。なお、斜面壁35の下面と固定基部39の外周面39aとの交点を特に下面基部36aとする。
この弁長はリリーフバルブ33の開閉動作に影響し、さらに弁長を周方向で変化させることは開弁特性に重要な影響を及ぼすが、詳しくは後述する。
【0070】
なお、図示の斜面壁35は径方向断面において下面が直線状をなしているため、単純にその延長部と外周面39aの交点が下面基部36aをなすが、斜面壁35の下面が曲線状をなし、さらに外周面39aとアールで接続する場合には、アールを除いた斜面壁35の下面における外周面39aと直近の曲線を延長させたときの外周面39aとの交点を下面基部36aとする。
【0071】
固定部32へ接続するリリーフバルブ33の基部36は、凹部38側となる上側に形成された周方向溝37により曲げ用薄肉部をなし、開弁及び閉弁時におけるリリーフバルブ33の折れ曲がりを容易にしている。
周方向溝37は基部36の上側を、凹部38側から下方へ彫り込むようにして形成された円弧断面の溝であり、上方へ開放されかつ固定部32の外周側に沿う楕円弧状をなして周方向へ長く形成されている。
【0072】
基部36は、周方向溝37により、斜面壁35の肉厚よりも薄肉となり、斜面壁35が周方向溝37を曲げ起点として曲がりやすくなる。
このため、リリーフバルブ33は拡大部に仮想線で示すように、異常振動入力時に周方向溝37が曲げ起点となり、斜面壁35が曲がることにより、スムーズに開弁することができる。
【0073】
基部36の肉厚は、リリーフバルブ33の開閉動作時に影響が大きいので、周方向溝37の大きさや深さを調整することにより、最適なものに調整されている。基部36の肉厚を薄くするほど、リリーフバルブ33が図の下方から液圧を受けたとき周方向溝37を曲げ基点にして小さな力で固定部32側へ曲がって開弁できるようになる。
一方、斜面壁35は、比較的厚肉にして曲げ剛性をある程度大きくすることで、閉弁時において、主液室側(図上方)からの液圧によって変形しにくく作動液をリークさせないようにして高減衰が得られるように設定される。
【0074】
したがって、閉弁時(非リーク時)におけるリリーフバルブ33の剛性を高くしてリークを防ぎ、異常振動入力時のキャビテーション発生条件では、速やかに開弁してリークさせるように斜面壁35を曲がり易くするという開弁時の特性は、弁長の周方向変化と基部36における周方向溝37によって設定される。
【0075】
さらに、周方向溝37による曲がりやすさの調整は、固定部32の連続する下部である固定基部39との関係によっても可能である。すなわち、固定基部39は、固定部32よりも径方向の肉厚が大きく、その外周面39aは、固定部32の外周面32aよりも径方向外方へ張り出している。
【0076】
ここで、周方向溝37の内周面(固定部32の外周面32aと一致する)及び外周面35a(周方向溝37に臨む斜面壁35の内周面)に接する垂線をL1及びL2とし、周方向溝37の底部中心37aを通る垂線をL3、固定基部39の外周面39aに接する垂線をL4とすると、垂線L3は固定基部39の外周面39aよりも中心側を通っている。
【0077】
このようにすると、下面基部36aが垂線L3近傍、すなわち、周方向溝37の底部中心37aの近傍に位置するため、斜面壁35の剛性を高減衰を維持するための最適の大きさに設定した状態で、最も適切に開弁させることができる。下面基部36aの位置は、垂線L3上が最適であるが、垂線L4が同L3〜L2の間にあれば、リリーフバルブ33の剛性と最適な開弁特性とのバランスにおいてある程度の効果が得られる。
【0078】
なお、垂線L4が同L3よりもL1側になると、開きやすくなり、異常振動入力時でない通常の振動入力時にもリークすることが生じ易くなる。また、垂線L2より径方向外方になると、開弁しにくくなり、キャビテーションを阻止しにくくなる。
【0079】
次に、リリーフバルブ33の長さ方向における弁長の変化について説明する。
図10は、リリーフバルブ33の弁長変化を示す部分断面図であり、Aは、図7の10A−10A断面、Bは同10B−10B断面、Cは同10C−10C断面である。
【0080】
まず、Aにおいて、この断面部位はリリーフバルブ33の長さ方向中間部Pにおけるものであり、先端部34の半径R0は全周一定であるが、固定部32の半径R1は最小になるので、凹部38の開口幅W1は最大となる。
また、凹部38の深さD1は最大になる。
【0081】
このため、弁長V1は最大になり、この部分が最も曲がりやすくなる。
ここで、図中の底部ラインEは周方向溝37の底部中心37aを長さ方向へ結んだ線であり、下面基部36aを周方向へ結んだ線と平行する直線であって、AからCへ向かって図の右肩上がりに延び、この直線上に周方向溝37の底部中心37aが位置する。凹部38の深さは底部ラインEに沿って周方向中間部(図のA)から周方向端部(図のC)へ向かって次第に浅くなる。
【0082】
次に、Bにおいて、この断面部位はリリーフバルブ33の長さ方向中間部Pと長さ方向端部Qとの中間におけるものであり、固定部32の半径R2はR1より大きく、凹部38の開口幅W2及び深さD2はそれぞれW1及びD1よりも小さくなる。このため、弁長V2はV1よりも短くなり、より曲がり難くなる。
【0083】
さらに、Cにおいて、この断面部位はリリーフバルブ33の長さ方向端部Q近傍におけるものであり、固定部32の半径R3は最大になり、凹部38の開口幅W3及び深さD3はそれぞれ最小となる(R1<R2<R3、W1>W2>W3、D1>D2>D3)。
このため、弁長V3は最小になり(V1>V2>V3)、この部分が最も曲がり難くなる。
【0084】
なお、弁長Vの変化と開口幅Wの変化はほぼ同様の傾向を示す。したがって、弁長の長さ方向変化は、図7における平面視では、リリーフバルブ33が三日月形状をなして開口幅が変化する状態からも明らかになる。
【0085】
次に、本実施例の作用を図5・9・10を中心に説明する。図5において、主液室5へZ方向から異常振動が入力すると、主液室5を圧縮して作動液を副液室7側へ送り出す。このとき、主液室5の作動液は加圧されて、リリーフバルブ33の斜面壁35上面を下方の副液室7側へ押す。しかし、リリーフバルブ33の斜面壁35はある程度の厚肉にされて高剛性になっており、予定される通常範囲の振動入力による液圧程度では開弁変形を生じないように設定されているので、先端部34のシール面34aは環状隔壁23のシート面23aに対する密着を維持して作動液のリークを防ぎ(図4の拡大部参照)、オリフィス通路8による液柱共振を強くして高減衰にすることができる。
【0086】
しかも、斜面壁35の下面はストッパ26に支持されているため(図5参照)、主液室5側の液圧がある程度高くても、斜面壁35が下方の副液室7側へ押し込まれないようにして、リリーフバルブ33の変形を阻止できるので、これによっても作動液のリークを防ぐことができる。そのうえ、異常振動が入力してもストッパ26の支持によりリリーフバルブ33の変形を阻止してリークを防止できる。
【0087】
また、ストッパ26を長さ方向中間部Pの近傍に設ければ、主液室5側からの液圧に対して、最も変形しやすいリリーフバルブ33の長さ方向中間部における斜面壁35の開弁変形を効果的に阻止できる。
さらに、ストッパ26を長さ方向中間部Pと長さ方向端部Qの中間にも設けることにより複数にすれば、より確実に支持できる。したがって、リリーフバルブ33を弾性仕切部材30の外周における略1/2周長弱程度になるように長く形成しても主液室5側からのリークを防止できるようになる。
【0088】
その後、振動方向が反転して主液室5の容積が圧縮前の状態へ戻ると作動液は、副液室7からオリフィス通路8を通って主液室5へ移動する。このとき、リリーフバルブ33へ副液室7側から液圧がかかるが、通常範囲の振動入力時にはリリーフバルブ33は開弁変形しない程度の剛性を有するので、シール面34aがシート面23aに対する密着を維持して、副液室7から主液室5へ向かう作動液のリークを阻止できる。
【0089】
一方、異常振動の入力時には、振動方向が反転したとき主液室5の容積が圧縮前の状態へ急速に戻るため、主液室5の内部は瞬間的に負圧状態に近づく。
このため、リリーフバルブ33は主液室5側から引っ張られ、かつ副液室7側から作動液で押し上げられ、この力がリリーフバルブ33の剛性に打ち勝つと、リリーフバルブ33は開弁変形してシール面34aがシート面23aから離れて開き、副液室7側の作動液を、
副液室7→リーク穴29→リーク通路49→リーク穴19→主液室5、
とリークさせる。
これにより、リーク穴19から大量の作動液が主液室5へスムーズにリークされ、主液室5内におけるキャビテーション現象の発生を確実に防止できる。
【0090】
このとき、リリーフバルブ33は弾性仕切部材30における外周部全周の略半分に近い略半楕円弧状をなして長く形成され、しかも、弁長を周方向で変化させるとともに、長さ方向中間部Pで最大になるようにしたので、周方向中間部が最初に開くようになる。
リリーフバルブ33は長さ方向の1か所で開くと、ここに作動液が集中するので、この作動液が開弁した隣接部を押し開き、さらにこの開きが長さ方向端部Qへ向かって急速に拡大し、リリーフバルブ33のほぼ全体を極めて短時間で開くことができる。
【0091】
したがって、リリーフバルブ33の長さ方向中間部Pを離弁開始部として、ここを最初に離弁させることにより、ここを起点にして両長さ方向端部Qへ向かってめくれ上がるように斜面壁35を曲げて開弁させる。
このため、リリーフバルブ33はほぼ全長に及んでスムーズに開弁され、迅速かつ確実に開弁させることができる。
【0092】
特に、本来剛性が低くなるリリーフバルブ33の長さ方向中間部Pの弁長を最大とすることにより、この部分を確実に離弁開始部とすることができる。
しかも、斜面壁35が斜面状をなすので、副液室7側の作動液は斜面に導かれてリリーフバルブ33の先端へ集中されるから、リリーフバルブ33の先端側をめくるように変形させてシール面34aをシート面23aからスムーズに離して離弁させることができる。
【0093】
そのうえ、斜面壁35は比較的高剛性になっており、かつ先端部34がより厚肉の高剛性構造になっているから、リリーフバルブ33は長さ方向で局部的に不規則な弾性変形をすることなく、リリーフバルブ33の全体が連続して変形できるようになる。
しかも、周方向溝37を周方向へ延びるように設けたので、この周方向溝37を起点として斜面壁35がスムーズに曲がるようになる。
このため、リリーフバルブ33はほぼ全長で迅速に開弁でき、リリーフバルブ33の外周部全体でリークを発生できる。
【0094】
このとき、下面基部36aの位置を、周方向溝37の底部中心37aと周方向溝37の外周面35aの中間部へ位置させることにより、斜面壁35の比較的高い剛性と曲がりやすさのバランスを最適にバランスさせることができる。
また、リリーフバルブ33は環状隔壁23の内周側にあって長い周長を有するため、大きな開口面積を形成できるので、この点でも瞬時に大量の作動液をリークでき、キャビテーション現象の発生を確実に防止できる。
【0095】
このように、本実施形態の構成によれば、剛性向上と開弁容易性との相反するものをバランスさせ、通常の振動入力時にはリークを阻止するために変形しない程度の剛性と、異常振動入力時には速やかに変形して大量のリークを可能にする開弁容易性とを兼備することができる。
【0096】
また、リリーフバルブ33を平面視で三日月状とし、かつ弾性仕切部材30における外周全周の略1/2に近くの長いものとすることにより、リーク通路49を周方向へ長く形成して開口面積を大きくしたので、リリーフバルブ33の開弁時における大量のリークを可能にする。
【0097】
しかし、リリーフバルブ33の弁長を長さ方向で変化させ、長さ方向中間部Pにおける部分を最大にして開弁容易性を確保し、長さ方向端部Q側における部分を最小にして剛性を高くしたので、全長に亘って高い剛性を維持しながら、開弁容易性を確保できる。したがって、リリーフバルブ33を長くして開弁時の開口面積を大きくすることにより作動液の大量リークを実現しても、剛性と開弁容易性を確実に兼備できる。
【0098】
さらに、リーク通路49を三日月状にして開口面積を大きくすることができたにもかかわらず、その内周側が楕円弧状をなすため、可動膜部31を楕円形状にすることができ、必要な面積を確保できる。したがって、可動膜部31の面積を減少させずに液圧吸収性能を維持できる。しかも、弾性仕切部材30の外周はこれまで同様の円形であって、外径R0も変わらないので、仕切部材6の外径を増大させることなく、装置の大型化を阻止してコンパクトな外形を維持できる。
【0099】
図11は動バネ特性を示すグラフであり、横軸にキャビテーション異音伝達力(N)、縦軸に減衰力(N・s/mm)をとってある。キャビテーション異音伝達力は、車体側へ伝達されるキャビテーション時における異音の大きさを示す指標であり、この数値が小さいほどキャビテーションを抑制できていることを示す。
【0100】
図中の実線は、本願発明の特性であり、破線は比較例である。比較例はグラフの下にAとして示すものであり、本願発明の楕円弧状をなすリリーフバルブ33を設けたBに示すものに対して、円弧状にしただけのリリーフバルブ33を有するものである。リリーフバルブの数及び長さは同じである。
【0101】
このグラフより、本願発明及び比較例ともに、減衰力はキャビテーション異音伝達力に対して、それぞれ右肩上がりてほぼ平行する直線をなすが、同じキャビテーション異音伝達力のとき、本願発明の減衰力が比較例よりも大きくなっていることより明らかなように、本願発明は比較例に対して、高減衰でかつ効果的にキャビテーションを抑制できていることが明らかである。このことは、リリーフバルブの剛性とキャビテーション抑止時における曲げやすさのバランスがとれていることを示している。
【0102】
なお、本願発明は上記の各実施例に限定されるものではなく、発明の原理内において種々に変形や応用が可能である。例えば、開弁容易性を促進する構造として図12に示すものがある。図12のAはリリーフバルブ33の図9の拡大部と同様部位の断面図であり、BはAにおけるB−B線断面である。以下、相違点のみ別符号を用いて説明する。
【0103】
この例では、斜面壁35の主液室5側表面である上面に径方向溝40が設けられている。この径方向溝40は、主液室5側へ向かって開放され、斜面壁35の上面から肉厚内へ食い込むように形成され、リリーフバルブ33の径方向へ延びる凹溝であり、内方側端部は周方向溝37へ達し、外方側端部は先端部34まで達している。また、径方向溝40を形成する位置は、リリーフバルブ33の長さ方向中間部P及びその近傍を通る位置とする。但し、複数本設けることもできる。
【0104】
このように径方向溝40を設けると、長さ方向中間部P近傍における開弁容易性を促進できる。すなわち、Bに示すように、異常振動入力時において、斜面壁35は主液室5側から引かれ、副液室7側から液圧がかかる。すると副液室7側の作動液は、矢示aのように、斜面壁35を主液室5側へ押すが、径方向溝40が設けられている部分では、径方向溝40により薄肉で曲がりやすくなっているため、径方向溝40を中心にして矢示bのように主液室5側へ折れ曲がるように変形し、この変形は先端部34まで及ぶ。このため、先端部34における径方向溝40近傍のシール面34aはシート面23aから離れやすくなり、速やかに離弁するため、この部分における開弁容易性を促進できる。
【0105】
図13は開弁容易性を促進するための別案であり、図13のAは図12のAに対応している。この例では、斜面壁35が、その副液室7側の面である下面を支持するストッパ26により主液室5側へ押し上げられている。
【0106】
図13のBは、AのB−B断面であり、この図に示すように、ストッパ26の支持面26aは主液室5側へ凸の曲面をなしている。
このため、支持面26aの先端が斜面壁35の下面へ食い込むようにして斜面壁35を主液室5側へ押し上げるように押し出しながら支持することになる。この押し出し状の支持は初期状態すなわち振動の入力がない状態から行われるように設定されている。
【0107】
支持面26aは曲面をしているため、先端部のみが略線接触状に狭い範囲で斜面壁35へ接触するとともに、この接触部を除く支持面26aと斜面壁35の下面との間には若干の間隙41が形成される。この間隙は、支持面26aと斜面壁35の下面との接触部に向かって先細り状をなす略楔状断面をなす。
そこで、異常振動入力時において、副液室7側から液圧がかかると、副液室7側の作動液は、矢示aのように、斜面壁35を主液室5側へ押すが、一部は間隙41内へ向かい、斜面壁35を支持面26aから引き離すように押し上げようとする。
【0108】
このため、斜面壁35はストッパ26との支持部において、主液室5側へ曲がるように変形され、この変形によって、先端部34におけるシール面34aはシート面23aから離れやすくなり、速やかに離弁する。このとき、ストッパ26の支持面26aが斜面壁35に対して略線接触状をなす小さな接触面積になっているので摩擦が少なく離れ易くなる。また、初期状態で斜面壁35を主液室5側へ押し出すように付勢しているので、これによって離れ易くなる。
このため、ストッパ26によって支持された部分における開弁容易性を促進できる。
なお、この構造は上記図12の径方向溝を設けたものにも適用できる。
【0109】
次に、弾性仕切部材30の第2実施例を説明する。なお、この実施例は主としてリリーフバルブ部分を変更したものであり、他は殆ど同様のものであるから、共通部分には前実施例と共通符号を用い、重複説明を省略する。
図14図7に対応する弾性仕切部材30の平面図、図15図10と同様のリリーフバルブ33における異なる部位における断面図である。
【0110】
この例では、図14に示すように、リリーフバルブ33が短くなっている。この例では、円周の略1/6程度の円弧状に形成されている。但し、リリーフバルブ33の長さは自由に設定できる。リリーフバルブ33の外周側と内周側の曲率が異なり弁長が周方向で変化すること、可動膜部31が楕円状をなすことは前実施例と同じである。
【0111】
ここで、弾性仕切部材30のうち固定部32よりも外周側部分で、位置決め突起30aと厚肉エンド30bに挟まれた部分をバルブ領域50とする。また、弾性仕切部材30の中心を通る直交2軸をX・Yとし、X軸を位置決め突起30a及び厚肉エンド30bの上に通したとき、Y軸上にリリーフバルブ33の長さ方向中間点Pが位置するように、配置される。
【0112】
リリーフバルブ33は、Y軸を挟んでバルブ領域50を周方向両側へ延びるが、リリーフバルブ33の周方向長さが比較的短いため、リリーフバルブ33と位置決め突起30a及び厚肉エンド30bとの間に、リリーフバルブ33が形成されないバルブ非形成部51が形成される。
【0113】
本実施例におけるリリーフバルブ33は、前実施例に対して周方向長さを短くしたことに相違があり、このようにすることで、前実施例において、バルブ非形成部51にまで形成されていた剛性の高い楕円弧状の端部部分を廃止でき、その結果、通常時においてこの部分からのリークを防いで、減衰力の低下を防ぐことができる。
【0114】
図15のABCは、図14におけるリリーフバルブ33の断面であり、図15のAは15A−15A線断面、図15のBは15B−15B線断面、図15のCは、15C−15C線断面である。固定部32とリリーフバルブ33における先端部34の各外周面間の距離で弁長を表したとき、図15のAにおける距離S1が最大、図15のCにおける距離S3が最小、図15のBにおける距離S2が中間となる(S1<S2<S3)ように変化し、弁長も、図15のAから図15のCへ次第に短くなるように変化する。すなわち、周方向中間部の弁長が最大となり、周方向端部の弁長が最小となるように変化することは前実施例と同様である。
【0115】
但し、この実施例では、図15のABCに示すように、バルブ長の変化は、前実施例のような周方向溝37の深さ変化によらず、深さを一定にした状態におけるバルブ角変化構造によって実現されている。すなわち、固定基部39の外周面と斜面壁35の副液室7側表面とのなす角であるバルブ角が変化している。図15におけるAのものをθ1、Bのものをθ2、Cのものをθ3とすれば、θ1<θ2<θ3となり、周方向端部へ向かって次第に増大する。すなわち、バルブ角変化構造になっている。
【0116】
このようにすることで、バルブ長を変化させ、周方向中央部で最長となるように変化させることができる。しかも、バルブ角を変化させることにより、バルブ長が変化しても、リリーフバルブ33の先端部の高さを一定にすることができる。
したがって、周方向端部では、バルブ長は最小、バルブ角は最大となり、リリーフバルブ33が開くときの曲がりを最小にする。
【0117】
図15のDは、図14における15D−15D線断面である。バルブ非形成部51は、バルブ領域50のうちリリーフバルブ33が形成されていない部分であり、リリーフバルブ33を形成するための凹部38が設けられていない部分である。但し、この部分には、バルブ非形成部51の弾力を調整するための弾力調整部52が形成されている。
【0118】
この弾力調整部52は、図14の平面視で円弧状をなす溝状凹部であり、主液室5側へ向かって開放されているが、リーク通路49に臨まず、凹部38のようリリーフバルブ33を形成するものではなく、バルブ非形成部51の剛性を下げてこの部分に適度な弾力を与えるためのものである。この例においてリーク通路49は、周方向に短いリリーフバルブ33に重なる部分だけに形成される周方向長さが比較的短いものであり、バルブ非形成部51に重なる部分には形成されていない。
【0119】
また、弾力調整部52の形状や大きさ及び深さ等は、バルブ非形成部51に要求される弾力に応じて任意に設定される。但し、弾力調整部52はバルブ非形成部51を図の上下方向へ貫通しないように形成され、その開放方向は下方の副液室7側へ向かって形成されるものでもよい。
【0120】
この弾力調整部52を設けない場合は、バルブ非形成部51の剛性が高くなってしまうため、この部分を下ホルダ16の環状隔壁23と内周環状壁24(図4参照)の間へ密に嵌合すると、バルブ非形成部51に弾性体の圧縮に伴う大きな反力が生じ、これが可動膜部31に作用して副液室7側へ撓ませてしまい、その結果、通常時における必要な減衰力を確保できない場合が生じる可能性があった。
しかし、このバルブ非形成部51に弾力調整部52を形成して弾力を調整することにより、大きな反力の発生を抑制して可動膜部31の必要以上な撓みを防ぐことができる。
しかも、前記した短いリリーフバルブ33による減衰性能の維持も可能になる。
【0121】
なお、本願発明は上記の各実施例に限定されるものではなく、発明の原理内において種々に変形や応用が可能である。例えば、弾性仕切部材30の平面視における外周部形状は円形に限らず、楕円や多角形を含む非円形形状であってもよい。弾性仕切部材30の外周部を楕円形状とし、可動膜部31を円形にした第3実施例を、図16に示す。
【0122】
図16は弾性仕切部材30の平面視形状を概略的に示すものであり、弾性仕切部材30は長径a及び短径bを有する楕円になっている。長径a及び短径bはそれぞれ弾性仕切部材30の中心Oを通る直交2軸X・Yに重なっている。
可動膜部31はハッチングで示すように、弾性仕切部材30の内側に平面視が円形をなして設けられている。
【0123】
弾性仕切部材30の外周部内側かつ可動膜部31の外側におけるスペースは、長径a近傍部が最も径方向に拡大して広くなり、短径b近傍部が最も狭くなっており、このスペースを利用してハッチングで示すリリーフバルブ33が対向して一対設けられている。
各リリーフバルブ33は三日月状をなし、開口幅が最も広い長さ方向中間部が、長径a上に位置し、ここから短軸b側へ向かって開口幅を次第に狭くしながら両側に延びている。リリーフバルブ33の長さ方向両端部は短軸bの近傍に位置し、アール状をなして内外周が接続している。各リリーフバルブ33の長さは、弾性仕切部材30における外周部全長の略1/2より若干短い程度になっている。
【0124】
このようにすると、楕円形状の弾性仕切部材30外周部と円形の可動膜部31の外周部に形成される、径方向幅が周方向で変化するスペースを有効利用して、三日月状をなす比較的長いリリーフバルブ33を一対で設けることができる。このとき、短軸bを挟んで向かい合うリリーフバルブ33の長さ方向端部間にバルブ非形成部51Aが形成されている。このバルブ非形成部51Aがある程度大きい場合には、ここに第2実施例に示したような弾力調整部(凹溝)を設けてもよい。
【0125】
なお、非円形の弾性仕切部材に対して、第1及び第2実施例のような非円形の可動膜部を組み合わせることもできる。この場合、弾性仕切部材と可動膜部をそれぞれ楕円形状にするときは、互いの扁平率が異なる組合せとしてもよい。
また、弾性仕切部材及び可動膜部をそれぞれ円形とし、これらによって形成されたリング状のスペースにリリーフバルブを設けることもできる。但し、この場合のリリーフバルブは、これまで述べた弁長が長さ方向で変化するものであることに変わりはない。
【0126】
また、弾性仕切部材及び可動膜部を非円形にする場合、この非円形は楕円形状に限定されない。例えば、卵形を含むオーバル形状や多角形、これらや円及び楕円との組合形状、大円の周囲に小円の突起又は凹部を設けた凹凸部のある形状、さらには種々な不規則形状等が可能である。
【0127】
さらに、リリーフバルブを平面視三日月形状にする場合、内外周のいずれか一方を楕円弧とし、他方を円弧とすれば容易に三日月形状にすることができるが、このような楕円弧と円弧の組合せによるばかりでなく、曲率の異なる円弧を内外周に配置したり、同じ曲率の円弧をずらして重ねることによっても形成できる。また、内外周を扁平率が異なる2つの楕円弧で形成することもできる。
また、リリーフバルブの長さは、弾性仕切部材における外周部全長の略1/2程度だけではなく、ほぼ全周に及ぶ1つだけの可及的に長いものでもよく、逆、1/3周や1/4程度の短いものでもよい。
【符号の説明】
【0128】
1:第1取付部材、2:第2取付部材、3:インシュレータ、5:主液室、6:仕切部材、7:副液室、8:オリフィス通路、19:リーク穴、23:環状隔壁、29:リーク穴、30:弾性仕切部材、31:可動膜部、32:固定部、33:リリーフバルブ、34:先端部、35:斜面壁、36:基部、37:周方向溝、38:凹部、39:固定基部、49:リーク通路、50:バルブ形成部、51・51A:バルブ非形成部、52:弾力調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16