特許第5985994号(P5985994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5985994上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985994
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
   E04G23/02 Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-3325(P2013-3325)
(22)【出願日】2013年1月11日
(65)【公開番号】特開2014-134051(P2014-134051A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】397027787
【氏名又は名称】カジマ・リノベイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 慎一
(72)【発明者】
【氏名】古市 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】金光 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】玉野 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】植田 政明
(72)【発明者】
【氏名】佐貫 武
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−185247(JP,A)
【文献】 特開2012−001962(JP,A)
【文献】 特開平09−249439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上向きに施工されたグラウト材の空気量を測定する方法であって、
有底の筒体の開口を下向きとして当該筒体を上下方向に配置し、
前記開口を通じて、前記筒体内にグラウト材を上向きで注入して充填し、
前記筒体の開口に蓋体を取り付け、前記筒体を密閉し、
前記グラウト材が充填された筒体内の圧力を測定することを特徴とする上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法。
【請求項2】
前記筒体を支持する支持部材に前記筒体を取り付けた状態で、前記筒体内にグラウト材を注入して充填し、
前記グラウト材の注入後、前記筒体を前記支持部材から取り外し、
前記蓋体を用いて、前記筒体を密閉し、
前記筒体内の圧力を測定することを特徴とする請求項1に記載の上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法。
【請求項3】
前記筒体の開口を上向きとして当該筒体を上下方向に配置し、
前記開口を通じて、前記筒体内にグラウト材を下向きで注入して充填し、
前記筒体の開口に蓋体を取り付け、前記筒体を密閉し、
前記グラウト材が充填された筒体内の圧力を測定して、基準値とし、
前記基準値と、上向き施工後の圧力の測定値とを比較することを特徴とする請求項1又は2に記載の上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法。
【請求項4】
グラウト材の上向き施工及び当該上向き施工後の圧力の測定を複数回行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法。
【請求項5】
前記筒体内にグラウト材を上向きで注入して充填した後、
前記筒体内に、せん断補強部材を挿入し、
前記せん断補強部材の挿入後、前記筒体の開口に前記蓋体を取り付け、
前記グラウト材が充填され前記せん断補強部材が挿入された前記筒体内の圧力を測定することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法。
【請求項6】
注入パイプを前記筒体内に挿入し、前記注入パイプを用いて、可塑性グラウト材を前記筒体内に充填し、
前記可塑性グラウト材が充填された筒体内の圧力を測定することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法。
【請求項7】
横向きに施工されたグラウト材の空気量を測定する方法であって、
有底の筒体の開口を横向きとして当該筒体を水平方向に配置し、
前記開口を通じて、前記筒体内にグラウト材を横向きで注入して充填し、
前記筒体の開口に蓋体を取り付け、前記筒体を密閉し、
前記グラウト材が充填された筒体内の圧力を測定することを特徴とする横向き施工されたグラウト材の空気量測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上向き施工されたグラウト材の空気量を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の老朽化や建築基準の見直し等により、既設の構造体に対してせん断補強部材を定着させるせん断補強が行われている。後施工による耐震補強の手段として、既存のボックスカルバートや、トンネルなどの地下構造物について、鉄筋コンクリート製の壁などに、構造物の内側(カルバート内、トンネル内)から差し筋(補強鉄筋)を挿入してせん断補強する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、特許文献には、内空断面を小さくせずに施工できる耐震補強の方法として、陸上トンネルやU字形擁壁の内壁面側から差し筋(補強鉄筋)を挿入してせん断補強する方法が開示されている。
【0004】
挿入される補強鉄筋にはいくつかの構造例があるが、いずれも、補強鉄筋と既設の鉄筋コンクリートを一体化するために、セメント系のグラウト材が利用されている。また、そのせん断補強の施工方法の代表的なものとして、以下のものがある。
【0005】
(1)袋詰めの固練りモルタルを削孔内に装填し、袋を突き破りながら補強鉄筋を挿入する施工方法。
(2)削孔内に、可塑性グラウトと呼ばれる粘性が高いセメント系グラウト材を充填し、補強鉄筋を人力で押し込む施工方法。
(3)注入ホースおよび排気ホースを削孔内に配置し、注入ホースを用いて、流動性のあるセメント系グラウト材を注入する施工方法(例えば、特許文献2参照)。
(4)削孔内に、流動性のグラウト材を充填し、補強鉄筋を人力で挿入する施工方法。
【0006】
上記の施工方法(1)〜(4)のうち、施工方法(4)は、鉛直方向に形成された壁に対する施工方法である。施工方法(4)では、コンクリート構造体の壁に挿入孔を横向きに穿孔する。グラウト材貯留手段としての箱状容器を挿入孔の穿孔位置の外面に設置し、挿入孔と容器とを連通させる。箱状容器の上面から注入ホースを差し込み、グラウト材の充填し挿入孔の内部の空気を抜き出す。箱状容器のグラウト材の液面が挿入孔の高さ以上になるまで、グラウト材を充満させる。次いで、挿入孔内に、せん断補強鉄筋を挿入する(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−138455号公報
【特許文献2】特開2004−162295号公報
【特許文献3】特開2010−013858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の施工方法(4)は、施工方法(1)〜(3)と比較して、以下の点で優れている。施工方法(4)では、削孔内を一旦グラウト材で充填し、孔内に空気がない状態を比較的容易に作り出すことができ、その状態で補強鉄筋を挿入することができるため、方法の原理として、グラウト材内への空気の混入を防止することができる施工方法である。
【0009】
施工方法(1)で使用される袋詰めのモルタルや、施工方法(2)で使用される可塑性グラウトは、流動性のあるグラウト材を使用する場合と比較して、取扱いに専門的な知識が必要であると共に、材料としてのコストが高くなる。
【0010】
注入ホースおよび排気ホースを用いる施工方法(3)では、硬化したグラウト材よりも、強度および剛性が小さいホースを使用するため、構造上の弱点となるおそれがある。さらに、温度変化に対するホースの線膨張係数が、グラウト材の線膨張係数と大きく異なるため、温度変化に対してホース及びグラウト材の伸縮量が一致せず、長期的な問題として水道などの原因となるおそれがある。施工方法(1)で使用される樹脂や紙製の袋についても、温度変化に対する伸縮量が一致せず、水道などを発生させる原因となるおそれがある。
【0011】
施工方法(4)は、上述したように施工方法(1)〜(3)と比較して優れた点があり、横向きの施工(すなわち、鉛直の壁部材のせん断補強)には、適用可能であるが、流動性のあるグラウト材を使用する場合には、上向きの施工は原理的に不可能であった。
【0012】
また、施工方法(2)は、上向き施工に適用可能であり、その施工の実績も多々あったが、施工に高い技量が求められること、グラウト材の充填の確実性を検査する方法がないことなどの問題があった。
【0013】
上向き施工では、十分に練習した作業員が上向きの挿入孔内に可塑性グラウトを充填し、補強鉄筋を挿入する。例えば、上向き施工の確実性を確認する場合には、可塑性グラウトが硬化した状態で、施工箇所を包含するようにコア削孔して取り出し、コアを切断してグラウトの充填状況を確認していた。しかし、実際の施工においては、このような破壊検査ができないため、施工品質の確認が求められている。
【0014】
そこで、グラウト材の充填作業の施工品質を確認する方法を提供することが求められている。すなわち、上向き削孔内に可塑性グラウトのような垂れないグラウト材を充填した状態を作り出す施工の良否は、空気の残存により決定され、その良否は作業員の技量に依存するものの、その訓練や技量を確認する方法がなかった。本発明は、上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法を提供することを目的とする。また、本発明は、横向き施工されたグラウト材の空気量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上向きに施工されたグラウト材の空気量を測定する方法であって、有底の筒体の開口を下向きとして当該筒体を上下方向に配置し、開口を通じて、筒体内にグラウト材を上向きで注入して充填し、筒体の開口に蓋体を取り付け、筒体を密閉し、グラウト材が充填された筒体内の圧力を測定することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法においては、筒体をせん断補強部材挿入孔に見たてて、筒体の開口を下向きとして該筒体を上下方向に配置する。筒体の開口を通じて、筒体内にグラウト材を上向きで注入して充填する。筒体の開口に蓋体を取り付け、筒体を密閉し、グラウト材が充填された筒体内の圧力を測定する。これにより、上向き施工されたグラウト材の空気量を測定することができる。なお、上下方向に配置するとは、筒体の長手方向が鉛直方向に沿って配置されるものに限定されず、筒体の長手方向が鉛直方向に対して傾斜して配置されるものでもよい。また、筒体を、実際に施工されるせん断補強部材挿入孔に模した形状とすることが好適である。
【0017】
また、グラウト材の空気量測定方法においては、筒体を支持する支持部材に筒体を取り付けた状態で、筒体内にグラウト材を注入して充填し、グラウト材の注入後、筒体を支持部材から取り外し、蓋体を用いて、筒体を密閉し、筒体内の圧力を測定してもよい。筒体を支持部材によって固定することで、実際の施工現場を模して、所定の高さに筒体の開口を配置することができるので、実際の施工現場に近い状態で施工されたグラウト材の空気量を測定することができる。
【0018】
また、グラウト材の空気量測定方法においては、筒体の開口を上向きとして当該筒体を上下方向に配置し、開口を通じて、筒体内にグラウト材を下向きで注入して充填し、筒体の開口に蓋体を取り付け、筒体を密閉し、グラウト材が充填された筒体内の圧力を測定して、基準値とし、当該基準値と上向き施工後の圧力の測定値とを比較してもよい。これにより、下向きにグラウト材を充填した場合を基準値として、上向き施工されたグラウト材における測定値とを比較することで、上向き施工されたことによる空気量の変化を算出することができる。なお、基準値の測定においては、JIS A1128「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法−空気室圧力方法」を参考にすることができる。
【0019】
また、グラウト材の空気量測定方法においては、筒体内にグラウト材を上向きで注入して充填した後、筒体内に、せん断補強部材を挿入し、せん断補強部材の挿入後、筒体の開口に蓋体を取り付け、グラウト材が充填されせん断補強部材が挿入された筒体内の圧力を測定してもよい。これにより、せん断補強部材が挿入された後のグラウト材の空気量を測定することができる。
【0020】
また、グラウト材の空気量測定方法においては、注入パイプを筒体内に挿入し、注入パイプを用いて、可塑性グラウト材を筒体内に充填し、可塑性グラウト材が充填された筒体内の圧力を測定してもよい。これにより、可塑性グラウト材を、注入パイプを用いて、上向き施工されたグラウト材の空気量を測定することができる。
【0021】
また、本発明は、横向きに施工されたグラウト材の空気量を測定する方法であって、有底の筒体の開口を横向きとして当該筒体を水平方向に配置し、開口を通じて、筒体内にグラウト材を横向きで注入して充填し、筒体の開口に蓋体を取り付け、筒体を密閉し、グラウト材が充填された筒体内の圧力を測定することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る横向き施工されたグラウト材の空気量測定方法においては、筒体をせん断補強部材挿入孔に見たてて、筒体の開口を横向きとして該筒体を上下方法に配置する。筒体の開口を通じて、筒体内にグラウト材を上向きで注入して充填する。筒体の開口に蓋体を取り付け、筒体を密閉し、グラウト材が充填された筒体内の圧力を測定する。これにより、横向き施工されたグラウト材の空気量を測定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、上向き又は横向き施工されたグラウト材の空気量測定方法を提供することができるので、作業者の施工の技量を確認することができると共に、技量の向上に役立てることができる。また、新しい施工方法の確認試験としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】コンクリート構造体に穿孔されたせん断補強部材挿入孔内にグラウト材注入ホースを挿入して、グラウト材を注入している状態を示す断面図である。
図2】作業者がグラウト材注入ホースを支持しながらグラウト材を注入している様子を示す概略図である。
図3】グラウト材注入ホースの先端部を示す斜視図である。
図4】せん断補強部材挿入孔内にせん断補強部材を挿入したあと、養生治具を用いてせん断補強部材挿入孔の開口部を閉止した状態を示す断面図である。
図5】本実施形態のグラウト材の空気量測定方法に使用される空気量測定器の容器本体を示す斜視図である。
図6】開口部が下向きとなるように設置された空気量測定器の容器本体に、グラウト材を注入している様子を示す概略図である。
図7】グラウト材が充填された空気量測定器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する部分については同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。
【0026】
(せん断補強部材の定着方法)
まず、上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法を説明する前に、上向き施工のせん断補強部材の定着方法について説明する。上向き施工のせん断補強部材の定着方法では、図1に示すように、既設のコンクリート構造体1に上向きのせん断補強部材挿入孔2を穿孔し、上向きのせん断補強部材挿入孔2にせん断補強部材3(図4参照)を挿入して、グラウト材Gを用いて定着させる。
【0027】
(せん断補強部材挿入孔)
上向き施工のせん断補強部材の定着方法では、有底のせん断補強部材挿入孔2を、下方に向く施工面4から穿孔する。せん断補強部材挿入孔2は、施工面4から上方に延びるように形成されている。せん断補強部材挿入孔2が延在する方向は、鉛直上向きでもよく、斜め上向きに延在していてもよい。施工面4は、斜め下方に向く面でもよい。施工面4の法線方向は、鉛直方向と交差していてもよい。せん断補強部材挿入孔2の開口部近傍には、他の部分よりも内径が大きい拡径孔2bが形成されている。なお、せん断補強部材挿入孔2の内径は、長手方向において同一でもよい。
【0028】
(せん断補強部材)
図4に示すように、せん断補強部材挿入孔2に挿入されるせん断補強部材3は、長尺のねじ節鉄筋からなり、全長にわたって雄ねじ部が形成されている。せん断補強部材3を定着する際には、せん断補強部材3の先端部に先端定着体5が取り付けられ、後端部に後端定着体6が取り付けられる。これらの定着体5,6はセラミックス製であり、防錆性を備えている。
【0029】
(グラウト材注入ホース)
本実施形態では、図1,2に示すように、グラウト材注入ホース7を用いてグラウト材Gをせん断補強部材挿入孔2内に注入する。せん断補強部材挿入孔2の削孔径は、30〜50mm程度である。図3では、グラウト材注入ホースの先端部を示している。グラウト材注入ホース7の先端部は、筒体7aを有している。筒体7aの外周面には、外方に張出すつば部7bが形成されている。つば部7bは、例えば鋼製リングである。鋼製リングを筒体7aに装着することで、つば部7bが形成される。つば部7bは、筒体7aの外周面に固定されている。
【0030】
つば部7bの外径は、せん断補強部材挿入孔2の内径よりも少し小さくなっている。グラウト材注入ホース7を、せん断補強部材挿入孔2内に挿入した際のせん断補強部材挿入孔2の内壁面とつば部7bとの間の隙間は、1mm程度であることが好ましい。せん断補強部材挿入孔2の内壁面とつば部7bとの間の隙間は、空気を通し、グラウト材Gの通過を防止可能な大きさであることが好適である。
【0031】
つば部7bの開口は、注入ホース7と同等の内径であり、つば部7bは、注入ホース7の先端から20〜40mm程度の離れた位置に取り付けられていることが好ましい。
【0032】
(グラウト材)
本実施形態では、可塑性のグラウト材を使用する。可塑性のグラウト材Gは、せん断補強部材挿入孔2に充填する直前に、可塑剤、添加剤が入れられて、練り混ぜられる。練り混ぜ後のグラウト材をホッパーに移し、バイブレータをかけて混入された空気を抜いたのちに、可塑性のグラウト材を注入する工程を実行する。なお、グラウト材は、可塑性のグラウト材に限定されず、例えば、流動性を有するグラウト材を使用してもよい。
【0033】
(グラウト材の充填)
作業者は、図2に示すように、グラウト材注入ホース7をせん断補強部材挿入孔2内に挿入する。まず、グラウト材注入ホース7は、せん断補強部材挿入孔2の奥まで挿入されて天端2aに押し当てられる。グラウト材注入ホース7の先端を、せん断補強部材挿入孔2の天端2aに押し当てた状態で、グラウト材の注入を開始する。
【0034】
グラウト材注入ホース7から流れ出たグラウト材は、天端2aとつば部7bとの間に充填される。このとき、天端2aとつば部7bとの間の空気は、グラウト材Gによって押し出され、つば部7bとせん断補強部材挿入孔2との間の隙間を通り、つば部7bよりも下方に流れ出る。また、グラウト材注入ホース7は、せん断補強部材挿入孔2に注入されたグラウト材Gによって、下方に押し下げられる。流れ出たグラウト材Gがつば部7bを押し下げるので、グラウト材注入ホース7がせん断補強部材挿入孔2内を下方へ移動することになる。グラウト材がせん断補強部材挿入孔2の下端まで充填されたら、グラウト材の注入を停止する。可塑性のグラウト材Gを充填しているので、せん断補強部材挿入孔2内から、グラウト材Gが垂れ落ちることが防止されている。
【0035】
なお、グラウト材の注入は、注入ホースを利用して注入するものに限定されない。例えば、せん断補強部材挿入孔2の開口部を覆うように、グラウト材貯留部を形成し、このグラウト材貯留部にグラウト材を供給することで、せん断補強部材挿入孔2内にグラウト材を充填させてもよい。
【0036】
(せん断補強部材の挿入)
せん断補強部材3をせん断補強部材挿入孔2に挿入するにあたり、せん断補強部材挿入孔2の開口部の直下にせん断補強部材3を配置する。せん断補強部材3を所定の位置に配置した後に、せん断補強部材3を上昇させて、せん断補強部材挿入孔2内に挿入する。
【0037】
このとき、せん断補強部材3を挿入する途中で、せん断補強部材挿入孔2内からあふれ出たグラウト材Gを、挿入孔2外のせん断補強部材3の外周面に塗りつけてもよい。挿入孔2外にあふれ出たグラウト材Gをせん断補強部材3の外周に塗り付けることによって、定着体6が挿入孔2内に挿入された後のせん断補強部材3の外周面とグラウト材Gとの間に隙間が生じることが防止される。これにより、挿入孔2内への空気の混入を防止することができる。なお、せん断補強部材3の挿入は、人力で挿入してもよく、リフターなどの上昇機構を用いて挿入してもよい。
【0038】
後端定着体6がせん断補強部材挿入孔2における拡径孔2bに入り込む位置までせん断補強部材3をせん断補強部材挿入孔2に挿入する。図4では、せん断補強部材3が、せん断補強部材挿入孔2内に挿入された状態を示している。こうして、せん断補強部材3の後端部に取り付けられた後端定着体6は、拡径孔2bに収容される。
【0039】
(グラウト材の硬化)
せん断補強部材3の挿入が完了したら、養生治具10を施工面4に当接させて施工面4に取り付け、せん断補強部材挿入孔2の開口部を閉止する。せん断補強部材挿入孔2内におけるグラウト材を所定期間、たとえば1日程度養生する。さらに、養生期間が経過した後、養生治具10を撤去し、適宜コンクリート構造体1の表面を清掃する。こうして、せん断補強部材3の定着が完了する。
【0040】
(グラウト材の空気量測定方法)
次に、上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法について図5〜7を参照して説明する。図5は、本実施形態のグラウト材の空気量測定方法に使用される空気量測定器の容器本体を示す斜視図である。図6は、開口部が下向きとなるように設置された空気量測定器の容器本体に、グラウト材を注入している様子を示す概略図である。図7は、グラウト材が充填された空気量測定器を示す断面図である。
【0041】
(空気量測定器)
まず、空気量の測定に使用される空気量測定器21を準備する。空気量測定器21は、容器本体22(筒体)と、容器本体22の開口部を閉止する蓋体23とを備えている。容器本体22は、せん断補強部材挿入孔2を模擬した内部形状を有する。容器本体22は、有底の筒体である。容器本体22の開口部22a側には、せん断補強部材挿入孔2の拡径孔2bに対応する部分22b(他の部分よりも内径が大きい部分)が形成されている。
【0042】
容器本体22の開口部22aの周縁には、径方向の外側に張出すフランジ24が形成されている。フランジ24には、蓋体23を固定するための締結部25が設けられている。締結部25は、例えば、ネジ部材、蝶ナットなどを用いることができる。
【0043】
容器本体22の外面側には、容器本体22を支持するための支持部材26が連結される連結部27が設けられている。支持部材26としては、棒状部材を使用することができ、連結部27としては、棒状部材の先端が挿入されるボスを使用することができる。
【0044】
(容器本体の配置)
次に、容器本体22を配置する。容器本体22の開口部を下向きとして、容器本体22の長手方向が上下方向となるように配置する。実際のせん断補強部材挿入孔2が形成されているように、配置する。容器本体22は、図6に示すように、棒状の支持部材26によって、支持されている。
【0045】
(グラウト材の注入、グラウト材)
グラウト材の注入は、上述したように、実際の施工と同様に実行する。例えば、グラウト材注入ホース7を用いて、グラウト材の注入を行う。容器本体22内に充填されるグラウト材は、上述したように、実際の施工と同じものを使用することができる。例えば、可塑性のグラウト材を、グラウト材注入ホース7を用いて注入する。例えば、容器本体22内がグラウト材によって満たされるまで、グラウト材が充填される。
【0046】
グラウト材の充填後、容器本体22を支持部材26から取り外し、上下を反転させる。容器本体22の開口部22aが上向きとなるように配置する。その後、容器本体22に蓋体23を装着し、締結部25を用いて、蓋体23を容器本体22に固定する。これにより、容器本体22内は、密閉状態となる。
【0047】
(空気量測定器の蓋体)
次に空気量測定器21の蓋体23について説明する。図7に示すように、蓋体23には、空気室31が形成されている。容器本体22と反対方向に窪む凹部によって空間(空気室)が形成されている。蓋体23には、圧力計32、作動弁33が設けられている。圧力計32は、空気量測定器21の内部(容器本体22及びこれに連通する空気室31)の圧力を測定する。作動弁33は、空気室内と容器外とを連通可能な弁である。
【0048】
また、空気室31には、図示しない、圧力調整弁、空気ハンドポンプ、注水口、排水(気)口が設けられている。圧力調整弁は、空気室31内の圧力を調整可能な弁である。例えば、空気室31内の圧力が所定の圧力を超えた場合に開放する。空気ハンドポンプは、空気室31内の圧力を上昇させるポンプである。注水口は、空気室31内に水を注入する際に利用可能な開口である。排水口は、空気室31内の水や、空気を排出する際に利用可能な開口である。
【0049】
(空気量の測定)
蓋体23を容器本体22に取り付けた後、所定の方法(蓄圧、開放、圧力計の指示値の読み取り)により、圧力計32の指針を読み、容器本体22に充填された空気量を測定する。このときの空気量を施工時の空気量とする。なお、所定の方法(蓄圧、開放、圧量計の指示値の読み取り)は、JIS A1128「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法−空気室圧力方法」を参考にすることができる。
【0050】
グラウト材の空量の測定は、例えば以下のとおりに行う。容器本体22内にグラウト材を充填した後、容器本体22からあふれでた余分なグラウト材を、定規などを用いてかきとってならし、グラウト材の表面と容器本体22の上端面とを正しく一致させる。
【0051】
容器本体22のフランジの上面と、蓋体23のフランジの下面を完全にぬぐったあと、蓋体23を容器本体22に取り付け、空気が漏れないように締め付ける。排水口から排水されて、蓋体の裏面との水面との間の空気が追い出されるまで軽く振動を加えながら注水口から注水する。最後にすべての弁を閉じる。
【0052】
空気ハンドポンプで空気室31の圧力を初圧力よりわずかの大きくする。約5秒後に調整弁を徐々に開いて、圧力計32の指針が安定するように圧力計32を軽くたたき、指針を初圧力の目盛に正しく一致させる。約5秒経過後、作動弁33を十分に開き、容器本体22の側面を木槌などでたたく。
【0053】
再び、作動弁33を十分に開き、圧力計32の指針が安定してから圧力計32の目盛を小数点以下1けたで読む。その読みをグラウト材の見掛けの空気量A1とする。
【0054】
グラウト材の空気量Aは、次式(1)を用いて算出することができる。
グラウト材の空気量A(%)
=グラウト材の見掛けの空気量A1(%)−骨材修正係数G(%)…(1)
なお、骨材修正係数G(%)は、グラウト材に細骨材などが含まれる場合に考慮するものであり、骨材を含まないセメントグラウトの場合にはこれを考慮する必要はない。
【0055】
(基準値の測定)
また、基準値を測定し、測定された基準値の空気量と、施工時の空気量とを比較することで、上向き施工されたグラウト材の空気量を判定してもよい。基準値の測定は、施工時の空気量の測定前に実行してもよく、施工時の空気量の測定後に実行してもよい。
【0056】
基準値の測定においては、JIS A1128「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法−空気室圧力方法」を参考にすることができる。空気量測定器に、上向き施工用の注入ホースなどを用いて、作業員がグラウト材を充填する。必要に応じて、2〜3回に分割してグラウト材を注入し、注入されたグラウト材の各層を、突き棒を用いて均等に突く、あるいは振動機を用いて締固めるなどして、グラウト材中に取り込まれた空気を抜くことが好ましい。
【0057】
そして、空気量測定器の容器から少しあふれる程度にグラウト材を充填し、定規などで余分な試料(グラウト材)を掻き取ってならし、グラウト材の表面と容器の上端面とを一致させる。圧力計(指示計)が設けられた蓋を容器に取り付け、所定の方法(蓄圧、解放、指示値の読み取り)を行い、圧力計の指針を読み、グラウト材の空気量を測定する。この測定された値を基準値、すなわち、空気が混入されていない(下向き施工の)グラウト材の空気量とする。
【0058】
(判定)
上記の二つの空気量の差(上向き施工された空気量と基準値との差)を確認し、優位な差がなければ、上向き施工されたグラウト材に、空気の混入がないと判定することができる。これにより、空気の混入を抑制して、グラウト材を上向き施工することができる技量を備えた作業員を判定することができる。
【0059】
このように、本実施形態に係る上向き施工されたグラウト材の空気量測定方法においては、空気量測定器21の容器本体22をせん断補強部材挿入孔2に見たてて、容器本体22の開口22aを下向きとして該容器本体22を上下方向に配置する。容器本体22の開口22aを通じて、容器本体22内にグラウト材を上向きで注入して充填する。容器本体22の開口22aに蓋体23を取り付け、容器本体22を密閉し、グラウト材が充填された容器本体22内の圧力を測定する。これにより、上向き施工されたグラウト材の空気量を測定することができるので、施工の良否、グラウト材中の空気の残存の程度を確認することができる。その結果、上向き施工を行う作業員の技量、訓練の程度を判定することができ、作業員の技量の向上につなげることができる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、基準値として、下向き施工されたグラウト材の空量を採用し、基準値と上向き施工されたグラウト材の空気量とを比較しているが、過去の測定値を基準値として比較することで、施工の良否を判定してもよい。
【0061】
また、グラウト材の有する空気量のばらつきに応じて、上向き施工されたグラウト材の空気量の測定を複数回行うことで、判定精度の向上を図ってもよい。また、空気量測定器21内にせん断補強部材3を挿入し、挿入後のグラウト材の空気量を測定してもよい。これにより、せん断補強部材の挿入時の空気の混入の施工技量の管理を行うことができる。
【0062】
また、上記の実施形態では、上向き施工されたグラウト材の空気量の測定を実行しているが、斜め上方、斜め下方、横向き施工されたグラウト材の空気量の測定を実行してもよい。この場合には、容器本体22の長手方向が、斜め上方、斜め下方、横向き(水平方向)になるように配置して、グラウト材の注入を実行し、空気量の測定を行う。
【符号の説明】
【0063】
21…空気量測定器
22…容器本体(筒体)
22a…容器本体の開口
23…蓋体
24…フランジ
25…締結部
26…支持部材
27…連結部
図1
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図7