【実施例】
【0025】
図1はこの実施例に係る車椅子の平面図、
図2は
図1に示す車椅子の側面図である。
【0026】
図1および
図2において符号10は車椅子を示す。車椅子10はトラック競技やロードレースなどに使用される競技用車椅子であり、車体前後方向に延びる車体フレーム12と、車体フレーム12の前部にフロントフォーク14を介して取り付けられる前輪16と、フロントフォーク14に取り付けられ、前輪16を左右に操舵可能なハンドル18と、車体フレーム12の後部左側と右側に取り付けられる一対の車輪(後輪、主車輪または大車輪ともいう)20とを備える。
【0027】
車体フレーム12の後部には上部が開放された
ケージ22が設けられ、その内部には競技者が着座する着座用シート24が取り付けられる。
【0028】
車輪20にはハンドリム26が取り付けられており、競技者はハンドリム26を操作することによって駆動力を車輪20に伝達する。また、車輪20は旋回性とハンドリム26の操作性を向上させるため、車体フレーム12に所定の傾斜角をもって正面視ハ字状に取り付けられる。
【0029】
図3は車椅子10の車輪20およびホイールを説明するための説明図である。
【0030】
車輪20は
図3に示すように、ホイール20aとホイール20aの周縁に装着されるタイヤ20bとから構成される。ホイール20aはタイヤ20bが装着されるリム20a1と、車軸を支持するハブ20a2と、リム20a1とハブ20a2との間に配置され、ホイール20aの内側面20a3aと外側面20a3bを構成するディスク(円形(円盤状)の板状部材)20a3とを備える。
【0031】
リム20a1は車輪20の骨格、即ち、ホイール20aの外枠を構成するものであり、その外周側にはタイヤ20bのビードを固定するためのフランジ(図示せず)などが形成される。
【0032】
図4はハブ20a2を構成するベアリングハウジング20a22の斜視図である。ハブ20a2は車輪20(ホイール20a)の中心部に位置し、車軸を支持すると共に、ディスク20a3が取り付けられる回転部材であり、ディスク20a3を支持する筒状のボビン(後述)と、ボビンの中空部に収容され、ボビン(ディスク20a3)と一体回転すると共に、車軸を支持するベアリングハウジング20a22とから構成される。
【0033】
ベアリングハウジング20a22はホイール20aの中心に形成された孔、具体的にはボビンの中空部に挿入されて、
図4に示すように、ベアリングハウジング20a22の一方のつば20a221と他方のつば20a222をそれぞれ表裏から締め付けることで軸が貫通する構造となる。
【0034】
図5はディスク20a3の一部を構成する板状部材(複数の板状部材のうちの一つを示す)の斜視図である。ディスク20a3はロハセル(登録商標)などの硬質発泡材(低密度高分子発泡材)からなる複数の板状部材20a31,20a32,20a33,・・・(以下特に必要な場合を除き、板状部材は符号「20a31」を用いて示す)と、複数の板状部材20a31等を接続するカーボン等の炭素繊維材からなる長桁(後述)とから構成される。即ち、ディスク20a3は複数の板状部材20a31等を長桁を介して接続することによって形成される。
【0035】
複数の板状部材20a31等は
図5に示すように、それぞれが扇形を呈し、その側辺(扇形の半径)20a311はディスク20a3の半径、換言すると、ハブ20a2からリム20a1までの長さに相当すると共に、円弧20a312はリム20a1内周の円弧とほぼ同じ曲線(曲率)を有する。尚、この実施例では扇形の板状部材20a31の中心角θは60度であり、ディスク20a3を構成するのに必要な板状部材20a31の数は全部で6個(20a31〜20a36)となる。
【0036】
従って、複数の扇形の板状部材20a31等をそれぞれ側辺20a311等で接続すると、最終的に円形の板状部材であるディスク20a3が形成される。
【0037】
図6は板状部材20a31を接続する長桁を説明するための説明図であり、(a)は板状部材20a31に長桁を取り付けた状態、(b)は長桁の斜視図、(c)は長桁が取り付けられた板状部材20a31の部分拡大斜視図である。
【0038】
上記したようにディスク20a3は複数の扇形の板状部材20a31等を側辺20a311等同士で接続して形成されるが、隣り合う板状部材20a31等は
図6(a)に示すように、その側辺20a311等において長桁(接続部材)20a32が嵌め込まれる。即ち、複数の板状部材20a31等は長桁20a32を間に挟むように接続される。
【0039】
長桁20a32は
図6(b)に示すように、断面視コ字状に形成された細長の桁(棒状部材)であり、カーボン等の炭素繊維からなる。長桁20a32のコ字状断面底部20a321は
図6(c)に示すように、板状部材20a31の側辺20a311が接する部分であるため、板状部材20a31の側辺20a311の厚さ分に相当する幅を有する。また、長桁20a32の断面側部20a322は同じく
図6(c)に示すように、隣り合う板状部材20a31等のうちの一方の板状部材20a31等の側縁を覆うように構成される。
【0040】
板状部材20a31で長桁20a32を挟むことにより、長桁20a32の樹脂が硬質発泡材の板状部材20a31に浸透し(硬質発泡材の無数の穴に入り込む)、この状態で熱を加えて固めることで長桁20a32と板状部材20a31を接続することができる。また、成形時に長桁20a32を板状部材20a31等によって両側(長桁20a32の長手方向に対して垂直方向)から加圧することで、長桁20a32の強度を向上させることもでき、結果としてディスク20a3全体の強度を向上させることができる。
【0041】
以上のように、硬質発泡材からなる複数の扇形の板状部材20a31等を、その側辺20a311等において炭素繊維材からなる長桁20a32を挟んで接続することによって極めて軽量かつ高剛性なディスク20a3を形成することができる。特に扇形の板状部材20a31の側辺20a311で炭素繊維材からなる長桁20a32を挟むことによって車輪20の横方向(車椅子10の進行方向と垂直の方向)の剛性が非常に高められる。
【0042】
尚、この実施例では断面視コ字状の長桁20a32を用いているが、長桁20a32の断面は必ずしもこの形状に限定されるものではなく、例えばエ字状であっても良く、または単なる平面状(いずれの方向にも屈曲していないI字状)であっても良い。
【0043】
図6(a)の説明に戻ると、板状部材20a31は車軸に近接する中心から半径方向に延びる短桁(補強部材)20a33で補強される。短桁20a33は長桁20a32と同様、断面視コ字状に形成された細長の桁(棒状部材)であり、カーボン等の炭素繊維からなる。また、短桁20a33は長桁20a32よりも短く形成され、
図6(a)(c)に示すように、板状部材20a31の扇形中心角の中心から半径方向に向けて嵌合される(短桁20a33は板状部材20a31の中心から半径方向に形成された切込みに嵌め込まれる)。
【0044】
板状部材20a31に長桁20a32の他、炭素繊維材からなる短桁20a33をさらに嵌合することにより、重量を増加させることなく、板状部材20a31、即ち、ディスク20a3の剛性(強度)を大幅に高めることができる。このため、車輪20のゆがみなどが減少し、車輪20の耐久性が向上する。
【0045】
図7はディスク20a3とハンドリム26を説明するための説明図である。板状部材20a31は半径方向に延びる短桁20a33の先端側(半径方向の自由端側)にハンドリム26を固定するためのハンドリム固定部20a34を備える(
図7で短桁20a33は見えず)。ハンドリム固定部20a34は板状部材20a31を貫通する孔であり(
図5、
図6(a)参照)、この孔に未硬化状態のエポキシ系樹脂20a341を充填して硬化後、ハンドリム26の取付孔を加工する。
【0046】
ハンドリム固定部20a34を短桁20a33の先端側に形成することでハンドリム固定部20a34を穿設する際の位置合わせが容易になるなど加工の効率化が図れるだけでなく、短桁20a33の延長線上にハンドリム固定部20a34を形成することで、孔を空けたことによる剛性の低下を招くこともない。実施例では各板状部材20a31等にハンドリム固定部20a34が形成されるため、ハンドリム固定部20a34は全部で6個となる。但し、ハンドリム固定部20a34は例えば4個でも良く、逆に6個以上であっても良い。
【0047】
ディスク20a3は複数の板状部材20a31等が接続されて円形の板状部材として形成された後、カーボン等の炭素繊維材からなる表皮層20a4で被覆される。即ち、ディスク20a3は表皮層20a4によって表面(外側表面)全体が被覆される。表皮層20a4は炭素繊維を織った網目状のクロス材であり、多方向への高い強度および弾性を有する。従って、表皮層20で被覆されたディスク20a3は強度がさらに増すことになる。
【0048】
ディスク20a3は表面全体が表皮層20a4で被覆されるが、表皮層20a4はさらに一方向炭素繊維材(UD(UniDirectonally)材)20a5で被覆(積層)される。一方向炭素繊維材20a5は炭素繊維が一方向のプリプレグ(炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた半硬化状態のシート状中間材料)であり、繊維方向に沿った引っ張り、圧縮強度、弾性率はクロス材よりも高い。
【0049】
図8はディスク20a3に表皮層20a4および一方向炭素繊維材20a5が被覆された状態を示す説明図であり、(a)と(b)はそれぞれ形状の異なる一方向炭素繊維材20a5の例を示したものである。
【0050】
一方向炭素繊維材20a5は
図8(a)(b)に示すように、ディスク20a3の中心から半径方向に向かってリム20a1近傍まで放射状に延びる複数本(例えば16本)の細長のプリプレグである。
【0051】
図8(a)はホイール20a3の中心から外周方向に向かうにつれて所定位置まで徐々に幅広に形成され、所定位置以降平行に延びるほぼ台形状の一方向炭素繊維材20a5の例を示したものであり、この形状の一方向炭素繊維材20a5がホイール20a3の中心から放射状に所定の間隔を空けて16本積層される。この台形状の一方向炭素繊維材20a5は例えば台形状の上底の長さに相当する中心側の幅bが約15mm、下底の長さに相当するリム20a1側の幅aが約45mmに設定される。
【0052】
図8(b)はホイール20a3の中心からリム20a1近傍まで一定幅で延びる矩形状の一方向炭素繊維材20a5の例を示したものであり、その幅aは例えば約20mmに設定される。図示に例ではこの矩形状の一方向炭素繊維材20a5が
図8(a)に示した台形状の一方向炭素繊維材20a5の本数よりも多く、所定の隙間を空けて24本積層される。しかし、一方向炭素繊維材20a5の数は必ずしも24本に限定されるものではなく、また
図8(a)に示した台形状の一方向炭素繊維材20a5の本数(16本)より少ない場合もあり得る。
【0053】
以上のように、ホイール20aの表面全体を炭素繊維材からなる表皮層(クロス材)20a4で覆うが、表皮層20a4にはさらに2層目として細長の一方向炭素繊維材(UD材)20a5が中心から放射状に所定の隙間を空けて複数本(例えば16本)積層される。このようにすることで、軽量かつ高剛性のディスク20a3を実現することができる。
【0054】
尚、表皮層20a4に一方向炭素繊維材20a5を積層し、これをディスク20a3に取り付ける工程について具体的に説明すると、先ずホイール20aの外形に合わせた円形の表皮層20a4に一方向炭素繊維材20a5を積層する。その後、一方向炭素繊維材20a5を積層した表皮層20a4を一方向炭素繊維材20a5が内側(ディスク20a3側)となるようにディスク20a3に被せ、焼き上げることでホイール20aが完成する。
【0055】
以上がこの実施例に係るホイール20aの構成であるが、次にホイール20aのディスク20a3を製造する手順について説明する。
【0056】
図9はディスク20a3の製造手順を示す説明図である。先ずボビン20a21(
図9(a))に板状部材20a31等を嵌め込むが(
図9(b))、ボビン20a21は
図9(a)に示すように、外周部20a211と外周部20a211の軸方向両端側に形成された円形のつば(フランジ)20a213を備える筒状体であり、炭素繊維からなる。従って、ボビン20a21に板状部材20a31等を嵌め込む際にはボビン20a21の外周部20a211であって外周部20a211両端のつば20a213の間に扇形の板状部材20a31等の頂部が嵌め込まれる。
【0057】
そして、
図9(b)(c)に示すように、ボビン20a21の外周部20a211に板状部材20a31等を順次嵌合していき、最終的にすべての板状部材20a31等が嵌合されるとボビン20a21に支持された円形のディスク20a3が完成する。
【0058】
尚、ディスク20a3をボビン20a21を介さずにベアリングハウジング20a22にボルト等による締め付けによって直接取り付けることも可能であるが、この場合、ボルト等による締め付けによってディスク20a3が破損(潰れ、割れ)したり、変形するおそれがある。しかし、この実施例のように、ディスク20a3を炭素繊維からなるボビン20a21の外周部20a211とつば20a213で嵌合し、ボルト等による締め付けを廃止することで、ディスク20a3の破損や変形を防止することができる。
【0059】
6個の板状部材20a31等がすべてボビン20a21に嵌め込まれたら、次いで
図9(d)に示す一方向炭素繊維材20a5が中心から半径方向に16本均等間隔で積層された表皮層20a4を、一方向炭素繊維材20a5が内側(ディスク20a3側)となるようにディスク20a3の表面に被せる。尚、板状部材20a31をボビン20a21に嵌め込む際(
図9(b)(c))には、既に板状部材20a31には長桁20a32と短桁20a33が装着されている。
【0060】
ホイール20aは長桁20a32や短桁20a33の数や長さ、表皮層20a4や一方向炭素繊維材20a5の形状や枚数などを調整することで路面状況や競技者に応じた特性(仕様)に柔軟に変更することができる。
【0061】
また、複数の板状部材20a31等を扇形としたことで、仕入時、加工前の長方形の原材料(仕入時の硬質発泡材)を有効に使うことができる。即ち、扇形とすることで切り捨てる材料が少なくなり、原材料を有効に使うことができる。
【0062】
さらに、板状部材20a31を扇形にし、その側辺20a311に長桁20a32を接続するようにすれば、板状部材20a31や長桁20a32をすべて同形状、同寸法にすることができるため、ディスク20a3の製造を容易なものにするという副次的効果もある。
【0063】
以上の如く、この発明の実施例にあっては、タイヤ20bが装着されるリム20a1と、車軸を支持するハブ20a2と、前記リム20a1と前記ハブ20a2との間に配置されるディスク20a3とからなるホイール20aにおいて、前記ディスク20a3は、硬質発泡材からなる複数の板状部材20a31等と、前記複数の板状部材20a31等を接続する炭素繊維からなる接続部材(長桁)20a32とから構成されるので、軽量、かつ高剛性な(ディスク)ホイール20aを実現することができる。
【0064】
また、前記複数の板状部材20a31等はそれぞれ扇形を呈すると共に、前記ディスク20a3は前記複数の扇形の板状部材20a31等が前記接続部材20a32を介して接続されるように構成したので、板状部材20a31を扇形とすることでより剛性を高めることができる、即ち、扇形の板状部材20a31の側辺20a311に長桁20a32を接続することで、車輪20の、特に横方向(車椅子10の進行方向と垂直の方向)に対して高い剛性を得ることができる。また、板状部材20a31を扇形にし、その側辺20a311に長桁20a32を接続する工程はディスク20a3の製造を容易なものする。
【0065】
また、前記複数の板状部材20a31等の少なくともいずれかは、前記扇形の板状部材20a31の前記車軸に近接する中心から半径方向に延びる補強部材(短桁)20a33で補強されるように構成したので、より剛性を高めることができる。
【0066】
また、前記複数の板状部材20a31等の少なくともいずれかは、前記補強部材20a33の前記半径方向の自由端側にハンドリム26を固定するためのハンドリム固定部20a34を備えるように構成したので、ホイール20aにハンドリム26を取り付けた場合であっても剛性を確保することができる。
【0067】
また、前記ディスク20a3は、前記複数の板状部材20a31等が炭素繊維材からなる表皮層20a4で被覆されるように構成したので、一層剛性を高めることができる。
【0068】
また、前記ディスク20a3は、前記炭素繊維材からなる表皮層20a4の少なくとも一部が一方向炭素繊維材20a5で被覆されるように構成したので、より一層剛性を高めることができる。
【0069】
また、前記ハブ20a2は、前記板状部材20a31を外周部20a211で支持する筒状のボビン20a21と、前記ボビン20a21の中空部20a212に収容されて前記車軸を支持するベアリングハウジング20a22とから構成されるので、複数の扇形の板状部材20a31等を確実に支持することができる。
【0070】
また、前記ボビン20a21は、炭素繊維からなるように構成したので、ボビン20a21を軽量、かつ高剛性とすることでホイール20a全体の軽量化および高剛性を図ることができる。
【0071】
尚、実施例では板状部材20a31、長桁20a32、短桁20a33の数や寸法などについて具体的に示したが、これらは例示であって限定されるものではない。
【0072】
また、実施例では一方向炭素繊維材20a5で積層された表皮層20a4を、一方向炭素繊維材20a5が内側(ディスク20a3側)となるようにディスク20a3の表面に被せるようにしたが、これとは逆に、一方向炭素繊維材20a5で積層された表皮層20a4を、一方向炭素繊維材20a5が外側(ディスク20a3とは反対側)となるようにディスク20a3の表面に被せるようにしても良い。
【0073】
また、実施例では競技用、特にトラック競技やロードレース用の車椅子10を例に説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えばバスケットボールやテニスなどに使用される陸上競技以外のスポーツ用車椅子であっても良く、さらには競技用自転車であっても良い。