(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所与の相電圧指令値を用いてスイッチング素子を制御することで直流電力を交流電力に変換してトランスを介して補機に出力する電力変換装置を、電気車の主電動機を駆動制御する主回路と並列に直流電力ラインに接続して備えた補機用電力変換システムであって、
前記トランスの1次側の中性点に接続したバッテリ装置と、
前記相電圧指令値をバイアスさせる制御を行う制御部と、
を備え、前記制御部による前記相電圧指令値のバイアス制御によって、前記電力変換装置の出力に係るゼロ相電圧を制御して前記バッテリ装置を充放電させ、放電時の前記バッテリ装置の放電電力が前記補機及び前記直流電力ラインに供給されることを特徴とする補機用電力変換システム。
前記電力変換装置の入力段に設けられたフィルタコンデンサの電圧(以下「フィルタコンデンサ電圧」という。)に係る充放電制御許容範囲が、前記直流電力ラインの電圧変動範囲及び前記電力変換装置の出力交流電圧の関係に基づいて定まる前記ゼロ相電圧の変更可能範囲内となるように設定され、
前記制御部は、前記フィルタコンデンサ電圧が前記充放電制御許容範囲内の場合に、前記バイアス制御を行う、
請求項1に記載の補機用電力変換システム。
電気車の主電動機を駆動制御する主回路と並列に直流電力ラインに接続された、所与の相電圧指令値を用いてスイッチング素子を制御することで直流電力を交流電力に変換してトランスを介して補機に出力する電力変換装置と、前記トランスの1次側の中性点に接続されたバッテリ装置とを備えた補機用電力変換システムの制御方法であって、
前記相電圧指令値をバイアス制御することで、前記電力変換装置の出力に係るゼロ相電圧を制御して前記バッテリ装置を充放電させ、放電時に前記バッテリ装置の放電電力を前記補機及び前記直流電力ラインに供給させる、
制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド電気車では、搭載するバッテリ装置のより効率の良い充放電制御が望まれる。例えば、上述した特許文献1に示した従来のハイブリッド電気車では、多数の接触器を備えることでバッテリ装置の充放電制御を実現している。しかし、新たな電力変換器や接触器の追加には相応のコストがかかる。このため、新たな電力変換器や接触器の追加を出来る限り抑えた新たなバッテリシステムが求められている。また、鉄道車両では、各種機器の搭載スペースには限りが有る。このため、省スペースを実現し得る新たなバッテリシステムも求められている。本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための第1の発明は、
所与の相電圧指令値を用いてスイッチング素子を制御することで直流電力を交流電力に変換してトランスを介して補機に出力する電力変換装置(例えば、
図2の電力変換装置100)を、電気車の主電動機を駆動制御する主回路(例えば、
図1の主変換装置20)と並列に直流電力ラインに接続して備えた補機用電力変換システム(例えば、
図2の補助電源装置40)であって、
前記トランスの1次側の中性点に接続したバッテリ装置(例えば、
図2のバッテリ装置124)と、
前記相電圧指令値をバイアスさせる制御を行う制御部(例えば、
図2の制御部130)と、
を備え、前記制御部による前記相電圧指令値のバイアス制御によって、前記電力変換装置の出力に係るゼロ相電圧を制御して前記バッテリ装置を充放電させ、放電時の前記バッテリ装置の放電電力が前記補機及び前記直流電力ラインに供給されることを特徴とする補機用電力変換システムである。
【0006】
また、他の発明として、
電気車の主電動機を駆動制御する主回路と並列に直流電力ラインに接続された、所与の相電圧指令値を用いてスイッチング素子を制御することで直流電力を交流電力に変換してトランスを介して補機に出力する電力変換装置と、前記トランスの1次側の中性点に接続されたバッテリ装置とを備えた補機用電力変換システムの制御方法であって、
前記相電圧指令値をバイアス制御することで、前記電力変換装置の出力に係るゼロ相電圧を制御して前記バッテリ装置を充放電させ、放電時に前記バッテリ装置の放電電力を前記補機及び前記直流電力ラインに供給させる、
制御方法を構成しても良い。
【0007】
この第1の発明等によれば、直流電力を交流電力に変換して補機に出力する電力変換装置を備える補機用電力変換システムにおいて、バッテリ装置を電力変換装置の出力トランスの1次側の中性点に接続して構成し、電力変換装置に対する相電圧指令値をバイアス制御することで、バッテリ装置の充放電を制御することができる。すなわち、バッテリ装置は、トランスの1次側の中性点に接続されており、電力変換装置の出力電圧のゼロ相電圧によって充電される。このため、電力変換装置の相電圧の電圧指令値をバイアス制御することで、電力変換装置の出力電圧の交流成分を変化させることなく、ゼロ相電圧を制御することができる。これにより、電力変換装置として従来の静止形インバータ(SIV)を用いることで、コストを抑えた新たなバッテリシステムを実現できる。また、補機側の回路にバッテリ装置を接続して構成されるため、バッテリ装置の設置の自由度が増し、省スペースに貢献し得る。
【0008】
また、第2の発明として、第1の発明の補機用電力変換システムであって、
前記電力変換装置の入力段に設けられたフィルタコンデンサ(例えば、
図2のフィルタコンデンサFC1)の電圧(以下「フィルタコンデンサ電圧」という。)に係る充放電制御許容範囲が、前記直流電力ラインの電圧変動範囲及び前記電力変換装置の出力交流電圧の関係に基づいて定まる前記ゼロ相電圧の変更可能範囲内となるように設定され、
前記制御部は、前記フィルタコンデンサ電圧が前記充放電制御許容範囲内の場合に、前記バイアス制御を行う、
補機用電力変換システムを構成しても良い。
【0009】
この第2の発明によれば、電力変換装置の入力電圧となるフィルタコンデンサ電圧が充放電制御許容範囲内の場合に、相電圧指令値のバイアス制御が行われる。充放電制御許容範囲は、直流電力ラインの電圧変動範囲、及び、電力変換装置の出力交流電圧の関係に基づいて定まるゼロ相電圧の変更可能範囲である。
【0010】
また、第3の発明として、第2の発明の補機用電力変換システムであって、
前記フィルタコンデンサ電圧が前記充放電制御許容範囲外の場合に、前記中性点と前記バッテリ装置との接続を遮断し、前記バイアス制御を抑止する、
補機用電力変換システムを構成しても良い。
【0011】
この第3の発明によれば、フィルタコンデンサ電圧が充放電制御許容範囲外の場合には、トランスの中性点とバッテリ装置との接続を遮断し、相電圧指令値のバイアス制御が抑止される。
【0012】
また、第4の発明として、第1〜第3の何れかの発明の補機用電力変換システムであって、
前記制御部は、
前記フィルタコンデンサ電圧を用いて充放電電流指令値を算出する手段(例えば、
図8の充放電電流指令生成部131)と、
前記充放電電流指令値と、前記バッテリ装置のバッテリ電流及びバッテリ電圧とを用いて、前記バッテリ電流を前記充放電電流指令値に近づけるための所要ゼロ相電圧を算出する手段(例えば、
図8の電流制御器132)と、
を有し、前記所要ゼロ相電圧と、前記フィルタコンデンサ電圧に基づく基準電圧との差を用いて前記相電圧指令値のバイアスを制御する、
補機用電力変換システムを構成しても良い。
【0013】
この第4の発明によれば、フィルタコンデンサ電圧を用いて算出された充放電電流指令値と、バッテリ装置のバッテリ電流及びバッテリ電圧とを用いて、バッテリ電流を充放電電流指令値に近づけるための所要ゼロ相電圧が算出され、この所要ゼロ相電圧とフィルタコンデンサ電圧に基づく基準電圧との差を用いて、相電圧指令値のバイアスが制御される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、本発明を直流電気車に適用した場合を説明するが、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0016】
[構成]
図1は、本実施形態における電気車の主回路構成を示す図である。
図1によれば、本実施形態の直流電化区間を走行する直流電気車は、主電動機10と、主電動機10に駆動電力を供給する主回路である主変換装置20と、補機30に駆動電力を供給する補機用電力変換システムである補助電源装置40とを備える。
【0017】
主変換装置20は、VVVFインバータであり、入力側が、架線側遮断器HB1を介してパンタグラフ1に接続され、出力側が主電動機10に接続されている。そして、入力される直流電力を三相交流電力に変換して主電動機10に供給する。主電動機10は、主変換装置20から電力が供給されることで車軸を回転させるメインモータであり、例えば三相誘導電動機で実現される。なお、回生ブレーキ時には、主変換装置20は、回生電力を架線側に出力する逆方向の動作となる。
【0018】
補助電源装置40は、入力側が、主変換装置20と並列に架線側遮断器HB1を介してパンタグラフ1に接続され、出力側が補機30に接続されている。すなわち、主回路と並列に直流電力ラインに接続されている。そして、補助電源装置40の電力変換装置100が、入力される直流電力を交流電力に変換して、空調装置や照明装置といった補助的な機器である補機30に供給する(順方向動作)。また、電力変換装置100は、電力変換装置100の出力ゼロ相電圧とバッテリ装置124のバッテリ電圧との関係によっては、バッテリ装置124からの放電電力を直流電力ラインに戻す逆方向動作となる。
【0019】
図2は、補助電源装置40の構成図である。
図2によれば、補助電源装置40は、電力変換装置100と、バッテリ用フィルタ回路122と、バッテリ側遮断器HB2と、バッテリ装置124と、制御部130とを備えて構成される。
【0020】
電力変換装置100は、静止形インバータ(SIV)であり、入力フィルタ回路102と、インバータ部104と、出力フィルタ回路106と、出力トランス108とを有する。
【0021】
入力フィルタ回路102は、直流リアクトルFL1、及び、フィルタコンデンサFC1を有するLCフィルタである。
【0022】
インバータ部104は、3相(U,V,W相)それぞれに対応する3つのアームがブリッジ接続されて構成されている。各アームは2つのスイッチング素子が直列接続されて構成され、各スイッチング素子には逆流防止用のダイオードが逆並列接続されている。インバータ部104の入力端は、入力フィルタ回路102を介してパンタグラフ1に接続され、出力端は、出力フィルタ回路106を介して出力トランス108に接続されている。そして、インバータ部104は、制御部130からの出力電圧指令(相電圧指令Vu
*,Vv
*,Vw
*)に従ったPWM制御によって、入力電圧、すなわちフィルタコンデンサFC1の両端電圧(フィルタコンデンサ電圧)Vfcを、三相交流電圧に変換して出力する。
【0023】
出力フィルタ回路106は、インバータ部104の出力端それぞれに接続されたリアクトルと、デルタ結線されたコンデンサとを有する3相のLCフィルタである。出力トランス108は、Y−Y結線された絶縁用のトランスである。なお、出力トランス108は、1次側がY結線であれば良く、2次側の結線は問わない。
【0024】
つまり、この電力変換装置100では、入力された直流電圧は、入力フィルタ回路102によって高周波成分が除去され、インバータ部104によって三相交流電力に変換され、更に、出力フィルタ回路106によって不要な高域成分が除去された後、出力トランス108によって絶縁・変圧されて出力される。
【0025】
バッテリ装置124は、例えば、リチウムイオンバッテリ等のバッテリセルを複数接続したバッテリモジュールを有して構成され、バッテリ側遮断器HB2、及び、バッテリ用フィルタ回路122を介して、電力変換装置100の出力トランス108の1次側の中性点に接続されている。そして、バッテリ装置124は、その出力電圧(バッテリ電圧)Vbと、出力トランス108の1次側の中性点電圧、すなわちインバータ部104から出力されるゼロ相電圧に応じて、充電或いは放電される。
【0026】
すなわち、電力変換装置100の出力電圧(出力トランス108の1次側の中性点電圧)が、バッテリ装置124のバッテリ電圧よりも高い場合には、電力変換装置100の動作は、通常の順方向動作(順方向運転)となる。逆に、バッテリ電圧の方が高い場合には、電力変換装置100は逆方向動作(逆方向運転)となり、バッテリ装置124からの充電電力を、電力変換装置100の入力側である、直流電力ラインに戻すように動作することとなる。なお、この場合、バッテリ装置124の充電電力は、補機30にも供給される。順方向動作と逆方向動作のどちらを行うかは、特別な制御の切り替えは必要なく、電力変換装置100の出力ゼロ相電圧と、バッテリ装置124のバッテリ電圧との関係によって自動的に決まる。従って、電力変換装置100の出力ゼロ相電圧を制御することで、バッテリ装置124の充放電を制御することができると言える。
【0027】
バッテリ用フィルタ回路122は、リアクトルFL2、及び、コンデンサFC2を有するLCフィルタであり、直流電圧の高周波成分を除去する。
【0028】
制御部130は、CPUや各種メモリ(ROMやRAM等)から構成されるコンピュータや各種の電子回路によって実現される。この制御部130は、インバータ部104に対する出力電圧指令(相電圧指令)Vu
*,Vv
*,Vw
*を生成・出力して、補機30への供給電力を制御する。更に、本実施形態の特徴として、インバータ部104の入力電圧であるフィルタコンデンサ電圧Vfcに基づき、出力電圧指令Vu
*,Vv
*,Vw
*をバイアス制御することで、バッテリ装置124の充放電を制御する。
【0029】
制御部130によるバッテリの充放電制御について説明する。説明の簡明化のため、インバータ部104を三相インバータではなく、単相インバータであるとして説明するが、三相であっても原理は同じである。先ず、
図3は、単相インバータの回路構成図である。単相インバータは、各相(U,V相)に対応する2本のアームが並列接続されて構成されており、入力電圧であるフィルタコンデンサFCの電圧(フィルタコンデンサ電圧)Vfcを、単相交流電圧Vuvに変換して出力する。出力電圧Vuvは、各相(U,V相)に対応するアームを構成する2つのスイッチング素子の接続点の電位である相電圧Vu,Vvの差電圧である。
【0030】
図4は、単相インバータの出力電圧Vuvを示す図である。
図4では、各相(U,V相)の相電圧Vu,Vvと、出力電圧Vuvとを示している。各相(U,V相)の相電圧Vu,Vvは、振幅が等しく、互いに逆相の電圧である。また、その直流成分V0は、入力電圧であるフィルタコンデンサ電圧Vfcの1/2である。そして、単相インバータの出力線間電圧Vuvは、Vuv=Vu−Vv、となる。この出力電圧Vuvは、各相の相電圧Vu,Vvと周期は等しく、振幅は2倍となっている。また、その直流成分はゼロである。
【0031】
続いて、
図5に示すように、各相(U,V相)の相電圧Vu,Vvそれぞれについて、交流成分は変化させず、直流成分V0を電圧ΔV0だけ変化(増加)させた場合を考える。この場合、各相(U,V相)の相電圧Vu,Vvの差で決まるため、出力線間電圧Vuvは変化しない。
【0032】
図3〜
図5では、単相インバータについて説明したが、三相インバータについても同様である。すなわち、三相インバータの各相(U,V,W相)の相電圧Vu,Vv,Vwの直流成分(ゼロ相電圧)V0を一律に変化させた場合、各相(U,V,W相)の線間電圧Vuv,Vvw,Vwuは変化しないため、出力電圧である三相交流電圧は変化しない。つまり、三相インバータであるインバータ部104において、相電圧Vu,Vv,Vwそれぞれの直流成分(ゼロ相電圧)V0を一律に変化させても、出力される交流電圧には影響しない。
【0033】
ところで、フィルタコンデンサ電圧は、主回路及び補助電源装置40が並列接続されている直流電力ラインの電圧であり、架線電圧とも言える。直流電化区間では、電気車の走行状態(力行状態か回生状態か等)や、近隣を走行する電気車の有無等によって架線電圧が定格電圧に対して大きく変動する。このため、直流電気車に搭載される静止形インバータ(SIV)は、架線電圧(ひいてはフィルタコンデンサ電圧)の変動を考慮して動作範囲が設計されている。例えば、架線電圧が定格1500Vである場合、静止形インバータ(SIV)は、入力電圧が下限の900Vでは、出力交流電圧を正常に維持できる限界のため、動作範囲に余裕はない。しかし、通常想定される入力電圧(1500V前後)においては、動作範囲に余裕を持った設計となっている。
【0034】
本実施形態では、静止形インバータ(SIV)であるインバータ部104の動作範囲の余裕を利用して、相電圧の直流成分(ゼロ相電圧)を可変する。動作範囲の余裕は、入力電圧であるフィルタコンデンサ電圧Vfcに応じて異なる。
【0035】
図6は、フィルタコンデンサ電圧Vfcに応じた動作範囲の余裕を説明する図である。
図6では、2相(U,V相)それぞれの相電圧Vu,Vvを示している。また、相電圧Vu,Vvの振幅が450Vであり、インバータ部104の動作範囲は900〜1800Vであるとしている。
【0036】
図6の(1)は、フィルタコンデンサ電圧Vfcが、動作範囲の下限電圧である900Vの場合である。この場合、各相(U,V相)の相電圧Vu,Vvそれぞれの直流成分(ゼロ相電圧)V0は、450V(=900V/2)となる。そして、相電圧Vu,Vvの最大値は900V(=450V+450V)、最小値は0V(=450V−450V)となる。つまり、相電圧Vu,Vvの最大値及び最小値が、それぞれ、動作範囲の上限電圧及び下限電圧に一致しているため、相電圧Vu,Vvの直流成分V0を変化させる「余裕」は無い。
【0037】
また、
図6の(2)は、フィルタコンデンサ電圧Vfcが、動作範囲内の1500Vの場合である。この場合、相電圧Vu,Vvそれぞれの直流成分(ゼロ相電圧)V0は、750V(=1500V/2)となる。そして、相電圧Vu,Vvの最大値は1200V(=750V+450V)、最小値は、300V(=750V−450V)となる。この場合、相電圧Vu,Vvの直流成分V0を変化させる「余裕」がある。すなわち、正側には、相電圧Vu,Vvの最大値1200Vと動作範囲の上限電圧1500Vとの差である300Vの「余裕」があり、負側には、相電圧Vu,Vvの最小値300Vと動作範囲の下限電圧0Vとの差である300Vの「余裕」がある。つまり、相電圧Vu,Vwの直流成分(ゼロ相電圧)V0を、450〜1050Vの範囲で変化させることができる。
【0038】
また、不図示であるが、フィルタコンデンサ電圧Vfcが、動作範囲の上限電圧である1800Vの場合には、相電圧Vu,Vvそれぞれの直流成分(ゼロ相電圧)V0は、900V(=1800V/2)となる。そして、相電圧Vu,Vvの最大値は1350V、最小値は450Vとなる。この場合、相電圧Vu,Vvの直流成分V0を変化させる「余裕」がある。正側には、相電圧Vu,Vvの最大値1350Vと動作範囲の上限電圧1800Vとの差である450Vの「余裕」があり、負側には、相電圧Vu,Vvの最小値450Vと動作範囲の下限電圧0Vとの差である450Vの余裕がある。つまり、相電圧Vu,Vwの直流成分(ゼロ相電圧)V0を、450〜1350Vの範囲で変化させることができる。
【0039】
そして、
図7は、この
図6から得られる、フィルタコンデンサ電圧Vfcと、相電圧Vu,Vvそれぞれの直流成分(ゼロ相電圧)V0を制御可能な範囲との関係を示す図である。
図7では、横軸をフィルタコンデンサ電圧Vfc、縦軸を相電圧Vu,Vvの直流成分(ゼロ相電圧)V0としている。三角形の領域が、相電圧の直流成分(ゼロ相電圧)V0を制御可能な領域である。フィルタコンデンサ電圧Vfが高くなるほど、相電圧の直流成分(ゼロ相電圧)V0の制御可能範囲が広くなっている。
【0040】
このように、インバータ部104においては、出力電圧(交流電圧)を変化させることなく、相電圧の直流成分(ゼロ相電圧)V0を変化させることが可能であり、このゼロ相電圧V0を変化させることが可能な電圧範囲(制御可能領域)は、入力電圧であるフィルタコンデンサ電圧Vfcに応じて決まる。
【0041】
また、本実施形態の補助電源装置40において、バッテリ装置124は、出力トランス108の1次側の中性点に接続されている。つまり、バッテリ装置124は、インバータ部104の出力電圧である三相交流電圧の直流成分(ゼロ相電圧)に応じて充放電される。このため、インバータ部104への出力電圧指令(相電圧指令)に対して、直流成分(ゼロ相電圧)V0を変化させるバイアス制御を行うことで、出力される三相交流電力の直流成分(ゼロ相電圧)を制御することができ、これにより、バッテリ装置124の充放電を制御することができる。
【0042】
図8は、制御部130の機能構成を示す図である。
図8によれば、制御部130は、充放電電流指令生成部131と、電流制御器132と、制御可否判断部134と、乗算器135と、出力電圧指令生成部137とを有する。
【0043】
充放電電流指令生成部131は、フィルタコンデンサ電圧Vfcに応じて、バッテリ装置124の充放電電流(バッテリ電流)Ibの指令Ibrefを生成する。充放電電流指令Ibrefは、「正値」が放電、「負値」が充電に相当する。
【0044】
具体的には、入力される充放電許可の指令値が「0(不許可)」ならば、充放電電流指令Ibrefを「0(ゼロ)」とする。一方、充放電許可の指令値が「1(許可)」ならば、例えば
図9に一例を示す関係に従って、フィルタコンデンサVfcに応じて充放電電流指令Ibrefを決定する。
【0045】
図9は、フィルタコンデンサ電圧Vfcと、充放電電流指令Ibrefとの関係の一例を示す図である。
図9に示す関係によれば、フィルタコンデンサ電圧Vfcが下限閾値VfcLより低い場合には、充放電電流指令Ibrefを「正値」として、バッテリ装置124を放電させるように制御する。この場合、充放電電流指令Ibrefは、フィルタコンデンサ電圧Vfcが小さくなる(絶対値が大きくなる)ほど、大きくなるように定められている。
【0046】
また、フィルタコンデンサ電圧Vfcが上限閾値VfcHより高い場合には、充放電電流指令Ibrefを「負値」として、バッテリ装置124を充電させるように制御する。この場合、充放電電流指令Ibrefは、フィルタコンデンサ電圧Vfcが大きくなるほど、小さくなる(絶対値が大きくなる)ように定められている。また、フィルタコンデンサ電圧Vfcが、下限閾値VfcL以上であり、且つ、上限閾値VfcH以下の場合には、充放電電流指令Ibrefを「0(ゼロ)」として、バッテリ装置124を充放電させない。
【0047】
下限閾値VfcL、及び、上限閾値VfcHは、電気車の電源をバッテリ装置124のみとする単独運転とするか否かに応じて定められる。すなわち、バッテリ装置単独運転指令が「1(有り)」であり、且つ、架線側遮断器HB1の状態(投入/遮断)を示す架線側遮断器状態が「1(遮断)」である場合、つまり、バッテリ装置124の単独運転を行う場合には、下限閾値VfcL及び上限閾値VfcHは、ともに等しく、架線電圧の定格電圧近傍の値(例えば、1500V)とされる。この場合、力行時にはフィルタコンデンサ電圧Vfcは定格電圧以下になると考えられ、バッテリ装置124からの放電電力で主回路及び補機30が動作することとなる(
図10(3)参照)。
【0048】
それ以外の場合には、下限閾値VfcLは、架線電圧の定格電圧より低い値(例えば、1200V)とされ、上限閾値VfcHは、架線電圧の定格電圧より高い値(例えば、1800V)とされる。
【0049】
下限閾値VfcL及び上限閾値VfcHをこのように定めることで、フィルタコンデンサ電圧Vfcが上限閾値VfcHより大きい場合にはバッテリ装置124を充電し、フィルタコンデンサ電圧Vfcが下限閾値VfcLより小さい場合にはバッテリ装置124を放電するように制御することができる。なお、充放電許可指令や蓄電池単独運転指令は、制御部130の外部、例えば乗務員の操作によって運転台から入力されるものとする。
【0050】
電流制御器132は、充放電電流指令生成部131によって生成された充放電電流指令Ibrefと、バッテリ装置124の充放電電流(バッテリ電流)Ibとの差分に対するPI制御を行うことで、バッテリ電流Ibが、充放電電流指令Ibrefに追従するように、バッテリ装置124の充放電電圧指令(バッテリ電圧減算指令)ΔVbrefを生成する。
【0051】
加算器133は、電流制御器132によって生成されたバッテリ電圧減算指令ΔVbrefと、バッテリ装置124の端子電圧(バッテリ電圧)Vbとの差分(=Vb−ΔVbref)を算出し、所要ゼロ相電圧V0reqとする。
【0052】
制御可否判断部134は、加算器133によって生成された所要ゼロ相電圧V0reqが、フィルタコンデンサ電圧Vfcによって定められる制御可能領域内か否かを判断し、その判断結果に応じてゼロ相電圧指令Vrefを生成する。制御可能領域は、
図7に示したように、フィルタコンデンサ電圧Vfcに応じて定められる縦軸の範囲である。そして、所要ゼロ相電圧V0reqが制御可能領域内ならば、当該所要ゼロ相電圧V0reqを、ゼロ相電圧指令V0refとして出力とするとともに、バッテリ側遮断器HB2の制御信号として投入指示を出力する。一方、所要ゼロ相電圧V0reqが制御可能領域外ならば、フィルタコンデンサ電圧Vfcの0.5倍の電圧(基準電圧)を、ゼロ相電圧指令V0refとして出力するとともに、バッテリ側遮断器HB2の制御信号として開放指示を出力する。
【0053】
乗算器135は、フィルタコンデンサ電圧Vfcを「0.5倍」した電圧(基準電圧)を生成する。加算器136は、制御可否判断部134によって生成されたゼロ相電圧指令V0refと、乗算器135によって生成された基準電圧との差を算出し、ゼロ相電圧加算指令ΔV0refとする。
【0054】
出力電圧指令生成部137は、補機30に供給する交流電力の出力電圧指令(相電圧指令)Vu
*,Vv
*,Vw
*を生成する。加算器138は、出力電圧指令生成部137によって生成された出力電圧指令(相電圧指令)Vu
*,Vv
*,Vw
*それぞれに、加算器138によって生成されたゼロ相電圧加算指令ΔV0refを加算(重畳)する。
【0055】
[電力供給動作]
続いて、本実施形態の主回路への電力供給動作を説明する。先ず、
図10の(1)に示すように、電化区間において、フィルタコンデンサ電圧Vfcが定格電圧付近である場合、架線からの電力が主変換装置20によって主電動機10に供給される。また、架線からの電力は補助電源装置40によって補機30に供給されるとともに、バッテリ装置124への充電電力とされる。但し、架線側遮断器HB1は投入されているとする。また、図示していないが、回生ブレーキ等によって主変換装置20が逆方向動作して、フィルタコンデンサ電圧Vfcが上昇した場合にも、バッテリ装置124が充電される。
【0056】
一方、フィルタコンデンサ電圧Vfcが低下した場合には、同図の(2)に示すように、バッテリ装置124が放電され、その放電電力が補機30に供給されるとともに、電力変換装置100が逆方向動作となって直流電力ラインに電力が供給され、その電力が主変換装置20を介して主電動機10に供給される。いわゆる力行アシスト動作となる。
【0057】
また、非電化区間や、架線からの電力供給が断たれた故障時等においては、同図の(3)に示すように、架線側遮断器HB1が遮断され、バッテリ装置124の単独運転となる。すなわち、フィルタコンデンサ電圧Vfcが低下する結果、同図(2)と同じように作用して、バッテリ装置124が放電され、その放電電力が補機30に供給されるとともに、主変換装置20を介して主電動機10に供給される。
【0058】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、直流電力を交流電力に変換して補機30に供給する補助電源装置40は、静止形インバータ(SIV)である電力変換装置100が有する出力トランス108の1次側の中性点にバッテリ装置124が接続されて構成される。そして、制御部130は、インバータ部104の入力電圧であるフィルタコンデンサ電圧Vfcに応じて、インバータ部104に対する相電圧指令(Vu
*,Vv
*,Vw
*)をバイアス制御することで、インバータ部104の出力電圧の直流成分(ゼロ相電圧)V0を制御し、バッテリ装置124の充放電を制御する。これにより、電力変換装置としては従来のSIVを利用することができるため、コストを抑えたバッテリシステムを実現することができる。また、主回路側の回路構成に接続するのではなく、補機側の回路構成にバッテリシステムを接続する構成であるため、設置スペースの自由度が高くなり、省スペースにも貢献し得る。
【0059】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0060】
例えば、上述の実施形態では、直流電気車に本発明を適用した場合を説明したが、補助電源装置40が直流電力ラインに主回路と並列に接続される構成であれば、交流電気車にも同様に適用することが可能である。