(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記生分解性熱可塑性ポリ(DL−ラクチド−co−グリコライド)コポリマーが、カルボキシ末端基を有する50/50、55/45、60/40、65/35、70/30、75/25、80/20、85/15、90/10又は95/5のポリ(DL−ラクチド−co−グリコリド)であるか、或いは、カルボキシ末端基を有さない50/50、55/45、60/40、65/35、70/30、75/25、80/20、85/15、90/10又は95/5のポリ(DL−ラクチド−co−グリコライド)である、請求項1に記載の皮下注入用医薬組成物。
前記生分解性熱可塑性ポリ(DL−ラクチド−co−グリコライド)コポリマーが、カルボキシ末端基を有する50/50のポリ(DL−ラクチド−co−グリコライド)である、請求項1に記載の皮下注入用医薬組成物。
前記生分解性熱可塑性ポリ(DL−ラクチド−co−グリコライド)コポリマーが、5000ダルトン〜40000ダルトンの平均分子量を有する、請求項1に記載の皮下注入用医薬組成物。
前記生分解性熱可塑性ポリ(DL−ラクチド−co−グリコライド)コポリマーが、10000ダルトン〜20000ダルトンの平均分子量を有する、請求項1に記載の皮下注入用医薬組成物。
ブプレノルフィンと生分解性熱可塑性ポリ(DL−ラクチド−co−グリコライド)コポリマーとの質量比が、0.01:1〜2:1の間である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の皮下注入用医薬組成物。
1ヶ月あたり1回又は3ヶ月毎に1回患者に皮下注入することによりオピオイド依存性又は痛みを有する患者を治療するための医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか1項の皮下注入用医薬組成物の使用。
患者内においてその場で固体の生分解性インプラントを作り出すための医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか1項に記載の皮下注射用医薬組成物の使用であって、
前記医薬を患者内に注入し、N−メチル−2−ピロリドンが散逸することによって、前記固体の生分解性インプラントが作り出される、前記使用。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、ラットに対して皮下投与経路で注射された、ブプレノルフィン塩酸塩を含む、選択されたアトリゲル(ATRIGEL
TM)処方物からの、ブプレノルフィンの49日間に渡る放出を例示するものである。
【
図2】
図2は、ラットに対して注入された、遊離塩基型ブプレノルフィンを含む、選択されたアトリゲル(ATRIGEL
TM)処方物からの、ブプレノルフィンの35日間に渡る放出を例示するものである。
【
図3】
図3は、ラットに対して注入された、遊離塩基型ブプレノルフィンを含む、更なる選択されたアトリゲル(ATRIGEL
TM)処方物からの、ブプレノルフィンの35日間に渡る放出を例示するものである。
【
図4】
図4は、180日間に渡る、アトリゲル/(ブプレノルフィン塩酸塩)処方物を注入したイヌにおける、活性ブプレノルフィンの血漿内レベルを例示するものである。
【
図5】
図5は、195日間に渡る、アトリゲル/(遊離塩基型ブプレノルフィン)処方物を注入したイヌにおける、選択されたアトリゲル(ATRIGEL
TM)処方物からの、ブプレノルフィンの放出を例示するものである。
【0031】
定義:
本明細書において使用する単数形「a」、「an」および「the」での表現は、文脈において特に述べられていない場合には、その複数形での表現をも含む。即ち、例えば「一処方物」なる言及は、複数のこのような処方物をも含み、従って化合物Xの一処方物なる表現は、複数の化合物Xの処方物なる表現をも包含する。
【0032】
本明細書において使用する用語「許容される塩(acceptable salts)」とは、その親化合物が、その酸または塩基塩を生成することにより変性された誘導体を意味する。適当な許容される塩は、アミン等の塩基性残基の無機または有機酸塩;カルボン酸等の酸性残基のアルカリまたは有機塩等を含むが、これらに限定されない。該許容される塩とは、例えば無毒性の無機または有機酸から生成された、該親化合物の公知の無毒性塩またはその四級アンモニウム塩を含む。例えば、このような公知の無毒性塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、消散等の無機酸から誘導された塩;および酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、オキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマール酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸等の有機酸から調製される塩を含む。具体的には、該許容される塩は、例えば哺乳動物の生体内に天然に存在するこれら塩を含むことができる。
【0033】
本明細書において使用する用語「生体適合性(biocompatible)」とは、この用語が適用されている材料、物質、化合物、分子、ポリマー、または系が、妥当な用量および速度にてこれらが投与された動物において、著しい毒性、著しく有害な生物学的反応、または致死性を生じることがないものであるべきである、ことを意味する。
本明細書において使用する用語「生分解性(biodegradable)」とは、前記材料、物質、化合物、分子、ポリマーまたは系が、該哺乳動物の身体によって同化または排除し得る化学的な単位に開裂され、酸化され、加水分解され、あるいは加水分解的、酵素反応的、またはその他の代謝に係る哺乳動物の生物学的過程によって分解されることを意味する。
【0034】
本明細書において使用する用語「生物学的侵食性(bioerodible)」とは、前記材料、物質、化合物、分子、ポリマーまたは系が、新たな表面が露出されるように、哺乳動物の生物学的過程によって、生物学的に分解されまたは機械的に除去されることを意味する。
本明細書において使用する平均分子量とは、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を使用し、またポリスチレン標準物質を用いて作成した分子量検量線を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPCまたはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)としても知られている)によって決定したような、ポリマーの重量平均分子量である。
【0035】
本明細書において使用する用語「治療上有効な量(therapeutically effective amount)」とは、原障害または疾患を治療または予防し、あるいは宿主における該原障害または疾患と関連する諸症状を治療するのに有用な、所定量のブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグ、製薬上許容されるその塩、その誘導体、または任意のこれらの組合せを含むことを意図している。例えば、ChouおよびTalalay, Adv. Enzyme Regul., 1984, 22: 27-55において記載されている、相乗作用とは、組合せとして投与した場合に、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグ、製薬上許容されるその塩、またはその誘導体の効果が、単一の薬剤として単独で投与された際の、該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグ、製薬上許容されるその塩、またはその誘導体の相加的効果よりも大きい場合に起る。一般に、相乗的効果は、該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグ、製薬上許容されるその塩、またはその誘導体の準最適濃度にて、最も明確に立証される。相乗作用は、個々の成分と比較して、該組合せによる低い毒性、高い活性、または幾つかの他の有利な効果によって表すことができる。
【0036】
本明細書において使用する用語「流動性(flowable)」とは、ある患者の身体内に加圧下にて輸送し得る、上記「流動性」組成物の能力を意味する。例えば、該流動性組成物は、水の如き低い粘性を有し、また注射器の使用によって患者皮膚の下部に注入することができる。あるいはまた、該流動性組成物は、ゲルに見られるような高い粘性を持つことができ、また高圧輸送デバイス、例えば高圧注射器、カニューレ、針等を介して、患者内に配置することができる。前記組成物の患者内に注入される能力は、典型的には該組成物の粘度に依存するはずである。従って、該組成物は、水の如き低い粘度乃至ゲルの如き高い粘度なる範囲の適当な粘度を有し、結果として該組成物は、輸送デバイス(例えば、注射器)を介して患者の身体内に強制注入できるものであるべきである。
【0037】
本明細書において使用する用語「ゲル(gel)」とは、ゼラチン様、ゼリー様、またはコロイド状の特性を持つ物質を意味する。これについては、例えばコンサイスケミカル&テクニカルディクショナリー(CONCISE CHEMICAL AND TECHNICAL DICTIONARY), 第4版, ケミカルパブリッシング社(Chemical Publishing Co., Inc.), p. 567, NY州、ニューヨーク(New York, NY)(1986)を参照のこと。
本明細書において使用する用語「液体(liquid)」とは、剪断応力の作用下で、連続的に変形する物質を意味する。これについては、例えばコンサイスケミカル&テクニカルディクショナリー(CONCISE CHEMICAL AND TECHNICAL DICTIONARY), 第4版, ケミカルパブリッシング社(Chemical Publishing Co., Inc.), p. 707, NY州、ニューヨーク(New York, NY)(1986)を参照のこと。
【0038】
本明細書において使用する用語「患者(patient)」とは、温血動物、および好ましくは哺乳動物、例えばネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、ラット、またはヒトを含む霊長目動物を意味する。本明細書において使用する用語「ポリマー(polymer)」とは、1種またはそれ以上の繰返し化学官能基によって一緒に共有結合されている、1種またはそれ以上の繰返しモノマー残基単位を含む分子を意味する。この用語は、直鎖、分岐、星型、ランダム、ブロック、グラフト等のあらゆるポリマー形状のものを包含する。該用語は、単一のモノマーから形成されたホモポリマー、2またはそれ以上のモノマーから形成されたコポリマー、3またはそれ以上のポリマーから形成されたターポリマーおよび3種を越えるモノマーから形成されたポリマーを含む。また、ポリマーの異なる形状は、2またはそれ以上の反復的な、共有結合された官能基を持つことができる。この用語は、またここにおいて「PLGコポリマー」とも称される、主としてラクテートモノマーおよびグリコレートヒドロキシ酸、またはラクチドおよびグリコライドダイマー型ヒドロキシ酸から形成された、実質的に線形のポリエステルを意味することもでき、また例えば当分野においてポリ(ラクテート-グリコレート)、ポリ(ラクテート(co)グリコレート)、ポリ(ラクチド-グリコライド)、ポリ(ラクチド(co)グリコライド)、PLG、PLGH等の実質的に線形のポリエステルを意味することもでき、但しここでは、追加の部分、例えばコア/開始剤基(例えば、ジオール、ヒドロキシ酸等)、キャップ基(例えば、末端カルボキシル基を持つエステル等)およびポリエステル主鎖に共有結合したまたは該主鎖内における他のペンダント基または連鎖伸張基を含むことができることを理解すべきであり、これらの基は、ここにおいて指定した意味を逸脱することなしに、実質的に線形ポリエステル分子鎖を架橋している基を含む。本明細書において使用されている用語としての、PLGコポリマーは、末端ヒドロキシル基、末端カルボキシル基(即ち、酸基を末端とするもので、しばしばPLGHなる用語で表される)および末端エステル基(即ち、キャップ付き)を持つ分子鎖を含む。
【0039】
本明細書において使用する用語「ポリエステル(polyester)」とは、少なくとも部分的に結合基:-OC(=O)-または-C(=O)O-を持つモノマー繰返し単位を含むポリエステルを意味する。
本明細書において使用する用語「外皮層(skin)」および外皮層の「コア(core)」およびコアマトリックスとは、該マトリックスの断面が、該マトリックスの外側表面と内側部分との間で、識別し得る輪郭を示すはずであることを意味する。該外側表面が外被層であり、また該内側部分がコアである。本明細書において使用され、ポリマーに対して適用される用語「熱可塑性(thermoplastic)」とは、該ポリマーが、反復的に、加熱に際して溶融し、かつ冷却に際して固化するはずであることを意味する。この用語は、ポリマー分子間に殆どまたは極僅かな程度に架橋が存在することを示している。これは「熱硬化性(thermoset)」なる用語と対比されるものであり、該熱硬化性とは、該ポリマーが、加熱された際に、あるいは同様な反応過程に付された場合に、硬化または実質的に架橋され、しかも加熱および冷却した際に、最早溶融-固化サイクルに従わないことを意味する。
【0040】
本明細書において使用する用語「治療(する)(treating, treatまたはtreatment)」とは、(i) 病理的な状態(例えば、精神分裂症)の発生を防止(例えば、予防)し;(ii) 病理的な状態(例えば、精神分裂症)の発生を阻害しまたはその進行を停止させ;および(iii) 該病理的な状態を軽減(例えば、精神分裂症と関連する症状を軽減)することを含む。
【0041】
本発明は、ブプレノルフィンの持続放出型送達系を目的とするものである。該持続放出型送達系は、流動性組成物および固体インプラントを含む。該送達系は、その場での、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの持続的な放出をもたらす。該流動性組成物は、該インプラントを生成するためのその使用を通して、該持続的放出を達成する。該インプラントは、小さなインプラント体積を有し、また長期間に及ぶブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出をもたらす。該流動性組成物は、該インプラントの皮下におけるその場での形成を可能とし、しかも殆どまたは全く組織の壊死を引起さない。このその場で生成されるインプラントは、注入後即座に、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの治療的な血漿レベルを与え、しかも4〜6週間に渡り定常的な血漿内レベルを維持する。
【0042】
一態様のもう一つの利点は、該組成物およびインプラントが簡単な製法で得られることおよび送達系が単純であることを含む。例えば、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを注射器に満たし、該注射器を封止し、この薬物物質を含む注射器全体を、γ-線の照射により最終的に滅菌する。使用する前記生分解性ポリマーを、N-メチル-2-ピロリドンに溶解し、これを第二の注射器に充填する。該注射器を封止し、この送達系を、γ-線の照射により最終的に滅菌する。注入の時点において、該注射器は、ルーアー-ロック接続機を介して連結され、目的の製品は、これら2つの注射器間で、その成分を循環させることによって作成される。このようにして、該薬物を該送達系に組込む。従って、このデバイスにとって損失は極めて僅かなものである。
【0043】
前記流動性組成物は、生分解性で、少なくとも実質的に水不溶性である熱可塑性ポリマー、生体適合性の極性非プロトン性有機液体およびブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの組合せである。該極性非プロトン性有機液体は、実際上不溶性乃至あらゆる比率にて完全に溶解性なる範囲で、体液に対する溶解度を持つ。好ましくは、該熱可塑性ポリマーは、約1またはそれ以上のオキシカルボン酸または約1またはそれ以上のジオールおよびジカルボン酸の熱可塑性ポリエステルである。特に好ましくは、該熱可塑性ポリマーは、約1またはそれ以上のヒドロキシルカルボキシルダイマー、例えばラクチド、グリコライド、ジカプロラクトン等のポリエステルである。
【0044】
具体的かつ好ましい前記生分解性熱可塑性ポリマーおよび極性非プロトン性溶媒;該熱可塑性ポリマー、極性非プロトン性有機液体、および前記ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの濃度;該熱可塑性ポリマーの分子量;および本明細書において記載された前記固体インプラントの成分の質量またはそのモル量の範囲は、典型的なものである。これらは、他の生分解性熱可塑性ポリマーおよび極性非プロトン性有機液体;熱可塑性ポリマー、極性非プロトン性液体、およびブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの他の濃度;該熱可塑性ポリマーの上記以外の分子量;および該インプラント内の上記以外の成分を排除するものではない。
【0045】
一態様においては、制御された持続放出性インプラントを製造する目的で使用するのに適した流動性組成物が提供され、また同様に提供されるのは、該流動性組成物の製法、該流動性組成物の使用法、該流動性組成物から作成される、生分解性で徐放性の固体状またはゲル状インプラント、その場で該生分解性インプラントを製造する方法、該生分解性インプラントの使用により疾患を治療する方法および該流動性組成物を含むキットである。該流動性組成物は、好ましくは動物内部にその場で形成される、生分解性または生物学的侵食性の微孔性インプラントを製造するために使用できる。該流動性組成物は、生体適合性の極性非プロトン性有機液体およびブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグと組合せた、生分解性熱可塑性ポリマーで構成されている。該生分解性熱可塑性ポリマーは、水性媒体および/または体液に対して実質的に不溶性であり、また患者の身体内において生体適合性であり、また生分解性および/または生物学的侵食性である。該流動性組成物は、液体またはゲルとして組織内に投与することができ、またその場でインプラントを生成する。あるいはまた、該インプラントは、該流動性組成物と水性媒体とを組合せることにより生体外で形成することも可能である。この態様において、該予備成形されたインプラントは、患者に対して外科的に投与することができる。何れの態様においても、該流動性組成物が体液、水性媒体、または水と接触した場合に、該流動性組成物からの該有機液体の散逸、消散、または滲出の際に、該熱可塑性ポリマーが凝固または固化して、前記固体状またはゲル状のインプラントを生成する。該凝固または固化は、該流動性組成物の他の成分、例えばブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグ、賦形剤、有機物質等を巻込みかつ取込んで、これらの成分を該ゲル化した、または固化したインプラントのマトリックス内に分散させる。該流動性組成物は、生体適合性であり、また該インプラントの該ポリマーマトリックスは、該移植サイトにおいて実質的な組織に対する刺激を引起すことはなく、しかも該サイトにおける壊死を引起すこともない。該インプラントは、患者に対して持続的なレベルのブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを送達する。好ましくは、該流動性組成物は、患者(例えば、ヒト)に注入するのに適した液体またはゲルであり得る。
【0046】
一態様は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを含む持続的放出性処方物の生物学的利用性を驚く程に改善する。更に、一態様は、(a) 比較的小さな注入体積;(b) 該注入サイトにおける改善された局所的組織許容度;(c) 筋肉内注射ではなく寧ろ皮下注射としての利用機会の提供;および(d) 他の製品と比較してより低い注射頻度という利点をもたらす。
【0047】
他の持続的放出型の薬物送達技術から導かれた処方物との比較により、前記ブプレノルフィンの持続放出型送達系は、(a) 最小の破壊を伴う優れた放出速度;(b) より低頻度での注入による、長期に及ぶ薬物の放出;(c) 著しく改善された生物学的利用性;(d) 小さな注入体積による、改善された局所的組織許容度;および(e) 筋肉内注入ではなく寧ろ皮下注入による使用の可能性をもたらすはずである。これらをひとまとめにして考えると、これらの諸特徴は、著しく便利なブプレノルフィンの持続放出型送達系を作り上げる。
【0048】
生分解性熱可塑性ポリマー
前記流動性組成物は、固体状生分解性熱可塑性ポリマー、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグおよび生体適合性の極性非プロトン性有機液体を併合することにより製造される。該流動性組成物は、治療を必要とする患者に、注射器および針によって投与することができる。任意の適当な生分解性熱可塑性ポリマーを使用することができるが、該生分解性熱可塑性ポリマーは、体液に対して少なくとも実質的に不溶性のものである。
【0049】
前記生体適合性で、生分解性の熱可塑性ポリマーは、ポリマー鎖または結合基によって一緒に結合されたモノマー単位を生成する、様々なモノマーから製造することができる。該熱可塑性ポリマーは、エステル、アミド、ウレタン、無水物、カーボネート、ウレア、エステルアミド、アセタール、ケタールまたはオルトカーボネート基等の基により結合されたモノマー単位並びに酵素反応または加水分解反応によって加水分解し得る(即ち、この加水分解作用によって生分解される)、任意の他の有機官能基を含む、ポリマー鎖または主鎖で構成される。該熱可塑性ポリマーは、典型的には、該主鎖結合基を形成するはずの反応性の基を含む出発モノマーの反応によって製造される。例えば、アルコールおよびカルボン酸は、エステル結合基を生成するはずである。イソシアネートおよびアミンまたはアルコールは、夫々ウレアまたはウレタン結合基を生成するはずである。
【0050】
特定の官能基を持つ、任意の脂肪族、芳香族、またはアリールアルキル系出発モノマーは、該熱可塑性ポリマーを作成するのに使用できるが、該ポリマーおよびその分解生成物が生体適合性であることを条件とする。該熱可塑性ポリマーを作成するのに使用される前記1または複数のモノマーは、単一の、または複数の同様なものであり得る。この得られる熱可塑性ポリマーは、1種のモノマーから、またはジオールおよび二酸が使用される場合におけるような一組のモノマーから生成されたホモポリマー、あるいは2またはそれ以上、または3またはそれ以上、あるいは4種以上のモノマーまたはモノマー群から生成されるコポリマー、ターポリマー、またはマルチポリマーであるべきである。このような出発モノマーの生体適合性の明細は、当分野において公知である。該熱可塑性ポリマーは、水性媒体および体液に対して実質的に不溶性であり、好ましくはこのような媒体および流体に対して完全に不溶性である。これらは、また選択された有機液体に対して溶解または分散することができ、あらゆる割合で完全に溶解性乃至水不溶性なる範囲の水に対する溶解度を持つ。該熱可塑性ポリマーは、また生体適合性でもある。
【0051】
前記流動性組成物において使用する場合、前記有機液体と組合せた前記熱可塑性ポリマーは、該熱可塑性ポリマーの分子量および濃度に依存して、水の粘度に類似する低粘度乃至高粘度なる範囲で変動する、該流動性組成物の粘度を与える。典型的には、該ポリマー組成物は、該流動性組成物の約5質量%〜約95質量%なる範囲の量で含まれ、好ましくは該流動性組成物の約15質量%〜約70質量%なる範囲の量で存在し、あるいはより好ましくは該流動性組成物の約25質量%〜約50質量%なる範囲の量で存在する。
【0052】
一態様において、前記生分解性で、生体適合性の熱可塑性ポリマーは、線状ポリマーであり得、これは分岐鎖ポリマーであり得、あるいはこれはこれらの組合せであり得る。一態様に従って、任意のオプションが利用可能である。分岐鎖熱可塑性ポリマーを得るために、1種の前記出発モノマーの幾分かの部分は、少なくとも3官能性、および好ましくは多官能性であり得る。この多官能的特徴は、得られるポリマー鎖の少なくとも幾分かの分岐をもたらす。例えば、選択された該ポリマーが、そのポリマー主鎖に沿ったエステル結合基を含む場合、通常該出発モノマーは、オキシカルボン酸、オキシカルボン酸の環状ダイマー、オキシカルボン酸の環状トライマー、ジオールまたはジカルボン酸であるべきである。即ち、分岐熱可塑性ポリマーを得るためには、少なくとも多官能性である出発モノマー、例えばトリオールまたはトリカルボン酸のいくらかの部分が、該熱可塑性ポリマーを生成するために重合される該モノマーの組合せ中に含められる。更に、該ポリマーには、ポリマー分子当たり2以上の多官能性単位を、また典型的には該重合反応の化学量論に依存して、多数の多官能性単位を組込むことができる。また、該ポリマーには、場合によって、ポリマー分子当たり少なくとも約1個の多官能性単位を組込むことができる。所謂星型または分岐ポリマーは、約1個の多官能性単位が、1ポリマー分子中に組込まれた場合に生成される。該好ましい熱可塑性ポリエステルは、ヒドロキシカルボン酸またはそのダイマー等のモノマーから作成することができる。あるいはまた、熱可塑性ポリエステルは、ジカルボン酸とジオールとから製造することができる。分岐ポリエステルの製造が望まれる場合には、ジヒドロキシカルボン酸等の分岐モノマーを、該第一種の出発モノマーに含め、あるいはトリオールおよび/またはトリカルボン酸を、第二の出発モノマーに含める。同様に、分岐または星型ポリエステルの製造を所望する場合には、ソルビトールまたはグルコール等のトリオール、テトラオール、ペンタオール、またはヘキサオールを、該第一の出発モノマーに含めることができる。同様な論理的説明が、ポリアミドについても当てはまる。トリアミンおよび/または三酸を、ジアミンおよびジカルボン酸を含む出発モノマーに含める。アミノジカルボン酸、ジアミノカルボン酸、またはトリアミンを、該第二の出発モノマー、即ちアミノ酸に含める。指定された官能基を持つ、任意の脂肪族、芳香族、またはアリールアルキル系出発モノマーを使用して、前記分岐熱可塑性ポリマーを製造することができるが、該ポリマーおよびその分解生成物は、生体適合性のものであることを条件とする。このような出発モノマーの生体適合性に係る明細は、当分野において公知である。
【0053】
前記生体適合性の熱可塑性ポリマーを製造するのに使用する前記モノマーは、熱可塑性で、生体適合性かつ生分解性のポリマーまたはコポリマーを生成するはずである。該生体適合性の熱可塑性分岐ポリマーとして使用するのに適した、適切な熱可塑性で、生体適合性の生分解性ポリマーは、例えばポリエステル、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリオルトカーボネート、ポリオルトエステル、ポリホスホエステル、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルケンオキサレート、ポリアルキレンサクシネート、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(アミノ酸)、およびコポリマー、ターポリマー、上記物質の組合せ、または混合物を含む。このような生体適合性で、生分解性の熱可塑性ポリマーの適当な例は、米国特許第4,938,763号、同第5,278,201号、同第5,324,519号、同第5,702,716号、同第5,744,153号、同第5,990,194号、同第6,461,631号、および同第6,565,874号に開示されている。
【0054】
前記ポリマー組成物は、また例えば該組成物の生分解性という特徴を不当に妨害しない限りにおいて、該ポリマーと他の生体適合性ポリマーとのポリマーブレンドを含むことができる。該ポリマーとかかる他のポリマーとのブレンドは、目標とする薬物送達にとって望ましい、正確な放出プロフィール、あるいはインプラントにとって望ましい正確な生分解速度を設計する上で、より一層高い可撓性を与えることができる。
【0055】
前記好ましい生体適合性の熱可塑性ポリマーまたはコポリマーは、低い結晶度を持ち、またより疎水性の高いものである。これらポリマーおよびコポリマーは、高度の水素結合を持つ、ポリグリコライド等の高度に結晶性のポリマーに比して、前記生体適合性有機液体に対して一層溶解性の高いものである。望ましい溶解度パラメータを持つ好ましい材料は、ポリラクチド、ポリカプロラクトン、およびこれらとグリコライドとのコポリマーであって、これによってより多くのアモルファス領域が与えられ、結果として溶解度が高められる。一般に、該生体適合性で、生分解性の熱可塑性ポリマーは、前記有機液体に対して実質的に可溶性であり、結果として約50-60質量%まで一様な溶液、分散液、または混合物を得ることを可能とする。好ましくは、該ポリマーは、典型的に、該有機液体に対して完全に可溶性であって、約85-98質量%まで一様な溶液、分散液、または混合物を得ることを可能とする。また、該ポリマーは、水に対して少なくとも実質的に不溶であり、結果として水1mL当たり約0.1g未満のポリマーが、水に溶解または分散するはずである。好ましくは、該ポリマーは、典型的には水に対して完全に不溶であって、水1mL当たり約0.001g未満のポリマーが、水に溶解または分散するはずである。この好ましいレベルにおいて、完全に水混和性の有機液体を含む前記流動性組成物は、殆ど即座に前記固体インプラントに変換されるはずである。
【0056】
場合により、本発明の送達系は、また非ポリマー型の物質と所定量の熱可塑性ポリマーとの組合せを含むことができる。この非ポリマー型物質と熱可塑性ポリマーとの組合せは、より凝集性の高いブプレノルフィン含有持続放出型送達系を与えるように、調節しまた設計することができる。有用な非ポリマー型物質は、生体適合性で実質的に水および体液に対して不溶の、また動物の身体内で生分解性および/または生物学的侵食性の、このような物質である。該非ポリマー型物質は、有機液体に対して少なくとも部分的に可溶化することができる。幾分かの有機液体または他の添加物を含む前記流動性組成物において、該非ポリマー型物質は、また凝固しまたは固化することができ、そのために、該流動性組成物と体液とが接触した際の、該流動性組成物からの該有機液体成分の散逸、消散または滲出によって、固体またはゲル状のインプラントが生成される。非ポリマー型物質を含有する該インプラントのあらゆる態様における該マトリックスは、ゼラチン様のコンシステンシー乃至型押可能なおよび成形可能なコンシステンシー乃至硬く、緻密な個体のコンシステンシーまでの範囲のコンシステンシーを持つべきである。
【0057】
前記送達系において使用し得る非ポリマー型物質は、例えば以下の諸特性を持つあらゆる物質を含む。有用かつ適当な非ポリマー型物質は、例えばコレステロール、スチグマステロール、β-シストステロール、およびエストラジオール等のステロール;コレステリルエステル、例えばコレステリルステアレート;C18-C36モノ-、ジ-およびトリ-グリセライド、例えばグリセリルモノオレエート、グリセリルモノリノレエート、グリセリルモノラウレート、グリセリルモノドコサノエート、グリセリルモノミリステート、グリセリルモノデセノエート、グリセリルジパルミテート、グリセリルジドコサノエート、グリセリルジミリステート、グリセリルトリドコサノエート、グリセリルトリミリステート、グリセリルトリデセノエート、グリセリルトリステアレート、およびこれらの混合物等;ショ糖脂肪酸エステル、例えばスクロースジステアレートおよびスクロースパルミテート;ソルビタン脂肪酸エステル、例えばソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、およびソルビタントリステアレート;C16-C18脂肪アルコール、例えばセチルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、およびセトステアリルアルコール;脂肪アルコールと脂肪酸とのエステル、例えばセチルパルミテートおよびセテアリルパルミテート;脂肪酸の無水物、例えばステアリン酸無水物;ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、およびこれらのリゾ誘導体を含むリン脂質;スフィンゴシンおよびその誘導体;スフィンゴミエリン、例えばステアリル、パルミトイル、およびトリコサニルスフィンゴミエリン;セラミド、例えばステアリルおよびパルミトイルセラミド;グリコスフィンゴ脂質;ラノリンおよびラノリンアルコール;およびこれらの組合せおよび混合物を含む。好ましい非ポリマー型物質は、例えばコレステロール、グリセリルモノステアレート、グリセリルトリステアレート、ステアリン酸、ステアリン酸無水物、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノリノレエート、およびアセチル化モノ-グリセライドを含む。前記ポリマー型および非ポリマー型物質は、前記移植サイト内での、生分解、生物学的侵食、および/または生体吸収の速度を調節するように、選択しおよび/または組合せることができる。一般的に、前記インプラントのマトリックスは、約1週間〜約12ヵ月なる範囲の期間に渡り、好ましくは約1週間〜約4ヶ月なる範囲の期間に渡り破壊されるはずである。
【0058】
熱可塑性ポリマーの分子量
前記ポリマーの分子量は、前記インプラントからの、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出速度に影響を及ぼす恐れがある。これら条件の下では、該ポリマーの分子量が増すにつれて、該放出系からのブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出速度は低下する。この現象は、該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを制御放出するのに、該系の処方において利用することが有利であり得る。ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの迅速放出のためには、低分子量ポリマーを選択して、所望の放出速度を得ることができる。比較的長期に及ぶ期間に渡り、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを放出するためには、より高分子量のポリマーを選択することができる。従って、ブプレノルフィン含有持続放出型送達系は、選択された長さの期間に渡って、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを放出するのに最適な、ポリマーの分子量範囲を持つように製造することができる。ポリマーの分子量は、様々な方法の何れかによって変えることができる。該方法の選択は、典型的にはポリマー組成物の型によって決められる。例えば、加水分解により生物学的に分解し得る、熱可塑性ポリエステルを使用する場合、該ポリマーの分子量は、例えばスチームオートクレーブ内での、制御された加水分解によって変えることができる。典型的には、重合度は、例えば反応性の基の数および型、およびその反応時間を変更することにより制御することができる。
【0059】
前記熱可塑性ポリマーの分子量および/または内部粘度の調節は、前記インプラントの生成およびその性能に関与する一ファクタである。一般的に、より高い分子量およびより高い内部粘度を持つ熱可塑性ポリマーは、より低い分解速度およびその結果としてのより長い持続期間を持つインプラントをもたらすはずである。該送達系の配合後の、該熱可塑性ポリマー分子量の変化および揺らぎは、所望のまたは予想された分解速度および持続期間とは実質的に異なる、分解速度および持続期間を示すインプラントの形成をもたらすはずである。
有用な前記熱可塑性ポリマーは、約1キロダルトン(kDa)〜約100kDaなる範囲の平均分子量を持つことができる。好ましくは、該生分解性熱可塑性ポリマーは、約5,000ダルトン(Da)〜約40,000Daなる範囲、またはより好ましくは約10,000Da〜約20,000Daなる範囲の平均分子量を持つ。
【0060】
前記分子量は、また内部粘度(「IV」と略記され、その単位は、dL/gである)によって示すことも可能である。一般に、該熱可塑性ポリマーの該内部粘度は、該ポリマーの分子量および分解時間の尺度である(例えば、高い内部粘度を持つ熱可塑性ポリマーは、より高い分子量およびより長い分解時間を持つ)。好ましくは、該熱可塑性ポリマーは、約0.05dL/g〜約0.5dL/g(クロロホルム中で測定)なる範囲、より好ましくは約0.10dL/g〜約0.30dL/gなる範囲の、前記内部粘度によって示された分子量を持つ。
【0061】
好ましいポリエステルの特徴
前記流動性組成物の前記好ましい熱可塑性の生分解性ポリマーはポリエステルである。一般に、該ポリエステルは、約1またはそれ以上のオキシカルボン酸残基を持つ単位で構成し得る。ここで、異なる単位の分布は、ランダム、ブロック、対、または逐次であり得る。あるいはまた、該ポリエステルは、約1またはそれ以上のジオールおよび約1またはそれ以上のジカルボン酸の単位で構成し得る。該分布は、該ポリエステルを合成するのに使用した出発物質およびその合成方法に依存するはずである。ブロックまたは逐次状態で分布する、異なる対単位で構成されるポリエステルの一例は、ポリ(ラクチド-co-グリコライド)である。ランダム状態で分布する、異なる非-対型の単位で構成されるポリエステルの一例は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)である。適当な生分解性の熱可塑性ポリマーは、例えばポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、これらのコポリマー、これらのターポリマー、および任意のこれらの組合せを含む。好ましくは、該適当な生分解性の熱可塑性ポリマーは、ポリラクチド、ポリグリコライド、これらのコポリマー、これらのターポリマー、またはこれらの組合せである。
【0062】
前記ポリ(DL-ラクチド-co-グリコライド)の末端基は、重合法に依存して、ヒドロキシル基、カルボキシル基であるか、またはエステルであり得る。乳酸またはグリコール酸の重縮合は、末端ヒドロキシルまたはカルボキシル基を持つポリマーを与えるはずである。水、乳酸、またはグリコール酸との、環状ラクチドまたはグリコライドモノマーの開環重合は、これらと同様な末端基を持つポリマーを与えるはずである。しかし、メタノール、エタノールまたは1-ドデカノール等の単官能性アルコールとの、環式モノマーの開環重合は、約1個のヒドロキシル基と約1個のエステル末端基とを持つポリマーを与えるはずである。グルコース、1,6-ヘキサンジオール、またはポリエチレングリコールとの、環式モノマーの開環重合は、ヒドロキシル末端基を持つポリマーを与えるはずである。ヒドロキシルカルボン酸のダイマーとポリオールとのこのような重合は、該ポリマー連鎖の伸張である。該ポリオールは、該ポリマーのエステル部分として組込まれた該ヒドロキシル基から成長するポリマー鎖を持つ、中心的縮合点として作用する。該ポリオールは、その長さにおいて約2〜約30個の炭素原子を持つ、ジオール、トリオール、テトラオール、ペンタオール、またはヘキサオールであり得る。その例は、糖、還元糖、例えばソルビトール、ジオール、例えばヘキサン-1,6-ジオール、トリオール、例えばグリセロールまたは還元脂肪酸、および同様なポリオールを包含する。
【0063】
一般に、アルコールまたはポリオールと共重合された前記ポリエステルは、より長い持続期間を持つインプラントを与える。
前記流動性組成物中に存在する、好ましい前記生分解性の熱可塑性ポリマーの型、分子量、および量は、典型的には前記持続放出性インプラントの所望の諸特性に依存するはずである。例えば、該生分解性の熱可塑性ポリマーの型、分子量、および量は、前記ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグが、該制御された持続放出性インプラントから放出される時間の長さに影響を及ぼす可能性がある。具体的には、一態様において、該組成物は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの、1ヵ月に及ぶ持続放出型送達系を処方するのに使用することができる。このような態様において、該生分解性の熱可塑性ポリエステルは、カルボキシ末端基を持つ、50/50、55/45、75/25、85/15、90/10、または95/5のポリ(DL-ラクチド-co-グリコライド)であり得、好ましくはカルボキシ末端基を持つ、50/50ポリ(DL-ラクチド-co-グリコライド)であり得;該組成物の約20質量%〜約70質量%なる範囲の量で存在することができ;また約5,000ダルトン〜約40,000ダルトンなる範囲、または好ましくは約10,000ダルトン〜約20,000ダルトンなる範囲の平均分子量を持つことができる。
【0064】
一態様において、前記流動性組成物は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの持続放出型送達系を与えるように処方することができる。このような態様において、前記生分解性の熱可塑性ポリエステルは、カルボキシ末端基を持つ、50/50、55/45、75/25のポリ(DL-ラクチド-co-グリコライド)であり得、好ましくはカルボキシ末端基を持つ、50/50ポリ(DL-ラクチド-co-グリコライド)であり得;該組成物の約20質量%〜約50質量%なる範囲の量で存在することができ;また約5,000ダルトン〜約40,000ダルトンなる範囲、または好ましくは約10,000ダルトン〜約20,000ダルトンなる範囲の平均分子量を持つことができる。
【0065】
極性非プロトン性有機液体
前記流動性組成物において使用するのに適した有機液体は、生体適合性のものであり、また水性媒体、体液、または水に対する所定範囲の溶解度を示す。該溶解度範囲は、最初に接触した際のあらゆる濃度での完全な不溶性から、該有機液体と、該水性媒体、体液または水との間の最初の接触時点における、あらゆる濃度での完全な溶解性にまで及ぶ。
【0066】
水に対する前記有機液体の溶解性または不溶性は、溶解度の基準として使用することができるが、その体液中での水溶性または水不溶性は、典型的には、水中でのその溶解性または不溶性とは異なるはずである。水に対して、体液は、生理的な塩、脂質、タンパク質等を含んでおり、また有機液体に対する異なる溶媒和能を持つはずである。この現象は、水に対して塩水によって示される、古典的な「塩析」と呼ばれる特性と類似する。体液は水に対して同様な変動性を示すが、「塩析」ファクタとは対照的に、体液は、典型的に水に対するよりも高い、多くの有機液体に対する溶媒和能を有している。この高い能力は、一部には水と比較して、より高い体液の親油性によるものであり、また一部には、体液の動的特性によるものである。生存中の生物において、体液は、静止しているのではなく、寧ろ該生物全体に渡り移動している。更に、体液は該生物の組織によって浄化または清浄化され、結果として体液の含有物が除去される。
【0067】
水、水性媒体、および体液の溶解度差に関する上記理解によれば、該有機液体と水とが最初に併合された場合、該有機液体は、水に対して完全に不溶乃至完全に溶解性であり得る。好ましくは、該有機液体は、水に対して少なくとも僅かに溶解性、より好ましくは中程度に溶解性、とりわけより好ましくは高度に溶解性、および最も好ましくはあらゆる濃度にて溶解性である。水性媒体および体液に対する該有機液体の対応する溶解度は、水に対する溶解度の傾向に追随する傾向を持つはずである。体液においては、該有機液体の溶解度は、水に対する溶解度よりも高い傾向を持つ。体液に対して不溶性乃至僅かに可溶性である有機液体が、前記持続放出型送達系の態様の何れかにおいて使用された場合、該有機液体は、数秒間乃至数週間または数カ月なる範囲の期間に渡る、前記移植された送達系への水の浸透を可能とする。この過程は、上記ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの送達速度を減じまたは高めることを可能とし、また前記流動性組成物の場合には、該過程は、該組成物の凝固または固化の速度に影響を与える。体液に対して中程度乃至著しく溶解性である有機液体が、該送達系の態様において使用された場合、該有機液体は、数分乃至数日間の期間に渡り、体液内に拡散するはずである。その拡散速度は、該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの送達速度を減じまたは高めることを可能とする。高度に可溶性の有機液体を使用した場合、これらは、数秒乃至数時間なる期間に渡り、該送達系から拡散する。幾つかの状況の下では、この迅速な拡散は、少なくとも部分的に、所謂バースト効果によるものである。このバースト効果は、該送達系を移植した際の、短期間であるが迅速なブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出、およびこれに伴う長期間に及ぶ、緩慢なブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出である。
【0068】
前記送達系において使用する有機液体は、例えば脂肪族、アリール、およびアリールアルキル;直鎖、環式および分岐有機化合物を含み、これら有機化合物は、周囲および生理的な温度にて液体または少なくとも流動性であり、またアルコール、アルコキシル化アルコール、ケトン、エーテル、ポリマー状エーテル、アミド、エステル、カーボネート、スルホキシド、スルホン、生きた組織と相溶性の任意の他の官能基、およびこれらの任意の組合せ等の官能基を含む。該有機液体は、好ましくは極性非プロトン性、または極性プロトン性有機溶媒である。好ましくは、該有機液体は、約30〜約1,000なる範囲の分子量を持つ。
【0069】
水性媒体または体液に対して少なくとも僅かに溶解性の、好ましい生体適合性の有機液体は、例えばN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン;(C1-C15)アルコール、ジオール、トリオールおよびテトラオール、例えばエタノール、グリセリン、プロピレングリコールおよびブタノール;(C3-C15)エステルおよびモノ-、ジ-およびトリ-カルボン酸のアルキルエステル、例えば2-エトキシエチルアセテート、エチルアセテート、メチルアセテート、エチルラクテート、エチルブチレート、ジエチルマロネート、ジエチルグルコネート、トリブチルシトレート、ジエチルサクシネート、トリブチリン、イソプロピルミリステート、ジメチルアジペート、ジメチルサクシネート、ジメチルオキサレート、ジメチルシトレート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、およびグリセリルトリアセテート;(C1-C15)アミド、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセタミド、およびカプロラクタム;(C3-C20)エーテル、例えばテトラヒドロフランまたはソルケタール(solketal);ツイーン、トリアセチン、デシルメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、オレイン酸、1-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、N-メチル-2-ピロリドン、炭酸とアルキルアルコールとのエステル、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、およびジメチルカーボネート;アルコール、例えばソルケタール(solketal)、グリセロールホルマール、およびグリコフロール;ジアルキルアミド、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセタミド、ジメチルスルホキシド、およびジメチルスルホン;ラクトン、例えばε-カプロラクトンおよびブチロラクトン;環状アルキルアミド、例えばカプロラクタム;トリアセチンおよびジアセチン;芳香族アミド、例えばN,N-ジメチル-m-トルアミド;およびこれらの混合物および組合せを含む。好ましい溶媒は、例えばN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチルラクテート、プロピレンカーボネート、ソルケタール(solketal)、トリアセチン、グリセロールホルマール、イソプロピリデングリコールおよびグリコフロールを包含する。
【0070】
その他の好ましい有機液体は、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、ジプロピレングリコール、トリブチリン、エチルオレエート、グリセリン、グリコフラール(glycofural)、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、オレイン酸、ポリエチレングリコール、プロピレンカーボネート、およびトリエチルシトレートである。最も好ましい溶媒は、溶媒和能及び相溶性が高いことから、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、トリアセチンおよびプロピレンカーボネートである。
【0071】
以下において詳細に説明されるように、前記流動性組成物中に存在する前記生体適合性有機液体の型およびその量は、典型的に前記制御放出性インプラントの所望の特性に依存する。好ましくは、該流動性組成物は、約10質量%〜約90質量%なる範囲、またはより好ましくは約30質量%〜約70質量%なる範囲の量で有機液体を含む。
【0072】
様々な有機液体に対する前記生分解性熱可塑性ポリマーの溶解度は、その結晶性、その親水性、水素結合、および分子量に依存して異なる。低分子量のポリマーは、通常、高分子量ポリマーよりも一層容易に、該有機液体に溶解する。結果として、該様々な有機液体に溶解する熱可塑性ポリマーの濃度は、該ポリマーの型およびその分子量に依存して異なる。その上、該高分子量の熱可塑性ポリマーは、該低分子量物質よりも、高い溶液粘度を与える傾向にある。
【0073】
前記有機液体が、前記流動性組成物の一部を構成する場合、該有機液体は、生きた組織内への、前記持続放出型送達系の、容易な、かつ非外科手術的な配置を可能とするように機能する。該有機液体は、また該流動性組成物の、その場で生成されるインプラントへの変換を容易にする。本発明の限界を意味するものではないが、該流動性組成物の変換は、該流動性組成物から周りの体液および組織への、該有機液体の散逸、および該周りの組織から該流動性組成物への体液の浸出の結果であると考えられている。この変換中に、該流動性組成物内の該熱可塑性ポリマーおよび有機液体は、ポリマーに富む領域とポリマーに乏しい領域とに分割されるものと考えられる。
【0074】
前記インプラントの柔軟性は、前記有機液体等の添加物が該インプラント内に維持されている場合には、該インプラントの寿命全体に渡って、実質的に維持できる。また、このような添加物は、前記熱可塑性ポリマーに対する可塑剤として作用でき、また少なくとも部分的に該インプラント内に残されている可能性がある。これらの諸特性を持つこのような添加剤の一つは、低い水溶性乃至水不溶性の、有機液体である。これらの柔軟性および可塑化特性を与えるこのような有機液体は、唯一の有機液体として前記送達系に含めることができ、あるいは中程度乃至高度に水溶性の有機液体に加えて、該送達系に含めることができる。水中で約5質量%程度の水性溶液を生成するもの等の、低い水に対する溶解度乃至水不溶性の有機液体は、柔軟剤、可塑化成分として機能することができ、また更には、該流動性組成物の態様に対する溶媒和成分として作用し得る。このような有機液体は、該熱可塑性ポリマーに対する可塑剤として機能し得る。該有機液体がこれら諸特性を持つ場合、これは、「可塑剤」と呼ばれる有機液体の下位群の一員である。該可塑剤は、該インプラント組成物の柔軟性および成型適性に影響を与え、結果として該組成物は、移植した際に、より一層患者に対して快適なものとなる。更に、該可塑剤は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの持続放出速度に影響を与え、その結果該持続放出速度を、該インプラント組成物に配合された可塑剤の特徴に従って、増減することができる。一般に、可塑剤として機能する該有機液体は、該固体またはゲル状熱可塑性マトリックス内での分子的な運動を容易にするものと信じられている。この可塑化能力は、該マトリックスのポリマー分子が、相互に移動することを可能とし、そのために柔軟性および高い成型適性がもたらされる。該可塑化能力は、またブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの移動、運動を容易にし、結果として、幾つかの状況において、該持続放出速度は、正の、または負の影響を受ける。
【0075】
高い水溶性を持つ有機液体
中程度乃至高度に水溶性の有機液体は、一般に、特に柔軟性が、前記インプラントの製造後に問題とならない場合には、前記流動性組成物において使用することができる。該高度に水溶性の有機液体の使用は、該流動性組成物の直接的な挿入により作成されたインプラントの物理的諸特性を持つインプラントを与えるはずである。
【0076】
前記流動性組成物における中程度乃至高度に水溶性の有機液体の使用は、該組成物との他の成分の密な組合せおよびこれらの混合を容易にする。該使用は、生体外で生成されるインプラントの柔軟性および固体またはゲルの均質性の達成を促進し、結果的にこのようなインプラントは、組織内の適当な切開部に、またはトロカール配置部に容易に挿入することができる。
【0077】
通常、高度に水溶性の有機液体は、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)および2-ピロリドン等の置換ヘテロ環式化合物;(C2-C10)アルカン酸、例えば酢酸および乳酸;オキシ酸のエステル、例えばメチルラクテート、エチルラクテート、アルキルシトレート等;ポリカルボン酸のモノエステル、例えばコハク酸モノメチル、クエン酸モノメチル等;エーテルアルコール、例えばグリコフロール、グリセロールホルマール、イソプロピリデングリコール、および2,2-ジメチル-1,3-ジオキソロン-4-メタノール;ソルケタール;ジアルキルアミド、例えばジメチルホルムアミドおよびジメチルアセタミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルスルホン;ラクトン、例えばε-カプロラクトン、およびブチロラクトン;環状アルキルアミド、例えばカプロラクタム;およびこれらの混合物および組合せを含む。好ましい有機液体は、例えばN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチルラクテート、グリコフロール、グリセロールホルマール、およびイソプロピリデングリコールを含む。
【0078】
水溶性の低い有機液体/溶媒
上記の如く、低水溶性乃至水不溶性の有機液体(以下「低/不液体」ともいう)も、また前記持続放出型送達系において使用することができる。好ましくは、低/不液体は、柔軟性を維持しており、押出し可能であり、長期間の放出性を持つ等の諸特性を持つインプラントを得ることが望まれる場合に使用される。例えば、前記生物学的活性薬物の放出速度は、幾つかの状況の下では、低/不液体の使用により影響を受ける下の性がある。典型的に、このような状況は、該インプラント製品内での該有機液体の保持および可塑剤または速度改良剤としてのその機能を含む。適当な低水溶性乃至水不溶性の有機液体は、例えばベンジルベンゾエート等のカルボン酸とアリールアルコールとのエステル;(C4-C10)アルキルアルコール;(C1-C6)アルキル(C2-C6)アルカノエート;炭酸とアルキルアルコールとのエステル、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、およびジメチルカーボネート;モノ-、ジ-およびトリ-カルボン酸のアルキルエステル、例えば2-エチルオキシエチルアセテート、エチルアセテート、メチルアセテート、エチルブチレート、ジエチルマロネート、ジエチルグルコネート、トリブチルシトレート、ジエチルサクシネート、トリブチリン、イソプロピルミリステート、ジメチルアジペート、ジメチルサクシネート、ジメチルオキサレート、ジメチルシトレート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、およびグリセリルトリアセテート;アルキルケトン、例えばメチルエチルケトン;並びに他のカルボニル、エーテル、カルボン酸エステル、アミド、および幾分かの水溶性を持つヒドロキシ基含有液状有機化合物を包含する。生体適合性および製薬上の許容性に優れていることから、プロピレンカーボネート、エチルアセテート、トリエチルシトレート、イソプロピルミリステート、およびグリセリルトリアセテートが好ましい。付随的に、前記マトリックス形成材料に対して変動する溶解度を与える、前記高または低溶解性または不溶性の有機液体を使用して、前記インプラントの寿命、生物活性薬物の放出速度、およびその他の特性を変更する目的で使用することができる。その例は、N-メチル-2-ピロリドン単独よりも一層疎水性の高い溶媒を与える、N-メチル-2-ピロリドンとプロピレンカーボネートとの組合せ、およびN-メチル-2-ピロリドン単独よりも一層親水性の高い溶媒を与える、N-メチル-2-ピロリドンとポリエチレングリコールとの組合せを含む。
【0079】
前記組成物中に含めるための前記有機液体は、生体適合性でなければならない。生体適合性とは、該組成物から該有機液体が拡散または分散する際に、該有機液体が、前記移植サイトの回りで、実質的な組織刺激または壊死をもたらさないことを意味する。
【0080】
好ましい流動性組成物のための有機液体
熱可塑性ポリエステルを組込んだ前記好ましい流動性組成物に対して、任意の適当な極性非プロトン性有機液体を使用し得るが、該適当な極性非プロトン性溶媒が、あらゆる割合での完全な溶解性乃至極めて僅かな溶解性なる範囲の体液溶解性を示すものであることを条件とする。適当な極性非プロトン性有機液体は、例えばファインケミカルズおよび実験室用機器に関するアルドリッチハンドブック(ALDRICH HANDBOOK OF FINE CHEMICALS AND LABORATORY EQUIPMENT), WI州ミルウォーキー(Milwaukee, WI)(2000)および米国特許第5,324,519号、同第4,938,763号、同第5,702,716号、同第5,744,153号、および同第5,990,194号において開示されている。適当な極性非プロトン性液体は、該流動性組成物が、凝固または固化するように、所定期間に渡り体液内に拡散し得るものでなければならない。この拡散は、迅速なものであっても、緩慢なものであってもよい。同様に、該生分解性ポリマーに対する該極性非プロトン性液体は、非毒性のものであり、またさもなければ生体適合性のものであることも好ましい。
【0081】
前記極性非プロトン性有機液体は、好ましくは生体適合性のものである。適当な極性非プロトン性有機液体は、例えばアミド基、エステル基、カーボネート基、ケトン基、エーテル基、スルホニル基、またはこれらの組合せを持つものを含む。好ましくは、該極性非プロトン性有機液体は、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、カプロラクタム、トリアセチン、またはこれらの任意の組合せを含む。より好ましくは、該極性非プロトン性有機溶媒はN-メチル-2-ピロリドンである。
【0082】
様々な前記極性非プロトン性液体に対する前記生分解性熱可塑性ポリエステルの溶解度は、該ポリエステルの結晶性、その親水性、水素結合性、および分子量に依存して異なる。即ち、該生分解性熱可塑性ポリエステル全てが、同一の極性非プロトン性有機液体に対して同程度に溶解性である必要はないが、各生分解性熱可塑性ポリマーまたはコポリマーは、それに対して適切な極性非プロトン性溶媒に溶解性である必要がある。低分子量ポリマーは、通常、高分子量ポリマーよりも該液体に対してより迅速に溶解するはずである。結果として、様々な液体に溶解しているポリマーの濃度は、該ポリマーの型およびその分子量に依存して異なるはずである。逆に、高分子量ポリマーは、通常、極めて低分子量のポリマーよりも迅速に凝固または固化する傾向を持つはずである。更に、高分子量ポリマーは、低分子量物質に比してより高い溶液粘度を与える傾向を持つはずである。
【0083】
例えば、乳酸の縮合によって製造した、低分子量のポリ乳酸は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解して、約73質量%なる濃度の溶液を与え、この溶液は、依然として23-ゲージの注射針を通して流動するが、DL-ラクチドの付加重合によって製造した高分子量ポリ(DL-ラクチド)(DL-PLA)は、約50質量%なる濃度にてN-メチル-2-ピロリドンに溶解した場合に、同一の溶液粘度を与える。該高分子量ポリマーの溶液は、水中に投入された場合に、即座に凝固するが、そのより濃厚な溶液は、水中に投入された場合に、より緩慢に凝固する傾向を示す。
また、極めて高い濃度で高分子量ポリマーを含む溶液が、しばしばより希薄な溶液よりも緩慢に凝固または固化することも分かっている。該高濃度のポリマーは、該ポリマーマトリックスから、またはその内部への溶媒の拡散を妨害し、また結果として、該ポリマー鎖を沈殿させる可能性のある該マトリックス内への、水の浸透を阻止するものと考えられる。従って、該溶媒が該ポリマー溶液から拡散することができ、しかも水が内部に浸透して該ポリマーを凝固することを可能とする、最適の濃度が存在する。
【0084】
熱可塑性ポリエステルを配合した前記好ましい流動性組成物に対する、前記極性非プロトン性有機液体の濃度および種類は、典型的には、前記制御放出用のインプラントの所望の諸特性に依存するはずである。例えば、生体適合性の極性非プロトン性溶媒の種類およびその量は、前記ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグが、該制御放出用のインプラントから放出される期間の長さに影響を及ぼす可能性がある。
【0085】
具体的には、一態様において、前記流動性組成物は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの1ヶ月間に及ぶ送達系を処方するのに使用できる。このような態様において、前記生体適合性の極性非プロトン性溶媒は、好ましくはN-メチル-2-ピロリドンであり得、また好ましくは該組成物の約30質量%〜約70質量%なる範囲の量で、該組成物中に存在し得る。
あるいはまた、他の態様では、前記組成物は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの3ヶ月間に及ぶ送達系を処方するのに使用できる。このような態様において、前記生体適合性の極性非プロトン性溶媒は、好ましくはN-メチル-2-ピロリドンであり得、また好ましくは該組成物の約30質量%〜約70質量%なる範囲の量で、該組成物中に存在し得る。
【0086】
ブプレノルフィン
ブプレノルフィン[(2S)-2[(-)-(5R,5R,7R,14S)-9α-シクロプロピル-メチル-4,5-エポキシ6,14-エタノ-3-ヒドロキシ-6-メトキシモルフィナン-7-イル]-3,3-ジメチルブタン-2-オールとしても知られ、またサブテックス(SUBUTEX
TM)およびサブオキソン(SUBOXONE
TM)なる商品名の下に市販されている]は、テバイン誘導体の化学群に属する、オピオイドアゴニストスト剤である。ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグは、その中和されていない塩基型で、あるいは有機または無機酸の塩として投与することができる。その例は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの塩を含み、ここでその対イオンは、アセテート、プロピオネート、タルタレート、マロネート、クロリド、硫酸根、ブロミド、および他の製薬上許容される有機および無機酸の対イオンである。
【0087】
ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグは、使用前に凍結乾燥処理に付すことができる。典型的に、該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグは、水性溶液に溶解され、滅菌濾過処理され、次いで注射器内で凍結乾燥される。別の工程において、前記熱可塑性ポリマー/有機液体溶液を、第二の注射器に充填することができる。これら2つの注射器を一緒に連結し、その内容物を、該熱可塑性ポリマー、有機液体、および該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグが、効果的に一緒に混合されて、流動性組成物が生成されるまで、これら2つの注射器間で前後に流すことができる。該流動性組成物を、一方の注射器に引入れることができる。これら2つの注射器を分離し、また注射針を、該流動性組成物を含む注射器に取付けることができる。該流動性組成物は、該注射針を介して身体内に注入することができる。該流動性組成物は、例えば米国特許第5,324,519号、同第4,938,763号、同第5,702,716号、同第5,744,153号、および同第5,990,194号に記載されているように、または本明細書に記載したようにして処方し、かつ患者に投与することができる。一旦投与されると、該有機液体は散逸し、残留するポリマーがゲル化または固化し、かくしてマトリックス構造が形成される。該有機液体は、散逸し、また該ポリマーは、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを、該マトリックス内に封入または取込むように固化しまたはゲル化するはずである。
【0088】
前記インプラントからのブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出は、一体式のポリマー製デバイスからの薬物の放出と同様な一般的規則に従うべきである。該インプラントからのブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出は、該インプラントのサイズおよび形状、該インプラント内のブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの配合量、該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグおよび該特定のポリマーに関連する透過性ファクタ、および該ポリマーの分解性によって影響される可能性がある。送達のために選択されたブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの量に依存して、薬物送達分野における当業者は、前記パラメータを調節して、所望の放出速度および期間を得ることができる。
【0089】
前記持続放出型送達系に配合されるブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの量は、所望の放出プロフィール、生物学的効果を得るために使用される、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの濃度、および治療のためにブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを放出すべき期間の長さに依存する。該持続放出型送達系に配合すべき、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの量における上限はないが、注射針を通して注入するために許容される溶液または分散液の粘度には上限がある。該持続放出型送達系に配合すべき、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの量における下限は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの活性および治療に要する期間の長さに依存する。具体的には、一態様において、該持続放出型送達系は、1ヵ月に渡るブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出を与えるように処方することができる。このような態様において、該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグは、好ましくは前記流動性組成物の約0.5質量%〜約50質量%なる範囲、およびより好ましくは約1質量%〜約30質量%なる範囲の量で、該組成物中に存在し得る。あるいはまた、もう一つの態様において、該持続放出型送達系は、3ヵ月に渡るブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出を与えるように処方することができる。このような態様において、該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグは、好ましくは前記流動性組成物の約0.5質量%〜約50質量%なる範囲、およびより好ましくは約1質量%〜約30質量%なる範囲の量で、該組成物中に存在し得る。該流動性組成物から作成した前記ゲル状または固体状インプラントは、該インプラントが効果的にブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグについて枯渇するまで、該組成物のマトリックス内のブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを、制御された速度にて放出すべきである。
【0090】
佐剤および担体
前記持続放出型送達系は、例えば前記インプラントマトリックスからの、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの持続的放出速度を変更するための、放出速度改良剤を含むことができる。放出速度改良剤の使用は、放出速度改良剤を含まないインプラントマトリックスからの、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出速度と比較して、数倍の違いにて、該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出速度を減じまたは増大することができる。
【0091】
疎水性エチルヘプタノエート等の疎水性放出速度改良剤を、前記持続放出型送達系に添加し、また該流動性組成物と体液との相互作用を通して該インプラントマトリックスを生成することによって、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出速度を、低下することができる。ポリエチレングリコール等の親水性放出速度改良剤は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出速度を高めることを可能とする。前記ポリマーの分子量の適切な選択と、該放出速度改良剤の有効量とを組合せることにより、該インプラントマトリックスからの、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの放出速度および該薬物の放出の程度を、例えば比較的迅速乃至比較的緩慢なる範囲で変更することができる。
【0092】
有用な放出速度改良剤は、例えば水溶性、水混和性、または水不溶性(即ち、親水性乃至疎水性)である、有機物質を包含する。
前記放出速度改良剤は、好ましくは前記ポリマー分子および他の分子が、これら分子が固体または著しく粘稠な状態にあっても、相互に摺動する能力および該分子の可撓性を増大するものと考えられる、有機化合物である。放出速度改良剤は、前記持続放出型送達系を処方するのに使用される、前記ポリマーと有機液体とを含む組成物と相溶性であることが好ましい。更に、該放出速度改良剤は、製薬上許容される物質であることも好ましい。
【0093】
有用な放出速度改良剤は、例えば脂肪酸、トリグリセライド、他の同様な疎水性化合物、有機液体、可塑性化合物、および親水性化合物を包含する。適当な放出速度改良剤は、例えばモノ-、ジ-およびトリ-カルボン酸のエステル、例えば2-エトキシエチルアセテート、メチルアセテート、エチルアセテート、ジエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジメチルアジペート、ジメチルサクシネート、ジメチルオキサレート、ジメチルシトレート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、グリセロールトリアセテート、ジ(n-ブチル)セバケート等;ポリヒドロキシアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等;脂肪酸;グリセロールのトリ-エステル、例えばトリグリセライド、エポキシ化処理された大豆油、および他のエポキシ化処理された植物油;ステロール、例えばコレステロール;アルコール、例えば(C6-C12)アルカノール、2-エトキシエタノール等を含む。該放出速度改良剤は、単独で、または他のこの種の薬剤との組合せで使用することができる。放出速度改良剤の適当な組合せは、例えばグリセリン/プロピレングリコール、ソルビトール/グリセリン、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド、ブチレングリコール/アジピン酸等を含む。好ましい放出速度改良剤は、例えばジメチルシトレート、トリエチルシトレート、エチルヘプタノエート、グリセリンおよびヘキサンジオールを含む。
【0094】
前記流動性組成物に配合される前記放出速度改良剤の量は、前記インプラントマトリックスからの、前記ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの所望の放出速度に従って変更すべきである。好ましくは、前記持続放出型送達系は、約0.5〜約30%なる範囲、好ましくは約5〜約10%なる範囲の量の放出速度改良剤を含む。
また、担体、特に隔離担体として作用する、他の固体佐剤を、場合により前記持続放出型送達系と組合せることも可能である。これらの佐剤は、例えばデンプン、スクロース、ラクトース、セルロース、糖、マニトール、マルチトール、デキストラン、ソルビトール、デンプン、寒天、アルギン酸塩、キチン、キトサン、ペクチン、トラガカンスゴム、アラビアゴム、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、合成または半合成ポリマーまたはグリセライド、および/またはポリビニルピロリドン等の添加剤または賦形剤を含む。
【0095】
追加の佐剤は、例えばオイル、例えばピーナッツオイル、ゴマ油、綿実油、コーンオイル、およびオリーブ油、並びに脂肪酸のエステル、例えばエチルオレエート、イソプロピルミリステート、脂肪酸グリセライド、およびアセチル化脂肪酸グリセライドを含むことができる。同様に該佐剤に含まれるものは、アルコール、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサデシルアルコール、グリセロールおよびプロピレングリコールを含むが、これらに限定されない。エーテル、例えばポリ(エチレングリコール)(但し、これに限定されない);石油炭化水素、例えば鉱油およびペトロラタムも、前記処方物において使用し得る。ペクチン、カーボマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはカルボキシメチルセルロースも配合することができる。これら化合物は、前記ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを被覆することによって隔離担体として機能して、前記流動性組成物の前記有機溶媒およびその他の成分と、該薬物との接触を防止することができる。隔離担体としてのこれらの化合物は、またその場での該流動性組成物の凝固に関連する破裂(バースト)作用を低下するのに役立つ。
【0096】
場合により、他の化合物、例えば安定剤、抗菌剤、酸化防止剤、pH調節剤、生体利用性改善剤、およびこれらの組合せ(但し、これらに限定されない)も、配合し得る。天然または合成極性オイル、脂肪酸エステル、ポリオールエーテル、およびモノ-、ジ-またはトリ-グリセライドを含む、乳化剤および界面活性剤、例えば脂肪酸またはノニオン性界面活性剤を配合することも可能である。
【0097】
本発明のインプラント
前記インプラントを製造する場合、該インプラントは、固体としての物理的な状態を持つ。該固体としての態様は、剛性であって、これらを指と指との間で圧搾することにより曲げたり、屈曲させたりすることはできず、あるいは曲げることができて、これらを指と指との間で圧搾(即ち、少ない量の力で)することにより元の形状から圧縮または曲げることができる。前記熱可塑性ポリマーは、これらの態様におけるマトリックスとして機能して、該単一の固体本体に一体性をもたらし、また移植した際に、前記生物活性薬剤の制御された放出を可能とする。
【0098】
前記熱可塑性ポリマーマトリックスは、好ましくは固体マトリックスであり、また特に好ましくは、微孔質マトリックスである。該微孔質固体マトリックスの一態様では、外皮層により取囲まれたコアが存在する。該コアは、好ましくは約1μm〜約1,000μmなる範囲の径を持つ孔を含む。該外皮層は、好ましくは該コア孔の径よりも小さな径を持つ孔を含む。更に、該外皮層の孔は、好ましくは該外皮層が、該コアに比して、機能上非多孔質である様なサイズを持つものである。
【0099】
前記インプラントの成分全てが、生分解性であるか、あるいは体液により該移植サイトから一掃し、また身体から排除することができるので、該インプラントは、ついには消失する。該インプラントの成分は、前記ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグが、典型的には、完全に放出される前に、その後に、またはそれと同時に、その生分解または消失を完了することができる。前記熱可塑性ポリマーの構造、その分子量、該インプラントの密度および多孔度、該インプラントの身体内の移植位置全てが、該成分の生分解および消失速度に影響を与える。該インプラントは、典型的には、患者の皮下に形成される。これは、注入した際に所定の位置で成形されて、患者に対して快適性を与えることができる。該インプラントの体積は典型的に、そのサイズにおいて、約0.25mL〜約3mLなる範囲の値であり得る。
【0100】
治療上の利用
驚いたことに、前記持続放出型送達系が、ブプレノルフィンの送達において極めて効果的であることを見出した。具体的には、以下の実施例において示されるように、この持続放出型送達系によって得られるブプレノルフィンの血中レベルは、ビーグル犬に、ブプレノルフィンの用量60mgにて注入した後、該イヌにおいて、1mL当たり約0.5ng(ng/mL)〜約20ng/mLなる範囲にある。
【0101】
一般に、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグまたはブプレノルフィン類似体の投与により改善され、治療され、治癒され、もしくは予防される任意の疾患は、前記流動性組成物の投与により治療することができる。これらの諸疾患は、精神的な障害に関連している。以下の具体的な不全状態は、このような疾患の例である。これらは、全て、有効量のブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを送達するように処方された、流動性組成物の適当かつ効果的な投与によって治療することができる。これらの不全状態は、オピオイド物質の常用癖、および慢性的な痛み等を含む。
【0102】
投薬量
投与すべき前記流動性組成物の量は、典型的には前記制御放出系の所望の特性に依存するはずである。例えば、該流動性組成物の量は、前記ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグが、該制御放出インプラントから放出される期間の長さに影響を及ぼす可能性がある。具体的には、一態様において、該組成物は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの1ヵ月に及ぶ送達系を処方するために使用することができ、このような態様においては、約0.20mL〜約2.0mLなる範囲の該流動性組成物を投与することができる。あるいはまた、別の態様において、該組成物は、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの3ヵ月に及ぶ送達系を処方するために使用することができる。このような態様においては、約0.5mL〜約2.0mLなる範囲の該流動性組成物を投与することができる。該流動性組成物およびこれから得られるインプラント内の、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの量は、治療すべき疾患、所望の放出期間の長さ、および該インプラントの生体利用的プロフィールに依存するはずである。一般に、該有効量は、該患者の主治医の裁量および知識の範囲内に入る。投与に関するガイドラインは、例えば1日当たり約1〜約16ミリグラム(mg)のブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグなる用量範囲、好ましくは約1〜約5mgのブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグなる用量範囲を含む。1ヶ月間に渡るこのような持続的送達のために効果的な該典型的な流動性組成物は、該流動性組成物の全体積の1mL当たり、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを約3〜約300mgなる範囲の量で含む。該組成物の注入体積は、インプラント当たり約0.2〜約2.0mLなる範囲とすべきである。3ヶ月間に渡るこのような持続的送達のために効果的な該典型的な流動性組成物は、該流動性組成物の全体積の1mL当たり、ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを約9〜約900mgなる範囲の量で含む。該組成物の注入体積は、インプラント当たり約0.5〜約2.0mLなる範囲とすべきである。前記ポリマー処方物は、上で論じた如く、より長期間に渡る持続放出系を得るための、主なファクタとなるはずである。
なお、以下の態様も好ましい。
<1> 注入可能な流動性組成物であって、
(a) 少なくとも実質的に体液に対して不溶性の、少なくとも1種の生分解性熱可塑性ポリマー;
(b) 不溶性乃至あらゆる比率で完全に可溶性なる範囲の、水性媒体または体液に対する溶解度を持ち、アミド、エステル、カーボネート、ラクタム、エーテル、スルホニル、または任意のこれらの組合せを含む、生体適合性の極性非プロトン性有機液体;および
(c) 1質量%〜30質量%なる範囲のブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを含有し、
前記組成物が、水、体液または他の水性媒体と接触することにより、その場で固体インプラントに変換されることを特徴とする、前記流動性組成物。
<2> 前記生分解性熱可塑性ポリマーが、1種またはそれ以上のオキシカルボン酸のポリエステルであり、あるいは1種またはそれ以上のジオールと1種またはそれ以上のジカルボン酸との組合せのポリエステルである、<1>記載の流動性組成物。
<3> 前記ポリエステルが、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステル、これらのコポリマー、これらのターポリマー、またはこれらの任意の組合せである、<2>記載の流動性組成物。
<4> 前記ポリエステルが、カルボキシ末端基を持つ、50/50、55/45、60/40、65/35、70/30、75/25、80/20、85/15、90/10、または95/5のポリ(DL-ラクチド-co-グリコライド)であるか、またはカルボキシ末端基を持たない、50/50、55/45、60/40、65/35、70/30、75/25、80/20、85/15、90/10、または95/5のポリ(DL-ラクチド-co-グリコライド)である、<3>記載の流動性組成物。
<5> 前記生分解性熱可塑性ポリマーが、前記流動性組成物の約5質量%〜約95質量%なる範囲内の量で存在し、あるいは該流動性組成物の約15質量%〜約70質量%なる範囲内の量で存在し、または該流動性組成物の約25質量%〜約50質量%なる範囲内の量で存在する、<2>〜<4>の何れかに記載の流動性組成物。
<6> 前記生分解性熱可塑性ポリマーが、前記流動性組成物の約5,000ダルトン〜約40,000ダルトンなる範囲、あるいは該流動性組成物の約10,000ダルトン〜約20,000ダルトンなる範囲内の分子量を持つ、<2>〜<4>の何れかに記載の流動性組成物。
<7> 前記生体適合性の極性非プロトン性液体が、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、カプロラクタム、トリアセチン、PEG、またはこれらの任意の組合せを含む、<1>〜<6>の何れかに記載の流動性組成物。
<8> 前記生体適合性の極性非-プロトン性液体が、前記流動性組成物の約10質量%〜約90質量%なる範囲内または該流動性組成物の約30質量%〜約70質量%なる範囲内の量で存在する、<1>〜<7>の何れかに記載の流動性組成物。
<9> 前記ブプレノルフィン、その前記代謝産物、またはその前記プロドラッグ対前記生分解性熱可塑性ポリマーの質量比が、0.01:1〜2:1なる範囲内にある、<1>〜<8>の何れかに記載の流動性組成物。
<10> 前記ブプレノルフィン、その前記代謝産物、またはその前記プロドラッグが、その中性の遊離塩基状態にある、<1>〜<9>の何れかに記載の流動性組成物。
<11> 更に、生分解性熱可塑性ポリマー、可塑剤およびポロゲンからなる群から選択される、1種またはそれ以上の賦形剤をも含有する、<1>〜<10>の何れかに記載の流動性組成物。
<12> 約0.10mL〜約2.0mLなる範囲、好ましくは約0.20mL〜約1.0mLなる範囲の体積を持つ、<1>〜<11>の何れかに記載の流動性組成物。
<13> 1ヵ月当たり約1回、3ヵ月当たり約1回、4ヵ月当たり約1回または6ヵ月当たり約1回の投与のために処方された、<1>〜<12>の何れかに記載の流動性組成物。
<14> 制御放出型のインプラントとして使用するための流動性組成物の製造方法であって、以下の成分:
(a) 水性媒体または体液に対して少なくとも実質的に不溶性の、生分解性熱可塑性ポリマー;
(b) 生体適合性の極性非プロトン性液体;および
(c) ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグ
を、任意の順序で混合する工程を含み、該混合工程が、制御放出型インプラントとして使用するための前記流動性組成物を製造するのに有効な、十分な期間に渡り行われる、ことを特徴とする、前記方法。
<15> 前記生分解性熱可塑性ポリマーと前記生体適合性の極性非プロトン性液体とを一緒に混合して、混合物を生成し、また該混合物を、前記ブプレノルフィン、その前記代謝産物、またはその前記プロドラッグと混合して、前記流動性組成物を生成する、<14>記載の方法。
<16> 以下の諸工程:
(a) <1>記載の組成物を、患者の身体内に注入する工程;および
(b) 該生体適合性の極性非プロトン性液体を散逸させて、固体の生分解性インプラントを生成する工程、
によって、該患者内に、その場で形成されることを特徴とする、生分解性インプラント。
<17> 前記組成物が、有効量の前記生分解性熱可塑性ポリマー;有効量の前記生体適合性の極性非プロトン性液体;および有効量の前記ブプレノルフィン、その前記代謝産物またはその前記プロドラッグを含み、前記固体インプラントが前記患者内で生分解されるのに応じて、該固体インプラントが、該ブプレノルフィン、該代謝産物、または該プロドラッグを、所定期間に渡り放出する、<16>記載の生分解性インプラント。
<18> 患者内に、その場で生分解性インプラントを形成する方法であって、以下の諸工程:
(a) <1>記載の流動性組成物を、患者身体内に注入する工程;
(b) 該生体適合性の極性非プロトン性液体を散逸させて、固体生分解性インプラントを生成する工程を含み、
前記固体生分解性インプラントが前記患者内で生分解されるのに応じて、該インプラントが、拡散、浸食または拡散と侵食との組合せにより、前記ブプレノルフィン、前記代謝産物、または前記プロドラッグを放出する、ことを特徴とする、前記方法。
<19> (a) 体液に対して少なくとも実質的に不溶性の生分解性熱可塑性ポリマーおよび生体適合性の極性非プロトン性液体を含む組成物を含有する、第一の注入器;および
(b) ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを含む第二の注入器を含み、
該注入器が、相互に直接連結できるものである、ことを特徴とするキット。
<20> 体液に対して少なくとも実質的に不溶性の生分解性熱可塑性ポリマー、生体適合性の極性非プロトン性液体およびブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを含有する組成物を含む、単一の注入器を含むことを特徴とするキット。
<21>
所定の医学的状態にある患者の治療法であって、該患者に、有効量のブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを、少なくとも実質的に水不溶性の生分解性熱可塑性ポリマーおよび生体適合性の極性非プロトン性液体との組合せで投与して、生分解性のインプラントを生成することを特徴とする、前記方法。
<22>
前記医学的状態が、痛みの軽減またはオピオイド依存症またはこれらの組合せを含む、<21>記載の方法。
<23>
前記インプラントが、1日当たり約0.1〜約10mgなる範囲または約1〜約5mgなる範囲の、治療上有効な投薬量のブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグを放出する、<21>または<22>記載の方法。
<24>
前記投薬量が、前記インプラントを投与した後のほぼ1日以内に、前記ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの治療上有効なレベルを達成し、また該ブプレノルフィン、その代謝産物、またはそのプロドラッグの該治療上有効な投薬量が、該インプラントの投与後少なくとも約15日間に渡り、あるいは該インプラントの投与後少なくとも約30日間に渡り、あるいは該インプラントの投与後少なくとも約45日間に渡り、あるいは該インプラントの投与後少なくとも約60日間に渡り放出される、<21>〜<23>の何れかに記載の方法。
【実施例】
【0103】
あらゆる刊行物、特許、および特許文献は、あたかも個別に本明細書において参考として組み込まれた如く、ここに参考として組入れる。以下、本発明を、下記の非限定的実施例によって例示する。以下の実施例では、前記流動性組成物として、ブプレノルフィンと組合せた、ポリ(ラクチド-co-グリコライド)およびN-メチル-2-ピロリドンを含むアトリゲル(ATRIGEL
TM)処方物を使用する。
実施例
以下の実施例において、アトリゲル/ブプレノルフィンは、アトリゲル/ブプレノルフィン処方物を意味し、アトリゲル(ATRIGEL
TM)は、CO州フォートコリンズ(Fort Collins, CO)におけるQLT-USA社の登録商標である。これらの実施例において使用するアトリゲル(ATRIGEL
TM)製品の特定の形状は、実施例と共に与えられる。特に述べない限り、該アトリゲル(ATRIGEL
TM)製品は、有機溶媒N-メチル-2-プロリドン中に分散された、熱可塑性ポリマーポリ(ラクチド-co-グリコライド)(PLG)、熱可塑性ポリマーポリ(1,6-ヘキサンジオールで伸張されたラクチド-co-グリコライド)(PLG)、またはPLGHである。サブテックス(SUBUTEX
TM)およびサブオキソン(SUBOXONE
TM)は、ニュージャージー州ティタスビル(Titusville)のジャンセン, L.P.社の登録商標である。
【0104】
該アトリゲル薬物送達系は、液体として注入することのできる、生分解性のポリマー型送達系である。該処方物の注入に際して、該ポリマーは固化して、該薬物をカプセル化する。生分解過程が開始されると、該薬物が徐々に放出される。この型の送達系からの薬物の放出速度は、該ポリマーの型および分子量およびこれから構成される製品の薬物装入量によって調節することができる。従って、該系は、患者の要求を満たすように調製することができる。
【0105】
該アトリゲル送達系は、通常フード&ドラッグアドミニストレーション(Food and DrugAdministration)により承認された製品であるエリガード(ELIGARD
TM)(ロイプロリドアセテートの1、3および4-カ月用の皮下デポー剤処方物)およびアトリドックス(ATRIDOX
TM)(歯周ポケットに適用されるドキシサイクリンハイクレート)において使用されている。これら製品を用いた臨床研究および商品化後の実験は、該アトリゲル送達系自体が、十分に許容されるものであり、指定された投薬期間に渡り、配合された薬物の一貫した持続的放出をもたらすことを明らかにしている。
【0106】
これらの特徴は、特定の用途とは無関係に、即ち任意のブプレノルフィンに応答する疾患の改善に相当する。
特に述べない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用する、成分の量、諸特性、例えば分子量、反応条件等を表す全ての数値は、全ての例において、「約」なる用語により変更されるものと理解すべきである。従って、これに反する指示がない限り、明細書の以下の説明およびこれに添付された特許請求の範囲に示されている数値的パラメータは、達成すべき所望の諸特性に依存して変えることのできる近似値である。少なくともおよび特許請求の範囲に等価な原則の適用に限定する意図なしに、各数値的パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数値に照らして、また通常の丸め技術を適用することにより解釈すべきである。
本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは、近似値であるにも拘らず、特定の実施例において示される数値は、できる限り正確に報告されている。しかし、任意の数値は、必然的に各テスト測定値に見られる、標準偏差に起因する幾分かの誤差を、本来的に含む。
【0107】
テスト手順
ポリマー溶液の調製:
ポリマーの原液を、既知量の各ポリマー固体を、各20mL容量のシンチレーションバイアルビンに計取ることにより調製した。既知量のN-メチル-2-ピロリドンを、各ポリマーに添加し、またこれらのバイアルビンを、水平ジャーミル上に載せた。これらバイアルビンを、一夜(可能ならば数日間)回転させて、視覚的に透明なポリマー溶液を生成した。ここで、この透明な溶液の生成は、該ポリマーが溶解したことを示す。該ポリマー溶液の滅菌は、γ-線照射または電子ビーム照射により達成することができる。
【0108】
テスト物品としての注射器の調製
「B」注射器(雄型注射器)はブプレノルフィン粉末を含み、またこれは、容量3.00mLのベクトンディッキンソン(BD)雄型注射器内に、薬物粉末を計取ることにより調製した。「A」注射器(雌型注射器)は、容量1.0mLの雌型注射器に、アトリゲルポリマーの原液を計取ることにより調製した。
【0109】
注入用のテスト物品(復元された処方物)の調製
注入の直前に、前記「A」および「B」注射器を連結し、その内容物を、60サイクルに渡り、一方の注射器から他方の注射器へと循環させることにより混合した。該混合された処方物を、最終的に、注入用の前記雄型投薬注射器に移した。同様に、処方物を、アトリゲルポリマー原液にブプレノルフィンを溶解することにより調製することができる。この場合、ブプレノルフィンおよび選択されたアトリゲルを、シンチレーションバイアルビンに秤取り、このバイアルビンを、手短に振とうおよび/または加熱し、ブプレノルフィンを完全に溶解させた。この得られた薬物を含むアトリゲル溶液を、次に注入用の投薬注射器に充填した。
【0110】
ブプレノルフィンの定量のための逆相高速液体クロマトグラフィー法
この高速液体クロマトグラフィーは、以下のような条件下にある:移動相A:0.065%オクタンスルホン酸ナトリウムおよび0.1%トリフルオロ酢酸の水溶液;移動相B:90/10アセトニトリル/0.065%オクタンスルホン酸ナトリウムおよび0.1%トリフルオロ酢酸の水溶液;流量:1.0mL/分;オートサンプラー温度:室温;カラム温度:30℃;検出:285で走査(UV);全実験時間:21分;注入体積:20μL;カラム:フェノメネックスルナ(Phenomenex Luna) C18 250 x 4.6mm、5μm;カラム保存:70/30アセトニトリル/水;各サンプルは、以下の勾配プログラムに従って流された:
【0111】
【表1】
【0112】
ブプレノルフィンのおよその滞留時間:15.4分
標準溶液は、以下のようにして調製する:標準原液は、約10mgのブプレノルフィンを10mLの1:1処方物溶解溶液[90/5/5のアセトニトリル/氷酢酸/水]/H2O中に溶解することにより製造した。40ppm〜500ppmなる範囲の一連の標準液を、前記標準原液を水で希釈することにより調製した。
【0113】
インプラント復元研究のためのインプラント抜取り手順
新たに復元したインプラントを、外科用ブレードまたは鋏を用いて、該インプラントの回りの組織を注意してデブリードマンした。該インプラントを、その直後に分析し、後の時点まで-20℃のフリーザー内で保存した。この分析の時点において、正確に10mLの前記処方物溶解溶液[90/5/5のアセトニトリル/氷酢酸/水]を、該インプラントを含むバイアルビンに添加した。次いで、該バイアルビンを、少なくとも2時間に渡り、オービタルシェーカー上で、室温の下で約200rpmにて、振とう処理した。次いで、これらのバイアルビンを、2,500rpmにて10分間遠心分離処理した。この遠心分離処理後、該バイアルビンを、該遠心機から注意して取り出した。該バイアルビンの上澄みの一部を、HPLCバイアルビンに移し、必要な場合には、該バイアルビン中のこの移された溶液を、前記処方物溶解溶液を用いて、HPLC分析に適した濃度にまで希釈した。次に、これらのバイアルビンを、上記の如き高速液体クロマトグラフィー法によって、ブプレノルフィン含有率につき分析した。
【0114】
ラット血漿サンプルにおけるブプレノルフィン分析
この分析手順としては、Li-Heng Pao等, Journal of Chromatography B, 2000, 746:241-247に記載の方法を採用した。1mLまたは適当な量のラット血漿サンプルに、20μLの内部標準[RBP社により供給されたブプレノルフィン酸再配列製品、RX2001M]、1mLの0.5M重炭酸ナトリウム溶液、および3mLのn-ヘキサン-イソアミルアルコール(9:1 v/v)混合物を添加した。次いで、この溶液を、室温にて、少なくとも30分間に渡り、200rpmにて、シェーカー内で攪拌した。10分間3,000rpmにて遠心分離処理した後、該溶液を、-86℃のフリーザー中に30分間入れておいた。次いで、上部の有機相を清浄なチューブに移し、65℃にて、窒素ガス気流下で、蒸発乾固させた。このサンプルを、200μLの移動相中で復元し、その50μLのアリコートを前記カラムに注入した。
【0115】
前記梗塞液体クロマトグラフィーは、以下の条件下で行った:移動相:80/20アセトニトリル/5mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 3.75);流量:1.2mL/分;オートサンプラー温度:室温;カラム温度:25℃;検出:蛍光法(励起:215nm、発光:355nm);全実験時間:14分;注入体積:50μL;カラム:フェノメネックスルナ(Phenomenex Luna)(2) 250 x 4.6mm、5μm;カラム保存:100%アセトニトリル;ブプレノルフィンおよび内部標準に対するおよその滞留時間:7.9分および8.7分。
【0116】
イヌ血漿サンプル中の、ブプレノルフィンおよびノルブプレノルフィン分析
イヌの研究からの血漿サンプルを、ブプレノルフィンおよびノルブプレノルフィンに関して、契約を結んでいる分析サービス研究所を通して、LC-MS-MS法を用いて分析した。この方法は、該契約を結んでいる研究所によって開発され、また公認されている。これは、液-液抽出段階と、これに続くLC-MS-MS分析を利用する、専有権付きの方法であった。
【0117】
インビボ動物研究
実験的手順:全てのラットを用いた予備臨床的研究は、雄スプラーグ-ダウレイ(Sprague-Dawley)ラットにおいて行った。各時間点当たり、各テスト物品当たり5匹のラットに、胸部背面(DT)において、全身麻酔条件下で、筋肉内または皮下経路にて、上記のテスト物品約100mg注入した。
この研究中に、前記動物を、明らかな毒性について観察し、また赤み、出血、膨潤、排出物、傷、および該注入サイトにおけるテスト物品の押出し等を包含する、あらゆる存在するテストサイトの異常性を観察し、記録した。更に、注入質量を、テスト物品投与時点において記録し、また体重を、テスト物品投与時点およびテスト終了時点において記録した。研究のために、選択された時間点において、血液サンプルを採取する場合、各テスト物品当たり5匹のラットを麻酔し、心臓穿刺によって血液採取(約5mL)した。血液は、ラベルを貼ったカリウムエチレンジアミン四酢酸を含むチューブに集めた。この血液を10分間、3,000rpmにて遠心分離処理に掛けた。その血漿画分を、ラベルを貼った5mLのプラスチック製培養チューブに移し、また-86℃にて保存した。該血漿は上記の液-液抽出法を利用して分析した。
【0118】
血液採取後、または研究にとって血液サンプルが必要とされない場合には、該動物を二酸化炭素で殺し、前記インプラントを回収した。該インプラントは、過剰の組織をデブリードマンし、分析するまで-20℃にて保存した。該回収されたインプラントを、上記のインプラント分析法を用いて、ブプレノルフィン含有率につき分析した。
大動物における薬力学的研究を、雄ビーグル犬において行った。8〜12kgなる範囲の体重を持つ雄ビーグル犬を、これらの実験において選択した。1群当たり6匹の犬に、犬1頭当たり、60mgなるブプレノルフィン等価物の用量にて、胸部背面領域において、皮下経路で注入した。正確な注入用量は、各注入前後において該注入注射器を秤量することにより得た。注入後、これらのイヌから周期的に血液採取して、その血漿サンプルを集めた。全ての血漿サンプルを、分析するまで、-80℃にて保存した。これら動物を、あらゆる毒性の徴候および注入サイトの反応につき監視した。
前記イヌの血漿サンプルにおけるブプレノルフィンおよびノルブプレノルフィンのレベルを、上記の如く契約を交わした分析研究所を通して、公認のLC/MS/MSを利用して、測定した。
【0119】
実施例1:ラットにおけるブプレノルフィンアトリゲルの24時間のバースト放出
8種のブプレノルフィンアトリゲル処方物を、上記方法に従って調製した。ブプレノルフィン塩酸塩の処方物は、2-注射器構成を有し、また遊離塩基型のブプレノルフィン処方物は、溶液であった。これら8種の処方物は、以下のような組成を有していた:
実施例1のためのテスト物品:
1. 45%の50/50 PLGH(26kD)および55%のNMP中の、10%のブプレノルフィン塩酸塩;
2. 55%の65/35 PLGH(17kD)および45%のNMP中の、10%のブプレノルフィン塩酸塩;
3. 48%の55/45 PLG(22kD)、2%のPEG5000-70/30PLG(59kD)および50%のNMP中の、10%のブプレノルフィン塩酸塩;
4. 45%の50/50PLGH(26kD)および55%のNMP中の、10%の遊離塩基型ブプレノルフィン;
5. 50%の65/35PLGH(17kD)および50%のNMP中の、10%の遊離塩基型ブプレノルフィン;
6. 55%の65/35PLGH(17kD)および45%のNMP中の、10%の遊離塩基型ブプレノルフィン;
7. 50%の55/45 PLG(22kD)および50%のNMP中の、10%の遊離塩基型ブプレノルフィン;
8. 48%の55/45 PLG(22kD)、2%のPEG5000-70/30PLG(59kD)および50%のNMP中の、10%の遊離塩基型ブプレノルフィン
【0120】
24時間における、これらの初期放出(初期バースト)を、以下の表1に示す。全ての処方物は、10%未満の低い初期バーストを示した。
【0121】
【表2】
【0122】
実施例2:ラットにおけるブプレノルフィン塩酸塩アトリゲルからの49日間のブプレノルフィンの放出:
3種のブプレノルフィン塩酸塩アトリゲル処方物を、前記A/B 2-注射器構成を用いて調製した。これら処方物を、全体で135匹のオスSDラットに皮下経路で注入した。各時間点において、1群当たり5匹のラットを安楽死させて、そのインプラントを回収した。該時間点は、2時間、1日、7日、14日、21日、28日、35日、42日および49日であった。これら処方物およびブプレノルフィンの放出プロフィールを、表2にまとめ、また
図2に図示した。
実施例2のテスト物品:
1. 50%の50/50 PLGH(15kD)および50%のNMP中の、10%のブプレノルフィン塩酸塩;
2. 50%の65/35 PLGH(10kD)および50%のNMP中の、20%のブプレノルフィン塩酸塩;
3. 50%の65/35 PLGH(17kD)および50%のNMP中の、20%のブプレノルフィン塩酸塩
【0123】
【表3】
【0124】
実施例3:ラットにおける遊離塩基型ブプレノルフィンアトリゲルからの35日間のブプレノルフィンの放出およびその薬物動態学的プロフィール:
4種の遊離塩基型ブプレノルフィンアトリゲル処方物を、そのまま使用できる注射器内の溶液として調製した。これらを、全体で160匹のSDラットに皮下経路で注入した。各時間点において、1群当たり5匹のラットを麻酔し、その血液サンプルを、心臓穿刺により採取した。次いで、これらのラットを安楽死させ、そのインプラントを回収した。該回収したインプラントおよび血漿サンプル両者を、上記の如くして、ブプレノルフィンにつき分析した。結果を、
図3および
図4に図示した。
実施例3のテスト物品:
1. 45%の50/50 PLGH(26kD)および55%のNMP中の、15%の遊離塩基型ブプレノルフィン;
2. 40%の50/50 PLGH(17kD)および50%のNMP中の、20%の遊離塩基型ブプレノルフィン;
3. 20%の50/50 PLGH(26kD)、20%の50/50 PLGH(12kD)および60%のNMP中の、20%の遊離塩基型ブプレノルフィン;
4. 45%の50/50 PLGH(12kD)および55%のNMP中の、20%の遊離塩基型ブプレノルフィン
【0125】
【表4】
【0126】
【表5】
【0127】
実施例4:イヌにおける2種のブプレノルフィン塩酸塩アトリゲルの、薬物動態学的研究:
2種のブプレノルフィン塩酸塩アトリゲル処方物を、前記A/B 2-注射器構成を利用して調製した。これらを、全体で12頭のビーグル犬に、皮下経路で注入した。次いで、これらのイヌから、規則的な時間点において血液採取し、その血漿サンプルを集めた。これらの血漿サンプルは、契約を結んだ分析サービス社により、公認されたLC/MS/MS法を利用して分析された。
実施例4のためのテスト物品:
TA1: 50%の50/50 PLGH(12kD)および50%のNMP中の、20%のブプレノルフィン塩酸塩;
TA2: 50%の50/50 PLGH(21kD)および50%のNMP中の、20%のブプレノルフィン塩酸塩
【0128】
【表6】
【0129】
実施例5:イヌにおける4種の遊離塩基型ブプレノルフィンアトリゲルの薬物動態学的研究
4種の遊離塩基型ブプレノルフィンアトリゲル処方物を、そのまま使用できる注射器内の溶液として調製した。これらを、照射または滅菌濾過により無菌化した。これらを、全体で24頭の雄のビーグル犬に、皮下経路で注入した。次いで、これらのイヌから、規則的に各時間点において、血液採取し、その血漿サンプルを集めた。該血漿サンプルは、契約を結んだ分析サービス社により、公認されたLC/MS/MS法を利用して分析された。
実施例5のためのテスト物品:
TA1: 40%の50/50 PLGH(26kD)および60%のNMP中の、20%の遊離塩基型ブプレノルフィン;照射による滅菌処理;
TA2: 40%の50/50 PLGH(12kD)および60%のNMP中の、20%の遊離塩基型ブプレノルフィン;照射による滅菌処理;
TA3: 40%の50/50 PLGH(21kD)および60%のNMP中の、20%の遊離塩基型ブプレノルフィン;照射による滅菌処理;
TA4: 40%の50/50 PLGH(21kD)および60%のNMP中の、20%の遊離塩基型ブプレノルフィン;濾過による滅菌処理
【0130】
【表7】
【0131】
【表8】