【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本発明は、液晶ガラスのエッチング装置に用いる薬液の更新方法について、薬液を満たすエッチング液槽に、薬液の吐出用のノズルと吸引用のノズルを配置し、薬液中に上記のノズルを浸漬した状態で薬液の吐出、吸引を行ない、上記のノズルを用いた吐出、吸引を同時に行ない、均一な応力を薬液に加えることにより薬液の更新が促進されるように構成するという手段を講じたものである。
【0008】
本発明は、液晶ガラスのエッチングに関するものであり、使用される薬液は、主として、エッチング処理のためのエッチャント即ちエッチング液であり、或いはガラス成分とエッチング液との反応によって生成した、固形成分を洗浄するエッチング装置の洗浄処理のための洗浄液等である。
【0009】
エッチング装置は、装置のエッチング液槽の内部に液晶ガラスを搬入するコンベア、コンベア上の液晶ガラスに対してエッチング液を吐出するノズル、エッチング液を供給する配管及び各種弁装置などから成り、これらのエッチング液との接触部分は常に液に濡れている。その反面、稼働しない状態では流れなくなり、また、時にはエッチング液が抜かれるので、非稼動状態では上記の液成分が乾燥する。このように、エッチング液に濡れることと乾燥とが繰り返されると、その都度エッチング装置の表面に固形成分が層となって堆積することが繰り返され、その結果、エッチング液と接触する部分に固形成分が堆積し、エッチング液の流れを阻害することになり、精密なエッチング装置もその本来の性能が次第に発揮され難い傾向となる。このように、液晶ガラスのエッチングに用いるエッチング液が、エッチング装置に好ましくない影響を及ぼす原因を作るので、本発明における薬液に該当する。しかし、それと共に、エッチング液がもたらす固形成分を洗浄することも必須不可欠であるので、エッチング装置等を洗浄する洗浄液も本発明における薬液として非常に重要である。上記エッチング液、洗浄液等の薬液の更新を適正に実施することによって、精密なエッチング加工が保証され、かつまた、エッチング装置が洗浄により常に最適な状態に維持されるので、精密なエッチング加工を安定して実施することができる。
【0010】
また、本発明は、液晶ガラスのエッチング装置に用いる薬液の更新方法において、薬液の吐出及び吸引に使用するノズルについて、エッチング処理対象の液晶ガラス部品の全体に一時に薬液を吐出、吸引するために、液晶ガラス部品の長さ以上の長さを有するスリット状の開口部を備えているという構成を有する。ここで、本発明におけるノズルの意義について具体的に説明する。
図1において、11は本発明のノズル、12はエッチング液の液面、13は感光性材料により画像形成されたレジスト、14はそこに開けられた開口部、15は液晶ガラス、そして16は粘着シートから成る保護材であり、パターニング方法におけるセンサー駆動回路となる金属蒸着膜17を保護している。上記は液晶ガラス15の構造のほんの一例である。
図1に示すエッチングの開始時には、開口部14の幅Kに対して深さJ1が浅く、ノズル11からの吐出応力により開口部内のエッチング液を排出する十分な作用が得られるので、エッチング液排出の支障は事実上ないと考えて良い。
【0011】
これに対してエッチング反応が進行し、
図2に示したように、開口部14が深さJ2に増大すると、エッチング液がノズル11から開口底部に到達するまでの距離が増加するため、エッチング液から受ける排出方向の抵抗Rは増加する傾向になる。抵抗RはR=J/K(Jは、深さJ1又はJ2)で表される。よって、開口部14の内部では薬液(この場合はエッチング液)の更新効率が低下し、垂直方向のエッチング特性が低下する事態となり、その上小型ノズルでは反応生成物が付着、堆積した場合、その影響が顕著にあらわれる。
【0012】
そこで、
図2において、ノズル11から、吸引の応力をレジスト開口部14に作用させると、応力はJ2方向に作用するから、ノズル11と対応するレジスト開口部14との接触距離(長さ)をLとして、作用断面J2(深さ)×K(幅)を乗じた積:J2×K×Lの体積に相当する薬液が更新されることが分かる。薬液の更新により、同一系の液体中であれば、ノズル11に吸引された総体積分の薬液を同一時間内に、液槽の例えば底部に供給することができ、これによって、薬液更新が促進され、特に、垂直方向のエッチング特性が最適に維持される。
【0013】
本発明のノズル20は上記のようにして、エッチング処理に関連して生じる、好ましくない事態を改善するものであるが、エッチング処理ばかりではなくエッチング装置等に対する洗浄液の吐出にも有効であり、そのために、
図3に示したように、液晶ガラス部品22の全体に一時に薬液を吐出するために、液晶ガラス部品の長さN以上の長さMを有する、スリット状の開口部21を備えているものである。
図3は製品23を多数個取りする液晶ガラス部品22を示しており、1個1個の製品23の間はマージン(余白)である。なお、
図3は飽くまで概念を示しており、写実的にとらえるべきではない。
【0014】
ここで、液晶ガラス部品22の全体に一時に薬液を吐出することができるとすれば、液晶ガラス部品22の長さN以上の長さを有しなくても、例えば、上記長さよりは短いスリット状開口部を複数個繋ぐことでノズルを構成可能である。つまり、ノズルを2,3個程度に分割し、それらの合計で一時に薬液を吐出することも可能な範囲の事項と考えられる。しかし、複数個のノズルを組み合わせる場合、複数の液流の境界部分においてカルマン過が発生し、その影響が多少を問わずガラス部品に及ぶことを避けられない。このため、そうしなければならない事情があるか、又はそうすることにより大きな利点が得られる場合を除き、利益は少ないと思われる。このような事情ではあるが、1個のスリット状開口部ではなく、数個に分けたとしても本発明の要件を満たし得ることは、上記の説明から明らかであろう。
【0015】
図4は、本発明を適用する浸漬型エッチング装置の略図である(上記の
図1、
図2及び
図3は
図4の一部分と考えて良い)。同図中、液晶ガラス部品22はコンベア24によって移動しながら、装置のエッチング液槽25の中にて、エッチング液の吐出作用を受け、かつまた、吸引作用を受ける。26はエジェクター、27は吐出回路、28は吸引回路であり、それぞれ流量調整可能なバルブを有する。それらの回路27、28の管端には、前記のノズル11の機能を有するノズル27a、28aが液晶ガラス部品22を挟んで上下に設けられるとともに、吸引流体は均一な応力となるように、ポンプにより還流回路29を通じて液槽内に還流され、薬液の更新がなされる。
【0016】
本発明において液晶ガラスのエッチング装置に用いる薬液として、液晶ガラス部品、そのエッチング処理に用いた装置及び付属品類に付着しているガラス成分とエッチング液との反応によって生成した固形成分を洗浄するための洗浄液があることは、前述したとおりである。そしてこの洗浄液は、硝酸、過酸化水素、ハロゲン酸塩及びその酸性塩を必須成分として構成される。
【0017】
本発明の対象となる液晶ガラス部品には、これまでと共通の素材を使用することができる。一般的には、薄膜トランジスター(TFT)に用いられる白板ガラス、タッチパネルに用いられる青板ガラス(白板ガラスも用いられる。)などが該当するが、本発明は上記の硝材及び上記以外の各種硝材にも適用し得る。
【0018】
上記のような各種硝材から成る液晶ガラス部品に対するエッチャント即ち薬剤としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、酸性フッ化アンモニウム及び中性フッ化アンモニウム…等が一般的に用いられる。また、ガラス成分組成には、例えば、安定剤としてアルミニウムやカリウムの酸化物が存在する。このため、エッチング液と安定剤として添加されている成分との反応生成物を生じ、それが溶解度の低い疎水性塩として析出するという問題を生ずる。
【0019】
析出する物質は、例えば、ソーダ系の青板ガラスでは、Na
2O、K
2O、Ca
2O、MgO、Al
2O
3などがあり、白板ガラスでは、加えて、BaO・ZrOなどがある。これらの固形成分のカチオンとエッチング成分のF
−との反応によって、上記溶解度の低い疎水性塩(以下、単に「塩」と略称する)を生ずるのである。
【0020】
液晶製品が高精細化するにつれて、ガラスエッチングの製造に関与する装置、器具等の精度も要求されるようになり、高精度化した液中スリットノズルなども「塩」の影響を受け、現在のままでは精度を維持することが困難となる。このようにして、「塩」が液晶製品即ち液晶ガラス部品に残留した場合、製品の品質に悪影響を与えることとなるものである。
【0021】
そこで、本発明では、上記の「塩」を洗浄することが、もう一つの重要な要素となっている。本発明者の下で上記洗浄液の開発が進められ、試行錯誤の結果、洗浄液として、硝酸、過酸化水素、ハロゲン酸塩及びその酸性塩を主成分とするものが最適であることが突き止められた。本件発明者は硝酸、過酸化水素、ハロゲン酸又はその酸性塩は、それらの成分の組み合わせが最適の洗浄効果を生み出すというように認識しており、本発明は、一つにはこの組み合わせを発見したことに基づいて成立している。上記成分がどのように作用するのかについては、未だ解明されていない。なお、上記成分によって上記の「塩」を溶解する技術それ自体も未だ公知ではない。
【0022】
本発明における固形成分に対する洗浄液の組成としては、硝酸0.5〜3.0mol、過酸化水素0.2〜2.5mol、ハロゲン酸塩又はその酸性塩0.2〜7.0molを含有することが望ましい。なお、より好ましい数値は、硝酸0.5〜2.0mol、過酸化水素0.5〜2.0mol、ハロゲン酸塩及びその酸性塩0.5〜3.0molの範囲である。硝酸の場合の下限は0.5mol、過酸化水素の場合の下限は0.2molであり、これを下回ると酸化反応、洗浄反応が遅くなり過ぎる。また、硝酸の場合は3.0molを越えると硝酸分解反応が始まり、過酸化水素では2.5molを越えると急激な無効化分解反応が開始されるので好ましくない。ハロゲン酸塩又はその酸性塩については0.2molを下回るとキレート反応性が遅くなり、7.0molを越えて投入しても溶融しないので上記の範囲となる。本発明においては、このような洗浄液を用いて、エッチング後の液晶ガラス部品の洗浄とガラスエッチング製造に関与した装置、器具等を洗浄することで、高精細化しつつある液晶製品の品質向上に寄与することができる。
【0023】
また、本発明は液晶ガラスのエッチング装置において、薬液の吐出及び吸引に使用するためのノズルを提供する。このノズルは、エッチング処理対象である液晶ガラス部品の全体に一時に薬液を吐出するために、液晶ガラス部品の長さ以上の長さを有する、スリット状の開口部を備えており、かつ、上記薬液更新の促進のために、薬液を液中において吸引する吸引口を備えていることが望ましい。その理由は、一時に薬液の吐出、吸引を行うことで、複数の薬液の流れによる相互干渉を回避できること、吐出のみを行なって吸引を行わない場合には開口部14の壁面に過流を生じ薬液の円滑な流れが得られないが、吸引を行なうことによって、初めて、前記
図1、
図2の開口部14の長さ方向に沿う整流化した流れが得られ、エッチングによって形成された開口部側面の微細な凹凸を整形する作用が得られるという理由を挙げることができる。なお、上記流れとしては層流の場合も乱流の場合も考えられる。
【0024】
本発明の薬液用ノズルが、液晶ガラスのエッチング装置において生成された固形成分の洗浄液による洗浄法の実施に使用するのみならず、エッチング処理にも使用されることは勿論である。即ち、本発明における薬液には、エッチャント即ちエッチング液及び固形成分の含まれている洗浄液等が対象になる。そして、それらの処理作業のどちらにおいても、薬液更新の促進のために、本発明のノズルが用いられる。