(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、多層構造の接地電極は、スパークプラグの製造工程や検査工程等において接地電極に外力を加えた場合に、外層と内層とが剥離し、接地電極が損傷する場合がある。そのため、多層構造の接地電極において、外層と内層とが剥離することを抑制可能な技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、スパークプラグが提供される。このスパークプラグは、筒状の主体金具と;自身の外周の少なくとも一部が前記主体金具によって保持され、軸線に沿った軸孔を有する絶縁体と;前記軸孔に設けられた中心電極と;前記主体金具に固定された接地電極と;を備え、前記接地電極は、外層と、前記外層により覆われ、前記外層よりも熱伝導性の高い内層とを有し、前記接地電極の幅方向における前記内層の幅をL1、前記外層と前記内層との層間に存在する酸化物の前記幅方向に沿った寸法をL2としたときに、L1に対するL2の比L(=L2/L1)が、5%以上50%以下であることを特徴とする。このような形態のスパークプラグであれば、内層と外層との層間に存在する酸化物の量が抑制されているので、酸化物を起点として内層と外層とが剥離することを抑制することができる。
【0007】
(2)上記形態のスパークプラグにおいて、前記層間において、前記外層と前記内層とが拡散することによって形成された拡散層の厚みDが、6μm以上15μm以下でもよい。このような形態のスパークプラグによっても、内層と外層とが剥離することを抑制することができる。
【0008】
(3)上記形態のスパークプラグにおいて、前記外層は、ニッケルを主成分とし、アルミニウムを含む合金によって構成されており、前記外層における前記アルミニウムの含有量が、0質量%よりも多く、2.5質量%以下でもよい。このような形態のスパークプラグであれば、接地電極の耐熱性および耐酸化性を向上させることができる。
【0009】
(4)上記形態のスパークプラグにおいて、前記比Lが18%以下でもよい。このような形態のスパークプラグであれば、内層と外層とが剥離することをより効果的に抑制することができる。
【0010】
本発明は、上述したスパークプラグとしての形態以外にも、例えば、スパークプラグあるいはスパークプラグ用電極の製造方法など、種々の形態で実現することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.実施形態:
図1は、本発明の一実施形態におけるスパークプラグ100の部分断面図である。スパークプラグ100は、軸線Oに沿った細長形状を有している。
図1において、一点破線で示す軸線Oの右側は、外観正面図を示し、軸線Oの左側は、軸線Oを通る断面図を示している。以下の説明では、
図1の下側をスパークプラグ100の先端側と呼び、
図1の上側を後端側と呼ぶ。
【0013】
スパークプラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、主体金具50とを備える。絶縁体10は、自身の外周の少なくとも一部が筒状の主体金具50によって保持され、軸線Oに沿った軸孔12を有する。この軸孔12には、中心電極20が設けられている。接地電極30は、主体金具50の先端面57に固定され、中心電極20との間に放電ギャップを形成する。
【0014】
絶縁体10は、アルミナを始めとするセラミックス材料を焼成して形成された絶縁碍子である。絶縁体10は、先端側に中心電極20の一部を収容し、後端側に端子金具40の一部を収容する軸孔12が中心に形成された筒状の部材である。絶縁体10の軸方向中央には外径を大きくした中央胴部19が形成されている。中央胴部19よりも端子金具40側には、端子金具40と主体金具50との間を絶縁する後端側胴部18が形成されている。中央胴部19よりも中心電極20側には、後端側胴部18よりも外径が小さい先端側胴部17が形成され、先端側胴部17の更に先には、先端側胴部17よりも小さい外径であって中心電極20側へ向かうほど外径が小さくなる脚長部13が形成されている。
【0015】
主体金具50は、絶縁体10の後端側胴部18の一部から脚長部13に亘る部位を包囲して保持する円筒状の金具である。主体金具50は、例えば、低炭素鋼により形成され、全体にニッケルめっきや亜鉛めっき等のめっき処理が施されている。主体金具50は、後端側から順に、工具係合部51と、シール部54と、取付ネジ部52とを備える。工具係合部51は、スパークプラグ100をエンジンヘッドに取り付けるための工具が嵌合する。取付ネジ部52は、エンジンヘッドの取付ネジ孔に螺合するネジ山を有する。シール部54は、取付ネジ部52の根元に鍔状に形成されている。シール部54とエンジンヘッドとの間には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿される。主体金具50の先端面57は、中空の円状であり、その中央からは、絶縁体10の脚長部13と中心電極20とが突出する。
【0016】
主体金具50の工具係合部51より後端側には厚みの薄い加締部53が設けられている。また、シール部54と工具係合部51との間には、加締部53と同様に厚みの薄い圧縮変形部58が設けられている。工具係合部51から加締部53にかけての主体金具50の内周面と絶縁体10の後端側胴部18の外周面との間には、円環状のリング部材6,7が介在されており、さらに両リング部材6,7間にタルク(滑石)9の粉末が充填されている。スパークプラグ100の製造時には、加締部53を内側に折り曲げるようにして先端側に押圧することにより圧縮変形部58が圧縮変形し、この圧縮変形部58の圧縮変形により、リング部材6,7およびタルク9を介し、絶縁体10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。この押圧により、タルク9が軸線O方向に圧縮されて主体金具50内の気密性が高められる。
【0017】
主体金具50の内周においては、取付ネジ部52の位置に形成された金具内段部56に、環状の板パッキン8を介し、絶縁体10の脚長部13の基端に位置する碍子段部15が押圧されている。この板パッキン8は、主体金具50と絶縁体10との間の気密性を保持する部材であり、燃焼ガスの流出を防止する。
【0018】
中心電極20は、電極母材21の内部に、電極母材21よりも熱伝導性に優れる芯部材22が埋設された棒状の部材である。電極母材21は、ニッケルを主成分とするニッケル合金からなり、芯部材22は、銅または銅を主成分とする合金からなる。なお、主成分とは、その物体の成分中、最も質量%が多いことを意味しており、その比率が、50質量%を超えるとは限らない。
【0019】
中心電極20の後端部近傍には、外周側に張り出した形状の鍔部23が形成されている。鍔部23は、軸孔12に形成された軸孔内段部14に後端側から当接して、中心電極20を絶縁体10内で位置決めする。中心電極20の後端部は、セラミック抵抗3およびシール体4を介して端子金具40に電気的に接続される。
【0020】
接地電極30は、その基端が、主体金具50の先端面57に溶接されている。本実施形態では、接地電極30は、接地電極30の先端部分の一側面が中心電極20と対向するように、中間部分が屈曲されている。
【0021】
図2は、接地電極30の横断面図である。
図2には、
図1におけるA−A断面を示している。接地電極30は、外層31と、外層31により覆われ外層31よりも熱伝導性の高い内層32とを有している。より具体的には、本実施形態では、接地電極30は、ニッケルを主成分とし、アルミニウムを含むニッケル合金を外層31として、その内部に、銅や銅合金など、外層よりも熱伝導性の高い内層32を埋め込んだ多層構造を有している。外層31と内層32との層間には、接地電極30の製造時に外層31と内層32とが拡散することによって形成された拡散層33が存在している。
図2には、接地電極30の厚み方向TDと幅方向WDとを示している。厚み方向TDとは、接地電極30の中心軸Cに垂直な方向であって、中心電極20に近づく方向に沿った方向である。また、幅方向WDは、厚み方向TDおよび中心軸Cに垂直な方向である。
【0022】
本実施形態では、接地電極30の幅方向WDにおける内層32の幅をL1、外層31と内層32との層間に存在する酸化物34(Al酸化物)の幅方向WDに沿った寸法をL2としたときに、L1に対するL2の比L(=L2/L1)が、以下の式(1)に示すように、5%以上50%以下であることが好ましい。また、この比Lは、18%以下であることがより好ましい。以下では、「比L」のことを「酸化物比L」ともいう。酸化物比Lの測定方法は後述する。
【0024】
また、本実施形態では、拡散層33の厚み方向TDに沿った厚みDが、以下の式(2)に示すように、6μm以上15μm以下であることが好ましい。拡散層33の厚みDの測定方法は後述する。
【0026】
また、本実施形態では、外層31におけるアルミニウム(Al)の含有量が、以下の式(3)に示すように、0質量%よりも多く、2.5質量%以下であることが好ましい。
【0027】
0質量%<Al≦2.5質量% ・・・(3)
【0028】
B.製造方法:
図3は、接地電極30の製造方法を示す工程図である。本実施形態では、まず、内層32の材料として、一端側が凸状に形成された芯材32aを銅または銅合金によって形成し(工程P10)、更に、外層31の材料として、有底筒状のカップ材31aをニッケル合金によって形成する(工程P20)。カップ材31aのAl含有量は、上記式(3)に示すように、0質量%よりも多く、2.5質量%以下である。
【0029】
続いて、芯材32aとカップ材31aに対して焼き鈍しを行う(工程P30)。本実施形態では、芯材32aについては真空炉を用いて700℃以上で焼き鈍しを行い、カップ材31aについては真空炉を用いて900℃以上で焼き鈍しを行う。
【0030】
芯材32aおよびカップ材31aに対して焼き鈍しを行った後、カップ材31a内に芯材32aを挿入してこれらを組み合わせ、ワーク30aを生成する(工程P40)。ワーク30aの生成後、真空炉を用いて900℃以上で所定時間、ワーク30aに焼き鈍しを行う(工程P50)。この工程P50における焼き鈍しによって、ワーク30a内において芯材32aの銅とカップ材31aのニッケルとが拡散し、拡散層33の厚みDが、上記条件(2)を満たすように形成される。なお、拡散層33の厚みDは、焼き鈍しの温度や時間を適宜変更することで調整することが可能である。
【0031】
工程P50における焼き鈍し後、ワーク30aを押し出し成形することによって、ワーク30aの寸法を、接地電極30の寸法となるように成形する(工程P60)。そして、再度、真空炉を用いて900℃以上で焼き鈍しを行う(工程P70)。以上の工程によって、接地電極30は製造される。
【0032】
本実施形態では、上記工程P30、P50、P70におけるカップ材31aまたはワーク30aに対する焼き鈍し処理を、高真空域で行った。高真空域で焼き鈍しを行うことにより、外層31と内層32との層間に存在する酸化物の量を、上記式(1)に示した量に抑制することができる。
【0033】
以上で説明した本実施形態のスパークプラグ100によれば、接地電極30を構成する内層32と外層31との層間に存在する酸化物の量が抑制されているので、酸化物を起点として内層32と外層31とが剥離することを抑制することができる。そのため、スパークプラグ100の製造工程や検査工程等において、接地電極30に外力を加えた場合に、外層31と内層32とが剥離し、接地電極30が損傷することを抑制することができる。また、外層31には、Alが0質量%よりも多く、2.5質量%以下含まれているので、接地電極30の耐熱性および耐酸化性を向上させることができる。
【0034】
C.試験結果:
図4は、接地電極30に対する剥離試験および強度試験の試験結果を示す図である。これらの試験では、接地電極30を製造する際に、カップ材31aのAl含有量や焼き鈍しに用いる炉の真空度等の製造条件を変化させることによって酸化物比Lを様々に変化させた接地電極30のサンプルを複数準備した。以下では、同一の製造条件、つまり、同一のロットによって製造した複数のサンプルの酸化物比Lおよび拡散層の厚みDはそれぞれ同一であるものと見なしている。
【0035】
剥離試験では、棒状の接地電極30のサンプルの中央部分を90°屈曲させた後、そのサンプルの形状を直線状に戻し、その後、外観を目視で観察して、各サンプルに剥離が生じたか否かを確認した。外観の観察の結果、外層に亀裂が生じ、亀裂から内層が観察できる場合に、剥離が生じたと判断した。
図4には、剥離が生じたサンプルに対して「×」を付し、剥離が生じなかったサンプルに対して「○」を付した。この結果、
図7に示すように、酸化物比が60%以上のサンプルについては剥離が生じ、酸化物比が50%以下のサンプルについては剥離が生じなかった。なお、この剥離試験では、同一の酸化物比Lの5本のサンプルに対して剥離試験を行い、そのうちの1本でも、剥離が生じた場合に、試験結果として「×」を付した。
【0036】
強度試験では、棒状のサンプルを主体金具50に溶接した状態で、引張試験機(株式会社島津製作所 AG−5000B)により各サンプルの引張強度を測定した。その結果、酸化物比が0%、すなわち、酸化物が含まれていないサンプルと、酸化物比が77%のサンプルは、引張強度が400N/mm
2以下となり、最も強度が低かった。これに対して、酸化物比Lが20〜60%では、引張強度は、400〜500N/mm
2以下となり、酸化物比Lが5〜18%では、引張強度は最も高い500N/mm
2以上となった。従って、この強度試験によれば、酸化物比Lは、5%以上60%以下が好ましく、5%〜18%がより好ましいことが理解できる。なお、この強度試験で求めた引張強度は、同一の酸化物比Lの5本のサンプルの平均値である。
【0037】
以上で説明した剥離試験および強度試験の結果、剥離の有無、および、強度の観点から、酸化物比Lは、上記式(1)に示したように、5%以上50%以下が好ましく、また、18%以下がより好ましいことが確認された。
【0038】
図4には、各サンプルについて、拡散層の厚みDを測定した結果も示している。
図4によれば、酸化物比Lが大きいほど、拡散層の厚みDが小さくなることが理解できる。これは、内層32と外層31との層間に酸化物が多く存在すると、内層32と外層31の接合時において両者の拡散が妨げられるためである。
図4によれば、剥離の有無、および、強度の観点から、拡散層の厚みDは、上記式(2)に示したように、6μm以上15μm以下が好ましいことが理解できる。
【0039】
D.測定方法:
図5および
図6は、酸化物比Lの測定方法を説明するための図である。上記試験では、酸化物比Lを次のように測定した。まず、接地電極30の任意の横断面(上記試験では、接地電極30の基端から5mmの部分の横断面)の内層32と外層31との境界付近の領域AR(
図2)をSEM(走査型電子顕微鏡:日本電子株式会社製 JSM−6490LA)によって観察し、接地電極30内における内層32の幅L1を画像解析によって求める。領域ARは、接地電極30の内側面側(軸線Oに近い側)、および、外側面側(軸線Oから遠い側)のどちらでもよい。
【0040】
続いて、領域ARのEPMA(電子線マイクロアナライザ)およびSEMの観察画面において、Al酸化物が存在する部分、すなわち、AlとOとが両方存在する部分を抽出し、抽出された部分の幅方向WDに沿った寸法L2を算出する。このとき、Al酸化物が
図5に示すように層状に連続していれば、その距離を測定し、
図6に示すように点在していれば、各点の幅方向WDに沿った寸法を合計する。また、層状の部分と点在している部分とが存在する場合には、両方の合計を求める。こうして求めた値が、幅方向WDに沿った酸化物の寸法L2となる。以上の方法により、L1とL2とが算出されるので、L2/L1を求めることにより、酸化物比Lが算出される。なお、酸化物は、層状に連続して存在するよりも、点在している方が、剥離および強度の点において有利である。
【0041】
図7は、拡散層の厚みDの測定方法を説明するための図である。上記試験では、領域ARをSEMおよびEPMAによって観察し、銅(Cu)の存在する領域とニッケル(Ni)の存在する領域とを判別する。そして、CuとNiとが両方とも存在する領域を拡散層として特定し、その領域の厚み方向TDに沿った距離を、複数箇所(上記試験では、幅L1を4等分する5つの位置のうちの内側の3つの位置)で測定し、その平均を算出することによって、拡散層の厚みDとする。
【0042】
E.変形例:
<第1変形例>
図8は、第1変形例における接地電極30bの横断面図である。本変形例では、接地電極30bは、内層32bの内部に、更にニッケルまたはニッケル合金によって構成された最内層35bを有する。この場合、最も外側の外層31bと、外層31bよりも1つ内側の内層32bとの層間における酸化物比Lと拡散層の厚みDとが、上記式(1)、(2)を満たしていればよい。
【0043】
<第2変形例>
上記実施形態において、拡散層33の厚みDは、上記式(2)を必ずしも満たしていなくてもよい。また、外層31のAl含有量も、上記式(3)を必ずしも満たしていなくてもよい。
【0044】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態や変形例の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【解決手段】スパークプラグは、筒状の主体金具と、自身の外周の少なくとも一部が主体金具によって保持され、軸線に沿った軸孔を有する絶縁体と、軸孔に設けられた中心電極と、主体金具に固定された接地電極と、を備える。接地電極は、外層と、外層により覆われ、外層よりも熱伝導性の高い内層とを有し、接地電極の幅方向における内層の幅をL1、外層と内層との層間に存在する酸化物の幅方向に沿った寸法をL2としたときに、L1に対するL2の比L(=L2/L1)が、5%以上50%以下である。