(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
軸受鋼や浸炭鋼等の鉄系金属を研削(以下、研磨、超仕上げ研磨及びラッピング等も含む概念として使用する)した際に生じる切粉は、水分及び油分を含有する研削液や砥粒等を含む綿状(繊維状)凝集体として回収されている。この綿状凝集体は、多量の純鉄を含むことからこれを製鋼原料として再利用することが試みられている。しかし、この綿状凝集体は多量の水分を含有していることから、この綿状凝集体を溶鉱炉にそのまま投入すると、当該水分によって突沸(水蒸気爆発)が生じるという問題を引き起こす。
したがって、従来、上記綿状凝集体は再利用されることなく廃棄物処理業者に委託して埋め立て処分されることが多かった。
【0003】
これに対して、例えば、特許文献1には、粉状の純鉄と油分とを含む乾燥したブリケットであって、鉄系金属の研削切粉と油分及び水分を含有する研削液とを含む綿状凝集体を圧縮成形して得られる余剰の水分及び油分を除去し純鉄の酸化防止用の油分を1〜5重量%保持した脆性成形体を、無機質の固形化補助剤を含浸させて固形化した製鋼原料用のブリケットが記載されている。
特許文献1に記載された技術によれば、綿状凝集体を高品質の製鋼原料として再利用することができるため、環境保全に役立つとともに、研削切粉の廃棄コストを削減することができる。
【0004】
ところで、上記綿状凝集体の圧縮成形は、例えば、
図3に示される圧縮成形機を用いて行われる。
図3は綿状凝集体の圧縮成形に用いることができる圧縮成形機の説明図であり、この圧縮成形機21は、円筒状の圧縮部22と、この圧縮部22の一端側において当該圧縮部22の一端側開口を開閉し得るように配設されたゲート部23と、上記圧縮部22の他端側に配設され、そのプッシャー軸24aが上記圧縮部22のチャンバー22a内を摺動し得るように構成された油圧シリンダー24とを備えている。そして、上記圧縮部22の周壁に形成された開口(図示せず)を介して当該圧縮部22のチャンバー22a内に供給された綿状凝集体25は、プッシャー軸24aを前進駆動させることにより圧縮成形することができる。その際、綿状凝集体に含まれる余分な水分及び油分は、上記ゲート部23に形成された液体排出路26(この液体排出路は、ゲート部23付近の圧縮部22周壁に形成されることもある)より外部に排出される。これにより、余分の水分及び油分が除去されて所定割合の油分及び水分を含有した脆性成形体が得られる。
【0005】
しかしながら、上記綿状凝集体の中には、切削液として、油性切削液や油分の多い切削液を使用していたため、含油率が高くベタベタとした触感でゲル状(泥状も含む)を呈するものがあり、このような性状の綿状凝集体は、上述したような圧縮成形機では圧縮成形することが困難であった。すなわち、上述した性状の綿状凝集体では、研削液の油分と研削切粉との結びつきが非常に強く、圧縮時に研削液だけを絞り出すことができず、圧縮成形すると上記液体排出路から綿状凝集体自体が噴出し、圧縮成形することができなかった。このため、含油率が高い上述した性状の綿状凝集体については、専門の業者に委託してリサイクル処理せざるを得なかった。
【0006】
これに対して、特許文献2では、圧縮成形可能な鉄系金属の研削切粉を含む鉄系粉末材料として、鉄系金属の研削切粉と油分及び水分を含有する研削油とからなる泥状体と、生石灰及び水とを攪拌混合してなる鉄系粉末材料を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示された手法によれば、鉄系金属の研削切粉と油分及び水分を含有する研削油とからなる泥状を呈する綿状凝集体(泥状体)であっても圧縮成形することができ、製鋼原料用ブリケットを製造することができる。しかしながら、特許文献2に開示された手法で製造された製鋼原料用ブリケットは、脆性成形体に固形化補助剤を含浸させる処理を経たとしても、充分な強度を確保することができないことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意検討を行い、特許文献2に開示された手法で作製されたブリケットの強度が不充分になる原因が、成形体を作製した後、成形体中に残っていた未反応の生石灰が水と反応し、この反応の際に生じる体積膨張にあることを突き止めた。更に、生石灰として所定の粒子径の生石灰を使用することにより、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
(1)本発明の成形用組成物の製造方法は、鉄系金属の研削切粉を含有する成形用組成物の製造方法であって、上記鉄系金属の研削切粉と、油分及び水分を含有する切削液とを含む綿状凝集体に、平均粒子径が1mm以下の生石灰を混合することを特徴とする。
【0011】
上記成形用組成物の製造方法によれば、特定の平均粒子径の生石灰を、鉄系金属の研削切粉と油分及び水分を含有する研削油とを含む綿状凝集体に混合した際に、生石灰と水とが反応して水酸化カルシウム(消石灰)を生成するとともに大量の熱を発生する。この熱により、混合物の温度が上昇して綿状凝集体に含まれる水分の多くが蒸発するとともに、油分の多くが、生成された消石灰に包囲される。そのため、上記綿状凝集体が、含油率が高く、ベタベタとした触感の綿状凝集体であっても、上記綿状凝集体は上記生石灰と水との反応が進行するにつれて粘度が低くサラサラとした触感の粉末状の組成物に変化し、従来の圧縮成形機による圧縮成形が可能な成形用組成物となる。
そのため、この成形用組成物を圧縮成形することにより、上記鉄系金属の研削切粉を含有する成形体を作製することができる。
【0012】
また、上記成形用組成物の製造方法において、上記綿状凝集体と上記生石灰とを混合した場合、上述したように水と生石灰とが反応し、消石灰を生成する。このとき、反応物の体積は、約2倍に膨張する。そのため、綿状凝集体と生石灰とを混合して成形用組成物を製造した際に、成形用組成物内に未反応の生石灰が残っていると、この成形用組成物を用いて製造した成形体において、上記未反応の生石灰が大気中の水分等と反応して上述した体積膨張が生じ、その結果、成形体の強度が低下することがある。
これに対して、本発明の成形用組成物の製造方法では、生石灰として、平均粒子径が1mm以下の生石灰を使用している。そのため、上記綿状凝集体と上記生石灰とを混合した際に、上記生石灰と上記綿状凝集体に含まれる水との反応が確実に進行し、製造した成形用組成物中に未反応の生石灰が残ることを抑制することができる。そのため、上記成形用組成物を用いて成形体を作製した際に、成形体中に未反応の生石灰が含まれることがなく、成形体中に残った未反応の生石灰の存在に起因する成形体の強度低下を回避することができる。
【0013】
(2)上記成形用組成物の製造方法において、上記生石灰は、目開き1mmの篩によってふるい分けされた生石灰であることが好ましい。
すなわち、上記生石灰は、目開き1mmの篩を通過するサイズの生石灰であることが好ましい。
この場合、粒子径1mmより大きい生石灰が存在することをより確実に回避することができる。そのため、製造した成形用組成物中に未反応の生石灰が残ることをより確実に回避することができ、上記成形用組成物は、優れた強度を有する成形体を製造するための成形用組成物としてより適している。
【0014】
(3)上記成形用組成物の製造方法では、上記綿状凝集体に、上記生石灰に加えて更に水を混合することが好ましい。
この場合、生石灰と水との反応がより確実に進行し、成形用組成物中に未反応の生石灰が残ることをより確実に回避することができる。そのため、上記成形用組成物は、優れた強度を有する成形体を製造するための成形用組成物として好適である。
このような水の混合は、出発材料の綿状凝集体として、含油率の高く、相対的に含水率が低い切削油を含む綿状凝集体を用いる際に特に有用である。
【0015】
(4)本発明のブリケットの製造方法は、上記(1)〜(3)のいずれかの製造方法で製造された成形用組成物を圧縮成形してブリケットを製造する方法であって、
(a)上記成形用組成物に固形化補助剤を混合した後、得られた混合物を圧縮成形してブリケット前駆体Aを作製し、その後、上記ブリケット前駆体Aを乾燥するか、又は、
(b)上記成形用組成物を圧縮成形してブリケット前駆体Bを作製した後、上記ブリケット前駆体Bに固形化補助剤を含浸させ、その後、上記ブリケット前駆体Bを乾燥する、
工程を経ることを特徴とする。
【0016】
上記ブリケットの製造方法では、成形用組成物として上記(1)〜(3)のいずれかの製造方法で製造された成形用組成物を用いているため、出発材料がベタベタとした触感の綿状凝集体であっても、圧縮成形によりブリケットを製造することができる。
更に、上記ブリケットの製造方法では、上記成形用組成物に固形化補助剤を混合した後、得られた混合物を圧縮成形するか、又は、上記成形用組成物を圧縮成形した後、得られた成形体に固形化補助剤を含浸させるため、固形化補助剤によってブリケットが補強されることとなり、その結果、強度に優れたブリケットを製造することができる。
得られたブリケットは、製鋼原料として好適に用いることができる。
【0017】
(5)上記ブリケットの製造方法において、上記固形化補助剤は、コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、燐酸アルミニウム及びアスファルト乳剤から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
これらの固形化補助剤は、ブリケットに強度を付与するのに適しており、これらの固形化補助剤を使用することにより、より高強度のブリケットを製造することができる。
【0018】
(6)上記ブリケットの製造方法において、上記成形用組成物はセメント成分を含み、上記固形化補助剤は珪酸ソーダであることが好ましい。
この場合、セメント成分が固形化補助剤(珪酸ソーダ)の硬化剤として機能するため、製造したブリケットの強度をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の成形用組成物の製造方法によれば、そのまま圧縮成形によって成形することが困難な綿状凝集体であっても圧縮成形により成形可能な成形用組成物とすることができる。
本発明のブリケットの製造方法によれば、圧縮成形を経て、強度に優れたブリケットを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
下記の実施形態では、鉄系金属の研削切粉と、油分及び水分を含有する切削液を含む綿状凝集体を出発材料とする。
【0022】
上記綿状凝集体は、軸受鋼や浸炭鋼等の鉄系金属を研削した際に生じる研削切粉を、水分及び油分を含有する研削液や砥粒等とともに回収したものである。上記綿状凝集体は、組成によって性状が異なり、その含油率が高くなるに伴って、粘度が高くなり、ベタベタとした触感が増加し、ゲル状を呈するようになる。そして、上記綿状凝集体は、含油率が高くなるに伴って、そのまま圧縮成形によって成形体を作製することが困難になる。具体的には、含油率が5重量%を超えた辺りから、そのまま圧縮成形によって成形体を作製することが困難になりはじめ、含油率が12重量%を超えると、そのまま圧縮成形によって成形体を作製することはほぼできなくなる。
上記綿状凝集体の含油率は、上記綿状凝集体に含まれる切削液の組成に依存しやすく、油系の切削液を含む綿状凝集体では含油率が高く、そのまま圧縮成形することが困難になりやすい。一方、切削液として水系の切削液を含む綿状凝集体は、含油率が低い傾向にあり(概ね1〜5重量%程度)、このような綿状凝集体は、ベタベタとした触感が乏しく、通常、そのまま圧縮成形によって成形体を作製することができる。
本発明の実施形態によれば、綿状凝集体が含油率の高いものであっても低いものであっても実施することができるが、上記したように含油率の低い綿状凝集体はそのまま圧縮成形することができるため、本発明の実施形態は、含油率の高い綿状凝集体を出発材料として、圧縮成形によって成形体を作製するのに特に適している。
【0023】
(第1実施形態)
ここでは、鉄系金属の研削切粉と、油分及び水分を含有する切削液を含み、ベタベタとした触感で、ゲル状を呈する綿状凝集体Lを出発材料として、圧縮成形可能な成形用組成物を作製し(成形用組成物の製造方法)、その後、得られた成形用組成物を用いてブリケットを作製する(ブリケットの製造方法)、一連の工程を工程順に説明する。
【0024】
(1)綿状凝集体Lに、生石灰を含む改質剤Mを添加し、撹拌して両者を混合し、混合物Nとする(
図1(a)参照)。
この処理では、生石灰と綿状凝集体L中の切削液に含まれる水分とが反応する生石灰の消化吸水反応(生石灰自体の水和反応:下記式(1)参照)が進行し、消石灰が生成する。
CaO + H
2O → Ca(OH)
2 + 熱
この反応では、反応時に発生する熱による水分の蒸発と生じるともに、生成した消石灰によって、研削液に含まれる油分が包囲される。そのため、ベタベタとした触感でのゲル状を呈する綿状凝集体Lは、サラサラとした触感を呈するようになる。
なお、上記消化吸収反応では、体積膨張が生じる。
【0025】
上記生石灰は、平均粒子径が1mm以下である。
上記生石灰の平均粒子径が1mmを超えると、上述した生石灰と水分との反応が充分に進行せず、成形用組成物を製造した際に、未反応の生石灰が中心部に残留した粉末が生じてしまうことがある。そのため、得られた成形用組成物を圧縮成形して成形体を作製すると、成形体中の未反応の生石灰が大気中の水分や、後述する固形化補助剤に含まれる水分と反応し、これにより成形体の体積膨張が生じ、その結果、成形体の強度低下を引き起こされることがある。
これに対して、上記生石灰の平均粒子径が1mm以下であると、綿状凝集体Lとの混合により、上述した生石灰の消化吸水反応が確実に進行し、未反応の生石灰が残留することが抑制され、得られた成形用組成物を圧縮成形して作製した成形体において、上述した体積膨張による強度低下が発生することを回避することができる。
上記生石灰の平均粒子径は1mm未満が好ましい。
【0026】
上記生石灰の平均粒子径の下限は特に限定されず、小さくても構わないが、小さすぎると取り扱いが困難となったり、凝集しやすくなったりすることから、0.1mm程度が好ましい。
【0027】
上記生石灰の平均粒子径の測定は、ふるい分け法により行えば良い。
すなわち、目開きの異なる複数の篩を目開きの小さいものから順に数段重ね合わせた後、振動を与えて生石灰をふるい分け、その後、それぞれの篩に残った生石灰の質量を計測し、グラフに累積分布を記載して平均粒子径を求めればよい。
このとき、篩としては、JIS Z 8801に準拠したものを用いればよい。
【0028】
上記生石灰は、目開き1mmの篩によってふるい分けされた生石灰であることがより好ましい。目開き1mmの篩を通過した生石灰のみを使用することにより、粒径が1mmを超える生石灰の混入を確実に回避することができるからである。
上記生石灰は、目開き0.1mmの篩と、目開き1.0mmの篩とによってふるい分けされた生石灰、すなわち、目開き1.0mmの篩を通過し、目開き0.1mmの篩を通過しなかった生石灰であることが更に好ましい。
【0029】
上記生石灰の配合量は、上記綿状凝集体L100gに対して10〜30gが目安である。
上記生石灰の配合量が少ないと、綿状凝集体の含油率が高い場合には、得られた成形用組成物の成形性が不充分になることがある。一方、生石灰の配合量は、多くすればするほど、得られた成形用組成物の成形性が向上するわけではなく、生石灰の配合量が多すぎると後述する工程を経て製造されたブリケットにおいて、鉄系金属の含有率が相対的に低下し、製鋼原料用ブリケットとしての価値が低下することとなる。
【0030】
上記改質剤Mは、生石灰のみからなるものであってもよいし、生石灰以外の他の成分を含んでいてもよい。
上記他の成分としては、例えば、セメント成分やアルミニウム粉末等が挙げられる。
【0031】
上記セメント成分としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)及び酸化鉄(III)(Fe
2O
3)を主要化学成分とするクリンカーと、石膏とを含有する、所謂ポライドセメント等が挙げられる。
上記セメント成分は、珪酸ソーダ(水ガラス)の硬化剤として機能することができるため、後の工程において、固形化補助剤として珪酸ソーダ(水ガラス)を用いた場合には、固形化補助剤の硬化を促進し、より強度に優れたブリケットを製造することができる。
上記セメント成分を使用する場合、その使用量は、生石灰100gに対し、概ね25gが目安である(生石灰の20〜30重量%が好ましい)。
【0032】
上記改質剤Mが生石灰とセメント成分とを含有する場合、上記改質剤Mとしては、土質改良等を目的に市販されている市販品、例えば、ドライム(吉沢石灰工業社製)、グリーンライムLC−E(宇部マテリアルズ社製)、ユースタビラーL(宇部興産社製)、ロックマイティC、ロックマイティS(秩父石灰工業社製)等を使用することもできる。
但し、これらの市販品では、粉末の粒径が大きい場合があり、その場合は、市販品を粉砕し、粉末の平均粒子径を1.0mm以下としてから使用する。
【0033】
上記アルミニウム粉末を添加すると、アルミニウム粉末と水との反応が発熱反応であるため、綿状凝集体Lと改質剤Mとを混合した際の発熱量を大きくすることができる。その結果、綿状凝集体Lをより短時間でサラサラとした触感の混合物とすることができる。
上記アルミニウム粉末を使用する場合、その使用量は、生石灰100gに対し、概ね15gが目安である(生石灰の12〜18重量%が好ましい)。
【0034】
(2)次に、上記綿状凝集体Lと上記改質剤Mとを混合して得た混合物Nに、更に水を混合し、成形用組成物Cを調製する(
図1(b)参照)。
上述した生石灰の消化吸水反応では、反応物の体積が約2倍に膨張する。そのため、この生石灰の消化吸水反応が、後述する成形用組成物Cを圧縮成形する際や圧縮成形して成形体を得た後に進行すると、成形用組成物Cを成形することができなかったり、作製した成形体の強度が低下したり、場合によっては、作製した成形体が崩壊したりすることがある。
これに対して、混合物Nに更に水を混合することにより、上述した生石灰の消化吸水反応をより確実に完了させることができる。
また、上記改質剤Mがアルミニウム粉末を含む場合は、本工程で水を混合することにより、より発熱しやすくなる。
本工程で、生石灰の消化吸水反応を完了は、水を混合した後、温度を測定し、発熱が低下したこと(成形用組成物Cの温度が低下したこと)によって確認することができる。また、水を混合した後、一定時間(例えば、24時間)、養生してもよい。
【0035】
本工程における水の添加量は特に限定されず、綿状凝集体Lにもともと含まれる水分量や、改質剤Mの添加量などを考慮して適宜選定すればよい。
具体的には、例えば、綿状凝集体Lにもともと含まれる水分量と本工程で添加する水の量との総和が、改質剤M中の生石灰量に対して、1.3〜3.0倍程度(重量基準)となるような水の添加量とするのが目安である。
なお、綿状凝集体Lにもともと充分量の水分が含まれている場合には、本工程は必ずしも行わなくてもよい。
上述した工程(1)、及び、必要に応じて行う工程(2)を経ることにより、サラサラとした触感の成形用組成物Cを製造することができる。
【0036】
(3)上記(1)及び(2)を経て調製した成形用組成物Cに固形化補助剤Dを混合した後(
図1(c)参照)、得られた混合物を成型型3に投入し、例えば油圧プレスで圧縮成形してブリケット前駆体Aを作製する(
図1(d)及び(e)参照)。
【0037】
ここで、固形化補助剤Dとしては、例えば、コロイダルシリカ、珪酸ソーダ(水ガラス)、燐酸アルミニウム、アスファルト乳剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
これらのなかでは、珪酸ソーダ(水ガラス)が好ましい。
特に、上記改質剤Mとしてセメント成分を含有する改質剤Mを用いる場合には、固形化補助剤として珪酸ソーダ(水ガラス)を用いることが好ましい。製造するブリケットの強度を向上させるのに特に適しているからである。
上記固形化補助剤Dは、液状に調製しておくことが好ましい。
【0038】
本工程における固形化補助剤Dの添加量は特に限定されず、成形用組成物Cの組成を考慮して適宜選定すればよいが、例えば、成形用組成物C100gに対して、7〜15g程度(重量基準)とするのが目安である。
【0039】
ブリケット前駆体Aの形状は特に限定されず、例えば、円柱状(
図1(e)参照)に成形すればよい。また、円柱状以外にも、例えば、球形状、角柱状、ピロー形状など他の形状に成形してもよい。
【0040】
(4)最後に、ブリケット前駆体Aを乾燥し、製鋼原料用ブリケットXを完成する(
図1(f)及び(g)参照)。
このとき、ブリケット前駆体Aの乾燥は、自然乾燥であってもよいし、加熱乾燥であってもよい。
本工程では、ブリケット前駆体Aを乾燥させることにより、固形化補助剤Dの硬化(固化)が進行し、ブリケットXに高い強度が付与される。
【0041】
本実施形態では、生石灰を含む改質剤Mを綿状凝集体Lと混合した後、圧縮成形するため、綿状凝集体Lが研削液として油性の切削液や油分の多い切削液を含有する場合であっても所望の形状に成形することができる。
また、改質剤Mに含まれる生石灰として、平均粒子径が1mm以下と粒径の小さい生石灰を使用するため、成形用組成物中に未反応を生石灰が残留することを抑制することができ、その結果、上記成形用組成物を圧縮成形して作製したブリケット前駆体が膨張し、その強度が低下することを回避することができる。よって、本実施形態によれば、強度に優れたブリケットを製造することができる。
【0042】
また、本実施形態に係るブリケットの製造方法は、後述する第2実施形態のブリケットの製造方法と異なり、成形用組成物を用いて一旦脆性成形体を作製することなく、成形用材料中に予め固形化補助剤Dを混合しておき、成形されたブリケット前駆体Aをそのまま乾燥させているため、第2実施形態に比べて工程数を削減することができる。
【0043】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、工程(3)において、成形用組成物Cに固形化補助剤Dを混合した後、得られた混合物を圧縮成形してブリケット前駆体Aを作製していたが、本実施形態では、固形化補助剤の使用と圧縮成形の順序が逆である。
すなわち、成形用組成物Cを圧縮成形してブリケット前駆体Bを作製した後、ブリケット前駆体Bに液状の固形化補助剤Dを含浸させ、その後、上記ブリケット前駆体Bを乾燥してブリケットYを作製する(
図2参照)。
【0044】
以下、本実施形態に係る製造方法について工程順に説明する。
(1)第1実施形態の(1)及び(2)の工程と同様、綿状凝集体Lと改質剤Mとを混合して得た混合物Nに、更に水を混合して成形用組成物Cを調製する(
図2(a)、(b)参照)。ここで、改質剤Mとしては、第1実施形態と同様、平均粒子径が1.0mm以下の生石灰を必須成分とし、更に、任意成分としてセメント成分やアルミニウム粉末を含有するものを用いる。
【0045】
(2)次に、成形用組成物Cを成形型3に投入し、例えば油圧プレスで圧縮成形してブリケット前駆体Bを作製する(
図2(c)、(d)参照)。
ブリケット前駆体Bの形状は特に限定されず、例えば、円柱状(
図2(c)参照)に成形すればよい。また、円柱状以外にも、例えば、球形状、角柱状、ピロー形状など他の形状に成形してもよい。
この場合、成形用組成物が固形化補助剤を含有していないため、ブリケット前駆体Bは多孔質の脆性成形体として作製される。
【0046】
(3)ブリケット前駆体Bに、液状の固形化補助剤Dを含浸させる(
図2(e)参照)。
この固形化補助剤Dの含浸は、例えば、ブリケット前駆体Bをコンベアベルト7にて搬送しながら、タンク8に注入した固形化補助剤Dに浸漬させることにより行う。
ここでは、ブリケット前駆体Bが多孔質体であるため、固形化補助剤Dがブリケット前駆体Bの内部に含浸する。
固形化補助剤Dは、液状に調製してあれば、第1実施形態で使用する固形化補助剤と同様のものを用いることができる。
【0047】
(4)最後に、固形化補助剤Dを含浸させたブリケット前駆体Bを乾燥し、ブリケットYを完成する(
図2(f)、(g)参照)。
ここで、ブリケット前駆体Bの乾燥は、自然乾燥であってもよいし、加熱乾燥であってもよい。
本工程では、ブリケット前駆体Bを乾燥させることにより、固形化補助剤Dの硬化(固化)が進行し、ブリケットYに高い強度が付与される。
【0048】
本実施形態では、生石灰を含む改質剤Mを綿状凝集体Lと混合した後、圧縮成形するため、綿状凝集体Lが研削液として油性の切削液や油分の多い切削液を使用する場合であっても所望の形状に成形することができる。
また、改質剤Mに含まれる生石灰として、平均粒子径が1mm以下と小さい生石灰を使用するため、成形用組成物中に未反応を生石灰が残留することを抑制することができ、その結果、上記成形用組成物を圧縮成形して作製したブリケット前駆体が膨張し、その強度が低下することを回避することができる。よって、本実施形態によれば、強度に優れたブリケットを製造することができる。
【0049】
(第3実施形態)
既に説明した第1及び第2実施形態では、綿状凝集体Lと生石灰を含む改質剤Mとを混合した後、必要に応じて、更に水を混合しているが、成形用組成物Cの製造に際して、水を混合する場合には、綿状凝集体Lに改質剤Mと水とを同時に添加した後、これらの撹拌混合を行って成形用組成物Cを製造してもよい。
この場合も、第1及び第2実施形態と同様の効果を享受することができ、サラサラとした触感の成形用組成物を製造することができる。
【0050】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態では、軸受鋼や浸炭鋼等の鉄系金属を研削した際に生じる研削切粉を、水分及び油分を含有する研削液や砥粒等とともに回収して入手した綿状凝集体に対して、上記改質剤と混合する前に、上記綿状凝集体に脱油処理を施して切削液の一部を回収してもよい。
これにより、綿状凝集体に含まれる高価な油系の研削液を再利用することができるため、環境にやさしく、かつ、コスト低減にもつながる。
【0051】
上記脱油処理は、例えば、上記綿状凝集体を、油吸着性を有する吸着シートで挟み込んで、圧縮すること等により行えばよい。
本発明の実施形態において、上記綿状凝集体(特に、含油率の高い綿状凝集体)は、含油率及び含水率を上記改質剤と混合する前に上記脱油処理等により調製しておくことが好ましく、例えば、含油率を7〜30重量%、含水率を10〜40重量%に調製しておくことが好ましい。
これにより、本発明の実施形態に係るブリケットの製造方法において、ブリケットを製造するのにより適した出発材料となる。
【0052】
上記脱油処理は、例えば、綿状凝集体Lをベルトコンベアにて搬送しながら一対のロール間に挟み込む方法、単なるエアー吹き付けやエアー圧縮により行う方法、または、マグネット式のセパレータを用いる方法等で行ってもよい。
【0053】
上述した実施形態は、既に説明した通り、含油率が高く、そのまま圧縮成形によって成形体を作製することが困難な綿状凝集体を出発材料として成形用組成物及びブリケットを製造するのに適した手法である。一方、本発明の実施形態に係るブリケットの製造方法では、含油率が低く(1〜5重量%程度)、圧縮成形によって成形体を作製することが可能な綿状凝集体(以下、低含油率綿状凝集体ともいう)を成形用原料として、含油率が高く、そのまま圧縮成形によって成形体を作製することが困難な綿状凝集体と併せて使用してもよい。
【0054】
具体的には、上述した第1〜第3実施形態における成形用組成物を製造する工程を経て、含油率が高く、そのまま圧縮成形によって成形体を作製することが困難な綿状凝集体Lを出発材料として、圧縮成形により成形可能な成形用組成物Cを調製した後、この成形用組成物Cと、上記低含油率綿状凝集体とを任意の比率で混合し、得られた混合物を成形用組成物として、第1実施形態の(3)及び(4)の工程や、第2実施形態の(2)〜(4)の工程等を行うことによりブリケットを製造してもよい。
この場合、得られたブリケットは鉄系金属の占める割合が高くなり、製鋼原料用ブリケットとしての価値が高くなる。
【0055】
(ブリケット)
本発明の実施形態で製造された鉄系金属を含有するブリケットは、高い強度を有しており、運搬その他の取り扱いが容易である。そのため、製鋼原料用ブリケットとして好適である。
また、上記ブリケットは、研削液の油分の一部を加工中を含めて常に保持しているので、研削切粉の成分である純鉄の酸化が効果的に防止されている。また、研削液の油分の一部を常に保持した状態でブリケットを製造しているので、純鉄の酸化が効果的に防止されている。
したがって、上記ブリケットは、高品質の製鋼原料として製鋼メーカに有償で提供することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
(1)下記の工程で排出された綿状凝集体50gに、下記に方法によって調製した生石灰12g及び水10ccを投入し、充分に撹拌混合した後、24時間室温で放置した。
24時間放置後、混合物はサラサラとして触感の混合物に変化していた。
[生石灰の調製]
適度なサイズに粉砕しておいた生石灰に対して、目開き1.0mm(10メッシュ)の篩と、目開き0.1mm(149メッシュ)の篩とを備えた振動篩にてふるい分けを行い、粒径0.1〜1.0mmの生石灰を調整した。
【0058】
なお、本実施例で使用した綿状凝集体は、軸受の研削の工程で排出されたものであり、鉄系金属の切削切粉と切削液とを含むベタベタとした触感の綿状凝集体である。上記綿状凝集体(50g)は、鉄分(22g)、油分(15g)、水分(10g)及びその他(3g)を含有する。
【0059】
(2)次に、24時間放置後の混合物に、更に、水ガラス(珪酸ソーダ3号:JIS K 1408に準拠)5ccを水10ccで希釈した溶液(総量15cc)を添加し、充分に混合した。
その後、獲られた混合物を内径4.2cmのパイプ内に投入し、外径4.0cmの円筒状の圧縮用部材(円筒コロ)を用いて、7.3kg/1cm
2の条件で圧縮成形し、底面の直径約4.2cm、高さ約2.4cmの円柱形状のブリケットを作製した。
【0060】
(実施例2)
実施例1の(1)の工程において、生石灰12gに代えて、生石灰とセメント成分とを含む改質剤としてドライム(吉沢石灰工業社製、生石灰を約80重量%、及び、セメント成分を約20重量%含有する)15gを使用した以外は、実施例1と同様にしてブリケットを作製した。得られたブリケットは、底面の直径約4.2cm、高さ約2.4cmの円柱形状のブリケットである。
本実施例において、改質剤(ドライム)は、適度なサイズに粉砕しておいたドライムに対して、目開き1.0mm(10メッシュ)の篩と、目開き0.1mm(149メッシュ)の篩とを備えた振動篩にてふるい分けを行い、その粒径を0.1〜1.0mmに調製した後、使用した。
【0061】
(比較例1)
実施例1の(1)の工程において、生石灰として、下記に方法によって調製した生石灰を使用した以外は、実施例1と同様にしてブリケットを作製した。得られたブリケットは、底面の直径約4.2cm、高さ約2.4cmの円柱形状のブリケットである。
[生石灰の調製]
適度なサイズに粉砕しておいた生石灰に対して、目開き3.35mm(5.5メッシュ)の篩と、目開き1.0mm(10メッシュ)の篩とを備えた振動篩にてふるい分けを行い、粒径1.0〜3.35mmの生石灰を調整した。
【0062】
実施例1、2及び比較例1で作製したブリケットを、2mの高さから、タイル製の床に自然落下させ、落下後の形状を目視観察した。なお、各ブリケットは2回落下させた(但し、1回目の落下で大きく破損した場合で、そこで評価を終了した。)。
結果は下記の通りである。なお、落下後の形状を
図4〜6に示した。
【0063】
実施例1:2回の落下試験を経た後の観察で、角部の一部に小さな破損が認められた(
図4参照)。
実施例2:2回の落下試験を経た後の観察で、角部にわずかな欠けが観察されたものの、ほぼ破損した部位は無かった(
図5参照)。
比較例1:2回目の落下試験において、完全に割れてしまった(
図6参照)。なお、比較例1では、破損物内に未反応の生石灰(白色の粉末)が観察された。
【0064】
実施例及び比較例の結果から明らかな通り、本発明の実施形態に係る成形用組成物の製造方法によれば、含油率が高く、そのまま圧縮成形によって成形することが困難な綿状凝集体を圧縮成形により成形可能な成形用組成物とすることができ、本発明の実施形態に係るブリケットの製造方法によれば、高い強度を備えたブリケットを製造することができる。
【解決手段】 鉄系金属の研削切粉を含有する成形用組成物の製造方法であって、前記鉄系金属の研削切粉と、油分及び水分を含有する切削液とを含む綿状凝集体に、平均粒子径が1mm以下の生石灰を混合することを特徴とする成形用組成物の製造方法。