(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記錫めっき鋼板は、前記鋼板と、前記鋼板上に形成された錫合金層と、前記錫合金層上に形成された錫めっき層と、からなり、前記錫合金層と前記錫めっき層の合計の錫量が1.0g/m2以上の錫めっき層とからなる請求項1〜8の何れか一項に記載の表面処理鋼板。
前記リン酸化合物層形成工程において、前記錫めっき鋼板上に、陰極電解処理を行った後に、前記陽極電解処理を行うことにより前記リン酸化合物層を形成する請求項12に記載の表面処理鋼板の製造方法。
前記アルミニウム酸素化合物層形成工程において、前記電解処理液として、リン酸の含有量がリン量で0.55g/L以下である処理液を用いる請求項12又は13に記載の表面処理鋼板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る表面処理鋼板1の構成を示す断面図である。本実施形態の表面処理鋼板1は、まず、鋼板11上に錫めっき層12を形成してなる錫めっき鋼板10に対して、リン酸イオンを含む電解処理液中で電解処理を施すことにより、錫めっき鋼板10上に、錫めっき層12の一部を溶解させながらリン酸化合物層20を形成し、次いで、Alイオンを含む電解処理液中でさらに電解処理を行うことで、リン酸化合物層20上に、リン酸化合物層20の一部を溶解させながらアルミニウム酸素化合物層30を形成して得られる。
【0016】
本実施形態の表面処理鋼板1は、特に限定されないが、たとえば缶容器や缶蓋などの部材として用いることができる。表面処理鋼板1を缶容器や缶蓋などの部材として用いる場合には、表面処理鋼板1をそのまま用いて(表面に被覆層を形成しない無塗装用途で用いて)、無塗装の缶容器や缶蓋として成形してもよいし、
図1に示すように表面処理鋼板1のアルミニウム酸素化合物層30上に有機材料からなる被覆層を形成してから缶容器や缶蓋などに成形してもよい。
【0017】
<錫めっき鋼板10>
本発明の表面処理鋼板1の基材となる錫めっき鋼板10は、鋼板11に対して錫めっきを施し、鋼板11上に錫めっき層12を形成することにより得られる。
【0018】
錫めっきを施すための鋼板11としては、絞り加工性、絞りしごき加工性、絞り加工と曲げ戻し加工による加工(DTR)の加工性に優れているものであればよく、特に限定されないが、たとえば、アルミキルド鋼連鋳材などをベースとした熱延鋼板や、これらの熱延鋼板を冷間圧延した冷延鋼板などを用いることができる。あるいは、錫めっきを施すための鋼板11としては、上述した鋼板上にニッケルめっき層を形成し、これを加熱して熱拡散させ、鋼板とニッケルめっき層との間にニッケル−鉄合金層を形成することにより耐食性を向上させたニッケルめっき鋼板を用いてもよい。またニッケルめっき層を粒状に形成すると、アンカー効果により被覆層の密着性を高めることができる。
【0019】
鋼板11に錫めっきを施す方法としては、特に限定されず、公知のめっき浴であるフェロスタン浴、ハロゲン浴、硫酸浴などを用いた方法が挙げられる。ニッケルめっきを施す方法も特に限定されず、硫酸ニッケルと塩化ニッケルからなる公知のワット浴を用いることができるが、ニッケルめっき層を粒状に形成する場合は硫酸ニッケルと硫酸アンモニウムからなる浴組成を用いるのが好ましい。さらに、本実施形態では、このように錫めっきを施すことで得られた錫めっき鋼板10について、錫の溶融温度以上に加熱した後に急冷する処理(リフロー処理)を施すことにより、鋼板11と錫めっき層12との間に錫−鉄合金層を形成させてもよい。本実施形態では、このリフロー処理を施すことにより、得られる錫めっき鋼板10は、鋼板11上に、錫−鉄合金層と、錫めっき層12とがこの順で形成されたものとなり、耐食性が向上する。なお下地にニッケルめっき層が存在する場合は、このリフロー処理により、鋼板11と錫めっき層12との間に、錫−ニッケル、錫−ニッケル−鉄の合金も形成されうる。
【0020】
本実施形態では、以上のようにして得られる錫めっき鋼板10は、通常、表面が酸素により酸化され、表面にSnO
x(x=1〜3)からなる酸化膜層が形成される。このSnO
xからなる酸化膜層は、膜量が多すぎると錫めっき鋼板10上に形成するリン酸化合物層20の密着性が低下する傾向がある一方で、膜量が少なすぎると錫めっき鋼板10が硫化黒変し易くなってしまう傾向があるため、適度な膜量に調整することが望ましい。そのため、本実施形態では、錫めっき鋼板10に対して、表面の酸化膜層の一部又は全部を除去して酸化膜層の膜量を調整する処理を行ってもよい。たとえば、錫めっき鋼板10に対して、炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩アルカリ水溶液を用いて、電流密度0.5〜20A/dm
2、通電時間0.1〜1.0秒の条件で陰極電解処理及び陽極電解処理の少なくとも一方を行うことで、錫めっき鋼板10の表面の酸化膜層を除去する処理を行ってもよい。また、酸化膜層の除去は塩酸などの酸性水溶液を用いて行っても良い。この際には、錫めっき鋼板10を酸性水溶液に浸漬させる時間は、好ましくは2秒以下である。錫めっき鋼板10を酸性水溶液に浸漬させる時間を上記範囲とすることにより、錫めっき層12の金属錫部分の溶解を抑制しながら、SnO
xからなる酸化膜層を効率的に除去できる。
【0021】
鋼板11上に形成する錫めっき層12の厚みは、特に限定されず、製造する表面処理鋼板1の使用用途に応じて適宜選択すればよいが、錫量で、好ましくは1.0g/m
2以上、より好ましくは1.0〜15g/m
2である。ニッケルめっき層を設ける場合もニッケルめっき層の厚みは特に限定されず、ニッケルめっき層の厚みは、ニッケル量で、好ましくは0.01〜15g/m
2である。ニッケルめっきを粒状とする場合、粒状のニッケルの平均粒子径は0.01〜0.7μmが好ましい。
【0022】
錫めっき鋼板10の総厚は、特に限定されず、製造する表面処理鋼板1の使用用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは0.07〜0.4mmである。
【0023】
<リン酸化合物層20>
リン酸化合物層20は、リン酸錫を含有する層であり、上述した錫めっき鋼板10を、リン酸イオンを含む電解処理液に浸漬させ、錫めっき鋼板10を陽極とした陽極電解処理を施すことにより形成される。
【0024】
本実施形態では、リン酸イオンを含む電解処理液に浸漬させた錫めっき鋼板10を、陽極側にして電流を流すことで、
図2における左の図に示すように、錫めっき鋼板10から錫が溶解して2価の錫イオン(Sn
2+)が発生する。
【0025】
なお、
図2は、錫めっき鋼板10上に、リン酸化合物層20及びアルミニウム酸素化合物層30が形成される様子を示した概念図である。
図2における左の図では、錫めっき鋼板10の錫めっき層12に対して、リン酸イオンを含む電解処理液を用いた陽極電解処理を施す様子を示した。また、
図2における中央の図では、リン酸化合物層20として形成されたSn
3(PO
4)
2に対して、アルミニウム酸素化合物層30を形成するための陰極電解処理を施す様子を示した。
図2における右の図では、錫めっき鋼板10上に、リン酸化合物層20としてのSn
3(PO
4)
2及びAlPO
4、並びにアルミニウム酸素化合物層30としてのAlPO
4並びにAl
2O
3・nH
2O及びAl(OH)
3が形成された様子を示す図である。なお、本実施形態では、AlPO
4は、リン酸化合物層20及びアルミニウム酸素化合物層30のいずれにも含有される。
【0026】
本実施形態では、
図2に示すように、錫めっき鋼板10から発生した錫イオンSn
2+は、電解処理液中のリン酸イオンPO
43−と反応して、Sn
3(PO
4)
2等のリン酸錫として錫めっき鋼板10上に析出する。また、錫めっき鋼板10から発生した錫イオンSn
2+は、酸化錫(SnO
x)としても錫めっき鋼板10上に析出する。
【0027】
なお、水溶液中のリン酸は、水溶液のpHに応じて、第一リン酸イオン(H
2PO
4−)、第二リン酸イオン(HPO
42−)及び第三リン酸イオン(PO
43−)の電離平衡が変化することが知られており、水溶液のpHが低いほど電離平衡が第一リン酸イオンH
2PO
4−の存在率が多くなる方に傾き、一方、水溶液のpHが高いほど電離平衡が第三リン酸イオンPO
43−の存在率が多くなる方に傾く。本実施形態では、錫めっき鋼板10を、リン酸イオンを含む電解処理液にて陽極電解処理する際において、
図2の左の図に示すように、錫めっき層12の表面で水の電気分解が発生して水素イオン(H
+)が生成されることでpHが低下するため、電解処理液中における電離平衡が第一リン酸イオンの存在率が多くなる方に傾き、この第一リン酸イオンが錫イオンと反応することで、Sn
3(PO
4)
2等のリン酸錫が形成されると考えられる。このようにして得られたリン酸錫は、後述するように、電解処理によりアルミニウム酸素化合物層30を形成する際に、一部が溶解して、リン酸アルミニウムを形成する。
【0028】
本実施形態では、リン酸化合物層20を形成する際には、上述した陽極電解処理を行う前に、錫めっき鋼板10に対して、リン酸イオンを含む電解処理液を用いた陰極電解処理を行ってもよい。これにより、陰極電解処理により錫めっき鋼板10の表面に形成されている酸化膜層が適度に除去され、その後、陽極電解処理により錫めっき鋼板10の錫めっき層12が溶解しやすくなることで、リン酸化合物層20の形成が容易になる。なお、この陰極電解処理を行う場合には、錫めっき鋼板10を電解処理液に浸漬させて陰極電解処理を行った後、錫めっき鋼板10を電解処理液に浸漬させたまま、陽極、陰極の極性を通電制御回路において逆に設定して、上述した陽極電解処理を行うことが好ましい。これにより、陰極電解処理及び陽極電解処理を行う際において、溶液の管理が容易になるとともに、作業効率が向上する。
【0029】
本実施形態では、上述した陽極電解処理によりリン酸錫を含有するリン酸化合物層20を形成することで、得られる表面処理鋼板1は、耐硫化黒変性に優れものとなる。さらに、本実施形態では、上述した陽極電解処理によりリン酸錫を含有するリン酸化合物層20を形成することで、表面処理鋼板1の表面に有機材料からなる被覆層40を形成した場合に、被覆層40の密着性が優れたものとなる。すなわち、表面処理鋼板1上に、直接アルミニウム酸素化合物層30を形成した場合には、焼付け塗装等により被覆層40を形成すると、焼付けの熱により表面処理鋼板1の錫めっき層12を覆う酸化膜層が成長し、この酸化膜層から、アルミニウム酸素化合物層30及び被覆層40が剥離してしまうことがある。これに対し、上述したリン酸化合物層20を形成することで、被覆層40を形成する際における、錫めっき層12を覆う酸化膜層の成長を抑制でき、その結果、表面処理鋼板1の表面に形成する被覆層40の密着性を向上させることができる。
【0030】
さらに、本実施形態では、上述したように陽極電解処理によりリン酸化合物層20を形成することで、リン酸化合物層20上に、良好なアルミニウム酸素化合物層30が形成されることになる。すなわち、本発明者等は、錫めっき鋼板10に陽極電解処理を施すことで、上述したように、第一リン酸イオンが錫イオンと反応してリン酸錫が形成され、これにより、この第一リン酸イオンによって形成されるリン酸錫の化学結合状態や表面形態が、後述するアルミニウム酸素化合物層30を電解処理により形成する際に用いる電解処理液に溶解し易いものとなるとの知見を得た。そして、このような知見に基づき、本発明者等は、アルミニウム酸素化合物層30を電解処理により形成する際に、電解処理液中において、リン酸化合物層20のリン酸錫が溶解することで生成されたリン酸イオンにより、アルミニウム酸素化合物層30として、酸やアルカリに対して難溶なリン酸塩が析出することを見出し、形成されるアルミニウム酸素化合物層30の耐食性を向上させることが可能となった。これにより、得られる表面処理鋼板1は、表面に有機材料を主成分とする被覆層40を形成しない場合でも、十分な耐食性を有するものとなり、被覆層40を形成しない無塗装用途の金属容器としても好適に用いることができる。
【0031】
なお、本実施形態の表面処理鋼板1では、上述したように、錫めっき鋼板10の錫めっき層12の一部が溶解してリン酸化合物層20が形成され、このリン酸化合物層20の一部が溶解してアルミニウム酸素化合物層30が形成されるため、錫めっき層12と、リン酸化合物層20と、アルミニウム酸素化合物層30とが、それぞれの境界付近で混ざり合うようにして構成されている。たとえば、本実施形態では、リン酸化合物層20及びアルミニウム酸素化合物層30のいずれにも、リン酸錫及びリン酸アルミニウムが含有される場合もある。
図8は本発明の実施例で得られた表面処理鋼板のリン酸化合物層20及びアルミニウム酸素化合物層30の断面写真および各点におけるエネルギー分散型X線分析(EDS)による定量分析の結果である。上述の通り、リン酸化合物層20とアルミニウム酸素化合物層30の境界は明確でなく、またリン酸化合物層20及びアルミニウム酸素化合物層30のいずれにも、リン酸錫及びリン酸アルミニウムが含有される場合もあることが確認された。
【0032】
リン酸化合物層20を形成するための電解処理液には、電解処理液中にリン酸イオンを生成するための化合物として、リン酸(H
3PO
4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH
2PO
4)、リン酸水素二ナトリウム(Na
2HPO
4)、亜リン酸(H
3PO
3)などを用いることができる。これらのリン酸及びリン酸塩類は単独あるいはそれぞれを混合して用いてもよく、その中でも、リン酸とリン酸二水素ナトリウムとの混合物が、リン酸化合物層20としてリン酸錫を良好に析出させることができ、好適である。
【0033】
電解処理液中のリン酸イオンの濃度は、特に限定されないが、リン量で、好ましくは5〜200g/Lである。電解処理液中のリン酸イオンの濃度を上記範囲とすることにより、錫めっき鋼板10上に、良好にリン酸錫を析出させることができる。
【0034】
電解処理液のpHは、特に限定されないが、好ましくは1〜7である。pH1未満とすると、形成させたリン酸錫が溶解してしまう傾向にある。一方、pH7超とすると、錫めっき鋼板10の表面の酸化膜層の溶解が不十分となり、酸化膜層が多く残存している部分にはリン酸化合物層20が形成され難いことから、錫めっき鋼板10上に均質なリン酸化合物層20を形成できなくなるおそれがある。
【0035】
上述した陽極電解処理又は陰極電解処理を行う際における電流密度は、特に限定されないが、好ましくは1〜30A/dm
2である。電流密度を上記範囲とすることにより、錫めっき鋼板10上に良好にリン酸化合物層20を形成することができる。
【0036】
また、錫めっき鋼板10に陽極電解処理又は陰極電解処理を施す際には、錫めっき鋼板10に対して設置する対極板としては、電解処理を実施している間に電解処理液に溶解しないものであれば何でもよいが、電解処理液に溶解し難いという点より、酸化イリジウムで被覆されたチタン板、又は白金で被覆されたチタン板が好ましい。
【0037】
陽極電解処理又は陰極電解処理を行う際の通電時間としては、特に限定されないが、好ましくは0.15〜3.0秒であり、より好ましくは0.15〜1.0秒である。上述したように陰極電解処理の後に陽極電解処理を行う場合には、陰極電解処理の通電時間と、陽極電解処理の通電時間とを同程度にすることが好ましい。陽極電解処理あるいは陰極電解処理の後に陽極電解を行う際の通電時間と通電停止のサイクル数は1〜10回が好ましく、リン酸化合物層20におけるリン含有量が適切なものとなるように通電時間とともに調整すればよい。リン酸化合物層20中のリンの適切な含有量としては、好ましくは0.5〜20mg/m
2、さらに好ましくは0.5〜5.0mg/m
2、特に好ましくは0.9〜4.0mg/m
2である。
【0038】
<アルミニウム酸素化合物層30>
本実施形態では、リン酸化合物層20を形成した錫めっき鋼板10について、適宜水洗を行った後、Alイオンを含む電解処理液中で電解処理を行うことで、リン酸化合物層20上にアルミニウム酸素化合物を析出させてアルミニウム酸素化合物層30を形成する。電解処理の方法としては、陽極電解処理及び陰極電解処理のいずれでもよいが、良好にアルミニウム酸素化合物層30を形成できるという観点より、陰極電解処理が好ましい。
【0039】
アルミニウム酸素化合物層30を形成するための電解処理液中のAlイオンの含有量は、形成しようとするアルミニウム酸素化合物層30の皮膜量に応じて適宜選択することができるが、Al原子の質量濃度で、好ましくは0.5〜10g/l、より好ましくは1〜5g/lである。電解処理液中のAlイオンの含有量を上記範囲とすることにより、電解処理液の安定性を向上させるとともに、アルミニウム酸素化合物の析出効率を向上させることができる。
【0040】
本実施形態では、アルミニウム酸素化合物層30の形成に用いる電解処理液には硝酸イオンを添加してもよい。電解処理液に硝酸イオンを添加する場合には、電解処理液における硝酸イオンの含有量は、好ましくは11,500〜25,000重量ppmである。硝酸イオンの含有量を上記範囲とすることにより、電解処理液の導電率を適切な範囲に調整することができる。
【0041】
また、アルミニウム酸素化合物層30の形成に用いる電解処理液には、Fイオンが含まれていないことが好ましい。アルミニウム酸素化合物層30の形成に用いる電解処理液について、Fイオンを含まないようにすることにより、粒径が小さく緻密なアルミニウム酸素化合物層30を形成することができ、得られる表面処理鋼板1を耐硫化黒変性に優れたものとすることができる。Fイオンが電解処理液中に含まれていると、SnF
2を形成し、これがアルミニウム酸素化合物層30にとりこまれてしまい、耐硫化黒変性および耐食性を低下させてしまう。
【0042】
なお、上記電解処理液は、実質的にFイオンが含まれていないものであればよく、不純物量程度であればFイオンを含んでいてもよい。すなわち、F原子は工業用水中等にもわずかに含まれるものであるため、電解処理液にこのようなF原子に由来するFイオンが混入することがある。この際には、電解処理液中のFイオンとしては、金属と錯イオンを形成しているFイオンや、遊離しているFイオンなどが存在し、これらのFイオンの合計量が、好ましくは50重量ppm以下、より好ましくは20ppm以下、さらに好ましくは5ppm以下であれば、電解処理液に含まれるFイオンの量は不純物量程度であり、電解処理液には実質的にFイオンが含まれていないと判断できる。
【0043】
なお、本発明においては、電解処理液中のFイオン及び硝酸イオンの含有量を測定する方法としては、たとえば、イオンクロマトグラフィーにより定量分析することで測定する方法が挙げられる。
【0044】
また、アルミニウム酸素化合物層30を形成するための電解処理液には、有機酸(クエン酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸など)や、ポリアクリル酸、ポリイタコン酸、フェノール樹脂などのうち、少なくとも1種以上の添加物が添加されていてもよい。本実施形態では、電解処理液にこれらの添加物を単独又は組み合わせて適宜添加することにより、形成されるアルミニウム酸素化合物層30に有機材料を含有させることができ、これにより、アルミニウム酸素化合物層30上に形成する被覆層40の密着性を向上させることができる。
【0045】
また、アルミニウム酸素化合物層30を形成するための電解処理液については、リン酸イオンの含有量を調整することが望ましく、電解処理液におけるリン酸イオンの含有量は、リン量で、好ましくは0.55g/L以下、より好ましくは0.33g/L以下、さらに好ましくは0.11g/Lである。
【0046】
すなわち、本実施形態では、電解処理によりアルミニウム酸素化合物層30を形成する際には、アルミニウム酸素化合物層30の形成に用いる電解処理液中に、リン酸化合物層20からリン酸錫等が溶解し、リン酸イオンが発生することとなる。そして、発生したリン酸イオンの量が多すぎると、リン酸イオンがAlイオンと結合してリン酸アルミニウムとして電解処理液中に沈殿することとなり、これにより、電解処理液において、アルミニウム酸素化合物層30の形成に用いるAlイオンの量が減少してしまい、アルミニウム酸素化合物層30の形成効率が低下する。また、電解処理液中にリン酸アルミニウムが沈殿することで、形成されるアルミニウム酸素化合物層30は不均一となって斑紋が発生し、品質上は問題ないものの、外観品質が低下する傾向にある。
【0047】
これに対し、アルミニウム酸素化合物層30を形成するための電解処理液におけるリン酸イオンの含有量を上記範囲とすることで、形成されるアルミニウム酸素化合物層30が均一なものとなり、得られる表面処理鋼板1の外観品質が向上する。
【0048】
電解処理によりアルミニウム酸素化合物層30を形成する際には、通電と通電停止のサイクルを繰り返す断続電解方式を用いることが好ましく、この際においては、基材に対するトータルの通電時間(通電及び通電停止のサイクルを複数回繰り返した際の合計の通電時間)は、好ましくは1.5秒以下、より好ましくは1秒以下である。通電と通電停止のサイクル数は1〜10回が好ましく、アルミニウム酸素化合物層30中のアルミニウム含有量が適切なものとなるように通電時間とともに調整すればよい。アルミニウム酸素化合物層30中のアルミニウムの適切な含有量としては、好ましくは3〜40mg/m
2、より好ましくは5〜30mg/m
2、特に好ましくは6〜23mg/m
2である。
【0049】
また、アルミニウム酸素化合物層30を形成する際には、基材に対して設置する対極板としては、電解処理を実施している間に電解処理液に溶解しないものであれば何でもよいが、酸素過電圧が小さく電解処理液に溶解し難いという点より、酸化イリジウムで被覆されたチタン板、又は白金で被覆されたチタン板が好ましい。
【0050】
以上のようにして形成されるアルミニウム酸素化合物層30は、主に酸化アルミニウム等により構成されるが、水酸化アルミニウム、リン酸塩も含まれる。なお、リン酸塩としては、たとえば、リン酸アルミニウムや、リン酸を含む酸素化合物(Al(PO
4)
yO
zなど)が挙げられ、このリン酸塩は、以下のようにしてアルミニウム酸素化合物層30として析出する。すなわち、本実施形態では、上述したように、リン酸化合物層20を形成した錫めっき鋼板10に対して、Alイオンを含む電解処理液により電解処理を行うと、リン酸化合物層20を構成するリン酸錫の一部が溶解し、これにより発生したリン酸イオンにより、リン酸アルミニウムや、リン酸を含む酸素化合物などのリン酸塩が析出する。また、アルミニウム酸素化合物層30の形成においては、リン酸化合物層20の溶解あるいは、リン酸化合物が被覆されていない錫めっきが露出した部分の溶解により、電解処理液中に錫イオンSn
2+が生じるため、リン酸錫以外に一部酸化錫(SnO
x)が、アルミニウム酸素化合物層30中に含まれると考えられる。本実施形態によれば、アルミニウム酸素化合物層30にリン酸塩を含有させることにより、アルミニウム酸素化合物層30に焼付け塗装により被覆層40を形成する際に、焼付け時の熱による錫めっき鋼板10の酸化膜層の成長を抑制でき、その結果、表面処理鋼板1の表面に形成する被覆層40の密着性を向上させることができる。
【0051】
アルミニウム酸素化合物層30にリン酸塩を含有させることにより、このような効果が得られる理由としては、必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。まず、上述したように、陽極電解処理により得られたリン酸化合物層20は、主に第一リン酸イオンが錫イオンと反応してリン酸錫が形成されるものであるため、これにより、この第一リン酸イオンによって形成されるリン酸錫の化学結合状態や表面形態が、アルミニウム酸素化合物層30を電解処理により形成する際に用いる電解処理液に溶解し易いものとなる。そして、アルミニウム酸素化合物層30を電解処理により形成する際に、電解処理液中において、リン酸化合物層20のリン酸錫が溶解することで生成されたリン酸イオンにより、アルミニウム酸素化合物層30としてリン酸塩が析出し、このリン酸塩の作用により、焼付け時の熱による錫めっき鋼板10の酸化膜層の成長を抑制でき、その結果、表面処理鋼板1の表面に形成する被覆層40の密着性が向上する。また、錫めっき鋼板10上にリン酸錫のみ形成した場合では、リン酸錫被膜は経時によって変質し、初期では塗装・焼付け工程での酸化膜の増加は抑制できるが、次第に脆弱なものとなり、被覆層40との密着性が低下すると考えられる。本発明ではアルミニウム酸素化合物層30を設けることにより、リン酸錫の変質を抑制し、被覆層40との密着性が良好かつ、耐硫化黒変性が良好になるものと考えられる。
【0052】
また、アルミニウム酸素化合物層30は、X線光電子分光装置を用いて錫の3d
5/2のスペクトルを測定した際の、リン酸錫に由来するプロファイルの積分値(スペクトル強度を結合エネルギーで積分した値)に対する、酸化錫に由来するプロファイルの積分値の比(酸化錫/リン酸錫)が、好ましくは4.8以下である。なお、
図3に示すように、リン酸錫に由来するプロファイルのピークは489.0eV付近に見られ、酸化錫に由来するプロファイルのピークは487.5eV付近に見られる。なお、485.0eV付近のピークは金属錫に由来するものであると考えられる。酸化錫はSnO、SnO
2を含むが、これらは分離せず、1つのピークとして処理した。ここで、
図3は、後述する実施例6の表面処理鋼板1について、アルミニウム酸素化合物層30をX線光電子分光装置により測定して得たスペクトルを示すグラフであり、縦軸はスペクトル強度を示し、横軸は結合エネルギー(eV)を示す。本実施形態では、上述した酸化錫/リン酸錫の比が高すぎると、すなわち、アルミニウム酸素化合物層30に含まれるリン酸塩(リン酸錫)の含有割合が、酸化錫の含有割合に対して特に少なくなりすぎると、得られる表面処理鋼板1について、耐硫化黒変性が低下する傾向にある。
【0053】
アルミニウム酸素化合物層30におけるアルミニウムの含有量は、好ましくは3〜40mg/m
2、より好ましくは5〜30mg/m
2、特に好ましくは6〜23mg/m
2である。アルミニウム酸素化合物層30におけるアルミニウムの含有量が少なすぎると、焼付け塗装により有機材料からなる被覆層40を形成する際に、錫めっき鋼板10の表面の酸化膜層が増加し、これにより、酸化膜層からアルミニウム酸素化合物層30及び被覆層40が剥離し易くなる傾向にある。一方、アルミニウム酸素化合物層30におけるアルミニウムの含有量が多すぎると、アルミニウム酸素化合物層30が脆くなり凝集破壊するおそれがある。
【0054】
また、上述したようにアルミニウム酸素化合物層30にはリン酸塩が含まれるが、アルミニウム酸素化合物層30にけるアルミニウム量(mol/m
2)に対するリン量(mol/m
2)の含有比(P/Al)は、好ましくは0.09〜0.50、より好ましくは0.09〜0.35である。上記含有比(P/Al)が0.09未満であると、焼付け塗装により有機材料からなる被覆層40を形成する際に、焼付け時の熱により錫めっき鋼板10の表面の酸化膜層が成長し、これにより、酸化膜層からアルミニウム酸素化合物層30及び被覆層40が剥離し易くなる傾向にある。一方、上記含有比(P/Al)が0.35超であると、形成されるアルミニウム酸素化合物層30は不均一となって斑紋が発生し、品質上は問題ないものの、外観品質が低下する傾向にある。
【0055】
以上のようにして、本実施形態の表面処理鋼板1が得られる。
【0056】
本実施形態の表面処理鋼板1では、鋼板11上に形成される各層(錫めっき層12、リン酸化合物層20及びアルミニウム酸素化合物層30)に含まれるリンの合計量は、好ましくは0.5〜20mg/m
2、より好ましくは0.5〜5.0mg/m
2、さらに好ましくは0.9〜4.0mg/m
2である。各層に含まれるリンの合計量が少なすぎると、焼付け塗装により有機材料からなる被覆層40を形成する際に、焼付け時の熱により錫めっき鋼板10の酸化膜層が成長し、これにより、酸化膜層からアルミニウム酸素化合物層30及び被覆層40が剥離し易くなる傾向にある。一方、各層に含まれるリンの合計量が多すぎると、リン酸化合物層20においてリン酸錫の含有割合が増大し、このリン酸錫が絶縁体として作用するため、アルミニウム酸素化合物層30を形成する電解処理において、アルミニウム酸素化合物が不均一に析出し、形成されるアルミニウム酸素化合物層30に斑紋が発生し、品質上は問題ないものの、外観品質が低下する傾向にある。
【0057】
なお、本実施形態では、鋼板11上に形成される各層に含まれるリンの合計量を測定する方法としては、たとえば、得られた表面処理鋼板1について、蛍光X線分析装置により定量分析する方法が挙げられる。
【0058】
<金属容器>
本実施形態の表面処理鋼板1は、特に限定されないが、缶容器や缶蓋などの部材として用いることができる。表面処理鋼板1を缶容器や缶蓋などの部材として用いる場合には、表面処理鋼板1をそのまま用いて(表面に被覆層40を形成しない無塗装用途で用いて)、無塗装の缶容器や缶蓋として成形してもよいし、表面処理鋼板1のアルミニウム酸素化合物層30上に有機材料からなる被覆層40を形成してから缶容器や缶蓋などに成形してもよい。被覆層40を構成する有機材料としては、特に限定されず、表面処理鋼板1の用途(たとえば、特定の内容物を充填する缶容器などの用途)に応じて適宜選択すればよいが、熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂などを挙げることができる。
【0059】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリルエステル共重合体、アイオノマー等のオレフィン系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルムやポリ塩化ビニリデンフィルム等の未延伸フィルム又は二軸延伸したフィルム、又はナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミドフィルムなどを用いることができる。その中でも、イソフタル酸を共重合化してなる無配向のポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。また、このような被覆層40を構成するための有機材料は、単独で用いてもよく、異なる有機材料をブレンドして用いてもよい。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ−フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等を用いることができる。
【0060】
被覆層40として熱可塑性樹脂を被覆する場合、単層の樹脂層であってもよく、また同時押出等による多層の樹脂層であってもよい。多層のポリエステル樹脂層を用いる場合には、下地層、即ち表面処理鋼板1側に接着性に優れた組成のポリエステル樹脂を選択し、表層に耐内容物性、即ち耐抽出性やフレーバー成分の非吸着性に優れた組成のポリエステル樹脂を選択できるので有利である。
多層ポリエステル樹脂層の例を示すと、表層/下層として表示して、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン・シクロへキシレンジメチレン・テレフタレート、イソフタレート含有量の少ないポリエチレンテレフタレート・イソフタレート/イソフタレート含有量の多いポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート/[ポリエチレンテレフタレート・イソフタレートとポリブチレンテレフタレート・アジペートとのブレンド物]等であるが、勿論上記の例に限定されない。表層:下層の厚み比は、5:95〜95:5の範囲にあるのが望ましい。
【0061】
上記被覆層40には、それ自体公知の樹脂用配合剤、例えば非晶質シリカ等のアンチブロッキング剤、無機フィラー、各種帯電防止剤、滑剤、酸化防止剤(例えばトコフェノール等)、紫外線吸収剤等を公知の処方に従って配合することができる。
【0062】
本発明により得られる表面処理鋼板1に形成する被覆層40の厚みとしては、熱可塑性樹脂被覆で一般に3〜50μm、特に5〜40μmの範囲にあることが望ましく、塗膜の場合には、焼付け後の厚みが1〜50μm、特に3〜30μmの範囲にあることが好ましい。厚みが上記範囲を下回ると、耐腐食性が不十分となり、厚みが上記範囲を上回ると加工性の点で問題を生じやすい。
【0063】
本発明により得られる表面処理鋼板1への被覆層40の形成は任意の手段で行うことができ、例えば、熱可塑性樹脂被覆の場合は、押出コート法、キャストフィルム熱接着法、二軸延伸フィルム熱接着法等により行うことができる。
【0064】
表面処理鋼板1に対するポリエステル樹脂の熱接着は、溶融樹脂層が有する熱量と、表面処理鋼板1が有する熱量とにより行われる。表面処理鋼板1の加熱温度は、一般に90℃〜290℃、特に100℃〜230℃の温度が適当であり、一方ラミネートロールの温度は10℃〜150℃の範囲が適当である。
また、表面処理鋼板1上に形成する被覆層40は、T−ダイ法やインフレーション製膜法で予め製膜されたポリエステル樹脂フィルムを表面処理鋼板1に熱接着させることによっても形成することができる。フィルムとしては、押し出したフィルムを急冷した、キャスト成形法による未延伸フィルムを用いることもでき、また、このフィルムを延伸温度で、逐次或いは同時二軸延伸し、延伸後のフィルムを熱固定することにより製造された二軸延伸フィルムを用いることもできる。
【0065】
本発明の表面処理鋼板1は、たとえば、表面に被覆層40を形成して有機材料被覆鋼板を得た後、これを加工することにより缶容器として成形することができる。缶容器としては、特に限定されないが、たとえば、
図4(A)に示すシームレス缶5(ツーピース缶)や、
図4(B)に示すスリーピース缶5a(溶接缶)が挙げられる。なお、シームレス缶5を構成する胴体51及び上蓋52、並びにスリーピース缶5aを構成する胴体51a、上蓋52a及び下蓋53は、いずれも本実施形態の表面処理鋼板1に被覆層40を形成してなる有機材料被覆鋼板を用いて形成される。
図4(A),4(B)において、シームレス缶5及びスリーピース缶5aの断面図は、上述した
図1を、被覆層40が缶内面側になるように、90°回転させたものである。
図4(A),4(B)に示す缶5,5aは、被覆層40が缶内面側になるように、絞り加工、絞り・再しぼり加工、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工或いは絞り・しごき加工等の従来公知の手段に付すことによって製造することができる。
また、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)、絞り・再絞りによる曲げ伸ばし・しごき加工等の高度な加工が施されるシームレス缶5においては、被覆層40が押出コート法による熱可塑性樹脂被覆から成るものであることが特に好ましい。
すなわち、かかる有機材料被覆鋼板は、加工密着性に優れていることから、過酷な加工に賦された場合にも被覆の密着性に優れ、優れた耐食性を有するシームレス缶を提供することができる。
【0066】
本発明の表面処理鋼板1は、たとえば、上述したように、表面に被覆層40を形成して有機材料被覆鋼板を得た後、これを加工することにより缶蓋を製造することもできる。缶蓋としては、特に限定されないが、平蓋や、ステイ・オン・タブタイプのイージーオープン缶蓋やフルオープンタイプのイージーオープン缶蓋などが挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0068】
<電解処理液の分析>
電解処理液について、ICP発光分析装置(島津製作所社製、ICPE−9000)を用いてリン酸イオン濃度又はAlイオン濃度を、イオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、DX−500)を用いて硝酸イオン濃度を測定した。また、上記電解処理液について、pHメーター(堀場製作所社製)を用いてpHを測定した。
【0069】
<リン量及びアルミニウム量の測定>
表面処理鋼板1について、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX100e)を用いて、鋼板11上に形成された各層に含まれるリン量及びアルミニウム量をmg/m
2の単位で測定した。また、得られた測定値を、mol/m
2の単位に換算して、アルミニウム量(mol/m
2)に対するリン量(mol/m
2)の含有比(P/Al)を算出した。なお、リン量及びアルミニウム量の測定及びP/Alの算出は、後述する全ての実施例及び比較例について行った。
【0070】
<アルミニウム酸素化合物層30中の錫化合物の測定>
表面処理鋼板1について、下記条件にてX線光電子分光装置を用いて錫の3d
5/2のスペクトルを測定することで、アルミニウム酸素化合物層30における、リン酸錫に由来するプロファイルの積分値に対する、酸化錫に由来するプロファイルの積分値の比(酸化錫/リン酸錫)を求めた。なお、アルミニウム酸素化合物層30中の錫化合物の測定及び上記比(酸化錫/リン酸錫)の算出は、後述する実施例3,6及び比較例3,5についてのみ行った。
得られた錫の3d
5/2のスペクトルをソフトウェア にて波形分離を行い、解析した。
測定装置:日本電子株式会社製 JPS−9200
励起X線源:MgKα 電圧12kV,電流25mA
測定径:直径3mm
光電子取り出し角:90°(試料の法線に対し0°)
解析ソフト:日本電子株式会社製 SpecSurf(ver.1.7.3.9)
波形分離条件:酸化錫の結合エネルギー487.5eV、リン酸錫の結合エネルギー489.1eV、金属錫の結合エネルギー485.4eVとして波形分離
【0071】
<表面処理鋼板の断面観察および定量分析>
表面処理鋼板1について、カーボン蒸着を施した後、更にFIB装置内で炭素を約1μmデポジションし、マイクロサンプリング法によってサンプルを切り出し、銅製の支持台上に固定した。その後、FIB加工により断面TEM試料を作製し、TEM観察および各点におけるEDS分析を行い、定量分析を行った。
<FIB>日立製作所製 FB-2000C型 集束イオンビーム装置 加速電圧40kV
<TEM>日本電子製 JEM-2010F型 電界放射形透過電子顕微鏡 加速電圧200kV
<EDS>ノーラン製 UTW型Si(Li)半導体検出器 分析領域 1nm
なお、表面処理鋼板の断面観察および定量分析は、後述する実施例6についてのみ行った。
【0072】
<塗料密着性評価>
表面処理鋼板1に被覆層40を形成してなる有機材料被覆鋼板について、温度125℃で30分間のレトルト処理を行った後、5mm間隔で鋼板11に達する深さの碁盤目を入れ、テープで剥離し、剥離の程度を目視にて観察し、以下の基準で評価した。なお、塗料密着性評価は、後述する全ての実施例及び比較例について行った。
3点:目視で判定した結果、塗料の剥離が認められなかった。
2点:目視で判定した結果、塗料の剥離が1/5以下の面積率で認められた。
1点:目視で判定した結果、塗料の剥離が1/5を超える面積率で認められた。
なお、塗料密着性評価においては、上記基準で評価が2点以上である場合に、表面処理鋼板1を、飲食缶用途として用いた際に十分な塗料密着性を有するものであると判断した。
【0073】
<耐硫化黒変性評価(モデル液)>
表面処理鋼板1に被覆層40を形成してなる有機材料被覆鋼板を、40mm角に切断した後、切断面を3mm幅テープで保護することで試験片を作製した。次いで、作製した試験片を空缶(東洋製罐社製、J280TULC)に入れ、その中に下記モデル液を試験片全部が浸漬するように充填した後、アルミ蓋で巻締め、温度130℃で5時間のレトルト処理を行った。
モデル液:リン酸二水素ナトリウム(NaH
2PO
4)を3.0g/L、リン酸水素二ナトリウム(Na
2HPO
4)を7.1g/L、L−システイン塩酸塩一水和物を6g/Lの濃度で含むpH7.0の水溶液
その後開缶し、試験片の黒変の程度を目視にて観察し、以下の基準で評価した。なお、耐硫化黒変性評価(モデル液)は、後述する全ての実施例及び比較例について行った。
3点:目視で判定した結果、比較例7と比較して明らかに黒変の程度が薄かった。
2点:目視で判定した結果、比較例7と比較して黒変の程度が同等であった。
1点:目視で判定した結果、比較例7と比較して明らかに黒変の程度が濃かった。
なお、耐硫化黒変性評価(モデル液)においては、上記基準で評価が3点以上である場合に、表面処理鋼板1を、飲食缶用途として用いた際に十分な耐硫化黒変性を有するものであると判断した。
【0074】
<耐食性評価(モデル液)>
表面処理鋼板1に被覆層40を形成してなる有機材料被覆鋼板を、40mm角に切断した後、切断面を3mm幅テープで保護することで試験片を作製した。次いで、作製した試験片に対して、カッターを用いて鋼板に達する深さのクロスカット傷をつけて、クロスカットの交点部分が張出し加工部の頂点になるように、エリクセン試験機(コーティングテスター社製)により3mmの張り出し加工を行った。そして、張り出し加工を行った試験片を密封容器に入れ、下記モデル液を充填した後、90℃の環境下で24時間保管した。
モデル液:NaCl及びクエン酸をそれぞれ1.5重量%で溶解させた水溶液
その後開缶し、試験片の腐食の程度を目視にて観察し、以下の基準で評価した。なお、耐食性評価(モデル液)は、後述する全ての実施例及び比較例について行った。
3点:目視で判定した結果、比較例7と比較して明らかに腐食の程度が小さかった。
2点:目視で判定した結果、比較例7と比較して腐食の程度が同等であった。
1点:目視で判定した結果、比較例7と比較して明らかに腐食の程度が大きかった。
なお、耐食性評価(モデル液)においては、上記基準で評価が2点以上である場合に、表面処理鋼板1を、飲食缶用途として用いた際に十分な耐食性を有するものであると判断した。
【0075】
<脱錫性評価(モデル液)>
表面処理鋼板1を、直径49mmの円盤に切断した後、切断面を3mm幅テープで保護することで試験片を作製し、作製した試験片のSn量を蛍光X線にて測定した。次いで、試験片を密封容器に入れ、下記モデル液を充填した後、37℃環境下で10日間保管した。
モデル液:酢酸1重量%及びショ糖(スクロース)10重量%を溶解させた水溶液
その後開缶し、37℃環境下で10日間の継時後の試験片のSn量を、蛍光X線にて測定し、以下の式を用いて、残存Sn量%を算出した。
残存Sn量(%)=(経時前Sn量−経時後Sn量)/経時前Sn量×100
なお、残存Sn量%が参考例1と同等もしくはそれ以上の場合に、飲食缶用途として用いた際に十分な脱錫性を有するものであると判断した。なお、脱錫性評価(モデル液)は、後述する実施例14、比較例8及び参考例1について行った。
【0076】
《実施例1》
まず、鋼板11として低炭素冷延鋼板(板厚0.225mm)を準備した。
【0077】
次いで、準備した鋼板に対して、アルカリ脱脂剤(日本クエーカーケミカル社製、フォーミュラー618−TK2)の水溶液を用いて、60℃、10秒間の条件にて陰極電解処理を行うことにより脱脂した。次いで、脱脂した鋼板を水道水で水洗した後、酸洗処理剤(硫酸の5体積%水溶液)に、常温で5秒間浸漬させることで酸洗した。その後、水道水で水洗し、公知のフェロスタン浴を用いて、下記の条件にて鋼板に錫めっきを施し、鋼板の表面に錫量が2.8g/m
2の錫めっき層12を形成させた。その後、錫めっき層12を形成した鋼板を水洗し、直流電流を流すことで発熱させて、錫の融点以上まで加熱後,水道水をかけて急冷させるリフロー処理を施して、錫めっき鋼板10を作製した。
浴温:40℃
電流密度:10A/dm
2
陽極材料:市販の99.999%金属錫
トータル通電時間:5秒(通電時間1秒、停止時間0.5秒を1サイクルとした際における、サイクル数5回)
【0078】
そして、得られた錫めっき鋼板10に対して、下記条件にて、電解処理液に浸漬させて、電解処理液を撹拌しながら、極間距離17mmの位置に配置した酸化イリジウム被覆チタン板を陰極として、陽極電解処理を施し、錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成した。
電解処理液:亜リン酸を濃度10g/Lで溶解させたpH1.3の水溶液(表1の処理液A)
電解処理液の温度:40℃
電流密度:3A/dm
2
トータル通電時間:0.5秒(通電時間0.5秒、サイクル数1回)
【0079】
なお、リン酸化合物層20の形成に用いた電解処理液について、上述した方法にしたがって、電解処理液の分析を行った。結果を表1に示す。表1においては、溶解させたリン酸化合物の濃度に応じて算出したリン原子の濃度(g/L)を、併せて示した。実施例1、並びに後述する実施例4及び比較例1については、リン酸化合物層20の形成には表1の処理液Aで示す電解処理液を用いた。同様に、後述する実施例2,5及び比較例2については処理液Bを、後述する実施例3,6,7及び比較例3,5については処理液Cを、後述する実施例8及び比較例4については処理液Dを、それぞれ用いた。また、錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成した際の電解処理の条件を表2に示した。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
次いで、リン酸化合物層20が形成された錫めっき鋼板10を水洗した後、下記条件にて、電解処理液に浸漬させて、電解処理液を撹拌しながら、極間距離17mmの位置に配置した酸化イリジウム被覆チタン板を陽極として、陰極電解処理を施すことにより、アルミニウム酸素化合物層30を形成した。その後すぐに、流水による水洗及び乾燥を行うことで、錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20及びアルミニウム酸素化合物層30がこの順で形成された表面処理鋼板1を得た。なお、アルミニウム酸素化合物層30の形成に用いた電解処理液について、上述した方法にしたがって、電解処理液の分析を行った。結果を表1に示す。後述する比較例6以外のすべての実施例及び比較例については、アルミニウム酸素化合物層30の形成には表1の処理液Eで示す電解処理液を用いた。また、アルミニウム酸素化合物層30を形成する際の電解処理の条件を表2に示した。
電解処理液:Al化合物として硝酸アルミニウムを溶解させ、Alイオン濃度1,500重量ppm、硝酸イオン濃度15,000重量ppmとし、Fイオン濃度が0重量ppmであるpH3.0の水溶液(表1の処理液E)
電解処理液の温度:40℃
電流密度:4A/dm
2
トータル通電時間:0.3秒(通電時間0.3秒、サイクル数1回)
【0083】
そして、得られた表明処理鋼板1について、上述した方法に従って、リン量及びアルミニウム量の測定を行った。結果を表3に示す。
【0084】
次いで、表面処理鋼板1について、温度190℃で10分間の熱処理を行った後に、焼付け乾燥後の塗膜厚が70mg/dm
2となるようにエポキシフェノール系塗料を塗装後、温度200℃で10分間の焼付けを行うことで、表面処理鋼板1上に被覆層40を形成してなる有機材料被覆鋼板を得た。次いで、得られた有機材料被覆鋼板について、上述した方法にしたがって、塗料密着性評価、耐硫化黒変性評価(モデル液)及び耐食性評価(モデル液)を行った。結果を表3に示す。
【0085】
《実施例2》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、電解処理液としてリン酸を濃度10g/Lで溶解させたpH1.8の水溶液(表1の処理液B)を用いた以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0086】
《実施例3》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、電解処理液としてリン酸を濃度10g/Lで、リン酸二水素ナトリウムを濃度30g/Lでそれぞれ溶解させたpH2.4の水溶液(表1の処理液C)を用いた以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。なお、実施例3については、塗料密着性評価を行った後のサンプルの写真を
図5(A)に、及び耐硫化黒変性評価(モデル液)を行った後のサンプルの写真を
図6(A)に、X線光電子分光装置を用いてアルミニウム酸素化合物層30中の錫化合物の測定を行った際に得られたスペクトルを
図7(A)に、それぞれ示した。
【0087】
《実施例4》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、上述した陽極電解処理を行う前に、極性のみ逆転した処理(陰極電解処理)を行った以外は同様の条件にて陰極電解処理を行った。それ以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0088】
《実施例5》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、上述した陽極電解処理を行う前に、極性のみ逆転した処理(陰極電解処理)を行った以外は同様の条件にて陰極電解処理を行った。それ以外は、実施例2と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0089】
《実施例6》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、上述した陽極電解処理を行う前に、極性のみ逆転した処理(陰極電解処理)を行った以外は同様の条件にて陰極電解処理を行った。それ以外は、実施例3と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。なお、実施例6については、塗料密着性評価を行った後のサンプルの写真を
図5(B)に、及び耐硫化黒変性評価(モデル液)を行った後のサンプルの写真を
図6(B)に、X線光電子分光装置を用いてアルミニウム酸素化合物層30中の錫化合物の測定を行った際に得られたスペクトルを
図7(B)に、表面処理鋼板1の断面観察により得られたTEM像および定量分析結果を
図8にそれぞれ示した。
【0090】
《実施例7》
リン酸化合物層20上にアルミニウム酸素化合物層30を形成する際において、トータル通電時間を0.2秒とした以外は、実施例6と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0091】
《実施例8》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、上述した陽極電解処理を行う前に、極性のみ逆転した処理(陰極電解処理)を行った以外は同様の条件にて陰極電解処理を行った。なお、陰極電解処理及び陽極電解処理に用いる電解処理液として、リン酸を濃度10g/Lで、リン酸水素二ナトリウムを濃度30g/Lでそれぞれ溶解させたpH6.4の水溶液(表1の処理液D)を用いた。それ以外は、実施例4と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0092】
《実施例9》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、電流密度を3A/dm
2,陰極電解処理のトータル通電時間と、陽極電解処理のトータル通電時間を、それぞれ0.3秒とした。このとき、前処理として塩酸水溶液中に浸漬することにより、錫めっき表面に形成された錫酸化膜の除去を行った。また、リン酸化合物層20上にアルミニウム酸素化合物層30を形成する際において、電流密度を5A/dm
2、トータル通電時間を0.6秒とした以外は、実施例6と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。また、結果を表3に示す。
【0093】
《実施例10》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、電流密度を6A/dm
2,とした以外は、実施例9と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。また、結果を表3に示す。
【0094】
《実施例11》
錫めっき鋼板10上にアルミニウム酸素化合物層30を形成する際において、電流密度を10A/dm
2、トータル通電時間を0.6秒とした以外は、実施例10と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。また、結果を表3に示す。
【0095】
《実施例12》
錫めっき層12の錫量を5.6g/m
2とした以外は、実施例11と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。また、結果を表3に示す。
【0096】
《実施例13》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、電流密度を12A/dm
2,陰極電解処理のトータル通電時間と、陽極電解処理のトータル通電時間を、それぞれ0.15秒、アルミニウム酸素化合物層30を形成する際において、電流密度を20A/dm
2、トータル通電時間を0.3秒とした以外は、実施例10と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。また、結果を表3に示す。
【0097】
《比較例1》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、上述した陽極電解処理を行う代わりに、極性のみ逆転した処理(陰極電解処理)を行った以外は、実施例1と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0098】
《比較例2》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、電解処理液として表1の処理液Bを用いた以外は、比較例1と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0099】
《比較例3》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、電解処理液として表1の処理液Cを用いた以外は、比較例1と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。なお、比較例3については、塗料密着性評価を行った後のサンプルの写真を
図5(C)に、及び耐硫化黒変性評価(モデル液)を行った後のサンプルの写真を
図6(C)に、X線光電子分光装置を用いてアルミニウム酸素化合物層30中の錫化合物の測定を行った際に得られたスペクトルを
図7(C)に、それぞれ示した。
【0100】
《比較例4》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、電解処理液として表1の処理液Dを用いた以外は、比較例1と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0101】
《比較例5》
錫めっき鋼板10上にリン酸化合物層20を形成する際において、上述した陽極電解処理を行った後に、極性のみ逆転した処理(陰極電解処理)を行った以外は同様の条件にて陰極電解処理を行った。それ以外は、実施例3と同様にして表面処理鋼板1及び有機材料被覆鋼板を作製し、同様に評価を行った。結果を表3に示す。なお、比較例5については、X線光電子分光装置を用いてアルミニウム酸素化合物層30中の錫化合物の測定を行った際に得られたスペクトルを
図7(D)に示した。
【0102】
《比較例6》
実施例1で作製した錫めっき鋼板10について、リン酸化合物層20及びアルミニウム酸素化合物層30をいずれも形成することなく、直接、塗料密着性評価、耐硫化黒変性評価(モデル液)及び耐食性評価(モデル液)を行った。結果を表3に示す。
【0103】
《比較例7》
実施例1で作製した錫めっき鋼板10について、リン酸化合物層20を形成することなく、錫めっき鋼板10上に、直接、実施例1と同様の方法でアルミニウム酸素化合物層30を形成することで表面処理鋼板を得た。そして、得られた表面処理鋼板について、塗料密着性評価、耐硫化黒変性評価(モデル液)及び耐食性評価(モデル液)を行った。結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
《考 察》
表3に示すように、錫めっき鋼板10に対して陽極電解処理を施すことでリン酸化合物層20を形成し、このリン酸化合物層20上にアルミニウム酸素化合物層30を形成した実施例1〜13は、塗料密着性評価、耐硫化黒変性評価(モデル液)及び耐食性評価(モデル液)の結果がいずれも良好であり、被覆層40の密着性、耐食性及び耐硫化黒変性に優れ、長期にわたって使用される金属容器等の用途に好適であることが確認された。
【0106】
一方、表3に示すように、リン酸化合物層20を形成する際に陽極電解処理を行わなかった比較例1〜4、及びリン酸化合物層20を形成する際において陽極電解処理を行った後に陰極電解処理を行った比較例5は、耐硫化黒変性評価(モデル液)の結果が悪く、耐硫化黒変性に劣ることが確認された。また、錫めっき鋼板10について評価を行った比較例6についても、同様に、耐硫化黒変性評価(モデル液)の結果が悪く、耐硫化黒変性に劣ることが確認された。さらに、リン酸化合物層20を形成することなく、錫めっき鋼板10上に、直接、アルミニウム酸素化合物層30を形成した比較例7は、塗料密着性評価及び耐硫化黒変性評価(モデル液)の結果が、実施例と比較して、いずれも悪く、被覆層40の密着性に劣り、耐硫化黒変性も劣ることが確認された。
【0107】
《実施例14》
錫めっき層12を形成する際において、トータル通電時間を7.5秒として、錫めっき層12の錫量を11.2g/m
2とし、リン酸化合物層形成の電解処理、アルミニウム酸素化合物層形成の電解処理を表2に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして、表面処理鋼板1を作製した。得られた表面処理鋼板1について、上述した方法にしたがって、脱錫性評価(モデル液)を行った。結果を表4に示す。
【0108】
《比較例8》
錫めっき層12を形成する際において、トータル通電時間を7.5秒として、錫めっき層12の錫量を11.2g/m
2とし、リン酸化合物層20を形成することなく、アルミニウム酸素化合物層形成の電解処理を表2に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして、表面処理鋼板を作製した。得られた表面処理鋼板について、実施例14と同様に脱錫性評価(モデル液)を行った。結果を表4に示す。
【0109】
《参考例1》
錫めっき層12を形成する際において、トータル通電時間を7.5秒として、錫めっき層12の錫量を11.2g/m
2とし、錫めっき鋼板10を作製した。その後、錫めっき鋼板10の表面に、電解処理によってクロム水酸化物を形成し、表面処理鋼板を作製した。得られた表面処理鋼板について、実施例14と同様に脱錫性評価(モデル液)を行った。結果を表4に示す。なお、参考例1は現行市販されている表面処理鋼板の生産品に相当する。
【0110】
【表4】
【0111】
表4に示すように、錫めっき鋼板10に対して陽極電解処理を施すことでリン酸化合物層20を形成し、このリン酸化合物層20上にアルミニウム酸素化合物層30を形成した実施例14の残存Sn量は、現行の生産品である参考例1と同等以上の残存Sn量であり、さらにリン酸化合物層20を形成することなく、錫めっき鋼板10上に、直接、アルミニウム酸素化合物層30を形成した比較例8と比較して多かった。このことから、錫めっき鋼板10上に、リン酸化合物層20及びアルミニウム酸素化合物層30のみを形成して得られた実施例14の表面処理鋼板1は、被覆層40を有しない無塗装の状態でも、残存Sn量が多いことから、耐食性及び耐硫化黒変性に優れ、無塗装で使用される金属容器等の用途にも好適であることが確認された。
鋼板(11)上に錫めっきを施してなる錫めっき鋼板(10)と、前記錫めっき鋼板(10)上に形成された、リン酸錫を含有するリン酸化合物層(20)と、前記リン酸化合物層(20)上に形成された、アルミニウム酸素化合物を主成分とするアルミニウム酸素化合物層(30)と、を備える表面処理鋼板(1)を提供する。