特許第5986505号(P5986505)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986505
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】金属空気低温イオン液体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20160823BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   H01M12/06 G
   H01M12/06 B
   H01M12/06 D
   H01M12/06 F
   H01M12/06 Z
   H01M12/08 K
【請求項の数】56
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-510902(P2012-510902)
(86)(22)【出願日】2010年5月10日
(65)【公表番号】特表2012-527090(P2012-527090A)
(43)【公表日】2012年11月1日
(86)【国際出願番号】US2010034235
(87)【国際公開番号】WO2010132357
(87)【国際公開日】20101118
【審査請求日】2013年5月8日
(31)【優先権主張番号】61/177,072
(32)【優先日】2009年5月11日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/267,240
(32)【優先日】2009年12月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510276928
【氏名又は名称】アリゾナ ボード オブ リージェンツ アクティング フォー アンド オン ビハーフ オブ アリゾナ ステイト ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】ARIZONA BOARD OF REGENTS ACTING FOR AND ON BEHALF OF ARIZONA STATE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】フリーゼン,コディー エー・
(72)【発明者】
【氏名】バトリー,ダニエル
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−093983(JP,A)
【文献】 特開2008−066202(JP,A)
【文献】 米国特許第06500575(US,B1)
【文献】 特開2008−293678(JP,A)
【文献】 特開平1−274364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属燃料を酸化する柔軟な燃料電極と,
気体酸素を吸収し還元する柔軟な空気電極と,
1atmで150°C以下の融点を有し,前記柔軟な燃料電極と前記空気電極との間の空間に収容され,前記燃料電極及び空気電極における電気化学反応を支持するためにイオンを伝導する低温イオン液体を含むイオン伝導性媒体と,
を備え,
前記柔軟な燃料電極及び前記柔軟な空気電極が捲回され又は交互に折り畳まれており,前記空気電極の外表面が気体酸素を吸収するために露出している電気化学金属空気電池。
【請求項2】
前記イオン液体が燃料電極及び前記空気電極の両方に接触している請求項1に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項3】
前記燃料電極及び空気電極の各々が,外表面を介した低温イオン液体の液体透過を実質的に防ぐように構成された請求項2に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項4】
電気絶縁性の柔軟なセパレータをさらに備え,
前記柔軟な燃料電極,前記柔軟な空気電極,及び前記柔軟なセパレータが非直線状小型構成としてのロール状に巻かれ,前記柔軟なセパレータが前記燃料電極及び空気電極の前記外表面の間の導電接触を防ぐために前記燃料電極及び前記空気電極の前記外表面の間に配置され,前記柔軟なセパレータが前記空気電極の前記外表面の気体酸素への露出を許容するように構成されている請求項3に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項5】
前記燃料電極及び空気電極の外周に沿って前記燃料電極と空気電極との間の前記空間をシールして当該空間に前記イオン液体を収容する単数又は複数のシール部材をさらに備え,前記シール部材は前記燃料電極と空気電極との間の導電を防ぐために電気絶縁性である請求項4に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項6】
前記イオン液体内に電気化学的に不活性で電気絶縁性の柔軟な内部セパレータをさらに備え,前記柔軟な内部セパレータは前記ロール状に巻かれ,前記燃料電極及び空気電極の内表面の間の前記空間に配置されて前記燃料電極及び空気電極の前記内表面間の導電接触を防ぐ請求項4又は5に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項7】
前記ロールが支持されるハウジングをさらに備える請求項4に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項8】
前記ハウジングは開口軸方向気流受入端部及び前記ハウジングの前記開口軸方向気流受入端部と向かい合う前記ロールの軸方向気流受入端部を備え,前記電池は,前記ハウジングの前記開口軸方向気流受入端部内及び前記ロール内の前記軸方向気流受入端部の前記燃料電極及び空気電極の前記外表面の間に気流が流れるようにする気流生成部をさらに備える請求項7に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項9】
前記ハウジングは前記開口軸方向気流受入端部と対向する開口軸方向気流放出端部を備え,前記ロールは前記ハウジングの前記開口軸方向気流放出端部と向かい合う軸方向気流放出端部を備え,前記気流生成部は,前記気流を,前記ロール内の前記燃料電極及び空気電極の前記外表面の間を軸方向に通過させるとともに,前記ロールの前記軸方向気流放出端部から軸方向外方に前記ハウジングの前記開口軸方向気流放出端部を通過して排出する請求項8に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項10】
気流を前記ロール内の前記燃料電極及び空気電極の前記外表面の間に流すように構成された気流生成部をさらに備える請求項4に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項11】
前記ロールが軸方向気流受入端部をさらに備え,前記気流生成部が前記気流を前記軸方向気流受入端部内の前記燃料電極及び空気電極の前記外表面の間に流すように構成された請求項10に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項12】
前記ロールが前記軸方向気流受入端部と対向する軸方向気流放出端部を備え,前記気流生成部が,前記気流を,前記ロールの前記軸方向気流受入端部内へ前記燃料電極及び空気電極の前記外表面の間を通過させ,前記軸方向気流放出端部から外方に排出する請求項11に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項13】
前記ロールが,前記ロールの最も外側のラップにおける前記燃料電極及び空気電極の端部で定義される周方向気流出口を備え,前記気流生成部が,前記気流を,前記ロールの前記軸方向気流受入端部内の前記燃料電極及び空気電極の前記外表面の間を通過させ,軸方向気流放出端部から外方へ排出するように構成された請求項11に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項14】
前記イオン液体が融点を超える20°Cにおいて1mm Hg以上の蒸気圧を有する請求項1又は2に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項15】
前記イオン液体が融点を超える20°Cにおいて実質的に測定不能な蒸気圧を有する請求項14に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項16】
前記燃料電極と空気電極との間の前記空間の幅が10ミクロン〜300ミクロンの範囲内にある請求項1,2,14,又は15のいずれか1項に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項17】
前記燃料電極と空気電極との間の前記空間の前記幅が10ミクロン〜100ミクロンの範囲
内にある請求項16に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項18】
前記燃料電極の厚さと前記空気電極の厚さとの合計の厚さとイオン液体厚さとの比が1:10〜10:1の範囲内にある請求項2,14,又は15のいずれか1項に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項19】
前記燃料電極の厚さと前記空気電極の厚さとの合計の厚さのイオン液体厚さに対する比が1以上である請求項18に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項20】
前記イオン伝導性媒体が実質的に前記低温イオン液体から成る請求項1又は2に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項21】
前記イオン伝導性媒体が前記低温イオン液体から成る請求項1又は2に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項22】
前記イオン伝導性媒体が前記低温イオン液体を溶解する溶媒を有していない請求項1又は2に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項23】
前記低温イオン液体が室温イオン液体である請求項1,2,20,21,又は22のいずれか1項に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項24】
前記非直線状小型構成は,互いに向かい合う前記空気電極の外表面の部分と互いに向かい合う前記燃料電極の外表面の部分とを有するように交互に折り畳まれた前記柔軟な燃料電極及び前記柔軟な空気電極である請求項4に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項25】
少なくとも互いに向かい合う前記空気電極の外表面の前記部分の間に配置された複数のセパレータをさらに備え,前記セパレータは前記空気電極の外表面の前記部分が気体酸素に露出するように構成されている請求項24に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項26】
前記柔軟な燃料電極及び前記柔軟な空気電極が前記非直線状小型構成としてのロール形状に巻かれ,
前記電池が,前記燃料電極及び空気電極の前記外表面の間での導電接触を防ぐとともに前記空気電極の前記外表面が気体酸素に露出できるように前記燃料電極及び前記空気電極の前記外表面を互いに離れた位置に保持するように燃料電極及び前記空気電極を位置決めするリテーナー構造をさらに備える請求項4に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項27】
前記燃料電極及び空気電極の各々が,外表面を介した低温イオン液体の液体透過を実質的に防ぐように構成され,
前記イオン液体は融点を超える20°Cにおいて1mmHg以下の蒸気圧を有し,
前記燃料電極の厚さと前記空気電極の厚さとの合計の厚さのイオン液体厚さに対する比が1以上である請求項2に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項28】
前記イオン液体は融点を超える20°Cにおいて1mmHg以下の蒸気圧を有し,
前記燃料電極の厚さと前記空気電極の厚さとの合計の厚さのイオン液体厚さに対する比が1以上である請求項4に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項29】
前記金属燃料は,アルカリ土類金属,遷移金属,及びポスト遷移金属を含む群から選択された金属を含む請求項1,2,27,又は28のいずれか1項に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項30】
前記金属燃料は,亜鉛,アルミニウム,ガリウム,マンガン,及びマグネシウムから成る群より選択された金属を含む請求項1,2,27,又は28のいずれか1項に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項31】
金属燃料を酸化する柔軟な燃料電極と,
気体酸素を吸収し還元する空気電極と,
1atmで150°C以下の融点を有し,前記柔軟な燃料電極と前記空気電極との間の空間に収容され,前記燃料電極及び空気電極における電気化学反応を支持するためにイオンを伝導する低温イオン液体を含むイオン伝導性媒体と,
を備え,
前記柔軟な燃料電極及び前記空気電極が捲回され又は交互に折り畳まれており,
前記イオン液体は前記燃料電極及び前記空気電極の両方に接触し,
前記イオン伝導性媒体は,亜鉛,マンガン,及びガリウムから成る群より選択された金属を含む溶解添加物をさらに含む電気化学金属空気電池。
【請求項32】
前記燃料電極及び空気電極が,外表面を介した前記低温イオン液体の液体透過を実質的に防ぐように構成された請求項31に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項33】
前記イオン液体の前記蒸気圧が融点を超える20°Cにおいて1mmHg以下である請求項32に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項34】
前記イオン液体の前記蒸気圧が融点を超える20°Cにおいて0.1mmHg以下である請求項33に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項35】
前記燃料電極の厚さと前記空気電極の厚さとの合計の厚さとイオン液体厚さとの比が1:10〜10:1の範囲内にある請求項32に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項36】
前記燃料電極の厚さと前記空気電極の厚さとの合計の厚さのイオン液体厚さに対する比が1以上である請求項32に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項37】
前記比が2以上である請求項36に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項38】
前記比が3以上である請求項37に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項39】
前記金属燃料が亜鉛を含む請求項31に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項40】
電気化学金属空気電池の動作方法であって,
前記電池は,(i)金属燃料を酸化する燃料電極と,(ii)気体酸素を吸収し還元する空気電極と,(iii)1atmで150°C以下の融点を有し,前記柔軟な燃料電極と前記空気電極との間の空間に収容され,前記燃料電極及び空気電極における電気化学反応を支持するためにイオンを伝導するとともに前記燃料電極及び前記空気電極の両方に接触する低温イオン液体を含むイオン伝導性媒体と,を備え,前記燃料電極及び前記空気電極は捲回され又は交互に折り畳まれており,前記空気電極の外表面が気体酸素を吸収するために露出しており,
前記方法は,
前記燃料電極において前記金属燃料を酸化する工程と,
吸収された気体酸素を前記空気電極において還元する工程と,
前記燃料電極及び空気電極における前記電気化学反応を支持するために前記イオン液体中でイオンを伝導する工程と,を含む方法。
【請求項41】
前記イオン液体が,前記イオン液体の前記蒸気圧が1mmHg以下となる温度である請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記イオン液体が,前記イオン液体の前記蒸気圧が0.1mmHg以下となる温度である請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記イオン液体が,前記イオン液体の前記蒸気圧が実質的にゼロである温度である請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記金属燃料が亜鉛を含む請求項40に記載の方法。
【請求項45】
前記イオン伝導性媒体が金属含有添加物を含む請求項40に記載の方法。
【請求項46】
電気化学金属空気電池の動作方法であって,
前記電池は,(i)金属燃料を酸化する柔軟な燃料電極と,(ii)気体酸素を吸収し還元する空気電極と,(iii)1atmで150°C以下の融点を有し,前記柔軟な燃料電極と前記空気電極との間の空間に収容され,前記燃料電極及び空気電極における電気化学反応を支持するためにイオンを伝導するとともに前記燃料電極及び前記空気電極の両方に接触する低温イオン液体を含むイオン伝導性媒体と,を備え,前記柔軟な燃料電極及び前記空気電極が捲回され又は交互に折り畳まれており,前記イオン伝導性媒体は,亜鉛,マンガン,及びガリウムから成る群より選択された金属を含む溶解添加物を含んでおり,
前記方法は,
前記燃料電極において前記金属燃料を酸化する工程と,
吸収された気体酸素を前記空気電極において還元する工程と,
前記燃料電極及び空気電極における前記電気化学反応を支持するために前記イオン液体中でイオンを伝導する工程と,を含み,
前記イオン液体をその融点以上の温度にして実行される方法。
【請求項47】
前記燃料電極及び前記空気電極の少なくとも一方が柔軟性を有する請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記金属含有添加物に含まれる金属が亜鉛である請求項31に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項49】
前記金属含有添加物に含まれる金属が亜鉛である請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記電池が充電可能な請求項1又は31に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項51】
前記伝導性媒体がリチウムを含まない請求項1又は31に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項52】
前記電池が大気に晒されている請求項1又は31に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項53】
前記イオン液体がフッ素含有イオンである請求項1又は31に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項54】
前記イオン液体が100ppm未満の水を含み疎水性である請求項1又は31に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項55】
前記イオン液体が非プロトン性である請求項31に記載の電気化学金属空気電池。
【請求項56】
前記イオン液体が非プロトン性である請求項46に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許仮出願第61/177,072号(2009年5月11日出願)及び米国特許仮出願第61/267,240号(2009年12月7日出願)に基づく優先権を主張する。これらの内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は,低温イオン液体を用いる電気化学金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0003】
金属空気電池は,典型的には,金属燃料を酸化する燃料電極と,酸素を還元する空気電極と,イオン伝導性を提供する電解液溶液とを含む。金属空気電池における主な制限要因は,電解液溶液の蒸発,特に電解水溶液中の水などのバルク溶媒の蒸発である。空気電極は酸素を吸収するために空気透過性であるから,水蒸気等の溶媒蒸気も電池から排出されてしまう。この問題のために,時間の経過につれて,電池の動作は効率的でなくなる。この蒸発の問題によって,燃料を消費するよりも先に電池が動作できなくなるものが実際には多い。二次(すなわち充電式)電池においては,燃料は電池の寿命の間に繰り返し補充される一方で電解液溶液は外部ソースからの補充がない限り補充されないため,この問題がより深刻となる。また,充電式電池においては,典型的には水溶媒が酸化されており,再充電時に酸素を放出し,溶液を枯渇させてしまう。
【0004】
この問題に対処するために,電解水溶液を有する金属空気電池の多くは,比較的大量の電解液溶液を含むように設計される。一部の電池においては,電解液の水位を維持するために近くにある貯蔵庫から電解液を補充する手段を含むように構成されることすらある。しかしながら,いずれの手法によっても,時間の経過にともなう水等の溶媒の蒸発を補償することができる程度に電解液溶液の水位が十分なものとなることを除けば電池の性能は向上しない。それにもかかわらず,電池の全体寸法が著しく大きくなるとともに電池の重量も増えてしまう。特に,電池性能は一般に燃料特性,電極特性,電解液特性,及び反応に利用される電極表面積によって決定されるが,電池内の電解液溶液の量は一般には電池の性能を向上させるためには特に役に立たず,単位容積及び重量当たりの電池性能(電力対容積/重量及びエネルギー対容積/重量)を損なうことになる。また,電解液の量が増えているため,電極間の空間が大きくなり,イオン抵抗が増大して性能の劣化に繋がる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様は,金属燃料を酸化する柔軟な燃料電極と,気体酸素を吸収し還元する柔軟な空気電極と,1atmで150°C以下の融点を有し,前記柔軟な燃料電極と前記空気電極との間の空間に収容され,前記燃料電極及び空気電極における電気化学反応を支持するためにイオンを伝導する低温イオン液体を含むイオン伝導性媒体とを備える電気化学金属空気電池を提供する。
【0006】
本発明の他の態様は,電気化学金属空気電池の動作方法を提供する。この電池は,(i)金属燃料を酸化する燃料電極と,(ii)気体酸素を吸収し還元する空気電極と,(iii)1atmで150°C以下の融点を有し,前記柔軟な燃料電極と前記空気電極との間の空間に収容され,前記燃料電極及び空気電極における電気化学反応を支持するためにイオンを伝導するとともに前記燃料電極及び前記空気電極の両方に接触する低温イオン液体を含むイオン伝導性媒体と,を備える。前記方法は,前記燃料電極において前記金属燃料を酸化する工程と,吸収された気体酸素を前記空気電極において還元する工程と,前記燃料電極及び空気電極における前記電気化学反応を支持するために前記イオン液体中でイオンを伝導する工程と,を備え,前記イオン液体をその融点以上の温度にした状態で実行される。
【0007】
本発明のさらに他の態様は,金属燃料を酸化する柔軟な燃料電極と,気体酸素を吸収し還元する柔軟な空気電極と,1atmで150°C以下の融点を有し,前記柔軟な燃料電極と前記空気電極との間の空間に収容され,前記燃料電極及び空気電極における電気化学反応を支持するためにイオンを伝導する低温イオン液体を含むイオン伝導性媒体とを備える電気化学金属空気電池を提供する。この柔軟な燃料電極及び柔軟な空気電極は,小型化された非直線状に配置され,前記空気電極の外表面が気体酸素を吸収するために露出している。かかる小型非直線状配置には,例えば,円筒状又は非円筒状のロール状に巻かれた形状,又は交互に折り畳まれた形状が含まれる。
【0008】
本出願の前記目的のために,低温イオン液体は,1atmで150°C以下の融点を有するイオン液体と定義される。この低温イオン液体は,1atmで100°C以下の融点を有するイオン液体である室温イオン液体として知られる種を含んでも良い。イオン液体は,液体塩と呼ばれることもある。本質的に,イオン液体は,この塩のアニオン及びカチオンから主に構成される。イオン液体は,イオン液体中に存在する溶解可能な添加物や電池の動作により生成された反応副生成物等の単数又は複数の他の生成物に対して溶媒となるが,イオン液体は,前記液体自身が「自己溶解型」であるため,すなわち,前記液体はその性質上前記電解液塩アニオン及びカチオンの液体であるため,前記塩を溶解させるために別の溶媒を必要としないので,前記塩を溶解させるために溶媒を使用する必要がない。
【0009】
一方,低温又は室温イオン液体は1atmにおける各々の融点によって定義されるが,一部の実施形態において,電池は,異なる圧力の環境において動作することがある。したがって,前記融点は動作圧力によって変化する。このように,1atmにおける融点の基準は,液体を定義するための基準として用いられるが,実際の動作環境を示唆したり制限したりするものではない。
【0010】
本発明の他の実施形態は,金属燃料を酸化する柔軟な燃料電極と,気体酸素を吸収し還元する柔軟な空気電極と,1atmで150°C以下の融点と融点を超える20°Cにおいて1mmHg以下の蒸気圧を有し,前記柔軟な燃料電極と前記空気電極との間の空間に収容され,前記燃料電極及び空気電極における電気化学反応を支持するためにイオンを伝導する低温イオン液体を含むイオン伝導性媒体とを備える電気化学金属空気電池を提供する。
【0011】
本発明のこれら以外の目的や効果は、以下の詳細な説明,添付図面,及び特許請求の範囲の記載によって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態の分解図
【0013】
図2】電池に用いられるロールの強調断面図(層を見やすくための強調が施されている)
【0014】
図3】空気の流れを示す図1の電池の他の分解図
【0015】
図4】他の実施形態を示す図3と同様の図
【0016】
図5】小型で非直線状の電池の他の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本出願は,電気化学金属空気電池10を開示する。電池10は,任意の構造又は構成を採ることができ,本明細書で説明する例は非限定的なものである。電池10は,図示のとおり,ロール形状等の小型構造物内に配置された電極を有するように構成される。一般に,電池10は,金属燃料を保持する柔軟な燃料電極12と,柔軟な空気電極14と,柔軟な燃料電極12と空気電極14との間の空間18に収容される低温イオン液体16(室温のイオン液体であってもよい)を含むイオン伝導性媒体とを含む。イオン液体16は,燃料電極及び空気電極の内面20,22とそれぞれ接触する。本明細書で説明する任意の種類のイオン伝導性媒体は,本発明の構造面の実施形態の任意のものにおいて用いることができる。
【0018】
一部の例示的な実施形態において,溶質,例えば添加物又は電池の動作においてイオン液体内に生成される副生成物等,のイオン液体への溶解性を向上させ,または所定の電気化学反応やイオン輸送の促進等の非溶媒機能性を提供するために,溶媒とみなされる物質をイオン液体に少量加えることができる。このように,イオン液体を使用するといっても,他の文脈において溶媒と見なされ,またはイオン液体中の溶質に対して溶媒として働く可能性がある物質の存在を全面的に排除するわけではない。しかし,溶媒は,イオン液体に溶解する必要がないので,電解水溶液等の塩の溶解のためのバルク溶媒を必要とする従来の電解液塩と比べてごく少量だけ用いられる。実際には,一部の非限定的な実施形態においては,追加的な溶媒を用いないことも可能である。
【0019】
一部の例示的な実施形態において,燃料電極と空気電極との間のイオン伝導性媒体は,純粋な低温イオン液体であってもよい。すなわち,このイオン伝導性媒体はイオン液体から成るものであってもよい。他の非限定的な実施形態において,イオン伝導性媒体は,実質的にイオン液体から成るものであってもよいが,これは,本明細書においては,イオン伝導性媒体がイオン液体及びイオン液体の本質に実質的な影響を与えない単数又は複数の他の物質を含んでもよいことを意味する。このように,「実質的にイオン液体から成る」という用語は,イオン液体のイオン輸送機能性を向上させ,電池の電気化学反応を支持し,及び/又はイオン液体中での溶質の溶解性を向上させる単数又は複数の添加物の添加を明示的に含むが,電解水溶液等で用いられる塩を溶解させるためのバルク溶媒の使用を含まないものである。イオン液体の性質はまさにそのようなイオン及び/又は副生成物の輸送や形成を促進することにあるので,イオン液体から成る実施形態や実質的にイオン液体から成る実施形態においてイオン液体における反応副生成物やイオンの存在が許容されることは当然である。「無溶媒」という用語は,イオン液体の特徴を示すために用いられ,この用語は,(a)イオン液体を溶解させるためのバルク溶媒のみを除外し他の物質(例えば添加物又は電池反応副生成物)に対して溶媒として働くイオン液体自体は除外せず,(b)イオン液体のイオン輸送機能性を改善し,電池の電気化学反応を支持し,及び/又はイオン液体における溶質の溶解性を向上させる単数又は複数の添加物の存在を除外しないものとして理解される。かかる添加物は,他の文脈において又はイオン液体中の溶質に対して理論的には溶媒と見なされうるがイオン液体の溶解のためには機能しないものである(例えば、一部の実施形態において,10〜100ppmの範囲の水が酸素の還元反応を支持するプロトン量を増加させることによる電気化学反応の促進のために用いられるが,水はイオン液体に対しては溶媒として働かない。ただし,水は他の種類の電解液,すなわち電解水溶液において溶媒として機能する。)
【0020】
燃料電極12及び空気電極14は,その外表面24,26を介するイオン液体16の液体透過を防ぐように又は実質的に防ぐように構成される。つまり,この電極の材料は,イオン液体16が電極12,14の厚みを液体として透過してその液体透過によって前記空間から逃げ出すことを防ぐため又は実質的に防ぐために選択される。「実質的に防ぐ」という用語は,空気/酸素を透過させるために用いられる孔が少量の液体透過を許容することに起因して少量の液体透過が起こりうるという事実を受け入れるものであるが,「実質的に防ぐ」とは,発生する液体透過が多量ではなく電池10の動作にほとんど又は全く影響がないことを意味する。
【0021】
電池では低温イオン液体が用いられるので,電解液からのバルク溶媒の蒸発に関連する問題は実質的に排除される。大部分の低温イオン液体の特徴の一つは,低蒸気圧を有することであり(一部の低温イオン液体は標準的な条件において実質的に測定不能な蒸気圧を有する),これによりほとんど又は全く蒸発が起こらない。電池や別体の貯蔵部に時間の経過に伴う蒸発を補償するための余分な溶媒を入れる必要がないので,電池内において比較的少量(場合によっては電気化学反応を支持するために十分な最小限の量でもよい)のイオン液体を用いることで全体の重量及び容積を減少させ,電力容積比/電力重量比を増加させる。また、容積を小さくすることができるため,電池を薄型にし,巻き取り形状や折り畳み形状等の小型形状に構成することが可能となる。
【0022】
また,多くの低温イオン液体は大きな電位窓を有する。すなわち,多くの低温イオン液体は広範囲の電位にわたって安定している。これにより,一部の実施形態においては,イオン液体の消費(例えば,電解水溶液金属空気電池の充電時に水溶媒の酸化に伴って起こる)を最小限に抑えるか又は減少させることができる。このように,イオン液体の消費性の酸化還元は,電池10の放電中又は充電中(もしあれば)に,酸化還元電位のアノード電位及びカソード電位で発生することが望ましい。対照的に,電解水溶液においては,水溶媒は再充電のときに酸化されることが多く,水溶媒は消費されることになる。
【0023】
燃料電極12は,任意の構造及び構成を採ることができる。例えば、燃料電極12は,複数の孔の三次元ネットワークを有する多孔質構造,メッシュスクリーン,互いに別体に構成された複数のメッシュスクリーン等の任意の好適な電極である。燃料電極12は,別体の集電体を備える。または,燃料電極12の燃料を保持する本体が導電性に構成され集電体となってもよい。燃料電極12は,燃料電極12の外表面24を提供する基材にラミネートされ,接着され,又は取り付けられていることが望ましい。この基材は,イオン液体が外表面24を介し燃料電極12を通って外側に透過しないように,イオン液体に対して液体非透過性又は実質的に液体非透過性である。この基材は,電極で放電時に起こる燃料酸化の存在による酸化剤還元等の任意の望ましくない寄生反応を防止できるように,空気特に酸素等の酸化剤に対して非透過性であることがさらに望ましい。
【0024】
任意の種類の金属燃料を用いることができ,金属燃料は,電着,吸着,物理蒸着,又はこれら以外の方法で燃料電極12に設けられ又は燃料電極12を構成する。この燃料は,例えば金属合金又は金属ハイドライドを含む任意の金属であってもよい。例えば、燃料は,亜鉛,鉄,アルミニウム,マグネシウム,ガリウム,マンガン,バナジウム,リチウム,又はこれら以外の任意の金属を含むことができる。本明細書での用法のとおり,金属燃料という用語は,元素金属,分子中で結合した金属,金属合金,金属ハイドライド等の金属を含有する任意の燃料を広範囲に指し示すものである。燃料電極は,一部の実施形態において,電極本体となる金属燃料から構成される。
【0025】
金属燃料及び燃料電極についてのさらに詳細な説明は,米国特許出願第12/385,217号,第12/385,489号,第12/631,484号,第61/329,278号,及び第61/243,970号に記載されている。これらの出願の内容は全体として本明細書に組み込まれる。
【0026】
金属燃料は,遷移金属(すなわち周期表の第3族元素から第12族元素の間の元素)等又はポスト遷移金属(すなわち半金属を除く第13族元素から第15族元素の間の元素)から選択できる。この金属燃料は,アルカリ土類金属(すなわち周期表の第2族元素)から選択することもできる。金属全体を酸化用燃料として利用しエネルギー密度を最大化できるように,金属を実質的に純粋なもの又は純粋なものとしてもよい。
【0027】
本発明の様々な態様においてリチウムを金属燃料として用いることができるが,リチウムは非常に反応性が高く不安定であるため取り扱いが難しい。実際に,リチウムは大気中で非常に反応性が高い。金属空気電池は本質的に空気に晒されるように設計されているので,リチウムの反応性は電池の使用を制限する実際的な課題を提起する。
【0028】
しかしながら,実施形態において,本出願の技術は,例えばマグネシウム,亜鉛,マンガン,ガリウム,及びアルミニウム等のより安全で安定しており扱いやすい金属とともに好適に用いることができる。アルカリ土類金属,遷移金属,及びポスト遷移金属等の金属は,リチウムが含まれるアルカリ金属よりも安定している傾向がある。後述するように,本出願の技術によれば,前述の族の金属を用いることにより,リチウム技術の欠点に対処しなくとも,既存のリチウム−イオン技術又はリチウム−空気技術と同等の又はそれ以上のエネルギー密度を実現することができる。しかしながら,一部の他の実施形態においては,金属燃料の金属としてリチウム等のアルカリ金属を用いることができる。
【0029】
空気電極14は,後述の方法で外表面26に露出された空気,典型的には大気,を吸収するように構成される。空気が外表面に露出されると,空気電極14は,電池10の放電時に酸素を還元するために気体酸素(又は他の酸化剤)を吸収することができる。
【0030】
空気電極14は,電極内で気体酸素を電極の空気側から反応位置へ拡散させるとともに電極の電解液側において反応物質及び反応生成物のためにイオン伝導性を提供するように多孔質に構成することができる。この空気電極は,電解液のウィッキング(すなわち液体透過)を防ぎ又は実質的に防ぐためにイオン液体16との所定レベルの疎溶媒性を有していてもよい。電極内には,高導電性を提供するために集電体が設けられる。材料には,PTFE,FEP,PFA等のカーボン粒子又はその他のフッ素化ポリマー,酸化マンガン,酸化ニッケル,酸化コバルト,又はドープした金属酸化物等の金属酸化物である電解触媒,ニッケル,コバルト,マンガン,銀,プラチナ,金,パラジウム等の金属である電解触媒,又はこれら以外の電気触媒活性物質を含むことができる。これらの例は限定的なものではない。
【0031】
空気電極に関するさらに詳細な説明は本明細書に組み込まれた上述の特許出願に開示されている。
【0032】
電池10は,イオン液体16を収容する燃料電極12と空気電極14との間の空間18をシールするために,燃料電極12及び空気電極14の周囲に沿って単数又は複数のシール部材(不図示)を備えることが望ましい。これらのシール部材は,燃料電極12と空気電極14との間の電気伝導を防ぐ(すなわちショートを防ぐ)ために電気絶縁体である。これらのシール部材は,ロール15として巻き取られる前に,燃料電極12及び空気電極14の外周を保護するために取り付けられる。また,シール部材は,巻き取りを可能にするために柔軟なものである。例えば、シール部材は,クリップ,溶接,圧着構造,接着剤,エポキシ,又はこれら以外の空間18をシールするために好適な構造を採ることができる。
【0033】
電池10は,後述するように電気絶縁体の柔軟なセパレータ28を含む。
【0034】
図2に示されるように,柔軟な燃料電極12,柔軟な空気電極14,及び柔軟なセパレータ28は,柔軟なセパレータ28が燃料電極12及び空気電極14の外表面24,26の間に配置されて燃料電極12及び空気電極14の外表面24,26の間の導電接触を防ぐようにロール15状に巻かれる。つまり,セパレータ28を外表面24,26の一方に接触するように置き,電極12,14の間にイオン液体16をシールし,この電極12,14及びセパレータ28を巻いてロール形状とする。ロール形状に巻かれたこれらの構造の各々は,概ね同一の2次元面積と同一の周方向寸法を有している。セパレータ28と外表面24,26の一方との間に接着剤を設け,ロールの接着及び固定を強化してロールがほどけないようにしてもよい。イオン伝導性媒体は,ガラス又はセラミックのような柔軟な又は脆弱な構造における硬さを有していないので,イオン伝導性媒体は電極及びセパレータ(もしあれば)がロール等の所望の形状に曲がることを許容する。
【0035】
図2に示されたロールは,円筒状のロールである。しかしながら,本発明はこの円筒状のものに限定されない。例えば、ロールは三角形,正方形,長方形,台形,五角形,六角形等の多角形の断面を有する角柱形状であってもよい。このように,ロールという用語は,巻き取られた構造を意味するが,円筒状のロールに限定されるものではない。説明の便宜上,円筒状ではないロールについても,その相対的な方向を示すために,周方向,径方向,及び軸という用語を用いるが,これらの用語を用いた場合であってもロールが円筒形状であることを必ずしも示唆するものではない。
【0036】
セパレータ28は,気体酸素が空気電極14の外表面26に露出することを許容する。特に,セパレータ28は,酸素(純酸素又は酸素を含む大気等)又は他の酸化剤が電池10内で外表面24,26の間を少なくとも軸方向に流れて空気電極14の外表面26に露出できるように設計される。また,セパレータ28は,酸素等の酸化剤が外表面24,26の間を周方向に流れることができるようにする。このように,酸素等の酸化剤が外表面24,26の間を流れることができるようにすることで,当該酸化剤はロールに侵入して還元放電時の吸収のために空気電極14の外表面26に露出されるようになる。
【0037】
セパレータ28の一例は,燃料電極及び空気電極の外表面24,26の間に空間を提供するプリーツを有するポリマーシートである。このポリマーシートは,空気を電池10内で軸方向に案内することもできる。他の例は,縦糸が横糸よりもはるかに細い繊維構造のポリマースクリーンである。このポリマースクリーンは,横糸繊維の間において,ロール内で軸方向又は周方向に方向付けられた選択的な流れの方向を提供する。任意の構造又は構成が用いられる。空気電極の外表面に直接のオープンな空気の流れを許容する空間を提供することにより,または,セパレータ28の多孔質本体を通過する空気の透過を許容することにより,酸素は空気電極外表面へ露出されるようになる。
【0038】
電池10は,イオン液体中で電気化学的に不活性であり電気的絶縁体の柔軟な内部セパレータ(不図示)を任意の手段としてさらに備えることができる。この柔軟な内部セパレータは,ロール15に巻き取られ,燃料電極12及び空気電極14の内面20,22の間の空間18に配置されて,燃料電極12及び空気電極14の内面20,22の間の導電接触を防ぐ。燃料電極12及び空気電極14が空間的に離れた配置を維持するための十分な剛性を有している場合にはこの内部セパレータは不要となるが,電極12,14をショートさせる可能性がある偶発的な接触を避けるために望ましいものである。例えば、内部セパレータは,電極12,14とともにロールに巻くことが可能であり液体16によって燃料電極12と空気電極14との間のイオン伝導性を確立することができる柔軟性を有する開放格子,スクリーン,グリッド等の構造とすることができる。
【0039】
燃料電極12は,放電時に金属燃料を酸化するように構成される。また,空気電極14は,放電時に外表面26から吸収された気体酸素を還元するように構成される。これにより,燃料電極12と空気電極14との間に負荷に電流を流すための電位差が生成され,燃料電極12及び空気電極14における電気化学反応を支持するイオンがイオン液体16によって伝導される。具体的には,電極12,14が,例えば電極12,14の集電体に接続された電極によって負荷に接続される。燃料電極12における燃料の酸化によって電子が負荷を駆動する電流として開放され,燃料の酸化種がイオン液体16に提供される。空気電極14は,負荷から電子を受け取り,酸化された燃料種との反応のために,吸収された酸素を還元して還元された酸化剤種を生成する。これにより,金属酸化物が副生成物として生成される。この反応のうち本明細書で説明の必要がないものに関する詳細な説明については,本明細書に組み込まれた様々な特許出願を参照することができる。
【0040】
イオン液体16は,イオン液体の1atmにおける融点を超える20°Cにおいて1mmHg以下の蒸気圧を有していてもよい。イオン液体の1atmにおける融点を超える20°Cで0.5mmHg以下又は0.1mmHg以下の蒸気圧を有することがさらに望ましい。イオン液体は,イオン液体の1atmにおける融点を超える20°Cで実質的に測定不能で実質的にゼロと見なされる蒸気圧を有することがさらに望ましい。低蒸気圧又は測定不能な蒸気圧の場合には蒸発はほとんど又は全く起こらないため,時間の経過による過度の蒸発を相殺するために余分なイオン液体16を電池や別体の貯蔵庫に入れる必要がなくなる。このように,一部の実施形態においては,電池において,相対的に少量の(電気化学反応を支持するための最低限の量であってもよい)イオン液体16を用いることにより,全体の重量及び容積を削減し,出力容積比/出力重量比を向上させることができる。また、低容積にすることができるため,電池を薄型にすることができ,これにより電池を小型形状に巻き取ったりその他の方法で構成したりすることができる。
【0041】
1atmで20°Cを超えるイオン液体の融点は,便宜上イオン液体の蒸気圧のための基準点として用いられる。電池の動作温度は概してイオン液体の融点以上であるが,一部の実施形態においては実際の動作温度はこれと異なってもよく変動するものであってもよい。動作温度等の動作環境によって変化する基準点を選択した場合とは異なり,1atmで20°Cを超えるイオン液体の融点は,安定して明確な基準点として用いることができる。このように融点が基準点として用いられるとしても,電池がこの温度で用いられなければならないことを意味するものではなく,動作温度はイオン液体の融点以上又はそれ以下の任意の温度とすることができる。
【0042】
動作温度(又は動作温度の範囲内)におけるイオン液体16の蒸気圧も,基準点として用いることができる。このように,一部の実施形態において,電池の動作方法は,融点以上の温度のイオン液体16を用いて実行され,そのときのイオン液体16の蒸気圧は特定の値以下となる。例えば、動作温度における蒸気圧は,1mmHg以下,0.5mmHg以下,0.1mmHg以下,又は測定不能で実質的にゼロであってもよい。温度フィードバックを用いて調節可能なヒーター等のヒーターを用いて,動作温度まで電池及びそのイオン液体を暖めることができ,温度を目標温度に又は目標範囲内に維持することができる。一部の実施形態においてはヒーターは不要であり,電池は標準的な環境条件で動作するように設計される(または,電池はヒーターが不要な高温環境において用いられる)。
【0043】
一部の例示的な実施形態において,燃料電極12と空気電極14との間の空間18は,10ミクロンから300ミクロンの範囲にある。また,10ミクロンから100ミクロンの範囲内,又は10ミクロンから50ミクロンの範囲内であることが望ましい。
【0044】
一部の実施形態において,イオン液体16を使用することにより,電池10の容積対イオン液体厚さの比が比較的高くなる(電極面積とイオン液体面積とは等しいので,同じことが電極容積とイオン液体容積との比に当てはまる)。電極全体の厚さとイオン液体厚さとの比は,1:10〜10:1の範囲内であってもよく,1:1〜10:1,2:1〜10:1,又は4:1〜10:1の範囲内にあることが望ましい。一部の実施形態においては,この比は,1:1以上であってもよく,2:1,4:1,又は10:1以上であってもよく,この比に上限はない。
【0045】
低温イオン液体16としては,室温イオン液体を含む任意の種類のものを用いることができる。低温イオン液体16には,2009年5月11日に出願された米国特許出願第61/177,072に開示された例を含むがそれらに限られない。この米国出願の内容は参照により全体として本明細書に組み込まれる。イオン液体の例には,塩化物アニオン(Cl-),ヘキサフルオロホスファート(PF6-)アニオン,ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(C2F6NO4S2-)アニオン(TFSI),又はトリフルオロメタンスルホナートアニオン(CF3O3S-)と,イミダゾリウムカチオン,スルホニウムカチオン,コリンカチオン,ピロリジニウムカチオン,又はホスホニウムカチオン及びこれらの誘導体との組み合わせが合成された非プロトン性イオン液体を含む。トリエチルアミニウム・メタンスルホナートやジメチルメチルアンモニウム・トリフラート等のプロトン性イオン液体を用いることもできる。水のイオン液体への吸収を防ぐ疎水特性のためには,安定的なフッ素含有イオン(ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等)イオン液体が望ましく,関連する金属カチオンについて高溶解性を有するを有するイオン液体が特に望ましい。
【0046】
一例として,例示的な一実施形態におけるイオン液体は,添加物として溶解した0.5モル亜鉛トリフラートを有するトリエチルアミニウム・メタンスルホナート(TEAMS)であり,亜鉛が金属燃料として使用される。このイオン液体における亜鉛と酸素の半電池反応のポテンショスタット法による研究においては,約1.45Vの電池電位,及び,600Wh/kgを超える推定電池エネルギー密度が示された。0.5モル亜鉛トリフラートを有し50ppmの水が追加された同じTEAMSイオン液体のポテンショスタット法による研究においては,約1.5Vの電池電位が示された。他の非限定的な実施形態において,イオン液体は1.0モルの臭化亜鉛(ZnBr2)が添加物として溶解したTEAMSであり,亜鉛が金属燃料として用いられる。このイオン液体における亜鉛と酸素との半電池反応のポテンショスタット法による研究においては,約1.3Vの電池電位,500Wh/kgを超える推定電池エネルギー密度,亜鉛・酸素反応の比較的高い可逆性が示された。これらの特徴は,二次(充電式)電池にとって有利である。
【0047】
他の例示的な実施形態において,イオン液体は,0.5モルの塩化マンガン(II)(MnCl2)及び50ppmの水を添加物として有する塩化メチルオクチルイミダゾリウムであってもよく,金属燃料としてマンガンを用いることができる。このイオン液体におけるマンガンと酸素との半電池反応のポテンショスタット法による研究においては,約1.5Vの電池電位,及び,約800Wh/kgを超える電池エネルギー密度が示された。さらに他の非限定的な実施形態においては,イオン液体は,5.0モルのAlCl3を添加物として有する1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミドであり,金属燃料としてアルミニウムが用いられる。このイオン液体中のアルミニウムの半電池反応のポテンショスタット法による研究においては,約2.5〜2.8 Vの電池電位,約2500〜3000Wh/kgを超える推定電池エネルギー密度,及びアルミニウム反応の比較的高い可逆性が示された。
【0048】
例示的な他の実施形態において,イオン液体は,添加物として溶解した0.5モルのZnCl2を有するジエチルメチルアンモニウム・トリフラート(DEMATf)であり,金属燃料として亜鉛が用いられる。この実施形態は,約1.3Vの推定電池電位を有する。さらに他の非限定的な実施形態として,イオン液体は,0.5モルのZn(BF4)2(テトラフルオロホウ酸亜鉛)を有するDEMATfであってもよい。この実施形態は,約1.45Vの推定電池電位を有する。
【0049】
さらに他の非限定的な実施形態は,以下のイオン液体,すなわち(a)0.01モルの酢酸マンガン(II)添加物を有し,金属燃料としてマンガンを用いるTEAMS,(b)1.0モルのZnCl2を添加物として有し,金属燃料として亜鉛を用いるジエチルメチルアンモニウム・トリフラート,(c)金属燃料としてガリウムを用いる同量のGaCl3及び1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムクロリド(テトラクロロガリウム酸)を含むことができる。他の実施形態において,イオン液体中でフッ化亜鉛又はジトリフル酸亜鉛を添加物として用いることができる。
【0050】
一部の実施形態において,燃料電極12,空気電極14,及びセパレータ28(及び任意の内部セパレータ)は,長さ方向が幅方向よりも大きな長方形シートとして形成される。この長さ方向は最終的にロール15において周方向になり,幅方向は最終的にロール15において軸方向になる。これにより,ロール15においては「ラップ」,すなわち互いに重複する部分の数が増加し,電池10における二次元電極面積を増加させることができる。
【0051】
電池10は,ロール15を支持するハウジング30をさらに備えてもよい。ハウジング30は,任意の構造及び構成を有することができ,図示されたハウジングは限定的なものではない。ハウジング30は,図示のとおりロール15がハウジング30にぴったり組み込まれるように,ロール15の外径に対応する内径を有する円筒状の構成を有することが望ましい。
【0052】
電池10は,ロール内部の燃料電極12及び空気電極14の外表面24,26の間を気流が通過するように構成された気流生成部32をさらに備えてもよい。気流生成部32を使用することにより,空気を空気電極14の外表面26に供給しやすくなる。気流生成部32は,図示のように電動ファン又は電動インペラであってもよく,送風機やこれら以外の気流を生成するように構成された任意の装置であってもよい。例えば、正圧を発生させる代わりに,吸引機によって空気の流れを作る負圧を発生させることもできる。
【0053】
図3に示されるように,ハウジング30は,ロール15の開口軸方向気流受入端部34及び軸方向気流受入端部36を備えても良い。気流生成部32は,燃料電極12及び空気電極14の外表面24,26の間のハウジングの開口軸方向気流受入端部34及びロール15の軸方向端部36に気流を流すように構成される。ハウジング30は,気流受入端部34と対向する開口軸方向気流放出端部38を備え,ロール15は,ハウジング30の開口軸方向気流放出端部38と対向する軸方向気流放出端部40を備えても良い。気流生成部32は,ロール15の燃料電極12及び空気電極14の外表面24,26の間を通って軸方向に気流を通過させることもでき,ハウジングの開口軸方向気流放出端部38を通過して放出するためにロール15の軸方向気流放出端部40から軸方向外部に空気を流すこともできる。
【0054】
他のアプローチにおいては,図4に示されるように,ロールは,ロール15の最も外側のラップ46において燃料電極12及び空気電極14の端部で定義される周方向気流出口44を備えることができる。このように,気流生成部32は,ロールの軸方向気流受入端部36内に燃料電極12及び空気電極14の外表面24,26の間から気流を流し,周方向気流出口44から外部に空気を流すことができる。このように,空気の流れは,当初は軸方向であるが,ロール15の周方向に抜け出す。これは,ロール15の対向する軸方向端部を封鎖又は遮断する構造によって決定され(例えば、ハウジング30の閉口端部はロール15の対向する軸方向端部を封鎖することができる),これにより周方向気流出口44を通ってロール15から脱出するように空気を流すことができる。
【0055】
ハウジング30の使用は任意である。気流生成部32は,図4に例示されているように,ロール15に直接接続されてもよい。当然ハウジング30を用いることもでき,気流の脱出を許容する好適なポートを任意の好適な場所に設けることができる。図示された例は非限定的なものである。
【0056】
気流生成部32は,図示の通りカウリング48に設けられる。このカウリング48は,図3に示すようにハウジング30の軸方向端部34に取り付けられ,又は図4に示すようにロールの軸方向端部36に直接取り付けられる。図示されたカウリング48及びその使用は任意であり,本発明を限定するものではない。
【0057】
気流生成部の使用は任意であり,電池10は酸化剤(典型的には大気中の酸素)の受動的な輸送によって動作することも可能である。
【0058】
一部の実施形態において,電池は,二次電池又は充電式電池として構成されてもよい。つまり,電源を電極12,14に接続し,酸化しやすい酸素種を酸化して酸素を発生させるとともに還元可能な金属種を燃料電極12に還元して電着することにより,電池を再充電してもよい。放電時に形成された金属酸化物は,還元可能な燃料種(典型的には燃料酸化放電時に生成された燃料種)や酸化可能な酸素種(典型的には放電時の酸素還元時に生成された酸素種)を利用可能にするために再充電時に分離される。空気電極14は,酸化可能な酸素種を酸化するために再充電時にアノードとして機能することが望ましく,燃料電極12は燃料種を還元するためにカソードとして機能することが望ましい。または,酸素発生専用の柔軟な第三の電極を電池10に設け(同じ寸法となる),燃料電極12及び空気電極14とともに巻き取ってロール15としてもよい。電源のアノード電位は,第三の電極に印加され,この第三の電極は酸化可能な酸素種を酸化して酸素を発生させるために機能する。アノードとして機能する空気電極又は第三の電極のいずれかが充電電極と呼ばれる。電池を再充電する機能は任意であり,限定的なものではない。
【0059】
図5は,空気電極14の外表面の部分が互いに向き合うとともに燃料電極12の外表面の部分が互いに向き合うように柔軟な燃料電極12及び柔軟な空気電極14が交互に折り曲げられた電池100の他の実施形態を示す(上述の実施形態と同じ構成を示す際には類似の参照暗号を用いる)。複数のセパレータ102は,空気電極14の外表面の互いに対向する部分の間に少なくとも設けられる。このセパレータ102は,セパレータ28と同様に,典型的には大気中に存在する気体酸素が空気電極14の外表面に露出することができるように構成される。二つの電極が互いに向かい合うロールした構成においては,それらの電極間の接触はショートを引き起こすが,この構成においては電極の一部分と電極の他の部分との接触はショートを引き起こさないため,電気伝導性に関する点は重要性が低い。好適なハウジング又はフレームワークを用いてこの折りたたまれた電池100を収容することができる。
【0060】
また、セパレータ104は,空気又は酸素の流れを許容する必要がなく,燃料電極12の外表面の間に配置して電極の設置を補助することができる。セパレータ104は,支持を提供し及び/又は関連領域における折り曲げが電極に折り目をつけ電極を損傷させる可能性があるほど鋭角になることを防止する,このセパレータ104においては,セパレータ102と同じく,製造が容易であり,製造時に二つの異なるセパレータを区別する必要がない。このように,ロール形状は,電池の唯一の可能な構成ではない。電池10は,他の小型で直線状の構成を有することもできる。例えば,図5に示された交互に折り曲げられた構成やそれ以外の構成を採ることができる。
【0061】
任意の実施形態において,セパレータ28又はセパレータ102を除外することが可能であり,説明した分離(燃料と空気電極外表面との間,又は,隣接する空気電極外表面の一部分の間のいずれか)は,他の構成によって実現することができる。例えば、リテーナーによって,電極を互いに離れた位置に配置することができる。一例として,かかるリテーナーは,ハウジング又はフレーム内に形成された溝もしくは台座,クリップ,位置決め機構,又はその他の同様の機構であってもよく,電極の間又は電極の一部分の間に配置される層や構造である必要はない。
【0062】
一部の実施形態において,電極を巻いたり,折り曲げたり,又はその他の方法で小型に構成することは,扱いやすく実際的な容積において高出力及び/又は高エネルギー密度を実現するために望ましいものではあるが,必ずしもそのような小型構成とする必要はない。低出力及び/又は低エネルギー蓄積用途を含むがこれには限られない一部の実施形態においては,電極を平坦に構成してもよく,これ以外の任意の構成を採ることができる。
【0063】
どのように電池を用いる場合であっても,吸収され空気電極14によって還元される酸素は典型的には大気から得られる。しかしながら,一部の用途においては,酸素富化環境において電池を動作させることが可能である。このように,気体酸素への言及には,大気に自然に存在する酸素と,酸素富化空気,及び気体酸素から成り又は気体酸素を含むこれら以外の任意の形態のいずれもが含まれる。
【0064】
上述の実施形態は,燃料電極と空気電極の両方に接触するイオン液体を有するが,他の実施形態においては,イオン液体を一方の電極(すなわち、燃料電極又は空気電極)のみに接触させ,他のイオン伝導層又は媒体を他の電極に接触させる液体接点や薄く柔軟な透過性膜等のインタフェースを間に設けることも可能である。いずれにせよ,追加の層又は媒体は,インタフェースにおいて使用される膜と同じく柔軟なものである(柔軟な固体/半固体又は内在的に柔軟な液体とする)。追加の層/媒体は,例えば、追加的なイオン液体又は非イオン液体電解液溶液であってもよい。選択された材料や使用された設計手法は,コスト,目標寿命,エネルギー密度,出力密度等を含む様々な要素に基づいて変更することができる。
【0065】
上述の実施形態は,本発明の構造面及び機能面の原理を説明するものに過ぎず,限定的なものとは解されない。逆に,本発明は,特許請求の範囲の趣旨の範囲内にある全ての変更,変形,代替,及び均等物を含むものである。
図1
図2
図3
図4
図5