(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986563
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20160823BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20160823BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20160823BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20160823BHJP
B81C 3/00 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B01J19/00 321
B81C1/00
B81C3/00
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-517389(P2013-517389)
(86)(22)【出願日】2011年7月7日
(65)【公表番号】特表2013-534632(P2013-534632A)
(43)【公表日】2013年9月5日
(86)【国際出願番号】EP2011061533
(87)【国際公開番号】WO2012004353
(87)【国際公開日】20120112
【審査請求日】2014年7月4日
(31)【優先権主張番号】10169186.3
(32)【優先日】2010年7月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509019015
【氏名又は名称】トリネアン・ナムローゼ・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Trinean NV
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】クリス・ナーセンス
(72)【発明者】
【氏名】トニー・モントーイェ
【審査官】
長谷 潮
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−526702(JP,A)
【文献】
特表2002−512783(JP,A)
【文献】
特開2005−334872(JP,A)
【文献】
特表2007−529015(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/014739(WO,A1)
【文献】
特開2006−181407(JP,A)
【文献】
特開2007−089566(JP,A)
【文献】
特開平11−300968(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0213551(US,A1)
【文献】
国際公開第2006/074665(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00−37/00
B01J 19/00
B81C 1/00
B81C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体デバイスにおいて親水効果を得る方法(10)であって、
入口から出口に向かって流体を輸送するチャンネルを含むマイクロ流体デバイスを得ること(20)であって、入口から出口に向かって流体を輸送するための閉じたチャンネルを有するマイクロ流体デバイスを得ること(20)を含む、こと、
チャンネルの壁の少なくとも一部の表面エネルギーを、少なくとも親水効果が望ましい位置において増大させるために、流体チャンネルの入口および/または出口を介してチャンネルにプラズマ処理を局所的に適用することにより、得られたマイクロ流体デバイスに活性化処理を施すこと(40)であって、プラズマ処理の局所的な適用は、マイクロ流体チャンネルの入口および/または出口から所定の深さまでプラズマ活性化および/またはエッチングを適用することによって行われる、こと、ならびに
その後、所定の量の湿潤剤をチャンネルに供給することにより、チャンネルの壁の選択された部分にコーティングを選択的に適用すること(50)であって、コーティングの選択的な適用は、マイクロ流体チャンネルの入口および/または出口から所定の量の湿潤剤をチャンネルに満たすことによって行われ、チャンネルの壁のプラズマが局所的に適用された部分に、コーティングが選択的に適用される、こと
を含む、方法。
【請求項2】
プラズマ処理を適用すること(40)が、チャンネルの壁の一部の表面エネルギーを選択的に増大させるためにプラズマ処理を局所的に適用すること(40)を含む、請求項1に記載の方法(10)。
【請求項3】
プラズマ処理を適用することが、酸素プラズマエッチングを適用すること(40)を含む、請求項1または2に記載の方法(10)。
【請求項4】
所定の量の湿潤剤をチャンネルに供給すること(50)が、親水性部分を有するポリマーコーティングを供給することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法(10)。
【請求項5】
ポリマーコーティングが重合したエチレンオキシドを含む、請求項4に記載の方法(10)。
【請求項6】
ポリマーコーティングが、重合したエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドをベースとするブロック共重合体を含む、請求項4または5に記載の方法(10)。
【請求項7】
壁の親水効果が望ましい部分が、チャンネルの入口および測定前に流体試料を貯蔵するための貯蔵チャンバーを少なくとも含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法(10)。
【請求項8】
入口から出口チャンネルに向かって流体を輸送するチャンネルを含むマイクロ流体デバイスを得ること(20)が、チャンネルの少なくとも第1の部分を形成する、成形された、エンボス加工された又は鋳造された第1のマイクロ流体デバイス基板を得ること(22)と、チャンネルを閉じて閉じたチャンネルを形成するために第1のマイクロ流体デバイス基板の上に上蓋を設けること(24)とを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法(10)。
【請求項9】
流体試料のキャラクタリゼーションを行うためのマイクロ流体デバイス(100)であって、入口から出口に向かって流体を輸送するためのチャンネル(120)を含み、チャンネル(120)は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法を用いることで、チャンネル(120)の壁の選択された部分に親水性コーティング(140)を備える、マイクロ流体デバイス(100)。
【請求項10】
チャンネル(120)が閉じたチャンネル(120)である、流体試料のキャラクタリゼーションを行うための請求項9に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項11】
湿潤剤によるマイクロチャンネルの充填プロセスおよび/またはそのすぐ後の充填深さの変化のモニタリングにより、マイクロ流体デバイスにおいて親水効果を得ることと、マイクロ流体デバイスの流体特性および/またはコーティングプロセスの品質管理を実施することとを組み合わせる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法の使用であって、
親水効果を得ることが、所定の量の湿潤剤をチャンネルに供給することによって行われ、
湿潤剤によるマイクロチャンネルの充填プロセスが、チャンネルにプラズマ処理を局所的に適用した後に行われる、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体キャラクタリゼーションの分野に関する。より具体的には、本発明は、マイクロ流体デバイスを製造する方法およびシステムならびにそのようにして得られるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体のキャラクタリゼーションは、例えば生物学、バイオテクノロジー、化学の分野において、ならびに臨床および医療目的等のため、多種多様な用途に用いられる。これらの用途の多くに提示される要求の1つとして、流体試料を自動的に輸送すること又は試料を特定の位置で保持することに対するニーズが挙げられる。
【0003】
いくつかの用途において、デバイスにおいて試料流体を輸送するのにポンピング手段が用いられる。いくつかの他の用途において、例えば重力または毛細管力に基づく、試料流体の自動的輸送が用いられる。
【0004】
チャンネルの壁が親水性コーティングで被覆され、それにより流体のチャンネル表面との接触角が小さくなり、結果として毛細管力が増大し、従って、自動的充填がより容易になるマイクロ流体デバイスが存在している。親水効果を引き起こすための表面処理の異なる種類の適用、例えば、界面活性剤、プラズマ処理、真空蒸着、親水性モノマーの重合、フィルム表面への親水性部分のグラフティング、コロナまたは火炎処理等の局所的適用等が存在する。
【0005】
プラスチックマイクロ流体部品の大量生産は通常、射出成形、エンボス加工または鋳造に依っており、マイクロ流体回路を封止するためのフォイルラミネーション(foil lamination)プロセスがそれに続く。所望される場合、プラスチックの濡れ性を導入することができる。欠陥が、製造連鎖における種々のレベルにおいて導入され得、マイクロ流体チップの動作不良を引き起こし得る。例えば上述の方法に従って製造されるマイクロ流体部品における共通の欠陥は、マイクロチャンネルの閉塞および漏れである。これらの欠陥は、網羅的に詳述しないが、プラスチックペレットまたはフラグメント、塵埃粒子、加工精度、表面欠陥、原料の品質、…によって引き起こされ得る。
【0006】
十分な品質を保証するために、異なる品質ツールが実施され得る。
【0007】
一般に、例えば顕微鏡のような技術的補助を用いる又は用いない目視検査が、部品を検査するのに用いられる。この種の非破壊検査は、非常に時間がかかり得、人手を要し得、マイクロ流体チップの複雑さに対応しており、チップ性能における特定の欠陥の影響を直接画像分析により必ずしも適切に評価することができないのでエラーを起こしやすい。後者は2つの例を用いて説明することができる。第1の例において、チップボディに粒子が存在する場合における品質の目視検査は、粒子がマイクロチャンネルの内側のチップボディ内に存在し得るので、あるいはそのチャンネルの真上または真下のプラスチック材料内に完全に組み込まれ得るので、複雑になり得る。正確な位置に応じて、チャンネルは完全に閉塞し得、部分的に閉塞し得、または全く妨げられ得ない。目視検査が複雑である品質チェックの第2の例は、マイクロチャンネルの周辺における積層が不十分な場所の発生である。これは、弱く接合した領域が片側においてチャンネル壁に、かつ反対側において外側のチップエッジに確かに接触するように発生し得、それにより真の漏れがもたらされ、あるいは、チャンネルとチップエッジとの間に良好に接合された箔の小片が未だ残っている場合、全く重要でなくなり得る。
【0008】
更に、目視検査は時間を要し、また、この理由により通常は、製造シリーズ全体の検査よりもむしろ、工程モニタリングのためのランダムチェックに限定される。
【0009】
自動化により、労働者の努力および検査時間を減らすことができるが、基本的には上述の試みとおなじ試みに直面するであろう。
【0010】
もう1つの種類の検査として、液体試料をチップに投与し、真の測定または分析をプラットフォームにおいて行う機能試験が挙げられる。漏れおよび閉塞は、それ自体は必ずしも同定されないが、測定データの分析を通じて、チップは欠陥である又は完全に機能的であると見なし得る。1回使用の使い捨てチップに適用される場合、この種の試験は通常破壊的であり、100%の品質管理が得られる可能性が排除される。
【発明の概要】
【0011】
本発明の実施形態の目的は、マイクロ流体デバイスを製造する優れた方法を提供すること及び/又はそのようにして得られるマイクロ流体デバイスを提供することである。
【0012】
本発明の実施形態の利点は、マイクロ流体デバイスの壁を親水性にすることができることである。
【0013】
本発明の実施形態の利点は、マイクロ流体デバイスの壁を強力に親水性にすることができることである。
【0014】
本発明の実施形態の利点は、親水性コーティングの位置が制御可能であり、それにより、マイクロ流体デバイスのより正確な使用が可能になることである。
【0015】
本発明の実施形態の利点は、マイクロ流体デバイスにおける所定の位置への流体の正確な自発的輸送を得ることができ、一方で、流体の更なる自発的な輸送は起こらないことである。
【0016】
本発明の実施形態の利点は、親水処理の局所的適用が利用可能であり、その結果、例えば測定チャンバーの窓における望まない凝縮を低減し得、または回避し得ることである。
【0017】
本発明の実施形態の利点は、マイクロ流体デバイスにおいて長寿命の親水効果が形成可能であり、保管寿命(shelf lifetime)において推定される効果が持続することである。
【0018】
本発明の実施形態の利点は、親水性コーティングの適用が、マスクの適用を必要とすることなく実施可能であることである。
【0019】
本発明の実施形態の利点は、マイクロ流体デバイスに輸送される流体の量を、親水処理の局所化に基づいて決定し得ることである。
【0020】
本発明の少なくともいくつかの実施形態の利点は、完全に又はほぼ完全に組み立てられたマイクロ流体チップにおいて濡れ性が変化し、液体の湿潤剤が湿潤処理の一部であり、品質管理チェックのために本発明の実施形態を使用し得ることである。
【0021】
上述の目的は、本発明の実施形態による方法およびデバイスによって得られる。
【0022】
本発明は、マイクロ流体デバイスにおいて親水効果を得る方法に関し、この方法は、入口から出口に向かって流体を輸送するチャンネルを含むマイクロ流体デバイスを得ること、チャンネルの壁の少なくとも一部の表面エネルギーを、少なくとも親水効果が望ましい位置において増大させるために、得られたマイクロ流体デバイスに活性化処理を施すこと、およびその後、所定の量の親水性試薬をチャンネルに供給することにより、チャンネルの壁の選択された部分にコーティングを選択的に適用することを含む。本発明の実施形態の利点は、マイクロ流体デバイスにおける流体の流路の選択された部分に、安定な親水効果を得ることができることである。本発明の実施形態の利点は、選択された部分が正確に規定可能であり、望まれていない場所における親水効果の導入が回避可能であり、その結果、マイクロ流体デバイスのより正確な操作、例えばそのマイクロ流体デバイスにおいて操作される流体ストップ(fluidic stop)のより正確な操作がもたらされることである。マイクロ流体デバイスを得ることは、入口から出口に向かって流体を輸送するための閉じられたチャンネルを含むマイクロ流体デバイスを得ることを含んでよい。
【0023】
活性化処理を施すことは、例えばプラズマ活性化および/またはプラズマエッチング等のプラズマ処理を適用することを含んでよい。
【0024】
プラズマ処理を適用することは、チャンネルの壁の一部の表面エネルギーを選択的に増大させるためにプラズマ処理を局所的に適用することを含んでよい。
【0025】
プラズマ処理を局所的に適用することは、マイクロ流体チャンネルの入口および/または出口を介して、チャンネルにプラズマ活性化および/またはエッチングを適用することを含んでよい。一の実施形態において、入口側におけるプラズマの浸透は、湿潤剤が容易に導入され得る入口深さを決定する。本発明の実施形態の利点は、チャンネルの全ての壁、即ち側壁、頂壁および底壁に親水効果を提供可能であり、それにより、マイクロ流体デバイスのより一層正確な操作がもたらされることである。
【0026】
プラズマ処理を適用することは、酸素プラズマエッチングを適用することを含んでよい。活性化処理を施すことは、UV放射を用いてデバイスに照射することを含んでよい。所定の量の親水性試薬をチャンネルに供給することは、親水性部分を有するポリマーコーティングを供給することを含んでよい。ポリマーコーティングは、重合したエチレンオキシドを含んでよい。本発明の実施形態の利点は、プラズマ処理、例えばプラズマエッチングと、親水性試薬としての重合したエチレンオキシドの使用との組み合わせにより、チャンネルの必要とされる部分において安定な親水効果を有するデバイスがもたらされることである。ポリマーコーティングは、重合したエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドをベースとするブロック共重合体を含んでよい。壁の親水効果が望ましい部分は、チャンネルの入口と、測定前に流体試料を貯蔵するための貯蔵チャンバーとを少なくとも含んでよい。本発明の実施形態の利点は、正確かつ完全な貯蔵室の充填が、本発明の実施形態を用いて導入可能であるような安定かつ正確な親水効果を用いて得られてよいことである。入口から出口チャンネルへと流体を輸送する閉じたチャンネルを有するマイクロ流体チャネルを得ることは、チャンネルの少なくとも第1の部分を形成する、成形された、エンボス加工された又は鋳造された第1のマイクロ流体デバイス基板を得ることと、チャンネルを閉じて閉じたチャンネルを形成するために第1のマイクロ流体デバイス基板の上に上蓋を設けることとを含んでよい。
【0027】
本発明はまた、流体試料のキャラクタリゼーションを行うためのマイクロ流体デバイスに関し、マイクロ流体デバイスは、入口から出口に向かって流体を輸送するためのチャンネルを含み、チャンネルは、上述の方法を用いることで、チャンネルの壁の選択された部分に親水性コーティングを備える。チャンネルは、閉じたチャンネルであってよい。
【0028】
本発明はまた、マイクロ流体デバイスにおいて親水効果を得ることと、マイクロ流体デバイスの流体特性および/またはコーティングプロセスの品質管理を実施することとを組み合わせるための、上述の方法の使用に関する。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態の特定の且つ有利な態様は、添付の従属請求項に提示されている。従属請求項からの特徴は、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と必要に応じて組み合わせてよく、請求項において明示的に提示されるものだけではない。
【0030】
本発明のこれらの態様および他の態様は、下記の(1以上の)実施形態から明らかであり、また、下記の(1以上の)実施形態を参照して明らかとなるであろう。本発明の実施形態は、マイクロ流体の改良されたキャラクタリゼーションをもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態による、マイクロ流体デバイスの選択された部分において親水効果を得るための例示的方法のフローチャートを示す。
【
図2】
図2aおよび
図2bは、本発明の一の実施形態による、マイクロ流体デバイスの選択された部分において親水効果を得るための例示的方法の多数の工程を概略的に説明する。
【
図3】
図3は、本発明の一の実施形態によるマイクロ流体デバイスであって、親水性コーティングがデバイスの選択された部分に適用される、マイクロ流体デバイスを説明する。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態による局所的親水性コーティング処理を用いて作製されるマイクロ流体デバイスに関するマイクロ流体デバイス充填と、デバイスの一部を親水性にするのにプラズマ処理のみを適用する非局所的親水性コーティング処理を用いて作製されるマイクロ流体デバイスに関するマイクロ流体デバイス充填との比較を説明している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図面は概略に過ぎず、限定的なものではない。図面において、構成要素のいくつかのサイズは、例示的な目的で誇張されていることがあり、スケール通りに描画されていないことがある。請求項におけるいずれの参照記号も、範囲を限定するものとして解釈するべきでない。異なる図面において、同じ参照記号は同じ又は類似の構成要素を示している。
【0033】
図面および前述の説明において本発明を詳細に説明し且つ記載するが、そのような説明および記載は、実例または例示的なものであり、本発明を限定するものではないと考えられる。本発明は、開示される実施形態に限定されるものではない。当業者は、特許請求の範囲に記載の発明の実施において、図面、開示事項および添付の特許請求の範囲の研究から、開示される実施形態に対する他の変形を理解することができ、実行することができる。特許請求の範囲において、語「含む」は他の構成要素または工程を排除するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は複数を排除するものではない。単一のユニットが、特許請求の範囲に記載の複数の事項の機能を果たしてよい。前述の記載は、本発明のある実施形態を詳述する。尤も、前述の事項が文中にどんなに詳細に載っていようとも、本発明は多数の方法で実施してよく、従って、開示された実施形態に限定されるものではないことが理解されるであろう。本発明のある特徴または態様を説明する際に特定の専門用語を使用することは、その専門用語が、専門用語に関連する本発明の特徴または態様のいずれの特定の特性も含むよう限定されるように本明細書において再規定されることを意味すると解釈するべきではないことに留意すべきである。
【0034】
本発明の実施形態においてプラズマ処理に言及する場合、プラズマエッチングおよび/またはプラズマ活性化、即ち、プラズマを用いて処理される表面におけるラジカルの生成に言及してよい。
【0035】
本発明の実施形態において表面エネルギーが増大した壁または表面エネルギーを増大させる工程に言及する場合、処理されていない壁と比較して、より高い表面エネルギーを付与することによる活性化された壁または壁の活性化に言及する。それにより、処理された壁は、活性化された壁と呼んでもよく、プラズマ処理、UV放射等を用いて処理または活性化してよい。
【0036】
本発明の実施形態においてコーティングに言及する場合、これは、層の適用、フィルムの適用等も包含する。換言すれば、専門用語「コーティング」、「フィルム」、「層」等は、マイクロ流体デバイスの壁に対して又は壁の上に材料を加えることを指すのに使用してよい。
【0037】
本発明の実施形態において湿潤剤に言及する場合、後者は、親水性材料、洗浄剤、両親媒性材料等を包含する。従って、いくつかの実施形態において、湿潤剤は、好都合には親水性試薬であってよい。
【0038】
本発明の実施形態においてマイクロ流体デバイスに言及する場合、マイクロ流体試料のキャラクタリゼーションを行うためのデバイスに言及し、デバイスは、試料を基板に輸送するための少なくとも1つのチャンネルを含む。本発明の実施形態は、マイクロ流体デバイスの容積およびそれに対応する測定可能な試料の体積によって限定されるものではないが、本発明の実施形態は、高精度が必要とされる場合、例えば小さい体積の流体を研究する必要がある場合に特に有利である。小さい体積は、0.2μl〜7μl、有利には1μl〜5μl、より有利には1μl〜3.5μlを意味してよい。マイクロ流体試料のキャラクタリゼーションは、特定の構成要素の存在の検出、特定の構成要素の濃度の測定、特定の反応の発生の測定等を含んでよい。そのようなキャラクタリゼーションは、例えば、生物学、バイオテクノロジー、化学の分野、臨床分野および/または医療分野を含んでよい。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態において閉じたチャンネルに言及する場合、流体が入るための入口と、流体を取り出すための出口とを有するチャンネルに言及し、チャンネルは更に、全ての側において壁に囲まれており、即ち閉じられており、より具体的には、側壁、底壁および頂壁を有する。これは、例えば、入口および出口に加えて頂壁も欠けているオープンチャンネルと対照的である。
【0040】
第1の態様において、本発明は、マイクロ流体デバイスにおいて親水効果を得る方法に関する。入口から出口に向かって流体を輸送するためのチャンネルを含むマイクロ流体デバイスが得られる。いくつかの実施形態において、チャンネルが閉じたチャンネルであるマイクロ流体デバイスが得られる。マイクロ流体デバイスは、更なるチャンバーおよび/または特徴、例えば流体ストップ、測定チャンバー、ベント、反応チャンバー、混合チャンバー等を含んでよく、それらは、チャンネルの一部に位置してよく、またはマイクロ流体デバイスにおいて更に下流に存在してよい。親水効果を得るために、本発明の実施形態による方法は、チャンネルの壁の少なくとも一部の表面エネルギーを、少なくとも親水性コーティングが必要とされる位置において増大させるために活性化処理を適用する第1の工程を含む。いくつかの実施形態において、活性化処理は、有利にはプラズマ処理であってよい。本発明の実施形態はそれに限定されるものではないが、例えば、UV放射を用いた照射を実施してもよい。方法は、所定の量の湿潤剤をチャンネルに供給することによりチャンネルの壁の選択された部分にコーティングを選択的に適用する第2の工程を、前記活性化処理の後に更に含む。いくつかの実施形態において、湿潤剤は、例えば自動的充填を導くために、例えば下流の経路の初めの部分が親水性被覆されるように、入口から所定の量の湿潤剤をチャンネルに満たす(または充填する)ことにより適用してよい。活性化処理(例えば、プラズマエッチングのようなプラズマ処理)を先ず実施し、その後、所定の量の湿潤剤を供給する2段階プロセスで親水効果を得ることは、所定の量の湿潤剤を正確に満たす(または充填する)ことが可能になり、適切な所定の量の選択により壁のどの部分に安定な親水性コーティングを供給するかが正確に決定されるので、有利である。それにより、活性化処理自体は安定な親水性コーティングをもたらさないが、チャンネルを湿潤剤で満たすのに有利に役立つ。従って、活性化処理は、チャンネルにおける湿潤剤の自己充填に有利に役立ち、よって、全ての又はほぼ全ての所定の量の湿潤剤がチャンネルに吸い込まれるであろう。
【0041】
いくつかの実施形態によれば、壁の表面エネルギーを増大させるために活性化処理を適用することは、局所的に、即ち、実質的に、最終的に親水性コーティングが存在すべき位置においてのみ実施してよい。さもなければ、チャンネルに所定の量の湿潤剤を入れることによるコーティングの局所的適用と組み合わされた、事前の全体的な活性化処理もまた、最終的な親水性コーティングの良好な安定性および正確な位置調整をもたらし得る。全体的な活性化処理を事前に実施する場合、有利なことに、表面エネルギーの増大の寿命は短く選択され、その結果、親水性は、湿潤剤をチャンネル内に供給することによるコーティングの選択的適用を受ける部分によって長期間決定され、活性化処理を受けた全ての部分によって決定されない。
【0042】
従って、本方法は、チャンネルの一部、例えば、チャンネルの下流の1の地点までのチャンネルの全ての壁に存在する親水性コーティングをもたらす。得られる親水性コーティングは、良好な安定性を有し、かつ正確に位置調整可能であるので有利である。
【0043】
更に、親水性コーティングを、存在すべき領域、例えば意図するより更に下流でない領域に正確に限定し得ることがわかった。この領域は、入口において投与される湿潤剤の量、従って湿潤剤を満たすことができるチャンネル容積によって規定される。親水性コーティングに関して良好な均一性が得られることがわかった。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態の利点は、閉じたチャンネルを含むデバイスにおいて活性化処理およびコーティングが実施されることであり、それにより、チャンネルの選択された部分に対して全ての壁を被覆し得ることが可能になる。
【0045】
例として、本発明の実施形態はこれに限定されるものではないが、マイクロ流体デバイスにおいて親水効果を与える例示的方法を以下に論じ、標準的およびオプションの工程を示す。好ましい活性化処理であるプラズマ処理、例えばプラズマエッチングを参照して例示的方法を説明するが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、変更すべきところは変更して、活性化処理工程としてUV放射を用いて適用することができる。
図1aにおいて、マイクロ流体デバイスにおいて親水効果を与えるための例示的方法10のそのような標準的工程およびオプションの工程を示すフローチャートが与えられる。親水効果を得るための例示的方法のいくつかの工程を示す
図2aおよび
図2bも参照する。
【0046】
第1のオプションの工程において、方法は、閉じたチャンネルを含むマイクロ流体デバイスを得ること20を含む。そのような閉じたチャンネルは、流体試料を入れるための入口と、流体試料および/または流体試料が入ることにより置き換えられる流体を取り出すための出口とを含み、更に、流体試料を輸送するようになっており、それにより、チャンネルは他の全ての側において壁に囲まれている。マイクロ流体デバイスを得ることは、既製のマイクロ流体デバイスを購入すること、またはそのようなマイクロ流体デバイスを製造することを包含してよい。本発明の実施形態によれば、マイクロ流体デバイスは、任意の適切な方法、例えば、スプレー鋳造、フライス加工、成形、積層、熱成形、エンボス加工等またはそれらの組み合わせ等により作製してよい。マイクロ流体デバイスは、任意の適切な材料、例えばポリマー、ガラス、石英、シリコン、ゲル、プラスチック、樹脂、炭素、金属等から作製してよい。いくつかの例において、環状オレフィン共重合体(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)、ポリカーボネート、アクリレート、ポリプロピレン、SU−8等を用いることができる。いくつかの実施形態における製造は、成形された、エンボス加工された又は鋳造された第1のマイクロ流体デバイス基板を得る工程22と、マイクロ流体デバイスを閉じて閉じたチャンネルを形成するために第1のマイクロ流体デバイス基板の上に上蓋を設ける工程24とを含み得る。
【0047】
第2のオプションの工程30において、方法は、例えば製造工程により導入される望ましくない残余を除去するために、得られたマイクロ流体デバイスを洗浄することをオプションで含んでよい。
【0048】
本発明の実施形態による第1の本質的な工程において、方法は、チャンネルにおける壁の表面エネルギーを増大させるために活性化処理を施すこと、例えば、プラズマエッチングのようなプラズマ処理をチャンネルの壁に適用することを含む。例えばプラズマエッチング等のプラズマ処理は、局所的または全体的であってよい。有利な実施形態において、プラズマ処理、例えばプラズマエッチングは、局所的に適用してよい。閉じたチャンネルの壁の一部は、マイクロ流体デバイスにおける所定の地点より上流の閉じたチャンネルの壁の全てであってよい。活性化された壁と活性化されていない壁との間の変換点は、変換が徐々におこる変換領域であってよいことに留意するべきである。それにもかかわらず、変換領域は、活性化された壁を有する領域よりも実質的に小さい。プラズマ処理、例えばプラズマエッチングを局所的に適用することにより、壁の一部の表面エネルギーを選択的に増大させ得る。本発明の実施形態によるプラズマ処理、例えばプラズマエッチングの局所的適用は、上蓋を用いてマイクロ流体デバイスを閉じた後に実施される。このようにして、閉じたチャンネルを形成することができ、所望であれば、チャンネルの全ての壁にプラズマ処理、例えばプラズマエッチングを適用することができる。異なる種類のプラズマ処理、例えば、酸素、空気、窒素、アルゴンまたは他のガスをベースとするプラズマエッチングもしくはプラズマ活性化等を用いることができる。一の有利な実施形態において、酸素プラズマエッチングが実施される。プラズマ処理は表面修飾をもたらし、これを、壁を親水性にする表面活性化とも呼ぶ。例えば、O
2プラズマの場合、酸素原子は壁に衝突し、切断された化学結合を表面に残す。表面のラジカルは、壁を親水性にする。これらのラジカルは雰囲気と容易に反応するので、壁の活性化は、雰囲気中の構成要素との反応により中和され、その結果、影響は一次的なものとなる。別法として、そのような表面ラジカルを形成するために、UV光および/または放射を用いることもできる。例として、プラズマ処理を適用することが実施されるプロセスステップを
図2aに示すが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。
図2aにおいて、投入ウェル(input well)110、閉じたチャンネル120、測定チャンバー150および流体ストップ160を有するマイクロ流体デバイス100を示す。更に、プラズマを提供し得るプラズマ発生手段300またはプラズマ発生器が設けられ、この例においては、プラズマは、閉じたチャンネルの下流の所定の深さまでマイクロ流体デバイスに入ることができる。深さは、プラズマ粒子のエネルギー、粒子の種類、プラズマシステムにおける真空圧、発生したプラズマラジカルの量、処理の継続時間等によって決定され得る。
【0049】
プラズマ処理を適用した後に、本発明の実施形態は、所定の量の湿潤剤をチャンネルに供給することにより、表面エネルギーが増大している選択された壁130に親水性コーティングを適用する第2の本質的な工程も含む。換言すれば、チャンネルの、壁に湿潤剤を供給すべき部分が溶液で満たされるように、溶液中の湿潤剤を所定量、チャンネルに供給する。次いで、湿潤剤は、表面エネルギーが増大しているチャンネルの壁と相互作用し、壁に親水性コーティングを形成する。チャンネルは閉じたチャンネルであってよい。活性化処理を局所的に適用する場合、3つの可能な状況が起こり得る:(A)(
図2Bに示すように)使用する湿潤剤の量によって決定される親水性コーティングの深さに対応するように、活性化処理を局所的に適用する;(B)壁の、湿潤剤による親水性コーティングで被覆する必要がある部分のみにおいて、活性化処理により表面エネルギーが増大し、その結果、壁の表面エネルギーが増大していない部分に対してより低速の充填がもたらされるように、活性化処理を局所的に適用する。;(C)活性化処理によって導入される一時的な親水効果自体は安定でなく消失するので、使用する湿潤剤の量によって規定される壁の親水効果を最終的にもたらすであろう親水性コーティングを供給する必要がある壁よりも多くの壁が増大した表面エネルギーを有するように、活性化処理を局所的に適用する。例として、親水性コーティングを局所的に供給することを実施するプロセスステップを
図2Bに示す。湿潤剤として使用してよい典型的な材料は、親水性部分を有するポリマーコーティング、例えば重合したエチレンオキシド(例えばポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール等)を含むポリマー等である。親水性コーティングは、例えば親水性ポリマー、例えばポリアルキレングリコールおよびアルコキシポリアルキレングリコール;メチルビニルエーテルおよびマレイン酸の共重合体;無水マレイン酸ポリマー;ポリエチレンオキシド等のポリアルキレンオキシド;ポリ((メタ)アクリル酸);2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル置換の低分子量アルキル(メタ)アクリレートのポリマー;ポリビニルアルコール、親水性ポリアミド;ポリ(メタ)アクリルアミド;ポリ(N−イソポリ(メタ)アクリルアミド);ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)およびポリ(ビニルスルホン酸ナトリウム);ポリ(3−ヒドロキシ酪酸);ポリビニルピロリドン等のポリ(N−ビニルラクタム);親水性ポリウレタン;ポリエチレンイミン;ポリ((メタ)アクリル酸ナトリウム);メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース;ポリビニルスルホン酸;ヘパリン;デキストランおよび硫酸デキストランならびに他の修飾デキストラン;ポリ(サッカリド);硫酸コンドロイチン;レシチン;ポロキサマー;ならびにこれらの混合物および共重合体のような親水性ポリマーであってよい。いくつかの実施形態において、コーティングは溶液中の溶媒を蒸発させることにより形成してよい。他の実施形態において、湿潤剤は、壁、即ち表面エネルギーの増大した壁と相互作用し、その壁に結合し、その結果、例えばポンピングまたは蒸発により流体を取り除くと、親水性コーティングが残る。
【0050】
プラズマ処理を局所的に適用することと親水性コーティングを適用することとの組み合わせにより、有利なことに、安定かつ均一で正確に位置調整された親水効果がマイクロ流体デバイスにもたらされ、その親水効果はデバイスの特定の領域に正確に限定することができ、保管寿命が長く且つ良好な均一性を有する。
【0051】
更なるオプションの工程において、マイクロ流体デバイスは、親水化プロセスの残存部を除去するために洗浄され、かつ/または例えば反応物質等を導入することにより更に使用の準備がされる。
【0052】
本発明の実施形態の利点は、所定の量の湿潤剤の供給により、マイクロ流体デバイスの機能化の検査を提供し得ることである。湿潤剤を適用して湿潤剤の充填挙動を検査することにより、チップ内の不規則性(または凹凸)に起因する流体の流れの閉塞が存在するか否かを、湿潤剤が適用されていない更に下流にこの閉塞が位置している場合であっても検査することができる。後者は、親水性コーティング工程が閉じたチャンネルのマイクロ流体デバイスにおいて実施されるマイクロチップに関して特に興味深い。
【0053】
一の実施形態において、湿潤剤でマイクロチャンネルを満たす工程は、マイクロ流体デバイスの品質をモニタリングするのに用いられる。例えば、湿潤剤によるマイクロチャンネルの充填プロセ
スおよび/またはそのすぐ後の充填深さの変化
のモニタリングにより、非破壊機能性検査を実施することができる。マイクロチャンネルにおいて目詰まりおよび/または漏れが存在しているかを、充填速度、液体の前面のメニスカスの最終的な位置および/または注入直後のそれらの位置の変化等に基づいて検証するために、コンピュータを利用した動作分析ツールを用いることができる。モニタリングおよび分析は、公知の最新式のソフトウェアツールを用いて実施してよい。それは、コーティングプロセスの間にリアルタイムで実施することができ、従って、製造シリーズ全体を全て検査する(100%品質管理)のに適している。更に、この技術は、機能的な影響に不確かさが残らないので、目視検査よりもエラー率がかなり低いだろう。本発明の実施形態の利点は、品質検査を製造プロセスの間(即ちウェッティングプロセスの間)に実施することができることである。ウェッティングプロセスの間の品質検査により、コーティングプロセス自体を検査することも可能である。プラズマ処理が浅く適用されすぎ、従って十分に深く適用されない場合、後者は、充填中にメニスカスが移動する速度の低下によって見ることができ、従ってモニタリング可能である。プラズマ処理とウェッティングとの組み合わせが保管寿命にかなり影響を及ぼすので、プラズマ処理を検査することが有利である。一の実施形態において、品質管理を実施するようにプログラムされたシステムもまた、本発明により想定される。そのようなシステムは、品質検査を実施するようになっていてよく、例えば品質検査を実施するようにプログラムされてよい。それは、所定のルールに従って、所定のアルゴリズムに従って、および/またはニューラルネットワークを用いてプログラムしてよい。
【0054】
第2の態様において、本発明は、流体試料のキャラクタリゼーションを行うためのマイクロ流体デバイスに関する。本発明の実施形態によるマイクロ流体デバイスは、入口から出口へ流体を輸送する閉じたチャンネルを含み、閉じたチャンネルは、閉じたチャンネルの壁の選択された部分に親水性コーティングを備えている。従って、親水性コーティングは、第1の態様による少なくとも2段階の方法を用いて得られる。例として、本発明の実施形態は本発明を限定するものではないが、マイクロ流体デバイスの一例を
図3に示す。
【0055】
図3は、キャラクタリゼーションすべき流体試料を投入するための投入ウェル110を含むマイクロ流体デバイス100を示す。投入ウェル110は、試料流体を収容し得るような形状であってよい。この例のマイクロ流体デバイス100は、閉じたチャンネル120を含む。閉じたチャンネルは、例えば投入ウェル110における入口から、例えば測定チャンバー150への出口に流体試料を導くようになっている。閉じたチャンネルは、貯蔵室および/もしくは試薬室および/もしくは混合室を含んでよく、またはそれらに接続してよいが、本発明の実施形態はそれに限定されるものではない。閉じたチャンネルにおいて、流体がマイクロ流体デバイスのより下流に自発的に流れるのを防ぐために、流体ストップ160がオプションで存在してもよい。本発明の実施形態によれば、親水性コーティング140は、閉じたチャンネルの壁の一部、例えば、マイクロ流体デバイスにおけるある地点より上流における閉じた流体チャンネルの全ての壁に適用される。それにより、閉じたチャンネルの壁の親水性コーティング140が適用された部分は、先ず、プラズマエッチングのようなプラズマ処理またはUV放射等の活性化処理を用いて、増大した表面エネルギーを有するように処理された(表面エネルギーが増加した壁120として示される)。表面エネルギーが増大した表面と、親水性コーティングとを組み合わせることにより、より安定なコーティングがもたらされ、且つ親水性コーティングが所望の位置にのみ存在し、測定室における窓または流体ストップ等のシステムの他の構成要素に影響を及ぼさないような、親水性コーティングのより良好な位置調整の可能性がもたらされる。親水性コーティングの適用により、通常、90°より小さい接触角が得られてよい。いくつかの実施形態において、親水性コーティングは、80°〜0°、例えば40°〜80°または例えば50°〜70°の接触角が得られるように選択してよい。流体を補助的に制御するための追加の特徴、例えばアンチウィッキング構造等を使用してもよい。本発明の実施形態の利点は、親水性コーティングの適用を正確に空間的に限定し得ることである。親水性コーティング140は、例えば、投入ウェル110および閉じたチャンネルの一部、例えば貯蔵チャンバー等においてのみ適用されてよい。マイクロ流体デバイスは、キャラクタリゼーションを独立して実施し得る複数のチャンネルを含むマルチチャンネルデバイスであってよい。マイクロ流体デバイスは、例えば、少なくとも8のチャンネル、少なくとも16のチャンネル、少なくとも32のチャンネル、少なくとも96のチャンネルまたは少なくとも384のチャンネルを含んでよい。
【0056】
本発明の一の特定の実施形態において、閉じたチャンネルは貯蔵チャンバーを含み、投入ウェルに入れられた流体は、入れられるとすぐに、自発的かつ即座に貯蔵チャンバーに輸送される。実質的に全量の流体を輸送することは、投入ウェルに収容された液体の少なくとも80%、より有利には、投入ウェルに収容された液体の少なくとも90%を意味する。本実施形態による自発性は、毛細管力に基づき得、即ち、外力により力を導入する必要がない。本発明の実施形態によれば、「投入ウェルに液体の量を収容すると」は、そのような自発的な輸送が、投入ウェルにおいて蒸発が実質的に起こらないような十分短い時間内、例えば、液体が投入ウェルに導入される瞬間から上限120秒の時間、またはより有利には液体が投入ウェルに導入される瞬間から上限60秒の時間、一層有利には液体が投入ウェルに導入される瞬間から上限30秒またはより一層有利には15秒の時間内に起こってよいことを意味する。本発明の実施形態の利点は、本発明による安定な親水性コーティングを用いることにより、貯蔵チャンバーの正確かつ高速な充填を得ることができ、その結果、そのような実施形態の、数ヶ月またはそれより長期間にわたる良好かつ信頼性の高い操作がもたらされることである。
【0057】
例として、本発明の実施形態はそれに限定されるものではないが、いくつかの実験結果を更に論じる。人工的にエージングしたマイクロ流体チップを調査し、そのマイクロ流体チップにおいて、被覆されたキャピラリーチャンネルにおける湿潤剤の供給と組み合わせたプラズマ処理を用いて、コーティングを適用した。60℃で数ヶ月加熱保存した後、マイクロ流体チップは、未だ100%自己充填し、充填速度が実質的に減少しなかった。キャピラリーチャンネルにおけるコーティングの長さは、プラズマ処理の影響が実質的に低減した後に測定した場合、湿潤液(wetting liquid)の量で規定される。最新式の液体ディスペンサーを用いることにより、高い再現性および正確性で湿潤剤を投与することが可能である。このことは、多数のプロセスパラメータに依存し且つより低い均一性を示すであろうプラズマ処理によるチャンネルにおける親水処理の長さとは対照的である。更に、プラズマ処理したチップは、数日、数週間または数ヶ月後に100%の自己充填に達しない可能性が非常に高く、かつ試料を充填する際に充填速度がより遅くなってしまうであろう。
【0058】
更に、乾燥した湿潤剤は、チャンネル表面が平滑でなく、小さいバリがある等の場合であっても、自己充填を確保することができる。本発明の実施形態による方法を用いた親水性コーティングの適用の効果は、非局所的処理を施すことによる親水性コーティングの適用とは対照的に、入口を通る流体による充填によって見ることができる。本発明の実施形態により作製されたデバイスに対して、入口を介してマイクロ流体デバイスを満たすことにより、チャンネルの親水性被覆された部分への試料の自動的輸送がもたらされたが、一方、非局所的処理(例えばプラズマのみ)が施されたデバイスに対しては、測定チャンバーにおける試料の凝縮(2.5μlにおける)または測定チャンバーの望ましくない充填(4μlにおける)がもたらされた。より小さい体積(1μlおよび2μl)に関しては、効果は見られなかった。後者を
図4に示す。
【0059】
プラズマコーティングを、充填による異なる湿潤剤の添加、即ちポリエチレングリコールPEG溶液またはポリソルベート80溶液(TWEEN)の充填と組み合わせた、更なる実験結果が得られた。プラズマコーティングと充填による湿潤剤の適用との組み合わせを用いることにより、両方の場合において、マイクロ流体デバイスに対する十分な自己充填がもたらされたことに気づくことができる。プラズマ処理が実施されなかった、またはプラズマ処理を用いたコーティングプロセスのみが実施された(即ち、充填による湿潤剤の局所的適用のない)比較結果は、実質的により良好な自己充填特性が生じたことを示した。プラズマコーティングとPEGとを組み合わせた場合、PEGのみ(コーティング)の場合と比較して、コーティングのより均一な分布が得られた。この改良結果は、使用した湿潤剤の各々に対して得られ、従って、使用した湿潤剤にはそれほど強く依存しないように思われた。
【0060】
更にもう1つの態様において、本発明は、マイクロ流体試料のキャラクタリゼーションのためのキャラクタリゼーションシステムに関し、このシステムは、上述の実施形態において説明したマイクロ流体デバイスを含む。システムは、従来技術において公知のマイクロ流体キャラクタリゼーションシステムの常套的かつオプションの構成要素、例えばコントローラ、照射源、ポンピングユニット、流体導入手段、検出器または検出手段、プロセッサ等を更に含んでよい。