【文献】
CANCER RESEARCH,2000年,Vol. 60,p. 5479-5487
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
損傷した筋組織を有する対象において筋肉を修復または再生するための組成物において使用するためのレチノイン酸受容体γ(RARγ)アゴニストの使用であって、該RARγアゴニストがRARγ選択的アゴニストまたはRARγ/β選択的アゴニストである、前記使用。
筋肉を損傷させるミオパシーを有する対象において筋組織の損傷を低減させるための組成物において使用するためのレチノイン酸受容体γ(RARγ)アゴニストの使用であって、該RARγアゴニストがRARγ選択的アゴニストまたはRARγ/β選択的アゴニストである、前記使用。
損傷した筋組織を負ったことに起因して対象において内因性のレチノイドシグナル伝達が増強している期間に投与を開始する、請求項1〜11のいずれか1項記載の使用。
RARγアゴニストが、CD-271(6-(4-メトキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-394;CD-437(6-(4-ヒドロキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-1530(4-(6-ヒドロキシ-7-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル-2-ナフタレニル)安息香酸);CD-2247;パロバロテン(4-[(E)-2-[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-3-(1H-ピラゾル-1-イルメチル)-2-ナフタレニル]-エテニル]-安息香酸);BMS-270394(3-フルオロ-4-[(R)-2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);BMS-189961(3-フルオロ-4-[2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);CH-55(4-[(E)-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-フェニル)-3-オキソ-プロペニル]-安息香酸);ならびにそのエナンチオマー、および薬学的に許容される塩からなる群より選択される、請求項1〜16のいずれか1項記載の使用。
RARγアゴニストが、4-[(E)-2-[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-3-(1H-ピラゾル-1-イルメチル)-2-ナフタレニル]-エテニル]-安息香酸またはその薬学的に許容される塩である、請求項17記載の使用。
RARγアゴニストが、CD-271(6-(4-メトキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸)またはその薬学的に許容される塩である、請求項17記載の使用。
RARγアゴニストが、CD-437(6-(4-ヒドロキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸)またはその薬学的に許容される塩である、請求項17記載の使用。
RARγアゴニストが、CD-1530(4-(6-ヒドロキシ-7-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル-2-ナフタレニル)安息香酸)またはその薬学的に許容される塩である、請求項17記載の使用。
RARγアゴニストが、BMS-270394(3-フルオロ-4-[(R)-2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸)またはその薬学的に許容される塩である、請求項17記載の使用。
RARγアゴニストが、BMS-189961(3-フルオロ-4-[2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸)またはその薬学的に許容される塩である、請求項17記載の使用。
RARγアゴニストが、CH-55(4-[(E)-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-フェニル)-3-オキソ-プロペニル]-安息香酸)またはその薬学的に許容される塩である、請求項17記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明の局面は、レチノイン酸受容体γ(RARγ)アゴニストに対する短期間または長期間の曝露によって、前駆体幹細胞の筋分化を誘導することができるという発見に関する。したがって、1つの局面において、本発明は、損傷した筋組織を有する対象にレチノイン酸受容体(RAR)アゴニストの治療的有効量を投与する段階を含む、対象の損傷した筋組織を修復または再生する方法を提供する。
【0018】
本明細書において用いられる「損傷した筋組織」という用語は、例として身体の損傷または事故、疾患、感染、酷使、血液循環の喪失により、または遺伝的もしくは環境的要因により変化している骨格筋または心筋などの筋組織を意味する。損傷した筋組織は、ジストロフィー筋または加齢筋でありうる。筋損傷の例示的な症状には、腫脹、挫傷または発赤、損傷の結果としての開放性傷口、安静時痛、特定の筋肉またはその筋肉に関連する関節を用いた場合の疼痛、筋肉または腱の虚弱、および筋肉を全く使うことができないことが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0019】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、損傷した筋組織は、筋萎縮/消耗に起因する。本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、損傷した筋組織は、身体の損傷に起因する。
【0020】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、損傷した筋肉は骨格筋である。
【0021】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、損傷した筋組織を生じる疾患はミオパシーである。ミオパシーは、先天性ミオパシーまたは後天性ミオパシーでありうるが、これらに限定されるわけではない。例示的なミオパシーには、ジストロフィー、ミオトニー(神経筋緊張症)、先天性ミオパシー(たとえば、ネマリンミオパシー、マルチコア/ミニコアミオパシー、中心核ミオパシー(または筋細管ミオパシー))、ミトコンドリアミオパシー、家族性周期性麻痺、炎症性ミオパシー、代謝性ミオパシー(たとえば、糖原病および脂肪貯蔵症)、皮膚筋炎、多発筋炎、封入体筋炎、骨化性筋炎、横紋筋融解症、およびミオグロビン尿症が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0022】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、ミオパシーは、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、反射性交感神経性ジストロフィー、網膜ジストロフィー、錐体ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、角膜ジストロフィー、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるジストロフィーである。
【0023】
理論に拘束されることは意図しないが、本明細書に記載の方法は、損傷した筋組織における瘢痕様組織の形成を低減させるおよび/または阻害する。したがって、いくつかの態様において、損傷した筋組織における瘢痕様組織の形成は、基準レベルと比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%(完全な低減)低減される。
【0024】
いくつかの態様において、損傷した筋組織における脂肪組織および/または結合組織の量は、基準レベルと比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または100%(完全な低減)低減される。
【0025】
また、理論に拘束されることは意図しないが、本明細書に記載の方法によって、損傷した筋組織におけるミオシン重鎖(MHC)の量が増加する。したがって、いくつかの態様において、損傷した筋組織におけるミオシン重鎖(MHC)の量は、基準レベルと比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、50倍、または100倍またはそれより多く増加する。
【0026】
さらに、本明細書に記載の方法は、MHC陽性の伸長した筋様細胞数を増加させる。したがって、いくつかの態様において、損傷した筋組織におけるMHC陽性の伸長した筋様細胞数は、基準レベルと比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、50倍、または100倍またはそれより多く増加する。
【0027】
本明細書において述べるように、レチノイン酸受容体γ(RARγ)アゴニストに対する短期間または長期間の曝露によって、前駆体幹細胞の筋分化を誘導または刺激することができる。したがって、筋原性調節因子の増加が観察される。筋原性調節因子は、筋形成を調節する塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)転写因子である。たとえば、その内容が参照により本明細書に組み入れられる、Perry, R. & Rudnick, M. (2000). "Molecular mechanisms regulating myogenic determination and differentiation", Front Biosci 5: D750- 67 (2000)を参照されたい。例示的な筋原性調節因子には、MyoD(Myf3)、Myf5、ミオゲニン、およびMRF4(Myf6)が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。MyoDは、筋形成へとコミットする最も初期のマーカーの1つである。MyoDは、活性化サテライト細胞において発現されるが、休止期サテライト細胞では発現されない。MyoDは筋芽細胞へとコミットするマーカーであるが、MyoD遺伝子を欠損するマウス変異体において筋肉の発達が劇的に除去されるわけではない。このことは、Myf5の機能的重複性が原因である可能性がある。
【0028】
したがって、いくつかの態様において、損傷した筋組織における少なくとも1つの筋原性調節因子のレベルは、基準レベルと比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、50倍、もしくは100倍またはそれより多く増加する。
【0029】
いくつかの態様において、損傷した筋組織における少なくとも1つのラミニンの量は、基準レベルと比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、50倍、もしくは100倍またはそれより多く増加する。
【0030】
レチノイン酸受容体(RAR)アゴニスト
本明細書において用いられる「RARアゴニスト」という用語は、1000 nM未満、500 nM未満、250 nM未満、200 nM未満、100 nM未満、50 nM未満、25 nM未満、20 nM未満、10 nM未満、1 nM未満、0.1 nM未満、0.01 nM未満、または0.001 nM未満のED50で任意のレチノイン酸受容体をトランス活性化することができる任意の化合物である。
【0031】
レチノイド受容体は、2つのファミリー、すなわちレチノイン酸受容体(RAR)およびレチノイドX受容体(RXR)に分類され、各々が別個の3つのサブタイプα、β、およびγを有する。RAR遺伝子ファミリーの各サブタイプは、2つの主なRNA転写物の異なるスプライシングにより生じる多様な数のイソ型をコードする。オールトランスレチノイン酸(ATRA)などの天然に存在するレチノイドアナログ(9-シスレチノイン酸、オールトランス3,4-ジデヒドロレチノイン酸、4-オキソレチノイン酸およびレチノール)は、レチノイド受容体に結合する多面発現調節化合物である。たとえば、ATRAは、3つ全てのRARサブタイプに対してほぼ等しい親和性で結合するが、RXR受容体には結合しない。その代わりに、これらの受容体に関して、9-シスレチノイン酸は天然のリガンドである。
【0032】
本明細書において用いられる「トランス活性化」という用語は、試験される特定のレチノイン酸受容体、すなわち、RARα、RARβ、またはRARγにリガンドが結合することによって遺伝子の転写が開始される、RARアゴニストが遺伝子の転写を活性化できることを意味する。化合物がレチノイン酸受容体をトランス活性化できるか否かの決定は、当業者に公知の方法によって行われうる。そのような方法の例は、その両方の内容が参照により本明細書に組み入れられる、Bernard et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 186: 977-983(1992)およびApfel et al., Proc. Nat. Sci. Acad. (USA), 89: 7129-7133(1992)において見いだされる。
【0033】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、RARアゴニストは、RARγ選択的アゴニストである。本明細書において用いられる「RARγ選択的アゴニスト」という用語は、RARγ受容体に選択的に結合して、RARγ活性化を促進することができる化合物を意味する。一般的に、RARγ選択的アゴニストは、RARαおよびRARβ受容体より有意に低い濃度でRARγ受容体に結合するであろう。たとえば、RARγ選択的アゴニストは、RARαおよびRARβ受容体より5倍より高い、10倍より高い、20倍より高い、30倍より高い、40倍より高い、50倍より高い、60倍より高い、70倍より高い、80倍より高い、90倍より高いまたはそれより高い選択性でRARγ受容体に結合するであろう。
【0034】
化合物のRARγアゴニスト選択性は、その全ての内容が参照により本明細書に組み入れられる、Apfel et al., Proc. Nat. Sci. Acad. (USA), 89: 7129-7133 (1992); M. Teng et al., J. Med. Chem., 40: 2445-2451 (1997);およびPCT公開番号WO1996/30009において記述されるアッセイなどの、当業者に公知のルーチンのリガンド結合アッセイによって決定することができる。
【0035】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、RARアゴニストは、RARγ/β選択的アゴニストである。本明細書において用いられる「RARγ/β選択的アゴニスト」という用語は、RARγおよびRARβ受容体に選択的に結合して、RARγおよびRARβ活性化をいずれも促進するが、RARα受容体の活性化が少ない化合物を意味する。
【0036】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、RARアゴニストは、少なくともγ選択的であり、RARα作用が少ないRARアゴニストである。本明細書において用いられる「少なくともγ選択的でありRARα作用が少ないRARアゴニスト」という用語は、RARγ選択的またはRARγ/β選択的である化合物を意味する。
【0037】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、RARアゴニストは、RARパンアゴニストである。本明細書において用いられる「RARパンアゴニスト」という用語は、RARα、RARβ、およびRARγ受容体に対してほぼ同等の親和性で結合して、RARα、RARβ、およびRARγ活性化を促進する化合物を意味する。
【0038】
例示的なRARアゴニストには、CD-271(6-(4-メトキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-394、CD-437(6-(4-ヒドロキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-1530(4-(6-ヒドロキシ-7-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル-2-ナフタレニル)安息香酸);CD-2247;パロバロテン(4-[(1E)-2-[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-3-(1H-ピラゾル-1-イルメチル)-2-ナフタレニル]-エテニル]-安息香酸);BMS-270394(3-フルオロ-4-[(R)-2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);BMS-189961(3-フルオロ-4-[2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);CH-55(4-[(E)-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-フェニル)-3-オキソ-プロペニル]-安息香酸);6-[3-(アダマンタン-1-イル)-4-(プロプ-2-イニルオキシ)フェニル]ナフタレン-2-カルボン酸;5-[(E)-3-オキソ-3-(5,5,8,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)プロペニル]チオフェン-2-カルボン酸;ならびにそのエナンチオマー、誘導体、プロドラッグ、および薬学的に許容される塩が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0039】
本発明の対象となる他のRARアゴニストは、たとえば、それらの全ての内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,624,957号;第5,760,084号;第6,331,570号;第6,300,350号;第5,700,836号;第5,726,191号;第5,498,795号;第5,130,335号;国際特許出願公開番号WO1997/037648、WO2007/068579、およびWO2007/068580;1997年4月11日に公開されたフランス国特許出願第FR2739557号;および日本国特許公開番号第62/053981号において記述されている。本発明の対象となるさらなるRARアゴニストは、それらの全ての内容が参照により本明細書に組み入れられる、Biochem. Biophys. Res. Commun. 179: 1554-1561 (1992), Biochem. Biophys. Res. Commun. 186: 977-984 (1992), Int. J. Cancer 71: 497 (1997), Skin Pharmacol. 8: 292-299 (1995), J. Med. Chem. 39: 2411-2421 (1996), Cancer Res. 55: 4446-4451 (1995), Cancer Letters 115: 1-7 (1997), J. Med. Chem. 32: 834-840(1989)において記述されるアゴニストを含む。
【0040】
薬学的に許容される塩
本明細書において用いられる「薬学的に許容される塩」という用語は、たとえば非毒性の有機酸もしくは無機酸による、RARアゴニストの従来の非毒性の塩または四級アンモニウム塩を意味する。これらの塩は、投与媒体中でその場でもしくは投与剤形製造プロセスにおいて調製することができ、またはその遊離の塩基型もしくは酸型の精製RARアゴニストを適した有機もしくは無機の酸もしくは塩基と個別に反応させ、そうして形成された塩をその後の精製の際に単離することによって調製することができる。従来の非毒性の塩には、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸に由来する塩;ならびに酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パルミチン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イソチオン酸などの有機酸から調製された塩が挙げられる。たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Berge et al., "Pharmaceutical Salts", J. Pharm. Sci. 66:1-19 (1977)を参照されたい。
【0041】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、代表的な塩には、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩、メシラート、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、およびラウリルスルホン酸塩などが挙げられる。
【0042】
プロドラッグ
本明細書において用いられる「プロドラッグ」は、何らかの化学的または生理学的プロセス(たとえば、酵素的プロセスおよび代謝的加水分解)を介してRARアゴニストに変換され得る化合物を意味する。したがって、「プロドラッグ」という用語はまた、薬学的に許容される生物学的に活性な化合物の前駆体を意味する。プロドラッグは、対象に投与した場合には不活性、すなわちエステルでありうるが、たとえば遊離のカルボン酸または遊離のヒドロキシルへと加水分解されることにより、インビボで活性化合物に変換される。プロドラッグ化合物はしばしば、溶解度、組織適合性、または生物での持続的放出に関して長所を提供する。「プロドラッグ」という用語はまた、そのようなプロドラッグを対象に投与した場合に、インビボで活性化合物を放出する任意の共有結合担体を含むことを意味する。活性化合物のプロドラッグは、ルーチンの操作もしくはインビボのいずれかで修飾が切断されて、親活性化合物となるように、活性化合物に存在する官能基を修飾することによって調製されうる。プロドラッグは、活性化合物のプロドラッグを対象に投与した場合に、開裂して、遊離のヒドロキシ基、遊離のアミノ基、または遊離のメルカプト基をそれぞれ形成する任意の基にヒドロキシ基、アミノ基、またはメルカプト基が結合している化合物を含む。プロドラッグの例には、アルコールの酢酸、ギ酸、および安息香酸誘導体、または活性化合物中のアミン官能基のアセトアミド、ホルムアミド、およびベンズアミド誘導体などが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。その全ての全内容が参照により本明細書に組み入れられる、
を参照されたい。
【0043】
薬学的組成物
対象に投与するために、RARアゴニストを、薬学的に許容される組成物で提供することができる。これらの薬学的に許容される組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体(添加剤)および/または希釈剤と共に処方される1つまたは複数のRARアゴニストの治療的有効量を含む。以下に詳細に記述されるように、本発明の薬学的組成物は、特に以下に適合させた剤形を含む固体または液体剤形で投与するために処方することができる:(1)経口投与、たとえば水薬(水溶液または非水溶液または懸濁液)、胃管栄養、ロゼンジ、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、錠剤(たとえば、口腔内、舌下、および全身吸収を目的としたもの)、ボーラス、粉剤、顆粒剤、舌に適用するためのペースト剤;(2)非経口投与、たとえば滅菌溶液または懸濁液、または徐放性製剤としての、たとえば皮下、筋肉内、静脈内、または硬膜外注射;(3)表面適用、たとえば、皮膚に適用されるクリーム、軟膏、または徐放性パッチもしくはスプレー;(4)膣内または直腸内、たとえばペッサリー、クリームまたはフォームとして;(5)舌下;(6)眼内;(7)経皮;(8)経粘膜;または(9)経鼻。加えて、化合物を、ドラッグデリバリーシステムを用いて患者に植え込むまたは注射することができる。たとえば、その全ての内容が参照により本明細書に組み入れられる、Urquhart, et al., Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 24: 199-236 (1984); Lewis, ed. "Controlled Release of Pesticides and Pharmaceuticals" (Plenum Press, New York, 1981);米国特許第3,773,919号;および米国特許第35 3,270,960号を参照されたい。
【0044】
本明細書において用いられる「薬学的に許容される」という用語は、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を生じることがなく、妥当な利益/リスク比に見合っており、ヒトおよび動物の組織に接触して用いるために適している、化合物、材料、組成物、および/または投与剤形を意味する。
【0045】
本明細書において用いられる「薬学的に許容される担体」という用語は、液体もしくは固体充填剤、希釈剤、賦形剤、製造補助剤(たとえば、潤滑剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、またはステアリン酸亜鉛、もしくはステアリン酸)、または体の1つの臓器もしくは一部から体の別の臓器もしくは一部への試験化合物の運搬もしくは輸送に関係する溶媒封入材料などの、薬学的に許容される材料、組成物、または媒体を意味する。各担体は、製剤の他の成分と適合性であり、患者にとって有害でないという意味において「許容可能」でなければならない。薬学的に許容される担体として役立つことができる材料のいくつかの例には:(1)乳糖、グルコース、およびスクロースなどの糖;(2)コーンスターチおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;(3)セルロース、ならびにカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、結晶セルロース、および酢酸セルロースなどのその誘導体;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルクなどの潤滑剤;(8)カカオバターおよび坐剤用ロウなどの賦形剤;(9)落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、および大豆油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、およびポリエチレングリコール(PEG)などのポリオール;(12)オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)発熱物質を含まない水;(17)等張食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝液;(21)ポリエステル、ポリカーボネート、および/またはポリ酸無水物;(22)ポリペプチドおよびアミノ酸などの増量剤;(23)血清アルブミン、HDL、およびLDLなどの血清成分;(22)エタノールなどのC
2〜C
12アルコール;ならびに(23)薬学的製剤において用いられる他の非毒性の適合性の物質が挙げられる。湿潤剤、着色剤、放出物質、コーティング物質、甘味料、香味料、香料、保存剤、および抗酸化剤も同様に製剤中に存在することができる。「賦形剤」、「担体」、「薬学的に許容される担体」またはその他などの用語は、本明細書において互換的に用いられる。
【0046】
本明細書において用いられる「有効量」という句は、所望の変化または効果(たとえば、間葉系幹細胞をインビトロで筋原性分化へとプライミングする)を生じるために十分な活性物質(たとえば、RARγアゴニスト)の量を意味する。
【0047】
本明細書において用いられる「治療的有効量」という句は、任意の医学的処置に適用可能な妥当な利益/リスク比で動物における細胞の少なくとも亜集団において何らかの所望の治療効果を生じるために有効であるRARアゴニストを含む化合物、材料、または組成物の量を意味する。たとえば、統計学的に有意な測定可能な筋修復または筋再生を生じるために十分な量のRARγアゴニストが対象に投与される。
【0048】
本明細書において用いられる「修復」という用語は、筋組織の損傷が軽減される、または完全に消失するプロセスを意味する。いくつかの態様において、筋組織損傷の少なくとも1つの症状が少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%軽減される。筋損傷の症状はたとえば、その内容が参照により本明細書に組み入れられる、"Skeletal Muscle Damage and Repair" Tiidus, P.M., ed., Human Kinetics (2008)に記述される。
【0049】
治療的有効量の決定は、当業者の能力の範囲内である。一般的に、治療的有効量は、対象の病歴、年齢、状態、性別、ならびに対象における医学的状態の重症度および型、ならびに他の薬学的活性物質の投与によって変化しうる。
【0050】
本明細書において用いられる「投与する」という用語は、所望の効果が得られるように、所望の部位で組成物の少なくとも部分的局在化が得られる方法または経路によって対象内に組成物を留置することを意味する。本発明の方法にとって適した投与経路は、局所的および全身性投与の両方を含む。一般的に、局所的投与では、対象の全身と比較して特異的位置により多くのRARアゴニスト(またはRARアゴニスト処置細胞)が送達されるが、全身性投与では、対象の本質的に全身にRARアゴニスト(またはRARアゴニスト処置細胞)が送達される。局所的投与の1つの方法は、筋肉内注射による。
【0051】
RARアゴニスト処置細胞を投与する文脈において、「投与する」という用語は、対象にそのような細胞を移植することを含む。本明細書において用いられる「移植」という用語は、対象に少なくとも1つの細胞を植え込むまたは移入するプロセスを意味する。「移植」という用語は、たとえば自家移植(患者の1つの位置から同じ患者の同じまたは別の位置への細胞の除去および移入)、同種異系移植(同種メンバー間の移植)、および異種移植(異種メンバー間の移植)を含む。当業者は、本発明に従う筋の修復および再生のために間葉系幹細胞を植え込むまたは移植する方法をよく知っている。たとえば、その両方の内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第7,592,174号および米国特許出願公開第2005/0249731号を参照されたい。
【0052】
さらに、RARアゴニストは、軟膏、クリーム、パウダー、または表面適用製剤に適した他の製剤の形態で調合することができる。RARアゴニストの分子量は一般的に500ダルトン未満であることから、これらの製剤は、アゴニストを皮膚からより深部の筋組織まで送達することができる。したがって、そのような製剤は、皮膚を通して活性成分の浸透を増強する1つまたは複数の物質を含みうる。表面適用のために、RARアゴニストを、創傷包帯および/または皮膚コーティング組成物に含めることができる。
【0053】
本明細書に記載の化合物または組成物は、経口、または静脈内、筋肉内、皮下、経皮、気道(エアロゾル)、肺、鼻、直腸、および表面(口腔内および舌下を含む)投与を含む非経口経路を含むがこれらに限定されるわけではない、当技術分野において公知の任意の適切な経路によって投与することができる。
【0054】
例示的な投与様式には、注射、注入、点滴、吸入、または摂取が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。「注射」には、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、脳室内、被膜内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、脊髄内、脳脊髄内、および胸骨内注射および注入が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。本明細書に記載の局面の好ましい態様において、組成物は、静脈内注入または注射によって投与される。
【0055】
本明細書において用いられる「対象」はヒトまたは動物を意味する。通常、動物は、霊長動物、齧歯動物、家畜動物、または競技用動物などの脊椎動物である。霊長動物は、チンパンジー、カニクイザル、クモザル、およびマカク、たとえばアカゲザルを含む。齧歯動物は、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギ、およびハムスターを含む。家畜および競技用動物は、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、水牛、ネコ種、たとえばネコ、イヌ種、たとえばイヌ、キツネ、オオカミ、トリ種、たとえばニワトリ、エミュー、ダチョウ、および魚、たとえばマス、ナマズ、およびサケを含む。患者または対象は、前述、たとえば上記の全ての任意のサブセットを含むが、ヒト、霊長動物、または齧歯動物などの1つまたは複数の群または種を除外する。本明細書に記載の局面のある態様において、対象は、哺乳動物、たとえば霊長動物、たとえばヒトである。「患者」および「対象」という用語は、本明細書において互換的に用いられる。「患者」および「対象」という用語は、本明細書において互換的に用いられる。対象は雄性または雌性でありうる。
【0056】
好ましくは、対象は哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長動物、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシでありうるが、これらの例に限定されるわけではない。ヒト以外の哺乳動物を、自己免疫疾患または炎症に関連する障害の動物モデルを表す対象として都合よく用いることができる。さらに、本明細書に記載の方法および組成物は、家畜動物および/またはペットを処置するために用いることができる。
【0057】
対象は、筋損傷または筋萎縮/消耗を特徴とする障害に罹っているか、または障害を有すると既に診断もしくは同定されている対象でありうる。
【0058】
対象は、RARアゴニストによって現在処置されていない対象でありうる。
【0059】
対象は、筋損傷または筋萎縮/消耗を特徴とする疾患ではないが、RARアゴニストを含む治療養生法によって処置されている疾患であると既に診断されている対象でありうる。
【0060】
したがって、いくつかの態様において、処置法は、筋損傷の少なくとも1つの症状が低減されるように、対象の治療養生法を調節する段階を含む。治療養生法は、RARの投与回数を調整することによって、および/または投与部位または投与様式を変えることによって調節することができるが、これらに限定されるわけではない。
【0061】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、方法はさらに、筋修復または筋再生のために対象を処置する前に、筋損傷または筋萎縮/消耗に関して対象を診断する段階を含む。
【0062】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、方法はさらに、筋修復または筋再生のために対象を処置する前に、筋損傷または筋萎縮/消耗を有する対象を選択する段階を含む。
【0063】
併用治療
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、RARアゴニストは、マッサージ、超音波、高圧酸素送達から選択される治療と共に対象に投与される。加えておよび/もしくは代わりに、RARアゴニストを薬学的活性物質と併用して対象に投与することができる。例示的な薬学的活性物質には、その全ての完全な内容が参照により本明細書に組み入れられる、Harrison's Principles of Internal Medicine, 13
th Edition, Eds. T.R. Harrison et al. McGraw-Hill N.Y., NY; Physicians Desk Reference, 50
th Edition, 1997, Oradell New Jersey, Medical Economics Co.; Pharmacological Basis of Therapeutics, 8
th Edition, Goodman and Gilman, 1990; United States Pharmacopeia, The National Formulary, USP XII NF XVII, 1990; current edition of Goodman and Oilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics; and current edition of The Merck Indexにおいて見いだされる化合物が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0064】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、薬学的活性物質は、炎症または炎症関連障害、または感染症の処置のために当技術分野において公知の物質を含む。例示的な抗炎症剤には、非ステロイド性抗炎症剤(アスピリン、イブプロフェン、またはナプロキセンなどのNSAID)、コルチコステロイド(プレドニゾンなど)、抗マラリア薬(ヒドロクロロキンなど)、メトトレキサート、スルファサラジン、レフルノミド、抗TNF薬、シクロホスファミド、およびミコフェノール酸が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0065】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、薬学的活性物質は増殖因子である。例示的な増殖因子には、線維芽細胞増殖因子(FGF)、FGF-1、FGF-2、FGF-4、サイモシン、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン結合増殖因子(IGF)、IGF-1、IGF-2、上皮細胞増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、TGF-α、TGF-β、軟骨誘導因子-Aおよび-B、類骨誘導因子、オステオゲニン、骨形態形成タンパク質、および他の骨増殖因子、コラーゲン増殖因子、ヘパリン結合増殖因子-1または-2、ならびにその生物活性誘導体が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0066】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、薬学的活性物質は、抗インターフェロン剤である。抗インターフェロン剤は、抗インターフェロン抗体またはその断片もしくは誘導体を含む。例示的な抗インターフェロン剤には、その全ての内容が参照により本明細書に組み入れられる、Ronnblom, L. & Elkon, K.B. Cytokines as therapeutic targets in SLE. Nat Rev Rheumatol 6, 339-647; Yao, Y. et al. Neutralization of interferon-alpha/beta-inducible genes and downstream effect in a phase I trial of an anti-interferon-alpha monoclonal antibody in systemic lupus erythematosus. Arthritis Rheum 60, 1785-96 (2009); and Zagury, D. et al. IFNalpha kinoid vaccine-induced neutralizing antibodies prevent clinical manifestations in a lupus flare murine model. Proc Natl Acad Sci U S A 106, 5294-9 (2009)に記述される抗体、米国特許第4,902,618号;第5,055,289号;第7,087,726号;および第7, 741,449号に記述される抗体、ならびに米国特許出願公開第10/440,202号;第11/342/020号;および第12/517,334号に記述される抗体が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0067】
本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、薬学的活性物質は、フェノテロールまたはインスリン様増殖因子-1である。
【0068】
RARアゴニストと薬学的活性物質とは、同じ薬学的組成物において、または異なる薬学的組成物において(同時にまたは異なる時期に)対象に投与することができる。異なる時期に投与する場合、RARγアゴニストおよび薬学的活性物質は、互いの投与の5分、10分、20分、60分、2時間、3時間、4時間、8時間、12時間、24時間以内に投与することができる。RARアゴニストと薬学的活性物質を異なる薬学的組成物において投与する場合、投与経路は異なりうる。
【0069】
用量
担体材料と混合して1つの投与剤形を生成することができるRARアゴニストの量は、一般的に治療効果を生じるRARアゴニストの量であるものとする。一般的に、100%のうち、この量は、RARアゴニストの約0.01%から99%、好ましくは約5%から約70%、最も好ましくは10%から約30%の範囲であるものとする。
【0070】
毒性および治療の効能は、たとえばLD50(集団の50%に対して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効である用量)を決定するために、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的技法によって決定することができる。毒性効果と治療効果の用量比は、治療指数であり、LD50/ED50比として表記することができる。大きな治療指数を示す組成物が好ましい。
【0071】
本明細書において用いられるEDという用語は、有効用量を指し、動物モデルに関連して用いられる。ECという用語は、有効濃度を指し、インビトロモデルに関連して用いられる。
【0072】
ヒトにおいて用いるための用量範囲を処方するために、細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータを用いることができる。そのような化合物の用量は、好ましくは、ほとんどまたは全く毒性を有しないED50を含む血中濃度の範囲内に存在する。用量は、用いられる投与剤形、および利用される投与経路に応じてこの範囲内で異なりうる。
【0073】
治療的有効量は、最初に細胞培養アッセイから推定することができる。用量は、細胞培養において決定したIC50(すなわち、症状の半数阻害を達成する治療物質の濃度)を含む循環中の血漿濃度範囲を達成するように動物モデルにおいて処方されうる。血漿中レベルは、たとえば高速液体クロマトグラフィーによって測定されうる。任意の特定の用量の効果を、適したバイオアッセイによってモニターすることができる。
【0074】
用量は、医師によって決定され、必要に応じて、観察される処置の効果に適するように調節されうる。一般的に、組成物は、RARγアゴニストが、1μg/kgから150 mg/kg、1μg/kgから100 mg/kg、1 μg/kgから50 mg/kg、1 μg/kgから20 mg/kg、1 μg/kgから10 mg/kg、1μg/kgから1 mg/kg、100 μg/kgから100 mg/kg、100 μg/kgから50 mg/kg、100 μg/kgから20 mg/kg、100 μg/kgから10 mg/kg、100μg/kgから1 mg/kg、1 mg/kgから100 mg/kg、1 mg/kgから50 mg/kg、1 mg/kgから20 mg/kg、1 mg/kgから10 mg/kg、10 mg/kgから100 mg/kg、10 mg/kgから50 mg/kg、または10 mg/kgから20 mg/kgの用量で与えられるように投与される。本明細書における所与の範囲は全ての中間の範囲を含み、たとえば1 mg/kgから10 mg/kgという範囲は、1 mg/kgから2 mg/kg、1 mg/kgから3 mg/kg、1 mg/kgから4 mg/kg、1 mg/kgから5 mg/kg、1 mg/kgから6 mg/kg、1 mg/kgから7 mg/kg、1 mg/kgから8 mg/kg、1 mg/kgから9 mg/kg、2 mg/kgからlO mg/kg、3 mg/kgからlO mg/kg、4 mg/kgからlO mg/kg、5 mg/kgからlO mg/kg、6 mg/kgからlO mg/kg、7 mg/kgから10 mg/kg、8 mg/kgからlO mg/kg、9 mg/kgからlO mg/kgなどを含むと理解される。上記の所与の値に対する中間の範囲も同様に本発明の範囲内であり、たとえば1 mg/kgから10 mg/kgの範囲内には、2 mg/kgから8 mg/kg、3 mg/kgから7 mg/kg、4 mg/kgから6 mg/kgなどの用量範囲があるとさらに理解されるべきである。
【0075】
いくつかの態様において、組成物は、RARアゴニストまたはその代謝物が、投与後15分、30分、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間後またはそれより後に、500 nM未満、400 nM未満、300 nM未満、250 nM未満、200 nM未満、150 nM未満、100 nM未満、50 nM未満、25 nM未満、20 nM未満、10 nM未満、5 nM未満、1 nM未満、0.5 nM未満、O.l nM未満、0.05 nM未満、0.01 nM未満、0.005 nM未満、0.001 nM未満のインビボ濃度を有するような用量で投与される。
【0076】
処置の期間および回数に関して、処置が治療効果を提供する時期を決定するために、および用量を増加させるかまたは減少させるか、投与回数を増加させるかまたは減少させるか、処置を中止するか否か、処置を再開するか否か、または処置養生法に対して他の変更を加えるか否かを決定するために、対象をモニターすることは当業者たる臨床医にとって典型的なことである。投与スケジュールは、RARアゴニストに対する対象の感受性などの多数の臨床要因に応じて1週間に1回から毎日まで変化させることができる。所望の用量を、毎日、3日毎、4日毎、5日毎、または6日毎に投与することができる。所望の用量を、一度に、または小用量に分割して、たとえば2〜4回の分割用量で、一定期間、たとえば1日を通して適切な間隔でまたは他の適切なスケジュールを通して投与することができる。そのような分割用量は、単位投与剤形で投与することができる。本明細書に記載の局面のいくつかの態様において、投与は長期間であり、たとえば数週間または数ヶ月の期間にわたって1つまたは複数の用量を毎日投与する。投与スケジュールの例は、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、もしくは6ヶ月、またはそれより長い期間にわたって毎日投与、1日2回投与、1日3回投与、1日4回またはそれより多くの投与である。
【0077】
1つの態様において、本明細書に記載の方法における対象に対するRARアゴニストの投与は、1回または複数回である。1つの態様において、1回投与または複数回投与は、筋組織に対する損傷(たとえば、負った外傷または筋損傷に至る生理学的変化)に応答してインビボで自然に起こる(たとえば、損傷を負った後4日目または5日目まで)内因性のレチノイドシグナル伝達が検出可能に増強している期間内である。1つの態様において、投与は、その期間の開始の時点を含む。1つの態様において、投与は、その期間内の数回を含む。1つの態様において、投与は、損傷を負った後3日より長い期間後の時点であるかまたはその時点を含む。1つの態様において、投与は、損傷を負った後約4日目の時点であるかまたはその時点を含む。1つの態様において、投与は、損傷を負った後約5日目の時点であるかまたはその時点を含む。1つの態様において、投与は、損傷を負った後約6日目の時点であるかまたはその時点を含む。1つの態様において、投与は、損傷を負った後約7日目もしくは約8日目の時点であるかまたはその時点を含む。これらの投与時間の組み合わせも同様に構想される。たとえば、約4日目での投与、次に5、6、7、および8日目の1つまたは複数での投与。1つの態様において、投与は約5日目および7日目である。長期間(たとえば、満足のゆく回復が得られるまで)にわたる持続的投与も同様に行うことができる。
【0078】
1つの態様において、投与は、内因性のレチノイドシグナル伝達が増強した期間と重複するかまたはその期間を包含する(たとえば、内因性のレチノイドシグナル伝達が増強する前に投与を開始し、この期間中および/またはこの期間を通して投与を継続する)。1つの態様において、筋組織に対する損傷に応答して内因性のレチノイドシグナル伝達が増強するまで投与を控える(たとえば、3日後、または4、5、6、7、8または9日後、またはそれより後に投与を開始する)。1つの態様において、3日(たとえば、4日または5日)後に投与を開始し、少なくとも9日目まで(たとえば、11日目まで)投与を継続する。1つの態様において、投与は、引用された投与期間のあいだ毎日または1日おきである。1つの態様において、投与は少なくとも5、7、および9日目である。
【0079】
前処置された幹細胞
別の局面において、本発明は、少なくとも1つの幹細胞をRARアゴニストの有効量と接触させることによって産生される幹細胞集団を提供する。本明細書において用いられる「幹細胞集団」という用語は、1つまたは複数の幹細胞を意味する。そのような幹細胞を単離することができる(たとえば、インビトロまたはエクスビボで接触させるため)。そのような接触段階により、細胞は筋組織を再生することができ、同様に他の細胞(たとえば、前処置した細胞が投与される宿主の細胞)の筋原性分化を支援することができる。この能力を可能にするために、1つの態様において、単離された間葉系幹細胞をRARγアゴニストと接触させる。1つの態様において、前処置は、インビトロであり、少なくとも約3日間である。より短い期間の前処置(たとえば、2.5日、2日、1.5日、1日、12時間)も同様に類似の能力を生じうる。このようにして誘導されたそのような前処置細胞を、本明細書において「前処置された」と呼ぶ。本明細書に記載の全ての前処置細胞は本発明に包含される。
【0080】
本明細書において幹細胞の接触に関連して用いられる「接触させる」または「接触」という用語は、RARアゴニストを含む適切な培養培地に幹細胞を供することを含む。細胞培養において、たとえばインビトロまたはエクスビボで、幹細胞をRARアゴニストと接触させることができる。本明細書において用いられる「エクスビボ」という用語は、生きている生物から除去されて、生物外で(たとえば、試験管において)培養される細胞を意味する。次に、修飾を加えた後、エクスビボ細胞をドナーに投与することができる。
【0081】
本発明の局面のいくつかの態様において、幹細胞はヒト由来幹細胞である。いくつかの態様において、幹細胞は多能性幹細胞または多分化能幹細胞である。いくつかの態様において、幹細胞は人工多能性幹細胞(iPS細胞)であるか、または中間的な多能性幹細胞であって、iPS細胞へとさらにリプログラミングすることができる安定的にリプログラミングされた細胞、たとえば部分的人工多能性幹細胞(同様に、「piPS」細胞とも呼ばれる)である。いくつかの態様において、多能性幹細胞、iPSC、またはpiPSCは、遺伝子改変多能性幹細胞である。いくつかの態様において、幹細胞は間葉系幹細胞である。
【0082】
一般的に、方法、アッセイ、システム、キットにおいて用いるための、およびスコアカードを作成するために用いるための幹細胞は、任意の入手可能な起源から得ることができ、またはそれらに由来することができる。したがって、幹細胞は、脊椎動物または無脊椎動物から得ることができ、またはそれらに由来することができる。本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、幹細胞は哺乳動物由来幹細胞である。
【0083】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、幹細胞は、霊長動物由来または齧歯動物由来の幹細胞である。
【0084】
本発明の局面のいくつかの態様において、幹細胞は、チンパンジー、カニクイザル、クモザル、マカク(たとえばアカゲザル)、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギ、ハムスター、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、水牛、ネコ科動物(たとえば、イエネコ)、イヌ科動物(たとえば、イヌ、キツネ、およびオオカミ)、鳥類(たとえば、ニワトリ、エミュー、およびダチョウ)、および魚類(たとえばマス、ナマズ、およびサケ)幹細胞からなる群より選択される。
【0085】
本明細書において用いられる「分化」という用語は、始原段階からより成熟した(すなわちより始原的ではない)細胞への細胞の発達を意味する。
【0086】
本明細書において用いられる「人工多能性幹細胞」または「iPSC」または「iPS細胞」は、分化した細胞(たとえば、体細胞)の分化状態の完全な逆転またはリプログラミングに由来する細胞を意味する。本明細書において用いられるように、iPSCは、完全にリプログラミングされ、完全なエピジェネティック・リプログラミングを受けている細胞である。
【0087】
本明細書において用いられる「リプログラミング」という用語は、分化した細胞(たとえば、体細胞)の分化状態を変化させるまたは逆転させるプロセスを意味する。別の言い方をすれば、リプログラミングは、より未分化のまたはより始原的な型の細胞へと細胞の分化を戻す方向に進めるプロセスを意味する。完全なリプログラミングは、接合体が成体へと発達する際の細胞分化の際に起こる、核酸の修飾(たとえば、メチル化)、染色質の凝縮、エピジェネティック変化、ゲノムインプリンティング等の遺伝可能なパターンの少なくともいくつかの完全な逆転を伴う。リプログラミングは、既に多能性である細胞の既に存在する未分化状態を単に維持することとは異なり、または既に多分化能細胞である(たとえば、造血幹細胞)細胞の既に存在する完全には分化していない状態を維持することとも異なる。リプログラミングはまた、既に多能性または多分化能性である細胞の自己再生または増殖の促進とも異なるが、本発明の組成物および方法は、そのような目的にも有用でありうる。
【0088】
本明細書において用いられる「安定したリプログラミングを受けた細胞」という用語は、分化した細胞(たとえば、体細胞)の部分的または不完全なリプログラミングから生じる細胞を意味する。安定したリプログラミングを受けた細胞は、本明細書において「piPSC」と互換的に用いられる。安定したリプログラミングを受けた細胞は、完全なリプログラミングを受けておらず、したがって細胞のエピゲノムの全体的なリモデリングを受けていない。安定したリプログラミングを受けた細胞は、多能性幹細胞であり、その用語が本明細書において定義されるiPSCへとさらにリプログラミングすることができるか、または異なる系列に沿って分化させることができる。いくつかの態様において、部分的にリプログラミングされた細胞は、胚の3つ全ての胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉、または外胚葉の3つ全ての胚葉)由来のマーカーを発現する。内胚葉のマーカーは、Gata4、FoxA2、PDX1、Nodal、Sox7およびSox17を含む。中胚葉のマーカーは、Brachycury、GSC、LEF1、Mox1およびTie1を含む。外胚葉のマーカーは、cripto1、EN1、GFAP、Islet 1、LIM1、およびNestinを含む。いくつかの態様において、部分的にリプログラミングされた細胞は未分化細胞である。
【0089】
「エピゲノムのリモデリング」という用語は、細胞においてゲノム配列または遺伝子の塩基対配列を変化させないが発現を変化させる、ゲノムの化学修飾を意味する。
【0090】
「エピゲノムの全体的なリモデリング」という用語は、リプログラミングされた細胞またはiPSCが由来する分化した細胞における以前の遺伝子発現の記憶がない場所において起こったゲノムの化学修飾を意味する。
【0091】
「エピゲノムの不完全なリモデリング」という用語は、安定したリプログラミングを受けた細胞またはpiPSCが由来する分化した細胞における以前の遺伝子発現の記憶が存在する場所において起こったゲノムの化学修飾を意味する。
【0092】
本明細書において用いられる「エピジェネティック・リプログラミング」という用語は、細胞におけるゲノム配列または遺伝子の塩基対配列を変化させない化学修飾による、細胞における遺伝子発現パターンの変化を意味する。
【0093】
本明細書において用いられる「エピジェネティック」という用語は、遺伝子配列を変化させないが、遺伝子発現に影響を及ぼし、継承もされうる、「ゲノムの上の」DNAの化学修飾を意味する。DNAに対する翻訳後修飾または「PTM」とも呼ばれるエピジェネティックは、たとえばインプリンティングおよび細胞のリプログラミングにおいて重要である。これらの修飾は、たとえばDNAのメチル化、ユビキチン化、リン酸化、グリコシル化、SUMO化、アセチル化、S-ニトロシル化、またはニトロシル化、シトルリン化または脱イミノ化、NEDD化、OClcNAc、ADP-リボシル化、ヒドロキシル化、FAT化(fattenylation)、UFM化(ufmylation)、プレニル化、ミリストイル化、S-パルミトイル化、チロシン硫酸化、ホルミル化、およびカルボキシル化を含む。
【0094】
本明細書において用いられる「多能性の」という用語は、異なる条件下で3つ全ての胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の細胞型特徴へと分化する能力を有する細胞を意味する。多能性細胞は、たとえばヌードマウス奇形腫形成アッセイを用いて3つ全ての胚葉への分化能によって主に特徴付けされる。多能性はまた、胚性幹(ES)細胞マーカーの発現によっても証明されるが、多能性の好ましい試験は、3つの胚葉の各々の細胞に分化できることの証明である。いくつかの態様において、多能性細胞は未分化細胞である。
【0095】
本明細書において用いられる「多能性」または「多能性状態」という用語は、3つ全ての胚葉、すなわち内胚葉(腸管組織)、中胚葉(血液、筋、管を含む)、および外胚葉(皮膚および神経など)への分化能を有する細胞を意味し、典型的には、インビトロで長期間、たとえば1年超、または30継代超の分裂能を有する細胞を意味する。
【0096】
「多分化能細胞」に関して用いる場合の「多分化能の」という用語は、3つ全ての胚葉に由来する細胞の必ずしも全てではないがいくつかの細胞へと分化することができる細胞を意味する。このように、多分化能細胞は部分的に分化した細胞である。多分化能細胞は当技術分野において周知であり、多分化能細胞の例は、たとえば造血幹細胞および神経幹細胞などの成体幹細胞を含む。多分化能のとは、幹細胞が、所定の系列の細胞の多くの型を形成しうるが、他の系列の細胞は形成しないことを意味する。たとえば、多分化能の血液幹細胞は、血液細胞の多くの異なる型(赤血球、白血球、血小板等)を形成することができるが、ニューロンを形成することはできない。
【0097】
「多分化能」という用語は、全能性および多能性より発達時の汎用性の程度が低い細胞を意味する。
【0098】
「全能性」という用語は、成体における全ての細胞ならびに胎盤を含む胚外組織を作製する能力を説明する分化の程度を有する細胞を意味する。受精卵(接合体)は、初期分割細胞(割球)であることから全能性である。
【0099】
「分化した細胞」という用語は、その本来の形において、その用語が本明細書において定義される多能性ではない任意の初代培養細胞を意味する。「分化した細胞」という用語はまた、多能性細胞などの部分的に分化した細胞、または安定な非多能性の部分的にリプログラミングされた細胞である細胞も包含する。多くの初代培養細胞を培養すると、完全に分化した特徴のいくつかの喪失が起こりうることに注意すべきである。このように、そのような細胞を単純に培養することは、分化した細胞という用語の中に含まれ、単に培養しても、これらの細胞は非分化細胞(たとえば、未分化細胞)または多能性細胞とはならない。分化した細胞の多能性への移行は、培養中での分化特徴の部分的喪失に至る刺激を超えるリプログラミング刺激を必要とする。リプログラミングされた細胞はまた、一般的に培養中で限られた回数のみの分裂能を有する初代培養細胞である親と比較して、生育能を失うことなく長期間継代できるという特徴を有する。いくつかの態様において、「分化した細胞」という用語はまた、細胞が細胞分化プロセスを受けている、より専門的でない細胞型の細胞(たとえば、未分化細胞またはリプログラミングされた細胞に由来する)に由来するより専門的な細胞型の細胞を意味する。
【0100】
本明細書において用いられる「体細胞」という用語は、胚細胞以外、着床前胚に存在するもしくは着床前胚から得られる細胞以外、またはそのような細胞のインビトロでの増殖に起因する細胞以外の任意の細胞を意味する。別の言い方をすれば、体細胞は、生殖系列の細胞とは反対に、生物の体を形成する任意の細胞を意味する。哺乳動物において、生殖系列細胞(同様に、「配偶子」としても知られる)は、精子と卵子であり、これらは受精の際に融合して接合体と呼ばれる細胞を生じ、接合体から完全な哺乳動物の胚が発生する。精子と卵子、そこから作製される細胞(生殖母細胞)および未分化幹細胞を除く、哺乳動物の体におけるあらゆる他の細胞型は、体細胞である:内部臓器、皮膚、骨、血液、および結合組織は、全て体細胞で構成される。いくつかの態様において、体細胞は、「非胚性体細胞」であり、これは胚に存在せずまたは胚から得られず、およびインビトロでそのような細胞の増殖に起因しない体細胞を意味する。いくつかの態様において、体細胞は「成体体細胞」であり、これは胚もしくは胎児以外の生物に存在するもしくは生物から得られる、またはインビトロでそのような細胞の増殖に起因する細胞を意味する。それ以外であると明記している場合を除き、分化した細胞をリプログラミングする方法は、インビボおよびインビトロの両方で行うことができる(インビボの場合は、分化した細胞が対象内に存在する場合に実践され、インビトロの場合は、培養で維持される単離された分化細胞を用いて実践される)。いくつかの態様において、分化した細胞または分化した細胞集団をインビトロで培養する場合、分化した細胞を、たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、Meneghel-Rozzo et al., (2004), Cell Tissue Res, 316(3);295-303において記述されるような、器官型スライス培養にて培養することができる。
【0101】
本明細書において用いられる「成体細胞」という用語は、胚発生後に体の至る所で見いだされる細胞を意味する。
【0102】
細胞の個体発生の文脈において、「分化する」または「分化している」という用語は、「分化した細胞」が、その前駆細胞より発達経路のさらに下方へと進行している細胞であることを意味する相対用語である。したがって、いくつかの態様において、リプログラミングされた細胞は、この用語が本明細書において定義されるように、系列が制限された前駆細胞(中胚葉幹細胞など)に分化することができ、次に、経路のさらに下方の他の型の前駆細胞(たとえば心筋細胞前駆細胞などの組織特異的前駆細胞)へと分化することができ、そしてある組織型において特徴的な役割を果たし、これ以上の増殖能を保持してもよく保持しなくてもよい末期分化細胞へと分化することができる。
【0103】
「胚性幹細胞」という用語は、胚盤胞の内部細胞塊の多能性幹細胞を意味するために用いられる(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,843,780号、第6,200,806号を参照されたい)。そのような細胞は、単に体細胞核移植に由来する胚盤胞の内部細胞塊からも同様に得ることができる(たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,945,577号、第5,994,619号、第6,235,970号を参照されたい)。胚性幹細胞の際だった特徴は、胚性幹細胞の表現型を定義する。したがって、細胞は、その細胞を他の細胞と区別することができるように胚性幹細胞の独自の特徴の1つまたは複数を有すれば、胚性幹細胞の表現型を有する。胚性幹細胞の際だった特徴の例には、遺伝子発現プロファイル、増殖能、分化能、核型、特定の培養条件に対する応答性などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0104】
「表現型」という用語は、実際の遺伝子型によらず、特定の環境条件および要因の下で細胞または生物を定義する全ての生物学的特徴のうちの1つまたは複数を意味する。
【0105】
本明細書において用いられる「単離された細胞」という用語は、それを得た起源の生物から取り出された細胞またはそのような細胞の子孫を意味する。任意で、当該細胞はインビトロで、たとえば他の細胞の存在下で培養されている。任意で、当該細胞は後に、第二の生物に導入されるか、または当該細胞(またはその祖先の細胞)を単離した生物に再度導入される。
【0106】
本明細書において用いられる単離された細胞集団に関する「単離された集団」という用語は、混合細胞集団または不均一な細胞集団から取り出され、分離された細胞集団を意味する。いくつかの態様において、単離された集団は、細胞を単離または濃縮した元の不均一な集団と比較して実質的に純粋な細胞集団である。
【0107】
「実質液に純粋な」という用語は、特定の細胞集団について、細胞集団全体を構成する細胞に対して少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、および最も好ましくは少なくとも約95%純粋である細胞集団を意味する。言い換えれば、「実質的に純粋な」または「本質的に精製された」という用語は、細胞集団に関して、本明細書における用語によって定義される表記の細胞またはその子孫ではない細胞を約20%より少なく、より好ましくは約15%、10%、8%、7%より少なく、より好ましくは約5%、4%、3%、2%、1%より少なく、または1%未満を含む細胞集団を意味する。
【0108】
「濃縮する」または「濃縮された」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、1つの細胞型の収率(割合)が、出発培養物または標本におけるその細胞型の割合より少なくとも10%増加していることを意味する。
【0109】
「再生」または「自己再生」、または「増殖」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、細胞自身のより多くのコピーを作成するプロセス(たとえば、複製)を意味する。いくつかの態様において、リプログラミングされた細胞は、長期間にわたって、および/または何ヶ月〜何年にもわたって同じ未分化の細胞(たとえば、多能性細胞型または非専門的細胞型)に分裂することによって、自身を再生することができる。いくつかの例において、増殖は、1つの細胞が2つの同一の娘細胞へと繰り返し分裂することによってリプログラミングされた細胞が増殖することを意味する。
【0110】
本明細書において言及される「細胞培養培地」(本明細書において「培養培地」または「培地」とも呼ばれる)という用語は、細胞の生存を維持して、増殖を支援する栄養を含む、細胞を培養するための培地である。細胞培養培地は、以下のいずれかを適切な組み合わせで含みうる:塩、緩衝剤、アミノ酸、グルコースまたは他の糖、抗生物質、血清または血清代替物、およびペプチド性増殖因子などの他の成分等。特定の細胞型のために通常用いられる細胞培養培地は、当業者に公知である。
【0111】
本明細書において用いられる「系列」という用語は、共通の先祖を有する細胞、または共通の発達的運命を有する細胞を記述する。一例に過ぎないが、内胚葉起源の細胞または「内胚葉系列」である細胞は、細胞が内胚葉細胞に由来して、最終的な内胚葉細胞を生じる1つまたは複数の発達系列経路などの内胚葉系列に制限される経路に沿って分化することができ、次に肝細胞、胸腺、膵臓、肺、および小腸へと分化することができることを意味する。
【0112】
幹細胞(たとえば、対象から単離された胚性幹細胞などの単離された幹細胞)を、RARアゴニストと任意の期間接触させることができる。たとえば、幹細胞を、RARアゴニストと12時間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間またはそれより長く接触させることができる。1つの非制限的な例において、RARアゴニスト(エタノールまたはDMSOに溶解した)を、最終濃度10 nMから3μMでMSC培養物に添加して、培養物に添加されるRARアゴニスト溶液の容量は0.1%である。
【0113】
理論に拘束されたくはないが、幹細胞をRARアゴニストと接触させることにより、特定の系列への幹細胞の系列特異的分化が誘導または刺激される。たとえば、幹細胞をRARアゴニストと接触させることにより、中胚葉、内胚葉、外胚葉、神経、間葉、および造血系列からなる群より選択される系列への分化が誘導または刺激され得る。
【0114】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、誘導/刺激される系列は、間葉系列である。
【0115】
いくつかの態様において、誘導される間葉系列は、筋原性、骨形成、軟骨形成、腱形成、靱帯形成、骨髄間質形成、脂肪形成、および皮膚形成系列からなる群より選択される。
【0116】
本明細書において用いられる「間葉系幹細胞」は、自己再生能を有し、1種または複数種の間葉細胞への分化能を有する間葉細胞である。中胚葉細胞と同様に、間葉系幹細胞は多能性であり、骨芽細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、間質細胞、腱細胞などに分化することができる。自己再生性で多能性の中胚葉細胞は、これらの能力を発生プロセスにおいて失うが、間葉系幹細胞は、発生を経た後の成体において長期間持続することが知られている。
【0117】
本明細書において用いられる「間葉細胞」は、骨芽細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、間質細胞、腱細胞、および間葉組織を形成する他の細胞、ならびにこれらに分化しうる間葉系幹細胞である。胚形成の際に存在する間葉細胞、個々の動物における間葉細胞、およびインビトロまたはインビボで多能性幹細胞からの分化によって生成される間葉細胞は全て、「間葉細胞」という用語に含まれる。
【0118】
幹細胞は、実施者に利用可能な任意の起源に由来することができ、または任意の起源から得ることができる。
【0119】
間葉系幹細胞は、当技術分野において周知の多数の方法によって得ることができる。たとえば、その全ての内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,486,358号;第6,387,367号;および第7,592,174号、ならびに米国特許出願公開第2003/0211602号を参照されたい。間葉細胞は、自己間葉系幹細胞、すなわち処置を必要とする対象から得た1つまたは複数の細胞を含むことができる(すなわち、ドナーとレシピエントは同じ個体である)。自己間葉系幹細胞は、免疫に基づくいかなる細胞の拒絶も回避するという長所を有する。または当該細胞を、異種、たとえばドナーから採取することができる。第二の対象は、同じまたは異なる種の対象でありうる。典型的には、当該細胞がドナーに由来する場合、当該細胞は、免疫学的にレシピエントと十分に適合する、すなわち免疫抑制の必要性を少なくするまたはなくすために移植の拒絶を受けないドナーに由来する細胞であるものとする。いくつかの態様において、当該細胞は、異種起源、すなわち免疫学的にレシピエントまたはレシピエント種と十分に適合するように遺伝子操作されている非ヒト哺乳動物から採取される。免疫学的適合性を決定するための方法は、当技術分野において公知であり、HLAおよびABO決定因子に関するドナー・レシピエント適合性を評価するための組織タイピングを含む。たとえば、Transplantation Immunology, Bach and Auchincloss, Eds. (Wiley, John & Sons, Incorporated 1994)を参照されたい。
【0120】
いくつかの態様において、間葉系幹細胞は、脱分化した体細胞(リプログラミングされた細胞)に由来する。たとえば内胚葉起源の細胞のダイレクト・リプログラミングによって、たとえば多能性幹細胞へと脱分化させた体細胞に由来する。理論に拘束されたくはないが、脱分化した細胞は、それが由来するより始原的な細胞型に似た形態、たとえば間葉形態を有する。
【0121】
いくつかの態様において、間葉系幹細胞は、再分化した間葉系幹細胞である。本明細書において用いられる「再分化した間葉系幹細胞」という用語は、脱分化した間葉系幹細胞から分化した間葉系幹細胞を意味する。
【0122】
いくつかの態様において、間葉系幹細胞は安定した状態で存在し、たとえば当該細胞は、対象から採取され、何らかの時間保存されるように処置されたものである。たとえば、当該細胞が融解時に生存しているように、初代培養細胞を凍結するための当技術分野において公知の方法を用いて、当該細胞を凍結することができる。たとえば、生きた哺乳動物を生成するために胚を凍結融解するための当技術分野において公知の方法を、本発明の方法において用いるために適合させることができる。そのような方法は、たとえば1種または複数種の凍結保護剤、たとえば当該細胞に対する凍結融解による損傷を防止する物質と共に液体窒素を用いることを含みうる。
【0123】
対象またはドナーから得られた間葉系幹細胞集団は実質的に純粋でありうる。当技術分野において公知の方法を用いて、集団の純度を決定して、操作することができる。たとえば、蛍光活性化セルソーティングを用いる方法を用いることができる。
【0124】
理論に拘束されたくはないが、任意の適した細胞培養培地を、本発明のインビトロまたはエクスビボ法のために用いることができる。たとえば、MSCを、10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地において維持することができる。
【0125】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、間葉系幹細胞は骨髄由来間葉系幹細胞(BMSC)である。
【0126】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、間葉系幹細胞はマウス骨髄由来間葉系幹細胞である。
【0127】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、間葉系幹細胞はヒト間葉系幹細胞(hMSC)である。
【0128】
本発明者らはまた、RARアゴニストで処置された幹細胞を、筋修復または筋再生のために用いることができることを発見した。したがって、別の局面において、本発明は、集団における少なくとも1つの細胞をRARアゴニストと接触させている幹細胞集団を対象に投与する段階を含む、対象における筋修復または筋再生のための方法を提供する。
【0129】
いくつかの態様において、当該方法は以下の段階を含む:(i)少なくとも1つの幹細胞をRARアゴニストと接触させる段階;および(ii)当該幹細胞を、損傷した筋組織を有する対象に投与する段階。
【0130】
少なくとも1つの幹細胞をRARアゴニストと必要な期間接触させた後、処置した幹細胞を直ちに投与するか、または対象に投与する前に一定期間保存することができる。期間は数分から数日の範囲でありうるが、これらに限定されるわけではない。
【0131】
対象に投与される、RARアゴニストで処置された幹細胞の数は、細胞1個から10
6個以上までの範囲でありうる。
【0132】
本発明の別の局面は、幹細胞の一部が本明細書に記載のRARγアゴニストによって前処置されている幹細胞集団を対象に投与する段階を含む、対象における筋修復または筋再生のための方法に関する。1つの態様において、前処置される幹細胞の部分は、約50%(1:1比)である。より高い比率(たとえば、2:1、3:1、4:1、5:1、前処置された幹細胞:無処置の幹細胞)および同様により低い比率(1:2、1:3、1:4、1:5、前処置された幹細胞:無処置の幹細胞)で前処置された幹細胞の集団を用いることも同様に、方法において有用であると見なされる。たとえば、前処置された幹細胞の部分は、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、または45%でありうる。前処置された幹細胞の部分は、また、約55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%でありうる。
【0133】
筋修復または筋再生の方法は、前処置された幹細胞および無処置の幹細胞を含む組成物を対象の筋損傷部位に投与し、それによって、その部位での筋肉を修復または再生する段階を含む。1つの態様において、損傷は複合組織損傷である。複合組織損傷は、多数の組織損傷部位であり、筋肉、骨、腱、靱帯、および脂肪の組織損傷のうち1種または複数種を含みうる。様々な組み合わせが想像される。1つの態様において、複合組織損傷は、筋肉と骨とを含む。1つの態様において、複合組織損傷は、筋肉と少なくとも1種のさらなる組織(たとえば、靱帯、腱、軟骨、骨、皮膚、脂肪、および血管)を含む。1つの態様において、複合組織損傷は、筋肉と少なくとも2種のさらなる組織(たとえば、靱帯、腱、軟骨、骨、皮膚、脂肪、および血管のうちの2種以上)を含む。1つの態様において、さらなる組織損傷は骨を含む。1つの態様において、複合組織損傷は、筋肉と少なくとも3種のさらなる組織(たとえば、靱帯、腱、軟骨、骨、皮膚、脂肪、および血管のうちの3種以上)を含む。1つの態様において、さらなる組織損傷は骨を含む。1つの態様において、複合組織損傷は筋肉と少なくとも4種のさらなる組織を含む。1つの態様において、さらなる組織損傷は骨を含む。本明細書に記載の型以外のさらなる組織型も同様に、筋損傷と共に損傷に含まれうる。
【0134】
先に述べたように、本発明者らは、レチノイン酸受容体γ(RARγ)アゴニストに対する短期間または長期間の曝露によって、前駆体幹細胞の筋分化を誘導できることを発見した。したがって、1つの局面において、本発明は、幹細胞をレチノイン酸受容体アゴニストと接触させる段階を含む、1つの特定の系列への幹細胞の系列特異的分化を誘導または刺激する方法を提供する。
【0135】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、特定の系列は、中胚葉、内胚葉、外胚葉、神経、造血系列およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。
【0136】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、特定の系列は間葉系列である。
【0137】
本発明のこの局面および他の局面のいくつかの態様において、間葉系列は、筋原性、骨形成、軟骨形成、腱形成、靱帯形成、骨髄間質形成、脂肪形成、および皮膚形成系列からなる群より選択される。
【0138】
キット
別の局面において、本発明は、筋修復または筋再生のためのキットを提供する。いくつかの態様において、キットはRARアゴニストを含む。いくつかの態様において、キットはさらに幹細胞集団を含む。RARアゴニストを、投与のために薬学的製剤に予め処方することができ、または薬学的製剤に処方するための成分をキットに提供することができる。
【0139】
いくつかの態様において、キットは、表面適用のために処方されるRARアゴニストを含む。
【0140】
いくつかの態様において、キットは、集団における少なくとも1つの細胞がRARアゴニストとの接触によって前処置されている、幹細胞集団を含む。
【0141】
上記の成分に加えて、キットは情報資料を含むことができる。情報資料は、本明細書に記載の方法および/または本明細書に記載の方法のための化合物の使用に関する、説明資料、指示資料、販売資料、または他の資料でありうる。たとえば、情報資料は、製剤を対象に投与するための方法を記述する。キットはまた、送達装置を含むことができる。
【0142】
1つの態様において、情報資料は、製剤を適した様式で、たとえば適した用量、投与剤形、または投与様式(たとえば、本明細書に記載の用量、投与剤形、または投与様式)で投与するための説明書を含むことができる。別の態様において、情報資料は、適した対象、たとえばヒト、たとえばヒト成人を同定するための説明書を含むことができる。キットの情報資料は、その形状について限定されない。多くの場合において、情報資料、たとえば説明書は印刷されて、たとえば印刷されたテキスト、図面、および/または写真、たとえばラベルもしくは印刷されたシートで提供される。しかし、情報資料はまた、ブライユ点字、コンピューター読み取り可能な資料、ビデオ記録、またはオーディオ記録などの他のフォーマットで提供することができる。別の態様において、キットの情報資料は、キットのユーザーが、本明細書に記載の方法において製剤および/またはその使用に関する実質的な情報を得ることができる、リンクまたはコンタクト情報、たとえば物理的アドレス、電子メールアドレス、ハイパーリンク、ウェブサイト、または電話番号である。当然ながら、任意のフォーマットの組み合わせで情報資料を提供することもできる。
【0143】
いくつかの態様において、製剤の個々の成分を1つの容器で提供することができる。または、2つもしくはそれより多くの容器で個別に、たとえばオリゴヌクレオチド調製物のための1つの容器、および担体化合物のための少なくとも別の容器で、製剤の成分を提供することが望ましい場合がありうる。異なる成分を、たとえばキットに提供される説明書に従って混合することができる。たとえば薬学的組成物を調製および投与するために、本明細書に記載の方法に従って当該成分を混合することができる。
【0144】
前記製剤のほかに、キットの組成物は、溶媒または緩衝剤、安定化剤または保存剤、および/または本明細書に記載の状態または障害を処置するための第二の物質などの他の成分を含むことができる。または、他の成分をキットに含めることができるが、製剤とは異なる組成物または容器に含めることができる。そのような態様において、キットは、製剤と他の成分を混合するための説明書、またはオリゴヌクレオチドを他の成分と共に用いるための説明書を含むことができる。
【0145】
RARアゴニストは、任意の剤形で、たとえば液体、乾燥、または凍結乾燥剤形で提供することができる。製剤は実質的に純粋および/または無菌的であることが好ましい。製剤が溶液で提供される場合、溶液は好ましくは水溶液であり、滅菌水溶液が好ましい。製剤が乾燥剤形で提供される場合、一般的に適した溶媒を加えることによって溶解される。溶媒、たとえば滅菌水または緩衝液を任意でキットに供給することができる。
【0146】
いくつかの態様において、キットは、製剤および情報資料のために個別の容器、仕切り、または区画を含む。たとえば、製剤を、ボトル、バイアル、またはシリンジ中に含むことができ、情報資料をプラスチックスリーブまたはパケットに含むことができる。他の態様において、キットの個別の要素は1つの分割されない容器内に含まれる。たとえば、製剤は、情報資料がラベルの形でそれに添付されるボトル、バイアル、またはシリンジに含まれる。
【0147】
いくつかの態様において、キットは、各々が製剤の1つまたは複数の単位投与剤形を含む、複数の、たとえばパックの個別容器を含む。たとえば、キットは、各々が製剤の1回分の単位用量を含む、複数のシリンジ、アンプル、ホイルパケット、またはブリスターパックを含む。キットの容器は気密性および/または防水性でありうる。
【0148】
定義
それ以外であることが明記されているか、または本文から暗黙である場合を除き、以下の用語および句は、以下に提供される意味を有する。それ以外であると明記されているかまたは本文から明らかである場合を除き、以下の用語および句は、本発明が属する当技術分野においてその用語または句が有する意味を除外しない。定義は、本明細書に記載の局面の特定の態様の説明を助けるために提供されたものであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ限定されることから、請求される本発明を当該定義によって限定することは意図していない。さらに、本文がそれ以外であることを必要としている場合を除き、単数形は複数形を含み、複数形は単数形を含むものとする。
【0149】
本明細書において用いられる「含む(comprising)」または「含む(comprises)」という用語は、本発明にとって必須である組成物、方法、および各々の成分に関して用いられるが、なおも必須であるか否かによらず、明記されない要素を含めることを許容する。
【0150】
本明細書において用いられる「から本質的になる」という用語は、所定の態様にとって必要な要素を意味する。この用語は、本発明のその態様の基本的かつ新規または機能的な特徴に実質的に影響を及ぼさないさらなる要素の存在を許容する。
【0151】
「からなる」という用語は、態様のその記述において引用されないいかなる要素も除外する、本明細書に記載の組成物、方法、およびその各々の成分を意味する。
【0152】
単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、本文が明らかにそれ以外であることを明記している場合を除き、複数形を含む。同様に「または」という用語は、本文が明らかにそれ以外であることを明記している場合を除き「および」を含むと意図される。
【0153】
本明細書に記載の方法および材料と類似または同等の方法および材料を本開示の実施または試験において用いることができるが、適した方法および材料を以下に記述する。「含む(comprises)」という用語は「含む(includes)」を意味する。省略語「e.g.」は、ラテン語のexempli gratiaに由来し、本明細書において非制限的な例を示すために用いられる。このように、省略語「e.g.」は、「たとえば」という用語と同義である。
【0154】
「減少する」、「低減された」、「低減」、「減少する」、または「阻害する」という用語は全て、本明細書において、一般的に統計学的に有意な量の減少を意味するために用いられる。しかし、まぎらわしさを回避するために、「低減された」、「低減」、または「減少する」、または「阻害する」は、基準レベルと比較して少なくとも10%の減少、たとえば少なくとも約20%の減少、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%、または多くても100%および100%を含む減少(たとえば、参照試料と比較して存在しないレベル)、または基準レベルと比較して10〜100%の間の任意の減少を意味する。
【0155】
「増加した」、「増加」、または「増強する」、または「活性化する」という用語は全て、本明細書において一般的に、統計学的に有意な量の増加を意味する;いかなるまぎらわしさも回避するために、「増加した」、「増加」、または「増強する」、または「活性化する」という用語は、基準レベルと比較して少なくとも10%の増加、たとえば少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%、または100%までおよび100%を含む増加、または基準レベルと比較して10〜100%の間の任意の増加、または基準レベルと比較して少なくとも約2倍、または少なくとも約3倍、または少なくとも約4倍、または少なくとも約5倍、または少なくとも約10倍の増加、または2倍から10倍の間の任意の増加、またはそれより多くの増加を意味する。
【0156】
「上昇した」という用語は、統計学的に有意な量の増加を意味する;いかなるまぎらわしさも回避するために、「上昇した」という用語は、基準レベルと比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも1倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、または少なくとも10倍またはそれより多くの増加を意味する。
【0157】
「統計学的に有意な」または「有意に」という用語は、統計学的有意性を意味し、一般的に、基準レベルより2標準偏差(2SD)上または下を意味する。この用語は、差が存在することの統計学的証拠を意味する。これは帰無仮説が実際に真実である場合に帰無仮説を棄却する決定を下す確率として定義される。決定はしばしば、p値を用いて行われる。
【0158】
本明細書において用いられる「エクスビボ」という用語は、細胞が生きている生物から切除されて、生物外で(たとえば、試験管中で)培養されることを意味する。
【0159】
本明細書においてそれ以外であることを定義している場合を除き、本出願に関連して用いられる科学技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。さらに、本文によってそれ以外であることを必要としている場合を除き、単数形は複数形を含み、複数形は単数形を含むものとする。
【0160】
本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコール、および試薬等に限定されず、それらは多様であり得ると理解すべきである。本明細書において用いた方法論は、特定の態様を記述する目的に限られ、特許請求の範囲のみによって定義される本発明の範囲を限定することは意図していない。
【0161】
実施例以外において、またはそれ以外であると示される場合を除き、本明細書において用いられる成分または反応条件の量を表記する数値は全て、全ての例において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。百分率に関して、本発明を記述する場合に用いられる「約」という用語は、±1%を意味する。
【0162】
1つの局面において、本発明は、本発明にとって必須のものとして、本明細書に記載の組成物、方法およびその各々の成分に関するが、必須であるか否かによらず、明記されていない要素をも含めることを許容する(「含む」)。いくつかの態様において、組成物、方法、またはその各々の成分の記述に含まれる他の要素は、本発明の基本的かつ新規な特徴に実質的な影響を及ぼさない組成物、方法、または成分に限定される(「から本質的になる」)。このことは、記述の方法における段階ならびにその中の組成物および成分にも等しく当てはまる。他の態様において、本明細書に記載の本発明、組成物、方法、およびその各々の成分は、成分、組成物、または方法に対して必須の要素ではないと思われるいかなる成分も除外すると意図される(「からなる」)。
【0163】
既に示されていない限り、本明細書において記述されて説明される様々な態様の任意の1つを、本明細書において開示される他の態様のいずれかに示される特色を組み入れるためにさらに改変してもよいことは、当業者によって理解されるであろう。
【0164】
同定された全ての特許、特許出願、および刊行物は、たとえば、本発明に関連して用いられうるそのような刊行物において記述される方法論を記述および開示する目的のために、参照により明白に本明細書に組み入れられる。これらの刊行物は、単にそれらの開示が本出願の提出日より前になされたために提供される。この点についていかなるものも、先行発明または他の任意の理由のために、そのような開示に本発明者らは先行できないとの自認と解釈されるべきではない。これらの文書の日付または内容に関する表現に関する全ての声明は、出願人に入手可能な情報に基づいており、これらの文書の日付または内容の正確性に関していかなる承認も構成しない。
【0165】
本発明は、以下の番号をつけた段落の任意の1つによって定義されうる。
1. 損傷した筋組織を有する対象にレチノイン酸受容体γ(RARγ)アゴニストの治療的有効量を投与し、それによって、損傷した筋組織を修復または再生する段階を含む、対象において筋肉を修復または再生する方法。
2. 投与が局所的または全身性である、第1項記載の方法。
3. 損傷した筋組織を負ったことに起因して対象において内因性のレチノイドシグナル伝達が増強している期間に投与を開始する、第1項〜第2項のいずれか1項記載の方法。
4. 損傷した筋組織を対象が負った後3日目より後に投与を開始する、第1項〜第3項のいずれか1項記載の方法。
5. 損傷した筋組織を対象が負った後約4日目に投与を開始する、第4項記載の方法。
6. 損傷した筋組織を対象が負った後約5日目に投与を開始する、第4項記載の方法。
7. 損傷した筋組織を対象が負った後約6日目に投与を開始する、第4項記載の方法。
8. 損傷した筋組織を対象が負った後約7日目に投与を開始する、第4項記載の方法。
9. 損傷した筋組織を対象が負った後約5日目に投与を開始し、少なくとも7日目まで投与を継続する、第4項記載の方法。
10. 損傷した筋組織を対象が負った後少なくとも9日目まで投与を継続する、第9項記載の方法。
11. RARγアゴニストが、CD-271(6-(4-メトキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-394、CD-437(6-(4-ヒドロキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-1530(4-(6-ヒドロキシ-7-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル-2-ナフタレニル)安息香酸);CD-2247;パロバロテン(4-[(1E)-2-[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-3-(1H-ピラゾル-1-イルメチル)-2-ナフタレニル]-エテニル]-安息香酸);BMS-270394(3-フルオロ-4-[(R)-2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);BMS-189961(3-フルオロ-4-[2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);CH-55(4-[(E)-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-フェニル)-3-オキソ-プロペニル]-安息香酸);6-[3-(アダマンタン-1-イル)-4-(プロプ-2-イニルオキシ)フェニル]ナフタレン-2-カルボン酸;5-[(E)-3-オキソ-3-(5,5,8,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)プロペニル]チオフェン-2-カルボン酸;ならびにそのエナンチオマー、誘導体、プロドラッグ、および薬学的に許容される塩からなる群より選択される、第1項〜第10項のいずれか1項記載の方法。
12. 損傷した筋組織が、身体の損傷または事故、疾患、感染、酷使、血液循環の喪失、または筋萎縮もしくは消耗の結果である、第1項〜第11項のいずれか1項記載の方法。
13. 損傷した筋組織が、ジストロフィー筋または加齢筋である、第1項〜第11項のいずれか1項記載の方法。
14. 損傷した筋組織が、筋萎縮/消耗の結果である、第1項〜第11項のいずれか1項記載の方法。
15. 対象が哺乳動物である、第1項〜第14項のいずれか1項記載の方法。
16. 対象がマウスである、第1項〜第15項のいずれか1項記載の方法。
17. 対象がヒトである、第1項〜第15項のいずれか1項記載の方法。
18. 抗炎症剤を対象に投与する段階をさらに含む、第1項〜第17項のいずれか1項記載の方法。
19. RARγアゴニストによって前処置されている多能性または多分化能幹細胞を対象の筋損傷部位に投与し、それによって、その部位で筋肉を修復または再生する段階を含む、対象において筋肉を修復または再生する方法。
20. 筋損傷が複合組織損傷である、第19項記載の方法。
21. 複合組織損傷が、筋肉および骨に対する損傷を含む、第20項記載の方法。
22. 前処置された幹細胞が、無処置の幹細胞と共に投与される、第19項〜第21項のいずれか1項記載の方法。
23. 前処置された幹細胞と無処置の幹細胞とが1:1の比率で投与される、第22項記載の方法。
24. 前処置された幹細胞が、RARγアゴニストによって約3日間前処置されている、第19項〜第23項のいずれか1項記載の方法。
25. 多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、第19項記載の方法。
26. 多能性幹細胞が間葉系幹細胞である、第19項〜第25項のいずれか1項記載の方法。
27. 投与が局所的である、第19項〜第26項のいずれか1項記載の方法。
28. 投与が、対象への細胞の移植によって行われる、第19項〜第27項のいずれか1項記載の方法。
29. 多能性幹細胞が、対象に関して自己由来または異種由来である、第19項〜第28項のいずれか1項記載の方法。
30. 多能性幹細胞が哺乳動物由来である、第19項〜第29項のいずれか1項記載の方法。
31. 多能性幹細胞が齧歯動物由来である、第19項〜第30項のいずれか1項記載の方法。
32. 多能性幹細胞がヒト由来である、第19項〜第30項のいずれか1項記載の方法。
33. 抗炎症剤を対象に投与する段階をさらに含む、第19項〜第32項のいずれか1項記載の方法。
34. RARγアゴニストが、CD-271(6-(4-メトキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-394、CD-437(6-(4-ヒドロキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-1530(4-(6-ヒドロキシ-7-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル-2-ナフタレニル)安息香酸);CD-2247;パロバロテン(4-[(1E)-2-[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-3-(1H-ピラゾル-1-イルメチル)-2-ナフタレニル]-エテニル]-安息香酸);BMS-270394(3-フルオロ-4-[(R)-2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);BMS-189961(3-フルオロ-4-[2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);CH-55(4-[(E)-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-フェニル)-3-オキソ-プロペニル]-安息香酸);6-[3-(アダマンタン-1-イル)-4-(プロプ-2-イニルオキシ)フェニル]ナフタレン-2-カルボン酸;5-[(E)-3-オキソ-3-(5,5,8,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)プロペニル]チオフェン-2-カルボン酸;ならびにそのエナンチオマー、誘導体、プロドラッグ、および薬学的に許容される塩からなる群より選択される、第19項〜第33項のいずれか1項記載の方法。
35. 損傷した筋肉が、身体の損傷または事故、疾患、感染、酷使、血液循環の喪失、または筋萎縮もしくは消耗に起因する、第19項〜第34項のいずれか1項記載の方法。
36. 損傷した筋組織がジストロフィー筋または加齢筋である、第19項〜第34項のいずれか1項記載の方法。
37. 損傷した筋肉が、筋萎縮/消耗の結果である、第19項〜第34項のいずれか1項記載の方法。
38. 単離された間葉系幹細胞の筋原性分化をインビトロで誘導または刺激する方法であって、該間葉系幹細胞をレチノイン酸受容体γ(RARγ)アゴニストの有効量と接触させる段階を含む、方法。
39. 接触が、約12時間、約1日、約2日、および約3日からなる群より選択される期間にわたってなされる、第38項記載の方法。
40. 多能性幹細胞をレチノイン酸受容体γ(RARγ)アゴニストの有効量と接触させる段階を含む、多能性幹細胞の間葉系列への系列特異的分化を誘導または刺激する方法。
41. 多能性幹細胞が人工多能性幹細胞である、第40項記載の方法。
42. 多能性幹細胞が間葉系幹細胞である、第40項〜第41項のいずれか1項記載の方法。
43. 間葉系列が、筋原性、骨形成、軟骨形成、腱形成、靱帯形成、骨髄間質形成、脂肪形成、および皮膚形成系列からなる群より選択される、第40項〜第42項のいずれか1項記載の方法。
44. 多能性幹細胞が哺乳動物由来である、第40項〜第43項のいずれか1項記載の方法。
45. 多能性幹細胞が齧歯動物由来である、第40項〜第44項のいずれか1項記載の方法。
46. 多能性幹細胞がヒト由来である、第40項〜第45項のいずれか1項記載の方法。
47. RARγアゴニストが、CD-271(6-(4-メトキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-394、CD-437(6-(4-ヒドロキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-1530(4-(6-ヒドロキシ-7-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル-2-ナフタレニル)安息香酸);CD-2247;パロバロテン(4-[(1E)-2-[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-3-(1H-ピラゾル-1-イルメチル)-2-ナフタレニル]-エテニル]-安息香酸);BMS-270394(3-フルオロ-4-[(R)-2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);BMS-189961(3-フルオロ-4-[2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);CH-55(4-[(E)-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-フェニル)-3-オキソ-プロペニル]-安息香酸);6-[3-(アダマンタン-1-イル)-4-(プロプ-2-イニルオキシ)フェニル]ナフタレン-2-カルボン酸;5-[(E)-3-オキソ-3-(5,5,8,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)プロペニル]チオフェン-2-カルボン酸;ならびにそのエナンチオマー、誘導体、プロドラッグ、および薬学的に許容される塩からなる群より選択される、第40項〜第46項のいずれか1項記載の方法。
48. 間葉系幹細胞を含む組成物であって、該間葉系幹細胞のうち一部がRARγアゴニストとの接触によって前処置され、それによって、前処置された間葉系幹細胞が生じる、組成物。
49. 前処置された間葉系幹細胞の部分が、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、および90%からなる群より選択される、第43項記載の組成物。
50. 多能性幹細胞集団を含む組成物であって、該集団の少なくとも1つの細胞をRARγアゴニストと接触させ、それによって、前処置された多能性幹細胞を生じさせる、組成物。
51. 多能性幹細胞が人工多能性細胞である、第50項記載の組成物。
52. 多能性幹細胞が間葉系幹細胞である、第50項〜第51項のいずれか1項記載の組成物。
53. 幹細胞が単離された幹細胞である、第50項〜第52項のいずれか1項記載の組成物。
54. 幹細胞が哺乳動物由来である、第50項〜第53項のいずれか1項記載の組成物。
55. 幹細胞がマウス由来である、第50項〜第54項のいずれか1項記載の組成物。
56. 幹細胞がヒト由来である、第50項〜第54項のいずれか1項記載の組成物。
57. RARγアゴニストが、CD-271(6-(4-メトキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-394、CD-437(6-(4-ヒドロキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-1530(4-(6-ヒドロキシ-7-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル-2-ナフタレニル)安息香酸);CD-2247;パロバロテン(4-[(1E)-2-[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-3-(1H-ピラゾル-1-イルメチル)-2-ナフタレニル]-エテニル]-安息香酸);BMS-270394(3-フルオロ-4-[(R)-2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);BMS-189961(3-フルオロ-4-[2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);CH-55(4-[(E)-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-フェニル)-3-オキソ-プロペニル]-安息香酸);6-[3-(アダマンタン-1-イル)-4-(プロプ-2-イニルオキシ)フェニル]ナフタレン-2-カルボン酸;5-[(E)-3-オキソ-3-(5,5,8,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)プロペニル]チオフェン-2-カルボン酸;ならびにそのエナンチオマー、誘導体、プロドラッグ、および薬学的に許容される塩からなる群より選択される、第50項〜第56項のいずれか1項記載の組成物。
58. 第50項〜第57項のいずれか1項記載の組成物と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
59. RARγアゴニスト;
RARγアゴニストおよび幹細胞;または
第48項〜第58項のいずれか1項記載の組成物
のうち少なくとも1つを含む、筋肉を修復または再生させるためのキット。
60. 幹細胞が人工多能性幹細胞である、第59項記載のキット。
61. 幹細胞が間葉系幹細胞である、第59項〜第60項のいずれか1項記載のキット。
62. RARγアゴニストが薬学的組成物中に処方される、第59項〜第61項のいずれか1項記載のキット。
63. RARγアゴニストが表面適用のために処方される、第59項〜第62項のいずれか1項記載のキット。
64. 幹細胞が単離された幹細胞である、第59項〜第63項のいずれか1項記載のキット。
65. 幹細胞が哺乳動物由来である、第59項〜第64項のいずれか1項記載のキット。
66. 幹細胞が齧歯動物由来である、第59項〜第65項のいずれか1項記載のキット。
67. 幹細胞がヒト由来である、第59項〜第65項のいずれか1項記載のキット。
68. RARγアゴニストが、CD-271(6-(4-メトキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-394、CD-437(6-(4-ヒドロキシ-3-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イルフェニル)-2-ナフタレンカルボン酸);CD-1530(4-(6-ヒドロキシ-7-トリシクロ[3.3.1.13,7]デク-1-イル-2-ナフタレニル)安息香酸);CD-2247;パロバロテン(4-[(1E)-2-[5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-3-(1H-ピラゾル-1-イルメチル)-2-ナフタレニル]-エテニル]-安息香酸);BMS-270394(3-フルオロ-4-[(R)-2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);BMS-189961(3-フルオロ-4-[2-ヒドロキシ-2-(5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロ-ナフタレン-2-イル)-アセチルアミノ]-安息香酸);CH-55(4-[(E)-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-フェニル)-3-オキソ-プロペニル]-安息香酸);6-[3-(アダマンタン-1-イル)-4-(プロプ-2-イニルオキシ)フェニル]ナフタレン-2-カルボン酸;5-[(E)-3-オキソ-3-(5,5,8,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)プロペニル]チオフェン-2-カルボン酸;ならびにそのエナンチオマー、誘導体、プロドラッグ、および薬学的に許容される塩からなる群より選択される、第59項〜第67項のいずれか1項記載のキット。
69. 使用説明書をさらに含む、第59項〜第68項のいずれか1項記載のキット。
【0166】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明する。これらの実施例は、本発明の理解を助けるために提供されるものであり、本発明の限定とは解釈されない。
【実施例】
【0167】
実施例1
方法
骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)の単離および培養。MSCを、既に記述されたもの(参考)に軽微な改変を加えて単離した。簡単に説明すると、4〜6週齢のマウスの長骨から採取したマウス骨髄細胞(1〜2×10
7個)を100 mm培養皿に播種し、37℃で3時間インキュベートして接着性細胞を接着させた後、PBSによって2回すすいで、非接着性細胞を除去した。骨髄由来MSCは、培養12〜15日目に接着コロニーを形成した。初代培養物を継代してコロニー形成細胞を分散させた(継代1)。次に、細胞が70%コンフルエントに達すると、細胞を再度継代培養した。細胞を、20%ウシ胎児血清(FBS;Equitech-Bio Inc.)、2 mM L-グルタミン、100 U/mlペニシリンと100μg/mlストレプトマイシンの混合物(Biofluids Inc.)、および55μM 2-メルカプトエタノール(Gibco BRL; Invitrogen Corp.)を含むα-MEM(Gibco BRL; Invitrogen Corp.)中で初回継代まで維持した。初回継代後、細胞を特に明記していなければ10%FBS、α-MEMにおいて維持した。
【0168】
DsRED発現MSCをB6.Cg-Tg(CAG-DsRed
*MST)1Nagy/Jマウス(Jax Mice)から単離した。GFP発現MSCは、H2K-GFPを有するトランスジェニックマウスから得た(Dominici et al. Genesis 42:17-22(2005))。
【0169】
細胞の移植。RARアゴニストによる前処置を行ったまたは行わないMSC(1×10
5個)を無血清DMEM 10μl中に浮遊させて、本明細書に記載のように作製した筋欠損部の上に置いた。
【0170】
組織学技法。筋組織構造を検査するために、試料を4%PFA中で固定して、パラフィンに包埋した。5μmの連続切片をH&E (http://www.ihcworld.com/_protocols/special_stains/HE_Mayer.htm)またはマッソントリクローム染色液(http://www.ihcworld.com/_protocols/special_stains/masson_trichrome.htm)のいずれかによって染色した。脂肪組織を検出するために、4%PFA固定試料を、20%スクロースのPBS溶液中で平衡化して、OCT化合物中で包埋した後、低温槽で切片を作製した。10μmの凍結切片を乾燥させて、再水和した後、オイルレッドO(http://www.ihcworld.com/_protocols/special_stains/oil_red_o.htm)によって染色した。
【0171】
免疫蛍光。組織切片中の様々な抗原を検出するために、5μmパラフィン切片のパラフィンを除去し、再水和した後、0.1%ペプシンの0.02 N HCl溶液によって37℃で15分間処置した。切片をPBS-T中で3回洗浄して、0.3%BSAを含む10%正常ヤギ血清中でブロックした。切片を一次抗体と共にインキュベートして、PBS-Tによって3回洗浄した後、二次抗体と共にインキュベートした。抗原、抗体、およびその希釈の一覧を以下に示す。
【0172】
MyoD:抗-MyoD; sc-760(Santa Curz、1 : 100)、抗ウサギAlexa Flour 488(Invitrogen、1:500)
【0173】
Myf5:抗Myf5; sc-302(Santa Curz、1 : 100)、抗ウサギAlexa Flour 488(Invitrogen、1:500)
【0174】
抗ラミニンa2; ALX-804-190(Enzo Life Science、1: 250)、抗ラットAlexa Flour 594(Invitrogen、1:500)
【0175】
ミオシン重鎖(MHC):抗MHC; MF-20(Developmental Studies Hybridoma Bank、1:25)、抗マウスAlexa Flour 588(Invitrogen、1:500)
【0176】
オステオカルシン(OC):抗OC; M173(Takara、1:500)、抗ウサギAlexa Flour 594(Invitrogen、1:500)
【0177】
緑色蛍光タンパク質(GFP):ビオチンコンジュゲート抗GFP; NB100-1678(Novus、1:250)、ストレプトアビジンAlexa Flour 488(Invitrogen、1:500)
【0178】
RARアゴニストの局所的および全身性投与。RARアゴニストの全身性投与は、既に記述されたように胃管栄養によって行った(Shimono et al. J. Orthop. Res. 28:271-277, 2010)。RARアゴニストの局所送達は、26G針をつけたハミルトンシリンジ87943を用いてRARアゴニスト(DMSOに溶解)の注射によって行った。
【0179】
結果
マウス骨髄由来間葉系幹細胞(BMSC)培養における筋原性分化に及ぼすレチノイドアゴニストの異なる効果を調べた。BMSCを6週齢のマウスの大腿骨および脛骨から標準的な方法によって調製して、0.1%DMSO(媒体:対照)、1μMオールトランスレチノイン酸(RA)(Sigmaから購入)、1μM RARα-アゴニスト(NuRx Pharmaceuticalsから得た)、または30 nM RARγアゴニスト(CD1530、購入)の存在下で、5%FBS DMEM中で7日間維持した。多数の伸長した多核筋細胞が、RARγアゴニスト処置培養物のみに形成された。
【0180】
間葉系幹細胞株由来の細胞を、RARγアゴニスト(CD1530、100 nM)の存在下または非存在下で、10日間培養した。培養物をMyoD抗体もしくはMyf5抗体によって免疫染色するために処理するか、または核色素DAPIによって染色した。対照である無処置の細胞は、検出可能な量のMyoDおよびMyf5を含まなかったが、いずれのタンパク質もγアゴニスト処置培養物には明らかに存在した。当該結果は、間葉系幹細胞(MSC)培養物では、RARγアゴニストによりMyoDおよびMyf5レベルが増加することを示した。
【0181】
筋欠損マウスモデルを用いて、RARγアゴニストの投与による筋修復刺激を調べた。丸い形状の欠損を8週齢のマウスの腓腹筋または前脛骨筋において電気焼灼によって作製し、2.0 mm×2.0 mm×2.0 mmの欠損を得た。
【0182】
丸い形状の欠損を、上記のように8週齢のマウスの腓腹筋組織において作製した(筋欠損1個/マウス)。マウスにコーン油(媒体)またはRARγアゴニスト(CD1530)300μg/日を、損傷後8日目、10日目、および12日目に胃管栄養によって与えた。組織学的分析のために、14日目に組織を収集した。対照マウスにおける筋欠損は、14日目までに瘢痕様の線維組織および結合組織によってほぼ満たされた。これらの瘢痕様組織は、免疫染色によって検出したところ、ミオシン重鎖(MHC)に関して全く陰性であった。対照的に、RARγアゴニストで処置したマウスの筋欠損部位は、多くの伸長した筋様細胞で満たされ、これらの細胞の多くはMHC陽性であった。当該結果は、RARγアゴニストの全身性投与により筋修復が刺激されたことを示している。
【0183】
先に記述したように前脛骨筋の中心において2×2×2 mmの欠損を作成した後(筋欠損1個/マウス)、マウスにコーン油(媒体)またはRARγアゴニスト300μg/日を、損傷後8日目、10日目、および12日目に胃管栄養によって与えた。組織学的分析のために2週目および4週目に組織を収集した。対照マウスおよびRARγアゴニスト(CD1530)で処置したマウスから収集した損傷した筋組織のマクロ写真を損傷後4週目に撮影した。対照において、欠損は明らかに白い斑点として見えた。対照的に、RARγアゴニストで処置したマウスでは当初の欠損は肉眼でほぼ見えなかった。組織学的分析により、対照マウスにおける筋組織欠損は、2および4週目で脂肪組織および線維組織の混合物によって占有されていることが判明した。線維組織の沈着は筋線維の間にも認められた。しかし、RARγアゴニストで処置したマウスでは、筋欠損は、前脛骨筋の主な長軸に沿って整列した筋線維で満たされた。当該結果は、RARγアゴニストの全身性投与によって経時的に筋欠損の完全な修復が起こることを示している。
【0184】
骨格筋組織の組織学的分析を損傷後4週目に行った。損傷後4週目に収集した筋組織標本の連続断面切片(すぐ上で述べたものと同じ試料)を、マッソントリクローム染色したか、またはラミニン(筋細胞周囲に豊富に存在する細胞外タンパク質)に対する抗体による免疫染色のために処理した。対照において、初回損傷部位は、修復が不良であり、抗ラミニン抗体によって染色されない脂肪組織および線維性結合組織によってほぼ占有されていた。対照的に、γアゴニストで処置した動物では、筋損傷はほぼ完全に修復され、修復組織は抗ラミニン抗体によって強く染色された。骨格筋組織構造の変化を評価および定量するために、トリクローム染色した連続切片の画像を得て、多数の定義された領域における筋線維、脂肪、および線維組織の相対量をImageProソフトウェアによって決定した。分析した領域は、当初の損傷部位(2×2 mm)を含む各9×9グリッド(約3×3 mm)であった。筋損傷は、総筋線維面積の減少と同時に線維組織および脂肪組織の面積の増加を引き起こした。対照的に、CD1530処置は組織の組成を大きく回復させた。決定された筋の相対量を
図1においてグラフで示す。
【0185】
RARγが筋の修復および再生にとって必要であることを確認するために、上記のように野生型(WT)およびRARγヌルマウスにおいて筋損傷を作製した。動物をγアゴニストまたは媒体(コーン油)によって処置した。組織試料を、損傷後4週目に収集して切片を作製して、マッソントリクローム染色液によって染色した。先に述べた結果と一致して、γアゴニスト処置は、WTマウスにおいて有効な筋修復を誘導した。しかし、RARγヌルマウスではその効果はほとんどなく、筋欠損部位は脂肪およびいくつかの結合組織細胞によって満たされ、線維様細胞によって内側を覆われた。これらの知見は、(1)γアゴニストによる筋修復効果はRARγによって媒介される;および(2)RARγは、骨格筋組織の修復にとって必要であることを示している。
【0186】
骨格筋修復に及ぼす様々なレチノイドアゴニストの効果を調べた。4週目の時点で筋損傷部位のマクロ写真を撮影した。損傷した筋肉の組成の組織形態計測分析を
図2に示す。筋損傷欠損を、先に記述したように8週齢のマウスにおいて作製した。マウスに、コーン油(対照)、パンアゴニストレチノイン酸(RA)300μg、NRX195183(RARαアゴニスト)900μg、またはCD1530(RARγアゴニスト)300μgを8日目、10日目および12日目に胃管栄養によって与えた。損傷後4週目に組織試料を収集し、組織学的分析のために処理して、組織形態計測定量に供した。対照動物およびRARαアゴニストまたはRAで処置した動物では、損傷部位は、筋組織が脂肪組織に置き換わったことにより、大きな白っぽい斑点としてまだ明らかに目に見えた。しかし、RARγアゴニストで処置した動物では、損傷部位は、修復された筋組織によって満たされていたために、4週目で本質的に見えなかった。この反応を定量するために、修復部位での組織の連続切片をトリクローム染色し、先に記述したようにImageProソフトウェアにより、定義された領域における筋、脂肪、および線維組織の相対量を定量するために分析した。分析した領域は、当初の損傷部位(2×2 mm)を含む各9×9グリッド(約3×3 mm)であった。結果を
図2に示す。グラフは、マウス3匹からの切片9個の平均値を示す。「正常」は、非損傷正常筋の筋組織組成に由来した。予想されたように、対照動物の筋肉は、90%筋組織、7%線維組織、および微量の脂肪組織で構成された。筋損傷は、筋線維面積の90%から33%への劇的な減少を引き起こし、脂肪組織および線維組織の面積がそれに対応して増加した。RAによる処置は、筋線維面積を33%(対照)から54%へと中等度に改善したが、線維組織面積は有意に増加した。RARαアゴニストNRX195183は組織組成を改善しなかった。対照的に、CD1530で処置した動物における修復組織の組成はほぼ正常であった。
【0187】
異なる骨格構造を有するRARγアゴニストが筋修復に及ぼす効果を調べた。先に述べた実験において、γアゴニストCD1530は筋修復を劇的に加速することが示され、RARγ発現がそのような効果にとって必要であることが示された。これらの知見をさらに確認して、可能性があるより強力なγアゴニストを同定するために、構造的に異なる他の3つの選択的RARγアゴニスト(BMS270394、パロバロテン、およびCD437)を筋修復において試験した。脚の筋損傷を上記のように作製した。各群のマウスに、異なるアゴニストの1つ(100μg/胃管栄養/日)または媒体を損傷後8日目、10日目および12日目に与えた。手術後4週目に組織を収集して上記のように試験した。対照において、筋損傷部位は、白っぽい斑点として明らかに目に見え、筋の修復は最小であった;加えて、線維様の瘢痕組織が、損傷した筋肉内に存在した。対照的に、各γアゴニストは、有効な筋修復を誘導した;試験した3つのアゴニストの中で、BMS270394が最も有効であり、正常な筋構造へと完全に回復させた。当該結果は、γアゴニストが筋修復の誘発において極めて有効であることを示している。
【0188】
筋修復に及ぼすRARγアゴニストの局所的投与の効果を調べた。γアゴニストの全身性投与の主要な副作用は、筋修復実験において観察されていないが、ある臨床状況ではそれらを局所的に送達することが必要であろう。局所的に投与した場合のこれらの薬物の有効性を試験するために、筋損傷を上記のように作製して、CD1530 3μgを、術後8日目および10日目に損傷部位の周囲の皮下に注射した。対照には媒体を注射して、組織を4週目に収集して上記のように調べた。対照において、損傷部位は明らかに目に見えて、ほとんどが脂肪組織によって占有された。しかし、CD1530処置群では、筋欠損はほぼ完全に修復された。γアゴニストの分子量は一般的に500未満であり、それゆえ薬物を、軟膏または他の製剤の剤形(局所的注射に加えて)で皮膚からより深部の筋組織へと送達することができるであろう。
【0189】
GFP発現マウス間葉系幹細胞を、媒体(対照)または100 nM CD1530によって培養中3日間処置し、Matrigelおよび1μgのrhBMP2と混合した後、ヌードマウスに移植した。移植後2週目に、異所的な組織塊を分析のために収集した。対照において、大量の軟骨内骨形成が観察された;抗GFPおよび抗OC(オステオカルシン)免疫染色により、移植したMSCが骨形成に関与したことが判明した。しかし、γアゴニストで前処置したMSCを移植したマウスでは、異所的な軟骨内性骨は形成されなかった;これらの細胞は、GFP染色陽性により示されるように存在はしていたが、OC染色に関しては陰性であり、多くは整列していた。いくつかの細胞は、融合したかまたは融合プロセス中であった。このように、γアゴニスト処置は、筋原性分化経路を経るようにMSCを有効にプライミングする。これらの結果は、RARγアゴニストが、間葉系幹細胞(MSC)の筋原性分化のプライミング因子であることを示している。
【0190】
γアゴニストがMSCを筋原性系列方向にプライミングすることができるか否かをさらに調べるために、筋損傷欠損を、先に述べたようにヌードマウスに作製して、γアゴニストによって3日間前処置した(または無処置のままの)DsRed発現MSCを欠損部に移植した。移植後2週目に、損傷部位に存在する組織を収集して、蛍光立体顕微鏡下で観察した。次に、組織を組織学的分析のために処理した。蛍光立体顕微鏡により、γアゴニストで前処置したMSCを植え込んだ筋損傷部位に強い赤色の蛍光シグナルが存在するが、対照である無処置のMSCを植え込んだ部位(A、左のパネル)では蛍光がほとんど観察されない〜全く観察されないことが判明した。オイルレッドOによる染色により、対照MSCを植え込んだ損傷部位(B、左)に大量の脂肪組織が存在するが、γアゴニストで前処置したMSCを植え込んだ部位ではこれらの細胞は存在しないことが判明した(B、右)。免疫蛍光分析により、DsRed陽性のγアゴニスト前処置MSCが、MHC発現筋修復組織の形成に関与したが(C、右)、対照では存在しなかったことが判明した(DeRed、赤色;MHC、緑色;DAPI、紫色)。上記の実験において、γアゴニストの全身性投与は、4週間で筋損傷欠損の修復を誘導した。類似の欠損が、γアゴニストでプライミングされたMSCの移植後2週間以内にほぼ完全に修復されたことは注目に値する。それゆえ、γアゴニストで前処置したMSCを用いることは、筋損傷を迅速に修復するために非常に有効な技法を表しうる。これらの結果は、γアゴニストでプライミングされたMSCによる筋損傷の修復を示している。
【0191】
実施例2
それ以外であると明記している場合を除き、全ての方法を、実施例1に記述されたように、または当技術分野において公知の標準的な技法によって行った。
【0192】
ヒト細胞およびミオシン重鎖の免疫検出は、ビオチニル化抗ヒトTRA-1-85(1:250希釈、R&Dカタログ番号BAM3195)および抗ラミニン(1:250希釈、Enzy、ALX-804-190)と共に切片をインキュベートし、洗浄した後、Alexa Fluor 488ストレプトアビジンおよびAlexa Fluor 594抗ラットIgGと共にインキュベートすることによって行った。
【0193】
結果
γアゴニストで前処置したヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞による筋損傷の修復
以下に記述する経験は、RARγアゴニストで前処置した幹細胞自体が、筋組織を再生するのみならず、宿主細胞の筋原性分化を支援することを示している。そのため、筋形成するよう細胞をコミットすることを意味するために当技術分野において用いられる「プライミングする」という用語の容認される定義に一貫するように、これらの細胞を、今では「プライミングされた」間葉系幹細胞よりむしろ「前処置された」と呼ぶ。
【0194】
RARγアゴニストによるヒト間葉系幹細胞の前処置の効果を調べるために、丸い形状の欠損部を、先に記述したようにNODマウス(NOD.Cg-Rag1tm1Mom Prf1tm1Sdz/Sz)の前脛骨筋に作製した。無処置のまたはRARgで処置したヒト脂肪由来間葉系幹細胞をその部位に移植した(細胞5,000個/部位)。手術後2週間目に組織を収集して、RARgで前処置したMSCを移植した筋および対照MSCを移植した筋のマッソントリクローム染色切片による組織学的分析に供し、同様にRARgで前処置したMSCを移植した筋および対照MSCを移植した筋のミオシン重鎖(MHC)、抗ヒト由来細胞抗原、および核(DAPI)の免疫蛍光検出による組織学的分析に供した。
【0195】
RARgで前処置したヒトMSCは、損傷した筋組織の修復を明らかに促進した。RARgで前処置したヒトMSCは、筋組織再生に関与したが、前処置していないMSCは、筋組織からほとんどが排除された。
【0196】
RARγアゴニストの前処置が異なる型の間葉系幹細胞に対して有効であるか否かを試験するために、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(Zenbio、カタログ番号ASC-F)を1μM CD1530または媒体によってインビトロで3日間処置した後、筋損傷モデル系に移植した。丸い形状の欠損部を、先に記述したように6週齢のNSGマウス(NOD scidγマウス、Jaxマウス#005557)(NOO.Cg- Prkdc
scidIl2rg
tmlWjl/ SzJ)の前脛骨筋に作製した。無処置のまたはRARgで処置したヒト脂肪由来間葉系幹細胞をその部位に移植した(細胞10,000個/部位)。手術後2週間目に組織を収集して、組織学的分析(RARgでプライミングされたMSCを移植した筋および対照MSCを移植した筋のマッソントリクローム染色切片による、ならびに同様にRARγアゴニストで前処置したMSCを移植した筋および対照MSCを移植した筋のラミニン、ヒト由来細胞抗原、および核(DAPI)の免疫蛍光検出による)に供した。
【0197】
RARgで前処置したヒトMSCは、損傷した筋組織の修復を明らかに促進した。RARγで前処置したヒトMSCは、筋線維周囲に主に分布することが観察されたが、無処置の細胞は、ほとんどが筋組織から締め出された。これらの結果は、MSCなどのRARγアゴニストで前処置した幹細胞が、筋修復のための有効な治療であること、および同様に様々な起源からの幹細胞(たとえば、MSC)をこの治療のために用いることができることを示している。
【0198】
プライミングされた(RARgアゴニスト処置)またはプライミングされていないMSCによる複合組織(筋肉+骨)損傷の修復
重度の筋損傷はしばしば、骨、腱、および神経などの他の組織の損傷を伴う。単純化された複合損傷モデルを用いて、RARγアゴニストで処置したMSCを、損傷した筋組織に対する選択的標的化に関して試験した。
【0199】
複合(骨および筋肉)組織損傷を、2ヶ月齢のマウスにおいて腓骨および周辺の筋組織を切断することによって作製した。この後、RARγアゴニストで前処置したMSCと対照の非前処置MSCの1:1混合物を損傷部位の近傍に移植した。MSCは、GFP(前処置)またはDsRED(無処置)発現マウス骨髄のいずれかから調製された。損傷した組織を手術後1週目に収集して、切片を作製し、抗GFPおよび抗DsRed抗体をそれぞれ用いて、前処置および非前処置MSCの分布に関して調べた。HE染色による組織学的分析により、損傷した骨および筋組織がなおも修復プロセス下にあることが判明した。顕著に、プライミングされたMSCの大部分は筋組織において検出されたが、プライミングされた細胞の大部分は常に骨組織に関連した。RARγアゴニストで前処置したDsRed発現MSCのいくつかは、典型的な多核骨格筋細胞を形成することが観察された。
【0200】
RARγアゴニストで前処置したMSCおよび無処置のMSCは、異なる組織損傷部位を標的とすることが観察された。当該結果は、RARγアゴニストで前処置したMSCが損傷した筋組織を選択的に標的とすることを示している。RARγアゴニストで前処置したMSCは、他の組織も同様に損傷している場合に損傷した筋組織を修復するために有用であろう。RARγアゴニストの全身性投与が、異所性の骨化を阻害するのみならず、骨折の治癒を遅らせることは既に報告されている(Shimono et al., Nature Medicine 17, 454-460 (2011))。加えて、これらの結果は、適切な比率での前処置および無処置のMSCの混合移植が、複合組織損傷にとって有効な治療であることを示唆している。
【0201】
筋修復におけるRARγシグナル伝達の必要性
上記の結果は、RARγヌルマウスにおいて筋組織欠損の修復が不良であることを示している。この知見をさらに確認するために、別の広く用いられる筋変性モデルを用いた。心臓毒1μgを野生型およびRARγヌルマウスの前脛骨筋組織に注射した。心臓毒注射後2週目に筋組織を収集して、切片を作製して、マッソントリクローム染色によって調べた。心臓毒注射筋組織は、対照の野生型マウスにおいて2週目までに未成熟筋線維によってほぼ回復しているように見えた。対照的にRARγヌル筋組織は修復が不良であるように思われた。
【0202】
筋損傷後の局所的レチノイドシグナル伝達のアップレギュレーション
レチノイン酸シグナル伝達レポーターマウス(RARE-LacZマウス)の前脛骨筋を切断したか、または偽手術を行った。筋組織を1、4または7日目に収集して、X-galによって染色した。レポーター活性は、損傷後4日目に増強することが観察され、筋組織修復におけるこのシグナル伝達経路の関与を示唆している。
【0203】
総筋組織RNAを8時間目、2日目、および4日目に収集して、RARシグナル伝達関連遺伝子発現を分析するためにRT-PCRに供した。前駆体からRAを生じる律速酵素であるALDH2の発現は、損傷から4日後にアップレギュレートされるが、11日目までに正常な発現レベルに戻ることが認められた。対照的に、RAを分解する酵素であるCyp26b1(Cyp28B)は、損傷後2日目で一過性にアップレギュレートされることが認められた。結果を
図4および5に示し、局所RA濃度が、筋損傷後に最初に減少した後一過性に増加することを示している。
【0204】
筋組織修復に及ぼす処置のタイミングの効果
筋欠損を上記のように作製した。マウスをRARgアゴニスト(CD1530)によって1〜3日目または5〜7日目に処置した。写真は、損傷後4週目での筋組織のHE染色を示す。無処置対照における筋欠損は、脂肪組織および線維組織によって大部分が置き換えられた。RARgアゴニストによる1〜3日目の処置は、脂肪および線維様の瘢痕組織の形成を減少させたが、部分的に欠損が残った。対照的に、5〜7日目処置群では、筋欠損は、新しく生成された筋線維によって完全に満たされた。このように、処置のタイミングは、迅速かつ良好な筋組織修復にとって非常に重要である。内因性のレチノイドシグナルが増強するとRARgシグナル伝達が増強するはずである。示唆される処置養生法は、筋損傷後5日目および7日目でのRARgアゴニストの局所的または全身性投与である。正確な処置のタイミングのさらなる向上は、LS/MS/MSによって局所レチノイン酸濃度を測定することによって達成することができる。
【0205】
筋欠損を上記のように作製した。マウスにRARγアゴニスト(CD1530)100 ngを、1〜5日目、5〜9日目、および1〜9日目の期間中、1日おきに与えた。1〜5日目の群のマウスにはCD1530を1、3、および5日目に与えた。5〜9日目の群には、CD1530を5、7、および9日目に与えた。1〜9日目の群には、CD1530を1、3、5、7、および9日目に与えた。次に、筋肉を、媒体で処置した損傷筋組織および無傷の筋(非損傷筋)組織と比較した。損傷後4週目での筋組織のHE染色を調べた。無処置対照における筋欠損は、脂肪および線維組織によって大部分が置き換わっていることが観察された(媒体)。RARγアゴニストによる1〜5日目または1〜9日目の処置群はいずれも、脂肪および線維様瘢痕組織形成を減少させたが、大きく凹んだままであった。新たに形成された筋組織の質および量は、5〜9日目の処置群において最もよく、へこみは大きく低減された。
【0206】
損傷した筋組織の組織形態計測分析
修復部位での連続組織切片をマッソントリクローム染色し、定義された領域における筋組織、脂肪組織、および線維組織の相対量を定量するために、記述のようにImageProソフトウェアにより分析した。結果を
図6に示す。画像分析により、5〜9日目の処置群の筋組織が、全ての損傷群の中で最も少ない量の脂肪組織および線維組織を含むことが確認された。このことは、迅速かつ良好な筋組織修復にとって処置のタイミングが非常に重要であること、および内因性のレチノイドシグナル伝達が増強している時期に(例えばRARγアゴニストの投与によって)RARγシグナル伝達が治療的に増強されれば最も有益な結果が得られるが、それ以前では得られないことを示している。