(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明実施形態の三次元網状構造体のスウェル比のせん断速度依存性を示すグラフである。
【
図2】本発明実施形態の三次元網状構造体の溶融粘度のせん断速度依存性を示すグラフである。
【
図3】本発明実施形態の三次元網状構造体の曲げ状態の側面写真図である。
【
図4】本発明実施形態の三次元網状構造体の非曲げ状態の側面写真図である。
【
図5】本発明実施形態の三次元網状構造体の曲げ状態の側面写真図である。
【
図6】本発明実施形態の三次元網状構造体の非曲げ状態の平面写真図である。
【
図7】比較例の三次元網状構造体の非曲げ状態の側面写真図である。
【
図8】比較例の三次元網状構造体の非曲げ状態の側面写真図である。
【
図9】比較例の三次元網状構造体の非曲げ状態の平面写真図である。
【
図10】比較例の三次元網状構造体の曲げ状態の側面写真図である。
【
図11】比較例の三次元網状構造体の曲げ状態の側面写真図である。
【
図12】本発明実施形態の三次元網状構造体に表面層(外周の濃い網かけ部分)を設ける場合の説明図である。(a)が斜視図であり、(b)が製造時の押出方向からの正面図である。
【
図13】本発明実施形態の三次元網状構造体の両側部(両端の濃い網かけ部分)の嵩密度を高めた場合の説明図である。(a)が斜視図であり、(b)が製造時の押出方向からの正面図である。
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図14】本発明実施形態の三次元網状構造体に表面層(外周の濃い網かけ部分)を設け、両側部(両端の濃い網かけ部分)の嵩密度を高めた場合の説明図である。(a)が斜視図であり、(b)が製造時の押出方向からの正面図である。
【
図15】本発明実施形態の三次元網状構造体を座椅子に用いる場合の嵩密度の設定例を示す斜視図である。長手方向が製造時の押出方向である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態は、せん断速度に対してスウェル比が増加する特性を有し、せん断速度24.3sec
−1に対するスウェル比が0.93〜1.16、せん断速度608.0sec
−1に対するスウェル比が1.15〜1.34、MFR3.0〜35g/10min、密度が0.82〜0.95g/cm
3であるポリエチレンから製造され、フィラメントを不規則に接触絡合させたカール状のスプリング構造を有し、押し出し方向に対して横方向に立体筋状疎密構造を有し、線径φ0.2〜1.3mm、嵩密度0.01〜0.2g/cm
3である三次元網状構造体である。ここでいうスウェル比は、温度190℃、管内径D
1がφ1.0mm、長さ10mmのキャピラリーから溶融したポリエチレンを押し出し、押し出されたポリエチレンのフィラメントを冷却し、フィラメントの切断面の直径をD
2としたとき、せん断速度に対してD
2/D
1で表される。
【0012】
本発明は、所定のスウェル比、MFR、密度を備える熱可塑性樹脂を原料とすることにより、立体筋状疎密構造を形成して、これを備える三次元網状構造体の曲げやすさを向上させるものである。本発明では熱可塑性樹脂原料としてポリエチレンを用いる。具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLPE)等が挙げられる。ポリエチレン原料の密度は0.82〜0.95g/cm
3であることが好ましく、0.85〜0.94g/cm
3であることがより好ましい。
【0013】
三次元網状構造体の詳細な製造方法は特許文献1、2等を参照されたい。本発明は外周部に他の部分よりも嵩密度の大きな表面層を備える三次元網状構造体(
図12参照)にも適用可能である。また、本発明は両側部の嵩密度を他の部分よりも高めた三次元網状構造体(
図13参照)にも適用可能である。さらに、本発明は表面層を備え、両側部の嵩密度を他の部分よりも高めた三次元網状構造体(
図14参照)にも適用可能である。三次元網状構造体の嵩密度は0.01〜0.2g/cm
3であることが好ましいが、表面層等の嵩密度を大きくした部分においては、その嵩密度であることを要しない。
【0014】
スウェル比は、溶融した樹脂を細い円筒管であるキャピラリーから押し出した時、押し出された樹脂の直径をキャピラリーの直径で割った値であり、せん断速度に依存する。ここでは、溶融した熱可塑性樹脂をフィラメントとして押し出すキャピラリーの直径(管内径)をD
1、押し出したフィラメントの切断面の直径をD
2とすると、スウェル比はD
2/D
1により表される。以下、スウェル比のせん断速度依存性と、関連するものとして溶融粘度のせん断速度依存性についての測定試験について説明する。試料A〜Fが本発明実施形態によるものである。試料A〜Dは材料として超低密度ポリエチレン(VLPE)を用いており、試料E,Fは材料として直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いた。試料Gが従来品による比較例でありエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を用いた。
【0015】
スウェル比の測定方法、測定装置について説明する。スウェル比の測定装置は、メルトフローレート(MFR)を測定するメルトインデクサー(MI)と同じ測定装置を利用する。ここではキャピログラフ1D(東洋精機製)を使用した。温度190℃、管内径D
1がφ1.0mm、長さ10mmのキャピラリーの上から圧力をかけ、押出量3g/10minで原料樹脂を押し出す。押し出された原料樹脂のフィラメントをアルコールで冷却し、横断面で切断したフィラメントの直径をD
2とする。スウェル比=D
2/D
1で計算する。原料樹脂のせん断速度別にスウェル比を測定した。
【0016】
スウェル比とせん断速度との関係を説明する。スウェル比はせん断速度に対して依存し、せん断速度が増加するとスウェル比も増加する。せん断速度はせん断変形の時間的変化を表すもので、速度勾配と同義である。互いにa(cm)隔てた2つの平行な層の速度差がb(cm/sec)であるとき、せん断速度はb/a(1/sec)となる。
見掛けのせん断速度の計算式は次式である。本明細書中ではせん断速度として、平均的な値である見掛けのせん断速度を用いる。
γ=4Q/πr
3
γは見掛けのせん断速度(sec
−1)、rはキャピラリー半径(cm)、Qはフローレート(cm
3/sec)である。
また、見掛けのせん断応力τ、見掛けの溶融粘度ηとすると、
η=τ/γ
ここでは、測定温度を190℃とし、キャピラリーの長さLと直径D
1との比がL/D
1=10mm/φ1.0mmのフラットノズルを用いた。測定機は東洋精機製のキャピログラフを使用した。
【0017】
表1にスウェル比のせん断速度依存性に関する測定結果を示す。また表1に対応するグラフを
図1に示す。
図1のグラフは、せん断速度の増加に伴ってスウェル比が増加する傾向を示している。なお、この測定結果では、せん断速度の増加に対してスウェル比が減少するような箇所はないが、本発明は具体的な測定における測定誤差等によって、せん断速度の増加に対してスウェル比が例外的に減少するような場合があっても適用されるものである。
【0018】
スウェル比の好ましい範囲は、せん断速度が24.3sec
−1ではスウェル比が0.93〜1.16であり、せん断速度が60.8sec
−1ではスウェル比が1.00〜1.20であり、せん断速度が121.6sec
−1ではスウェル比が1.06〜1.23であり、せん断速度が243.2sec
−1ではスウェル比が1.11〜1.30であり、せん断速度が608.0sec
−1ではスウェル比が1.15〜1.34であり、せん断速度が1216sec
−1ではスウェル比が1.16〜1.38である。スウェル比が好適な範囲であれば、
図3〜
図6に示す通り、押し出し方向と直交する方向に立体筋状疎密構造が形成され、曲げやすい三次元網状構造体を作ることができる。
【0020】
表2に溶融粘度のせん断速度依存性に関する測定結果を示す。また表2に対応するグラフを
図2に示す。
図2のグラフは減少曲線を描く。
【0022】
一般にポリマーのような有機高分子量物は流動時に分子の絡まりを生じ、この絡まりは流動時のせん断力によりほぐれ易くなるため、表2に示されるように、せん断速度が大きいほど溶融粘度は低下する。そのように溶融粘度が低下すると、スウェル比が小さくなる効果もあるが、スウェル比は押出圧力の影響をより大きく受け易いため、表1に示されるように、せん断速度が大きくなるほどスウェル比が大きくなる傾向がある。特に分子の絡まりが少ないポリエチレンを用いると、低せん断速度におけるスウェル比は小さく、せん断速度が大きくなるにつれてスウェル比が上昇する傾向が顕著となる。
【0023】
三次元網状構造体の製造におけるスウェル比D
2/D
1の制御について説明する。表1からわかるように、せん断速度を大きくするほど、すなわち押出速度を大きくするほど、スウェル比は大きくなる。せん断速度を一定とした場合で考えると、MFRが小さな原料ほど、スウェル比は大きくなる。また、せん断速度を一定とした場合、成形温度を低くするほど、スウェル比は大きくなる。せん断速度、原料や成形温度を一定とした場合、引取速度を小さくするほど、スウェル比は大きくなる。また、エアーギャップ(キャピラリーと冷却水面との距離)を小さくすると、スウェル比は大きくなる。キャピラリーの長さLと直径D
1との比L/D
1を大きくすると、スウェル比は大きくなる。
【0024】
本発明実施形態による三次元網状構造体の反発力について説明する。三次元網状構造体の反発力は、材料のスウェル比や嵩密度の大きさによって変化する。反発力は、φ150mmの円板を介して試料を10mm圧縮した際にかかる荷重によって測定した。ここでは、試料となるマットレスの中央に荷重を加え、マットレスが10mm、20mm、30mm沈み込んだ際に加わっている力を反発力としてそれぞれ測定した。使用した測定器具は株式会社イマダ製のデジタルフォースゲージZPSとロードセルZPS−DPU−1000Nである。引取機の引き取り速度等の製造条件が同一の場合、EVAを原材料とする三次元網状構造体の製品と比べ、本発明実施形態によるスウェル比、密度を有するポリエチレンの三次元網状構造体では、8万回繰り返し50%圧縮試験で14〜30%、凹みが少なかった。三次元網状構造体の製造時、樹脂流れ方向で繊維が筋状組織構造になり、同じような反発力で原料の樹脂量を10〜25%減らすことができる。製品重量も同じ反発力で10%以上、軽量化することが出来る。
【0025】
本発明実施形態において、三次元網状構造体に表面層を設ける場合、表面層の嵩密度が大きいと曲がらないか、曲がりにくい。三次元網状構造体を良好に曲げるためには、表面層の厚みを0.3〜3.5mmとすることが好ましい。また、表面層の重さ範囲が0.05〜1.0g(縦30mm×横30mm×厚み4mmとして計量。嵩密度に換算すると0.014〜0.278g/cm
3)、表面層のフィラメントの径がφ0.1〜2.0mmであることが好ましい。特に、三次元網状構造体の表面層の重さ範囲が0.10〜0.9g(同じく嵩密度に換算すると0.028〜0.250g/cm
3)、表面層のフィラメントの径がφ0.2〜1.3mmであることが好ましい。最適には三次元網状構造体の表面層の重さ範囲が0.4〜0.8g(同じく嵩密度に換算すると0.111〜0.222g/cm
3)、表面層のフィラメントの径がφ0.3〜1.0mmであることが好ましい。
【0026】
図3〜6に本発明実施形態の三次元網状構造体の曲げ状態または非曲げ状態を示し、
図7〜11に従来品比較例の三次元網状構造体の曲げ状態または非曲げ状態を示す。本発明実施形態による三次元網状構造体は立体筋状疎密構造を備え(
図4,6参照)、これにより曲げ状態においても曲げ部の内側に皺が発生することはない(
図3参照)。一方、従来品は立体筋状疎密構造を備えず(
図7〜9参照)、曲げ状態において曲げ部の内側に不規則な皺が発生してしまう(
図10,11参照)。このような皺は、三次元網状構造体をベッドのマットレス等に使用した場合、使用感を低下させる要因となり、また製品の劣化を早めてしまうこととなる。そこで、本発明実施形態による三次元網状構造体を使用すると、不規則な皺の発生を防止してこのような問題点を解決することができる。
【0027】
また従来、引取機の引き取り速度を速めたり遅めたりすることにより、疎密な構造を備える三次元網状構造体を製造することも可能であったが、これにより出来上がる疎密な構造は、粗密の繰り返し単位が不規則であったり大きくなったりしてしまって円滑に曲げることは難しく、また、引取機のスピード調整により生産効率の低下を招いていた。しかし、本発明実施形態により、上記したスウェル比と密度とを有するポリエチレンを原料とすると、粗密の繰り返し単位が適切な立体筋状疎密構造を形成することができ、生産効率の低下を招くことなく、円滑に曲げることができる三次元網状構造体を製造することが可能となる。さらに本発明実施形態は引取機の引き取り速度が一定の場合に適用できるのはもちろん、引取機の引き取り速度を速めたり遅めたりする場合においても適用することができ、より多彩な性質の三次元網状構造体を製造することに寄与する。
【0028】
一般に表面層を備える三次元網状構造体は曲がりにくくなり、曲げ荷重を大きくすると不規則な皺が発生してしまう。しかし、本発明実施形態は、
図12に示すような表面層を備える三次元網状構造体についても適用することができ、そうすることで従来よりも曲がりやすくなり、また、曲げて皺が発生したとしても、立体筋状疎密構造を備えることにより、組織が不自然に変形することが無くなって立体筋状疎密構造に沿った規則的な筋となり、上述したような使用感の低下や製品劣化を最小限に抑えることができる。また、立体筋状疎密構造によって、水の通り、水切れが良好で乾燥が早いため、本発明実施形態による三次元網状構造体を医療用マットレス等に用いると洗浄が容易となって好適である。
【0029】
また、両側部の嵩密度を高めた三次元網状構造体も曲がりにくくなるが、本発明実施形態はそのような三次元網状構造体においても適用することができる(
図13参照)。これによる三次元網状構造体を医療用マットレスに用いると、マットレスを曲げることにより長座位の姿勢を補助できる上、両側部が硬いことにより、身体を安定させてベッドから起き上がることができ、また、ベッドの端に腰掛ける端座位がとりやすくなる。さらに本発明実施形態は、表面層を備え、両側部の嵩密度を高めた三次元網状構造体にも適用することができる(
図14参照)。
【0030】
本発明実施形態は、湾曲した異形状を有する立体網状構造体を製造する際にも適用することができ、座席用クッション等に用いることも好適である。立体網状構造体からなる座席用クッションが立体筋状疎密構造を備えることにより、好適に曲げることができ、軽量で通気性の富んだものとすることができる。立体筋状疎密構造のうち空隙率の特に大きな疎部分は密部分に比べ通気性が良好であるので、そのような座席用クッションに消毒剤、消臭剤を噴霧する際にも容易に全体に均質に広がることとなり効率的である。
【0031】
本発明実施形態による立体網状構造体を座席用クッション等に使用する場合、立体筋状疎密構造による凹凸感が着座面に表われることが考えられる。そのような点が問題となる場合には、立体網状構造体に表面層を設けることにより、これを和らげることができる。また、本発明実施形態による立体網状構造体と他の材質や同材質の積層材とを接着、熱成型することもでき、これによりそのような着座面の問題を解決することもできる。
【0032】
立体網状構造体を自動車用の座椅子などに用いる場合、通常の立体網状構造体では曲げることが難しいため、座部および背もたれ部はそれぞれ別個に形成した立体網状構造体により構成することとなる。しかし、本発明実施形態の立体網状構造体は曲げることが容易であるため、一枚の立体網状構造体を折り曲げて座部および背もたれ部を形成することができる。この際、本発明実施形態により立体筋状疎密構造を形成するとともに、さらに引き取り速度を速めたり遅めたりすることにより、より大きく嵩密度を調節したりすることもできる。例えば
図15に示すように、Aの区間は大きな嵩密度で形成して座部とし、Bの区間は小さな嵩密度で形成して座部と背もたれ部との間の曲げ部とし、Cの区間は曲げ部よりは大きく座部よりも小さな嵩密度で形成して背もたれ部とすることができ、座り心地等の座椅子としての性能を満たしつつ、一体的な立体網状構造体の製造や組み付けの簡素化により低コスト化が図られる。
【0033】
原料の熱可塑性樹脂に抗菌剤、難燃剤、不燃材を混合すると、比重、粘度が変わって曲がりにくい三次元網状構造体になるが、本発明実施形態はそのような添加物を原料に加えても適用可能である。よって、不燃、難燃、抗菌機能を備え、しかも立体筋状疎密構造を備えることにより曲げやすさの向上した三次元網状構造体を製造することも可能となる。
【0034】
三次元網状構造体を測定試料として、これを製造するのに使用した押出機、引取機の諸条件と三次元網状構造体が良好に曲がる際の嵩密度との関係について説明する。スクリュー径40mmの押出機でキャピラリー径(ノズル径)φ1.0mmの口金を用いて、厚み80mm、幅270mmの三次元網状構造体を製造した。スクリューの回転数60r.p.m(押し出し量毎時約14kg)のとき、三次元網状構造体が良好に曲がる引き取り速度および嵩密度を範囲で示すと、引取機の引き取り速度1.7〜3.2mm/sec、嵩密度0.0303〜0.0563g/cm
3となった。例えば、スクリューの回転数60r.p.m、引取機の引き取り速度2.9mm/sec、嵩密度0.0502g/cm
3の場合、三次元網状構造体を曲げた際に表面に皺が寄った。スクリューの回転数60r.p.m、引取機の引き取り速度3.1mm/sec、嵩密度0.0446g/cm
3の場合、三次元網状構造体は良好に曲がった。ただし、表面層を設ける場合、三次元網状構造体が良好に曲がる表面層の嵩密度およびフィラメントの径の範囲は、嵩密度が0.13〜0.27g/cm
3、フィラメントの径がφ0.1〜1.2mmとなった。例えば、スクリューの回転数60r.p.m、引取機の引き取り速度2.9mm/sec以下の場合、表面層の嵩密度が0.27g/cm
3を超え、三次元網状構造体を曲げたときに皺が寄る。なお、ここでいう表面層とは上記の厚み80mm、幅270mmの三次元網状構造体の表面から厚み4mmまでの範囲のものとして上記数値を測定した。この範囲の嵩密度およびフィラメントの径の組み合わせであれば、ノズル径やノズル穴数等により厚み方向における嵩密度を変化させた三次元網状構造体であっても良好に曲がる。