特許第5986588号(P5986588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5986588耐炭化水素被毒性が改善されたSCR触媒コンバータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986588
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】耐炭化水素被毒性が改善されたSCR触媒コンバータ
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/80 20060101AFI20160823BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20160823BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20160823BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20160823BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20160823BHJP
   B01J 29/46 20060101ALI20160823BHJP
   B01J 29/16 20060101ALI20160823BHJP
   B01J 29/12 20060101ALI20160823BHJP
   B01J 29/18 20060101ALI20160823BHJP
   B01J 37/30 20060101ALI20160823BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20160823BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B01J29/80 A
   B01J29/76 A
   F01N3/08 BZAB
   F01N3/10 A
   F01N3/035 A
   B01J29/46 A
   B01J29/16 A
   B01J29/12 A
   B01J29/18 A
   B01J37/30
   B01J37/02 101D
   B01D53/94 222
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-555868(P2013-555868)
(86)(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公表番号】特表2014-511270(P2014-511270A)
(43)【公表日】2014年5月15日
(86)【国際出願番号】EP2012053487
(87)【国際公開番号】WO2012117041
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2015年1月14日
(31)【優先権主張番号】11001789.4
(32)【優先日】2011年3月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ゼーガー, ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】アーデルマン, カチャ
(72)【発明者】
【氏名】ザイラー, ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ポーリー, トーマス アール.
(72)【発明者】
【氏名】イエスケ, ゲラルト
【審査官】 佐藤 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−262098(JP,A)
【文献】 特開2011−038405(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0077738(US,A1)
【文献】 特表2010−524677(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0290963(US,A1)
【文献】 特表2011−519722(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0056187(US,A1)
【文献】 特開2008−215253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/94
F01N 3/035
F01N 3/08
F01N 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を含む排ガス中の窒素酸化物をアンモニアで選択的触媒還元するための触媒であって、
支持体と、
前記支持体に直接適用された、1種以上の遷移金属で交換されたゼオライト及び/又は1種以上の遷移金属で交換されたゼオライト様化合物を含む第1触媒活性コーティングと、
前記第1コーティングの前記排ガス側を覆っており、窒素酸化物及びアンモニアが前記第1コーティングを通過するのを妨げることなく、前記排ガス中に存在する少なくとも3個の炭素原子を有する炭化水素が真下の前記第1コーティングと接触するのを防ぐように構成されている第2コーティング
を備え
ここで、前記第2コーティングは、FER、OFF及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の小細孔ゼオライト及び/若しくは小細孔ゼオライト様化合物を含むか、又は
ここで、前記第2コーティングは、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、ならびに二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム及び二酸化ジルコニウムからなる群から選択される酸化物の混合酸化物からなる群から選択される1種以上の酸化物からなる
媒。
【請求項2】
前記支持体に直接適用された前記第1触媒活性コーティング中に存在する前記遷移金属交換ゼオライト及び/又は前記遷移金属交換ゼオライト様化合物が、ベータ−ゼオライト、ZSM−5、ZSM−20、USY、MOR又はこれらの混合物からなる群から選択され、前記遷移金属が、セリウム、マンガン、鉄、銅、銀、金、白金、パラジウム及び/又はこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記第2コーティングが、FER、OFF及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の小細孔ゼオライト及び/又は小細孔ゼオライト様化合物からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記小細孔ゼオライト及び/又は前記小細孔ゼオライト様化合物の1種以上が、セリウム、マンガン、鉄、銅、銀、金、白金、パラジウム及び/又はこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の遷移金属で交換されていることを特徴とする、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
前記第2コーティングが、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、ならびに二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム及び二酸化ジルコニウムからなる群から選択される酸化物の混合物からなる群から選択される1種以上の酸化物からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項6】
前記第2コーティングの前記酸化物の粒度分布のd50が100nm以下であることを特徴とし、前記酸化物の粒度分布のd50とは、前記酸化物の体積全体の50%が、d50として報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むことを意味するものと理解される、請求項1又は5に記載の触媒。
【請求項7】
前記第2コーティングが、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、ならびに二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム及び二酸化ジルコニウムからなる群から選択される酸化物の混合酸化物からなる群から選択される1種以上の酸化物からなり、既に前記第1コーティングが施された前記支持体を、式(I):
(RO)n−mMeR’(I)
(式中、
nは、3又は4であり、かつm<nであり、
Meは、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、チタン、スズ又はジルコニウムであり、Rは、(C〜C)アルキル又はフェニルであり、
R’は、(C〜C)アルキル、アミノ−(C〜C)アルキル、アミノ基がアミノ−(C〜C)アルキルで置換されたアミノ−(C〜C)アルキル又はメタクリル酸(C〜C)アルキルである)の1種以上のアルコキシドを含む溶液に含浸させ、次いで乾燥させることによって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
Rが、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル又はフェニルであることを特徴とする、請求項7に記載の触媒。
【請求項9】
R’が、アミノ−(C〜C)アルキル、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル、イソプロピル、イソブチル、フェニル、オクチル又はメタクリル酸(C〜C)アルキルであることを特徴とする、請求項7に記載の触媒。
【請求項10】
前記第2コーティングが、二酸化ケイ素からなることを特徴とする、請求項1、2及び5〜9のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項11】
二酸化ケイ素の前記第2コーティングが、一次粒子の粒度分布のd50が100nm以下であるヒュームドシリカの水性懸濁液を、既に前記第1コーティングが施された前記支持体に適用することによって製造されることを特徴とし、前記ヒュームドシリカの前記粒度分布のd50とは、前記ヒュームドシリカ全体の体積の50%が、d50として報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むことを意味するものと理解される、請求項10に記載の触媒。
【請求項12】
前記ヒュームドシリカがハロゲン化物及び/又は水酸化物で表面改質されており、結果として得られる層内における加水分解及び/又は縮合によって前記シリカ粒子の架橋が生成することを特徴とする、請求項11に記載の触媒。
【請求項13】
炭化水素を含むディーゼルエンジン排ガス中の一酸化窒素及び二酸化窒素を含む窒素酸化物の量を低減するためのプロセスであって、
窒素酸化物及び炭化水素を含む浄化すべき前記排ガスに、アンモニア又はアンモニアに分解可能な前駆体化合物を還元剤として添加する工程ステップと、
結果として得られる排ガス及び還元剤の混合物を、請求項1〜12のいずれか一項に記載の触媒を通過させる工程ステップと
を含む、プロセス。
【請求項14】
前記排ガスを、アンモニア又はアンモニアに分解可能な前駆体化合物の前記添加を行う前に、前記排ガス中に存在する前記一酸化窒素の少なくともいくらかを二酸化窒素に転化するのに有効な酸化触媒を通過させることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化触媒が、フロースルー型ハニカム状モノリス上及び/又はウォールフロー型フィルタ基材上の触媒活性を有するコーティングの形態にあることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
炭化水素を含む排ガス中の窒素酸化物をアンモニアで選択的触媒還元するための触媒を製造するためのプロセスであって、
前記触媒は、
支持体と、
前記支持体に直接適用された、1種以上の遷移金属で交換されたゼオライト及び/又は1種以上の遷移金属で交換されたゼオライト様化合物を含む第1触媒活性コーティングと、
前記第1コーティングの前記排ガス側を覆っており、窒素酸化物及びアンモニアが前記第1コーティングを通過するのを妨げることなく、前記排ガス中に存在する少なくとも3個の炭素原子を有する炭化水素が真下の前記第1コーティングと接触するのを防ぐように構成されている第2コーティングと
を備え、
前記第2コーティングが、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、ならびに二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム及び二酸化ジルコニウムからなる群から選択される酸化物の混合酸化物からなる群から選択される1種以上の酸化物を含んでおり、
ここで前記プロセスが、既に前記第1コーティングが施された前記支持体を、式(I):
(RO)n−mMeR’(I)
(式中、
nは、3又は4であり、かつm<nであり、
Meは、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、チタン、スズ又はジルコニウムであり、Rは、(C〜C)アルキル又はフェニルであり、
R’は、(C〜C)アルキル、アミノ−(C〜C)アルキル、アミノ基がアミノ−(C〜C)アルキルで置換されたアミノ−(C〜C)アルキル又はメタクリル酸(C〜C)アルキルである)の1種以上のアルコキシドを含む溶液に含浸させ、次いで乾燥させることを含むことを特徴とする、プロセス。
【請求項17】
請求項10に記載の触媒を製造するためのプロセスであって、前記プロセスが、一次粒子の粒度分布のd50が100nm以下であるヒュームドシリカの水性懸濁液を、既に前記第1コーティングが施された前記支持体に適用することによって二酸化ケイ素の前記第2コーティングを製造することを含み、前記ヒュームドシリカの前記粒度分布のd50とは、前記ヒュームドシリカ全体の体積の50%が、d50として報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むことを意味するものと理解される、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排ガス中の窒素酸化物を選択的触媒還元するための触媒であって、ディーゼル排ガス中に同じく存在する炭化水素に対する耐被毒性(resistance to the hydrocarbon)が改善されたことを特徴とする触媒と、その製造及びディーゼル排ガスを浄化するための、特に自動車用途におけるその使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスには、燃料の不完全燃焼によって生じる汚染ガスである一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)に加えて、スス粒子(PM)や窒素酸化物(NO)も含まれている。更に、ディーゼルエンジンの排ガスには最大で15体積%の酸素も含まれている。酸化可能な汚染ガスであるCO及びHCは、好適な酸化触媒を通過させることによって二酸化炭素(CO)に転化することが可能であることと、粒子状物質は排ガスが好適なスス粒子フィルタを通過することによって取り除かれ得ることが知られている。先行技術においては、酸素の存在下に排ガスから窒素酸化物を除去する方法もよく知られている。その1つである「脱硝プロセス」はSCRプロセス(SCR=選択的触媒還元)と称されるものであり、すなわちこれは、窒素酸化物を、還元剤であるアンモニアを用いて、好適な触媒つまりSCR触媒で選択的触媒還元するというものである。このプロセスにおいて、アンモニアは、そのままで又は周囲条件でアンモニアに分解可能な前駆体化合物の形態で排ガス流に加えることができる。「周囲条件」とは、当該化合物をアンモニアに分解することができる、SCR触媒上流の排ガス流中の環境を意味するものと理解される。SCRプロセスを実施するためには、還元剤を供給するための供給源、還元剤を必要に応じて排ガス中に計量添加するための噴射装置及び排ガスの流路に配置されたSCR触媒が必要である。還元剤供給源、SCR触媒及びSCR触媒の流入側に配置される噴射装置全体はSCRシステムとも称される。
【0003】
将来的に適用されるであろう法規制を考えると、一般に、新たに登録されるすべてのディーゼル車には、エンジンから排出されるあらゆる汚染ガスを除去する排ガス後処理が必要になるであろう。従って、ディーゼル排ガス後処理の現行の用途に、ディーゼル酸化触媒、ディーゼルパティキュレートフィルタ及びSCRシステムを併用することが必要となるであろう。そして、これらのユニットを併用すると、特にSCR触媒の運転条件を変更することが必要になるであろう。現在、特許文献1による「SCRT(登録商標)System」において、ディーゼル酸化触媒、ディーゼルパティキュレートフィルタ及びSCRシステムが排ガスの流れ方向に直列に配置されている、この種の3種類のシステムが試験されている。別法として、SCRシステムは、車体底部の直結型(close−coupled)ディーゼル酸化触媒とディーゼルパティキュレートフィルタとの間に配置することができ(DOC−SCR−DPF)、あるいはディーゼル酸化触媒及びディーゼルパティキュレートフィルタから構成されるユニットの上流側に配置することもできる(SCR−DOC−DPF)。
【0004】
排ガス通路においてディーゼルパティキュレートフィルタ及びSCRシステムを併用することは、SCR触媒が、運転される特定の位置において、既存の用途よりもはるかに高いHC濃度に長時間曝されることを意味する。このようにHC濃度が高くなる理由は幾つか挙げられる。
【0005】
まず第1に、今や内燃機関における燃焼は、費用のかかる排ガス後処理段階を省略することを目的として調整されるのではなく、動力の最適化という観点から、許容される粒子状物質及びHCの排出量と窒素酸化物の排出量との均衡を図るように調整されている。それによって、排ガス後処理システムはある水準以上のHCで汚染されることになり、この排ガス中のHC濃度は既に、現在SCRシステムが用いられている用途に一般的な濃度をはるかに上回っている。第2に、ディーゼルパティキュレートフィルタは定期的に再生することが必要であり、これを達成する1つの方法は、堆積した粒子状物質を制御下に燃焼除去することである。そのためには、ススの発火温度を超える温度までフィルタを加熱しなければならない。この加熱は、シリンダのピストンの排気行程(output piston stroke)若しくは排ガス通路に燃料をポスト噴射することによるか又は酸化を行う触媒(いわゆる「昇温(heat−up)触媒」)上で未燃炭化水素を触媒浄化(catalytic conversion)することによって実施される。通常は、上流のディーゼル酸化触媒が昇温触媒の機能を担っている。これが存在しない場合は、SCR触媒が場合により昇温機能を担う可能性もある。どちらの場合も、発火後に噴射される炭化水素は昇温時に触媒上で完全に燃焼するわけではないので、フィルタ再生中はSCR触媒上流のHC濃度がより高くなる。ディーゼル酸化触媒及びディーゼルパティキュレートフィルタがSCR触媒の上流にあるSCRT(登録商標)システムの場合は、一定の運転時間が経過すると、SCR触媒に更なる永久的なHCの堆積が見られるようになる。これは、ディーゼル酸化触媒の酸化機能及び任意的に触媒コートされたフィルタが水熱劣化したことに起因する。
【0006】
ディーゼルパティキュレートフィルタの再生とは別に、例えば、冷間始動による遅延を補うことを目的として燃料のポスト噴射を行うと、更なる加熱手段が必要となる可能性があり、その結果としてSCR触媒上流のHC濃度は短時間で劇的に増加する。
【0007】
これらのことが影響して、最近の併用型(combination)排ガス浄化システムでは、SCR触媒上流の排ガス中に存在するHC含有量が既存の用途と比較して非常に高くなっているため、SCR触媒は運転条件を変更して用いられている。通常、このような条件下では、従来のSCR触媒の活性は、炭化水素を含まない排ガス中と比較して窒素酸化物の浄化性能が明らかに低下する。最近では、先行技術において、耐炭化水素被毒性SCR触媒も記載されている。
【0008】
例えば、特許文献2には、a)排ガス通路の一部を構成していない供給源から、アンモニア(NH)を、そのままで又は周囲条件でアンモニアを発生させる化合物の形態で、窒素酸化物及び炭化水素を含む排ガス流に添加することと;b)NOと排ガス流に添加されたNHとを、銅(Cu)及び/又は鉄(Fe)交換ゼオライトを含むSCR触媒上で選択的に反応させることとを含む、窒素酸化物(NO)及び炭化水素(HC)を含むディーゼルエンジンの排ガスを処理するためのプロセスが開示されている。これは、ゼオライトが分子篩様の作用を示すことによって、排ガス中に存在する炭化水素を触媒の反応が起こる活性部位に近づけないことを特徴とするものである。使用されるゼオライトは、炭化水素がその大きさのために内部に侵入することができない小細孔ゼオライト、特に、フェリエライト、チャバザイト及びエリオライトである。
【0009】
これらの耐炭化水素被毒性SCR触媒は、炭化水素を含まない排ガス中における窒素酸化物の浄化活性と比較すると、炭化水素を含む排ガス中における活性の低下が非常に小さいことを特徴とする。しかしながら、総合的に見れば、これらの触媒を用いて達成することができる窒素酸化物の浄化は、炭化水素を含まない排ガス中においてさえも、従来のSCR触媒と比較するとはるかに劣っている。この耐HC被毒性触媒は、水熱耐久性に関しても同様に、従来のSCR触媒の水熱耐久性よりも著しく劣っている場合が多い。
【0010】
浄化すべき排ガス中の炭化水素含有量が高いと、通常は、SCR触媒の長期安定性にも悪影響が及ぼされる。このことは、中細孔以上の遷移金属交換ゼオライト、例えば、モルデナイト、β−ゼオライト、USY、ZSM−5又はZSM−20のSCR活性に基づいて機能する従来のSCR触媒の場合に特に当てはまる。それは、これらの炭化水素が排ガスからゼオライト骨格中に吸蔵される可能性があるからである。排ガス中に存在する炭化水素は、運転温度が比較的低温の場合はアンモニアと競争しながらゼオライト骨格中に吸蔵される。その後、触媒が炭化水素の接触酸化を開始するライトオフ温度を超える高い運転温度に曝されると、吸蔵された炭化水素はゼオライト内で「燃焼」する。そして、放出される反応エンタルピーによって触媒中でかなりの発熱が生じ、それに対応して温度が上昇することによって、ゼオライト系触媒の触媒活性部位がかなりの損傷を被る可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1054722号明細書
【特許文献2】国際公開第2009/135588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来のゼオライト系SCR触媒と比較して耐HC被毒性が改善されていると同時に、先行技術による耐HC被毒性触媒よりも水熱劣化前後のSCR活性が高いことを特徴とするSCR触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、炭化水素を含む排ガス中において窒素酸化物をアンモニアで選択的触媒還元するための触媒であって、
支持体と、
1種以上の遷移金属で交換されたゼオライト及び/又は1種以上の遷移金属で交換されたゼオライト様化合物を含む、支持体に直接適用された第1触媒活性コーティングと、
第1コーティングの排ガス側を覆っており、窒素酸化物及びアンモニアが第1コーティングを通過するのを妨げることなく、排ガス中に存在する少なくとも3個の炭素原子を有する炭化水素と真下にある第1コーティングとの接触を防ぐように構成された第2コーティングであって、
SAPO−34、CHA、FER、ERI、OFF、ALPO−34及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の小細孔ゼオライト及び/若しくは小細孔ゼオライト様化合物又は
二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、二酸化ジルコニウム及びこれらの混合酸化物からなる群から選択される1種以上の酸化物を含む第2コーティングと
を備える触媒によって達成される。
本発明は、例えば以下を提供する。
(項1)
炭化水素を含む排ガス中の窒素酸化物をアンモニアで選択的触媒還元するための触媒であって、
支持体と、
前記支持体に直接適用された、1種以上の遷移金属で交換されたゼオライト及び/又は1種以上の遷移金属で交換されたゼオライト様化合物を含む第1触媒活性コーティングと、前記第1コーティングの前記排ガス側を覆っており、窒素酸化物及びアンモニアが前記第1コーティングを通過するのを妨げることなく、前記排ガス中に存在する少なくとも3個の炭素原子を有する炭化水素が真下の前記第1コーティングと接触するのを防ぐように構成されている第2コーティングであって、
SAPO−34、CHA、FER、ERI、OFF、ALPO−34及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の小細孔ゼオライト及び/若しくは小細孔ゼオライト様化合物又は
二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、二酸化ジルコニウム及びこれらの混合酸化物からなる群から選択される1種以上の酸化物
を含む第2コーティングと
を備える触媒。
(項2)
前記支持体に直接適用された前記第1触媒活性コーティング中に存在する前記遷移金属交換ゼオライト及び/又は前記遷移金属交換ゼオライト様化合物が、ベータ−ゼオライト、ZSM−5、ZSM−20、USY、MOR又はこれらの混合物からなる群から選択され、前記遷移金属が、セリウム、マンガン、鉄、銅、銀、金、白金、パラジウム及び/又はこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、項1に記載の触媒。
(項3)
前記第2コーティングが、SAPO−34、CHA、FER、ERI、OFF、ALPO−34及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の小細孔ゼオライト及び/又は小細孔ゼオライト様化合物からなることを特徴とする、項1又は2に記載の触媒。
(項4)
前記小細孔ゼオライト及び/又は前記小細孔ゼオライト様化合物の1種以上が、セリウム、マンガン、鉄、銅、銀、金、白金、パラジウム及び/又はこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の遷移金属で交換されていることを特徴とする、項3に記載の触媒。
(項5)
前記第2コーティングが、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、二酸化ジルコニウム及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の酸化物からなることを特徴とする、項1又は2に記載の触媒。
(項6)
前記第2コーティングの前記酸化物の粒度分布のd50が100nm以下であることを特徴とし、前記酸化物の粒度分布のd50とは、前記酸化物の体積全体の50%が、d50として報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むことを意味するものと理解される、項1又は5に記載の触媒。
(項7)
前記第2コーティングが、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、二酸化ジルコニウム及びこれらの混合酸化物からなる群から選択される1種以上の酸化物を含んでおり、既に前記第1コーティングが施された前記支持体を、式(I):
(RO)n−mMeR’(I)
(式中、
nは、3又は4であり、かつm<nであり、
Meは、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、チタン、スズ又はジルコニウムであり、Rは、(C〜C)アルキル又はフェニルであり、
R’は、(C〜C)アルキル、アミノ−(C〜C)アルキル、アミノ基がアミノ−(C〜C)アルキルで置換されたアミノ−(C〜C)アルキル又はメタクリル酸(C〜C)アルキルである)の1種以上のアルコキシドを含む溶液に含浸させ、次いで乾燥させることによって製造されることを特徴とする、項1に記載の触媒。
(項8)
Rが、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル又はフェニルであることを特徴とする、項7に記載の触媒。
(項9)
R’が、アミノ−(C〜C)アルキル、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル、イソプロピル、イソブチル、フェニル、オクチル又はメタクリル酸(C〜C)アルキルであることを特徴とする、項7に記載の触媒。
(項10)
前記第2コーティングが、二酸化ケイ素からなることを特徴とする、項1、2及び5〜9のいずれか一項に記載の触媒。
(項11)
二酸化ケイ素の前記第2コーティングが、一次粒子の粒度分布のd50が100nm以下であるヒュームドシリカの水性懸濁液を、既に前記第1コーティングが施された前記支持体に適用することによって製造されることを特徴とし、前記ヒュームドシリカの前記粒度分布のd50とは、前記ヒュームドシリカ全体の体積の50%が、d50として報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むことを意味するものと理解される、項10に記載の触媒。
(項12)
前記ヒュームドシリカがハロゲン化物及び/又は水酸化物で表面改質されており、結果として得られる層内における加水分解及び/又は縮合によって前記シリカ粒子の架橋が生成することを特徴とする、項11に記載の触媒。
(項13)
炭化水素を含むディーゼルエンジン排ガス中の一酸化窒素及び二酸化窒素を含む窒素酸化物の量を低減するためのプロセスであって、
窒素酸化物及び炭化水素を含む浄化すべき前記排ガスに、アンモニア又はアンモニアに分解可能な前駆体化合物を還元剤として添加する工程ステップと、
結果として得られる排ガス及び還元剤の混合物を、項1〜12のいずれか一項に記載の触媒を通過させる工程ステップと
を含む、プロセス。
(項14)
前記排ガスを、アンモニア又はアンモニアに分解可能な前駆体化合物の前記添加を行う前に、前記排ガス中に存在する前記一酸化窒素の少なくともいくらかを二酸化窒素に転化するのに有効な酸化触媒を通過させることを特徴とする、項13に記載の方法。
(項15)
前記酸化触媒が、フロースルー型ハニカム状モノリス上及び/又はウォールフロー型フィルタ基材上の触媒活性を有するコーティングの形態にあることを特徴とする、項14に記載の方法。
【0014】
以下に幾つかの実施例及び図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。図面は次のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】測定開始前に炭化水素を吸蔵(laden)させた、先行技術によるSCR触媒(CC1)の上流及び下流の排ガスの温度であり、反応器温度/触媒上流温度を400℃に昇温することによりHCが燃焼除去されることによって発熱が起こったことが明らかである。
図2】測定開始前に触媒に炭化水素を吸蔵させておき、反応器温度/触媒上流温度を400℃に昇温した後の、触媒上流の温度及び触媒下流の温度の温度差ΔTであり、本発明の触媒C1及び先行技術による触媒(CC1)上でHCを燃焼除去することにより生じた発熱を比較したものである。
図3】新触媒の状態の触媒CC1、CC2(いずれも先行技術)及びC1(本発明)の、炭化水素を含まない排ガス中におけるNO浄化率を、α値に対し標準化したものである。
図4】水熱劣化後の触媒CC1’、CC2’(いずれも先行技術)及びC1’(本発明)の、炭化水素を含まない排ガス中におけるNO浄化率を、α値に対し標準化したものである。
図5】測定開始前に触媒に炭化水素を吸蔵させておき、反応器温度/触媒上流温度を400℃に昇温した後の、触媒上流の温度及び触媒下流の温度の温度差ΔTであり、本発明の触媒C2(新触媒)又はC2’(水熱劣化後)及び先行技術による触媒(CC1又はCC1’)上でHCを燃焼除去することにより生じた発熱を比較したものである。
図6】新触媒である触媒CC1、CC2(いずれも先行技術)及びC1(本発明)の、炭化水素を含まない排ガス中におけるNO浄化率を、α値に対し標準化したものである。
図7】本発明の触媒C4の供試体のTEM画像であり、触媒活性材料の成分が互いに三次元的に配置されているのが明らかである:1:SiO球状粒子A:鉄交換ゼオライトB:この材料中に存在する過剰な鉄から生成した酸化鉄。
図8】本発明の触媒C4の触媒活性材料の供試体のTEM画像であり、丸で囲んだAの周囲の領域において、長距離秩序(結晶格子面)を有しない、従って非晶質であることを特徴とするSiOがはっきりと認められる。
図9】本発明の触媒C4の触媒活性材料の供試体のTEM画像であり、Cの周囲の領域において、格子面間隔が約1.1nmである結晶格子面を有する鉄交換ゼオライトがはっきりと認められる。
図10】測定開始前に触媒に炭化水素を吸蔵させておき、反応器温度/触媒上流温度を400℃に昇温した後の、触媒上流の温度及び触媒下流の温度の温度差ΔTであり、本発明の触媒C3〜C5(新触媒)又はC3’〜C5’(水熱劣化後)及び先行技術に従う触媒(CC1又はCC1’)上でHCを燃焼除去することにより生じた発熱を比較したものである。
図11】新触媒であるCC1、CC2(いずれも先行技術)及びC3〜C5(本発明)上の、炭化水素を含まない排ガス中におけるNO浄化率を、α値に対し標準化したものである。
図12】水熱劣化後の触媒であるCC1’、CC2’(いずれも先行技術)及びC3’〜C5’(本発明)の、炭化水素を含まない排ガス中におけるNO浄化率を、α値に対し標準化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本文書における「ゼオライト様化合物」とは、典型的なゼオライト構造(「ゼオライト骨格」)を形成しているが、ケイ酸アルミニウムから形成されていないか又はケイ酸アルミニウムのみから形成されていないものを意味するものと理解される。このようなものとして、特に、ケイ酸リン酸アルミニウム(SAPO)及びリン酸アルミニウム(ALPO)が挙げられる。
【0017】
本発明の触媒の支持体に直接適用される第1触媒活性コーティングは、窒素酸化物とアンモニアとの反応を触媒する。これは、好ましくは、β−ゼオライト、ZSM−5、ZSM−20、USY、MOR又はこれらの混合物からなる群から選択される遷移金属交換ゼオライト及び/又は遷移金属交換ゼオライト様化合物を含む。β−ゼオライト、USY及びMORが特に好ましい。ゼオライト又はゼオライト様化合物中に存在する遷移金属は、好ましくは、セリウム、マンガン、鉄、銅、銀、金、白金、パラジウム及び/又はこれらの混合物からなる群から選択される。その中でもセリウム、鉄及び銅が非常に好ましい。
【0018】
第2コーティングは、好ましくは、第1コーティングの排ガス側を完全に覆っている。しかしながら、被覆率が完全に近いだけでも本発明の効果は得られる。従って、より詳細には、第2コーティングによる第1コーティングの被覆率は、それぞれ第1コーティングの面積を基準として90〜100%、より好ましくは95〜100%である。
【0019】
第2コーティング中に存在することができる好ましい小細孔ゼオライトは、SAPO−34、CHA及びFERである。
【0020】
第2コーティング中に存在することができる小細孔ゼオライトは、好ましくは、セリウム、マンガン、鉄、銅、銀、金、白金、パラジウム及び/又はこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の遷移金属で交換されている。セリウム、鉄及び銅が特に好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態においては、第2コーティングは、SAPO−34、CHA、FER、ERI、OFF、ALPO−34及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の小細孔ゼオライト及び/又は小細孔ゼオライト様化合物からなる。
【0022】
第2コーティングが小細孔ゼオライトを含むか又は小細孔ゼオライトからなる場合は、それ自体がSCR触媒活性を有していてもよい。
【0023】
第2層中に存在することができる好ましい酸化物は、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム及び酸化セリウムであり、最も好ましくは二酸化ケイ素である。この層に十分な気孔率、従って、アンモニア及び窒素酸化物反応体に対する十分な通過性(passage capacity)を確保すると同時に、排ガス中に存在する炭化水素に対しては十分な障壁作用を示すためには、第2コーティング中に存在する酸化物のd50は、好ましくは100nm以下、より好ましくは70nm以下である。この文脈における酸化物の粒度分布のd50とは、酸化物全体の体積の50%が、d50として報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むことを意味するものと理解される。
【0024】
本発明の一実施形態においては、第2コーティングは、二酸化ケイ素、二酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、二酸化ジルコニウム及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上の酸化物からなる。
【0025】
第2コーティングが酸化物を含むか又は酸化物からなる場合は、好適な酸化物を水中に懸濁させ、場合により懸濁液中で磨砕することによって酸化物に上述した好ましい粒度分布を生じさせ、次いでこの懸濁液を、当業者に周知の従来の浸漬、吸引又はポンプ送液(pumping)プロセスを用いて、既に第1層が施された支持体にコーティングすることによって第2コーティングを製造することができる。
【0026】
本発明によれば、長距離秩序を有しない、すなわち非晶質形態の酸化物が好ましい。
【0027】
従って、本発明の触媒の第2コーティングは、好ましくは、既に第1コーティングが施された支持体を、式(I):
(RO)n−mMeR’ (I)
(式中、
nは、3又は4であり、かつm<nであり、
Meは、ケイ素、ゲルマニウム、アルミニウム、チタン、スズ又はジルコニウムであり、
Rは、(C〜C)アルキル又はフェニルであり、
R’は、(C〜C)アルキル、アミノ−(C〜C)アルキル、アミノ基がアミノ−(C〜C)アルキルで置換されたアミノ−(C〜C)アルキル又はメタクリル酸(C〜C)アルキルである)の1種以上のアルコキシドを含む溶液に含浸させることと、次いで乾燥させることとを含むプロセスにより製造される。
【0028】
酸化物は、アルコキシドを加水分解し、加水分解生成物を縮合することによりMeO鎖及び網目を形成することによって生成し、ここから最終的に酸化物が形成される。
【0029】
有利には、乾燥後にか焼が行われる。
【0030】
上述のアルキル基は、直鎖又は分岐であっても、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル又はi−ブチルであってもよい。更に、(C〜C)アルキルは、例えば、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル又はオクチルであってもよい。
【0031】
Rは、好ましくは、メチル、エチル、イソプロピル、ブチル又はフェニルである。
【0032】
R’は、好ましくは、アミノ−(C〜C)アルキル、特に、アミノメチル及びアミノエチル、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル、イソプロピル、イソブチル、フェニル、オクチル又はメタクリル酸(C〜C)アルキル、特に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル又はメタクリル酸プロピルである。
【0033】
より好ましくは、Meは、ケイ素である。この場合、使用される式(I)のアルコキシドは、特に、テトラエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、N−(2−アミノ−エチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及びトリエトキシオクチルシランである。
【0034】
本発明の触媒の実施形態は特に自動車用途に適しており、第2コーティングが二酸化ケイ素からなる場合は、たとえ上に概要を示したプロセスを経た後でさえも、製造費用が更に安価になる。
【0035】
本発明の第2コーティングが二酸化ケイ素からなる触媒は、上述した方法の別法として、ヒュームドシリカの水性懸濁液を第1ゼオライト系コーティングを既に施した支持体に適用することによって調製することもできる。この場合、一次粒子の粒度分布のd50が100nm以下、好ましくは70nm以下、より好ましくは50nm以下であるヒュームドシリカを選択すべきである。本明細書における粒度分布のd50とは、ヒュームドシリカの全体の体積の50%が、d50として報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むことを意味するものと理解される。本プロセスに使用するのに好ましいヒュームドシリカは、ハロゲン化物−及び/又は水酸化物で表面改質されたものであり、その官能性によって、シリカ粒子がシリカの水性懸濁液の適用中又は場合により適用後に加水分解及び/又は縮合することによって得られる層の架橋が促される。
【0036】
上述したすべての実施形態及び更に考えられ得る実施形態における本発明の触媒は、炭化水素を含有するディーゼルエンジン排ガス中の一酸化窒素及び二酸化窒素を含む窒素酸化物の量を低減するのに適している。この目的のためには、窒素酸化物及び炭化水素を含む浄化すべき排ガスを、アンモニア又はアンモニアに分解可能な前駆体化合物を還元剤として添加した後に、本発明のSCR触媒を通過させる。好ましくは、窒素酸化物及び炭化水素を含む浄化すべき排ガスを、アンモニア又はアンモニアに分解可能な前駆体化合物を添加する前に、排ガス中に存在する一酸化窒素の少なくとも一部を二酸化窒素に転化するのに有効な酸化触媒を通過させる。理想的には、その結果として、浄化すべき排ガス中の窒素酸化物は、SCR触媒に流入する前に、二酸化窒素含有量が30〜70%になっている。この場合、酸化触媒は、フロースルー型ハニカム状モノリス(monolithic flow honeycomb)及び/又はウォールフロー型フィルター基材上の触媒活性コーティングの形態とすることができる。
【実施例】
【0037】
比較例1:
市販のSCR触媒に用いるための鉄交換β−ゼオライトをベースとするコーティング用懸濁液を製造した。この目的のために、市販のSiOバインダー、市販のベーマイトバインダー(塗工助剤、硝酸鉄(III)九水和物及びSiO/Alのモル比(SAR)が25である市販のβ−ゼオライトを水に懸濁させ、1平方センチメートル当たりのセル数が62個であり、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルであるフロースルー型セラミックハニカム(ceramic flow honeycomb)に、従来の浸漬プロセスで適用した。コーティングされた部品をまず最初に350℃で15分間、次いで500℃で2時間か焼した。こうして得られた触媒CC1のコーティングはβ−ゼオライト90%からなり、鉄含有量は4.5重量%(Feとして計算)であった。
【0038】
比較例2:
国際公開第2009/135588号パンフレットに従う耐HC被毒性SCR触媒を製造した。この目的のために、SiO/Alのモル比(SAR)が20である市販のフェリエライト型小細孔ゼオライトを水中でスラリー化した。硝酸鉄(III)九水和物を懸濁液に加えた。磨砕を行った後、この懸濁液を使用して、1平方センチメートル当たりのセル数が62個であり、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルであるフロースルー型ハニカム状モノリスに従来の浸漬プロセスでコーティングした。コーティングされた部品を350℃で15分間、次いで500℃で2時間か焼した。こうして得られた触媒CC2のコーティングはフェリエライトからなり、鉄含有量は4.5%(Feとして計算)であった。
【0039】
実施例1:
比較例1による市販の鉄交換β−ゼオライトのコーティングを、1平方センチメートル当たり62個のセルを有し、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルである、別のフロースルー型セラミックハニカム(ceramic flow honeycomb)に適用した。
【0040】
次いで、SiO/Alのモル比(SAR)が20である市販のフェリエライトFERを含む別のコーティング用懸濁液を水中で調製し、これを用いて、既に単層コーティングを施したフロースルー型ハニカムに、β−ゼオライトの第1層の排ガス側がほぼ完全にFERの第2層で覆われるように、従来の浸漬プロセスで更にコーティングを施した。これを乾燥させ、350℃で10〜15分間及び500℃で2時間か焼を行い、触媒C1を得た。直径25.4ミリメートル、長さ76.2ミリメートルの柱状ボーリングコア(drill core)を2個ずつ比較例及び実施例1の各触媒から採取した。それぞれ新触媒の状態(CC1又はCC2又はC1)で各ボーリングコアの触媒活性を評価した。他のボーリングコアを、それぞれ触媒活性調査の前に、窒素中に水蒸気を10体積%及び酸素を10体積%を含む雰囲気中、750℃のオーブンで16時間人為的に劣化させた(CC1’、CC2’及びC1’)。
【0041】
触媒活性の調査:
調査を行った第1試験においては、触媒の耐HC被毒性の指標として、炭化水素を吸蔵させた触媒に熱応力をかけることによって生じた発熱の大きさを評価した。先行技術による従来のSCR触媒CC1と本発明の触媒とを比較した。
【0042】
この目的のために、新触媒のボーリングコアをエンジンテストベンチにおいて100℃で60分間炭化水素と接触させた。次いで、このボーリングコアを、標準ガスシステムを用いて、反応器温度100℃で10分間事前に状態調整した(Oを10%、COを10%、HOを5%、残余N、全体の流量4m(STP)/h)。次いで、同じ気体混合物中で反応器温度を30秒以内に400℃に昇温した。生じた発熱の指標を得るために、ボーリングコアの流入口から5ミリメートル上流及びボーリングコアの流出口から76.2ミリメートル下流の排ガスの温度を検出し、評価を行った。
【0043】
図1に、一例として、比較触媒CC1の流入口の上流から5ミリメートルの排ガス温度及び比較触媒CC1から76.2ミリメートル下流の排ガス温度の測定値を示す。t=600秒で反応器温度を昇温した直後に明らかな発熱が観測され、これが、触媒下流の排ガス温度が800℃を超えることに反映されている。
【0044】
触媒により生じた発熱をより正確に比較できるようにするために、温度制御の不正確さを考慮に入れ、触媒上流の温度及び触媒下流の温度の温度差ΔTを求めた。本明細書においては、T(触媒上流)はボーリングコアから5ミリメートル上流の排ガス温度とし、T(触媒下流)はボーリングコアから76.2ミリメートル下流の排ガス温度とした。触媒の上流又は下流に最高温度が存在していた場合、tupstream of catalyst=tmax,upstream of catalyst又はtdownstream of catalyst=tmax,downstream of catalystとなった時点で温度を記録した。
【0045】
図2は、新触媒である触媒CC1及びC1に関し測定された温度差である。炭化水素が酸化する発火温度に到達した後、触媒中に含まれるゼオライトの触媒燃焼によって生じた温度上昇は比較触媒CC1で400°であるが、一方、本発明の触媒C1で認められた温度上昇は50°を大きく下回っている。これは、本発明の触媒C1が吸蔵している炭化水素の量が従来のSCR触媒CC1と比較して非常に少なく、従って耐HC被毒性がより高いことを実証するものである。本発明者らは、これは、本発明の触媒中に存在するFERの最上層が、その真下のβ−ゼオライトに炭化水素が吸蔵されることを防いでいることに起因すると考えている。
【0046】
更なる試験においては、アンモニアを用いた本発明の触媒ならびに比較触媒CC1及びCC2による窒素酸化物の浄化率を、新触媒の状態及び水熱劣化後に関し調査した。
【0047】
調査は、次に示す気体濃度の標準ガスシステムを用いて静的試験で行った。
【0048】
【表1】
【0049】
SCR活性調査においては、通常、アンモニア対窒素酸化物のモル比はアルファで定められる。
【数1】
【0050】
表に列挙した気体濃度を用いると、アルファ値α=0.85となる。標準ガス試験は空間速度を30000h−1として実施した。
【0051】
本文書においては、測定されたNO浄化率を、アルファ値に標準化した形態すなわちNO浄化率/α値で報告する。
【0052】
図3は、新触媒である触媒CC1、CC2及びC1のNO浄化率をα値に対し標準化したものである。図3から推測されるように、本発明の触媒C1は、低温範囲、特に200〜300℃の運転温度では従来のSCR触媒CC1よりもわずかに劣っている。しかし300℃を超えると、本発明の触媒の窒素酸化物浄化性能は従来の触媒に完全に匹敵するようになる。先行技術による耐HC被毒性SCR触媒CC2と比較すると、本発明の触媒C1は全温度範囲において窒素酸化物浄化性能が大きく上回っている。
【0053】
これらの試験結果を合わせると、新触媒の状態の本発明の触媒C1は、先行技術において現在知られている耐HC被毒性SCR触媒よりもSCR活性がはるかに高く、それと同時に、本発明の触媒の耐HC被毒性は、先行技術による従来のゼオライト系SCR触媒(CC1)よりもはるかに高い。
【0054】
図4は、水熱劣化後の触媒であるCC1’、CC2’及びC’の窒素酸化物浄化率をα値に対し標準化したものである。本発明の触媒は、従来のSCR触媒CC1に匹敵する浄化率を示す。先行技術による耐HC被毒性SCR触媒CC2と比較すると、本発明の触媒C1は水熱劣化耐久性が大きく改善されており、それによって、水熱劣化後の窒素酸化物浄化性能が大幅に向上していることが分かる。
【0055】
実施例2:
比較例1による市販の鉄交換β−ゼオライトのコーティングを、1平方センチメートル当たり62個のセルを有し、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルである別のフロースルー型セラミックハニカムに適用した。
【0056】
更なるステップにおいて、既に単層コーティングを施したハニカムを、浸漬プロセスにより、テトラエトキシシラン(TEOS)のエタノール中溶液に、シランの吸収量がハニカムの体積を基準として4.3g/l SiOになるまで含浸させた。Leister送風機を用いて50℃で乾燥させ、350℃で10〜15分間及び500℃で2時間か焼することにより触媒C2を得た。この触媒から直径25.4ミリメートル、長さ76.2ミリメートルのボーリングコアを2個採取し、一方は、窒素中に水蒸気10体積%及び酸素10体積%を含む雰囲気中、750℃のオーブンで16時間人為的に劣化させた(C2’)。次いでボーリングコアC2(新触媒)及びC2’(水熱劣化後)について上述の触媒活性調査を行った。
【0057】
図5は、新触媒の状態(C2)及び水熱劣化後の状態(C2’)の実施例2の本発明の触媒に炭化水素を吸蔵させてから加熱することによって生じた発熱を、従来のSCR触媒CC1(新触媒)又はCC1’(水熱劣化後)と比較したものである。新触媒の状態においては、本発明の触媒C2による発熱は比較触媒よりも250°超も低い。水熱劣化後でさえも、本発明の触媒により生じた発熱は15°超低い。先行技術によるSCR触媒(CC1)も水熱劣化後は発熱が大幅に低下しているが、これは劣化による触媒活性部位の損傷に起因しており、炭化水素の触媒燃焼能力にも悪影響を及ぼすものである。従って、全体として、本発明の触媒C2は、従来のSCR触媒よりも耐HC被毒性が非常に高いことが分かる。
【0058】
図6は、新触媒である触媒CC1、CC2及びC2のNO浄化率をα値に対し標準化したものである。本発明の触媒C2のSCR活性が、全温度範囲において、先行技術による耐HC被毒性触媒CC2と比較して大幅に改善されていることが明らかである。従来のSCR触媒と比較すると、K2は炭化水素を含まない排ガス中における浄化率が低温範囲でわずかに劣っているものの、400℃以上の高温範囲においては浄化率が改善されている。
【0059】
実施例3:
比較例1に従う市販の鉄交換β−ゼオライトのコーティングを、1平方センチメートル当たり62個のセルを有し、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルである別のフロースルー型セラミックハニカムに適用した。
【0060】
次いで、こうしてコーティングを施したハニカムを希硝酸に浸漬した後、テトラエトキシシラン(TEOS)15重量%、水5重量%及びエタノール80重量%を含む溶液に含浸させ、これを乾燥させて、350℃で10〜15分間及び500℃で2時間か焼した。これにより触媒C3を得た。
【0061】
実施例4:
比較例1に従う市販の鉄交換β−ゼオライトのコーティングを、1平方センチメートル当たり62個のセルを有し、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルである更なるフロースルー型セラミックハニカムに適用した。
【0062】
次いで、こうしてコーティングを施したハニカムをテトラエトキシシラン(TEOS)15重量%、水5重量%及びエタノール80重量%を含む溶液に含浸させ、これを乾燥させて、350℃で10〜15分間及び500℃で2時間か焼した。これにより触媒C4を得た。
【0063】
触媒活性材料の評価を行うために、耐HC被毒性及び触媒活性調査用のボーリングコアと同様にして、触媒C4から供試体を採取した。光学分析法の当業者に周知の方法により、支持体上の触媒C4の試験片を調製したままの状態で採取し、全体を透明樹脂に埋め込んだ。そこから薄片試料を分離し、エネルギー分散型X線分析装置(integrated energy−dispersive X−ray spectroscope)を用いて高解像度透過型電子顕微鏡で観察した(EDX=エネルギー分散型X線分光法(energy−dispersive X−ray spectroscopy))。図7に試料の代表的な詳細を示す。ここから、鉄交換ゼオライト粒子(A;EDX:O:57.84atom%;Al:2.59atom%;Si:39.18atom%;Fe:0.4atom%)上に堆積した二酸化ケイ素の球体面(1;EDX:O:51.84atom%;Si:48.16atom%)がはっきりと認められる。更に、鉄交換ゼオライト以外にも試料材料中には酸化鉄が存在している(B;EDX:O:55.78atom%;Na:0.93atom%;Al:8.48atom%;Si:24.05atom%;Cl:0.51atom%;Fe:10.26atom%)。これは、使用した市販のゼオライトを調製する際に、イオン交換用に添加された過剰の鉄化合物に由来するものである。
【0064】
この触媒活性材料を更に評価するために、支持体から少量を機械的に取り除くことによって単離した。得られた粉末を同様に透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置を用いて調査した。図8及び9に試料材料の一部の詳細を示す。図8においては、丸印を付けた部分に二酸化ケイ素がはっきりと認められ、明確な長距離秩序(結晶格子面)が認められないという特徴を有している。このことから、本発明の触媒中に存在するSiOが非晶質であり、従って、例えば、市販の従来の二酸化ケイ素材料を磨砕後に従来の浸漬法によって支持体にコーティングしたものとは異なっていることを示している。図9に、試料の他の詳細を示す。「A」と印を付けた部分に鉄交換ゼオライトが存在している。ここから、結晶格子面間隔が約1.1ナノメートルの長距離秩序が存在することが明らかである。
【0065】
実施例5:
比較例1に従う市販の鉄交換β−ゼオライトのコーティングを、1平方センチメートル当たり62個のセルを有し、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルである別のフロースルー型セラミックハニカムに適用した。
【0066】
次いで、こうしてコーティングを施したハニカムを、テトラエトキシシラン(TEOS)15重量%、水35重量%及びエタノール50重量%を含む溶液に、6.6g/l SiOに相当するシランが適用されるまで含浸させた。これを乾燥させ、350℃で10〜15分間及び500℃で2時間か焼することにより触媒C5を得た。
【0067】
実施例3〜5の各触媒から、直径25.4ミリメートル、長さ76.2ミリメートルのボーリングコアを採取し、それぞれ、窒素中に水蒸気を10体積%及び酸素を10体積%を含む雰囲気中、750℃のオーブンで16時間人為的に劣化させた。次いで、ボーリングコアC3、C4及びC5(新触媒)ならびにC3’、C4’及びC5’(劣化後)について上述した触媒活性調査を行った。
【0068】
図10は、新触媒の状態及び劣化後の状態の実施例3〜5からの触媒及び比較例1の従来のSCR触媒に炭化水素を吸蔵させてから昇温することによって観測された発熱を比較したものである。本発明の触媒はいずれも、新触媒の状態においても水熱劣化後の状態においても、炭化水素の燃焼除去により生じた発熱が、たとえあったとしても、はるかに小さいことがわかる。従って、これらも同様に、耐HC被毒性が明らかに改善されていることを特徴とする。
【0069】
図11は、新触媒の状態の本発明の触媒C3〜C5及び先行技術による耐HC被毒性SCR触媒CC2のNO浄化率をα値に対し標準化して比較したものである。本発明の触媒はいずれも、全温度範囲において、先行技術による耐HC被毒性触媒と比較して窒素酸化物の浄化率が明らかに改善されていることを特徴とする。
【0070】
図12は、水熱劣化後の状態の本発明の触媒C3’〜C5’ならびに先行技術によるSCR触媒CC1’及びCC2’のNO浄化率をα値に対し標準化して比較したものである。本発明の触媒はいずれも、全温度範囲において、窒素酸化物の浄化率がはるかに高く、従って、先行技術による耐HC被毒性触媒CC2’と比較して劣化耐久性が大幅に改善されていることを特徴とする。本発明の触媒の劣化耐久性は、従来の耐HC被毒性ではないSCR触媒CC1の劣化耐久性に相当する。
【0071】
実施例4と同様にして、次に示す実施例5〜9に記載した組成物の溶液をFe−βコーティングが施されたハニカムに含浸させても、良好な耐HC被毒性及び良好な触媒活性を兼ね備えた触媒を得ることが可能である。
【0072】
【表2】
【0073】
実施例11
比較例1に従う市販の鉄交換β−ゼオライトのコーティングを、1平方センチメートル当たり62個のセルを有し、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルである別のフロースルー型セラミックハニカムに適用した。
【0074】
次いで、更に、一次粒子の粒度分布のd50が12nmである市販のヒュームドシリカを含むコーティング用懸濁液を水中で調製した。ヒュームドシリカの粒度分布のd50とは、ヒュームドシリカの全体の体積の50%が、d50として報告された値以下の直径を有する粒子のみを含むことを意味するものと理解される。この懸濁液を用いて、既に単層コーティングを施したフロースルー型ハニカムに従来の浸漬プロセスで更にコーティングを施した。これを乾燥させ、350℃で10〜15分間及び500℃で2時間か焼することにより、β−ゼオライトの第1層の排ガス側がSiOの第2層でほぼ完全に覆われた触媒を得た。
【0075】
実施例11と全く同様にして、他の粒度分布を有するヒュームドシリカから構成されるコーティング用懸濁液を用いて、β−ゼオライトの第1層の排ガス側をほぼ完全に覆うSiOの第2層を適用しても、良好な耐HC被毒性及び良好な触媒活性を兼ね備えた触媒を得ることが可能である。
【0076】
実施例12:d50=40nmのヒュームドシリカ
【0077】
実施例13:d50=20nmのヒュームドシリカ
【0078】
実施例14:d50=16nmのヒュームドシリカ
【0079】
実施例15:d50=14nmのヒュームドシリカ
【0080】
実施例16:d50=7nmのヒュームドシリカ
【0081】
実施例17:
市販のZSM−5ゼオライトからコーティング用懸濁液を調製した。この目的のために、硝酸鉄(III)九水和物及びSiO/Alのモル比(SAR)が25である市販のZSM−5ゼオライトを水中に懸濁させ、従来の浸漬プロセスを用いて、1平方センチメートル当たり62個のセルを有し、セル隔壁の厚みが0.17ミリメートルであるフロースルー型セラミックハニカムに適用した。コーティングされた部品をまず350℃で15分間、次いで500℃で2時間か焼した。こうして得られた触媒のコーティングの鉄含有量は4.5重量%(Feとして計算)であった。
【0082】
次いで、こうしてコーティングを施したハニカムを、テトラエトキシシラン(TEOS)15重量%、水5重量%及びエタノール80重量%を含む溶液に含浸させ、これを乾燥させ、350℃で10〜15分間及び500℃で2時間か焼した。
【0083】
実施例17と同様にして、次の表に示す遷移金属(TM)で交換されたゼオライトを含む第1触媒活性コーティングを支持体に直接適用しても、良好な耐HC被毒性及び良好な触媒活性を兼ね備えた触媒を得ることが可能である。
【0084】
【表3】
【0085】
どの実施例からも、従来のゼオライト系SCR触媒と比較して耐HC被毒性が大幅に改善されたSCR触媒を得ることが可能であり、それと同時に、先行技術において現在周知の耐HC被毒性SCR触媒よりもはるかに高い窒素酸化物浄化性能を達成できることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12