特許第5986595号(P5986595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

特許5986595電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステム
<>
  • 特許5986595-電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステム 図000005
  • 特許5986595-電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステム 図000006
  • 特許5986595-電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステム 図000007
  • 特許5986595-電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステム 図000008
  • 特許5986595-電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステム 図000009
  • 特許5986595-電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステム 図000010
  • 特許5986595-電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステム 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986595
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステム
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20160823BHJP
   H02P 21/04 20060101ALI20160823BHJP
   H02P 29/50 20160101ALI20160823BHJP
【FI】
   H02P21/22
   H02P21/04
   H02P29/50
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-30932(P2014-30932)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-156755(P2015-156755A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2015年2月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博光
(72)【発明者】
【氏名】大谷 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】中井 英雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 堅滋
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/135694(WO,A1)
【文献】 米国特許第05463300(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
H02P 21/04
H02P 29/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を備えた3相フルブリッジ型の電力変換器の各相の前記スイッチング素子に対して駆動電圧を出力する電力変換器制御装置であって、
電気1周期中のパルス数を決定するパルス数決定器と、
前記電圧の変調率と位相差を決定し、前記変調率及び前記位相差に応じて前記駆動電圧を生成する駆動信号生成器と、
を備え、
前記駆動信号生成器は、電気半周期中の全パルス数に対する60度〜120度の範囲内のパルス数の割合であるパルス割合を前記変調率の増加に伴って100%から減少させることを特徴とする電力変換器制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換器制御装置であって、
前記駆動信号生成器は、電気1周期のパルス数を1パルス以上とし、前記パルス割合を前記変調率に対して段階的に切り替えることを特徴とする電力変換器制御装置。
【請求項3】
3相モータと、
スイッチング素子を備えた3相フルブリッジ型の電力変換器の各相の前記スイッチング素子に対して駆動電圧を出力する電力変換器制御装置と、
を備え、前記3相モータを前記電力変換器制御装置によって制御するモータシステムであって、
前記電力変換器制御装置は、
電気1周期中のパルス数を決定するパルス数決定器と、
前記電圧の変調率と位相差を決定し、前記変調率及び前記位相差に応じて前記駆動電圧を生成する駆動信号生成器と、
を備え、
前記駆動信号生成器は、電気半周期中の全パルス数に対する60度〜120度の範囲内のパルス数の割合であるパルス割合を前記変調率の増加に伴って100%から減少させることを特徴とするモータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車や電気自動車等の移動体にはモータ(電動機)が搭載されている。モータは、バッテリ等の電力供給源から電力を受けて、電力エネルギーを機械的な動力に変換して駆動力を発生させる。したがって、モータでの電力の損失はできるだけ抑制することが望まれる。
【0003】
PWM(Pulse Widht Modulation)よりもスイッチング回数が少ない変調方式として、矩形波形電圧の特定波形位置から高次高調波成分(5次、7次、11次・・・)を削除することで電流歪を生じさせる原因を低減する技術が開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、モータをインバータ駆動する差異のインバータ電圧として、nパルスモードにおいて正規化された高調波損失を正規化された基本波電力で除した値が最小となるようにスイッチ角α1〜αnを設定することで、低次高調波を消去しつつ、基本波成分の出力電圧を増大させる技術が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−35991号公報
【特許文献2】特開2012−120250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の高調波抑制技術では、インバータ回路のスイッチングによる入力電圧の低次高調波成分を低減させることのみ考慮されており、モータに通電されたときの電流の歪みやトルクへの影響が考慮されていない。したがって、電流の高調波成分によるモータの鉄損も考慮されておらず、モータシステムの損失は部分的にのみ考慮されている。
【0007】
また、特定の低次高調波を完全に消去する必要がない場合であっても、選択されたnパルスにおいて制御可能な次数の高調波成分のみを評価して処理を行っているので、結果的に低次高調波成分のみを考慮して除去することになっており、モータシステム全体として損失を低減させるように最適化されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、スイッチング素子を備えた3相フルブリッジ型の電力変換器の各相の前記スイッチング素子に対して駆動電圧を出力する電力変換器制御装置であって、電気1周期中のパルス数を決定するパルス数決定器と、前記電圧の変調率と位相差を決定し、前記変調率及び前記位相差に応じて前記駆動電圧を生成する駆動信号生成器と、を備え、前記駆動信号生成器は、電気半周期中の全パルス数に対する60度〜120度の範囲内のパルス数の割合であるパルス割合を前記変調率の増加に伴って減少させることを特徴とする電力変換器制御装置である。
【0009】
本発明の別の態様は、3相モータと、スイッチング素子を備えた3相フルブリッジ型の電力変換器の各相の前記スイッチング素子に対して駆動電圧を出力する電力変換器制御装置と、を備え、前記3相モータを前記電力変換器制御装置によって制御するモータシステムであって、前記電力変換器制御装置は、電気1周期中のパルス数を決定するパルス数決定器と、前記電圧の変調率と位相差を決定し、前記変調率及び前記位相差に応じて前記駆動電圧を生成する駆動信号生成器と、を備え、前記駆動信号生成器は、電気半周期中の全パルス数に対する60度〜120度の範囲内のパルス数の割合であるパルス割合を前記変調率の増加に伴って減少させることを特徴とするモータシステムである。
【0010】
ここで、前記駆動信号生成器は、前記変調率の増加に伴って前記パルス割合を100%から減少させることが好適である。
【0011】
また、前記駆動信号生成器は、電気1周期のパルス数を1パルス以上とし、前記パルス割合を前記変調率に対して段階的に切り替えることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、モータシステム全体として損失を低減させることを可能とする電力変換器制御装置及びそれを備えたモータシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態におけるモータシステムの構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における制御回路の構成を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における駆動信号生成器の構成を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における変調率に対する電気角60度以上120度以下の範囲内のパルス割合の関係を示す図である。
図5】本発明の実施の形態において生成される駆動電圧の例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態において生成される駆動電圧の例を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における損失の低減効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態におけるモータシステムは、図1に示すように、モータ100、電源回路200、電力変換器300及び電力変換器制御装置400を含んで構成される。電源回路200から供給される電力は、電力変換器制御装置400によって制御された電力変換器300によって直流交流変換されてモータ100へ供給される。
【0015】
モータ100は、電源回路200から供給された電力によって駆動される。モータ100は、回転子に永久磁石を備えた同期機とすることができる。モータ100の固定子の電機子巻線に電力変換器300から交流電力が供給され、モータ100の回転が制御される。モータ100の駆動力は、例えば、ハイブリッド自動車や電機自動車を含む移動体の駆動力として利用することができる。
【0016】
また、モータ100は、発電機を兼ねたモータジェネレータとしてもよい。この場合、発電によった電力が電力変換器300において交流直流変換されて電源回路200のバッテリに充電が行われる。
【0017】
また、モータ100には、回転子の回転位置(回転角度)θを検出するためのレゾルバ10を付設してもよい。レゾルバ10は、モータ100の回転子の回転位置(回転角度)θを検出する。レゾルバ10からの出力は電力変換器制御装置400の角速度演算器に入力され、角速度演算器によってから回転位置(回転角度)θがモータ100の回転子の角速度ω(回転数)に換算される。
【0018】
また、モータ100への電源供給ライン上に電流センサ12を設ける。電流センサ12により各相の電流値iu,ivをリアルタイムに検出し、電力変換器制御装置400の3相/dq軸変換器において電流値iu,ivからd軸電流値id及びq軸電流値iqに変換する。
【0019】
電源回路200は、バッテリ20及び平滑コンデンサ22を含んで構成される。バッテリ20とモータ100との間において電力変換器300を介して電力の受け渡しが行われる。平滑コンデンサ22は、バッテリ20の出力電圧を平滑化するために設けられる。
【0020】
電力変換器300は、インバータ回路を含んで構成される。電力変換器300は、電力変換器制御装置400から出力されるパルス状の駆動信号によって開閉制御されるスイッチング素子を含む上アーム及び下アームを備えた3相フルブリッジ型回路とすることができる。
【0021】
上アーム及び下アームは、スイッチング素子であるIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)とダイオードとの並列接続からなる。上アームと下アームは直列接続され、3つの上下アーム直列回路が構成される。各上下アーム直列回路の中点がモータ100の交流電力線に接続される。上アームと下アームのスイッチング素子は、電力変換器制御装置400からの駆動信号を受けて、駆動信号によってインバータ回路のスイッチング素子の開閉を制御して3相の疑似正弦波電圧を生成する。その疑似正弦波電圧がモータ100に供給される。また、モータ100がジェネレータとして機能する場合には、モータ100から出力された三相交流電力が直流電力に変換されて電源回路200に供給される。
【0022】
また、電力変換器300は、直流電圧を昇降圧する電圧コンバータをさらに備えてもよい。
【0023】
電力変換器制御装置400は、制御回路402及びドライバ回路404を含んで構成される。制御回路402は、ドライバ回路404に出力される駆動信号を生成する回路である。制御回路402は、他の制御装置やセンサなどからの入力に基づいて、電力変換器300のスイッチングタイミングを制御するための駆動信号を生成する。ドライバ回路404は、制御回路402において生成された駆動信号を受けて、駆動信号を増幅等したドライブ信号を生成して電力変換器300のスイッチング素子を実際に駆動する。
【0024】
制御回路402は、電力変換器300のスイッチング素子のスイッチングタイミングを演算処理するためのマイクロコンピュータにより実現することができる。制御回路402は、モータ100に対して要求される目標トルク値T、電力変換器300からモータ100に供給される電流値iu,iv、及びモータ100の回転子の回転角θが入力される。目標トルク値Tは、車両のアクセル制御部等から出力される指令信号であり、モータ100に対して要求される出力トルクを示す信号である。
【0025】
制御回路402は、目標トルク値Tに基づいてモータ100のd軸電流指令値及びq軸電流指令値を演算し、このd軸電流指令値及びq軸電流指令値と検出された電流値iu,ivに対応する実際のd軸電流値及びq軸電流値との差分に基づいてd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を演算する。このd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値からパルス状の変調波を生成する。この生成されたパルス状の変調波の信号はドライバ回路404で増幅等されて電力変換器300に出力される。
【0026】
制御回路402は、図2に示すように、角速度演算器406、3相/dq軸変換器408、電流指令生成器410、電流制御器412、パルス数決定器414及び駆動信号生成器416を含んで構成される。
【0027】
角速度演算器406は、レゾルバ10からモータ100の回転子の回転位置(回転角度θ)の検出信号を受けて、回転位置(回転角度θ)をモータ100の回転子の角速度ω(回転数)に換算して電流指令生成器410及び駆動信号生成器416へ出力する。角速度演算器406は、主に微分器から構成される。
【0028】
3相/dq軸変換器408は、電流センサ12からモータ100へ流入する電流値iu,ivの検出値及びレゾルバ10から回転子の回転位置(回転角度θ)の検出信号を受けて、電流値iu,ivからd軸電流値id及びq軸電流値iqに変換して電流制御器412へ出力する。
【0029】
電流指令生成器410は、外部のアクセル制御部等から出力される目標トルク値Tを受けて、モータ100に対する電流指令値であるd軸電流指令信号idとq軸電流指令信号iqを生成して出力する。すなわち、電流指令生成器410は、目標トルク値Tと回転子の角速度ωとの関係に基づいてd軸電流指令信号id及びq軸電流指令信号iqを生成する。具体的には、目標トルク値Tと回転子の角速度ωと組み合わせに対してd軸電流指令信号id及びq軸電流指令信号iqを関連付けて登録した電流指令値テーブルを予め登録しておき、入力された目標トルク値Tと回転子の角速度ωに関連付けられているd軸電流指令信号idとq軸電流指令信号iqを読み出して出力するようにしてもよい。
【0030】
電流制御器412は、電流指令生成器410からd軸電流指令信号id及びq軸電流指令信号iq並びに3相/dq軸変換器408から実際のモータ100に流れるd軸電流値id及びq軸電流値iqを受けて、d軸電流値id及びq軸電流値iqがd軸電流指令信号id及びq軸電流指令信号iqに追従するようにd軸電圧指令信号Vdとq軸電圧指令信号Vqを演算する。演算されたd軸電圧指令信号Vdとq軸電圧指令信号Vqは、パルス数決定器414及び駆動信号生成器416に入力される。
【0031】
パルス数決定器414は、駆動信号生成器416において生成される駆動信号の一電気周期に含まれるパルス数を決定する。パルス数決定器414は、d軸電圧指令信号Vdとq軸電圧指令信号Vqを受けて、これらから算出される変調率aに応じて電気1周期中のパルス数を決定する。例えば、変調率aに応じてパルス数を1パルスから31パルスの範囲で変更することが好適である。変調率aは、後述する駆動信号生成器416と同様に算出することができる。このとき、実際のモータ100における損失ができるだけ低減されるように変調率aに応じてパルス数を設定することが好適である。
【0032】
駆動信号生成器416は、d軸電圧指令信号Vd、q軸電圧指令信号Vq、回転子の回転位置(回転角度θ)及び角速度ω(回転数)並びにパルス数を受けて、電力変換器300を駆動するためのパルス状信号である駆動信号を生成して出力する。駆動信号生成器416は、図3に示すように、電圧位相差演算器420、変調率演算器422及びパルス生成器424を含んで構成される。
【0033】
電圧位相差演算器420は、d軸電圧指令信号Vd及びq軸電圧指令信号Vqを受けて、これらから磁極位置と電圧位相の位相差、すなわち電圧位相差を算出する。電圧位相差δは、式(1)に基づいて算出することができる。
δ=atan(Vd/Vq)・・・・・・(1)
【0034】
変調率演算器422は、d軸電圧指令信号Vd及びq軸電圧指令信号Vqを受けて、d軸電圧指令信号Vd及びq軸電圧指令信号Vqがなすベクトルの大きさをバッテリ電圧で正規化した変調率を算出する。変調率aは、バッテリ電圧Vdcとすると式(2)に基づいて算出することができる。
a=(√(Vd+Vq))/Vdc・・・・(2)
【0035】
パルス生成器424は、変調率a、電圧位相信号θv、回転子の角速度ω(回転数)並びにパルス数を受けて、これらに基づいてパルス状信号である駆動信号を生成する。ここで、電圧位相信号θvは、電圧位相差δに回転子の回転位置(回転角度θ)を加算した値である。すなわち、電圧位相信号θvは、回転子の回転角度θとすると式(3)で表わされる。
θv=δ+θ・・・・・・・・(3)
【0036】
パルス生成器424では、電気半周期中の全パルス数に対する60度以上120度以下(π/3〜2π/3)の範囲内のパルス数の割合であるパルス割合が変調率aの増加に伴って減少するように駆動信号が生成される。すなわち、変調率aが小さいときには電気半周期中のパルスが60度以上120度以下の範囲のパルス数の割合を多くし、変調率aが増加するに伴って電気半周期中のパルスが60度以上120度以下の範囲のパルス数の割合が減少するように駆動信号を生成する。
【0037】
このとき、パルス生成器424では、モータ100における渦電流損失を考慮した評価関数を用いて駆動信号のパルス波形(スイッチングパターン)を決定する。従来の駆動信号決定方法は、低次高調波消去PWMおよび低次高調波振幅・位相制御PWM共に駆動信号に含まれる特定の高調波を消去または目標値に制御する方法である。この場合、駆動信号のパルス波形(スイッチングパターン)において制御可能な個数以下の高調波数しか考慮されておらず、電流歪みの改善や制御性から低次高調波の抑制を選択し、これによって電流歪みを改善することでモータ損失の低減を図っていた。しかしながら、低回転及び軽負荷条件では、低次高調波の抑制によるモータ損失低減効果は小さく、さらに低次高調波を制御することで抑制対象としない高次高調波が大きくなり、これがモータ鉄損の増加に繋がっていた。そこで、本実施の形態では、低次高調波だけでなく高次高調波まで考慮した駆動信号のパルス波形(スイッチングパターン)の決定法を採用した。
【0038】
駆動信号のパルス波形(スイッチングパターン)は、低次高調波振幅・位相制御PWMと同じく、半波対称性[f(ωt)=−f(ωt+π)]を有する駆動信号とする。このようなパルス波形(スイッチングパターン)を採用する利点は、従来法である低次高調波消去PWMで用いられる半波対称性[f(ωt)=−f(ωt+π)]と奇対称性[f(ωt)=f(π−ωt)]を有する駆動信号よりもパルス波形(スイッチングパターン)の選択幅が広く、駆動信号に含まれる周波数成分の振幅と位相の両者の制御性の向上が見込めるためである。
【0039】
駆動信号のパルス波形は、フーリエ級数展開を用いると式(4)として表せる。ただし、n=1,5,7,11,13・・・(奇数の整数)であり、pはパルス数であり、電気半周期中のスイッチング切替回数M=p−1である。
【数1】
【0040】
式(4)の係数a及び係数bから各次数の振幅Cと位相αが式(5)から求められる。ここで得られる振幅Cや位相αなどを使い、低損失を実現する駆動信号のパルス波形(スイッチングパターン)を決定する。
【数2】
【0041】
モータ鉄損Wは、スタインメッツの実験式より式(6)で表せる。ここで、Wはモータ鉄損、Wはヒステリシス損、Wは渦電流損、Kはヒステリシス損失係数、Bは磁束密度、fは回転磁束周波数及びKは渦電流損失係数である。
【数3】
【0042】
ここで、全鉄損中において割合が大きい渦電流損に着目し、渦電流損を評価関数とする。そして、この評価関数が最小となるようにスイッチングパターンを決定する。
【0043】
この評価関数を用いて、駆動信号のパルス波形(スイッチングパターン)を決定する。この時の制約条件として、駆動信号に含まれる基本波の振幅と位相を与える。基本波振幅は、変調率aに基づいて決定する。なお、基本波位相は0度とするため式(4)のaを0に設定する。以上の制約条件を用いて、鉄損中の渦電流損失が最小値となるように駆動信号のパルス波形(スイッチングパターン)を決定する。
【0044】
図4は、変調率aに対する電気角60度以上120度以下の範囲内のパルス割合の対応関係の例を示す図である。
【0045】
例えば、総パルス数が5である場合、変調率aが0.7を超える程度までは、図5に示すように、電気角60度以上120度以下の範囲のパルス割合が100%となるように駆動信号が生成される。そして、変調率aが0.72を超えたあたりで、電気角60度以上120度以下の範囲のパルス割合が0となる駆動信号を生成するように制御される。
【0046】
また例えば、総パルス数が27である場合、図6(a)に示すように、変調率aが0〜0.14の範囲では電気角60度以上120度以下の範囲のパルス割合が100%となるように駆動信号が生成される。そして、変調率aが増加するにつれて、図6(b)に示すように、段階的にパルス割合を減少させ、電気角60度未満又は120を超える範囲に一部のパルスが含まれるような駆動信号を生成する。さらに、変調率aが0.72を超えたあたりで、電気角60度以上120度以下の範囲のパルス割合が最小となる駆動信号を生成するように制御される。
【0047】
パルス生成器424において生成された駆動信号はドライバ回路404によって増幅等されて電力変換器300に入力される。ドライバ回路404は、下アームを駆動する場合、パルス状の変調波の信号を増幅してドライブ信号として、対応する下アームのスイッチング素子(IGBT)のゲート電極にドライブ信号を印加する。また、ドライバ回路404は、上アームを駆動する場合、パルス状の変調波の信号の基準電位のレベルを上アームの基準電位のレベルにシフトしてからパルス状の変調波の信号を増幅し、これをドライブ信号として対応する上アームのスイッチング素子(IGBT)のゲート電極に印加する。これにより、電力変換器300の各スイッチング素子(IGBT)は、入力された駆動信号に基づいてスイッチングされる。このスイッチングによって電源回路200から供給される直流電力が電気角で2π/3度毎ずらされたU相、V相、W相の駆動電圧Vu,Vv,Vwに変換され、3相交流モータであるモータ100に供給される。
【0048】
本実施の形態のように、電気角60度以上120度以下の範囲にパルスが集中するように駆動信号を発生させることによって、モータに印加される電圧には従来よりも高い次数の高調波成分を含むようになる。これは、あたかも電力変換器300のスイッチングのパルス数が増加したかのように振る舞い、モータ100における損失、特に鉄損を抑制することを可能とする。
【0049】
図7は、従来の三角波比較PWM法により駆動信号を生成した場合と本願の構成により駆動信号を生成した場合とにおいて、電気半周期に含まれるパルス数に対するモータ100での損失割合を比較した結果を示す。図8から明らかなように、本願の構成を採用することによって、すべてのパルス数においてモータ100での損失を低減することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 レゾルバ、12 電流センサ、20 バッテリ、22 平滑コンデンサ、60 電気角、100 モータ、200 電源回路、300 電力変換器、400 電力変換器制御装置、402 制御回路、404 ドライバ回路、406 角速度演算器、408 3相/dq軸変換器、410 電流指令生成器、412 電流制御器、414 パルス数決定器、416 駆動信号生成器、420 電圧位相差演算器、422 変調率演算器、424 パルス生成器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7