【実施例】
【0040】
実施例1:細胞株を用いたMeDIP-chip法による網羅的メチル化解析
メチル化DNA免疫沈降法及びマイクロアレイ(MeDIP-chip法)を用いて、乳癌由来の細胞のメチル化状態を解析した。
【0041】
〔検体試料の調製〕
(1)メチル化DNA免疫沈降法
乳癌由来細胞株MCF7、MB-MDA231及びSKBR3、並びに正常乳腺上皮細胞株HMECから抽出した各ゲノムDNA(4μg)を生体試料として、これらを制限酵素MseI(NEB社)と37℃で一晩反応させて300〜1000 bpになるように断片化した。次いで、反応後の各生体試料を95℃で10分間加熱して変性させ、一本鎖ゲノムDNAにした。
Chromatin Immuoprecipitationアッセイキット(Upstate biotechnology社)に添付のマニュアルに従って、変性させた生体試料を該アッセイキットに付属の希釈用緩衝液で希釈し、これらにProteinG Sepharoseビーズ(GEヘルスケア社)を添加した。そして4℃で30分ローテーションした後、遠心分離して上清を回収することにより、該ビーズに非特異的に結合するタンパク質などを除いた。回収した上清を二つ分けて、それらを別々のチューブに移し、一方に抗メチル化シトシン抗体(検体試料用)を添加し、他方に正常マウスIgG抗体(SantaCruz社;対照試料用)を添加して、4℃で一晩ローテーションした。
これらにProteinG Sepharose ビーズ(GEヘルスケア社)を添加して4℃で1時間ローテーションして、前記抗体と前記抗体が認識して結合するゲノムDNAとの複合体を前記ビーズに結合させて回収した。回収したビーズを前記アッセイキットに添付のマニュアルに従ってアッセイキットに付属の洗浄用緩衝液で洗浄した後、免疫沈降させた複合体中のゲノムDNAを溶出用緩衝液で溶出した。
上記のメチル化DNA免疫沈降法で得たゲノムDNAを、プロテイナーゼKと反応させた後、Qiaquick PCR purificationキット(QIAGEN社)を用いて精製して、検体試料及び対照試料を得た。
【0042】
(2)検体試料の確認
上記(1)のメチル化DNA免疫沈降法によりメチル化DNAを特異的に回収できたかを確認するためにPCR法及びアガロース電気泳動法行った。
(i)PCR反応液の調製
下記の試薬を混合し、25μlの反応液を調製した。
2 x fastStart SYBR Green Master Mix(ROCHE社) 12.5μl
フォワード(F)−プライマー(10μM) 1μl
リバース(Rv)−プライマー(10μM) 1μl
ゲノムDNA(0.4 ng/μl) 1μl
dH
2O 9.5μl
【0043】
用いたプライマーの塩基配列は、下記のとおりである。
<ポジティブコントロール用プライマー>
「細胞株がMCF7及びHMECの場合:GSTP1 primer配列」
配列番号21:F: gaggccttcgctggagtt
配列番号22:Rv: gtactcactggtggcgaaga
「細胞株がMB-MDA231の場合:CDH1 primer配列」
配列番号23:F: gtgaaccctcagccaatcag
配列番号24:Rv: agttccgacgccactgag
「細胞株がSKBR3の場合:ER primer配列」
配列番号25:F: gcctacgagttcaacgccg
配列番号26:Rv: aacgccgcagcctcagac
<ネガティブコントロール用プライマー(非メチル化プローブ)>
「非メチル化遺伝子プライマー配列」
(1)ch14-cgf1
配列番号27:F: ggaggagtcaagagaagttggaagc
配列番号28:Rv: cccacactccatttccattcctc
(2)ch14-cgf2
配列番号29:F: gggtactttgccaatatagccatgc
配列番号30:Rv: tggctaagtgggagggagaacag
(3)ch14-cgf3
配列番号31:F: ggatgggagacacctggttca
配列番号32:Rv: ggatggaccagctgctttgtactc
(ii)PCR反応条件
上記の反応液を用い、下記の条件でPCRを行った。
95℃で10分、
95℃で30秒、66℃で15秒、72℃で30秒を45サイクル、
95℃で1分、66℃で30秒、95℃で30秒を1サイクル。
(iii)アガロース電気泳動
上記の各PCR産物を、2%アガロースゲルを用いて電気泳動し、増幅した核酸を確認した。
【0044】
GSTP1遺伝子は、そのプロモーター領域がMCF7細胞においてメチル化修飾を受けるが、MB-MDA231及びHMEC細胞ではメチル化修飾を受けないことが知られている遺伝子である。また、ER遺伝子は、そのプロモーター領域がSKBR3細胞においてメチル化修飾を受けるが、MCF7細胞ではメチル化修飾を受けないことが知られている遺伝子である。ch14-cgf1遺伝子、ch14-cgf2遺伝子及びch14-cgf3遺伝子は、メチル化修飾を受けないことが知られている遺伝子である。
【0045】
(3)検体試料中の核酸の増幅及び標識
上記検体試料及び対照試料に含まれる核酸を、WT-Ovation(商標)Pico RNA Amplification System Version 1.0(NuGEN社)を用いて増幅した。具体的な操作は該製品に添付のマニュアルに従って行った。次いで、各試料の吸光度(260 nm及び280 nm)を測定して増幅した核酸の濃度を確認した。
そして、上記で増幅した検体試料及び対照試料に含まれる核酸を、FL-Ovation(商標) cDNA Biotin Module V2(NuGEN社)を用いて断片化及びビオチン標識を行った。具体的な操作は該製品に添付のマニュアルに従って行った。
【0046】
〔マイクロアレイ解析〕
(1)試料とマイクロアレイとの接触
上記で調製した検体試料及び対照試料を、マイクロアレイとしてのGeneChip(登録商標)Human Promoter 1.0R Array(Affymetrix社)に接触させて、マイクロアレイのプローブとのハイブリダイゼーションを行った。検体試料及び対照試料について、同種のマイクロアレイを1つずつ用いた。各試料の接触後の染色、洗浄及びスキャン(シグナルの測定)は、Affymetrix社から提供されるマニュアルに従って行った。
【0047】
(2)メチル化状態の解析
スキャン後、得られたアレイデータを解析した。アレイデータ解析は、Tiling Analysis Software(TAS:Affymetrix社)を用いて、抗メチル化シトシン抗体のサンプルが高いシグナルを示す領域ファイル(BARファイル)を作成し、各プローブのsignal、p-value(-10log10(p-value))を取得した。ある閾値以下の統計学的に有意なp-valueを示す領域(-10log10(p-value)<20など)はBEDファイルとして作成した。作成したBARファイル及びBEDファイルの解析には、標準ブラウザーであるIntegrated Genome Browser(Affymetrix社)を用いた。
そして、TASから出力した各p-value、signal値に相当するアノテーション情報を付加したデータを用いて、乳癌由来の細胞の存否を判定できる、新規分子マーカーの探索を行った。
【0048】
[結果]
メチル化状態の解析により特定した領域の塩基配列を、
図1〜4に示す。解析の結果、正常乳腺上皮細胞株ではメチル化しておらず、乳癌細胞株ではメチル化しているDNA領域として、配列番号1、3及び4の領域を特定した。また、正常乳腺上皮細胞株ではメチル化しており、乳癌細胞株ではメチル化していないDNA領域として、配列番号2の領域を特定した。
すなわち、実施例1で特定した配列番号1〜4の領域は、正常細胞と乳癌由来の細胞との間でメチル化状態が異なる領域である。よって、これら領域は、メチル化解析における上皮性癌由来の細胞の存否を判定するための分子マーカーとして利用できる可能性が示唆された。
【0049】
実施例2:バイサルファイトシークエンスによる各CpG部位のメチル化の有無の解析
実施例1において特定された領域の塩基配列に含まれる、CpG部位のメチル化状態を、バイサルファイトシークエンスによって解析した。また、解析結果に基づいて、メチル化の頻度及び各CpG部位におけるメチル化の割合を求めた。
【0050】
[バイサルファイト処理]
バイサルファイトシークエンスを行うため、細胞株から抽出したDNA及び組織由来ゲノムDNAをバイサルファイト処理し、分析用試料を調製した。
ロットが異なる3種類のヒト正常乳腺組織由来ゲノムDNA(BioChain社)を混合したものを、正常ヒト乳腺組織由来ゲノムDNAとして用いた。また、ロットが異なる3種類のヒト乳癌組織由来ゲノムDNA(BioChain社)を混合したものを、乳癌組織由来ゲノムDNAとして用いた。
各ゲノムDNA2μgに300μlの0.3 M NaOHを加え、37℃、10分間インキュベートした。次に、バイサルファイト処理を行うため、10 Mの亜硫酸水素ナトリウム溶液300μlを加え、80℃、40分間インキュベートした。バイサルファイト処理後の溶液中に含まれるDNAをQiaquick PCR purificationキット(QIAGEN社)を用いて精製した。このようにして、バイサルファイト処理された正常乳腺組織由来ゲノムDNAを含む正常乳腺組織試料を取得し、バイサルファイト処理された乳癌組織由来ゲノムDNAを含む乳癌組織試料を取得した。
また、乳癌細胞株MCF7、及び正常乳腺上皮細胞株HMECは、QIAmp Blood Maxiキット(QIAGEN社)を用いてゲノムを抽出した。
抽出したゲノムDNA2μgに、300μlの0.3 M NaOHを加え、37℃、10分間インキュベートした。次に、バイサルファイト処理を行うため、10 Mの亜硫酸水素ナトリウム溶液300μlを加え、80℃、40分間インキュベートした。バイサルファイト処理後、溶液中に含まれるDNAをQiaquick PCR purificationキット(QIAGEN社)を用いて精製した。このようにして、バイサルファイト処理された正常乳腺上皮細胞株HMEC由来ゲノムDNAを含む正常乳腺細胞株試料を取得し、バイサルファイト処理された乳癌細胞株MCF7由来ゲノムDNAを含む乳癌細胞株試料を取得した。
【0051】
[分析用試料のPCR増幅]
上記で精製された正常乳腺組織試料、乳癌組織試料、正常乳腺細胞株試料及び乳癌細胞株試料について、下記に示す反応溶液を用いてPCRを行い、PCR増幅産物を得た。
【0052】
正常乳腺組織試料及び乳癌組織試料のPCR反応で用いた反応液の組成、反応条件及びプライマーを下記に示す。
<PCR反応液>
10×Ex Taq Buffer(20 mM Mg2+plus)(TaKaRa社) 2.5μL
dNTP Mixture(各2.5 mM) 2μL
F-primer (10μM) 1μL
Rv-primer (10μM) 1μL
Template 1μL
TaKaRa Ex Taq HS(5U/μl) 0.2μL
dH2O 17.3μL
Total 25μL
<正常乳腺組織試料及び乳癌組織試料に含まれるDNAを増幅するためのPCR反応条件>
95℃ 4.5分
95℃ 30秒、57.3℃ 30秒、72℃ 30秒を40cycles
【0053】
<配列番号1の領域をシークエンスするためのプライマー配列>
配列番号13:F: ttttatgagttatagatgtaggtgatagt
配列番号14:Rv: ccaccttaatcaccaaataacc
<配列番号2の領域をシークエンスするためのプライマー配列>
配列番号15:F: taaaggatttgggattgagggtggg
配列番号16:Rv: ttcaaaaacatttctctaacaaaaaattc
<配列番号4の領域をシークエンスするためのプライマー配列>
配列番号19: F: ttgtagtattattgttatagttttgtttttttt
配列番号20:Rv: attccactcctataataacatttatcaaaatctct
【0054】
正常乳腺細胞株試料及び乳癌細胞株試料のPCR反応で用いた反応液、反応条件、及びプライマーを下記に示す。
<PCR反応液>
10×Ex Taq Buffer(20 mM Mg2+plus)(TaKaRa社) 2.5μL
dNTP Mixture(各2.5 mM) 2μL
F-primer (10μM) 1μL
Rv-primer (10μM) 1μL
Template 1μL
TaKaRa Ex Taq HS(5U/μl) 0.2μL
dH2O 17.3μL
Total 25μL
<正常乳腺細胞株試料及び乳癌細胞株試料に含まれるDNAを増幅するためのPCR反応条件>
95℃ 4.5分
95℃ 30秒、57.6℃ 30秒、72℃ 30秒を40cycles
【0055】
<配列番号3の領域をシークエンスするためのプライマー配列>
配列番号17: F: gggagttaggtttaggtggggatatg
配列番号18:Rv: aaaatcaaaaaacaaaaaacccttaac
<配列番号4の領域をシークエンスするためのプライマー配列>
配列番号19: F: ttgtagtattattgttatagttttgtttttttt
配列番号20:Rv: attccactcctataataacatttatcaaaatctct
【0056】
[PCR産物のクローニング]
上記PCRにより得られた増幅産物を、TAクローニングキット(TOPO TA Cloning キット(invitrogen社))を用いてベクターに組み込んだ。ベクターに組み込まれた構築物を用いて、大腸菌(TOP10)を形質転換した。その後、形質転換した大腸菌をLB寒天培地(組成:1%(w/v)トリプトン、0.5%(w/v)酵母エキス、1%(w/v)塩化ナトリウム、1.5%(w/v)寒天)を用いて、37℃で一晩培養した。
【0057】
[塩基配列解析]
培養後、得られた大腸菌から、GenElute Plasmid Miniprepキット(SIGMA社)を用いてプラスミドを精製した。精製したプラスミドに組み込まれている前記増幅産物の塩基配列を、BigDye terminator Cycle Sequencing法により、遺伝子解析システム(Applied Biosystems 3730xl DNA Analyzer(アプライドバイオシステムズ社))を用いて決定した。
塩基配列解析後、各サンプルにおいて、CpG部位がメチル化されているか否かを解析した。
【0058】
[結果]
各領域(配列番号1〜4)における、メチル化されているか否かを解析した結果を
図5〜9に示す。メチル化されているCpG部位を「黒丸」、メチル化されていないCpG部位を「白丸」で示す。
図5は、正常乳腺組織7サンプル、乳癌組織9サンプルにおける、配列番号1の塩基配列の5’末端側から数えて2〜12番目のCpG部位のメチル化の有無を示した表である。
図6は、正常乳腺組織2サンプル、乳癌組織5サンプルにおける、配列番号2の塩基配列の5’末端側から数えて23〜31番目のCpG部位のメチル化の有無を示した表である。
図7は、正常乳腺上皮由来細胞株(HMEC)9サンプル、乳癌由来細胞株(MCF7)7サンプルにおける、配列番号3の塩基配列の5’末端側から数えて5〜10番目のCpG部位のメチル化の有無を示した表である。
図8は、正常乳腺上皮由来細胞株(HMEC)7サンプル、乳癌由来細胞株(MCF7)7サンプルにおける、配列番号4の塩基配列の5’末端側から数えて13〜24番目のCpG部位のメチル化の有無を示した表である。
図9は、正常乳腺組織4サンプル、乳癌組織4サンプルにおける、配列番号4の塩基配列の5’末端側から数えて13〜27番目のCpG部位のメチル化の有無を示した表である。
【0059】
図5〜9の結果に基づいて、各領域におけるメチル化の頻度を解析したグラフを
図10〜14に示す。
図10〜14で示された、正常細胞(正常乳腺組織、又は正常乳腺上皮由来細胞株)のメチル化の頻度と、乳癌由来の細胞(乳癌組織、又は乳癌由来細胞株)のメチル化頻度とから、閾値を50%と設定する。
配列番号1、3及び4の塩基配列で示される領域のメチル化の頻度において、正常細胞では閾値より低く、乳癌由来の細胞では設定した閾値よりも高い。
このことから、被検者より採取された生体試料から抽出されたDNAに含まれる、配列番号1、3及び4の領域では、メチル化の頻度が高いという解析結果が得られた場合に、生体試料中に上皮性癌由来の細胞が存在すると判定できることが示唆された。
また、配列番号2の塩基配列で示される領域のメチル化の頻度において、正常細胞では閾値より高く、乳癌由来の細胞では設定した閾値よりも低い。
このことから、被検者より採取された生体試料から抽出されたDNAに含まれる、配列番号2の領域では、メチル化の頻度が低いという解析結果が得られた場合に、生体試料中に上皮性癌由来の細胞が存在すると判定できることが示唆された。
【0060】
図15〜19は、
図5〜9の結果に基づいて各CpG部位におけるメチル化されている細胞数の割合を示した表である。
図15〜19より、配列番号1、3及び4の塩基配列に存在するCpG部位のメチル化の割合は乳癌由来の細胞の方が高く、配列番号2の塩基配列に存在するCpG部位のメチル化の割合は正常細胞の方が高い。
このことから、配列番号1、3及び4の塩基配列に存在するCpG部位にメチル化が有ると解析されたときに生体試料中に乳癌由来の細胞が存在すると判定でき、配列番号2の塩基配列に存在するCpG部位にメチル化が無いと解析されたときに生体試料中に乳癌由来の細胞が存在すると判定できることが示唆された。
また、これらのCpG部位の中でも、正常細胞と乳癌由来の細胞とでメチル化の割合の差が大きいCpG部位は、メチル化状態を解析するのに適している。このようなCpG部位を標的としてメチル化特異的PCR用のプライマーを設計することによって、より正確に乳癌由来の細胞の存否を判定できるといえる。
【0061】
実施例3:メチル化特異的PCR法を用いた乳癌由来の細胞の検出
乳癌のゲノムDNAにおける、配列番号1、3及び4の塩基配列に含まれるCpG部位のメチル化状態を、メチル化特異的PCR法によって解析した。
ゲノムDNAは、ロットの異なる3種類の正常ヒト乳腺組織由来ゲノムDNA(BioChain社)、及びロットが異なる3種類のヒト乳癌組織由来ゲノムDNA(BioChain社)を用いた。
各ゲノムDNA2μgに300μlの0.3 M NaOHを加え、37℃、10分間インキュベートした。次に、バイサルファイト処理を行うため、10 Mの亜硫酸水素ナトリウム溶液300μlを加え、80℃、40分間インキュベートした。バイサルファイト処理後の溶液中に含まれるDNAをQiaquick PCR purificationキット(QIAGEN社)を用いて精製した。このようにして、バイサルファイト処理された正常乳腺組織由来ゲノムDNAを含む正常乳腺組織検体A、B及びCを取得し、バイサルファイト処理された乳癌組織由来ゲノムDNAを含む乳癌組織検体D、E及びFを取得した。
配列番号1と配列番号4のメチル化解析を行うためのPCR反応には、下記に示す反応溶液、反応条件及びプライマーを用いた。
配列番号1に対するメチル化特異的PCR用プライマーは、配列番号1の塩基配列の5'末端側から3、4及び10番目のCpGを標的としてメチル化の有無を解析するためのプライマーである。配列番号4に対するメチル化特異的PCR用プライマーは、配列番号4の塩基配列の5'末端側から23及び24番目のCpG部位を標的としてメチル化の有無を解析するためのプライマーである。
【0062】
<PCR反応液>
2 x FastStart SYBR Green Master Mix(ROCHE社)12.5μL
F-primer (10μM) 1μL
Rv-primer (10μM) 1μL
Template 1μL
dH2O 9.5μL
Total 25μL
<配列番号1及び4のPCR反応条件>
95℃ 10分
95℃ 30秒、62℃ 30秒、72℃ 30秒を33cycles
95℃ 1分、62℃ 30秒、95℃ 30秒を 1cycle
【0063】
<配列番号1のメチル化特異的PCR用プライマー>
配列番号5:F: gatgtaggtgatagttagcgatagcg
配列番号6:Rv: cctataaaaccgtctataaaaaaaacgaa
<配列番号4のメチル化特異的PCR用プライマー>
配列番号11:F: gggttgttatttaaggttatattcgtacga
配列番号12:Rv: taaaccgcaaatacgaaaacacgat
【0064】
また、配列番号3のPCR反応には、下記の反応溶液、反応条件及びプライマーを用いた。配列番号3に対するメチル化特異的PCR用プライマーは、配列番号3の塩基配列の5'末端側から6番目のCpGを標的としてメチル化の有無を解析するためのプライマーである。
<PCR反応液>
2 x FastStart SYBR Green Master Mix(ROCHE社) 12.5μL
F-primer (10μM) 1μL
Rv-primer (10μM) 1μL
Template 1μL
dH2O 9.5μL
Total 25μL
<配列番号3のPCRの反応条件>
95℃ 10分
95℃ 30秒、62℃ 30秒、72℃ 30秒を35cycles
95℃ 1分、62℃ 30秒、95℃ 30秒を1cycle
【0065】
<配列番号3のメチル化特異的PCR用プライマー>
配列番号9 :F: ttagaggcgagtaagagttagggtagtc
配列番号10:Rv: acctacaaaaacgacacaaaaaacg
【0066】
メチル化特異的PCRにより増幅された増幅産物をアガロースゲル電気泳動で確認した。
【0067】
[結果]
メチル化特異的PCRにより増幅された増幅産物をアガロースゲル電気泳動で確認した結果を
図17〜19に示す。
図17(配列番号1のメチル化特異的PCR解析)、
図18(配列番号3のメチル化特異的PCR解析)、及び
図19(配列番号4のメチル化特異的PCR解析)のいずれにおいても、正常乳腺組織検体A、B及びCと比較して、乳癌組織検体D、E及びFでは増幅産物の量が多いことが確認できた。
このことから、被検者より採取された生体試料から抽出されたDNAに含まれる、配列番号1〜4の塩基配列に存在するCpG部位を、メチル化特異的PCR法により解析することで、生体試料中の乳癌由来の細胞の存否を判定できることが示唆された。
【0068】
実施例4:上皮性癌由来の細胞におけるPCDHGA10遺伝子(配列番号1)に含まれるCpG部位のメチル化特異的PCRによる解析
大腸癌、胃癌、子宮頸癌のゲノムDNAにおける、配列番号1の塩基配列に含まれるCpG部位のメチル化状態を、メチル化特異的PCR法によって解析した。
QIAmp Blood Maxiキット(QIAGEN社)を用いて、大腸癌細胞株HCT16、胃癌細胞株KATO3ならびに子宮頸癌細胞株C33A及びSiHaからゲノムを抽出した。抽出した各ゲノムDNA2μgに300μlの0.3 M NaOHを加え、37℃、10分間インキュベートした。次に、バイサルファイト処理を行うため、10 Mの亜硫酸水素ナトリウム溶液300μlを加え、80℃、40分間インキュベートした。バイサルファイト処理後の溶液中に含まれるDNAをQiaquick PCR purificationキット(QIAGEN社)を用いて精製した。このようにして、バイサルファイト処理されたHCT16由来ゲノムDNAを含む大腸癌HCT16試料を取得し、バイサルファイト処理されたKATO3由来ゲノムDNAを含む胃癌KATO3試料を取得し、バイサルファイト処理されたC33A由来ゲノムDNAを含む子宮頸癌C33A試料を取得し、バイサルファイト処理されたSiHa由来ゲノムDNAを含む子宮頸癌SiHa試料を取得した。
さらに、ロットが異なる2種類のヒト大腸癌組織由来ゲノムDNA(BioChain社)及び1種類のヒト正常大腸組織由来ゲノムDNA(BioChain社)についても、上記細胞株と同様の処理を行った。このようにして、バイサルファイト処理された大腸癌組織由来ゲノムDNAを含む2種類の大腸癌組織試料(大腸癌組織試料A及び大腸癌組織試料B)を取得し、バイサルファイト処理された正常大腸組織由来ゲノムDNAを含む正常大腸組織試料を取得した。
【0069】
得られた各試料を用いて配列番号1の塩基配列に含まれるCpG部位のメチル化解析を行うため、メチル化特異的PCRを行った。
配列番号1のメチル化解析を行うためのPCR反応には、実施例3に記載の反応溶液、反応条件及びプライマーを用いた。
【0070】
メチル化特異的PCRにより増幅された増幅産物をアガロースゲル電気泳動で確認した。
【0071】
(結果)
配列番号1の塩基配列のメチル化特異的PCR法により増幅された増幅産物をアガロースゲル電気泳動で確認した結果を
図23に示す。この結果から、正常大
腸組織試料と比較して、大腸
癌組織試料A及びBでは増幅産物の量が多いことが確認できた。さらに、大腸癌HCT16試料、胃癌KATO3試料、子宮頸癌C33A試料及び子宮頸癌SiHa試料においても大腸
癌組織試料A及びBとほぼ等しい量の増幅産物を確認できることが示された。
以上のことから、配列番号1の塩基配列に存在するCpG部位を、メチル化特異的PCR法によりメチル化解析することで、乳癌、大腸癌、胃癌、子宮頸癌などの上皮性癌由来の細胞の存否を判定できることが示唆された。
【0072】
実施例5:上皮性癌由来の細胞におけるPCDHB6遺伝子(配列番号2)に含まれるCpG部位のメチル化特異的PCRによる解析
大腸癌のゲノムDNAにおける、配列番号2の塩基配列に含まれるCpG部位のメチル化状態を、メチル化特異的PCR法によって解析した。
測定試料として、上記の実施例4で得られた2種類の大腸癌組織試料(大腸癌組織試料A及び大腸癌組織試料B)ならびに正常大腸組織試料を用いた。
【0073】
配列番号2の塩基配列のメチル化解析を行うためのPCR反応には、下記に示す反応溶液、反応条件及びプライマーを用いた。
配列番号2に対するメチル化特異的PCR用プライマーは、配列番号2の5'末端側から28及び30番目のCpGを標的としてメチル化の有無を解析するためのプライマーである。
【0074】
<PCR反応液>
2 x FastStart SYBR Green Master Mix(ROCHE社) 12.5μL
F-primer (10μM) 1μL
Rv-primer (10μM) 1μL
Template 1μL
dH2O 9.5μL
Total 25μL
<配列番号2のPCR反応条件>
95℃ 10分
95℃ 30秒、62℃ 30秒、72℃ 30秒を33cycles
95℃ 1分、62℃ 30秒、95℃ 30秒を 1cycle
【0075】
<配列番号2のメチル化特異的PCR用プライマー>
配列番号7:F : gaggagttgtgtggttttattgagtc
配列番号8:Rv: tctctaacaaaaaattccgaaacgta
【0076】
メチル化特異的PCRにより増幅された増幅産物をアガロースゲル電気泳動で確認した。
(結果)
PCDHB6遺伝子(配列番号2)のメチル化特異的PCR法により増幅された増幅産物をアガロースゲル電気泳動で確認した結果を
図24に示す。この結果から、大腸
癌組織試料A及びBと比較して、正常大
腸組織試料では増幅産物の量が多いことが確認できた。
以上のことから、配列番号2の塩基配列中に存在するCpG部位を、メチル化特異的PCR法によりメチル化解析することで、大腸癌などの上皮性癌由来の細胞の存否を判定できることが示唆された。
【0077】
実施例6:上皮性癌由来の細胞におけるLBX2遺伝子(配列番号3)に含まれるCpG部位のメチル化特異的PCRによる解析
大腸癌及び子宮頸癌のゲノムDNAにおける、配列番号3の塩基配列に含まれるCpG部位のメチル化状態を、メチル化特異的PCR法によって解析した。
測定試料として、実施例4で得られた大腸癌HCT16試料、子宮頸癌C33A試料及び子宮頸癌SiHa試料、ならびに2種類の大腸癌組織試料(大腸癌組織試料A及び大腸癌組織試料B)及び正常大腸組織試料を用いた。
また、配列番号3の塩基配列のメチル化解析を行うためのPCR反応には、実施例3に記載の反応溶液、反応条件及びプライマーを用いた。
【0078】
メチル化特異的PCRにより増幅された増幅産物をアガロースゲル電気泳動で確認した。
【0079】
(結果)
配列番号3の塩基配列のメチル化特異的PCR法により増幅された増幅産物をアガロースゲル電気泳動で確認した結果を
図25に示す。この結果から、正常大
腸組織試料と比較して、大腸
癌組織試料A及びBでは増幅産物の量が多いことが確認できた。さらに、大腸癌HCT16試料、子宮頸癌C33A試料及び子宮頸癌SiHa試料においても、大腸
癌組織試料A及びBとほぼ等しい量の増幅産物を確認できることが示された。
以上のことから、配列番号3の塩基配列に存在するCpG部位を、メチル化特異的PCR法によりメチル化解析することで、乳癌、大腸癌、子宮頸癌などの上皮性癌由来の細胞の存否を判定できることが示唆された。
【0080】
実施例7:上皮性癌由来の細胞における配列番号4の塩基配列に含まれるCpG部位のメチル化特異的PCRによる解析
大腸癌、胃癌、子宮頸癌のゲノムDNAにおける、chromosome1遺伝子(配列番号4)に含まれるCpG部位のメチル化状態を、メチル化特異的PCR法によって解析した。
測定試料として、上記実施例4で得られた大腸癌HCT16試料、胃癌KATO3試料、子宮頸癌C33A試料及び子宮頸癌SiHa試料、ならびに2種類の大腸癌組織試料(大腸癌組織試料A及び大腸癌組織試料B)及び正常大腸組織試料を用いた。
また、配列番号4のメチル化解析を行うためのPCR反応には、実施例3に記載の反応溶液、反応条件、及びプライマーを用いた。
【0081】
メチル化特異的PCRにより増幅された増幅産物をアガロースゲル電気泳動で確認した。
【0082】
(結果)
配列番号4の塩基配列のメチル化特異的PCR法により増幅された増幅産物をアガロースゲル電気泳動で確認した結果を
図26に示す。この結果から、正常大
腸組織試料と比較して、大腸
癌組織試料A及びBでは増幅産物の量が多いことが確認できた。さらに、大腸癌HCT16試料、胃癌KATO3試料、子宮頸癌C33A試料及び子宮頸癌SiHa試料においても、大腸
癌組織試料A及びBとほぼ等しい量の増幅産物が確認できることが示された。
以上のことから、配列番号4の塩基配列に存在するCpG部位を、メチル化特異的PCR法によりメチル化解析することで、乳癌、大腸癌、胃癌、子宮頸癌などの上皮性癌由来の細胞の存否を判定できることが示唆された。
【0083】
本出願は、2009年6月30日に出願された日本国特許出願特願2009−155572号に関し、これらの特許請求の範囲、明細書、図面及び要約書の全ては本明細書中に参照として組み込まれる。