特許第5986775号(P5986775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986775
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】レーザ加工方法、レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/382 20140101AFI20160823BHJP
   B23K 26/142 20140101ALI20160823BHJP
【FI】
   B23K26/382
   B23K26/142
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-79246(P2012-79246)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208631(P2013-208631A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150981
【氏名又は名称】日酸TANAKA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】沼田 慎治
(72)【発明者】
【氏名】上木原 洋丘
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−136471(JP,A)
【文献】 特開2007−014992(JP,A)
【文献】 特開平11−090670(JP,A)
【文献】 特開昭63−002562(JP,A)
【文献】 特開2007−296580(JP,A)
【文献】 特開2003−285191(JP,A)
【文献】 特開2001−321975(JP,A)
【文献】 特開2000−042780(JP,A)
【文献】 特開平05−123885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
B23K 9/013
B23K 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザノズルから被加工材にレーザビームを照射するとともに前記レーザビームを照射した部位をアシストガスで被覆して前記被加工材を切断するレーザ加工方法であって、
前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして不活性ガスを噴射して、前記被加工材にピアシング孔を形成する第1工程と、
前記第1工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記ピアシング孔より外周側で前記レーザノズルを移動させながら、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして不活性ガスを噴射して、前記ピアシング孔を拡大する第2工程と、
前記第2工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記第2工程で形成された孔より外周側で前記レーザノズルを移動させながら、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして酸素を噴射して、前記第2工程で形成された孔を拡大する第3工程と、
前記レーザノズルの軸線を前記第3工程で形成された孔の軸線とずらして前記第3工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記第3工程で形成された孔より外周側に前記レーザノズルを移動させて、前記レーザノズルから除去ガスを噴射して、前記第3工程で酸化されたノロを除去する第4工程と、を備えることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工方法であって、
前記第4工程において、前記レーザノズルを前記第3工程で形成された孔の軸線周りに周回させることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーザ加工方法であって、
前記第4工程において、前記第3工程で生成されたノロの外周側からサイドブローすることを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項4】
レーザビームを被加工材に照射するとともに前記レーザビームが照射された部位をアシストガスで被覆して前記被加工材を切断するレーザ加工装置であって、
先端のノズル孔から前記レーザビームを照射するとともに前記アシストガスを噴射するレーザノズルと、
前記アシストガスを供給するアシストガス供給手段と、
前記レーザノズルを移動させるノズル移動手段と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして不活性ガスを噴射して、前記被加工材にピアシング孔を形成する第1工程と、
前記第1工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記ピアシング孔より外周側で前記レーザノズルを移動させながら、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして不活性ガスを噴射して、前記ピアシング孔を拡大する第2工程と、
前記第2工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記第2工程で形成された孔より外周側で前記レーザノズルを移動させながら、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして酸素を噴射して、前記第2工程で形成された孔を拡大する第3工程と、
前記レーザノズルの軸線を前記第3工程で形成された孔の軸線とずらして前記第3工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記第3工程で形成された孔より外周側に前記レーザノズルを移動させて、前記レーザノズルから除去ガスを噴射して、前記第3工程で酸化されたノロを除去する第4工程と、をこの順番で実行するように構成されていることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーザ加工装置であって、
前記第4工程において、前記レーザノズルを前記第3工程で形成された孔の軸線周りに周回させるように構成されていることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のレーザ加工装置であって、
サイドブローノズルを備え、
前記第4工程において、前記第3工程で生成されたノロの外周側からサイドブローするように構成されていることを特徴とするレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステンレス鋼の被加工材にレーザビームを照射してピアシング孔を形成する際に、ピアシング孔周辺の被加工材表面に生じるノロを効率的に除去することが可能なレーザ加工方法、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザノズルからレーザビームを照射して、ステンレス鋼板を被加工材としてピアシング貫通孔(以下、ピアシング孔という)を形成する場合、例えば、アシストガスとして酸素を用いると、ピアシング孔の形成に時間がかかるうえ、図7(A)に示すように、被加工材表面の上ノロが飛散し堆積するという問題がある。
【0003】
また、例えば、レーザノズルから窒素を噴射しながらレーザビームを照射して、ステンレス鋼板にピアシング孔を形成する場合、図7(B)に示すように、ピアシング孔の周囲に溶融金属が固着して、厚さ約1mm、直径数mm(放射状のフィンは半径十数mm)の花弁状の上ノロが形成され、この上ノロを除去せずに、レーザ加工に移行すると、レーザノズルが上ノロの上を通過する際に、倣い制御によりレーザノズルが上ノロと接触しないように高めに制御されて、切断加工速度が低速となる。
【0004】
切断加工を低速で長い区間行なうと、切断時間が長くなって生産性が低下するうえに、アシストガス消費量の増大、上ノロの上をノズルが通過してノズルの倣い制御が不安定になることでピアシング孔の安定加工が阻害されるという問題がある。
【0005】
そこで、従来、ピアシング孔を形成する場合には、図7(C)に示すように、上ノロの外縁(先端)付近まで切断する必要があり、そのためには、例えば、φ10mm程度の大きな孔を形成することが必要とされて材料歩留まりが低下するとともに、多くの切断時間を要するという問題があった。
【0006】
一方、ピアシング孔周囲の上ノロを効率的に除去する技術として、ピアシング孔を形成した後に、レーザ光の焦点の位置を変化させて孔の周囲のノロを溶融させるとともに、アシストガスと、酸素と不活性ガスとの混合ガス等を、二次気流の圧力よりも高圧で噴射して上ノロを溶融して吹き飛ばすことで、ピアシング孔の周囲の上ノロ除去する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−321975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術は、ピアシング孔の周囲にデフォーカスビームを照射して上ノロを溶融させて、アシストガスを噴射して上ノロを吹き飛ばすので、吹き飛ばされた高温のノロがレーザ加工装置の加工ヘッド等に付着して、レーザ加工装置が損耗するうえ、上ノロを充分に除去できないという問題がある。
【0009】
そこで、ステンレス鋼の被加工材にレーザビームを照射してピアシング孔を形成する際に、ピアシング孔周辺の被加工材表面に生じるノロを効率的に除去できるレーザ加工技術に対して強い要請がある。
【0010】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、ステンレス鋼の被加工材にレーザビームを照射してピアシング孔を形成する際に、ピアシング孔周辺の被加工材表面に生じるノロを効率的に除去することが可能なレーザ加工方法、レーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に記載の発明は、レーザノズルから被加工材にレーザビームを照射するとともに前記レーザビームを照射した部位をアシストガスで被覆して前記被加工材を切断するレーザ加工方法であって、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして不活性ガスを噴射して、前記被加工材にピアシング孔を形成する第1工程と、前記第1工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記ピアシング孔より外周側で前記レーザノズルを移動させながら、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして不活性ガスを噴射して、前記ピアシング孔を拡大する第2工程と、前記第2工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記第2工程で形成された孔より外周側で前記レーザノズルを移動させながら、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして酸素を噴射して、前記第2工程で形成された孔を拡大する第3工程と、前記レーザノズルの軸線を前記第3工程で形成された孔の軸線とずらして前記第3工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記第3工程で形成された孔より外周側に前記レーザノズルを移動させて、前記レーザノズルから除去ガスを噴射して、前記第3工程で酸化されたノロを除去する第4工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、レーザビームを被加工材に照射するとともに前記レーザビームが照射された部位をアシストガスで被覆して前記被加工材を切断するレーザ加工装置であって、先端のノズル孔から前記レーザビームを照射するとともに前記アシストガスを噴射するレーザノズルと、前記アシストガスを供給するアシストガス供給手段と、前記レーザノズルを移動させるノズル移動手段と、制御部とを備え、前記制御部は、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして不活性ガスを噴射して、前記被加工材にピアシング孔を形成する第1工程と、前記第1工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記ピアシング孔より外周側で前記レーザノズルを移動させながら、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして不活性ガスを噴射して、前記ピアシング孔を拡大する第2工程と、前記第2工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記第2工程で形成された孔より外周側で前記レーザノズルを移動させながら、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして酸素を噴射して、前記第2工程で形成された孔を拡大する第3工程と、前記レーザノズルの軸線を前記第3工程で形成された孔の軸線とずらして前記第3工程で前記被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ前記第3工程で形成された孔より外周側に前記レーザノズルを移動させて、前記レーザノズルから除去ガスを噴射して、前記第3工程で酸化されたノロを除去する第4工程と、をこの順番で実行するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
この発明に係るレーザ加工方法、レーザ加工装置によれば、ピアシング孔周囲の被加工材表面に生成されたノロを効率的に除去することができる。
【0014】
このように、ピアシング孔周囲に形成されたノロを効率的に除去できるのは、以下のように推測される。
まず、第1工程で形成されたピアシング孔を、第2工程において、第1工程で被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつピアシング孔より外周側でレーザノズルを移動させながら、レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして不活性ガスを噴射することで、第3工程で生じる溶融物が排除されやすくするためと、上ノロの固着範囲を小さくするためにピアシング孔を拡大する。
また、第3工程で、第2工程で被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ第2工程で形成された孔より外周側でレーザノズルを移動させながら、レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスとして酸素を噴射して第2工程で形成された孔を拡大することで、第3工程で生じたノロは充分に酸化され、わずかに被加工材に接続される状態となるので、小さな力で容易に被加工材から分離可能となる。
また、第4工程で、第3工程で被加工材表面に生成されたノロの外縁より内周側かつ第3工程で形成された孔より外周側にレーザノズルを移動させて、レーザノズルから除去ガスを噴射するので、孔を通過する除去ガスが少なくなり、多くの除去ガスがノロに直接噴射され、第3工程で接続が弱くなったノロが、除去ガスの風圧によって効率的に除去される。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ加工方法であって、前記第4工程において、前記レーザノズルを前記第3工程で形成された孔の軸線周りに周回させることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のレーザ加工装置であって、前記第4工程において、前記レーザノズルを前記第3工程で形成された孔の軸線周りに周回させるように構成されていることを特徴とする。
【0017】
この発明に係るレーザ加工方法、レーザ加工装置によれば、ピアシング孔周囲の被加工材表面に生成されたノロを効率的に除去することができる。
【0018】
この発明に係るレーザ加工方法、レーザ加工装置によれば、第4工程において、レーザノズルを第3工程で形成された孔の軸線周りに周回させるので、被加工材表面のノロに近距離から直接吹き付けられるので、ノロが被加工材から容易に浮上り、ノロを効率的に除去することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のレーザ加工方法であって、前記第4工程において、前記第3工程で生成されたノロの外周側からサイドブローすることを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載のレーザ加工装置であって、サイドブローノズルを備え、前記第4工程において、前記第3工程で生成されたノロの外周側からサイドブローするように構成されていることを特徴とする。
【0021】
この発明に係るレーザ加工方法、レーザ加工装置によれば、第4工程において、ノロの外周からサイドブローすることで、ノロと被加工材の間に風圧が加わる。その結果、ノロが被加工材から容易に浮上り、効率的にノロを除去することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係るレーザ加工方法、レーザ加工装置によれば、ステンレス鋼の被加工材にレーザビームを照射してピアシング孔を形成する際に、ピアシング孔周辺の被加工材表面に生じるノロを効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図である。
図2】第1の実施形態に係るレーザ加工の一例を説明するブロック図である。
図3】第1の実施形態に係るレーザ加工の作用を説明する図である。
図4】第1の実施形態に係るレーザ加工の作用を説明する図である。
図5】第2の実施形態に係るレーザ加工の一例を説明するブロック図である。
図6】第2の実施形態に係るレーザ加工の作用を説明する図である。
図7】従来技術の概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1図4を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図であり、符号1はレーザ加工装置を、符号10レーザノズルを示している。
【0025】
レーザ加工装置1は、レーザノズル10と、レーザ発振器20と、ガス供給回路(アシストガス供給手段)30と、サーボ制御器(ノズル移動手段)40と、制御部50とを備え、レーザノズル10から被加工材WにレーザビームLを照射するとともに、アシストガスGを噴射して被加工材WのレーザビームLが照射された部位をアシストガスGで被覆し、レーザノズル10が移動しながら被加工材Wを切断するようになっている。この実施形態において、例えば、被加工材Wはステンレス鋼(SUS)とされている。
【0026】
レーザノズル10は、例えば、先端側が円錐状で基端側が円筒状とされた筒体からなる外形を有し、レーザノズル10は、基端側から入射したレーザビームLを先端側のノズル孔10Aに通過させるとともに、ガス供給回路30から供給されて導入口10Bから導入されたアシストガスGがノズル孔10Aから噴射するようになっている。
【0027】
レーザ発振器20は、制御部50からの制御信号により、レーザビームLを発生するようになっていて、発生したレーザビームLは、光路装置(不図示)及び集光装置(不図示)を通じてレーザノズル10に送られるようになっている。本実施形態において、レーザ発振器20は、例えば、出力6KWのCOガスレーザとされている。
【0028】
ガス供給回路30は、窒素(不活性ガス)供給源31と、酸素供給源33と、アシストガス制御部35とを備え、窒素供給源31及び酸素供給源33は、アシストガス制御部35を介して、レーザノズル10に接続されている。
【0029】
アシストガス制御部35は、窒素供給源31及び酸素供給源33から供給される窒素及び酸素を切換えて、レーザノズル10に第1〜第3工程に対応するアシストガスGとして移送するようになっており、例えば、アシストガスGの圧力及び流量を調整可能とされている。
また、第1の実施形態において、窒素ガスは、第4工程における除去ガスとして用いられるようになっている。
【0030】
サーボ制御器40は、制御部50からの指示に基づいて、図示しない定盤上で切断軌跡に従って、レーザノズル10をX軸方向(走行方向)、Y軸方向(横行方向)、Z軸方向(高さ方向)に移動させるようになっている。
【0031】
制御部50は、信号ケーブル51を介して、レーザ発振器20、ガス供給回路30、サーボ制御器40と接続されており、予め入力されたNCデータに基づき、レーザ発振器20、ガス供給回路30、サーボ制御器40に、制御信号を出力するようになっている。
【0032】
また、制御部50は、ピアシング孔を形成する場合に、例えば、図2に示すような順番で、第1工程〜第4工程を実行するようになっている。図2は、第1の実施形態に係るレーザ加工の動作を示すブロック図である。
<第1工程>
レーザノズル10からレーザビームLを照射するとともにアシストガスGとして不活性ガスを噴射して、被加工材Wにピアシング孔を形成する(S1)。
<第2工程>
第1工程で被加工材W表面に生成された上ノロTの外縁より内周側かつピアシング孔より外周側でレーザノズル10を移動させながら、レーザノズル10からレーザビームLを照射するとともにアシストガスGとして不活性ガスを噴射して、ピアシング孔を拡大する(S2)。
<第3工程>
第2工程で被加工材W表面に生成された上ノロTの外縁より内周側かつ前記第2工程で形成された孔より外周側で前記レーザノズルを移動させながら、前記レーザノズルからレーザビームを照射するとともにアシストガスGとして酸素を噴射して、第2工程で形成された孔を拡大する(S3)。
<第4工程>
第3工程で被加工材W表面に生成された上ノロTの外縁より内周側かつ第3工程で形成された孔より外周側にレーザノズル10を移動させて、レーザノズル10から除去ガスを噴射して、第3工程で生成された上ノロを除去する(S4)。
【0033】
次に、図3を参照して、第1の実施形態に係るレーザ加工の動作について説明する。図3は、第1の実施形態に係るレーザノズル10の動作及び各工程で形成された孔の形態の概略を説明する図である。
(1)第1工程
制御部50は、アシストガス制御部35に窒素供給源31からレーザノズル10に窒素を供給する信号、レーザ発振器20にレーザビームLを照射する信号を出力する。
その結果、図3(A)に示すように、レーザノズル10から被加工材WにレーザビームLを照射しながらアシストガスGとして窒素を噴射して、被加工材Wに、例えば、φ1mmのピアシング孔H1を形成する(S1)。
このとき、ピアシング孔H1の周囲の被加工材Wの上面に上ノロTが生じる。なお、図3(A)に示した符号OLは、レーザノズル10の軸線を、符号OHは、ピアシング孔Hの軸線を示している。
第1工程が終了した段階では、上ノロTは被加工材Wと強固に接続されている。
【0034】
(2)第2工程
制御部50は、アシストガス制御部35に窒素供給源31からレーザノズル10に窒素を供給する信号、レーザ発振器20にレーザビームLを照射する信号、サーボ制御器40にレーザノズル10を移動させる信号を出力する。
その結果、サーボ制御器40は、レーザノズル10を、図3(B)に示すように、第1工程で形成されたピアシング孔H1周囲の被加工材W表面に生成された上ノロTの外縁より内周側かつピアシング孔H1より外周側を、ピアシング孔H1の軸線OH周りを、例えば、矢印R方向に周回して移動させ、ピアシング孔H1を、例えばφ2mmのピアシング孔H2に拡大する。
第2工程が終了した段階では、上ノロTは被加工材Wと強固に接続されている。
【0035】
(3)第3工程
制御部50は、アシストガス制御部35に酸素供給源33からレーザノズル10に酸素を供給する信号、レーザ発振器20にレーザビームLを照射する信号、サーボ制御器40にレーザノズル10を移動させる信号を出力する。
その結果、サーボ制御器40は、レーザノズル10を、図3(C)に示すように、第2工程で形成されたピアシング孔H2周囲の被加工材W表面に生成された上ノロTの外縁より内周側かつピアシング孔H2より外周側を、ピアシング孔H2の軸線OH周りを、例えば、矢印R方向に周回して移動させ、ピアシング孔H2を、例えばφ5mmのピアシング孔H3に拡大する。
第3工程が終了した段階で、上ノロTは酸化されて、動く状態となる。
【0036】
(4)第4工程
制御部50は、レーザ発振器20に対するレーザビームLを停止する信号、アシストガス制御部35に対する窒素供給源31からレーザノズル10に窒素を供給する信号、サーボ制御器40に対するレーザノズル10の軸線OLがピアシング孔Hの軸線OHとずれる位置に移動する信号を出力する。また、制御部50は、この実施形態では、サーボ制御器40に対して、レーザノズル10がピアシング孔H3の軸線OH周りに、例えば、矢印R方向に周回する信号を出力する。
その結果、図3(D)に示すように、レーザノズル10は、窒素を噴射しながら、レーザノズル10の軸線OLが第3工程で形成されたピアシング孔H3の軸線OHとずれた位置に移動するとともにピアシング孔H3の軸線OH周りに周回する。レーザノズル10からの除去ガスが上ノロT全体に噴射されることで、上ノロTを確実に除去できる点で好適である。
第4工程が終了した段階では、図3(D)の写真に示すように、上ノロTは被加工材Wから完全に除去されている。
【0037】
なお、図4は、第4工程において、レーザノズル10の軸線OLとピアシング孔H3の軸線OHを一致させて、除去ガスを噴射した場合の概念図を示すものであるが、図4に示す条件では、上ノロTは除去されなかった。これは、レーザノズル10から噴射される除去ガスがピアシング孔H3を通過してしまうことと、除去ガスが上ノロTを被加工材W表面に安定して押圧することに起因すると考えられる。
【0038】
第1の実施形態に係るレーザ加工装置1によれば、ピアシング孔H周囲の被加工材W表面に形成された上ノロTを容易かつ効率的に除去することができる。
また、第4工程において、レーザノズル10が第3工程で形成されたピアシング孔H3の軸線OH周りを周回しながら除去ガスGを上ノロTに噴射するので、ピアシング孔H3の周囲の被加工材W表面に生成された上ノロTを効率的に除去することができる。
【0039】
また、第3工程で形成されるピアシング孔H3を、φ5mm程度と小さく形成することができるので、従来のφ10mm程度のピアシング孔と比較すると材料歩留まりを向上することができる。
また、従来、41秒から60秒かかっていた上ノロ除去を、約10秒で行なうことができる。
【0040】
次に、図5図6を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態が第1の実施形態と異なるのは、第2の実施形態では、レーザノズル10のノズル孔10Aに加えて、サイドブローノズル12から上ノロTに対してサイドブローを噴射する点である。その他は、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0041】
図5に示したのは、第2の実施形態に係る動作手順を示すブロック図である。
図5において第1工程〜第3工程と対応するS1〜S3は、図2におけるS1〜S3と同一である。
第2の実施形態では、制御部50は、第4工程を、例えば、S14、S15に分けて実施するようになっている。
【0042】
<第4工程>
第3工程で被加工材W表面に生成された上ノロTの外縁より内周側かつ第3工程で形成された孔より外周側にレーザノズル10を移動させる(S14)。
次に、レーザノズル10から除去ガスを噴射するとともに、サイドブローノズル12から除去ガスをサイドブローとして噴射する(S15)。
【0043】
第2の実施形態に係るレーザ加工装置1によれば、第4工程において、上ノロTの外周から除去ガスをサイドブローするので、上ノロTと被加工材Wの間に風圧が加わり、その結果、上ノロTが被加工材Wから容易に浮上って、上ノロTを効率的に除去することができる。
【0044】
なお、図6は、第4工程において、レーザノズル10の軸線OLとピアシング孔H3の軸線OHを一致させて除去ガスを噴射するとともに、サイドブローノズル12から除去ガスを噴射した場合の概念図を示しているが、図6に示す条件では、上ノロTは除去されなかった。これは、図4の場合と同様に、レーザノズル10から噴射される除去ガスがピアシング孔H3を通過してしまうことと、レーザノズル10から噴射された除去ガスが上ノロTを被加工材W表面に安定して押圧することで、サイドブローノズル12からの除去ガスによって上ノロTを被加工材Wから浮上らせることが困難となることに起因すると考えられる。
【0045】
なお、この発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能である。
例えば、上記実施の形態においては、第4工程において、レーザノズル10の軸線OLを第3工程で形成した孔H3の軸線OHとずらすとともに、レーザノズル10を軸線OH周りに周回させる場合について説明したが、レーザノズル10の軸線OLを第3工程で形成した孔H3の軸線OHとずらし、軸線OH周りに周回させない構成としてもよいし、周回以外の動作を行なわせてもよい。
また、サイドブローノズル12を設けて、サイドブローをさせるかどうかは、任意に設定することができる。
【0046】
また、上記実施の形態においては、第4工程において、除去ガスとして窒素を用いる場合について説明したが、被加工材W表面の上ノロが第4工程において除去される場合には、例えば、空気やアルゴン等、他のガスを除去ガスとして用いてもよい。
【0047】
また、上記実施の形態においては、例えば、6kwのCOガスレーザのレーザ発振器20を用いる場合について説明したが、レーザ発振器の種類、レーザビームLの出力、種類(連続、パルス)については、任意に設定してもよい。
【0048】
また、切断ガスGとして、レーザノズル10からアシストガスGのみを噴射する場合について説明したが、シールドガスを用いる構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、ステンレス鋼の被加工材にレーザビームを照射してピアシング孔を形成する際に、ピアシング孔周辺の被加工材表面に生じるノロを効率的に除去することができるので、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
OL レーザノズルの軸線
OH 孔の軸線
L レーザビーム
G アシストガス
H ピアシング孔(第1〜第4工程)
H1 ピアシング孔(第1工程)
H2 ピアシング孔(第2工程)
H3 ピアシング孔(第3工程)
T 上ノロ(ノロ)
W 被加工材
1 レーザ加工装置
10 レーザノズル
20 レーザ発振器
30 ガス供給回路(アシストガス供給手段)
40 サーボ制御器(ノズル移動手段)
50 制御部
図1
図2
図5
図3
図4
図6
図7