【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
(抗ウイルス性を有するナノファイバーの作製)
アルミニウム板材(JISH1050材)を50℃に加温した5%水酸化ナトリウム水溶液に60秒浸漬した後、5%硝酸水溶液に浸漬してアルカリ分を中和し除去した。次に、1.5mol/Lの硫酸を含む20℃の電解液中で、対極に白金電極を用い、1.5A/dm
2の電流密度で20分間陽極酸化することで、アルミニウム板材表面に厚さ約8μmの多孔質の陽極酸化被膜を形成した。
【0042】
次に、厚さ約8μmの多孔質の陽極酸化被膜を形成したアルミニウム板材を、硫酸銅40g/L、ホウ酸10g/Lを含む水溶液に浸漬し、対極に白金電極を用いて10Vの交流電圧を、10分間、印加することにより銅を陽極酸化被膜の細孔に析出させた。
【0043】
その後、40℃に加温した1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に銅を析出した陽極酸化皮膜を2分間浸漬させることにより、陽極酸化皮膜から銅ナノファイバーを分離した。0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とメタノールが体積比で1:1の溶液に10分間浸漬後、メタノールで吸引濾過を行いながら洗浄を行い、銅ナノファイバーを得た。
【0044】
その後、銅ナノファイバー20mgを還元剤としてのメタノール20ml中で、超音波をかけながら還元処理を10分間行った後、遠心分離により上清を取り除き、沈殿物を真空乾燥により乾燥し、抗ウイルス性を有するナノファイバーを作成した。この抗ウイルス性を有するナノファイバーの繊維径は13nmで、繊維長は3μmであった。得られた抗ウイルスを有するナノファイバーの走査型電子顕微鏡画像を
図2に示す
(実施例2)
実施例1において、還元処理を60分間行った以外は、実施例1と同様の方法で抗ウイルス性を有するナノファイバーを作成した。
(実施例3)
実施例1において、0.05mol/Lクエン酸水溶液で還元処理を行った以外は、実施例1と同様の方法で抗ウイルス性を有するナノファイバーを作成した。
(実施例4)
実施例3において、還元処理を60分間行った以外は、実施例3と同様の方法で抗ウイルス性を有するナノファイバーを作成した。
(実施例5)
実施例1において、pH12に調整した0.1mol/Lグルコース水溶液で還元処理を行った以外は、実施例1と同様の方法で抗ウイルス性を有するナノファイバーを作成した。
(実施例6)
実施例5において、還元処理を60分間行った以外は、実施例5と同様の方法で抗ウイルス性を有するナノファイバーを作成した。
(実施例7)
アルミニウム板材(JISH1050材)を50℃に加温した5%水酸化ナトリウム水溶液に60秒浸漬した後、5%硝酸水溶液に浸漬してアルカリ分を中和し除去した。次に、1.5mol/Lの硫酸を含む20℃の電解液中で、対極に白金電極を用い、1.5A/dm
2の電流密度で120分間陽極酸化することで、アルミニウム板材表面に厚さ約50μmの多孔質の陽極酸化被膜を形成した。
【0045】
次に、厚さ約50μmの多孔質の陽極酸化被膜を形成したアルミニウム板材を、硫酸銅40g/L、ホウ酸10g/Lを含む水溶液に浸漬し、対極に白金電極を用いて10Vの交流電圧を90分間印加することにより銅を陽極酸化被膜の細孔に析出させた。
【0046】
その後、40℃に加温した1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に銅を析出した陽極酸化皮膜を6分間浸漬させることにより、陽極酸化皮膜から銅ナノファイバーを分離した。0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とメタノールが体積比で1:1の溶液に10分間浸漬後、メタノールで吸引濾過を行いながら洗浄を行い、銅ナノファイバーを得た。
その後、銅ナノファイバー20mgを還元剤としてのメタノール20ml中で、超音波をかけながら還元処理を60分間行った後、遠心分離により上清を取り除き、沈殿物を真空乾燥により乾燥し、抗ウイルス性を有するナノファイバーを作成した。このナノファイバーの繊維径は13nm、繊維長は30μmであった。
(実施例8)
アルミニウム板材(JISH1050材)を50℃に加温した5%水酸化ナトリウム水溶液に60秒浸漬した後、5%硝酸水溶液に浸漬してアルカリ分を中和し除去した。次に、1.5mol/Lの硫酸を含む20℃の電解液中で、対極に白金電極を用い、1.5A/dm
2の電流密度で20分間陽極酸化することで、アルミニウム板材表面に厚さ約8μmの多孔質の陽極酸化被膜を形成した。
【0047】
次に、厚さ約8μmの多孔質の陽極酸化被膜を形成したアルミニウム板材を、硫酸銅40g/L、ホウ酸10g/Lを含む水溶液に浸漬し、対極に白金電極を用いて10Vの交流電圧を1分間印加することにより銅を陽極酸化被膜の細孔に析出させた。
【0048】
その後、40℃に加温した1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に銅を析出した陽極酸化皮膜を1分間浸漬させることにより、陽極酸化皮膜から銅ナノファイバーを分離した。0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とメタノールが体積比で1:1の溶液に10分間浸漬後、メタノールで吸引濾過を行いながら洗浄を行い、銅ナノファイバーを得た。
その後、銅ナノファイバー20mgを還元剤としてのメタノール20ml中で、超音波をかけながら還元処理を60分間行った後、遠心分離により上清を取り除き、沈殿物を真空乾燥により乾燥し、抗ウイルス性を有するナノファイバーを作成した。このナノファイバーの繊維径は約13nm、繊維長は約0.2μmであった。
(実施例9)
アルミニウム板材(JISH1050材)を50℃に加温した5%水酸化ナトリウム水溶液に60秒浸漬した後、5%硝酸水溶液に浸漬してアルカリ分を中和し除去した。次に、3wt%のシュウ酸を含む20℃の電解液中で、対極に白金電極を用い、1.5A/dm
2の電流密度で120分間陽極酸化することで、アルミニウム板材表面に厚さ約50μmの多孔質の陽極酸化被膜を形成した。
【0049】
次に、1wt/vol%リン酸と4wt/vol%アミド硫酸を含む30℃の混合溶液に1時間浸漬させることにより、細孔径100nmの陽極酸化被膜を得た。その後、リン酸とアミド硫酸により一部溶解したバリア層(アルミナ部分)を再度形成するために、1.5mol/Lの硫酸を含む20℃の電解液中で、対極に白金電極を用い、1.5A/dm
2の電流密度で3分間陽極酸化を行った。
【0050】
次に、厚さ約50μmの多孔質の陽極酸化被膜を形成したアルミニウム板材を、硫酸銅40g/L、ホウ酸10g/Lを含む水溶液に浸漬し、対極に白金電極を用いて10Vの交流電圧を90分間印加することにより銅を陽極酸化被膜の細孔に析出させた。
【0051】
その後、40℃に加温した1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に銅を析出した陽極酸化皮膜を6分間浸漬させることにより、陽極酸化皮膜から銅ナノファイバーを分離した。0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とメタノールが体積比で1:1の溶液に10分間浸漬後、メタノールで吸引濾過を行いながら洗浄を行い、銅ナノファイバーを得た。
その後、銅ナノファイバー20mgを還元剤としてのメタノール20ml中で、超音波をかけながら還元処理を60分間行った後、遠心分離により上清を取り除き、沈殿物を真空乾燥により乾燥し、抗ウイルス性を有するナノファイバーを作成した。このナノファイバーの繊維径は100nm、繊維長は30μmであった。
(実施例10)
アルミニウム板材(JISH1050材)を50℃に加温した5%水酸化ナトリウム水溶液に60秒浸漬した後、5%硝酸水溶液に浸漬してアルカリ分を中和し除去した。次に、3wt%のシュウ酸を含む20℃の電解液中で、対極に白金電極を用い、1.5A/dm
2の電流密度で20分間陽極酸化することで、アルミニウム板材表面に厚さ約8μmの多孔質の陽極酸化被膜を形成した。
【0052】
次に、1wt/vol%リン酸と4wt/vol%アミド硫酸を含む30℃の混合溶液に1時間浸漬させることにより、細孔径100nmの陽極酸化被膜を得た。その後、1.5mol/Lの硫酸を含む20℃の電解液中で、対極に白金電極を用い、1.5A/dm2の電流密度で3分間陽極酸化を行った。
【0053】
次に、厚さ約8μmの多孔質の陽極酸化被膜を形成したアルミニウム板材を、硫酸銅40g/L、ホウ酸10g/Lを含む水溶液に浸漬し、対極に白金電極を用いて10Vの交流電圧を3分間印加することにより銅を陽極酸化被膜の細孔に析出させた。
【0054】
その後、40℃に加温した1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に銅を析出した陽極酸化皮膜を1分間浸漬させることにより、陽極酸化皮膜から銅ナノファイバーを分離した。0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液とメタノールが体積比で1:1の溶液に10分間浸漬後、メタノールで吸引濾過を行いながら洗浄を行い、銅ナノファイバーを得た。
その後、銅ナノファイバー20mgを還元剤としてのメタノール20ml中で、超音波をかけながら還元処理を60分間行った後、遠心分離により上清を取り除き、沈殿物を真空乾燥により乾燥し、抗ウイルス性を有するナノファイバーを作成した。このナノファイバーの繊維径は約100nm、繊維長は約1μmであった。
(比較例1)
ナノファイバーの比較としてCu
2O粉末(和光純薬工業株式会社製)(粒子径(d50):2.6μm)を用いた。
(走査型電子顕微鏡による抗ウイルス性を有するナノファイバーの観察)
実施例1の抗ウイルス性を有するナノファイバーを走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により、観察した。得られたSEM画像を
図2に示した。この結果より、実施例1で得られた抗ウイルス性を有するナノファイバーは、繊維径が約13nm、繊維長が約3μmであることが確認できた。
(広角X線回折による抗ウイルス性を有するナノファイバーの分析)
実施例1で得られた抗ウイルス性を有するナノファイバーを広角X線回折装置(PANalytical社製)により、ナノファイバー全体の物質について分析した。その結果を
図3に示した。
図3の回析パターンより、実施例1で得られた抗ウイルス性を有するナノファイバーには、CuとCu
2OとCuOが存在することが確認できた。
(X線光電子分光装置による抗ウイルス性ナノファイバーの分析)
実施例1で得られた抗ウイルス性を有するナノファイバーを、X線光電子分光装置(ULVAC-PHI製)により、ナノファイバー表面の物質(元素)について分析した結果、酸素と銅の元素濃度比は38.7:61.3であった。これらの結果より、表面にはCuOとCu
2Oは約1:2の割合で存在していることが確認できた。
X線光電子分光装置は表面数ナノの分析であることから、抗ウイルス性を有するナノファイバーは、少なくとも表面の一部にCu
2Oが含まれていることが確認された。以上の結果より、抗ウイルス性を有するナノファイバーは、内部に金属Cu、少なくともその表面の一部にCu
2Oが含まれていることが確認された。
(抗ウイルス性評価方法)
作成した抗ウイルス性を有するナノファイバーの実施例および比較例のウイルス不活化性の測定は、エンベロープウイルスとしてインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を、非エンベロープウイルスとして、ノロウイルスの代替として一般的に使用されているネコカリシウイルス(feline calicivirus(F9株))を用いて実施した。用いた対象ウイルスは、インフルエンザウイルス((influenza A/北九州/159/93(H3N2))には、MDCK細胞にて培養し、ネコカリシウイルス(feline calicivirus(F9株))には、CrFK細胞を用いて培養した。
【0055】
各サンプル1mgをPBS(Phosphate buffered saline)1mlに分散させた分散液100μlとウイルス液100μlを滅菌済みの1.5mlチューブに入れ、室温で攪拌させながら、60分間感作させた。60分間の感作後、界面活性剤入り水溶液(レシチン・ポリソルベート80添加 ソイビーン・カゼインダイジェスト(SCDLP))800μlを添加し、ボルテックスによりウイルスを洗い出した。その後、遠心分離によりナノファイバーを分離後、上清を10
-2〜10
-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレに培養したMDCK細胞、又はCrFK細胞にサンプル液100μLを接種した。60分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO
2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い、形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。コントロールには実施例のサンプルを用いずウイルス液を加えた場合の値を用いた。各実施例、比較例の形態についておよびウイルス評価の結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
上記の結果より、実施例ではいずれもウイルスのエンベロープの有無に関わらず、感染価が低下していることが確認された。その不活性率は、インフルエンザウイルスに対しては、ウイルス感作時間60分で、効果の高いもので99.9998%以上(検出限界値以下)、低いものでも99.9%以上という高い不活性化率であった。特に、ネコカリシウイルスに対しては、全ての実施例において99.9998%以上(検出限界値以下)という非常に効果の高い不活化率であった。一方、比較例1は、ナノファイバーに比べてウイルス不活化性能がインフルエンザウイルスに対して90%以上、ネコカリシウイルスに対して97.5%以上と、低かった。