(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986819
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】水処理方法及び設備
(51)【国際特許分類】
C02F 1/52 20060101AFI20160823BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20160823BHJP
C02F 9/02 20060101ALI20160823BHJP
B01J 49/00 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
C02F1/52 ZZAB
C02F1/42 B
C02F9/02
B01J49/00 160
B01J49/00 112
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-136852(P2012-136852)
(22)【出願日】2012年6月18日
(65)【公開番号】特開2014-510(P2014-510A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 尚友
【審査官】
金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭51−002254(JP,A)
【文献】
特開2008−246386(JP,A)
【文献】
特開2007−275846(JP,A)
【文献】
特開平06−277663(JP,A)
【文献】
特開2010−155181(JP,A)
【文献】
特開昭51−105161(JP,A)
【文献】
特開昭58−174297(JP,A)
【文献】
特開2008−093602(JP,A)
【文献】
特開昭50−103473(JP,A)
【文献】
特開昭63−264191(JP,A)
【文献】
特開2005−296756(JP,A)
【文献】
特開2006−263553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/01
C02F 1/52− 1/56
C02F 1/42
B01J 39/00−49/02
C02F 3/12
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を陰イオン交換樹脂に接触させて原水中に含まれる溶解性有機成分を除去するイオン交換工程と、該イオン交換工程で前記溶解性有機成分が除去された原水に凝集剤を添加して原水中に含まれる懸濁成分を凝集させて沈殿分離する凝集沈殿工程と、前記イオン交換工程で前記溶解性有機成分を吸着した前記陰イオン交換樹脂を塩化ナトリウム水溶液を使用して再生する再生工程と、該再生工程で前記陰イオン交換樹脂を再生することにより発生した再生廃液と前記凝集沈殿工程で沈殿して排出された汚泥とを混合する固液混合分離工程と、該固液混合分離工程で混合した固液混合物中の液成分を抜き出して前記原水に混合する液成分返送工程とを含むことを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記固液混合分離工程は、前記再生廃液と前記汚泥とを混合する混合段階と、混合した固液混合物中の汚泥を濃縮して分離する汚泥濃縮段階とを有しており、原水に混合する前記液成分は、前記汚泥濃縮段階で抜き出すことを特徴とする請求項1記載の水処理方法。
【請求項3】
原水を陰イオン交換樹脂に接触させて原水中に含まれる溶解性有機成分を除去するイオン交換処理槽と、該イオン交換処理槽で前記溶解性有機成分が除去された原水に凝集剤を添加して原水中に含まれる懸濁成分を凝集させて沈殿分離する凝集沈殿槽と、前記イオン交換処理槽で前記溶解性有機成分を吸着した前記陰イオン交換樹脂を塩化ナトリウム水溶液を使用して再生する再生手段と、該再生手段で前記陰イオン交換樹脂を再生することにより発生した再生廃液と前記凝集沈殿槽で沈殿して排出された汚泥とを混合する固液混合分離槽と、該固液混合分離槽で混合した固液混合物中の液成分を抜き出して前記原水に混合する液成分返送経路とを備えていることを特徴とする水処理設備。
【請求項4】
前記固液混合分離槽は、前記再生廃液と前記汚泥とを混合する混合部と、混合した固液混合物中の汚泥を濃縮して分離する汚泥濃縮部とを備えるとともに、前記液成分返送経路は、前記汚泥濃縮部で発生した分離水を、前記原水に混合することを特徴とする請求項3記載の水処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法及び設備に関し、詳しくは、イオン交換樹脂を使用した水処理方法及び設備に関する。
【背景技術】
【0002】
溶解性有機成分濃度が高い原水を処理する方法として、陰イオン交換樹脂に前記溶解性有機成分を吸着して原水中から除去する方法が知られている。陰イオン交換樹脂は、再生液、通常は塩化ナトリウム水溶液(食塩水)で再生処理を行うことにより、吸着した有機成分などの不純物を脱離して再利用することができる。一方、再生液は、陰イオン交換樹脂から脱離した不純物を含む再生廃液となる。この再生廃液は、塩分及び不純物を含んでいるため、原水とは別に処理する必要があり、例えば、再生廃液にポリ塩化アルミニウムを添加して有機物及び硫酸塩を凝集沈殿させて再生廃液から除去することにより、再生廃液を再生液として再利用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−296756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、再生廃液から除去した有機物及び硫酸塩を含む沈殿物からなる廃棄物が発生するため、この廃棄物を処理するための設備が必要となり、水処理設備内に廃棄物処理設備を設けたり、廃棄物を処理業者に運搬したりする必要があった。
【0005】
そこで本発明は、イオン交換樹脂を使用して水処理を行うに当たり、特別な設備を付加せずにクローズドシステムを構築することができる水処理方法及び設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の水処理方法は、原水を陰イオン交換樹脂に接触させて原水中に含まれる溶解性有機成分を除去するイオン交換工程と、
該イオン交換工程で前記溶解性有機成分が除去された原水に凝集剤を添加して原水中に含まれる懸濁成分を凝集させて沈殿分離する凝集沈殿工程と、前記イオン交換工程で前記溶解性有機成分を吸着した前記陰イオン交換樹脂を塩化ナトリウム水溶液を使用して再生する再生工程と、該再生工程で前記陰イオン交換樹脂を再生することにより発生した再生廃液と前記凝集沈殿工程で沈殿して排出された汚泥とを混合する固液混合分離工程と、該固液混合分離工程で混合した固液混合物中の液成分を抜き出して前記原水に混合する液成分返送工程とを含むことを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の水処理方法
は、前記固液混合分離工程は、前記再生廃液と前記汚泥とを混合する混合段階と、混合した固液混合物中の汚泥を濃縮して分離する汚泥濃縮段階とを有し、原水に混合する前記液成分は、前記汚泥濃縮段階で抜き出すことを特徴としている。
【0008】
また、本発明の水処理設備は、
原水を陰イオン交換樹脂に接触させて原水中に含まれる溶解性有機成分を除去するイオン交換処理槽と、該イオン交換処理槽で前記溶解性有機成分が除去された原水に凝集剤を添加して原水中に含まれる懸濁成分を凝集させて沈殿分離する凝集沈殿槽と、前記イオン交換処理槽で前記溶解性有機成分を吸着した前記陰イオン交換樹脂を塩化ナトリウム水溶液を使用して再生する再生手段と、該再生手段で前記陰イオン交換樹脂を再生することにより発生した再生廃液と前記凝集沈殿槽で沈殿して排出された汚泥とを混合する固液混合分離槽と、該固液混合分離槽で混合した固液混合物中の液成分を抜き出して前記原水に混合する液成分返送経路とを備えていることを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の水処理装置
は、前記固液混合分離槽は、前記再生廃液と前記汚泥とを混合する混合部と、混合した固液混合物中の汚泥を濃縮して分離する汚泥濃縮部とを備えるとともに、前記液成分返送経路は、前記汚泥濃縮部で発生した分離水を、前記原水に混合するように形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、再生廃液を凝集剤を含む汚泥と混合することにより、再生廃液中の有機物を汚泥中に取り込むことができ、液成分を原水に混合することが可能となるとともに、有機物などを取り込んだ汚泥は、通常の水処理で発生する余剰汚泥と同様に処理することができる。これにより、イオン交換樹脂を使用して水処理を行う設備のクローズドシステム化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の水処理方法を実施可能な水処理設備の第1形態例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す水処理設備の第1形態例は、原水槽11と、前記原水と陰イオン交換樹脂とを接触させるイオン交換処理槽12と、イオン交換処理後の原水(以下、イオン交換処理水という。)に凝集剤を添加して懸濁成分を凝集沈殿分離する凝集沈殿槽13と、前記イオン交換処理槽12で原水と接触後の前記陰イオン交換樹脂を再生する再生手段14と、該再生手段14で発生する再生廃液と前記凝集沈殿槽13で沈殿した汚泥とを混合する固液混合分離槽15とを備えている。
【0013】
前記イオン交換処理槽12は、原水と陰イオン交換樹脂とを接触させて原水中に含まれる溶解性有機成分(溶解性有機炭素:DOC)を陰イオン交換樹脂に吸着させて原水中から除去するイオン交換工程を行うものであって、該イオン交換工程では、陰イオン交換樹脂の交換基である塩化物イオン又は塩素イオンと原水中の負電荷有機物とがイオン交換することにより、負電荷有機物が陰イオン交換樹脂に吸着されて原水中から除去される。
【0014】
イオン交換処理槽12の後段に設けられた凝集沈殿槽13は、イオン交換処理槽12でイオン交換処理後のイオン交換処理水に、凝集剤添加経路21から硫酸アルミニウム(硫酸バンド)やポリ塩化アルミニウム(PAC)といった凝集剤を添加し、該凝集剤によってイオン交換処理水中の懸濁成分を凝集させて沈殿させることにより、懸濁成分を含まない上澄み水と凝集剤で凝集した懸濁成分からなる汚泥とに分離する凝集沈殿工程を行うものであって、凝集沈殿槽13には、上澄み水を処理水として濾過池等の後処理設備に導出する処理水導出経路22と、沈殿した汚泥を抜き取って前記固液混合分離槽15に送出する汚泥抜出経路23とが設けられている。
【0015】
前記再生手段14は、前記イオン交換処理槽12で前記溶解性有機成分を吸着した前記陰イオン交換樹脂を再利用可能な状態に再生する再生工程を行うためのものであって、イオン交換処理槽12から樹脂再生経路24を介して流入した陰イオン交換樹脂を所定濃度の塩化ナトリウム水溶液で処理することにより、陰イオン交換樹脂に吸着している負電荷有機物と塩化ナトリウム水溶液中の塩化物イオン又は塩素イオンとを交換させて陰イオン交換樹脂を再生する。再生した陰イオン交換樹脂は、再生樹脂循環経路25を通ってイオン交換処理槽12に循環して再利用され、陰イオン交換樹脂から脱離した負電荷有機物を含む再生廃液は、再生廃液導出経路26から前記固液混合分離槽15に送られる。
【0016】
固液混合分離槽15は、前記汚泥抜出経路23からの汚泥と前記再生廃液導出経路26からの再生廃液とを混合する固液混合段階を行う固液混合部15aと、該固液混合部15aで混合した固液混合物中の固形分(汚泥)を濃縮して分離する汚泥濃縮段階を行う汚泥濃縮部15bとを有しており、再生廃液中の前記負電荷有機物の一部は、固液混合部15aで汚泥と混合した際に、凝集剤の作用で汚泥中に取り込まれて液中の有機物濃度が低下する。汚泥濃縮部15bで濃縮分離された汚泥は、汚泥引抜経路27に引き抜かれて汚泥処理設備16に送られ、汚泥濃縮部15bで汚泥から分離した液成分は、液成分返送工程によって液成分返送経路28から前記原水槽11に返送され、負電荷有機物濃度が低下した液成分が原水に混合されて再処理される。
【0017】
図2に示す水処理設備の
参考例は、前記第1形態例におけるイオン交換処理槽12と凝集沈殿槽13との位置を入れ替え、原水槽11の後段に凝集沈殿槽13を配置し、該凝集沈殿槽13の後段にイオン交換処理槽12を配置した例を示している。なお、以下の説明において、前記第1形態例に示した水処理設備の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0018】
本
参考例では、原水槽11からの原水は、最初に凝集沈殿槽13に流入し、凝集剤添加経路21から添加された凝集剤によって原水中の懸濁成分を凝集させて沈殿させた後、上澄み水をイオン交換処理槽12に導入して陰イオン交換樹脂と接触させ、原水中に含まれる溶解性有機成分を陰イオン交換樹脂に吸着させて原水中から除去するように構成している。
【0019】
イオン交換処理槽12で使用した陰イオン交換樹脂は、前記第1形態例と同様に、樹脂再生経路24から再生手段14に導入されて塩化ナトリウム水溶液で再生処理され、再生後の陰イオン交換樹脂は、再生樹脂循環経路25を通ってイオン交換処理槽12に循環して再利用される。さらに、凝集沈殿槽13から汚泥抜出経路23に抜き取られた汚泥と、再生手段14から再生廃液導出経路26に導出された再生廃液とは、固液混合分離槽15の固液混合部15aで混合して再生廃液中の負電荷有機物等を汚泥中に取り込み、汚泥濃縮部15bで汚泥から分離した液成分は、液成分返送経路28を通って原水槽11に返送される。また、イオン交換処理槽12で溶解性有機成分を除去した処理水は、処理水導出経路22から後段の設備に送られる。
【0020】
前記
第1形態例
及び前記参考例に示すように、原水中の溶解性有機成分を吸着した陰イオン交換樹脂を再生する際に発生する再生廃液と、原水中の懸濁成分を凝集剤で凝集させた汚泥とを混合することにより、再生廃液中の溶解性有機成分を汚泥中に取り込むことができるので、汚泥から分離した液成分を原水に混合して再処理することが可能となる。これにより、再生廃液を外部に排出することなく、設備内で処理することができ、イオン交換樹脂を使用した水処理設備のクローズドシステム化を図ることができる。さらに、両形態例に示す水処理設備では、溶解性有機成分の低減だけでなく、トリハロメタン生成能(THMFP)の低減、色度の改善、塩素要求量の低減も図ることができる。
【0021】
したがって、
第1形態例
及び前記参考例に示す水処理設備の後段に浄水処理設備が設けられている場合は、該浄水処理設備の有機物負荷が軽減されるため、浄水処理設備における処理水質の向上を図ることができ、凝集剤の添加量も低減できるので、凝集改善も図ることができる。また、高度浄水処理におけるオゾン量低減なども図ることができる。
【0022】
表1は、凝集沈殿槽13で沈殿して抜き取った汚泥に、再生手段14から導出した再生廃液を0.2〜5.0容積%の割合で混合したときの液成分における紫外線吸光度及び色度を測定した結果の一例を示している。表1の結果から、この実験で使用した汚泥の場合は、再生廃液を汚泥に対して数%混合することにより、液成分中の溶解性有機物が汚泥中に取り込まれることによって計算値に比べて実測値が大幅に小さくなり、液成分における紫外線吸光度及び色度が改善されていることがわかる。
【表1】
【0023】
なお、イオン交換処理槽における原水と陰イオン交換樹脂との接触、原水と接触後の陰イオン交換樹脂の分離回収などは、この種の装置に用いられている一般的な装置構成を採用することができ、陰イオン交換樹脂の再生手段も、一般的な機器構成を採用することができる。また、本発明は、溶解性有機成分濃度が高い原水の処理に適しているが、原水の性状は特に限定されるものではなく、溶解性有機成分濃度が比較的高い河川系表層水や湖沼水をはじめとして、伏流水や地下水といった水源にも適用することができる。さらに、固液混合分離槽は、濃縮を行わずに自然沈降などによる固液分離のみで液成分を分離するものであってもよい。
【符号の説明】
【0024】
11…原水槽、12…イオン交換処理槽、13…凝集沈殿槽、14…再生手段、15…固液混合分離槽、15a…固液混合部、15b…汚泥濃縮部、16…汚泥処理設備、21…凝集剤添加経路、22…処理水導出経路、23…汚泥抜出経路、24…樹脂再生経路、25…再生樹脂循環経路、26…再生廃液導出経路、27…汚泥引抜経路、28…液成分返送経路