特許第5986822号(P5986822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5986822Cu−Ni−Si系銅合金Snめっき板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986822
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】Cu−Ni−Si系銅合金Snめっき板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20160823BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20160823BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20160823BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20160823BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20160823BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160823BHJP
【FI】
   C22C9/06
   C22C9/04
   C22F1/08 P
   C22F1/08 S
   C25D7/00 H
   C25D5/50
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-139604(P2012-139604)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-5481(P2014-5481A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176822
【氏名又は名称】三菱伸銅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 淳一
(72)【発明者】
【氏名】相田 正之
(72)【発明者】
【氏名】すくも田 俊緑
(72)【発明者】
【氏名】坂井 和章
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 佳栄
(72)【発明者】
【氏名】玉川 隆士
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−039789(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/039875(WO,A1)
【文献】 特開2006−307336(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/004581(WO,A1)
【文献】 特開2011−063834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
C22F 1/08
C25D 1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0〜4.0質量%のNi、0.2〜0.9質量%のSi、0.3〜1.5質量%のZn、0.001〜0.2質量%のPを含有し、残りがCu及び不可避的不純物より構成される銅合金板を母材とし、表面から前記母材にかけて、厚み:0.2μm以下の表面Sn相、厚み:0.2〜0.8μmのSn相、厚み:0.5〜1.4μmのSn−Cu合金相、厚み:0〜0.8μmのCu相の順で構成されためっき皮膜層を有し、前記表面Sn相のP濃度(C)と前記母材のP濃度(D)との比(C/D)が1.1〜2.0であり、前記めっき皮膜層と前記母材との間の厚み:0.8〜1.4μmの境界面層におけるZn濃度(A)と前記母材のZn濃度(B)との比(A/B)が0.5〜0.8であることを特徴とするCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板。
【請求項2】
前記母材は、Snを0.2〜0.8質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板。
【請求項3】
前記母材は、Mgを0.001〜0.2質量%含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板。
【請求項4】
前記母材は、更にFe:0.007〜0.25質量%、Cr:0.001〜0.3質量%、Zr:0.001〜0.3質量%を1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板を製造する方法であって、前記母材の表面に、Cu又はCu合金、Sn又はSn合金をこの順にめっきしてそれぞれのめっき層を形成した後、加熱してリフロー処理するに当たり、前記Sn又はSn合金のめっき層を形成時に、0.01質量%以下のPを含有し、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用し、前記リフロー処理は、前記それぞれのめっき層を230℃以上に加熱後、温度のばらつきが±2℃以下に制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却することを特徴とするCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu−Ni−Si系銅合金Snめっき板及びその製造方法に関し、特に詳しくは、耐熱剥離性と接触電気抵抗性とが良好な値でバランスしたリフロー処理後のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクタ、端子、リレー、スイッチ等の導電性材料に使用される電子材料用銅合金板には、合金の基本特性として高強度、高電気伝導性又は熱伝導性を両立させることが要求される。また、これらの特性以外にも、曲げ加工性、耐応力緩和特性、耐熱性、めっきとの密着性、半田濡れ性、エッチング加工性、プレス打ち抜き性、耐食性等も求められている。
最近では、この電子材料用銅合金板として、時効硬化型の銅合金板の使用量が増加している。時効硬化型銅合金板では、溶体化処理された過飽和固溶体を時効処理することにより、微細な析出物が均一に分散して、合金の強度が高くなると同時に、銅中の固溶元素量が減少し電気伝導性が向上する。このため、強度、ばね性などの機械的性質に優れ、しかも電気伝導性、熱伝導性が良好な材料が得られる。時効硬化型銅合金板のうち、Cu−Ni−Si系銅合金板は高強度と高導電率とを併せ持つ代表的な銅合金板であり、銅マトリックス中に微細なNi−Si系金属間化合物粒子が析出することにより強度と導電率が上昇する。
これらのCu−Ni−Si系銅合金板を導電性材料、特に、電気接点材料に用いる場合、耐久性、挿抜性、接触抵抗性等を安定して得るために、その表面に下地層を含めたSnめっき層を施すことが多いが、これらのSnめっき板には、高温で長時間保持した際に、めっき層が銅合金板母材より剥離する現象が生じやすいという弱点があり、従来から種々の改善がなされている。
【0003】
特許文献1では、硬さを指標として銅合金の時効条件を限定することにより、めっき熱剥離の改善を図ることが開示されている。
特許文献2では、Ni:0.5〜4.0%、Si:0.1〜1.0%、Mg:0.01〜0.1%、S:0.0015%以下、O:0.0015%以下、あるいはさらに副成分としてP、B、As、Fe、Co、Cr、Al、Sn、Ti、Zr、In、Mnの1種又は2種以上を0.005〜1.0%を含有し、高強度、高導電で、応力緩和特性、めっき耐熱剥離性、銀めっき性、対応力腐食割れ性が良好な端子、コネクタ、リレー、スイッチ等に用いられる導電性ばね用銅合金が開示されている。
特許文献3では、1.0 〜 4.5質量%のNi及び0.2〜1.0質量%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物より構成される銅基合金を母材とするSnめっき条において、めっき層と母材との境界面におけるS濃度及びC濃度を0.050質量%以下に調整して、Snめっきの耐熱剥離性を改善することが開示されている。
また、接触抵抗性の改良として、特許文献4では、表面にSnめっき皮膜を有し、リフロー処理後の前記Snめっき皮膜の最表面にZnが0.1〜10質量%の濃度で存在し、かつ最表面から0.1μm(SiO2換算)以上の深さでZn濃度が0.01質量%以下である銅又は銅合金のSnめっき条であり、銅合金をSnめっきした後、めっき表面に亜鉛イオンの存在する溶液を接触させる表面処理を行い、次にリフロー処理を行うことにより製造される、各種コネクタ、特に嵌合型コネクタ端子として好適な、高温条件下又は長期使用下でも低い接触電気抵抗性を維持する銅又は銅合金のSnめっき条が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−262448号公報
【特許文献2】特開平5−059468号公報
【特許文献3】特開2007−291458号公報
【特許文献4】特開2008−248332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のCu−Ni−Si系銅合金のリフローSnめっき板は、耐熱剥離性、接触電気抵抗性、耐食性、プレス加工性などの何れかの特性に優れたものが多く、最近要求されている過酷な使用条件下において、めっき耐熱剥離性と接触電気抵抗性とが高いレベルでバランスが取れたリフロー処理後のSnめっき板は皆無であった。
【0006】
本発明では、めっき耐熱剥離性と接触電気抵抗性とが高いレベルでバランスしたCu−Ni−Si系銅合金のリフローSnめっき板とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの事情に鑑み、発明者らは鋭意検討の結果、リフロー処理後のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板のめっき耐熱剥離性と接触電気抵抗性を良好な値でバランスさせるには、めっき皮膜層の表面Sn相中に存在するP濃度と銅合金母材中に存在するP濃度との比がめっき耐熱剥離性の向上に大きく影響し、めっき皮膜層と銅合金母材との間の境界面層に存在するZn濃度と銅合金母材中に存在するZn濃度との比が、接触電気抵抗性の向上に大きく影響し、これらのP濃度比、Zn濃度比を最適な範囲に調整することにより、その目的が達成されることを見出した。
また、このリフロー処理後のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板を製造するには、最適な組成及び性状のSnめっき液を使用し、最適なリフロー条件にて熱処理することにより、上述の最適なP濃度比、Zn濃度比が具現化され、めっき耐熱剥離性と接触電気抵抗性とが良好な値でバランスすることも見出した。
【0008】
即ち、本発明は、1.0〜4.0質量%のNi、0.2〜0.9質量%のSi、0.3〜1.5質量%のZn、0.001〜0.2質量%のPを含有し、残りがCu及び不可避的不純物より構成される銅合金板を母材とし、表面から前記母材にかけて、厚み:0.2μm以下の表面Sn相、厚み:0.2〜0.8μmのSn相、厚み:0.5〜1.4μmのSn−Cu合金相、厚み:0〜0.8μmのCu相の順で構成されためっき皮膜層を有し、前記表面Sn相のP濃度(C)と前記母材のP濃度(D)との比(C/D)が1.1〜2.0であり、前記めっき皮膜層と前記母材との間の厚み:0.8〜1.4μmの境界面層におけるZn濃度(A)と前記母材のZn濃度(B)との比(A/B)が0.5〜0.8であることを特徴とする。
【0009】
本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板は、母材の成分が1.0〜4.0質量%のNi、0.2〜0.9質量%のSi、0.3〜1.5質量%のZn、0.001〜0.2質量%のPを含有し、残りがCu及び不可避的不純物より構成され、その母材表面に形成された境界面層を介してリフロー処理後のめっき皮膜層が形成されている。
Cu−Ni−Si系銅合金は高強度と高導電率とを併せ持つ代表的な銅合金であり、銅マトリックス中に微細なNi−Si系金属間化合物粒子が析出することにより、強度と導電率が上昇する。Cu−Ni−Si系銅合金中のNi及びSiは、時効処理を行うことにより、Ni2Siを主とする金属間化合物の微細な粒子が形成され、銅合金の強度が著しく増加し、電気伝導度も上昇する。
Niが1.0質量%未満、或いは、Siが0.2質量%未満であると、他方の成分を添加しても所望とする強度が得られない。また、Niが4.5質量%を超える、或いは、Siが1.0質量%を超えると、十分な強度は得られるものの、導電性は低くなり、更には強度の向上に寄与しない粗大なNi−Si系粒子(晶出物及び析出物)が母相中に生成され、曲げ加工性、エッチング性等の低下をきたす。
Znは、強度及び耐熱性を改善し、特にはんだ接合の耐熱性を改良する効果がある。
0.3〜1.5質量%の範囲で添加し、この範囲を下回ると所望の効果が得られず、上回ると導電性が低下する。
また、Znは、めっき後のリフロー処理時や高温での使用時に、母材から境界面層、Sn−Cu合金相、Sn相、表面Sn相にマイグレーションするが、境界面層にマイグレーションするZn濃度と母材に残留しているZn濃度との比を0.5〜0.8とすることにより、接触電気抵抗性を良好に維持する。
Pは、曲げ加工によって起るばね性の低下を抑制する効果がある。0.001〜0.2質量%の範囲で添加し、0.001%未満では、所望の効果が得られず、0.2%を超えると、はんだ耐熱剥離性を著しく損なう。
また、Pは、Znに比較して母材からのマイグレーションの度合いは小さく、Snめっき液よりのPに主に起因する表面Sn相のP濃度と母材に残留しているP濃度との比を1.1〜2.0とすることにより、耐熱剥離性を良好に維持する。
【0010】
本発明では、めっき皮膜層は、その表面から母材にかけて、厚み:0.2μm以下の表面Sn相、厚み:0.2〜0.8μmのSn相、厚み:0.5〜1.4μmのSn−Cu合金相、厚み:0〜0.8μmのCu相の順で構成されている。
表面Sn相とは、直下に存在するSn相と明確に区別することは難しいが、Sn相と比較してP濃度が著しく高く、その厚みが0.2μm以下の相である。厚みが0.2μmを超えると、めっき耐熱剥離性を向上させる効果が飽和して無駄となる。
Sn相の厚みが0.2μm未満では、半田濡れ性が低下し、厚みが0.8μmを超えると、加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなる。
Sn−Cu合金相は、硬質であり、その厚みが0.5μm未満では、コネクタとしての使用時の挿入力の低減効果が薄れて強度が低下し、厚みが1.4μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
Cu相の厚みが0.8μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
境界面層の厚みが0.8μm未満では、加熱時に、めっき皮膜層と母材との間で剥離が生じる恐れがあり、厚みが1.4μmを超えると、接触電気抵抗性を低減する効果が減少する。
【0011】
表面Sn相のP濃度(C)と母材のP濃度(D)との比(C/D)が1.1未満であると、耐熱剥離性が低下し、比(C/D)が2.0を超えると、効果が飽和して無駄である。
表面Sn相に存在するPは、主にSnめっき液に中に含有されたPに起因するものである。
境界面層におけるZn濃度(A)と母材のZn濃度(B)との比(A/B)が0.5未満であると、接触電気抵抗性が低下し、比(A/B)が0.8を超えると、効果が飽和し、高温使用時の耐久性も低下する傾向が見られる。
表面Sn相に存在するPは、Snめっき液よりのPに主に起因するものである。
境界面層に存在するZnは、母材から境界層にマイグレーションされたZnに起因するものである。
本発明での表面Sn相のP濃度とは、銅合金Snめっき板の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたP濃度プロファイルにおいて、表面Sn相に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
本発明での境界面層のZn濃度とは、銅合金Snめっき板の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたZn濃度プロファイルにおいて、境界面層に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
【0012】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板において、前記母材は、Snを0.2〜0.8質量%含有することを特徴とする。
Snには、強度及び耐熱性を改善する効果があり、耐応力緩和性を改善する効果もある。Snは0.2〜0.8質量%の範囲で添加する。この範囲を下回ると所望の効果が得られず、上回ると導電性が低下する。
【0013】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板において、前記母材は、Mgを0.001〜0.2質量%含有することを特徴とする。
Mgには応力緩和特性及び熱間加工性を改善する効果があるが、0.001質量%未満では効果がなく、0.2質量%を超えると、鋳造性(鋳肌品質の低下)、熱間加工性、めっき耐熱剥離性が低下する。
【0014】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板において、前記母材は、Fe:0.007〜0.25質量%、Cr:0.001〜0.3質量%、Zr:0.001〜0.3質量%を1種又は2種以上を含有することを特徴とする。
Feには、熱間圧延性を向上させ(表面割れや耳割れの発生を抑制する)、NiとSiの析出化合物を微細化し、メッキ加熱密着性を向上させる効果があるが、その含有量が0.007%未満では、所望の効果が得られず、一方、その含有量が0.25%を超えると、熱間圧延性の向上効果が飽和し、導電性にも悪影響を及ぼすようになることから、その含有量を0.007〜0.25%と定めた。
Pには、曲げ加工によって起るばね性の低下を抑制する効果があるが、その含有量が0.001%未満では所望の効果が得られず、一方、その含有量が0.2%を超えると、はんだ耐熱剥離性を著しく損なうようになることから、その含有量を0.001〜0.2%と定めた
Cr及びZrには、NiおよびSiの析出化合物を一層微細化して合金の強度を向上させ、それ自身の析出によって強度を一層向上させる効果を有するが、含有量が0.001%未満では、合金の強度向上効果が得られず、0.3%を超えると、Cr及び/またはZrの大きな析出物が生成し、めっき性が悪くなり、プレス打抜き加工性も悪くなり、更に熱間加工性が損なわれるので好ましくなく、これらの含有量はそれぞれ0.001〜0.3%に定めた。
【0015】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板の製造方法は、前記母材の表面に、Cu又はCu合金、Sn又はSn合金をこの順にめっきしてそれぞれのめっき層を形成した後、加熱してリフロー処理するに当たり、前記Sn又はSn合金のめっき層を形成時に、0.01質量%以下のPを含有し、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用し、前記リフロー処理は、前記それぞれのめっき層を230℃以上に加熱後、温度のばらつきが±2℃以下に制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却することを特徴とする。
【0016】
製造方法としては、先ず、母材の表面に、Cu又はCu合金めっきをリフロー処理後のめっき厚み、及び、境界面層厚み考慮して所定の厚みにめっき層を形成し、更に、その表面に、Sn又はSn合金をリフロー処理後のめっき厚みを考慮して所定の厚みにめっき層を形成する。
この場合、Sn又はSn合金のめっきの際に、Pを0.01質量%以下含有し、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用する。
また、Snめっき液は、めっきの性状や均質性を保つために、消泡試験において2分後に泡が半減する消泡剤を使用し、適量の光沢剤、界面活性剤を含むことが好ましい。この光沢剤、消泡剤、界面活性剤は、表面張力や粘度を調整する役割もはたす。
光沢剤としては、親水性ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマー、エチレンジアミンEO−PO付加物、クミルフェノールEO付加物、界面活性剤としては、ピロガロール或いはハイドロキノン、消泡剤としては、疎水性ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどがあげられる。
このSnめっき液を使用してSn又はSn合金めっきを施すことにより、リフロー処理後に、表面Sn相のP濃度(C)と母材のP濃度(D)との比(C/D)が1.1〜2.0となる素地が作られる。Snめっき液の条件が上記の範囲外であると、比(C/D)は、所定範囲値内に収まらない。
次に、これらのめっき層に対し、230℃以上に加熱後、温度ばらつきが±2℃以下で制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却するリフロー処理を施すことにより、表面から母材にかけて、厚み:0.2μm以下の表面Sn相、厚み:0.2〜0.8μmのSn相、厚み:0.5〜1.4μmのSn−Cu合金相、厚み:0〜0.8μmのCu相の順で構成されたリフロー処理後のめっき皮膜層、及び、めっき皮膜層と母材との間に厚さ:0.8〜1.4μmの境界面層が形成される。
このリフロー処理にて、0.2μm以下の表面Sn相が形成され、Snめっき液中に含まれていたPは、表面Sn相に集中的に分散して、耐熱剥離性を向上させる役割を果たし、更に、めっき皮膜層と前記銅基合金板との間に厚み:0.8〜1.4μmの境界面層が形成されて、母材中のZnの一部が境界層中にマイグレーションして、母材に残留しているZn量との比が0.5〜0.8となり、良好な接触電気抵抗性が発揮される。
リフロー処理条件が上記の範囲外であると、上述のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板を形成することはできない。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、耐熱剥離性と接触電気抵抗性とが良好な値でバランスしたリフロー処理後のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態であるCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板の横断面を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図1を参照に説明する。
図1に示す様に、Cu−Ni−Si系銅合金Snめっき板1は、1.0〜4.0質量%のNi、0.2〜0.9質量%のSi、0.3〜1.5質量%のZn、0.001〜0.2質量%のPを含有し、残りがCu及び不可避的不純物より構成される銅合金板を母材2とし、厚み:0.2μm以下の表面Sn相5、厚み:0.2〜0.8μmのSn相6、厚み:0.5〜1.4μmのSn−Cu合金相7、厚み:0〜0.8μmのCu相8の順で構成されたリフロー処理後のめっき皮膜層4を有し、表面Sn相5のP濃度(C)と母材2のP濃度(D)との比(C/D)が1.1〜2.0であり、めっき皮膜層4と母材2との間の厚み:0.8〜1.4μmの境界面層3におけるZn濃度(A)と母材2のZn濃度(B)との比(A/B)が0.5〜0.8である。
【0020】
[銅合金板母材の成分組成]
Cu−Ni−Si系銅合金は高強度と高導電率とを併せ持つ代表的な銅合金であり、銅マトリックス中に微細なNi−Si系金属間化合物粒子が析出することにより、強度と導電率が上昇する。Cu−Ni−Si系銅合金中のNi及びSiは、時効処理を行うことにより、Ni2Siを主とする金属間化合物の微細な粒子が形成され、銅合金の強度が著しく増加し、電気伝導度も上昇する。
Niが1.0質量%未満、或いは、Siが0.2質量%未満であると、他方の成分を添加しても所望とする強度が得られない。また、Niが4.5質量%を超える、或いは、Siが1.0質量%を超えると、十分な強度は得られるものの、導電性は低くなり、更には強度の向上に寄与しない粗大なNi−Si系粒子(晶出物及び析出物)が母相中に生成され、曲げ加工性、エッチング性等の低下をきたす。
Znは、強度及び耐熱性を改善し、特にはんだ接合の耐熱性を改良する効果がある。
0.3〜1.5質量%の範囲で添加し、この範囲を下回ると所望の効果が得られず、上回ると導電性が低下する。
また、Znは、めっき後のリフロー処理時や高温での使用時に、母材から境界層、Sn−Cu合金相、Sn相、表面Sn相にマイグレーションするが、境界層にマイグレーションするZn濃度と母材に残留しているZn濃度との比を0.5〜0.8とすることにより、接触電気抵抗性を良好に維持する。
Pは、曲げ加工によって起るばね性の低下を抑制する効果がある。0.001〜0.2質量%の範囲で添加し、0.001%未満では、所望の効果が得られず、0.2%を超えると、はんだ耐熱剥離性を著しく損なう。
また、Pは、Znに比較して母材からのマイグレーションの度合いは小さく、Snめっき液よりのPに主に起因する表面Sn相のP濃度と母材に残留しているP濃度との比を1.1〜2.0とすることにより、耐熱剥離性を良好に維持する。
【0021】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板の銅合金板母材は、Snを0.2〜0.8質量%含有することが好ましい。
Snには、強度及び耐熱性を改善する効果があり、耐応力緩和性を改善する効果もある。Snは0.2〜0.8質量%の範囲で添加する。この範囲を下回ると所望の効果が得られず、上回ると導電性が低下する。
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板の銅合金板母材は、Mgを0.001〜0.2質量%含有することが好ましい。
Mgには応力緩和特性及び熱間加工性を改善する効果があるが、0.001質量%未満では効果がなく、0.2質量%を超えると、鋳造性(鋳肌品質の低下)、熱間加工性、めっき耐熱剥離性が低下する。
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板の銅合金板母材は、Fe:0.007〜0.25質量%、C:0.0001〜0.001質量%、Cr:0.001〜0.3質量%、Zr:0.001〜0.3質量%を1種又は2種以上を含有することが好ましい。
Feには、熱間圧延性を向上させ(表面割れや耳割れの発生を抑制する)、NiとSiの析出化合物を微細化し、メッキ加熱密着性を向上させる効果があるが、その含有量が0.007%未満では、所望の効果が得られず、一方、その含有量が0.25%を超えると、熱間圧延性の向上効果が飽和し、導電性にも悪影響を及ぼすようになることから、その含有量を0.007〜0.25%と定めた。
Pには、曲げ加工によって起るばね性の低下を抑制する効果があるが、その含有量が0.001%未満では所望の効果が得られず、一方、その含有量が0.2%を超えると、はんだ耐熱剥離性を著しく損なうようになることから、その含有量を0.001〜0.2%と定めた。
Cには、プレス打抜き加工性を向上させ、更にNiとSiの析出化合物を微細化させることにより合金の強度を向上させる効果があるが、その含有量が0.0001%未満では所望の効果が得られず、一方、0.001%を越えると、熱間加工性に悪影響を与えるので好ましくなく、その含有量は0.0001〜0.001%と定めた。
Cr及びZrには、Cとの親和力が強くCu合金中にCを含有させ易くするほか、NiおよびSiの析出化合物を一層微細化して合金の強度を向上させ、それ自身の析出によって強度を一層向上させる効果を有するが、含有量が0.001%未満では、合金の強度向上効果が得られず、0.3%を超えると、Cr及び/またはZrの大きな析出物が生成し、めっき性が悪くなり、プレス打抜き加工性も悪くなり、更に熱間加工性が損なわれるので好ましくなく、これらの含有量はそれぞれ0.001〜0.3%に定めた。
【0022】
[めっき皮膜層、境界面層、P濃度、Zn濃度]
本発明では、めっき皮膜層4は、その表面から母材2にかけて、厚み:0.2μm以下の表面Sn相5、厚み:0.2〜0.8μmのSn相6、厚み:0.5〜1.4μmのSn−Cu合金相7、厚み:0〜0.8μmのCu相8の順で構成されている。
表面Sn相5とは、直下に存在するSn相6と明確に区別することは難しいが、Sn相6と比較してP濃度が著しく高く、その厚みが0.2μm以下の相である。厚みが0.2μmを超えると、めっき耐熱剥離性を向上させる効果が飽和して無駄となる。
Sn相6の厚みが0.2μm未満では、半田濡れ性が低下し、厚みが0.8μmを超えると、加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなる。
Sn−Cu合金相7は、硬質であり、その厚みが0.5μm未満では、コネクタとして使用時の挿入力の低減効果が薄れて強度が低下し、厚みが1.4μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層4に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
Cu相8の厚みが0.8μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層4内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
境界面層3の厚みが0.8μm未満では、加熱時に、めっき皮膜層4と母材2との間で剥離が生じる恐れがあり、厚みが1.4μmを超えると、接触電気抵抗性を低減する効果が減少する。
表面Sn相5のP濃度(C)と母材2のP濃度(D)との比(C/D)が1.1未満であると、耐熱剥離性が低下し、比(C/D)が2.0を超えると、効果が飽和して無駄である。
表面Sn相5に存在するPは、主としてSnめっき液に中に含有されたPに起因するものである。
境界面層3におけるZn濃度(A)と母材2のZn濃度(B)との比(A/B)が0.5未満であると、接触電気抵抗性が低下し、比(A/B)が0.8を超えると、効果が飽和し、高温使用時の耐久性も低下する傾向が見られる。
表面Sn相5に存在するPは、Snめっき液よりのPに主に起因するものである。
境界面層3に存在するZnは、母材2から境界層3にマイグレーションされたZnに起因するものである。
本発明での表面Sn相5のP濃度とは、銅合金Snめっき板1の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたP濃度プロファイルにおいて、表面Sn相5に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
本発明での境界面層3のZn濃度とは、銅合金Snめっき板1の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたZn濃度プロファイルにおいて、境界面層3に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
【0023】
[製造方法]
製造方法としては、先ず、成分組成が1.0〜4.0質量%のNi、0.2〜0.9質量%のSi、0.3〜1.5質量%のZn、0.001〜0.2質量%のPを含有し、残りがCu及び不可避的不純物より構成されるCu−Ni−Si系銅合金母材1の表面に、Cu又はCu合金めっきをリフロー処理後のめっき厚み、及び、境界面層厚みを考慮して所定の厚みにめっき層を形成し、更に、その表面に、Sn又はSn合金をリフロー処理後のめっき厚みを考慮して所定の厚みにめっき層を形成する。
Cu又はCu合金めっき条件の一例を表1に、Sn又はSn合金めっき条件の一例を表2に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
この場合、Cu−Ni−Si系銅合金は、基本的に、本発明の成分範囲に調合した材料を溶解鋳造により銅合金鋳塊を作製、この銅合金鋳塊を熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、最終冷間圧延をこの順序で含む工程で製造されたものであれば種類は問わない。
例えば、熱間圧延最終パス終了後の冷却開始温度を350〜450℃で実施し、溶体化処理前の冷間圧延を1パス当たりの平均圧延率を15〜30%にて総圧延率を70%以上で実施し、溶体化処理を800〜900℃で60〜120秒間で実施し、時効処理を400〜500℃で7〜14時間で実施して製造される。
そして、上述のSn又はSn合金のめっきの際に、Pを0.01質量%以下含有し、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用する。この表面張力及び粘度は、リフロー処理後の表面Sn相5のP濃度を決定する重要な因子となる。
また、Snめっき液は、めっきの性状や均質性を保つために、消泡試験において2分後に泡が半減する消泡剤を使用し、適量の光沢剤、界面活性剤を含むことが好ましい。この光沢剤、消泡剤、界面活性剤は、表面張力や粘度を調整する役割もはたす。
光沢剤としては、親水性ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマー、エチレンジアミンEO−PO付加物、クミルフェノールEO付加物、界面活性剤としては、ピロガロール或いはハイドロキノン、消泡剤としては、疎水性ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどがあげられる。
このSnめっき液を使用してSn又はSn合金めっきを施すことにより、リフロー処理後に、表面Sn相のP濃度(C)と母材のP濃度(D)との比(C/D)が1.1〜2.0となる素地が作られる。Snめっき液の条件が上記の範囲外であると、比(C/D)は、所定範囲値内に収まらない。
次に、これらのめっき層に対し、230℃以上に加熱後、温度のばらつきが±2℃以下に制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却するリフロー処理を施すことにより、表面から母材2にかけて、厚み:0.2μm以下の表面Sn相5、厚み:0.2〜0.8μmのSn相6、厚み:0.5〜1.4μmのSn−Cu合金相7、厚み:0〜0.8μmのCu相8の順で構成されたリフロー処理後のめっき皮膜層4、及び、めっき皮膜層4と母材2との間に厚さ:0.8〜1.4μmの境界面層3が形成される。
このリフロー処理は、例えば、めっき層を20〜75℃/秒の昇温速度で240〜300℃のピーク温度まで加熱する加熱工程と、ピーク温度に達した後、30℃/秒以下の冷却速度で2〜10秒間冷却する一次冷却工程と、一次冷却後に100〜250℃/秒の冷却速度で20〜60℃まで冷却する二次冷却工程で実施する。
この場合、特に、加熱後の冷却工程を通して、冷却媒体の温度が±2℃以下に制御されていないと、加熱後の急冷が安定せず、本発明の効果を得ることが難しくなる。冷却媒体は水であることが好ましい。
このリフロー処理にて、0.2μm以下の表面Sn相5が形成され、Snめっき液中に含まれていたPは、表面Sn相5に集中的に分散して、耐熱剥離性を向上させる役割を果たし、更に、めっき皮膜層4と母材2との間に厚み:0.8〜1.4μmの境界面層3が形成されて、母材2中のZnの一部が境界層3中にマイグレーションして、母材2に残留しているZn量との比が0.5〜0.8となり、良好な接触電気抵抗性が発揮される。
リフロー処理条件が上記の範囲外であると、上述のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板を形成することはできない。
【実施例】
【0027】
表3に示す成分となるように材料を調合し、還元性雰囲気の低周波溶解炉を用いて溶解後に鋳造して、厚さ80mm、幅200mm、長さ800mmの寸法の銅合金鋳塊を製造した。この銅合金鋳塊を900〜980℃に加熱した後、表3に示すように、熱間圧延の最終パス終了後の冷却開始温度を変えて熱間圧延を施し、厚さ11mmの熱延板とし、この熱延板を水冷した後に両面を0.5mm面削した。次に、圧延率87%にて冷間圧延を施して、厚さ1.3mmの冷延薄板を作製した後、710〜750℃で7〜15秒間保持の連続焼鈍を施した後、酸洗い、表面研磨を行い、更に、表3に示すように、1パス当たりの平均圧延率、総圧延率を変えて冷間圧延を施し、厚さ0.3mmの冷延薄板を作製した。
この冷延板を表3に示すように、温度、時間を変えて溶体化処理を施し、引続き、表1に示すように、温度、時間を変えて時効処理を施し、酸洗処理後、最終冷間圧延を施し、実施例及び比較例の銅合金薄板を作製した。
【0028】
【表3】
【0029】
これらの銅合金薄板からめっき用の試料を切出し、リフロー後のそれぞれのめっき厚みを考慮して、表1の条件でCuめっき、次に、P濃度、表面張力、粘度を表4に示すSnめっき液(P濃度、表面張力、粘度以外の条件については表2の条件とした)でSnめっきを施した。Snめっき液の界面活性剤としては、ピロガロール、光沢剤としては、エチレンジアミンEO−PO付加物、消泡剤としては、疎水性ポリオキシエチレンを使用した。
次に、これらのCuめっき、Snめっきが順に施された試料につき、表4に示す条件にて、リフロー炉及び水冷槽でリフロー処理を施して、銅合金薄板リフローめっき板を作製した。
これらのリフローめっき板から試料を切出し、表面Sn相、Sn相、Sn−Cu合金相、Cu相の順で構成されためっき皮膜層の各相の厚み、及び、めっき皮膜層と銅基合金板との間の境界面層の厚みを測定した。これらの結果を表4に示す。
【0030】
【表4】
【0031】
各々の厚みの測定は、これらのリフローめっき板の断面をTEM−EDS分析にて観察して求めた。
次に、これらの試料につき、表面Sn相のP濃度、境界面層のZn濃度、銅合金母材のP濃度及びZn濃度を測定し、(表面Sn相のP濃度/銅合金母材のP濃度)の値、(境界面層のZn濃度/銅合金母材のZn濃度)の値を求めた。これらの結果を表5に示す。
P濃度、Zn濃度の測定は、GDSによる表面分析による深さ方向の濃度プロファイルから求めた。GDSの測定条件は次の通りである。
(測定条件)
前処理:アセトン溶剤中に浸漬し、超音波洗浄機を用いて38kHz 5分間 前処理を行う。
装置:堀場製作所製 マーカス型グロー放電発光表面分析装置 JY5000RF
測定条件:RFモード
出力35W、Arガス圧600Pa
Module/Phase=800/400
アノードサイズ2mm
Flush time20sec
Background acquis10sec
Pre-integration time30sec
Surface acquisition60sec
Average time0.080sec/pts
Bulk acquisition10sec
次に、これらの試料につき、耐熱剥離性及び接触電気抵抗性を測定した。これらの結果を表5に示す。
耐熱剥離性は、幅10mmの短冊試験片を採取し、170℃の温度で大気中3000時間まで加熱した。その間、100時間毎に試料を加熱炉から取り出し、曲げ半径0.5mmの90°曲げと曲げ戻し(90°曲げを往復一回)を行った。次に、曲げ内周部表面に粘着テープ(スリーエム社製#851)を貼り付け引き剥がした。その後、試料の曲げ内周部表面を光学顕微鏡(倍率50倍)で観察し、めっき剥離の有無を調べた。そして、めっき剥離が発生するまでの加熱時間を求めた。表5中、「>3000」は3000時間までの試験では剥離が生じなかったことを示す。
接触電気抵抗性は、大気中、155℃で400時間加熱した試料に対し、山崎精機製、接点シミュレータ(商品名CRS−1)を使用し、四端子法により接触電気抵抗を測定した。測定条件は次の通りである。
接触荷重:50g。
電流:200mA
摺動速度:1mm/分、摺動距離:1mm。
表5にて、◎は155℃、大気雰囲気で400時間加熱後も接触電気抵抗10mΩ以下、○は10〜20mΩ未満、△は20〜50mΩ、×は50mΩを超えたことを表す。
【0032】
【表5】
【0033】
これらの結果より、実施例は比較例1〜9と比べて、耐熱剥離性と接触電気抵抗性に優れており、耐熱剥離性と接触電気抵抗性とが良好な値でバランスしていることがわかる。
即ち、本発明の製造方法により製造されたリフロー処理後のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板は、耐熱剥離性と接触電気抵抗性とが良好な値でバランスしていることがわかる。
【0034】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 Cu−Ni−Si系銅合金Snめっき板
2 銅合金板母材
3 境界面層
4 めっき皮膜層
5 表面Sn相
6 Sn相
7 Sn−Cu合金相
8 Cu相
図1