【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの事情に鑑み、発明者らは鋭意検討の結果、リフロー処理後のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板のめっき耐熱剥離性と接触電気抵抗性を良好な値でバランスさせるには、めっき皮膜層の表面Sn相中に存在するP濃度と銅合金母材中に存在するP濃度との比がめっき耐熱剥離性の向上に大きく影響し、めっき皮膜層と銅合金母材との間の境界面層に存在するZn濃度と銅合金母材中に存在するZn濃度との比が、接触電気抵抗性の向上に大きく影響し、これらのP濃度比、Zn濃度比を最適な範囲に調整することにより、その目的が達成されることを見出した。
また、このリフロー処理後のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板を製造するには、最適な組成及び性状のSnめっき液を使用し、最適なリフロー条件にて熱処理することにより、上述の最適なP濃度比、Zn濃度比が具現化され、めっき耐熱剥離性と接触電気抵抗性とが良好な値でバランスすることも見出した。
【0008】
即ち、本発明は、1.0〜4.0質量%のNi、0.2〜0.9質量%のSi、0.3〜1.5質量%のZn、0.001〜0.2質量%のPを含有し、残りがCu及び不可避的不純物より構成される銅合金板を母材とし、表面から前記母材にかけて、厚み:0.2μm以下の表面Sn相、厚み:0.2〜0.8μmのSn相、厚み:0.5〜1.4μmのSn−Cu合金相、厚み:0〜0.8μmのCu相の順で構成され
ためっき皮膜層を有し、前記表面Sn相のP濃度(C)と前記母材のP濃度(D)との比(C/D)が1.1〜2.0であり、前記めっき皮膜層と前記母材との間の厚み:0.8〜1.4μmの境界面層におけるZn濃度(A)と前記母材のZn濃度(B)との比(A/B)が0.5〜0.8であることを特徴とする。
【0009】
本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板は、母材の成分が1.0〜4.0質量%のNi、0.2〜0.9質量%のSi、0.3〜1.5質量%のZn、0.001〜0.2質量%のPを含有し、残りがCu及び不可避的不純物より構成され、その母材表面に形成された境界面層を介してリフロー処理後のめっき皮膜層が形成されている。
Cu−Ni−Si系銅合金は高強度と高導電率とを併せ持つ代表的な銅合金であり、銅マトリックス中に微細なNi−Si系金属間化合物粒子が析出することにより、強度と導電率が上昇する。Cu−Ni−Si系銅合金中のNi及びSiは、時効処理を行うことにより、Ni2Siを主とする金属間化合物の微細な粒子が形成され、銅合金の強度が著しく増加し、電気伝導度も上昇する。
Niが1.0質量%未満、或いは、Siが0.2質量%未満であると、他方の成分を添加しても所望とする強度が得られない。また、Niが4.5質量%を超える、或いは、Siが1.0質量%を超えると、十分な強度は得られるものの、導電性は低くなり、更には強度の向上に寄与しない粗大なNi−Si系粒子(晶出物及び析出物)が母相中に生成され、曲げ加工性、エッチング性等の低下をきたす。
Znは、強度及び耐熱性を改善し、特にはんだ接合の耐熱性を改良する効果がある。
0.3〜1.5質量%の範囲で添加し、この範囲を下回ると所望の効果が得られず、上回ると導電性が低下する。
また、Znは、めっき後のリフロー処理時や高温での使用時に、母材から境界面層、Sn−Cu合金相、Sn相、表面Sn相にマイグレーションするが、境界面層にマイグレーションするZn濃度と母材に残留しているZn濃度との比を0.5〜0.8とすることにより、接触電気抵抗性を良好に維持する。
Pは、曲げ加工によって起るばね性の低下を抑制する効果がある。0.001〜0.2質量%の範囲で添加し、0.001%未満では、所望の効果が得られず、0.2%を超えると、はんだ耐熱剥離性を著しく損なう。
また、Pは、Znに比較して母材からのマイグレーションの度合いは小さく、Snめっき液よりのPに主に起因する表面Sn相のP濃度と母材に残留しているP濃度との比を1.1〜2.0とすることにより、耐熱剥離性を良好に維持する。
【0010】
本発明では、めっき皮膜層は、その表面から母材にかけて、厚み:0.2μm以下の表面Sn相、厚み:0.2〜0.8μmのSn相、厚み:0.5〜1.4μmのSn−Cu合金相、厚み:0〜0.8μmのCu相の順で構成されている。
表面Sn相とは、直下に存在するSn相と明確に区別することは難しいが、Sn相と比較してP濃度が著しく高く、その厚みが0.2μm以下の相である。厚みが0.2μmを超えると、めっき耐熱剥離性を向上させる効果が飽和して無駄となる。
Sn相の厚みが0.2μm未満では、半田濡れ性が低下し、厚みが0.8μmを超えると、加熱した際にめっき層内部に発生する熱応力が高くなる。
Sn−Cu合金相は、硬質であり、その厚みが0.5μm未満では、コネクタとしての使用時の挿入力の低減効果が薄れて強度が低下し、厚みが1.4μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
Cu相の厚みが0.8μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき剥離が促進されて好ましくない。
境界面層の厚みが0.8μm未満では、加熱時に、めっき皮膜層と母材との間で剥離が生じる恐れがあり、厚みが1.4μmを超えると、接触電気抵抗性を低減する効果が減少する。
【0011】
表面Sn相のP濃度(C)と母材のP濃度(D)との比(C/D)が1.1未満であると、耐熱剥離性が低下し、比(C/D)が2.0を超えると、効果が飽和して無駄である。
表面Sn相に存在するPは、主にSnめっき液に中に含有されたPに起因するものである。
境界面層におけるZn濃度(A)と母材のZn濃度(B)との比(A/B)が0.5未満であると、接触電気抵抗性が低下し、比(A/B)が0.8を超えると、効果が飽和し、高温使用時の耐久性も低下する傾向が見られる。
表面Sn相に存在するPは、Snめっき液よりのPに主に起因するものである。
境界面層に存在するZnは、母材から境界層にマイグレーションされたZnに起因するものである。
本発明での表面Sn相のP濃度とは、銅合金Snめっき板の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたP濃度プロファイルにおいて、表面Sn相に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
本発明での境界面層のZn濃度とは、銅合金Snめっき板の深さ方向のGDS(グロー放電発光分光分析装置)により求めたZn濃度プロファイルにおいて、境界面層に該当する位置に現れるピーク頂点の濃度である。
【0012】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板において、前記母材は、Snを0.2〜0.8質量%含有することを特徴とする。
Snには、強度及び耐熱性を改善する効果があり、耐応力緩和性を改善する効果もある。Snは0.2〜0.8質量%の範囲で添加する。この範囲を下回ると所望の効果が得られず、上回ると導電性が低下する。
【0013】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板において、前記母材は、Mgを0.001〜0.2質量%含有することを特徴とする。
Mgには応力緩和特性及び熱間加工性を改善する効果があるが、0.001質量%未満では効果がなく、0.2質量%を超えると、鋳造性(鋳肌品質の低下)、熱間加工性、めっき耐熱剥離性が低下する。
【0014】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板において、前記母材は、Fe:0.007〜0.25質量%
、Cr:0.001〜0.3質量%、Zr:0.001〜0.3質量%を1種又は2種以上を含有することを特徴とする。
Feには、熱間圧延性を向上させ(表面割れや耳割れの発生を抑制する)、NiとSiの析出化合物を微細化し、メッキ加熱密着性を向上させる効果があるが、その含有量が0.007%未満では、所望の効果が得られず、一方、その含有量が0.25%を超えると、熱間圧延性の向上効果が飽和し、導電性にも悪影響を及ぼすようになることから、その含有量を0.007〜0.25%と定めた。
Pには、曲げ加工によって起るばね性の低下を抑制する効果があるが、その含有量が0.001%未満では所望の効果が得られず、一方、その含有量が0.2%を超えると、はんだ耐熱剥離性を著しく損なうようになることから、その含有量を0.001〜0.2%と定めた
。
Cr及びZrには
、NiおよびSiの析出化合物を一層微細化して合金の強度を向上させ、それ自身の析出によって強度を一層向上させる効果を有するが、含有量が0.001%未満では、合金の強度向上効果が得られず、0.3%を超えると、Cr及び/またはZrの大きな析出物が生成し、めっき性が悪くなり、プレス打抜き加工性も悪くなり、更に熱間加工性が損なわれるので好ましくなく、これらの含有量はそれぞれ0.001〜0.3%に定めた。
【0015】
更に、本発明のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板の製造方法は、
前記母材の表面に、Cu又はCu合金、Sn又はSn合金をこの順にめっきしてそれぞれのめっき層を形成した後、加熱してリフロー処理する
に当たり、前記Sn又はSn合金のめっき層を形成時に、0.01質量%以下のPを含有し、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用し、前記リフロー処理は、前記それぞれのめっき層を230℃以上に加熱後、温度のばらつきが±2℃以下に制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却することを特徴とする。
【0016】
製造方法としては、先ず
、母材の表面に、Cu又はCu合金めっきをリフロー処理後のめっき厚み、及び、境界面層厚み考慮して所定の厚みにめっき層を形成し、更に、その表面に、Sn又はSn合金をリフロー処理後のめっき厚みを考慮して所定の厚みにめっき層を形成する。
この場合、Sn又はSn合金のめっきの際に、Pを0.01質量%以下含有し、表面張力が40〜60mN/mであり、粘度が1.2〜1.8mPa・sであるSnめっき液を使用する。
また、Snめっき液は、めっきの性状や均質性を保つために、消泡試験において2分後に泡が半減する消泡剤を使用し、適量の光沢剤、界面活性剤を含むことが好ましい。この光沢剤、消泡剤、界面活性剤は、表面張力や粘度を調整する役割もはたす。
光沢剤としては、親水性ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマー、エチレンジアミンEO−PO付加物、クミルフェノールEO付加物、界面活性剤としては、ピロガロール或いはハイドロキノン、消泡剤としては、疎水性ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどがあげられる。
このSnめっき液を使用してSn又はSn合金めっきを施すことにより、リフロー処理後に、表面Sn相のP濃度(C)と母材のP濃度(D)との比(C/D)が1.1〜2.0となる素地が作られる。Snめっき液の条件が上記の範囲外であると、比(C/D)は、所定範囲値内に収まらない。
次に、これらのめっき層に対し、230℃以上に加熱後、温度ばらつきが±2℃以下で制御された媒体中にて20〜60℃まで冷却するリフロー処理を施すことにより、表面から母材にかけて、厚み:0.2μm以下の表面Sn相、厚み:0.2〜0.8μmのSn相、厚み:0.5〜1.4μmのSn−Cu合金相、厚み:0〜0.8μmのCu相の順で構成されたリフロー処理後のめっき皮膜層、及び、めっき皮膜層と母材との間に厚さ:0.8〜1.4μmの境界面層が形成される。
このリフロー処理にて、0.2μm以下の表面Sn相が形成され、Snめっき液中に含まれていたPは、表面Sn相に集中的に分散して、耐熱剥離性を向上させる役割を果たし、更に、めっき皮膜層と前記銅基合金板との間に厚み:0.8〜1.4μmの境界面層が形成されて、母材中のZnの一部が境界層中にマイグレーションして、母材に残留しているZn量との比が0.5〜0.8となり、良好な接触電気抵抗性が発揮される。
リフロー処理条件が上記の範囲外であると、上述のCu−Ni−Si系銅合金Snめっき板を形成することはできない。