特許第5986831号(P5986831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5986831フィルムの搬送方法及び光学フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986831
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】フィルムの搬送方法及び光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20160823BHJP
   B65H 23/188 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   G02B5/30
   B65H23/188
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-155212(P2012-155212)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-15319(P2014-15319A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷澤 克也
(72)【発明者】
【氏名】松本 匡弘
【審査官】 冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−82249(JP,A)
【文献】 特開2007−314707(JP,A)
【文献】 特開2012−56995(JP,A)
【文献】 特開2004−264636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H20/00−20/40、23/00−26/08
C08J7/00
G02B1/10−1/18、5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィン系樹脂からなる厚み50μmから100μmである光学フィルムを直径150mmから600mmである張架ロールで張架しながら、タッチロールと前記張架ロールで前記光学フィルムの前記張架ロールとの接触開始位置近傍を線圧0.1kg/cmから10kg/cmでニップし、前記光学フィルムを搬送させる光学フィルムの製造方法であって、
前記光学フィルムの搬送張力が下記式[1]を満たし、且つ、前記タッチロールで前記光学フィルムをニップした後の搬送張力の最大値と搬送張力の設定値との差である搬送張力の変動値が下記式[2]を満たすように搬送されることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
170≦X≦400・・・[1]
Y<50・・・[2]
[式[1]中、Xは前記光学フィルムの搬送張力(N/m)を表す。]
[式[2]中、Yは前記タッチロールで前記フィルムをニップした後の搬送張力の最大値
と搬送張力の設定値との差である搬送張力の変動値(N/m)を表す。]
【請求項2】
前記タッチロールは、前記光学フィルムの搬送が停止している状態でニップすることを特徴とする請求項1記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記張架ロールは、コロナ放電の処理ロールであることを特徴とする請求項1又は2記
載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記光学フィルムは、少なくとも一方の表面に保護フィルムが積層されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学フィルム等の製造において、ロール上に張架されたフィルムに発生するシワを防止するフィルムの搬送方法及び光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からフィルム表面を活性化し、接着性、塗工性(濡れ性)等の表面特性を向上させ、2次加工を効果的に施すことを目的としたフィルム表面の改質技術としてコロナ放電処理が広く知られている。
【0003】
このコロナ放電処理は、コロナ放電の電極と対向電極となるコロナ放電の処理ロールとの間にフィルムを通し、高周波の高電圧を電極に印加して発生したコロナ放電をフィルム表面に接触させることで、極性基をフィルム表面に発生させて表面改質を行う方法である。そして、このようなコロナ放電処理は、コロナ放電処理が以降の2次加工を効果的に施すことを目的としている為、例えば、光学フィルムの製造においては、コロナ放電処理を施したフィルムに次の加工を連続で施すことが可能になるように製造ライン中へ配置されている。
【0004】
しかし、コロナ放電処理は処理を施したフィルムの処理表面のみにコロナ放電の処理効果を施すものであるが、(1)フィルムとコロナ放電の処理ロールとの密着性が低い、(2)フィルムによるコロナ放電の処理ロールの抱角が小さい、(3)フィルムがコロナ放電の処理ロールへ導入される前にシワがあること等が原因で、フィルムとコロナ放電の処理ロールとの間に空気が介在し、処理表面だけでなく、フィルムの裏面(非処理面)がコロナ処理される「裏抜け」が起きる。この裏抜けしたフィルムは、非処理面の濡れムラ、スリップ性能悪化による加工不良や非処理面の離型性の阻害等を引き起こす。そこで、フィルムとコロナ放電の処理ロールとの密着性を向上させ、フィルムの裏抜けを抑制する有効な方法として、上流側のフィルムがコロナ放電の処理ロールと接触する点をタッチロールでニップする方法が知られている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−314707
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、タッチロールを用いてフィルムをニップしフィルムとコロナ放電の処理ロールとの密着性を向上させてフィルムへコロナ放電処理を施す際、タッチロールにより搬送しているフィルムをニップすると、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生する問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題に鑑みなされたもので、タッチロールでフィルムをニップするフィルムの搬送方法において、フィルムを張架して搬送する張架ロール上のフィルムにシワが発生することがないフィルムの搬送方法及び光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、タッチロールを用いたフィルムの搬送方法において、フィルムのニップ直後にフィルムを張架して搬送する張架ロール上のフィルムにシワが発生する原因を検討した結果、(1)フィルムの張架ロールへの密着力が弱いと発生する事、(2)タッチロールがフィルムをニップした際の搬送張力の変動により発生する事を突き止めた。すなわち、本発明者らは適切な搬送張力下でフィルムと張架ロールとを密着させ、タッチロールがフィルムをニップする際の搬送張力の変動を抑えることでフィルムのシワが発生するのを防ぐことが出来ることを見出し、本発明に至ったものである。
【0009】
本発明によれば、
(1)シクロオレフィン系樹脂からなる厚み50μmから100μmである光学フィルムを直径150mmから600mmである張架ロールで張架しながら、タッチロールと前記張架ロールで前記光学フィルムの前記張架ロールとの接触開始位置近傍を線圧0.1kg/cmから10kg/cmでニップし、前記光学フィルムを搬送させる光学フィルムの製造方法であって、
前記光学フィルムの搬送張力が下記式[1]を満たし、且つ、前記タッチロールで前記光学フィルムをニップした後の搬送張力の最大値と搬送張力の設定値との差である搬送張力の変動値が下記式[2]を満たすように搬送されることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
170≦X≦400・・・[1]
Y<50・・・[2]
[式[1]中、Xは前記光学フィルムの搬送張力(N/m)を表す。]
[式[2]中、Yは前記タッチロールで前記フィルムをニップした後の搬送張力の最大値
と搬送張力の設定値との差である搬送張力の変動値(N/m)を表す。]
(2)前記タッチロールは、前記光学フィルムの搬送が停止している状態でニップすることを特徴とする(1)記載の光学フィルムの製造方法。
(3)前記張架ロールは、コロナ放電の処理ロールであることを特徴とする(1)又は(2)記載の光学フィルムの製造方法。
(4)前記光学フィルムは、少なくとも一方の表面に保護フィルムが積層されていることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフィルムの搬送方法によれば、フィルムを張架して搬送する張架ロールに張架したフィルムを適切な搬送張力下でフィルムと張架ロールとを密着させ、タッチロールがフィルムをニップする際の搬送張力の変動を抑えることができる為、張架ロール上のフィルムにシワが発生することを防ぐことが出来る。すなわち、本発明は、タッチロールでフィルムをニップして搬送する場合に適用可能である為、コロナ放電の処理ロールに適用した場合は、フィルムにコロナ放電処理の裏抜けが発生することを防ぐことができる。そして、以降の2次加工でコロナ放電処理の裏抜けによる加工不良が起きることがない為、高品質な光学フィルムを高い生産効率で製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のフィルムの搬送方法に係る実施形態を示す、コロナ放電処理装置の模式図である。
図2】本発明のフィルムの搬送方法を実施した際のフィルムの搬送張力の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、タッチロールを用いたフィルムの搬送方法において、フィルムを張架して搬送する張架ロール上のフィルムにシワが発生することがないフィルムの搬送方法及び光学フィルムの製造方法に関するものである。以下に本発明の詳細を説明する。
【0013】
本発明の1実施形態に係るフィルムの搬送方法をコロナ放電処理に適用した場合について、図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、コロナ放電処理装置は、コロナ放電面に電極部6が配置された複数のコロナ放電電極5と、コロナ放電電極5の対向電極となるコロナ放電の処理ロール2とを備える。そして、フィルム1をコロナ放電の処理ロール2で張架しながら搬送し、コロナ放電電極5から発生したコロナ放電をフィルム1の処理表面に接触させることでコロナ放電処理を施す構造となっている。ここで、フィルム1とコロナ放電の処理ロール2との間に空気が介在すると、フィルム1の処理表面だけでなく、フィルム1の非処理面がコロナ処理される裏抜けが起きる為、フィルム1とコロナ放電の処理ロール2との接触開始位置近傍をタッチロール3とコロナ放電の処理ロール2でニップし、フィルム1とコロナ放電の処理ロール2の密着性を向上させてフィルム1にコロナ放電処理の裏抜けが発生することを防ぐ構造となっている。
【0014】
しかしながら、タッチロールを用いてフィルムをニップしフィルムとコロナ放電の処理ロールとの密着性を向上させてフィルムへコロナ放電処理を施す際、タッチロールが搬送しているフィルムをニップすると、(1)フィルムの張架ロールへの密着力が弱い、(2)タッチロールがフィルムをニップした際の搬送張力の変動により、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生する問題がある。
【0015】
そこで、本発明は、フィルムの搬送張力が低く、フィルムとコロナ放電の処理ロールとの密着性が弱いことによるフィルムのシワの発生を防ぐ為、下記式[1]を満たすように搬送張力(X)を設定し、フィルムとコロナ放電の処理ロールとの密着性を適切にすることを特徴としている。
170≦X≦400・・・[1]
[式[1]中、Xはフィルムの搬送張力(N/m)を表す。]
【0016】
本発明におけるフィルムの搬送張力(X)は、170N/m以上、400N/m以下の範囲である。フィルムの搬送張力(X)が170N/m以上であれば、フィルムとコロナ放電の処理ロールとの密着性を高めることができ、タッチロールがフィルムをニップする際の搬送張力の変動によりロール上のフィルムにシワが発生することを防ぐことが出来る。また、フィルムの搬送張力(X)が400N/mを超える場合、フィルムがMD方向に伸びる恐れがある。尚、フィルムの搬送張力は、テンションピックアップロール等の張力検出器を備えたロールによって公知の方法で測定すれば良い。
【0017】
次に、本発明は、タッチロールでフィルムをニップした後の搬送張力の最大値と搬送張力の設定値との差である搬送張力の変動値(Y)が下記式[2]を満たすことを特徴としている。
Y<50・・・[2]
[式[2]中、Yはタッチロールでフィルムをニップした後の搬送張力の最大値と搬送張力の設定値との差である搬送張力の変動値(N/m)を表す。]
ここでいうフィルムの搬送張力の変動値(Y)とは、タッチロールでフィルムをニップした後の搬送張力の最大値とフィルム搬送ラインの設定値との差である搬送張力の値を表す。図2は、表1の実施例3のフィルム搬送ラインの搬送張力の変動を示すグラフである。図2に示すように、フィルムの搬送張力は、タッチロールでニップした後にフィルムの搬送を開始すると搬送張力が上昇し、タッチロールのニップ直後に搬送張力が最大となる。また、図2に示すように、フィルムの搬送停止中においてもフィルムにシワが発生しない程度に搬送張力を制御していることが好ましい。
【0018】
表1の実施例1乃至5と比較例1乃至3の搬送張力の変動値(Y)を比較すると、実施例1乃至5は、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生せず、搬送張力の変動値(Y)が最大で14N/mとなっている。そして、比較例1乃至3は、タッチロールのニップ直後にフィルムのシワが発生し、搬送張力の変動値(Y)が50N/m以上となっている。この結果は、比較例1乃至3はタッチロールがフィルムをニップする際の搬送張力の変動が大きい為、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生していると考えられる。この結果から解るように、フィルムの搬送張力の変動値(Y)が式[2]を満たすように搬送張力の変動を抑制することで、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生することを未然に防ぐことが出来るものである。
【0019】
そして、本発明は、フィルムの搬送張力の変動を抑える為、タッチロールがフィルムをニップする際は、フィルムの搬送が停止している状態で行うことが特に好ましい。表1の実施例3乃至5と比較例2及び3を比較すると、タッチロールによるフィルムニップをフィルムの搬送中に行った比較例2及び3は、タッチロールによるフィルムのニップをフィルムの搬送停止中に行った実施例3乃至5よりも、搬送張力の変動値(Y)が大きい結果となっている。この結果から解るように、タッチロールによるフィルムのニップをフィルムの搬送停止中に行うことで、フィルムの搬送張力の変動を抑制し、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生する事をより確実に防ぐことが出来るものである。また、タッチロールによるフィルムのニップをフィルムの搬送停止中に行った比較例4は、搬送張力の変動値が8N/mと小さいにもかかわらず、フィルムのシワが発生した結果となっている。この結果は、フィルムの搬送張力が低く、フィルムとコロナ放電の処理ロールとの密着が弱い為、より小さい搬送張力の変動でフィルムにシワが発生したと考えられる。この結果から解るように、フィルムの搬送張力(X)が式[1]を満たすよう、適切な搬送張力下でフィルムとコロナ放電の処理ロールとを密着させ、更に、フィルムの搬送張力の変動値(Y)が式[2]満たすよう、搬送張力の変動を抑えることで、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生することを未然に防ぐことが出来るものである。
【0020】
ここで、本発明のフィルムの搬送方法に係るタッチロールによるフィルムのニップをフィルムの搬送が停止している状態で行う実施方法を例示する。光学フィルムの製造において、製造を開始する場合、先ず、パスライン全体にフィルムを通し、フィルムをコロナ放電の処理ロール上に張架する。次に、フィルムにシワが発生しない程度の張力をフィルムに付与し、フィルムとコロナ放電の処理ロールとを密着させる。そして、フィルムとコロナ放電の処理ロールとの密着性を向上させ、フィルムにコロナ放電処理の裏抜けが発生するのを防ぐ為、フィルムの搬送を停止している状態でタッチロールによりフィルムをニップし、フィルムの搬送張力が式[1]を満たすようにフィルムの搬送を開始する。このようなフィルムの搬送方法とすることで、フィルムの搬送張力の変動を抑制し、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生することを未然に防ぐことが出来るものである。
【0021】
本発明に用いられるコロナ放電の処理ロールの材質としては、鉄、アルミ、ステンレス等の金属製のロールであり、表面にハードクロムメッキやニッケルメッキ等が施されていても良い。更には、離形性が良く、鏡面が研磨できる、タングステンカーバイト等の溶射が施されていることが特に好ましい。また、表面が絶縁体によって被覆されていても良く、例えば、セラミック、ガラス、合成樹脂、合成ゴム等が挙げられる。尚、被覆方法にはメッキ、溶射、蒸着、塗布等があるが特に限定するものでは無い。
【0022】
本発明に用いられるコロナ放電の処理ロールの直径は、コロナ放電処理装置の仕様によって適宜選択することができるものであるが、本発明において好ましくは、150mmから600mmであり、より好ましくは、400mmから600mmである。処理ロールの直径が大径であると、フィルムと処理ロールとの接触面積が大きくなる為、コロナ放電電極を複数設置し、多段階でフィルムにコロナ放電処理を施すことが可能になる。但し、ロール径が大径になるほど、処理ロールとフィルムの密着性は低下する。
【0023】
本発明におけるフィルムによる処理ロールの抱角は、コロナ放電処理装置の仕様によって適宜選択することができるものであるが、本発明において好ましくは、90度以上、270度以下である。また、ここでいうフィルムによる処理ロールの抱角とは、図1に示すように、処理ロール軸方向に垂直な断面から見た際の処理ロールの中心点とフィルム繰り出し側のフィルムと処理ロールとの接触開始点とを結んだ直線と、処理ロールの中心点とフィルム巻き取り側のフィルムと処理ロールとの接触終了点とを結んだ直線とのなす角αである。フィルムによる処理ロールの抱角が90度以上、270度以下であると、フィルムに均一なコロナ放電処理を施すことが出来る。
【0024】
本発明に用いられるタッチロールとは、フィルムをタッチロールと処理ロールとの間でニップし、フィルムと処理ロールとの密着性を高めることを目的としたものである。そして、タッチロールは、上流側のフィルムとコロナ放電の処理ロールとの接触開始位置近傍をニップすることが好ましい。ここでいう、フィルムと処理ロールとの接触開始位置近傍とは、処理ロール軸方向に垂直な断面から見た際、処理ロールの中心点とフィルム繰り出し側のフィルムと処理ロールとの接触開始点とを結んだ直線と、処理ロールの中心点とタッチロールのニップ点とを結んだ直線とのなす角が30度以下になる位置である。
【0025】
本発明に用いられるタッチロールの材質としては、少なくとも表面が弾性層からなるロールであり、フィルムをニップした際に緩衝効果を有する程度の厚みがあれば、金属製ロールをゴム系材料で被覆した構成でも良い。弾性層の材質としては、例えば、クロロプレンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、EPDM、NBR等を好適に用いることが出来る。また、上記の弾性層には帯電防止を目的に導電性のカーボンブラックや金属フィラー、導電性樹脂が配合されていても良い。タッチロールの表面に導電性を持たせることにより、タッチロール表面が帯電するのを防止でき、ゴミ、ホコリ等の異物が付着することを減少させることが出来る。
【0026】
本発明に用いられるタッチロールの直径としては、フィルムとロールとの密着性を阻害しない範囲であれば、特に限定するものではないが、例えば、50mmから300mmである。
【0027】
本発明に用いられるタッチロールは、フィルムとロールとの密着性を阻害しない範囲であればどのような駆動方式を取っていても良く、タッチロールが駆動源を有さずにフィルムに追従して駆動する形態でも、タッチロールが駆動源を有し、フィルム搬送ライン速度と同調して駆動する形態でも良い。
【0028】
本発明に用いられるタッチロールのニップ圧力は、特に限定するものではないが、例えば、圧縮空気の圧力を利用してニップ圧力が調整される方法であっても良い。また、本発明に用いられるタッチロールのニップ圧力としては、フィルムの変形が起こらず、フィルムと処理ロールとの密着性が十分に確保でき、フィルムと処理ロールとの間に空気が介在しない程度の圧力であれば良い。例えば、線圧として0.1kg/cmから10kg/cmである。尚、タッチロールのニップ圧力の測定は、圧力測定フィルム等の公知の方法を用いて測定すれば良く、圧力測定フィルムとしては「プレスケール」(富士フイルム株式会社製、登録商標)がよく知られている。
【0029】
本発明に用いるフィルムとは、光学フィルムとして好適に使用可能な光学要素を有するポリマーからなるフィルム、又は、光学要素を有する光学機能層を付与するための基材として使用可能なポリマーからなるフィルムである。また、フィルムは単層である必要はなく、同一のポリマー又は異なるポリマーからなる多層であっても良く、更に、フィルムの片面又は両面に保護フィルムを積層しても良い。ここでいう、ポリマーとしては、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロースエステル系樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール系樹脂、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等のシクロオレフィン系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ナイロン等のアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂等を挙げることができる。これらの材料の中でも、光学フィルムとしてシクロオレフィン系樹脂からなるフィルムが耐湿性、耐熱性、透明性に優れ、光弾性係数が小さいので好適に用いられる。
また、保護フィルムとしては、これらの材料の中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンからなるフィルム又はポリエチレンテレフタレート等のポリエステルからなるフィルムが耐擦傷性、コストメリット等が良いので好適に用いられる。
尚、上記のフィルムには目的に応じて公知の添加剤が配合されていても良い。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、レターデーション発現剤などを挙げることができる。上記添加剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明のフィルムの搬送方法について、実施例によりさらに詳しく説明する。尚、実施例において行った物性の測定方法及び評価方法は次の如くである。
(1)搬送張力の設定値(X)
フィルム搬送ラインの駆動時における搬送張力の設定値である。尚、その単位を(N/m)として表した。
(2)搬送張力の変動値(Y)
テンションピックアップロールを備える張力検出器を用いて搬送張力を測定し、フィルムの搬送張力の最大値と搬送張力の設定値との差を算出した。尚、その単位を(N/m)として表した。
(3)タッチロールのニップ
タッチロールによるフィルムのニップを、フィルムの搬送中に行ったものを(搬送中)、フィルムの搬送停止中に行ったものを(停止中)とした。
(4)シワの発生
タッチロールによりフィルムをニップした状態でフィルムを搬送させ、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生しているか目視確認し、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生していないものを(○)、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生したものを(×)とした。
(5)表面改質の均一性
コロナ放電処理を施したフィルムの幅方向における表面改質の均一性をJIS K6768に準拠し、ぬれ張力試験用混合液[和光純薬工業株式会社製、表面張力:50mN/m]を用いて確認した。フィルム幅方向全域に同じ濡れ性を示したものを(○)、フィルム幅方向の濡れ性にバラつきを示したものを(×)とした。
【0031】
<フィルム>
◇フィルム(A):シクロオレフィン系樹脂フィルム(50μm)/ポリプロピレンフィルム(a)(30μm)の積層フィルム[全層厚み:80μm、基材幅:1450mm]
◇フィルム(B):シクロオレフィン系樹脂フィルム(100μm)/ポリプロピレンフィルム(a)(30μm)の積層フィルム[全層厚み:130μm、基材幅:1450mm]
◇フィルム(C):シクロオレフィン系樹脂フィルム(100μm)/ポリプロピレンフィルム(a)(30μm)の積層フィルム[全層厚み:130μm、基材幅:1400mm]
◇フィルム(D):シクロオレフィン系樹脂フィルム(100μm)/ポリプロピレンフィルム(b)(30μm)の積層フィルム[全層厚み:130μm、基材幅:1400mm]
【0032】
[実施例1]
図1に示す、直径500mmのコロナ放電の処理ロールと、ニップ圧力が8kg/cmで、直径が150mmのタッチロールを備えるコロナ放電処理装置を用い、フィルムとロールの抱角が180度、搬送張力が172N/mでフィルム(A)にコロナ放電処理を施した。尚、タッチロールによるフィルムのニップは、フィルムの搬送中にタッチロールでフィルムをニップし、フィルムへコロナ放電処理を施した。
[実施例2]
フィルム(B)を用い、フィルムの搬送張力を207N/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法によってフィルム(A)へコロナ放電処理を行った。
[実施例3]
フィルム(C)を用い、フィルムの搬送張力を214N/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法によってフィルム(C)へコロナ放電処理を行った。尚、タッチロールによるフィルムのニップは、フィルムの搬送停止中にタッチロールでフィルムをニップし、フィルムへコロナ放電処理を施した。
[実施例4]
フィルム(C)を用い、フィルムの搬送張力を286N/mに変更した以外は、実施例3と同様の方法によってフィルム(C)へコロナ放電処理を行った。
[実施例5]
フィルム(D)を用い、フィルムの搬送張力を286N/mに変更した以外は、実施例3と同様の方法によってフィルム(D)へコロナ放電処理を行った。
【0033】
各実施例のフィルムの厚み、基材幅、搬送張力の設定値、搬送張力の変動値、タッチロールのニップ、シワの発生及び表面改質の均一性の評価を行った結果を表1に示す。フィルムの搬送張力が式[1]を満たし、且つ、フィルムの搬送張力の変動値も式[2]を満たす実施例1乃至5は、搬送張力の変動値が最大で14N/mであり、フィルムにシワが発生する事がなかった。この結果からも解るように、本発明は、フィルムとコロナ放電の処理ロールとの密着性を適切にし、フィルムの搬送張力の変動を抑えることで、処理ロール上のフィルムにシワが発生する事を防止することが出来るものである。尚、本発明のフィルムの搬送方法を適用してコロナ放電処理が施されたフィルムは、幅方向全域に亘って均一な表面改質が行われていることが確認できた。
【0034】
[比較例1]
図1に示す、直径500mmのコロナ放電の処理ロールと、ニップ圧力が8kg/cmで、直径が150mmのタッチロールを備えたコロナ放電処理装置を用い、フィルムとロールの抱角が180度、搬送張力が152N/mでフィルム(A)にコロナ放電処理を施した。尚、タッチロールによるフィルムのニップは、フィルムの搬送中にタッチロールでフィルムをニップし、フィルムへコロナ放電処理を施した。
[比較例2]
フィルム(C)を用い、フィルムの搬送張力を271N/mに変更した以外は、比較例1と同様の方法によってフィルム(C)へコロナ放電処理を行った。
[比較例3]
フィルム(C)を用い、フィルムの搬送張力を286N/mに変更した以外は、比較例1と同様の方法によってフィルム(C)へコロナ放電処理を行った。
[比較例4]
フィルム(C)を用い、フィルムの搬送張力を157N/mに変更した以外は、比較例1と同様の方法によってフィルム(C)へコロナ放電処理を行った。尚、タッチロールによるフィルムのニップは、フィルムの搬送停止中にタッチロールでフィルムをニップし、フィルムへコロナ放電処理を施した。
【0035】
各比較例のフィルムの厚み、基材幅、搬送張力の設定値、搬送張力の変動値、タッチロールのニップ、シワの発生及び表面改質の均一性の評価を行った結果を実施例と同様に表1に示す。タッチロールによるフィルムのニップをフィルムの搬送中に行った比較例1乃至3は、タッチロールがニップした際の搬送張力の変動が50N/m以上であり、タッチロールのニップ直後に処理ロール上のフィルムにシワが発生した。また、タッチロールによるフィルムのニップをフィルムの搬送停止中に行った比較例4は、タッチロールがニップした際の搬送張力の変動は8N/mであり、搬送張力の変動が抑えてられているが、フィルムの搬送張力が157N/mと、式[1]を満たしていない為、処理ロール上のフィルムにシワが発生した。尚、フィルムにシワが発生した比較例1乃至3は、コロナ放電処理の裏抜けが発生し、表面改質のバラツキが見られた。
【0036】
【表1】
【0037】
以上の如く、本発明によれば、適切なフィルムの搬送張力下でフィルムと処理ロールとを密着させ、タッチロールがニップする際のフィルムの搬送張力の変動を抑制することによって、コロナ放電の処理ロール上のフィルムにシワが発生するのを防ぐことができる。また、上記実施形態では、本発明のフィルムの搬送方法をコロナ放電処理装置に適用した場合について説明したが、フィルムを張架ロールで張架してタッチロールと張架ロールでニップする形態であれば本発明のフィルムの搬送方法を適用することが出来る。
【符号の説明】
【0038】
1:フィルム
2:コロナ放電の処理ロール(張架ロール)
3:タッチロール
4:高圧電源
5:コロナ放電電極
6:電極部
7:ガイドロール
α:抱角
図1
図2