(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材と、前記基材上に形成された配向層とキャップ層および酸化物超電導層と、前記酸化物超電導層上に形成された保護層とを有し、前記キャップ層にアルカリ土類金属元素が含有され、前記アルカリ土類金属元素がCaまたはSrであり、前記酸化物超電導層を構成する酸化物超電導体は、REBa2Cu3O7−x(REは希土類元素、xは酸素欠損を表す。)の結晶粒の粒界に前記アルカリ土類金属元素が含まれたことを特徴とする酸化物超電導導体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のイオンビームアシスト法により結晶配向性の良好な中間層を形成するのは、中間層として良好な結晶配向性を確保し、その上に更に結晶配向性の良好なキャップ層を形成し、その上に酸化物超電導層を成膜するならば、酸化物超電導層の結晶配向性も良好できるとの知見によっている。また、イオンビームアシスト法は成膜時に基材の斜め方向からイオンビームを照射しつつ粒子堆積を行い、結晶粒同士の結晶軸がなす粒界傾角を小さくできるので、結晶粒界での弱結合を抑制し、超電導電流の流れやすい超電導層を製造するために有効な技術として知られている。酸化物超電導層においてさらに臨界電流密度を向上させるためには、更なる粒界弱結合の改善が必要であると考えられる。
【0007】
しかし、酸化物超電導導体を導電材料として検討した場合、臨界電流密度などの超電導特性をより向上させたいという課題があるので、酸化物超電導層とその下地となる種々の中間層について、更に優れた超電導特性を得るための研究開発が進められている。
また、RE−123系の酸化物超電導体は92K前後の特定の臨界温度(Tc)を示すので、液体窒素などの冷媒を用い、冷却して使用する。従って、基材上に複数の層を積層した構造とする場合、酸化物超電導層の臨界温度が低下しないような層構造を採用する必要がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸化物超電導体の結晶粒の粒界にアルカリ土類金属を拡散させた構造を採用することで臨界温度を低下させることなく臨界電流値をより高くすることが可能な酸化物超電導導体およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の酸化物超電導導体は、基材と、前記基材上に形成された配向層とキャップ層および酸化物超電導層と、前記酸化物超電導層上に形成された保護層とを有し、前記キャップ層にアルカリ土類金属元素が含有され、前記酸化物超電導層を構成する酸化物超電導体の結晶粒の粒界にアルカリ土類金属元素が含まれたことを特徴とする。
酸化物超電導体の結晶粒の粒界にアルカリ土類金属元素が存在していると、結晶粒界においてキャリア濃度が向上し、結晶粒界における弱結合の発生を抑制して臨界電流値の向上に寄与する。また、酸化物超電導層を構成する酸化物超電導体の結晶粒の粒界にアルカリ土類金属元素を存在させていても、酸化物超電導層の臨界温度が低下することはないので、アルカリ土類金属元素を含んでいない酸化物超電導体と同じ優れた臨界温度を有しながら臨界電流値の高い酸化物超電導導体を提供できる。
【0010】
本発明において、前記キャップ層をCeO
2から構成し、前記アルカリ土類金属元素をCaまたはSrとすることができる。
酸化物超電導層と配向層との間に配するキャップ層をCeO
2から構成すると、CeO
2は配向性に優れた構造にできるので、その上に積層した酸化物超電導層の結晶構造を良好にすることができ、臨界電流値の優れた酸化物超電導層を提供できる。また、アルカリ土類金属元素としてCaとSrを選択するならば、酸化物超電導体の結晶粒の粒界に拡散させることができ、酸化物超電導層の臨界温度を維持しつつ臨界電流値を高くする効果を得ることができる。
【0011】
本発明において、前記酸化物超電導層を構成する酸化物超電導体の結晶粒の内部において粒界側に前記アルカリ土類金属元素が含まれていても良い。
アルカリ土類金属元素が酸化物超電導体の結晶粒の内部側に多く拡散すると、酸化物超電導体の結晶構造が崩れて酸化物超電導層の臨界電流値を低下させる要因となるので、アルカリ土類金属元素は結晶粒の粒界と該粒界に近い結晶粒内部領域に拡散されていることが好ましい。酸化物超電導体の結晶粒の内部において粒界に近い領域と粒界にアルカリ土類金属元素を存在させることで、臨界温度を低下させることなく臨界電流特性を向上できる。
【0012】
本発明の酸化物超電導導体の製造方法は、基材上に配向層を形成する配向層形成工程と、前記配向層上にアルカリ土類金属元素を含有するキャップ層を形成するキャップ層形成工程と、前記キャップ層上に酸化物超電導層を形成する酸化物超電導層形成工程と、前記酸化物超電導層上に保護層を形成して積層体を得る保護層形成工程と、前記積層体を酸素アニール処理して前記キャップ層に含まれているアルカリ土類金属元素を前記酸化物超電導層を構成する酸化物超電導体の結晶粒の粒界に拡散させる酸素アニール工程、を含むことを特徴とする。
酸素アニール処理によって保護層を介し酸化物超電導層の結晶に酸素を供給し、酸化物超電導層の結晶構造を整えて臨界電流特性を向上させる。この酸素アニール処理時にアルカリ土類金属元素をキャップ層から酸化物超電導層側に拡散させることで酸化物超電導層を構成する酸化物超電導体の結晶粒の粒界にアルカリ土類金属元素を拡散させることができる。アルカリ土類金属元素が酸化物超電導体の結晶粒の粒界に拡散する速度は、アルカリ土類金属元素が酸化物超電導体の結晶粒の内部側に拡散する速度よりも速いので、アルカリ土類金属元素は酸化物超電導体の結晶粒の粒界に主に拡散する。このため、酸化物超電導体の結晶粒の粒界においてキャリア濃度を向上させる効果が主に発揮され、臨界電流特性が向上する。
【0013】
本発明において、前記キャップ層をCeO
2から構成し、前記アルカリ土類金属元素としてCaまたはSrを用いることができる。
本発明において、前記CeO
2のキャップ層を配向層上に成膜法により形成するとともに、前記成膜法を実施する場合のターゲットに前記アルカリ土類金属元素を含有させておくことができる。
CeO
2のキャップ層であるならば結晶配向性に優れたキャップ層とすることができ、その上に成膜する酸化物超電導層の結晶配向性を良好にすることができる。
また、CeO
2のキャップ層であるならばキャップ層をスパッタ法などの成膜法で形成する場合にそのターゲットにアルカリ土類金属元素を添加しておき、キャップ層の成膜と同時にアルカリ土類金属元素を含有したキャップ層を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルカリ土類金属元素を添加していない酸化物超電導導体に対比し、臨界温度を低下させることなく、臨界電流密度を高くすることができ、優れた超電導特性を発揮する酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、酸化物超電導導体および酸化物超電導導体の製造方法の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下説明の実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするため、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
図1(A)に示すように、本実施形態の酸化物超電導導体1は、基材2の一面(表面)上に、中間層5、酸化物超電導層6、保護層7および金属安定化層8がこの順に積層され、これらの周囲を絶縁材からなる被覆層10で覆って構成されている。なお、被覆層10は必須の構成ではなく、絶縁が不要な場合は略しても良い。
【0017】
酸化物超電導導体1において基材2は、可撓性を有する長尺の超電導導体とするためにテープ状やシート状あるいは薄板状であることが好ましい。また、基材2に用いられる材料は、機械的強度が比較的高く、耐熱性があり、線材に加工することが容易な金属を有しているものが好ましく、例えば、ステンレス鋼、ハステロイ等のニッケル合金等の各種耐熱性金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配した材料などが挙げられる。中でも、市販品であれば、ハステロイ(商品名、米国ヘインズ社製)が好適である。このハステロイの種類には、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等が挙げられ、ここではいずれの種類も使用できる。また、基材2の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は10〜500μm、好ましくは20〜200μmである。
【0018】
中間層5は、拡散防止層またはベッド層からなる下地層3Aと、配向層3Bと、キャップ層3Cがこの順に積層された構造を一例として適用することができる。
拡散防止層は、この層よりも上面側に他の層を形成する際に加熱処理した結果、基材2や他の層が熱履歴を受ける場合、基材2の構成元素の一部が拡散し、不純物として酸化物超電導層6側に混入することを抑制する機能を有する。拡散防止層の具体的な例として、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、不純物の混入を防止する効果が比較的高いAl
2O
3、Si
3N
4、又はGZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成される単層構造あるいは複層構造が望ましい。
【0019】
ベッド層は、基材2と酸化物超電導層6との界面における構成元素の反応を抑え、この層よりも上に設けられる層の配向性を向上させるために用いられる。ベッド層の具体的な構造としては、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、耐熱性が高いY
2O
3、CeO
2、La
2O
3、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3などの希土類酸化物から構成される単層構造あるいは複層構造が望ましい。拡散防止層とベッド層は両方設けても良く、また、どちらか一方のみ設けても良いが、
図1の実施形態ではこれらをまとめて1つの下地層3Aとして表記した。
【0020】
配向層3Bは、その上に形成されるキャップ層3Cや酸化物超電導層6の結晶配向性を制御する機能と、基材2の構成元素が酸化物超電導層6へ拡散することを抑制する機能と、基材2と酸化物超電導層6との熱膨張率や格子定数といった物理的特性の差を緩和する機能等を有するものである。配向層3Bの構成材料は、前記機能を発現し得るものであれば特に限定されない。Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)等の金属酸化物を用いると、後述するイオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と呼ぶことがある。)において、結晶配向性の高い層が得られ、キャップ層3Cや酸化物超電導層6の結晶配向性をより良好なものとすることができるため、特に好適である。
【0021】
キャップ層3Cは、酸化物超電導層6の結晶配向性を配向層3Bよりも強く制御し、酸化物超電導層6を構成する元素の中間層5側への拡散や、酸化物超電導層6の積層時に使用するガスと中間層5との反応を抑制する機能等を有するものである。キャップ層3Cの構成材料は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3、Zr
2O
3、LMnO
3等の金属酸化物が酸化物超電導層6との格子整合性の観点から好適である。そのなかでも、配向層3Bの配向度よりもさらに優れた配向度の層を得られることから、CeO
2あるいはLMnO
3が特に好適である。ここで、キャップ層3CにCeO
2を用いる場合、キャップ層3Cは、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。なお、キャップ層3Cは単層でも複数層でも良い。
【0022】
本実施形態のキャップ層3Cには規定量のアルカリ土類金属元素(Ca、Sr、Ba、Raのうち、1種または2種以上)が含有されている。キャップ層3Cに含有されているアルカリ土類金属元素の含有量は、1モル%〜50モル%の範囲を例示できる。アルカリ土類金属元素の含有量として、1〜40モル%の範囲が好ましく、1〜30モル%の範囲がより好ましい。なお、キャップ層3Cに含まれるアルカリ土類金属元素の含有量は、キャップ層3Cを構成するために後述の如く用いるターゲットに含まれているアルカリ土類金属元素の含有量とほぼ同一となる。
キャップ層3Cにアルカリ土類金属元素を含有させる手段は後述の製造方法において詳細に説明するようにキャップ層3Cを成膜する場合に用いるターゲットに予めアルカリ土類金属元素を含有させておき、成膜と同時に導入する方法を採用できる。このため、上述のキャップ層3Cを構成するCeO
2、LMnO
3等の材料からなる酸化物ターゲットを用いる場合に各ターゲットにそれぞれ必要量のアルカリ土類金属元素を含有させておくことが好ましい。
【0023】
酸化物超電導層6は、超電導状態の時に電流を流す機能を有するものである。酸化物超電導層6に用いられる材料には、通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、例えば、Y系超電導体、Bi系超電導体などの銅酸化物超電導体などが挙げられる。Y系超電導体の組成は、例えば、REBa
2Cu
3O
7−x(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素、xは酸素欠損を表す。)が挙げられ、具体的には、Y123(YBa
2Cu
3O
7−x)、Gd123(GdBa
2Cu
3O
7−x)が挙げられる。Bi系超電導体の組成は、例えば、Bi
2Sr
2Ca
n−1Cu
nO
4+2n+δ(nはCuO
2の層数、δは過剰酸素を表す。)が挙げられる。この酸化物超電導体の母物質は絶縁体であるが、後述する製造方法において説明する酸素アニール処理により酸素を取り込むことで結晶構造の整った酸化物超電導体となり、超電導特性を示す性質を持っている。
本実施形態の酸化物超電導層6には、前記キャップ層3Cに含有されているアルカリ土類金属元素の一部から拡散されたアルカリ土類金属元素が含有されている。酸化物超電導層6に含有されているアルカリ土類金属元素は主に酸化物超電導層6を構成する酸化物超電導体の結晶粒の粒界に拡散されている。また、前記アルカリ土類金属元素の一部は酸化物超電導体の結晶粒の粒界からわずかに酸化物超電導体の結晶粒の内部側にまで拡散されていてもよい。結晶粒において粒界側とは、粒界上から添加物濃度が一定になるまでの範囲を意味する。
【0024】
本実施形態の酸化物超電導層6は、
図1(B)に拡大して示すように酸化物超電導体の結晶がある程度の大きさに成長した結晶粒6Aが複数集合してなる多結晶体であり、各結晶粒6Aの内部では結晶軸のa軸あるいはb軸が揃っているが、粒界Rを介し隣接する結晶粒6A同士が示す粒界傾角Kを1゜〜5゜程度の優れた配向性に形成した多結晶体となっている。このような優れた単結晶に相当する結晶配向性を示すためには、上述のIBAD法により配向層3Bを良好な結晶配向性で成膜した上に、キャップ層3Cを積層し、それらの上に酸化物超電導層6を成膜することにより実現できる。このような優れた結晶配向性の酸化物超電導層6であるならば、超電導導体1として臨界温度以下に冷却し、通電した場合、優れた臨界電流特性を発揮する。
【0025】
保護層7は、酸化物超電導導体1への通電時、何らかの事故により発生する過電流をバイパスする電流路となり、酸化物超電導層6に酸素を取り込ませやすくするために、加熱時には酸素を透過しやすくする機能を有する。このため、保護層7は、Agあるいは少なくともAgを含む材料から形成されることが好ましい。また、保護層7を形成する材料は、Au、Ptなどの貴金属を含む混合物もしくは合金であってもよく、これらを複数用いてもよい。
【0026】
本実施形態の酸化物超電導導体1の構造においては、保護層7上に金属安定化層8が積層されている。金属安定化層8の用途は、酸化物超電導導体1の用途により異なる。例えば、超電導ケーブルや超電導モーターなどに使用する場合は、何らかの事故によりクエンチが起こり、酸化物超電導層6が常電導状態に転移した時に発生する過電流を転流させるバイパスのメイン部として用いられる。このとき、金属安定化層8に用いられる材料は、銅、Cu−Zn合金(黄銅)、Cu−Ni合金等の銅合金、アルミ、アルミ合金、ステンレス等の比較的安価な材質からなるものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることから銅を用いることが好ましい。また、酸化物超電導導体1を超電導限流器に使用する場合、安定化層は、クエンチが起こり常電導状態に転移した時に発生する過電流を瞬時に抑制するために用いられる。この用途の場合、金属安定化層8に用いられる材料は、例えば、Ni−Cr等のNi系合金等の高抵抗金属が挙げられる。
金属安定化層8の構造は、他の層と同様に層構造であっても良く、基材2から保護層7まで積層した積層体を保護層7の表面側から積層体の裏面側を所定幅覆うように金属テープを折り曲げた横断面C型構造の金属安定化層であってもよい。また、金属安定化層8を金属めっきにより構成し、基材2から保護層7まで形成した積層体の全体をめっき層で覆った構造としても良い。
【0027】
また、
図1に示す本実施形態の構造のように、酸化物超電導導体1の構造において、基材2、中間層5、酸化物超電導層6、保護層7、金属安定化層8が積層された積層体の全周を覆うようにテープ状、シート状の絶縁材からなる被覆層10が形成された構造としてもよい。絶縁材からなる被覆層10は、外部との絶縁を図り、酸化物超電導導体1を補強する機能を有する。被覆層10に用いられる材料は、絶縁性材料であれば特に限定されないが、例えば、ポリイミド等の絶縁樹脂が挙げられる。なお、被覆層10は必ず必要な要素ではなく、酸化物超電導導体1として個別絶縁することが不要な場合は略してもよい。
【0028】
本実施形態の酸化物超電導層6は、アルカリ土類金属元素を酸化物超電導体の結晶粒界に拡散させているため、臨界電流特性に優れ臨界温度も低下していない、優れた超電導特性を発揮する。
酸化物超電導層6を構成する酸化物超電導体の結晶粒の粒界に、アルカリ土類金属元素が存在すると、粒界部分におけるキャリア濃度が向上し、粒界に弱結合が生じ難くなり、この結果、超電導電流が粒界を流れる際の障害が少なくなり、臨界電流特性が向上する。
粒界に位置する酸化物超電導体の結晶に対しCaなどのアルカリ土類金属元素は2価であるため、RE123系の希土類酸化物超電導体のBa原子の位置と置換し、価数が変わり、電子の担い手が増加することによりキャリア濃度が向上して超電導電流が流れやすくなると推定できる。
【0029】
次に、本発明に係る酸化物超電導導体1の製造方法について説明する。ここで、
図2は、本発明に係る酸化物超電導導体1の製造方法について工程順に示すフロー図である。
まず、テープ状の基材2の表面上に、拡散防止層とベッド層からなる下地層3Aを形成する(下地層形成工程:S1)。
拡散防止層は、結晶性が特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成できる。また、拡散防止層の膜厚は通常10〜400nmとすればよい。ベッド層は、拡散防止層と同様に結晶性が特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成できる。また、ベッド層の膜厚は通常10〜100nmとすればよい。なお、拡散防止層とベッド層は必ずしも両方用いる必要はなく、これらの層のうち少なくとも1層を用いた構造になればよく、場合によっては両方の層を略しても良い。拡散防止層とベッド層の両方の層を略した場合、基材2の表面上に直接、以下に説明する配向層3Bを形成する。
【0030】
下地層3A上に配向層3Bを形成する(配向層形成工程:S2)。
配向層3Bの形成方法には、真空蒸着法、レーザ蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)等、数多くの方法を選択できるが、超電導層6やキャップ層3Cの結晶配向性をより高く制御できることから、IBAD法を用いることが好ましい。ここで、IBAD法とは、成膜時に、結晶の成膜面に対して所定の入射角度でArなどのイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。また、配向層3Bは、前述した材料を一つ用いて単層構造としても良いし、複数用いて複層構造としても良い。
【0031】
次に、配向層3B上にキャップ層3Cを形成する(キャップ層形成工程:S3)。
キャップ層3Cの形成には、アルカリ土類金属元素を所定量含むCeO
2のターゲットを用いた成膜法を採用できる。この場合、パルスレーザ蒸着法(以下、PLD法と呼ぶことがある。)、スパッタリング法等の成膜手段を採用することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが好ましい。また、キャップ層3Cの膜厚は、十分な配向性を得るには40nm以上積層することが好ましい。キャップ層3を配向層3B上に成膜することで配向層3Bの良好な結晶配向性を維持するか更に良好な結晶配向性を示す。
キャップ層3Cの形成に用いるターゲットに含まれるアルカリ土類金属元素は、1モル%〜50モル%の範囲を例示できる。アルカリ土類金属元素の含有量として、1〜40モル%の範囲が好ましく、1〜30モル%の範囲がより好ましい。このようなターゲットを用いることでターゲットに含まれているアルカリ土類金属元素とほぼ同等量のアルカリ土類金属元素をキャップ層3Cに含有させることができる。
【0032】
次に、キャップ層3C上に、酸化物超電導層6を形成する(酸化物超電導形成工程:S4)。酸化物超電導層6の形成には、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、PLD法もしくは電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法、化学気相成長法(CVD法)、もしくは、塗布熱分解法(MOD法)等の化学的蒸着法を用いることができる。一般的に、酸化物超電導層6に用いられる酸化物超電導体は、結晶配向性を整えることにより良好な臨界電流特性を発揮するので、結晶のc軸をテープ状の基材2の表面(成膜面)に垂直に配向させるとともに、a軸またはb軸をテープ状の基材2の長さ方向に配向するように成膜する必要がある。
上述の工程において、配向層3Bとキャップ層3Cを良好な配向性に制御しつつ成膜しておくならば、キャップ層3Cの上に成膜される酸化物超電導体の結晶粒も良好な配向性をもって配向し、良好な超電導特性を発揮する酸化物超電導層6が得られる。また、酸化物超電導層6の膜厚は、0.5〜5μm程度であって、均一な厚さであることが好ましい。
【0033】
続いて、酸化物超電導層6上に保護層7を形成する(保護層形成工程:S5)。
保護層7は、公知の成膜法で形成することができるが、DCスパッタ装置、RFスパッタ装置などの成膜装置を用いたスパッタ法で成膜することができる。また、保護層7の膜厚は、通常は1〜30μmであればよい。
【0034】
次に、基材2上に保護層7までを積層した積層体に対し、図示略の加熱炉を用いて、酸素アニール処理を施す(酸素アニール工程:S6)。ここで、酸化物超電導層6の母物質は絶縁体であるため、そのままでは良好な超電導特性を示さない。このため、酸化物超電導層6の母物質に酸素を供給し、その結晶構造を整えることで、超電導特性の良好な酸化物超電導体の結晶からなる酸化物超電導層6とする。
したがって、加熱条件として、加熱炉内の雰囲気は、酸素ガスを含む雰囲気とすることが好ましい。酸素アニール時の加熱温度は、300〜500℃、数時間〜数10時間の範囲を選択することができる。
【0035】
この酸素アニール時の加熱処理によって、キャップ層3Cに含まれていたアルカリ土類金属元素の一部を酸化物超電導層6側に拡散させることができる。拡散されたアルカリ土類金属元素は酸化物超電導層6を構成する酸化物超電導体の結晶粒の主に粒界に拡散されて存在し、一部は酸化物超電導体の結晶粒の内部側にも拡散する。酸化物超電導層6において酸化物超電導体の結晶粒の内部側に拡散するアルカリ土類金属元素の量よりも粒界に拡散するアルカリ土類金属元素の量の方が多いので、酸化物超電導層6において結晶粒界に多くのアルカリ土類金属元素が存在する。これは熱拡散により多結晶体に元素拡散を行った場合、粒界での拡散係数が粒内での拡散係数よりも大きいことが一般的であることによる。
このように酸化物超電導体の結晶粒界にアルカリ土類金属元素を拡散させた超電導特性に優れた酸化物超電導層6を酸素アニール処理により形成できる。
なお、キャップ層3C上に酸化物超電導層6を成膜する場合、積層体を数100℃に加熱するのでキャップ層3C中のアルカリ土類金属元素の一部は成膜中の酸化物超電導層6側に一部拡散する。このように酸化物超電導層6を成膜する時の熱拡散に加え、前述の酸素アニール時の熱拡散とを合わせて、キャップ層3Cから酸化物超電導層6側に多くのアルカリ土類金属元素を拡散できる。
【0036】
次に、
図2の工程フローでは略したが、酸素アニール処理後に保護層7の上に金属安定化層8を積層し、必要に応じて絶縁性の被覆層10で覆うならば、
図1に示す酸化物超電導導体1を得ることができる。なお、金属安定化層8と被覆層10を設けない構造を採用する場合はこれらの層を略することができる。
金属安定化層8の形成方法は、公知の方法であれば、特に限定されないが、半田を用いて金属テープを直接貼り合わせる方法やスパッタ法や蒸着法などで層として形成する方法あるいはめっきにより形成する方法を選択することが好ましい。また、金属安定化層8の膜厚は、特に限定されないが、適宜調整可能であるが、超電導導体1としての可撓性を考慮し、10〜300μmとすることが好ましい。
また、絶縁材からなる被覆層10の形成方法は、特に限定されないが、金属安定化層8までを形成した積層体の全周をテープ状、シート状、もしくは薄板状の絶縁被覆層で覆うことにより形成できる。
【0037】
上述のように製造された酸化物超電導導体1を例えば
図3に示すように巻回してコイル体15、16を構成し、これらを必要数積層して超電導コイル17を形成することができる。
図3に示すコイル体15、16は巻回方向を右巻きと左巻きとして互いに逆方向にして構成しているが、超電導導体1の巻回方向はこの図の例には限らない。
また、
図3に示す超電導コイル17を必要数用いて超電導マグネットや超電導モーターなどの超電導機器を製造することができる。ここで、超電導機器は、前記酸化物超電導導体1を有するものであれば特に限定されず、例えば、超電導変圧器、超電導限流器、超電導電力貯蔵装置などを例示できる。勿論、前記酸化物超電導導体1をコイル化することなく複数本集合してケーブル構造とした超電導機器についても本実施形態に係る酸化物超電導導体1を適用できるのは勿論である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
「実施例1」
ハステロイ(商品名ハステロイC−276、米国ヘインズ社製)からなる幅10mm、厚さ0.1mm、長さ2000mmのテープ状の基材を用意し、表面粗さRaが4〜5nmとなるまで研磨した後、アルコール及び有機溶剤によって洗浄した。
次に、以下の形成条件により、テープ状の基材の一面上に、拡散防止層、ベッド層、配向層およびキャップ層をこの順に積層した。
まず、イオンビームスパッタ法により、テープ状の基材の上にAl
2O
3からなる膜厚100nmの拡散防止層を形成し、次に、イオンビームスパッタ法により、拡散防止層の上にY
2O
3からなる膜厚20nmのベッド層を形成した。
次に、IBAD法により、ベッド層の上にMgOからなる膜厚10nmの配向層を形成した。
【0039】
配向層を形成後、PLD法により、Caを含むCeO
2ターゲットを用いて配向層上にCaを含むCeO
2からなる膜厚300nmのキャップ層を形成した。Caを含むCeO
2ターゲットは、Ce
1−xCa
xO
2−δの組成と表記できる。
PLD法による成膜温度は700〜900℃の範囲に設定できるが、この例では800℃で成膜した。CeO
2ターゲットに含有させるCa量の影響を比較するため、CeO
2ターゲットに含まれるCaの含有量を1モル%〜50モル%の間で以下の表1に示すように適宜変更した複数のターゲットを用意し、各ターゲットを使い分けてキャップ層に含まれるCa量の異なる積層体試料を複数準備した。
次に、PLD法により、各積層体試料のキャップ層上にGdBa
2Cu
3O
7−xなる組成の膜厚2μmの酸化物超電導層を順次形成し、DCスパッタ法により、酸化物超電導層の上にAgからなる膜厚5μmの保護層を成膜した。
次に、保護層までの各層を形成した積層体を、500℃で10時間、酸素を満たした加熱炉内で酸素アニールした。その後、加熱炉から取り出し、テープ状の酸化物超電導導体試料を得た。各酸化物超電導導体試料のCa添加量(キャップ層に対する添加量)と臨界電流値(Ic/Ic
0;Ca無添加の酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体のIc値をIc
0とした場合、得られた各酸化物超電導導体試料のIcの相対値)と臨界温度(Tc:K)を測定し、以下の表1に示す。Ic値の測定は、各超電導導体試料の保護層の外面に端子を装着して行う4端子法により、77Kにおいて測定した。また、表1に合否欄を設けてIc/Ic
0の値が1.2以上の試料を二重丸◎印、1.0〜1.2未満の試料を○印、1.0未満の試料を△印で示した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示す結果が示すように、Caを酸化物超電導層側に拡散させて含ませた酸化物超電導導体試料において、Ca添加量50モル%未満の試料は、いずれの試料も高い臨界電流値を示した。
表1のCa含有量は、ターゲットに対するCa含有量であるが、ターゲットからキャップ層側に全ての元素が移行したと仮定すると、キャップ層と酸化物超電導層に含まれているCaの総量はターゲットに含有させたCa量とほぼ同等と見なすことができる。このため、キャップ層と酸化物超電導層の両方に含まれているCa量(アルカリ土類金属元素量)として、表1に示す結果から、1モル%以上、50モル%未満の範囲ならば良好な臨界電流値と優れた臨界温度を兼ね備えた酸化物超電導導体を製造できたこととなる。また、Ca量の範囲として、表1に示す結果から、1モル%以上、40モル%以下の範囲がより好ましく、1モル%以上、30モル%以下の範囲が最も好ましいと思われる。
なお、比較のために、表1に示すNo.4のCa添加量5モル%の試料作成時、酸化物超電導層を生成するためのターゲットにCaを5モル%含有させて酸化物超電導層を形成した比較例の酸化物超電導導体試料を作成した。この酸化物超電導導体試料のIc/Ic
0の値は0.8、臨界温度Tcは90Kを示した。この試料によれば、酸化物超電導層を作成する際にCaが酸化物超電導層の結晶内部に侵入し、酸化物超電導層の結晶そのものの生成に影響を及ぼした結果と思われる。このため、この比較例試料の合否は△に相当する。
【0042】
「実施例2」
実施例1とほぼ同等の製造工程を経て酸化物超電導導体を製造した。実施例1の製造工程と異なる点は、Caを含むCeO
2ターゲットを用いる代わりに、Srを含むCeO
2ターゲットを用いて配向層上にSrを含むCeO
2からなる膜厚300nmのキャップ層を形成し、このキャップ層からSrを拡散させた点にある。このキャップ層を用いることでSrを結晶粒界に拡散させた酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体を製造した。その他の製造条件は実施例1と同等にして酸化物超電導導体試料を複数得た。
表2に示す各酸化物超電導導体試料のSr添加量(キャップ層に対する添加量)と臨界電流値(Ic/Ic
0;Ca無添加の酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体のIc値をIc
0とした場合の各酸化物超電導導体試料のIcの相対値)と臨界温度(Tc:K)を測定した。Ic値の測定は、各超電導導体試料の保護層の外面に端子を装着して行う4端子法により、77Kにおいて測定した。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示す結果が示すように、Srを酸化物超電導層側に拡散させて含ませた酸化物超電導導体試料にあっては、いずれの試料も高い臨界電流値を示した。
表2のSr含有量は、ターゲットに対するSr含有量であるが、ターゲットからキャップ層側に全ての元素が移行したと仮定すると、キャップ層と酸化物超電導層に含まれているSrの総量はターゲットに含有させたSr量と同等と見なすことができる。このため、キャップ層と酸化物超電導層の両方に含まれているSr量(アルカリ土類金属元素量)として、表2に示す結果から、1モル%以上、50モル%以下の範囲ならば良好な臨界電流値と優れた臨界温度を兼ね備えた酸化物超電導導体を製造できたこととなる。また、Sr量の範囲として、表2から、1モル%以上、30モル%以下の範囲がより好ましいと思われる。
【0045】
次に、表1に示すNo.4の試料について、酸化物超電導体の結晶粒界に拡散されているCaの分布を調べた。試料の一部を切り出し、保護層をエッチングにより取り除き、酸化物超電導層を露出させ、酸化物超電導層を構成している結晶粒の1つの粒界を特定し、X線光電子分光(XPS)法にてその結晶粒界の中心から粒界の両側に存在する結晶粒側まで3μmの距離にわたり元素分析した。その結果を
図4に示す。
図4の縦軸はX線の強度を示すが、Caの相対存在比率と比例するので、縦軸の値の大きいポイントがCa濃度の高い位置を示す。つまり、この検査した試料におけるCaの存在幅は約1μmであり、酸化物超電導層に拡散させたCaは酸化物超電導体の結晶粒の粒界に殆ど存在し、その一部のみ酸化物超電導体の結晶粒の内部側(粒界に近い側)にまで拡散していることが判明した。
【0046】
次に、表2に示すNo.4の試料について、結晶粒界に拡散されているSrの分布を調べた。試料の一部を切り出し、保護層をエッチングにより取り除き、酸化物超電導層を構成している結晶粒の粒界の1つを特定し、X線光電子分光(XPS)法にてその結晶粒界の中心から粒界の両側に存在する結晶粒側まで3μmの距離にわたり元素分析した。その結果を
図5に示す。
図5の縦軸はX線の強度を示すが、Sr元素の相対存在比率と比例するので、縦軸の値の大きいポイントがSr濃度の高い位置を示す。つまり、この検査した試料におけるSrの存在幅は約1μmであり、酸化物超電導層に拡散させたSrは酸化物超電導体の結晶粒の粒界に殆ど存在し、その一部のみ酸化物超電導体の結晶粒の内部側(粒界に近い側)にまで拡散していることが判明した。
以上説明の如く、本実施例の酸化物超電導層は、それを構成する酸化物超電導体の結晶粒界に主にアルカリ土類金属元素であるCaあるいはSrを拡散させた構造となっているので、先の表1、表2に示すように、優れた臨界温度を有しつつ、優れた臨界電流値を発揮できることが判明した。