特許第5986947号(P5986947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986947
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】バッテリ状態推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20160823BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20160823BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   G01R31/36 A
   H01M10/48 P
   H02J7/00 P
   H02J7/00 X
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-80211(P2013-80211)
(22)【出願日】2013年4月8日
(65)【公開番号】特開2014-202654(P2014-202654A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】枝本 吉広
【審査官】 川瀬 正巳
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの充放電電流値を検出する充放電電流検出手段と、
前記バッテリの端子電圧値を検出する端子電圧検出手段と、
前記バッテリの早い応答部分と遅い応答部分とを有するバッテリ等価回路モデルと、
保存されていた前記遅い応答部分の固定値を用いて、前記充放電電流検出手段から入力された充放電電流値と前記端子電圧検出手段から入力されたる端子電圧値とに基づいて前記バッテリ等価回路モデルの早い応答部分のパラメータの値を逐次推定する逐次パラメータ推定手段と、
前記充放電電流検出手段で検出した充放電電流値および前記端子電圧検出手段で検出した端子電圧値を記録するデータ記録手段と、
該データ記録手段で記録された前記充放電電流値および前記端子電圧値のデータに基づいて、車両の停車時に、前記遅い応答部分のパラメータの値を推定する更新パラメータ推定手段と、
前回保存されていた前記遅い応答部分のパラメータの固定値を、前記更新パラメータ推定手段で算出した前記遅い応答部分のパラメータの値に置き換えるパラメータ更新手段と、
を備えたことを特徴とするバッテリ状態推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバッテリ状態推定装置において、
第1減算手段と第2減算手段をさらに備え、
前記パラメータ更新手段が前記パラメータの更新した固定値および前記充放電電流値に基づいて前記遅い応答部分の過電圧値を算出し、
前記第1減算手段が、前記端子電圧値から前記遅い応答部分の過電圧値を減算して端子電圧の差分値を算出し、
前記逐次パラメータ推定手段が、前記早い応答部分のパラメータ初期値と前記充放電電流値と前記端子電圧の差分値とから前記早い応答部分の過電圧値を算出し、
前記第2減算手段が、前記端子電圧の差分値から前記早い応答部分の過電圧値を減算してバッテリの開放電圧値を得る、
ことを特徴とするバッテリ状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば電気自動車のモータに電力を供給するバッテリの状態を推測するバッテリ状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバッテリ状態推定装置としては、特許文献1に記載のものが知られている。この従来のバッテリ状態推定装置では、バッテリモデルを構築し、適応デジタルフィルタを用いて逐次パラメータ推定を行って第1充電率を推定演算する第1充電率推定手段と、適応デジタルフィルタを用いての充電率の推定が困難な電流状態において電流積算法を用いて第2充電率を推定演算する第2充電率推定手段と、第1充電率と第2充電率の一方を適宜選択する最終充電率推定値選択手段と、を備える。
この場合、上記最終充電率推定値選択手段は、電流の正負の符号が反転したら第1充電率を選択し、その時点から充電率のみまたは放電のみが予め設定した第1の所定時間以上継続したら、第2充電率を選択するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−164417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のバッテリ状態推定装置には以下に説明するような問題がある。
逐次パラメータ法を採用するにあたっては、バッテリの界面でのファラデーインピーダンスや電解質各部での非ファラデーインピーダンス等で表したバッテリの等価回路モデルを用いる。
この場合、バッテリには、電荷移動過程が行われる界面での早い応答部分(たとえば時定数が数マイクロ秒〜数百ミリ秒)と、電解質界面とバルク領域との間にある拡散層での拡散過程となる遅い応答部分(たとえば時定数が1秒〜数時間)と、があるため、バッテリの等価回路モデルもそれらを表す数学モデルを用いることになる。
【0005】
この場合、特許文献1に記載の従来のバッテリ状態推定装置では、バッテリの早い応答部分は、S/N比や可観測性の観点から、適応デジタルフィルタを利用した逐次パラメータ法にて容易にバッテリの内部状態を表すパラメータを推定することが可能であるが、遅い応答部分はS/N比が小さく、また可観測性の観点から逐次法を用いてパラメータを正確に推定することが困難であるといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、早い応答部分および遅い応答部分を有するバッテリ等価回路モデルを用いて、バッテリの内部状態を推定する場合に、バッテリのばらつきや経時変化に起因して遅い応答部分のパラメータの値が最初に設定した固定値からずれたときでも精度よくバッテリの内部状態を推測できるようにしたバッテリ状態推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため本発明によるバッテリ状態推定装置は、
バッテリの充放電電流値を検出する充放電電流検出手段と、
バッテリの端子電圧値を検出する端子電圧検出手段と、
バッテリの早い応答部分と遅い応答部分とを有するバッテリ等価回路モデルと、
保存されていた遅い応答部分の固定値を用いて、充放電電流検出手段から入力された充放電電流値と端子電圧検出手段から入力されたる端子電圧値とに基づいてバッテリ等価回路モデルの早い応答部分のパラメータの値を逐次推定する逐次パラメータ推定手段と、
充放電電流検出手段で検出した充放電電流値および端子電圧検出手段で検出した端子電圧値を記録するデータ記録手段と、
データ記録手段で記録された充放電電流値および端子電圧値のデータに基づいて、車両の停車時に、遅い応答部分のパラメータの値を推定する更新パラメータ推定手段と、
前回保存されていた遅い応答部分のパラメータの固定値を、更新パラメータ推定手段で算出した遅い応答部分のパラメータの値に置き換えるパラメータ更新手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、好ましくは、バッテリ状態推定装置が第1減算手段と第2減算手段を有し、
パラメータ更新手段がパラメータの更新した固定値および充放電電流値に基づいて遅い応答部分の過電圧値を算出し、
第1減算手段が、端子電圧値から遅い応答部分の過電圧値を減算して端子電圧の差分値を算出し、
逐次パラメータ推定手段が、早い応答部分のパラメータ初期値と充放電電流値と端子電圧の差分値とから早い応答部分の過電圧値を算出し、
第2減算手段が、端子電圧の差分値から早い応答部分の過電圧値を減算してバッテリの開放電圧値を得る、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のバッテリ状態推定装置にあっては、バッテリのばらつきや経時変化に起因して遅い応答部分のパラメータの値が設定した最初に設定した固定値からずれたときでも、バッテリの状態を表すパラメータを精度よく推測することができる。
【0010】
また、バッテリ状態推定装置が第1減算手段と第2減算手段を有し、パラメータ更新手段がパラメータの更新した固定値および充放電電流値に基づいて遅い応答部分の過電圧値を算出し、第1減算手段が、端子電圧から遅い応答部分の過電圧を減算して端子電圧の差分値を算出し、逐次パラメータ推定手段が早い応答部分のパラメータ初期値と充放電電流値と端子電圧の差分値とから早い応答部分の過電圧値を算出し、第2減算手段が、端子電圧の差分値から早い応答部分の過電圧値を減算してバッテリの開放電圧値を得るようにしたので開放電圧(Open Circuit Voltage: OCV)を精度よく算出でき、ひいてはこの開放電圧に基づいてバッテリの充電率(State of Charge: SOC)を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1に係るバッテリ状態推定装置の構成を示すブロック図である。
図2】実施例1のバッテリ状態推定装置で実効される状態推定プロセスを実効するためのフローチャートを示す図である。
図3】実施例1のバッテリ状態推定装置の作動を説明するタイムチャートを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
まず、実施例1のバッテリ状態推定装置の全体構成を図1に基づき説明する。
この実施例1のバッテリ状態推定装置は、たとえば電気自動車に搭載され、図1に示すように、図示しない車両駆動用モータへ電力を供給(放電)可能なバッテリ1に接続される。なお、モータは発電機としても機能し、車両の制動時に制動エネルギーを一部回収してバッテリ1へ戻す(充電)ことが可能である。また、バッテリ1は、地上の充電設備等から充電可能である。
このようなバッテリとしては、たとえばリチウムイオンバッテリが使われ、多数のセル1a〜1nが直列接続されて構成されている。
【0014】
バッテリ1には、バッテリ1への充放電電流値を検出する電流センサ2 が接続される。
また、バッテリ1には、各セル1a〜1nの各端子電圧値を検出するセル電圧センサ3a〜3nがそれぞれ設けられるとともに、バッテリ1の端子電圧値を検出する電圧センサ3が接続される。
なお、電流センサ2は本発明の充放電電流検出手段に相当し、電圧センサ3は本発明の端子電圧検出手段に相当する。
【0015】
バッテリ状態推定装置は、上記各センサ2、3に加えて状態推定部4を有する。
この状態推定部4は、データ圧縮部5と、データ記録部6と、デコード部7と、オフラインパラメータ同定部8、パラメータ初期値部9と、モデルベース推定部10と、過電圧算出部11と、第1減算器12と、第2減算器13と、充電率推定部14と、を有している。
【0016】
データ圧縮部5は、電流センサ2で検出した充放電電流値のデータを圧縮するとともに、電圧センサ3で検出した端子電圧のデータを圧縮する。
これらの圧縮された電流値と端子電圧値とのデータは、データ記憶部6へ出力される。
【0017】
データ記憶部6は、データ圧縮部5から入力された上記データを記憶する。この記憶されたデータは、イグニッションスイッチがオフになったときにデコード部7に入力される。
なお、データ記憶部6は、オフラインパラメータ同定部8で得たパラメータを用いたパラメータ初期値部9の初期値および過電圧推定部11のパラメータを更新したらそれまで記憶したデータを破棄する。
また、データ記憶部6は、本発明のデータ記録手段に相当する。
【0018】
デコード部7は、イグニッションスイッチがオフになったとき、データ記憶部6に記憶したデータが入力され、この圧縮されたデータを復号して元の電流値および端子電圧値のデータを得、このデータをオフラインパラメータ同定部8へ出力する。
【0019】
オフラインパラメータ同定部8は、イグニッションスイッチがオンからオフになったら、デコード部7で復号した今回の走行中に記憶した充電電流値と端子電圧値とのデータが入力されてバッテリ等価回路モデルBMを使ってこのモデルBMのパラメータを同定する。
これらの同定したパラメータの値は、その一部(後で説明する早い応答部分BM1のパラメータの値)がパラメータ初期値部9に出力されて次にイグニッションスイッチがオンにされたときの早い応答部分BM1のパラメータの初期値として使われ、遅い応答部分BM2は次にイグニッションスイッチがオンにされたときの遅い応答部分BM2のパラメータの固定値として用いられる。
【0020】
また、オフラインパラメータ同定部8で算出したバッテリ1の充電率、劣化度、内部抵抗は、次にイグニッションスイッチがオンにされたときに用いられる。
なお、オフラインパラメータ同定部8でのパラメータ同定方法については、後で説明する。また、オフラインパラメータ同定部8は、本発明の更新パラメータ推定手段に相当する。
【0021】
バッテリ等価回路モデルBMは、本実施例では抵抗とキャパシタンスからなるフォスター型RC梯子回路を用い、早い応答部分BM1と遅い応答部分BM2とを表す。
早い応答部分BM1は、キャパシタンスC0および結線抵抗R0が直列接続され、これに第1段目の抵抗R1およびキャパシタンスC1の並列回路が直列接続されて構成される。遅い応答部分BM2は、第2段目の抵抗R2およびキャパシタンスC2の並列回路と、第3段目の抵抗R3およびキャパシタンスC3の並列回路と、第4段目の抵抗R4およびキャパシタンスC4の並列回路と、がこれらの順に直列接続されて構成される。
したがって、これらの抵抗R0〜R4、キャパシタンスC0〜C4は、パラメータ同定でパラメータとして値が定められる。
【0022】
パラメータ初期値部9は、イグニッションスイッチがオフからオンにされたとき、前回保存していたパラメータの初期値(固定値である)を、オフになったときにオフラインパラメータ同定部8で算出していた早い応答部分BM1のパラメータの固定値に、更新して保存する。この保存されている固定値は、モデルベース推定部10へ出力され、次のイグニッションスイッチがオンになったとき、初期値として用いられる。
【0023】
モデルベース推定部10は、バッテリ等価回路モデルBMのうちの早い応答部分BM1に、パラメータ初期値9で保存している早い応答部分BM1のパラメータの値を初期値として用い、電流センサ2で検出した充放電電流と第1減算器12で得られた端子電圧値の差分値とが入力されて、これらに基づいて早い応答部分BM1での過電圧値と早い応答部分BM1のパラメータの値を逐次算出する。
その過電圧値は、第2減算器13へ出力される。
なお、モデルベース推定部10は、本発明の逐次パラメータ推定手段に相当する。
【0024】
一方、過電圧算出部11は、バッテリ等価モデルBMのうちの遅い応答部分BM2(バッテリ内部抵抗モデルであり低周波帯挙動モデルでもある)のパラメータの値を、オフラインパラメータ同定部8でイグニッションスイッチがオフのとき算出した遅い応答部分BM2のパラメータの値を固定値として、電流センサ2で検出した充放電電流が入力されてこれらを基に遅い応答部分BM2の過電圧値を算出する。
この過電圧値は、第1減算器11へ出力される。
なお、過電圧算出部11は、本発明のパラメータ更新手段に相当する。
【0025】
第1減算器11は、電圧センサ3で検出された端子電圧値と過電圧算出部11で算出された過電圧値とが入力されて、端子電圧値から遅い応答部分BM2の過電圧値を減算して端子電圧の差分値を得る。
この端子電圧の差分値は、モデルベース推定部10および第2減算器13へ出力される。
なお、第1減算器12は、本発明の第1減算手段に相当する。
【0026】
第2減算器13は、第1減算器12で算出した端子電圧の差分値とモデルベース推定部10で推定した早い応答部分BM1での過電圧値とが入力されて前者から後者が減算して開放電圧値を得る。
すなわち、開放電圧値=端子電圧値−過電圧値である。この過電圧は早い応答部分BM1の過電圧値と遅い応答部分BM2の過電圧との合計であり、端子電圧の差分値=端子電圧−遅い応答部分BM2の過電圧であるから、これから早い応答部分BM1の過電圧値を減算すれば、バッテリ1の開放電圧値が得られるわけである。
この開放電圧値は、充電率算出部14へ出力される。
なお、第2減算器13は、本発明の第2減算手段に相当する。
【0027】
充電率算出部14は、あらかじめ実験で得た開放電圧と充電率との関係を表すデータがルック・アップ・テーブルとして記憶しており、第2減算器13で得た開放電圧値が入力されて、この開放電圧値に相当する充電率が推定充電率として出力される。
【0028】
なお、上記オフラインパラメータ同定部8やモデルベース推定部10では、パラメータ同定が行われるが、このパラメータ同定にあっては、例えばカルマン・フィルタを用いて、実際のバッテリ1の出力値とバッテリ等価回路モデルBMの出力値とを比較してこれらの出力値差が小さくなるように、バッテリ等価回路モデルである状態方程式のパラメータを逐次調整していくことで、各応答部分MBM1、BM2のパラメータを推定していく。
なお、カルマン・フィルタによるパラメータ推定の詳細については、本出願人の特願2011−007874に説明してある。
【0029】
上記のように構成された実施例1のバッテリ状態推定装置の作用について、図2のフローチャートとともに以下に説明する。
まず、ステップS1にて、状態推定部4が、この状態推測システムが起動したか否かを判定する。すなわち、イグニッションスイッチがオンになったか否かを判定する。この判定結果がYESであればステップS2へ進み、NOであればステップS6へと進む。
【0030】
ステップS2では、データ記録部6に記録したデータがあるか否かを判定する。この判定結果がYESであればステップS3に進み、NOであれば最初に戻る。
【0031】
ステップS3では、データ記録部6が、電流センサ2で検出した電流値および電圧センサ3で検出した端子電圧値をデータ圧縮部5で圧縮して得たデータを記憶する。
続いてステップS4に進む。
【0032】
ステップS4では、パラメータ同定に必要な一定以上の記録でデータがデータ記憶部6にあるか否かを判定する。
この判定結果がYESであればステップS5に進み、NOであれば最初に戻る。
【0033】
ステップS6では、データ記憶部6でのさらなる観測データを記憶することを停止する。
そして、最初に戻る。
【0034】
一方、停車でイグニッションスイッチがオフにされてステップS1にてNOと判定されたら、ステップS6に進み、オフラインパラメータ同定部8でパラメータ同定の演算をしているか否かを判定する。
この判定結果がYESであればステップS9に進み、NOであればステップS7に進む。
【0035】
ステップS7では、データ記録部6に必要な分の記録データがあるか否かを判定する。
この判定結果がYESであればステップS8に進み、NOであれば最初に戻る。
【0036】
ステップS8では、オフラインパラメータ同定部8がバッテリ等価回路モデルBMを用い、記憶部6に記憶されたデータをデコード部7で復号して得た元のデータ(イグニッションスイッチのオフ前のオン時に記憶してきた必要量の電流値、電圧値のデータ)に基づき、パラメータの同定演算処理を実行する。
続いて、ステップS10に進む。
【0037】
ステップS10では、オフラインパラメータ同定部8でのパラメータの同定演算処理が終了したか否かを判定する。
この判定結果がYESであればステップS11に進み、NOであれば最初に戻る。
【0038】
ステップS11では、オフラインパラメータ同定部8でのパラメータの同定演算処理を停止する。
続いて、ステップS12に進む。
【0039】
ステップS12では、オフラインパラメータ同定部8でのパラメータの同定演算処理で得たパラメータの値を用いて、パラメータ初期値部9で記憶保存する早い応答部分BM1のパラメータの初期値および過電圧算出部11で用いる遅い応答部分BM2のパラメータの値をそれぞれ書き換える。
【0040】
すなわち、パラメータ初期値部9で記憶保存する早い応答部分BM1のパラメータの初期値を、オフラインパラメータ同定部8でのパラメータの同定演算処理で得た早い応答部分BM1のパラメータの固定値に置き換えて、この固定値を次にイグニッションスイッチがオンにされたときモデルベース推定部10で用いるパラメータの初期値として使うようにする。
一方、過電圧算出部11で用いる遅い応答部分BM2のパラメータの値を、オフラインパラメータ同定部8でのパラメータの同定演算処理で得た遅い応答部分BM2のパラメータの値で置き換えて、この固定値を次にイグニッションスイッチがオンにされたとき過電圧算出部11でのバッテリ内部抵抗モデル(遅い応答部分BM2)のパラメータ値として用いるようにする。
続いてステップS13に進む。
【0041】
ステップS13では、データ記憶部6で記憶していたデータを破棄する。
そして、最初に戻る。
【0042】
次に上記フローチャートが実行されるパラメータ推定・更新プロセスの例を図3のタイムチャートに基づいて説明する。なお、横軸は時間である。
図3のタイムチャートでは、一番上にイグニッションスイッチのオン・オフを示し、中ほどに充放電電流の充電・放電およびそのときの電流値を示し、一番下にはデータを記憶可能な時間(多数の点を四角の枠で囲んだ部分で表す)、記憶しない時間(線のみで表す)、およびオフラインパラメータ同定部8でのパラメータの同定演算処理を実行している時間(斜線を四角の枠で囲んだ部分で表す)を時系列で表している。
【0043】
同図に示すように、最初のイグニッションスイッチのオンからオフまでの期間、電流値と電圧値(同図には示していない)をデータ記録部6に記憶していく(ステップS3に相当)。
この走行を終える最初のイグニッションスイッチのオフ時には、データ記録部6にまだ十分な量のデータが記録されていないため(ステップS4に相当)、オフラインパラメータ同定部8でのパラメータの同定演算処理は行われず、このオフ前のオン時のデータはデータ記録部6に記録されたままである。
【0044】
この停車の後、イグニッションスイッチをオンにして充電すると(ステップS1→S2に相当)、この充電中、新たなデータを追加記録可能となる(ステップS3に相当)。したがって、今回およびその前のオン時を合わせた期間P1内で必要な量のデータを確保でき、それ以降の観測データは記録されないことになる(ステップS5に相当)。
この結果、次にイグニッションスイッチがオフになると(ステップS1→S6に相当)、データ記録部6に記録していたデータをデコード部7で復元したデータがオフラインパラメータ同定部8に入力されて、ここでバッテリ等価回路モデルBMを用いてパラメータ同定処理が行われる(ステップS9に相当)。
【0045】
ただ、次のイグニッションスイッチがオンになるまでの間にパラメータ同定処理が終了すればそこで得られたパラメータの値を用いることになるが、このケースの場合、すなわち図3に示されるように処理時間P2が必要な処理時間に足りなかった場合には、パラメータ同定処理は一時中断されることになる。
そして、このオン時の間、電流値および端子電圧値が電流センサ2、電圧センサ3で検出され続けるもののデータ記録部6では既に処理に必要量を記録しているので、さらなるデータの記録は行われない(ステップS5に相当)。
【0046】
その後、イグニッションスイッチがオフになると(ステップS1→S6に相当)、オフラインパラメータ同定部8がパラメータ推定処理の残りを続けて処理し、期間P3かかってパラメータの値を推定し終える(ステップS9→S10→S11に相当)。この結果得た、パラメータの値を用いて、パラメータ初期値部9のパラメータ初期値や過電圧算出部10の遅い部分BM2のパラメータの値を更新する(ステップS12に相当)。次いで、データ記録部6のデータを破棄する(ステップS13に相当)。
【0047】
この後にイグニッションスイッチがオンになると、このオンから次ぎのオフまでの間(期間P4)、データ記録部6は新たなデータを記録し続ける(ステップS1→S2→S3に相当)。このようにして、それ以前と同様に、イグニッションスイッチオン時のデータ記録、イグニッションスイッチオフ時のパラメータ推定、推定後のパラメータの値の更新が行われる。
【0048】
以上説明したように、実施例1のバッテリ状態推定装置は、以下の効果を得ることができる。
実施例1のバッテリ状態推定装置にあっては、バッテリ1の電流値および端子電圧値を記録するデータ記録部6と、その記録されたデータを用いて車両の停車中に遅い応答部分BM2のパラメータの値を推定するオフラインパラメータ同定部8と、このオフラインパラメータ同定部8で得られた遅い応答部分BM2のパラメータの値に、遅い応答部分BM2に保存されていたパラメータの固定値を置き換える過電圧推定部11と、を設けたので、早い応答部分BM1および遅い応答部分BM2を有するバッテリ等価回路モデルBMを用いてバッテリ1の内部状態を推定する場合に、バッテリ1のばらつきや経時変化に起因して遅い応答部分BM2のパラメータの値が最初に設定した固定値からずれたときでも、精度よくバッテリ1の内部状態を推測できるようになる。
【0049】
また、バッテリ状態推定装置が第1減算部12と第2減算部13を有し、過電圧推定部11がパラメータの更新した固定値および充放電電流値に基づいて遅い応答部分BM2の過電圧値を算出し、第1減算部12が、端子電圧値から遅い応答部分の過電圧値を減算して端子電圧の差分値を算出し、モデルベース推定部10が早い応答部分BM1のパラメータ初期値と充放電電流値と端子電圧の差分値とから早い応答部分BM1の過電圧値を算出し、第2減算部13が、端子電圧の差分値から早い応答部分の過電圧値を減算してバッテリの開放電圧値を得るようにしたので、開放電圧を精度よく算出でき、ひいてはこの開放電圧に基づいてバッテリ1の充電率を精度よく推定することができる。
【0050】
以上、本発明を上記実施例に基づき説明してきたが、本発明は上記実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
1 バッテリ
1a〜1n セル
2 電流センサ(充放電電流検出手段)
3 電圧センサ(端子電圧検出手段)
3a〜3n セル電圧センサ
4 状態検出部
5 データ圧縮部
6 データ記録部(データ記録手段)
7 デコード部
8 オフラインパラメータ同定部(更新パラメータ推定部)
9 パラメータ初期値部
10 モデルベース推定部(逐次パラメータ推定手段)
11 過電圧推定部(パラメータ更新手段)
12 第1減算部(第1減算手段)
13 第2減算部(第2減算手段)
14 充電率推定部
図1
図2
図3