特許第5986952号(P5986952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986952
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】蒸気タービンの自動調整シール
(51)【国際特許分類】
   F01D 11/04 20060101AFI20160823BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20160823BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   F01D11/04
   F01D25/00 M
   F16J15/447
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-88388(P2013-88388)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-211129(P2014-211129A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2015年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 英司
【審査官】 齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−206805(JP,A)
【文献】 実開昭62−117202(JP,U)
【文献】 特開2010−144726(JP,A)
【文献】 特開2013−064404(JP,A)
【文献】 特開2000−097350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 11/00−24
F01D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部と固定部との間に形成される隙間から蒸気の漏洩を防止または制御する、蒸気タービンの自動調整シールであって、
前記回転部の外周に沿って配置されるラビリンスフィンと、
前記ラビリンスフィンを半径方向内方に押し付ける弾性部材と、
前記蒸気タービンの車室底部に配置され、前記ラビリンスフィンとの熱伸び差によって前記ラビリンスフィンを半径方向外方に押し広げるエキスパンションリングと、を備えることを特徴とする蒸気タービンの自動調整シール。
【請求項2】
前記エキスパンションリングは、前記ラビリンスフィンよりも線膨張係数の大きい材質からなることを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービンの自動調整シール。
【請求項3】
前記ラビリンスフィンは、複数の分割体により構成され、前記エキスパンションリングは、前記ラビリンスフィンの複数の分割体の各々を半径方向外方に押し広げることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸気タービンの自動調整シール。
【請求項4】
前記ラビリンスフィンの外周に形成される凸部と、
前記固定部に形成され、前記凸部を収容する凹部と、
前記凹部によって形成される空間において、前記凸部と前記凹部との間にエキスパンションリングが設置されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蒸気タービンの自動調整シール。
【請求項5】
前記エキスパンションリングの内周端は、断面視円弧形状を呈するように面取りされていることを特徴とする請求項4に記載の蒸気タービンの自動調整シール。
【請求項6】
前記エキスパンションリングは、前記凹部によって形成される空間において、1つのみ設置され、かつ、前記蒸気タービンの軸方向における高圧側に設置されることを特徴とする請求項4または5に記載の蒸気タービンの自動調整シール。
【請求項7】
前記エキスパンションリングは、前記凸部に形成され、前記蒸気タービンの軸方向における高圧側に延びる張出部と、前記凹部に形成され、前記蒸気タービンの軸方向における低圧側に延びる張出部との間に配置されることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の蒸気タービンの自動調整シール。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の蒸気タービンの自動調整シールを具備していることを特徴とする舶用蒸気タービン。
【請求項9】
前記固定部は、ダミー環であることを特徴とする請求項8に記載の舶用蒸気タービン。
【請求項10】
請求項8または9に記載の舶用蒸気タービンを具備していることを特徴とする船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンの自動調整シールに関し、特に、船舶の推進用タービン(舶用主機タービン)として用いられる蒸気タービン(再熱タービン)の自動調整シールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンの自動調整シールとしては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−120879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、船舶の推進用タービン(舶用主機タービン)として用いられる蒸気タービン(再熱タービン)では、上部車室の上面中央部に設けられた主蒸気入口部から、高圧タービンの入口に向かって流れ込む高温(例えば、550℃〜560℃)の蒸気によって、ノズル室およびダミー環が熱せられ、これらノズル室およびダミー環からの放熱により上部車室の上部(より詳しくは、ノズルボックス)が熱せられて、上部車室と下部車室との温度差が付きやすい構造になっている。上部車室の温度が下部車室の温度よりも高くなると、車室全体が上に凸状に湾曲する現象、いわゆる車室の猫反り(キャッツバック)が起こる。そして、車室の猫反りは、下部車室の静止部(より詳しくは、ダミー環の内周面に配置されたラビリンスフィン)とロータとの間のクリアランスを小さくし、過大な車室の猫反りは、下部車室の静止部とロータとを接触させることになる。
【0005】
そのため、船舶の推進用タービンとして用いられる蒸気タービンでは、下部車室の静止部とロータとの接触を回避するため、冷態停止時において下部車室の静止部とロータとの間のクリアランスが大きく、かつ、上部車室の静止部とロータとの間のクリアランスが小さくなるように、車室静止部に配置されたラビリンスフィンに対して予め偏心加工を施している。
しかしながら、このような蒸気タービンでは、冷態停止時において上部車室の静止部とロータとの間のクリアランスが小さくなっており、タービン起動時に上部車室の静止部とロータとが接触してしまうおそれがあった。
【0006】
そこで、タービン起動時における上部車室の静止部とロータとの接触を回避するため、冷態停止時における上部車室の静止部とロータとの間のクリアランスをより大きくしたものもあった。
しかしながら、このような蒸気タービンでは、定格運転時における上部車室の静止部とロータとの間のクリアランスはさらに大きくなってしまい、定格運転時におけるタービン効率が低下してしまうおそれがあった。
【0007】
そして、タービン起動時における上部車室の静止部とロータとの接触を回避するとともに、定格運転時におけるタービン効率の低下を回避するため、上部車室に設けられるラビリンスフィンに、上記特許文献1に記載された発明を適用したものも提案されている。
しかしながら、このような蒸気タービンでは、特許文献1に記載された自動調整シールを上部車室の静止部に組み込まなければならないが、船舶の推進用タービン(舶用主機タービン)として用いられる蒸気タービン(再熱タービン)は、発電所等で使用される陸用蒸気タービンよりも極めて小型で、定期的なドック時の開放点検が要求されるため、部品点数の増加は大型化、また開放時の作業煩雑化につながるため好ましくない。
【0008】
さらに、上記特許文献1に記載された自動調整シールは、シールリングおよびシールフィンを半径方向外方に付勢する弾性体の付勢力と、この弾性体の付勢力に抗してシールリングおよびシールフィンを半径方向内方に押圧する力とのバランスにより動作する。そのため、タービン起動時から定格運転時に至るまでのシールリングおよびシールフィンに掛かる圧力に応じて、弾性体の付勢力を適正に選定する必要がある。
しかしながら、タービン起動時から定格運転時に至るまでのシールリングおよびシールフィンに掛かる圧力、およびこの圧力に応じた弾性体の付勢力は、いずれも過去の実測・実績に左右されるところが大きく、搭載される船舶毎に仕様が異なり、過去の実測・実績に乏しく、常時可変速での運転が要求される船舶の推進用タービン(舶用主機タービン)として用いられる蒸気タービン(再熱タービン)には不向きである。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、タービン起動時から定格運転時に至るまでのいずれの状況においても、車室の静止部とロータとの接触を防止することができる蒸気タービンの自動調整シールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係る蒸気タービンの自動調整シールは、回転部と固定部との間に形成される隙間から蒸気の漏洩を防止または制御する、蒸気タービンの自動調整シールであって、前記回転部の外周に沿って配置されるラビリンスフィンと、前記ラビリンスフィンを半径方向内方に押し付ける弾性部材と、前記蒸気タービンの車室底部に配置され、前記ラビリンスフィンとの熱伸び差によって前記ラビリンスフィンを半径方向外方に押し広げるエキスパンションリングと、を備えている。
【0011】
本発明に係る蒸気タービンの自動調整シールによれば、タービン起動時から定格運転時に至るまでのいずれの状況においても、車室の静止部とロータとの接触を防止することができる。
すなわち、冷態停止時における固定部(車室)と回転部(ロータ)との間のクリアランスを予め大きくとることができ、タービン起動時における固定部(車室)と回転部(ロータ)との接触を回避することができる。
これにより、タービン起動時から定格運転時に至るまでのいずれの状況においても、車室の静止部とロータとの接触を防止することができる。
【0012】
上記蒸気タービンの自動調整シールにおいて、前記エキスパンションリングは、前記ラビリンスフィンよりも線膨張係数の大きい材質からなるとさらに好適である。
【0013】
このような蒸気タービンの自動調整シールによれば、固定部(車室)と回転部(ロータ)とのクリアランスが、ラビリンスフィンと、ラビリンスフィンよりも線膨張係数の大きい材料で作られたエキスパンションリングとの熱伸び差によって確保されることになるので、固定部(車室)と回転部(ロータ)とが同心になるように配置することができる。
【0014】
上記蒸気タービンの自動調整シールにおいて、前記ラビリンスフィンは、複数の分割体により構成され、前記エキスパンションリングは、前記ラビリンスフィンの複数の分割体の各々を半径方向外方に押し広げるものであるとさらに好適である。
【0015】
上記蒸気タービンの自動調整シールにおいて、前記ラビリンスフィンの外周に形成される凸部と、前記固定部に形成され、前記凸部を収容する凹部と、前記凹部によって形成される空間において、前記凸部と前記凹部との間にエキスパンションリングが設置されていとさらに好適である。
【0016】
上記蒸気タービンの自動調整シールにおいて、前記エキスパンションリングの内周端は、断面視円弧形状を呈するように面取りされているとさらに好適である。
【0017】
このような蒸気タービンの自動調整シールによれば、エキスパンションリングを製作する際に製作誤差が生じたり、エキスパンションリングを取り付ける際に取付誤差が生じたりしても、エキスパンションリングの内周端は、張出部の外周面に対し、周方向に沿って常にエキスパンションリングの凸表面上で線接触することになる。
これにより、エキスパンションリングの熱伸びを周方向に沿って(略)均一にすることができ、回転部(ロータ)とのクリアランスを周方向に沿って(略)一定にすることができる。
【0018】
上記蒸気タービンの自動調整シールにおいて、前記エキスパンションリングは、前記凹部によって形成される空間において、1つのみ設置され、かつ、前記蒸気タービンの軸方向における高圧側に設置されているとさらに好適である。
【0019】
このような蒸気タービンの自動調整シールによれば、ラビリンスフィンは高圧側から低圧側(図5図6において左側)に常に押し付けられた状態となる。ラビリンスフィンと固定部(ダミー環)との接触面がガイドとなり、ラビリンスフィンの半径方向への摺動を円滑なものとすることができる。
【0020】
上記蒸気タービンの自動調整シールにおいて、前記エキスパンションリングは、前記凸部に形成され、前記蒸気タービンの軸方向における高圧側に延びる張出部と、前記凹部に形成され、前記蒸気タービンの軸方向における低圧側に延びる張出部との間に配置されているとさらに好適である。
【0021】
本発明に係る舶用蒸気タービンは、上記いずれかの蒸気タービンの自動調整シールを具備している。
【0022】
本発明に係る舶用蒸気タービンによれば、タービン起動時から定格運転時に至るまでのいずれの状況においても、車室の静止部とロータとの接触を防止することができる蒸気タービンの自動調整シールを具備していることになるので、当該舶用蒸気タービンの信頼性を向上させることができる。
【0023】
上記舶用蒸気タービンにおいて、前記固定部が、ダミー環であるとさらに好適である。
【0024】
このような舶用蒸気タービンによれば、回転部の軸方向における中央部、すなわち、車室の猫反りが起きたときに固定部(車室下部)と回転部(ロータ)とのクリアランスが最も厳しく(小さく)なる部分に蒸気タービンの自動調整シールが配置されていることになる。
これにより、車室の猫反りによって狭まる固定部(下部車室)と回転部(ロータ)とのクリアランスを確実に確保することができ、当該舶用蒸気タービンの信頼性をさらに向上させることができる。
【0025】
本発明に係る船舶は、上記いずれかの舶用蒸気タービンを具備している。
【0026】
本発明に係る船舶によれば、タービン起動時から定格運転時に至るまでのいずれの状況においても、車室の静止部とロータとの接触を防止することができる舶用蒸気タービンを具備していることになるので、当該船舶の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る蒸気タービンの自動調整シールによれば、タービン起動時から定格運転時に至るまでのいずれの状況においても、車室の静止部とロータとの接触を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る舶用蒸気タービンの一実施形態を示す縦断面図である。
図2図1に示すダミー環を拡大して示す図である。
図3図2のIII−III矢視断面図である。
図4図3の要部を拡大して示す図である。
図5図2の要部を拡大して示す図であって、冷態停止時の図である。
図6図2の要部を拡大して示す図であって、定格運転時の図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態に係る蒸気タービンの自動調整シールについて、図1から図6を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る蒸気タービン、特に、船舶の推進用タービン(舶用主機タービン)として用いられる蒸気タービン(再熱タービン)1は、タービンロータ2と、このタービンロータ2を収容する車室3と、を主たる要素として構成されている。
タービンロータ2は、各端部が軸受4に回転可能に支持された回転軸6と、この回転軸6の軸方向に沿って配列(配置)された複数枚のタービンディスク7a,7bとを備えている。タービンディスク7aは、回転軸6の一側(図1において右側に位置する高圧側)に配列された複数枚の(高圧側)タービンディスクであり、タービンディスク7bは、回転軸6の他側(図1において左側に位置する中圧側(または低圧側)に配列された複数枚の(中圧側または低圧側)タービンディスク7bである。そして、各タービンディスク7a,7bの外周部には、複数枚のタービンブレード(動翼)8a,8bが、周方向に沿うとともに所定の隙間をあけて取り付けられている。
【0030】
車室3は、例えば、高クローム鋼(9Cr鋳鋼や12Cr鋳鋼等)で作られるとともに、上下方向に二分割された(半割り構造とされた)水平分割型の車室であり、図1において上側に位置する上部車室3aと、図1において下側に位置する下部車室3bとで構成されており、これら上部車室3aおよび下部車室3bの内周面にはそれぞれ、回転軸6の軸方向に沿って円環状の仕切板9a,9bが複数列配置されている。仕切板9aは、タービンディスク7aおよびタービンブレード8aに対応して配置された複数段の(高圧側)仕切板であり、動翼8aに向けて蒸気を噴出させるためのノズルが環上に配置され、中心を含む水平面で分割可能な構造となっている。仕切板9bは、タービンディスク7bおよびタービンブレード8bに対応して配置された複数段の(中圧側または低圧側)仕切板であり、動翼8bに向けて蒸気を噴出させるためのノズルが環上に配置され、中心を含む水平面で分割可能な構造となっている。そして、上部車室3aを下部車室3bの開口部を覆うように載置するとともに、図示しない複数本のボルトを介して下部車室3bに固定することにより、蒸気タービン1の一側(図1において右側に位置する高圧側)に、タービンディスク7aおよびタービンブレード8aと仕切板9aとが回転軸6の軸方向に交互に配列された第1のタービン車室空間(高圧側タービン車室空間)10が形成され、蒸気タービン1の他側(図1において左側に位置する中圧側(または低圧側))に、タービンディスク7bおよびタービンブレード8bと仕切板9bとが回転軸6の軸方向に交互に配列された第2のタービン車室空間(中圧側(または低圧側)タービン車室空間)11が形成されるようになっている。
【0031】
第1のタービン車室空間10と第2のタービン車室空間11との間、すなわち、回転軸6の軸方向における略中央部に位置する車室3内には、第1のタービン車室空間10と第2のタービン車室空間11とを区画する(仕切る)ダミー環(仕切部材)12が周方向にわたって配置されている。ダミー環12は、例えば、低クローム鋼(2Cr鋳鋼等)または高クローム鋼(9Cr鋳鋼や12Cr鋳鋼等)で作られた環状の部材であり、例えば、上下方向に二分割された(半割り構造とされた)2つの半円状の部材からなっている。また、ダミー環12には、調速段ノズル18および静翼19等が組み込まれ、ノズル室20を一体に構成している。
【0032】
上部車室3aの上面中央部には、主蒸気入口部13が設けられており、この主蒸気入口部13内には、前進ノズル弁14が配置されている。そして、この前進ノズル弁14を通過した主蒸気は、ダミー環12に嵌め込まれた調速段ノズル18および静翼19等を通過した後、第1のタービン車室空間10内に供給されるようになっている。また、下部車室3bの下面一端部(図1において右側に位置する端部)には、高圧タービン排気部15が設けられている。
一方、下部車室3bの下面中央部には、再熱蒸気入口部16が設けられており、下部車室3bの下面他端部(図1において左側に位置する端部)には、中圧タービン排気部17が設けられている。
【0033】
さて、図1から図6に示す本実施形態に係る蒸気タービン1の自動調整シール(以下、「自動調整シール」という。)31は、ラビリンスフィン32と、スプリング33と、エキスパンションリング34と、を備えており、車室3の猫反りによる変位が最も大きくなるダミー環12の内周面に、軸方向に沿って複数個(本実施形態では、8個)設けられている。
ラビリンスフィン32は、周方向に沿って回転軸6の半径方向外側全体を取り囲むようにして配置され、周方向に6分割(6等分)されている。6分割されたラビリンスフィン32のうちの3つは、上部車室3a側に取り付けられたダミー環12に取り付けられ、残りの3つは、下部車室3b側に取り付けられたダミー環12に取り付けられている。
【0034】
ラビリンスフィン32の軸方向における中央部には、周方向に沿うとともに半径方向外方に向かって突出する、断面視L字形状を呈する凸部41が設けられている。凸部41の外周側の縁部(半径方向外側の端部)には、軸方向に沿って高圧側(図において右側)に延びる張出部42が設けられている。
一方、ダミー環12の内周面には、周方向に沿うとともに半径方向外方に向かって掘り下げられ、凸部41の先端部および張出部42を受け入れる断面視L字形状を呈する凹部51が設けられている。張出部42の内周側(半径方向内側)には、ダミー環12の内周側の縁部(半径方向内側の端部)から、軸方向に沿って低圧側(図において左側)に延びる張出部52が設けられている。張出部52は、軸方向に沿って張出部42と重なり合うようにして延びており、これにより、凸部41の先端部および張出部42が凹部51内から外側(半径方向内側)に抜け出さないようになっている。
【0035】
スプリング33は、周方向に沿ってラビリンスフィン32の半径方向外側全体を取り囲むとともに、その内周面全体がラビリンスフィン32の外周面(より詳しくは、凸部41の外周面)全体と接するようにして配置され、ラビリンスフィン32を半径方向内方に付勢する弾性部材(付勢部材)である。
【0036】
エキスパンションリング34は、下部車室3b側のダミー環12に取り付けられたラビリンスフィン32のうちの真ん中に位置するラビリンスフィン32(すなわち、下部車室3b側のダミー環12の底部に位置するラビリンスフィン32)の張出部42と、この張出部42の半径方向内側に対向するようにして位置する張出部52との間に配置されている。エキスパンションリング34は、ラビリンスフィン32よりも線膨張係数の大きい材料(例えば、ラビリンスフィン32がSUS403で作られている場合には、SFVA
F22B)で作られており、その内周端は、断面視円弧形状を呈するように面取りされている。
一方、張出部42の内周面には、周方向に沿うとともに半径方向外方に向かって掘り下げられ、エキスパンションリング34の外周端部を受け入れる断面視矩形状を呈する凹所43が設けられている。
【0037】
なお、本実施形態において、ロータ2は、車室3(上部車室3aおよび下部車室3b)と同心になるように配置されている。すなわち、本実施形態において、ロータ2と車室3(上部車室3aおよび下部車室3b)とのクリアランスは予め上方に偏心して調整されたものではない。
【0038】
本実施形態に係る自動調整シール31によれば、車室3の猫反りによって小さくなる下部車室3bとロータ2(より詳しくは、回転軸6)とのクリアランスが、ラビリンスフィン32と、ラビリンスフィン32よりも線膨張係数の大きい材料で作られたエキスパンションリング34との熱伸び差によって確保されることになるので、車室3とロータ2とが同心になるように配置することができる。
すなわち、冷態停止時における上部車室3aとロータ2との間のクリアランスを予め大きくとることができ、タービン起動時における上部車室3aとロータ2との接触を回避することができる。
これにより、タービン起動時から定格運転時に至るまでのいずれの状況においても、車室3の静止部とロータ2との接触を防止することができる。
【0039】
また、本実施形態に係る自動調整シール31によれば、エキスパンションリング34の内周端は、断面視円弧形状を呈するように面取りされているので、エキスパンションリング34を製作する際に製作誤差が生じたり、エキスパンションリング34を取り付ける際に取付誤差が生じたりしても、エキスパンションリング34の内周端は、張出部52の外周面に対し、周方向に沿って常にエキスパンションリング34の凸表面上で線接触することになる。
これにより、エキスパンションリング34の熱伸びを周方向に沿って(略)均一にすることができ、ロータ2とのクリアランスを周方向に沿って(略)一定にすることができる。
【0040】
さらに、本実施形態に係る自動調整シール31によれば、エキスパンションリング34は、凹部51によって形成される空間において、1つのみ設置され、かつ、舶用蒸気タービン1の軸方向における高圧側に設置されているので、ラビリンスフィン32は高圧側から低圧側(図5図6において左側)に常に押し付けられた状態となる。ラビリンスフィン32の凸部41とダミー環12に設けられた凹部51との接触面がガイドとなり、ラビリンスフィン32の半径方向への摺動を円滑なものとすることができる。
【0041】
本実施形態に係る自動調整シール31を具備した舶用蒸気タービン1によれば、タービン起動時から定格運転時に至るまでのいずれの状況においても、車室3の静止部とロータ2との接触を防止することができる自動調整シール31を具備していることになるので、当該舶用蒸気タービン1の信頼性を向上させることができる。
【0042】
本実施形態に係る自動調整シール31を具備した舶用蒸気タービン1によれば、ロータ2の軸方向における中央部、すなわち、車室3の猫反りが起きたときにクリアランスが最も厳しく(小さく)なる部分に自動調整シール31が配置されていることになる。
これにより、車室3の猫反りによって狭まる下部車室3bとロータ2とのクリアランスを確実に確保することができ、当該舶用蒸気タービン1の信頼性をさらに向上させることができる。
【0043】
本実施形態に係る舶用蒸気タービン1を具備した船舶によれば、タービン起動時から定格運転時に至るまでのいずれの状況においても、車室3の静止部とロータ2との接触を防止することができる舶用蒸気タービン1を具備していることになるので、当該船舶の信頼性を向上させることができる。
【0044】
ここで、本実施形態に係る自動調整シール31の組立方法は、周方向に沿って配置されるとともに、周方向に沿って複数個の分割体に分割されたラビリンスフィン32と、これらラビリンスフィン32の全体を半径方向内方に付勢するスプリング33と、舶用蒸気タービン1の下部車室3b底部に配置され、かつ、ラビリンスフィン32よりも線膨張係数の大きい材料で作られて、ラビリンスフィン32との熱伸び差によって下部車室3b底部に配置されたラビリンスフィン32の一分割体を半径方向外方に付勢するエキスパンションリング34と、を備え、ロータ2とこれに対峙するダミー環12との間に形成される隙間を通過する蒸気の漏洩を防止または制御する、自動調整シール31の組立方法であって、ラビリンスフィン32を上部車室3aおよび下部車室3bの所定の位置に取り付ける工程と、下部車室3b底部に配置されたラビリンスフィン32の一分割体に対して、エキスパンションリング34を取り付ける工程と、周方向に沿ってラビリンスフィン32の半径方向外側全体を取り囲むようにしてスプリング33を取り付ける工程と、を備えている。
【0045】
そして、本実施形態に係る自動調整シール31の組立方法によって組み立てられた自動調整シール31によれば、車室3の猫反りによって小さくなる下部車室3bとロータ2(より詳しくは、回転軸6)とのクリアランスが、ラビリンスフィン32と、ラビリンスフィン32よりも線膨張係数の大きい材料で作られたエキスパンションリング34との熱伸び差によって確保されることになるので、車室3とロータ2とが同心になるように配置することができる。
すなわち、冷態停止時における上部車室3aとロータ2との間のクリアランスを予め大きくとることができ、タービン起動時における上部車室3aとロータ2との接触を回避することができる。
これにより、タービン起動時から定格運転時に至るまでのいずれの状況においても、車室3の静止部とロータ2との接触を防止することができる。
【0046】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形・変更して実施することもできる。
例えば、上述した実施形態では、下部車室3b側のダミー環12に取り付けられたラビリンスフィン32のうちの真ん中に位置するラビリンスフィン32(すなわち、下部車室3b側のダミー環12の底部に位置するラビリンスフィン32)の張出部42と、この張出部42の半径方向内側に対向するようにして位置する張出部52との間にのみエキスパンションリング34が配置されたものを一具体例として挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、下部車室3b側のダミー環12に取り付けられた3つのラビリンスフィン32の張出部42と、これら張出部42の半径方向内側に対向するようにして位置する張出部52との間に配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 舶用蒸気タービン
2 ロータ(回転部)
3 車室
3a 上部車室
3b 下部車室
6 回転軸(回転部)
12 ダミー環(固定部)
31 自動調整シール
32 ラビリンスフィン
33 スプリング(付勢部材)
34 エキスパンションリング
41 凸部
42 張出部
51 凹部
52 張出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6