特許第5987036号(P5987036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987036
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】車両用シート装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/08 20060101AFI20160823BHJP
   B60N 2/20 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B60N2/08
   B60N2/20
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-212681(P2014-212681)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-78676(P2016-78676A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2015年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100160004
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 憲雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120558
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 勝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100148909
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 匡則
(74)【代理人】
【識別番号】100161355
【弁理士】
【氏名又は名称】野崎 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 忍
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩久
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘規
【審査官】 永安 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−194019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/08
B60N 2/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のフロアに設けられて車体前後方向へ延びた固定レールと、該固定レールに対し前後方向にスライド可能な可動レールと、該可動レールに設けられたシートクッションと、該シートクッションに対し起立姿勢と前傾姿勢とに変位可能なシートバックとを有し、
前記シートバックを前傾姿勢にした場合に、前記シートクッションを通常の着座エリアよりも前方の拡大エリアにスライドさせることが可能な車両用シート装置において、
前記シートクッションが前記拡大エリアに位置している場合に、前記シートバックを前傾姿勢に保持するためのバック姿勢保持装置を備え、
前記バック姿勢保持装置は、
保持装置本体と、
前記シートバックの脚部及び前記保持装置本体を互いに連結するワイヤケーブルと、を備え、
前記保持装置本体は、前記シートクッションが前記着座エリアに位置している場合、前記シートバックを前記起立姿勢と前記前傾姿勢とに変位可能に前記ワイヤケーブルを弛ませ、前記シートクッションが前記拡大エリアに位置している場合、前記シートバックが前記前傾姿勢に保持されるように前記ワイヤケーブルを前方に引っ張ることを特徴とする車両用シート装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用シート装置において、
前記固定レールには、
前記着座エリアに位置した着座エリア面と、
前記着座エリア面よりも高く設定され、前記拡大エリアに位置した拡大エリア面と、
前記着座エリア面と前記拡大エリア面とを連結する傾斜面とが設けられ、
前記保持装置本体は、
前記シートクッションに設けられたアーム支持軸と、
前記アーム支持軸に回転可能に支持され、前記ワイヤケーブルが連結されたスイングアームと、
該スイングアームに回転可能に取り付けられ、前記着座エリア面と前記拡大エリア面とを移動するローラ部とを有し、
前記スイングアームは、前記ローラ部が前記着座エリア面から前記傾斜面を介して前記拡大エリア面に移動した時に前記ワイヤケーブルが前方に引っ張られるように前記アーム支持軸に対して回転し、前記ローラ部が前記拡大エリア面から前記傾斜面を介して前記着座エリア面に移動した時に前記ワイヤケーブルが弛むように前記アーム支持軸に対して回転する、
ことを特徴とする車両用シート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートバックを前傾姿勢にした場合に、シートクッションを通常の着座エリアよりも前方の拡大エリアにスライドさせることが可能な、車両用シート装置の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のなかには、車室の後部に荷室エリアを有している車種(例えばワンボックスカー)がある。該車室の後部、つまり荷室エリアの直前のフロア上には、シートが前後移動可能に設けられている。
【0003】
詳しく述べると、車両用シート装置は、フロアに設けられて車体前後方向へ延びた固定レールと、該固定レールに対し前後方向にスライド可能な可動レールと、該可動レールに設けられたシートとを有する。該シートは、該可動レールに設けられたシートクッションと、該シートクッションに対して起立姿勢と前傾姿勢とに変位可能なシートバックとからなる。
【0004】
シートバックを起立姿勢にすることによって着座可能なシートが、前後方向にスライド可能な範囲のことを、着座エリアという。該着座エリアは、荷室エリアの直前に位置している。該荷室エリアに積載する荷物が大きい場合には、該荷室エリアを広げて使いたいことがあり得る。この場合には、シートを着座エリアよりも前方へ移動できることが好ましい。該シートが、着座エリアよりも前方にスライド可能な範囲のことを、拡大エリアという。該シートを拡大エリアへ移動させることによって、荷室エリアは実質的に広がる。
【0005】
シートバックを起立したままで、シートを着座エリアから拡大エリアへ移動させても、乗員は該シートに着座することが可能である。しかし、車両には、シートに着座している乗員を拘束するための、シートベルト装置が設けられている。一般に、該シートベルト装置は、着座エリアに位置したシートに対して、乗員が着座しているときに、該乗員を効果的に拘束する。そこで、シートを着座エリアから拡大エリアへ移動させるときには、該シートに着座できないようにする技術が、例えば特許文献1によって知られている。
【0006】
特許文献1で知られている技術は、シートを着座エリアから拡大エリアへ移動させるときに、シートバックを前傾姿勢にするというものである。このため、該シートに着座することはできない。シートが拡大エリアに位置している状態で、シートバックを起立させた場合には、該シートの前後スライドは阻止される。しかし、シートバックが起立姿勢にあるので、シートに着座することはできる。乗員の保護性能を十分に確保するには、更なる改良が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平7−014062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、シートを着座エリアから拡大エリアへ移動させることができるとともに、乗員の保護性能を十分に確保することができる技術を、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、車体のフロアに設けられて車体前後方向へ延びた固定レールと、該固定レールに対し前後方向にスライド可能な可動レールと、該可動レールに設けられたシートクッションと、該シートクッションに対し起立姿勢と前傾姿勢とに変位可能なシートバックとを有し、前記シートバックを前傾姿勢にした場合に、前記シートクッションを通常の着座エリアよりも前方の拡大エリアにスライドさせることが可能な車両用シート装置において、前記シートクッションが前記拡大エリアに位置している場合に、前記シートバックを前傾姿勢に保持するためのバック姿勢保持装置を備え、前記バック姿勢保持装置は、保持装置本体と、前記シートバックの脚部及び前記保持装置本体を互いに連結するワイヤケーブルと、を備え、前記保持装置本体は、前記シートクッションが前記着座エリアに位置している場合、前記シートバックを前記起立姿勢と前記前傾姿勢とに変位可能に前記ワイヤケーブルを弛ませ、前記シートクッションが前記拡大エリアに位置している場合、前記シートバックが前記前傾姿勢に保持されるように前記ワイヤケーブルを前方に引っ張ることを特徴とする車両用シート装置が提供される。
また、請求項2に係る発明によれば、前記固定レールには、前記着座エリアに位置した着座エリア面と、前記着座エリア面よりも高く設定され、前記拡大エリアに位置した拡大エリア面と、前記着座エリア面と前記拡大エリア面とを連結する傾斜面とが設けられ、前記保持装置本体は、前記シートクッションに設けられたアーム支持軸と、前記アーム支持軸に回転可能に支持され、前記ワイヤケーブルが連結されたスイングアームと、該スイングアームに回転可能に取り付けられ、前記着座エリア面と前記拡大エリア面とを移動するローラ部とを有し、前記スイングアームは、前記ローラ部が前記着座エリア面から前記傾斜面を介して前記拡大エリア面に移動した時に前記ワイヤケーブルが前方に引っ張られるように前記アーム支持軸に対して回転し、前記ローラ部が前記拡大エリア面から前記傾斜面を介して前記着座エリア面に移動した時に前記ワイヤケーブルが弛むように前記アーム支持軸に対して回転することを特徴とする車両用シート装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、シートバックを前傾姿勢にした場合には、シートクッションを通常の着座エリアよりも前方の拡大エリアに、スライドさせることが可能である。しかも、シートクッションが、拡大エリアに位置している場合には、シートバックの前傾姿勢は、バック姿勢保持装置によって保持される。該拡大エリアでは、シートバックが前傾姿勢を維持することによって、乗員がシートに着座できないように規制することができる。つまり、シートベルトによって乗員を確実に拘束することが可能な、通常の着座エリアでのみ、着座することができる。このように、シートを着座エリアから拡大エリアへ移動させることができるとともに、乗員の保護性能を十分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る車両用シート装置を備えた車両を側方から見た模式図である。
図2図1に示される車両用シート装置を側方から見た模式図である。
図3図2に示されるカム機構とバック姿勢保持装置と前進ストッパ機構の斜視図である。
図4図2に示される車両用シート装置の作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0013】
実施例に係る車両用シート装置について図面に基づき説明する。なお、車両用シート装置の「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は車両を運転している運転者から見た方向に従い、Frは前、Rrは後、Upは上、Dnは下である。
【0014】
図1(a)に示されるように、車両10は、車室11の後部に荷室エリア12を有している、例えばワンボックスカーである。該車室11の後部、つまり荷室エリア12の直前のフロア22上には、車両用シート装置30のシート33が前後移動可能に設けられている。該シート33は、最後席である。
【0015】
詳しく述べると、車両用シート装置30は、車体21のフロア22に設けられて車体前後方向へ延びた固定レール31と、該固定レール31に対し前後方向にスライド可能な可動レール32と、該可動レール32に設けられた前記シート33とを含む。該シート33は、可動レール32に設けられたシートクッション34と、該シートクッション34に対して起立姿勢と前傾姿勢とに変位可能なシートバック35とからなる。
【0016】
図1(a)及び図1(b)に示されるように、シートバック35を起立姿勢にすることによって着座可能なシート33が、前後方向にスライド可能な範囲13のことを、「着座エリア13」という。該着座エリア13は、シート33が、図1(a)に示される最後端まで後退可能な位置から、図1(b)に示される最前端まで前進可能な位置までの範囲であり、荷室エリア12の直前に位置している。
【0017】
該荷室エリア12に積載する荷物が大きい場合には、該荷室エリア12を広げて使いたいことがあり得る。この場合には、シート33を着座エリア13よりも前方へ移動できることが好ましい。
【0018】
図1(c)に示されるように、該シート33が、着座エリア13よりも前方にスライド可能な範囲14のことを、「拡大エリア14」という。該シート33を着座エリア13から拡大エリア14へ移動させることによって、荷室エリア12は実質的に広がる。実質的に広がった荷室エリア15のことを、「拡大された荷室15」という。着座エリア13と拡大エリア14との間の位置16のことを、「拡大始点16」という。
【0019】
該シート33を、着座エリア13から拡大エリア14へ移動する場合には、シートバック35は、図1(b)に実線によって示される起立姿勢から、図1(b)に想像線によって示される前傾姿勢に変える必要がある。
【0020】
以下、車両用シート装置30の機構の一例について説明する。図2及び図3に示されるように、シートバック35の下部には、脚部36が一体的に設けられている。該脚部36は、シートバック35の骨材となるシートバックフレームの下部であってもよい。該シートバック35の下部、つまり脚部36の上下方向中央部は、シートクッション34の後部のフレームに、バック支持軸37によって前後スイング可能に支持されている。シートバック35の前後スイング方向の位置は、図示せぬ操作レバーを操作することによって、任意の位置に設定される。
【0021】
車両用シート装置30は、掛け止め機構40と、クッションスライドロック機構50と、バック姿勢保持装置60と、前進ストッパ機構70とを有する。
【0022】
該掛け止め機構40は、シートバック35の脚部36に設けられたピン41と、該ピン41によって回転可能な掛け止め板42と、該掛け止め板42を付勢する第1のリターンスプリング43とからなる。該ピン41は、脚部36からシート幅方向の外側へ延びており、バック支持軸37に対して平行な円形断面に形成されている。
【0023】
該掛け止め板42は、ピン41の後下方に位置し、可動レール32の側部またはシートクッション34の側部に、掛け止め板支持軸44によって前後回転可能に支持されている。該掛け止め板支持軸44は、可動レール32の側部またはシートクッション34の側部からシート幅方向の外側へ延びており、バック支持軸37に対して平行である。該掛け止め板42は、ピン41の外周面に接する当接面45と、該当接面45の後端に連なる掛け止め部46とを有している。
【0024】
該当接面45は、掛け止め板42の外周面のなかの上部に形成され、掛け止め板支持軸44の軸方向から見て上に凸となる、つまりピン41へ向かって凸となる、略円弧状の山面である。シートバック35が起立姿勢のときに、ピン41は該当接面45の頂点45aよりも若干前に位置している。
【0025】
該掛け止め部46は、シートバック35が起立姿勢から前に倒れた、いわゆる前傾姿勢となったときに、ピン41が掛け止まるように、前が開放された側面視略U字状に形成された溝によって構成されている。
【0026】
該第1のリターンスプリング43は、掛け止め部46をピン41に掛け止める方向に付勢するものである。
【0027】
掛け止め機構40の作用を説明すると、次の通りである。図2に示されるように、シートバック35が起立姿勢のときに、掛け止め板42は、ピン41によって前方(図2の矢印R1方向)への回転を規制されている。このように、シートバック35が起立姿勢のときの、掛け止め板42の位置を、「起立位置」という。
【0028】
その後、シートバック35を、図2に示される起立姿勢から前方へ倒していくと、ピン41は、第1のリターンスプリング43の付勢力に抗して、該当接面45を後方へ押す。この結果、図4に示されるように、シートバック35が前傾姿勢にある状態では、掛け止め板42はピン41に係止された状態に、第1のリターンスプリング43によって保持される。このように、シートバック35が前傾姿勢のときの、掛け止め板42の位置を、「前傾位置」という。
【0029】
その後、シートバック35を、図4に示される前傾姿勢から後方へ起こしていくと、ピン41は、前方(図4の時計回り方向)にスイングする。この結果、シートバック35の起立姿勢では、掛け止め板42は、図2に示される元の「起立位置」に復帰する。
【0030】
次に、該クッションスライドロック機構50について説明する。図2に示されるように、該クッションスライドロック機構50は、可動レール32に上下スイング可能に設けられたロック操作レバー51と、該ロック操作レバー51に連動するように可動レール32に設けられた連動ア−ム52と、該連動ア−ム52に連動するように可動レール32に設けられたフォーク状のロックアーム53と、該ロックアーム53の先端部が掛け止まるように固定レール31に形成された多数のロック用孔54とを含む。
【0031】
多数のロック用孔54は、固定レール31の長手方向に1列に等ピッチに配列されている。ロックアーム53の先端部は、図示せぬバネに付勢されることによって、多数のロック用孔54のなかの少なくとも一つに嵌っている。このため、通常は、可動レール32は固定レール31に対して前後方向にスライドできない。シート33の位置は固定される。
【0032】
その後、ロック操作レバー51を上方へ持ち上げ操作することにより、連動ア−ム52を介してロックアーム53を可動レール32の側方にスイングすることができる。この結果、ロックアーム53の先端部はロック用孔54から外れる。その状態で、可動レール32及びシートクッション34を前後方向にスライドさせることにより、シート33を任意の位置に変更することができる。その後、ロック操作レバー51から手を離すことにより、ロックアーム53の先端部はロック用孔54に再び嵌る。この結果、シート33の位置は決定する。
【0033】
さらに、該クッションスライドロック機構50は、該ロック操作レバー51をアンロック側(ロック用孔54から外れる方向)へ持ち上げることが可能なアンロック用バー56と、該アンロック用バー56に連結された第1のワイヤケーブル57とを有する。該アンロック用バー56は、長孔56aを有した細長い部材である。該長孔56aは、ロック操作レバー51に設けられたピン58に嵌合している。該第1のワイヤケーブル57は、アンロック用バー56の一端と掛け止め板42との間を繋いでいる。
【0034】
図2に示されるように、シートバック35が起立姿勢のとき、つまり掛け止め板42が起立位置にあるときには、第1のワイヤケーブル57は、フリー状態(弛んだ状態)にある。このため、ロック操作レバー51によってシート33の位置を任意にロック、アンロックすることができる。
【0035】
その後、図4に示されるように、シートバック35が、起立姿勢から前傾姿勢に変化したときには、掛け止め板42は前傾位置となり、第1のワイヤケーブル57を引っ張る。該第1のワイヤケーブル57は、アンロック用バー56を引っ張ることによって、ロック操作レバー51をアンロック側に持ち上げる。このように、シートバック35が前傾姿勢の場合には、クッションスライドロック機構50は常にアンロック状態である。シート33は自由に前後スライド可能である。
【0036】
次に、該バック姿勢保持装置60について説明する。図2及び図3に示されるように、該バック姿勢保持装置60は、シートクッション34が拡大エリア14に位置している場合に、シートバック35を前傾姿勢に保持するものである。該バック姿勢保持装置60は、例えば、固定レール31の上面に形成されたローラ移動部61と、該ローラ移動部61の上を移動可能なローラ62と、該ローラ62を有したスイングアーム63と、該スイングアーム63を付勢したリターンスプリング64と、該スイングアーム63をシートバック35に連結した第2のワイヤケーブル65とからなる。
【0037】
該ローラ移動部61は、着座エリア13に位置した着座エリア面61aと、拡大始点16に位置した傾斜面61bと、拡大エリア14に位置した拡大エリア面61cとからなり、前後方向に一直線状に連続している。
【0038】
該着座エリア面61aは、固定レール31のなかの、着座エリア13全体にわたって前後方向に形成された水平面である。該拡大エリア面61cは、固定レール31のなかの、拡大エリア14全体にわたって前後方向に形成された水平面である。拡大エリア面61cの高さは、着座エリア面61aの高さよりも高く設定されている。該傾斜面61bは、着座エリア面61aの前端から拡大エリア面61cの後端へ向かって傾斜した前上がり勾配に形成されている。このため、ローラ62は、着座エリア面61aと拡大エリア面61cとの間をスムースに移動することができる。
【0039】
該スイングアーム63は、上下方向に細長い部材であって、該スイングアーム63の長手中央部は、可動レール32の側部またはシートクッション34の側部に、アーム支持軸66によって前後回転可能に支持されている。
【0040】
該スイングアーム63の下端部には、ローラ62が前後回転可能に支持されている。該ローラ62がローラ移動部61に接している状態では、スイングアーム63は、シート幅方向から見て、常に上から下へ向かって前下がりとなるように傾いている。該リターンスプリング64は、ローラ62がローラ移動部61に接する方向に、スイングアーム63を付勢するものである。このため、ローラ62は、着座エリア面61aと拡大エリア面61cとの間を、傾斜面61bを介して移動可能である。該第2のワイヤケーブル65は、該スイングアーム63の上端部と、シートバック35または脚部36との間を繋いでいる。
【0041】
図3に示されるように、ローラ62が着座エリア面61aに接しているときには、第2のワイヤケーブル65は、シートバック35の姿勢にかかわらず、フリー状態(弛んだ状態)にある。このため、シートバック35の姿勢を自由に変更することができる。
【0042】
一方、図3の想像線によって示されるように、ローラ62が拡大エリア面61cに接しているときには、スイングアーム63の下端部は、リターンスプリング64の付勢力に抗して上がる。つまり、スイングアーム63は、図時計回りにスイングすることにより、第2のワイヤケーブル65を引っ張る。該第2のワイヤケーブル65は、シートバック35の下部または脚部36を前方へ引っ張る。
【0043】
次に、該前進ストッパ機構70について説明する。図2及び図3に示されるように、該前進ストッパ機構70は、シート33が着座エリア13から拡大エリア14へ移動することを、規制するものである。該前進ストッパ機構70は、例えば、ストッパアーム71と、リターンスプリング72と、第3のワイヤケーブル73とからなる。
【0044】
該ストッパアーム71は、シート幅方向に細長い部材であり、着座エリア面61aのなかの、傾斜面61bの手前に位置している。該ストッパアーム71の長手中央部は、固定レール31の側部に、アーム支持軸74によって左右回転可能に支持されている。該ストッパアーム71の一端部は、着座エリア面61aを塞ぐように延びている。該リターンスプリング72は、ストッパアーム71によって着座エリア面61aを塞ぐ方向に、該ストッパアーム71を付勢するものである。該第3のワイヤケーブル73は、該ストッパアーム71の他端部と掛け止め板42との間を繋いでいる。
【0045】
図2及び図3に示されるように、シートバック35が起立姿勢のとき、つまり掛け止め板42が起立位置にあるときには、第3のワイヤケーブル73は、フリー状態(弛んだ状態)にある。このため、ストッパアーム71は着座エリア面61aを閉鎖している。ローラ62は着座エリア面61aから拡大エリア面61cへ移動することができない。シート33は、着座エリア13から拡大エリア14へ移動できない。
【0046】
その後、図4に示されるように、シートバック35が、起立姿勢から前傾姿勢に変化したときには、掛け止め板42は前傾位置となり、第3のワイヤケーブル73を引っ張る。該第3のワイヤケーブル73はストッパアーム71を引っ張る。該ストッパアーム71は、着座エリア面61aを開放する。ローラ62は着座エリア面61aから拡大エリア面61cへ移動可能となる。シート33は、着座エリア13から拡大エリア14へ移動することができる。
【0047】
ここで、前記各ワイヤケーブル57,65,73について、まとめて説明する。該各ワイヤケーブル57,65,73は、柔軟性を有しているアウタチューブと、該アウタチューブの中に挿入されているインナワイヤとからなる。該各該アウタチューブは、上述したそれぞれのワイヤケーブル57,65,73の作用を発揮できるように適宜取り付けられる。
【0048】
上記構成の車両用シート装置30の全体の作用を説明する。図2に示されるように、シートバック35を起立姿勢にした場合には、掛け止め板42は起立位置にある。このため、前進ストッパ機構70のストッパアーム71は、着座エリア面61aを閉鎖している。シートクッション34は、通常の着座エリア13の範囲内のみを移動可能である。そして、クッションスライドロック機構50のロック操作レバー51によって、シート33の位置を任意にロック、アンロックすることができる。
【0049】
図4に示されるように、シートバック35を前傾姿勢にすると、掛け止め板42は前傾位置になる。このため、前進ストッパ機構70のストッパアーム71は、着座エリア面61aを開放する。ローラ62は、着座エリア面61aから拡大エリア面61cへ移動可能である。シートクッション34は、着座エリア13から拡大エリア14に移動することができる。
【0050】
シートバック35を前傾姿勢にしたままで、シートクッション34が、着座エリア13から拡大エリア14に移動すると、スイングアーム63は第2のワイヤケーブル65を介してシートバック35を前方へ引っ張る。このため、シートバック35を後方へ戻すことができない。つまり、シートクッション34が拡大エリア14に位置している場合には、シートバック35の前傾姿勢は、バック姿勢保持装置60によって保持される。
【0051】
その後、シートクッション34が拡大エリア14から着座エリア13に戻ると、ローラ62は、拡大エリア面61cから着座エリア面61aに戻る。第2のワイヤケーブル65は、フリー状態(弛んだ状態)になる。このため、シートバック35を起立姿勢に戻すことができる。
【0052】
以上の説明をまとめると、次の通りである。シートバック35を前傾姿勢にした場合には、シートクッション34を通常の着座エリア13よりも前方の拡大エリア14に、スライドさせることが可能である。しかも、シートクッション34が、拡大エリア14に位置している場合には、シートバック35の前傾姿勢は、バック姿勢保持装置60によって保持される。該拡大エリア14では、シートバック35が前傾姿勢を維持することによって、乗員がシート33に着座できないように規制することができる。つまり、シートベルト(図示せず)によって乗員を確実に拘束することが可能な、通常の着座エリア13でのみ、着座することができる。このように、シート33を着座エリア13から拡大エリア14へ移動させることができるとともに、乗員の保護性能を十分に確保することができる。
【0053】
本発明では、掛け止め機構40と、クッションスライドロック機構50と、バック姿勢保持装置60と、前進ストッパ機構70とは、上記実質的な機能を有した構成であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の車両用シート装置30は、車室11の後部に荷室エリア12を有している車両10に採用するのに好適である。
【符号の説明】
【0055】
10 車両
11 車室
12 荷室エリア
13 着座エリア
14 拡大エリア
15 拡大された荷室
21 車体
22 フロア
30 車両用シート装置
31 固定レール
32 可動レール
33 シート
34 シートクッション
35 シートバック
60 バック姿勢保持装置
図1
図2
図3
図4