【実施例】
【0013】
実施例に係る車両用シート装置について図面に基づき説明する。なお、車両用シート装置の「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は車両を運転している運転者から見た方向に従い、Frは前、Rrは後、Upは上、Dnは下である。
【0014】
図1(a)に示されるように、車両10は、車室11の後部に荷室エリア12を有している、例えばワンボックスカーである。該車室11の後部、つまり荷室エリア12の直前のフロア22上には、車両用シート装置30のシート33が前後移動可能に設けられている。該シート33は、最後席である。
【0015】
詳しく述べると、車両用シート装置30は、車体21のフロア22に設けられて車体前後方向へ延びた固定レール31と、該固定レール31に対し前後方向にスライド可能な可動レール32と、該可動レール32に設けられた前記シート33とを含む。該シート33は、可動レール32に設けられたシートクッション34と、該シートクッション34に対して起立姿勢と前傾姿勢とに変位可能なシートバック35とからなる。
【0016】
図1(a)及び
図1(b)に示されるように、シートバック35を起立姿勢にすることによって着座可能なシート33が、前後方向にスライド可能な範囲13のことを、「着座エリア13」という。該着座エリア13は、シート33が、
図1(a)に示される最後端まで後退可能な位置から、
図1(b)に示される最前端まで前進可能な位置までの範囲であり、荷室エリア12の直前に位置している。
【0017】
該荷室エリア12に積載する荷物が大きい場合には、該荷室エリア12を広げて使いたいことがあり得る。この場合には、シート33を着座エリア13よりも前方へ移動できることが好ましい。
【0018】
図1(c)に示されるように、該シート33が、着座エリア13よりも前方にスライド可能な範囲14のことを、「拡大エリア14」という。該シート33を着座エリア13から拡大エリア14へ移動させることによって、荷室エリア12は実質的に広がる。実質的に広がった荷室エリア15のことを、「拡大された荷室15」という。着座エリア13と拡大エリア14との間の位置16のことを、「拡大始点16」という。
【0019】
該シート33を、着座エリア13から拡大エリア14へ移動する場合には、シートバック35は、
図1(b)に実線によって示される起立姿勢から、
図1(b)に想像線によって示される前傾姿勢に変える必要がある。
【0020】
以下、車両用シート装置30の機構の一例について説明する。
図2及び
図3に示されるように、シートバック35の下部には、脚部36が一体的に設けられている。該脚部36は、シートバック35の骨材となるシートバックフレームの下部であってもよい。該シートバック35の下部、つまり脚部36の上下方向中央部は、シートクッション34の後部のフレームに、バック支持軸37によって前後スイング可能に支持されている。シートバック35の前後スイング方向の位置は、図示せぬ操作レバーを操作することによって、任意の位置に設定される。
【0021】
車両用シート装置30は、掛け止め機構40と、クッションスライドロック機構50と、バック姿勢保持装置60と、前進ストッパ機構70とを有する。
【0022】
該掛け止め機構40は、シートバック35の脚部36に設けられたピン41と、該ピン41によって回転可能な掛け止め板42と、該掛け止め板42を付勢する第1のリターンスプリング43とからなる。該ピン41は、脚部36からシート幅方向の外側へ延びており、バック支持軸37に対して平行な円形断面に形成されている。
【0023】
該掛け止め板42は、ピン41の後下方に位置し、可動レール32の側部またはシートクッション34の側部に、掛け止め板支持軸44によって前後回転可能に支持されている。該掛け止め板支持軸44は、可動レール32の側部またはシートクッション34の側部からシート幅方向の外側へ延びており、バック支持軸37に対して平行である。該掛け止め板42は、ピン41の外周面に接する当接面45と、該当接面45の後端に連なる掛け止め部46とを有している。
【0024】
該当接面45は、掛け止め板42の外周面のなかの上部に形成され、掛け止め板支持軸44の軸方向から見て上に凸となる、つまりピン41へ向かって凸となる、略円弧状の山面である。シートバック35が起立姿勢のときに、ピン41は該当接面45の頂点45aよりも若干前に位置している。
【0025】
該掛け止め部46は、シートバック35が起立姿勢から前に倒れた、いわゆる前傾姿勢となったときに、ピン41が掛け止まるように、前が開放された側面視略U字状に形成された溝によって構成されている。
【0026】
該第1のリターンスプリング43は、掛け止め部46をピン41に掛け止める方向に付勢するものである。
【0027】
掛け止め機構40の作用を説明すると、次の通りである。
図2に示されるように、シートバック35が起立姿勢のときに、掛け止め板42は、ピン41によって前方(
図2の矢印R1方向)への回転を規制されている。このように、シートバック35が起立姿勢のときの、掛け止め板42の位置を、「起立位置」という。
【0028】
その後、シートバック35を、
図2に示される起立姿勢から前方へ倒していくと、ピン41は、第1のリターンスプリング43の付勢力に抗して、該当接面45を後方へ押す。この結果、
図4に示されるように、シートバック35が前傾姿勢にある状態では、掛け止め板42はピン41に係止された状態に、第1のリターンスプリング43によって保持される。このように、シートバック35が前傾姿勢のときの、掛け止め板42の位置を、「前傾位置」という。
【0029】
その後、シートバック35を、
図4に示される前傾姿勢から後方へ起こしていくと、ピン41は、前方(
図4の時計回り方向)にスイングする。この結果、シートバック35の起立姿勢では、掛け止め板42は、
図2に示される元の「起立位置」に復帰する。
【0030】
次に、該クッションスライドロック機構50について説明する。
図2に示されるように、該クッションスライドロック機構50は、可動レール32に上下スイング可能に設けられたロック操作レバー51と、該ロック操作レバー51に連動するように可動レール32に設けられた連動ア−ム52と、該連動ア−ム52に連動するように可動レール32に設けられたフォーク状のロックアーム53と、該ロックアーム53の先端部が掛け止まるように固定レール31に形成された多数のロック用孔54とを含む。
【0031】
多数のロック用孔54は、固定レール31の長手方向に1列に等ピッチに配列されている。ロックアーム53の先端部は、図示せぬバネに付勢されることによって、多数のロック用孔54のなかの少なくとも一つに嵌っている。このため、通常は、可動レール32は固定レール31に対して前後方向にスライドできない。シート33の位置は固定される。
【0032】
その後、ロック操作レバー51を上方へ持ち上げ操作することにより、連動ア−ム52を介してロックアーム53を可動レール32の側方にスイングすることができる。この結果、ロックアーム53の先端部はロック用孔54から外れる。その状態で、可動レール32及びシートクッション34を前後方向にスライドさせることにより、シート33を任意の位置に変更することができる。その後、ロック操作レバー51から手を離すことにより、ロックアーム53の先端部はロック用孔54に再び嵌る。この結果、シート33の位置は決定する。
【0033】
さらに、該クッションスライドロック機構50は、該ロック操作レバー51をアンロック側(ロック用孔54から外れる方向)へ持ち上げることが可能なアンロック用バー56と、該アンロック用バー56に連結された第1のワイヤケーブル57とを有する。該アンロック用バー56は、長孔56aを有した細長い部材である。該長孔56aは、ロック操作レバー51に設けられたピン58に嵌合している。該第1のワイヤケーブル57は、アンロック用バー56の一端と掛け止め板42との間を繋いでいる。
【0034】
図2に示されるように、シートバック35が起立姿勢のとき、つまり掛け止め板42が起立位置にあるときには、第1のワイヤケーブル57は、フリー状態(弛んだ状態)にある。このため、ロック操作レバー51によってシート33の位置を任意にロック、アンロックすることができる。
【0035】
その後、
図4に示されるように、シートバック35が、起立姿勢から前傾姿勢に変化したときには、掛け止め板42は前傾位置となり、第1のワイヤケーブル57を引っ張る。該第1のワイヤケーブル57は、アンロック用バー56を引っ張ることによって、ロック操作レバー51をアンロック側に持ち上げる。このように、シートバック35が前傾姿勢の場合には、クッションスライドロック機構50は常にアンロック状態である。シート33は自由に前後スライド可能である。
【0036】
次に、該バック姿勢保持装置60について説明する。
図2及び
図3に示されるように、該バック姿勢保持装置60は、シートクッション34が拡大エリア14に位置している場合に、シートバック35を前傾姿勢に保持するものである。該バック姿勢保持装置60は、例えば、固定レール31の上面に形成されたローラ移動部61と、該ローラ移動部61の上を移動可能なローラ62と、該ローラ62を有したスイングアーム63と、該スイングアーム63を付勢したリターンスプリング64と、該スイングアーム63をシートバック35に連結した第2のワイヤケーブル65とからなる。
【0037】
該ローラ移動部61は、着座エリア13に位置した着座エリア面61aと、拡大始点16に位置した傾斜面61bと、拡大エリア14に位置した拡大エリア面61cとからなり、前後方向に一直線状に連続している。
【0038】
該着座エリア面61aは、固定レール31のなかの、着座エリア13全体にわたって前後方向に形成された水平面である。該拡大エリア面61cは、固定レール31のなかの、拡大エリア14全体にわたって前後方向に形成された水平面である。拡大エリア面61cの高さは、着座エリア面61aの高さよりも高く設定されている。該傾斜面61bは、着座エリア面61aの前端から拡大エリア面61cの後端へ向かって傾斜した前上がり勾配に形成されている。このため、ローラ62は、着座エリア面61aと拡大エリア面61cとの間をスムースに移動することができる。
【0039】
該スイングアーム63は、上下方向に細長い部材であって、該スイングアーム63の長手中央部は、可動レール32の側部またはシートクッション34の側部に、アーム支持軸66によって前後回転可能に支持されている。
【0040】
該スイングアーム63の下端部には、ローラ62が前後回転可能に支持されている。該ローラ62がローラ移動部61に接している状態では、スイングアーム63は、シート幅方向から見て、常に上から下へ向かって前下がりとなるように傾いている。該リターンスプリング64は、ローラ62がローラ移動部61に接する方向に、スイングアーム63を付勢するものである。このため、ローラ62は、着座エリア面61aと拡大エリア面61cとの間を、傾斜面61bを介して移動可能である。該第2のワイヤケーブル65は、該スイングアーム63の上端部と、シートバック35または脚部36との間を繋いでいる。
【0041】
図3に示されるように、ローラ62が着座エリア面61aに接しているときには、第2のワイヤケーブル65は、シートバック35の姿勢にかかわらず、フリー状態(弛んだ状態)にある。このため、シートバック35の姿勢を自由に変更することができる。
【0042】
一方、
図3の想像線によって示されるように、ローラ62が拡大エリア面61cに接しているときには、スイングアーム63の下端部は、リターンスプリング64の付勢力に抗して上がる。つまり、スイングアーム63は、図時計回りにスイングすることにより、第2のワイヤケーブル65を引っ張る。該第2のワイヤケーブル65は、シートバック35の下部または脚部36を前方へ引っ張る。
【0043】
次に、該前進ストッパ機構70について説明する。
図2及び
図3に示されるように、該前進ストッパ機構70は、シート33が着座エリア13から拡大エリア14へ移動することを、規制するものである。該前進ストッパ機構70は、例えば、ストッパアーム71と、リターンスプリング72と、第3のワイヤケーブル73とからなる。
【0044】
該ストッパアーム71は、シート幅方向に細長い部材であり、着座エリア面61aのなかの、傾斜面61bの手前に位置している。該ストッパアーム71の長手中央部は、固定レール31の側部に、アーム支持軸74によって左右回転可能に支持されている。該ストッパアーム71の一端部は、着座エリア面61aを塞ぐように延びている。該リターンスプリング72は、ストッパアーム71によって着座エリア面61aを塞ぐ方向に、該ストッパアーム71を付勢するものである。該第3のワイヤケーブル73は、該ストッパアーム71の他端部と掛け止め板42との間を繋いでいる。
【0045】
図2及び
図3に示されるように、シートバック35が起立姿勢のとき、つまり掛け止め板42が起立位置にあるときには、第3のワイヤケーブル73は、フリー状態(弛んだ状態)にある。このため、ストッパアーム71は着座エリア面61aを閉鎖している。ローラ62は着座エリア面61aから拡大エリア面61cへ移動することができない。シート33は、着座エリア13から拡大エリア14へ移動できない。
【0046】
その後、
図4に示されるように、シートバック35が、起立姿勢から前傾姿勢に変化したときには、掛け止め板42は前傾位置となり、第3のワイヤケーブル73を引っ張る。該第3のワイヤケーブル73はストッパアーム71を引っ張る。該ストッパアーム71は、着座エリア面61aを開放する。ローラ62は着座エリア面61aから拡大エリア面61cへ移動可能となる。シート33は、着座エリア13から拡大エリア14へ移動することができる。
【0047】
ここで、前記各ワイヤケーブル57,65,73について、まとめて説明する。該各ワイヤケーブル57,65,73は、柔軟性を有しているアウタチューブと、該アウタチューブの中に挿入されているインナワイヤとからなる。該各該アウタチューブは、上述したそれぞれのワイヤケーブル57,65,73の作用を発揮できるように適宜取り付けられる。
【0048】
上記構成の車両用シート装置30の全体の作用を説明する。
図2に示されるように、シートバック35を起立姿勢にした場合には、掛け止め板42は起立位置にある。このため、前進ストッパ機構70のストッパアーム71は、着座エリア面61aを閉鎖している。シートクッション34は、通常の着座エリア13の範囲内のみを移動可能である。そして、クッションスライドロック機構50のロック操作レバー51によって、シート33の位置を任意にロック、アンロックすることができる。
【0049】
図4に示されるように、シートバック35を前傾姿勢にすると、掛け止め板42は前傾位置になる。このため、前進ストッパ機構70のストッパアーム71は、着座エリア面61aを開放する。ローラ62は、着座エリア面61aから拡大エリア面61cへ移動可能である。シートクッション34は、着座エリア13から拡大エリア14に移動することができる。
【0050】
シートバック35を前傾姿勢にしたままで、シートクッション34が、着座エリア13から拡大エリア14に移動すると、スイングアーム63は第2のワイヤケーブル65を介してシートバック35を前方へ引っ張る。このため、シートバック35を後方へ戻すことができない。つまり、シートクッション34が拡大エリア14に位置している場合には、シートバック35の前傾姿勢は、バック姿勢保持装置60によって保持される。
【0051】
その後、シートクッション34が拡大エリア14から着座エリア13に戻ると、ローラ62は、拡大エリア面61cから着座エリア面61aに戻る。第2のワイヤケーブル65は、フリー状態(弛んだ状態)になる。このため、シートバック35を起立姿勢に戻すことができる。
【0052】
以上の説明をまとめると、次の通りである。シートバック35を前傾姿勢にした場合には、シートクッション34を通常の着座エリア13よりも前方の拡大エリア14に、スライドさせることが可能である。しかも、シートクッション34が、拡大エリア14に位置している場合には、シートバック35の前傾姿勢は、バック姿勢保持装置60によって保持される。該拡大エリア14では、シートバック35が前傾姿勢を維持することによって、乗員がシート33に着座できないように規制することができる。つまり、シートベルト(図示せず)によって乗員を確実に拘束することが可能な、通常の着座エリア13でのみ、着座することができる。このように、シート33を着座エリア13から拡大エリア14へ移動させることができるとともに、乗員の保護性能を十分に確保することができる。
【0053】
本発明では、掛け止め機構40と、クッションスライドロック機構50と、バック姿勢保持装置60と、前進ストッパ機構70とは、上記実質的な機能を有した構成であればよい。