(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
等間隔で配列される複数の磁石と、前記磁石に対向して配置されていて前記磁石に向かって延在する複数の歯を有する電機子コアを備えた電機子と、を備えていて、前記磁石と前記電機子との対向面に沿った推力発生方向に推力が発生するリニアモータであって、
前記推力発生方向における前記電機子コアの端部構造に起因して発生するコギング力を低減するように、前記推力発生方向における一方の端部に位置する第1の歯、及び反対側の他方の端部に位置する第2の歯の寸法又は形状を互いに異なるようにし、
前記第1の歯及び前記第2の歯にそれぞれ対向する位置に在る磁石から見た前記第1の歯及び前記第2の歯が長方形の形状を有しており、
前記推力発生方向に沿って延在する前記第1の歯の幅及び前記第2の歯の幅を互いに異なるようにした、リニアモータ。
【背景技術】
【0002】
回転式モータとは異なり、リニアモータにおいては、電機子が推力発生方向において有限長を有する。そのため、推力発生方向における電機子の両端部の構造に起因して、リニアモータの推力において脈動成分、すなわちコギング力が発生することが知られている。コギング力は、リニアモータの位置決め精度を低下させる要因になる。したがって、コギング力を低減するように両端部の歯の形状などを変更する種々の対策が提案されている。
【0003】
特許文献1には、電機子移動方向の両端に位置するティースの先端部において、隣接するティースが形成されていない側の一部が切除されていて、電機子移動方向における長さが、他のティースの先端部よりも短くなるようにした、リニアモータが開示されている。
特許文献2には、コアの両端に位置する2つの端部側極歯の極歯面が、隣接する他の極歯から離れるに従って極歯面と永久磁石列との間の間隙寸法が徐々に大きくなるように傾斜する第1の傾斜面部と、第1の傾斜面部から離れるに従って極歯面と永久磁石列との間の間隙寸法が徐々に小さくなるように傾斜する第2の傾斜面部とを有するように形成されたリニアモータが開示されている。
【0004】
特許文献3には、コアの両端に位置する極歯の磁極面が、隣接する他の極歯から離れるに従って磁極列との間の間隙寸法が大きくなるように湾曲する円弧状の湾曲面を有するように形成されたリニアモータが開示されている。
特許文献4には、互いに平行に配列された複数の主ティースと、それら主ティースの両端に配置される一対の補助ティースとを備える電機子を備えたリニアモータにおいて、補助ティースが主ティースに対して傾斜して配置されることが開示されている。
【0005】
特許文献5には、互いに平行に配列された複数の主ティースと、それら主ティースの両端に配置される一対の補助ティースとを備える電機子を備えたリニアモータにおいて、界磁極の配列方向における電機子コアの長さ、或いは主ティースの個数に応じて補助ティースの形状を変更することが開示されている。
特許文献6には、巻線が巻回された複数の主ティースと、電機子コアの両端にそれぞれ設けられた補助ティースと、を備えた電機子を備えたリニアモータにおいて、補助ティースが、移動方向に対して直交する方向における寸法を進行方向に沿って変化させることが開示されている。
【0006】
特許文献7には、固定子及び可動子を備えたリニアモータにおいて、可動子に設けられたティースの先端部が、可動子の移動方向に突出した突出部を有しているとともに、可動子の移動方向に対して垂直であって、かつ固定子の永久磁石の磁極面に対して平行な方向において複数の領域に分割されており、隣接するそれら領域の間において、移動方向の少なくとも一方の突出量が異なるようにすることを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した公知技術においては、電機子コアの端部に位置する歯を寸法決めする際の自由度が多く、コギング力を低減するのに最適な解を得るのが困難であった。また、それら公知技術によるコギング力の低減効果も限定的であった。したがって、電機子の端部構造に起因して発生するコギング力を効果的に低減できるリニアモータが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の1番目の発明によれば、等間隔で配列される複数の磁石と、前記磁石に対向して配置されていて前記磁石に向かって延在する複数の歯を有する電機子コアを備えた電機子と、を備えていて、前記磁石と前記電機子との対向面に沿った推力発生方向に推力が発生するリニアモータであって、前記推力発生方向における前記電機子コアの端部構造に起因して発生するコギング力を低減するように、前記推力発生方向における一方の端部に位置する第1の歯、及び反対側の他方の端部に位置する第2の歯の寸法又は形状を互いに異なるようにし
、前記第1の歯及び前記第2の歯にそれぞれ対向する位置に在る磁石から見た前記第1の歯及び前記第2の歯が長方形の形状を有しており、前記推力発生方向に沿って延在する前記第1の歯の幅及び前記第2の歯の幅を互いに異なるようにした、リニアモータが提供される。
本願の
2番目の発明によれば、1番目の発明に係るリニアモータにおいて、前記第1の歯及び前記第2の歯が段部を含む形状を有する。
本願の
3番目の発明によれば、
2番目の発明に係るリニアモータにおいて、前記電機子コアが、互いに同一の断面形状を有する複数の電機子コア要素から形成されており、前記複数の電機子コア要素のうちの1つが、残りの電機子コア要素とは反対方向に向けられており、それにより前記第1の歯及び前記第2の歯に段部が形成される。
本願の
4番目の発明によれば、
2番目の発明に係るリニアモータにおいて、前記電機子コアが、複数の電機子コア要素から形成されており、前記第1の歯及び前記第2の歯が2m個(m:自然数)の段部を含む形状を有するように、前記複数の電機子コア要素のうちの少なくとも1つが、残りの電機子コア要素とは反対方向に向けられている。
本願の
5番目の発明によれば、1番
目の発明に係るリニアモータにおいて、前記第1の歯及び前記第2の歯が、前記推力発生方向に対して垂直な方向において傾斜している。
本願の
6番目の発明によれば、1番目から
5番目のいずれかの発明に係るリニアモータにおいて、前記第1の歯及び前記第2の歯の周りには、巻線が巻回されておらず、前記第1の歯及び前記第2の歯は、前記第1の歯及び前記第2の歯に隣接する歯の周りに巻回された巻線に対して、絶縁体を介して接触しており、前記第1の歯及び前記第2の歯以外の残りの歯は、両側面において巻線に対して絶縁体を介してそれぞれ接触している。
【0010】
これら及び他の本発明の目的、特徴及び利点は、添付図面に示される本発明の例示的な実施形態に係る詳細な説明を参照することによって、より明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るリニアモータによれば、推力発生方向における電機子の端部構造に起因して発生するコギング力を低減するように、電機子の両端に位置する歯の寸法又は形状が互いに相違するように形成される。それにより、円滑に動作可能であって位置決め精度を向上させたリニアモータが提供されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係るリニアモータを示す斜視図である。
【
図2】一実施形態に係るリニアモータの電機子の構成例を示す図である。
【
図4】一実施形態に係るリニアモータにおいて発生する磁力線を示す図である。
【
図5】一実施形態に係るリニアモータにおいて発生するコギング力を示す図である。
【
図6A】別の実施形態に係るリニアモータの電機子の構成例を示す図である。
【
図7】一実施形態に係るリニアモータにおいて発生するコギング力を示す図である。
【
図8】別の実施形態に係るリニアモータの電機子の構成例を示す図である。
【
図9】別の実施形態に係るリニアモータの電機子の構成例を示す図である。
【
図10】関連技術に係るリニアモータの電機子を示す正面図である。
【
図11】
図10に示される関連技術に係るリニアモータにおいて発生する磁力線を示す図である。
【
図12】関連技術に係るリニアモータにおいて発生するコギング力を示す図である。
【
図13】関連技術に係るリニアモータの電機子を示す正面図である。
【
図14】関連技術に係るリニアモータの電機子を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図示される各々の構成要素は、本発明の理解を助けるために寸法が適宜変更されている。また、同一又は対応する構成要素には、同一の参照符号が使用される。
【0014】
図1は、一実施形態に係るリニアモータを示す斜視図である。リニアモータ10は、矢印X1、X2で示されるリニアモータ10の移動方向に延在する磁石板2と、磁石板2に対向して設けられた電機子3と、を備えている。電機子3に対向する磁石板2の面には、リニアモータ10の移動方向に対して垂直な方向(矢印Y1、Y2の方向)に延在する長尺の磁石21が等間隔で配列されている。磁石21は、公知の手段、例えば、ねじ留め、接着剤又は追加の係止部品などによって磁石板2に固定されている。
【0015】
磁石21は、例えばネオジム磁石などの永久磁石であり、リニアモータ10の界磁磁極を形成する。磁石21の電機子3に対向する面は、例えば二次曲線、円弧又は双曲線余弦関数に従って湾曲している。各々の磁石21は、長手方向(矢印Y1、Y2の方向)に沿って同一の断面形状を有している。磁石21は、隣接する磁石21の磁極が反対向きになるように配列されている。
【0016】
電機子3は、磁石板2に対して平行に延在する板状の本体と、本体から磁石板2の磁石21に向かって矢印Z1の方向に突出する複数の歯4と、を有する電機子コア31を備えている。電機子コア31は、例えば電磁鋼板を矢印Y1、Y2の方向に積層することによって形成される。
【0017】
歯4は、巻線5が巻回される主歯41と、巻線5が巻回されていない副歯42と、を有している。主歯41及び副歯42は、所定間隔で矢印X1、X2の方向に交互に配列されている。巻線5は、図示されない絶縁紙を介して主歯41及び副歯42にそれぞれ接触するように設けられている。巻線5には、三相交流の電流が供給されるようになっており、それにより矢印X1、X2の方向に移動する磁界が生成される。
【0018】
図2は、一実施形態に係る電機子3を磁石21側(
図1の矢印Z1の方向)から見た図である。
図2に示される電機子3は、U相、V相及びW相の三相交流の電流が供給される3つの巻線を含む基本的な構成を有している。なお、
図2においては簡単のため巻線は示されていない。電機子コア31には、3つの巻線を受容するように、主歯41と副歯42との間、及び主歯41と、後述する第1の歯43及び第2の歯44との間に3つのスロット51、52、53がそれぞれ形成されている。図示されるように、各々の歯4は、歯4の先端側から見た形状が長方形であるように、矢印Z1の方向に延在する直方体の形状を有していて、一定の幅で矢印Y1、Y2の方向に延在している。
【0019】
リニアモータ10は、主歯41に巻回された巻線5に対して三相交流の電流が供給されることにより生じる移動磁界と、磁石21との相互作用によって、電機子3と磁石21との対向面に沿った方向に発生する推力によって移動できるようになっている。磁石板2及び電機子3のいずれか一方のみが移動可能であってもよいし、或いは磁石板2及び電機子3の両方が相対的に移動可能であってもよい。
【0020】
リニアモータ10においては、電機子3の端部構造に起因して推力が脈動する現象、すなわち「コギング」が発生することが知られている。本明細書では、周期的に脈動する力の成分を「コギング力」と称する。コギング力は、電機子3の端部と、対向する磁石21との間の位置関係に応じて発生するので、電機子3の端部が磁石21を通過するたびに発生する。
図2に示されるように、3つのみのスロット51、52、53が形成された電機子3は、三相交流の電流によって巻線を励磁する場合の最小構成であり、推力発生方向における全長が短いので、端部構造に起因して発生するコギング力の影響が相対的に大きくなる。
【0021】
本実施形態においては、端部構造に起因して発生するコギング力を低減することを目的として、矢印X1の方向の端部に位置する電機子3の副歯(以下、便宜上「第1の歯」と称することがある)43と、矢印X2の方向の端部に位置する電機子3の副歯(以下、便宜上「第2の歯」と称することがある)44とが、互いに異なる寸法を有するようにそれぞれ形成されている。
【0022】
図3は、図
2の電機子3を示す正面図である。
図3には、
図2と同様に巻線5が示されていない。本実施形態によれば、第1の歯43及び第2の歯44は、第1の歯43の、矢印X1、X2の方向に沿った寸法、すなわち幅W1が、第2の歯44の幅W2よりも小さくなるようにそれぞれ寸法決めされている。このように第1の歯43の幅W1と第2の歯44の幅W2を異なるようにすることによって、電機子3の端部形状に起因するコギング力が低減されるようになる。
【0023】
図4は、
図2及び
図3を参照して説明したように、第1の歯43の幅W1が、第2の歯44の幅W2よりも小さくなるように寸法決めされたリニアモータ10において発生する磁力線を示す図である。磁石21を通って延在する線が磁力線を表している。隣接して延在する磁力線の間隔が狭いほど磁界が強いことを意味する。
図4に示されるように、第1の歯43及び第2の歯44を通る磁力線の間隔は互いに同程度である。したがって、電機子3の両端部において発生する磁界の強さが同等であり、全体としても磁力線の分布が概ね均等であることが推察される。なお、このような磁力線図に基づいて、リニアモータ10に作用する力を求められることは当業者には自明である。
【0024】
図10は、比較例に係るリニアモータの電機子100の構成を有している。電機子100には、
図3に示される電機子3と同様に、3つの主歯102の周囲にスロット104がそれぞれ形成されている。しかしながら、電機子100は、電機子コアの両端に位置する第1の歯110及び第2の歯112が互いに同一の形状及び寸法を有している点で、本実施形態の電機子3とは相違する。
【0025】
図11は、
図10に示される電機子100を備えたリニアモータにおいて発生する磁力線を示す図である。この場合、第1の歯110を通る磁力線の間隔が、第2の歯112を通る磁力線の間隔に比べて大きくなっている。このことは、第1の歯110を通る磁界の強さが、第2の歯112を通る磁界の強さよりも顕著に小さいことを意味する。また、電機子100と磁石列108との間のギャップ部においても磁力線の間隔が不均一になっている。全体的に見ても、電機子100及びその周囲において磁力線が偏在していることが分かる。このような電機子100の端部間における磁界のアンバランスは、コギング力が増大する原因となる。
【0026】
図4に示されるような磁力線図は、電機子3と磁石板2との位置関係に応じて変化する。本実施形態においては、第1の歯43及び第2の歯44の先端側から見た歯幅を調整しながら、電機子3と磁石板2との位置関係を変更し、各々の位置関係における磁力線の分布を分析する。そして、いかなる位置関係においても磁界の強さが均等化される適切な歯幅を求める。この際、従来採用されていた電機子の構造に従って、端部形状を互いに対称にした場合、磁界の強さを十分に均等化することはできなかった。それに対し、電機子3の両端に位置する第1の歯43及び第2の歯44を互いに異なる形状又は寸法に変更した場合、磁界の強さを均等化できることが分かった。
【0027】
図12は、比較例に係るリニアモータにおいて発生するコギング力を示すグラフである。
図12の実線は、第1の比較例において発生するコギング力を示しており、破線は、第2の比較例において発生するコギング力を示している。第1の比較例において、電機子100は、
図13に示されるように、矢印X1の方向の端部において副歯106が形成されているのに対し、矢印X2の方向の端部には副歯106が形成されていない。すなわち、電機子100の、矢印X2の方向における端部において、主歯102の周囲に形成されるスロット104に挿入される巻線が配置されるようになる。
【0028】
他方、第2の比較例に係る電機子100は、
図14に示されるように、副歯106が両端に設けられていない。すなわち、スロット104に挿入される図示されない巻線が電機子100の両端にそれぞれ配置されるようになる。
【0029】
図12を再び参照すれば、第1の比較例は、約30Nの振幅を有するコギング力が、磁石列のピッチに相当する移動距離15mmごとに発生する。すなわち、電機子が1つの磁石を通過する度にコギング力が発生することになる。第2の比較例においては、移動距離15mmごとに約40Nの振幅を有するコギング力が発生する。なお、第1の比較例及び第2の比較例において、磁石の長手方向の幅及び電機子の全体の幅(矢印Y1、Y2の方向の寸法に相当)は、50mmである。
【0030】
図5は、
図2及び
図3を参照して説明した電機子3を備えるリニアモータにおいて発生するコギング力を示すグラフである。隣接する磁石21の間隔は、前述した比較例と同様に15mmである。同様に、矢印Y1、Y2の方向における磁石21の長手方向の幅及び電機子3の全体の幅は50mmである。しかしながら、本実施形態におけるリニアモータにおいては、互いに異なる幅を有する第の1歯43及び第2の歯44と、対向する磁石21との間の相互作用に起因して、移動距離15mmごとに互いに位相がずれた2つのコギング力が発生する。それら2つのコギング力は互いに打ち消し合って小さくなり、
図5に示されるように振幅が10N未満まで低下する。
【0031】
本発明によれば、
図11で示されるような磁力線のアンバランスを解消するように、電機子3の両端の歯、すなわち第1の歯43及び第2の歯44の寸法又は形状を変更する。磁力線が最小の長さを有するように変形する方向に力が作用する性質、及び磁力線どうしは互いに反発しようとする性質を利用して、第1の歯43及び第2の歯44の寸法又は形状を調整する。第1の歯43及び第2の歯44にそれぞれ対向する位置に在る磁石21から見た第1の歯43及び第2の歯44の寸法又は形状を調整することが有効であるものの、磁石21から見える部位以外の部位において、第1の歯43及び第2の歯44の寸法又は形状が互いに異なるようにしてもよい。
【0032】
図4及び
図11に示されるようなリニアモータにおいて発生する磁力線の解析は、例えば有限要素法を利用して実行可能である。本実施形態において例示されるように、推力発生方向における第1の歯及び第2の歯の幅をそれぞれ調整しながら、磁力線のアンバランスが解消される適切な寸法を決定する。このような歯幅の変更によるコギング力の低減効果は、直方体の形状以外の任意の形状を有する歯に対しても有効である。第1の歯及び第2の歯のいずれか一方の形状を変更する場合も同様に、形状を変更しながら磁力線の解析を行い、必要に応じて寸法の微調整を通じて、コギング力を低減するのに適切な形状を決定できる。このように、本発明によれば、リニアモータにおける二次元ないし三次元における磁気的作用の解析結果を利用することによって、効果的なコギング力を効果的に低減できるようになる。
【0033】
図1〜
図5を参照して説明したように、本実施形態に係るリニアモータ10では、電機子3の両端に位置する第1の歯43及び第2の歯44の寸法を互いに異ならしめることによって、電機子3の端部形状に起因して発生するコギング力を低減できる。さらに、図示される実施形態によれば、第1の歯43の幅W1及び第2の歯44の幅W2を調整する比較的単純な方法によって、コギング力を低減できる利点がある。また、主歯41、副歯42、第1の歯43及び第2の歯44がそれぞれ直方体の形状を有する場合、コイル状に形成された巻線5をスロット51、52、53に容易に挿入できるので、作業効率が向上する。さらに、巻線5が、第1の歯43及び第2の歯44を含むすべての歯4に対して絶縁紙を介して接触するように構成した場合、巻線5から発生する熱を均等に散逸できるようになり、熱が電機子の特定の箇所に滞留するのを防止できる。
【0034】
図6A及び
図6Bは、別の実施形態に係る電機子3を示す図である。
図6Aは、電機子3を、歯4が形成された側とは反対側から見た斜視図であり、
図6Bは、電機子3を歯4の先端側から見た斜視図である。本実施形態において、電機子コア31は、第1の電機子コア要素3A、第2の電機子コア要素3B及び第3の電機子コア要素3Cから形成されている。第1の電機子コア要素3A、第2の電機子コア要素3B及び第3の電機子コア要素3Cは、同一の形状及び寸法を有する複数の電磁鋼板を積層することにより、それぞれ形成される。第1の電機子コア要素3A、第2の電機子コア要素3B、第3の電機子コア要素3Cは、推力発生方向に対して直角な矢印Y1、Y2の方向において並置されている。第3の電機子コア要素3Cは、第1の電機子コア要素3Aと第2の電機子コア要素3Bとの間に設けられている。
【0035】
第1の電機子コア要素3A及び第2の電機子コア要素3Bは、互いに同一の形状及び寸法を有している。第3の電機子コア要素3Cは、矢印Y1、Y2の方向において、第1の電機子コア要素3Aの幅及び第2の電機子コア要素3Bの幅の合計に等しい幅を有している。すなわち、第3の電機子コア要素3Cは、第1の電機子コア要素3A又は第2の電機子コア要素3Bの2倍の幅を有している。各々の電機子コア要素3A、3B、3Cは、
図2及び
図3を参照して説明した実施形態と同様に、矢印X1、X2の方向における両端において、互いに寸法が異なる第1の歯43及び第2の歯44をそれぞれ有している。具体的には、第1の歯43の幅が、第2の歯44の幅よりも小さくなるように寸法決めされている。
【0036】
第3の電機子コア要素3Cは、第1の電機子コア要素3A及び第2の電機子コア要素3Bとは反対側を向くように180度回転されている。また、各々の電機子コア要素3A、3B、3Cは、それらの主歯41及び副歯42が矢印Y1、Y2の方向において整列するように互いに位置合わせされている。それにより、主歯41の周囲に形成される巻線が挿入されるスロットも、矢印Y1、Y2の方向において整列している。
【0037】
また、電機子3の矢印X1の方向における端部には、第1の電機子コア要素3A及び第2の電機子コア要素3Bの第1の歯43と、第3の電機子コア要素3Cの第2の歯44との間に段部、すなわち凸部46が形成されている。また、電機子3の矢印X2の方向における端部には、第1の電機子コア要素3A及び第2の電機子コア要素3Bの第2の歯44と、第3の電機子コア要素3Cの第1の歯43との間に段部、すなわち凹部48が形成されている。凸部46及び凹部48は、矢印Y1、Y2の方向における電機子3の全体の幅の半分にわたって形成される。
【0038】
図7は、本実施形態、第1の例及び第2の例に従って形成される電機子を備えたリニアモータにおいて発生するコギング力を示すグラフである。
図7の実線は、
図6A及び
図6Bを参照して説明した本実施形態に係る電機子3を備えたリニアモータにおいて発生するコギング力を示している。
図7の破線は、第1の例、すなわち電機子コアが、両端において段部が形成されないように第1の電機子コア要素3Aのみを用いて形成される場合を示している。
図7の点線は、第2の例、すなわち電機子コアが、両端において段部が形成されないように第3の電機子コア要素3Cのみを用いて形成される場合を示している。なお、第1の電機子コア要素3A及び第3の電機子コア要素3Cは、前述したように、同一の電磁鋼板を積層して形成される部材であって、180度向きを変えて配置される。
【0039】
第1の例は、
図5に示される結果と同じであり、約10Nの振幅を有するコギング力が磁石21のピッチに相当する移動距離15mmごとに2回発生する。第2の例は、第1の例における電機子の向きを180度変えただけであるので、同様に約10Nの振幅を有するコギング力が移動距離15mmごとに2回発生する。
【0040】
それに対し、本実施形態の場合、約5Nの振幅を有するコギング力が、移動距離15mmごとに4回発生する。すなわち、本実施形態に係る電機子3の端部に位置する歯には、凸部46又は凹部48を含む段部が形成されている。それにより、電機子3の両端において、位相が異なる2つのコギング力がそれぞれ発生し、4つのコギング力が互いに打ち消し合うように作用する。その結果として、
図7に示されるように、電機子3が1つの磁石21を通過するごとに発生するコギング力が低減されるようになる。
【0041】
図示される実施形態のように、同一の電磁鋼板からそれぞれ形成される電機子コア要素3A、3B、3Cを用いて、両端において段部を有する歯を備えた電機子コア31を形成すれば、共通の型を用いて電機子コア31を形成できる。したがって、電機子3、ひいてはリニアモータ10の製造コスト及び保守コストを削減できる。しかしながら、本発明はそのような特定の実施形態に限定されず、互いに異なる複数の電磁鋼板を積層することにより、両端の歯に段部が形成された電機子を形成してもよい。また、電機子コア31の両端の歯がそれぞれ2段以上の段部を有するように、電機子を4つ以上の電機子コア要素から形成してもよい。例えば、端部形状(第1の歯及び第2の歯の寸法又は形状)が異なる追加の複数の電機子コア要素を用いるとともに、それら追加の電機子コア要素のうちの少なくとも1つが反対方向に向けられるように配置することによって、両端の歯が4段、6段、・・・の段部を有する電機子コアを形成してもよい。
【0042】
図8は、別の実施形態に係るリニアモータの電機子3の構成を示している。
図8は、電機子3を歯4の先端側(
図1の矢印Z1の方向)から見た図に相当する。すなわち、本実施形態によれば、電機子コア31から延在する歯4のうち、リニアモータの移動方向の両端に位置する第1の歯43及び第2の歯44が、それぞれリニアモータの移動方向に対して直交する矢印Y1、Y2の方向に対して傾斜するように形成されている。その他の構成は、
図2及び
図3を参照して説明した実施形態に係る電機子と同様である。このようなスキュー構造を有するリニアモータであっても、電機子3の両端に位置する第1の歯43及び第2の歯44を互いに異なる寸法に形成することによって、電機子3の端部構造に起因して発生するコギング力が互いに打消し合うようになり、コギング力を低減する効果が得られる。
【0043】
図9は、別の実施形態に係るリニアモータの電機子3の構成を示している。本実施形態において、第1の歯43及び第2の歯44は、互いに異なる形状を有している。具体的には、第1の歯43は、直方体の形状を有するのに対し、第2の歯44は、隣接する主歯41に対向する側面(矢印X1の方向から見た端面)が平面であるのに対し、端部に向けられた側面(矢印X2の方向から見た端面)が、歯先の幅が徐々に小さくなるように円弧状の輪郭を有する曲面である。このような非対称の形状を有する電機子3においても、前述した他の実施形態と同様に、電機子3の端部形状に起因して発生するコギング力が互いに打消し合うようになり、結果的にコギング力を低減できるようになる。
【0044】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、当業者であれば、他の実施形態によっても本発明の意図する作用効果を実現できることを認識するであろう。特に、本発明の範囲を逸脱することなく、前述した実施形態の構成要素を削除又は置換することができるし、或いは公知の手段をさらに付加することができる。また、本明細書において明示的又は暗示的に開示される複数の実施形態の特徴を任意に組合せることによっても本発明を実施できることは当業者に自明である。