(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987068
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】発酵ブロスから有機酸およびアミノ酸を分離する方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/54 20060101AFI20160823BHJP
C12P 7/56 20060101ALI20160823BHJP
C07C 51/47 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
C12P7/54
C12P7/56
C07C51/47
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-6599(P2015-6599)
(22)【出願日】2015年1月16日
(62)【分割の表示】特願2010-282796(P2010-282796)の分割
【原出願日】2010年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-96076(P2015-96076A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2015年1月16日
(31)【優先権主張番号】09290999.3
(32)【優先日】2009年12月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレスキ・レジカラ
【審査官】
竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−109718(JP,A)
【文献】
特開2001−258583(JP,A)
【文献】
米国特許第05068418(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C07B 63/00−63/04
C07C 1/00−409/44
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)分離されるべき有機酸を含む発酵生産物を含む供給物質を提供し、
ii)イオン交換吸着媒体を提供し、および
iii)イオン交換吸着媒体を通る移動相で供給物質を溶離させることにより、供給物質から前記分離されるべき有機酸を分離する、
ことを含み、
前記分離されるべき有機酸とイオン交換吸着媒体の間に相互作用が存在し、かつ移動相は、前記分離されるべき有機酸と同一の化合物である有機酸の希釈溶液である、
発酵ブロスから有機酸を分離する方法。
【請求項2】
有機酸が乳酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機酸が酢酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
イオン交換吸着媒体を通る移動相で供給物質を溶離させることにより、供給物質から有機酸を分離することが擬似移動床において行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸および/またはアミノ酸を含む発酵ブロスからの、有機酸および/またはアミノ酸の固体床吸着分離に関する。
【背景技術】
【0002】
有機酸は食品酸味料および香料として、並びに医薬、プラスチック、テキスタイルおよび他の産業用配合物において使用される。有機酸が配合された食品および医薬品の増大した使用は、主として、1年あたり3億ポンドを超える世界中での有機酸生産の成長の原因となっており、これは将来も続くと予想されている。
【0003】
従来、有機酸は、供給物として糖蜜、ジャガイモまたはデンプンを、および微生物、例えば、ラクトバシラスデルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバシラスブルガリカス(L.bulgarcius)、またはラクトバシラスレイクナニー(L.leichnanii)を使用する液内培養発酵プロセスによって生産されている。この発酵生産物は炭水化物、アミノ酸、タンパク質および塩、並びに、有機酸を含み、これらは発酵ブロスから分離されなければならない。
【0004】
典型的には、有機酸の分離中にカルシウム塩が沈殿させられる。生じるカルボン酸カルシウムはろ過されて、重金属およびいくつかの有機不純物を除去する。沈殿したCaSO
4から、例えば、ろ過によって再生した有機酸が分離され、生じるクルード有機酸は、次いで、炭素処理およびフェロシアン化ナトリウムによって精製されて、さらなる有機不純物および重金属をそれぞれ除去する。ろ過後、有機酸はイオン交換樹脂と接触させられて、微量のイオンを除く。この精製プロセスは複雑であり、高純度を達成するのは多くの場合困難である。
【0005】
米国特許第5,068,418号は、乳酸を選択的に吸着する非ゼオライトポリマー吸着剤を使用して、発酵ブロスから乳酸を分離する方法を開示する。この非ゼオライトポリマー吸着剤は、第三級アミンまたはピリジン官能基を有する弱塩基性アニオン交換樹脂、または第四級アミン官能基を有する強塩基性アニオン交換樹脂、およびこれらの混合物を含む。米国特許第5,068,418号の分離プロセスに関する問題は、それが鉱酸の使用を開示していることである。鉱酸は乳酸の汚染の一因となる。このように、純度は溶離液によって影響を受ける。米国特許第5,068,418号において開示される鉱酸である硫酸は、樹脂の操作容量に影響し、これはひいては操作コストに直接影響する。鉱酸によって一旦飽和したら、その樹脂は再生されなければならない。高濃度の溶液については、樹脂は頻繁に再生されなければならず;よって、プロセスコストを直接増大させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,068,418号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、効率を高めることができ、それによりコストを下げることができるプロセスが必要とされている。
本発明は、鉱酸溶液の必要なしに、発酵ブロスから有機酸およびアミノ酸を分離する方法を提供することにより、この問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
i)有機酸をさらに含む発酵生産物を含む供給物質を提供し;
ii)イオン交換吸着媒体を提供し;および
iii)イオン交換吸着媒体を通る移動相で供給物質を溶離させることにより、供給物質から有機酸を分離する;
ことを含み、
前記移動相が希有機酸および水からなる群から選択される;
発酵ブロスから有機酸を分離する方法に関する。
さらに、本発明は、
i)発酵生産物を含む供給物質を提供し;
ii)イオン交換吸着媒体を提供し;および
iii)イオン交換吸着媒体を通る移動相で供給物質を溶離させることにより、供給物質からアミノ酸を分離する;
ことを含み、
前記移動相が希アミノ酸および水からなる群から選択される;
発酵ブロスからアミノ酸を分離する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、強酸カチオン交換樹脂を使用する、乳酸と塩とのクロマトグラフィー分離を示す。
【
図2】
図2は、弱塩基アニオン交換樹脂を使用する、乳酸と塩とのクロマトグラフィー分離を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において使用される場合、「有機酸」は、その式内に炭素、水素および酸素を含み、炭素および酸素がカルボキシル基を形成している酸を意味する。有機酸の非限定的な例には、乳酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸およびクエン酸が挙げられる。本明細書において定義される場合、有機酸はアミノ酸の種類も含む。本明細書において使用される場合、「有機酸」は酸形態またはその対応する塩形態であることができる。
【0011】
本明細書において使用される場合、「アミノ酸」は、その式内にアミン基を含む有機酸を意味する。アミノ酸の非限定的な例には、グルタミン酸およびアスパラギン酸が挙げられる。「アミノ酸」は酸形態または対応する塩形態であることができる。
【0012】
本発明において意図される供給物質は発酵生産物である。一般的に、本発明において有用な非限定的な発酵生産物は、微生物の1種、ラクトバシラスデルブルッキー、ラクトバシラスブルガリカス、またはラクトバシラスレイクナニーによる、糖(例えば、グルコース)、糖蜜、ジャガイモ、または、特にデンプンの液体培養発酵から得られる。本明細書において記載される樹脂吸着剤を用いて、イオン化されていない有機酸は、発酵ブロス中の他のイオン種(有機アニオンも含む)から分離されうる。
【0013】
供給物のpHを有機酸のイオン化定数未満のレベルに調節することにより、有機酸の分離は有意に増大させられうる。有機酸のイオン化定数(pKa)は3.86であり(Handbook of Chemistry&Physics、第53版、1972−3、CRCプレス)、よって、この有機酸供給物および吸着ゾーンのpHは3.86未満であるべきである。
【0014】
発酵ブロスからの有機酸および/またはアミノ酸の固体床吸着分離は吸着剤樹脂を使用することにより達成される。本発明の樹脂は、ゲル状(もしくは「ゲル型」)、または「マクロ網状(macroreticular)」であることができ、この用語は、いくつかの最近の文献、すなわちロームアンドハースカンパニーによって再版された、1969年10月のペンシルベニア州、ピッツバーグでのInternational Water Conference(国際水会議)において報告された論文、クニン(Kunin)およびヘゼリントン(Hetherington)の、A Progress Report on the Removal of Colloids From Water by Macroreticular Ion Exchange Resins(マクロ網状イオン交換樹脂による水からのコロイドの除去についての進展レポート)において使用されている。近年の吸着技術においては、「用語、マイクロ網状(microreticular)とはゲル構造自体をいい、その孔のサイズは原子寸法のサイズであり、かつゲルの膨潤特性に依存する」、一方、「マクロ網状の孔および真多孔度(true porosity)は、孔が原子間距離より大きく、そしてゲル構造の部分ではない構造に言及する。そのサイズおよび形状は、浸透圧変動をもたらすもののように環境条件の変化によって大きな影響を受けない」、一方、ゲル構造の寸法は「著しく環境条件に依存する」。「標準的な吸着」においては、「用語マイクロ多孔度およびマクロ多孔度は、通常、それぞれ、20Å未満の孔、および200Åより大きな孔のものをいう。20Å〜200Åの寸法の孔は遷移的孔と称される。」本発明において使用される新たなイオン交換樹脂に適用するために、代わりに、著者は、用語「マクロ網状」を選択し、マクロ網状は「マイクロ網状孔構造およびマクロ網状孔構造の双方を有する。前者は膨潤ゲル構造の鎖と架橋との間の距離をいい、後者は実際の化学構造の部分ではない孔をいう。構造のマクロ網状部分は実際に、孔サイズ分布に応じて、マイクロ−、マクロ−および遷移的−孔からなることができる」。(引用は、クニンらの論文の第1ページからである)。マクロ網状構造吸着剤は良好な耐消耗性をも有する(従来のマクロ網状樹脂には一般的ではない)。本出願において、よって、「マクロ網状」に関する全ての言及は、クニンおよびヘゼリントンによって定義された二元的な多孔度を有する上記種類の吸着剤を示す。「ゲル」および「ゲル型」はその従来の意味で使用される。
【0015】
本発明の吸着剤樹脂は以下の種類のイオン交換樹脂の1種から選択されうる:強酸カチオン性、強塩基アニオン性、弱塩基アニオン性および弱酸カチオン性。具体的に、架橋ポリマーマトリックス、例えば、アクリルもしくはスチレン内で酸形態の第三級アミンまたはピリジン官能基を有する交換樹脂が本発明において有用である。これらは、ビーズ形態で製造される場合に特に好適であり、高度の均一なポリマー多孔度を有し、化学および物理的安定性、並びに良好な耐消耗性を示す。本発明の吸着剤は、通常、塩化物形態で入手可能であるが、酸形態に変換されうる。ロームアンドハースカンパニーによって製造される「アンバーライト(Amberlite
商標)」吸着剤樹脂が好適である。具体的には、本発明に有用な樹脂の非限定的な例は、アンバーライト
商標FPC23H、CR1310、FPA53、FPA55、FPA53およびFPA54吸着剤樹脂である。
【0016】
本発明の構造およびイオン形態の観点で好適なポリマー吸着剤は、物理的特性、例えば、多孔度(体積パーセント)、骨格密度、および名目メッシュサイズ、が幾分か異なるであろうし、並びにおそらくは表面積、平均孔直径および双極子モーメントはより異なっているであろう。典型的には、本発明の吸着剤は10〜2000m
2/g、好ましくは100〜1000m
2/gの表面積;1〜1.6の粒子均等係数;200〜800ミクロン、あるいは300〜600ミクロンの範囲の粒子サイズを有するであろう。
【0017】
本発明の方法においては、吸着剤は移動相中で供給混合物と接触させられる。供給混合物は発酵ブロスから構成される。移動層は精製されるべき有機酸の希釈溶液または単純に水を溶離液として含む。鉱酸は本発明においては使用されない。本発明に従って、溶離液は供給物流れの有機酸またはアミノ酸の官能基と、イオン交換吸着媒体との間の相互作用に従って選択される。典型的には、媒体と対象の酸または塩との間のイオン性相互作用がない場合には、水は溶離液または移動相である。逆に、有機酸またはアミノ酸の官能基と、媒体との間にイオン性相互作用が存在する場合には、対象の有機酸またはアミノ酸の希釈溶液がそれぞれ使用されるべきである。
【0018】
供給混合物は、密でコンパクトな固定床内の吸着剤および移動相と接触させられうる。本発明の最も単純な実施形態においては、吸着剤は単一の静的床の形態で使用され、この場合、この方法は半連続のみである。別の実施形態においては、2以上の静的床の組が固定床接触において使用されることができ、供給混合物がこの組における1以上の別の床を通されるように好適なバルブ切り替えを伴うことができる。供給混合物の流れは上向または下向のいずれであっても良い。静的床流体−固体接触において使用される従来の装置のいずれかが使用されうる。
【0019】
しかし、対向流移動床または擬似移動床対向流流動システムは吸着剤固定床システムよりも大きな分離効率を有するので、それらは別の選択肢である。移動床または擬似移動床プロセスにおいては、吸着操作は連続的に行われることができ、このことはエキストラクトおよびラフィネート流れの連続的生産と、供給物および脱離剤流れの連続的使用との双方を可能にする。この方法のある好ましい実施形態は、当該技術分野において擬似移動床対向流流動システムとして知られているものを利用することである。このような流動システムの操作原理およびシークエンスは上述の米国特許第2,985,589号に記載されている。液相および気相操作の双方が多くの吸着分離プロセスにおいて使用されうるが、より低い温度要求、および気相操作で得られうるよりも高い収率で抽出生成物が液相操作で得られうるので、この目的のためには液相操作が好ましい。吸着条件は20℃〜200℃、あるいは20℃〜25℃、あるいは50℃〜90℃の温度範囲、液相を確実にする圧力、例えば、ほぼ大気圧から約500psig(3450kPaゲージ)、より好ましくは50psig〜100psig、および有機酸のイオン化定数(pKa)未満のpHを挙げることができる。
【実施例】
【0020】
図面の詳細な説明
図1は、好適なイオン形態での強酸カチオンを用いた、約130g/Lの乳酸および70g/Lの塩を含む溶液の分離を示す。この溶液のフラクションはカラムに1mlインジェクトされた。溶離液として水が使用された。溶離流速は8mL/分で、約3m/hの線速度を与えた。カラムの出口は特定の検出器に接続された。分離度は3.39であって、重複は0.00であった。
【0021】
図2は、好適なイオン形態での弱塩基アニオンを用いた、約130g/Lの乳酸および70/Lの塩を含む溶液の分離を示す。この溶液のフラクションがインジェクトされた。溶離液として0.02Nの濃度の希乳酸が使用された。溶離流速は8mL/分で、約3m/hの線速度を与えた。カラムの出口は特定の検出器に接続された。分離度は1.69であって、重複は0.00であった。