(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
記録媒体上に水性インクを吐出する吐出ノズルが開口するノズル領域が設けられ、且つ撥水膜が形成されたインク吐出面を有し、ブラックインクを吐出する第1記録ヘッドと、ブラック以外のカラーインクを吐出する第2記録ヘッドと、を含む複数の記録ヘッドと、
前記吐出ノズルから前記インク吐出面に強制的に押し出されたパージインクを拭き取るゴム製のワイプブレードと、
該ワイプブレードを前記インク吐出面に沿って移動させるとともに、前記ワイプブレードを前記インク吐出面に対し接近または離間する方向に昇降可能な駆動機構と、
を備えた、前記記録ヘッドの回復動作を実行可能なインクジェット記録装置において、
前記ワイプブレードは、前記第1記録ヘッドの前記インク吐出面に押し出されたパージインクを拭き取る第1ワイプブレードと、前記第2記録ヘッドの前記インク吐出面に押し出されたパージインクを拭き取る第2ワイプブレードと、を有し、
前記第1ワイプブレードは、前記第2ワイプブレードに比べてゴム硬度が低く、且つ前記第1ワイプブレードのゴム硬度がアスカーC硬度で30°以上45°以下であることを特徴とするインクジェット記録装置。
前記第1ワイプブレードは、前記インク吐出面に対する接触圧が前記第2ワイプブレードと略同一であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
前記第1ワイプブレードは、前記インク吐出面に対する接触圧が30N/m以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1〜
図19を参照して、本発明の一実施形態のインクジェットプリンター100(インクジェット記録装置。以下、プリンター100と称することがある)について説明する。
図1に示すように、プリンター100は、プリンター本体1の内部下方に用紙収容部である給紙カセット2aが配置されている。給紙カセット2aの内部には、記録媒体の一例である用紙Pが収容されている。給紙カセット2aの用紙搬送方向下流側、すなわち
図1における給紙カセット2aの左側の上方には給紙装置3aが配置されている。この給紙装置3aにより、用紙Pは
図1において給紙カセット2aの左上方に向け、1枚ずつ分離されて送り出される。
【0015】
また、プリンター100はその内部に第1用紙搬送路4aを備えている。第1用紙搬送路4aは、給紙カセット2aに関して言えばその給紙方向である左上方に位置する。給紙カセット2aから送り出された用紙Pは第1用紙搬送路4aによりプリンター本体1の側面に沿って垂直上方に搬送される。
【0016】
用紙搬送方向に対し第1用紙搬送路4aの下流端にはレジストローラー対13が備えられている。さらにレジストローラー対13の用紙搬送方向下流側直近には第1ベルト搬送部5および記録部9が配置されている。給紙カセット2aから送り出された用紙Pは第1用紙搬送路4aを通ってレジストローラー対13に到達する。レジストローラー対13は用紙Pの斜め送りを矯正しつつ記録部9が実行するインク吐出動作とのタイミングを計り、第1ベルト搬送部5に向かって用紙Pを送り出す。
【0017】
用紙搬送方向に対し第1ベルト搬送部5の下流側(
図1の右側)には第2ベルト搬送部12が配置されている。記録部9にてインク画像が記録された用紙Pは第2ベルト搬送部12へと送られ、第2ベルト搬送部12を通過する間に用紙P表面に吐出されたインクが乾燥される。
【0018】
用紙搬送方向に対し第2ベルト搬送部12の下流側であってプリンター本体1の右側面近傍にはデカーラー部14が備えられている。第2ベルト搬送部12にてインクが乾燥された用紙Pはデカーラー部14へと送られ、用紙幅方向に並んだ複数のローラーを用いて用紙Pに生じたカールが矯正される。
【0019】
用紙搬送方向に対しデカーラー部14の下流側(
図1の上方)には第2用紙搬送路4bが備えられている。デカーラー部14を通過した用紙Pは両面記録を行わない場合、第2用紙搬送路4bから排出ローラー対を介してプリンター100の右側面外部に設けられた用紙排出トレイ15に排出される。
【0020】
また、第2ベルト搬送部12の下方にはワイプユニット19およびキャップユニット30が配置されている。ワイプユニット19は、後述するパージを実行する際に記録部9の下方に水平移動し、後述する記録ヘッド17a〜17cの吐出ノズル18(
図2参照)から押し出されたインクを拭き取り、拭き取られたインクを回収する。キャップユニット30は、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面F(
図4参照)をキャッピングする際に記録部9の下方に水平移動し、さらに上方に移動して記録ヘッド17a〜17cの下面に装着される。
【0021】
記録部9は、
図2および
図3に示すように、ヘッドハウジング10と、ヘッドハウジング10に保持されたラインヘッド11C、11M、11Y、および11Kを備えている。これらのラインヘッド11C〜11Kは、駆動ローラー6および従動ローラー7を含む複数のローラーに張架された第1搬送ベルト8の搬送面に対して所定の間隔(例えば1mm)が形成されるような高さに支持され、用紙搬送方向と直交する用紙幅方向(
図2の上下方向)に沿って複数(ここでは3個)の記録ヘッド17a〜17cが千鳥状に配列されている。ラインヘッド11C〜11Kは、搬送される用紙Pの幅以上の記録領域を有しており、第1搬送ベルト8によって搬送される用紙Pに対して、印字位置に対応した吐出ノズル18から水性インク(以下、単にインクと称する)を吐出できるようになっている。以下、ブラックのインクが吐出されるラインヘッド11Kの記録ヘッド17a〜17cを第1記録ヘッド17a1〜17c1とも言う。また、シアン、マゼンタ、イエローのインクが吐出されるラインヘッド11C〜11Yの記録ヘッド17a〜17cを、第2記録ヘッド17a2〜17c2とも言う。
【0022】
図5に示すように、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面F(
図4参照)には吐出ノズル18が多数配列されたノズル領域Rが設けられている。また、インク吐出面Fには撥水膜(図示せず)が形成されている。撥水膜の材質としては、フルオロアルキルシラン、フルオロアルキル基を有するアルカン、カルボン酸、アルコール、アミン等のフッ素原子を有する有機化合物、ジメチルシロキサン骨格を有する有機ケイ素化合物、アルキルシロキサン基を有する有機ケイ素化合物等が挙げられる。撥水膜を形成する方法としては、例えば真空下で撥水性材料を蒸着させる方法、撥水性材料を適当な溶媒に溶解させて塗布する方法等が挙げられる。なお、記録ヘッド17a〜17cは同一の形状および構成であるため、
図4および
図5では記録ヘッド17a〜17cを一つの図で示している。
【0023】
各ラインヘッド11C〜11Kを構成する記録ヘッド17a〜17cには、それぞれインクタンク(図示せず)に貯留されている4色(シアン、マゼンタ、イエローおよびブラック)のインクがラインヘッド11C〜11Kの色毎に供給される。
【0024】
各記録ヘッド17a〜17cは、外部コンピューターから受信した画像データに応じて、第1搬送ベルト8の搬送面に吸着保持されて搬送される用紙Pに向かって吐出ノズル18からインクを吐出する。これにより、第1搬送ベルト8上の用紙Pにはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクが重ね合わされたカラー画像が形成される。
【0025】
また、記録ヘッド17a〜17cの乾燥や目詰まりによるインクの吐出不良を防止するために、長期間停止後の印字開始時は全ての記録ヘッド17a〜17cの吐出ノズル18から、また印字動作の合間にはインク吐出量が規定値以下の記録ヘッド17a〜17cの吐出ノズル18から、ノズル内の粘度が高くなったインクを押し出すパージを実行して、次の印字動作に備える。
【0026】
図6に示すように、記録部9の下方には、用紙搬送方向(矢印A方向)と平行な両端部に沿って2本のガイドレール60a、60bが固定されている。ガイドレール60a、60bには一対のガイド板61a、61bが固定されており、ガイド板61a、61bの下端部にはキャップユニット30の側端縁が支持されている。また、ガイドレール60a、60bにはキャリッジ71が摺動可能に支持されており、キャリッジ71上にワイプユニット19が載置されている。
【0027】
キャップユニット30は、記録部9の真下の第1の位置と第1の位置から水平方向(矢印A方向)に退避した第2の位置(
図6の位置)との間を往復移動可能であり、第1の位置において上方に移動して記録ヘッド17a〜17cにキャップをするように構成されている。
【0028】
具体的には
図7に示すように、キャップユニット30は、板金製のキャップトレイ30aと、キャップトレイ30aの上面に配置される凹状の12個のキャップ部30bと、4個の高さ方向位置決め突起30cと、を含んでいる。
【0029】
キャップ部30bは、記録ヘッド17a〜17cに対応する位置に配置されている。これにより、第1の位置においてキャップユニット30が上方に移動することによって、各キャップ部30bが各記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fのキャップを行う。高さ方向位置決め突起30cは、記録ヘッド17a〜17cのキャップを行うためにキャップユニット30を記録部9側に上昇させたとき、記録部9のハウジング10に当接することでキャップ部30bとインク吐出面Fとの接触状態を一定に保持する。
【0030】
図6に示すように、ワイプユニット19は、記録部9の真下の第1の位置と第1の位置から水平方向(矢印A方向)に退避した第2の位置との間を往復移動可能であり、第1の位置において上方に移動して後述するワイピング動作を行うように構成されている。
【0031】
具体的には、ガイドレール60bの外側には、キャリッジ71を矢印AA′方向に移動させるための駆動モーター72と、駆動モーター72およびキャリッジ71のラック歯71aに係合するギア列(図示せず)と、これらを覆うカバー部材73と、が取り付けられている。駆動モーター72が正回転することにより、ギア列が回転し、キャリッジ71およびワイプユニット19が第2の位置から第1の位置に移動する。なお、駆動モーター72およびギア列等によって、ワイプユニット19を水平方向に移動させるワイプユニット移動機構が構成されている。
【0032】
また、キャリッジ71の四隅には
図8および
図9に示すように、ワイプユニット19を下面側から支持するとともに揺動(起立または倒伏)可能な支持アーム74が設けられている。矢印AA′方向に隣り合う支持アーム74同士は、回転軸75により連結されている。また、キャリッジ71の外側には、支持アーム74を揺動させるためのワイプ昇降モーター76と、ワイプ昇降モーター76および回転軸75のギアに係合するギア列等(図示せず)と、が取り付けられている。ワイプ昇降モーター76が正回転することにより、ギア列等が回転し、回転軸75が回動することによって、支持アーム74が揺動(起立)する。これにより、ワイプユニット19が上昇する。なお、ワイプ昇降モーター76、ギア列、回転軸75および支持アーム74等によって、ワイプユニット19を上下方向(矢印BB′方向)に移動させるワイプ昇降機構が構成されている。また、キャリッジ71の内面には上下方向に延びるガイド溝71bが形成されており、ワイプユニット19はガイド溝71bに沿って昇降する。
【0033】
ワイプユニット19は
図10および
図11に示すように、複数のワイパー(ワイプブレード)35a〜35cが固定された略矩形状のワイパーキャリッジ31と、ワイパーキャリッジ31を支持する支持フレーム40とで構成されている。
【0034】
支持フレーム40の上面の対向する端縁にはレール部41a、41bが形成されており、ワイパーキャリッジ31の四隅に設けられたコロ36がレール部41a、41bに当接することで、ワイパーキャリッジ31は支持フレーム40に対し矢印CC′方向に摺動可能に支持される。
【0035】
支持フレーム40の外側には、ワイパーキャリッジ31を水平方向(矢印CC′方向)に移動させるためのワイパーキャリッジ移動モーター45と、ワイパーキャリッジ移動モーター45およびワイパーキャリッジ31のラック歯(図示せず)に係合するギア列(図示せず)と、が取り付けられている。ワイパーキャリッジ移動モーター45が正逆回転することにより、ギア列が正逆回転し、ワイパーキャリッジ31が水平方向(矢印CC′方向)に往復移動する。なお、ワイパーキャリッジ移動モーター45およびギア列等によって、ワイパー35a〜35cを記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fに沿って移動させるワイプ移動機構が構成されている。
【0036】
ワイパー35a〜35cは、各記録ヘッド17a〜17cの吐出ノズル18から押し出されたインクを拭き取るための例えばEPDMからなるゴム製の部材である。ワイパー35a〜35cは、吐出ノズル18が露出するノズル領域R(
図5参照)の外側の拭き取り開始位置に略垂直方向から圧接され、ワイパーキャリッジ31の移動によりノズル領域Rを含むインク吐出面Fを所定方向(
図10の矢印C方向)に拭き取る。
【0037】
4枚のワイパー35aは略等間隔で配置されており、同様に、4枚のワイパー35bおよび4枚のワイパー35cもそれぞれ略等間隔で配置されている。ワイパー35a、35cは、それぞれ各ラインヘッド11C〜11Kを構成する左右の記録ヘッド17a、17c(
図3参照)に対応する位置に配置されている。また、ワイパー35bは、各ラインヘッド11C〜11Kを構成する中央の記録ヘッド17b(
図3参照)に対応する位置に配置されており、ワイパー35a、35cに対しワイパーキャリッジ31の移動方向(矢印CC′方向)と直交する方向に所定距離だけずらして固定されている。
【0038】
支持フレーム40の上面の4箇所には高さ方向位置決め突起46が設けられている。高さ方向位置決め突起46は、ワイパー35a〜35cによる記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの拭き取り動作を行うために支持フレーム40を記録部9側に上昇させたとき、記録部9のヘッドハウジング10に当接することでワイパー35a〜35cとインク吐出面Fとの接触状態を一定に保持する。
【0039】
支持フレーム40の上面には、ワイパー35a〜35cによってインク吐出面Fから拭き取られ後述するクリーニング機構80によって集められた廃インクを回収するためのインク回収トレイ44が配置されている。インク回収トレイ44の略中央部には、インク排出孔(図示せず)が形成されており、インク排出孔を挟んで両側のトレイ面44a、44bは、インク排出孔に向かって下り勾配となっている。ワイパー35a〜35cによってインク吐出面Fから拭き取られ、トレイ面44a、44bに落下した廃インクはインク排出孔(図示せず)に向かって流れる。その後、廃インクはインク排出孔に連結されたインク回収路(図示せず)を通って廃インク回収タンク(図示せず)に回収される。
【0040】
次に、本実施形態のプリンター100における記録ヘッド17a〜17cの回復動作について説明する。
【0041】
ワイプユニット19により記録ヘッド17a〜17cの回復処理を行う場合、
図12に示すように記録部9の下面に対向配置されている第1ベルト搬送部5を降下させる。そして、
図13に示すように、キャップユニット30を第2の位置に残した状態でワイプユニット移動機構によりワイプユニット19を第2の位置から第1の位置に移動させる。
【0042】
そして、ワイピング動作に先立って、インクが記録ヘッド17a〜17cに供給される。供給されたインク22は吐出ノズル18から強制的に押し出(パージ)される。このパージ動作により、吐出ノズル18内の増粘インク、異物や気泡が排出され、記録ヘッド17a〜17cを回復することができる。
【0043】
次いで、インク吐出面Fに排出されたインク22を拭き取るワイピング動作を行う。具体的には、
図14に示すように、ワイプ昇降機構によりワイプユニット19を上昇させることによって、ワイパー35a〜35cを、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの拭き取り開始位置に圧接する。
【0044】
そして、ワイパーキャリッジ移動モーター45(
図10参照)によってワイパーキャリッジ31を矢印C方向に水平移動させることにより、
図15に示すようにワイパー35a〜35cが記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fに押し出されたインク22を拭き取る。
【0045】
ワイパー35a〜35cが記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの下流側端部まで移動した後、ワイプ昇降機構によりワイパーキャリッジ31を下降させる。これにより、ワイパー35a〜35cを記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fから下方に退避させる。
【0046】
その後、ワイプユニット移動機構によりワイプユニット19を第1の位置から矢印A方向に移動させる。これにより、
図12に示すように、ワイプユニット19はキャップユニット30の直下の所定位置(第2の位置)に配置される。
【0047】
次に、本実施形態のプリンター100における記録ヘッド17a〜17cにキャップユニット30を装着する動作について説明する。
【0048】
キャップユニット30により記録ヘッド17a〜17cにキャップを行う場合、
図12に示すように記録部9の下面に対向配置されている第1ベルト搬送部5を降下させる。そして、
図16に示すように、ワイプユニット19上にキャップユニット30を配置した状態で、ワイプユニット移動機構によりワイプユニット19およびキャップユニット30を第2の位置から第1の位置に移動させる。その後、ワイプ昇降機構によりワイプユニット19およびキャップユニット30を上昇させることによって、キャップユニット30(キャップ部30b)を記録ヘッド17a〜17cに装着する。
【0049】
前述したように、ブラックのインクが吐出されるラインヘッド11Kの記録ヘッド17a〜17cでは、インク吐出面Fに押し出したブラックインクをワイパー35a〜35cで拭き取る動作を繰り返した場合、インクに含まれるカーボンブラックがインク吐出面Fに擦り付けられることにより、インク吐出面Fに形成された撥水膜の削れが発生する。その結果、インク吐出面Fの吐出ノズル18周辺にインクが付着し易くなり、インクの直進性の悪化(着弾位置ズレ)が発生する。
【0050】
ワイパー35a〜35cによる撥水膜の削れを抑制するためには、ワイパー35a〜35cのゴム硬度を低くすることにより、インク吐出面Fに対するワイパー35a〜35cの接触圧を低くすることが考えられる。しかし、ゴム硬度の低いワイパー35a〜35cを用いて吐出面Fの拭き取りを行った場合、インクの拭き取り性が低下し、インク吐出面Fにパージインクの拭き残しが発生する。
【0051】
ここで、ラインヘッド11Kにおいて、ゴム硬度の高いワイパーを使用した場合の撥水膜の劣化と、ゴム硬度の低いワイパーを使用した場合のパージインクの拭き残しの発生とが画像に与える影響を比較すると、撥水膜の劣化による着弾位置ズレの影響のほうがパージインクの拭き残しの影響よりも画像に与える影響が大きい。
【0052】
一方、ラインヘッド11C〜11Yにおいては、シアン、イエロー、マゼンタのインクは有機顔料を用いているため、ワイパー35a〜35cによるパージインクの拭き取り時に撥水膜の削れは発生しない。そのため、ゴム硬度の高いワイパー35a〜35cを用いてパージインクの拭き残しを抑制することが好ましい。
【0053】
そこで、本実施形態においては、ラインヘッド11Kの第1記録ヘッド17a1〜17c1のインク吐出面Fの拭き取りを行うワイパー35a〜35c(以下、第1ワイパー35a1〜35c1とする)のゴム硬度を、ラインヘッド11C〜11Yの第2記録ヘッド17a2〜17c2のインク吐出面Fの拭き取りを行うワイパー35a〜35c(以下、第2ワイパー35a2〜35c2とする)のゴム硬度に比べて低くしている。
【0054】
また、第1ワイパー35a1〜35c1のゴム硬度が高すぎると撥水膜の削れが発生し易くなり、ゴム硬度が低すぎるとインク吐出面Fのインク拭き残しが発生し易くなる。そこで、第1ワイパー35a1〜35c1のゴム硬度を30°以上45°以下としている。なお、本明細書中でいう「ゴム硬度」とは、日本ゴム協会標準規格(SRIS)に規定されているアスカーC(ASKER C)硬度を指す。
【0055】
また、同一形状のワイパー35a〜35cを同一の接触圧でインク吐出面Fに接触させた場合、ゴム硬度が低いほうが接触圧(線圧)は低くなる。そこで、
図17および
図18に示すように、第1ワイパー35a1〜35c1の厚みT1を第2ワイパー35a2〜35c2の厚みT2に比べて厚くすることにより、第1ワイパー35a1〜35c1および第2ワイパー35a2〜35c2のインク吐出面Fに対する接触圧を略同一にしておく。インク吐出面Fのインク拭き残しを抑制するためには、第1ワイパー35a1〜35c1および第2ワイパー35a2〜35c2のインク吐出面Fに対する接触圧を30N/m以上とすることが好ましい。
【0056】
上記の構成により、ブラックのインクを吐出する第1記録ヘッド17a1〜17c1においてはゴム硬度の低い第1ワイパー35a1〜35c1を用いて拭き取り動作が行われるため、拭き取り動作の繰り返しによるインク吐出面Fの撥水膜の削れが抑制され、吐出インクの着弾位置ズレによる画像品質の低下を効果的に抑制することができる。
【0057】
また、シアン、イエロー、マゼンタのインクを吐出する第2記録ヘッド17a2〜17c2においてはゴム硬度の高い第2ワイパー35a2〜35c2を用いて拭き取り動作が行われるため、パージインクの拭き残しの発生が抑制され、ワイピング動作の繰り返しによってインクが徐々に付着してインク吐出面Fから垂れ下がり、垂れ下がったインクが、用紙に接触して印字面を汚染する不具合を効果的に抑制することができる。第2ワイパー35a2〜35c2のゴム硬度は、アスカーC硬度で50°以上とすることが好ましい。
【0058】
なお、ここでは第1ワイパー35a1〜35c1および第2ワイパー35a2〜35c2のインク吐出面Fに対する接触圧を略同一としたが、前述したように第2記録ヘッド17a2〜17c2においては第2ワイパー35a2〜35c2よるパージインクの拭き取り時にインク吐出面Fの撥水膜の削れは発生しない。そのため、第2ワイパー35a2〜35c2のインク吐出面Fに対する接触圧を第1ワイパー35a1〜35c1に比べて高く設定してもよい。
【0059】
また、第1ワイパー35a1〜35c1の厚みT1を第2ワイパー35a2〜35c2の厚みT2に比べて厚くする代わりに、
図19に示すように、第1ワイパー35a1〜35c1の突出長L3を第2ワイパー35a2〜35c2の突出長L4に比べて短くすることにより、インク吐出面Fに対する接触圧を略同一にすることもできる。この場合、ワイプユニット19を上昇させてワイパー35a〜35cを記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの拭き取り開始位置に圧接する際に、第1ワイパー35a1〜35c1および第2ワイパー35a2〜35cが同時にインク吐出面Fに圧接されるように、第1ワイパー35a1〜35c1および第2ワイパー35a2〜35cの先端の高さを揃えておく。
【0060】
その他、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、駆動モーター72およびギア列等によって構成されるワイプユニット移動機構、ワイプ昇降モーター76、ギア列、回転軸75および支持アーム74等によって構成されるワイプ昇降機構、ワイパーキャリッジ移動モーター45およびギア列等によって構成されるワイプ移動機構についても、従来公知の他の駆動機構を用いることができる。
【0061】
また、記録ヘッド17a〜17cの吐出ノズル18の個数やノズル間隔等はプリンター100の仕様に応じて適宜設定することができる。また、記録ヘッドの数も特に限定されるものではなく、例えば各ラインヘッド11C〜11Kにつき記録ヘッド17を1個、2個、或いは4個以上配置することもできる。以下、実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0062】
本実施形態のプリンター100の各ラインヘッド11C〜11Kにおける記録ヘッド17a〜17cの吐出インクの着弾位置ズレ、およびインク拭き残しについて調査した。試験方法としては、
図1に示したラインヘッド型のプリンター100において、第1ワイパー35a1〜35c1としてゴム硬度40°、厚み1.3mmのゴムブレードを用い、第2ワイパー35a2〜35c2としてゴム硬度60°、厚み1.1mmのゴムブレードを用いたものを本発明とした。また、第1ワイパー35a1〜35c1および第2ワイパー35a2〜35c2のゴム硬度は本発明1と同一とし、厚みを共に1.1mmとしたものを本発明2とした。
【0063】
一方、第1ワイパー35a1〜35c1としてゴム硬度60°、厚み1.1mmのゴムブレードを用い、第2ワイパー35a2〜35c2としてゴム硬度40°、厚み1.3mmのゴムブレードを用いたものを比較例1、第1ワイパー35a1〜35c1および第2ワイパー35a2〜35c2としてゴム硬度60°、厚み1.1mmのゴムブレードを用いたものを比較例2、第1ワイパー35a1〜35c1および第2ワイパー35a2〜35c2としてゴム硬度40°、厚み1.3mmのゴムブレードを用いたものを比較例3とした。
【0064】
本発明1、2、および比較例1〜3のプリンター100の各ラインヘッド11C〜11Kにおいて記録ヘッド17a〜17cの回復動作を実行したときの吐出インクの着弾位置ズレ、およびパージインクの拭き残しを目視により観察した。着弾位置ズレの評価方法は、インクのパージおよび拭き取りを22000回繰り返し実行し、2000回毎に着弾位置のズレ量を測定して初期の着弾位置からのズレ増加量Δ3σの最大値が5.0μm未満であった場合を○、5.0μm以上であった場合を×とした。
【0065】
なお、ズレ増加量Δ3σの最大値が5.0μmというレベルは、インクが紙表面で拡がり易く、着弾位置ズレが発生しても隣接するドットが補ってくれるため筋が目立ちにくい普通紙でも目視により筋が認識されるレベルである。また、第2ワイパー35a2〜35c2を用いるシアン、イエロー、マゼンタのラインヘッド11C〜11Yでは、ラインヘッド11C〜11Yのうちいずれか一つでも着弾位置ズレが5.0μm以上であった場合は×とした。
【0066】
インクの拭き残しの評価方法は、パージインクの拭き取り動作時に拭き残しが発生しなかった場合を○、第1ワイパー35a1〜35c1または第2ワイパー35a2〜35c2の移動方向(
図10の矢印CC′方向)に筋状の拭き残しが若干発生した場合を△、筋状の拭き残しが発生した場合を×とした。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から明らかなように、第1ワイパー35a1〜35c1のゴム硬度を60°、第2ワイパー35a2〜35c2のゴム硬度を40°とした比較例1、および第1ワイパー35a1〜35c1および第2ワイパー35a2〜35c2のゴム硬度を共に60°とした比較例2では、インクのパージおよび拭き取りを繰り返し実行した後のラインヘッド11Kの第1記録ヘッド17a1〜17c1から吐出されるブラックインクの着弾位置ズレ量が5.0μm以上となり、製品として成立しないため総合判定を×とした。
【0069】
一方、第1ワイパー35a1〜35c1のゴム硬度を40°、第2ワイパー35a2〜35c2のゴム硬度を60°とした本発明1、2と、第1ワイパー35a1〜35c1および第2ワイパー35a2〜35c2のゴム硬度を共に40°とした比較例3とを比較すると、着弾位置ズレはいずれも○評価であるが、比較例3ではラインヘッド11Kの第1記録ヘッド17a1〜17c1およびラインヘッド11C〜11Yの第2記録ヘッド17a2〜17c2の両方にインクの拭き残しが発生したため総合判定を△とした。さらに、本発明1ではラインヘッド11Kの第1記録ヘッド17a1〜17c1のみに若干のインクの拭き残しが発生したため総合判定を◎とし、本発明2ではラインヘッド11Kの第1記録ヘッド17a1〜17c1のみに本発明1よりも顕著にインクの拭き残しが発生したため総合判定を○とした。
【0070】
以上の結果より、第1ワイパー35a1〜35c1のゴム硬度を40°、第2ワイパー35a2〜35c2のゴム硬度を60°とした本発明1、2の構成では、インクのパージおよびワイプを繰り返し実行した後にラインヘッド11Kの第1記録ヘッド17a1〜17c1から吐出されるブラックインクの着弾位置ズレ、およびラインヘッド11C〜11Yの第2記録ヘッド17a2〜17c2におけるカラーインクの拭き残しを効果的に抑制できることが確認された。さらに第1ワイパー35a1〜35c1の接触圧を30N/mとした本発明1では、第1記録ヘッド17a1〜17c1のブラックインクの拭き残しをより効果的に抑制できることが確認された。