(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の被膜形成装置では、対象物の表面における液滴の付着性を高めることが求められている。例えば、塗装装置では、塗料液滴が対象物で反射するなど、塗装に寄与しない塗料液滴が比較的多く、多くの塗料を噴射する必要がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、対象物の表面に被膜を形成する被膜形成装置において、対象物の表面における液滴の付着性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、被膜形成用の液滴を対象物へ向けて噴射又は滴下する液滴供給手段と、前記液滴供給手段から前記対象物へ向かう液滴に接触させる活性種を供給する活性種供給手段とを備え、前記活性種を接触させた液滴により前記対象物の表面に被膜を形成する被膜形成装置である。
【0008】
第1の発明では、対象物へ向かう液滴に活性種が接触する。そうすると、液滴の表面は、化学組成が変化し、表面張力及び粘性が低下する。液滴の表面は改質される。対象物には、表面張力及び粘性が低下した液滴が付着し、その液滴が被膜となる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記活性種供給手段が、前記液滴供給手段から前記対象物へ向かう液滴に接触させる活性種を供給する第1供給部と、前記活性種を接触させた液滴が付着する前の前記対象物の表面に活性種を接触させる第2供給部とを備えている。
【0010】
第2の発明では、第1供給部が、対象物に付着する前の液滴の表面張力及び粘性を低下させる。一方、第2供給部は、液滴が付着する前の対象物の表面に活性種を接触させ、対象物の表面の親水性を向上させる。第2の発明では、活性種により表面張力及び粘性が低下した液滴が、活性種により親水性を向上させた対象物の表面に付着する。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記活性種供給手段が、プラズマを生成し、該プラズマにより生成された活性種を前記液滴に接触させる。
【0012】
第3の発明では、液滴の表面張力及び粘性を低下させるための活性種がプラズマにより生成される。
【0013】
第4の発明は、第3の発明において、前記活性種供給手段が、前記液滴が前記液滴供給手段から前記対象物へ向かって移動する移動経路の外側でプラズマを生成し、該プラズマにより生成された活性種を含む活性種含有ガスを前記移動経路へ供給する。
【0014】
第4の発明では、移動経路の外側でプラズマを生成するので、移動経路の液滴がプラズマに接触しない。
【0015】
第5の発明は、第4の発明において、前記活性種供給手段がプラズマを生成するプラズマ生成室を内部に形成し、該プラズマ生成室から前記移動経路へ供給する前記活性種含有ガスを吹き出すための吹出口が形成された区画部材を備えている。
【0016】
第5の発明では、区画部材により形成されたプラズマ生成室でプラズマが生成される。プラズマにより生成された活性種を含む活性種含有ガスは、区画部材の吹出口から移動経路へ吹き出される。
【0017】
第6の発明は、第5の発明において、前記対象物へ向かう液滴が前記吹出口を通って前記プラズマ生成室へ侵入することを防止する侵入防止手段を備えている。
【0018】
第6の発明では、侵入防止手段により、プラズマ生成室に液滴が侵入することが防止される。
【0019】
第7の発明は、第1乃至第6の何れか1つの発明において、前記液滴供給手段が、前記対象物に向けて液滴を噴射し、前記活性種供給手段が、前記液滴供給手段から噴射された液滴に活性種を接触させて該液滴を微粒化する。
【0020】
第7の発明では、活性種により微粒化された液滴が対象物の表面に付着し、その液滴が被膜となる。
【0021】
第8の発明は、第7の発明において、前記活性種供給手段が活性種の生成に投入する単位時間当たりのエネルギーを制御することより、前記活性種により微粒化させた後の液滴の大きさを制御する制御手段を備えている。
【0022】
第8の発明では、活性種の生成に投入する単位時間当たりのエネルギーを制御して、微粒化後の液滴の大きさを制御する。
【0023】
第9の発明は、第1乃至第8の何れか1つの発明において、前記液滴供給手段が噴射又は滴下する液滴には、有機溶媒が含まれる一方、前記活性種供給手段は、前記液滴供給手段から前記対象物へ向かう液滴に接触させる活性種を供給する第1供給部と、気化した液滴から発生するガスに活性種を供給する第2供給部とを備えている。
【0024】
第9の発明では、液滴に有機溶媒が含まれているので、液滴の気化により有毒ガスが発生する。第2供給部は、気化した液滴から発生するガスに活性種を供給し、有毒成分を分解する。
【0025】
第10の発明は、第9の発明において、前記第2供給部が、前記対象物において液滴が付着した領域の近傍に活性種を供給する。
【0026】
第10の発明では、有毒成分の濃度が高い領域に活性種が供給される。
【0027】
第11の発明は、第7又は第8の発明において、前記液滴供給手段が噴射する液滴には、有機溶媒が含まれる一方、前記活性種供給手段は、前記液滴供給手段から前記対象物へ向かう液滴に接触させる活性種を供給する第1供給部と、前記対象物において反射した液滴に活性種を接触させる第2供給部とを備えている。
【0028】
第11の発明では、対象物において反射した液滴に活性種を接触させる。従って、液滴に含まれる有機溶媒が直接分解される。
【0029】
第12の発明は、第1乃至第6の何れか1つの発明において、前記液滴供給手段は、液滴を滴下し、前記液滴が付着した対象物を回転させることにより、前記液滴を広げて被膜を形成する。
【0030】
第12の発明では、液滴供給手段が、例えばコート剤の液滴を滴下する。そして、その液滴が付着した対象物を回転させる。そうすると、液滴が広がり被膜が形成される。
【0031】
第13の発明は、被膜形成用の液滴を対象物へ向けて噴射又は滴下し、前記対象物へ向かう液滴に活性種を接触させて前記対象物に付着させる付着ステップを備えている被膜形成物の製造方法である。
【0032】
第13の発明では、対象物へ向かう液滴に活性種が接触する。そうすると、液滴の表面では、化学組成が変化し、表面張力及び粘性が低下する。対象物には、表面張力及び粘性が低下した液滴が付着し、その液滴が被膜となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明では、表面張力及び粘性が低下した液滴を対象物に付着させるので、対象物の表面における液滴の付着性を向上させることができる。従って、被膜形成装置が例えば塗装装置の場合は、対象物に付着しない塗料液滴が減少するので、塗料の使用量を低減させることができる。
【0034】
また、第2の発明では、活性種により表面張力及び粘性が低下した液滴が、活性種により親水性を向上させた対象物の表面に付着する。従って、対象物の表面における液滴の付着性をさらに向上させることができる。
【0035】
また、第4の発明では、移動経路の液滴がプラズマに接触しないので、液滴に可燃性の物質が含まれる場合に液滴が燃えることを防止することができる。
【0036】
また、第6の発明では、プラズマ生成室に液滴が侵入しないので、液滴に可燃性の物質が含まれる場合に液滴が燃えることを確実に防止することができる。
【0037】
また、第7の発明では、活性種により微粒化された液滴が対象物の表面に付着するので、例えば塗装の場合に、塗装の仕上がりを良好にすることができる。また、噴射する塗料の生成に有機溶媒を使用する場合は、その有機溶媒の使用量を低減させることが可能になるので、揮発性有機化合物(VOC)の発生量を低減することができる。
【0038】
また、第8の発明では、微粒化後の液滴の大きさを電気的に制御できるので、使用する溶媒や対象物等に応じて、微粒化後の液滴の大きさを調節することができる。
【0039】
また、第10の発明では、有毒成分の濃度が高い領域に活性種を供給するので、高いエネルギー効率で有毒成分を分解することができる。
【0040】
また、第11の発明では、対象物において反射した液滴に活性種を接触させて、有機溶媒を直接分解するので、高いエネルギー効率で有毒成分を分解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
<実施形態1>
【0043】
本実施形態1は、本発明に係る被膜形成装置100により構成された塗装装置100である。塗装装置100は、本発明の一例である。塗装装置100は、
図1に示すように、被塗装物116(対象物)を塗装するための液体塗料を噴射するスプレーガン110と、そのスプレーガン110に取付けられたプラズマ生成器120とを備えている。液体塗料には有機溶媒が含まれている。
【0044】
スプレーガン110は、被膜形成用の液滴を被塗装物116へ向けて噴射する液滴供給手段を構成している。スプレーガン110は、一般的なエア霧化式のものである。スプレーガン110は、全体としてピストル型をした本体部111と、その本体部111に取り付けられたノズル部112とを備えている。本体部111の内部には、圧縮空気をノズル部112の空気噴射孔へ供給するための圧縮空気流路と、塗料をノズル部112の塗料噴射孔へ供給するための塗料流路とが形成されている(図示省略)。本体部111には、圧縮空気流路を開閉する空気弁113と、塗料流路を開閉するニードル弁114とが設けられている。空気弁113及びニードル弁114は、操作しなければノズル部112を閉状態に保持する。ニードル弁114は、ノズル部112を直接的に開閉駆動する。
【0045】
本体部111には、空気弁113及びニードル弁114に係合された引き金115が取り付けられている。使用者が引き金115を引くと、引き金115に加えられた力が空気弁113及びニードル弁114に作用し、空気弁113及びニードル弁114が開状態になる。
【0046】
ノズル部112には、上述の塗料噴射孔及び空気噴射孔が設けられている。塗料噴射孔は、ノズル部112の中央付近に形成されている。空気噴射孔は、塗料噴射孔を挟むように複数形成されている。各空気噴射孔における圧縮空気の噴射方向は、ノズル部112の中心から被塗装物116へ向かって延びる中心線上において、各空気噴射孔から噴射された圧縮空気が、所定角度をもって衝突するように設定されている。圧縮空気はノズル部120の近傍で衝突する。ノズル部112の中心線では、各空気噴射孔から噴射された圧縮空気が連続して衝突し、衝突後の空気が外部に向かって扇状に広がる。圧縮空気の流れにより、塗料噴射孔から噴射された塗料は、圧縮空気に吸い込まれて霧化し、対向位置にある被塗装物116に向かって、側方から見て扇状の範囲117を飛散する。空気弁113及びニードル弁114が開状態になると、圧縮空気によって霧化された塗料が、被塗装物116に向かって飛散する。
【0047】
プラズマ生成器120は、スプレーガン110から被塗装物116へ向かう液滴に接触させる活性種を供給する活性種供給手段を構成している。プラズマ生成器120は、プラズマを生成し、そのプラズマにより生成された活性種を液滴に接触させる。プラズマ生成器120は、液滴に活性種を接触させて該液滴を微粒化する。プラズマ生成器120は、給電装置121とアーム122と放電電極部123と操作スイッチ124とを備えている。
【0048】
給電装置121は、スプレーガン110の本体部111に取付けられている。アーム122は、給電装置121から塗料の噴射方向に延びている。放電電極部123は、アーム122の給電装置121とは反対側の端部に接続されている。操作スイッチ124は、引き金115の操作に応答して操作信号を給電装置121へ出力する。
【0049】
本実施形態では、プラズマ生成器120が、液滴がスプレーガン110から被塗装物116へ向かって移動する移動経路の外側でプラズマを生成して、該プラズマにより生成された活性種を含む活性種含有ガスを移動経路へ供給する。プラズマ生成器120では、液滴の飛散範囲117におけるノズル部112の近傍に活性種を供給できるように、放電電極部123が配置されている。プラズマ生成器120により処理された化学成分がスプレーガン110により噴射された塗料の流線上に位置するように、放電電極部123は配置されている。
【0050】
図2に示すように、給電装置121は、放電電極部123に直流パルス電圧を印加する第1電源部130と、放電電極部123に電磁波を供給する第2電源部140と、第1電源部130、第2電源部140及び操作スイッチ124に制御信号を出力する制御部150とを有する。
【0051】
第1電源部130は、制御部150からの第1制御信号を受けて高電圧パルスを出力する。第1電源部130は、例えば、火花式内燃機関用の点火コイルである。第1電源部130は、
図2に示すように、昇圧スイッチ131と昇圧コイル132と整流器133とを備えている。昇圧スイッチ131は、npn型トランジスタにより構成されている。昇圧スイッチ131は、ベースが制御部150に接続され、エミッタが接地されている。昇圧コイル132は、一次側の端子が二手に分岐し、その一方が外部の直流電源に接続され、他方が昇圧スイッチ131のコレクタに接続されている。整流器133は、昇圧コイル132の二次側に接続されている。第1電源部130では、第1制御信号が昇圧スイッチ131のベースに印加されると、昇圧コイル132の一次側に電流が流れる。昇圧コイル132では、磁場が変化し、一次側に電荷が蓄積される。この状態で、第1制御信号の印加を終了させると、電荷が昇圧コイル132の二次側に流入し、その二次側から高電圧パルスが放電電極部123へ出力される。
【0052】
第2電源部140は、制御部150からの第2制御信号を受けてパルス状の電磁波(例えば、マイクロ波)を出力する。第2電源部140は、パルス電源部141と発振器142とを備えている。パルス電源部141は、制御部150から出力された第2制御信号に応答して、外部電源から印加された電流を直流パルスに変換する。発振器142は、パルス電源部141から電力の供給を受けて、所定周波数の電磁波を発生する。発振器142は、例えばマグネトロンである。なお、発振器142は、帰還型、弛緩型のいずれであってもよい。パルス電源部141は、使用する発振器142に応じて適宜選択すればよい。
【0053】
第2電源部140では、制御部150から第2制御信号が印加されると、パルス電源部141が発振器142への電力供給を開始する。発振器142は、この電力を受けて、電磁波を出力する。そして、第2制御信号の印加が終了すると、給電装置121は電力供給を終了し、発振器142は電磁波の出力を終了する。
【0054】
なお、第2電源部140による電磁波の発振は、連続発振(CW発振)であってもよいし、100ナノ秒から100ミリ秒程度の周期の断続発振(パルス発振)であってもよい。パルス発振の場合、電磁波パルスの周期は、第2電源部140の回路構成により予め設定してもよいし、制御部150からの第2制御信号に応じて適宜設定してもよい。
【0055】
制御部150は、操作スイッチ124から入力された操作信号に応答して、予め定められたタイミングで第1電源部130及び第2電源部に制御信号を出力する。第1電源部130に対する第1制御信号は、所定の時間に亘って持続する正論理のTTL信号である。第2電源部140に対する第2制御信号は、第2電源部の動作の開始信号及び終了信号である。第2制御信号は、第2電源部140の出力レベルの指定信号や、周波数の指定信号を含んでもよい。これらの指定信号は、発振器142の種類に応じて、適宜採用すればよい。
【0056】
制御部150の各機能は、いずれもコンピュータハードウェアと、そのコンピュータハードウェア上で実行されるプログラムと、コンピュータハードウェアにより読出又は書込可能なデータとにより実現される。これら各機能及び動作は、プログラムにより実現される。
【0057】
アーム122は、第1電源部130から出力された高電圧パルスを放電電極部123へ供給するための第1伝送路と、第2電源部140から出力された電磁波を放電電極部123へ供給するための第2伝送路とを内蔵している(図示省略)。
【0058】
放電電極部123は、
図3に示すように、火花点火式の内燃機関に用いる点火プラグを改造したものである。放電電極部123は、陰極161(中心電極)と碍子162と陽極163とを有する。
【0059】
陰極161は、概ね棒状の導電体からなり、その一端が第1伝送路に接続されている。碍子162は、筒状の絶縁体であり、その内側に陰極161が埋設されている。陽極163は、ともに導電体により構成されたボディ164とキャップ165とを有する。
【0060】
ボディ164は、略筒状に形成され、その内側に碍子162が嵌め込まれている。キャップ165は、開口166が形成された底面により一端(先端)が塞がれた略円筒状に形成されている。開口166は、キャップ165の内側空間で生成された活性種を含む活性種含有ガスを外側空間へ吹き出すための吹出口166として機能する。
【0061】
キャップ165は、放電電極部123がプラズマを生成するプラズマ生成室を内部に形成し、該プラズマ生成室から移動経路へ供給する活性種含有ガスを吹き出すための吹出口166が形成された区画部材を構成している。なお、キャップ165に、液滴が吹出口166を通ってプラズマ生成室へ侵入することを防止する侵入防止手段(例えば、メッシュ部材)を設けてもよい。
【0062】
キャップ165は、先端に近づくに従って窄まっている。キャップ165は、その基端側の内周面がボディ164の外周面に螺合され、陰極161の先端を囲んでいる。キャップ165では、先端の底面の吹出口166を介して、内側空間と外側空間とが連通する。キャップ165では、吹出口166の外縁付近で、陰極161との絶縁距離が最短となる。キャップ165では、吹出口166の周囲の部材が、吹出口166に近づくに従って肉薄になっている。キャップ165には、外部のガスを内側空間へ導入するための開閉自在の導入孔167が設けられている。
【0063】
放電電極部123は、さらに、第2伝送路の一部を構成する電磁波伝送部168と、電磁波伝送部168に接続されたアンテナ169とを備えている。電磁波伝送部168は、同軸線路により構成され、ボディ164を貫通している。アンテナ169は、ボディ164の先端面から突出し、陰極161の先端を囲うように屈曲している。アンテナ169は、キャップ165内に収容されている。
【0064】
放電電極部123では、高電圧パルスを受けると、陰極161と陽極163との間の放電ギャップにおいて、絶縁破壊により放電プラズマが生じる。そして、放電プラズマが存在している期間に、放電電極部123が電磁波を受けると、アンテナ169からキャップ内に電磁波が放射され、電磁波のエネルギーが放電プラズマの荷電粒子に与えられる。荷電粒子(特に自由電子)は、電磁波のエネルギーを受けて加速され、他の物質に衝突して電離させる。電離により生じた荷電粒子もまた電磁波のエネルギーを受けて加速され、他の物質を電離させる。放電プラズマの領域は、この連鎖により拡大し、放電プラズマは比較的大きな電磁波プラズマ(マイクロ波プラズマ)となる。
【0065】
プラズマ生成器120により電磁波プラズマが生成されると、反応性が高いイオンやラジカル(例えば、酸素ラジカル、ヒドロキシラジカル)などの活性種が生成される。イオンやラジカルは、電子と再結合するが、その結果生じた分子の中にも、反応性の高い化学成分(例えば、オゾン)が含まれる。
【0066】
導入孔167を閉じた状態で、アンテナ169からの電磁波の放射を継続すると、電磁波エネルギーにより、キャップ165内の温度及び圧力が上昇する。その結果、キャップ165の内外で圧力差が生じ、キャップ165内の活性種を含む活性種含有ガスが吹出口166から外部へ噴出する。
【0067】
本実施形態では、プラズマが吹出口166からキャップ165の外部へ噴射されないように、アンテナ169から放射される単位時間当たりの電磁波のエネルギーの大きさ、及びキャップ165の大きさが設定されている。これにより、可燃性の塗料液滴がプラズマに接触して燃焼することを防止することができる。
【0068】
なお、塗料に可燃性の物質が含まれない場合は、ラジカルだけでなく、プラズマも吹出口166から噴射するように、アンテナ169から放射される単位時間当たりの電磁波のエネルギーの大きさ、及びキャップ165の大きさを設定してもよい。また、アンテナ169から放射される単位時間当たりの電磁波のエネルギーの大きさを変化させることにより、プラズマの噴出量、プラズマの噴出時間、及びプラズマの温度を調整することが可能である。そのため、キャップ165及びその吹出口166付近の部材形状に応じて、プラズマ処理されたガスの領域の形状を調整できる。また、塗料液滴への作用の強弱、タイミング、規模等を調整することもできる。
【0069】
また、制御部150は、プラズマ生成器120が活性種の生成に投入する単位時間当たりの電磁波エネルギーの大きさを制御することより、活性種により微粒化させた後の液滴の大きさを制御してもよい。その場合、例えば、微粒化後の平均粒径の目標値に応じて、活性種の生成に投入する単位時間当たりの電磁波エネルギーの大きさを制御する。
−塗装装置の動作−
【0070】
塗装装置100は、塗装被膜形成用の塗料液滴を被塗装物116へ向けて噴射し、被塗装物116へ向かう塗料液滴に活性種を接触させて被塗装物116に付着させる付着ステップを行う。塗装被膜が形成された被膜形成物は、被塗装物116の形状加工後に、付着ステップが行われて、その後乾燥ステップなどを経て製造される。以下では、付着ステップについて詳述する。
【0071】
付着ステップでは、引き金115が引かれると、スプレーガン110が塗料を噴射し、プラズマ生成器120がキャップ165内において電磁波プラズマを生成する。キャップ165の吹出口166からは、活性種含有ガスが、スプレーガン110から噴射された塗料の流線上へ向けて噴出される。スプレーガン110から噴射した塗料は、空中を飛行し、活性種含有ガスが存在する活性種領域118に飛来する。
【0072】
活性種領域118では、塗料の液滴が、電子やイオン等の荷電粒子に衝突する。塗料の液滴では、荷電粒子と接触した部分の化学組成が変化する。また、塗料の液滴表面に活性種が、直接化学的に作用し、塗料液滴の表面の分子組成に変化を与える。具体的に、活性種は、塗料液滴の表面の分子を酸化する。塗料液滴中の有機溶媒は、軽質化(低分子量化)する。炭化水素系の溶媒は、一般的に分子量が小さいものほど分子間力が低いため、表面張力及び粘性が低下する。また、塗料液滴の表面の分子は、酸化力の高い化学種と接触すると帯電する。これにより、塗料液滴の表面に極性が生じ、表面張力が変化する。また、塗料液滴の表面は、加熱されることによっても表面張力が低下する。塗料液滴の表面張力が低下すると、実質的にはウェーバ数が低下することとなる。自由表面の変形が容易になり、塗料液滴が微粒化する。微粒化された塗料液滴は、活性種領域118を通過し、最終的に被塗装物116に付着する。被塗装物116には塗装被膜が形成される。
−実施形態1の効果−
【0073】
本実施形態1では、表面張力及び粘性が低下した塗料液滴を被塗装物116に付着させるので、被塗装物116の表面における塗料液滴の付着性を向上させることができる。従って、被塗装物116に付着しない塗料液滴が減少するので、塗料の使用量を低減させることができる。
【0074】
また、本実施形態1では、活性種により微粒化された塗料液滴が対象物の表面に付着するので、塗装の仕上がりを良好にすることができる。
【0075】
ここで、高圧噴射式の塗料噴射装置や、エア霧化式又は二流体ノズル式の塗料噴射装は、塗料のノズル詰まり等により、微粒化不良が生じる場合がある。このような事態を回避するために、塗料を希釈したり、塗料の噴射圧を高めたりする場合がある。しかし、塗料の希釈には一般に有機溶媒が用いられるので、揮発性有機化合物の排出量の増大を招く。また、噴射圧を高める措置は、ノズルと塗料との激しい摩擦を招き、ノズルの損耗を早め、結果として微粒化不良を助長する虞がある。
【0076】
それに対して、本実施形態1では、そのような事をしなくても、塗料を微粒化させることができる。従って、噴射圧の高圧化や塗液の希釈に伴う問題を回避できる。実施形態1では、スプレーガン110だけで、塗料液滴を目標粒径まで微粒化する必要がない。従って、希釈に要する有機溶媒の量を低減できる。また、塗料噴射孔の口径もそれほど小径化する必要がなく、ノズル詰まりを抑制できる。また、圧縮空気の噴射圧をそれほど高圧化する必要がなく、スプレーガン自体の設計上の要求を緩和させることができる。
【0077】
また、本実施形態1では、移動経路の塗料液滴がプラズマに接触しないので、塗料液滴が燃えることを防止することができる。
−実施形態1の変形例1−
【0078】
変形例1では、被塗装物116で反射したり、被塗装物116付近で巻き上げられたり、またはスプレーガン110から垂れたりする塗装に寄与しない塗料液滴の流路上に、活性種含有ガスを供給する。
【0079】
図4に示すように、塗装装置200は、
図1に示す塗装装置100に、補助プラズマ生成器220を追加した構成となっている。プラズマ生成器120は、スプレーガン110から被塗装物116へ向かう液滴に接触させる活性種を供給する第1供給部を構成し、補助プラズマ生成器220は、被塗装物116で反射した液滴に活性種を接触させる第2供給部を構成している。
【0080】
プラズマ生成器120は、いずれも前記実施形態と同様の給電装置121、アーム122、及び放電電極部123を有している。塗装装置200では、補助プラズマ生成器220が、スプレーガン110のノズル部112の鉛直下方に配置される。補助プラズマ生成器220は、被塗装物116から跳ね返り、または気流の影響で被塗装物116から離れる塗料液滴の流線上に活性種含有ガスを供給する。そして、その活性種含有ガスにより、被塗装物116に付着することなく落下する塗料液滴が酸化処理される。
【0081】
このような塗料液滴の処理では、塗料液滴の全量を蒸発させて浄化してもよいし、溶媒を選択的に蒸発させて塗料の色素成分を凝固させて貫通落下させてもよい。いずれの場合においても、溶媒中の環境汚染物質の回収が容易になる。
【0082】
なお、補助プラズマ生成器220は、スプレーガン110とは別体であってもよい。例えば、塗装ブースの壁面、天井、床等に補助プラズマ生成器220を配置してもよい。
−実施形態1の変形例2−
【0083】
変形例2では、変形例1とは異なり、補助プラズマ生成器220が、気化した塗料液滴から発生するVOCガスに活性種を供給する。補助プラズマ生成器220は、VOCガスの濃度が高い領域、具体的に、被塗装物116において液滴が付着した領域の近傍に活性種を供給する。補助プラズマ生成器220は、塗料が被塗装物116に付着した後に被塗装物116の表面に活性種含有ガスを供給する。被塗装物116の表面において塗装が行われた部分の軌跡に追従するように、補助プラズマ生成器220を移動させて活性種含有ガスの供給先を変化させる。変形例2では、有毒成分の濃度が高い領域に活性種を供給するので、高いエネルギー効率で有毒成分を分解することができる。
【0084】
なお、補助プラズマ生成器220により被塗装物116の表面を速やかに乾燥させ、乾燥により蒸発した高濃度の溶媒成分を分解浄化することも可能である。
−実施形態1の変形例3−
【0085】
変形例3では、変形例1とは異なり、補助プラズマ生成器220が、活性種を接触させた液滴が付着する前の被塗装物116の表面に活性種を接触させる。活性種含有ガスの供給を塗料液滴の到達に先んじて行う。変形例3によれば、被塗装物116の表面を改質し、塗料の付着性をさらに向上させるができる。
<実施形態2>
【0086】
実施形態2は、本発明に係る被膜形成装置100により構成されたコーティング装置30である。コーティング装置30は、例えばポリカーボネイドの樹脂等の表面のコーティングに使用される。
【0087】
コーティング装置30は、
図5に示すように、前処理部41とコーティング部42とを備えている。コーティング装置30は、前処理部41により基板33の上面をプラズマにより表面改質した後に、コーティング部42により基板33の上面にコーティング層37(被膜)を形成するように構成されている。
【0088】
前処理部41は、
図5(A)に示すように、プラズマ噴射器31と駆動アーム32と載置台34とを備えている。プラズマ噴射器31は、例えばプラズマトーチである。プラズマ噴射器31は、駆動アーム32に保持されている。前処理部41では、載置台34上に基板33が載せられ、プラズマを噴射している状態のプラズマ噴射器31が駆動アーム32により動かされる。プラズマ噴射器31は、基板33の上面を全面に亘ってプラズマ処理できるように、駆動アーム32により基板33の上方をジグザグに動かされる。前処理部41では、プラズマ処理により基板33の上面が全面に亘って改質される。
【0089】
コーティング部42は、
図5(B)に示すように、コート剤滴下部35と液滴処理部36と回転台38とモータ39とを備えている。コート剤滴下部35は、コーティング剤を貯留する貯留タンク35aと、該貯留タンク35aに入口端が接続された接続配管35bとを備えている。接続配管35bの出口端は、円板状の回転台38の上方に位置している。コート剤滴下部35は、貯留タンク35a内のコーティング剤の液滴を回転台38上に落下させる。液滴処理部36は、プラズマ生成器により構成されている。液滴処理部36は、接続配管35bの出口端の下方において非平衡プラズマを形成する。液滴処理部36は、
図5(C)に示すように、接続配管35bの出口端から落ちたコーティング剤の液滴が回転台38に到達する前に、その液滴の表面を改質する。モータ39は、改質された液滴が回転台38上の基板33に落下した後に回転台38を回転させる。その結果、液滴が広がりコーティング層37が形成される。
【0090】
なお、実施形態2において、液滴処理部36が、その内部でプラズマを生成し、液滴が通過する領域に活性種含有ガスを供給するようにしてもよい。この場合、液滴はプラズマに接触しない。
−実施形態2の効果−
【0091】
本実施形態2では、活性種により表面張力及び粘性が低下した液滴が、活性種により親水性を向上させた基板33(対象物)の表面に付着する。従って、基板33の表面における液滴の付着性をさらに向上させることができる。
<実施形態3>
【0092】
実施形態3は、フィルム材49の被コーティング面を改質するプラズマ生成器70を有するコーティング装置50である。コーティング装置50は、フィルム材49の被コーティング面において特定の位置をプラズマ生成器70により改質し、改質した位置だけにコーティング剤を付着させることにより、フィルム材49の表面に任意の形状(図柄、文字等)のコート層を形成する。
【0093】
コーティング装置50は、
図6に示すように、フィルム材49の被コーティング面(
図6では、上面)において任意の位置にプラズマを生成可能なプラズマ生成器70と、該プラズマ生成器70により表面改質された位置に付着させるコーティング剤をフィルム材49の上面へ供給するコート剤供給装置59とを備えている。
【0094】
プラズマ生成器70は、フィルム材49の上面においてレーザ光の照射位置を調節可能なレーザ照射機構52と、該レーザ照射機構52によりレーザ光が照射される位置の電界強度をフィルム材49の上面において相対的に強くする電磁波照射機構51とを備えている。電磁波照射機構51は、レーザ照射機構52がレーザ光を照射中に、フィルム材49の上面においてレーザ光の照射位置の電界強度が相対的に強くなるように、フィルム材49に対して電磁波を照射する。
【0095】
レーザ照射機構52は、レーザを発振するレーザ発振器56と、該レーザ発振器56から出射されたレーザ光の反射方向を調節するための回転ミラー57と、該回転ミラー57で反射したレーザ光が通過する位置に配置された集光光学系(図示省略)と、回転ミラー57を駆動制御する駆動装置72とを備えている。レーザ照射機構52は、レーザ発振器56がレーザ光を発振中に、駆動装置72により回転ミラー57を回転駆動させることにより、フィルム材49の上面におけるレーザ光の照射位置を変化させる。このとき、集光光学系は、フィルム材49の上面にレーザ光を集光させる。
【0096】
回転ミラー57は、レーザ発振器56が発振したレーザ光が所定の対象物に照射されるようにレーザ光を反射させる反射機構を構成している。実施形態3では、回転ミラー57は、ポリゴンミラー57である。また、集光光学系は、球面レンズ及びトロイダルレンズからなるfθレンズである。また、フィルム材49は、帯状に形成されている。フィルム材49は、ロール部材71に巻き掛けられ、ロール部材71を回転させることで、上面がコート剤供給装置59側へ移動してゆく。上面は、ロール部材71の長さ方向へ移動する。レーザ照射機構52は、フィルム材49の移動方向の特定の位置において、該移動方向に直交するフィルム材49の幅方向に沿うライン75(以下、「レーザ照射ライン」という。)上の任意の位置にレーザ光を照射可能である。レーザ照射機構52は、ロール部材71の上面において幅方向に沿ってレーザの照射位置を調節可能である。
【0097】
なお、レーザ照射機構52は、ポリゴンミラー57の傾きを調節可能としてもよい。これにより、レーザ照射ライン75上だけでなく、該レーザ照射ライン75に沿う帯状領域の任意の位置にレーザ光を照射可能となる。
【0098】
電磁波照射機構51は、レーザ照射機構52によりレーザ光を照射可能な領域(実施形態3では、レーザ照射ライン75上)の電界強度をフィルム材49の上面において相対的に強くする。電磁波照射機構51は、電磁波を発振する電磁波発振器53(例えば、マグネトロン)と、該電磁波発振器53から供給された電磁波を放射するためのアンテナ55とを備えている。アンテナ55は、同軸ケーブル54を介して電磁波発振器53に接続されている。アンテナ55から電磁波が放射されると、レーザ照射ライン75上、及びその近傍が強電界領域となる。例えば、アンテナ55は、放射した電磁波がフィルム材49の上面に照射されるように配置されている。
【0099】
なお、アンテナ55は、フィルム材49におけるレーザ照射ライン75の下方に配置してもよい。また、アンテナ55は、強電界領域において電界強度が均一になるような形状(例えば、ジグザグ形状)であってもよい。
コーティング装置50の動作について説明する。
【0100】
コーティング装置50は、ロール部材71を回転させてフィルム材49を移動させながら、レーザ照射機構52、電磁波照射機構51、及びコート剤供給装置59を運転させる。レーザ照射機構52は、予め設定された形状に従ってレーザ照射ライン75上においてレーザの照射位置を変化させる。そうすると、電磁波照射機構51の運転によりレーザ照射ライン75上が強電界領域になっているので、レーザの照射位置にプラズマが形成される。レーザ照射機構52は、フィルム材49の上面においてレーザ光の照射位置を変化させて、レーザ光の照射位置に生成されるプラズマの位置を変化させる。フィルム材49は、レーザ光の照射位置(プラズマ生成位置)が改質されて親水性及び接着性が向上する。このため、コート剤供給装置59から吹き出されたコーティング剤が、フィルム材49の上面の改質された位置だけに付着する。その結果、予め設定された図柄のコート層が形成される。
【0101】
なお、コート剤供給装置59から吹き出されたコーティング剤が、フィルム材49の上面に到達する前に活性種に接触させて、コーティング剤そのものを改質してもよい。
【0102】
また、電磁波照射機構51は、フィルム材49の上面におけるレーザ光の照射位置に応じて、照射する電磁波の特性(例えば、周波数、位相、振幅)を変化させるように構成されていてもよい。電磁波照射機構51は、例えば、レーザ光の照射位置における電界強度が一定になるように、照射する電磁波の特性を変化させる。
【0103】
また、フィルム材49上におけるレーザ照射ライン75を覆うように、電磁波を共振させる共振空洞を内部に形成する共振容器を設けてもよい。アンテナ55は、共振容器内に配置される。共振容器内は、レーザ照射ライン75上が定在波(電磁波)の腹になるように形成されている。また、共振容器には、レーザ照射ライン75に沿ってレーザ光を入射させるスリットが形成される。
<その他の実施形態>
【0104】
上述の実施形態及び変形例では、プラズマ生成器120が、高電圧パルスと電磁波とを併用する方式でプラズマを生成していたが、異なる方式でプラズマを生成してもよい。例えば、高電圧パルスによる放電に代えて、レーザによるブレイクダウン、フィラメント等の加熱による熱電子の供給を契機としてプラズマを生成してもよい。また、高電圧パルスと電磁波とを混合して陰極161へ供給してもよい。この場合、陰極161が電磁波放射用のアンテナとして機能する。また、誘電体バリア放電、沿面放電、ストリーマ放電、コロナ放電、アーク放電その他プラズマ生成方式もまた種々の方式でプラズマを生成してもよい。
【0105】
また、上述の実施形態及び変形例では、塗料をエア霧化式のスプレーガン110で噴射したが、高圧噴射式、二流体ノズル式、静電塗装用の回転霧化式等の異なる方式の塗料噴射装置をスプレーガンに代えて用いてもよい。静電塗装においては、プラズマの影響により電場分布が変化することが想定されるが、上述の実施形態のようにキャップ内でプラズマを生成すれば、電場分布の変化は微小である。