特許第5987184号(P5987184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ 東洋インキ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5987184
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】水性のヒートシール性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/08 20060101AFI20160825BHJP
   C09J 123/26 20060101ALI20160825BHJP
   C09J 123/28 20060101ALI20160825BHJP
   C09J 131/04 20060101ALI20160825BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20160825BHJP
   C09D 123/08 20060101ALI20160825BHJP
   C09D 123/26 20060101ALI20160825BHJP
   C09D 123/28 20060101ALI20160825BHJP
   C09D 131/04 20060101ALI20160825BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20160825BHJP
   B65D 77/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C09J123/08
   C09J123/26
   C09J123/28
   C09J131/04
   C09J7/02 Z
   C09D123/08
   C09D123/26
   C09D123/28
   C09D131/04
   B32B27/28 101
   B65D77/00 F
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-59407(P2015-59407)
(22)【出願日】2015年3月23日
【審査請求日】2015年12月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】飛田 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】野田 倫弘
(72)【発明者】
【氏名】永田 研人
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−213110(JP,A)
【文献】 特開昭57−187335(JP,A)
【文献】 特開昭58−120655(JP,A)
【文献】 特開平10−017745(JP,A)
【文献】 特開昭62−235343(JP,A)
【文献】 特開昭50−030942(JP,A)
【文献】 特開昭50−030941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00− 5/10
C09J 9/00−201/10
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00−201/10
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)と、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、ポリオレフィン樹脂が、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、及び不飽和カルボン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物で変性された非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)と水性媒体とを含有する水性のヒートシール性樹脂組成物。
ただし、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)は塩素元素を含まない。
【請求項2】
塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)との固形分重量比率が、20:80〜80:20であることを特徴とする請求項1記載の水性のヒートシール性樹脂組成物。
【請求項3】
プラスチックフィルムの一部または全面に、請求項1または2記載の水性のヒートシール性樹脂組成物から形成されたコーティング層を有する印刷物。
【請求項4】
請求項3記載の印刷物のコーティング層側に、第2のプラスチックフィルムがヒートシールされた包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包装材料として用いられる各種プラスチックフィルム基材に対し、ヒートシール性を付与する目的でコーティングする水性のヒートシール性樹脂組成物に関するものである。より詳しくは、ヒートシール性樹脂組成物をコーティングした印刷物を用いてヒートシールを行い包装体としたものが、温度や環境変化によって破袋し、内容物が漏れないようにあらゆる環境温度(−30℃〜50℃)においてヒートシール強度や、低温ヒートシール性も優れていることを特徴とする水性のヒートシール性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
包装分野では、ポリオレフィンやポリエステル等の各種プラスチックフィルム基材に対し、ヒートシール性樹脂組成物をコーティングしてヒートシール層を設けた包装材料が広く利用されている。例えば、包装材料にヒートシール層を形成する方法として、ヒートシール性樹脂組成物を基材に塗工し、溶剤を乾燥させる方法が一般的に知られている。(特許文献1参照)
【0003】
油性型のヒートシール性樹脂組成物について、特許文献2でも記載されているとおり、冬場の低温環境下で、コーティングした接着層の樹脂が固くなって層間強度が劣化し耐寒性に劣るという欠点があった。
【0004】
例えば、耐寒性が劣る場合、冬期北海道の寒冷地では気温が−20℃以下にもなるため、包装したものがしばしば破袋事故を起こし、内容物が漏れるなどの問題が生じる。
【0005】
低温での接着性を改良したものとして、特許文献3では、スチレンブロック共重合体ゴムを用いたヒートシール性樹脂組成物において、異種のブロック共重合体ゴムを併用し、石油樹脂、塩素化ポリオレフィンからなる組成物も提案されている。
【0006】
他にも、特許文献4ではバインダー樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体とスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体と芳香族系石油樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂と有機溶剤を含有することを特徴とするヒートシール性樹脂組成物も提案されている。
【0007】
一方、水性型のヒートシール性樹脂組成物については、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び塩素化ポリプロピレン樹脂を含有することを特徴とするヒートシール性樹脂(特許文献5)や、非塩素系ポリオレフィン系樹脂を含有することを特徴とするヒートシール性樹脂(特許文献6)が提案されている。
【0008】
しかし、何れの場合においても、前記のとおり低温環境下でのヒートシール強度が充分でない課題があった。また、低温ヒートシール性も十分でないためヒートシール時のヒートシールバーの温度条件が高く、圧着時間が長くなりがちとなりコストや生産効率といった点からも不利であった。
【0009】
また、おにぎりの個包装やチーズ、ソーセージ等の包装材のカットテープ等の用途では中身の食品にあまり高温を掛けられないこともあって、更なる低温シール化が求められている。
【0010】
特に、油性型のヒートシール性樹脂組成物については近年の環境問題の観点から、その使用が敬遠される様にもなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−002199号公報
【特許文献2】特開平7−246687号公報
【特許文献3】特許第4164136号公報
【特許文献4】特開2013−213110号公報
【特許文献5】特開昭58−120655号公報
【特許文献6】特開2001−279048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するべくなされたものであり、その目的はヒートシール性樹脂組成物をコーティングして包装した包装材料の内容物が漏れないように、とくに冬場の環境温度(−30℃〜0℃)のヒートシール性に優れ、かつ低温ヒートシール性が優れていることにより良好な生産性を持った環境対応型である水性のヒートシール性樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)と、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)とを含有する水性のヒートシール性樹脂組成物が、低温環境下で優れたヒートシール強度や低温ヒートシール性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)と、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、ポリオレフィン樹脂が、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体、及び不飽和カルボン酸無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物で変性された非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)と水性媒体とを含有する水性のヒートシール性樹脂組成物に関する。
ただし、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)は塩素元素を含まない。
【0015】
また、本発明は、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)との固形分重量比率が、20:80〜80:20であることを特徴とする上記水性のヒートシール性樹脂組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、プラスチックフィルムの一部または全面に、上記水性のヒートシール性樹脂組成物から形成されたコーティング層を有する印刷物に関する。
【0017】
また、本発明は、上記印刷物のコーティング層側に、第2のプラスチックフィルムがヒートシールされた包装体に関する。
【発明の効果】
【0018】
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)と、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)とを含有する水性のヒートシール性樹脂組成物を用いることにより、低温環境下で優れたヒートシール強度を有するため包装体が破袋し内容物が漏れることがない包装体を得ることができた。
【0019】
さらに、本発明は低温ヒートシール性が優れているため、ヒートシールバーの温度条件を低く、圧着時間を短くすることができるため生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0021】
本発明で用いるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)は公知のものを用いることができる。エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)は、エチレンと酢酸ビニルとからなる共重合体であり、必要に応じて、エステル部分が部分的に又は全体的に加水分解されたものであってもよい。
【0022】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)中のエチレン含有量は、特に制限はないが樹脂(A)全体の50重量%以下であると、耐ブロッキング性の観点から好ましい。一方、エチレン含有量の下限は、5重量%以上であるとヒートシール強度の点から好ましい。
【0023】
また、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)の重量平均分子量は、特に制限はないが20万〜100万がよく、20万以上であると、耐ブロッキング性が良好となる。一方、100万以下であると、密着性や低温ヒートシール性が良好になる傾向がある。
【0024】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)には、必要に応じて、他のモノマーを共重合させてもよい。このようなモノマーとしては、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステル;バーサチック酸ビニル等のビニルエステル、塩化ビニル等があげられる。また、アクリル酸、メタクリル酸のようにカルボキシル基を含有するモノマーの他、スルホン酸基、水酸基、エポキシ基、メチロール基、アミノ基、アミド基等の官能基を含有する各種モノマーも用いることができる。
【0025】
また、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)にはオレフィン系モノマーとしてエチレンに加えて、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン等のα−オレフィンも用いることが出来る
【0026】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)は、公知の方法で製造することができる。例えば、水に酢酸ビニル、乳化剤及び重合触媒を添加し、次いでこの系にエチレンガスを所定量加えて加温し、乳化重合を行うことによりエマルジョン状態として得ることができる。このときの温度、圧力等の条件、重合触媒等は通常使用される条件や重合触媒を使用することができる。さらに、上記乳化剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤があげられ、これらは単独で用いられても、二種以上が併用されてもよい。また、上記界面活性剤に加えて、反応性の二重結合を有する反応性界面活性剤や、ポリビニルアルコール、デンプン等の水溶性高分子を併用することもできる。
【0027】
このような上記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)は市販品を使用することもできる。住友化学工業(株)製スミカフレックスS−201HQ、S−305、S−305HQ、S−400HQ、S−401HQ、S−408HQE、S−450HQ、S−455HQ、S−456HQ、S−460HQ、S−467HQ、S−470HQ、S−480HQ、S−510HQ、S−520HQ、S−752、S−755、昭和高分子(株)製ポリゾールAD−2、AD−5、AD−6、AD−10、AD−11、AD−14、AD−56、AD−70、AD−92、(株)クラレ製パンフレックスOM−4000、OM−4200、OM−28、OM−5000、OM−5010、OM−5500、ジャパンコーティングレジン(株)製アクアテックスEC1200、EC1400、EC1700、EC1800、MC3800などがあげられる。
【0028】
この上記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)は、塗布時の作業性、機械的安定性、初期接着性、印刷物の仕上がり性などの点から、固形分濃度が30〜70重量%の溶液として、使用することが好ましい。
【0029】
本発明における塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)は、下記のポリオレフィン樹脂を変性させて得られるものであり、変性の際、極性付与剤として塩素、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物、並びにラジカル重合性モノマーから選ばれる一種以上を用いる。これら極性付与剤は、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
以下の記述においては、ポリオレフィン樹脂に対し、極性付与剤として少なくとも塩素化剤を用いた場合に得られる樹脂は、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)とし、極性付与剤として塩素化剤を用いていない場合は、非塩素化系変性ポリオレフィン樹脂(C)とする。
【0031】
本発明で塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の原料として用いるポリオレフィン樹脂としては、例えば、重合触媒としてチーグラー・ナッタ触媒、或いはメタロセン触媒を用いてエチレン又はα−オレフィンを共重合して得られるものが挙げられる。具体的には、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体などから選ばれる樹脂を例示することができる。これらの樹脂は、単独で用いても良いし、複数の樹脂を混合して用いても良い。
【0032】
本発明で用いるポリオレフィン樹脂の成分組成は、特に限定されるものではないが、プロピレン成分が60モル%以上のものが好ましい。60モル%未満のものを用いた場合、プロピレン基材に対する接着性が低下するおそれがある。
【0033】
本発明で用いる塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の分子量は、特に限定されない。しかし、後述する極性付与剤およびエチレンα−オレフィン共重合体で変性した塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の重量平均分子量は、15,000〜200,000が好ましい。このため、原料として用いるポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が200,000より大きい場合は、得られる塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の重量平均分子量が上述の範囲となるように、熱やラジカルの存在下で減成して、分子量を適当な範囲、例えば200,000以下となるように調整することが好ましい。
【0034】
塩素化ポリオレフィン樹脂(B)中の塩素含有量は、特に限定されるものではないが、樹脂(B)に対して好ましくは2〜50重量%で、特に好ましくは、4〜40重量%である。前記範囲であると各種非極性基材への接着性が良好な傾向となる。尚、塩素含有率はJIS−K7229に準じて測定することができる。すなわち、塩素含有樹脂を酸素雰囲気下で燃焼させ、発生した気体塩素を水で吸収し、滴定により定量する「酸素フラスコ燃焼法」を用いて測定することができる。
【0035】
本発明における不飽和カルボン酸とは、カルボキシル基を含有する不飽和化合物を意味し、不飽和カルボン酸の誘導体とは該化合物のモノ又はジエステル、アミド、イミド等を意味し、不飽和カルボン酸の無水物とは該化合物の無水物を意味する。不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物としては例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸、ナジック酸及びこれらの無水物、フマル酸メチル、フマル酸エチル、フマル酸プロピル、フマル酸ブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられる。これらの中でも不飽和カルボン酸の無水物が好ましく、無水イタコン酸、無水マレイン酸が特に好ましい。不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物は、単独或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0036】
塩素化ポリオレフィン樹脂(B)中の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物のグラフト重量の合計は、樹脂(B)に対して0.1〜20重量%が好ましく、特に好ましくは、0.5〜12重量%である。なお、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)中での不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物のグラフト重量の合計は、樹脂(C)に対して0.5〜20重量%が好ましく、特に好ましくは、1〜10重量%である。
【0037】
極性付与剤として、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物から選ばれる化合物のみを用いた場合は、上記の好ましい範囲よりもグラフト重量が少ないとヒートシール組成物の極性の被着体に対する接着性が低下する。又、逆に多すぎると未反応物が多く発生し、又、非極性の非着体に対する接着性が低下するため好ましくない。
【0038】
不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物のグラフト重量%は、アルカリ滴定法或いはフーリエ変換赤外分光法により求めることができる。
【0039】
本発明におけるラジカル重合性モノマーとは、(メタ)アクリル化合物を意味する。(メタ)アクリル化合物とは、分子中に(メタ)アクリロイル基(アクリロイル基及び/又はメタアクリロイル基を意味する。)を少なくとも1個含む化合物である。ラジカル重合性モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチレン−ビス(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、n−ブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等が挙げられる。特に、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートが好ましく、中でもこれらのメタアクリレートが好ましい。これらは単独、或いは2種以上を混合して使用することができ、その混合割合を自由に設定することができる。
【0040】
(メタ)アクリル化合物としては、(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種以上の化合物を、20重量%以上含むものが好ましい。前記(メタ)アクリル化合物を用いると、変性ポリオレフィン樹脂の分子量分布を狭くすることができ、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の溶剤溶解性や他樹脂との相溶性をより向上させることができる。
【0041】
ラジカル重合性モノマーの塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)のグラフト重量は、0.1〜30重量%が好ましく、特に好ましくは、0.5〜20重量%である。0.1重量%よりもグラフト重量が少ないと、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の溶解性や他樹脂との相溶性、接着力が低下する。又、30重量%より多いと、反応性が高い為に超高分子量体を形成して溶解性が悪化したり、ポリオレフィン骨格にグラフトしないホモポリマーやコポリマーの生成量が増加するため好ましくない。
【0042】
なお、ラジカル重合性モノマーのグラフト重量は、フーリエ変換赤外分光法或いは1H−NMRにより求めることができる。
【0043】
本発明においては、上述した極性付与剤のうち、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)に対しては、塩素と不飽和カルボン酸無水物との組み合わせ、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)に対しては、不飽和カルボン酸無水物及びメタアクリル酸エステルの組み合わせが好ましい。
【0044】
本発明において、極性付与剤の塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)にしめる合計含有量は、複数種類の場合は、0.1重量%〜35重量%であり、好ましくは、1重量%〜20重量%、より好ましくは3重量%〜15重量%である。0.1重量%よりも少ないと、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の溶解性や他樹脂との相溶性、接着力が低下するおそれがある。また、35重量%より多いと溶剤溶解性や接着性が低下するおそれがある。なお、極性付与剤が樹脂全体に対する合計含有量は、極性付与剤として塩素を用いた場合は、塩素の含有量とその他の極性付与剤のグラフト重量%の合計量を意味し、極性付与剤として塩素を用いていない場合は、各極性付与剤のグラフト重量%の合計量を意味する。
【0045】
ポリオレフィン樹脂を、塩素以外の極性付与剤を用いて変性する方法は特に限定されない。例えば、ポリオレフィン樹脂、極性付与剤、の混合物をトルエン等の溶剤に加熱溶解し、ラジカル発生剤を添加する溶液法や、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等を使用して、ポリオレフィン樹脂、極性付与剤、およびラジカル発生剤を添加し混練する溶融混練法等によって得る方法が挙げられる。極性付与剤として、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物、並びにラジカル重合性モノマーから選ばれる一種以上の化合物を用いる場合は、これらを一括添加しても、逐次添加しても良い。
【0046】
また、ポリオレフィン樹脂に対し、塩素以外の極性付与剤をグラフト重合させる際の順序は特に問わない。塩素以外の極性付与剤を同時にグラフト重合しても良いし、別個にグラフト重合しても良く、またそれぞれの成分でグラフト重合したポリオレフィン樹脂を混合しても良い。
【0047】
塩素以外の極性付与剤をポリオレフィン樹脂にグラフト重合する反応に用いることができるラジカル発生剤は、公知のものの中より適宜選択することができる。特に有機過酸化物系化合物が好ましい。例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート等が挙げられる。このうち、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイドが好ましい。ラジカル発生剤のポリオレフィン樹脂に対する添加量は、塩素以外の極性付与剤の添加量とを合わせた重量に対し、1〜50重量%が好ましく、特に好ましくは、3〜30重量%である。この範囲よりも添加量が少ない場合は、グラフト率が低下するおそれがあり、超える場合は、不経済である。
【0048】
極性付与剤として不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物、並びにラジカル重合性モノマーから選ばれる化合物を用いる場合は、反応助剤としてスチレン、o−、p−、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等を添加しても良い。
【0049】
塩素化する方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂をクロロホルム等の溶媒に溶解した後、紫外線を照射しながら、或いは上記ラジカル発生剤の存在下、ガス状の塩素を吹き込むことにより塩素化変性ポリオレフィン樹脂を得る方法が好ましい。塩素の導入率は、ポリオレフィン樹脂の種類、反応スケール、反応装置等の要素の違いにより変化するため、塩素含有量の調節は、塩素の吹き込み量や時間を、モニタリングしながら行うことができる。
【0050】
極性付与剤として、塩素と、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物、並びにラジカル重合性モノマーから選ばれる一種以上の化合物とを併用する場合は、塩素化する工程を最後にすることが好ましい。すなわち、前述の溶液法または溶融混練法にて、ポリオレフィン樹脂に、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体及び無水物、並びにラジカル重合性モノマーから選択される1種以上の化合物とをグラフト重合させた後に、上述の方法で塩素化する方法が好ましい。
【0051】
尚、ラジカル重合性モノマーとして、(メタ)アクリル酸エステル等のエステルを含有する化合物を用いる場合は、塩素化によりエステルが分解される可能性がある。そのため、これらの化合物は塩素化の工程後にグラフト重合することが好ましい。
【0052】
塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)に必要に応じて添加剤、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機充填剤等を配合することができる。
【0053】
塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)は、水性媒体に乳化及び/又は分散している状態が好ましく、水系分散液において、酸変性したポリオレフィン樹脂であることがより好ましい。
【0054】
本発明において、水性媒体は、水または親水性溶剤を含んでいれば、特に限定されない。
本発明の水性のヒートシール性樹脂組成物には、水以外にも用途により必要に応じてプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶剤など、公知の溶剤を使用できるが、水性のヒートシール性樹脂組成物の貯蔵安定性や増粘の観点から、水以外の溶剤は水性のヒートシール性樹脂組成物の総重量に対して、0.1〜10.0重量%であることが好ましく、1.0〜6.0重量%であることがさらに好ましい。
【0055】
塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)を水性媒体に乳化及び/又は分散する場合、公知の強制乳化法、転相乳化法、D相乳化法、ゲル乳化法等の何れの方法でも乳化することができる。塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)を水中に分散、乳化させるため、必要に応じて界面活性剤を用いることができ、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤の何れも使用できる。ノニオン界面活性剤の方が、乳化された水性樹脂組成物の耐水性がより良好であるため好ましい。
【0056】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0057】
アニオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、メチルタウリル酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、エーテルカルボン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられ、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩等が挙げられる。
【0058】
界面活性剤の添加量は、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)に対して0.1〜30重量%であり、より好ましくは5〜20重量%である。30重量%を超える場合は、水性樹脂組成物を形成する量以上の過剰な乳化剤により、付着性や耐水性を著しく低下させ、又、乾燥被膜とした際に可塑効果、ブリード現象を引き起こし、ブロッキングが発生し易いため、好ましくない。
【0059】
水性媒体に乳化及び/又は分散してのpHは、5以上が好ましく、より好ましくはpH6〜10である。pH5未満では、中和が不十分であるために変性ポリオレフィン樹脂が水に分散しない、或いは分散しても経時的に沈殿、分離が生じ易く、貯蔵安定性が悪化するおそれがあるので好ましくない。又、pH10を超える場合、他成分との相溶性や作業上の安全性に問題を生じるおそれがある。必要に応じて水性媒体に乳化及び/又は分散して中の酸性成分を中和し、水に分散させることを目的として塩基性物質を添加することができる。塩基性物質として好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モルホリン、ジメチルエタノールアミン等が挙げられ、より好ましくはアンモニア、トリエチルアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、モルホリン、ジメチルエタノールアミン等が挙げられる。その使用量は、変性ポリオレフィン樹脂の酸性成分の量に応じて任意に添加できるが、水性樹脂組成物のpHが5以上、好ましくはpH6〜10になるように添加することが好ましい。変性ポリオレフィン樹脂を得る際に、極性付与剤として不飽和カルボン酸の誘導体及び/又は不飽和カルボン酸の無水物、ラジカル重合性モノマーを高変性度でグラフトし、これらの自己乳化性によって乳化物とすることで界面活性剤を用いない場合は、強塩基性の物質として、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0060】
塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)において、水中に乳化、分散した樹脂の平均粒子径は、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下に調整される。300nmを超えると、水性樹脂組成物の貯蔵安定性や他樹脂との相溶性が悪化し、更に、基材への付着性、耐溶剤性、耐水性、耐ブロッキング性等の被膜物性が低下するおそれがある。又、粒子径は限りなく小さくすることが可能であるが、この場合、一般的には乳化剤の添加量が多くなり、基材への付着性、耐水性、耐溶剤性等の被膜物性が低下する傾向が現れ易くなる。そのため、一般には、50nm以上に調整することが好ましい。尚、本発明における平均粒子径は光拡散法を用いた粒度分布測定により測定することができる。粒子径の調整は、乳化剤の添加量、種類、水中で樹脂を乳化する際の撹拌力等を適宜選択することにより行うことができる。
【0061】
水性媒体に乳化及び/又は分散し、製造する際には攪拌羽根、ディスパー、ホモジナイザー等による単独攪拌及びこれらを組み合わせた複合攪拌、サンドミル、多軸押出機等の機器の使用が可能である。しかしながら、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の平均粒子径を300nm以下にするためには、転相乳化法或いは高いシェア力を持つ複合攪拌、サンドミル、多軸押出機等を用いる方法が好ましい。
【0062】
本発明では、用途、目的に応じて塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)に架橋剤を用いても構わない。架橋剤とは塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)中の極性付与剤、界面活性剤、塩基性物質等に存在する水酸基、カルボキシル基、アミノ基等と反応し、架橋構造を形成する化合物を意味する。架橋剤自体が水溶性のものを用いることができ、又は何らかの方法で水に分散されているものを用いることもできる。具体例として、ブロックイソシアネート化合物、脂肪族又は芳香族のエポキシ化合物、アミン系化合物、アミノ樹脂等が挙げられる。架橋剤の添加方法は特に限定されるものではない。例えば、水性化工程途中、或いは水性化後に添加することができる。
【0063】
塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)には、用途により必要に応じて水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂、低級アルコール類、低級ケトン類、低級エステル類、防腐剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、金属塩、酸類等を配合できる。
【0064】
そのほかにも塩素化ポリオレフィン樹脂(B)及び非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)としては市販品を使用することもできる。具体的なものとしては、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)であれば、日本製紙(株)製スーパークロンE−415、E−480T、E−604、東洋紡(株)製ハードレンEH−801、EH5303、EH5504、などがあげられる。
非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)であれば、例えば日本製紙(株)製アウローレンAE−202、AE−301、東洋紡(株)製ハードレンNA−3002、NZ−1001などがあげられる。
【0065】
本発明の水性のヒートシール性樹脂組成物として、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)と、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の3つを併用することで、特にポリオレフィンフィルムのヒートシール強度が向上した。この理由はこれに限定されないが、以下のようにも推察される。一般的に、ポリオレフィンフィルムは非極性であり、難密着フィルムであることから、表面をコロナ処理あるいは低温プラズマ処理し、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基等の極性官能基を導入する。塩素化ポリオレフィン樹脂(B)は、塩素が極性であることから、フィルム表面の極性官能基と相互作用を起こしやすい。しかし、メインバインダーであるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)と塩素化ポリオレフィン樹脂は相溶性が悪いため、塩素化ポリオレフィン(B)の添加によるヒートシール強度への効果が不十分であり、充分な量を添加すると、ヒートシール性樹脂組成物の安定性へ不具合を生じる。そこで、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)及び塩素化ポリオレフィン樹脂(B)どちらにも相溶性が高く、塩素元素を含まない非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)をさらに併用することで、ヒートシール強度およびヒートシール性樹脂組成物安定性の両立を達成した。また、塩素元素を含まない非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)を添加することで、ポリオレフィンフィルム表面上の極性官能基部だけでなく、非極性部への密着性向上し、ヒートシール強度や低温ヒートシール性がさらに向上したと考えられる。
【0066】
本発明においては、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)の含有量(固形分換算)が、水性のヒートシール性樹脂組成物の総重量に対して、25.0〜50.0重量%であることが好ましい。
【0067】
本発明においては、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の固形分重量比率が、20:80〜80:20であることが好ましい。この範囲であると、ポリオレフィンフィルムに対するヒートシール強度が特に向上する。さらに好ましくは、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の固形分重量比率が、30:70〜70:30である。
【0068】
さらに、本発明においては、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量(固形分換算)が、水性のヒートシール性樹脂組成物の総重量に対して、0.3〜10.0重量%であることが好ましく、0.5〜3.0重量%であることがさらに好ましい。
【0069】
以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)と、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の3つを用いて水性のヒートシール性樹脂組成物は公知の方法で製造される。例えば、タンクミキサー、高速ミキサーなどで混合する方法が一般的である。
【0070】
その他、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、ワックス、シランカップリング剤、可塑剤、光安定化剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、難燃剤などの添加剤を含むこともできる。
【0071】
水性のヒートシール性樹脂組成物中に気泡や予期せずに粗大粒子などが含まれる場合は、印刷物品質を低下させるため、濾過などにより取り除くことが好ましい。濾過器は従来公知のものを使用することができる。
【0072】
本発明における水性のヒートシール性樹脂組成物は、グラビア印刷、フレキソ印刷などの既知の印刷方式で印刷物とすることができる。好ましくは、グラビア印刷である。
【0073】
前記水性のヒートシール性樹脂組成物の乾燥後の質量(塗布量)は、1.5〜15.0g/m2が好ましく、さらに好ましくは2.0〜4.0g/m2が接着性や作業性、経済性の点から好ましい。
【0074】
本発明は、包装体は、2つのプラスチックフィルムをヒートシールしてなる。好ましくは、少なくとも一方のプラスチックに、本発明の水性のヒートシール性樹脂組成物を含んでなるコーティング層を形成してからヒートシールする。2つのプラスチックフィルムは同じあっても異なっていても良い。
また、2つのプラスチックは、両方とも、本発明のヒートシール性樹脂組成物を含んでなるコーティング層を形成されていてもよい。このとき、2つのコーティング層は、同じであっても異なっていてもよい。
【0075】
発明の水性のヒートシール性樹脂組成物を適用できるプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンもしくはポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートもしくはポリ乳酸等のポリエステル、ポリスチレン、AS樹脂もしくはABS樹脂等のポリスチレン系樹脂、ナイロン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンの各種フィルムがある。これらの基材は、金属酸化物などを表面に蒸着コート処理および/またはポリビニルアルコールなどコート処理が施されていても良く、さらに、必要に応じて帯電防止剤、紫外線防止剤などの添加剤を処理したものや、基材の表面をコロナ処理あるいは低温プラズマ処理したものなども使用することができる。
【0076】
特にOPPフィルム(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)は単体だけではヒートシールができなく、密封包装体として使用することが困難であるため、本発明の水性のヒートシール性樹脂組成物を適用するには好適な基材である。
【0077】
本発明の印刷物は、水性のヒートシール性樹脂組成物を上記の印刷方式を用いて塗布し、オーブンによる乾燥によって乾燥させて定着することで得られる。乾燥温度は通常40〜150℃程度である。
【0078】
本発明の包装袋は印刷物のヒートシール樹脂組成物からなるコーティング層を介して、ヒートシールしてなる包装体であり、ボトムシール型、サイドシール型、三方シール型、四方シール型、ピロー型、ガゼット型、合掌型、またカットテープ着きの包装体などが挙げられる。
【0079】
上記包装体は特に限定されることなく使用できるが積み重ね時にシール部に大きな力が加わり、破袋の危険があるため、背中シールのある合掌型やピロー型好ましい。
【0080】
本発明のヒートシールに使用されるヒートシーラーは一般的に、外部から加熱する方式のものに熱板シーラ、バンドシーラ、インパルスシーラなどがあり、また包装材料自体から発熱させる方式のものに高周波シーラ、超音波シーラなどがある。特に、多種のプラスチックフィルムに対応でき、経済的な有効な熱板シーラが好ましい。
【0081】
熱板シーラを用いた際のヒートシールの条件は樹脂の種類や厚みにもよるが、通常シール温度70〜180℃ で0.3〜3秒、圧力0.1〜0.5MPa程度である。特に作業効率性、経済性の観点からシール温度80℃〜160℃、時間0.5〜1秒が好ましい。
【0082】
上記、包装袋の一般的な内容物としておにぎり、ソーセージ、サンドイッチ、チーズ、スナック菓子、米菓、洋菓子、珍味、のり、塩干物のといった内容物の重量が1kg程度以下の中軽量物が適している。
【0083】
本発明における包装袋のヒートシール強度は内容物の種類や重量によって異なるが、−30℃〜50℃環境下でヒ−トシール強度が1.5N/15mm以上、好ましくは2.5N/15mm以上、より好ましくは4.0N/15mm以上であると破袋することなく安全に使用することができる。なお、ヒートシール強度はJIS K 6854−3に準拠して測定した。
【実施例】
【0084】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明における部および%は、特に注釈の無い場合、重量部および重量%を表す。
【0085】
[実施例1]
アクアテックスEC−1700を95.6部、スーパークロンE−415 0.2部、ハードレンEW−3002 0.2部、IPA(イソプロピルアルコール)4.0部を撹拌混合し、HS剤1を得た。
次の印刷条件の下で、ポリプロピレンフィルムP−2161 #−40(東洋紡株式会社製)の処理面に印刷を行い、実施例1の印刷物を得た。なお、HS剤1の乾燥後の質量は3.2g/m2であった。
【0086】
[印刷条件]
印刷機:富士機械工業株式会社製グラビア印刷機
印刷フィルム:ポリプロピレンフィルムP−2161 #−40(東洋紡株式会社製)
圧胴:ゴム硬度80HsのNBR(ニトリルブタジエンゴム)製
ドクター:刃先の厚みが60μmのセラミックメッキドクターブレード(母材の厚み40μm、片側セラミック層の厚み10μm)
版:東洋プリプレス株式会社製のクロム硬度1050Hvの腐食版(40μm 150線/inch)
印圧:2kg/cm2
ドクター圧:2kg/cm2
印刷速度:60m/分
乾燥温度:100℃
【0087】
[実施例2〜15][比較例1〜6]
各原料を表1に記載された配合により、実施例1と同様の方法で、HS剤2〜21を得た。さらに、HS剤2〜15を、実施例1と同様の方法で印刷し、実施例2〜21の印刷物を得た。なお、それぞれの実施例におけるHS剤の乾燥後の質量は表1に記載している。
【0088】
なお、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)としてアクアテックスEC−1700(ジャパンコーティングレジン株式会社製)、スミカフレックスS−400HQ(株式会社クラレ製)、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)としてスーパークロンE−415(日本製紙株式会社製)、ハードレンEH−801(東洋紡株式会社製)、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)としてハードレンEW−3002(東洋紡株式会社製)、アウローレンAE−202(日本製紙株式会社製)を樹脂溶液の形で使用した。各樹脂溶液の固形分は表1に記載した通りである。
【0089】
上記で得られた水性のヒートシール性樹脂組成物を用いた印刷物を用い、−30℃下のヒートシール強度試験、25℃下のヒートシール強度試験、50℃下のヒートシール強度試験、低温ヒートシール性試験、耐ブロッキング性試験を行った。
【0090】
<−30℃下のヒートシール強度試験>
各印刷物から15mm×60mmの短冊状に打ち抜き、印刷面同士を合わせ単動式ヒートシーラーにより次の条件で熱接着し、熱接着部分の強度をオートグラフ(島津製作所株式会社製)によって、−30℃の環境下で剥離角度:T字、剥離速度300mm/分で測定した(JIS K 6854−3に準拠)。なお、測定は、試験片10サンプルで行い測定値はその平均値とし、判定基準は次の通りとした。
熱接着条件シール温度:160℃
熱接着条件 :1.0秒
熱接着圧力 :0.2MPa
【0091】
◎:4.0N/15mm以上
○:2.5N/15mm以上4.0N/15mm未満
△:1.5N/15mm以上2.5N/15mm未満(実用レベル以上)
×:1.5N/15mm未満
<25℃下のヒートシール強度試験>
各印刷物から15mm×60mmの短冊状に打ち抜き、印刷面同士を合わせ単動式ヒートシーラーにより次の条件で熱接着し、熱接着部分の強度をオートグラフ(島津製作所株式会社製)によって、25℃の環境下で剥離角度:T字、剥離速度300mm/分で測定した(JIS K 6854−3に準拠)。なお、測定は、試験片10サンプルで行い測定値はその平均値とし、判定基準は次の通りとした。
熱接着条件シール温度:160℃
熱接着条件 :1.0秒
熱接着圧力 :0.2MPa
【0092】
◎:4.0N/15mm以上
○:2.5N/15mm以上4.0N/15mm未満
△:1.5N/15mm以上2.5N/15mm未満(実用レベル以上)
×:1.5N/15mm未満
【0093】
<50℃下のヒートシール強度試験>
各印刷物から15mm×60mmの短冊状に打ち抜き、印刷面同士を合わせ単動式ヒートシーラーにより次の条件で熱接着し、熱接着部分の強度をオートグラフ(島津製作所株式会社製)によって、50℃の環境下で剥離角度:T字、剥離速度300mm/分で測定した(JIS K 6854−3に準拠)。なお、測定は、試験片10サンプルで行い測定値はその平均値とし、判定基準は次の通りとした。
熱接着条件シール温度:160℃
熱接着条件 :1.0秒
熱接着圧力 :0.2MPa
【0094】
◎:4.0N/15mm以上
○:2.5N/15mm以上4.0N/15mm未満
△:1.5N/15mm以上2.5N/15mm未満(実用レベル以上)
×:1.5N/15mm未満
【0095】
<低温ヒートシール性試験>
各印刷物から15mm×60mmの短冊状に打ち抜き、印刷面同士を合わせ単動式ヒートシーラーにより次の条件で熱接着し、熱接着部分の強度をオートグラフ(島津製作所株式会社製)によって、25℃の環境下で剥離角度:T字、剥離速度100mm/分で測定した(JIS K 6854−3に準拠)。なお、測定は、試験片10サンプルで行い測定値はその平均値とし、判定基準は次の通りとした。
熱接着条件シール温度:80℃
熱接着条件 :1.0秒
熱接着圧力 :0.2MPa
【0096】
◎:4.0N/15mm以上
○:2.5N/15mm以上4.0N/15mm未満
△:1.5N/15mm以上2.5N/15mm未満(実用レベル以上)
×:1.5N/15mm未満
【0097】
<耐ブロッキング性試験>
各印刷物を4cm×4cmにサンプリングし、このサンプルの印刷面と同じ大きさの未印刷フィルムの処理面とを合わせて、50℃24時間、10kgfの加圧を行い、サンプルを剥離した時のインキの転移を観察した。
◎:印刷物からインキの転移が全く認められなかった。
○:印刷物からインキの転移が全く認められなかったが、剥離抵抗があった。
△:印刷物からインキの転移がわずかに認められた。これ以上が実用レベルである。
×:印刷物からインキの転移が、面積にして25%以上認められた。
【0098】
表1に結果を示す。エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)と、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)とを含有する実施例1〜14の水性のヒートシール性樹脂組成物は、比較例1〜6と比較し、ヒートシール強度、低温ヒートシール性、耐ブロッキング性が良好であった。特に、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)の重量比率が、20:80〜80:20であると、ヒートシール強度及び低温ヒートシール性が向上した。
【0099】
【表1】
【要約】
【課題】
本発明は、あらゆる環境温度においてに良好なヒートシール強度と低温ヒートシール性を有する水性のヒートシール性樹脂組成物の提供を目的とする。
【解決手段】
本発明者らは、前記状況を鑑み鋭意検討を重ねた結果、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(A)と、塩素化ポリオレフィン樹脂(B)と、非塩素系変性ポリオレフィン樹脂(C)を含有する水性のヒートシール組成物は、あらゆる環境温度においてに良好なヒートシール強度と低温ヒートシール性を発現することを見出した。
【選択図】なし