特許第5987230号(P5987230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5987230局部電気化学現象解析のための微小作用電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5987230
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】局部電気化学現象解析のための微小作用電極
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20160825BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20160825BHJP
   G01N 27/28 20060101ALI20160825BHJP
   G01N 17/02 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   G01N27/30 Z
   G01N27/30 B
   G01N27/26 351C
   G01N27/28 301Z
   G01N17/02
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-54864(P2015-54864)
(22)【出願日】2015年3月18日
【審査請求日】2015年12月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】千葉 亜耶
(72)【発明者】
【氏名】武藤 泉
(72)【発明者】
【氏名】菅原 優
(72)【発明者】
【氏名】原 信義
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−154783(JP,A)
【文献】 Aya Chiba et al., A Microelectrochemical System for In Situ High-Resolution Optical Microscopy: Morphological Characteristics of Pitting at MnS Inclusion in Stainless Steel,Journal of The Electrochemical Society,2012年,Vol.159, No.8,C341-C350,URL,http://jes.ecsdl.org/content/159/8/C341.full.pdf+html
【文献】 千葉亜耶 他,硫化物系介在物のマイクロ電気化学的特性とステンレス鋼の孔食発生機構,表面化学,2015年 1月10日,Vol.36, No.1,p.18-23
【文献】 Aya Chiba et al.,Microelectrochemical Aspects of Interstitial Carbon in Type 304 Stainless Steel: Improving Pitting Resistance at MnS Inclusion,Journal of The Electrochemical Society,2015年 3月12日,Vol.162, No.6,C270-C278,URL,http://jes.ecsdl.org/content/162/6/C270.full.pdf+html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面積が0.0003cm以下の作用電極面と、
前記作用電極面の外周部に、水滴との接触角が70度以下である親水性の有機化合物から成る被覆層とを備え、
前記被覆層の電気抵抗率が10MΩ・cm以上であることを
特徴とする局部電気化学現象解析のための微小作用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼などの耐食材料の微小な腐食の起点、めっき反応の開始点や微小欠陥の形成過程などを電気化学計測する際に必要となる局部電気化学現象解析のための微小作用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
実用材料の表面は不均一であり、腐食、電解めっき、陽極酸化などの電気化学反応を制御するためには、材料表面の微小な領域を選び出し、その部分の電気化学特性を解析する必要がある。例えば、ステンレス鋼の孔食は、大きさが数マイクロメートル(μm)のMnSなどの硫化物系介在物を起点とする電気化学反応である。したがって、その介在物を含む微小領域のみの電気化学計測を行うことにより、材料の耐食性改善において非常に有益な情報が得られるものと考えられる。
【0003】
従来、このような材料表面の微小領域で生じる電気化学反応を解析するシステムとしては、ガラスキャピラリーを利用したものが一般的である。たとえば、内径10〜200μm程のガラスキャピラリーの内部に電解液を満たし、先端部を介在物を含む領域に押しつけ、局部電気化学現象の計測を行う方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。これによれば、ガラスキャピラリーは、光学顕微鏡の対物レンズ用レボルバーに装着されている。この方法は、材料表面の電気化学計測を行う部位を光学顕微鏡観察により特定した後、レボルバーを回転し、マイクロキャピラリーを押し当てることで、あらかじめ狙った位置の電気化学計測を行うものである。すなわち、計測位置決定に関しては、マイクロビッカース硬度計と同じ原理である。
【0004】
また、キャピラリーを使用しない局部電気化学現象解析のための微小作用電極に関する技術も開示されている。すなわち、2種類以上の絶縁物を組み合わせて、作用電極面を囲むように被覆を構成し、作用電極面を外周の絶縁被覆と共に電解液に浸漬するという方法である(例えば、特許文献1参照)。この場合、キャピラリーを使用しないため、液漏れを容易に回避することができる。しかし、作用電極面と被覆との境界に残存する気泡を完全に除去することは容易ではなく、そのために2種類以上の絶縁物を組み合わせる必要があるとされている。すなわち、電極面外周部の被覆を2種類以上の絶縁物の組み合わせで構成した場合、個々の絶縁物の表面張力の違いにより、微細気泡が1種類の絶縁物の周囲に集まり、凝集・粗大化が起こり、気泡の除去が容易になるとの原理である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Suter、T. Peter、H. Bohni, “Microelectrochemical Investigations of MnS Inclusions”, Electrochemical Methods in Corrosion Research V, 1995, p.25
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−154783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、細長いガラスキャピラリーを用いているため、キャピラリーを試験片表面に密着させる際、電解液の液漏れや気泡残存による接触不良などを起こす場合が多く、電気化学計測を行うためには習熟が必要であるという課題があった。図7には、液漏れと気泡残存とによる電解液と試験片との接触不良の状態を模式図として示している。気泡の残存を防止するためには、図7に模式的に示すように、キャピラリー先端の液面が凸状になる状態を形成した上で、試験片と接触させることが好ましい。しかし、液面が過度に凸状の場合には、試験片と接触させた際に、液が漏れることになる。このように、マイクロキャピラリーを使用する方式で微小領域の電気化学計測を行うためには高度な習熟が必要である。
【0008】
また、特許文献1に記載の方法でも、あくまでも気泡を人為的に除去することが容易になるという観点での発明であり、気泡を皆無にすることは不可能であるという課題があった。以上のように、ステンレス鋼などの耐食材料の微小な腐食の起点、めっき反応の開始点や微小欠陥の形成過程などを電気化学計測する際に必要となる局部電気化学現象解析のための微小作用電極に関して、電極面に残存する気泡を無くす簡便な手法は知られていない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、材料表面の任意の狙った微小領域の電気化学計測において、キャピラリー型や2種類以上の絶縁物を組み合わせた被覆方法が本質的にかかえている液漏れや気泡残存の問題がなく、特段の習熟を必要とせずに局部電気化学現象の解析を行うことができる、局部電気化学現象解析のための微小作用電極の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、このような従来技術の短所を補い、未解決の課題を解決するため種々の試験研究を行い、本発明を完成させた。本発明の主旨は、以下の通りである。
【0011】
本発明に係る局部電気化学現象解析のための微小作用電極は、面積が0.0003cm以下の作用電極面と、前記作用電極面の外周部に水滴との接触角が70度以下である親水性の有機化合物から成る被覆層とを備え、前記被覆層の電気抵抗率が10MΩ・cm以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る局部電気化学現象解析のための微小作用電極は、前記被覆層が、ニトロセルロース、アクリル樹脂、ポリビニル系樹脂、酢酸セルロース、ポリアミドおよびポリアクリロニトリルの内の1種類の物質を質量百分率にて20%以上含み、さらにその物質以外の物質を含むことが好ましい。
【0013】
本発明に関する局部電気化学現象解析のための微小作用電極の製造方法は、有機溶剤と樹脂との混合物で、粘度が0.01Pa・s以上、1Pa・s未満であるものを、本発明に係る局部電気化学現象解析のための微小作用電極の前記作用電極面の外周部に塗布した後に乾燥させることで、前記被覆層を形成することを特徴とする。
【0014】
本発明に関する局部電気化学現象解析のための微小作用電極の製造方法は、前記有機溶剤がメタノール、エタノール、プロパノールのいずれか1つ、あるいは、その内の2種類以上の混合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、材料表面の任意の狙った微小領域の電気化学計測において、キャピラリー型や2種類以上の絶縁物を組み合わせた被覆方法が本質的にかかえている液漏れや気泡残存の問題がなく、特段の習熟を必要とせずに局部電気化学現象の解析を行うことができる、局部電気化学現象解析のための微小作用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態の局部電気化学現象解析のための微小作用電極を使用した電気化学計測用微小電極システムを示す(a)微小領域の電気化学計測のみを行う場合、(b)微小領域の電気化学計測と電極面の顕微鏡観察とを同時に行う場合の概略構成図である。
図2】本発明の実施の形態の局部電気化学現象解析のための微小作用電極の、(a)作用電極面と絶縁物の被覆層との境界部に微細気泡(空気)が残存する場合、(b)気泡が残存しない場合を示す拡大断面図である。
図3】本発明の実施の形態の局部電気化学現象解析のための微小作用電極の、SUS304ステンレス鋼の表面に露出したMnS系介在物を狙って作製した実施例の顕微鏡写真である。
図4図3に示す微小作用電極の、アノード分極曲線のグラフである。
図5図3に示す微小作用電極の、アノード分極計測後のMnS介在物の光学顕微鏡写真である。
図6】本発明の実施の形態の局部電気化学現象解析のための微小作用電極に対する比較例の、アノード分極曲線のグラフである。
図7】従来のマイクロキャピラリー方式での(a)液漏れ、(b)気泡残存による電解液と試験片との接触状態不良を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態について述べる。
図1に本発明の実施の形態にかかる電気化学計測用微小電極システムの概略構成図を示す。図1(a)は微小領域の電気化学計測のみを、図1(b)は微小領域の電気化学計測と電極面の顕微鏡観察とを同時に行う場合の例である。本発明の骨子は、材料表面の微小領域の電気化学計測を行う作用電極において、電極面積0.0003cm以下であり、電極外周部に水滴との接触角が70度以下である親水性の有機化合物の被覆層を備え、その電気抵抗率が10MΩ・cm以上であることを特徴とする局部電気化学現象解析のための微小作用電極である。
【0018】
図1(a)に示すように、微小領域の電気化学計測においては、鉄鋼材料中の介在物などを対象とする場合には、介在物の大きさが直径1μm程度であるため、作用電極面3の面積は0.0003cm以下である必要がある。これよりも面積が大きいと、介在物と作用電極面3の面積全体との面積比が小さくなり、介在物の溶解電流を検出することが困難になる。めっきの析出起点や不めっき部の特性解析においても、起点のサイズは直径1μm程度であるため、作用電極面3の面積は0.0003cm以下である必要がある。
【0019】
また、図1(b)に示すように、微小領域の電気化学計測と電極面の顕微鏡観察とを同時に行う場合には、顕微鏡で観察できる視野と、作用電極面3の大きさが概ね一致している必要がある。顕微鏡での観察倍率を小さくすれば、観察領域は大きくなるが、画像の解像度は低下する。金属材料表面の形態が電気化学反応に伴って変化する状況を観察するためには、対物レンズの倍率が100倍以上であることが好ましく、そのためにも、作用電極面3の面積は0.0003cm以下である必要がある。
【0020】
次に、作用電極面3の周囲の絶縁被覆層1であるが、一般的な電気化学計測においては、絶縁被覆層1は粘着テープや硬化樹脂などの絶縁物で実施されている。しかし、作用電極面3が微小になり電極面積が0.0003cm以下となった場合には、通常の絶縁物で被覆を行うと、図2(a)に示すように、作用電極面3と絶縁物の被覆層1との境界部に微細気泡(空気)が残存し、空気/金属界面で目的としない特異な電気化学反応が生じ、計測の誤差となる。さらに、作用電極面3の面積を正確に確定することが不可能になるなど、電気化学計測に不具合が生じる。
【0021】
しかし、図2(b)に示すように、水滴との接触角が70度以下である親水性の有機化合物を用いて被覆層1を形成することにより、気泡の残存が軽減される。好ましくは、水滴との接触角が60度以下である親水性の有機化合物の被覆層1を用いることが望ましい。さらに、気泡の残存を皆無にするためには、水滴との接触角が30度以下である親水性の有機化合物の被覆層1を用いる必要がある。
【0022】
このように、親水性の有機化合物の被覆層1を用いることで、気泡の残存が軽減する理由は、その詳細は不明であるが、図2(a)よりも図2(b)の方が界面エネルギー的に安定な状態に近づくためではないかと考えられる。なお、作用電極面3を電気化学計測と同時に顕微鏡観察する場合には、気泡が過度に残存すると、顕微鏡の光源からの光が乱反射・散乱され、顕微鏡観察が困難になるという大きな問題も生じる。なお、ここでいう接触角は、JIS R 3257(1999)記載の「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して計測したものである。
【0023】
被覆層1としては、電気化学計測の作用電極の領域を確定するために使用するものであり、電気絶縁性である必要がある。電気抵抗率は高いほど好適であるが、電気化学計測の電流誤差を小さくするという観点から、電気抵抗率が10MΩ・cm以上であることが必要である。
【0024】
本発明は、被覆層1の組成を限定するものではないが、被覆作業の正確性・容易性や作業環境の安全性の観点から、ニトロセルロース、アクリル樹脂、ポリビニル系樹脂、酢酸セルロース、ポリアミドおよびポリアクリロニトリルの内、少なくとも1種類以上を質量百分率にて20%以上含むことが好ましい。これらの物質が、微小作用電極を作製する際の被覆層1を構成する物質として優れた特性を発現する理由は、分子内に極性の高い結合構造を有しており、水分子との間に水素結合を形成しやすいことが主要な原因ではないかと推察される。このような化学特性を有する物質は、ニトロセルロース、アクリル樹脂、ポリビニル系樹脂、酢酸セルロース、ポリアミド、ポリアクリロニトリルのみに限定されるものではないが、入手の容易性やコスト、保管時の安全性などの観点から、これらの物質が好ましい。また、これらは単独で使用しても良いが、必要に応じて他の物質と混合してもよい。そして、ニトロセルロース、アクリル樹脂、ポリビニル系樹脂、酢酸セルロース、ポリアミド、ポリアクリロニトリル以外のものと混合して使用する際は、これらの内の1種類以上が質量百分率にて20%以上含むことが好適である。
【0025】
また、よりいっそう被覆作業の正確性・容易性を必要とする際には、有機溶剤と樹脂との混合物で、粘度が0.01Pa・s以上、1Pa・s未満であるものを、作用電極とする材料(試験片2)表面に塗布した後に乾燥させることで、親水性の有機化合物から成る被覆層1を形成することが好ましい。被覆作業時の粘度が0.01Pa・s未満の場合、混合物が材料表面を流れやすく、目的の微小領域を被覆することが困難になる。すなわち、マイクロメートルオーダーで所定の部分や位置のみに、混合物を塗布することが難しくなる。また、粘度が1Pa・s以上の場合には、粘性が高く絶縁被覆の表面を平滑に保つことが困難になり、気泡の残存をもたらす可能性が高くなり、被覆作業に高度な熟練が必要となる。
【0026】
有機溶剤と樹脂との混合物は、被覆後に乾燥することで、電気化学計測の作用電極の領域を確定するための絶縁被覆として使用することができるようになる。
【0027】
なお、材料表面の微小領域の電気化学計測を行った後に、電子顕微鏡などにより電極面を観察したり分析したりする必要が生じる場合がある。そのような場合、絶縁被覆を容易に剥離できることが重要である。そのためには、有機溶剤がメタノール、エタノール、プロパノールのいずれか、あるいはその内の2種類以上の混合物であることが望ましい。これにより、被覆された試験後の試験片2をメタノール、エタノール、プロパノールのいずれか、あるいはその内の2種類以上の混合物に浸漬することで、絶縁被覆を容易に、剥離することが可能となる。また、その際に、作用電極面3の汚染も問題にならないという利点も有している。メタノール、エタノール、プロパノールは作業環境としても、安全上の管理が行いやすい。
【実施例1】
【0028】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
【0029】
図3に示すように、表面研磨したSUS304ステンレス鋼の表面に露出したMnS系介在物を狙って、エタノールを有機溶剤として、ニトロセルロース、アクリル樹脂、ポリビニル系樹脂の比率が質量比で1:1:1になるように混合し、エタノールの量を調整して粘度が0.01Pa・sになるようにしたもので作用電極面3を構成した。作用電極面3の面積は、0.00025cmとした。被覆後12時間、室温にて自然乾燥した。乾燥後の被覆層1の電気抵抗率は100MΩ・cmで、水滴との接触角は55度であった。
【0030】
これを作用電極面3として、アクリル製の液溜部を作製し、0.1M NaCl水溶液(非脱気)で計測したアノード分極曲線を、図4に示す。電位は、−0.3V(内部液を0.1M NaClとするAg/AgCl電極基準)からアノード分極方向へ、23mV/minで、動電位で走査した。図4に示すように、カソード電流およびアノード電流、ステンレス鋼の不働態域、MnS系介在物のアノード溶解電流による電流増加、さらには介在物を起点とする微小ピット形成に伴う電流振動が計測できている。
【0031】
このように、本発明の実施の形態の電気化学計測用微小電極システムにより、非常に小さい微小電極面であっても電気化学計測が可能であることが分かる。なお、図5は、図4に示した試験後に、試験片2をエタノールに30分間、自然浸漬した後に、表面を光学顕微鏡で観察したものである。異物の付着など表面汚染が見られないことが分かる。
【0032】
図6は、本発明の比較例として、シリコーン樹脂とトルエンとの混合物で、表面研磨したSUS304ステンレス鋼の表面に露出したMnS系介在物を狙って被覆した際の、0.1M NaCl水溶液(非脱気)で計測したアノード分極曲線である。作用電極面3の面積は、0.00025cmとした。シリコーン樹脂とトルエンとの混合物を乾燥させた後の電気伝導率は200MΩ・cmであったが、水滴との接触角は85度であった。電流の挙動が不自然であるが、これは作用電極面3と被覆層1との境界部に気泡が存在しているためであると判断される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の活用例としては、ステンレス鋼の非金属介在物などの微小な腐食起点、めっき反応の開始点や微小な不具合箇所の形成過程などを電気化学計測するための、局部電気化学現象解析のための微小作用電極として利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 被覆層
2 試験片
3 作用電極面
【要約】
【課題】液漏れや気泡残存の問題がなく、特段の習熟を必要とせずに局部電気化学現象の解析を行うことができる、局部電気化学現象解析のための微小作用電極を提供する。
【解決手段】作用電極面3の面積が0.0003cm以下である。被覆層1が、作用電極面3の外周部に設けられ、水滴との接触角が70度以下である親水性の有機化合物から成っている。被覆層1は、電気抵抗率が10MΩ・cm以上で、ニトロセルロース、アクリル樹脂、ポリビニル系樹脂、酢酸セルロース、ポリアミドおよびポリアクリロニトリルの内、少なくとも1種類以上を質量百分率にて20%以上含み、有機溶剤と樹脂との混合物で、粘度が0.1Pa・s以上、10Pa・s未満であるものを、塗布した後に乾燥させて形成されている。その有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノールのいずれか1つ、あるいは、その内の2種類以上の混合物である。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7