(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987312
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】成膜装置及び膜付ガラスフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/46 20060101AFI20160825BHJP
C23C 14/18 20060101ALI20160825BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20160825BHJP
C23C 16/54 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
C23C16/46
C23C14/18
C23C14/56 D
C23C16/54
【請求項の数】11
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-275510(P2011-275510)
(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公開番号】特開2013-124413(P2013-124413A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 隆義
【審査官】
山田 頼通
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−240659(JP,A)
【文献】
特開2007−119322(JP,A)
【文献】
特開2003−045615(JP,A)
【文献】
特開2003−161817(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0125304(US,A1)
【文献】
特開2001−097733(JP,A)
【文献】
特開昭63−277750(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0147677(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/016352(WO,A1)
【文献】
特開2008−257946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
C23C 14/00−14/58
C03B 40/00
C03C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上にガラスフィルムが供給され、前記ガラスフィルムを加熱する加熱ロールと、 前記ガラスフィルムの上に膜を形成する膜形成部と、
を備え、
前記加熱ロールは、
ガラスまたはセラミックスからなり、回転可能に設けられた筒状体と、
前記筒状体の内部に配されており、前記筒状体を加熱するヒーターと、
前記筒状体の内部に回転不能に配された芯体と、を有し、
前記芯体は、切欠部を有し、前記ヒーターは、前記切欠部内に、前記筒状体の内周面と対向するように配される成膜装置を用いてガラスフィルム上に膜を形成する、膜付ガラスフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記筒状体は、石英ガラス、結晶化ガラス、アルミナ、シリカ、窒化珪素及び炭化ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも一種からなる、請求項1に記載の膜付ガラスフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ヒーターは、前記筒状体に向けて熱線を照射する、請求項1または2に記載の膜付ガラスフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記筒状体の内周面の上に配されており、前記ヒーターから照射される熱線を吸収する吸収層をさらに備える、請求項3に記載の膜付ガラスフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記膜形成部は、前記ガラスフィルム上において熱反応し、膜を構成する反応ガスを供給する反応ガス供給部、またはスパッタ粒子を前記ガラスフィルム上に堆積させるスパッタ部により構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の膜付ガラスフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ヒーターは、前記筒状体の前記ガラスフィルムと接する部分を加熱する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の膜付ガラスフィルムの製造方法。
【請求項7】
表面上にガラスフィルムが供給され、前記ガラスフィルムを加熱する加熱ロールと、 前記ガラスフィルムの上に膜を形成する膜形成部と、
を備え、
前記加熱ロールは、
ガラスまたはセラミックスからなり、回転可能に設けられた筒状体と、
前記筒状体の内部に配されており、前記筒状体を加熱するヒーターと、
前記筒状体と前記ガラスフィルムとの間に前記ガラスフィルム側の表層の硬度が前記ガラスフィルムの硬度よりも低いシートを供給する供給部と、
を有する、成膜装置。
【請求項8】
前記シートは、金属からなる、請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記シートの熱膨張係数は、前記ガラスフィルムの熱膨張係数の1倍〜10倍である、請求項7または8に記載の成膜装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか一項に記載の成膜装置を用いてガラスフィルム上に膜を形成する、膜付ガラスフィルムの製造方法。
【請求項11】
熱CVD法またはスパッタリング法により前記膜を形成する、請求項1〜6及び10のいずれか一項に記載の膜付ガラスフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及びそれを用いた膜付ガラスフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可撓性を有するガラスフィルムの上に成膜したいという要望がある。例えば特許文献1には、基板ロールから供給されるガラスシートを、300℃以上に加熱されたキャンを用いて加熱し、キャン上において、加熱されたガラスシートの表面の上に、スパッタリング法によりITO(インジウムスズ酸化物)膜を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−119322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、キャンの材質として金属が使用されている。ガラスシートと接触する、高温に加熱された金属製キャンの表面が酸化され、変質・劣化することを抑制するために、不活性ガス雰囲気中にキャンを配置して成膜を行う必要がある。このため、成膜装置が大がかりとなると共に、成膜コストが上昇する。特に、この成膜装置を、スパッタリングよりも高温を必要とする熱CVD装置に応用した場合には、金属製キャンの表面酸化がより発生しやすくなる。
【0005】
本発明は、ガラスフィルム上に好適に成膜し得る装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る成膜装置は、加熱ロールと、膜形成部とを備えている。加熱ロールの表面上には、ガラスフィルムが供給される。加熱ロールは、ガラスフィルムを加熱する。膜形成部は、ガラスフィルムの上に膜を形成する。加熱ロールは、筒状体と、ヒーターとを有する。筒状体は、ガラスまたはセラミックスからなる。筒状体は、回転可能に設けられている。ヒーターは、筒状体の内部に配されている。ヒーターは、筒状体を加熱する。
【0007】
筒状体は、石英ガラス、結晶化ガラス、アルミナ、シリカ、窒化珪素及び炭化ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも一種からなることが好ましい。
【0008】
本発明に係る成膜装置は、筒状体とガラスフィルムとの間にガラスフィルム側の表層の硬度がガラスフィルムの硬度よりも低いシートを供給する供給部をさらに備えることが好ましい。
【0009】
シートは、金属からなることが好ましい。
【0010】
シートの熱膨張係数は、ガラスフィルムの熱膨張係数の1倍〜10倍であることが好ましい。
【0011】
ヒーターは、筒状体のガラスフィルムと接する部分を加熱するように配されていてもよい。
【0012】
ヒーターは、筒状体に向けて熱線を照射するものであることが好ましい。その場合、本発明に係る成膜装置は、筒状体の内周面の上に配されており、ヒーターから照射される熱線を吸収する吸収層をさらに備えることが好ましい。
【0013】
膜形成部は、ガラスフィルム上において熱反応し、膜を構成する反応ガスを供給する反応ガス供給部、またはスパッタ粒子をガラスフィルム上に堆積させるスパッタ部により構成されていてもよい。
【0014】
本発明に係る膜付ガラスフィルムの製造方法では、本発明に係る成膜装置を用いてガラスフィルム上に膜を形成する。
【0015】
熱CVD法またはスパッタリング法により膜を形成してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガラスフィルム上に好適に成膜し得る装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態における成膜装置の模式的側面図である。
【
図2】
図1のII部分を拡大した模式的側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態において製造された膜付ガラスフィルムの模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0019】
実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0020】
図1は、本実施形態における成膜装置1の模式的側面図である。成膜装置1は、可撓性を有するガラスフィルム10の表面10aの上に膜11(
図3を参照)を形成し、ガラスフィルム10及び膜11を備える膜付ガラスフィルム12を製造するための装置である。
【0021】
ガラスフィルム10の厚みは、ガラスフィルム10が可撓性を有する程度であれば特に限定されない。ガラスフィルム10の厚みは、例えば、300μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0022】
ガラスフィルム10を構成するガラスの種類は特に限定されない。ガラスフィルム10は、例えば、珪酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラスなどであってもよい。なお、本発明において、ガラスフィルムには、結晶化ガラスからなる結晶化ガラスフィルムが含まれるものとする。
【0023】
膜11の種類は、特に限定されない。膜11は、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ランタンなどの酸化物、窒化ケイ素、窒化チタンなどの窒化物、または、ケイ素、銀、銅、アルミニウム等の金属などからなるものであってもよい。
【0024】
成膜装置1は、加熱ロール20を備えている。加熱ロール20は、筒状体21と、ヒーター22とを有する。筒状体21は、筒状体21の内部に回転不能に配された芯体23により、中心軸C1を中心として回転可能に支持されている。筒状体21は、回転ロール25a、25bの回転に伴って中心軸C1を中心として回転する。
【0025】
筒状体21は、ガラスまたはセラミックスからなる。筒状体21の構成材料として好ましく用いられるガラスの具体例としては、例えば、石英ガラス、結晶化ガラス等が挙げられる。筒状体21の構成材料として好ましく用いられるセラミックスの具体例としては、例えば、アルミナ、シリカ、窒化珪素、炭化ケイ素等が挙げられる。
【0026】
筒状体21の外径は特に限定されない。筒状体21の外径は、例えば、100mm〜2000mm程度とすることができる。筒状体21の厚みは、例えば、3mm〜20mm程度であることが好ましい。筒状体21の厚みが小さすぎると、筒状体21の強度が低くなる場合がある。筒状体21の厚みが大きすぎると、筒状体21の熱容量が大きくなる。このため、筒状体21の加熱又は温度保持のために大きなエネルギーを与えなければならず、またガラスフィルムの温度調整が難しくなる場合がある。
【0027】
ヒーター22は、筒状体21の内部に配されている。具体的には、ヒーター22は、芯体23に設けられた切欠部内に、筒状体21の内周面21aと対向するように配されている。より具体的には、ヒーター22は、筒状体21のガラスフィルム10と接する部分に対向して配されており、筒状体21のガラスフィルム10と接する部分を加熱する。
【0028】
ヒーター22は、筒状体21をガラスフィルム10の表面10a上に膜11を形成可能な温度にまで加熱できるものである限りにおいて特に限定されない。ヒーター22は、例えば、筒状体21に向けて熱線を照射する赤外線ヒーターや近赤外線ヒーターにより構成されていてもよい。その場合、
図2に示されるように、ヒーター22から照射される熱線を吸収する吸収層24を筒状体21の内周面21aの上に配しておくことが好ましい。そうすることにより、筒状体21の加熱効率を高めることができる。
【0029】
なお、吸収層24は、例えば、顔料として、グラファイト又は、鉄、マンガン等を含有する黒体塗料により構成することができる。
【0030】
筒状体21の上方には、筒状体21を介してヒーター22と対向するように膜形成部30が配されている。この膜形成部30は、ガラスフィルム10の表面10a上に膜11を形成するためのものである。
【0031】
膜形成部30は、成膜方法に応じて適宜構成することができる。例えば、ガラスフィルム10の表面10a上に熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法により膜11を形成する場合は、膜形成部30を、ガラスフィルム10上において熱反応し、膜11を構成する反応ガスを供給する反応ガス供給部により構成することができる。例えば、ガラスフィルム10の表面10a上にスパッタリング法により膜11を形成する場合は、膜形成部30を、スパッタ粒子をガラスフィルム10上に堆積させるスパッタ部により構成することができる。
【0032】
成膜装置1には、ガラスフィルム供給ロール40と、巻き取りロール41とが設けられている。ガラスフィルム供給ロール40は、筒状体21の外周面21b上に未成膜のガラスフィルム10を供給する。巻き取りロール41は、ガラスフィルム10と、ガラスフィルム10の表面10a上に形成された膜11とを備える膜付ガラスフィルム12を巻き取る。
【0033】
また、成膜装置1には、シート供給ロール42と、シート巻き取りロール43とがさらに設けられている。シート供給ロール42は、筒状体21の外周面21bとガラスフィルム10との間に、緩衝フィルム44を供給する。シート巻き取りロール43は、筒状体21の外周面21bとガラスフィルム10との間から排出された緩衝フィルム44を巻き取る。
【0034】
緩衝フィルム44は、ガラスフィルム10側の表層の硬度がガラスフィルム10の硬度よりも低いシートにより構成されている。緩衝フィルム44は、例えば、アルミニウム、鉄、銅などの少なくとも一種の金属により構成することができる。すなわち、緩衝フィルム44は、金属フィルムにより構成することができる。
【0035】
このように、成膜装置1では、ガラスまたはセラミックスからなる高硬度の筒状体21とガラスフィルム10との間に、緩衝フィルム44が供給される。このため、筒状体21とガラスフィルム10とが接触することによりガラスフィルム10の表面に傷が生じることを効果的に抑制することができる。
【0036】
また、緩衝フィルム44がヒーター22からの熱線を反射または吸収させるものである場合は、筒状体21の加熱効率をより高めることができる。
【0037】
緩衝フィルム44の厚みは、例えば、10μm〜100μm程度であることが好ましい。緩衝フィルム44の熱膨張係数は、ガラスフィルムの熱膨張係数の1〜10倍程度であることが好ましい。
【0038】
次に、成膜装置1を用いて膜付ガラスフィルム12を製造する方法について説明する。
【0039】
ガラスフィルム供給ロール40から筒状体21の外周面21b上にガラスフィルム10が供給される。ガラスフィルム10と筒状体21の外周面21bとの間には、シート供給ロール42から、緩衝フィルム44が供給される。これにより、筒状体21とガラスフィルム10との接触が規制されている。
【0040】
ガラスフィルム10及び緩衝フィルム44の供給に伴って、筒状体21は、回転ロール25a、25bにより回転駆動される。これにより、ガラスフィルム10と緩衝フィルム44との間の摩擦、緩衝フィルム44と筒状体21との間の摩擦が抑制されている。
【0041】
筒状体21の外周面21b上に供給されたガラスフィルム10は、加熱ロール20によって加熱される。具体的には、ヒーター22によって筒状体21が加熱され、その加熱された筒状体21によってガラスフィルム10が、成膜に好適な温度にまで加熱される。
【0042】
加熱されたガラスフィルム10の表面10aの上に、膜形成部30によって、スパッタリング法や熱CVD法等により、膜11が形成され、膜付ガラスフィルム12が作製される。作製された膜付ガラスフィルム12は、巻き取りロール41によって巻き取られる。一方、緩衝フィルム44は、巻き取りロール43によって巻き取られる。なお、膜付ガラスフィルム12の巻き取りに際し、膜付ガラスフィルム12と共に緩衝フィルム44を巻き取るようにしてもよい。また、膜付ガラスフィルム12と共に、緩衝フィルム44とは異なる。例えば紙や樹脂等からなるフィルムを巻き取るようにしてもよい。そのようにすることにより、膜付ガラスフィルム12同士が接触することに起因する膜付ガラスフィルム12の損傷を抑制することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態では、加熱ロール20のガラスフィルム10と接触する外周面が、ガラスまたはセラミックスからなる筒状体21により構成されている。このため、成膜雰囲気に酸素が存在している場合であっても、ガラスフィルム10との接触する加熱ロール20の表面が酸化されない。従って、ガラスフィルム10の加熱ロール20側の表面形状の変化を抑制することができる。また、加熱ロール20の表面の酸化を抑制する手段を別途に設ける必要がないため、成膜装置1の構成を簡略化でき、膜付ガラスフィルム12の製造コストを低くすることができる。
【0044】
例えばキャンを用いた場合は、キャンを成膜に適した温度にまで昇温するまでに長時間を要する。また、熱容量の大きなキャンを高温に保持するためには、多大なエネルギーを要する。それに対して、本実施形態では、熱容量が小さい筒状体21を加熱すれば足りるため、加熱ロールを成膜に適した温度にまで昇温するのに要する時間が短い。また、筒状体21のガラスフィルム10と接している部分のみを成膜に適した温度に保持すればよいため、エネルギー効率的にも有利である。
【符号の説明】
【0045】
1…成膜装置
10…ガラスフィルム
10a…表面
11…膜
12…膜付ガラスフィルム
20…加熱ロール
21…筒状体
21a…内周面
21b…外周面
22…ヒーター
23…芯体
24…吸収層
25a、25b…回転ロール
30…膜形成部
40…ガラスフィルム供給ロール
41…巻き取りロール
42…シート供給ロール
43…シート巻き取りロール
44…緩衝フィルム