特許第5987318号(P5987318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987318
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】導電布帛
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20160825BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20160825BHJP
   D03D 15/02 20060101ALI20160825BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   H05B3/20 349
   B60N2/58
   D03D15/02 A
   D03D1/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-1097(P2012-1097)
(22)【出願日】2012年1月6日
(65)【公開番号】特開2013-140753(P2013-140753A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】高橋 明香里
(72)【発明者】
【氏名】赤池 文敏
【審査官】 宮崎 光治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−011585(JP,A)
【文献】 特開平06−076926(JP,A)
【文献】 実開昭63−095193(JP,U)
【文献】 特開2010−245006(JP,A)
【文献】 実開昭63−133087(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B3/20
B60N2/58
D03D1/00
D03D15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導電糸と非導電糸とを含み、前記複数の導電糸が並べて配置されている方向と直交する方向に設けられた相互に対向する1対の布帛端縁を有する導電布帛において、前記1対の布帛端縁が、少なくとも一部の導電糸の端部を含む領域である切除部、それ以外の領域よりも布帛面の内側に窪んだ位置に設けられており、
前記布帛端縁には、少なくとも一方の面に導電性を有する導電面が形成され、複数の前記導電糸に跨る長細いシート部材よりなる接続部材が、前記導電面を内側にして、前記切除部が形成された箇所を含んだ前記布帛端縁を包み込んで取付けられ、前記切除部の前記布帛端縁は、前記接続部材の前記導電面よりも前記布帛面の内側に退避しており、
前記切除部は、同一の導電糸の両方の端部を含んで、前記1対の布帛端縁の両方に設けられており、前記接続部材は、前記1対の布帛端縁の両方に取り付けられていることを特徴とする導電布帛。
【請求項2】
前記切除部の布帛端縁は、前記導電布帛の組織の一部が前記一部の導電糸の端部と非導電糸とを含んで除去されることによって、それ以外の領域の布帛端縁よりも布帛面の内側に窪んだ位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の導電布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電布帛に関し、さらに詳しくは、導電糸と非導電糸とを含み、一部の導電糸が他の導電糸及び外部の部材に対して電気的に絶縁された導電布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電糸を含む導電布帛が公知であり、導電性を利用してヒータや各種センサ等の用途に使用される。例えば、車両用シートのシート表皮(シートカバー)としてこの種の導電布帛が用いられ、シートヒータや静電容量式の着座センサを備えたシート表皮して使用される。
【0003】
導電糸を含む導電布帛に通電を行うに際し、導電布帛の端部において導電糸を別の導電性の接続部材に接続することが多い。接続部材はさらに電源や制御機器等に接続される。導電布帛端部で導電糸を接続部材に接続する方法として、特許文献1に開示される方法が公知である。つまり、布材を構成する絶縁繊維(非導電糸)の一部を除去して、布材本体と布材片に分割し、その分断部から複数の導電線材(導電糸)を露出させた後、その分断部から露出した導電線材を接続部材で包み込んで縫着することで、導電線材を接続部材に電気的につなげるという方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−245006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような方法は、導電布帛中のある領域内に存在する導電糸全てを接続部材に電気的に接続する方法としては好適である。しかし、例えば導電布帛をヒータとして使用する際に、ヒータの出力を通電する導電糸の本数(密度)によって調節する場合や、単一の導電布帛中の隣接した領域に、加熱する箇所と加熱しない箇所を設ける場合のように、接続部材に電気的に接続したい導電糸と、接続部材に接続せず、接続部材に対して電気的に絶縁したい導電糸が、ある領域中に混在又は隣接する場合には、分断部から露出した導電線材を一括して接続部材で包み込む上記の方法をそのまま用いることはできない。
【0006】
例えば、図5に示すように、上記特許文献1に開示された方法で分断部44から導電糸42を露出させた後、接続部材に電気的に接続したくない導電糸、つまり不使用導電糸42bを導電布帛41の端縁41aの箇所で切断すれば、上記方法を利用しつつ接続部材に電気的に接続しない導電糸を設定することが可能である。もし、導電布帛41の端縁41aに導電性を有するシート状の接続部材を取り付けた際に、不使用導電糸42bの切断面の導電材料が接続部材と接触することがないのならば、不使用導電糸42bと接続部材との間の電気的絶縁が確保される。しかし、実際には、不使用導電糸42bを導電布帛本体41の端縁41aの箇所で切断したのみでは、切断された不使用導電糸42bの断面に露出した導電材料が容易に接続部材と接触し、接続部材との間に電気的接続が形成されてしまう。
【0007】
接続部材の接続工程で不使用導電糸42bの切断面が接続部材と接触することがなかったとしても、接続部材に接続された通電用導電糸42aへの通電中に導電布帛41や接続部材に、例えば屈曲変形されるような力を加えられた場合には、不使用導電糸42bの切断面と接続部材が接触したり、不使用導電糸42bとそれに近接する通電用導電糸41aとが接触したりということが容易に起こる虞がある。すると、不使用導電糸42bに接続部材を介して電流が供給されたり、不使用導電糸42bとそれに近接する通電用導電糸42aとの間でショートが起こったりする。
【0008】
そこで、導電布帛41の端縁41aの箇所で不使用導電糸42aを切断した部分を、絶縁性のテープ状布材などの絶縁部材で被覆してから接続部材を取り付けるという方法を採ることができる。すると、不使用導電糸の端部の接続部材に対する絶縁を確保することはできるが、導電布帛41とは別部材である絶縁部材が必要となる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、導電糸と非導電糸とを含む導電布帛において、一部の通電を行う導電糸に導電性の接続部材等外部の部材を接続する際に、別部材である絶縁部材を使用せずに、通電を行わない導電糸の端部を接続部材及び通電を行う導電糸から絶縁できる導電布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる導電布帛は、導電糸と非導電糸とを含む導電布帛において、少なくとも一部の導電糸の端部を含む領域の布帛端縁が、それ以外の領域の布帛端縁よりも布帛面の内側に窪んだ位置に設けられていることを要旨とする。
【0011】
ここで、前記少なくとも一部の導電糸の端部を含む領域の布帛端縁は、前記導電布帛の組織の一部が前記一部の導電糸の端部と非導電糸とを含んで除去されることによって、それ以外の領域の布帛端縁よりも布帛面の内側に窪んだ位置に設けられているとよい。
【発明の効果】
【0012】
上記発明にかかる導電布帛によれば、通電を行う導電糸の端部に導電性を有する接続部材等の部材を接続した際に、通電を行わない導電糸の端末が接続部材等及び通電を行う導電糸の端部から離れた位置に形成されているので、通電しない導電糸は、接続部材等及び他の導電糸に対して電気的に絶縁される。よって、通電を行う導電糸に通電した際に、通電を行わない導電糸に通電されてしまうことや、近傍の通電された導電糸と接触してショートを起こすことがない。さらに、通電を行わない導電糸の端末の位置を上記のように定めるだけで、通電を行わない導電糸の電気的絶縁が達成されるので、テープ状の布材のような別体の絶縁部材を使用する必要がなく、従来の導電布帛を接続部材に接続する際に、一部の導電糸を切断して端部を絶縁部材で被覆する場合に比べて、部品点数が削減される。
【0013】
また、前記導電布帛の組織の一部が、一部の導電糸の端部と非導電糸とを含んで除去されることによって上記の構成が達成されていると、通電を行わない導電糸の端部を周囲の非導電糸とともにくり抜くように除去するだけで、通電を行わない導電糸と接続部材等の外部の部材及び周囲の通電する導電糸との間の電気的絶縁を確保することができる。これにより、通電を行う導電糸と通電を行わない導電糸とが隣接し、多数存在している場合にも、それぞれの通電を行わない導電糸の端部を確実に電気的に絶縁することができるので、従来の方法に比べて絶縁加工を簡便に行うことができ、一部の箇所の絶縁加工を行い忘れるなど絶縁加工についての不備の発生も防止される。加えて、導電布帛が除去された箇所は明確に視認することができるので、各導電糸について、絶縁処理が施されているか否か、つまり通電を行わない導電糸であるか通電を行う導電糸であるかを、除去部分の有無によって容易に判断することができる。このように、除去部分の有無を導電布帛の製造工程及び接続部材の接続等の工程における指標としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第一の実施形態にかかる導電布帛の正面図である。
図2図1の導電布帛の端縁に接続部材を取り付けた状態を示し、(a)は正面図であり、(b)及び(c)はそれぞれ(a)のA−A断面図及びB−B断面図である。
図3】本発明の第一の実施形態にかかる導電布帛の製造方法及び接続部材の取り付け方法を示す概略図である。
図4】本発明の第二の実施形態にかかる導電布帛の製造方法及び接続部材の取り付け方法を示す概略図である。
図5】従来の導電布帛の製造方法を利用して不使用導電糸を設けた導電布帛の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の第一の実施形態にかかる導電布帛の詳細を図1及び図2に基づいて説明する。図1に本発明の一実施形態にかかる導電布帛の正面図を示す。本実施形態にかかる導電布帛は、それ自体が発熱してヒータ装置となる車両用シートの表皮や、シートカバーの裏側に配されるヒータ装置として好適に利用できるものである。
【0016】
導電布帛1は導電糸2および非導電糸を有する。導電糸2としては、金属細線等の導電材料のみからなる導電線材、又はそれらの導電線材とその他の繊維が複合されてなる導電糸など、多様な導電性を有する繊維状の材料を使用することができる。導電線材としては、引張強度及び耐腐食性が高いステンレス細線を用いることが好適である。導電線材は外周を樹脂等で被覆されていてもよい。非導電糸としては、種々の絶縁性の高い繊維材料を使用することが可能である。
【0017】
導電布帛1は、導電糸2と非導電糸を含んでいれば、編物、織物、不織布等、どのような組織で構成されていてもよい。本実施形態においては、導電布帛1は織物によって形成され、経糸又は緯糸の一部として導電糸2が略直線状に等間隔に配置されている。導電糸2に通電することで導電糸2が発熱し、この導電布帛1が面状のヒータ装置として機能する。なお、各図面には、導電布帛1中において非導電糸が顕に描かれてはいないが、導電糸2が配置されている箇所以外の導電布帛1の領域は、非導電糸によって構成されている。他の部材や使用者の体などが導電糸2に接触しないように、導電糸2は導電布帛1の表面に現れていない方が望ましい。
【0018】
導電布帛1を長尺状の織物から種々の用途に必要な形状に裁断して形成する場合、用途によって、所望される加熱量が異なることもある。例えば車両用シートヒータとして使用する場合、シートの領域に応じて所望される加熱量が異なる。この場合、全ての導電糸2に通電を行うのではなく、通電を行う通電用導電糸2aと通電を行わない不使用導電糸2bを周期的に設け、通電用導電糸2aの割合(密度)を適宜設定することで、用途及び領域に応じて所望される加熱量が発揮されるようにすればよい。本実施形態においては、例として、通電用導電糸2aと不使用導電糸2bが2本ずつ交互に配置されている。
【0019】
導電布帛1の導電糸の配置方向と直交する方向に設けられた布帛端縁Eは、略直線状の非切除端縁1aと、非切除端縁1aより布帛面の内側に形成された曲線状の切除部端縁3aを結合したものよりなっている。切除部端縁3aは、不使用導電糸2bの端末が配置された位置を含んで形成されている。一方、通電用導電糸2aの端部の位置を含めたそれ以外の領域の布帛端縁Eは非切除端縁1aよりなる。換言すると、不使用導電糸2bの端部を含む領域の布帛端縁E(切除部端縁3a)が、それ以外の領域の布帛端縁E(非切除端縁1a)よりも布帛面の内側に窪んだ位置に形成された状態となっている。
【0020】
通電用導電糸2aの両端部は、導電布帛1の非切除端縁1aから外側に延出され、非導電糸に周囲を囲まれずに露出している。さらに、通電用導電糸2aの外周が樹脂等によって被覆されている場合は、この延出部2a1の外周から被覆材が除去され、導電材料が露出している。導電布帛1がヒータとして使用される際には、この露出された延出部2a1が後述するように導電性の接続部材6に接続される。
【0021】
一方、不使用導電糸2bの端部の位置には、切除部端縁3aが形成されている。切除部端縁3aの両側に配置された非切除端縁1aの外挿線である仮想的な外挿端縁1a’と切除部端縁3aに囲まれた領域は、導電糸2も非導電糸も配置されない切除部3となっている。不使用導電糸2bは、切除部端縁3aの位置に端末を有する。つまり、不使用導電糸2bの端末が非切除端縁1aよりも布帛面の内側に退避されている。
【0022】
切除部3の大きさ及び形状は、後述するように、非切除端縁1aから延出した通電用導電糸2aの延出部2a1に接続部材6を取り付けた際に、接続部材6の導電面6aから不使用導電糸2bの端末を確実に退避させられるものである必要があるが、大きく形成しすぎると、導電布帛1全体の強度が低くなってしまうので、適切な大きさを選択する必要がある。形状については、図1では略半円形の切除部3を形成し、不使用導電糸2bの端末を円弧上で外挿端縁1a’から最も遠ざかった位置に配置しているが、このようにしておけば、効果的に不使用導電糸2bの端部を布帛面の内側に退避させることができる。なお、切除部端縁3aの位置に端末を有する不使用導電糸2bの端部に、樹脂皮膜などを形成することによって絶縁被覆を施してもよいが、後述するように、切除部3の形成によって、導電部材などの外部の部材及び近隣の通電用導電糸2aとの電気的絶縁が十分に形成されるので、あえて絶縁被覆を施す必要はない。
【0023】
図1においては、通電用導電糸2aの延出部2a1の先端には別の導電布帛等が何もつながっていないが、図3(b)に示すように、布帛片5が通電用導電糸2aを介して導電布帛1とつながった状態としておくこともできる。このような状態にしておくと、通電用導電糸2aの延出部2a1が相互に相対位置を維持してまっすぐに伸びた状態が保たれ、切除部3を形成する際や接続部材6を縫製等によって接続する際の作業性が高められる。
【0024】
図2に、図1の導電布帛1の通電用導電糸2aの延出部2a1に接続部材6を取り付けた状態を示す。接続部材6は、少なくとも一方の面に導電性を有する導電面6aが形成されたシート部材である。この導電性のシート部材としては、導電性材料(例えば銅)がシート状に形成された部材や、導電性材料で形成された糸を含む導電性織物が例示できる。接続部材6は、導電面6aを布帛面の内側にして通電用導電糸2aの延出部2a1を挟み込むように断面略「U」字状にされて、縫い付けられるなどして導電布帛1の布帛端縁Eに取り付けられている。この接続部材6は電線7を介して、電源に接続されている。
【0025】
図2(b)に通電用導電糸2aが配置された位置の断面図を示す。延出部2a1が接続部材6によって包み込まれ、接続部材6の導電面6aに接触している。これにより、通電用導電糸2aと接続部材6の間に導通が形成され、通電用導電糸2aに通電することで導電布帛1の加熱が行われる。なお、図2(b)では延出部2a1は直線状に伸びているが、途中箇所で曲げられた状態で接続部材6に包まれていてもよい。
【0026】
一方、図2(c)に不使用導電糸2bが配置された位置の断面図を示す。接続部材6が複数の導電糸2の端部に跨る長細いシート状であるため、切除部3が形成された箇所も含めて導電布帛1の布帛端縁E全体を包み込んでいる。しかしながら、不使用導電糸2bの端部は、切除部3によって布帛面の内側に退避されており、接続部材6の導電面6aに接触することはない。よって、不使用導電糸2bと接続部材6の間には導通が形成されず、電源から接続部材6に電流が供給されて通電用導電糸2aに通電が行われても、不使用導電糸2bには通電が行われることはない。また、隣接する通電用導電糸2aの延出部2a1と接触してショートを起こすこともない。
【0027】
切除部端縁3aが十分に導電布帛1の布帛面の内側に入った位置に形成されることにより、不使用導電糸2bの端末の位置が接続部材6の導電面6aから十分に離れた位置に配置されていれば、接続部材6や導電布帛1が使用中に屈曲変形を受けた場合にも、不使用導電糸2bの端部と接続部材6の導電面6aや隣接する通電用導電糸2aの延出部2a1とが接触することはない。導電布帛1が車両用シートのシートヒータとして使用されるような場合には、乗員の乗降や着座状態での運動に伴い、導電布帛1は屈曲等の変形を頻繁に受けるので、本実施形態のように不使用導電糸2bの端部の位置に切除部3を設ける構成は特に有効である。
【0028】
次に、図3を参照しながら、上記実施形態にかかる導電布帛1の製造方法及び製造された導電布帛1への接続部材6の接続方法の一例について説明する。まず、図3(a)のように、矩形の導電布帛(布帛本体)1を、非導電糸が除去された分断部4を介して導電糸2によって布帛片5とつながった状態として形成する。このような状態の導電布帛1を形成するには、導電布帛1の領域から分断部4及び布帛片5の領域に亘る矩形の原反を準備し、分断部4となるべき領域から非導電糸のみを除去すればよい。分断部4を形成する方法としては、レーザー光を分断部4となる領域全体に走査しながら照射して非導電糸を溶融又は燃焼させる方法が挙げられる。又は、特許文献1に記載されるように刃物やレーザー等で導電布帛1の非切除端縁1a及び外挿端縁1a’となる箇所の非導電糸を直線状に切断してから、布帛片5となる部分を抜き取るように導電布帛1から引き離すことでも分断部4を形成することができる。この場合には、図3(a)などに示された状態とは異なり、布帛片5中の通電用導電糸2aは、分断部4の幅の分だけ分断部4に引き出された状態になっている。いずれの方法を採用する場合でも、レーザーを使用する場合には、レーザーの出力及び波長を、非導電糸を溶融又は燃焼する一方で、導電糸2を構成する導電材料を溶融も燃焼もしない範囲に設定する必要がある。また、通電用導電糸2aが、外周に樹脂等の被覆を有する場合は、これも除去しておく必要がある。なお、布帛片5を形成しない場合には、非切除端縁1a及び外挿端縁1a’より外側の非導電糸を上記いずれかの方法で完全に除去しておけばよい。
【0029】
次に、どの導電糸2を不使用導電糸2bとするかを選択し、切除手段を用いて、選択した不使用導電糸2bの切除部端縁3aに重なる箇所と周辺の非導電糸を含んだ領域の導電布帛1を、外挿端縁1a’を含むように除去し、切除部3を形成する。このとき、切断されて分断部4及び布帛片5の側に残った不使用導電糸2bも共に除いておく。
【0030】
切除手段は、切除部端縁3aとなる箇所の導電糸2と非導電糸を共に切断できるものならばどのようなものでもよい。パンチ状の刃物を用いれば、導電布帛1の布帛面の上から押し当てるだけで布帛組織をくり抜くようにして切除部3を形成することができるので好適である。
【0031】
切除手段によって切除部3を形成した後の導電布帛1は、図3(b)のように通電用導電糸2aによって布帛片5とつながっており、分断部4の幅が一定に保たれている。この状態で、図3(c)のように接続部材6を分断部4に配置する。このとき、接続部材6の導電面6aが確実に通電用導電糸2aに接触する位置に接続部材6を配置する必要がある。加えて、切除部端縁3aの位置に存在する不使用導電糸2bの端末が、接続部材6の導電面6aに接触しない位置に接続部材6を配置する必要がある。図3(c)においては、切除部3全体が接続部材6の導電面6aに重ならないように接続部材6が配置されており、この点において好適である。また、接続部材6としては、導電面6aの幅が広すぎないものを選択する必要がある。
【0032】
最後に、図3(d)に示すように、布帛端縁1aを包むようにして接続部材6を折り曲げ、縫合するなどして導電布帛1に接続部材6を固定すればよい。このとき、布帛片5は切除しておいても、接続部材6とともに導電布帛1側に折り曲げた状態で残しておいてもよい。
【0033】
上記第一の実施形態においては、不使用導電糸の端部を含んだ領域の布帛端縁に切除部を形成することによって、不使用導電糸の端部を含む領域の布帛端縁をその他の領域の布帛端縁よりも布帛面の内側に形成したが、切除部を形成する以外の方法を適用することもできる。第二の実施形態においては、切除部を形成する代わりに、不使用導電糸の端部を含んだ領域に折り返し部を形成することで、不使用導電糸の端部を含む領域の布帛端縁がその他の領域の布帛端縁よりも布帛面の内側に形成される。図4に示す製造方法を参照しながら、第二の実施形態にかかる導電布帛の詳細を説明する。
【0034】
第二の実施形態にかかる導電布帛21は、不使用導電糸22bの端部周辺の構成以外は、第一の実施形態にかかる導電布帛1と同様の構成を有する。まず、図4(a)のように、導電布帛21を、布帛片25と分断部24を介して導電糸22によってつなげられた状態で形成する。この工程は第一の実施形態におけるものと同様である。
【0035】
次に、どの導電糸22を不使用導電糸22bとするかを選択し、図4(b)のように、選択した不使用導電糸22bを布帛端縁21aの箇所で切断する。それとともに、不使用導電糸22bの端部の両脇に配置された非導電糸からなる部分に、不使用導電糸22bの配置方向と平行に切り込み線23aを形成し、布帛端縁21aを分割する。切り込み線23aは、カッターや鋏のような刃物やレーザー光などを使用して形成すればよい。
【0036】
次に、図4(c)のように、二つの切り込み線23aに挟まれた、導電糸22bの端部を含む折り返し片23bを導電布帛21の内側に向かって折り返すことにより、折り返し部23が形成される。このとき、二つの切り込み線23aの布帛面内側の端部を結ぶ直線、つまり折り返し片23bの付け根の折り返し線23cと、切り込み線23aとが、折り返し部23が形成された箇所における布帛端縁Eとなる。つまり、新たな布帛端縁Eは、折り返し部23が形成された箇所以外の領域におけるもとの布帛端縁21aと、折り返し線23c及び切り込み線23aを結合した線となる。これにより、不使用導電糸22bの端部を含む領域の布帛端縁E(折り返し線23c及び切り込み23a)が、それ以外の領域の布帛端縁E(もとの布帛端縁21a)よりも布帛面の内側に形成された状態となっている。
【0037】
次に、第一の実施形態における場合と同様に、図4(d)のように接続部材26を導電布帛21に取り付ける。このとき、接続部材6の導電面26aが確実に通電用導電糸22aに接触する位置に接続部材26を配置する必要がある。加えて、折り返し片23b内の不使用導電糸22bが接続部材26の導電面26aに接触しない位置に接続部材26を配置する必要がある。
【0038】
最後に、第一の実施形態と同様に、接続部材26を折り曲げ、縫合するなどして導電布帛21に接続部材26を固定する(図4(e))。折り返し片23bは、この時に接続部材26とともに導電布帛21に縫い付けるなどして固定しても、あるいは図4(d)の工程と(e)の工程の間に、導電布帛21に先に固定しておいてもよい。後者の方法の方が、工程は増えるが、接続部材26の配置と固定の作業が行いやすくなる。
【0039】
以上のように、切除部3や折り返し部23を形成することによって、不使用導電糸の端部を、周囲の非導電糸よりなる領域ごと、それ以外の領域の布帛端縁よりも布帛面の内側に退避させれば、通電用導電糸と不使用導電糸が隣接している場合にも、簡便に不使用導電糸の絶縁を確保することが可能である。第二の実施形態のように折り返し部23を形成した場合には、接続部材を取り付けた際に、折り返し部23が形成された位置の布帛端縁の厚みが大きくなるが、これを望まない場合は、第一の実施形態のように切除部を形成することを選択すればよい。逆に、布帛端縁の強度を増したい場合には、折り返し部が形成された第二の実施形態にかかる導電布帛の方を選択すればよい。
【0040】
以上、本発明の二つの実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態においては、通電用導電糸と不使用導電糸とが等間隔に周期的に配置されているが、これらをどのように配置してもよい。例えば、シートヒータとして使用する場合、接触する人体の部位に応じて加熱量を変更したければ、ある位置を境に通電用導電糸の密度が高い領域と低い領域を設ければよい。さらに、このような領域の境界を確実に設定するため、領域の境界に不使用導電糸が集中して設けられた領域を形成してもよい。また、導電布帛を矩形に形成する必要はなく、種々の用途に応じた形状に形成すればよい。
【0041】
上記実施例においては、切除部及び折り返し片は不使用導電糸1本ずつの端部に別個に形成したが、隣接する複数の不使用導電糸の端部にまとめて大きな切除部又は折り返し部を形成してもよい。ただし、これによって導電布帛全体の強度を損なわないように留意する必要がある。最後に、上記分断部及び布帛片を必ずしも設ける必要はない。
【符号の説明】
【0042】
1、21 導電布帛
1a、 非切除端縁
2、22 導電糸
2a、22a 通電用導電糸
2a1、22a1 通電用導電糸延出部
2b、22b 不使用導電糸
3 切除部
3a 切除部端縁
4、24 分断部
5、25 布帛片
6、26 接続部材
6a、26a 導電面
23 折り返し部
23a 切り込み線
23b 折り返し片
23c 折り返し線
E 布帛端縁
図1
図2
図3
図4
図5