(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を
図1〜
図5を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1は、左右の車輪における駆動力の配分を制御する車両制御装置18を有する車両Cに搭載されている。
【0017】
このようなEPS1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴う操舵系としてのステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、車輪7の操舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0018】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ10(アクチュエータ)と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御装置としてのECU11とを備えている。
【0019】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、その駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。そして、EPSアクチュエータ10は、このモータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0020】
一方、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されている。尚、本実施形態では、ステアリングシャフト3を構成する上記コラムシャフト3aの途中にトーションバー17が設けられており、トルクセンサ14は、このトーションバー17の捩れ、即ち操舵系を伝達する操舵トルクに応じて、そのセンサ信号の出力レベルが変化するように構成されている。ECU11は、これらトルクセンサ14及び車速センサ15により検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、操舵系に付与すべきアシスト力(目標アシスト力)を演算する。そして、その目標アシスト力をEPSアクチュエータ10に発生させるべく、モータ12に対する駆動電力の供給を通じて、当該EPSアクチュエータ10の作動を制御する構成となっている(パワーアシスト制御)。
【0021】
また、本実施形態の車両Cには、車両Cの走行挙動に関する自動制御を実行する車両制御装置18が設けられており、ECU11は、図示しない車内ネットワークを介して車両制御装置18と接続されている。そして、本実施形態のECU11は、上記のような操舵トルクτに基づく通常のパワーアシスト制御に加え、車両制御装置18から取得する各種状態量及び制御信号に基づいて、この車両制御装置18の実行する自動制御と協調したパワーアシスト制御を実行する(協調制御)。
【0022】
詳述すると、本実施形態の車両制御装置18は、その自動制御として、各車輪の制動力配分を積極的に変更することによって、旋回時の横滑りを抑制する車両挙動安定化制御(ESC:Electronic Stability Control)を実行する。具体的には、車両制御装置18は、運転者によるステアリング操作の状態、及び車両モデルに基づき演算される目標ヨーレイトと実ヨーレイトとの偏差に基づいて、車両のステア特性(アンダーステア/オーバーステア)を判定する。そして、アンダーステアである場合には、その内側後輪に制動力を付与することにより、車両のヨーモーメントが増大するように制御し、及びオーバーステアである場合には、その外側前輪に制動力を付与することにより、車両のヨーモーメントが低減するように制御する。つまり、このような車両制御装置18は、車両の左右の車輪における駆動力の配分を制御することで、車両を旋回させることができる。
【0023】
本実施形態のECU11は、このような車両挙動安定化制御に関する状態量及び制御信号として、ステアリング2の操舵角、操舵速度、及びその車両挙動安定化制御において演算されたヨーレイト偏差、並びに同車両挙動安定化制御の実行状態を示す状態信号等を車両制御装置18から取得する(その他、ブレーキ油圧等)。そして、これら各状態量及び制御信号に基づいて、上記車両挙動安定化制御の目標とする横滑りの発生し難い走行状態、即ちそのステア特性がニュートラルステアとなるような運転者のステアリング操作を誘引し及び補助するように、その協調制御を実行する。
【0024】
また、ECU11には、報知手段としての表示パネル19が接続されている。表示パネル19は、ECU11からの情報に基づいて、各種情報を示す画像を運転者に視認可能に表示する表示装置である。
【0025】
また、本実施形態において、ECU11は、複数のモードを有しており、設定された何れかのモードに基づく制御を行うこととなる。複数のモードには、ノーマルステアリングモードと、マニュアルステアリングモードとが含まれている。
【0026】
ノーマルステアリングモードは、EPSアクチュエータ10に関する異常がなく、モータ12からのアシスト力の付与が正常に行われる場合に設定される。ノーマルステアリングモードが設定されると、ステアリング2の操舵に応じて、モータ12からのアシスト力が操舵系に付与されるようになる。また、ノーマルステアリングモードでは、ステア特性によっては協調制御が行われる場合がある。
【0027】
その一方で、マニュアルステアリングモードは、EPSアクチュエータ10に関する異常があり、モータ12からのアシスト力の付与が正常に行われない場合に設定される。なお、本実施形態において、EPSアクチュエータ10に関する異常時としては、ECU11及びトルクセンサ14等が正常であるが、モータ12からのアシスト力の付与が停止される異常である場合が相当する。また、本実施形態においては、モータ12からECU11に入力される信号に基づいて、正常であるか異常であるかがECU11により検知されることとなる。
【0028】
このように、ステアリング2の操舵に大きな力が必要となることに伴って、マニュアルステアリングモードが設定されると、ノーマルステアリングモードとは異なり、ステアリング2の操舵に大きな力が必要とならないように、操舵に関する制御が変更され、その制御に応じて車両が旋回され、アシスト力が付与される。詳述すると、ステアリング2の操舵により付与された操舵トルクτが上限閾値τ2(
図2参照)を越えると、ステア特性に拘わらず、車両制御装置18により車両の左右の車輪における駆動力の配分が制御され、ステアリング2の操舵方向に車両が旋回される。そして、それに伴ってその操舵方向に対してアシスト力が付与されることとなる。また、マニュアルステアリングモードでは、ノーマルステアリングモードで行われていたステア特性に基づく協調制御が行われない。
【0029】
(操舵制御の態様)
ここで、本実施形態のEPS1におけるマニュアルステアリングモード時の操舵制御の態様について
図2及び
図3を参照して説明する。
【0030】
ECU11には、下限閾値τ1と上限閾値τ2とが予め記憶されている。この下限閾値τ1は、ステアリング2の操舵によるチャタリングを抑制するための閾値である。また、上限閾値τ2は、ステアリング2の操舵が行われたことを検知するための閾値である。なお、この上限閾値τ2は、アシスト力の付与が停止しているときに車両を旋回させるための操舵トルクよりも極めて小さい値である。
【0031】
マニュアルステアリングモード時において、トルクセンサ14により検出されたステアリング2の操舵トルクτが下限閾値τ1未満となった後に、上限閾値τ2を超えたときには、車両を旋回させるための操舵が行われたことが検出される。なお、操舵トルクτが上限閾値τ2を超えた後には、下限閾値τ1未満になったことを条件として、車両を旋回させるための操舵が行われたことが検出される。このように、ステアリング2が旋回方向に小さく操舵され、操舵トルクτが上限閾値τ2を超えることで、車両制御装置18によって車両の左右の車輪における駆動力の配分が制御されることによって、操舵を補助するアシスト力が付与されるように操舵されたことが検出される。以下、このような操舵を「クリック操舵」として示す。
【0032】
具体的な一例としては、
図2に示すように、操舵トルクτが下限閾値τ1未満である状態から、下限閾値τ1を超えて、符号t1のタイミングで操舵トルクτが上限閾値τ2を超えると、1回目のクリック操舵が検出される。そして、符号t2のタイミングで操舵トルクτが下限閾値τ1未満となった後に、符号t3のタイミングで操舵トルクτが上限閾値τ2を超えると、2回目のクリック操舵が検出される。そして、一度操舵トルクτが上限閾値τ2を超えた後に、上限閾値τ2未満となるが、下限閾値τ1未満となることなく、再度、符号t4のタイミングで上限閾値τ2を超えた場合には、クリック操舵が検出されない。そして、符号t5のタイミングで操舵トルクτが下限閾値τ1未満となった後に、符号t6のタイミングで操舵トルクτが上限閾値τ2を超えると、3回目のクリック操舵が検出される。また、図示しないが、下限閾値τ1未満から下限閾値τ1を超えたが、上限閾値τ2を超えない場合には、クリック操舵が検知されない。なお、ステアリング2が左右方向の何れに対して操舵された場合であっても、同じように各閾値τ1,τ2が規定されている。
【0033】
このようにクリック操舵が検出された場合には、その検出結果に基づいて、車両に旋回力が加えられる。
図3に示すように、この車両の旋回力は、左右方向のそれぞれに対して複数段階で設定されている。そして、右方向に対するクリック操舵が検出された場合には、車両の旋回力が1段階分だけ右方向に変化するように制御される。その一方で、左方向に対するクリック操舵が検出された場合には、車両の旋回力が1段階分だけ左方向に変化するように制御される。
【0034】
具体的な一例としては、左右の旋回力が同じ状態で、右方向に対する1回目のクリック操舵が検出されると、右方向への旋回力が1段階分だけ大きくなる。そして、右方向への旋回力が1段階分だけ大きい状態で、右方向に対する2回目のクリック操舵が検出されると、右方向への旋回力が更に1段階分だけ大きくなり、右方向への旋回力が2段階分だけ大きい状態となる。このように、右方向に対するクリック操舵を繰り返すことで、車両に対する右方向への旋回力を増加させることができる。
【0035】
また、右方向への旋回力が2段階分だけ大きい状態で、左方向に対する1回目のクリック操舵が検出されると、左方向への旋回力が更に1段階分だけ大きくなり、右方向への旋回力が1段階分だけ大きい状態となる。そして、右方向への旋回力が1段階分だけ大きい状態で、左方向に対する2回目のクリック操舵が検出されると、左方向への旋回力が更に1段階分だけ大きくなり、左右の旋回力が同じ状態となる。また、左右の旋回力が同じ状態で、左方向に対する3回目のクリック操舵が検出されると、左方向への旋回力が1段階分だけ大きくなる。このように、左方向にクリック操舵を繰り返すことで、車両に対する左方向への旋回力を増加させることができる。
【0036】
したがって、モータ12によるアシスト力の付与が停止している場合には、マニュアルステアリングモードに設定され、ステアリング2の操舵に大きな力が必要とならないクリック操舵が行われることによって、車両に旋回力が加えられ、それに伴って操舵を補助するアシスト力が付与されるようになる。
【0037】
(制御処理)
ここで、上述したように構成されたEPS1の制御処理について
図4及び
図5を参照して説明する。
【0038】
まず、ECU11は、モータ12等からの信号に応じてEPSアクチュエータ10に関する異常が発生しているか否かを判定する。ECU11は、EPSアクチュエータ10に関する異常が発生していないと判定すると、ノーマルステアリングモードを示す値をモードフラグに設定する。その一方で、ECU11は、EPSアクチュエータ10に関する異常が発生していると判定すると、マニュアルステアリングモードを示す値をモードフラグに設定する。これによって、ECU11は、複数のモードから何れかを設定し、各モードの切替制御を行うこととなる。
【0039】
また、ECU11は、設定されているモードを示すモード情報を表示パネル19に出力する。これによって、表示パネル19において、ノーマルステアリングモードでは、
図4(a)に示すように、ノーマルステアリングモードが設定されていることを示す画像が表示される。その一方で、表示パネル19において、マニュアルステアリングモードでは、
図4(b)に示すように、マニュアルステアリングモードが設定されていることを示す画像と、クリック操舵が受け付け可能な状態となったことを示す画像とが表示される。
【0040】
ECU11は、モードフラグの値を読み出し、ノーマルステアリングモードであるか否かを判定する。ECU11は、ノーマルステアリングモードであると判定した場合には、操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、操舵系に付与すべきアシスト力を演算する。そして、ECU11は、演算結果に基づいて、モータ12に対する駆動電力の供給を通じて、EPSアクチュエータ10の作動を制御する。これにより、ECU11は、通常のパワーアシスト制御を行う。
【0041】
また、ECU11は、車両制御装置18から取得する各種状態量及び制御信号に基づいて、車両制御装置18の実行する自動制御と協調したパワーアシスト制御を実行する。つまり、ECU11は、車両のステア特性の判定を行い、その判定結果に基づいて、特定のステア特性(アンダーステア/オーバーステア)であると判定した場合には、車両制御装置18を制御することによって、車両の旋回を制御する。その一方で、ECU11は、特定のステア特性ではないと判定した場合には、車両制御装置18の制御を行わない。
【0042】
その一方で、ECU11は、
図5に示すように、モードフラグの値を読み出し、マニュアルステアリングモードであるか否かを判定する(ステップS11)。ECU11は、マニュアルステアリングモードであると判定した場合には、トルクセンサ14からの信号に基づいて、ステアリング2の操舵トルクτを検出する操舵トルク検出処理を実行する(ステップS12)。
【0043】
そして、ECU11は、検出した操舵トルクτが上限閾値τ2以上であるか否かを判定する(ステップS13)。ECU11は、検出した操舵トルクτが上限閾値τ2以上であると判定した場合には、操舵有効フラグが「1」であるか否かを判定する。この操舵有効フラグは、クリック操舵が有効であるか否かを示すフラグであり、操舵トルクτが下限閾値τ1未満となったことを条件として「1」が設定される。つまり、ECU11は、操舵トルクτが下限閾値τ1未満となった後に、上限閾値τ2となったか否かを判定することで、クリック操舵が行われたか否かを判定することとなる。ECU11は、操舵有効フラグが「1」であると判定した場合には、ステップS15に移行する。
【0044】
ステップS15において、ECU11は、操舵角変更処理を実行する。この処理において、ECU11は、現在の旋回力(操舵角)を示す旋回力データを読み出し、クリック操舵に応じた旋回方向に1段階だけ旋回させた旋回力データに変更し、新しく旋回力データを記憶する。具体的な一例としては、ECU11は、左右で同じ旋回力である現在の状態で、右方向に対する1回のクリック操舵が検知された場合には、右方向への旋回力が1段階だけ大きい旋回力データに変更する。また、ECU11は、左右で同じ旋回力である現在の状態で、左方向に対する1回のクリック操舵が検知された場合には、左方向への旋回力が1段階だけ大きい旋回力データに変更する。つまり、ECU11は、EPSアクチュエータ10に関する異常時において、トルクセンサ14によって検出される操舵トルクτが上限閾値τ2を超えたか否かを判定し、操舵トルクτが上限閾値τ2を超えた回数(操舵回数)を計数することとなる。
【0045】
そして、ECU11は、この旋回力を示す操舵情報を車両制御装置18に出力する操舵情報出力処理を実行する(ステップS16)。これによって、車両制御装置18は、ECU11によって出力された操舵情報に基づいて、車両の左右の車輪における駆動力の配分を制御することで、車両を旋回させてアシスト力を付与する制御を行う。つまり、ECU11は、計数されたクリック操舵の操舵回数に応じて車両制御装置18を制御することによって、アシスト力を付与する制御を行うこととなる。
【0046】
続いて、ECU11は、操舵角の変更を報知するための操舵報知情報を表示パネル19に出力する操舵報知情報出力処理を実行する(ステップS17)。これにより、表示パネル19は、
図4(c)及び
図4(d)に示すように、クリック操舵を受け付け、何れの操舵方向に変更されたか、現在の旋回力を示す画像を表示する。
【0047】
具体的には、右方向に対して1回のクリック操舵が検知された場合には、表示パネル19において、
図4(c)に示すように、右方向に操作された画像と、右方向への1段階分の旋回力が付与されていることを示す画像とが表示される。その一方で、左方向に対して1回のクリック操舵が検知された場合には、表示パネル19において、
図4(d)に示すように、左方向に操作された画像と、左方向への1段階分の旋回力が付与されていることを示す画像とが表示される。
【0048】
つまり、ECU11は、トルクセンサ14によって検出される操舵トルクが上限閾値τ2を超えて、クリック操舵が検出されたことを、運転者に報知する表示パネル19に対して報知させる制御を行うこととなる。そして、ECU11は、操舵有効フラグに「0」を設定する(ステップS18)。これによって、ECU11は、操舵トルクτが上限閾値τ2を超えたことを特定可能となる。
【0049】
その一方で、ECU11は、検出した操舵トルクτが上限閾値τ2以上ではないと判定した場合には、検出した操舵トルクτが下限閾値τ1未満であるか否かを判定する(ステップS19)。ECU11は、検出した操舵トルクτが下限閾値τ1未満であると判定した場合には、操舵有効フラグに「1」を設定する(ステップS20)。これによって、ECU11は、操舵トルクτが上限閾値τ1未満となったことを特定可能となる。そして、ECU11は、操舵角が変更され、クリック操舵が受付可能となったことを報知するための操舵非報知情報を表示パネル19に出力する操舵非報知情報出力処理を実行する(ステップS20)。これにより、表示パネル19は、
図4(b)に示すように、クリック操舵を受け付け可能な状態となったことを示す画像を表示する。つまり、ECU11は、トルクセンサ14によって検出される操舵トルクが下限閾値τ1未満となったことを、運転者に報知する表示パネル19に対して報知させる制御を行うこととなる。
【0050】
なお、本実施形態において、このマニュアルステアリングモードでは、ECU11は、モータ12の駆動に対する制御を停止させており、モータ12からの信号に基づいてEPSアクチュエータ10に関する異常が発生しているか否かのみを判定している。また、本実施形態において、直前のクリック操舵が検知されてから、予め定められた規定時間が経過した場合には、旋回力データを初期化することで、車両の左右の車輪における駆動力の配分を制御することによるアシスト力を付与しないように制御することとなる。なお、本実施形態において、このような制御処理を実行するECU11が、操舵トルクを判定する操舵トルク判定手段、操舵回数を計数する操舵回数計数手段として機能する。
【0051】
(実施形態の効果)
以上詳述したように、本実施形態は、以下の効果を有する。
(1)EPSアクチュエータ10に関する異常時においても、操舵トルクが上限閾値τ2を超える操舵を行った操舵回数に応じて、車両の左右の車輪における駆動力の配分を制御することで、操舵を補助するアシスト力を付与することができる。したがって、EPSアクチュエータ10に関する異常時において、操舵により大きな操舵トルクを加え続けることなく、運転者の意図するように操舵し易くすることができる。
【0052】
(2)また、ステアリング2の操舵により、操舵を補助するアシスト力の制御を行うことができる。このため、他の操作手段による操舵と比べて、通常の運転で使用するステアリング2を用いて、運転者の操舵体勢を大きく変更することなく、車両を運転しているときにおける安全性を向上させることができる。
【0053】
(3)ステアリング2の操舵により操舵系に加えられた操舵トルクτが上限閾値τ2を超えたことを運転者に認識させることができ、操舵を補助するアシスト力が付与されたことが特定可能となる。
【0054】
(4)操舵方向に対して操舵を補助するアシスト力を付与することができ、EPSアクチュエータ10に関する異常時であっても、運転者の操舵に応じて円滑に車両を旋回させることができる。また、他の操作手段による操舵と比べて、通常の運転で使用するステアリング2を用いて、運転者の操舵体勢を大きく変更することなく、車両を運転しているときにおける安全性も向上させることができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について
図6を参照して説明する。なお、以下の説明では、既に説明した第1実施形態と同一構成及について同一符号を付すなどし、その重複する説明を省略又は簡略する。
【0056】
第1実施形態では、トルクセンサ14によって検出された操舵方向に対応する旋回方向に対するアシスト力を付与する制御を行った。これに対して、第2実施形態では、ステアリングとは別に設けられた方向指示器(指示手段)によって指示された指示方向に対応する旋回方向に対するアシスト力を付与する制御を行う。
【0057】
具体的には、
図6に示すように、ECU11には、車両Cが進む左右の何れかの指示方向を指示するための方向指示器20が接続されている。ECU11は、方向指示器20からの方向指示信号に基づいて、図示しない方向指示ランプを点滅させる制御を行う。また、ECU11は、マニュアルステアリングモードに設定された場合には、方向指示器20からの、指示方向を示す方向指示信号を入力している場合には、その方向に対して車両に旋回力を加えることで、車両の旋回を制御することとなる。
【0058】
(5)方向指示器20によって指示された指示方向に対応する操舵方向に操舵を補助するアシスト力を付与することができ、EPSアクチュエータ10に関する異常時であっても、運転者の操舵に応じて円滑に車両を旋回させることができる。また、他の操作手段による操舵と比べて、通常の運転で使用するステアリング2と方向指示器20とを用いて、運転者の操舵体勢を大きく変更することなく、車両を運転しているときにおける安全性も向上させることができる。
【0059】
尚、上記実施形態は、次のような別の実施形態(別例)にて具体化できる。
・第2実施形態において、指示手段としての方向指示器がEPS1に含まれず、車両に搭載された構成としたが、これに限らず、例えば、方向指示器がEPS1に含まれる構成であってもよい。
【0060】
・上記実施形態において、報知手段としての表示パネル19がEPS1に含まれず、車両に搭載された構成としたが、これに限らず、例えば、表示パネル19がEPS1に含まれる構成であってもよい。
【0061】
・上記実施形態において、表示パネル19に画像を表示させることにより、操舵トルクτが上限閾値τ2以上となったことを報知したが、これに限らず、例えば、スピーカから音声を出力させることにより報知してもよい。また、例えば、ステアリング2等を振動させることにより報知してもよい。また、これらの組み合わせであってもよい。また、このような報知が行われない構成であっても問題ない。
【0062】
・上記実施形態において、クリック操舵が検知されてから規定時間が経過した場合に、旋回力データを初期化したが、これに限らず、他の条件が成立した場合に、旋回力データを初期化するように構成してもよい。また、例えば、旋回力データを初期化しない構成であってもよい。
【0063】
・上記実施形態では、下限閾値τ1、上限閾値τ2の両方が設定されていたが、これに限らず、下限閾値τ1が設定されずに、上限閾値τ2が規定されていてもよい。つまり、トルクセンサによって検出される操舵トルクが閾値を超えたことを最低限の条件として操舵回数を計数するように構成してもよい。
【0064】
・上記実施形態において、モータ12からECU11に信号が入力された場合にEPSアクチュエータ10に関する異常が検知される構成であっても、信号が入力されなかった場合にEPSアクチュエータ10に関する異常が検知される構成であってもよい。
【0065】
・上記実施形態では、モータ12からの信号に応じてEPSアクチュエータ10に関する異常を検知した場合に、ECU11は、モータ12の駆動に対する制御を行わないように構成したが、これに限らず、モータ12が駆動するか否かに拘わらず、モータ12の駆動に対する制御を行うように構成しても問題ない。
【0066】
・上記実施形態において、EPSアクチュエータ10自体に異常がある場合に限らず、EPSアクチュエータ10自体に異常がなくても、他の要因によりEPSアクチュエータ10の制御を行わない場合に、EPSアクチュエータ10に関する異常が検知されるように構成してもよい。また、例えば、ECU11からモータ12への信号を出力しない場合にEPSアクチュエータ10に関する異常が検知される構成であってもよい。つまり、EPSアクチュエータ10によるアシスト力が付与されない状態である場合に、EPSアクチュエータ10に関する異常が検知されるように構成してもよい。
【0067】
・上記実施形態において、モータ12からの信号に応じてEPSアクチュエータ10に関する異常を検知した場合に、各モードの切替を行ったが、これに限らず、例えば、操作に応じて各モードの切替を行ってもよい。つまり、停止している車両や整備中の車両に対して、運転者や整備者の操作に応じて各モードが切替可能であってもよい。
【0068】
・上記実施形態において、運転者によるステアリング操作の状態、及び車両モデルに基づき演算される目標ヨーレイトと実ヨーレイトとの偏差に基づいて、車両のステア特性を判定したが、これに限らない。
【0069】
・上記実施形態において、マニュアルステアリングモードでは、ステア特性に基づく協調制御が行われないように構成したが、これに限らず、ステア特性に基づく協調制御も行われるように構成してもよい。
【0070】
・上記実施形態において、左右の後輪の駆動配分を制御することで、車両を旋回させてもよい。また、左右の前輪及び後輪の駆動配分を制御することで、車両を旋回させてもよい。
【0071】
・上記実施形態において、ESCを備えた車両に本発明が搭載されたが、これに限らず、車両の左右の車輪における駆動力の配分を制御することによって、車両を左右に旋回させる制御を行うような車両に本発明が搭載されればよい。
【0072】
・上記実施形態において、左右の車輪における駆動力の配分ではなく、ブレーキの配分を制御することで、車両を旋回させてもよい。具体的には、アンチロックブレーキシステムのように、左右の車輪におけるブレーキ配分を異ならせることによって、車両を旋回させることができる。
【0073】
・上記実施形態では、コラム型のEPS1に具体化したが、本発明は、所謂ピニオン型やラックアシスト型のEPSに適用してもよい。
・上記実施形態において、電動式のパワーステアリング装置に本発明を適用したが、これに限らず、油圧式パワーステアリング装置に本発明を適用してもよい。
【0074】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)車両の左右の車輪における駆動力の配分又はブレーキの配分を制御することで車両を旋回させる車両制御装置を有する車両に搭載されたパワーステアリング装置において、操舵により操舵系に加えられた操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵を補助するアシスト力を前記操舵系に付与するアクチュエータと、前記トルクセンサにより検出された操舵トルクに応じて前記アクチュエータを制御することで前記アシスト力を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記アクチュエータに関する異常時において、前記トルクセンサによって検出される操舵トルクが閾値を超えたか否かを判定し、該操舵トルクが閾値を超えたと判定された場合に、前記車両制御装置に対して車両の左右の車輪における駆動力の配分又はブレーキの配分を制御させることで、操舵を補助するアシスト力を付与する制御を行うことを特徴とするパワーステアリング装置。
【0075】
(ロ)請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載のパワーステアリング装置において、前記制御装置は、車両のステア特性を判定するステア特性判定手段を有し、通常時において、前記ステア特性判定手段により判定された結果に基づいて、前記車両制御装置を制御することによって車両の旋回を制御する一方、前記アクチュエータに関する異常時において、前記ステア特性判定手段により判定された結果に拘わらず、前記操舵回数に応じて、前記車両制御装置に対して車両の左右の車輪における駆動力の配分又はブレーキの配分を制御させることで、操舵を補助するアシスト力を付与する制御を行うことを特徴とするパワーステアリング装置。
【0076】
(ハ)請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載のパワーステアリング装置において、前記制御装置は、前記パワーステアリング装置に関する異常時であるか否かを判定する異常判定手段を有し、前記異常判定手段によって判定された結果により異なる制御内容で前記車両制御装置を制御することによって、操舵を補助するアシスト力を付与する制御を行うことを特徴とするパワーステアリング装置。