特許第5987450号(P5987450)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987450
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】エンジンの燃焼室構造
(51)【国際特許分類】
   F02B 23/00 20060101AFI20160825BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20160825BHJP
   F02F 3/10 20060101ALI20160825BHJP
   F02F 3/14 20060101ALI20160825BHJP
   C23C 8/16 20060101ALI20160825BHJP
   C23C 8/02 20060101ALI20160825BHJP
   F02B 23/06 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   F02B23/00 D
   F02F1/00 G
   F02F3/10 B
   F02F3/14
   C23C8/16
   C23C8/02
   F02B23/06 H
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-100196(P2012-100196)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-227911(P2013-227911A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】飯島 章
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−084240(JP,U)
【文献】 特開2012−072745(JP,A)
【文献】 特開2001−329273(JP,A)
【文献】 特開平03−224144(JP,A)
【文献】 特開昭61−058915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 23/00
F02F 1/00−3/00
C23C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアとシリンダヘッド下面とピストン頂部とで区画される燃焼室を備え、前記燃焼室の壁面の少なくとも一部がアルミニウム又はアルミニウム合金から構成されるエンジンの燃焼室構造であって、アルミニウム又はアルミニウム合金から構成されたピストンの頂部に凹設したキャビティのリップ部の全周に、そのリップ部の表面積を増加させるために設けられた多数のディンプルと、前記多数のディンプルが設けられた前記リップ部の全周に、厚さ0.1μm〜10μmで形成された糸状結晶構造のベーマイト皮膜と、前記ベーマイト皮膜の表面に設けられ、前記ベーマイト皮膜の表面に断熱塗料又は遮熱塗料を塗布することにより形成される遮熱膜とを備えることを特徴とするエンジンの燃焼室構造。
【請求項2】
前記キャビティのリップ部の全周に形成された前記多数のディンプルは、最大深さ4μm、最大直径40μmに形成されている請求項1に記載のエンジンの燃焼室構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダボアとシリンダヘッド下面とピストン頂部とで区画される燃焼室を有するエンジンの燃焼室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの燃焼室は、一般的に、シリンダボアとシリンダヘッドの下面とピストンの頂部とで区画される。ピストンの頂部にキャビティが凹設されており、ピストンの上方に配置された燃料噴射弁からキャビティ内に燃料が噴射されるようになっている。
【0003】
このようなディーゼルエンジンの燃焼室構造は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−117319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、冷却損失(燃焼室内の燃焼ガスからの熱伝達)を低減するため、燃焼室の壁面(特に、キャビティの淵に沿って全周)を遮熱することが望ましい。
【0006】
遮熱対象物を簡易的に遮熱する方法として、断熱塗料又は遮熱塗料と称されるものを遮熱対象物に塗布することが知られている。断熱塗料又は遮熱塗料を燃焼室の壁面に塗布する場合、燃料の燃焼時に火炎が断熱塗料又は遮熱塗料に当たること等から、断熱塗料又は遮熱塗料を燃焼室の壁面に強固に結合させる必要がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、燃焼室の壁面に断熱塗料又は遮熱塗料の塗布による遮熱膜を形成する際に、断熱塗料又は遮熱塗料(遮熱膜)を燃焼室の壁面に強固に結合させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明に係るエンジンの燃焼室構造は、シリンダボアとシリンダヘッド下面とピストン頂部とで区画される燃焼室を備え、前記燃焼室の壁面の少なくとも一部がアルミニウム又はアルミニウム合金から構成されるエンジンの燃焼室構造であって、アルミニウム又はアルミニウム合金から構成されたピストンの頂部に凹設したキャビティのリップ部の全周に、そのリップ部の表面積を増加させるために設けられた多数のディンプルと、前記多数のディンプルが設けられた前記リップ部の全周に、厚さ0.1μm〜10μmで形成された糸状結晶構造のベーマイト皮膜と、前記ベーマイト皮膜の表面に設けられ、前記ベーマイト皮膜の表面に断熱塗料又は遮熱塗料を塗布することにより形成される遮熱膜とを備えるものである。
【0009】
前記キャビティのリップ部の全周に形成された前記多数のディンプルは、最大深さ4μm、最大直径40μmに形成されているものであっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃焼室の壁面に断熱塗料又は遮熱塗料の塗布による遮熱膜を形成する際に、断熱塗料又は遮熱塗料(遮熱膜)を燃焼室の壁面に強固に結合させることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は本発明の一実施形態に係るエンジンの燃焼室構造の概略図であり、(b)は(a)のA部拡大図である。
図2】本発明の他の実施形態に係るエンジンの燃焼室構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0014】
図1に本発明の一実施形態に係るエンジンの燃焼室構造を示す。
【0015】
図1(a)に示すように、エンジン(本実施形態では、ディーゼルエンジン)10は、シリンダブロック11に形成されたシリンダボア12と、シリンダボア12内を上下に往復運動するアルミニウム又はアルミニウム合金製のピストン13と、シリンダブロック11の上部にガスケット14を挟んで取り付けられたアルミニウム又はアルミニウム合金製のシリンダヘッド15とを備えている。シリンダボア12と、シリンダヘッド15の下面と、ピストン13の頂部とで囲まれた空間が、燃焼室16を形成する。シリンダヘッド15には、燃焼室16に連通する吸排気ポート(吸気ポート17及び排気ポート18)と、吸気ポート17を開閉する吸気弁19と、排気ポート18を開閉する排気弁20と、燃料を上方から燃焼室16内に噴射する燃料噴射弁(インジェクタ)21とが設けられている。また、ピストン13の頂面13aには、キャビティ(図例では、リップ付タイプのキャビティ)13bが凹設されている。
【0016】
図1(a)に示すエンジン10では、例えばピストン13が圧縮上死点付近に位置するときに燃料を燃料噴射弁21から燃焼室16内に噴射することで、燃焼室16内の燃料が自着火して燃焼する。燃料噴射弁21の先端部には噴口22が複数設けられており、各噴口22は、ピストン13の圧縮上死点付近において噴口22から噴射された燃料がキャビティ13bのリップ部13cに向かうように指向されている。
【0017】
本実施形態では、燃焼室16を形成するピストン13の頂部に、燃焼室16内の燃焼ガスからピストン13への伝熱を抑制するための遮熱膜23が形成されている。より詳細には、遮熱膜23は、ピストン13の頂面13a及びキャビティ13bの一部(図例では、キャビティ13bのリップ部13c近傍)に全周に亘って形成されている。
【0018】
本実施形態では、ショットブラスト及びベーマイト処理を遮熱膜23のためのアンカー処理(塗料を塗布する前の前処理)として行う。即ち、本実施形態では、ピストン13の表面にショットブラストを行うことにより、ピストン13の表面に多数のディンプル24を生じさせ、さらに、ディンプル24の上からピストン13の表面にベーマイト処理を施すことにより、ピストン13の表面にベーマイト皮膜25を形成し、そのベーマイト皮膜25の上に断熱塗料又は遮熱塗料を塗布することにより、ベーマイト皮膜25の上に遮熱膜23を形成する(図1(b)参照)。
【0019】
ショットブラストとは、投射材(ブラスト材)を加工対象物の表面に投射して、加工対象物の表面に投射材による凹みを生じさせるものである。このショットブラストは、塗装のためのアンカー処理としてのみならず、加工対象物のバリの除去、表面研削等のためにも行われるものである。
【0020】
ベーマイト処理とは、母材(アルミニウム又はアルミニウム合金)の表面に高温の水蒸気(蒸留水)を吹き付ける等して、母材の表面にAl23・H2Oの組成で表されるアルミナ1水和物(ベーマイト)を形成するものである。また、ベーマイト処理においては、高温の蒸留水に少量のアンモニア水等の添加剤を添加して行う場合もある。このベーマイト処理は、主にアルミニウムの防錆処理として行われるものである。また、ベーマイト処理により形成されるアルミナ1水和物(ベーマイト)は、針状結晶構造である。
【0021】
遮熱膜23の厚さ(膜厚さ)Ta(図1(b)参照)は、例えば100μm程度とする。また、ディンプル24の深さ(最大深さ)D(図1(b)参照)は、例えば4μm程度とし、ディンプル24の直径(最大直径)R(図1(b)参照)は、例えば40μm程度とする。さらに、ベーマイト皮膜25の厚さ(皮膜厚さ)Tb(図1(b)参照)は、例えば0.1μm〜10μm程度とする。
【0022】
本実施形態の作用効果を説明する。
【0023】
本実施形態では、ピストン13の表面にショットブラストを行うことにより、ピストン13の表面に多数のディンプル24を生じさせ、さらに、ディンプル24の上からピストン13の表面にベーマイト処理を施すことにより、ピストン13の表面にベーマイト皮膜25を形成し、そのベーマイト皮膜25の上に断熱塗料又は遮熱塗料を塗布することにより、ベーマイト皮膜25の上に遮熱膜23を形成するようにしている。
【0024】
ベーマイト皮膜25を構成するアルミナ1水和物(ベーマイト)が針状結晶構造であるため、ベーマイト皮膜25の上に塗布した断熱塗料又は遮熱塗料がベーマイト皮膜25にしっかりと深く食い込むことができ、断熱塗料又は遮熱塗料(遮熱膜23)とピストン13の表面との結合力は非常に強固となる。そのため、ピストン13の表面に断熱塗料又は遮熱塗料の塗布による遮熱膜23を形成する際に、断熱塗料又は遮熱塗料(遮熱膜23)をピストン13の表面に強固に結合させることが可能となる。
【0025】
また、ベーマイト皮膜25は、母材(アルミニウム又はアルミニウム合金)であるピストン13の表面と化学結合しているため、ベーマイト皮膜25自体がピストン13の表面に強固に結合する。よって、ベーマイト処理を遮熱膜23のためのアンカー処理として行うことにより、アンカー処理を行わない場合に対しては勿論、ショットブラストを単独でアンカー処理として行う場合よりも強固に、断熱塗料又は遮熱塗料(遮熱膜23)をピストン13の表面に結合させることができる。
【0026】
さらに、ショットブラストとベーマイト処理とを組み合わせることにより、アンカー処理を行わない場合に対しては勿論、ショットブラスト又はベーマイト処理を単独でアンカー処理として行う場合よりも強固に、断熱塗料又は遮熱塗料(遮熱膜23)をピストン13の表面に結合させることができる。ベーマイト処理を行う前にショットブラストをピストン13の表面に行うことで、図1(b)に示すように、ピストン13の表面に多数のディンプル24が生じることで表面積が増加し、遮熱膜23とベーマイト皮膜25との接触面積が増加し、遮熱膜23がベーマイト皮膜25にさらに強固に結合するためである。
【0027】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0028】
例えば、上述の実施形態では、ピストン13の頂部に遮熱膜23を形成するとしたが、これには限定はされず、図2に示すように、燃焼室16を形成するシリンダヘッド15の下面に遮熱膜23を形成することも可能である。シリンダヘッド15の下面に遮熱膜23を形成する場合には、図2に示すように、シリンダヘッド15の下面における燃焼室16内に臨む部分のみに遮熱膜23を形成しても良く、図示はしないが、シリンダヘッド15の下面全体に遮熱膜23を形成しても良い。いずれの場合も、ショットブラスト及びベーマイト処理を遮熱膜23のためのアンカー処理として行い、シリンダヘッド15の表面に多数のディンプル24及びベーマイト皮膜25を形成する。
【0029】
また、上述の実施形態では、ピストン13の頂面13a及びキャビティ13bの一部に遮熱膜23を形成したが、これには限定はされず、ピストン13の頂部に遮熱膜23を形成する際には、図2に示すように、ピストン13の頂面13a及びキャビティ13bの全体に遮熱膜23を形成しても良い。この場合も、ショットブラスト及びベーマイト処理を遮熱膜23のためのアンカー処理として行い、ピストン13の表面に多数のディンプル24及びベーマイト皮膜25を形成する。
【0030】
また、エンジン10は、ディーゼルエンジンには限定はされず、ガソリンエンジン等であっても良い。さらに、エンジン10は、直噴式のものには限定はされず、火花点火式のものであっても良い。
【0031】
さらに、ピストン13の頂部に凹設されるキャビティ13bの形状に関しては、ディーゼルエンジンの場合、リップ付タイプに限定はされず、リエントラントタイプやトロイダルタイプ等であっても良い。
【符号の説明】
【0032】
10 エンジン
12 シリンダボア
13 ピストン
15 シリンダヘッド
16 燃焼室
23 遮熱膜
24 ディンプル
25 ベーマイト皮膜
図1
図2