特許第5987512号(P5987512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987512
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】車両の電池制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20160825BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20160825BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   H02J7/02 H
   H02J7/00 P
   B60L11/18 A
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-154665(P2012-154665)
(22)【出願日】2012年7月10日
(65)【公開番号】特開2014-17997(P2014-17997A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】多賀谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】村松 克好
【審査官】 馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0161709(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0234170(US,A1)
【文献】 特開2010−220380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 − 7/12
H02J 7/34 − 7/36
B60L 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
載の組電池に充電する充電手段と、
外部電源からの充電が行われているか否かを判断する判断手段と、
前記判断手段により外部電源からの充電が行われていると判断され、かつ、前記組電池が満充電となった際に、前記組電池に含まれる各セルのうち電圧が最も低い最低セルを記憶する記憶手段と、
前記判断手段により外部電源からの充電が行われていないと判断されているときに、前記最低セルよりも高い電圧を持つセルを放電し、前記最低セルの電圧を目標として前記組電池の電圧を均等化する均等化手段と
を備えたことを特徴とする、車両の電池制御装置。
【請求項2】
前記組電池の満充電時における各セルの最低電圧及び最高電圧の差に基づき、セル容量差を演算する演算手段と、
前記均等化に係る消費電流と前記演算手段で演算された前記セル容量差とに基づき、前記均等化の累積実施時間の上限値を設定する設定手段とを備え、
前記均等化手段が、前記設定手段で設定された前記上限値を超える前記均等化を禁止する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の電池制御装置。
【請求項3】
前記設定手段が、前記組電池が満充電になる毎に前記上限値を再設定する
ことを特徴とする、請求項2記載の車両の電池制御装置。
【請求項4】
前記均等化手段が、前記組電池の充放電電流の絶対値が所定値未満であることを、前記均等化の実施条件の一つとする
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の車両の電池制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される組電池の充放電を制御する電池制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の二次電池のセルを接続してなる組電池において、その運用中や充電時に各セルの電圧を均等化する技術が知られている。すなわち、セル電圧のばらつきを均して、組電池全体の電池容量を確保するものである。充電時にセル電圧を均等化することで、最も電圧の高いセルが上限電圧を超過するまでの間に、他セルへの充電量を増大させることが可能となる。同様に、電池の運用中でのセル電圧の均等化は、組電池全体で使用することができる電力を増大させることになり、すなわち、使用可能となる電池容量の低下を抑制することができる。
【0003】
セル電圧を均等化する手法としては、おもに二種類の手法が挙げられる。第一の手法は、電圧が高いセルの電力を放電して降圧させ、他セルとの足並みを揃えるものである。例えば、充電電力を消費するための抵抗及びスイッチを各々のセルに対して並列に接続し、各スイッチの断接状態を制御することによって電圧を均等化するものがこれに該当する(特許文献1参照)。
【0004】
一方、第二の手法は、電圧が高いセルから低いセルへと電力を分配するものである。例えば、互いに磁気結合された巻線と各々のセルとを断接自在に接続し、電磁誘導を利用して電圧の高いセルから電圧の低いセルへと電力を移送するものがこれに該当する(特許文献2参照)。何れの手法においても、各々のセルのうち高電圧のセルが特定され、そのセルの電圧を低下させることによって、組電池全体の電圧が均等化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-309931号公報
【特許文献2】特開2006-166615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来のセル電圧の均等化制御では、制御の実施時における最低電圧のセルを基準とした均等化の操作が実施される。例えば、特許文献1の技術では、組電池の総電圧が目標電圧値以下であるときに電圧値の最も低い最低セルが特定され、この最低セルと他のセルとの電圧差に基づいて他のセルの放電時間が制御されている。また、特許文献2の技術においても、各セルの電圧が随時モニタされ、最大電圧と最小電圧との電圧差に基づいて電圧平衡回路の動作時間が制御されている。
【0007】
しかしながら、二次電池の充放電特性には個体差があり、個々のセルの特性は一様には低下しない。つまり、充電量や充電率が変化すると、複数のセルのうち電圧が最低となるセルも変化する。したがって、例えば電池の運用中にセル電圧の均等化制御を実施した場合、制御時における最低電圧のセルが、組電池の充電後にも最低電圧のセルであるとは限らず、電圧のばらつきが却って増大する場合がある。
【0008】
また、車両に搭載される組電池の運用形態は、車両の種類によって異なり、これが電圧のばらつきに影響を及ぼす場合がある。例えば、電気自動車では外部充電の頻度が比較的高いため、外部充電を実施する毎にセル電圧の均等化制御を並行して実施することが可能であり、電圧のばらつきが増大しにくい。また、外部電源の電力を利用して均等化制御が実施されるため、制御時間が長引いたとしても電力が不足することがなく、最適なセル電圧の状態を維持しやすい。
【0009】
これに対して、プラグインハイブリッド自動車では、自らが発電した電力で組電池を充電可能であることから、電気自動車と比較して外部充電の頻度が低い。そのため、電気自動車のように外部充電時にセル電圧の均等化制御を実施しただけでは、制御の実施頻度が低くなり電圧のばらつきを十分に抑えることができない。一方、外部充電時以外に均等化制御を実施するとしても、その均等化制御で消費される電力を車両が自ら発電しなければならず、制御時間が長引くほど電力消費量が嵩むことになり、燃費や電費が低下してしまう。このように、従来のセル電圧の均等化制御では、車両の種類や組電池の運用形態の相違によって生じうるセル電圧のばらつきを適切に制御できないという課題がある。
【0010】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、満充電時の電圧のばらつきを抑制し、充電量の変化に対する電圧のばらつきの増大を抑制することができるようにした、車両の電池制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)ここで開示する車両の電池制御装置は、車載の組電池に充電する充電手段と、外部電源からの充電が行われているか否かを判断する判断手段と、前記判断手段により外部電源からの充電が行われていると判断され、かつ、前記組電池が満充電となった際に、前記組電池に含まれる各セルのうち電圧が最も低い最低セルを記憶する記憶手段とを備える。また、この電池制御装置は、前記判断手段により外部電源からの充電が行われていないと判断されているときに、前記最低セルよりも高い電圧を持つセルを放電し、前記最低セルの電圧を目標として前記組電池の電圧を均等化する均等化手段を備える。
【0012】
つまり、前記均等化手段は、各セルの電圧を均等化する時点で、前記最低セルの電圧が最も低い電圧でない場合であっても、前記最低セルの電圧を基準とした均等化を実施する。前記各セルの電圧の均等化は、例えば車両走行時や停止時、電池の負荷が小さい状態で実施することが好ましい。
なお、前記均等化手段による制御は、「均等化制御」,「電圧均等化制御」,「バランサー制御」等と呼ばれる制御である。また、ここでいう「均等化」とは、各セル(複数のセル)の電圧を均等化することを意味する。
【0013】
(2)また、前記組電池の満充電時における各セルの最低電圧及び最高電圧の差に基づき、セル容量差を演算する演算手段と、前記均等化に係る消費電流と前記演算手段で演算された前記セル容量差とに基づき、前記均等化の累積実施時間の上限値を設定する設定手段とを備えことが好ましい。この場合、前記均等化手段が、前記設定手段で設定された前記上限値を超える前記均等化を禁止することが好ましい。
【0014】
(3)また、前記設定手段が、前記組電池が満充電になる毎に前記上限値を再設定することが好ましい。つまり、前記上限値を超える前記均等化が禁止された状態であるときに前記組電池が満充電になると、設定内容をリセットして再び前記均等化を実施可能な状態とすることが好ましい。
【0015】
(4)また、前記均等化手段が、前記組電池の充放電電流の絶対値が所定値未満であることを、前記均等化の実施条件の一つとすることが好ましい。つまり、前記組電池に作用する電気的負荷が比較的小さい場合にのみ、前記均等化を実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
開示の車両の電池制御装置によれば、満充電時の電圧が最も低いセルの開放電圧を目標電圧として、その目標電圧よりも高い電圧を持つセルに放電させるバランサー制御を実施することで、各セルを再び満充電したときに生じうる電池容量のばらつきを小さくすることができる。つまり、最低セルよりも他のセルの電圧が低下した状態であっても、充電量の変化に対する電圧のばらつきの増大を抑制することができる。したがって、組電池全体として使用できる電池容量の減少を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る電池制御装置が適用された車両の構成を例示する側面図である。
図2図1の電池制御装置で実施されるバランサー制御に係る回路図及びブロック図である。
図3図1の組電池に含まれるセルの充放電特性を例示するグラフである。
図4図1の電池制御装置でのバランサー制御の実施手順を例示するフローチャートである。
図5図1の電池制御装置でのバランサー制御の内容を説明するためのグラフであり、(a)はセルの充放電特性を例示するグラフ、(b)は車両走行時(非充電時)の各セルの電圧状態を例示するグラフ、(c)はバランサー制御による電圧の均等化の様子を示すグラフ、(d)は(c)中の実線グラフを横軸方向に水平移動させて示すものである。
図6図1の電池制御装置でのバランサー制御の内容を説明するためのグラフであり、(a)は図5(d)の満充電近傍でのグラフを拡大したもの、(b)はバランサー制御の累積実施時間Tと電圧のばらつきの大きさとの関係を例示するグラフである。
図7】(a)〜(d)は、図1の電池制御装置のバランサー制御時における各セルの電圧状態を例示するグラフである。
図8図1の電池制御装置でのバランサー制御による、満充電時の電圧のばらつきの大きさを例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して車両の電池制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
[1.装置構成]
本実施形態の車両の電池制御装置7は、図1に示す車両10に適用される。この車両10は、エンジン11及びモーター12を併用して車両を駆動するプラグインハイブリッド自動車である。車両10の任意の位置には、モーター12の電力源となるバッテリー13が搭載される。
【0020】
モーター12は、バッテリー13の電力を消費して車両10を走行させる機能と、制動時や慣性走行時における車両10の慣性を利用した発電によって電力を回生する機能とを兼ね備えたモーター・ジェネレーターである。これらの二種類の機能は、車両10の走行状態に応じて適宜制御される。
【0021】
バッテリー13には、互いに接続された複数のバッテリーモジュールが内蔵される。バッテリーモジュールとは、多数のリチウムイオン二次電池のセル9を接続してなる組電池である。セル9間,バッテリーモジュール間の接続構造は任意であり、例えばバッテリー13に要求される定格電圧や定格電流の値に応じて、直列や並列に、あるいはこれらを組み合わせて接続される。なお、バッテリーモジュールは、セル9を単位電池とした組電池であると捉えることができ、バッテリー13は、セル9又はバッテリーモジュールを単位電池とした組電池であると捉えることができる。
【0022】
バッテリー13の充放電状態は、電池制御装置7で把握されて制御される。この電池制御装置7は、マイクロコンピュータで構成された電子制御ユニットであり、例えば周知のマイクロプロセッサやCPU,ROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスである。
本実施形態のバッテリー13は、二種類の充電方式で充電可能とされる。第一の充電方式は外部電源から供給される電力の充電であり、第二の充電方式はモーター12等での発電電力の充電である。これらのバッテリー13の充電時には、自己放電特性のばらつきやセル容量のばらつきにより、電圧にばらつきが生じうる。そこで電池制御装置7は、バッテリー13の各セル9の電圧を均等化するバランサー制御(均等化制御)を実施する。
【0023】
車両10の外表面には、充電ケーブル15を接続するためのインレット14(電力引き込み口,充電手段)が設けられる。充電ケーブル15は、外部電源による充電時に図示しない車外給電装置と車両10とを接続するものである。以下、外部電源によるバッテリー13の充電のことを「外部充電」と呼ぶ。
【0024】
外部充電時には、インレット14に充電ケーブル15を差し込むことで、外部電源と車両10とが接続される。したがって、これらのインレット14,充電ケーブル15は、外部電源から車載のバッテリー13に充電する充電手段として機能する。
なお、本実施形態では、おもに車両10の走行中(車両10の移動中だけでなく、一時停止中や停車中を含む非外部充電時)でのバランサー制御について詳述するが、このバランサー制御は外部充電時に実施することも可能である。
【0025】
図2は、バランサー制御を実施するための電気回路構成を模式的に例示するものである。バッテリー13に含まれる各セル9には、開放電圧を変更するためのバランサー8(均等化回路)が接続される。典型的なバランサー8は、各セル9の電極間を繋ぐ抵抗バイパス回路として形成される。それぞれのバランサー8には、各セル9の両電極間を接続する回路要素16,抵抗要素17,スイッチ要素18及び電圧取得要素19が設けられる。抵抗要素17及びスイッチ要素18は、回路要素16上に直列に介装される。
【0026】
抵抗要素17は、各セル9に蓄電された電力を熱に変換して消費するものである。また、スイッチ要素18は、各セル9の蓄電状態に応じて開閉されて、回路要素16の通電状態を制御するものである。各スイッチ要素18と電池制御装置7との間には、スイッチ要素18の開閉状態(オン/オフ状態)を切り換えるための制御線21が設けられる。
【0027】
電圧取得要素19は、各セル9の開放電圧(無負荷電圧)を検出するものである。開放電圧は、セル9に負荷が作用していない状態で、回路要素16上の抵抗要素17及びスイッチ要素18を挟む二箇所で検出される電圧の差に相当する。以下、セル9の開放電圧のことを単に「電圧」とも呼ぶ。ここで検出された電圧の情報は、信号線22を介して電池制御装置7に伝達される。
【0028】
また、インレット14と電池制御装置7との間には、充電ケーブル15からインレット14への給電状態に応じた情報を伝達する信号線23が接続される。信号線23を介して伝達される情報とは、例えばインレット14への給電がなされているか否かに関する情報や、充電ケーブル15がインレット14に差し込まれているか否かに関する情報等である。電池制御装置7は、信号線23を介して伝達される情報に基づいて、外部充電の実施中であるか否かを判断する。
【0029】
[2.制御構成]
図2に示すように、電池制御装置7には、電圧記憶部1,演算部2,設定部3,条件判定部4及びバランサー制御部5が設けられる。これらの各要素は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、あるいはソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0030】
電圧記憶部1(記憶手段)は、複数の信号線22から入力される各電圧の情報を、その信号線22に対応するセル9の番号と関連付けて記憶するものである。図2では、各セル9に固有のセル番号#1,#2,…,#Nを付し、そのセル番号の添字を用いて各セル9の電圧情報をV1,V2,…,VNと表現している。電圧記憶部1は、各セル9の電圧情報をセル単位でリアルタイムに取得して記憶する。
【0031】
また、電圧記憶部1は、外部電源によるバッテリー13の充電が完了した満充電時に、電圧が最も低いセルを記憶する。例えば、満充電時に各セル9の電圧情報のうちV1が最も小さい値であれば、電圧記憶部1はその電圧情報V1に対応するセル番号#1を記憶する。以下、満充電時の電圧が最も低いセル9のことを「最低セル」と呼ぶ。最低セルのセル番号の情報は、外部充電によりバッテリー13が再び満充電状態となるまでの間は、更新されることなく維持される。
【0032】
演算部2(演算手段)は、二種類の演算を実施するものである。まず、外部充電の実施時には、充電が完了した満充電時における各セル9の最低電圧VXMINと最高電圧VXMAXとの電圧差ΔVXを演算し、この電圧差ΔVXに対応する満充電時の容量差ΔCを演算する。容量差ΔCは、電圧と電池容量との対応関係が表現された数式やマップ等から求められる。ここで演算された容量差ΔCの情報は、設定部3に伝達される。
【0033】
また、外部充電の非実施時には、電圧記憶部1に記憶された最低セルの電圧をその時点の目標電圧VTGTとして、その時点での最高電圧VYMAXと目標電圧VTGTとの電圧差ΔVYを演算する。目標電圧VTGTは、満充電時に最も電圧の低かったセル9がその時点で持っている電圧であって、必ずしもその時点での最低電圧であるとは限らない。例えば、図3に示すように、各セル9の開放電圧と電池容量との関係をグラフ化して充放電特性を表現すると、破線及び一点鎖線で示す二本のグラフのように、同一容量での開放電圧の大小関係が容量に応じて逆転することがある。
【0034】
ここで、破線及び一点鎖線の交点の電圧を交点電圧VZと呼べば、最低セルの電圧が交点電圧VZよりも低い状態では、同一容量で最低セル(一点鎖線の特性を持つセル)よりも電圧の低いセル(破線の特性を持つセル)が存在することになり、目標電圧VTGTがその時点での最低電圧にはならない。特に、ハイブリッド自動車のバッテリー13には、車両10の走行時における目標容量(目標充電量)が50[%]前後に設定されるものがあり、図3に示すように、交点電圧VZよりも低い電圧の範囲で繰り返し運用されるセル9が存在しうる。このような運転領域においても、演算部2は最低セルの電圧を目標電圧VTGTとして演算する。ここで演算された電圧差ΔVYの情報は、条件判定部4に伝達される。
【0035】
設定部3(設定手段)は、バランサー8の作動電流Iと演算部2で演算された容量差ΔCに基づき、バランサー制御の許可時間TMAXを設定するものである。バランサー8の作動電流Iとは、バランサー8のスイッチ要素18をオンにしたときに抵抗要素17に流れる電流である。また、許可時間TMAXとは、バランサー8の駆動時間を累積したときの上限値であり、言い換えると、バランサー制御の累積実施時間Tの上限値である。この許可時間TMAXは、例えば作動電流Iで容量差ΔCを除して求められる。ここで設定された許可時間TMAXの情報は、バランサー制御部5に伝達される。
【0036】
なお、容量差ΔCは、満充電時における各セル9の最低電圧VXMINと最高電圧VXMAXとの電圧差ΔVXに応じた値を持つ。そのため、バッテリー13が外部充電によって再び満充電の状態になると、電圧差ΔVXが変化し、容量差ΔCも変化する。そこで、設定部3は、バッテリー13が満充電の状態になって容量差ΔCの値が更新される度に、新たな許可時間TMAXを再設定する。
【0037】
条件判定部4は、バランサー8を作動させて各セル9の電圧を均等化する制御(バランサー制御)を実施するための条件を判定するものである。ここでは、以下の全ての条件が成立したときに、バランサー制御の実施条件が成立するものと判定される。一方、何れかの条件が不成立の場合には、バランサー制御の実施条件が成立しないものと判定される。これらの判定結果は、バランサー制御部5に伝達される。
【0038】
条件1:車両10が外部充電中でない
条件2:バッテリー13の電気的負荷が小さい状態である
条件3:電圧差ΔVYが所定電圧差ΔVTHを超えている
条件4:バランサー制御の累積実施時間Tが許可時間TMAX未満である
【0039】
上記の条件1は、信号線23を介してインレット14から伝達される情報に基づいて判定される。また、上記の条件2は、バッテリー13の使用中でないか、使用されているとしても単位時間あたりの充放電量が比較的小さい状態であることを確認するための条件である。なお、バッテリー13の充放電量が比較的大きい状態(すなわち、バッテリー13の電力が大量に消費されている状態や、回生発電量が大きい状態等)では、各セル9の開放電圧を正確に取得することが難しく、バランサー制御の精度を向上させにくい。一方、充放電量が比較的小さい状態(すなわち、エンジン11のみで車両10が走行している状態やバッテリー13の電力がほとんど消費されていない走行状態、車両10の停止状態等)では、各セル9の開放電圧が正確に取得されやすく、バランサー8の制御精度が向上する。
【0040】
バッテリー13の充放電量の算出手法は任意であり、バッテリー13での電圧降下量や充放電電流に基づいて把握することが可能である。本実施形態では、バッテリー13からの放電電流やバッテリー13への充電電流の絶対値が所定電流値未満であることを以て、電気的負荷が小さい状態であると判定される。
【0041】
上記の条件3は、演算部2で演算された電圧差ΔVYと所定電圧差ΔVTHとの大小関係を比較することによって判定される。所定電圧差ΔVTHの値は、バッテリー13の特性や種類等に応じて予め設定される固定値としてもよいし、バッテリー13の累積使用時間や充電率(各セル9の平均充電率,最低セルの充電率等)に基づいて設定される変数としてもよい。なお、図3に示すように、各セル9の電池容量が低下するほど、個々のセル9の充放電特性のばらつきに由来する電圧のばらつきが増大する傾向にある。
【0042】
上記の条件4は、設定部3で設定された許可時間TMAXと実測されたバランサー制御の累積実施時間Tとの大小関係を比較することによって判定される。累積実施時間Tは、続いて説明するバランサー制御部5でバランサー制御の実施中に累積的に計測される。この条件により、累積実施時間Tが許可時間TMAXを超えるバランサー制御は、バランサー制御部5で禁止される。
【0043】
バランサー制御部5(均等化手段)は、電圧記憶部1に記憶された最低セルの電圧を目標としてバランサー制御を実施するものである。つまり、ここで実施されるバランサー制御は、その時点での最低電圧が目標電圧VTGTとされるのではなく、その時点での最低セルの電圧が目標電圧VTGTとされる。したがって、図3に示すように、目標電圧VTGTよりも低い電圧のセル9が存在する場合には、それらのセル9はバランサー制御の実施対象から除外される。言い換えると、その時点での最低セルの電圧よりも高い電圧を持つセル9のみが、バランサー制御の実施対象とされる。
【0044】
バランサー制御部5は、条件判定部4でバランサー制御の実施条件が成立したものと判定されたときに、目標電圧VTGTよりも高い電圧を持つセル9のスイッチ要素18に対してオン信号を出力し、バランサー8を作動させる。バランサー制御部5は、目標電圧VTGTよりも高い電圧を持つセル9を放電させることによって電池電圧を均等化する均等化手段として機能する。
【0045】
また、バランサー制御部5は、バランサー8を作動させた累積実施時間Tを計測し、その情報を条件判定部4に伝達する。ここで計測された累積実施時間Tの情報は、上記の条件4の判定で用いられる。累積実施時間Tが許可時間TMAXを超えると条件4が不成立となり、バランサー制御が禁止されることになる。なお、設定部3で新たな許可時間TMAXが再設定される毎に、累積実施時間Tの計測値も0にリセットされる。したがって、累積実施時間Tは、外部充電が実施されてバッテリー13が満充電の状態になる度にリセットされる。
【0046】
[3.フローチャート]
図4は、電池制御装置7で実施されるバランサー制御の手順を例示するフローチャートである。このフローは、予め設定された所定周期(例えば、数十[ms]サイクル)で繰り返し実施される。なおここでは、外部充電の不実施時におけるバランサー制御を取り上げて説明するが、外部充電時にバランサー8を作動させることを妨げる意図はない。
【0047】
ステップA10では、複数の信号線22から各セル9の開放電圧の情報が電池制御装置7に入力され、電圧記憶部1に記憶される。また、続くステップA20では条件判定部4において、信号線23を介してインレット14から伝達される情報に基づき、外部充電中であるか否かが判定される。ここでの判定内容は、上記の条件1に対応する。ここで外部充電中である場合にはステップA30に進み、外部充電中でない場合にはステップA90に進む。
【0048】
ステップA30では、例えば電圧記憶部1や演算部2において、各セル9の電圧情報等に基づきバッテリー13が満充電状態であるか否かが判定される。ここで、満充電状態であると判定された場合にはステップA40に進み、電圧が最も低いセルが「最低セル」として記憶される。このとき、すでに別の最低セルが記憶されていた場合には、その内容が更新されて上書き保存される。また、続くステップA50では、演算部2において、電圧記憶部1に記憶された各セル9の電圧情報の中から最低電圧VXMINと最高電圧VXMAXとに対応する情報が抽出され、これらの電圧差ΔVXが演算される。
【0049】
ステップA60では、演算部2において、前ステップで得られた電圧差ΔVXに対応する容量差ΔCが演算される。また、設定部3では、容量差ΔCをバランサー8の作動電流Iで除した値がバランサー制御の許可時間TMAXとして設定される。さらに、ステップA70では、バランサー制御部5において、バランサー制御の累積実施時間Tの値が0にリセットされ、その周期でのフローが終了する。なお、ステップA30で、満充電状態でないと判定された場合にはステップA80に進み、最低セルの情報(セル番号)が更新されることなく維持される。
【0050】
一方、ステップA20で外部充電中でないと判定された場合に進むステップA90では、ステップA40で記憶された「最低セル」のその時点での電圧が目標電圧VTGTとされる。また、続くステップA100では、演算部2において、その時点での最高電圧VYMAXと目標電圧VTGTとの電圧差ΔVYが演算される。
【0051】
ステップA110では、条件判定部4において、バッテリー13の充放電電流の絶対値が所定電流値未満であるか否かが判定される。この判定内容は上記の条件2に対応する。ここで、電流値の大きさが所定電流値未満であるときには、バッテリー13の電気的負荷が小さい状態であると判断され、ステップA120に進む。一方、この条件が成立しないときには、バッテリー13の電気的負荷が大きく、バランサー制御の実施条件が不成立であるものと判断され、ステップA160に進む。
【0052】
ステップA120では、条件判定部4において、電圧差ΔVYが所定電圧差ΔVTHを超えているか否かが判定される。この判定内容は上記の条件3に対応する。ここで、電圧差ΔVYが所定電圧差ΔVTHを超えているときには条件3が成立し、電圧のばらつきが大きいものと判断されてステップA130に進む。一方、この条件が成立しないときには、バランサー制御の実施条件が不成立であるものと判断され、ステップA160に進む。
【0053】
ステップA130では、バランサー制御の累積実施時間Tが許可時間TMAX未満であるか否かが判定される。この判定内容は上記の条件4に対応する。ここで、累積実施時間Tが許可時間TMAX未満であるときには、上記の条件1〜4の全てが成立し、バランサー制御の実施条件が成立するものと判断されて、ステップA140に進む。このステップA140では、目標電圧VTGTよりも大きい電圧を持つセル9のスイッチ要素18に対してオン信号が出力され、バランサー8が駆動される。このとき、目標電圧VTGT未満の電圧を持つセル9のバランサー8は制御対象外であり、そのセル9に対応するバランサー8は非駆動とされる。続くステップA150では、バランサー制御部5において、バランサー制御の累積実施時間Tがカウントアップ(加算)される。
【0054】
一方、ステップA130の条件が成立しない場合には、バランサー制御の実施条件が不成立であるものと判断され、ステップA160に進む。ステップA160では、全てのバランサー8の駆動が禁止され、すなわち非駆動とされる。
【0055】
[4.作用]
[4−1.セル数が三個の場合]
上記のバランサー制御による各セル9の電圧の変化について、図5図6を用いて説明する。ここでは、セル9の個数が三個である場合について、それぞれのセル9の符号を9a,9b,9cとして、各セル9a,9b,9cの充放電特性グラフを太実線,破線,一点鎖線で示す。
【0056】
外部充電による満充電時に最高電圧であったものはセル9a(太実線)であり、最低電圧であったものはセル9c(一点鎖線)とする。つまり、ここでの最低セルはセル9cである。また、セル9b,9cは、電圧Vが交点電圧VZのときに同一容量となり、電圧Vが交点電圧VZよりも低い状態ではセル9cの電圧がセル9bの電圧を上回るような充放電特性を持つものとする。
【0057】
まず、図5(a)に示すように、外部充電でバッテリー13が満充電となったときには、最低電圧VXMINと最高電圧VXMAXとの電圧差ΔVXが演算され、電圧差ΔVXに対応する容量差ΔCに基づいて、バランサー制御の許可時間TMAXが設定される。
その後、エンジン11やモーター12が駆動され、車両10はバッテリー13の電力を消費しながら走行を継続する。このような車両10の走行時には、図5(b)に示すように、最高電圧VYMAXと目標電圧VTGTとの電圧差ΔVYが演算される。この電圧差ΔVYは、太実線と一点鎖線との間の縦軸方向の距離に相当する。バッテリー13の電力は、一般的な発電制御や回生制御によって適宜補充され、各セル9の電圧が所定電圧以上に維持される。
【0058】
ここで各セル9a〜9cの電圧が、図5(b)中に白丸で示す状態であるときに、電圧差ΔVYが所定電圧差ΔVTHを超えると、上記の条件3が成立する。このとき、他の条件1,2,4がともに成立する状態であれば、バランサー制御が開始される。バランサー制御の実施対象となるセルは、その時点で目標電圧VTGTよりも大きい電圧を持つセル9aのみであり、セル9bは実施対象から除外される。
【0059】
バランサー制御では、セル9aに対応するバランサー8のスイッチ要素18がオンにされ、抵抗要素17に通電される。抵抗要素17では、セル9aに蓄電された電力が消費され、セル9aの電圧が徐々に低下する。したがって、セル9aの電圧は、図5(c)中に矢印で示すように、充放電特性のグラフに沿って低下する。各セル9の電圧のばらつきは、グラフの縦軸方向の位置のばらつきに相当するものであることから、図5(c)に示す状態は、図5(b)に示す状態よりも電圧のばらつきが緩和された状態であるといえる。ただし、この状態のバッテリー13を外部充電で満充電状態にしたときに残留しうる電圧のばらつきを、図5(c)のグラフ上で視覚的に表現することは容易ではない。
【0060】
一方、図5(c)の実線グラフを横軸方向に水平移動させることで、満充電時の電圧のばらつきを視覚的にわかりやすく表現することが可能である。図5(d)は、図5(c)上の各セル9の状態に対応する白丸の横軸座標が一致するように、太実線のグラフを右方向にスライドさせたものである。図5(d)中の細実線は図5(c)中の太実線に対応し、図5(d)中の太実線は細実線を横軸方向に距離Sだけ水平移動させたものに対応する。
【0061】
外部充電時に各セル9の電池容量がほぼ均等に上昇するものと仮定すれば、縦軸方向の白丸の最長距離、すなわち、その時点での最高セル電圧に対応する白丸と、最低セル電圧に対応する白丸との間の縦軸方向の距離は、その時点でバッテリー13に残留する電圧のばらつきに相当する大きさとなる。また、外部充電の完了時におけるバッテリー13の電圧が上限電圧VHIによって制限されることを考慮すれば、各セル9の電圧のうち、最も高電圧のものが上限電圧VHIとなる。
【0062】
したがって、図5(d)中の三本のグラフ(太実線,破線,一点鎖線)と上限電圧VHIに対応する水平ラインとの交点のうち、最も左側(低容量側)に位置する交点が満充電時における最高電圧に対応するものとなり、他のセルの状態はその交点と横軸方向の座標が同一の点として表現することができる。
【0063】
また、このような満充電時における電圧のばらつきの大きさは、太実線を移動させる距離Sに応じて変化する。つまり、図5(c)中に示すように、バランサー制御でのセル9aの電圧変化量に対応する電池容量の変化量に応じて、電圧のばらつきの大きさが変化する。
【0064】
図6(a)は、図5(d)の満充電近傍でのグラフを拡大したものである。セル9aの充放電特性グラフが図6(a)に記号Aで示す位置にあるとき、すなわち、セル9aが満充電時に上限電圧VHIとなる状態では、電圧のばらつきの大きさがセル9aの電圧とセル9cの電圧とで決定される。少なくともセル9aが上限電圧VHIである限り、太実線を移動させる距離Sが増加するほど満充電時の容量が増加し、電圧のばらつきが減少する。
【0065】
また、セル9aの充放電特性グラフが記号Bで示す位置にあるとき、すなわち、セル9bが満充電時に上限電圧VHIとなる状態では、電圧のばらつきの大きさがセル9bの電圧とセル9cの電圧とで決定され、セル9aの電圧はこれらの中間に位置する。このように、満充電時のセル9aの電圧が上限電圧VHIよりも小さく、かつセル9cの電圧よりも大きい場合には、太実線を移動させる距離Sの大小に関わらず、電圧のばらつきが一定となる。
【0066】
一方、セル9aの充放電特性グラフが記号Cで示す位置にあるとき、すなわち、セル9aが満充電時の最低電圧VXMINをとる状態では、電圧のばらつきの大きさがセル9bの電圧とセル9aの電圧とで決定される。この場合、太実線を移動させる距離Sが増加するほど満充電時のセル9aの電圧が低下することから、バッテリー13全体での電圧のばらつきも増加する。
【0067】
図6(b)は、上記の距離Sに相関するバランサー制御の累積実施時間T(バランサー8の累積駆動時間)と電圧のばらつきの大きさとの関係を例示するグラフである。累積実施時間Tがある程度増加するまでの間は、時間が増加するほど電圧のばらつきが減少する。また、累積実施時間TがT1のときに、図6(a)中における太実線と破線との交点の電圧が上限電圧VHIに一致すると、累積実施時間Tがそれ以上に延びてもしばらくの間は、電圧のばらつきが一定となる。
【0068】
さらに、累積実施時間TがT2のときに、図6(a)中における太実線と一点鎖線の交点の電圧が満充電時の最低電圧に一致すると、その後は累積実施時間Tが延びるほど電圧のばらつきが増加する。図6(b)中の記号A〜Cはそれぞれ、セル9aの充放電特性グラフが図6(a)中の記号A〜Cで示す位置にあるときの状態に対応する。
【0069】
上記の電池制御装置7の演算部2では、満充電時における各セル9の最低電圧VXMINと最高電圧VXMAXとの電圧差ΔVXが演算されるとともに、この電圧差ΔVXに対応する容量差ΔCが演算される。また、設定部3では、容量差ΔCをバランサー8の作動電流Iで除したものがバランサー制御の許可時間TMAXとして設定される。
【0070】
これにより、満充電時におけるセル9aの電圧がセル9cの電圧とほぼ一致する程度までバランサー8が駆動された時点で(許可時間TMAXが少なくともTMAX≦T2の範囲で)、それ以上のバランサー制御が禁止される。つまり、図6(a)中で太実線を移動させる距離Sが制限され、太実線が点Qよりも下方に移動することが阻止される。したがって、満充電時の電圧のばらつきは、各セル9の充放電特性に応じたほぼ最小の値となる。
【0071】
[4−2.対象セル数がM個の場合]
図7(a)〜(d)は、バランサー制御の実施対象となるセル数がM個であるときのバランサー8の駆動順序を示すグラフである。ここでは、図7(a)に示すように、バランサー制御が開始された時点で最も高電圧のセル9から、電圧の高い順にセル番号#1,#2,#3,…,#Mを付し、セル番号#Mの電圧が目標電圧VTGTであるものとする。
【0072】
最初に駆動対象となるバランサー8は、目標電圧VTGTよりも大きい電圧を持つセルのうち、最も高電圧であるセル番号#1のセル9に対応するバランサー8である。バランサー制御部5は、セル番号#Mの電圧を目標電圧VTGTとして、セル番号#1のセル9に対応するバランサー8のみを駆動する。この制御は、図7(a)中に太実線で示すグラフのみを横軸方向に水平移動させる操作に対応する。
【0073】
続いて、図7(b)に示すように、セル番号#1の電圧とセル番号#2の電圧とが一致し、これらの二つのセルがその時点での最大電圧を持つセル9となる。そこでバランサー制御部5は、セル番号#Mの電圧を目標電圧VTGTとして、セル番号#1,#2のセル9に対応する各バランサー8を駆動する。この制御は、図7(b)中に太実線及び中実線で示す二本のグラフをともに横軸方向に水平移動させる操作に対応する。
【0074】
その後、図7(c)に示すように、セル番号#1〜#3の電圧が一致すると、これらの三つのセルがその時点での最大電圧を持つセル9となる。したがってバランサー制御部5は、セル番号#Mの電圧を目標電圧VTGTとして、セル番号#1〜#3のセル9に対応する各バランサー8を駆動する。この制御は、図7(c)中に太実線,中実線及び細実線で示す三本のグラフをともに横軸方向に水平移動させる操作に対応する。
【0075】
このように、バランサー制御の実施対象となるセル数が複数存在する場合には、対応するセル9の電圧が高い順にバランサー8が駆動されるとともに、制御時間が経過するに連れて同時に作動するバランサー8の数が増加するように制御が実施される。言い換えると、図7(a)〜(d)に示すように、最も劣化度の小さいセルに対応する(紙面の左側に位置する)グラフから、劣化度の低い順に横軸方向に水平移動させる操作が実施されるとともに、時間経過とともに移動させるグラフの本数を増加させる制御が実施される。また、図7(d)に示すように、累積実施時間Tが許可時間TMAXに達した時点でセル番号#1〜#Mの全てのセル9の電圧が目標電圧VTGTにほぼ一致することになり、バランサー制御が完了する。
【0076】
[5.電圧のばらつきの変化]
図8(a)〜(c)は、上記のセル9aに劣化していない新品のものを使用し、セル9b,9cのそれぞれの劣化度がそれぞれ、大,小である場合に、満充電時の電圧のばらつきがどの程度の大きさになるのかを予測したシミュレーション結果を示すグラフである。図8(a)は、それぞれのセル9a〜9cの充放電特性グラフを示す。このバッテリー13の満充電時における電圧のばらつきの大きさは、図8(a)中に示す黒丸間の縦軸方向の距離に相当する。ここで、バッテリー13の使用中にそれぞれのセル9a〜9cの電圧が、図8(a)中に白丸で示す状態であるときにバランサー制御を実施した場合に、満充電時の電圧のばらつきがどの程度変化するのかを予測したものが、図8(b),(c)である。
【0077】
まず、バランサー制御の実施時における最低電圧となるセル9bを基準として、バランサー8を作動させた場合には、セル9a,9cの電圧がセル9bの電圧と一致するようにバランサー制御が実施される。したがって、図8(b)に示すように、実線及び一点鎖線のグラフが点P1を通るように水平移動させた状態での満充電時の電圧差ΔVXが、電圧のばらつきの大きさとなる。図8(b)に示す電圧差ΔVXは、図8(a)に示す初期状態での電圧差ΔVXよりも増大していることがわかる。
【0078】
一方、セル9bの代わりにセル9cを基準としてバランサー8を作動させた場合には、セル9aの電圧がセル9cの電圧と一致するようにバランサー制御が実施され、セル9bはバランサー制御の実施対象から除外される。したがって、図8(c)に示すように、実線のグラフが点P2を通るように水平移動させた状態での満充電時の電圧差ΔVXが、電圧のばらつきの大きさとなる。図8(c)に示す電位差ΔVXは、図8(a)に示す初期状態での電圧差ΔVXよりも減少しており、すなわち電圧のばらつきが抑制されていることがわかる。
【0079】
[6.効果]
(1)このように、上記の電池制御装置7では、満充電時の電圧が最も低いセルの開放電圧を目標電圧VTGTとしたバランサー制御が実施される。つまり、バランサー制御を実施する時点での最低電圧ではなく、満充電時の充放電特性が最も劣るセルの電圧が参照される。このような制御により、各セルを再び満充電にしたときに生じうる電池容量のばらつきを小さくすることができる。つまり、最低セルよりも他のセルの電圧が低下した状態であっても、充電量の変化に対する電圧のばらつきの増大を抑制することができる。したがって、バッテリー13全体として使用できる電池容量の減少を抑えることができる。
【0080】
(2)また、上記の電池制御装置7では、条件1に示すように、外部充電が実施されていないときにバランサー制御が実施される。したがって、例えば電気自動車のように日常的に外部充電が実施される車両だけでなく、プラグインハイブリッド自動車のように外部充電の実施頻度が低い車両においても、セル電圧のばらつきを十分に抑制することができる。
【0081】
(3)また、上記の電池制御装置7では、バランサー制御の実施対象が最低セルの電圧よりも大きい電圧を持つセル9のみとされ、最低セルよりも低い電圧を持つセル9がその実施対象から除外される。この除外されるセル9は、再び満充電状態となったときに、最低セルよりも高電圧になると推定されるセル9である。そのため、最低セルよりも低い電圧を持つセル9に対して、その電圧を最低セルの電圧まで上昇させるようなバランサー制御を実施した場合には、満充電時に却って電池容量のばらつきが増大する。
【0082】
このような課題に対し、上記の電池制御装置7では、最低セルよりも低い電圧を持つセル9がバランサー制御の実施対象から除外されるため、各セル9を再び満充電したときに生じうる充電電圧のばらつきを抑制することができ、その結果、電池容量のばらつきを小さくすることができる。
また、最低セルよりも低い電圧を持つセル9に対してはバランサー制御が実施されないため、電圧を均等化するのに消費される電力を節約することができ、無駄なく電圧のばらつきを抑えることができる。
【0083】
(4)また、上記の電池制御装置7では、満充電時の容量差ΔCとバランサー8の作動電流Iとに基づいてバランサー制御の許可時間TMAXが設定される。これにより、図6(b)に示すように、満充電時の電圧のばらつきが増大しない程度にバランサー8を作動させることができる。つまり、電圧の過剰な均等化操作を抑制することができ、各セル9を再び満充電したときに生じうる充電電圧のばらつきをさらに小さくすることができる。また、車両10が外部電源に接続されていない状態で実施されるバランサー制御の実施時間が過度に延長されることがないため、バランサー8での電力消費量を減少させることができる。これにより、車両10の燃費や電費を向上させることができる。
【0084】
(5)また、上記の電池制御装置7では、バッテリー13が満充電になる毎にバランサー制御の許可時間TMAXが再設定されるため、均等化操作が過度に禁止されることがなく、充電電圧のばらつきをさらに小さくすることができる。
(6)また、上記の電池制御装置7では、少なくとも条件2が成立する状態、すなわち、バッテリー13の電気的負荷が小さい状態でバランサー制御が実施されるため、適切に各セル9の電圧を均等化することができ、制御精度を向上させることができる。
【0085】
(7)なお、上記の電池制御装置7では、例えば車両10の走行中や信号待ち中,停車中など、外部充電以外のさまざまな状態でバランサー制御が実施される。このバランサー制御は、外部充電中にも実施することが可能である。この場合、上記の制御により充電電圧のばらつきが小さくなることから、外部充電中のバランサー制御での消費電力を低減することができるとともに、充電時間を短縮することができる。
【0086】
[7.変形例]
上述の実施形態では、抵抗バイパス回路として形成されたバランサー8を例示したが、バランサー8の具体的な構造はこれに限定されない。例えば、各セル9の電圧を個別に制御する代わりに、複数のセル9の電圧を一括で制御するバランサー8を用いてもよいし、各セル9間で電力を分配するバランサー8を用いてもよい。
【0087】
なお、複数のセル9の電圧を一括で制御する場合には、例えばバッテリーモジュール毎の平均電圧を制御することが考えられる。この場合、満充電時の電圧が最も低い最低セルを含むバッテリーモジュールを上述の実施形態における最低セルと同等に取り扱い、他のバッテリーモジュールを上述の実施形態における他のセルと同等に取り扱うことで、上述の実施形態と同様の作用,効果を奏するものとなる。
【0088】
また、上述の実施形態では、リチウムイオン二次電池の組電池におけるバランサー制御について詳述したが、制御対象となる電池の種類はこれに限定されない。例えば、車両10に搭載される鉛蓄電池(いわゆる12Vバッテリー)を組電池としたものに適用してもよいし、あるいはリチウムイオン二次電池の代わりにリチウムイオンキャパシターやニッケル水素蓄電池,アルカリイオン蓄電池等が使用された組電池に適用してもよい。
【0089】
また、上述の実施形態では、条件3で電圧差ΔVYと所定電圧差ΔVTHとの大小関係を判定している。つまり、最高電圧VYMAXが目標電圧VTGTからどの程度大きいのかを判定している。このような判定条件の代わりに、個々のセル9の電圧と目標電圧との電圧差ΔVZを求め、電圧差ΔVZと所定電圧差ΔVTHとの大小関係を判定するような構成としてもよい。つまり、各セル9の個々について、バランサー制御を実施するか否かを判定してもよい。
【0090】
また、上述の実施形態では、車両10の走行中(車両10の移動中だけでなく、一時停止中や停車中を含む非外部充電時)でのバランサー制御について詳述したが、このバランサー制御は外部充電時に実施することも可能である。少なくとも、図3に示すように、同一容量での開放電圧の大小関係が容量に応じて逆転するセル9がバッテリー13内に存在するときに、交点電圧VZよりも低電圧の領域で上記のバランサー制御を実施することで、従来の均等化制御よりも満充電時の電圧のばらつきを減少させることができ、充電量の変化に対する電圧のばらつきの増大を抑制することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 電圧記憶部(記憶手段)
2 演算部(演算手段)
3 設定部(設定手段)
4 条件判定部
5 バランサー制御部(均等化手段)
7 電池制御装置
8 バランサー
9 セル
13 バッテリー
14 インレット(充電手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8