(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の施工管理システムにより部材が設置されているか否かを判定する際には、観測装置を用いて取得した距離情報の個数が、観測装置と、対象部材との間の距離に応じて変化する(すなわち、対象部材が同じであっても、当該距離が短ければ距離情報の個数は多くなり、当該距離が長ければ距離情報の個数は少なくなる)ので、単純な閾値を用いても、精確に判定できない。
【0005】
また、対象部材と、観測装置との間に仮設された他部材があると、その分だけ対象部材に対応する距離情報の個数が少なくなるので、単純な閾値では精確に判定できない。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、施工現場における部材の設置、未設を精度よく判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、施工現場に部材が設置されているか否かを判定する部材設置判定システムであって、前記施工現場に設置された各部材の各面の、所定の3次元座標系における座標値の範囲を示す設計データである部材面データを記憶する手段と、所定の位置に設置され、前記施工現場を観測し、現場点群データを取得する観測手段と、前記取得した現場点群データから、前記記憶した各部材の各面の部材面データのうち、所定の部材の所定の面の部材面データが示す前記範囲に座標値が含まれる点群を抽出する手段と、前記抽出した点群の個数をカウントする手段と、前記抽出した点群が前記3次元座標系において占める面積を計算する手段と、前記カウントした点群の個数を、前記計算した面積で除算して、前記所定の面における点群密度を算出する手段と、前記観測手段の設置位置の座標値及び前記抽出した点群の座標値に基づいて、前記観測手段と、前記所定の面との間の距離を計算する手段と、前記算出した点群密度と、前記計算した距離とに基づいて、前記所定の部材が設置されているか否かを判定する手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
カメラ等の観測手段で取得した部材の点群数は、観測手段と、部材との間に障害物があれば、その障害物によって部材の一部が遮られるので、その分減少する。また、上記部材の点群数は、観測手段と、部材との間の距離に応じて変化する。すなわち、対象となる部材が同じであっても、観測手段との間の距離が短ければ、点群が密になって点群数は多くなり、その距離が長ければ、点群が疎になって点群数は少なくなる。
【0009】
上記の構成によれば、部材の点群が占める面積ではなく、点群数を面積で除算した点群密度を考慮することにより、対象となる部材の手前に仮設部材等の障害物があるために、部材全体が観測されなくても、その一部が観測されていれば、部材の設置を把握することができる。そして、観測手段と、部材との間の距離を考慮することにより、その距離の長短にかかわらず、部材設置の判定を精度よく行うことができる。
【0010】
また、本発明の上記部材設置判定システムにおいて、前記座標値の範囲には、前記部材の施工誤差が含まれることとしてもよい。
【0011】
この構成によれば、部材の大きさや設置位置に施工誤差を加味する、すなわち、設計データから得られる部材各面の座標値±施工誤差の範囲を用いて、現場点群データから該当する点群を抽出することにより、多少の施工誤差があったとしても、部材の設置、未設を適切に判定することができる。
【0012】
また、本発明の上記部材設置判定システムにおいて、前記観測手段は、複数
の時点で前記現場点群データを取得するとともに、前記取得した現場点群データごとに、各点群及び前記観測手段の間の距離と、当該距離にある点群の個数との関係を示す点群分布データを作成する手段と、前記現場点群データごとに作成した複数の点群分布データのうち、共通でない部分を移動体として特定し、共通である部分を静止体として特定する手段と、
をさらに備え、前記点群を抽出する手段は、前記現場点群データのうち、前記特定した移動体に対応する点群を、
抽出する点群から除外することとしてもよい。
【0013】
この構成によれば、施工現場を所定の時間間隔で複数回観測し、取得した、複数個の現場点群データにおける点群数の距離分布を照合し、共通しない部分を移動体(例えば、作業員等)とみなして除外する。一方、共通する部分は、静止体、すなわち、設置判定の対象である部材とする。従って、部材と、観測手段との間を通過する移動体の画像を対象から排除することができる。これによれば、大量の現場点群データから移動体の点群を除くことにより、その分だけコンピュータの計算量を抑え、処理時間を短くすることができる。
【0014】
また、本発明の上記部材設置判定システムにおいて、前記観測手段の設置位置の座標値は、座標値が既知である基準点を撮影し、その基準点を撮影した画像に基づいて特定されることとしてもよい。
【0015】
この構成によれば、カメラ等の観測手段の位置を取得する際に、視通の利く必要がある自動追尾式測量器や、上空が開けていることが必要なGPS(Global Positioning System)を用いることなく、3次元座標系の位置が予め確定している基準点を用いることにより、観測手段の位置を取得する。これによれば、自動追尾式測量器やGPS等の問題点を解消し、施工現場の環境に影響されることなく、観測手段の位置を精度よく測定することができる。
【0016】
その他、本願が開示する課題及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、施工現場における部材の設置、未設を精度よく判定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。本発明の実施の形態に係る部材設置判定システムは、施工現場において、事前に、部材を撮影するための観測装置を設置し、その観測範囲内に基準点を設け、その基準点の撮影結果及び座標位置から観測装置の設置位置を特定するとともに、3次元CAD上における部材の設計データを面の集合データ(部材面データ)として作成する。次に、観測装置を用いて、施工現場の3次元点群データ(現場点群データ)を取得し、部材面データ及び施工誤差を用いて絞り込み、部材ごとに分類する。そして、部材ごとに絞り込んだ3次元点群データの点群密度及び観測装置からの距離に基づいて、建方の完了、未了(すなわち、部材の設置、未設)を判定するものである。
【0020】
なお、部材設置判定システムは、複数の平面からなる(例えば、直方体形状の)部材を設置判定の対象とし、観測装置の設置位置及び設計データ上の部材の位置(観測装置に対する部材の相対位置)が予め把握されていることを前提とする。
【0021】
これによれば、施工現場において、設計データ上の部材が設置されているか否かを精度よく判定することができる
≪システムの構成と概要≫
図1は、部材設置判定システム1の構成を示す図である。部材設置判定システム1は、観測装置2及びサーバ3を備える。観測装置2は、対象部材4を含む施工現場を撮影し、その撮影した画像から3次元点群データを取得し、サーバ3に送信する装置であり、各部材を撮影するために、複数台のレーザースキャナーやステレオカメラ等が観測装置2として施工現場に設置される。サーバ3は、観測装置2から対象部材4の3次元点群データを受信し、そのデータの処理を行うことにより、対象部材4の設置、未設を判定する。
【0022】
図1に示すように、対象部材4の位置を特定する座標系として、各観測装置2に固有の観測装置座標系(X、Y、Z)と、施工現場に固有の現場ローカル座標系(x、y、z)とが設定される。次に、2つの基準点MK1及びMK2が設置され、それぞれの現場ローカル座標位置を(x
m1、y
m1、z
m1)及び(x
m2、y
m2、z
m2)とする。そして、観測装置2から基準点MK1及びMK2を撮影することにより、観測装置2と、2つの基準点との間の距離が測定される。その測定原理の詳細は、特開2012−67462号公報の段落0040〜0043、
図13等を参照のこと。さらに、観測装置2と、2つの基準点との間の距離に基づいて、観測装置2の現場ローカル座標系の位置(x
c、y
c、z
c)が計算される。なお、基準点MK1及びMK2、観測装置2は同じ高さに位置しており、z
m1=z
m2=z
cを前提とする。
【0023】
観測装置2の現場ローカル座標系の位置(x
c、y
c、z
c)を用いることにより、
図1に示す観測装置座標系(X、Y、Z)から現場ローカル座標系(x、y、z)への変換が可能になる。その変換は、次の式1で行われる。
x=x
c−Z
y=y
c+X
z=z
c+Y ・・・式1
【0024】
図2は、観測装置座標系を示す図である。観測装置2は、右レンズLr及び左レンズLlを備えており、両レンズは、基線長Bの間隔を空けて固定される。右レンズLrは、右光軸上焦点距離fの位置に右撮像面を有し、対象点を撮影すると、右撮像面上の2次元座標系にある点の座標(x
r、y
r)が特定される。一方、左レンズLlは、左光軸上焦点距離fの位置に左撮像面を有し、対象点を撮影すると、左撮像面上の2次元座標系にある点の座標(x
l、y
l)が特定される。このとき、視差として、右撮像面上にある点と、左撮像面上にある点との間の距離dが、次の式2により求められる。そして、観測装置座標系のZ軸として、左レンズLlの左光軸を適用すれば、対象点の座標位置は、式3により求められる。
d=B+x
r−x
l ・・・式2
Z=Bf/(B−d)=Bf/(x
l−x
r)
X=Zx
l/f=Bx
l/(x
l−x
r)
Y=Zy
l/f=By
l/(x
l−x
r) ・・・式3
【0025】
以上によれば、まず、観測装置2を用いて対象点を撮影した際に、右撮像面上にある点の座標(x
r、y
r)及び左撮像面上にある点の座標(x
l、y
l)を取得する。次に、式2及び式3を用いて、(x
r、y
r)及び(x
l、y
l)から観測装置座標系の位置(X、Y、Z)を計算する。そして、式1を用いて、観測装置座標系の位置(X、Y、Z)から現場ローカル座標系の位置(x、y、z)を計算する。これにより、対象点の現場ローカル座標系の位置を求めることができる。
【0026】
図3は、サーバ3のハードウェア構成を示す図である。サーバ3は、通信部31、表示部32、入力部33、処理部34及び記憶部35を備え、各部がバス36を介してデータを送受信可能なように構成される。通信部31は、無線ネットワークを介して観測装置2とIP(Internet Protocol)通信等を行う部分であり、例えば、NIC(Network Interface Card)等によって実現される。表示部32は、処理部34からの指示によりデータを表示する部分であり、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等によって実現される。入力部33は、オペレータがデータ(例えば、基準点MK1、MK2の座標位置等のデータ)や指示を入力する部分であり、例えば、キーボードやマウス、タッチパネル等によって実現される。処理部34は、所定のメモリを介して各部間のデータの受け渡しを行うととともに、サーバ3全体の制御を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)が所定のメモリに格納されたプログラムを実行することによって実現される。記憶部35は、処理部34からデータを記憶したり、記憶したデータを読み出したりするものであり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性記憶装置によって実現される。
【0027】
≪データの構成≫
図4は、サーバ3の記憶部35に記憶されるデータの構成を示す図である。記憶部35には、部材モデルデータ351、面モデルリストデータ352、座標変換式データ353、3次元点群データ354、Z値ヒストグラムデータ355、施工誤差データ356及びクラス別閾値データ357が記憶される。
【0028】
部材モデルデータ351は、施工現場に設置される部材の3次元CADデータであり、立体である部材を平面図、立面図、断面図、透視図等の図面として表現したデータである。
【0029】
図6は、4本の柱及び4本の大梁が設置された状態を示す図であり、部材モデルデータ351の例を示す。
図6(a)は平面図を示し、
図6(b)は正面図を示す。それぞれにおいて、現場ローカル座標系における、各部分の座標位置が示される。例えば、柱CX1Y1は、x座標の−300から300までの間にあり、y座標の−300から300までの間にあり、z座標の0から4000までの間にある直方体である。一方、大梁GY1X1は、x座標の300から5700までの間にあり、y座標の−200から200までの間にあり、z座標の3000から4000までの間にある直方体である。
【0030】
面モデルリストデータ352は、部材モデルデータ351により表現される部材のうち、外部の観測装置2から撮影可能な面を定義し、その中から所定値以上の面積を持つ面を抽出したもの(面リスト)である。詳細には、現場ローカル座標系のx軸、y軸、z軸を法線ベクトルとする部材の各面を矩形とみなし、それらの各矩形面に関して、現場ローカル座標系における範囲(各座標の始点及び終点)を規定する。
【0031】
図7は、面モデルリストデータ352の例を示す図である。面モデルリストデータ352は、部材名、法線ベクトル、x始点、x終点、y始点、y終点、z始点及びz終点を含む、部材の個数分及び各部材の面数分のレコードからなる。
図6(a)及び(b)を参照しながら
図7を説明すると、例えば、柱CX1Y1において、x軸を法線ベクトルとする平面は2つあり、x座標はそれぞれ−300及び300であり、y座標は−300〜300、z座標は0〜4000であることが規定されている。また、大梁GY1X1において、y軸を法線ベクトルとする平面は2つあり、y座標はそれぞれ−200及び200であり、x座標は300〜5700、z座標は3000〜4000であることが規定されている。
【0032】
座標変換式データ353は、観測装置2ごとに、観測装置座標系の位置(X、Y、Z)を現場ローカル座標系の位置(x、y、z)に変換する式を示すデータであり、例えば、式1が記憶される。3次元点群データ354は、観測装置2により取得された、建築現場の施工状況を示すデータであり、詳細には、大量の対象点(撮影画像における各画素)の座標値が所定の時間間隔ごとに複数組記憶される。3次元点群データ354としては、観測装置座標系及び現場ローカル座標系のそれぞれの座標位値が記憶される。
【0033】
Z値ヒストグラムデータ355は、観測装置座標系の3次元点群データ354における、Z座標値と、ピクセル数との関係を示すヒストグラムのデータ(点群分布データ)であり、観測装置2からの各距離における、部材やその他の物体の面の分布を意味する。Z値ヒストグラムデータ355は、施工現場を撮影した画像ごとに作成される。
【0034】
図8は、上記ヒストグラムの例を示す図である。
図8(a)は、クラスを説明するための図である。クラスとは、1個の部材又は物体の存在を示すZ座標値(観測装置座標系)の範囲を示す。Z1、Z2、・・・、Zn−1、Znは、ピクセル数が極小になるときのZ座標値である。そして、Z座標値が0〜Z1の範囲をクラス1と呼び、Z1〜Z2の範囲をクラス2と呼び、さらに、Zn−1〜Znの範囲をクラスnと呼ぶ。
【0035】
なお、Z座標値によるZ値ヒストグラムデータ355の代わりに、各ピクセル(画素)及び観測装置2の間の距離と、ピクセル数との関係を示すヒストグラムを用いてもよい。
【0036】
施工誤差データ356は、設計情報である面モデルリストデータ352と、実際に設置された対象部材4の位置との間における座標値の誤差を示すデータであり、所定の部材面に対して当該誤差の範囲内にあるピクセルは、当該部材面を構成するピクセルとみなされる。クラス別閾値データ357は、Z値ヒストグラムデータ355により特定されるクラスごとに、部材の建方が完了しているか否かを判定するための、(点群密度×対象点群及び観測装置間の平均距離)に関する閾値を示すデータである。
【0037】
図8(a)に示すように、例えば、クラス2はクラス1より観測装置2からの距離が長い(Z座標値が大きい)ため、同じ部材面の点群であっても撮影面における画素の密度はより疎になる(距離の2乗に反比例する)ので、クラス2の閾値はクラス1の閾値より小さく設定される。
【0038】
≪システムの処理≫
図5は、部材設置判定システム1(観測装置2及びサーバ3)の処理を示すフローチャートである。本処理は、主として、サーバ3において、処理部34が、通信部31により観測装置2との間でデータ通信を行い、記憶部35のデータを参照、更新しながら、観測装置2から取得した3次元点群データを処理して、部材の建方の完了、未了を判定するものである。
【0039】
まず、サーバ3は、3次元CADデータである部材モデルデータ351を用いて、各部材のデータを面の集合モデルとして作成する(S501)。そして、作成した面の集合モデルのうち、所定値以上の面積を持つ面リストを各部材ごとに作成し、面モデルリストデータ352として記憶する(S502)。以上の処理により、施工現場において部材の建方が完了しているか否かを判定するための基礎データがサーバ3の記憶部35に設定される。
【0040】
次に、
図1に示すように、観測装置2により基準点MK1及びMK2を計測し(S503)、サーバ3は、基準点MK1及びMK2の計測データを用いて、観測装置2の現場ローカル座標系の位置(x
c、y
c、z
c)を特定する(S504)。この位置データを用いて、観測装置座標系の位置を現場ローカル座標系の位置に変換する式(例えば、式1)を設定し、座標変換式データ353として記憶部35に記憶する。
【0041】
そして、観測装置2は、Δt秒の時間間隔を空けながら、施工現場の3次元点群データを複数組取得し、サーバ3に送信する(S505)。建設部材は、直方体の形状を有するものが多く、部材の外面のうち、観測装置2に正対する平面の各画素の座標値が3次元点群データとして取得される。なお、部材の外面のうち、観測装置2に正対する平面がなくても、観測装置2で撮影した結果、いずれかの平面の3次元点群データが取得できればよい。
【0042】
サーバ3は、複数組の3次元点群データを観測装置2から受信し、3次元点群データ354として記憶部35に記憶するとともに、各組に関して、3次元点群データにおけるピクセル数の、観測装置2からの距離(すなわち、Z座標値)に関するヒストグラムを作成し、Z値ヒストグラムデータ355として記憶部35に記憶する(S506)。このとき、サーバ3は、3次元点群データとして、観測装置座標系の位置を観測装置2から受信し、その値を座標変換式データ353により現場ローカル座標系の位置に変換し、観測装置座標系の位置及び現場ローカル座標系の位置を記憶部35に記憶し、観測装置座標系の位置を用いてZ値ヒストグラムデータ355を作成する。
【0043】
続いて、サーバ3は、Z値ヒストグラムデータ355のうち、ピクセル数が極大になる値の個数が最小のものには存在しない点群データをクラス0として特定し、その他の点群データをクラス1以降として特定する(S507)。クラス0は、移動物体を示し、例えば、設置された部材と、観測装置2との間を人が通過した場合に、その人に対応する。クラス1以降は、静止物体を示し、例えば、設置された部材に対応する。
【0044】
図8(b)は1画像目のヒストグラムを示し、
図8(c)はそのΔt秒後に撮影された2画像目のヒストグラムを示す。1画像目と、2画像目とを比較した場合、1画像目にはピクセル数の極大値が3個あるのに対して、2画像目には極大値が2個しかないので、極大値の個数が最小になる2画像目には存在しない、1画像目のZ座標値が0〜Z0の範囲をクラス0とし、それを移動体とみなす。逆に言えば、極大値の個数が最小になる2画像目のヒストグラムは、クラス0、すなわち、移動体のない画像を示す。
【0045】
具体的な処理として、例えば、1画像目にクラス0が存在した場合には、2画像目以降で部材の有無を分析する。2画像目にクラス0が存在した場合には、1画像目で部材の有無を分析する。1画像目及び2画像目にクラス0が存在した場合には、3画像目以降で部材の有無を分析する。
【0046】
一般には、施工現場を撮影した画像をn枚取得した際には、各画像のヒストグラムを作成し、それらを重ね合わせることにより、ピクセル数の極大値の個数が最小の(共通の画像に対応する)ヒストグラム、すなわち、静止体の画像を特定する。これによれば、n枚の撮影画像から、共通でない画像である移動体を排除した、理想的な点群データを抽出することができる。
【0047】
次に、サーバ3は、設計情報として、法線ベクトルごとに、記憶部35の面モデルリストデータ352に含まれる座標値に対して、±施工誤差データ356の値の範囲内にある3次元点群データ354を抽出し、部材ごとに分類する(S508)。例えば、
図7の面モデルリストデータ352のうち、上から3番目のレコードに示される、柱CX1Y1の、y軸を法線ベクトルとし、y座標が−300である面に関しては、施工誤差を10とすれば、y座標が−310〜−290であり、x座標が−300〜300であり、z座標が0〜4000である座標値を抽出する。そして、他の5面に関して抽出した座標値とともに、柱CX1Y1の点群データとして分類する。
【0048】
続いて、サーバ3は、部材ごとに、得られた点群数(座標値の個数)が最も多い面の点群データだけに絞り込む(S509)。すなわち、部材が直方体であるとすれば、その部材の6面のうち、S508で抽出された座標値の個数が最も多い面の点群データだけを残す。これにより、通常は、観測装置2に正対している面だけがS510以降の処理対象となる。
【0049】
次に、サーバ3は、S509で絞り込んだ点群データを3次元CADデータ上の面モデルに正射影する(S510)。詳細には、絞り込んだ点群データの座標値には、設計情報に基づく面モデルリストデータ352で規定される平面上だけでなく、施工誤差の範囲内に含まれるものもあるので、その範囲内にある座標値を観測装置2の方向に沿って上記平面に射影する。これにより、施工誤差の範囲内にある点群データを設計上の部材面に集約することができる。例えば、施工誤差を100とすれば、y座標が300±100の範囲(すなわち、200〜400)のデータをy座標の300に集約する。
【0050】
そして、サーバ3は、点群支配面積を計算し、クラスごとに、点群密度×観測装置2からの距離が所定値以上であるか否かを判定する(S511)。詳細には、まず、点群が存在する画素領域の面積である点群支配面積を画像処理により計算し、一方、面モデルリストデータ352により当該対象面の設計面積を計算する。例えば、画像処理により、点群に外接する図形を特定し、その図形の面積を点群支配面積として計算する。一方、
図7の面モデルリストデータ352のうち、上から3番目のレコードに係る設計面積は、(x終点−x始点)×(z終点−z始点)=(300+300)×(4000−0)=600×4000=2400000と計算される。
【0051】
次に、点群支配面積が設計面積とほぼ等しければ、手前に障害物がないと判断し、点群支配面積が設計面積より小さければ、手前に障害物があると判断する。そして、点群数を点群支配面積で除算して点群密度を算出するとともに、対象点群の観測装置2からの平均距離Dを計算する。平均距離Dを計算する際には、3次元点群データ354のうち、観測装置座標系の座標値を用いる。さらに、点群密度×平均距離Dが所定値以上か否かを判定する。その所定値には、記憶部35のクラス別閾値データ357が用いられる。
【0052】
そして、点群密度×平均距離Dが所定値以上であれば(S511のYes)、部材が設置されているとして、部材は建方完了と判定する(S512)。一方、点群密度×平均距離Dが所定値未満であれば(S511のNo)、部材が設置されていないとして、部材は建方未了と判定する(S513)。
【0053】
以上によれば、S508〜S513の処理を、設計情報から作成した面モデルリストデータ352を参照しながら、施工現場に設置される予定の部材ごとに行うことにより、当該部材が既に設置されているか否かを把握することができる。
【0054】
≪実施例≫
図9は、部材の建方が完了しているか否かの判定の実施例を示す図である。
図9(a)は、観測装置2から見たとき、部材の手前に障害物が存在しない場合のクラス1を示す。この場合、サーバ3は、点群密度×平均距離D≧閾値T1(クラス1の閾値)が成立すれば、部材の建方が完了したと判定する。
【0055】
図9(b)は、クラス1(部材)の手前にクラス0(移動体)が存在する場合を示す。例えば、部材の手前を人が通過すると、人の形にクラス1の点群データが抜けることになる。
図9(a)と比較すると、部材は同じ位置なので、距離は等しく、点群支配面積は小さくなるが、点群密度は変わらない。そのため、サーバ3は、同じ閾値T1を用いて、点群密度×平均距離D≧閾値T1が成立すれば、部材の建方が完了したと判定する。
【0056】
図9(c)は、クラス2(部材)の手前にクラス1(他の部材)が存在する場合を示す。この場合、サーバ3は、
図9(a)及び(b)とは異なる閾値T2を用いて、点群密度×平均距離D≧閾値T2(クラス2の閾値)が成立すれば、部材の建方が完了したと判定する。
【0057】
図9(d)は、クラス2(部材)の手前にクラス1(他の部材)が存在する場合を示す。
図9(c)と比較すると、部材は同じ位置なので、距離は等しく、点群支配面積は大きいが、点群密度は小さい。そのため、サーバ3は、同じ閾値T2を用いて、点群密度×平均距離D<閾値T2が成立すれば、部材の建方が未了であると判定する。
【0058】
なお、
図9(c)及び(d)において、クラス2の手前にあるクラス1が仮設部材である場合には、その仮設部材のデータは、設計情報である面モデルリストデータ352により処理対象外になり、除去される。
【0059】
上記実施の形態では、
図3に示すサーバ3の各部を機能させるために、処理部34で実行されるプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録し、その記録したプログラムをコンピュータに読み込ませ、実行させることにより、本発明の実施の形態に係る部材設置判定システム1が実現されるものとする。この場合、プログラムをインターネット等のネットワーク経由でコンピュータに提供してもよいし、プログラムが書き込まれた半導体チップ等をコンピュータに組み込んでもよい。
【0060】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、部材設置判定システム1を用いることにより、サーバ3に記憶された面モデルリストデータ352の各部材が、観測装置2で撮影された施工現場に設置されているか否かを精確に判定することができる。
【0061】
詳細には、まず、
図5のS511に示すように、サーバ3は、点群密度×観測装置2からの平均距離に基づく判定を行うことにより、観測装置2及び対象部材4の間にある障害物や、その間の距離に拠らず、部材の建方完了、未了を精度よく判断することができる。また、S509に示すように、部材ごとに、その各面のうち、得られた点群数が最も多い面だけを残すことにより、観測装置2に対して最も正対する面だけで部材の建方完了、未了を判断でき、すべての面を処理する必要がないので、システムの負荷軽減を図ることができる。そして、S508に示すように、施工誤差を加味して建方完了、未了を判断するので、多少の施工誤差があっても適切な判定を行うことができる。
【0062】
また、サーバ3は、
図5のS506、S507及び
図8に示すように、3次元点群データ354をヒストグラムによりクラス分けすることにより、移動体をクラス0として効率よく除去することができるとともに、部材の手前に静止した障害物があっても、設計情報を用いて部材設置の判定対象から除外することができる。
【0063】
さらに、
図1及び
図5のS503に示すように、基準点MK1、MK2を用いることにより、観測装置2までの視通が利かない場合やGPSデータが受信できないエリアであっても、観測装置2の位置を測定することができる。
【0064】
以上によれば、施工現場において、無人の状態で建方の完了、未了を判断することができ、例えば、ある部材の設置が終了しているから、その次に設置されるべき部材(資材)の搬入を指示するという運用(物流管理)が可能になる。
【0065】
≪その他の実施の形態≫
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、以下のような実施の形態が考えられる。
【0066】
(1)上記実施の形態では、サーバ3が、点群密度及び観測装置2からの平均距離の乗算値を所定の閾値と比較することにより、部材の建方完了、未了を判定するように説明したが、それらの乗算値に限ることなく、上記点群密度が大きいほど、かつ、上記平均距離が大きいほど、大きく算出される評価値であれば、そのような評価値を用いて判定してもよい。
【0067】
(2)上記実施の形態では、
図4のクラス別閾値データ357に関する説明において、点群密度及び距離の乗算値に関する閾値を、クラス別に設定するように記載したが、クラス0である移動体を除外して、最も手前にある設置部材だけを処理対象にするのであれば、クラス1に対応する閾値だけがあればよく、1つの閾値で済む。
【0068】
(3)上記実施の形態では、
図5のS508〜S510に示すように、法線ベクトルの座標軸に関してだけ施工誤差を適用し、その誤差範囲に含まれる点群データを面モデルに正射影するように説明したが、面モデルの当該平面上の範囲に関しても施工誤差を適用し、その誤差範囲内で外れた点群データも画素数のカウントに含めるようにしてもよい。
【0069】
(4)上記実施の形態では、2つの基準点MK1、MK2を用いて、観測装置2の座標位置を特定するように説明したが、1つの基準点MK1だけを用いてもよい。例えば、基準点MK1と、観測装置2との間の距離を測定するとともに、観測装置2から撮影した基準点MK1の方向(撮影角度)を特定することにより、1つの基準点MK1であっても、観測装置2の座標位置を特定することができる。