(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態にかかるナノ構造物の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートであり、
図2は、第1の実施形態にかかるナノ構造物の製造方法の処理の流れを説明するための図である。本実施形態の
図2では、垂直に交わるX軸、Y軸、Z軸(鉛直方向)を図示の通り定義している。
【0015】
図1に示すように、本実施形態にかかるナノ構造物の製造方法は、ナノ構造層成膜工程S110と、照射工程S120とを含んで構成される。以下、各工程について詳述する。
【0016】
(ナノ構造層成膜工程S110)
ナノ構造層成膜工程S110では、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、MOCVD(Metal Organic CVD)法等を利用して、
図2(a)に示すように、複数のナノ構造体220(
図2中、黒い塗り潰しで示す)を、基板210の表面に対して垂直方向(
図2中、Z軸方向)に延伸するように、基板210の表面に成長させてナノ構造層230を成膜する。なお、ナノ構造層230は、基板210の表面に対して実質的に垂直方向に延伸していればよく、垂直方向を0°としたとき、±10°程度まで傾いていてもよい。
【0017】
基板210は、例えば、シリコン(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコン(Zr)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)等で構成される。基板210の材質に限定はないが、後述するようにナノ構造体220がカーボンナノウォール(カーボンナノフレーク、カーボンナノフラワーと呼ぶ場合もある)やカーボンナノチューブ等の炭素(C)で構成される化合物である場合、シリコン(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコン(Zr)、ニオブ(Nb)等の炭化物を形成しやすい元素を含んで構成されるとよい。ここでは、半導体材料として広く利用されているSiで構成された基板210を例に挙げて説明する。
【0018】
また、基板210のガラス転移点(非晶質固体材料にガラス転移が起きる温度)、または、融点に限定はないが、本実施形態において、基板210は、ガラス転移点、または、融点が700℃未満の物質で構成されている。
【0019】
ナノ構造体220は、延伸方向(
図2中、Z軸方向)に直交する方向(
図2中、X軸方向)の厚みLがナノメートルサイズ(ナノメートルオーダ)の化合物である。ここで、ナノメートルサイズとは数nmから数十nm程度のことを示す。
【0020】
ナノ構造体220は、例えば、C、Si、GaN、GaAs、InP、InNの群から選択される化合物で構成される。具体的に説明すると、ナノ構造体220は、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、シリコンナノチューブ、シリコンナノワイヤ、GaN、GaAs、InP、InNの群から選択される化合物である。
【0021】
ナノ構造体220としてカーボンナノウォールや、カーボンナノチューブ等のナノカーボン材料を成膜することで、二次電池の電極材料とすることができる。また、ナノ構造体220としてGaN、InN等の窒化物半導体を成膜することにより、LED(Light Emitting Diode)やレーザに利用することができ、また、これらのナノ構造体220をSiで構成された基板210に成膜することで、ナノ構造体220を他のデバイスとともにシリコン基板上に搭載することができる。
【0022】
ここでは、ナノ構造体220として、カーボンナノウォールを例に挙げて説明する。
図3は、カーボンナノウォールの概略的な構造を説明するための図である。カーボンナノウォールは、
図3(a)に示すようなグラフェンシート(
図3(a)中、炭素原子Cを白丸で示す)が、
図3(b)に示すように、基板210の表面上に、当該表面に対して垂直方向(
図3(b)中、Z軸方向)に成長したものであり、グラフェンシートの単層体または多層体である。ナノ構造層230が成膜される際、基板210とナノ構造層230との界面には、グラファイト層もしくはアモルファスカーボン層が形成される。
【0023】
ここで、上述したように基板210は、炭化物を形成しやすい元素(ここでは、Si)を含んで構成されるため、基板210とグラファイト層の界面において、グラファイト層が基板210の表面を構成するSi中に溶出する事象、および、グラファイト層に基板210を構成するSiが熱拡散する事象、のいずれか一方の事象、または両方の事象が生じ得る。そして、カーボンナノウォールは、グラファイト層もしくはアモルファスカーボン層を介して、基板210の表面に垂直方向に延伸するように複数形成される。
【0024】
図2(a)に戻って、カーボンナノウォールの厚みLと、各カーボンナノウォール間の距離Dについて説明すると、カーボンナノウォールの基板210と平行な方向(
図2中、X軸方向)の厚みLは、数nmから数十nm程度であり、カーボンナノウォール間の
図2中、X軸方向の距離Dも、数nmから数十nm程度である。
【0025】
なお、カーボンナノウォールは自己組織化機能を有しているため、ナノメートルサイズの構造を組織化するための何らの処理を施さずとも、基板210の表面上に容易にナノ構造層230を成長させることができる。またカーボンナノウォールの成長過程において、何らの処理を施さずとも、複数のカーボンナノウォールの間に、ナノメートルサイズの空隙240が形成される。
【0026】
換言すれば、プラズマCVD装置で、ナノ構造体220としてのカーボンナノウォールを基板210に成膜するだけで、複数のナノ構造体220の間にナノメートルサイズの空隙240を形成しながら、ナノ構造体220を基板210の表面に対して垂直方向に延伸するように成長させることができる。
【0027】
(照射工程S120)
図1に戻って説明すると、照射工程S120では、レーザ光を照射して、ナノ構造体220を加熱するとともに、ナノ構造体220に反応ガスを接触させる。照射工程S120において、YAGレーザ、YLFレーザ、エキシマレーザ等のパルスレーザや、半導体レーザ等のCW(Continuous Wave)レーザを採用することができるが、パルスレーザを用いる方がより好ましい。パルスレーザを走査して照射させることで、CWレーザと比較して、ナノ構造層230の面積(
図2中、XY平面における面積)が大きい場合であっても、実質的に均一にナノ構造体220を加熱することが可能である。また、レーザ光を照射する際には大気雰囲気であっても、真空であってもよい。
【0028】
また、レーザ光の波長は、ナノ構造体220がレーザ光を吸収する波長である。ナノ構造体220がカーボンナノウォールである場合、レーザ光の波長は、193〜2200nm(紫外線波長から近赤外線波長)であり、好ましくは、1000nm(1μm)未満である。レーザ光の波長を1000nm未満とすることで、効率よくカーボンナノウォールを加熱することが可能となる。
【0029】
ナノ構造体220がカーボンナノチューブである場合、レーザ光の波長は、193〜2200nmであるとよく、シリコンナノチューブである場合、レーザ光の波長は、1127nm以下であるとよい。
【0030】
このように、レーザ光の波長を、ナノ構造体220がレーザ光を吸収する波長とすることにより、基板210をほとんど加熱することなく、ナノ構造体220のみを加熱することができる。そして、レーザ光によってナノ構造体220が加熱されるのと並行して、ナノ構造体220に反応ガスを接触させると、
図2(b)に示すように、ナノ構造体220の表面に、反応ガスに由来する物質250(
図2中、ハッチングで示す)が成膜されることとなる。
【0031】
つまり、高い耐熱性を有しない物質(ガラス転移点、または、融点が700℃未満の物質)で構成された基板210上に形成されたナノ構造体220に、反応ガスに由来する物質250を成膜することが可能となる。
【0032】
ここで、反応ガスは、ナノ構造体220への成膜を所望する物質によって適宜選択するとよい。例えば、ナノ構造体220にシリコン系の半導体の成膜を試みる場合、反応ガスは、ケイ素化合物である。また、ナノ構造体220に窒化物半導体の成膜を試みる場合、反応ガスは、窒素化合物と、有機金属化合物とで構成される。ナノ構造体220にヒ素系の半導体の成膜を試みる場合、反応ガスは、ヒ素化合物と、有機金属化合物とで構成される。ナノ構造体220にリン系の半導体の成膜を試みる場合、反応ガスは、リン化合物と、有機金属化合物とで構成される。
【0033】
上記ケイ素化合物は、例えば、シラン(SH
4)である。窒素化合物は、例えば、アンモニア、モノメチルヒドラジン、ヒドラジンである。ヒ素化合物は、例えば、アルシン(AsH
3)であり、リン化合物は、例えば、ホスフィン(PH
3)である。また、有機金属化合物は、例えば、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムである。
【0034】
なお、ナノ構造体220に窒化物半導体の成膜を試みる場合、窒素化合物に代えて、窒素プラズマ中において、レーザ光を照射して、ナノ構造体220を加熱するとともに、ナノ構造体220に有機金属化合物で構成される反応ガスを接触させてもよい。
【0035】
このように、ナノ構造層成膜工程S110、照射工程S120を遂行することによって、
図2(b)に示すように、基板210と、機能層260とを備えたナノ構造物300を製造することができる。ここで、ナノ構造物300を構成する基板210は、上述したようにガラス転移点、または、融点が700℃未満の物質で構成されており、機能層260は、複数のナノ構造体220が、垂直方向に延伸するように複数形成されるとともに、ナノ構造体220の表面に半導体分子(反応ガスに由来する物質250)が形成された層である。
【0036】
以上説明したように、本実施形態にかかるナノ構造物の製造方法によれば、ナノ構造体220を成長させる基板210の材質にかかわらず、すなわち、低融点ガラスやプラスチックといった耐熱性の低い材質で構成された基板210であっても、ナノ構造体220に半導体分子を成膜することが可能となる。
【0037】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、ナノ構造体220に半導体分子を成膜する技術について説明した。しかし、反応ガスを工夫することで、ナノ構造体220をエッチングすることもできる。第2の実施形態では、ナノ構造体220をエッチングするナノ構造物の製造方法について説明する。
【0038】
なお、本実施形態は、上述した第1の実施形態と比較して、照射工程S120における反応ガスが異なるのみであるため、重複説明を省略し、ここでは、反応ガスについて詳述する。
【0039】
本実施形態では、レーザ光を照射して、ナノ構造体220を加熱するとともに、ナノ構造体220に反応ガスとしての水素を接触させることで、照射工程S120を遂行する。また、本実施形態において、ナノ構造体220としてカーボンナノウォールを例に挙げて説明する。
【0040】
図4は、反応ガスとして水素を用いた場合のナノ構造物の製造方法を説明するための図である。
図4(a)、(b)に示すように、照射工程S120において接触される反応ガスとして、水素を用いると、かかる水素によって、カーボンナノウォール(ナノ構造体220)の表面がエッチングされることとなる。具体的に説明すると、
図4(a)に示す照射工程S120を遂行する前のカーボンナノウォールの厚みL1と比較して、
図4(b)に示す照射工程S120を遂行した後のカーボンナノウォールの厚みL2が薄くなる。
【0041】
そうすると、ナノ構造体220がグラフェン様物質となり、グラフェンの特性を帯びることになる。グラフェンは、半導体としての機能を有し、また、透明である。したがって、照射工程S120を遂行し、ナノ構造体220の厚み(
図4中、X軸方向の厚み)を薄くして、ナノ構造体220をグラフェン様物質とすることで、半導体特性を備え、透明(または半透明)なナノ構造物400を製造することができる。したがって、ナノ構造物400は、透明導電膜として利用することが可能となる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態にかかるナノ構造物の製造方法によれば、ナノ構造体220を成長させる基板210の材質にかかわらず、ナノ構造体220を加工することが可能となる。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0044】
例えば、上述した実施形態では、照射工程S120において、レーザ光を照射して、ナノ構造体220を加熱するとしたが、ナノ構造体220が吸収する波長の光を照射することができれば、レーザでなくともよい。例えば、フラッシュランプを用いてもよい。
【0045】
また、上述した実施形態では、ナノ構造体220として、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、シリコンナノチューブ、シリコンナノワイヤ、GaN、GaAs、InP、InNを例に挙げて説明したが、BN、BC
2N、MS
2(Mは、Mo、W、Nb等の金属)で形成されたナノチューブであってもよい。
【0046】
なお、本明細書のナノ構造物の製造方法の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はない。