(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態の一例を図面に基づき説明する。先ず、画像形成装置の全体構成及び動作を説明し、次いで、第1実施形態の要部である定着装置の構成及び動作について説明することとする。なお、以下の説明では、
図1に矢印Hで示す方向を装置高さ方向、
図1に矢印Wで示す方向を装置幅方向とする。また、装置高さ方向及び装置幅方向のそれぞれに直交する方向(Dで示す)を装置奥行き方向とする。
【0015】
[画像形成装置の全体構成]
図1に示すように、画像形成装置10は、電子写真方式により記録媒体の一例としての記録用紙Pに画像を形成する画像形成部12と、記録用紙Pを搬送する媒体搬送部50と、画像が形成された記録用紙Pに対する後処理等を行う後処理部60とを含んで構成されている。さらに、画像形成装置10は、上記各部の制御を行う制御部70、並びに制御部70を含む上記各部に電力を供給する電源部80を含んで構成されている。
【0016】
<画像形成部の構成>
図2に示すように、画像形成部12は、トナー画像を形成するトナー画像形成部20と、トナー画像形成部20で形成された画像を記録用紙Pに転写する転写装置30と、記録用紙Pに転写されたトナー画像を記録用紙Pに定着する定着装置100とを含んで構成されている。トナー画像形成部20は、潜像(静電潜像)を保持する像保持部材の一例としての感光体21と、帯電器22と、露光装置23と、現像装置24と、清掃装置25とを含んで構成されている。これにより、画像形成部12は、感光体21の潜像をトナーで現像してトナー像を形成し、該トナー像を記録用紙Pに転写して画像を形成するようになっている。
【0017】
また、トナー画像形成部20は、色ごとにトナー画像を形成するように複数備えられている。本実施形態では、第1特別色(V)、第2特別色(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の計6色のトナー画像形成部20が設けられている。
図1に示す(V)、(W)、(Y)、(M)、(C)、(K)は、上記各色を示している。転写装置30は、6色分のトナー画像が重畳して1次転写された転写ベルト31から、転写ニップNTにおいて記録用紙Pに6色分のトナー画像を転写するようになっている。
【0018】
(感光体)
感光体21は、円筒状に形成され、図示しない駆動手段によって自軸周りに回転駆動されるようになっている。感光体21の外周面には、一例として負の帯電極性を呈する感光層(図示省略)が形成されている。なお、感光体21の外周面にオーバコート層を形成した構成としても良い。各色の感光体21は、正面視で装置幅方向に沿って直線状に並べて配置されている。
【0019】
(帯電器)
帯電器22は、感光体21の外周面(感光層)を負極性に帯電させるようになっている。本実施形態では、帯電器22は、コロナ放電方式(非接触帯電方式)のスコロトロン帯電器とされている。
【0020】
(露光装置)
露光装置23は、感光体21の外周面に静電潜像を形成するようになっている。具体的には、制御部70を構成する画像信号処理部(図示省略)から受け取った画像データに応じて、変調した露光光L(
図3参照)を帯電器22により帯電された感光体21の外周面に照射するようになっている。この露光装置23による露光光Lの照射によって、感光体21の外周面には静電潜像が形成される。本実施形態では、露光装置23は、光源から照射された光ビームをポリゴンミラーやFθレンズを含む光走査手段(光学系)で走査しつつ感光体21の表面を露光する構成とされている。また、本実施形態では、露光装置23は、色ごとに設けられている。
【0021】
(現像装置)
現像装置24は、トナーTを含む現像剤Gで感光体21の外周面に形成された静電潜像を現像することで、該感光体21の外周面にトナー画像(トナー像)を形成するようになっている。詳細は省略するが、現像装置24は、現像剤Gを収容する容器24A(
図3参照)と、容器24Aに収容された現像剤Gを回転しながら感光体21に供給する現像ロール24B(
図3参照)とを少なくとも含んで構成されている。容器24Aには、現像剤Gを補給するためのトナーカートリッジ27が図示しない補給路を介してつながっている。各色のトナーカートリッジ27は、感光体21、露光装置23に対する上方に正面視で装置幅方向に並べて配置されており、個別に交換可能とされている。
【0022】
(トナー)
トナーTは、粒径が4.5[μm]以下とされている。なお、本実施形態におけるトナーTの粒径とは、後述する体積平均粒子径D50vである。本実施形態では、一例として、トナーTの粒径が3.8[μm]であり、軟化点が109[℃]となっている。なお、トナーTの軟化点は、100[℃]以上125[℃]以下であることが望ましい。ここでは、フローテスター:CFT500(島津製作所社製)を用い、ダイス細孔径0.5[mm]、加圧加重0.98[MPa]、昇温速度1[℃/min]の条件で測定した1/2降下速度(トナーサンプルを溶融流出させた時の流出開始点から終了点の高さの1/2に相当する温度)をトナーTの軟化点としている。
【0023】
詳細には、トナーTは、例えば、結着樹脂、着色剤、及び必要に応じて離型剤などの他の添加剤を含むトナー粒子と、必要に応じて外添剤と、を含んで構成される。なお、本実施形態では、一例として、現像剤GがトナーT及びキャリア(図示省略)を含む2成分現像剤を用いているが、キャリアは現像工程で回収され定着工程で用いられないので、キャリアについての説明を省略する。
【0024】
結着樹脂としては、特に制限はないが、スチレン類(例えばスチレン、クロロスチレンなど)、モノオレフィン類(例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、イソプレンなど)、ビニルエステル類(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニルなど)、α−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類(例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ドデシルなど)、ビニルエーテル類(例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルブチルエーテルなど)、ビニルケトン類(例えばビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロペニルケトン)などの単独重合体および共重合体、ジカルボン酸類とジオール類との共重合によるポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0025】
特に代表的な結着樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸アルキル共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。また、代表的な結着樹脂としては、ポリウレタン、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド、変性ロジン、パラフィンワックスなども挙げられる。
【0026】
着色剤としては、磁性粉(例えばマグネタイト、フェライトなど)、カーボンブラック、アニリンブルー、カルイルブルー、クロムイエロー、ウルトラマリンブルー、デュポンオイルレッド、キノリンイエロー、メチレンブルークロリド、フタロシアニンブルー、マラカイトグリーンオキサレート、ランプブラック、ローズベンガル、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・ブルー15:1、C.I.ピグメント・ブルー15:3などが代表的なものとして挙げられる。
【0027】
その他の添加剤としては、例えば、離型剤、磁性体、帯電制御剤、無機粉体などが挙げられる。離型剤としては、例えば、炭化水素系ワックス;カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックスなどの天然ワックス;モンタンワックスなどの合成或いは鉱物・石油系ワックス;脂肪酸エステル、モンタン酸エステルなどのエステル系ワックス;などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0028】
次に、トナーT(トナー粒子)の特性について説明する。トナーTは、平均形状係数(形状係数=(ML
2/A)×(π/4)×100で表される形状係数の個数平均、ここでMLは粒子の最大長を表し、Aは粒子の投影面積を表す)が、100以上150以下であることが望ましく、105以上145以下であることがより望ましく、110以上140以下であることがさらに望ましい。また、トナーTは、既述のように、粒径(体積平均粒子径D50v)が4.0[μm]以下であることが望ましい。
【0029】
トナーTの体積平均粒径D50vの測定法として、まず、分散剤として界面活性剤(望ましくはアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)の5重量[%]水溶液2[ml]中に、測定試料を0.5[mg]以上50[mg]以下加え、これを電解液100[ml]以上150[ml]以下中に添加する。この測定試料を懸濁させた電解液について、超音波分散器で約1分間分散処理を行い、コールターマルチサイザーII型(ベックマン−コールター社製)により、アパーチャー径が100[μm]のアパーチャーを用いて、粒径が2.0[μm]以上60[μm]以下の範囲の粒子の粒度分布を測定する。測定する粒子数は50,000とする。そして、得られた粒度分布を分割された粒度範囲(チャンネル)に対し、小粒径側から体積累積分布を引いて、累積50%となる粒径を体積平均粒径D50vとする。
【0030】
外添剤としては、例えば、無機粒子が挙げられ、該無機粒子として、SiO
2、TiO
2、Al
2O
3、CuO、ZnO、SnO
2、CeO
2、Fe
2O
3、MgO、BaO、CaO、K
2O、Na
2O、ZrO
2、CaO・SiO
2、K
2O・(TiO
2)
n、Al
2O
3・2SiO
2、CaCO
3、MgCO
3、BaSO
4、MgSO
4などが挙げられる。
【0031】
なお、本実施形態では、一例として、トナーTにおいて、重量平均分子量が11000、数平均分子量が3500、アルミ架橋量(トナーT中のアルミニウムイオン量)が0.03[kcps](キロ・カウント/秒)となっている。数平均分子量としては1.0×10
3以上5.0×10
4以下、重量平均分子量としては7.0×10
3以上5.0×10
5以下の範囲がそれぞれ望ましい。トナーTの軟化点が109[℃]前後のものはアルミ架橋量が0.03[kcps]の低粘弾性トナー、トナーTの軟化点が115[℃]前後のものはアルミ架橋量が0.1[kcps]の中粘弾性トナー、トナーTの軟化点が125[℃]前後のものはアルミ架橋量が0.14[kcps]の高粘弾性トナーである。
【0032】
アルミ架橋量の測定は、理学電機工業株式会社製の蛍光X線分析装置(ZSX primusII)を用いて行った。測定に用いた各サンプルは、試料0.13[g]を加圧して成型したものとした。なお、測定条件は、以下のとおりとした。
管電圧:60[kV]
管電流:150[mA]
測定時間:40[sec]
【0033】
ここで、トナーTの粘弾性特性について、本実施形態では一例として、既述のように軟化点で代用して説明しているが、動的粘弾性温度依存性測定を行って、tanδの最大で管理してもよい。tanδ(tan Delta:動的粘弾性の力学損失正接)とは、動的粘弾性温度依存性測定により、貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’を求め、G’’/G’で定義されるものである。ここで、該G’は変形時、歪みに対して発生する応力の関係における弾性率の弾性応答成分であり、変形仕事に対するエネルギーは貯蔵される。前記弾性率の粘性応答成分がG’’である。また、G’’/G’で定義されるtanδは、変形仕事に対するエネルギーの損失、貯蔵の程度の尺度となる。
【0034】
貯蔵弾性率G’及び損失弾性率G’’は、例えば、回転平板型レオメータ(TA Instruments社製:ARES)を用いて測定可能である。測定の一例として、レオメータ(レオメトリックサイエンティフィック社製:ARESレオメータ)を使用し、パラレルプレートを用いて周波数1[Hz]の条件で、昇温測定を行う。サンプルセットを120[℃]から140[℃]程度で行い、室温まで冷却した後、昇温速度1[℃/分]で加熱し、1[℃]毎に昇温時の貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’、及びtanδを測定する。
【0035】
(記録用紙)
記録用紙Pは、紙パルプ技術協会の紙パルプ試験方法No.5−2:2000(紙及び板紙−平滑度及び透気度試験方法−)により測定された平滑度[sec]が、2000[sec]以下のものを一例として使用した。
【0036】
(光沢)
本実施形態における光沢(グロス)とは、記録用紙Pにトナー画像(トナーT)を定着した後、該トナー画像について、JIS K 5600−4−7(JIS Z 8741)の60°で測定して得られた光沢度を意味する。一例として、測定器は、BYK−Gardner社製の型式4430 micro−TRI−glossを用いた。
【0037】
(トナーと光沢の関係)
図6(A)、(B)に示すように、本実施形態のトナー粒子TAの粒径をd1(=3.8[μm])、比較例として、本実施形態のトナー粒子TAよりも粒径が大きい従来のトナー粒子TBの粒径をd2(一例として5.8[μm])とする。比較例のトナー粒子TBを小径化して本実施形態のトナー粒子TAとした場合、顔料の総量が減って色域(色再現域)が狭くなってしまうので、顔料を5.8/3.8倍に増加させる必要がある。
【0038】
しかし、トナーT中の顔料の割合を上げると、トナーの粘弾性が上がって(硬くなって)しまい、従来の定着温度では溶け難くなる。このため、従来の定着条件(温度、圧力、加熱時間含む)で定着を行うと、光沢が低下してしまう。ここで、低下した光沢を上げる手段の一つとして、トナーTの分子量及びアルミ架橋量を変更することが挙げられるが、分子量及びアルミ架橋量の変更は、各種定着条件を修正する必要があり、簡単ではない。
【0039】
また、トナーTの粒径が小さくなると、パイルハイト(層厚)が低下するが、この状態でトナーTに対して圧力を作用させると、記録用紙Pの下地による影響を受けやすくなり、光沢の感度が上がってしまう。これらの理由により、本実施形態では、詳細を後述する定着装置100(
図1参照)の構成を特定することで、定着後のトナーT(トナー画像)の光沢(光沢度)の調整範囲が狭くなるのを抑制する。
【0040】
(清掃装置)
図3に示すように、清掃装置25は、転写装置30(
図2参照)へのトナー画像の転写後に感光体21の表面に残留したトナーTを該感光体21の表面から掻き取るブレード25Aを備えている。図示は省略するが、清掃装置25は、ブレード25Aが掻き取ったトナーTを回収するハウジング、及びハウジング内のトナーTを排トナーボックスに搬送する搬送装置をさらに備えて構成されている。
【0041】
(転写装置)
図2に示すように、転写装置30は、各色の感光体21のトナー画像を転写ベルト31に重畳して1次転写し、該重畳されたトナー画像を記録用紙Pに2次転写するようになっている。
【0042】
具体的には、転写ベルト31は、無端状を成し、複数のロール32に巻き掛けられて姿勢が決められている。本実施形態では、転写ベルト31は、正面視で装置幅方向に長い逆鈍角三角形状の姿勢とされている。複数のロール32のうち、ロール32Dは、図示しないモータの動力により転写ベルト31を矢印A方向に周回させる駆動ロールとして機能する。また、ロール32Tは、転写ベルト31に張力を付与する張力付与ロールとして機能する。そして、ロール32Bは、2次転写ロール34の対向ロールとして機能する。
【0043】
さらに、転写ベルト31は、上記した姿勢で装置幅方向に延びる上辺部において、各色の感光体21に下方から接触しており、各感光体21の画像が1次転写ロール33からの転写バイアス電圧の印加を受けて転写されるようになっている。また、転写ベルト31は、鈍角を成す下端側の頂部において2次転写ロール34が接触されて転写ニップNTを形成しており、2次転写ロール34からの転写バイアス電圧の印加を受けて、該転写ニップNTを通過する記録用紙Pにトナー画像を転写する。
【0044】
(定着装置)
定着装置100は、転写装置30においてトナー画像が転写された記録用紙Pに、該トナー画像を定着させるようになっている。本実施形態では、定着装置100は、後述する定着ニップ部NFにおいてトナー画像を加熱しつつ加圧することで、該トナー画像を記録用紙Pに定着する構成とされている。なお、定着装置100の詳細については後述する。
【0045】
<媒体搬送部>
図1に示すように、媒体搬送部50は、画像形成部12に記録用紙Pを供給する媒体供給部52と、画像が形成された記録用紙Pを排出する媒体排出部54とを含んで構成されている。また、媒体搬送部50は、記録用紙Pの両面に画像を形成させる際に用いられる媒体戻し部56と、転写装置30から定着装置100まで記録用紙Pを搬送する中間搬送部58とを含んで構成されている。
【0046】
媒体供給部52は、画像形成部12の転写ニップNTに対し、転写タイミングに合わせて記録用紙Pを1枚ずつ供給するようになっている。媒体排出部54は、定着装置100にてトナー画像が定着された(画像が形成された)記録用紙Pを装置外に排出するようになっている。媒体戻し部56は、一方の面にトナー画像が定着された記録用紙Pの他方の面に画像を形成する際に、該記録用紙Pを表裏反転して画像形成部12(媒体供給部52)に戻すようになっている。
【0047】
<後処理部>
後処理部60は、画像形成部12で画像が形成された記録用紙Pを冷却する媒体冷却部62と、記録用紙Pの湾曲を矯正する矯正装置64と、記録用紙Pに形成された画像を検査する画像検査部66とを含んで構成されている。媒体冷却部62、矯正装置64、及び画像検査部66は、媒体排出部54における記録用紙Pの排出方向の上流側からこの順で配置されており、媒体排出部54による排出過程の記録用紙Pに対して上記後処理を施すようになっている。
【0048】
[画像形成動作]
次に、画像形成装置10による記録用紙Pへの画像形成工程、及び、その後処理工程の概要を説明する。
【0049】
図1に示すように、画像形成指令を受けた制御部70は、トナー画像形成部20、転写装置30、定着装置100を作動させる。これにより、感光体21、現像ロール24B(
図3参照)が回転され、転写ベルト31が周回される。また、後述する加圧ロール106が回転されると共に定着ベルト112が周回される。さらに、これらの動作に同期して、制御部70は、媒体搬送部50などを作動させる。
【0050】
これにより、各色の感光体21は、回転されながら帯電器22によって帯電される。また、制御部70は、画像信号処理部で画像処理が施された画像データを、各露光装置23に送る。各露光装置23は、画像データに応じて各露光光Lを出射して、帯電した各感光体21に露光する。すると、各感光体21の外周面に静電潜像が形成される。各感光体21に形成された静電潜像は、現像装置24から供給される現像剤(トナー)によって現像される。これにより、各色の感光体21には、第1特別色(V)、第2特別色(W)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のうち、対応する色のトナー画像が形成される。
【0051】
各色の感光体21に形成された各色のトナー画像は、各色の1次転写ロール33を通じた転写バイアス電圧の印加によって、周回する転写ベルト31に順次転写される。これにより、転写ベルト31には、6色分のトナー画像が重畳された重畳トナー画像が形成される。この重畳トナー画像は、転写ベルト31の周回によって転写ニップNTに搬送される。この転写ニップNTには、媒体供給部52によって重畳トナー画像の搬送にタイミングを合わせて記録用紙Pが供給される。そして、転写ニップNTにおいて転写バイアス電圧が印加されることで、転写ベルト31から重畳トナー画像が記録用紙Pに転写される。
【0052】
トナー画像が転写された記録用紙Pは、中間搬送部58によって転写装置30の転写ニップNTから定着装置100の定着ニップ部NFに向けて、負圧吸引されながら搬送される。定着装置100は、定着ニップ部NFを通過する記録用紙Pに熱及び加圧力(定着エネルギ)を付与する。これにより、記録用紙Pに転写されたトナー画像が該記録用紙Pに定着される。
【0053】
定着装置100から排出された記録用紙Pは、媒体排出部54によって装置外の排出媒体受け部に向けて搬送されつつ、後処理部60により処理が施される。詳細には、定着工程により加熱された記録用紙Pは、先ず媒体冷却部62において冷却される。次いで、記録用紙Pは、矯正装置64によって湾曲が矯正される。さらに、記録用紙Pに定着されたトナー画像は、画像検査部66によって、トナー濃度欠陥、画像欠陥、画像位置欠陥等の有無や程度が検出される。そして、記録用紙Pは、媒体排出部54に搬送される。
【0054】
一方、記録用紙Pの画像が形成されていない非画像面に画像を形成させる場合(両面印刷の場合)、制御部70は、画像検査部66の通過後の記録用紙Pの搬送経路を、媒体排出部54から媒体戻し部56に切り替える。これにより記録用紙Pは、表裏反転されて媒体供給部52に送り込まれる。この記録用紙Pの裏面には、上記した表面への画像形成工程と同様の工程で画像が形成(定着)される。この記録用紙Pは、上記した表面への画像形成後の後処理工程と同様の工程を経て、媒体排出部54によって装置外に排出される。
【0055】
[要部構成]
図4に示すように、定着装置100は、トナーTを記録用紙Pと共に加圧しながら加熱して記録用紙Pに定着する定着回転体の一例としての定着ベルト112を有する定着ベルトモジュール102と、定着ベルト112を加熱する加熱手段の一例としてのハロゲンランプ105、108、122と、定着ベルト112とでトナーT及び記録用紙Pを挟んで加圧する加圧手段の一例としての加圧ロール106とを含んで構成されている。そして、定着ベルト112の外側には、外部ロール104が設けられている。
【0056】
また、定着装置100は、定着ベルト112と加圧ロール106とが接触して接触部の一例としての定着ニップ部NFを形成している。定着ニップ部NFにおける入口から出口までの幅はW1(
図5参照)となっている。なお、本実施形態における定着ニップ部NFの幅W1とは、加圧力が0[Pa]である入口側の位置から最大圧力となる位置を経て再び加圧力が0[Pa]となる出口側の位置までの距離を意味している。
【0057】
さらに、定着装置100は、装置奥行き方向に長手とされると共に定着ベルト112の内側で定着ニップ部NFに対応する位置に設けられ、加圧ロール106の加圧力を受けて定着ベルト112を支持する支持部材の一例としてのパッド部材114と、定着ニップ部NFを通過した記録用紙Pの先端を定着ベルト112から剥がすための剥離パッド機構109と、パッド部材114に圧力を付与する切替機構140(
図5参照)とを含んで構成されている。そして、定着ベルトモジュール102は、定着ベルト112、パッド部材114、及び、それぞれ装置奥行き方向が回転軸方向とされた複数のロール116を備えている。
【0058】
定着ベルト112は、記録用紙Pの搬送方向に直交する装置奥行き方向の両側に開口する無端状(環状)を成している。また、定着ベルト112は、図示を省略するが、一例として、ポリイミド製の厚み80[μm]の基材上にシリコーンゴムからなる厚み450[μm]の弾性層(中間層)が形成され、さらに弾性層上にフッ素樹脂系の厚み30[μm]の離型層が形成された構成となっている。弾性層(中間層)は190[μm]以上600[μm]以下が望ましいため、定着ベルト112の総厚は、300[μm]以上710[μm]となる。そして、定着ベルト112は、パッド部材114、複数のロール116、及び外部ロール104に巻き掛けられて定められた姿勢とされ、該姿勢を維持したまま(該姿勢に沿った周回軌道上を)
図4に示す矢印R方向に周回する。
【0059】
パッド部材114は、定着ベルト112の内側に配置されており、本体114Aと、本体114Aの下面に固定され定着ベルト112と接触するパッド114Bとを含んで構成されている。そして、パッド部材114は、パッド114Bの定着ベルト112側の面を構成するニップ形成面114Cにおいて、加圧ロール106からの押付(ニップ)荷重を受けることで、定着ベルト112と加圧ロール106との間に既述の定着ニップ部NFを形成させる。なお、パッド部材114は、装置フレーム130(
図5参照)に固定されており、定着ベルト112の周回には追従しない。
【0060】
パッド部材114のニップ形成面114Cは、装置奥行き方向から見て、加圧ロール106側に円弧状に凹とされた曲面とされている。この形状により、パッド部材114は、定着ベルト112と加圧ロール106との間に該パッド部材114に代えてニップ荷重を支持するロールを設けた構成と比較して、記録用紙Pの搬送方向に長い定着ニップ部NFを形成している。
【0061】
パッド部材114のパッド114Bは、金属製、樹脂製のいずれであってもよいが、本実施形態では一例として、パッド114Bを金属製としている。なお、樹脂製の一例として、液晶ポリマーのような高硬度の合成樹脂を用いてもよい。
【0062】
定着ベルト112とパッド部材114のニップ形成面114Cとの間には、摺動シート118が介在されている。摺動シート118は、少なくとも定着ベルト112と接する側の表面が、例えばフッ素系樹脂などの低摩擦材にて構成されている。これにより、定着ベルト112の周回に対する摩擦抵抗が低減される構成である。
【0063】
図7に示すように、パッド部材114は、記録用紙Pの搬送方向における下流側で且つ定着ベルト112が巻き掛けられる部位(定着ベルト112と接触する部位)の曲率半径R1が、6[mm]以下で設定され、一例として6[mm]となっている。曲率半径R1の寸法公差は±500[μm]とする。そして、定着ニップ部NFの下流側端部における定着ベルト112の曲率半径R2が、一例として7[mm]以下となっている。曲率半径R2の寸法公差は±500[μm]とする。なお、摺動シート118の厚みが100[μm]以上300[μm]以下、定着ベルト112の厚みが400[μm]以上450[μm]以下となっている。
【0064】
図4に示すように、パッド部材114の本体114A内にはハロゲンランプ122が設けられている。そして、パッド部材114は、ハロゲンランプ122が発した熱を、ニップ形成面114Cを経由して定着ベルト112に伝達する熱伝達部材としても機能する。
【0065】
複数のロール116のうち、パッド部材114に対する定着ベルト112の周回方向の上下流両側に位置するロール116A、116Bは、姿勢矯正ロールとして機能する。具体的には、各ロール116A、116Bは、定着ニップ部NF前後での定着ベルト112の周回方向の変化を抑える(定着ニップ部NFの両端での定着ベルト112の曲げ角度を鈍角とする)ようになっている。
【0066】
複数のロール116のうち、パッド部材114から最も離れて位置するロール116Cは、内部にハロゲンランプ108が設けられており、定着ベルト112を内周側から加熱する内部加熱ロールとして機能する。本実施形態では、ロール116Cは、軸線を装置奥行き方向に対し傾けることで、定着ベルト112の幅方向(装置奥行方向)の位置を調整し得るステアリングロールとしても機能する。
【0067】
加圧ロール106は、一例として、アルミニウム製の円柱状のロール本体106Aの外周に、シリコーンゴム製の弾性体層106Bが被覆されて構成されている。なお、図示は省略するが、弾性体層106Bの外周には、その外周面に膜厚100μmのフッ素系樹脂などより成る剥離層が形成されている。そして、加圧ロール106は、図示しない駆動源によって回転されることで、定着ベルト112に周回のための駆動力を付与する。
【0068】
外部ロール104は、定着ベルト112の周回方向において、パッド部材114の下流側のロール116Bとロール116Cとの間に配置されている。この外部ロール104は、定着ベルト112を外周側から加熱する外部加熱ロールとして機能する。具体的には、外部ロール104は、内部に設けられたハロゲンランプ105が発した熱を定着ベルト112に伝達する。また、外部ロール104は、図示しない駆動源によって回転することで、定着ベルト112に周回のための駆動力を付与する。本実施形態では、加圧ロール106が定着ベルト112に主に駆動力を付与する主駆動ロールとされており、外部ロール104は、補助駆動ロールと位置付けられる。
【0069】
また、定着ベルトモジュール102は、定着ベルト112を内周側から外部ロール104に押し付ける押付ロール125を備える。押付ロール125は、スプリング127の付勢を受けて定められた荷重で定着ベルト112を外部ロール104に押し付けている。なお、定着ベルトモジュール102は、装置フレーム130(
図5参照)に対して、定着ベルト112、パッド部材114、各ロール116などで構成されたモジュールとして一体に着脱可能とされている。
【0070】
剥離パッド機構109は、記録用紙Pの搬送方向において定着ニップ部NFの下流に配置された剥離パッド128を有しており、該剥離パッド128の先端を定着ニップ部NFに近接させている。
【0071】
<加圧ロールの位置切替機構>
図5に示すように、定着装置100は、後述する切替機構140によって、定着ベルトモジュール102に対して加圧ロール106が接触、離間可能に構成されている。具体的には、加圧ロール106は、定着ベルト112に接触して定着ニップ部NFを形成する接触位置と、図示を省略するが、定着ベルト112から離間する離間位置とを切り替え得る構成とされている。
【0072】
定着装置100は、装置フレーム130を備えている。装置フレーム130は、固定側フレーム132と、該固定側フレーム132に対し相対変位される可動フレーム134とを含んで構成されている。本実施形態では、可動フレーム134は、固定側フレーム132に対し、装置奥行き方向を軸方向とする支軸136周りに相対回転可能とされている。
【0073】
固定側フレーム132は、パッド部材114を固定的に支持すると共に、各ロール116をそれぞれの軸周りに回転可能に支持している。これにより、定着ベルトモジュール102は、定着ベルト112の周回の動作及び各ロール116の回転動作を除いて、固定側フレーム132に対して相対変位しない構成とされている。
【0074】
一方、加圧ロール106は、可動フレーム134に回転可能に支持されている。そして、加圧ロール106は、可動フレーム134が固定側フレーム132に対し支軸136回りに回転することで、その位置が
図5に示される接触位置と、離間位置(図示省略)との何れかに切り替えられるようになっている。
【0075】
より具体的には、可動フレーム134は、装置長手方向において加圧ロール106を挟んで支軸136に対する反対側に配置された荷重入力部138を有する。そして、荷重入力部138に対して上向きの荷重を付加することで、加圧ロール106が接触位置に保持されるようになっている。この保持荷重は、パッド部材114を介して固定側フレーム132に支持される。また、荷重入力部138への上向きの荷重を除去すると、加圧ロール106は、自重で可動フレーム134と共に支軸136回りの下向きに回転し、離間位置側に移動される構成である。なお、図示しない弾性部材の復元力にて加圧ロール106が離間位置側に移動される構成としても良い。
【0076】
切替機構140は、可動フレーム134の荷重入力部138に上向きの荷重を付与する状態と、該荷重を除去する状態とを切り替える構成とされている。以下、具体的に説明する。
【0077】
切替機構140は、押アーム142を備えている。押アーム142は、可動フレーム134と共に固定側フレーム132に対し支軸136回りに回転可能に支持されている。押アーム142の他端部142Aは、可動フレーム134の荷重入力部138の下側に配置されており、該荷重入力部138との間に圧縮コイルばね144を介在させている。
【0078】
また、押アーム142における支軸136と圧縮コイルばね144との間には、カムフォロアとして機能するベアリング146の内輪が固定されている。そして、切替機構140は、ベアリング146の外輪に接触しつつ押アーム142を下方から支持するカム148を備えている。カム148は、固定側フレーム132に回転可能に支持されており、図示しないモータによって回転駆動されるようになっている。
【0079】
ここで、カム148の長径部がベアリング146の外輪に接触する状態では、
図5に示される如く押アーム142が水平に近い姿勢とされ、加圧ロール106は接触位置とされる。この状態では、圧縮コイルばね144の圧縮量に応じた上向きの荷重が可動フレーム134の荷重入力部138に付加されている。すなわち、加圧ロール106が定められた範囲内のニップ圧で定着ベルト112に接触するようになっている。
【0080】
一方、カム148の短径部がベアリング146の外輪に接触する状態では、図示を省略するが、押アーム142は、他端部142Aが下がる方向に傾斜した姿勢とされ、圧縮コイルばね144の伸長は図示しないストッパにて制限されている。このため、加圧ロール106は、自重で定着ベルト112から離間され、可動フレーム134の荷重入力部138からは上向きの荷重が除去される。この状態で、加圧ロール106及び可動フレーム134は、押アーム142及びカム148を介して離間位置(下側の移動限)に保持されるようになっている。
【0081】
以上についてまとめると、定着装置100では、切替機構140のカム148の回転位置に応じて、加圧ロール106の定着ベルト112に対する位置が、接触位置及び離間位置の何れかに選択的に切り替えられるようになっている。そして、本実施形態では、画像形成装置10の停止時や定着装置100のウォームアップ時などに、制御部70(
図1参照)の制御によって、加圧ロール106が離間位置に位置されるようになっている。また、定着装置100では、可動フレーム134の荷重入力部138側が支軸136回りに上方に回転されることにより、加圧ロール106が、定着ベルト112に接触する。
【0082】
2つのロール116A、116Bのうち、定着ニップ部NFでの定着ベルト112の周回方向の上流側に位置するロール116Aは、定着ベルト112の内側で、パッド部材114に対して、定着ニップ部NFへの記録用紙Pの搬送方向の上流側に隣り合うように配置されている。このロール116Aに巻き掛けられた定着ベルト112は、定着ニップ部NFまでの周回軌道が記録用紙Pの搬送経路に沿う(平行に近づけられた)軌道とされている。このため、定着ベルト112の定着ニップ部NF前後での曲げ角度(軌道)が鈍角とされている。
【0083】
<定着装置の各パラメータ設定>
図4に示す定着装置100において、記録用紙Pの搬送速度V[mm/msec(ミリ秒)]と加熱時間t[msec(ミリ秒)]とを考慮して、定着ニップ部NFの幅W1(=V・t)を10[mm]に設定した。そして、加熱時間t(搬送速度V)を変えて定着を行い、各条件での最低定着温度[℃]を確認した。
【0084】
なお、最低定着温度とは、定着したトナー画像を爪でこすってもトナーが剥がれないものを定着不良無しの判断基準とし、定着不良無しとなる定着ベルト112の温度のうち最も低温の値である。また、使用した記録用紙Pの種類は、紙種A、B、C、Dの4種類である。坪量(紙の厚み)は、紙種A<紙種B<紙種C<紙種Dであり、紙種Aが最も薄く、紙種Dが最も厚い。
【0085】
図8に示すように、加熱時間が短いほど最低定着温度は上がり、最も薄い紙種Aでは、加熱時間45[msec]で145[℃]程度であったのが、加熱時間23[msec]では160[℃]近くまで上昇した。また、最も厚い紙種Dでは、加熱時間45[msec]で163[℃]程度であったのが、加熱時間23[msec]では180[℃]近くまで上昇した。
【0086】
次に、
図5及び
図9に示すように、定着装置100において、定着ニップ部NFの幅W1=10[mm]、加熱時間20[msec]の設定で、定着ニップ部NF内の面圧(最大圧力)を変化させたときの最低定着温度の変化を確認した。なお、実線のグラフGA(菱形のプロットの近似曲線)は、記録用紙Pが紙種Aの場合であり、二点鎖線のグラフGBは、記録用紙Pが紙種Dの場合である。ここで、グラフGAに示すように、面圧が低いほど最低定着温度は上がり、面圧6×10
5[Pa]で最低定着温度が135[℃]程度、面圧3×10
5[Pa]で最低定着温度が142[℃]程度であった。
【0087】
図8及び
図9に示す結果を参考にして、定着装置100(
図5参照)では、定着ニップ部NFにおける最大圧力が2.9×10
5[Pa]以上に設定されており、本実施形態では一例として、最大圧力が3.0×10
5[Pa]に設定されている。なお、最大圧力は、ニッタ株式会社製 タクタイルセンサシステムを用いて測定した。
【0088】
また、定着装置100では、記録用紙Pの移動方向における定着ニップ部NFの幅W1が10[mm]以上に設定されており、本実施形態では一例として、幅W1が10[mm]に設定されている。さらに、定着装置100では、定着ニップ部NFにおけるトナーTの加熱時間が20[msec]以上に設定されており、本実施形態では一例として、加熱時間が既述のように20[msec]に設定されている。
【0089】
[作用]
次に、第1実施形態の作用について説明する。
【0090】
(定着装置の基本動作)
図1及び
図4に示すように、定着装置100は、画像形成部12における記録用紙Pへの画像形成(転写)の動作に先立って、制御部70からの指令により動作準備される。具体的には、加圧ロール106及び外部ロール104の駆動により、定着ベルト112が定められた軌道を周回する。また、ハロゲンランプ105、108、122の発熱により、定着ベルト112が定められた温度範囲に昇温され、該温度範囲に維持される。定着ベルト112は、周回しながら加熱されることで、各部の温度が定められた範囲内とされる。
【0091】
続いて、転写装置30にてトナー画像が転写された記録用紙Pが、中間搬送部58によって定着ニップ部NFに導入されると、定着装置100は、記録用紙Pを搬送しながら該記録用紙Pに圧力及び熱(定着エネルギー)を付加する。これにより、トナー画像が記録用紙Pに定着される。
【0092】
続いて、定着ニップ部NFを通過した記録用紙Pの先端が、剥離パッド機構109の剥離パッド128と加圧ロール106との間に進入する。具体的には、定着ベルト112は、パッド部材114のニップ形成面114Cにおける記録用紙Pの搬送方向の下流側端部に形成されたアール形状(及び下流側のロール116Bとで成す周回軌道)に沿って、記録用紙Pの搬送経路から離れるように周回する。このため、記録用紙Pの先端は、その腰(復元性)により定着ベルト112から離れて(定着ベルト112軌道に追従せずに)、剥離パッド機構109の剥離パッド128と加圧ロール106との間に進入する。そして、記録用紙Pは、搬送されるのに伴って定着ベルト112から剥離される。このようにして定着装置100から記録用紙Pが送り出される。
【0093】
(トナー画像の光沢の調整範囲)
図10には、定着装置100(
図5参照)における定着温度[℃]に対する光沢度[%]の変化のグラフG1、G2が模式的に示されている。定着温度とは、定着ニップ部NF内における定着ベルト112の温度である。グラフG1では、定着ニップ部NF(
図5参照)の面圧を低く設定してあり、パッド部材114の曲率半径R1(
図7参照)が7[mm]以上となっている。一方、グラフG2では、定着ニップ部NFの面圧をグラフG1における面圧よりも高く設定してあり、パッド部材114の曲率半径R1が6[mm]となっている。なお、
図10では、定着温度をT1<T2<T3<T4とし、光沢度をK1<K2<K3として示している。そして、定着後のトナー画像で最低限必要な光沢度をK1としている。
【0094】
図10に示すように、定着ニップ部NFの面圧の低いグラフG1では、光沢度K1を得るのに必要な定着温度がグラフG2よりも高くなってT2となる。また、グラフG1では、曲率半径R1が7[mm]以上となっているため、記録用紙Pの剥離性が悪く、定着温度T3(光沢度K2相当)までしか温度上昇させることができない。即ち、定着ニップ部NFの面圧が低く、パッド部材114の曲率半径R1が大きいグラフG1の条件では、調整可能な温度範囲ΔT2(=T3−T2)が狭くなるため、調整可能な光沢度の範囲ΔK2(=K2−K1)も狭くなってしまう。
【0095】
一方、面圧の高いグラフG2では、光沢度K1を得るのに必要な定着温度がグラフG1よりも低くなってT1となる。このため、調整可能な温度範囲ΔT1(=T3−T1)がグラフG1よりも広がり、調整可能な光沢度の範囲ΔK1(=K3−K1)も広がる。さらに、グラフG2の設定条件では、曲率半径R1が6[mm]となっているため、記録用紙Pの剥離性が良く、定着温度T4(光沢度K4相当)まで温度上昇が可能となる。即ち、定着ニップ部NFの面圧が高く、パッド部材114の曲率半径R1が6[mm]に設定されているグラフG2の条件では、定着温度の上限が高くなり下限が下がるため、調整可能な温度範囲がΔT1+ΔT3(=T4−T1)に広がり、調整可能な光沢度の範囲がΔK1+ΔK3(=K4−K1)に広がることが分かる。
【0096】
(各定着パラメータの設定)
定着ニップ部NFにおける加熱時間(記録用紙Pが通過する時間)、最大の面圧(以後、最大圧力という)、及び定着ニップ幅W1を6通りの条件で変更したときの、最低定着温度を評価した結果を表1に示す。なお、最低定着温度とは、それよりも低い温度になると定着不良(トナーTの一部が記録用紙Pに定着されなくなる状態)が発生するときの温度である。また、表1における評価結果では、最低定着温度が160[℃]以下となるものを○、160[℃]を超えるものを×で示している。
【表1】
【0097】
表1に示すように、加熱時間が20[msec]以上、最大圧力が2.9×10
5[Pa]以上、定着ニップ幅が10[mm]以上において、最低定着温度が160[℃]以下となり、トナーTの記録用紙Pへの定着下限が広がることが確認された。
【0098】
一方、最高定着温度とは、それよりも高い温度になると定着不良(過剰な溶融状態のトナーTの一部が定着ベルト112に残留する状態)が発生するときの温度である。ここで、最高定着温度について、パッド部材114の曲率半径R1を変えて確認したところ、曲率半径R1が6[mm]以下で最高定着温度が180[℃]となったが、曲率半径R1が6[mm]よりも大きくなると、最高定着温度が170[℃]以下となることが確認された(後述する
図11参照)。即ち、定着ベルト112の設定温度範囲を拡大するには、曲率半径R1が6[mm]以下となることが望ましいことが確認された。
【0099】
図11には、表1における条件1の設定及び曲率半径R1が6[mm]の設定で定着を行ったときの定着温度に対する光沢度のグラフG3と、表1における条件6の設定及び曲率半径R1が7[mm]の設定で定着を行ったときの定着温度に対する光沢度のグラフG4とが示されている。グラフG3、G4から明らかなように、加熱時間が20[msec]以上、最大圧力が2.9×10
5[Pa]以上、定着ニップ幅が10[mm]以上の条件1において、定着温度の設定範囲が広く、光沢度の調整範囲を広くとれることが確認された。また、曲率半径R1が6[mm]以下の設定が望ましいことか確認された。
【0100】
以上説明したように、本実施形態では、粒径が4.5[μm]以下で粘弾性特性の一例である軟化点が100[℃]以上125[℃]以下のトナーTと、最大圧力が2.9×10
5[Pa]以上、定着ニップ部NFの幅が10[mm]以上、及び定着ニップ部NFにおけるトナーTの加熱時間が20[msec]以上である定着装置100と、を組み合わせているので、定着ベルト112の温度制御だけで光沢度が広範囲で調整される。即ち、粒径が4.5[μm]以下のトナーTを定着したときの定着ベルト112の温度変化に対する定着後トナー像の光沢(光沢度)の調整範囲が狭くなることが抑制される。
【0101】
また、本実施形態の定着装置100では、パッド部材114の曲率半径R1を規定しているので、曲率半径R1を規定していない構成に比べて、定着ベルト112からの記録用紙Pの剥離性が高まる。
【0102】
さらに、本実施形態の画像形成装置10では、定着装置100における定着ベルト112の温度を変更するだけでトナー画像の光沢が変更されるので、トナー画像の光沢の制御が簡単に行われる。
【0103】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る定着装置及び画像形成装置の一例について説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部材及び部位には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0104】
[要部構成]
図12には、第2実施形態に係る定着装置160が示されている。定着装置160は、第1実施形態の画像形成装置10(
図1参照)において、定着装置100(
図1参照)に換えて設けられている。
【0105】
また、定着装置160は、後述する定着回転体の一例としての定着ベルト164を備える定着ベルトモジュール162と、定着ベルトモジュール162に押し付けられるように配置された加圧手段の一例としての加圧ロール166と、を有して構成されている。定着ベルト164と加圧ロール166との間には、定着ベルト164と加圧ロール166とが接触する接触部の一例としての定着ニップ部NBが形成されている。この定着ニップ部NBを記録用紙Pが通過する際に、加圧ロール166及び定着ベルト164によって記録用紙Pが加圧及び加熱されることで、記録用紙Pにトナー画像(トナーT)が定着されるようになっている。
【0106】
定着ベルトモジュール162は、周回して記録用紙Pを搬送しながらトナー画像を加熱して、当該トナー画像を記録用紙Pに定着する無端状の定着ベルト164と、定着ベルト164の内側で定着ニップ部NBに対応する位置において、加圧ロール166の加圧力を受けて定着ベルト164を支持する支持部材170と、定着ベルト164の内側における定着ニップ部NBとは反対側に配置され定着ベルト164が巻き掛けられた内部加熱ロール172と、を有している。
【0107】
定着ベルト164は、図示を省略するが、一例として、ポリイミド製の基材上にシリコーンゴムからなる弾性層が形成され、さらに弾性層上にフッ素樹脂系の離型層が形成された構成となっている。
【0108】
支持部材170は、回転部材の一例としての定着ロール168と、剥離部材の一例としての剥離パッド182とを有している。なお、定着ベルト164と剥離パッド182との間には、摺動シート118(
図13参照)が設けられているが、
図12では図示を省略している。
【0109】
定着ロール168は、記録用紙Pの搬送方向の上流側に配置されると共に定着ベルト164が巻き掛けられ、モータ(図示省略)の回転力で定着ベルト164と軸方向を揃えて回転するようになっている。そして、定着ニップ部NBの下流側には、定着ベルト164が巻き掛けられる支持ロール184が設けられている。
【0110】
剥離パッド182は、定着ロール168に対して記録用紙Pの搬送方向の下流側に配置され、定着ベルト164を変形させて記録用紙Pを定着ベルト164から剥離するように設けられている。また、剥離パッド182は、金属製、樹脂製のいずれであってもよいが、本実施形態では一例として、定着ロール168と対応する軸方向長さを有するブロック状の部材であり、金属製である。なお、樹脂製の一例として、液晶ポリマーのような高硬度の合成樹脂を用いてもよい。
【0111】
剥離パッド182の断面形状は、定着ロール168に面する湾曲した内側面182Aと、定着ベルト164を加圧ロール166に向けて押圧する押圧面182Bと、押圧面182Bに対して決められた角度を有して定着ベルト164を屈曲させる外側面182Cとを備えて構成されている。詳細には、押圧面182Bと外側面182Cから構成される角部Uは、加圧ロール166によって角部Uに押し付けられた定着ベルト164を屈曲させる。そして、角部Uを記録用紙Pの先端が通過する際に、記録用紙Pの先端を定着ベルト164から剥離させる。
【0112】
ここで、
図13に示すように、剥離パッド182は、記録用紙Pの搬送方向における下流側で且つ定着ベルト164が巻き掛けられる部位(定着ベルト164と接触する部位)の曲率半径R3が、6[mm]以下で設定され、一例として6[mm]となっている。なお、曲率半径R3の寸法公差は±500[μm]としている。そして、定着ニップ部NBの下流側端部における定着ベルト164の曲率半径R4が、一例として7[mm]以下となっている。曲率半径R4の寸法公差は±500[μm]としている。なお、摺動シート118の厚みが100[μm]以上300[μm]以下、定着ベルト112の厚みが400[μm]以上450[μm]以下となっている。
【0113】
図12に示すように、加圧ロール166は、一例としてアルミニウム製の円柱状のロール本体166Aの外周に、シリコーンゴム製の弾性体層166Bが被覆されて構成されている。図示は省略するが、弾性体層166Bの外周には、その外周面に膜厚100μmのフッ素系樹脂などより成る剥離層が形成されている。そして、加圧ロール166は、定着ロール168が駆動されることにより従動回転するようになっている。
【0114】
また、定着装置160は、定着ベルト164の外周側に配置されてその周回経路を規定する外部加熱ロール174と、内部加熱ロール172から定着ロール168までの定着ベルト164の内周面に巻き掛けられている支持ロール176と、を備えている。なお、本実施形態においては、定着ベルト164の内側には、定着ベルト164を挟んで外部加熱ロール174に対して対向配置された対向ロール177が設けられている。
【0115】
内部加熱ロール172は、定着ベルト164の蛇行調整を行うステアリングロールを兼ねている。また、定着ロール168、内部加熱ロール172、及び外部加熱ロール174の内側には、加熱手段の一例としての複数のハロゲンランプ178A、178B、178Cが設けられている。そして、定着ロール168と内部加熱ロール172とが定着ベルト164の内周面164Bに接触して定着ベルト164を内側から加熱し、外部加熱ロール174が定着ベルト164の外周面164Aに接触して定着ベルト164を外側から加熱する構成となっている。
【0116】
ここで、定着装置160では、定着ニップ部NBにおける最大圧力が2.9×10
5[Pa]以上に設定されており、本実施形態では一例として、最大圧力が3.0×10
5[Pa]に設定されている。なお、最大圧力は、ニッタ株式会社製 タクタイルセンサシステムを用いて測定した。
【0117】
また、定着装置160では、記録用紙Pの移動方向における定着ニップ部NBの幅W2が10[mm]以上に設定されており、本実施形態では一例として、幅W2が10[mm]に設定されている。さらに、定着装置160では、定着ニップ部NBにおけるトナーTの加熱時間が20[msec]以上に設定されており、本実施形態では一例として、加熱時間が20[msec]に設定されている。
【0118】
[作用]
次に、第2実施形態の作用について説明する。
【0119】
(定着装置の基本動作)
図12に示すように、転写ニップNT(
図1参照)でトナー画像が転写された記録用紙Pは、中間搬送部58(
図1参照)によって定着ニップ部NBに導入される。
【0120】
定着ロール168は、モータなどの駆動源(図示省略)からの駆動力を受けて回転している。また、定着ベルト164は、定着ロール168が回転するのに伴い従動して、矢印C方向に周回している。更に、加圧ロール166も、定着ベルト164の回転に従動して矢印E方向に回転する。
【0121】
続いて、定着ニップ部NBに導入された記録用紙Pは、回転している定着ベルト164及び加圧ロール166により下流方向に搬送されて行く。そして、記録用紙Pは、定着ニップ部NBにおいて、定着ベルト164及び加圧ロール166から加圧及び加熱作用を受ける。この結果、記録用紙Pに対しトナー画像の定着がなされる。なお、記録用紙Pへの加熱は、定着ロール168、内部加熱ロール172、及び外部加熱ロール174によって加熱される定着ベルト164により行われる。
【0122】
続いて、定着ニップ部NBを通過した定着ベルト164は、剥離パッド182の押圧面182Bと外側面182Cから構成される角部Uに押し付けられ屈曲する。そして、角部Uを記録用紙Pの先端が通過する際に、記録用紙Pのいわゆる「コシ」によって定着ベルト164から剥離する。
【0123】
(各定着パラメータの設定)
定着ニップ部NBにおける加熱時間(記録用紙Pが通過する時間)、最大の面圧(以後、最大圧力という)、及び定着ニップ幅W2を6通りの条件で変更したときの、最低定着温度を評価した結果を表2に示す。なお、最低定着温度及び最高定着温度については、既述の通りである。また、表2における評価結果では、最低定着温度が160[℃]以下となるものを○、160[℃]を超えるものを×で示している。
【表2】
【0124】
表2に示すように、加熱時間が20[msec]以上、最大圧力が2.9×10
5[Pa]以上、定着ニップ幅が10[mm]以上において、最低定着温度が160[℃]以下となり、トナーTの記録用紙Pへの定着下限が広がることが確認された。
【0125】
一方、最高定着温度について、剥離パッド182の曲率半径R3を変えて確認したところ、曲率半径R3が6[mm]以下で最高定着温度が180[℃]となったが、曲率半径R3が6[mm]よりも大きくなると、最高定着温度が170[℃]以下となることが確認された。即ち、定着ベルト112の設定温度範囲を拡大するには、曲率半径R3が6[mm]以下となることが望ましいことが確認された。
【0126】
以上説明したように、本実施形態では、粒径が4.5[μm]以下で粘弾性特性の一例である軟化点が100[℃]以上125[℃]以下のトナーTと、最大圧力が2.9×10
5[Pa]以上、定着ニップ部NBの幅が10[mm]以上、及び定着ニップ部NBにおけるトナーTの加熱時間が20[msec]以上である定着装置160と、を組み合わせているので、定着ベルト164の温度制御だけで、光沢度の制御可能範囲が広がる。即ち、粒径が4.5[μm]以下のトナーTを定着したときの定着ベルト164の温度変化に対する定着後トナー像の光沢(光沢度)の調整範囲が狭くなることが抑制される。
【0127】
また、本実施形態の定着装置160では、剥離パッド182の曲率半径R3を規定しているので、曲率半径R3を規定していない構成に比べて、定着ベルト164からの記録用紙Pの剥離性が高まる。
【0128】
さらに、本実施形態の画像形成装置10では、定着装置160における定着ベルト164の温度を変更するだけでトナー画像の光沢が変更されるので、トナー画像の光沢の制御が簡単に行われる。
【0129】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0130】
トナーTは、粒径が4.5[μm]以下であればよく、粒径が3.8[μm]のものに限定されない。
【0131】
定着装置100、160において、外部ロール104、外部加熱ロール174が設けられていなくてもよい。また、定着装置100、160において、摺動シート118が設けられていない構成であってもよい。
【0132】
加圧手段は、加圧ロール106、166のように回転するものに限らず、固定されたパッド部材であってもよい。